(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】医療用ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
A61L 15/28 20060101AFI20220719BHJP
A61F 13/00 20060101ALI20220719BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20220719BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220719BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20220719BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220719BHJP
C08B 15/00 20060101ALN20220719BHJP
C08H 8/00 20100101ALN20220719BHJP
【FI】
A61L15/28 100
A61F13/00 301G
A61K9/70 405
A61K47/38
A61L15/44 100
A61P17/02
C08B15/00
C08H8/00
(21)【出願番号】P 2019532069
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 FI2017050888
(87)【国際公開番号】W WO2018109275
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-08-18
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314013187
【氏名又は名称】ウーペーエム-キュンメネ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】UPM-Kymmene Corporation
【住所又は居所原語表記】Alvar Aallon katu 1 Helsinki Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】ルウッコ,カリ
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン,マルクス
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0367024(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00
A61K 9/00
A61K 47/00
A61F 13/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノフィブリルセルロースを含む医療用ヒドロゲルであって、37℃におけるヒドロゲルの濃度で測定された粘度が2500~9000Pa・sの範囲内、たとえば3000~8000Pa・s範囲内、たとえば4000~7000Pa・sの範囲内にある粘度と、30~100g/g、たとえば30~60g/g、好ましくは40~50g/gの範囲内の保水度とを有
し、
前記ヒドロゲルは、4.1~8%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有し、かつ20~55J/m
2
の範囲内の圧縮仕事を有することを特徴とする医療用ヒドロゲル。
【請求項2】
前記ヒドロゲルは
、4.5~8%(w/w)、5~8%(w/w)、5~7%(w/w)、6~8%(w/w)、または6~7%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有することを特徴とする請求項1に記載の医療用ヒドロゲル。
【請求項3】
前記ヒドロゲルは、5.4~7.9%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有することを特徴とする請求項1
または2に記載の医療用ヒドロゲル。
【請求項4】
前記ヒドロゲルは、5.4~6.6%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有することを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の医療用ヒドロゲル。
【請求項5】
前記ナノフィブリルセルロースは、アニオン荷電ナノフィブリルセルロースであることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の医療用ヒドロゲル。
【請求項6】
前記医療用ヒドロゲルは、
37℃におけるヒドロゲルの濃度で測定された粘度が3000~8000Pa・sの範囲内にある粘度と、5~7%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有し、かつ25~40J/m
2
の範囲内の圧縮仕事を有することを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の医療用ヒドロゲル。
【請求項7】
1つ以上の治療薬を含むことを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の医療用ヒドロゲル。
【請求項8】
医療用ヒドロゲルを作製するための方法であって、
パルプ、たとえば木材パルプを準備することと、
任意にパルプを変性させる、たとえば、アニオン的またはカチオン的に変性させることと、
ナノフィブリルセルロースが得られるまでパルプを分解することと、
ナノフィブリルセルロースをヒドロゲルに形成することとを含み、
前記ヒドロゲルは、37℃におけるヒドロゲルの濃度で測定された粘度が2500~9000Pa・sの範囲内、たとえば3000~8000Pa・s、たとえば4000~7000Pa・sの範囲内にある粘度と、30~100g/g、たとえば30~60g/g、好ましくは40~50g/gの範囲内の保水度とを有
し、
前記ヒドロゲルは、4.1~8%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有し、かつ20~55J/m
2
の範囲内の圧縮仕事を有することを特徴とする方法。
【請求項9】
前記得られたナノフィブリルセルロースを、フィブリル化されたナノフィブリルセルロースの不連続性を除去するために、非フィブリル化均質化で均質化することを含むことを特徴とする請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記ヒドロゲルは
、4.5~8%(w/w)、5~8%(w/w)、5~7%(w/w)、6~8%(w/w)、または6~7%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有することを特徴とする請求項
8または
9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒドロゲルは、5.4~7.9%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有することを特徴とする請求項
8~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒドロゲルは、5.4~6.6%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有することを特徴とする請求項
8~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
得られたナノフィブリルセルロースは、水に分散されたとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも500mPa・s、少なくとも1000mPa・s、少なくとも1500mPa・s、少なくとも2000mPa・s、たとえば、少なくとも3000mPa・s、たとえば、500~10000mPa・sの範囲内のブルックフィールド粘度を提供することを特徴とする請求項
8~
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
創傷の治療に使用するための、請求項1~
7のいずれか1項に記載の医療用ヒドロゲル。
【請求項15】
開放性創傷、たとえば、擦過創、剥離創、切創、挫創、刺創、または穿通創の治療に使
用するための、請求項1~
7のいずれか1項に記載の医療用ヒドロゲル。
【請求項16】
1つ以上の密封パッケージに、または1つ以上の装着用装置に、たとえば、注射器、アプリケータ、ポンプ、もしくはチューブに包まれた、請求項1~
7のいずれか1項に記載の医療用ヒドロゲルを含むことを特徴とするキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、ナノフィブリルセルロースを含む医療用ヒドロゲル、および創傷を治療するために使用するための前記医療用ヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル、たとえばヒドロゲルは、医療用途、たとえば皮膚および組織を覆うために使用することができる。一般的に、医療用ヒドロゲルは、主に合成ポリマーを含む架橋材料である。 合成ヒドロゲルは、ネットワーク形成を促進するために、官能性架橋剤と共に、鎖成長または段階成長によって親水性モノマーから合成することができる。そのような材料は、伸縮性、可撓性、および粘着性があり、非常に強固に標的に貼付けることができる。
【0003】
体組織の既存の成分、たとえば、コラーゲン、ヒアルロン酸(HA)、またはフィブリンに由来する生物学的ヒドロゲルも知られている。コラーゲンをヒドロゲルに機械的に強化するためには、コラーゲンを、化学的に架橋するか、紫外線もしくは温度を用いて架橋するか、または他のポリマーと混合しなければならない。
【0004】
既存の医療用ヒドロゲルには、いくつかの欠点、たとえばゲルを取り扱う際の問題がある。ゲルの粘着性は、手によるゲルの適用を困難にし、たとえば創傷からゲルを無傷のまま除去することが困難である場合がある。ある一部のゲルは、あまりにも効果的に標的を覆うことができるので、損傷した部分の治癒を妨げる場合がある。合成ゲルは、生物学的組織に適合しない場合がある。
【発明の概要】
【0005】
本実施形態では、ナノフィブリルセルロースから作製されたヒドロゲルを様々な医療用標的に適用することができ、当該ヒドロゲルが医療目的に理想的な特性を示すことが見出された。
【0006】
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含む医療用ヒドロゲルを提供し、提供されるヒドロゲルは、2500~9000Pa・sの範囲内の粘度および30~100g/gの範囲内の保水度を有する。
【0007】
一実施形態は、医療用ヒドロゲルを作製するための方法であって、
パルプを準備することと、
ナノフィブリルセルロースが得られるまでパルプを分解することと、
ナノフィブリルセルロースをヒドロゲルに形成することであって、当該ヒドロゲルが、2500~9000Pa・s、たとえば3000~8000Pa・s、たとえば4000~7000Pa・sの範囲内の粘度と、30~100g/g、たとえば30~60g/g、好ましくは40~50g/gの範囲内の保水度とを有することとを含む方法を提供することを特徴とする方法。
【0008】
一実施形態は、創傷を治療するために使用するための医療用ヒドロゲルを提供する。
【0009】
一実施形態は、1つ以上の密封パッケージに包装された医療用ヒドロゲルを含むキットを提供する。
【0010】
ナノフィブリルセルロースを含み、特定の範囲における特定の物理的性質を有するヒドロゲルは、特に医療目的、たとえば、包帯、貼付剤またはフィルタとして特に適していることが見出された。皮膚、特に創傷に適用した場合、ヒドロゲルは、固化性、低粘着性、圧縮仕事として表される十分な破壊靭性、成形性、および良好な再剥離性または剥離性などの特性を示した。さらに、この材料は、創傷または他の外傷の治癒を促進することができる。
【0011】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルの特定の有利な特性には、柔軟性、弾力性および再成形性が含まれる。ヒドロゲルは、大量の水を含むので、分子の良好な拡散および放出特性も示す。これらの特性は、ヒドロゲルが創傷を治療するためのカバーとして使用される場合、または他の医療用途、たとえば治療薬または美容用薬剤を送達するために使用される場合に有用である。
【0012】
固形度とは、ヒドロゲルに割れや欠けに抵抗する能力をもたらす性質を表す。固形度は、たとえば、ゲルの圧縮仕事によって評価することができ、これは靭性とも称される。
【0013】
靭性は、ヒドロゲルの他の特性、たとえば除去可能性にも影響を与える特徴である。圧縮仕事は、ゲルの靭性に相関する。高い圧縮仕事では、ヒドロゲルは、取扱い時に欠けたり壊れたりすることがなく、たとえば、創傷または皮膚から可能な限り無傷で取り外される。除去可能性、または取り外し可能性に影響を与える他の特徴は、高い保水度である。多量の水を含有するヒドロゲルは、安定かつ成形可能である。
【0014】
ヒドロゲルの粘着性は低く、特に4%(w/w)以上の高濃度のゲルについて低い。ゲルを標的に適用するときにゲルが使用者の皮膚に貼り付かないように粘着性が低いことが望ましい。低粘着性と相関し得る1つの特徴は、保水度である。一般的に、保水度が高いほど、ゲルの粘着性は低くなる。そのような場合、水分子とナノファイバーとの間の凝集力が高いので、高い保水性が望ましい。
【0015】
また、提供されたままの、すなわちそれ自体の濃度におけるヒドロゲルの粘度は、製品の成形性、除去性および粘着性に影響を与えることが見出された。粘度が低すぎると、ヒドロゲルは粘着性になる傾向がある。一方、粘度が高すぎると、ゲルが欠けたり壊れたりする傾向がある。
【0016】
柔軟性は、多くの用途、たとえば医療用途において望まれる特徴である。たとえば、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルを含む可撓性パッチおよび包帯は、たとえば、創傷および他の損傷、または火傷などの外傷を覆うために皮膚に適用するために有用である。特にヒドロゲルが深い創傷に適用されるとき、関連する望ましい特徴は成形可能性である。粘度は、一般に成形可能性と相関している。粘度は、組成物の構造が維持されるように十分に高くなければならないが、一方、成形を可能にし、ゲルのひび割れを防止するために十分に低くなければならない。さらに、最適な初期粘度で、偽塑性製品の粘度は、成形中に減少し、ゲルを所望の形態に成形することを容易にする。
【0017】
ヒドロゲルの所望の特性を特徴付けるために、本明細書に記載された特徴の組み合わせを使用することができる。特に、特許請求の範囲、および明細書に記載された範囲における、ヒドロゲルの粘度および保水特性、たとえば保水度は、ヒドロゲルの特性に大きな影響を有することが分かった。このようなナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、医療用ヒドロゲルとして理想的である。保水度は、製品が濡れた感じがしないような範囲内でなければならないが、その一方で、製品と当該製品が適用される創傷皮膚との間に水層を形成し、当該水層は治癒を促進する。
【0018】
また、実施形態のヒドロゲルは、高い保水容量および分子拡散特性速度(molecule diffusion property speed)を提供し、この特性は、医療用途、たとえば創傷治療において望ましい。大きなヒドロゲルは、広い面積を覆うために使用することができるように作製および/または成形されてもよい。
【0019】
本明細書に記載のヒドロゲルは、ナノフィブリルセルロースを含む材料が生体組織に接触している医療用途に有用である。ナノフィブリルセルロースが、たとえば皮膚上または損傷領域上に適用されると、異常な特性をもたらすことが見出された。本明細書に記載のナノフィブリルセルロースを含む製品は、生体組織との生体適合性が高く、いくつかの有利な効果をもたらす。いかなる特定の理論にも縛られないが、非常に高い比表面積を有し、したがって高い保水能力を有する様々な親水性ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルは、皮膚または他の組織に対して適用した場合、組織または創傷とナノフィブリルセルロースとの間に好ましい湿潤環境を提供すると考えられる。ナノフィブリルセルロース中の大量の遊離ヒドロキシル基は、ナノフィブリルセルロースと水分子との間に水素結合を形成し、ナノフィブリルセルロースのゲル形成および高い保水能力をもたらすことができる。ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中の大量の水が原因で、水のみが組織と接触していると考えられ、創傷からヒドロゲルへ、またはヒドロゲルから創傷への流体および/または薬剤の移動を可能にする。
【0020】
ヒドロゲルが創傷または他の損傷または外傷を覆うために使用される場合、いくつかの効果がもたらされる。損傷を受けることなく、たとえば引き裂かれることなく製品を容易に適用および除去することができるので、製品の使いやすさは良好である。ヒドロゲルは、創傷を感染から保護し、創傷が治癒されるように湿潤環境を保つ。ヒドロゲルは、治癒領域を損傷することなく除去することが非常に困難である従来材料のように、損傷を受けた皮膚または創傷に不可逆的に付着することはない。製品と皮膚との間の状態は、損傷領域の治癒を促進する。
【0021】
実施形態の医療用ヒドロゲルは、深部創傷などの創傷の治療において特に有利である。 また、医療用ヒドロゲルは、移植片、たとえば皮膚移植片を治療するためにも使用することができる。ヒドロゲルは、創傷または移植片領域を覆うために使用することができ、保護層として機能する。
【0022】
また、ヒドロゲルは、たとえば経皮経路によって、または他の経路によって、薬剤、たとえば治療薬または美容用薬剤を被検体、たとえば患者または使用者に、制御可能に、かつ効果的に送達するために使用されてもよい。制御された放出は、たとえば、ゲルの選択、たとえばゲルの割合もしくはゲルの厚さ、放出可能な薬剤の濃度もしくは形態、任意の補助剤の存在、または放出速度、および/もしくは放出可能薬剤の活性への影響を与える他の条件、たとえば、pH、温度などによって影響され得る、所望の放出速度および/もしくは薬剤のプロフィールを経時的に得ることを表す。以前に説明したように組織とヒドロゲルとの間の特別な条件と放出特性との組み合わせ効果は、生体組織への物質の効率的な送達を提供する。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、非毒性、生体適合性であり、生分解性でもある親水性マトリックスを提供する。たとえば、親水性マトリックスは、酵素的に分解されてもよい。一方、ヒドロゲルは、物理的条件下で安定である。
【0023】
本実施形態は、添付図面を参照して以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】試験で使用されたテクスチャアナライザの円筒形プローブを示す。
【
図4】応力-ひずみ曲線下面積の計算結果、すなわち圧縮仕事を示す。
【
図5】均質化ナノセルロース試料の「靭性」、すなわち50%圧縮までの応力-ひずみ曲線下面積を示す。
【
図6】均質化ナノセルロース試料の絶乾率に対する曲線下面積値(「靭性」)の依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示は、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルとも称される、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを提供する。ヒドロゲルは、他の物質または他の要素、たとえば、補強材料、被覆材料、活性剤、塩をも含み得る製品として提供されてもよい。また、ヒドロゲルは、医療用ヒドロゲルまたは医療用製品として提供されてもよく、または呼ばれてもよい。一実施形態では、ヒドロゲルは、そのようなものとして提供され、好ましくは、ナノフィブリルセルロースおよび水のみを含むか、または実質的にナノフィブリルセルロースおよび水のみを含み、たとえば、99%(w/w)以上、たとえば、99.5%(w/w)、または99.9%(w/w)、100%までのナノフィブリルセルロースおよび水を含む製品として提供される。
【0026】
用語「医療用」は、製品、すなわち実施形態のヒドロゲルを含む製品が使用されるか、または医療目的に適している、製品または使用を表す。医療用製品は、滅菌されてもよく、またはたとえば、温度、圧力、湿気、化学物質、放射線もしくはそれらの組み合わせを用いることによって滅菌可能であり、つまり製品は、滅菌処理に耐える。製品は、たとえば、オートクレーブ処理することができ、または高温を用いる他の方法を使用することができ、その場合、製品は、100℃を超える高温、たとえば、少なくとも121℃または134℃に耐えるべきである。一例では、製品は、121℃で15分間オートクレーブされる。また、医療用製品は、発熱物質を含まず、望ましくないタンパク質残基などを含まないこと望ましい。紫外線殺菌も使用することができる。医療用製品は、たとえば、美容用途にも適していてもよく、化粧品として使用されてもよい。
【0027】
本実施形態のナノフィブリルセルロース(NFC)ヒドロゲル、たとえばアニオン性NFCヒドロゲルは、特に温度およびpHが一定である場合、時間の関数として、活性薬剤、たとえば治療薬、たとえば医薬成分を制御可能に放出することができる。
【0028】
本明細書において、パーセンテージ値は、他に具体的に示されない限り、重量(w/w)に基づいている。数値範囲が提供されている場合、その範囲は上限値および下限値をも含む。
【0029】
ヒドロゲルを作製するための出発材料は、サブミクロン範囲、より具体的にはナノスケール範囲の直径を有するセルロースフィブリルを含むか、または当該セルロースフィブリルからなるナノフィブリルセルロースを含む。ナノフィブリルセルロースは、低濃度でも自己組織化ヒドロゲルネットワークを形成する。ナノフィブリルセルロースのこれらのゲルは、天然では本質的に高せん断減粘性および擬塑性であり、このことは、ナノフィブリルセルロースゲルを従来の非フィブリル化セルロース系ゲルとは異なるものにする。
【0030】
ナノフィブリルセルロース
ナノフィブリルセルロースは通常、植物起源のセルロース原材料から作製される。原材料は、セルロースを含む任意の植物材料に基づいてもよい。原材料は、特定の細菌発酵処理に由来してもよい。ナノフィブリルセルロースは、好ましくは植物材料から作製される。一実施例において、小繊維は、非実質植物材料から得られる。そのような場合、小繊維は、2次細胞壁から得られてもよい。2次細胞壁に由来する小繊維は、本質的に、少なくとも55%の結晶度を有する結晶である。そのような小繊維は、一次細胞壁に由来する小繊維とは異なる特性を有する。たとえば、二次細胞壁に由来する小繊維の脱水は、より困難である場合がある。そのようなセルロース小繊維のある豊富な供給源は、木部繊維である。一実施形態において、植物材料は、木材である。木材は、医療用途にとって特に好適であることが見出された。木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスファー、もしくはツガなどの針葉樹、またはカバノキ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリノキ、オーク、ブナ、もしくはアカシアなどの広葉樹、または針葉樹および広葉樹の混合物から形成されてもよい。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、木材パルプから得られる。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。一例において、広葉樹は、カバノキである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られる。
【0031】
ナノフィブリルセルロースは、化学パルプなどの木材由来の繊維原料を均質化することによって製造される。セルロース繊維は、分解され、わずか数ナノメートル、最大で50nmの直径を有する小繊維を生成し、小繊維の分散水溶液をもたらす。小繊維は、大部分の小繊維の直径が2~50nmの範囲内、より具体的にはわずか2~20nmの範囲内のサイズに縮小することができる。
【0032】
本明細書において使用されるように、「ナノフィブリルセルロース」との用語は、セルロース小繊維、またはセルロース系繊維原料から分離された小繊維束を表す。これらの小繊維は、高いアスペクト比(長さ/直径)によって特徴付けられ、それらの長さは1μmを超えてもよいが、直径は通常200nmよりも小さい。最も小さい小繊維は、いわゆる基本小繊維の寸法であり、直径は、典型的には2~12nmの範囲内にある。小繊維の寸法およびサイズ分布は、叩解方法および生成効率に依存する。ナノフィブリルセルロースは、セルロース系材料として特徴付けられてもよい。粒子(小繊維または小繊維束)の中央長さは、50μm以下であり、たとえば、1~50μmの範囲内にある。粒径は、1μmよりも小さく、好ましくは2~500nmの範囲内にある。天然のナノフィブリルセルロースの場合、一実施形態において、小繊維の平均径は、5~100nmの範囲内、たとえば10~50nmの範囲内にある。ナノフィブリルセルロースは、大きな比表面積と、水素結合を形成するための強い能力とによって特徴付けられる。水分散液中において、ナノフィブリルセルロースは、典型的には、透明な、または濁ったゲル様材料に見える。繊維原料によれば、ナノフィブリルセルロースは、ヘミセルロースまたはリグニンなどの他の少量の木質成分を含んでもよい。その量は、植物供給源に依存する。ナノフィブリルセルロースについて多くの場合に使用される類似名称は、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、およびナノセルロースを含む。
【0033】
ナノフィブリルセルロースの様々なグレードは、3つの主な特性(i)サイズ分布、長さ、および直径、(ii)化学的組成、および(iii)レオロジー特性に基づいて分類されてもよい。グレードを十分に記載するために、特性は、同時に使用されてもよい。様々なグレードの例は、天然(または非変性の)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFC、およびカチオン化NFCを含む。これらの主要グレードのうちにサブグレードも存在する。たとえば、非常に高度のフィブリル化に対して穏やかなフィブリル化、高い置換度に対して低い置換度、低粘度に対して高粘度など。フィブリル化技術と、化学的な前変性とは、小繊維の寸法分布に影響を受ける。典型的には、非イオン性グレードは、広範な小繊維径を有し(たとえば、10~100nm、または10~50nmの範囲内にある)、化学的に変性されたグレードは、非常に薄い(たとえば、2~20nmの範囲内にある)。また、分布は、変性されたグレードについて狭い。特定の変性、特にTEMPO酸化は、より短い小繊維をもたらす。
【0034】
原料供給源に依存して、たとえば、広葉樹(HW)パルプに対する針葉樹(SW)パルプなど、異なる多糖組成物が、最終的なナノフィブリルセルロース製品に存在する。一般的に、非イオン性グレードは、漂白されたカバノキパルプから作製され、高いキセノン含有量(25重量%)をもたらす。変性されたグレードは、HWパルプまたはSWパルプから作製される。それらの変性されたグレードにおいて、ヘミセルロースは、セルロースドメインと共に変性される。おそらく、変性は、均一ではない。すなわち、いくらかの部分は、他よりもさらに変性される。したがって、詳細な化学的分析は不可能であり、変性された製品は必ず、異なる多糖類構造の複雑な混合物である。
【0035】
水性環境において、セルロースナノファイバーの分散液は、粘弾性ヒドロゲル網状体を形成する。ゲルは、分散し、水和した絡まった小繊維によって、たとえば0.05~0.2%(w/w)の比較的低濃度で既に形成される。 NFCヒドロゲルの粘弾性は、たとえば、動的振動レオロジー測定を用いて特徴付けられてもよい。
【0036】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、特徴的なレオロジー特性を示す。たとえば、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、せん断減粘性、または擬塑性材料であり、このことは、それらの粘度が、材料が変形することによる、速度(または力)に依存することを意味する。回転式レオメータにおいて粘度を測定するとき、せん断減粘挙動は、せん断速度の増加とともに粘度の減少として観察される。ヒドロゲルは、可塑的挙動を示し、このことは、材料が容易に流れ始める前に特定のせん断応力(力)が、必要であることを意味する。この臨界的なせん断応力は、多くの場合、降伏応力と称される。降伏応力は、応力制御レオメータを用いて測定される定常流動曲線から測定可能である。粘度が、加えられたせん断応力の関数としてプロットされるとき、粘度の顕著な減少が、臨界せん断応力を超えた後に観察される。ゼロせん断粘度と、降伏応力とは、材料の懸濁力を記載するために最も重要なレオロジーパラメータである。これらの2つのパラメータは、異なるグレードを非常に明確に分けるので、グレードの分類を可能にする。
【0037】
小繊維、または小繊維束の寸法は、原材料と分解方法とに依存する。セルロース原材料の機械的分解は、リファイナ、粉砕機、分散機、ホモジナイザ、コロイダ、摩擦粉砕器、ピンミル、ロータ-ロータディスパゲータ、超音波処理器、マイクロフルイダイザ、マクロフルイダイザ、または流動化ホモジナイザなどのフルイダイザによって実施されてもよい。分解処理は、繊維間における結合の形成を妨げるために水が十分に存在する条件で実施される。
【0038】
一例において、分解は、少なくとも2つのロータを有するロータ-ロータ分散機などの、少なくとも1つのロータ、ブレード、または同様の可動式機械部材を有する分散機を用いることによって実施される。分散機において、分散液中の繊維材料は、ブレードが、回転速度で、および半径(回転軸までの距離)によって決定される周辺速度とで回転するとき、反対方向から繊維材料を打ちつけるロータのブレードまたはリブによって繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は、半径方向の外側に移動するので、反対方向から速い周辺速度で次々に到来するブレード、すなわちリブの広い表面に衝突する。言い換えれば、繊維材料は、反対方向から複数回の連続的な衝撃を受ける。また、ブレード、すなわちリブの広い表面の端部であって、その端部が次のロータブレードの反対端部とともに、繊維の分解と小繊維の脱離とに寄与するせん断応力が生じるブレード間隙を形成する。 衝撃頻度は、ロータの回転速度、ロータの数、各ロータにおけるブレードの数、および装置を通る分散液の流速によって決定される。
【0039】
ロータ-ロータ分散機において、繊維材料は、異なる逆回転ロータの効果によってせん断力および衝撃力に繰り返しさらされ、それによって繊維材料が同時にフィブリル化されるように、逆回転ロータを通って、ロータの回転軸に関して半径方向外側に向かって導入される。ロータ-ロータ分散機の一例は、Atrex装置である。
【0040】
分解に適した装置の別の例は、マルチペリフェラルピンミルなどのピンミルである。US620946B1に記載されたようなそのような装置の一例は、ハウジングと、その内に衝突表面を備えた第1ロータ、第1ロータと同心で、衝突表面を備え第1ロータと反対方向に回転するように配設された第2ロータ、または第1ロータと同心で衝突表面を備えるステータとを含む。 装置は、ハウジング中に供給オリフィスと、ロータ、またはロータおよびステータの中央への開口部と、ハウジング壁の排出口と、最も外側のロータまたはステータの周囲への開口部とを備える。
【0041】
一実施形態において、分解は、ホモジナイザを用いて実施される。ホモジナイザにおいて、繊維材料は、圧力の効果によって均質化にさらされる。ナノフィブリルセルロースへの繊維材料分散液の均質化は、繊維材料を小繊維に分解する分散液の強制貫流によってもたらされる。繊維材料分散液は、所定の圧力で狭い貫流間隙を通って所定の圧力で通過し、分散液の線形速度の増加は、せん断力と衝撃力とを分散液にもたらし、繊維材料から小繊維の除去をもたらす。繊維断片は、フィブリル化工程において小繊維に分解される。
【0042】
本明細書において使用される「フィブリル化」との用語は、一般的に粒子に加えられる仕事によって繊維材料を機械的に分解することを表し、セルロース小繊維は、繊維、または繊維断片から分離されることを表す。仕事は、粉砕、砕砕、もしくはせん断、もしくはこれらの組み合わせ、または粒径を減少させる別の同様の働きなどの様々な効果に基づいてもよい。叩解する仕事によって得られたエネルギーは通常、たとえば、kWh/kg,MWh/ton,またはこれらに比例する単位で、処理された原材料の量あたりのエネルギーを単位として表わされる。表現「分解」、または「分解処理」との表現は、「フィブリル化」の代わりに使用されてもよい。
【0043】
フィブリル化にさらされる繊維材料分散液は、繊維材料および水の混合物であり、本明細書において「パルプ」と称される。 繊維材料分散液は、一般的に、水と混合された、全繊維、それらから分離された部分(断片)、小繊維束、または小繊維を表し、典型的には水性繊維材料分散液は、そのような構成要素の混合物であり、成分の間の比率は、処理の程度、または処理の段階、たとえば、実行数、または繊維材料の同じバッチの処理を「通過」する数に依存する。
【0044】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、前記ナノフィブリルセルロースを含む水溶液の粘度を使用することである。粘度は、たとえば、ブルックフィールド粘度、またはゼロせん断粘度であってもよい。
【0045】
一実施例において、ナノフィブリルセルロースの見掛粘度は、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド粘度)、または別の対応する装置を用いて測定される。好ましくはベーンスピンドル(73番)が使用される。見掛粘度を測定するために利用可能ないくつかの市販のブルックフィールド粘度計が存在し、全て同じ原理に基づく。好ましくは、装置において、RVDVスプリング(ブルックフィールドRVDV-III)が使用される。ナノフィブリルセルロースの試料は、0.8重量%の濃度まで水に希釈され、10分間混合される。希釈された試料は、250mlビーカに添加され、温度は、20℃±1℃に調整され、必要に応じて加熱され、混合された。低い回転速度10rpmが使用された。
【0046】
出発材料として提供されるナノフィブリルセルロースは、当該ナノフィブリルセルロースが水溶液にもたらす粘度によって特徴付けられてもよい。粘度は、たとえば、ナノフィブリルセルロースのフィブリル化の程度を表す。
【0047】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも500mPa・s、たとえば少なくとも1000mPa・s、少なくとも1500mPa・s、少なくとも2000mPa・s、または少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された少なくとも5000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。水に分散したときの前記ナノフィブリルセルロースのブルックフィールド粘度範囲の例は、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、500~10000mPa・s、500~8000mPa・s、1000~10000mPa・s、2000~10000mPa・s、1000~8000mPa・s、500~15000mPa・s、1000~15000mPa・s、2000~15000mPa・s、1000~20000mPa・sを含む。
【0048】
分解された繊維性セルロース原料は、変性された繊維性原料であってもよい。変性された繊維性原料は、セルロースナノフィブリルが繊維から容易に分離可能であるように、繊維が処理によって影響を受けた原料を意味する。変性は通常、懸濁液として存在する繊維性セルロース原料、つまりパルプに実施される。
【0049】
繊維に対する変性処理は、化学的、または物理的であってもよい。化学的変性において、セルロース分子の化学構造は、好ましくは、セルロース分子の長さは影響を受けないが、ポリマーのβ-D-グルコピラノースユニットに官能基が付加されるように、化学反応によって変化する(セルロースの「誘導体化」)。セルロースの化学的変性は、反応物、および反応条件の程度に応じて、特定の変換度で実施され、一般的に、セルロースが小繊維として固体形状で留まり、水に溶解しないので完了しない。物理的変性において、アニオン性物質、カチオン性物質、もしくは非イオン性物質、またはこれらの任意の組み合わせが、セルロース表面に物理的に吸着される。変性処理は、酵素的であってもよい。
【0050】
繊維中のセルロースは、特に、変性後にイオン性に荷電されてもよい。なぜなら、セルロースのイオン性荷電は、繊維の内部結合を弱め、その後のナノフィブリルセルロースへの分解を促進するからである。イオン性荷電は、セルロースの、化学的変性または物理的変性によって達成されてもよい。繊維は、出発原料と比べて、変性後、より高いアニオン荷電、またはカチオン荷電を有してもよい。アニオン性荷電を作製するための、最も一般的に使用される化学的変性方法は、ヒドロキシル基がアルデヒド基およびカルボキシル基に酸化される酸化、スルホン化、およびカルボキシメチル化である。同様に、カチオン性荷電は、4級アンモニウム基などの、カチオン性基をセルロースに付加することによるカチオン化によって化学的に生じてもよい。
【0051】
一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース、またはカチオン変性ナノフィブリルセルロースなどの化学変性ナノフィブリルセルロースを含む。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、ナノフィブリルセルロースは、カチオン変性ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、硫酸化ナノフィブリルセルロースである。一実施形態において、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化ナノフィブリルセルロースである。
【0052】
セルロースは、酸化されてもよい。セルロースの酸化において、セルロースの第一級ヒドロキシル基は、たとえば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシ遊離ラジカル、一般的に「TEMPO]と称される複素環ニトロキシル化合物によって触媒的に酸化されてもよい。セルロースのβ-D-グルコピラノースユニットの第一級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)は、カルボキシル基に選択的に酸化される。また、いくつかのアルデヒド基は、第一級ヒドロキシル基から形成される。酸化の程度が低ければ十分に効果的にフィブリル化されず、酸化の程度が高ければ機械的な破壊処理後にセルロースの分解をinflictするという知見にもかかわらず、セルロースは、電気伝導度滴定によって測定された、0.6~1.4mmol COOH/g パルプ、または0.8~1.2mmol COOH/g パルプ、好ましくは1.0~1.2mmol/g パルプの範囲内で酸化セルロースにおけるカルボン酸含有量を有するレベルまで酸化されてもよい。そのように得られた酸化セルロースの繊維が水に分解されたとき、繊維は、たとえば、3~5nmの幅の個々のセルロース小繊維の安定な透明分散液をもたらす。 出発培地として酸化パルプを用いて、0.8%(w/w)の濃度で測定されたブルックフィールド粘度が、少なくとも10000mPa・s、たとえば10000~30000mPa・sの範囲内にあるナノフィブリルセルロースを得ることができる。
【0053】
触媒「TEMPO」が本開示において言及されるときは、「TEMPO」が、セルロース中のC6炭素のヒドロキシル基の選択的な酸化を触媒することを可能にする、TEMPOの任意の誘導体、または任意の複素環ニトロキシルラジカルに、等しく、同様に適用することに関する、全ての測定および操作を示すことが明らかである。
【0054】
ナノフィブリルセルロースは、平均径(もしくは幅)によって、またはブルックフィールド粘度もしくはゼロせん断粘度などの粘度と平均径とによって特徴付けられてもよい。 一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1~100nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、1~50nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。一実施形態において、前記ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースなどの、2~15nmの範囲内にある小繊維の数平均径を有する。
【0055】
小繊維の直径は、顕微鏡などの様々な技術を用いて測定されてもよい。小繊維の厚さおよび幅の分布は、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)、低温透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)などの透過型電子顕微鏡(TEM)、または原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の画像分析によって測定されてもよい。一般的に、AFMおよびTEMは、狭い小繊維径分布を有するナノフィブリルセルロースグレードに最も適している。
【0056】
濁度は、一般的には裸眼で見ることができない個々の粒子(全て懸濁または溶解した固体)によって生じる、流体の、不透明度または曇りである。濁度を測定するためのいくつかの実際的な方法があり、最も直接的な方法は、光の減衰(つまり、強度の減少)の測定である。なぜなら、光は、水の試料カラムを通るからである。代替的に使用されるジャクソンキャンドル法(単位:ジャクソン濁度ユニット、またはJTU)は、本質的に、水のカラムを通して見えるロウソクの炎を完全に見えなくするために必要な水のカラムの長さの反転測定である。
【0057】
濁度は、光学濁度測定機器を用いて定量的に測定されてもよい。濁度を定量的に測定するために利用可能な市販の濁度計がいくつか存在する。本件においては、比濁法に基づく方法が使用される。目盛付き比濁計に由来する濁度の単位は、ネフェロメ濁度単位(NTU)と称される。 測定装置(比濁粘度計)は、標準調整試料で調整され、制御され、続いて希釈されたNFC試料の濁度が測定された。
【0058】
ある濁度測定法では、ナノフィブリルセルロース試料は、前記ナノフィブリルセルロースのゲル化点以下の濃度まで水中に希釈され、希釈された試料の濁度が測定される。ナノフィブリルセルロース試料の濁度が測定される前記濃度は、0.1%である。50mlの測定容器を備えたHACH P2100濁度計は、濁度測定に使用される。ナノフィブリルセルロース試料の乾燥物質が測定され、乾燥物質として計算された0.5gの試料が、測定容器内に入れられ、500gまで水道水で満たされ、約30秒間にわたって振とうすることによって強く混合された。遅滞なく、水性混合物は、5つの測定容器に分けられ、濁度計に入れられた。各容器について3回の測定が実施された。 平均値および標準偏差は、得られた結果から計算され、最終結果は、NTU単位として与えられる。
【0059】
ナノフィブリルセルロースを特徴付けるための1つの方法は、粘度および濁度の両方を規定することである。低い濁度は、小さな直径などの小繊維の小さな寸法を表す。なぜなら、小さな小繊維は、光を十分に散乱させないからである。一般的には、フィブリル化の程度が増加すれば、粘度が上昇し、同時に濁度が減少する。これは、しかしながら、特定の時点までしか生じない。フィブリル化がさらに継続すると、小繊維は、最終的に壊れ始め、その後には強固な網状体を形成することができない。 したがって、この時点の後、濁度と粘度とは低下し始める。
【0060】
一実施例において、アニオン性ナノフィブリルセルロースの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で比濁法によって測定された、90NTU未満、たとえば、5~60NTU、たとえば8~40NTUのような3~90NTUである。一実施例において、天然ナノフィブリルの濁度は、水性媒体中において0.1%(w/w)の濃度で比濁法によって測定された、200NTUを超えてもよく、たとえば10~220NTU、たとえば20~200NTU、たとえば50~200NTUであってもよい。ナノフィブリルセルロースを特徴付けるために、これらの範囲は、水中に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmにおいて測定された、たとえば少なくとも15000mPa・s、少なくとも10000mPa・sなどの少なくとも2000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供するナノフィブリルセルロースなどのナノフィブリルセルロースの粘度範囲と組み合わされてもよい。
【0061】
医療用ヒドロゲル
一実施形態は、ナノフィブリルセルロースを含む医療用ヒドロゲルを提供し、ヒドロゲルは、2500~9000Pa・sの範囲内の粘度と、30~100g/gの範囲内の保水度とを有する。
【0062】
一実施形態は、医療用ヒドロゲルを作製するための方法であって、
パルプを準備することと、
任意にパルプを変性することと、
ナノフィブリルセルロースが得られるまでパルプを分解することと、
ナノフィブリルセルロースをヒドロゲルに形成することとを含み、
前記ヒドロゲルは、2500~9000Pa・s、たとえば3000~8000Pa・s、たとえば4000~7000Pa・sの範囲内の粘度と、30~100g/g、たとえば30~60g/g、好ましくは40~50g/gの範囲内の保水度とを有する、方法を提供する。
【0063】
パルプは、本明細書に開示されている任意の適切なパルプであってもよい。一実施形態では、パルプは、木材パルプである。パルプは、たとえば化学的または酵素的に変性することができる。化学変性パルプは、カチオン的またはアニオン的に変性されてもよい。一実施形態では、パルプは、アニオン変性木材パルプである。
【0064】
パルプは通常、水性分散液としてナノフィブリルセルロースに分解され、たとえば、本明細書に記載されたレオロジー特性、たとえば粘度を使用することによって別途特徴付けることができる。任意の追加物質、たとえば、治療薬、美容用薬剤、または他の薬剤もしくは物質は、ナノフィブリルセルロースと1種以上の薬剤もしくは物質との混合物を得るために、得られたナノフィブリルセルロースに添加されてもよい。フィブリル化は、所望の特性、たとえば、それ自体の濃度での粘度および圧縮仕事が得られる程度まで行われる。そのようなフィブリル化処理は、特定回数の、分解もしくはフィブリル化の実施、特定のフィブリル化時間もしくは速度、または同様のプロセスパラメータを含んでもよい。
【0065】
一実施形態は、医療用ヒドロゲルを作製するための方法であって、
ナノフィブリルセルロースを準備することと、
ナノフィブリルセルロースをヒドロゲルに形成することとを含み、
前記ヒドロゲルは、2500~9000Pa・s、たとえば3000~8000Pa・s、たとえば4000~7000Pa・sの範囲内の粘度と、30~100g/g、たとえば30~60g/g、好ましくは40~50g/gの範囲内の保水度とを有する方法を提供する。
【0066】
ナノフィブリルセルロースは、所望の特性を有するヒドロゲルに形成される。「形成する」とは、たとえば、濃縮、フィブリル化、均質化、任意のさらなる薬剤もしくは物質の添加、または所望の特性を得るための任意の他の措置を含んでもよい。
【0067】
一実施形態では、本方法は、得られた、または準備されたナノフィブリルセルロースを非フィブリル化均質化で均質化することを含む。この処理は、フィブリル化されたナノフィブリルセルロースの不連続性を除去するが、材料をそれ以上フィブリル化しない。均質化は、最終製品の特性を向上させるので、医療用ヒドロゲルの有用性は、使用目的のために最適である。
【0068】
一実施形態では、ヒドロゲルは、3000~8000Pa・sの範囲内の粘度を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、4000~7000Pa・sの範囲内の粘度を有する。これらの粘度は、提供されたヒドロゲルの濃度、すなわち、「自己濃度」で測定され、本明細書に記載されたように、4~8%(w/w)の範囲内であってもよい。それ自体の濃度での粘度は、任意の適切な粘度計を用いて測定することができ、ブルックフィールド粘度とは異なる。試験において、粘度は、温度制御用のペルチェシステムを備えたHAAKE Viscotester iQレオメータ(Thermo Fisher Scientific社、カールスルーエ、ドイツ)を用いて測定された。
【0069】
好ましくは、ヒドロゲルは、絶乾率とも称される、4%(w/w)を超える、たとえば少なくとも4.1%(w/w)の固形分含有量を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、4.1~8%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、4.5~8%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、5~8%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、5~7%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、6~8%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、6~7%(w/w)の範囲内の固形分含有量を有する。そのような固形分含有量は、一般に非常に低い濃度でゲルを形成するナノフィブリル材料に対して比較的高い。しかしながら、高い固形分含有量は、医療用途に有利な性質をもたらすことが見出された。
【0070】
一実施形態では、ヒドロゲルは、30~60g/gの範囲内の保水度を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、40~50g/gの範囲内の保水度を有する。「g/g」は、1グラムのヒドロゲルに対する1グラムの水を表す。したがって、ナノフィブリルヒドロゲルは、乾燥ヒドロゲル1グラム当たり100グラムまでの水を含有する可能性があり、このことは、従来のゲル形成材料では一般的に不可能である。試験されたゲルは、40~50g/gの範囲内の保水度を有し、この保水度は、意図する目的に有利な性質をもたらすことが見出された。特に、ゲルの高い含水量は、ゲルを取り扱う、たとえば、ゲルを破壊することなく創傷から分離することができるようにゲルに靭性をもたらした。保水度は、ナノフィブリルセルロースに有用なコーティングカラー静的保水法であるÅAGWR保水法(Akademi Gravitometric Water Retention)を用いて測定した。一般に、このような高い含水量を有するナノフィブリルセルロースについては、従来の保水度測定方法を使用することができない。
【0071】
一実施形態では、ヒドロゲルは、3000~8000Pa・sの範囲内の粘度、および30~100g/gの範囲内の保水度を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、4000~7000Pa・sの範囲内の粘度、および30~100g/gの範囲内の保水度を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、2500~9000Pa・sの範囲内の粘度、および30~60g/gの範囲内の保水度を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、3000~8000Pa・sの範囲内の粘度、および30~60g/gの範囲内の保水度を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、4000~7000Pa・sの範囲内の粘度、および30~60g/gの範囲内の保水度を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、2500~9000Pa・sの範囲内の粘度、および40~50g/gの範囲内の保水度を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、3000~8000Pa・sの範囲内の粘度、および40~50g/gの範囲内の保水度を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、4000~7000Pa・sの範囲内の粘度、および40~50g/gの範囲内の保水度を有する。
【0072】
一実施形態では、医療用ヒドロゲルは、15~60J/m2の範囲内の圧縮仕事を有する。そのような圧縮仕事は、取り扱い時に欠けたり壊れたりしにくい強固なヒドロゲルを提供することが見出された。ヒドロゲルは、実質的に無傷の状態で創傷または皮膚から取り外すことができた。一実施形態では、ヒドロゲルは、20~55J/m2の範囲内の圧縮仕事を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、25~55J/m2の範囲内の圧縮仕事を有する。一実施形態では、ヒドロゲルは、25~40J/m2の範囲内の圧縮仕事を有する。圧縮仕事は、実施例で説明されるように、テクスチャアナライザを用いて行われた測定から計算されてもよい。
【0073】
一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmで測定された、少なくとも500mPa・s、少なくとも1000mPa・s、または少なくとも1500mPa・s、または少なくとも2000mPa・s、たとえば、少なくとも3000mPa・s、10000mPa・sまで、または15000mPa・sまでのブルックフィールド粘度をもたらす。これらの値は、試験において医療用ヒドロゲルに特に適していることが見出された。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、水に分散したとき、0.8%(w/w)の濃度および10rpmにおいて測定された、1000~10000mPa・s、1500~10000mPa・s、もしくは2000~10000mPa・s、もしくは3000~10000mPa・sの範囲内、または1000~15000mPa・s、1500~15000mPa・s、2000~15000mPa・s、もしくは3000~15000mPa・sの範囲内のブルックフィールド粘度をもたらす。
【0074】
一実施形態では、医療用ヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロースである。アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、所望のフィブリル化度までフィブリル化することができ、本明細書に記載されるように所望の特性を有するゲルを形成する。
【0075】
医療用ヒドロゲルとして使用されるヒドロゲルは、均質である必要がある。したがって、医療用ヒドロゲルを作製する方法は、好ましくは、均質化装置、たとえば本明細書に記載されたものを用いて、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを均質化することを含んでもよい。この好ましくは非フィブリル化均質化工程によって、ゲルから不連続領域を除去することが可能である。医療用途のためにより良好な特性を有する均質ゲルが得られる。ヒドロゲルは、たとえば、熱および/もしくは放射線を使用することによって、ならびに/または滅菌剤、たとえば抗菌剤を添加することによってさらに滅菌されてもよい。
【0076】
医療用製品
ヒドロゲルを含む医療用製品は、いくつかの用途において使用されてもよい。ある特定の分野は、医療用途であり、材料は、生きている組織、たとえば皮膚に適用される。材料は、医療用製品、たとえば、貼付剤、包帯、絆創膏、フィルタなどにおいて使用されてもよい。また、医療用製品は、治療用製品、たとえば、薬剤を含む、治療用貼付剤またはゲルであってもよい。一般的に、ナノフィブリルセルロースを含む製品の表面は、使用中に皮膚に接触するであろう。ナノフィブリルセルロースの表面は、皮膚と直接接触するとき、有利な効果をもたらし得る。たとえば、皮膚の創傷または他の損傷の治癒を促進するか、または医療用製品から皮膚への物質の送達を促進することができる。
【0077】
本明細書において使用される用語「創傷」は、開放性創傷、または閉鎖性創傷を含む、皮膚などの組織の任意の、損傷、外傷、疾病、障害などを表し、創傷の治癒が望まれ、創傷の治癒は本明細書に記載された製品によって促進することができる。創傷は、清潔であってもよく、汚染、感染、またはコロニー化していてもよく、特に、後者の場合、抗菌薬などの治療薬が投与されてもよい。開放性創傷の例は、擦過創、剥離創、切創、挫創、刺創、および穿通創を含む。閉鎖性創傷は、血腫、挫滅傷、縫合傷、移植片、および任意の皮膚の状態、疾病、または障害を含む。皮膚の状態、疾病、または障害の例は、ざ瘡、感染症、小水泡性疾患、口唇ヘルペス、皮膚カンジダ症、蜂巣炎、皮膚炎および湿疹、疱疹、蕁麻疹(hives)、狼瘡、丘疹鱗屑性疾患、蕁麻疹(urticaria)および紅斑症、乾癬、酒さ(rosacea)、放射線関連障害、色素沈着、ムチン沈着症、角化症、潰瘍、委縮症および類壊死、血管炎、白斑症、疣贅、好中球疾患および好酸球疾患、表皮もしくは真皮のメラノーマおよび腫瘍、または表皮および真皮の他の疾病もしくは障害などの、先天性の腫瘍および癌を含む。
【0078】
治療薬を含む医療用製品であって、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルが、1つ以上の治療薬、たとえば、生物活性剤、薬物、または薬剤を含む医療用製品が提供されてもよい。また、医薬品との用語は、治療薬との用語の代わりに互換的に使用されてもよい。治療薬は、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、配合体、活性代謝産物、異性体、フラグメント、アナログなどの形態で提供されてもよい。そのような薬剤は通常、有効量で存在する、活性剤または効果的な薬である。そのような薬剤は、所定量で提供されてもよく、たとえば、所定の期間にわたって所望の薬剤量がもたらされ、標的、たとえば、皮膚または他の組織に所望の影響をもたらすように構成された量で提供されてもよい。製品内の治療薬の含有量は、たとえば0.01~20%(w/w)、たとえば0.05~10%(w/w)の範囲内であってもよい。一実施形態において、製品内の治療薬の含有量は、0.1~5%(w/w)、たとえば0.1~3%(w/w)、0.5~3.5%(w/w)、または0.5~5%(w/w)の範囲内にある。特に、治療薬が含まれる場合、薬剤の、制御された、持続性の、または長期の放出をもたらすことができる。制御された放出は、たとえば、ある期間にわたって所望の放出速度および/もしくは薬剤のプロフィールを得ることを表し、それは、ゲルの選択、たとえばゲルの百分率もしくはゲルの厚さ、放出可能な薬剤の濃度もしくは形態、任意の補助剤の存在、または放出可能な薬剤の、放出速度および/もしくは活性に影響を有する他の条件、たとえば、pH、温度などによって影響され得る。治療薬は、水溶性形態、脂溶性形態、もしくは乳濁液、または他の適切な形態で存在してもよい。治療薬は、たとえば、ゲルが所望の濃度に濃縮される前、もしくは均質化処理の前にヒドロゲルと混合されてもよく、または治療薬は、レディゲル製品に含浸されてもよい。
【0079】
本明細書に記載された医療用製品を用いることによって投与され得る治療薬、または生物活性剤の例は、好ましくは単離された、タンパク質、ペプチド、炭水化物、脂質、核酸、またはそれらのフラグメント;抗菌薬、リドカインなどの鎮痛剤;オピオイド、たとえば、フェンタニルまたはブプレノルフィン;ニコチン;ホルモン、たとえば、エストロゲン、避妊薬、もしくはテストステロン;ニトログリセリン;スコポラミン;クロニジン;抗うつ剤、たとえばセレギリン;ADHD薬、たとえばメチルフェデニデート;ビタミン、たとえばB12またはシアノコバラミン;5-ヒドロキシトリプトファン;アルツハイマー薬、たとえばリバスチグミン;ざ瘡薬;抗乾癬薬、グルココルチコイド、たとえばヒドロコルチゾン;抗アンドロゲン薬、たとえば、ビフルラノル(bifluranol)、シオクトール(cyoctol)、シプロテロン、デルマジノンアセテート、フルチミド、ニルタミド、およびオキセンドロン;抗エストロゲン剤、たとえば、デルマジノンアセテート、エタモキシトリフェトール、タモキシフェン、およびトレミフェン;抗菌薬;麻酔薬;鎮痛薬;抗炎症性化合物または剤;抗ヒスタミン剤;ベータ阻害薬;成長因子;免疫調節薬;または皮膚の疾病または疾患を治療するための薬剤を含む。治療薬は、たとえば、6、12、24、または48時間までの数時間にわたって、貼付剤からの治療薬の、長期、持続性、または延長した放出をもたらすために、たとえば、健康な皮膚、もしくは損傷した皮膚に使用される医療用貼付剤中に使用されてもよい。
【0080】
「徐放」は、持続放出、持効性放出、または徐放性放出とも称され、長期間にわたって一回分の用量の薬物を送達するように設計された、薬物、または薬物を含浸させた担体に関連する。目的は、最大または所望の期間にわたって薬物濃度を治療濃度域内に維持することである。この用語は、一般的に経口投与製剤に関連して使用される。丸剤、カプセル剤および注射用薬物担体(追加の放出機能を有することが多い)に加えて、制御放出薬剤の形態には、ゲル、インプラントおよび装置、ならびに経皮吸収貼付剤が含まれる。欧州薬局方の定義は、次のように記載されている。「徐放製剤は、同じ経路で投与される従来の放出製剤よりもゆっくりとした活性物質の放出を示す放出調節製剤である。徐放は、特別な製剤設計および/または製造方法によって達成される。同義語:持続放出製剤。」
【0081】
一実施形態は、抗菌薬を含む医療用製品を提供する。そのような製品は、創傷の治療に特に適しており、創傷治療特性は、創傷内の有害な微生物に起因する感染を防ぐ抗菌特性と組み合わされる。好適な抗菌薬の例は、特に、局所的抗菌薬、たとえば、バシトラシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ポリミキシン、ムピロシン、テトラサイクリン、メクロサイクリン、スルファセタミド(ナトリウム)、過酸化ベンゾイルなどの、およびアゼライン酸、ならびにそれらの組み合わせを含む。また、別の種類の抗菌薬、たとえば、フェノキシメチルペニシリン、フルクロキサシリン、およびアモキシシリンなどのペニシリン系抗菌薬;セファクロル、セファドロキシル、およびセファレキシンなどのセファロスポリン系抗菌薬;テトラサイクリン、ドキシサイクリン、およびリメサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬;ゲンタマイシンおよびトブラマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬;エリスロマイシン、アジスロマイシン、およびクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬;クリンダマイシン;スルホンアミドおよびトリメトプリム;メトロニダゾールおよびチニダゾール;シプロフロキサン、レボフロキサン、およびノルフロキサンなどのキノロン系抗菌薬などの全身抗菌薬が提供される。
【0082】
アンドロゲンの例は、ボルデノン、フルオキシメステロン、メスタノロン、メステロロン、メタンドロステロン、17メチルテストステロン、17-アルファ-メチルテストステロン3-シクロペンチルエノールエーテル、ノルエタンドロロン、ノルメタンドロン、オキサンドロロン、オキシメステロン、オキシメトロン、プラステロン、スタンロロン、スタノゾロール、テストステロン、テストステロン17-クロラールヘミアセタール、テストステロン17-ベータ-シピオネート、テストステロンエナント酸、テストステロンニコチン酸、テストステロンフェニルアセテート、テストステロンプロピオネート、およびチオメステロンを含む。
【0083】
組成物に含まれてもよい抗生物質の例は、アミノグリコシド(たとえば、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、ストレプトマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、ネオマイシン、エリスロマイシンエストレート/エチルスクシナート、グルセプテート/ラクトビオネート/ステアレート)、βラクタム、たとえばペニシリン(たとえば、ペニシリンG、ペニシリンV、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、アンピシリン、アモキシシリン、チカルシリン、カルベニシリン、メズロシリン、アズロシリン、およびピペラシリン)、セファロスポリン(たとえば、セファレキシン、セファロチン、セファゾリン、セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフロキシム、セフォニシド、セフメタゾール、セフォテタン、セフプロジル、ロラカルベフ、セフェタメト、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフタジジム、セフェピム、セフィキシム、セフポドキシム、およびセフスロジン)、フルオロキノロン(たとえば、シプロフロキサシン)、カルバペネム(たとえば、イミペネム)、テトラサイクリン(たとえば、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン)、マクロライド(たとえば、エリスロマイシン、およびクラリスロマイシン)、モノバクタム(たとえば、アズトレオナム)、キノロン(たとえば、フレロキサシン、ナリジキシン酸、ノルフロキサシン、シプロフロキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、ロメフロキサシンおよびシノキサシン)、グリコペプチド(たとえば、バンコマイシン、テイコプラニン)、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、ニトロフラントイン、リファンピンおよびムピロシン、ならびにポリミキシン、たとえば、PMB、オキサゾリジノン、イミダゾール(たとえば、ミコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、エコナゾール、オモコナゾール、ビフォナゾール、ブトコナゾール、フェンチコナゾール、イソコナゾール、オキシコナゾール、セルタコナゾール、スルコナゾールおよびチオコナゾール)、トリアゾール(たとえば、フルコナゾール、イトラコナゾール、イサブコナゾール、ラブコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、テルコナゾール、およびアルバコナゾール)、チアゾール(たとえば、アバファンギン)、ならびにアリルアミン(たとえば、テルビナフィン、ナフチフィン、およびブテナフィン)、エキノカンジン(たとえば、アニデュラファンギン、カスポファンギン、およびミカファンギン)を含んでもよい。他の抗生物質は、ポリゴジアル、安息香酸、シクロピロクス、トルナフテート、ウンデシレン酸、フルシトシン、または5フルオロシトシン、グリセオフルビン、およびハロプロジンを含んでもよい。
【0084】
抗菌薬は、ざ瘡を治療するために使用されてもよく、たとえば、クリンダマイシン、エリスロマイシン、ドキシサイクリン、テトラサイクリンなどである。過酸化ベンゾイル、サリチル酸、局所的レチノイド薬、たとえば、トレチノイン、アダパレン、もしくはタザロテン、アゼライン酸、またはアンドロゲン阻害剤、たとえばスピロラクトンなどの他の薬剤が使用されてもよい。乾癬は、ステロイド薬、たとえば、コルチコステロイド、保湿用クリーム、カルシポトリオール、コールタール、ビタミンD、レチノイド、タザロテン、アントラリン、サリチル酸、メトトレキサート、またはシクロスポリンによって治療されてもよい。虫刺され、またはツタウルシ暴露は、薬剤、たとえば、ヒドロコルチゾン、エミューオイル、アーモンドオイル、アンモニア、ビサボロール、パパイン、ジフェニルヒドラミン、ツリフネソウ抽出物、またはカラミンで治療されてもよい。これらの治療薬、または他の治療薬のいくつかは、美容用薬剤として分類されてもよい。
【0085】
組成物に含まれてもよい抗菌剤の例としては、銀粒子、特に銀ナノ粒子、銀イオンを放出する薬剤または化合物、グルコン酸クロルヘキシジン、およびポリヘキサメチレンビグアニドが挙げられる。
【0086】
組成物中に含めることができる麻酔薬の例には、プロカイン、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメチオカイン、ピペロカイン、プロポキシカイン、プロカイン、ノボカイン、プロパラカイン、テトラカイン、リドカイン、アルチカイン、ブピバカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、メピバカイン、プリロカイン、ロピバカイン、およびトリメカインを含んでもよい。いくつかの実施形態では、麻酔薬は、リドカインとプリロカインとの組み合わせである。
【0087】
組成物に含まれ得る鎮痛薬の例には、アヘン剤およびその類似体が含まれる。例示的なアヘン剤としては、モルヒネ、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドン、ジヒドロモルヒネ、ペチジン、ブプレノルフィン、トラマドール、フェンタニルおよびベンラファキシンが含まれる。
【0088】
組成物に含めることができる抗炎症性化合物の例は、ヒドロコルチゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、トリアムシノロン、メドリソン、プレドニゾロン、フルランドレノニド、プレドニゾン、ハルシノニド、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、ハルシノニド、フルドロコルチゾン、コルチコステロン、パラメタゾン、ベタメタゾン、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、フェンブフェン、フルルビプロフェン、インドプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、インドメタシン、ピロキシカム、アセトサリチル酸、サリチル酸、ジフルニサル、サリチル酸メチル、フェニルブタゾン、スリンダク、メフェナム酸、メクロフェナム酸ナトリウム、およびトルメチンを含んでもよい。
【0089】
組成物に含まれ得る抗ヒスタミン薬の例としては、ジフェンヒドラミン、ジメンヒドリナート、ペルフェナジン、トリプロリジン、ピリラミン、クロルシクリジン、プロメタジン、カルビノキサミン、トリペレンナミン、ブロムフェニラミン、ヒドロキシジン、シクリジン、メクリジン、クロルプレナリン、テルフェナジン、およびクロルフェニラミンが含まれ得る。
【0090】
組成物中に含まれ得る増殖因子の例は、血管内皮増殖因子(「VEGF」)、NGF-ベータなどの神経増殖因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子、たとえば、aFGFおよびbFGF、上皮成長因子(EGF)、ケラチノサイト成長因子、腫瘍壊死因子、トランスフォーミング成長因子(TGF)、とりわけTGF-アルファおよびTGF-ベータ、たとえば、TGF-ベータ1、TGFベータ2、TGF-ベータ3、TGF-ベータ4、またはTGF-ベータ5、インスリン様成長因子-Iおよび-II(IGF-IおよびIGF-II)、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ならびに脳由来神経栄養因子(BDNF)を含む。
【0091】
組成物に含まれ得る免疫調節剤の例は、シクロスポリンA、グアニルヒドラゾン、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロホスファミドおよびタクロリムスが含まれてもよい。
【0092】
一実施形態は、本明細書に記載されたヒドロゲルを含む医療用製品、たとえば、包帯、貼付剤、またはフィルタを提供する。
【0093】
一実施形態は、創傷を治療、および/または覆うために使用されるヒドロゲルを提供する。一実施形態は、皮膚の創傷、または他の損傷を治療、および/または覆うために使用されるヒドロゲルを提供する。一実施形態は、皮膚の創傷、または他の損傷を、治療するための、および/または覆うための、包帯もしくは貼付剤として使用される、または包帯もしくは貼付剤内のそのようなヒドロゲルを提供する。
【0094】
一実施形態は、開放創、たとえば、擦過創、剥離創、切創、挫創、刺創、および穿通創を治療するために使用するためのヒドロゲルを提供する。一実施形態は、包帯もしくは貼付剤として、または開放創、たとえば、擦過創、剥離創、切創、挫創、刺創、および穿通創を治療するための、包帯もしくは貼付剤として使用するための、または包帯もしくは貼付剤中におけるそのようなヒドロゲルを提供する。開放創は、深部創とも称されてもよく、または開放創は、深部創を含んでもよい。
【0095】
深部創は、より深い細胞膜を含む創傷を表す。一定義によれば、深い創傷は、皮膚の表面の下の1/4インチ(約6.4mm)よりも深く切り込まれたものである。深部創では、皮膚層の下の毛包および腺が損傷を受ける可能性がある。多くの場合、患者の体は、非常に速く瘢痕組織を成長させるので、深い創傷は完全には治癒しない。また、内膜がまだ完全には形成されていない間に、創傷の表面のみが治癒する。より深く、そしてある場合にはより汚く、より大きな創傷は、細菌感染にさらに影響を受けやすい。結果として、これは、治癒過程全体を遅らせるであろう。深部創傷治癒過程は通常、出血、炎症、新たな組織成長および瘢痕化を伴う。実施形態のヒドロゲルを創傷に適用することによって、これらの段階のうちの1つ以上、好ましくはそれらの全てにおいて治癒過程を促進することが可能である。ヒドロゲルは、創傷を湿った状態に保ち、感染から保護し、そして治癒のための自然環境を提供することを助ける。
【0096】
一実施形態は、移植片、たとえば皮膚移植片で覆われた皮膚創傷を治療および/または覆うために使用するためのヒドロゲルを提供する。一実施形態は、移植片、たとえば皮膚移植片で覆われた皮膚創傷を治療および/または覆うための、包帯剤もしくは貼付剤として使用するため、または包帯剤もしくは貼付剤における使用のためのヒドロゲルを提供する。
【0097】
一実施形態は、治療薬を投与するために使用するためのヒドロゲルを提供する。一例では、ヒドロゲルは、それ自体で、またはたとえば貼付剤中に提供されてもよい。一例では、ヒドロゲルは、注射可能な形態で提供されてもよい。本明細書に記載されるように、1つ以上の治療薬がヒドロゲル中に含まれ、たとえば含浸されてもよく、患者への投与は、経皮または経皮的であってもよい。
【0098】
一実施形態は、ヒドロゲルを含む化粧品、たとえば、包帯、マスクまたは貼付剤を提供する。このような製品は、化粧品と称されてもよい。製品は、様々な形状で提供されてもよく、たとえば、マスクは、顔の上、たとえば、目の下、または顎、鼻もしくは額の上にフィットするように設計されてもよい。一実施形態は、化粧品として使用するためのヒドロゲルを提供する。製品は、1以上の美容用薬剤を使用者、たとえば使用者の皮膚に放出するために使用されてもよい。そのような化粧品は、1以上の美容用薬剤を含んでもよい。美容用薬剤は、そこから放出または送達される製品中に含まれてもよく、たとえば含浸されてもよい。製品中の美容用薬剤の含有量は、たとえば、0.01~20%(w/w)、たとえば0.05~10%(w/w)の範囲内であってもよい。一実施形態では、製品中の美容用薬剤の含有量は、0.1~5%(w/w)、たとえば、0.1~3%(w/w)または0.5~5%(w/w)の範囲内である。美容用薬剤は、治療剤について上記で説明したのと同様に製品中に存在してもよく、または提供されてもよく、その逆も同様である。美容用途は、本明細書に記載された医療用途、特に治療薬の投与に類似していてもよい。美容用薬剤は、皮膚の疾患または障害、たとえば本明細書に記載されている疾患または障害を美容的に治療するために使用されてもよい。そのような化粧品は、たとえば、にきび、にきび肌、褐色斑、しわ、油性肌、乾燥肌、老化肌、くも状静脈、日焼け後の紅斑、黒丸などを治療するために使用されてもよい。美容用貼付剤の例は、皮膚クレンザ、たとえば、毛穴クレンザ、ブラックヘッドリムーバ、ストレッチストライプ、マスク様短期貼付剤、短期処理貼付剤、および一晩処置貼付剤を含む。
【0099】
美容用薬剤の例は、ビタミンA、たとえば、レチンアルデヒド(レチナール)、レチノイン酸、パルミチン酸レチニル、およびレチノイン酸レチニル、アスコルビン酸、グリコール酸および乳酸などのアルファ-ヒドロキシ酸などのレチノイドなどの、ビタミンの形態とその前駆体;グリコール;バイオテクノロジー製品;角質溶解薬;アミノ酸;抗菌薬;保湿用クリーム;顔料;抗酸化剤;植物抽出物;クレンジング剤またはメーキャップ除去剤;カフェイン、カルニチン、イチョウ、およびトチノキなどの抗セルライト剤;コンディショナー;アロマセラピー薬および香水などの芳香剤;尿素、ヒアルロン酸、乳酸、およびグリセリンなどの湿潤剤;ラノリン、トリグリセリド、および脂肪酸エステルなどの軟化剤;アスコルビン酸(ビタミンC)、グルタチオン、トコフェロール(ビタミンE)、カロテノイド、コエンザイムQ10、ビリルビン、リポ酸、尿酸、酵素擬態薬、イデベノン、ポリフェノール、セレニウム、フェニルブチルニトロン(PBN)などのスピントラップ剤、タンパク質メチオニン基、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、セレニウムペロキシダーゼ、ヘムオキシゲナーゼなどのFR捕捉剤、一重項酸素捕捉剤、超酸化物捕捉剤、または過酸化水素捕捉剤、またはそれらの組み合わせを含む。美容用薬剤は、水溶性形態、脂溶性形態、もしくはエマルジョン、または別の好適な形態で存在してもよい。
【0100】
本明細書に記載された医療用または美容用ヒドロゲルは、1つ以上の密封パッケージ、または1つ以上の装着用装置、たとえば、所望量のヒドロゲルを含む、シリンジ、アプリケータ、ポンプ、またはチューブ、たとえば、0.5ml~200ml、もしくはそれ以上のサイズのシリンジに組み込まれるか、または詰め込まれるように提供されてもよい。好ましくは、パッケージ装置、または装着用装置は、無菌であるか、滅菌されたか、または滅菌可能である。装着用装置は、密封パッケージ、たとえばプラスチックバッグなど、たとえば、破れやすい部分を有するプラスチック包装、たとえば、紙もしくはプラスチックシート、たとえば、シリンジに一般的に使用される包装にさらに包装されてもよい。装置は、所望の厚さおよび幅および幾何学的形状でヒドロゲルの一定の流れを提供するためのマウスピースまたはノズルを含んでもよい。これらの「すぐに使える」装置は、包装され、殺菌され、貯蔵され、所望の時に使用される。これらの装着用装置は、すぐに使えるキットに組み込まれてもよい。
【0101】
一実施例は、皮膚を美容的に治療する方法であって、本明細書に記載の医療用製品を皮膚に塗布することを含む方法を提供する。
【0102】
一実施形態は、別々の包装に包装された、本明細書に記載の医療用製品を提供する。別々の充填物は、一連の充填物として提供されてもよい。そのような包装製品は通常、滅菌済みとして提供される。包装は、たとえば、瓶、プラスチックバッグ、もしくはチューブ、たとえば加圧チューブ、またはシリンジであってもよい。
【0103】
一実施形態は、本明細書に記載の医療用製品または化粧品を含むキット、たとえば包装製品を提供し、当該キットは、1つ以上の包装に詰められた1つ以上の包装製品を含んでもよい。また、キットは、使用前に製品を前処理するための生理食塩水などを含む容器、またはアプリケータ、たとえばヘラなどの他の材料または機器を含んでもよい。
【0104】
一実施例は、被検体に物質を送達するための方法を提供し、当該方法は、実施形態に記載されているように、治療用または美容用の物質または薬剤などの1つ以上の物質を含む医療用ヒドロゲルを提供し、ヒドロゲルを被検体の皮膚に適用することを含む。
被験体は、患者、または前記物質を必要とする他の任意の被験体、たとえば、ヒトまたは動物であってもよい。ヒドロゲルを皮膚に適用することによって、前記物質は、経皮的に、好ましくは、制御された、および/または延長された放出速度で送達される。
【0105】
一実施例は、皮膚の創傷、または他の損傷もしくは外傷を治療するための方法であって、創傷、損傷、または外傷に本明細書に記載された医療用製品を適用することを含む。ある特定の実施例は、移植片、たとえば皮膚移植片、たとえば、メッシュグラフトまたは全層移植片で皮膚の創傷を治療する方法であって、本明細書に記載された医療用製品を移植片に適用することを含む方法を提供する。
【0106】
移植は、外科的処置を表し、組織自身の血液供給を体にもたらすことなく、体のある部位から別の部位に組織を移動させるか、または別の人間から組織を移動させる。これに代えて、組織が置かれた後、新しい血液供給が増える。自家移植片および同系同種移植片は通常、外来物とはみなされないので、拒絶反応は誘発されない。同種移植片および異種移植片は、臓器受容者によって外来物と認識され、拒絶される。
【0107】
皮膚移植片は、多くの場合、創傷、火傷、感染、または外科的処置による皮膚の損失を治療するために使用される。損傷した皮膚の場合、その皮膚は取り除かれ、新たな皮膚がその場所に移植される。皮膚移植は、処置期間および必要な入院期間を短くし、機能および外見を向上することができる。皮膚移植片の2つの種類は、分層皮膚移植片(表皮+真皮の一部)と、全層皮膚移植片(表皮+真皮の全層)とである。
【0108】
メッシュグラフトは、排液および膨張のために開口部を設けられた、皮膚の、全層、または分層のシートである。メッシュグラフトは、体の多くの場所において有用である。なぜなら、メッシュグラフトは、平らでない表面に適合するからである。メッシュグラフトは、過度に動く場所に置くことができる。なぜなら、メッシュグラフトは、根底にある創傷床を縫合することができるからである。 また、造窓術は、移植片の真下に集まり得る流体の排出口を提供し、排出口は、緊張と感染の危険との低下、ならびに移植片の血管新生の向上を促進する。
【0109】
[実施例]
ナノフィブリルセルロースの製造
カバノキセルロースパルプを「TEMPO」酸化によってアニオン変性させた。変性パルプのカルボン酸含有量は、伝導度滴定によって測定し、1.06mmol COOH/gパルプであった。アニオン性パルプを水に分散させて、3.8~7.9%の範囲内の選択された濃度(固形分含有量)で分散液を形成した。パルプをフィブリル化するために、その分散体を一連の逆回転ロータを通して分散機(Atrex)に3回通した。使用した分散機は、850mmの直径を有し、使用した回転速度は、1800rpmであった。次に、ヒドロゲルを非フィブリル化均質化処理で均質化した。その結果、所望の特性を有するセルロースヒドロゲルが得られた。
【0110】
ナノフィブリルヒドロゲルの特性を、保水容量、レオロジー特性および圧縮強度を測定する試験で調べた。これらの測定値はヒドロゲルの全ての特性を必ずしも完全に反映しているわけではないので、当業者が異なるゲルを皮膚に、接触させ、成形し、適用することによって実際の状況においてゲルの特性を評価する使用者試験も行われた。
【0111】
保水容量
以下の手順に従って保水容量を測定した。
【0112】
ÅAGWR(Akademi Gravitometric Water Retention)は、オーボアカデミー大学によって開発されたコーティングカラー静的保水法である。ÅAGWRヒドロゲルは、ÅAGWRデバイス用に開発されたハイドロゲル保水容量法である。
【0113】
一定の時間および圧力で膜ホイルを通過した試料の液相量を測定した。ヒドロゲル中の吸収水量を算出した。
【0114】
測定にはÅAGWR装置(
図1)を使用した。この装置には、金属製シリンダ、バランスプラグ、およびゴム製測定ベースが含まれる。Whatman 17CHRブロッティングボード、およびWhatman Nucleopore 0.4μm膜ホイル、直径47mm、ならびにストップウォッチおよび化学天秤(精度0.0001g)を使用した。
【0115】
ヒドロゲルの乾燥含量は、試料を105℃の温度で4時間維持することによってオーブン中で測定された。ヒドロゲルの重量は、乾燥前後に測定した。ブロッティングボードは、57mm×57mmの小片に切断された。
【0116】
測定手順は、以下の通りである。
【0117】
測定されるヒドロゲルをスプーンによって完全に混合する。加圧空気を接続し、ÅAGWR装置の測定圧力として0.5barに調整する。ワイヤー側を上にしたバランスの取れたブロッティングボードをゴム製測定台の上に2枚セットする。メンブレンホイルの光沢のある表面を上側にブロッティングボード上に置く。金属製シリンダをフィルタの上に置く。
【0118】
約5gのヒドロゲルをシリンダに投入し、数秒間、バランスプラグをメスシリンダに置くことによってメンブレンに対して面被覆する。ゴム製測定ベースをフィルタおよびシリンダで装置の測定テーブルにセットし、測定テーブルを持ち上げる(シリンダ)。
【0119】
ゴム栓を所定の位置にセットし、圧力をかけ(圧力)、ストップウォッチをスタートさせる。
【0120】
圧力を3分間作用させた後、圧力を解除し(圧力)、測定テーブルを持ち上げて(シリンダ)、ゴム製測定ベースを測定テーブルから取り出す。メンブレンホイルを有するシリンダをブロッティングボードから取り除き、ブロッティングボードを0.1gの精度で秤量する。
【0121】
2回の平行測定を実施する。試験結果が互いに5%を超えて異なる場合は、より多くの平行測定(最大3測定/試料)を実施しなければならない。
【0122】
計算、および結果報告
【数1】
X ヒドロゲル保水量、g/g
A ヒドロゲルの湿潤重量、g
B ヒドロゲルの乾燥重量、g
a ブロッティングボードの湿潤重量、g
b ブロッティングボードの乾燥重量、g
C ヒドロゲル乾燥分含有量
【0123】
ヒドロゲル保水容量試験結果は、2回の平行測定の平均である。測定精度は、0.1g/gである。
【0124】
試験結果が互いに5%を超えて異なる場合は、より多くの平行測定(最大3測定/試料)を実施しなければならない。
【0125】
レオロジー測定
レオロジー測定は、温度制御用のペルチェシステムを備えたHAAKE Viscotester iQレオメータ(Thermo Fisher Scientific社、カールスルーエ、ドイツ)を用いて37℃で行った。結果は、HAAKE RheoWin 4.0ソフトウェア(Thermo Fisher Scientific社)で分析された。全ての測定において1mmの間隙を有する直径35mmの平行な鋼板およびプレートを使用した。各測定の前に、試料を37℃で5分間静置した。制御された応力振幅掃引を実施して、異なるNFCヒドロゲル製剤についての線形粘弾性領域を決定した。全ての振幅掃引において、一定角周波数ω=1Hz、および0.0001~500Paの間の振動応力を用いた。選択された周波数掃引の振動応力は、τ=50Pa(3%NFCハイドロゲル)、τ=80Pa(5.7%NFCハイドロゲル)、τ=100Pa(6.5%NFCハイドロゲル)で、角周波数範囲は、0.6~125.7rads-1であった。せん断断速度を0.1~1000l/sに増加させることによってせん断粘度を測定した。
【0126】
レオロジー測定に使用された設定は、以下の通りであった。
振幅:CSモード→線形粘弾性領域
せん断応力振幅掃引、37℃、t=300秒保持→osc amp sweep、τ=0.0001~500Pa,f=1Hz(6.2832rad/s)
log、16ステップ
周波数:CSモード
一定のせん断応力による周波数掃引、37℃、t=300秒保持、
τ=50Pa(3.2%)、τ=80Pa(5.7%)、およびτ=100Pa(6.8%)
f=0.1~20Hz(すなわち、ω=0.6283rad/s~125.7rad/s)
log、16ステップ
粘度:CRモード
せん断速度(l/s)=0.1~1000
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0127】
【0128】
圧縮仕事
この仕事の目的は、テクスチャアナライザを用いて行われた圧縮試験が、均質化されたナノセルロースシリンダのテクスチャを特徴付けるための適切な方法であるか否かを見出すことであった。試験された試料の乾物(固形分)含有量は、3.2%~7.9%の間で変動した。
【0129】
結果は、試料間の靭性および強度における大きな相違を明らかにした。測定値の再現性は、特に絶乾率が高い試料では、良好なレベルであった。均質化された試料の靭性は、絶乾率の増加と共にほぼ直線的に増加した。
【0130】
方法
テクスチャ分析のために、直径13mmの均質化された円筒状ナノセルロースバーを得た。これらのバーから、約10mm長の片を鋭利なナイフで注意深く切った。測定前に少なくとも1時間、試料を室温(約22℃)で平衡化させた。これらの円筒形試料(直径13mm、高さ1mm)を、
図2に示されるように円筒形プローブを備えたテクスチャアナライザ装置(TA. XTPlus、Stable Micro Systems社、英国)を用いて圧縮した。アルミニウムプローブの直径は、45mmであった。測定には5kgのロードセルを使用した。試料を1mm/sの速度で80%のひずみまで圧縮した、すなわち圧縮距離は試料の初期高さの80%であった。圧縮に必要な力を時間/圧縮距離の関数として記録した。5gのトリガー試験力(trigger force)を超えたときに測定を開始した。各試料バッチについて5つの複製物を測定した。
【0131】
生データ、すなわち距離およびひずみの関数としての圧縮力を分析した。応力-距離曲線にはいくらかの変動が見られたが、これは試料の高さのわずかな差に由来する。同じ高さの試料を切断することは、最も低い絶乾率を有する軟質試料(試料6および11)にとって特に困難であった。圧縮距離を(初期試料の高さに対する)ひずみ%としてプロットした場合、変動性はかなり減少した。応力-ひずみ(または応力-距離)曲線は、全ての試料について同様の形状であった。最初、力は、ひずみとともにほぼ直線的に増加した。続いて、より高いひずみで曲線の傾斜の減少が観察され、これはおそらくゲル構造のある種の崩壊によって引き起こされた。いくつかの試料では、力は、中間ひずみでほぼ一定のレベルに保たれた。最後に、最も高いひずみでは、プローブがベースプレートに非常に近づき始めたときに力が劇的に増加した。
【0132】
最も軟らかい試料と最も頑丈な試料との間に明らかな差を示した各試料の測定曲線から、50%ひずみまでの曲線下面積、すなわち圧縮仕事を
図4に示すように計算した。これは試料の靭性の尺度として採用することができる。計算値は、
図5に「応力-ひずみ曲線下面積、最大50%ひずみ(g%)」として示されている全ての試料についてのものである。試料6~10の「靭性」は、試料の絶乾率が増加するにつれてほぼ直線的に増加した(
図6)。試料14は明らかな異常値であり、それは他の試料と比較して使用された原材料の違いによって説明することができる。試料14に使用されたナノセルロースは未使用ではなかったが、均質化に使用された装置によって既に前処理されていた。等しい絶乾率(8および9)を有する試料も、同様の「靭性」値を示した。
【0133】
曲線下の面積に加えて、10%、50%および80%のひずみでの力も応力-ひずみ曲線から計算した(表7)。力の値は、50%ひずみまで曲線下の決定された面積と非常に良好な相関を示したので、試料間の強度の差について追加情報をあまり提供しなかった。
【表7】
【0134】
テクスチャアナライザを用いて実施される圧縮試験は、均質化されたナノセルロースシリンダのテクスチャを特徴付けるための適切な方法であるように思われる。測定値の再現性は、特に絶乾率が高い試料では良好なレベルであった。均質化された試料の靭性および強度は、絶乾率が増加するにつれてほぼ直線的に増加することが見出された。
【0135】
ユーザーテスト
創傷に対するナノセルロースヒドロゲルプロトタイプの適用性は、フィンランドの病院の専門的な創傷治癒看護師からなる評価委員会によって評価された。看護師の数は、10人であった。看護師は、以下の重要なヒドロゲル特性を評価した。
【0136】
固体性 すなわち、ヒドロゲルは、それ自体では流動してはならない。
【0137】
非粘着性 すなわち、ヒドロゲルは、適用時に使用者の皮膚または手袋に付着してはならず、創傷から容易に除去可能であるべきである。
【0138】
成形性 すなわち、ヒドロゲルは、たとえば、深部創傷の形に成形可能であるべきである。
【0139】
剥離性 すなわち、ヒドロゲルは、創傷からできるだけ無傷で除去可能であるべきである。
【0140】
ヒドロゲルプロトタイプは、20mlシリンジに詰められ、そこから看護師がプロトタイプを分配した。2つの異なる市販のヒドロゲルを参照として使用した。市販1(Purilon)ゲルは、精製水、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびアルギン酸カルシウムからなる。市販2(Hydrosorb社)ゲルは、リンゲル液、グリセロール、ヒドロキシエチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースを含有するヒドロゲルである。
【0141】
処理および評価後、看護師らは、試作品を評価表に評価した。評価の格付けは、5段階で評価された。1=非常に悪い、2=悪い、3=普通、4=良い、5=非常に良い結果の表8は、各ヒドロゲルについての平均評価を示す。
【表8】