IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ HOYA株式会社の特許一覧

特許7106492マスクブランク、位相シフトマスクおよび半導体デバイスの製造方法
<>
  • 特許-マスクブランク、位相シフトマスクおよび半導体デバイスの製造方法 図1
  • 特許-マスクブランク、位相シフトマスクおよび半導体デバイスの製造方法 図2
  • 特許-マスクブランク、位相シフトマスクおよび半導体デバイスの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】マスクブランク、位相シフトマスクおよび半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20220719BHJP
   G03F 1/58 20120101ALI20220719BHJP
   G03F 1/80 20120101ALI20220719BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F1/58
G03F1/80
G03F7/20 501
G03F7/20 521
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2019085474
(22)【出願日】2019-04-26
(62)【分割の表示】P 2019505273の分割
【原出願日】2018-11-20
(65)【公開番号】P2019144587
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2017225528
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】野澤 順
(72)【発明者】
【氏名】堀込 康隆
(72)【発明者】
【氏名】前田 仁
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-095787(JP,A)
【文献】特開2014-194531(JP,A)
【文献】特開2017-151480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に、位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を15%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上200度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から第1層、第2層、第3層および第4層の順に積層した構造を含み、
前記第1層は、前記透光性基板の表面に接して設けられ、
前記第1層、前記第2層、前記第3層および前記第4層の前記露光光の波長における屈折率をそれぞれn、n、n、nとしたとき、n<n<nおよびn>n>nの関係を満たし、
前記第1層、前記第2層、前記第3層および前記第4層の前記露光光の波長における消衰係数をそれぞれk、k、k、kとしたとき、k>k>k>kの関係を満たす
ことを特徴とするマスクブランク。
【請求項2】
前記第1層は、前記屈折率nが2.0未満であり、前記消衰係数kが1.0以上であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記第1層は、厚さが10nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記第2層は、前記屈折率nが2.3以上であり、かつ前記消衰係数kが0.5以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記第3層は、前記屈折率nが2.3未満であり、かつ前記消衰係数kが0.15以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項6】
前記第4層は、前記屈折率nが1.5以上であり、かつ前記消衰係数kが0.1以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項7】
前記位相シフト膜は、非金属元素とケイ素を含有する材料で形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項8】
前記位相シフト膜は、非金属元素とケイ素とからなる材料、または、半金属元素と非金属元素とケイ素とからなる材料で形成されていることを特徴とする請求項7記載のマスクブランク。
【請求項9】
前記第1層、前記第2層および前記第3層は、いずれも窒素を含有する材料で形成されていることを特徴とする請求項7または8に記載のマスクブランク。
【請求項10】
前記第3層は、酸素を含有する材料で形成されていることを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項11】
前記第4層は、ケイ素と酸素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と酸素とからなる材料で形成されていることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項12】
前記位相シフト膜上に、遮光膜を備えることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項13】
透光性基板上に、転写パターンを有する位相シフト膜を備えた位相シフトマスクであって、
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を15%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上200度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から第1層、第2層、第3層および第4層の順に積層した構造を含み、
前記第1層は、前記透光性基板の表面に接して設けられ、
前記第1層、前記第2層、前記第3層および前記第4層の前記露光光の波長における屈折率をそれぞれn、n、n、nとしたとき、n<n<nおよびn>n>nの関係を満たし、
前記第1層、前記第2層、前記第3層および前記第4層の前記露光光の波長における消衰係数をそれぞれk、k、k、kとしたとき、k>k>k>kの関係を満たす
ことを特徴とする位相シフトマスク。
【請求項14】
前記第1層は、前記屈折率nが2.0未満であり、前記消衰係数kが1.0以上であることを特徴とする請求項13記載の位相シフトマスク。
【請求項15】
前記第1層は、厚さが10nm以下であることを特徴とする請求項13または14に記載の位相シフトマスク。
【請求項16】
前記第2層は、前記屈折率nが2.3以上であり、かつ前記消衰係数kが0.5以下であることを特徴とする請求項13から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項17】
前記第3層は、前記屈折率nが2.3未満であり、かつ前記消衰係数kが0.15以下であることを特徴とする請求項13から16のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項18】
前記第4層は、前記屈折率nが1.5以上であり、かつ前記消衰係数kが0.1以下であることを特徴とする請求項13から17のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項19】
前記位相シフト膜は、非金属元素とケイ素を含有する材料で形成されていることを特徴とする請求項13から18のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項20】
前記位相シフト膜は、非金属元素とケイ素とからなる材料、または、半金属元素と非金属元素とケイ素とからなる材料で形成されていることを特徴とする請求項19記載の位相シフトマスク。
【請求項21】
前記第1層、前記第2層および前記第3層は、いずれも窒素を含有する材料で形成されていることを特徴とする請求項19または20に記載の位相シフトマスク。
【請求項22】
前記第3層は、酸素を含有する材料で形成されていることを特徴とする請求項19から21のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項23】
前記第4層は、ケイ素と酸素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と酸素とからなる材料で形成されていることを特徴とする請求項19から22のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項24】
前記位相シフト膜上に、遮光帯を含むパターンを有する遮光膜を備えることを特徴とする請求項13から23のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項25】
請求項24記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランクおよびそのマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクに関するものである。また、本発明は、上記の位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスの製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスクと呼ばれている基板が使用される。半導体デバイスのパターンを微細化するに当たっては、転写用マスクに形成されるマスクパターンの微細化に加え、フォトリソグラフィーで使用される露光光源の波長の短波長化が必要となる。半導体装置製造の際の露光光源としては、近年ではKrFエキシマレーザー(波長248nm)から、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化が進んでいる。
【0003】
転写用マスクの種類としては、従来の透光性基板上にクロム系材料からなる遮光パターンを備えたバイナリマスクの他に、ハーフトーン型位相シフトマスクが知られている。ハーフトーン型位相シフトマスクの位相シフト膜には、モリブデンシリサイド(MoSi)系の材料が広く用いられる。
【0004】
近年、位相シフト膜にArF耐光性が高い材料であるSiNやSiONのようなSi系材料を適用することが検討されている。Si系材料はMoSi系材料に比べて遮光性能が低い傾向があり、従来広く用いられている透過率が10%未満の位相シフト膜には比較的適用しにくかった。その反面、Si系材料は透過率が10%以上の比較的高い透過率の位相シフト膜には適用しやすい(特許文献1)。
一方、ハーフトーン型位相シフトマスクにおいて、その位相シフトマスクを露光装置にセットし、ArF露光光を照射したときに、位相シフト膜のパターンの位置ずれが発生することが問題となっていた。位相シフト膜のパターンの内部で吸収されたArF露光光が熱エネルギーに変わり、その熱が透光性基板に伝達して熱膨張が起こることに起因するものである(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-111246公報
【文献】特開2015-152924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハーフトーン型位相シフトマスク(以下、単に位相シフトマスクという。)の位相シフト膜は、露光光を所定の透過率で透過させる機能と、その位相シフト膜内を透過する露光光に対してその位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過する露光光との間で所定の位相差を生じさせる機能を併せ持つ必要がある。昨今、半導体デバイスの微細化がさらに進み、マルチプルパターニング技術等の露光技術の適用も始まっている。1つの半導体デバイスを製造するのに用いられる転写用マスクセットの各転写用マスク同士における重ね合わせ精度に対する要求がより厳しくなってきている。このため、位相シフトマスクの場合においても、位相シフト膜のパターン(位相シフトパターン)の熱膨張を抑制し、これに起因する位相シフトパターンの移動を抑制することに対する要求が高まってきている。
【0007】
特許文献2では、フォトマスクが露光装置にセットされて透光性基板側から露光光の照射を受けたときの薄膜パターンの裏面反射率(透光性基板側の反射率)を従来よりも高くしている。裏面反射率を従来よりも高くすることによって、露光光の光エネルギーを薄膜が吸収して変換される熱を低減し、透光性基板の熱膨張に伴う薄膜パターンの位置ずれの発生を抑制しようとしている。そして、バイナリマスク製造用のマスクブランクとして、透光性基板上に高反射物質層と光遮断層がこの順に積層した構造を提案している。また、位相シフトマスク製造用のマスクブランクとして、透光性基板上に高反射物質層と位相反転層がこの順に積層した構造を提案している。
【0008】
バイナリマスク製造用のマスクブランクの場合、高反射物質層と光遮断層の積層構造が所定の遮光性能を有することが求められる。これは困難なことではない。一方、位相シフトマスク製造用のマスクブランクの場合、高反射物質層と位相反転層の積層構造が、露光光に対する所定の透過率で透過する機能を有することに加え、透過する露光光に対してこの積層構造と同じ厚さの距離だけ空気中を通過した露光光との間で所定の位相差を生じさせる機能を有することが求められる。高反射物質層だけで所定の裏面反射率を確保する設計思想の位相シフト膜では、実現可能なバリエーションが限られる。特に、透過率が比較的高い(例えば、15%以上)位相シフト膜を高反射物質層に頼った設計思想で検討した場合、高反射物質層と位相反転層の積層構造で所定の透過率と所定の位相差になるようにすると、裏面反射率が低下することが避けがたく、位相シフトパターンの位置ずれを抑制することが困難になる。
【0009】
そこで、本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクにおいて、ArF露光光に対して所定の透過率で透過する機能とその透過するArF露光光に対して所定の位相差を生じさせる機能を兼ね備え、位相シフト膜のパターン(位相シフトパターン)の熱膨張を抑制し、これに起因する位相シフトパターンの移動を抑制することのできる位相シフト膜を備えるマスクブランクを提供することを目的としている。また、このマスクブランクを用いて製造される位相シフトマスクを提供することを目的としている。そして、本発明は、このような位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透光性基板上に、位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を15%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上200度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、非金属元素とケイ素を含有する材料で形成され、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から第1層、第2層および第3層の順に積層した構造を含み、
前記第1層は、前記透光性基板の表面に接して設けられ、
前記第1層、第2層および第3層の前記露光光の波長における屈折率をそれぞれn、n、nとしたとき、n<nおよびn>nの関係を満たし、
前記第1層、第2層および第3層の前記露光光の波長における消衰係数をそれぞれk、k、kとしたとき、k>k>kの関係を満たす
ことを特徴とするマスクブランク。
【0011】
(構成2)
前記第1層は、前記屈折率nが2.0未満であり、前記消衰係数kが1.0以上であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
(構成3)
前記第1層は、厚さが10nm以下であることを特徴とする構成1または2に記載のマスクブランク。
【0012】
(構成4)
前記第2層は、前記屈折率nが2.3以上であり、かつ前記消衰係数kが0.5以下であることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成5)
前記第3層は、前記屈折率nが2.3未満であり、かつ前記消衰係数kが0.15以下であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【0013】
(構成6)
前記位相シフト膜は、非金属元素とケイ素とからなる材料、または、半金属元素と非金属元素とケイ素とからなる材料で形成されていることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成7)
前記第1層、第2層および第3層は、いずれも窒素を含有する材料で形成されていることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【0014】
(構成8)
前記第3層は、酸素を含有する材料で形成されていることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成9)
前記位相シフト膜は、前記第3層の上に第4層を備え、
前記第4層の前記露光光の波長における屈折率をnとしたとき、n<nおよびn<nの関係を満たし、
前記第4層の前記露光光の波長における消衰係数をkとしたとき、k>kおよびk<kの関係を満たす
ことを特徴とする構成1から8のいずれかに記載のマスクブランク。
【0015】
(構成10)
前記第4層は、前記屈折率nが2.3以上であり、かつ前記消衰係数kが0.5以下であることを特徴とする構成9記載のマスクブランク。
(構成11)
前記第4層は、窒素を含有する材料で形成されていることを特徴とする構成9または10に記載のマスクブランク。
【0016】
(構成12)
前記位相シフト膜上に、遮光膜を備えることを特徴とする構成1から11のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成13)
透光性基板上に、転写パターンを有する位相シフト膜を備えた位相シフトマスクであって、
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を15%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上200度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、非金属元素とケイ素を含有する材料で形成され、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から第1層、第2層および第3層の順に積層した構造を含み、
前記第1層は、前記透光性基板の表面に接して設けられ、
前記第1層、第2層および第3層の前記露光光の波長における屈折率をそれぞれn、n、nとしたとき、n<nおよびn>nの関係を満たし、
前記第1層、第2層および第3層の前記露光光の波長における消衰係数をそれぞれk、k、kとしたとき、k>k>kの関係を満たす
ことを特徴とする位相シフトマスク。
【0017】
(構成14)
前記第1層は、前記屈折率nが2.0未満であり、前記消衰係数kが1.0以上であることを特徴とする構成13記載の位相シフトマスク。
(構成15)
前記第1層は、厚さが10nm以下であることを特徴とする構成13または14に記載の位相シフトマスク。
【0018】
(構成16)
前記第2層は、前記屈折率nが2.3以上であり、かつ前記消衰係数kが0.5以下であることを特徴とする構成13から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成17)
前記第3層は、前記屈折率nが2.3未満であり、かつ前記消衰係数kが0.15以下であることを特徴とする構成13から16のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0019】
(構成18)
前記位相シフト膜は、非金属元素とケイ素とからなる材料、または、半金属元素と非金属元素とケイ素とからなる材料で形成されていることを特徴とする構成13から17のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成19)
前記第1層、第2層および第3層は、いずれも窒素を含有する材料で形成されていることを特徴とする構成13から18のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成20)
前記第3層は、酸素を含有する材料で形成されていることを特徴とする構成13から19のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0020】
(構成21)
前記位相シフト膜は、前記第3層の上に第4層を備え、
前記第4層の前記露光光の波長における屈折率をnとしたとき、n<nおよびn<nの関係を満たし、
前記第4層の前記露光光の波長における消衰係数をkとしたとき、k>kおよびk<kの関係を満たす
ことを特徴とする構成13から20のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成22)
前記第4層は、前記屈折率nが2.3以上であり、かつ前記消衰係数kが0.5以下であることを特徴とする構成21記載の位相シフトマスク。
【0021】
(構成23)
前記第4層は、窒素を含有する材料で形成されていることを特徴とする構成21または22に記載の位相シフトマスク。
(構成24)
前記位相シフト膜上に、遮光帯を含むパターンを有する遮光膜を備えることを特徴とする構成13から23のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0022】
(構成25)
構成12記載のマスクブランクを用いた位相シフトマスクの製造方法であって、
ドライエッチングにより前記遮光膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンを有する遮光膜をマスクとするドライエッチングにより前記位相シフト膜に転写パターンを形成する工程と、
遮光帯を含むパターンを有するレジスト膜をマスクとするドライエッチングにより前記遮光膜に遮光帯を含むパターンを形成する工程と
を備えることを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
(構成26)
構成24記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
(構成27)
構成25記載の位相シフトマスクの製造方法により製造された位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のマスクブランクは、透光性基板上に位相シフト膜を備えており、その位相シフト膜は、ArF露光光に対して所定の透過率で透過する機能とその透過するArF露光光に対して所定の位相差を生じさせる機能を兼ね備え、位相シフト膜のパターン(位相シフトパターン)の熱膨張を抑制し、これに起因する位相シフトパターンの移動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態におけるマスクブランクの構成を示す断面図である。
図2】本発明の第2および第3の実施形態におけるマスクブランクの構成を示す断面図である。
図3】本発明の第1乃至第3の実施形態における位相シフトマスクの製造工程を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本願発明者らは、位相シフト膜において、ArF露光光を所定の透過率で透過する機能と所定の位相差を生じさせる機能を兼ね備えつつ、熱膨張に伴うパターンの位置ずれを抑制できる手段について、鋭意研究を行った。
熱膨張に伴うパターンの位置ずれを抑制するためには、位相シフト膜の内部でArF露光光が熱エネルギーに変換されることを抑制することが必要となる。本願発明者は、位相シフト膜の温度上昇が位相シフト膜の内部で吸収されるArF露光光の比率(ArF露光光の吸収率Abs)の2乗にほぼ比例するとの知見を得た。そして、この知見に基づき、ArF露光光の吸収率Absを55%以下にまで下げることが、上述した位相シフト膜の内部での熱エネルギーへの変換を許容範囲内に抑制するために重要であることを見出した。ArF露光光の吸収率Absと、透過率Tと、裏面反射率BARとの間には、「Abs[%]=100[%]-(透過率T[%]+裏面反射率BAR[%])」の関係が成り立つ。このため、所定の透過率Tと、55%以下の吸収率Absを満たすためには、裏面反射率BARをある程度高くすることが重要となる。
【0026】
透光性基板上に設けられた位相シフト膜の裏面反射率を高めるには、位相シフト膜の少なくとも透光性基板に接する層を露光波長における消衰係数kが高い材料で形成することが必要となる。単層構造の位相シフト膜は、その求められる光学特性と膜厚を満たす必要性から、屈折率nが大きく、かつ消衰係数kが小さい材料で形成されることが一般的である。ここで、位相シフト膜を形成する材料の組成を調整して消衰係数kを大幅に高くすることで位相シフト膜の裏面反射率を高めることを考える。この調整を行うと、その位相シフト膜は所定範囲の透過率の条件を満たせなくなるため、この位相シフト膜の厚さを大幅に薄くする必要が生じる。しかし、今度は位相シフト膜の厚さを薄くしたことによって、その位相シフト膜は所定範囲の位相差の条件を満たせなくなってしまう。位相シフト膜を形成する材料の屈折率nを大きくすることには限界があるため、単層構造の位相シフト膜で裏面反射率を高くすることは難しい。透過率Tが15%以上の比較的高い透過率の位相シフト膜の場合、単層構造の位相シフト膜で裏面反射率を高くすることは特に難しい。
【0027】
一方、2層構造の位相シフト膜の場合、所定範囲の透過率と所定範囲の位相差の条件を満たしつつ、裏面反射率を高くするように調整することは可能ではあるが、設計自由度はあまり高くはない。特に、位相シフト効果が十分得られるだけの所定の位相差(150度以上200度以下)と透過率15%以上の光学特性を有する位相シフト膜を2層構造で実現する場合、裏面反射率を高くすることが難しく、吸収率Absを55%以下にすることが困難である。そこで、ケイ素系材料(非金属元素とケイ素を含有する材料)からなり、3層以上の積層構造を備える位相シフト膜とした場合に、上記の条件を同時に満たすことを実現できないか、鋭意研究を行った。このような3層以上の積層構造を備える位相シフト膜の場合、所定範囲の透過率と所定範囲の位相差の条件を満たしつつ、裏面反射率を高くするように調整することが可能であるだけでなく、設計自由度も高い。
【0028】
その結果、基板に接する層を第1層とし、第1層の上に第2層と第3層が順に積層した構成を含む位相シフト膜とした場合、その3層のそれぞれの屈折率nと消衰係数kが特定の関係を満たすようにすれば、上記の条件を同時に満たすことができることを見出した。具体的には、第1層、第2層および第3層のArF露光光の波長における各屈折率をそれぞれn、n、nとしたとき、n<nとn>nの2つの関係を満たし、さらに第1層、第2層および第3層のArF露光光の波長における各消衰係数をそれぞれk、k、kとしたとき、k>k>kの関係を満たすような、第1層、第2層及び第3層を備える位相シフト膜とすることによって、所定の位相差(150度以上200度以下)、15%以上の透過率、55%以下の吸収率Absの3つの条件を同時に満たす位相シフト膜を実現できることを突き止めた。
【0029】
また、上記の第3層の上に第4層を備える位相シフト膜とした場合、第1層、第2層及び第3層に関する上記の条件を満たした上で、第4層のArF露光光の波長における屈折率をnとしたときにn<nおよびn<nの関係を満たし、第4層のArF露光光の波長における消衰係数をkとしたときにk>kおよびk<kの関係を満たすような、第1層、第2層、第3層及び第4層を備える位相シフト膜とすることによって、所定の位相差(150度以上200度以下)、15%以上の透過率、55%以下の吸収率Absの3つの条件を同時に満たす位相シフト膜が実現できることを突き止めた。
【0030】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。図1に示す本発明のマスクブランク100は、透光性基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4がこの順に積層された構造を有する。
【0031】
透光性基板1は、合成石英ガラスのほか、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO-TiOガラス等)などで形成することができる。これらの中でも、合成石英ガラスは、ArFエキシマレーザー光に対する透過率が高く、マスクブランクの透光性基板1を形成する材料として特に好ましい。透光性基板1を形成する材料のArF露光光の波長(約193nm)における屈折率nは、1.5以上1.6以下であることが好ましく、1.52以上1.59以下であるとより好ましく、1.54以上1.58以下であるとさらに好ましい。
【0032】
位相シフト膜2は、ArF露光光に対する透過率が15%以上であることが好ましい。この第1の実施形態の位相シフト膜は、設計自由度が高いため、透過率が15%以上である場合でも、所定範囲の位相差の条件を満たしつつ、裏面反射率を高くするように調整することができる。位相シフト膜2の露光光に対する透過率は、16%以上であると好ましく、17%以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2の露光光に対する透過率が高くなるにつれて、裏面反射率を高めることが難しくなる。このため、位相シフト膜2の露光光に対する透過率は、40%以下であると好ましく、35%以下であるとより好ましい。
【0033】
位相シフト膜2は、適切な位相シフト効果を得るために、透過するArF露光光に対し、この位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した光との間で生じる位相差が150度以上200度以下の範囲になるように調整されていることが求められる。位相シフト膜2における前記位相差は、155度以上であることが好ましく、160度以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2における前記位相差は、195度以下であることが好ましく、190度以下であるとより好ましい。
【0034】
位相シフト膜2は、位相シフト膜2の内部に入射したArF露光光が熱に変換される比率を低減する観点から、透光性基板1上に位相シフト膜2のみが存在する状態において、ArF露光光に対する透光性基板1側(裏面側)の反射率(裏面反射率)が少なくとも25%以上であることが求められる。透光性基板1上に位相シフト膜2のみが存在する状態とは、このマスクブランク100から位相シフトマスク200(図3(g)参照)を製造した時に、位相シフトパターン2aの上に遮光パターン3bが積層していない状態(遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域)のことをいう。他方、位相シフト膜2のみが存在する状態での裏面反射率が高すぎると、このマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200を用いて転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写を行ったときに、位相シフト膜2の裏面側の反射光によって露光転写像に与える影響が大きくなるため、好ましくない。この観点から、位相シフト膜2のArF露光光に対する裏面反射率は、45%以下であることが好ましい。
【0035】
本実施形態における位相シフト膜2は、透光性基板1側から、第1層21、第2層22、第3層23が積層した構造を有する。位相シフト膜2の全体で、上記の透過率、位相差、裏面反射率の各条件を少なくとも満たす必要がある。本実施形態における位相シフト膜2は、上記の条件を満たすために、第1層21、第2層22および第3層23のArF露光光の波長における屈折率をそれぞれn、n、nとしたとき、n<nおよびn>nの関係を満たし、第1層21、第2層22および第3層23のArF露光光の波長における消衰係数をそれぞれk、k、kとしたとき、k>k>kの関係を満たすように構成されている。なお、位相シフト膜2は、n<n<nの関係を満たす構成であるとより好ましい。
【0036】
第1層21の屈折率nは、2.0未満であることが好ましく、1.95以下であるとより好ましい。第1層21の屈折率nは、0.95以上であることが好ましく、1.0以上であるとより好ましい。第1層21の消衰係数kは、1.0以上であると好ましく、1.2以上であるとより好ましい。また、第1層21の消衰係数kは、3.0以下であると好ましく、2.8以下であるとより好ましい。なお、第1層21の屈折率nおよび消衰係数kは、第1層21の全体を光学的に均一な1つの層とみなして導出された数値である。
【0037】
また、第2層22の屈折率nは、2.3以上であることが好ましく、2.4以上であると好ましい。また、第2層22の屈折率nは、3.0以下であると好ましく、2.8以下であるとより好ましい。第2層22の消衰係数kは、0.5以下であると好ましく、0.4以下であるとより好ましい。また、第2層22の消衰係数kは、0.16以上であると好ましく、0.2以上であるとより好ましい。なお、第2層22の屈折率nおよび消衰係数kは、第2層22の全体を光学的に均一な1つの層とみなして導出された数値である。
【0038】
また、第3層23の屈折率nは、2.3未満であることが好ましく、2.2以下であるとより好ましい。また、第3層23の屈折率nは、1.8以上であることが好ましく、2.0以上であると好ましい。第3層23の消衰係数kは、0.15以下であると好ましく、0.14以下であるとより好ましい。また、第3層23の消衰係数kは、0.00以上であると好ましく、0.02以上であるとより好ましい。なお、第3層23の屈折率nおよび消衰係数kは、第3層23の全体を光学的に均一な1つの層とみなして導出された数値である。
【0039】
位相シフト膜2を含む薄膜の屈折率nと消衰係数kは、その薄膜の組成だけで決まるものではない。その薄膜の膜密度や結晶状態なども屈折率nや消衰係数kを左右する要素である。このため、反応性スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kとなるように成膜する。第1層21、第2層22、第3層23を、上記の屈折率nと消衰係数kの範囲にするには、反応性スパッタリングで成膜する際に、希ガスと反応性ガス(酸素ガス、窒素ガス等)の混合ガスの比率を調整することだけに限られない。反応性スパッタリングで成膜する際における成膜室内の圧力、スパッタリングターゲットに印加する電力、ターゲットと透光性基板1との間の距離等の位置関係など多岐にわたる。これらの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、形成される第1層21、第2層22、第3層23が所望の屈折率nおよび消衰係数kになるように適宜調整されるものである。
【0040】
位相シフト膜2(第1層21、第2層22および第3層23)は、非金属元素とケイ素を含有する材料で形成される。ケイ素と遷移金属を含有する材料で形成された薄膜は、消衰係数kが高くなる傾向がある。位相シフト膜2の全体膜厚を薄くするために、非金属元素とケイ素と遷移金属を含有する材料で位相シフト膜2を形成してもよい。この場合に含有させる遷移金属としては、例えば、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。一方、位相シフト膜2は、非金属元素とケイ素とからなる材料、または、半金属元素と非金属元素とケイ素とからなる材料で形成されていることが好ましい。位相シフト膜2に、ArF露光光に対する高い耐光性が求められる場合、遷移金属は含有しないことが好ましい。また、この場合、遷移金属を除く金属元素についても、ArF露光光に対する耐光性が低下する要因となり得る可能性は否定できないため、含有させないことが望ましい。
【0041】
位相シフト膜2に半金属元素を含有させる場合、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の半金属元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。
位相シフト膜2に非金属元素を含有させる場合、窒素、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の非金属元素を含有させると好ましい。この非金属元素には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の貴ガスも含まれる。また、位相シフト膜2の第1層21、第2層22および第3層23は、いずれも窒素を含有する材料で形成されていることが好ましい。一般に、窒素を含有させないで形成した薄膜よりも、その薄膜と同じ材料に窒素を加えて形成した薄膜の方が、屈折率nが大きくなる傾向がある。位相シフト膜2の第1層21、第2層22および第3層23のいずれの層の屈折率nも高い方が、位相シフト膜2に求められる所定の位相差を確保するために必要な全体膜厚を薄くすることができる。また、位相シフト膜2の第1層21、第2層22および第3層23のいずれの層にも窒素を含有させたほうが、位相シフトパターンを形成したときのパターン側壁の酸化を抑制できる。
【0042】
第1層21は、透光性基板1の表面に接して形成されている。第1層21が透光性基板1の表面と接した構成とすることで、上記の位相シフト膜2の第1層21、第2層22、第3層23の積層構造によって生じる裏面反射率を高める効果がより得られるためである。
第1層21の厚さは、位相シフト膜2に求められる所定の透過率、位相差および裏面反射率の条件を満たせる範囲で、極力薄くすることが望まれる。第1層21の厚さは10nm以下であると好ましく、8nm以下であるとより好ましく、6nm以下であるとさらに好ましい。また、特に位相シフト膜2の裏面反射率の点を考慮すると、第1層21の厚さは、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であるとより好ましい。
【0043】
第1層21は、積極的に酸素を含有させることをしないことが好ましい(酸素含有量は、X線光電子分光法等による組成分析を行ったときに3原子%以下であることが好ましく、検出下限値以下であるとより好ましい。)。第1層21を形成する材料中に酸素を含有させることによって生じる第1層21の消衰係数kの低下が他の非金属元素に比べて大きく、位相シフト膜2の裏面反射率を大きく低下させないためである。
【0044】
第1層21は、上述のように、窒素を含有する材料で形成されていることが好ましい。第1層21に窒素を含有させることで、位相シフト膜2を構成する他の層(第2層22、第3層23)との間で、位相シフト膜2をパターニングするときに行われるドライエッチングに対するエッチングレートの差を小さくできる。これにより、パターニング後の位相シフト膜2の断面形状に段差が発生することを抑制できる。第1層21を形成する材料中の窒素含有量は、5原子%以上であることが好ましく、10原子%以上であるとより好ましく、15原子%以上であるとさらに好ましい。ただし、第1層21を形成する材料中の窒素含有量が多くなるに従い、屈折率nは大きくなり、消衰係数kは小さくなる。このため、第1層21を形成する材料中の窒素含有量は、30原子%以下であることが好ましく、25原子%以下であるとより好ましく、20原子%以下であるとさらに好ましい。
【0045】
上述のように、第2層22の屈折率nは、第1層21の屈折率nよりも大きく(n<n)、第2層22の消衰係数kは、第1層21の消衰係数kよりも小さい(k>k)ことが求められる。このため、第2層22を形成する材料中の窒素含有量は、第1層21を形成する材料中の窒素含有量よりも多いことが好ましく、40原子%以上であることが好ましく、45原子%以上であるとより好ましく、50原子%以上であるとさらに好ましい。ただし、第2層22を形成する材料中の窒素含有量は、57原子%以下であることが好ましい。化学量論的に安定なSiの窒素含有量(約57原子%)よりも窒素含有量を多くすると、ドライエッチング時に第2層22に発生する熱やマスク洗浄等によって、第2層22から窒素が抜けやすく、窒素含有量が低下しやすい。
【0046】
第2層22は、第1層21と同様に、積極的に酸素を含有させることをしないことが好ましい(酸素含有量は、X線光電子分光法等による組成分析を行ったときに3原子%以下であることが好ましく、検出下限値以下であるとより好ましい。)。
第2層22は、位相シフト膜2を構成する3層の中で中間の消衰係数kを有しており、この第2層22の厚さが厚くなりすぎると、位相シフト膜2の全体で所定の透過率にするために、第1層の厚さを薄くしなければならなくなり、位相シフト膜2の裏面反射率が低下する恐れがある。この点で、第2層22の厚さは、50nm以下であると好ましく、48nm以下であるとより好ましく、46nm以下であるとさらに好ましい。また、第2層22は、位相シフト膜2を構成する各層の中で最も屈折率nが高く、位相シフト膜2の裏面反射率を高めるにはある程度以上の厚さが必要である。この点で、第2層22の厚さは、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であるとより好ましい。
【0047】
第3層23は、酸素を含有する材料で形成されることが好ましい。また、第3層23は、ケイ素、窒素、および酸素からなる材料、または非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と窒素と酸素とからなる材料で形成されることがより好ましい。第3層23に窒素を含有させることで、位相シフト膜2を構成する他の層(第1層21、第2層22)との間で、位相シフト膜2をパターニングするときに行われるドライエッチングに対するエッチングレートの差を小さくできる。これにより、パターニング後の位相シフト膜2の断面形状に段差が発生することを抑制できる。第3層23は、第2層22側とは反対側の表層部分がそれ以外の部分よりも酸素含有量が多くなっている。成膜装置で透光性基板1上に位相シフト膜2を成膜し終えた後、膜表面の洗浄処理が行われる。この第3層23の表層部分は、洗浄処理時に洗浄液やリンス液に晒されるため、成膜時の組成に関わらず酸化が進むことが避け難い。また、位相シフト膜2が大気中に晒されることや大気中で加熱処理を行ったことによっても第3層23の表層部分の酸化が進む。
【0048】
上記のとおり、第3層23の屈折率nは、第2層22の屈折率nよりも小さく(n>n)、第3層23の消衰係数kは、第2層22の消衰係数kよりも小さい(k>k)ことが求められる。材料中の酸素含有量が増加するに従って屈折率nは低下する傾向があり、また、消衰係数kの低下度合いも窒素に比して大きくなる傾向がある。このため、第3層23を形成する材料は、酸素を含有する材料で形成されていることが好ましい。第3層23の形成する材料の酸素含有量は、20原子%以上であると好ましく、25原子%以上であるとより好ましく、30原子%以上であるとさらに好ましい。一方、第3層23中の酸素含有量が多くなるにつれて、位相シフト膜2の全体におけるArF露光光に対する所定の透過率と位相差を確保するために必要となる位相シフト膜2の全体での厚さが厚くなっていく。これらの点を考慮すると、第3層23を形成する材料の酸素含有量は、60原子%以下であると好ましく、55原子%以下であるとより好ましく、50原子%以下であるとさらに好ましい。
【0049】
また、第3層23を形成する材料中の窒素含有量は、第2層22を形成する材料中の窒素含有量よりも少ないことが好ましい。このため、第3層23を形成する材料中の窒素含有量は、5原子%以上であることが好ましく、10原子%以上であるとより好ましい。また、第3層23を形成する材料中の窒素含有量は、40原子%以下であることが好ましく、35原子%以下であるとより好ましく、30原子%以下であるとさらに好ましい。
【0050】
第3層23は、位相シフト膜2を構成する3層の中で最も小さい消衰係数kを有しており、さらに第2層22よりも屈折率nも小さい。第3層23の厚さが厚くなりすぎると、位相シフト膜2の全体の厚さが厚くなってしまう。この点で、第3層23の厚さは、30nm以下であると好ましく、25nm以下であるとより好ましく、20nm以下であるとさらに好ましい。また、第3層23の厚さが薄すぎると、第2層22と第3層23との界面での露光光の反射が低下し、位相シフト膜2の裏面反射率が低下する恐れがある。この点で、第3層23の厚さは、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であるとより好ましく、15nm以上であるとさらに好ましい。
【0051】
位相シフト膜2における第1層21、第2層22、及び第3層23は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。成膜レートを考慮すると、DCスパッタリングを適用することが好ましい。導電性が低いターゲットを用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用するとより好ましい。
【0052】
マスクブランク100は、位相シフト膜2上に遮光膜3を備える。一般に、バイナリ型の転写用マスクでは、転写パターンが形成される領域(転写パターン形成領域)の外周領域は、露光装置を用いて半導体ウェハ上のレジスト膜に露光転写した際に外周領域を透過した露光光による影響をレジスト膜が受けないように、所定値以上の光学濃度(OD)を確保することが求められている。この点については、位相シフトマスクの場合も同じである。通常、位相シフトマスクを含む転写用マスクの外周領域では、ODが2.8以上であると好ましく、3.0以上であるとより好ましい。位相シフト膜2は所定の透過率で露光光を透過する機能を有しており、位相シフト膜2だけでは所定値の光学濃度を確保することは困難である。このため、マスクブランク100を製造する段階で位相シフト膜2の上に、不足する光学濃度を確保するために遮光膜3を積層しておくことが必要とされる。このようなマスクブランク100の構成とすることで、位相シフトマスク200(図2参照)を製造する途上で、位相シフト効果を使用する領域(基本的に転写パターン形成領域)の遮光膜3を除去すれば、外周領域に所定値の光学濃度が確保された位相シフトマスク200を製造することができる。
【0053】
遮光膜3は、単層構造および2層以上の積層構造のいずれも適用可能である。また、単層構造の遮光膜3および2層以上の積層構造の遮光膜3の各層は、膜または層の厚さ方向でほぼ同じ組成である構成であっても、層の厚さ方向で組成傾斜した構成であってもよい。
【0054】
図1に記載の形態におけるマスクブランク100は、位相シフト膜2の上に、他の膜を介さずに遮光膜3を積層した構成としている。この構成の場合の遮光膜3は、位相シフト膜2にパターンを形成する際に用いられるエッチングガスに対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。この場合の遮光膜3は、クロムを含有する材料で形成することが好ましい。遮光膜3を形成するクロムを含有する材料としては、クロム金属のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が挙げられる。
【0055】
一般に、クロム系材料は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスでエッチングされるが、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮光膜3を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が好ましい。また、遮光膜3を形成するクロムを含有する材料にモリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させてもよい。モリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させることで、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスに対するエッチングレートをより速くすることができる。
【0056】
また、第3層23(特に表層部分)を形成する材料との間でドライエッチングに対するエッチング選択性が得られるのであれば、遮光膜3を遷移金属とケイ素を含有する材料で形成してもよい。遷移金属とケイ素を含有する材料は遮光性能が高く、遮光膜3の厚さを薄くすることが可能となるためである。遮光膜3に含有させる遷移金属としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。遮光膜3に含有させる遷移金属元素以外の金属元素としては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびガリウム(Ga)などが挙げられる。
【0057】
なお、遮光膜3を2層とした場合、位相シフト膜2側からクロムを含有する材料からなる層と遷移金属とケイ素を含有する材料からなる層がこの順に積層した構造を備えてもよい。この場合におけるクロムを含有する材料および遷移金属とケイ素を含有する材料の具体的な事項については、上記の遮光膜3の場合と同様である。
【0058】
マスクブランク100は、位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態において、ArF露光光に対する透光性基板1側(裏面側)の反射率(裏面反射率)が25%以上であることが好ましい。遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合や遮光膜3の位相シフト膜2側の層がクロムを含有する材料で形成されている場合、遮光膜3へ入射するArF露光光の光量が多いと、クロムが光励起されて位相シフト膜2側にクロムが移動する現象が発生しやすくなる。位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態におけるArF露光光に対する裏面反射率を25%以上とすることで、このクロムの移動を抑制することができる。また、遮光膜3が遷移金属とケイ素を含有する材料で形成されている場合、遮光膜3へ入射するArF露光光の光量が多いと、遷移金属が光励起されて位相シフト膜2側に遷移金属が移動する現象が発生しやすくなる。位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態におけるArF露光光に対する裏面反射率を25%以上とすることで、この遷移金属の移動を抑制することができる。
【0059】
マスクブランク100において、遮光膜3をエッチングするときに用いられるエッチングガスに対してエッチング選択性を有する材料で形成されたハードマスク膜4を遮光膜3の上にさらに積層させた構成とすると好ましい。ハードマスク膜4は、基本的に光学濃度の制限を受けないため、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。そして、有機系材料のレジスト膜は、このハードマスク膜4にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分であるので、従来よりも大幅に厚さを薄くすることができる。レジスト膜の薄膜化は、レジスト解像度の向上とパターン倒れ防止に効果があり、微細化の要求に対応していく上で極めて重要である。
【0060】
このハードマスク膜4は、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合は、ケイ素を含有する材料で形成されることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、有機系材料のレジスト膜との密着性が低い傾向があるため、ハードマスク膜4の表面をHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施し、表面の密着性を向上させることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、SiO、SiN、SiON等で形成されるとより好ましい。
【0061】
また、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合におけるハードマスク膜4の材料として、前記のほか、タンタルを含有する材料も適用可能である。この場合におけるタンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選らばれる一以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。たとえば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、TaCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCNなどが挙げられる。また、ハードマスク膜4は、遮光膜3がケイ素を含有する材料で形成されている場合、前記のクロムを含有する材料で形成されることが好ましい。
【0062】
マスクブランク100において、ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、ハードマスク膜4に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)に、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも、レジストパターンの断面アスペクト比が1:2.5と低くすることができるので、レジスト膜の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制できる。なお、レジスト膜は、膜厚が80nm以下であるとより好ましい。
【0063】
<第2の実施形態>
図2は、本発明の第2の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。図2に示すマスクブランク100は、位相シフト膜2を、第1層21、第2層22、第3層23に加えて、第4層24を積層した4層構造で構成し、第4層24の上に遮光膜3を備えている点が、図1に示すマスクブランク100と異なっている。以下、第1の実施形態のマスクブランク100と共通する点については、適宜その説明を省略する。
【0064】
本実施形態における位相シフト膜2は、第1の実施形態で述べたように、第1層21、第2層22および第3層23のArF露光光の波長におけるそれぞれの屈折率n、n、nがn<nおよびn>nの関係を満たし、第1層21、第2層22および第3層23のそれぞれの消衰係数k、k、kが、k>k>kの関係を満たすように構成されている。加えて、第1層21、第3層23および第4層24のArF露光光の波長におけるそれぞれの屈折率n、n、nが、n<nおよびn<nの関係を満たし、第1層21、第3層23および第4層24のそれぞれの消衰係数k、k、kが、k>kおよびk<kの関係を満たすように構成されている。
【0065】
また、第4層24の屈折率nは、2.3以上であることが好ましく、2.4以上であると好ましい。また、第4層24の屈折率nは、3.0以下であると好ましく、2.8以下であるとより好ましい。第4層24の消衰係数kは、0.5以下であると好ましく、0.4以下であるとより好ましい。また、第4層24の消衰係数kは、0.16以上であると好ましく、0.2以上であるとより好ましい。なお、第4層24の屈折率nおよび消衰係数kは、第4層24の全体を光学的に均一な1つの層とみなして導出された数値である。
【0066】
第4層24は、窒素を含有する材料で形成されることが好ましい。また、第4層24は、表層部分を除き、ケイ素および窒素からなる材料、または酸素を除く非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と窒素とからなる材料で形成されることがより好ましい。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。第4層24は、位相シフト膜2の最上層である。このため、第1の実施形態における第3層23の場合と同様の理由で、第4層24は、第3層23側とは反対側の表層部分がそれ以外の部分よりも酸素含有量が多くなっている。なお、この第2の実施形態の第3層23は、第1の実施形態の第3層23の場合と異なり、表層部分の酸化が避けられないわけではない。このため、この第2の実施形態の第3層23は、表層部分の酸化が進んでいない場合も含まれる。
【0067】
上述のように、第4層24の屈折率nは、第1層21及び第3層23の屈折率n、nよりも大きく(n<nおよびn<n)、第4層24の消衰係数kは、第1層21の消衰係数kよりも小さく、第3層23の消衰係数kよりも大きい(k>kおよびk<k)ことが求められる。このため、第4層24を形成する材料中の窒素含有量は、第1層21または第3層23を形成する材料中の窒素含有量よりも多いことが好ましく、40原子%以上であることが好ましく、45原子%以上であるとより好ましく、50原子%以上であるとさらに好ましい。ただし、第4層24を形成する材料中の窒素含有量は、57原子%以下であることが好ましい。化学量論的に安定なSiの窒素含有量(約57原子%)よりも窒素含有量を多くすると、ドライエッチング時に第4層24に発生する熱やマスク洗浄等によって、第4層24から窒素が抜けやすく、窒素含有量が低下しやすい。
【0068】
第4層24は、位相シフト膜2を構成する3層の中で中間の消衰係数kを有しており、この第4層24の厚さが厚くなりすぎると、位相シフト膜2の全体で所定の透過率にするために、第1層の厚さを薄くしなければならなくなり、位相シフト膜2の裏面反射率が低下する恐れがある。この点で、第4層24の厚さは、45nm以下であると好ましく、40nm以下であるとより好ましい。また、第4層24は、位相シフト膜2を構成する各層の中で最も屈折率nが高く、位相シフト膜2の裏面反射率を高めるにはある程度以上の厚さが必要である。この点で、第4層24の厚さは、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であるとより好ましい。
【0069】
第4層24は、表層部分を除き、積極的に酸素を含有させることをしないことが好ましい(酸素含有量は、X線光電子分光法等による組成分析を行ったときに3原子%以下であることが好ましく、検出下限値以下であるとより好ましい。)。
【0070】
位相シフト膜2における第1層21、第2層22、第3層23及び第4層24は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。成膜レートを考慮すると、DCスパッタリングを適用することが好ましい。導電性が低いターゲットを用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用するとより好ましい。
なお、本実施形態におけるマスクブランク100が備える遮光膜3、ハードマスク膜4の構成は、第1の実施形態におけるマスクブランク100が備える遮光膜3、ハードマスク膜4の構成と同様である。
【0071】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態に係るマスクブランク100は、第4層24の構成が、第2の実施形態のマスクブランク100と異なっている。以下、第2の実施形態のマスクブランク100と共通する点については、適宜その説明を省略する。
【0072】
本実施形態における位相シフト膜2は、第1の実施形態で述べたように、第1層21、第2層22および第3層23のArF露光光の波長におけるそれぞれの屈折率n、n、nがn<nおよびn>nの関係を満たし、第1層21、第2層22および第3層23のそれぞれの消衰係数k、k、kが、k>k>kの関係を満たすように構成されている。加えて、本実施形態における位相シフト膜2は、第1層21、第3層23および第4層24のArF露光光の波長におけるそれぞれの屈折率n、n、nが、n>nおよびn>nの関係を満たし、第3層23および第4層24のそれぞれの消衰係数k、kが、k>kの関係を満たすように構成されている(すなわち、第4層24の消衰係数kが、第1層21~第4層24のなかで最も小さい。)。
【0073】
本実施形態において第4層24の屈折率nは、1.5以上であることが好ましく、1.55以上であると好ましい。また、第4層24の屈折率nは、1.8以下であると好ましく、1.7以下であるとより好ましい。第4層24の消衰係数kは、0.1以下であると好ましく、0.05以下であるとより好ましい。また、第4層24の消衰係数kは、0.00以上であると好ましい。なお、第4層24の屈折率nおよび消衰係数kは、第4層24の全体を光学的に均一な1つの層とみなして導出された数値である。
【0074】
第4層24は、ケイ素と酸素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素とケイ素と酸素とからなる材料で形成されることが好ましい。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。ここで、非金属元素は、狭義の非金属元素(例えば、窒素、炭素、酸素、リン、硫黄、セレン)、ハロゲンおよび貴ガスを含むものをいう。この非金属元素の中でも、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の元素を含有させると好ましい。第4層24は、貴ガスを含有してもよい。
【0075】
上述のように、第4層24の屈折率nは、第1層21及び第3層23の屈折率n、nよりも小さく(n>nおよびn>n)、第4層24の消衰係数kは、第3層23の消衰係数kよりも小さい(k>k)ことが求められる。このため、第4層24を形成する材料中の酸素含有量は、第3層23を形成する材料中の酸素含有量よりも多いことが好ましい。第4層24は、酸素の含有量が50原子%以上であることが好ましく、55原子%以上であるとより好ましく、60原子%以上であるとさらに好ましい。また、第4層24は、酸素の含有量が66原子%以下であると好ましい。第4層24に、酸素をSiOの混合比よりも多く含有させようとすると、第4層24をアモルファスや微結晶構造にすることが困難になる。また、第4層24の表面粗さが大幅に悪化する。
【0076】
一方、第4層24は、窒素の含有量が10原子%以下であることが好ましく、5原子%以下であることがより好ましく、積極的に窒素を含有させることをしない(X線光電子分光分析等による組成分析を行ったときに検出下限値以下。)ことがさらに好ましい。第4層24の窒素の含有量が多いと、ArF露光光の照射を繰り返し受けたときに光学特性が変化しやすくなってしまい、後述の大気中の酸素から第3層23を保護する機能が低下してしまう。
【0077】
第4層24は、ケイ素の含有量が33原子%以上であることが好ましく、35原子%以上であるとより好ましく、40原子%以上であるとさらに好ましい。第4層24は、ケイ素及び酸素からなる材料で形成することが好ましい。なお、この場合のケイ素及び酸素からなる材料は、貴ガスを含有する材料も包含しているとみなすことができる。
【0078】
第4層24は、位相シフト膜2を構成する4層の中で最も小さい消衰係数kを有しており、この第4層24の厚さが厚くなりすぎると、位相シフト膜2の全体で所定の透過率にするために、第1層21の厚さを薄くしなければならなくなり、位相シフト膜2の裏面反射率が低下する恐れがある。この点で、第4層24の厚さは、15nm以下であると好ましく、10nm以下であるとより好ましい。また、第4層24の厚さは、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であるとより好ましい。
【0079】
本実施形態の位相シフト膜2は、第3層23の方が第1層21および第2層22よりも酸素含有量が多く、第4層24が第3層23よりも酸素含有量が多い構成となっている。このような構成とすることで、ArF露光光の照射を繰り返し受けたときに光学特性が変化しにくい位相シフト膜2とすることができる。Si-O結合は、Si-N結合よりも構造の安定性が高いため、第4層24および第3層23はArF露光光の照射を繰り返し受けたときに光学特性が変化しにくい。それに加え、第4層24と第3層23を備えることで、大気中の酸素が第2層22や第1層21に侵入することを抑制できる。
【0080】
なお、本実施形態におけるマスクブランク100が備える遮光膜3、ハードマスク膜4の構成は、第1の実施形態におけるマスクブランク100が備える遮光膜3、ハードマスク膜4の構成と同様である。
【0081】
図3に、上記第1、第2および第3の実施形態のマスクブランク100から製造される本発明の実施形態に係る位相シフトマスク200とその製造工程を示す。図3(g)に示されているように、位相シフトマスク200は、マスクブランク100の位相シフト膜2に転写パターンである位相シフトパターン2aが形成され、遮光膜3に遮光パターン3bが形成されていることを特徴としている。マスクブランク100にハードマスク膜4が設けられている構成の場合、この位相シフトマスク200の作成途上でハードマスク膜4は除去される。
【0082】
本発明の実施形態に係る位相シフトマスクの製造方法は、前記のマスクブランク100を用いるものであり、ドライエッチングにより遮光膜3に転写パターンを形成する工程と、転写パターンを有する遮光膜3をマスクとするドライエッチングにより位相シフト膜2に転写パターンを形成する工程と、遮光パターンを有するレジスト膜(レジストパターン6b)をマスクとするドライエッチングにより遮光膜3に遮光パターン3bを形成する工程とを備えることを特徴としている。以下、図3に示す製造工程にしたがって、本発明の位相シフトマスク200の製造方法を説明する。なお、ここでは、遮光膜3の上にハードマスク膜4が積層したマスクブランク100を用いた位相シフトマスク200の製造方法について説明する。また、遮光膜3にはクロムを含有する材料を適用し、ハードマスク膜4にはケイ素を含有する材料を適用した場合について述べる。
【0083】
まず、マスクブランク100におけるハードマスク膜4に接して、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。次に、レジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)である第1のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、位相シフトパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図3(a)参照)。続いて、第1のレジストパターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図3(b)参照)。
【0084】
次に、レジストパターン5aを除去してから、ハードマスクパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成する(図3(c)参照)。続いて、遮光パターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつハードマスクパターン4aを除去した(図3(d)参照)。
【0085】
次に、マスクブランク100上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図3(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図3(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図3(g)参照)。
【0086】
前記のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。たとえば、Cl、SiCl、CHCl、CHCl、CCl、BCl等があげられる。また、前記のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限はない。たとえば、CHF、CF、C、C、SF等があげられる。特に、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス基板に対するエッチングレートが比較的低いため、ガラス基板へのダメージをより小さくすることができる。
【0087】
本発明の位相シフトマスク200は、前記のマスクブランク100を用いて作製されたものである。このため、転写パターンが形成された位相シフト膜2(位相シフトパターン2a)はArF露光光に対する透過率が15%以上であり、かつ位相シフトパターン2aを透過した露光光と位相シフトパターン2aの厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間における位相差が150度以上200度の範囲内となっており、さらに、ArF露光光の吸収率Absが55%以下となっている。また、この位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域(位相シフトパターン2aのみが存在する透光性基板1上の領域)における裏面反射率が25%以上になっている。これにより、位相シフト膜2の内部に入射するArF露光光の光量が削減でき、予め定められている透過率に相当する光量で位相シフト膜2からArF露光光を出射させるために、位相シフト膜2の内部で熱に変換する光量を低減することができる。
【0088】
位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層していない位相シフトパターン2aの領域における裏面反射率が45%以下であると好ましい。位相シフトマスク200を用いて転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写を行ったときに、位相シフトパターン2aの裏面側の反射光によって露光転写像に与える影響が大きくならない範囲とするためである。
【0089】
位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの透光性基板1上の領域における裏面反射率が25%以上であることが好ましい。遮光パターン3aがクロムを含有する材料で形成されている場合や遮光パターン3aの位相シフトパターン2a側の層がクロムを含有する材料で形成されている場合、遮光パターン3a内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動することを抑制できる。また、遮光パターン3aが遷移金属とケイ素を含有する材料で形成されている場合、遮光パターン3a内の遷移金属が位相シフトパターン2a内に移動することを抑制できる。
【0090】
本発明の半導体デバイスの製造方法は、前記の位相シフトマスク200を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴としている。位相シフトマスク200の位相シフトパターン2aは、ArF露光光に対する裏面反射率が高く、位相シフトパターン2aの内部に入射するArF露光光の光量が低減されている。これにより、位相シフトパターン2aの内部に入射したArF露光光が熱に変換される比率が低減され、その熱によって透光性基板が熱膨張して位相シフトパターン2aが位置ずれを起こすことが十分に抑制されている。このため、この位相シフトマスク200を露光装置にセットし、その位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射して転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写する工程を継続して行っても、位相シフトパターン2aの位置精度は高く、高い精度で転写対象物に所望のパターンを転写し続けることができる。
【実施例
【0091】
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
[マスクブランクの製造]
主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面を所定の表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものである。この透光性基板1の光学特性を測定したところ、ArF露光光の波長における屈折率nが1.556、消衰係数kが0.00であった。
【0092】
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスおよび窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとするRFスパッタリングにより、透光性基板1の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の第1層21(SiN膜 Si:N=65原子%:35原子%)を3.8nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、第1層21上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の第2層22(Si膜 Si:N=43原子%:57原子%)を45.8nmの厚さで形成した。そして、アルゴン(Ar)、酸素(O)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜2の第3層23(SiON膜 Si:O:N=40原子%:30原子%:30原子%)を19.0nmの厚さで形成した。なお、第1層21、第2層22および第3層23の組成は、X線光電子分光法(XPS)による測定によって得られた結果である。以下、他の膜に関しても同様である。
【0093】
次に、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1に対して、位相シフト膜2の膜応力を低減するため、および加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が18.2%、位相差が177.1度(deg)であった。さらに、この位相シフト膜2の第1層21、第2層22および第3層23の各光学特性を測定したところ、第1層21は屈折率nが1.65、消衰係数kが1.86であり、第2層22は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.34であり、第3層23は屈折率nが2.16、消衰係数kが0.12であった。位相シフト膜2の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は27.8%であり、ArF露光光の吸収率は54.0%であった。
このように、実施例1における位相シフト膜2は、第1層21、第2層22および第3層23の各屈折率をそれぞれn、n、nとしたとき、n<nとn>nの2つの関係を満たし、さらに第1層21、第2層22および第3層23の各消衰係数をそれぞれk、k、kとしたとき、k>k>kの関係を満たすものである。そして、実施例1における位相シフト膜2は、位相シフト効果が十分得られるだけの所定の位相差(150度以上200度以下)と透過率15%以上の光学特性を有し、55%以下の吸収率Absを満たすものである。
【0094】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜2上にCrOCからなる遮光膜3(CrOCN膜 Cr:O:C=56原子%:27原子%:17原子%)を56nmの厚さで形成した。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。また、別の透光性基板1を準備し、同じ成膜条件で遮光膜3のみを成膜し、その遮光膜3の光学特性を測定したところ、屈折率nが1.95、消衰係数kが1.42であった。
【0095】
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に、位相シフト膜2および遮光膜3が積層された透光性基板1を設置し、二酸化ケイ素(SiO)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとし、RFスパッタリングにより遮光膜3の上に、ケイ素および酸素からなるハードマスク膜4を12nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1上に、2層構造の位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備えるマスクブランク100を製造した。
【0096】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1の位相シフトマスク200を作製した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS処理を施した。続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚80nmで形成した。次に、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフトパターンである第1のパターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、第1のパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図3(a)参照)。
【0097】
次に、第1のレジストパターン5aをマスクとし、CFガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図3(b)参照)。その後、第1のレジストパターン5aを除去した。
【0098】
続いて、ハードマスクパターン4aをマスクとし、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=10:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成した(図3(c)参照)。次に、遮光パターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(SF+He)を用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(図3(d)参照)。
【0099】
次に、遮光パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図3(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図3(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図3(g)参照)。
【0100】
作製した実施例1のハーフトーン型位相シフトマスク200を、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は、面内でいずれも許容範囲内であった。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0101】
(実施例2)
[マスクブランクの製造]
実施例2のマスクブランク100は、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例2の位相シフト膜2は、第1層21、第2層22の膜厚を変更し、第3層23を形成する材料と膜厚を変更し、さらに第4層24を第3層23の上に積層している。具体的には、実施例1と同様の手順で、透光性基板1の表面に接して位相シフト膜2の第1層21(SiN膜)を2.7nmの膜厚で形成し、第2層22(Si膜)を16nmの膜厚で形成した。次に、アルゴン(Ar)、酸素(O)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜2の第3層23(SiON膜 Si:O:N=40原子%:34原子%:26原子%)を16.0nmの厚さで形成した。さらに、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、第3層23上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の第4層24(Si膜 Si:N=43原子%:57原子%)を34.0nmの厚さで形成した。
【0102】
また、実施例1と同様の処理条件で、この実施例2の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が18.3%、位相差が177.0度(deg)であった。さらに、この位相シフト膜2の第1層21、第2層22、第3層23および第4層24の各光学特性を測定したところ、第1層21は屈折率nが1.65、消衰係数kが1.86であり、第2層22は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.34であり、第3層23は屈折率nが2.06、消衰係数kが0.07であり、第4層24は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.34であった。位相シフト膜2の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は32.1%であり、ArF露光光の吸収率は49.6%であった。
【0103】
このように、実施例2における位相シフト膜2は、第1層21、第2層22および第3層23の各屈折率をそれぞれn、n、nとしたとき、n<nとn>nの2つの関係を満たし、さらに第1層21、第2層22および第3層23の各消衰係数をそれぞれk、k、kとしたとき、k>k>kの関係を満たすものである。また、第4層24の露光光の波長における屈折率をnとしたときにn<nおよびn<nの関係を満たし、第4層24の前記露光光の波長における消衰係数をkとしたときにk>kおよびk<kの関係を満たすものである。そして、実施例2における位相シフト膜2は、位相シフト効果が十分得られるだけの所定の位相差(150度以上200度以下)と透過率15%以上の光学特性を有し、55%以下の吸収率Absを満たすものである。
【0104】
以上の手順により、透光性基板1上に、SiN膜の第1層21と、Si膜の第2層22と、SiON膜の第3層23と、Si膜の第4層24とからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例2のマスクブランク100を製造した。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0105】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例2のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例2の位相シフトマスク200を作製した。
【0106】
作製した実施例2のハーフトーン型位相シフトマスク200を、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は、面内でいずれも許容範囲内であった。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0107】
(実施例3)
[マスクブランクの製造]
実施例3のマスクブランク100は、位相シフト膜2以外については、実施例2と同様の手順で製造した。この実施例3の位相シフト膜2は、実施例2のものから第1層21の膜厚を4.6nmに変更している。
【0108】
実施例1と同様の処理条件で、この実施例3の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が15.6%、位相差が179.0度(deg)であった。また、この位相シフト膜2の第1層21、第2層22、第3層23および第4層24の各光学特性を測定したところ、第1層21は屈折率nが1.65、消衰係数kが1.86であり、第2層22は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.34であり、第3層23は屈折率nが2.06、消衰係数kが0.07であり、第4層24は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.34であった。位相シフト膜2の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は36.0%であり、ArF露光光の吸収率は48.4%であった。
【0109】
このように、実施例3における位相シフト膜2は、第1層21、第2層22および第3層23の各屈折率をそれぞれn、n、nとしたとき、n<nとn>nの2つの関係を満たし、さらに第1層21、第2層22および第3層23の各消衰係数をそれぞれk、k、kとしたとき、k>k>kの関係を満たすものである。また、第4層24の露光光の波長における屈折率をnとしたときにn<nおよびn<nの関係を満たし、第4層24の前記露光光の波長における消衰係数をkとしたときにk>kおよびk<kの関係を満たすものである。そして、実施例3における位相シフト膜2は、位相シフト効果が十分得られるだけの所定の位相差(150度以上200度以下)と透過率15%以上の光学特性を有し、55%以下の吸収率Absを満たすものである。
【0110】
以上の手順により、透光性基板1上に、SiN膜の第1層21と、Si膜の第2層22と、SiON膜の第3層23と、Si膜の第4層24とからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例3のマスクブランク100を製造した。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0111】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例3のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例3の位相シフトマスク200を作製した。
【0112】
作製した実施例3のハーフトーン型位相シフトマスク200を、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は、面内でいずれも許容範囲内であった。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0113】
(実施例4)
[マスクブランクの製造]
実施例4のマスクブランク100は、位相シフト膜2以外については、実施例2と同様の手順で製造した。この実施例4の位相シフト膜2は、第1層21の材料を実施例2のものから変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)の混合ターゲット(Mo:Si=13原子%:87原子%)を用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、透光性基板1の表面に接してモリブデン、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の第1層21(MoSiN膜 Mo:Si:N=9原子%:68原子%:23原子%)を2.7nmの厚さで形成した。
【0114】
また、実施例1と同様の処理条件で、この実施例4の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が17.3%、位相差が176.9度(deg)であった。さらに、この位相シフト膜2の第1層21、第2層22、第3層23および第4層24の各光学特性を測定したところ、第1層21は屈折率nが1.82、消衰係数kが2.20であり、第2層22は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.34であり、第3層23は屈折率nが2.06、消衰係数kが0.07であり、第4層24は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.34であった。位相シフト膜2の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は34.1%であり、ArF露光光の吸収率は48.6%であった。
【0115】
このように、実施例4における位相シフト膜2は、第1層21、第2層22および第3層23の各屈折率をそれぞれn、n、nとしたとき、n<nとn>nの2つの関係を満たし、さらに第1層21、第2層22および第3層23の各消衰係数をそれぞれk、k、kとしたとき、k>k>kの関係を満たすものである。また、第4層24の露光光の波長における屈折率をnとしたときにn<nおよびn<nの関係を満たし、第4層24の前記露光光の波長における消衰係数をkとしたときにk>kおよびk<kの関係を満たすものである。そして、実施例4における位相シフト膜2は、位相シフト効果が十分得られるだけの所定の位相差(150度以上200度以下)と透過率15%以上の光学特性を有し、55%以下の吸収率Absを満たすものである。
【0116】
以上の手順により、透光性基板1上に、MoSi-N膜の第1層21と、Si膜の第2層22と、SiON膜の第3層23と、Si膜の第4層24とからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例4のマスクブランク100を製造した。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0117】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例4のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例4の位相シフトマスク200を作製した。
【0118】
作製した実施例4のハーフトーン型位相シフトマスク200を、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は、面内でいずれも許容範囲内であった。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0119】
(実施例5)
[マスクブランクの製造]
実施例5のマスクブランク100は、位相シフト膜2以外については、実施例2と同様の手順で製造した。この実施例5の位相シフト膜2は、実施例2のものから、第1層21と第2層22の膜厚をそれぞれ変更し、第3層23と第4層24を形成する材料と膜厚をそれぞれ変更している。
【0120】
具体的には、実施例2と同様の手順で、透光性基板1の表面に接して位相シフト膜2の第1層21(SiN膜)を3nmの膜厚で形成し、第2層22(Si膜)を18nmの膜厚で形成した。次に、アルゴン(Ar)、酸素(O)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜2の第3層23(SiON膜 Si:O:N=44原子%:27原子%:29原子%)を56nmの厚さで形成した。さらに、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および酸素(O)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、第3層23上に、ケイ素および酸素からなる位相シフト膜2の第4層24(SiO膜 Si:O=34原子%:66原子%)を3nmの厚さで形成した。
【0121】
実施例1と同様の処理条件で、この実施例5の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が28%、位相差が177度(deg)であった。また、この位相シフト膜2の第1層21、第2層22、第3層23および第4層24の各光学特性を測定したところ、第1層21は屈折率nが1.65、消衰係数kが1.86であり、第2層22は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.34であり、第3層23は屈折率nが2.18、消衰係数kが0.12であり、第4層24は屈折率nが1.56、消衰係数kが0.00であった。位相シフト膜2の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は28%であり、ArF露光光の吸収率は44%であった。
【0122】
このように、実施例5における位相シフト膜2は、第1層21、第2層22および第3層23の各屈折率をそれぞれn、n、nとしたとき、n<nとn>nの2つの関係を満たし、さらに第1層21、第2層22および第3層23の各消衰係数をそれぞれk、k、kとしたとき、k>k>kの関係を満たすものである。また、第4層24の露光光の波長における屈折率をnとしたときにn>nおよびn>nの関係を満たし、第4層24の前記露光光の波長における消衰係数をkとしたときにk>kの関係を満たすものである。そして、実施例5における位相シフト膜2は、位相シフト効果が十分得られるだけの所定の位相差(150度以上200度以下)と透過率15%以上の光学特性を有し、55%以下の吸収率Absを満たすものである。
【0123】
以上の手順により、透光性基板1上に、SiN膜の第1層21と、Si膜の第2層22と、SiON膜の第3層23と、SiO膜の第4層24とからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例5のマスクブランク100を製造した。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0124】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例5のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例5の位相シフトマスク200を作製した。
【0125】
作製した実施例5のハーフトーン型位相シフトマスク200を、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は、面内でいずれも許容範囲内であった。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0126】
(参考例)
[マスクブランクの製造]
参考例のマスクブランクは、位相シフト膜以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この参考例の位相シフト膜は、第1層、第2層、第3層を形成する材料と膜厚を変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜の第1層(Si膜 Si:N=43原子%:57原子%)を20.7nmの厚さで形成した。続いて、第1層上に、アルゴン(Ar)、酸素(O)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜の第2層(SiON膜 Si:O:N=40原子%:38原子%:22原子%)を19.0nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、第2層上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜の第3層(Si膜 Si:N=43原子%:57原子%)を31.1nmの厚さで形成した。
【0127】
また、実施例1と同様の処理条件で、この参考例の位相シフト膜に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が20.7%、位相差が177.0度(deg)であった。さらに、この位相シフト膜の第1層、第2層、及び第3層の各光学特性を測定したところ、第1層は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.36であり、第2層は屈折率nが1.90、消衰係数kが0.035であり、第3層は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.34であった。位相シフト膜の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は29.7%であり、ArF露光光の吸収率は49.6%であった。
このように、参考例における位相シフト膜は、第1層、第2層および第3層の各屈折率をそれぞれn、n、nとしたとき、n<nとn>nの2つの関係を満たすものではなく、さらに第1層21、第2層22および第3層23の各消衰係数をそれぞれk、k、kとしたとき、k>k>kの関係を満たすものではない。しかしながら、参考例における位相シフト膜は、位相シフト効果が十分得られるだけの所定の位相差(150度以上200度以下)と透過率15%以上の光学特性を有し、55%以下の吸収率Absを満たすものである。
【0128】
以上の手順により、透光性基板上に、Si膜の第1層と、SiON膜の第2層と、Si膜の第3層とからなる位相シフト膜、遮光膜およびハードマスク膜が積層した構造を備える参考例のマスクブランクを製造した。この位相シフト膜と遮光膜の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0129】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この参考例のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、参考例の位相シフトマスクを作製した。
【0130】
作製した参考例のハーフトーン型位相シフトマスクを、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスクの透光性基板側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は、面内でいずれも許容範囲内であった。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0131】
(比較例1)
[マスクブランクの製造]
この比較例1のマスクブランクは、位相シフト膜以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例1の位相シフト膜は、単層構造に変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜の層(Si膜 Si:N=43原子%:57原子%)を60.5nmの厚さで形成した。
【0132】
また、実施例1と同様の処理条件で、この比較例1の位相シフト膜に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が18.8%、位相差が177.0度(deg)であった。さらに、この位相シフト膜の光学特性を測定したところ、屈折率nが2.61、消衰係数kが0.36であった。位相シフト膜の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板側の反射率)は19.5%であり、ArF露光光の吸収率は61.7%であった。
このように、比較例1における位相シフト膜は、位相シフト効果が十分得られるだけの所定の位相差(150度以上200度以下)と透過率15%以上の光学特性を有するものの、55%以下の吸収率Absを満たすものではない。
【0133】
以上の手順により、透光性基板上に、位相シフト膜、遮光膜およびハードマスク膜が積層した構造を備える比較例1のマスクブランクを製造した。この位相シフト膜と遮光膜の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0134】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例1のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例1の位相シフトマスクを作製した。
【0135】
作製した比較例1のハーフトーン型位相シフトマスクを、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスクの透光性基板側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は大きく、許容範囲外である箇所が多数発見された。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に形成される回路パターンには、断線や短絡が発生することが予想される。
【0136】
(比較例2)
[マスクブランクの製造]
この比較例2のマスクブランクは、位相シフト膜以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例2の位相シフト膜は、2層構造に変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜の第1層(Si:N=65原子%:35原子%)を2.0nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、第1層上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜の第2層(Si膜 Si:N=43原子%:57原子%)を60.1nmの厚さで形成した。
【0137】
また、実施例1と同様の処理条件で、この比較例2の位相シフト膜に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が15.6%、位相差が177.0度(deg)であった。さらに、この位相シフト膜の第1層、第2層の各光学特性を測定したところ、第1層は屈折率nが1.65、消衰係数kが1.86であり、第2層は屈折率nが2.61、消衰係数kが0.34であった。位相シフト膜の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板側の反射率)は24.6%であり、ArF露光光の吸収率は59.8%であった。
このように、比較例2における位相シフト膜は、位相シフト効果が十分得られるだけの所定の位相差(150度以上200度以下)と透過率15%以上の光学特性を有するものの、55%以下の吸収率Absを満たすものではない。
【0138】
以上の手順により、透光性基板上に、位相シフト膜、遮光膜およびハードマスク膜が積層した構造を備える比較例2のマスクブランクを製造した。この位相シフト膜と遮光膜の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0139】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例2のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例2の位相シフトマスクを作製した。
【0140】
作製した比較例2のハーフトーン型位相シフトマスクを、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスクの透光性基板側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は大きく、許容範囲外である箇所が多数発見された。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に形成される回路パターンには、断線や短絡が発生することが予想される。
【0141】
(比較例3)
[マスクブランクの製造]
この比較例3のマスクブランクは、位相シフト膜以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例3の位相シフト膜は、2層構造に変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板の表面に接してケイ素および窒素からなる位相シフト膜の第1層(Si:N=50原子%:50原子%)を45.0nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、酸素(O)および窒素(N)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、第1層上に、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜の第2層(SiON膜 Si:O:N=40原子%:20原子%:40原子%)を21.0nmの厚さで形成した。
【0142】
また、実施例1と同様の処理条件で、この比較例3の位相シフト膜に対しても加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が30%、位相差が171度(deg)であった。さらに、この位相シフト膜の第1層、第2層の各光学特性を測定したところ、第1層は屈折率nが2.6、消衰係数kが0.34であり、第2層は屈折率nが2.0、消衰係数kが0.08であった。位相シフト膜の波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板側の反射率)は19.0%であり、ArF露光光の吸収率は61.0%であった。
このように、比較例3における位相シフト膜は、位相シフト効果が十分得られるだけの所定の位相差(150度以上200度以下)と透過率15%以上の光学特性を有するものの、55%以下の吸収率Absを満たすものではない。
【0143】
以上の手順により、透光性基板上に、位相シフト膜、遮光膜およびハードマスク膜が積層した構造を備える比較例3のマスクブランクを製造した。この位相シフト膜と遮光膜の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0144】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例3のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例3の位相シフトマスクを作製した。
作製した比較例3のハーフトーン型位相シフトマスクを、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスクの透光性基板側からArF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は大きく、許容範囲外である箇所が多数発見された。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に形成される回路パターンには、断線や短絡が発生することが予想される。
【符号の説明】
【0145】
1 透光性基板
2 位相シフト膜
21 第1層
22 第2層
23 第3層
24 第4層
2a 位相シフトパターン
3 遮光膜
3a,3b 遮光パターン
4 ハードマスク膜
4a ハードマスクパターン
5a 第1のレジストパターン
6b 第2のレジストパターン
100 マスクブランク
200 位相シフトマスク
図1
図2
図3