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特許7106472経験最大層間変形角の推定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】経験最大層間変形角の推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20220719BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20220719BHJP
   E04B 1/00 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01M7/02 Z
E04B1/00 ESW
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019043339
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020148467
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-05-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年9月4日~9月6日に開催された2018年度日本建築学会大会[東北]の発表画像
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年2月に発行された日本建築学会技術報告書第25巻第59号第159-164頁
(73)【特許権者】
【識別番号】307042385
【氏名又は名称】ミサワホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】大木 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】三津橋 歩
(72)【発明者】
【氏名】梶川 久光
【審査官】奥野 尭也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-040709(JP,A)
【文献】特開2015-161657(JP,A)
【文献】特開2011-042980(JP,A)
【文献】特開2011-118510(JP,A)
【文献】特開2018-100875(JP,A)
【文献】特開平03-138775(JP,A)
【文献】特開2013-092488(JP,A)
【文献】鶴田修、坂本功、大橋好光、平田俊次、岡部潤一,木質系住宅の地震時仕上げ損傷と建物変形角に関する実験的研究,日本建築学会構造系論文集,日本,日本建築学会,2007年03月,第613巻,pp.73-80,[検索日 2022.06.06] インターネット:<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijs/72/613/72_KJ00004557438/_pdf/-char/ja>
【文献】文野正裕、前田匡樹、長田正至,部材の残余耐震性能に基づいた震災RC造建物の被災度評価法に関する研究,コンクリート工学年次論文集,日本,日本コンクリート工学協会,2000年,Vol.22, No.3,pp.1447-1452,[検索日 2022.06.06] インターネット:<URL: http://data.jci-net.or.jp/data_pdf/22/022-01-3242.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045
G01M 99/00
G01M 5/00
G01M 7/00- 7/08
E04B 1/00- 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面に石膏ボードが設けられ、前記石膏ボードの表面に壁クロスが貼り付けられた建物の壁のうち、当該壁に形成された開口部の隅角部に生じた前記壁クロスのひび割れから経験最大層間変形角を推定する方法であって、
前記ひび割れの幅又は長さを測定し、
予め行われた実験結果に基づく推定式により、前記ひび割れの測定結果から前記経験最大層間変形角を推定することを特徴とする経験最大層間変形角の推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の経験最大層間変形角の推定方法において、
前記推定式は、
γe=(Bu+0.26)/110・・・・・・式(1)
γe=(Bd+0.66)/180・・・・・・式(2)
γe=(Lu+43.6)/25200・・・・・・式(3)
γe=(Ld+163.5)/55100・・・・・・式(4)
のいずれかであり、
γe:経験最大層間変形角(rad)、Bu:前記開口部における上部の隅角部に生じたひび割れ幅(mm)、Bd:前記開口部における下部の隅角部に生じたひび割れ幅(mm)、Lu:前記開口部における上部の隅角部に生じたひび割れ長さ(mm)、Ld:前記開口部における下部の隅角部に生じたひび割れ長さ(mm)であることを特徴とする経験最大層間変形角の推定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の経験最大層間変形角の推定方法において、
推定された前記経験最大層間変形角に基づいて前記建物の被災度を判定することを特徴とする経験最大層間変形角の推定方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の経験最大層間変形角の推定方法において、
推定された前記経験最大層間変形角に基づいて前記建物の耐震性能残存率を判定することを特徴とする経験最大層間変形角の推定方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の経験最大層間変形角の推定方法において、
前記経験最大層間変形角の推定は演算処理装置で行われ、
前記演算処理装置は、事前に測定された前記ひび割れの幅又は長さに係る測定結果情報を取得することを特徴とする経験最大層間変形角の推定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の経験最大層間変形角の推定方法において、
前記ひび割れをカメラで撮影し、前記演算処理装置は、前記カメラによって撮影された前記ひび割れの画像を、前記測定結果情報として取得することを特徴とする経験最大層間変形角の推定方法。
【請求項7】
予め行われた実験結果に基づく推定式を記憶する記憶装置を有するコンピューターを、
少なくとも一方の面に石膏ボードが設けられ、前記石膏ボードの表面に壁クロスが貼り付けられた建物の壁のうち、当該壁に形成された開口部の隅角部に生じた前記壁クロスのひび割れの幅又は長さに係る測定結果情報を取得する測定結果情報取得手段と、
前記推定式を実行し、前記測定結果情報取得手段により取得した前記ひび割れの測定結果から経験最大層間変形角を推定する推定手段として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経験最大層間変形角の推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震などで損傷した建築物を利用できるか否かを判断するため、国土交通省による監修の「震災建築物の被災度区分判断基準および復旧技術指針」が利用されている(非特許文献1参照)。このような非特許文献1は、建築物の被災度を区分するとともに継続使用のための補強の要否を判定することを目的として運用されている。
なお、建物の変形量は最大層間変形角という数値で定義することができる。すなわち、地震時の最大層間変形角は、建物の劣化(建物の損傷状況)に関連し、建物の被災度判定の基準の一つとなっている。非特許文献1では、地震時に建物に生じた一番大きな変形を「経験最大層間変形角」という角度で表現している。また、非特許文献1の中で、経験最大層間変形角は、地震後の残留変形や、壁などの破損状況から推定する値とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】震災建築物の被災度区分判定基準および復旧技術指針(発行:一般財団法人 日本建築防災協会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、経験最大層間変形角と建物の損傷状況との相関関係については、非特許文献1にも明らかなように、ある程度の知見が得られている。しかしながら、実際には、その相関関係は定量化できておらず、見る人の主観に依ってしまうという問題があった。すなわち、例えば建築物の経験最大層間変形角の推定方法に着目すると、内外装材の損傷状況から推定しているが、損傷の数値的な指標や損傷状況の表現が抽象的なため、調査員ごとの推定結果に個人差が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、結果に個人差が生じず、簡便かつ精度よく経験最大層間変形角の推定を行うことが可能な経験最大層間変形角の推定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、例えば図1図14に示すように、少なくとも一方の面に石膏ボードが設けられ、前記石膏ボードの表面に壁クロスが貼り付けられた建物1の壁2,3のうち、当該壁2,3に形成された開口部2a,3aの隅角部に生じた前記壁クロスのひび割れf1~f6から経験最大層間変形角を推定する方法であって、
前記ひび割れf1~f6の幅又は長さを測定し、
予め行われた実験結果に基づく推定式により、前記ひび割れf1~f6の測定結果から前記経験最大層間変形角を推定することを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、予め行われた実験結果によって経験最大層間変形角と壁クロスに生じるひび割れの定量化が行われ、壁2,3に形成された開口部2a,3aの隅角部に生じた壁クロスのひび割れf1~f6における実際の幅又は長さから、予め行われた実験結果に基づく推定式によって簡便かつ精度よく経験最大層間変形角の推定を行うことが可能となり、推定結果に個人差が生じない。
【0008】
請求項2に記載の発明は、例えば図5図8図12図14に示すように、請求項1に記載の経験最大層間変形角の推定方法において、
前記推定式は、
γe=(Bu+0.26)/110・・・・・・式(1)
γe=(Bd+0.66)/180・・・・・・式(2)
γe=(Lu+43.6)/25200・・・・・・式(3)
γe=(Ld+163.5)/55100・・・・・・式(4)
のいずれかであり、
γe:経験最大層間変形角(rad)、Bu:前記開口部2a,3aにおける上部の隅角部に生じたひび割れ幅(mm)、Bd:前記開口部2a,3aにおける下部の隅角部に生じたひび割れ幅(mm)、Lu:前記開口部2a,3aにおける上部の隅角部に生じたひび割れ長さ(mm)、Ld:前記開口部2a,3aにおける下部の隅角部に生じたひび割れ長さ(mm)であることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、開口部2a,3aに対するひび割れf1~f6の位置に応じて、ひび割れf1~f6の幅又は長さから経験最大層間変形角の推定を行うことができるので、経験最大層間変形角の推定を行う上での精度を向上させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、例えば図4図12図14に示すように、請求項1又は2に記載の経験最大層間変形角の推定方法において、
推定された前記経験最大層間変形角に基づいて前記建物1の被災度を判定することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、推定された経験最大層間変形角に基づいて建物1の被災度を判定するので、調査員や建物1の居住者に対して被災度を報知することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、例えば図12図14に示すように、請求項1~3のいずれか一項に記載の経験最大層間変形角の推定方法において、
推定された前記経験最大層間変形角に基づいて前記建物1の耐震性能残存率Rを判定する。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、推定された経験最大層間変形角に基づいて建物1の耐震性能残存率Rを判定するので、調査員や建物1の居住者に対して耐震性能残存率Rを報知することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、例えば図12に示すように、請求項1~4のいずれか一項に記載の経験最大層間変形角の推定方法において、
前記経験最大層間変形角の推定は演算処理装置10で行われ、
前記演算処理装置10は、事前に測定された前記ひび割れf1~f6の幅又は長さに係る測定結果情報を取得することを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、演算処理装置10は、事前に測定されたひび割れf1~f6の幅又は長さに係る測定結果情報を取得し、これに基づいて経験最大層間変形角の推定を行うことができるので、ひび割れ幅及び長さの測定を事前に行いさえすれば、演算処理装置10によって経験最大層間変形角の推定を簡便に行うことができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、例えば図12図14に示すように、請求項5に記載の経験最大層間変形角の推定方法において、
前記ひび割れf1~f6をカメラ16で撮影し、前記演算処理装置10は、前記カメラ16によって撮影された前記ひび割れf1~f6の画像を、前記測定結果情報として取得することを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、演算処理装置10は、カメラ16によって撮影されたひび割れf1~f6の画像を測定結果情報として利用することができるので、ひび割れ幅及び長さの測定を簡便に行うことができる。そのため、経験最大層間変形角の推定を行う上での簡便さを向上させることができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、プログラムであって、
予め行われた実験結果に基づく推定式を記憶する記憶装置12を有するコンピューター10を、
少なくとも一方の面に石膏ボードが設けられ、前記石膏ボードの表面に壁クロスが貼り付けられた建物1の壁2,3のうち、当該壁2,3に形成された開口部2a,3aの隅角部に生じた前記壁クロスのひび割れf1~f6の幅又は長さに係る測定結果情報を取得する測定結果情報取得手段11aと、
前記推定式を実行し、前記測定結果情報取得手段11aにより取得した前記ひび割れf1~f6の測定結果から経験最大層間変形角を推定する推定手段11bとして機能させることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、予め行われた実験結果によって経験最大層間変形角と壁クロスに生じるひび割れf1~f6の定量化が行われ、壁2,3に形成された開口部2a,3aの隅角部に生じた壁クロスのひび割れf1~f6における実際の幅又は長さから、予め行われた実験結果に基づく推定式によって簡便かつ精度よく経験最大層間変形角の推定を行うことが可能となり、推定結果に個人差が生じない。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、結果に個人差が生じず、簡便かつ精度よく経験最大層間変形角の推定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】地震による被害を受けた建物の例を示す平面図である。
図2】掃き出し窓タイプの開口部の隅角部において壁クロスにひび割れが生じた状態を示す図である。
図3】腰高窓タイプの開口部の隅角部において壁クロスにひび割れが生じた状態を示す図である。
図4】「震災建築物の被災度区分判定基準および復旧技術指針」から部分的に引用した経験最大層間変形角と建物の損傷状況との相関関係を示す表である。
図5】開口部における上部の隅角部に生じたひび割れ幅と経験最大層間変形角との相関関係が表れた実験結果を示すグラフである。
図6】開口部における下部の隅角部に生じたひび割れ幅と経験最大層間変形角との相関関係が表れた実験結果を示すグラフである。
図7】開口部における上部の隅角部に生じたひび割れ長さと経験最大層間変形角との相関関係が表れた実験結果を示すグラフである。
図8】開口部における下部の隅角部に生じたひび割れ長さと経験最大層間変形角との相関関係が表れた実験結果を示すグラフである。
図9】地震による被害を受けた建物における構造計算結果概要及び経験最大層間変形角の推定結果を示す表である。
図10】地震による被害を受けた建物(物件A)における耐震性能評価結果を示すグラフである。
図11】地震による被害を受けた建物(物件B)における耐震性能評価結果を示すグラフである。
図12】演算処理装置の概要を示す図である。
図13】「震災建築物の被災度区分判定基準および復旧技術指針」から引用した経験最大層間変形角と耐震性能残存率との関係を示す表である。
図14】経験最大層間変形角の推定方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態および図示例に限定するものではない。
【0023】
図1において符号1は、建物を示す。この建物1は、最大震度7の地震による被害を受けた木造住宅であり、一階1aと二階1bとを備えている。一階1aの壁と二階1bの壁には、室内側面の仕上げ材として壁クロスが貼り付けられている。
【0024】
一階1aの壁と二階1bの壁のうち三角形のマーク「▲」で指された複数の箇所には、地震による壁の変形に伴って壁クロスのひび割れ(裂け目)が生じている。このような壁クロスのひび割れは、開口部が形成されていない壁よりも、開口部が形成された壁に生じやすくなっている。
【0025】
図2に示す壁2は、建物1の一階1a又は二階1bにおけるいずれかの箇所に設けられたものであり、壁クロスに複数のひび割れf1,f2,f3が生じている。この壁2には、人の出入りを想定した所謂掃き出し窓を構成する開口部2aが形成されており、複数のひび割れf1,f2,f3は、開口部2aの周囲(隅角部)に生じている。
【0026】
図3に示す壁3は、建物1の一階1a又は二階1bにおけるいずれかの箇所に設けられたものであり、壁クロスに複数のひび割れf4,f5,f6が生じている。この壁3には、人の出入りを想定していない所謂腰高窓を構成する開口部3aが形成されており、複数のひび割れf4,f5,f6は、開口部3aの周囲(隅角部)に生じている。
【0027】
なお、図2図3に示す壁2,3は、一方の面に石膏ボードが設けられ、その上から壁クロスが貼り付けられている。他方の面にはサイディング材が設けられている。
【0028】
図4は、国土交通省による監修の「震災建築物の被災度区分判断基準および復旧技術指針」から部分的に引用した経験最大層間変形角と被災度、内装材(仕上げ材:壁クロス)及び外装材(サイディング)の開口部における損傷状況との相関関係を示す表である。
【0029】
壁2,3における壁クロスに生じた複数のひび割れf1~f6と、図4に示す表とを照合することで、経験最大層間変形角を導き出すことができるとともに、経験最大層間変形角に応じた建物の被災度を導き出すことができるようになっている。
【0030】
しかしながら、経験最大層間変形角と建物の損傷状況(ここでは、壁クロスのひび割れf1~f6)との相関関係については定量化できていない。すなわち、図4に示す表だけに準拠してしまうと、壁クロスのひび割れf1~f6が、図4に示す表のうちどの段階にあるのかを定量的に判断できなかった。
【0031】
そこで、本実施形態においては、壁クロスのひび割れf1~f6の長さと幅に基づいて経験最大層間変形角、ひいては建物の被災度を推定する方法及びプログラムについて説明する。
【0032】
ここで、建物1が地震力を受けて水平方向に変形する場合の、各階の下階に対する相対的な水平変形を「層間変形」と呼び、その値を「階高」で割った値を「層間変形角」と呼ぶ。地震の水平方向の揺れにより、層間変形角は時々刻々変化するが、継続時間の中での絶対値の最大値を「最大層間変形角」と呼び、特に、地震時に建物1に生じた一番大きな変形を「経験最大層間変形角」と呼ぶものとする。
【0033】
経験最大層間変形角を推定する方法は、まず、販売される住宅等の建物と同様に構成された壁の試験体の静的水平加力実験を行い、壁クロスにひび割れを生じさせる。加力方法は、柱脚固定式による面内せん断実験とし、試験体の壁における上端部に設けられた加力桁に油圧ジャッキを接続し、この油圧ジャッキにより静的加力を行う。加力スケジュールは、見かけのせん断変形角による変位制御とし、1/600、1/450、1/300、1/200、1/150、1/100、1/75、1/50、1/30、1/15rad(以下、特定変形角)の正負交番で複数回繰り返す。ただし、1/15rad時のみ正負1回ずつの加力とする。なお、単位radは、ラジアン(radian)であり、国際単位系における角度(平面角)の単位である。弧度ともいう。
水平荷重は加力桁と油圧ジャッキの間に取り付けたロードセルで計測し、加力桁及び土台の水平変位並びに柱の鉛直変位を変位計により計測する。
【0034】
壁クロスの損傷(ひび割れ)を記録する時期は、地震後の状態を想定し、上記の特定変形角における3回目の正負それぞれの繰り返し加力時の特定変形角時、特定変形角時から除荷を行い、荷重が0となった時点(以下、荷重0時)及び、更に除荷を行い水平変位が0となった時点(以下、変位0時)とする。
観察記録の方法は、観察者による目視及びクラックスケールを用い、ひび割れの幅及び長さの記録を行う。
【0035】
このような実験を行った結果、試験体である壁の開口部における隅角部の壁クロスには、1/100rad以降で、ひび割れが生じ、1/75radで割れが上下に通り、以降、特定変形角から除荷を行った時点でのひび割れ幅が大きくなった。石膏ボードに壁クロスが貼り付けられてなる仕上げ面で観察された主な損傷状況は、壁クロスの縒れ、膨れ、及び切れ、石膏ボードのひび割れ、潰れ、面外への浮き及び剥がれ、石膏ボード相互のずれ並びにビスの浮き、パンチングアウト、切れ及び引き抜けであった。開口部の隅角部におけるひび割れについては、ひび割れ幅は開く側の加力と閉じる側の加力で変形時及び荷重0時に差があるが、変位0時は大差ない。試験体である壁が、内壁であるか外壁であるか、開口形状及び割付方法の違いにおいても同様の傾向が得られた。ひび割れ長さは加力方向に関わらず同様で、また、変位時、荷重0時及び変位0時でほぼ同じであった。
【0036】
以上のような実験における試験体の状態と実際の建物1の対応関係は、経験最大層間変形角を実験時の特定変形角、地震後の建物1の状態を実験時の変位0時と想定した。そして、実験における特定変形角時と除荷後変位0時の損傷状況、特に開口隅角部のひび割れ幅及び長さに着目して、地震後の建物1の経験最大層間変形角を推定する。
【0037】
経験最大層間変形角と、掃き出し窓タイプの開口部における上下の隅角部及び腰高窓タイプの開口部における上下の隅角部でのひび割れ幅及び長さとの関係を、図5図8に示す。図5は、開口部における上部の隅角部に生じたひび割れ幅と経験最大層間変形角との相関関係が表れた実験結果を示すグラフである。図6は、開口部における下部の隅角部に生じたひび割れ幅と経験最大層間変形角との相関関係が表れた実験結果を示すグラフである。図7は、開口部における上部の隅角部に生じたひび割れ長さと経験最大層間変形角との相関関係が表れた実験結果を示すグラフである。図8は、開口部における下部の隅角部に生じたひび割れ長さと経験最大層間変形角との相関関係が表れた実験結果を示すグラフである。
ひび割れ幅及び長さ各々について、経験最大層間変形角ごとに平均値(Ave)及び標準偏差(σ)を算出し、その平均値及び平均値±σ各々に対する近似直線を、経験最大層間変形角を推定する指標として図中に示す。
【0038】
また、平均値の近似直線を用いた経験最大層間変形角の推定式を、以下、式(1)から(4)に示す。建物1の掃き出し窓タイプの開口部及び腰高窓タイプの開口部のひび割れに対して、平均値の直線との交点が壁の経験した変形角と推定でき、平均値±σをばらつきの範囲として示す。
式(1)・・・・・・γe=(Bu+0.26)/110
式(2)・・・・・・γe=(Bd+0.66)/180
式(3)・・・・・・γe=(Lu+43.6)/25200
式(4)・・・・・・γe=(Ld+163.5)/55100
これら式(1)から(4)において、
γe:経験最大層間変形角(rad)
Bu:開口上部隅角部に生じたひび割れ幅(mm)
Bd:開口下部隅角部に生じたひび割れ幅(mm)
Lu:開口上部隅角部に生じたひび割れ長さ(mm)
Ld:開口下部隅角部に生じたひび割れ長さ(mm)
としている。
【0039】
ただし、変形とともに石膏ボードのひび割れが大きくなると地震時の繰り返しの変形でひび割れ部分が圧壊し、ひび割れの測定が困難となるため、適用範囲は1/50radとし、ひび割れ部分の圧壊が大きい場合は1/50radを超えていると判断する。開口部の隅角部ではない壁の平部における壁クロスの切れが上下に通ると1/300rad~1/100rad、顕著なビスの浮きで1/150rad、ビスの抜け又はパンチングアウトで1/30rad、が経験最大層間変形角の推定指標となる。
【0040】
また、出願人は、2016年4月14日、16日に発生した熊本地震発生後に地震被害調査を行い、益城町の物件(物件A,B)について経験最大層間変形角の推定を行った。被害調査では、内壁開口部に生じたひび割れ幅及び式(1)の推定式より経験最大層間変形角の推定を行い、その結果が図9の表に示されている。なお、被害調査におけるひび割れの測定は、調査時間の関係により目視における最も大きい箇所の幅について行った。
【0041】
図9の表に、調査物件A,Bの限界耐力計算の結果を示す。安全限界時の層せん断力に対する1階の安全率は、物件AでX方向3.6倍、Y方向2.6倍、物件BでX方向2.8倍、Y方向3.0倍であった。
【0042】
図10及び図11に、1自由度系に縮約した骨格曲線から計算した減衰による低減率及び等価周期より、建築基準法(安全限界時)及び周辺で観測されたKiK-net益城及び気象庁益城町宮園の地震波の必要耐力曲線を算定して得られた応答値の関係を示し、それらによる層間変形角を図9に示す。限界耐力計算による1階の層間変形角は、物件AのX方向で1/276rad、物件BのY方向で1/286radであった。
【0043】
観測地震波に対する層間変形角は、物件AのX方向で1/74~1/303rad、物件BのY方向で1/78~1/274radであり、経験最大層間変形角の推定結果は、それぞれ1/180(ばらつきの範囲1/305~1/125)rad及び1/155(ばらつきの範囲1/245~1/110)radであり、周辺での観測地震波による応答値と比較して、概ね経験最大層間変形角を推定できていると考える。
【0044】
出願人は、壁の静的加力実験を実施し、開口部における上下の隅角部に生じるひび割れと経験最大層間変形角との関係について示し、開口部における上下の隅角部に生じるひび割れ幅及び長さから、定量的に経験最大層間変形角を推定する方法を提案した。さらに、実際の被災住宅における損傷調査を用いて経験最大層間変形角の推定を試行した結果、構造計算結果及び周辺観測地震波による層間変形角との比較により推定結果が概ね妥当であり、定量的な経験最大層間変形角の推定手法として使用可能であることを確認した。
【0045】
以上を踏まえれば、開口部における上下の隅角部に生じたひび割れ幅及び長さから、経験最大層間変形角の推定を行うことができ、ひいては、建物の被災度を推定することが可能となっている。そして、このような経験最大層間変形角の推定を、演算処理装置10によって行うことができる。
【0046】
演算処理装置10は、図12に示すように、記憶部12、表示部13、入力部14、通信部15及びマイクロプロセッサー(制御部11)等を有するコンピューターである。例えば、演算処理装置10は、携帯電話機(例えば、スマートフォン、フィーチャーフォン)、PDA(Personal Digital Assistant)、デスクトップ型パーソナルコンピューター、ラップトップ型パーソナルコンピューター(ノート型パーソナルコンピューター)、パームトップ型パーソナルコンピューター、タブレット型パーソナルコンピューター等である。
【0047】
制御部11は、記憶部12内に格納されている制御用プログラム(図示省略)に基づいて記憶部12等を含む演算処理装置10全体の制御を行うとともに、測定結果情報取得手段11a、経験最大層間変形角推定手段11b、被災度判定手段11c、耐震性能残存率判定手段11dとしての機能を実行する。
【0048】
記憶部12は、ハードディスクドライブやフラッシュメモリー等の大容量記憶媒体、及びROM、RAM等の半導体記憶媒体を備える。この記憶部12には上記の制御用プログラムが格納されているとともに、制御部11の制御動作時に必要とされる各種データが一時的に格納される。また、この記憶部12には、推定式データ12a、被災度判定用データ12b、耐震性能残存率判定用データ12cが格納されている。
【0049】
表示部13は、演算処理装置10における表示装置であり、例えば液晶ディスプレイ等が採用される。本実施形態における表示部13は、演算処理装置10の筐体に組み込まれており、制御部11による表示制御信号に基づいて表示面に表示画面を表示する。
【0050】
入力部14は、演算処理装置10における入力装置であり、例えばキーボードやマウス等が採用される。本実施形態における入力部14は、演算処理装置10の筐体に組み込まれており、表示部13における表示画面に対して文字等の入力を行うことができる。
【0051】
通信部15は、制御部11からの通信信号を受け入れ、LAN、WAN等のネットワークにこの通信信号を送出する。また、通信部15は、ネットワークからの通信信号を受け入れ、制御部11にこの通信信号を出力する。本実施形態における通信部15は、演算処理装置10の筐体に内蔵されている。
【0052】
また、演算処理装置10には、カメラ16が接続される。本実施形態において、カメラ16は、壁クロスに生じたひび割れを撮影するために用いられる。すなわち、カメラ16は、カメラ16の記録媒体に記録されたひび割れの画像情報を演算処理装置10に入力する入力装置として機能する。この場合、演算処理装置10は、外部入力用のインターフェース(図示省略)を有する。
なお、壁クロスに生じたひび割れをクラックスケールによって測定した場合、演算処理装置10に対するひび割れ情報(ひび割れ幅又は長さの寸法情報)の入力は、入力部14から行うことができる。入力部14から情報入力を行う場合は、表示部13に対してひび割れ情報の入力画面を表示し、その入力画面上にて行う。
【0053】
なお、カメラ16は、本実施形態においては演算処理装置10に対して外部接続されるものとされているが、これに限られるものではなく、演算処理装置10に内蔵されていてもよい。演算処理装置10が、例えばスマートフォン等の携帯電話機やラップトップ型パーソナルコンピューターである場合は、カメラ16は内蔵されていることが多い。カメラ16が内蔵された演算処理装置10であれば、それ一台で、ひび割れの幅及び長さの寸法情報の取得から、経験最大層間変形角の推定、被災度判定、耐震性能残存率判定まで行うことができるので、利便性に優れる。
【0054】
制御部11は、測定結果情報取得手段11aとして機能し、カメラ16又は入力部14からのひび割れに係る情報(測定結果情報)を取得し、当該情報を記憶部12に記憶する。なお、カメラ16から入力された画像情報からは、例えば三次元の物体を複数の観測点から撮影して得た二次元画像から、視差情報を解析して寸法・形状を求めるフォトグラメトリー技術を利用した測定プログラムや、AR(Augmented Reality:いわゆる拡張現実)を利用した測定プログラム等を実行することにより、ひび割れの幅又は長さの寸法情報を得ることができる。
【0055】
この測定結果情報取得手段11aで取得する情報には、ひび割れの幅又は長さの寸法情報の他に、経験最大層間変形角を推定する際に、ひび割れの幅寸法情報と長さ寸法情報のうち、どちらを用いるかを選択した情報(幅又は長さの選択情報)が含まれる。さらに、測定したひび割れの開口部に対する位置情報も含まれる。
その他にも、測定を行った建物を特定する情報(住所、所有者情報等)や、建物の構造情報(総階数、建築工法の種類等)、測定箇所を特定する情報(測定した階、測定した壁の建物における位置・方向、測定した壁の形状・寸法)が含まれてもよい。
【0056】
また、制御部11は、経験最大層間変形角推定手段11bとして機能し、測定結果情報取得手段11aによって取得したひび割れの幅又は長さの寸法情報から経験最大層間変形角を推定する。その際、記憶部12に記憶された推定式データ12aが利用される。
推定式データ12aの内容は、上記の式(1)~(4)であり、測定結果情報取得手段11aで取得した情報に含まれた上記の幅又は長さの選択情報と、開口部に対する位置情報とに基づいて、式(1)~(4)が自動的に選択される。
すなわち、開口部における上部の隅角部に生じたひび割れ幅である場合には式(1)が選択され、測定したひび割れの幅寸法情報が式(1)における「Bu」に当てはめられることになる。
開口部における下部の隅角部に生じたひび割れ幅である場合には式(2)が選択され、測定したひび割れの幅寸法情報が式(2)における「Bd」に当てはめられる。
開口部における上部の隅角部に生じたひび割れ長さである場合には式(3)が選択され、測定したひび割れの長さ寸法情報が式(3)における「Lu」に当てはめられる。
開口部における下部の隅角部に生じたひび割れ長さである場合には式(4)が選択され、測定したひび割れの長さ寸法情報が式(4)における「Ld」に当てはめられる。
なお、ひび割れの幅又は長さの寸法情報は、ミリメートル(mm)単位で入力されるものとする。
【0057】
また、制御部11は、被災度判定手段11cとして機能し、経験最大層間変形角推定手段11bによって推定された経験最大層間変形角から被災度の判定を行う。その際、記憶部12に記憶された被災度判定用データ12bが利用される。
被災度判定用データ12bの内容は図4に示されており、経験最大層間変形角の値に対応して「軽微」、「小破」、「中破」、「大破」、「倒壊」に区分されている。
すなわち、経験最大層間変形角の値が1/120rad以下である場合は、被災度「軽微」と判定される。
経験最大層間変形角の値が1/60rad以下である場合は、被災度「小破」と判定される。
経験最大層間変形角の値が1/45rad以下である場合は、被災度「中破」と判定される。
経験最大層間変形角の値が1/20rad以下である場合は、被災度「大破」と判定される。
経験最大層間変形角の値が1/20radを超える場合は、被災度「倒壊」と判定される。
そして、このような各区分は、更に震度階級と相関関係があり、建物の基礎構造・上部構造における復旧の要否判断に利用される。
【0058】
また、制御部11は、耐震性能残存率判定手段11dとして機能し、経験最大層間変形角推定手段11bによって推定された経験最大層間変形角から耐震性能残存率R(被災後耐震性能の、被災前耐震性能に対する比)の判定を行う。その際、記憶部12に記憶された耐震性能残存率判定用データ12cが利用される。
耐震性能残存率判定用データ12cの内容は図13に示されており、経験最大層間変形角の値に対応して6段階に区分されている。
すなわち、経験最大層間変形角の値が1/120rad未満である場合は、耐震性能残存率R「80%」と判定される。
経験最大層間変形角の値が1/120rad以上、1/60rad未満である場合は、耐震性能残存率R「60%」と判定される。
経験最大層間変形角の値が1/60rad以上、1/45rad未満である場合は、耐震性能残存率R「50%」と判定される。
経験最大層間変形角の値が1/45rad以上、1/30rad未満である場合は、耐震性能残存率R「35%」と判定される。
経験最大層間変形角の値が1/30rad以上、1/20rad未満である場合は、耐震性能残存率R「15%」と判定される。
そして、経験最大層間変形角の値が1/20rad以上である場合は、耐震性能残存率R「5%」と判定される。
このような耐震性能残存率Rは、被災した建物の適切な補修・補強を行う上で重要であり、補強対象の建物における耐震性能の目標を満足させる上からも必要とされている。また、求められる耐震性能残存率Rは絶対値ではなく、被災前を100%とした場合の相対的な値である。
【0059】
以上のように構成された本実施形態における演算処理装置10としては、震災後に現地に赴いて建物の調査を行う調査員が各自所持するラップトップ型パーソナルコンピューター(いわゆるノートパソコン)が想定されている。ただし、これに限られるものではなく、スマートフォン等の携帯電話機でもよいし、その他のコンピューターを用いてもよい。
スマートフォン等の携帯電話機が演算処理装置10として利用される場合は、調査員が現地で調査を行い、すぐさま経験最大層間変形角の推定、被災度の判定、耐震性能残存率の判定を行うことができるので利便性に優れる。
【0060】
また、演算処理装置10は、調査員が各自所持するものではなく、例えば行政機関や住宅メーカー、調査会社等が管理するサーバーなどでもよい。この場合、調査員は、サーバーである演算処理装置10に対してひび割れ幅及び長さの寸法情報を始めとする諸情報を送信可能な通信端末を少なくとも所持していればよい。
より具体的に説明すると、カメラ16が内蔵されたスマートフォン等の携帯電話機を所持して調査員が現地入りし、現地でひび割れに係る写真を撮影し、そのデータをサーバーである演算処理装置10に送る。そして、サーバーで導き出された経験最大層間変形角の推定結果、被災度及び耐震性能残存率の判定結果をスマートフォン等の携帯電話機で受信するようにする。このような形態でも、経験最大層間変形角の推定が可能となる。
なお、演算処理装置10をサーバーとする場合は、受信した情報をデータベース化して記憶しておくことが好ましい。例えば現地から送られてくる情報に、様々な情報を紐づけして記憶すれば、経験最大層間変形角の推定だけでなく、発生した地震そのものの解析にも繋げることが可能となる。
【0061】
図14に、経験最大層間変形角の推定方法、被災度の判定方法、耐震性能残存率の判定方法を説明するフローチャートを示す。
まず、調査員が、地震による被害を受けた建物1において、壁クロスにひび割れf1~f6が生じた壁2,3を目視で見つけ、その中で、最も大きなひび割れを選定する(ステップS1)。なお、本実施形態においては、壁2におけるひび割れf1が選定されたものとする。
【0062】
続いて、調査員は、ひび割れf1の幅又は長さの寸法を測定する(ステップS2)。寸法の測定作業は、クラックスケールを用いてもよいし、カメラ16で行ってもよい。
ひび割れf1の測定を行った後、調査員は、測定結果情報を演算処理装置10に入力する(ステップS3)。測定結果情報の入力は、入力部14から行われてもよいし、カメラ16を演算処理装置10に接続するか、データ送信することにより行われてもよい。
【0063】
演算処理装置10は、測定結果情報取得手段11aによって、ひび割れf1の幅又は長さの寸法情報を含む測定結果情報を取得する(ステップS4)。
そして、演算処理装置10は、経験最大層間変形角推定手段11bによって、測定結果情報取得手段11aによって取得したひび割れの幅又は長さの寸法情報から経験最大層間変形角を推定する(ステップS5)。
【0064】
また、演算処理装置10は、被災度判定手段11cによって、経験最大層間変形角推定手段11bによって推定された経験最大層間変形角から被災度の判定を行う(ステップS6)。
さらに、演算処理装置10は、耐震性能残存率判定手段11dによって、経験最大層間変形角推定手段11bによって推定された経験最大層間変形角から耐震性能残存率Rの判定を行う(ステップS7)。
なお、ステップS6とステップS7の手順は、順序が逆になってもよいものとする。
【0065】
続いて、演算処理装置10は、経験最大層間変形角推定手段11bによる推定結果と、被災度判定手段11c及び耐震性能残存率判定手段11dによる判定結果を出力する(ステップS8)。出力先は、演算処理装置10の表示部13でもよいし、調査員が所持するコンピューター(例えばスマートフォンやタブレットコンピューター等)に送信してもよい。
【0066】
その後、調査員は、自身が所持するコンピューターによって、経験最大層間変形角推定手段11bによる推定結果と、被災度判定手段11c及び耐震性能残存率判定手段11dによる判定結果を取得する(ステップS9)。
以上のようにして、地震による被害を受けた建物1の経験最大層間変形角の推定、被災度の判定、耐震性能残存率Rの判定を行うことができる。
【0067】
本実施の形態によれば、予め行われた実験結果によって経験最大層間変形角と壁クロスに生じるひび割れの定量化が行われ、壁2,3に形成された開口部2a,3aの隅角部に生じた壁クロスのひび割れf1~f6における実際の幅又は長さから、予め行われた実験結果に基づく推定式(1)~(4)によって簡便かつ精度よく経験最大層間変形角の推定を行うことが可能となり、推定結果に個人差が生じない。
【0068】
なお、大地震の発生後は、居住者や地域住民の安全を確保するため、建物1の被災度判定及び耐震性能残存率判定は迅速に行われる必要がある。今後、発生が予想される南海トラフ巨大地震や首都直下地震では、調査人員が圧倒的に不足することが予測されるため、簡便かつ精度よく経験最大層間変形角の推定を行うことが強く求められている。
そのため、今後、発生が予想される南海トラフ巨大地震や首都直下地震でも調査人員の不足を招きにくく、迅速な対応を行いやすくなる。
【0069】
また、経験最大層間変形角を推定する場合に上記の推定式(1)~(4)に基づいて推定される。これにより、開口部2a,3aに対するひび割れf1~f6の位置に応じて、ひび割れf1~f6の幅又は長さから経験最大層間変形角の推定を行うことができるので、経験最大層間変形角の推定を行う上での精度を向上させることができる。
【0070】
また、推定された経験最大層間変形角に基づいて建物1の被災度を判定するので、建物1の居住者に対して被災度を報知することができる。
【0071】
また、推定された経験最大層間変形角に基づいて建物1の耐震性能残存率Rを判定するので、建物1の居住者に対して耐震性能残存率Rを報知することができる。
【0072】
また、演算処理装置10は、事前に測定されたひび割れf1~f6の幅又は長さに係る測定結果情報を取得し、これに基づいて経験最大層間変形角の推定を行うことができるので、ひび割れ幅及び長さの測定を事前に行いさえすれば、演算処理装置10によって経験最大層間変形角の推定を簡便に行うことができる。
【0073】
また、演算処理装置10は、カメラ16によって撮影されたひび割れf1~f6の画像を測定結果情報として利用することができるので、ひび割れ幅及び長さの測定を簡便に行うことができる。そのため、経験最大層間変形角の推定を行う上での簡便さを向上させることができる。
【0074】
また、予め行われた実験結果によって経験最大層間変形角と壁クロスに生じるひび割れf1~f6の定量化が行われ、壁2,3に形成された開口部2a,3aの隅角部に生じた壁クロスのひび割れf1~f6における実際の幅又は長さから、予め行われた実験結果に基づく推定式によって簡便かつ精度よく経験最大層間変形角の推定を行うことが可能となり、推定結果に個人差が生じない。
【符号の説明】
【0075】
1 建物
1a 一階
1b 二階
2 壁
2a 開口部
3 壁
3a 開口部
10 演算処理装置
11 制御部
11a 測定結果情報取得手段
11b 経験最大層間変形角推定手段
11c 被災度判定手段
11d 耐震性能残存率判定手段
12 記憶部
12a 推定式データ
12b 被災度判定用データ
12c 耐震性能残存率判定用データ
13 表示部
14 入力部
15 通信部
16 カメラ
f1~f6 ひび割れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14