(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】抗菌坑カビ用塗料、抗菌坑カビ用部材
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20220719BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220719BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220719BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220719BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/65
C09D5/00 Z
(21)【出願番号】P 2019053081
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】尾上 崇
(72)【発明者】
【氏名】湯本 徹
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197332(JP,A)
【文献】特開2011-057855(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104766(WO,A1)
【文献】特開2013-082654(JP,A)
【文献】特開2011-208937(JP,A)
【文献】国際公開第2018/66365(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 5/14
C09D 7/61
C09D 7/63
C09D 7/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化第一銅粒子と、疎水性化合物と、分散剤と、溶媒とを含む抗菌抗カビ用塗料であって、
前記疎水性化合物が
、シリコーンオリゴマーと、任意選択でフッ素系界面活性剤とからなり、
前記シリコーンオリゴマーは、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有し、
前記フッ素系界面活性剤は、パーフルオロアルキル基の構造を有し、
前記酸化第一銅粒子の含有量が0.5質量%以上60質量%以下であり、
前記疎水性化合物の含有量が0.05質量%以上40質量%以下であり、
前記分散剤の含有量が0.05質量%以上20質量%以下であり、
前記溶媒の含有量が5質量%以上99.4質量%以下であり、
前記抗菌抗カビ塗料を基材に塗布し、前記塗料を乾燥させたときの塗布面の水接触角が、16°以上89°以下である、
ことを特徴とする、抗菌抗カビ用塗料。
【請求項2】
さらに還元剤を含み、
前記還元剤の含有量が0.01質量%以上2質量%以下であり、
前記還元剤がヒドラジン又はその水和物である、
請求項1に記載の抗菌抗カビ用塗料。
【請求項3】
酸化第一銅粒子と、疎水性化合物と、分散剤とを含む、抗菌抗カビ用部材であって、
前記疎水性化合物が
、シリコーンオリゴマーと、任意選択でフッ素系界面活性剤とからなり、
前記シリコーンオリゴマーは、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有し、
前記フッ素系界面活性剤は、パーフルオロアルキル基の構造を有し、
前記酸化第一銅粒子の割合が0.5質量%以上99質量%以下であり、
前記疎水性化合物の割合が0.05質量%以上66質量%以下であり、
前記分散剤の割合が0.05質量%以上33質量%以下であり、
前記抗菌抗カビ用部材の水接触角が、16°以上89°以下である
ことを特徴とする、抗菌抗カビ用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌坑カビ用塗料、抗菌坑カビ用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の衛生思想の高まりによって、食品や医薬品の工場、病院や養護施設等の建物、食品厨房器具、医療器具、医療機器等の装置において、又は一般家庭用品においてまでも、細菌、かび等の真菌の拡大・感染防止のため、抗菌剤、抗カビ剤、消毒剤等が使用されている。
そのため、公共施設のみならず一般家庭においても、様々な部材に抗菌性や抗カビ性を付与することが望まれている。
【0003】
これらの問題を解決するものとして、有機系又は無機系抗菌剤が提案されている。
特に、無機系抗菌剤については、従来、銀イオン(Ag+)、亜鉛イオン(Zn2+)、及び二価銅イオン(Cu2+)等の金属イオンが微生物の増殖を抑制し、又は微生物に対し
て殺菌的に作用することが知られている(例えば、特許文献1)。この知見に基づいて、これらの金属イオンをゼオライトやシリカゲル等の物質に担持させた抗微生物材料や、上記金属と光触媒作用を有する酸化チタンと組み合わせた抗微生物材料等も多数開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中でも、抗菌抗カビ用途として、近年銀を用いた塗料等が使用されているが、銀はコストが高いといった問題を抱えている。
そのため、銀よりも廉価な金属を抗菌抗カビ成分として用いた、抗菌抗カビ用塗料及び抗菌抗カビ用部材の開発が望まれている。
さらに、抗菌抗カビ用部材は、菌やカビが繁殖しやすい場所、つまり湿気の多いところや水回りで使用されるため、効果を持続させるために水に対する密着性が必要である。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、低コストの酸化銅を抗菌抗カビ成分として用い、耐久性に優れた抗菌抗カビ用塗料、抗菌坑カビ用部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を達成すべく鋭意研究し実験を重ねた結果、を見出し、かかる知見に基づき、本発明を完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
酸化第一銅粒子と、疎水性化合物と、分散剤と、溶媒とを含む抗菌抗カビ用塗料であって、
前記疎水性化合物が、シリコーンオリゴマーと、任意選択でフッ素系界面活性剤とからなり、
前記シリコーンオリゴマーは、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有し、
前記フッ素系界面活性剤は、パーフルオロアルキル基の構造を有し、
前記酸化第一銅粒子の含有量が0.5質量%以上60質量%以下であり、
前記疎水性化合物の含有量が0.05質量%以上40質量%以下であり、
前記分散剤の含有量が0.05質量%以上20質量%以下であり、
前記溶媒の含有量が5質量%以上99.4質量%以下であり、
前記抗菌抗カビ塗料を基材に塗布し、前記塗料を乾燥させたときの塗布面の水接触角が、16°以上89°以下である、
ことを特徴とする、抗菌抗カビ用塗料。
[2]
さらに還元剤を含み、
前記還元剤の含有量が0.01質量%以上2質量%以下であり、
前記還元剤がヒドラジン又はその水和物である、
[1]に記載の抗菌抗カビ用塗料。
[3]
酸化第一銅粒子と、疎水性化合物と、分散剤とを含む、抗菌抗カビ用部材であって、
前記疎水性化合物が、シリコーンオリゴマーと、任意選択でフッ素系界面活性剤とからなり、
前記シリコーンオリゴマーは、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有し、
前記フッ素系界面活性剤は、パーフルオロアルキル基の構造を有し、
前記酸化第一銅粒子の割合が0.5質量%以上99質量%以下であり、
前記疎水性化合物の割合が0.05質量%以上66質量%以下であり、
前記分散剤の割合が0.05質量%以上33質量%以下であり、
前記抗菌抗カビ用部材の水接触角が、16°以上89°以下である
ことを特徴とする、抗菌抗カビ用部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る抗菌抗カビ用塗料は、基材表面の全体又は所望の部分のみに、所望のパターンで優れた抗菌抗カビ性を付与して、本発明に係る抗菌抗カビ用部材を提供することを可能にする。
本発明に係る抗菌抗カビ用部材は、低コストの酸化銅を抗菌抗カビ成分として含み耐水性に優れるため、湿気の多いところや水回りで使用された場合であっても抗菌抗カビ性の効果を持続することを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[抗菌抗カビ用塗料]
本実施形態の抗菌抗カビ用塗料は、酸化第一銅粒子と、疎水性化合物と、分散剤と、溶媒とを含む抗菌抗カビ用塗料であって、前記疎水性化合物が官能基として、フッ素基、メチル基、フェニル基からなる群から選択される少なくとも一つを含み、前記酸化第一銅粒子の含有量が0.5質量%以上60質量%以下であり、前記疎水性化合物の含有量が0.05質量%以上40質量%以下であり、前記分散剤の含有量が0.05質量%以上20質量%以下であり、前記溶媒の含有量が5質量%以上99.4質量%以下であり、前記抗菌抗カビ塗料を基材に塗布し、前記塗料を乾燥させたときの塗布面の水接触角が、16°以上89°以下であることが肝要である。
【0012】
[[酸化第一銅粒子]]
本実施形態の塗料は、抗菌抗カビ成分として、銅酸化物粒子を所定の含有量で含む。銅酸化物粒子の具体例としては、酸化第一銅粒子、酸化第二銅粒子、又はその他の酸化数の酸化銅粒子、コア部が銅でありシェル部がいずれかの酸化数の酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子等が挙げられる。これら粒子は、少量の不純物として金属塩及び/又は金属錯体を含んでもよい。
本実施形態では、その中でも特に酸化第一銅粒子が、抗菌抗カビ性が優れるため、塗料に含まれることが肝要である。
【0013】
本実施形態の抗菌抗カビ用塗料に含まれる酸化第一銅粒の平均粒子径は、特に制限はないが、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上であり、また、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。
本実施形態の銅酸化物粒子は、1nm以上500nm以下の平均粒子径を有することにより、塗料中での分散安定性が向上し、よって、塗料の抗菌抗カビ性能を向上させることができる。また、塗料の塗工性を向上させることができ、よって、基材表面への塗料の塗布方法として印刷法を用いることを可能にする。
ここで「平均粒子径」とは、湿式状況下での銅酸化物粒子の流体力学的平均径を意味し、後述する「平均二次粒径」の値とは多少のずれを生じ得る。本実施形態における「平均粒子径」、すなわち、流体力学的平均径では、二次粒子を構成せず単独で存在している一次粒子と、一次粒子が複数個集まって形成された凝集体である二次粒子とを区別することなく測定対象として求められた平均粒径である。一方、後述する「平均二次粒径」は、全ての測定対象粒子が二次粒子であると仮定して求められる平均粒径であり、仮に二次粒子を構成しない一次粒子が存在していても測定対象外とされるためである。
本実施形態において、銅酸化物粒子の平均粒子径は、動的光散乱法を用いて測定することができる。より具体的には、塗料に使用される溶媒中に分散させた銅酸化物粒子を測定対象とし、動的光散乱法を用いて測定した信号を、光子相関法で解析して自己相関関数を求め、求めた自己相関関数をキュムラント法で解析して平均粒子径を求めることができる。
【0014】
本実施形態の部材に含まれる銅酸化物粒子の平均二次粒径は、特に制限はないが、好ましくは5nm以上、500nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。
平均二次粒径とは、銅酸化物粒子の一次粒子が複数個集まって形成される凝集体(二次粒子)の平均粒径である。平均二次粒径が500nm以下であると、基材表面上に微細パターンを形成しやすいので好ましい。二次粒径とは、ジエチレングリコール中に分散させた銅酸化物粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したときに、取得される画像データから求められる二次粒子の粒子径をいい、通常、画像の任意の箇所を切り取り、この箇所に含まれる100個以上の粒子について、その二次粒径の平均値を求めて、平均二次粒径を算出する。
二次粒子を構成する一次粒子の平均一次粒径の好ましい範囲は1nm以上、100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。平均一次粒径が100nm以下の場合、表面積が広くなるため抗菌抗カビ性能が向上する。平均一次粒径が1nm以上であると、平均粒子径を1nm以上500nm以下の範囲内とすることができる。
平均一次粒径とは、画像解析により複数の一次粒子について求めた一次粒径の平均値をいう。ここで、一次粒径とは、分散媒中に分散させた酸化第一銅ナノ粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したときに、取得される画像データから求められる一次粒子の粒子径をいい、通常、画像の任意の箇所を切り取り、この箇所に含まれる100個以上の粒子について、その一次粒径の平均値を求めて、平均一次粒径を算出する。
【0015】
本実施形態の塗料における酸化第一銅粒子の含有量は、塗料100質量%中、0.5質量%以上60質量%以下であり、好ましくは1.0質量%以上60質量%以下、より好ましくは5.0質量%以上50質量%以下である。含有量が0.5質量%以上であると、抗菌抗カビ成分としての機能を十分に発揮することができ、60質量%以下であると、銅酸化物粒子の凝集を抑制しやすくなるためである。
【0016】
酸化第一銅粒子を得るうえで、銅酸化物粒子としては、市販品を用いてもよいし、合成して用いてもよい。市販品としては、例えば、CIKナノテック製の平均一次粒径50nmの酸化第二銅粒子がある。合成して用いる場合、合成法としては、次の(1)~(3)の方法が挙げられる。
(1)ポリオール溶剤中に、水と銅アセチルアセトナト錯体を加え、一旦有機銅化合物を加熱溶解させ、次に、反応に必要な水を後添加し、さらに昇温して有機銅の還元温度で加熱還元する方法。
(2)有機銅化合物(銅-N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン錯体)を、ヘキサデシルアミン等の保護剤存在下、不活性雰囲気中で、300℃程度の高温で加熱する方法。
(3)水溶液に溶解した銅塩をヒドラジンで還元する方法。
この中でも、(3)の方法は操作が簡便で、かつ、粒径の小さい銅酸化物粒子や酸化第一銅粒子が得られるので好ましい。
【0017】
[疎水性化合物]]
本実施形態における疎水性化合物とは、水に対する親和性が低い物質、すなわち水に溶解しにくい、あるいは水と混ざりにくい物質を意味する。
疎水性化合物が有する官能基としては、フッ素基、メチル基、フェニル基等を含む化合物である。これらの官能基は、1種単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0018】
具体的には、シリコーンレジンやシリコーンオリゴマー、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0019】
シリコーンレジンとしては、具体的には信越化学工業社製のKR-220L、KR-220LP、KR-242A、KR-251、KR-112、KR-212、KR-255、KR-271、KR-272、KR-282、KR-300、KR-311、X-40-2667A、X-40-2756、KR-480、KR-216等が挙げられる。
シリコーンオリゴマーとしては、具体的には信越化学工業社製のKC-89S、KR-515、KR-500、X-40-9225、X-40-9246、X-40-9250、KR-401N、X-40-9227、KR-510、KR-9218、KR-213、KR-400、X-40-2327、KR-401等が挙げられる。
好ましいシリコーンオリゴマーとしては、KR-400、X-40-2327、KR-401であり、これらを用いることで耐久性のある膜にすることができる。また、特に好ましくは、X-40-2327である。
上述のシリコーンレジンやシリコーンオリゴマーでは、3次元網目構造を与え得るシロキサン骨格の構造を有するものが好ましく、特に、シロキサン骨格の構造の中に2官能性の単位及び/又は3官能性の単位を含むものであることが好ましい。
シロキサン骨格の構造を有するものとしては、例えば、下記式(1)で表される構造を有するものが挙げられる。
【化1】
・・・(1)
式中、Xは有機基であり、例えば、置換又は非置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。式中、m、nは各々独立に、0以上の整数であって、m=n=0の場合は除く。上記有機基の炭素数は、1~20個としてよく、1~10個が好ましく、1~3個がより好ましい。
シリコーンレジンやシリコーンオリゴマーが官能基を備えることで、水中での密着性を向上させることができる。
また、2官能性のシリコーンと3官能性のシリコーンとを併用することで、柔軟性と密着性が向上するため、好ましい。
【0020】
フッ素系界面活性剤としては、具体的にはAGCセイミケミカル社製の、S-211、S-221、S-232、S-233、S-241、S-242、S-242L、S-243、S-420、S-431、S-386、S-611、S-647、S-651、S-653、S-656、S-658、S-693、S-CFJ、FPE-50、SK-T-60、SZ-20等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキル基を有するものが好ましい。
パーフルオロアルキル基を有するものとしては、例えば、下記式(2)で表されるものが挙げられる。
CF3CF2CF2CF2CF2-R
・・・(2)
式中、Rは有機基であり、例えば、置換又は非置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基、パーフルオロアルキル基等が挙げられる。上記有機基の炭素数は、1~20個としてよく、1~10個が好ましく、1~3個がより好ましい。
フッ素系界面活性剤は、低分子タイプ、ポリマータオル、オリゴマータイプであってもよい。また、塗料の分散安定性のために、フッ素系界面活性剤はノニオンタイプが好ましい。
【0021】
本実施形態の塗料における疎水性化合物の含有量は、特に制限はないが、塗料100質量%中、好ましくは、0.05質量%以上40質量%以下であり、好ましくは0.6質量%以上7.8質量%以下であり、より好ましくは2.0質量%以上6.6質量%以下であり、さらに好ましくは4質量%以上5.4質量%以下である。
前記疎水性化合物の含有量が上記範囲内であれば、凝集することなくインクとすることができる。
【0022】
[[分散剤]]
本実施形態における抗菌抗カビ用塗料に用いられる分散剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が挙げられる。
具体的には、アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルメチルアンモニウム塩が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタインが挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグリコシド、脂肪酸時エタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテルが挙げられる。
また、その他の分散剤として、ビックケミー社製の「Disperbyk(登録商標、以下同様)-102」、「Disperbyk-111」、「Disperbyk-142」、「Disperbyk-145」、「Disperbyk-110」、「Disperbyk-180」、「Disperbyk-2013」、「Byk(登録商標、以下同様)-9076」、「ANTI-TERRA(登録商標、以下同様)-U」、第一工業製薬製の「プライサーフ(登録商標、以下同様) M208F」、「プライサーフ DBS」を挙げることができる。
また、Triton(登録商標、以下同様) X-45、Triton X-100、Triton X、Triton A-20、Triton X-15、Triton X-114、Triton X-405、Tween(登録商標、以下同様) #20、Tween #40、Tween #60、Tween #80、Tween #85、Pluronic(登録商標、以下同様) F-68、Pluronic F-127、Span(登録商標、以下同様) 20、Span 40、Span 60、Span 80、Span 83、Span 85、AGCセイミケミカル製の「サーフロン(登録商標、以下同様) S-211」、「サーフロン S-221」、「サーフロン S-231」、「サーフロン S-232」、「サーフロン S-233」、「サーフロン S-242」、「サーフロン S-243」、「サーフロン S-611」、スリーエム製の「Novec(登録商標、以下同様) FC-4430」、「Novec FC-4432」、DIC製の「メガファック(登録商標、以下同様) F-444」、「メガファック F-558」が挙げられる。
【0023】
本発明の実施形態の抗菌抗カビ用塗料における分散剤の含有量は、特に制限はないが、塗料100質量%中、好ましくは、0.05質量%以上20質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上17質量%以下であり、より好ましくは0.20質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上8.0質量%以下である。前記分散剤の含有量が上記範囲内であれば、銅酸化物粒子同士の凝集を抑制することができ、塗料が十分な分散安定性を有する。
【0024】
[[溶媒]]
本実施形態の塗料は、分散媒として、溶媒を所定の含有量で含む。溶媒は、単一溶媒であっても混合溶媒であってもよい。
単一溶媒としては、20℃における蒸気圧が0.010Pa以上20Pa未満である溶媒(以下、「溶媒(A)」とも称する)であっても、20℃における蒸気圧20Pa以上150hPa以下である溶媒(以下、「溶媒(B)」とも称する)であってもよい。
混合溶媒としては、2種以上の溶媒(A)からなる混合溶媒でも、2種以上の溶媒(B)にからなる混合溶媒でも、溶媒(A)と溶媒(B)との混合溶媒でもよい。中でも、溶媒(A)と、溶媒(B)との混合溶媒を用いることが好ましい。溶媒(A)と溶媒(B)との混合溶媒は、前記リン酸基を有する有機化合物と併せて用いることによって、本実施形態の塗料の大気中における分散安定性の向上と作業性とを両立させることができる。
【0025】
前記溶媒(A)の20℃における蒸気圧は、0.010Pa以上20Pa未満であり、好ましくは0.05Pa以上16Pa未満であり、より好ましくは0.1Pa以上14Pa未満である。20℃における蒸気圧が0.010Pa以上20Pa未満であると、塗料の塗膜を半乾きの状態に維持することができ、後述する抗菌抗カビ用部材の製造の際の作業性を高めることができる。
【0026】
前記溶媒(B)の20℃における蒸気圧は、20Pa以上150hPa以下であり、好ましくは100Pa以上100hPa以下、より好ましくは300Pa以上20hPa以下である。20℃における蒸気圧が150hPa以下であると、溶媒の揮発速度が高くても、塗料における銅酸化物粒子の含有率を安定させやすくすることができる。20℃における蒸気圧が20Pa以上であると、塗料の塗膜を半乾きの状態にするまでの時間を適式にすることができる。
【0027】
本実施形態の塗料における溶媒の含有量は、塗料100質量%中、5質量%以上99.4質量%以下であり、好ましくは10質量%以上99.0質量%以下、より好ましくは20質量%以上90質量%以下である。溶媒の含有量が上記範囲内であれば、塗料に優れた分散安定性及び優れた塗工性を十分に付与することができる。
【0028】
本実施形態の塗料は、溶媒が溶媒(A)と溶媒(B)との混合溶媒である実施形態の場合、本実施形態の塗料100質量%中の溶媒(A)の含有量は、0.05質量%以上10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.10質量%以上9.0質量%以下、さらに好ましくは0.20質量%以上8.0質量%以下である。溶媒(A)の含有量が上記範囲内であると、大気中において適式な乾燥速度となり、印刷不良が生じない傾向となり好ましい。
【0029】
前記溶媒(A)の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3メトキシ-3-メチルーブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、オクタン、ノナン、デカン、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-ペンタンジオール、4,2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ1,2-プロピレングリコール、グリセロール等の有機溶媒、及び、水等が挙げられる。中でも炭素数10以下の多価アルコールがより好ましい。多価アルコールの炭素数が10を超えると、銅酸化物粒子の分散性が低下する場合がある。これらは、単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0030】
前記溶媒(B)の具体例としては、酢酸、酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルカーボネート、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、sec-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、sec-ヘキサノール、2-エチルブタノール、sec-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、sec-オクタノール、n-ノニルアルコール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。中でも炭素数10以下のモノアルコールがより好ましい。炭素数10以下のモノアルコール中でも、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノールが分散性、揮発性及び粘性が特に適しているのでさらに好ましい。モノアルコールの炭素数が10を超えると、銅酸化物粒子の分散性の低下を抑制するため、モノアルコールの炭素数は10以下であることが好ましい。これらは、単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0031】
[[ヒドラジン]]
本実施形態の別実施形態では、塗料は、pH調整剤として、ヒドラジンを所定の割合で含む。ヒドラジンが分子又はヒドラゾニウム塩として銅酸化物粒子に吸着することで、銅酸化物粒子同士の電気二重層による反発力を弱めることなく、pHを酸化銅粒子が分散するのに最適な4~9に保つことができる。
【0032】
本実施形態の塗料におけるヒドラジンの含有量は、塗料100質量%中、0.01質量%以上2質量%以下であり、好ましくは0.02質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上0.1質量%以下である。溶媒の含有量が上記範囲内であれば、塗料に優れた分散安定性を付与することができる。
【0033】
<粘度>
本実施形態の抗菌抗カビ用塗料の25℃における粘度には特に制限はないが、JIS K5600-2-3に準拠しコーン・プレート型回転粘度計を用いて25℃で測定したずり速度が1×10-1s-1~1×102s-1である領域において、好ましくは100mPa・s以下、より好ましくは30mPa・s以下である。25℃における粘度は、印刷時の均質な塗布膜の形成しやすさから、100mPa・s以下が好ましい。
本実施形態の塗料の25℃における粘度を上記範囲内に調整するには、必要に応じて、必須成分及び/若しくは任意成分の濃度を適宜調整するか、又は増粘剤等を適宜添加すればよい。例えば、25℃における粘度を低下させたい場合は、溶媒の濃度を増加させればよい。一方、25℃における粘度を上昇させたい場合は、銅酸化物粒子の濃度を増加させるか、又は増粘剤を添加すればよい。
増粘剤としては、特に限定はなく、塗料で通常使用されるもの全般が利用できる。
【0034】
<水接触角>
本実施形態の抗菌抗カビ用塗料を基材に塗布し、塗料を乾燥させたときの塗布面の23℃における水接触角は、水中での密着性向上のために、16°以上89°以下が好ましい。より好ましくは40°以上61°以下である。更に好ましくは45°以上49°以下である。
水接触角は、液滴法を用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0035】
[抗菌抗カビ用塗料の製造方法]
本実施形態の抗菌抗カビ用塗料は、例えば、前述の銅酸化物粒子と、疎水性化合物と、分散剤と、溶媒とを混合して作製することができる。本実施形態においては、銅酸化物粒子と疎水性化合物と分散剤と溶媒が必ず含むことが、性能向上において重要である。さらに前述の還元剤を混合してもよい。還元剤を混合することで、塗料として安定性が向上する。
これらの成分をそれぞれ所定の割合で混合し、公知の分散処理法を用いて分散処理することにより、調製することができる。
公知の分散処理法としては、特に限定されず、例えば、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、2本ロール法、アトライター、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル等が挙げられる。これら分散処理法は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本実施形態の抗菌抗カビ用塗料を調製する際、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、塗料に一般に用いられている添加剤、例えば、分散剤、有機バインダー等を用いることができる。
【0037】
なお、上述するように、必須成分及び/又は任意成分の濃度を適宜調整することによって、本実施形態の抗菌抗カビ用塗料の粘度を調整することができる。
【0038】
[抗菌抗カビ用部材]
本実施形態の抗菌抗カビ用部材は、酸化第一銅粒子と、疎水性化合物と、分散剤とを含む、抗菌抗カビ用部材であって、前記疎水性化合物が官能基として、フッ素基、メチル基、フェニル基からなる群から選択される少なくとも一つを含み、前記酸化第一銅粒子の割合が0.5質量%以上99質量%以下であり、前記疎水性化合物の割合が0.05質量%以上66質量%以下であり、前記分散剤の割合が0.05質量%以上33質量%以下であり、前記抗菌抗カビ用部材の水接触角が、16°以上89°以下であることが肝要である。
【0039】
本実施形態の抗菌抗カビ用部材は、後述のとおり、本実施形態の抗菌抗カビ用塗料を基材表面に塗布した後、塗料を乾燥させることによって基材表面に得られる塗膜としてよい。
なお、本実施形態では、塗膜たる抗菌抗カビ用部材と基材とを含めて、抗菌抗カビ性製品としてよい。
【0040】
本実施形態の抗菌抗カビ用部材における、酸化第一銅粒子、疎水性化合物、分散剤については、本実施形態の抗菌抗カビ用塗料について記載したものと同様であってよい。
また、抗菌抗カビ用部材に残留し得る溶媒、還元剤について、また、抗菌抗カビ用部材に任意で添加され得る添加剤についても、本実施形態の抗菌抗カビ用塗料について記載したものと同様であってよい。
【0041】
本実施形態の抗菌抗カビ用部材における酸化第一銅粒子の含有量は、抗菌抗カビ性の観点から、抗菌抗カビ用部材100質量%中、0.5質量%以上99質量%以下であり、好ましくは10質量%以上90質量%以下、より好ましくは48質量%以上83質量%以下である。
本実施形態の抗菌抗カビ用部材における疎水性化合物の含有量は、粒子間を結合して脱落を抑制する観点から、抗菌抗カビ用部材100質量%中、0.05質量%以上66質量%以下であり、好ましくは2質量%以上35質量%以下、より好ましくは7質量%以上20質量%以下である。
本実施形態の抗菌抗カビ用部材の分散剤の含有量は、抗菌抗カビ性の効果を持続させる観点から、抗菌抗カビ用部材100質量%中、0.05質量%以上33質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下、より好ましくは1質量%以上8質量%以下である。
本実施形態の抗菌抗カビ用部材では、酸化第一銅粒子の含有量に対する疎水性化合物の含有量の割合は、0.03~0.49であることが好ましく、より好ましくは0.12~0.41であり、さらに好ましくは0.25~0.34である。
本実施形態の抗菌抗カビ用部材では、酸化第一銅粒子の含有量に対する分散剤の含有量の割合は、0.05~0.5であることが好ましく、より好ましくは0.1~0.3であり、さらに好ましくは0.15~0.25である。
【0042】
<水接触角>
本実施形態の抗菌抗カビ用部材の水接触角は、水中での密着性向上のために、16°以上89°以下が好ましい。より好ましくは40°以上61°以下である。更に好ましくは45°以上49°以下である。
水接触角は、液滴法を用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0043】
本実施形態の抗菌抗カビ用部材は、基材の全表面又は所望する表面部分のみに所望のパターンで付与して、優れた抗菌抗カビ性を有する部材であるため、様々な用途に使用することができる。
抗菌抗カビ性製品としては、例えば、織物や不織布等が挙げられ、より具体的に、応用例としては、マスク;エアコン用フィルター、空気清浄機用フィルター、掃除機用フィルター、換気扇用フィルター、車両用フィルター、空調用フィルター等のフィルター;衣類用、寝具用、網戸用ネットや鶏舎用ネット等のネット;壁紙、窓用、天井用、車両用シート等のシート・フィルム;ドア、ブラインド、椅子、ソファー、床材等の各種設備(ウイルスを扱う設備、電車・車両、病院、ビル一般)用内装材等;が挙げられる。
【0044】
[抗菌抗カビ用部材の製造方法]
次に、本実施形態の抗菌抗カビ用部材の製造方法について詳細に説明する。
本実施形態の抗菌抗カビ用部材は、様々な方式で作製できる。例えば、基材を本実施形態の塗料に浸漬させることや、本実施形態の塗料をスプレーその他のコーティング法や各種印刷法を使って基材表面に塗布した後、前記塗料を乾燥させて塗膜を形成することで、本実施形態の抗菌抗カビ用部材を製造することができる。特に、印刷法を用いて塗布することで、今までは基材全面を抗菌抗カビ材料で覆っていたところを、基材表面の所望する領域だけに塗布できるため好ましい。
【0045】
[[塗布方法]]
基材表面に本実施形態の抗菌抗カビ用塗料を塗布し、塗膜を形成する方法としては、特に制限されず、スクリーン印刷、スプレーコート、スピンコート、スリットコート、ダイコート、バーコート、ナイフコート、エアードクターコート、ロールコート、静電塗装、オフセット印刷、反転印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、ディスペンサ印刷、グラビアダイレクト印刷、グラビアオフセット印刷、タンポ印刷等のコーティング法や印刷法等を用いる
ことができる。また、本実施形態の塗料又は当該塗料を含む塗布液に浸す浸漬法も利用できる。
中でも、印刷法による塗布であれば、基材表面上に塗料を所望のパターンに直接印刷することができるため、抗菌抗カビ性が必要なところにのみ抗菌抗カビ用塗料を必要な量だけ塗布できるので好ましい。
【0046】
本実施形態の抗菌抗カビ用塗料の塗布量は、特に限定されず、塗料の抗菌抗カビ性能、すなわち、抗菌抗カビ成分である酸化第一銅粒子の含有量や、塗布方法、製造される抗菌抗カビ用部材の用途等を考慮して、適宜決定することができる。
抗菌抗カビ性を十分に得る観点からは、抗菌抗カビ性製品における酸化第一銅粒子の含有量が、抗菌抗カビ性製品を100質量%として、0.001質量%以上20質量%以下となるように塗布することが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下となるように塗布することがより好ましい。
【0047】
[[塗膜形成]]
本実施形態の抗菌抗カビ用塗料を基材へ塗布した後、塗料を乾燥させて塗膜を形成させる。
本実施形態の塗料の乾燥方法としては、特に制限されず、加熱乾燥や自然乾燥等が挙げられ、必要に応じて、乾燥と同時又はその後に、紫外線、赤外線、電子線、γ線等の照射を行ってもよい。
【0048】
基材上に形成された塗膜の厚みは、特に制限されず、製造される抗菌抗カビ用部材の用途等を考慮して、適宜決定することができる。抗菌抗カビ性を十分に得る観点からは、基材上の塗膜の厚みが、1μm以上10mm以下であることが好ましく、10μm以上5mm以下であることがより好ましい。
【0049】
[[基材]]
基材の材質は特に制限されるものではなく、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、高歪点ガラス、石英ガラス等のガラス、シリカ等ガラス類、アルミナ等のセラミック、陶器、磁器等の焼き物、石材、コンクリートほか、アルミ、ステンレス、鉄等の金属類等の無機材料が挙げられる。さらに高分子材料等の有機材料、であっても良く、例えば、基材としてプラスチック等の高分子材料や、天然原料由来の紙、木材、繊維等も基材とすることができる。
【0050】
基材がプラスチックである場合、基材の成形に用いる樹脂材料としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ガラス-エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、液晶性高分子化合物等を挙げることができる。
中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)は好ましい。
なお基材の形状としては板状に限らず、フィルム、シート、織物、不織布、立体的な構造物等であっても良い。
【0051】
基材の厚さについては、特に制限はないが、樹脂フィルム等のプラスチック基材の場合には、通常10μm以上300μm以下の範囲である。また、300μm以下であると巻き取り加工を連続して行う場合に、柔軟性の点で好適である。他方、基材の材質が無機材料である場合には、通常0.10mm以上10mm以下程度、好ましくは0.50mm以上5.0mm以下程度である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0053】
後述するように実施例及び比較例の各塗料を調製した。
【0054】
[比較例1]
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。
得られた沈殿物390gに、高分子コポリマーのリン酸エステル塩を有する分散剤であるDisperBYK-145(ビッグケミー製)13.7g(分散剤含有量4g)、及びエタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、ホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1310.7gを得た。
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有量は20gであった。
組成の詳細は表1に記載のとおりとした。
【0055】
[実施例1]
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。
得られた沈殿物390gに、高分子コポリマーのリン酸エステル塩を有する分散剤であるDisperBYK-145(ビッグケミー製)13.7g(分散剤含有量4g)、及びエタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、ホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1310.7gを得た。(以下「塗料A」と称する)
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有量は20gであり、酸化第一銅の平均粒子径は21nmであった。ヒドラジン量は3000質量ppmであった。
調製した上記塗料Aに、有機溶媒分散コロイダルシリカIPA-STを加えて混合し、銅酸化物粒子として酸化第一銅粒子を含む塗料(コロイダルシリカ固形分は6質量%、以下「塗料B」と称する)を得た。
塗料Bの固形分100質量%中の銅酸化物粒子の含有量が16質量%となるよう混合した。(以下「塗料C」と称する)
調製した上記塗料Cに、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有する疎水性有機物であるシリコーンオリゴマーX-40-2327(信越化学社製)を加え、塗料C中シリコーンオリゴマーX-40-2327が0.6質量%となるよう混合した(実施例1塗料)。
組成の詳細は表1に記載のとおりとした。
【0056】
[実施例2]
調製した上記実施例1の塗料Cに、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有する疎水性有機物であるシリコーンオリゴマーX-40-2327(信越化学社製)を加え、塗料C中、シリコーンオリゴマーX-40-2327が2質量%となるよう混合した。
組成の詳細は表1に記載のとおりとした。
【0057】
[実施例3]
調製した上記実施例1の塗料Cに、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有する疎水性有機物であるシリコーンオリゴマーX-40-2327(信越化学社製)を加え、塗料C中、シリコーンオリゴマーX-40-2327が4質量%となるよう混合した。
組成の詳細は表1に記載のとおりとした。
【0058】
[実施例4]
調製した上記実施例1の塗料Cに、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有する疎水性有機物であるシリコーンオリゴマーX-40-2327(信越化学社製)を加え、塗料C中、シリコーンオリゴマーX-40-2327が5.4質量%となるよう混合した。
組成の詳細は表1に記載のとおりとした。
【0059】
[実施例5]
調製した上記実施例1の塗料Cに、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有する疎水性有機物であるシリコーンオリゴマーX-40-2327(信越化学社製)とパーフルオロアルキル基の構造を有し、オリゴマータイプの疎水性有機物であるサーフロンS-656(AGCセイミケミカル社製)を加え、塗料C中、シリコーンオリゴマーX-40-2327が5.4質量%、サーフロンS-656が0.1質量%となるよう混合した。
組成の詳細は表1に記載のとおりとした。
【0060】
[実施例6]
調製した上記実施例1の塗料Cに、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有する疎水性有機物であるシリコーンオリゴマーX-40-2327(信越化学社製)とパーフルオロアルキル基の構造を有し、オリゴマータイプの疎水性有機物であるサーフロンS-656(AGCセイミケミカル社製)を加え、塗料C中、シリコーンオリゴマーX-40-2327が5.4質量%、サーフロンS-656が0.27質量%となるよう混合した。
組成の詳細は表1に記載のとおりとした。
【0061】
[実施例7]
調製した上記実施例1の塗料Cに、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有する疎水性有機物であるシリコーンオリゴマーX-40-2327(信越化学社製)とパーフルオロアルキル基の構造を有し、オリゴマータイプの疎水性有機物であるサーフロンS-656(AGCセイミケミカル社製)を加え、塗料C中、シリコーンオリゴマーX-40-2327が5.4質量%、サーフロンS-656が0.54質量%となるよう混合した。
組成の詳細は表1に記載のとおりとした。
【0062】
[実施例8]
調製した上記実施例1の塗料Cに、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有する疎水性有機物であるシリコーンオリゴマーX-40-2327(信越化学社製)とパーフルオロアルキル基の構造を有し、オリゴマータイプの疎水性有機物であるサーフロンS-656(AGCセイミケミカル社製)を加え、塗料C中、シリコーンオリゴマーX-40-2327が5.4質量%、サーフロンS-656が1.2質量%となるよう混合した。
組成の詳細は表1に記載のとおりとした。
【0063】
[実施例9]
調製した上記実施例1の塗料Cに、3次元網目構造のシロキサン骨格を有し、反応性基としてアルコキシ基を、非反応性基としてメチル基を有する疎水性有機物であるシリコーンオリゴマーX-40-2327(信越化学社製)とパーフルオロアルキル基の構造を有し、オリゴマータイプの疎水性有機物であるサーフロンS-656(AGCセイミケミカル社製)を加え、塗料C中、シリコーンオリゴマーX-40-2327が5.4質量%、サーフロンS-656が2.4質量%となるよう混合した。
組成の詳細は表1に記載のとおりとした。
【0064】
[比較例2]
上記塗料Cに、パーフルオロアルキル基の構造を有し、オリゴマータイプの疎水性有機物であるサーフロンS-656(AGCセイミケミカル社製)を加え、塗料Cの中、サーフロンS-656が10質量%となるよう混合した。
組成の詳細は表1に記載のとおりとした。
【0065】
以下、実施例及び比較例の塗料のサンプルについて、評価を行った。
【0066】
酸化第一銅粒子の種類及び含有率、並びに平均粒子径は、具体的に以下に示す方法で求めた。
【0067】
〔銅酸化物粒子の種類及び酸化第一銅粒子の含有率〕
実施例及び比較例で得られた沈殿物に含まれる銅酸化物粒子の種類は、X線回折(XRD)法で、その含有率は、蒸発乾固法で特定した。
銅酸化物の種類は、沈殿物をX線回折法で測定し、そのプロファイルが酸化第一銅と一致することを確認した。また酸化第一銅の含有率は、蒸発乾固法を用い沈殿物を真空乾燥装置にて乾燥させ、乾燥前質量と乾燥後質量を測定し残留物を酸化第一銅として求めた。
残留物は、前述のX線回折法の結果より、酸化第一銅であることは明らかであった。
〔X線回折法測定条件〕
測定装置:(株)リガク Ultima-IV、X線源:Cu-Kα
励起電圧:電圧40kV、電流40mA、光学系;集中光学系
Cu-Kβ線フィルター:Ni箔、アブソーバー;なし
検出器:D/tex(高感度検出器)、測定方式;θ/2θ法
スリット:DS=1°、SS=解放、RS=解放、縦スリット=5mm、
2θスキャン:2θ=10~65°(0.02°/ステップ、2°/分)
〔蒸発乾固法条件〕
乾燥方式:真空乾燥
真空乾燥温度:160℃
真空乾燥時間:6時間
【0068】
〔酸化第一銅粒子の平均粒子径〕
酸化第一銅粒子の平均粒子径は、測定方法として動的光散乱法を、測定した信号を解析して自己相関関数を求める方法として光子相関法をそれぞれ使用する大塚電子株式会社製FPAR-1000を用い、求めた自己相関関数の解析をキュムラント法で行うことによって、測定した。平均粒子径の測定用の溶媒としては、エタノールを用いた。
【0069】
〔ヒドラジン定量方法〕
標準添加法によりヒドラジンの定量を行った。
【0070】
サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン33μg、サロゲート物質(ヒドラジン15 N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mLを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0071】
同じく、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン66μg、サロゲート物質(ヒドラジン15 N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mLを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0072】
同じく、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン133μg、サロゲート物質(ヒドラジン15 N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mLを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0073】
最後に、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジンを加えず、サロゲート物質(ヒドラジン15 N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mLを加え、最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0074】
上記4点のGC/MS測定からm/z=207のクロマトグラムラムよりヒドラジンのピーク面積値を得た。次にm/z=209のマスクロマトグラムよりサロゲートのピーク面積値を得た。x軸に、添加したヒドラジンの質量/添加したサロゲート物質の質量、y軸に、ヒドラジンのピーク面積値/サロゲート物質のピーク面積値をとり、標準添加法による検量線を得た。
【0075】
検量線から得られたy切片の値を、添加したヒドラジンの質量/添加したサロゲート物質の質量で除して、ヒドラジンの質量を得た。
【0076】
以下、実施例及び比較例の塗料のサンプルについて、物性評価を行った。
【0077】
上記実施例及び比較例の各塗料を用いて、サンプルを作製し、下記試験を行って、抗カビ性の性能を評価した。サンプルの作製、水接触角の測定、抗カビ性試験、試験結果について、以下で説明する。
【0078】
〔サンプルの作製〕
前記の実施例及び比較例の評価用基板素材として、ABS樹脂サンプルプレート(アズワン社製樹脂サンプルプレート ABS・ナチュラル□50×1mm ABSN-□50-1)をエタノール76%、水24%の溶液に室温にて10分程度浸漬し、殺菌処理を行いその後乾燥させたものを用いた。実施例及び比較例においては各々の塗料をバーコーター#8を用いて塗工し、室温にて乾燥するまで放置し、さらに60℃に設定した乾燥機内で1時間乾燥させた。
【0079】
〔水接触角測定〕
水接触角測定は、測定温度を23℃とし、液適法で測定した。具体的には、接触角計(使用機器:協和界面科学株式会社製 全自動接触角計DM700)を用い、以下の測定条件で測定した。
注射針:星盛堂医療器工業K.K社製 22G
超純水:関東化学社製、規格Ultrapur
液安定時間:1000ms
手法:液適法m針先から固体表面上に着液した液滴の接触角を解析した。
接触角の導出方法は、θ/2法で行った。固体表面に着液した水は、自らの持つ表面張力で丸くなり、級の一部を形成する。このときの形状をCCDカメラ画像として取り込み、画像処理により液滴の左右端点と頂点を見つけ、液滴画像の半径(r)と高さ(h)を求めた。求めた値を下式へ代入して接触角θを求めた。
θ=2arctan(h/r)
【0080】
〔160h流水試験目視試験〕
水に対する密着性評価のために、サンプルを30cm角のバットの中に入れ、その上から160時間水道水を適量流水した。その後サンプルを引き上げ、以下評価した。
◎:目視で90%以上の面積で流水試験前と同じく密着しており、かつ色調の変化もみられなかった
〇:目視で90%以上の面積で流水試験前と同じく密着していた。
△:目視で50%以上90%未満の面積で流水試験前と同じく密着していた。
×:目視で50%未満の面積で流水試験前と同じく密着していた。
【0081】
〔抗カビ性試験方法〕
抗カビ性試験はJIS Z 2911:2010「カビ抵抗性試験方法」の「6,一般工業製品の試験」を改変し、表面にグルコース添加無機塩培地0.25mLを塗布し、続いて胞子懸濁液を接種した。
・グルコース添加無機塩培地(JIS Z 2911:2010 付属書A「プラスチック製品の試験」準拠
硝酸ナトリウム 2.0g
リン酸二水素カリウム 0.7g
リン酸水素二カリウム 0.3g
塩化カリウム 0.5g
硫酸マグネシウム七水和物 0.5g
硫酸鉄(II)七水和物 0.01g
グルコース 30g
精製水 30g
115℃、30分オートクレーブ滅菌
pH6.0~6.5に調整
かび種はCladosporium clados porioides(クラドスポリウム クラドスポリオイデス)(NBRC 6348菌株、独立行政法人製品評価技術基盤機構より入手)を用いた。上記で調製した実施例及び比較例のサンプルフィルタを試験片とした。試験片のサイズは30mm角とした。
抗カビ性の評価は、4週間培養した試験片の表面に生じた菌糸の発育状態を肉眼で調べた。試験結果の表示方法は下記の通りである。
(抗カビ性の評価基準)
0:試料又は試験片の接種した部分に菌糸の発育が認められない。
1:試料又は試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は全面積の1/3を超えない。
2:試料又は試験片の接種した部分に認められる菌糸の発育部分の面積は全面積の1/3を超える。
【0082】
<4.試験結果>
下記表1に試験結果を示す。
【0083】
【0084】
表1から分かるように、各実施例の塗料による部材は、比較例1の基板単体と比較して、顕著な抗菌性能及び抗カビ性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る抗菌抗カビ用塗料は、経時変化に対する分散安定性に優れ、低コストな塗料として提供することができる。また、家や自動車、又はエアコン等の家電製品の抗菌抗カビ用部材、例えば、フィルター等への抗菌抗カビ性の付与に好適に使用できる。
本発明に係る抗菌抗カビ用部材は、優れた抗菌抗カビ性を、基材の全表面又は所望の表面部分にのみ、所望のパターンで付与して、本発明に係る抗菌抗カビ用部材を提供することができる。