(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】誘導加熱コイルとその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05B 6/36 20060101AFI20220719BHJP
H05B 6/42 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
H05B6/36 A
H05B6/42
H05B6/36 B
(21)【出願番号】P 2019020477
(22)【出願日】2019-02-07
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】591055078
【氏名又は名称】日本電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】大沼 一平
(72)【発明者】
【氏名】近藤 恭二
(72)【発明者】
【氏名】永田 浩
(72)【発明者】
【氏名】折戸 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】細矢 将司
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-188176(JP,A)
【文献】特開平06-122926(JP,A)
【文献】特開2005-307308(JP,A)
【文献】特開2002-003935(JP,A)
【文献】特許第6219228(JP,B2)
【文献】特開昭58-176893(JP,A)
【文献】特開2014-037610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/02- 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を誘導加熱するためのコイル部と、
前記コイル部に電力を供給するための電力供給部と、を備え、
前記コイル部は、その半径方向内側に配置され、前記被処理物を囲んで冷媒を流す環状の冷媒流路と、
前記コイル部内の半径方向外側に配置され、前記冷媒流路を囲んで焼入剤を流す環状の焼入剤流路と、
前記冷媒流路を半径方向に貫通し、前記焼入剤流路と前記コイル部の内面との間を連通する複数の噴射流路と、を有
し、
前記コイル部は、前記冷媒流路と前記噴射流路を有する中空筒形の内部構造部と、
前記内部構造部の外周面に接合され、その間に前記焼入剤流路を形成する中空筒形の外周部材と、
前記内部構造部に接合され、その間に前記冷媒流路を形成する側板と、を有し、
前記内部構造部、前記外周部材、及び前記側板は、それぞれ一体成形された純銅又は銅合金からなる、誘導加熱コイル。
【請求項2】
被処理物を誘導加熱するためのコイル部と、
前記コイル部に電力を供給するための電力供給部と、を備え、
前記コイル部は、その半径方向内側に配置され、前記被処理物を囲んで冷媒を流す環状の冷媒流路と、
前記コイル部内の半径方向外側に配置され、前記冷媒流路を囲んで焼入剤を流す環状の焼入剤流路と、
前記冷媒流路を半径方向に貫通し、前記焼入剤流路と前記コイル部の内面との間を連通する複数の噴射流路と、を有
し、
前記コイル部は、前記冷媒流路と前記噴射流路を有する中空筒形の内部構造部と、
前記内部構造部の外周面に接合され、その間に前記焼入剤流路を形成する中空筒形の外周部材と、
前記内部構造部に接合され、その間に前記冷媒流路を形成する側板と、を有し、
前記内部構造部は、前記被処理物に対向してこれを囲む中空筒状の内側リング部と、
前記外周部材の内面に接合される中空筒状の外側リング部と、
前記内側リング部と前記外側リング部を周方向に間隔を隔てて連結し、その内側に前記噴射流路を有する複数のスポーク部と、を有し、
前記スポーク部は、前記冷媒流路の冷媒内を半径方向に貫通し、
前記噴射流路が前記スポーク部の内部で分岐する、誘導加熱コイル。
【請求項3】
前記内側リング部の内部に中空チャンバを有し、前記内側リング部の内面に前記噴射流路より小径の噴射口を有する、請求項
2に記載の誘導加熱コイル。
【請求項4】
被処理物を誘導加熱するためのコイル部と、
前記コイル部に電力を供給するための電力供給部と、を備え、
前記コイル部は、その半径方向内側に配置され、前記被処理物を囲んで冷媒を流す環状の冷媒流路と、
前記コイル部内の半径方向外側に配置され、前記冷媒流路を囲んで焼入剤を流す環状の焼入剤流路と、
前記冷媒流路を半径方向に貫通し、前記焼入剤流路と前記コイル部の内面との間を連通する複数の噴射流路と、を有する誘導加熱コイルの製造方法であって、
前記冷媒流路と前記噴射流路を有する中空筒形の内部構造部を、金属積層造形法を用いて一体成形し、
中空筒形の外周部材を前記内部構造部の外周面に接合して、その間に前記焼入剤流路を形成し、
側板を前記内部構造部に接合して、その間に前記冷媒流路を形成する、誘導加熱コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱コイルに係り、さらに詳しくは、定置一発焼入れ用の誘導加熱コイルとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱コイルは、電磁誘導原理により金属部品を高周波焼入するために用いられる。
また、「定置一発焼入れ」とは、高周波焼入の対象物(金属部品)を定められた位置に固定し、定位置において対象物を加熱し、かつ同じ位置で対象物を急冷して焼入れする金属硬化処理方法である。
定置一発焼入れ用の誘導加熱コイルは、定位置において連続した高周波加熱と焼入剤の噴射による急冷を実施可能な多機能部品である。しかし、かかる誘導加熱コイルは、構造が複雑となり製造が困難である。
そこで、金属積層造形法を用いた誘導加熱コイルとその製造方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1の「誘導加熱コイル」は、被処理物を誘導加熱するためのコイル部と、コイル部に電力を供給するための電力供給部と、電力供給部内およびコイル部内に配置されコイル部に冷媒を供給するための冷媒流路と、を備える。コイル部、電力供給部、および冷媒流路は、金属積層造形法を用いて形成されている。また、冷媒流路は、コイル部に形成されたコイル部側通路を含み、コイル部側通路は起伏部を有し、起伏部はコイル部の周方向に沿って進むに従い、コイル部の厚み方向に起伏するように延びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
定置一発焼入れ用の誘導加熱コイル(以下、コイル)を用いた高周波焼入処理は、一般的に数秒~数十秒の加熱冷却サイクルを繰り返す。この加熱冷却サイクルによりコイルは、熱膨張と熱収縮の繰り返しにより、以下の問題が発生する。
(1)熱膨張と熱収縮の繰り返しによる熱疲労の蓄積
(2)ロウ付け部の溶融による破損
(3)電気抵抗の上昇による効率低下
【0006】
上述した特許文献1の誘導加熱コイルは、ロウ付け部の溶融による破損を防止するため、全体が金属積層造形法を用いて形成されている。しかし、コイル部に形成された冷媒流路の起伏部がコイル部の周方向に沿って厚み方向に起伏するように延びているため、起伏部流路の断面積が小さく、冷媒流路の流路抵抗が大きく、冷媒流量が不足する。
そのため、コイル部の冷却が不足してコイル部が例えば70℃以上に過熱され、熱疲労の蓄積と、電気抵抗の増加による効率低下の回避が困難であった。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、冷媒流路の流路抵抗を低減して冷媒流量を増大させ、コイル全体を従来よりも低温(例えば50℃以下)に冷却できる誘導加熱コイルとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、被処理物を誘導加熱するためのコイル部と、
前記コイル部に電力を供給するための電力供給部と、を備え、
前記コイル部は、その半径方向内側に配置され、前記被処理物を囲んで冷媒を流す環状の冷媒流路と、
前記コイル部内の半径方向外側に配置され、前記冷媒流路を囲んで焼入剤を流す環状の焼入剤流路と、
前記冷媒流路を半径方向に貫通し、前記焼入剤流路と前記コイル部の内面との間を連通する複数の噴射流路と、を有する、誘導加熱コイルが提供される。
【0009】
また本発明によれば、上記の誘導加熱コイルの製造方法であって、
前記冷媒流路と前記噴射流路を有する中空筒形の内部構造部を、金属積層造形法を用いて一体成形し、
中空筒形の外周部材を前記内部構造部の外周面に接合して、その間に前記焼入剤流路を形成し、
側板を前記内部構造部に接合して、その間に前記冷媒流路を形成する、誘導加熱コイルの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コイル部の半径方向内側に配置され、冷媒を被処理物を囲んで流す環状の冷媒流路を備えるので、冷媒流路の断面積を大きく設定して冷媒流路の流路抵抗を大幅に低減できる。
【0011】
また、複数の噴射流路が、環状の冷媒流路を半径方向に貫通し、半径方向外側に配置された焼入剤流路とコイル部の内面との間を連通するので、冷媒流路内の冷媒により噴射流路を常に冷媒に近い温度まで冷却することができる。
【0012】
従って、本発明の構成により、冷媒流量を増大させ、コイル全体を従来よりも低温(例えば50℃以下)に冷却でき、これにより、熱疲労の蓄積、ロウ付け部の溶融、及び電気抵抗の上昇を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による誘導加熱コイルの全体斜視図である。
【
図2】誘導加熱コイルの平面図(A)とそのB-B矢視図(B)である。
【
図3】
図2のC-C断面図(A)とD-O-D断面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明による誘導加熱コイル100の全体斜視図である。
この図において、誘導加熱コイル100は、被処理物1を誘導加熱するためのコイル部10と、コイル部10に電力を供給するための電力供給部50とを備える。
【0016】
被処理物1は、好ましくはコイル部10の中心軸に対し、この例では実質的に同心に位置する円筒形の金属部材であるが、その他の形状(例えば多角形)であってもよい。
【0017】
コイル部10は、その一部に半径方向(Z軸に直交するX方向)に延びるスリット溝11を有する中空筒形部材(この例では中空円筒形部材)である。コイル部10は、この例で円筒形の内面10a、円筒形の外面10b、及び軸方向の側面10c,10dを有する。
内面10aと外面10bは、好ましくは同心に構成されている。また、側面10c,10dは、好ましくはZ軸に直交し、互いに平行に位置する。
【0018】
コイル部10は、さらにスリット溝11を間に挟んでX方向に延びる1対の電力導入部12を有する。電力導入部12のX方向外端部は、1対の電力供給部50にそれぞれ連結されている。なお、電力導入部12と電力供給部50の連結部2は、連結部材(例えば、ボルトとナット)又はロウ付け等で強固に連結され、その間の電気抵抗が実質的に母材と同等程度に低くなっている。
【0019】
1対の電力供給部50には、それぞれボルト穴51が設けられている。このボルト穴51は、図示しない高周波電源の1対の端子と連結するために用いられる。
【0020】
上述した構成により、高周波電源から1対の電力供給部50を介してコイル部10に、図に矢印5で示すように、高周波電流Iを流し、被処理物1を誘導加熱することができる。
【0021】
図2は、誘導加熱コイル100の平面図(A)とそのB-B矢視図(B)である。
【0022】
この図において、コイル部10の1対の電力導入部12には、冷媒流入口12aと冷媒流出口12bがそれぞれ設けられている。冷媒流入口12aと冷媒流出口12bは、電力導入部12及びコイル部10の内部で連通している。
この構成により、冷媒流入口12aから冷媒3を供給し、電力導入部12及びコイル部10を冷却して加熱された冷媒3を、冷媒流出口12bから外部に排出することができる。冷媒3は、例えば冷却水であるが、その他の液体であってもよい。
【0023】
図1と
図2において、コイル部10の外面10bには、焼入剤供給口13が複数設けられている。この例で、Y方向に対向して1対の焼入剤供給口13が設けられているが、1以上であってもよい。
【0024】
また、コイル部10の内面10aには、複数の噴射口14が設けられている。
さらに、焼入剤供給口13と噴射口14は、コイル部10の内部で連通しており、かつ冷媒3とは図示しない隔壁で分離されている。
この構成により、焼入剤供給口13から焼入剤4を供給し、噴射口14から誘導加熱された被処理物1の外面に向けて焼入剤4を内側に噴射することで、被処理物1を焼入れすることができる。焼入剤4は、例えば水、エマルジョン水、又は油であるが、その他の液体であってもよい。
【0025】
図3は、
図2のC-C断面図(A)とD-O-D断面図(B)である。
この図において、コイル部10は、冷媒流路20、焼入剤流路22、及び複数の噴射流路24を有する。
【0026】
冷媒流路20は、環状(この例では円環状)であり、コイル部10の半径方向内側に配置され、被処理物1を囲んで冷媒3を流すようになっている。
この例で冷媒流路20の円環は、スリット溝11の部分で周方向に分離されており、分離された周方向端部は、電力導入部12の内部に設けられた1対の端部流路21を介して冷媒流入口12a及び冷媒流出口12bと連通している。
この構成により、冷媒流入口12aから冷媒3を供給し、電力導入部12及びコイル部10を冷却して加熱された冷媒3を、冷媒流出口12bから外部に排出することができる。
【0027】
また、冷媒流路20及び端部流路21の断面形状は、それぞれ実質的に単一の矩形であり、流路抵抗を小さくするように大きく設定されている。この構成により、冷媒流路20の流路抵抗を大幅に低減できる。
【0028】
焼入剤流路22は、環状(この例では円環状)であり、コイル部内の半径方向外側に配置され、冷媒流路20を囲んで焼入剤4を流すようになっている。
この例で焼入剤流路22の円環は、スリット溝11の部分で周方向に分離されている。また焼入剤流路22は、複数(この例で1対)の焼入剤供給口13と連通している。
この構成により、スリット溝11の部分を除く冷媒流路20の半径方向外側の全体を焼入剤流路22が実質的に均等に囲んでおり、かつ焼入剤流路22の全体に実質的に動圧の焼入剤4を供給することができる。
【0029】
複数の噴射流路24は、冷媒流路20を半径方向に貫通し、焼入剤流路22とコイル部10の内面10aとの間を連通する。噴射口14は、噴射流路24の内面10aにおける開口である。
この例で複数の噴射口14が、コイル部10の内面10aに実質的に均等に配置されている。
上述した構成により、焼入剤供給口13から焼入剤4を供給し、誘導加熱された被処理物1の外面に向けて噴射流路24の内端(すなわち噴射口14)から焼入剤4を内側に噴射することができる。
【0030】
図3において、コイル部10は、内部構造部30、外周部材32、1対の側板34からなる。
【0031】
内部構造部30は、中空筒形(この例では中空円筒形)であり、冷媒流路20と噴射流路24を有する。内部構造部30の詳細は後述する。
【0032】
外周部材32は、中空筒形(この例では中空円筒形)であり、内部構造部30の外周面に接合され、内部構造部30との間に焼入剤流路22を形成する。
1対の側板34は、内部構造部30に接合され、その間に冷媒流路20を形成する。
外周部材32と内部構造部30との接合、及び側板34と内部構造部30との接合は、好ましくはロウ付けによるのがよい。またこの場合、ロウ付け材は、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは100℃以上の耐熱性能を有するものを使用する。
【0033】
この例で、内部構造部30は、内側リング部30a、外側リング部30b、及び複数のスポーク部30cを有する。
内側リング部30aは中空筒状(この例では中空円筒状)であり、その内面が被処理物1に対向してこれを囲む。
外側リング部30bは中空筒状(この例では中空円筒状)であり、その外周面が外周部材32の内面に接合され、外周部材32との間に焼入剤流路22を形成する。
複数のスポーク部30cは、内側リング部30aと外側リング部30bを周方向に間隔を隔てて連結し、その内側に噴射流路24を有する。スポーク部30cは、冷媒流路20の冷媒内を半径方向に貫通する。
【0034】
この例で、内部構造部30は、金属積層造形法を用いて一体成形されている。
【0035】
また、内部構造部30、外周部材32、及び側板34は、それぞれ一体成形された純銅又は銅合金からなる。
この構成により、コイル部全体の電気抵抗を低減することができる。
【0036】
図3(B)において、スポーク部30cは、その内側に噴射流路24を有する限りで、その周囲を冷媒3が低抵抗で流れるように、断面積が小さく設定されている。
なお、スポーク部30cは、この例ではそれぞれ単一の噴射流路24を有する円管である。しかし、単一のスポーク部30cが複数の噴射流路24を有してもよい。
【0037】
図4は、
図3(B)の別の実施形態を示す図である。
図3の例では、噴射流路24は半径方向に延びる直線流路であるが、
図4(A)に示すように、スポーク部30cの内部で分岐してもよい。
例えば、1本の噴射流路24を内部で2本に分岐し、焼入剤流路22に1本の噴射流路24が連通し、コイル部10の内面10aに2本の噴射流路24が連通するようにしてもよい。
さらに、例えば、2本の噴射流路24を内部で3本に分岐し、焼入剤流路22に2本の噴射流路24が連通し、コイル部10の内面10aに3本の噴射流路24が連通するようにしてもよい。
【0038】
また、
図4(B)に示すように、内側リング部30aの内部に中空チャンバ35を有し、内側リング部30aの内面10aに噴射流路24より小径の多数の噴射口14を均等に設けてもよい。この場合、スポーク部30cの噴射流路24の断面積を相対的に大きく設定して必要数を減らし、内面10aの噴射口14の断面積は均等に噴射するように相対的に小さく設定するのがよい。
【0039】
本発明による誘導加熱コイル100の製造方法は、S1~S3のステップ(工程)からなる。
【0040】
ステップS1では、冷媒流路20と噴射流路24を有する中空筒形の内部構造部30を、金属積層造形法を用いて一体成形する。内部構造部30の素材には、純銅又は銅合金を用いる。
並行して、外周部材32と側板34を、純銅又は銅合金を用いて一体成形する。外周部材32と側板34の製造は、金属積層造形法に限定されず、その他の加工方法(例えば機械加工)であってもよい。
【0041】
ステップS2では、中空筒形の外周部材32を内部構造部30の外周面に接合して、その間に焼入剤流路22を形成する。
ステップS3では、側板34を内部構造部30に接合して、その間に冷媒流路20を形成する。
【0042】
ステップS2,S3における接合は、好ましくはロウ付けによるのがよい。またこの場合、ロウ付け材は、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは100℃以上の耐熱性能を有するものを使用する。
なおステップS2,S3の順序は逆でもよい。
また内部構造部30、外周部材32、及び側板34を金属積層造形法を用いて一体で加工してもよい。
【実施例】
【0043】
上述した誘導加熱コイルについて、シミュレーションを実施した。
(シミュレーション条件)
コイル部10の寸法:内径34mm、外形76mm、厚さ16mm
材質:純銅
被処理物1の放射率0.2、周囲温度950℃
コイル部外面の熱伝達率20W/m2K、周囲温度30℃
コイル部内部の熱伝達率300W/m2K、
【0044】
(シミュレーション結果)
特許文献1の誘導加熱コイルの場合、同一条件において、コイル部表面の最高温度71.7℃、最低温度71.1℃であった。
また、本発明の誘導加熱コイル100の場合、同一条件において、コイル部表面の最高温度36.5℃、最低温度35.7℃であった。
【0045】
特許文献1の誘導加熱コイルは、コイル部に形成された冷媒流路の起伏部がコイル部の周方向に沿って厚み方向に起伏するように延びているため、起伏部の断面積が小さく、冷媒流路の流路抵抗が大きく、冷媒流量が不足する。
そのため、コイル部の冷却が不足してコイル部が例えば70℃以上に過熱されたと判断することができる。
【0046】
これに対し、本発明の誘導加熱コイル100は、コイル部10の半径方向内側に配置され、被処理物1を囲んで冷媒3を流す環状の冷媒流路20を備える。従って、冷媒流路20の断面積を大きく設定して冷媒流路20の流路抵抗を大幅に低減できるので、冷媒流量を増大させ、コイル全体を従来よりも低温(例えば50℃以下)に冷却できたと判断することができる。
【0047】
上述した本発明の実施形態によれば、コイル部10の半径方向内側に配置され、冷媒3を被処理物1を囲んで流す環状の冷媒流路20を備えるので、冷媒流路20の断面積を大きく設定して冷媒流路20の流路抵抗を大幅に低減できる。
【0048】
また、複数の噴射流路24が、環状の冷媒流路20を半径方向に貫通し、半径方向外側に配置された焼入剤流路22とコイル部10の内面10aとの間を連通するので、冷媒流路内の冷媒3により噴射流路24を常に冷媒3に近い温度まで冷却することができる。
【0049】
従って、本発明の構成により、冷媒流量を増大させ、コイル全体を従来よりも低温(例えば50℃以下)に冷却でき、これにより、熱疲労の蓄積、ロウ付け部の溶融、及び電気抵抗の上昇を効果的に低減することができる。
【0050】
なお本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0051】
1 被処理物、2 連結部、3 冷媒、4 焼入剤、10 コイル部、
10a 内面、10b 外面、10c,10d 側面、11 スリット溝、
12 電力導入部、12a 冷媒流入口、12b 冷媒流出口、
13 焼入剤供給口、14 噴射口、20 冷媒流路、21 端部流路、
22 焼入剤流路、24 噴射流路、30 内部構造部、
30a 内側リング部、30b 外側リング部、30c スポーク部、
32 外周部材、34 側板、35 中空チャンバ、
50 電力供給部、51 ボルト穴、100 誘導加熱コイル