(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】人工弁
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20220719BHJP
【FI】
A61F2/24
(21)【出願番号】P 2019535373
(86)(22)【出願日】2017-09-28
(86)【国際出願番号】 CN2017103902
(87)【国際公開番号】W WO2018120949
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2019-08-21
(31)【優先権主張番号】201611238574.8
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516127259
【氏名又は名称】シャンハイ マイクロポート カーディオフロー メドテック シーオー., エルティーディー.
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI MICROPORT CARDIOFLOW MEDTECH CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】501 Newton Road, Z.J. Hi-Tech Park, Shanghai 201203,China
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リウ,シホン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,グオミン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ユ
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0005777(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0127100(US,A1)
【文献】特表2008-539985(JP,A)
【文献】特表2013-543406(JP,A)
【文献】特表2016-538949(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0209141(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工弁であって、
ステントと、
弁尖と、
スカートと、
を備え、
前記ステントは、流入端と、流出端と、複数の軸方向に接続された波形セグメントとを有し、前記波形セグメントのそれぞれは、円周方向に配置された複数の網状構造セルを有し、
前記弁尖と前記スカートのそれぞれは前記ステントに固定され、
前記スカートの上側端部は弁尖固定端部として機能する切り欠きを画定し、前記スカートは前記切り欠きに沿って
前記切り欠きの一端から
他端までとなるように前記弁尖に固定され、前記スカートは前記ステントの前記流出端に向かって延びる第1突出部をさらに有し、前記第1突出部の一方の端は前記切り欠きに接続され、前記第1突出部の他方の端は前記ステントに固定され、
前記弁尖と前記スカートは、前記弁尖固定端部として機能する前記切り欠きに沿って前記ステントに固定され
、
前記スカートの前記上側端部は複数の切り欠きを画定し、前記切り欠きのそれぞれは1つの弁尖に固定され、1つの切り欠きの中の前記第1突出部の数は3つ以下であり、前記切り欠きは前記スカートの下側端部に向かって突出する弧構造を有する人工弁。
【請求項2】
前記第1突出部の他方の端は、前記弁尖の高さの1/2乃至2/3の位置にあり、前記弁尖の高さは前記ステントの軸方向に沿った、前記ステントに固定される前記弁尖の下側端部から前記弁尖の上側端部までの最大直線距離である請求項1に記載の人工弁。
【請求項3】
前記スカートは第2突出部をさらに有し、前記第2突出部の一方の端は前記スカートの下部に接続され、前記第2突出部の他方の端は前記ステントの前記流入端に固定される請求項1に記載の人工弁。
【請求項4】
前記第2突出部の数は、前記ステントの前記流入端に円周方向に配置される網状構造セルの数を超えない請求項
3に記載の人工弁。
【請求項5】
前記スカートは、少なくとも1つのスカートセグメントから構成され、前記スカートセグメントは上側端部と下側端部とを有し、前記スカートセグメントの前記上側端部は弁尖固定端部として機能する切り欠きを画定する請求項1に記載の人工弁。
【請求項6】
前記弁尖固定端部は、前記下側端部に向かって突出する、内側に凹んだ湾曲構造を有する請求項
5に記載の人工弁。
【請求項7】
前記スカートは、前記ステントの外側に配置される折り畳み可能なフラップ構造をさらに有し、
前記スカートは、少なくとも1つのスカートセグメントから構成され、前記スカートセグメントは上側端部と下側端部を有し、前記スカートセグメントの前記上側端部は弁尖固定端部として機能する切り欠きを画定し、前記スカートセグメントは、本体と、前記本体から前記ステントの前記流入端に向かって延びる折り畳み可能なフラップ部とを有し、前記折り畳み可能なフラップ部は折り畳み可能なフラップ構造を形成し、前記スカートセグメントの前記下側端部は、前記折り畳み可能なフラップ部の端部を画定する請求項1に記載の人工弁。
【請求項8】
前記スカートは第2突出部をさらに有し、前記第2突出部の一方の端は前記折り畳み可能なフラップ部の前記端部に接続され、前記第2突出部の他方の端は前記ステントの外側で前記ステントに固定される請求項
7に記載の人工弁。
【請求項9】
前記第2突出部の前記他方の端は、前記ステントの前記流入端からの前記波形セグメントの最初の行の対応する網状構造セルに固定される請求項
8に記載の人工弁。
【請求項10】
前記スカートセグメントの前記本体の長さは、前記折り畳み可能なフラップ部の長さの1.5倍乃至2倍であり、前記スカートセグメントの前記本体の長さは、前記スカートセグメントの前記上側端部から前記折り畳み可能なフラップ部の上側端部までの直線距離であり、前記折り畳み可能なフラップ部の長さは、前記折り畳み可能なフラップ部の前記上側端部から前記スカートセグメントの前記下側端部までの直線距離である請求項
7に記載の人工弁。
【請求項11】
前記スカートセグメントの側面は、互いに接続されて継ぎ目を形成し、前記折り畳み可能なフラップ部の継ぎ目は、前記ステントの前記外側に向かって延びる直線又は前記ステントの前記外側に向かって突出する曲線を有する請求項
7に記載の人工弁。
【請求項12】
前記切り欠きは2つの切り欠き部を有し、前記2つの切り欠き部は、隣接するスカートセグメントの隣接上側端部に位置し、又は1つのスカートセグメントの左右の上側端部に位置し、前記第1突出部は対応する切り欠き部に位置する請求項
5に記載の人工弁。
【請求項13】
前記切り欠き部は副弁尖固定端部として機能し、前記副弁尖固定端部は、対応するスカートセグメントの前記下側端部に向かって突出し、内側に凹んだ湾曲構造を有する請求項
12に記載の人工弁。
【請求項14】
隣接する副弁尖固定端部の曲率半径は、それらの接続端部で等しく、又は/及び、隣接する副弁尖固定端部の長さは1:3から3:1までの範囲の比率である請求項
12に記載の人工弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療機器の分野、特に人工弁に関する。
【背景技術】
【0002】
人の長寿命化と人口の高齢化に伴い、弁膜疾患の発症率が継続して増加している。外国の報告書によると、欧米諸国において、65歳を超える人の2%乃至7%が、冠状動脈性心疾患及び高血圧症に次ぐ3位にランクされる弁膜疾患を患っている。何千人もの人々が毎年外科的弁置換術によって恩恵を受けている。しかしながら、先進諸国においてさえも、病気の後期段階、高齢化及び様々な合併症を含む多くの理由によって、外科治療を受けることができない重度の弁膜疾患を患っている多くの患者が依然として存在している。経カテーテル人工弁の出現及びその性能の益々の改善によって、これらの患者に対して明らかに朗報がもたらされ、有効な治療法が提供されている。
【0003】
この新しい方法は、外科的弁置換術を受けることができない又は外科的弁置換術に高いリスクがある患者に対して安全で有効であることが諸研究によって示されている。外科手術とは対照的に、経カテーテル弁置換術は、胸骨切開及び体外循環サポートを必要としない上に、侵襲が最小限で、合併症が少なく、術後の回復が迅速でかつ患者の痛みが少ない容易に受け入れられる治療である。
【0004】
継続的な進展の末に、いくつかの経カテーテル人工弁が臨床診療に適用されてきた。しかしながら、これらの既存の製品には依然としていくつかの問題点や欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、弁移植後の弁周囲漏出(PVL)及び血栓を軽減するための人工弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のために、本発明はステントと、弁尖と、スカートとを備える人工弁を提供する。ここで、前記ステントは流入端と、流出端と、複数の軸方向に接続される波形セグメントとを有し、前記波形セグメントのそれぞれは円周方向に配置される複数の網状構造セルを有し、前記弁尖と前記スカートのそれぞれは前記ステントに固定される。
前記スカートの上部には切り欠きが設けられ、前記スカートは前記切り欠きによって前記弁尖に固定される。ここで、前記スカートは前記ステントの前記流出端に向かって延びる第1突出部をさらに有し、前記第1突出部の一方の端は前記切り欠きに接続され、前記第1突出部の他方の端は前記ステントに固定される。
【0007】
好適には、前記第1突出部の他方の端は、前記弁尖の高さの1/2乃至2/3の位置にある。
【0008】
好適には、前記第1突出部の数は、前記第1突出部が固定される前記ステントの対応する波形セグメントの網状構造セルの数を超えない。
【0009】
好適には、前記第1突出部の数は1から9までの範囲である。
【0010】
好適には、前記スカートの前記上部には複数の切り欠きが設けられ、前記切り欠きのそれぞれは1つの弁尖に固定され、1つの切り欠きの中の前記第1突出部の数は3つを超えない。
【0011】
好適には、前記第1突出部は鋸歯形状、台形形状又は正弦波形状を有する。
【0012】
好適には、前記スカートは第2突出部をさらに有してもよく、前記第2突出部の一方の端は前記スカートの下部に接続され、前記第2突出部の他方の端は前記ステントの前記流入端に固定される。
【0013】
好適には、前記第2突出部は、鋸歯形状、台形形状又は正弦波形状を有する。
【0014】
好適には、前記第2突出部の数は、前記ステントの前記流入端に円周方向に配置される網状構造セルの数を超えない。
【0015】
好適には、前記第2突出部の数は、3から12までの範囲である。
【0016】
好適には、前記スカートは、少なくとも1つのスカートセグメントから構成され、前記少なくとも1つのスカートセグメントのそれぞれは上側端部と下側端部とを有し、前記切り欠きは前記スカートセグメントの前記上側端部に配置され、前記切り欠きの境界は弁尖固定端部を有する。
【0017】
好適には、前記弁尖固定端部は、前記下側端部に向かって突出する、内側に凹んだ湾曲構造を有する。
【0018】
好適には、前記スカートは、前記ステントの外側に配置される折り畳み可能なフラップ構造をさらに有する。
【0019】
好適には、前記スカートは、少なくとも1つのスカートセグメントから構成されてもよく、前記少なくとも1つのスカートセグメントのそれぞれは上側端部と下側端部を有し、前記切り欠きは前記スカートセグメントの前記上側端部に配置され、前記切り欠きの境界は弁尖固定端部を有し、前記スカートセグメントは、本体と、前記本体から前記ステントの前記流入端に向かって延びる折り畳み可能なフラップ部とを有し、前記折り畳み可能なフラップ部は折り畳み可能なフラップ構造を形成し、前記スカートセグメントの前記下側端部は、前記折り畳み可能なフラップ部の端部を画定する。
【0020】
好適には、前記スカートは第2突出部をさらに有し、前記第2突出部の一方の端は前記折り畳み可能なフラップ部の前記端部に接続され、前記第2突出部の他方の端は前記ステントの外側で前記ステントに固定される。
【0021】
好適には、前記第2突出部の前記他方の端は、前記ステントの前記流入端からの前記波形セグメントの最初の行の対応する網状構造セルに固定される。
【0022】
好適には、前記スカートセグメントの前記本体の長さは、前記折り畳み可能なフラップ部の長さの1.5倍乃至2倍である。
【0023】
好適には、前記スカートセグメントの側面は、互いに接続されて継ぎ目を形成し、前記折り畳み可能なフラップ部の継ぎ目は、前記ステントの前記外側に向かって延びる直線又は前記ステントの前記外側に向かって突出する曲線を有する。
【0024】
好適には、前記切り欠きのそれぞれは2つの切り欠き部を有し、前記2つの切り欠き部は、隣接するスカートセグメントの隣接上側端部に位置し、又は1つのスカートセグメントの左右の上側端部に位置する。
【0025】
好適には、前記切り欠き部の境界は副弁尖固定端部を有し、前記副弁尖固定端部は対応するスカートセグメントの前記下側端部に向かって突出し、内側に凹んだ湾曲構造を有する。
【0026】
好適には、隣接する前記副弁尖固定端部の曲率半径は、それらの接続端部で等しい。
【0027】
好適には、隣接する副弁尖固定端部の長さは1:3から3:1までの範囲の比率である。
【0028】
好適には、前記第1突出部は、対応する切り欠き部に位置し、また前記第1突出部は、鋸歯形状、台形形状、正弦波形状、直角三角形形状又は直角台形形状を有する。
【0029】
要約すると、本発明の人工弁では、スカートの上部にはステントの流出端に向かって延びる第1突出部が設けられてステントに固定される。そのような方法で、一方では、スカートとステントとの間の接続を強化することができる。他方では、人工弁が所望の位置よりわずかに低い位置に移植された場合、第1突出部によって弁周囲漏出の防止高さを大きくすることができ、それによってステントからの血液の一部の漏出を防止し、弁周囲漏出防止効果をさらに向上することができる。
【0030】
特に、前記第1突出部の他方の端は弁尖の高さの1/2乃至2/3の位置にある。これによって、弁周囲漏出の防止高さを大きくすることができ、人工弁の正常な働きを確保し、スカートの材料を削減して血栓形成のリスクを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態1に係る人工弁の展開状態の概略図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る弁尖を用いて組み立てられたスカートの概略図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係るスカートセグメントの概略図である。
【
図4】本発明の実施形態2に係る人工弁の展開状態の概略図である。
【
図5】大動脈に配置された、本発明の実施形態2に係る人工弁の概略図である。
【
図6】本発明の実施形態2に係るスカートセグメントの概略図である。
【
図7】本発明の実施形態2に係る弁尖を用いて組み立てられたスカートの概略図である。
【
図8】本発明の実施形態3に係るスカートセグメントの概略図である。
【
図9】弁尖を用いて組み立てられた、本発明の実施形態3の好適な例に係るスカートの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明により提案される人工弁は、本発明の目的、利点及び特徴をより明確にするために、添付図面の
図1乃至
図8を参照して下記でさらに詳細に説明される。本発明の実施形態の好都合で明瞭な説明を容易にする目的のみのために、図面は、非常に簡略化されており、また必ずしも原寸に比例して示されていないことに留意されたい。
【0033】
本明細書中で使用されるように、用語「近位端」、「下部」、「下端」、「遠位端」、「上部」及び「上端」は、心臓の血液が人工弁を通って流れる方向に対して用いられる。限定する意図はないが、「近位端」、「下部」又は「下端」は人工弁に流れ込む血液に近い端を指し、「遠位端」、「上部」又は「上端」は人工弁から流れ出る血液に近い端を指す。
【0034】
明示的に指定しない限り、本明細書中及び添付の請求項で使用される単数形の「一つ」、「一個」及び「該」は、複数の対象を包含する。明示的に指定しない限り、本明細書中及び添付の請求項で使用される用語「又は」は、通例、「及び/又は」を指す。さらに、「内」、「内部」又は「内側」は人の組織から離れたステントの側を指し、「外」、「外部」又は「外側」は人の組織に近いステントの側を指す。
【0035】
さらに、本明細書の人工弁は、疾患のある弁を置き換えるためのインターベンショナル人工心臓弁として特に実装されてもよいが、本発明はそれに限定されない。具体的な実施形態を参照して、本発明の人工弁を下記に詳細に説明する。
【0036】
<実施形態1>
図1乃至
図3を参照すると、
図1は、本発明の実施形態1に係る人工弁の展開された状態の概略図であり、
図2は、本発明の実施形態1に係る弁尖で組み立てられたスカートの概略図であり、そして
図3は、本発明の実施形態1に係るスカートセグメントの概略図である。
【0037】
図1乃至
図3に示されるように、人工弁10は、ステント1と、弁尖2と、スカート3とを有する。本発明において、ステント1は流入端と流出端を有し、流入端から流出端に向かう方向をステントの軸方向と規定する。少なくとも3つの弁尖2があってステント1に順に接続されて固定される。切り欠き321は、スカート3の上部に設けられる。スカート3は、切り欠き321を用いて弁尖2に固定される。スカート3は、ステント1の流出端に向かって延びる第1突出部323をさらに有し、第1突出部323の一方の端は切り欠き321に接続され、第1突出部323の他方の端はステント1に固定される。流出端は、血液が流出する方向と一致し、流入端は血液が流入する方向と一致する。
【0038】
本発明において、ステント1は複数の軸方向に接続された波形セグメントをさらに有し、波形セグメントのそれぞれは円周方向に配置された複数の網状構造セルを有し、網状構造セルのそれぞれは端部同士が接続された複数の波形ロッドにより構成されている。当業者は、必要に応じて、波形セグメントの数、及び各波形セグメントの網状構造セルの形状、大きさ、密度、並びに波形ロッドの幅と大きさを適切に選択してもよい。本発明において、第1突出部323はステント1に固定され、それによってスカート3とステント1との間の接続を強化することができ、及び人工弁10が所望の位置より低い位置に移植された場合、弁周囲漏出を防止するために高さを高くし、接続強度を確保するとともに弁周囲漏出防止効果を向上することができる。明らかに、第1突出部323とスカート3は別々に製造されてもよい。
【0039】
さらに、
図2に示されるように、スカート3は、少なくとも1つのスカートセグメント31から構成される。この場合、切り欠き321はスカートセグメント31の上側端部32に配置される。通例では、弁尖2とスカート3との間の固定接続は切り欠き321によって達成することができる。切り欠き321の数は、スカート3を構成するスカートセグメント31の数に必ずしも関係しない。複数の切り欠き321が1つのスカートセグメント31に配置されてもよく、あるいは1つのスカートセグメント31に切り欠き321が一つも配置されない。さらに、切り欠き321の境界は、対応する弁尖2とマッチする弁尖固定端部322を有する(
図1参照)。弁尖固定端部322は、対応するスカートセグメント31の下側端部33の方に突出する内向きの凹状曲線の形状を有し、曲線は、対称中心を有する弧等の弧であることが好ましい。弁尖固定端部322の形状は弁尖2の形状と一致することが好ましい。
【0040】
本実施形態では、スカート3は、3つの順次に接続されたスカートセグメント31で構成される。本実施形態では、弁尖2の数は3つである。3つのスカートセグメント31のそれぞれは、上側端部32と、対向する下側端部33とを有し、切り欠き321はスカートセグメント31の上側端部32に位置する。さらに、切り欠き321の境界は、対応する弁尖2とマッチする弁尖固定端部322を有する(
図2参照)。
【0041】
例示的なプロセスにおいて、弁尖2は最初にスカート3に縫合され、両者は、次に、展開可能なステント1に取り付けられ、それによって人工弁10が形成される。スカート3は個々のスカートセグメント31の上側端部32と下側端部33とに沿ってステント1に縫合され、それによってスカート3とステント1との間の固定が達成される。
【0042】
さらに、1つのスカートセグメント31は、対向する側面で他のスカートセグメントと接続されて、縫合を限定する継ぎ目34を画定してもよい(継ぎ目34は縫合操作における実際の縫合線ではない)。本実施形態では、スカートセグメント31の対向する側面のそれぞれは、展開端部35(
図3参照)をさらに有し、展開端部35は隣接スカートセグメント31への接続を容易にして継ぎ目34を形成する。継ぎ目34は、ステント1の横方向の輪郭に依存して、直線又は非直線のいずれであってもよい。このような配置によって、スカート3は、組み立て中に、ステント1にぴったりとフィットすることができる。
【0043】
好適な例において、第1突出部323の他方の端部は、対応する弁尖2の高さの1/2乃至2/3の位置にある(
図1においてより明確に分かるように)。この配置によって、弁周囲漏出防止高さを大きくすることができ、人工弁の正常な働きが確保され、スカートの材料が削減され、そして血栓形成のリスクが低減される。弁尖2の高さは、ステント1の軸方向に沿った、ステント1に固定される弁尖2の下側端部(すなわち、切り欠き321との接続位置)から弁尖2の上側端部(すなわち、ステント1の流出端に近い端部)までの最大直線距離を指すことに留意されたい。従って、第1突出部323の他方の端部は、第1突出部323がステント1に固定された後のステント1の流出端に近い一端部を指す。
【0044】
さらに、本発明は、第1突出部323がステント1の網状構造セルの少なくとも一部を覆う限り、第1突出部323のいかなる特定の形状にも限定されない。好適には、第1突出部323は、鋸歯形状、台形形状、正弦波形状又はその他の類似形状を有する。縫合において、第1突出部323をステント1に固定するために、第1突出部323は、対応する網状構造セルを構成する少なくとも2つの波形ロッドに縫合される。
【0045】
さらに、第1突出部323の数は、ステント1が固定される波形セグメントの網状構造セルの数に依存する。一例において、第1突出部323の数は、波形セグメントの網状構造セルの数以下である。好適には、スカート3の第1突出部323の数は、1から9までの範囲であり、より好適には、第1突出部323は、円周方向に均一に分布される。好適には、1つの切り欠き321の第1突出部323の数は3つを超えず、2つ又は3つが好ましい。
【0046】
別の例において、スカート3は、第2突出部331をさらに有し、第2突出部331の一方の端はスカート3の下部に接続され、第2突出部331の他方の端はステント1の流入端に固定される。具体的には、
図1及び
図3に示されるように、第2突出部331は、ステント1の流入端に向かって延びており流入端に固定され、スカートセグメント31の下側端部33に配置される。第2突出部331の形状に対して特別な制限はなく、好適には、鋸歯形状、台形形状、正弦波形状又はその他の類似形状を有する。好適には、第2突出部331の数は、ステント1の流入端に円周方向に配置される網状構造セルの数に依存する。一例において、第2突出部331の数は、網状構造セルの数以下であり、好適には3から12までの範囲である。
【0047】
本実施形態において、弁尖2とスカート3との間、スカート3とステント1との間、弁尖2とステント1との間、個々の弁尖2間及び個々のスカートセグメント31間の固定は、好適には、高分子材料から作られる外科用縫合糸である縫合線で縫合することによって達成される。本発明における固定は、縫合に限定されず、接着剤を用いる接着等の他の方法を使用することも可能である。本発明は、第1突出部とスカートセグメントとの間のいかなる特定の接続に対しても限定されない。例えば、第1突出部とスカートセグメントは、別個に製作されて、その後縫合によって互いに接続されてもよい。その代わりに、第1突出部はスカートセグメントと一体化されてもよい。同様に、本発明は、第2突出部とスカートセグメントとの間のいかなる特定の接続に対しても限定されず、固定接続又は一体形成のいずれでもよい。
【0048】
<実施形態2>
第1実施形態と同様に、
図4乃至
図7を参照すると、
図4は、本発明の実施形態2に係る人工弁の展開構成の概略図であり、
図5は、大動脈に使用された本発明の実施形態2に係る人工弁の概略図であり、
図6は、本発明の実施形態2に係るスカートセグメントの概略図であり、そして
図7は、本発明の実施形態2に係る弁尖を用いて組み立てられたスカートの概略図である。本実施形態において、実施形態1と同一の要素又は同じ機能を有する要素は同じ参照符号が与えられる。
【0049】
図4乃至
図7に示されるように、スカート3は、互いに接続された3つのスカートセグメント31から構成される。各スカートセグメント31の上側端部32には、切り欠き321が設けられており、切り欠き321の境界は、弁尖固定端部322を画定し、対応する弁尖2と一致する。換言すると、スカートセグメント31のそれぞれは、弁尖固定端部322によって対応する弁尖2に固定接続される。さらに、2つの第1突出部323は、1つの切り欠き321に配置され、第1突出部のそれぞれはステント1の流出端に向かって延び、ステント1に固定される。
【0050】
実施形態1とは異なり、本実施形態に係るスカート3は、ステント1の外側に配置される折り畳み可能なフラップ構造をさらに有する。
図6に示されるように、本体311に加えて、スカートセグメント31は、本体311からステント1の流入端に向かって延びる折り畳み可能なフラップ部312を有し、折り畳み可能なフラップ部312は折り畳み可能なフラップ構造を形成する。具体的には、折り畳み可能なフラップ部312は、本体311の下側端部に接続される上側端部を有し(
図6及び
図7の境界線Iは、本体311と折り畳み可能なフラップ部312との間の境界を示す。境界線Iは、単に説明の便宜のための仮想線であることに留意されたい。)、スカートセグメント31の下側端部33は折り畳み可能なフラップ部312の下側端部に位置し、折り畳み可能なフラップ部312は下側端部33を介してステント1に固定されている。折り畳み可能なフラップ部312は、本体311と一体化されるか又は本体311と別々に製作されて、その後それと一緒に組み立てられるかのいずれでもよい。本発明はこれに対して限定されない。
図5を参照すると、折り畳み可能なフラップは、人工弁10が患者に移植された後で、ステント1と患者の組織との間の隙間を埋めることができる。このようにして、展開構成におけるステント1の不十分な変形によるステント1と弁輪20との間の漏出を防止することができる。
【0051】
好適には、スカートセグメント31の本体311の長さは、折り畳み可能なフラップ部312の長さの1.5倍乃至2倍である。折り畳み可能なフラップ部312が短すぎる場合、所望の位置に縫合することができず、ステント1の流入端部により引き起こされるスカート3の断裂をもたらす。折り畳み可能なフラップ部312が長すぎる場合は、ゆるみ効果は確保することができるが、材料が増大して製品全体の大きさが増大することになる。ここで、スカートセグメント31の本体311の長さは、スカートセグメント31の上側端部32から本体311の下側端部(すなわち、境界線Iの位置)までの直線距離を指し、折り畳み可能なフラップ部312の長さは、折り畳み可能なフラップ部312の上側端部(すなわち、境界線Iの位置)からスカートセグメント31の下側端部33までの直線距離を指す。
【0052】
使用状態において、
図4及び
図5に示されるように、折り畳み可能なフラップ部312は、ステント1の流入端からステント1の流出端に向けて折りたたまれ、ステント1の外側に固定される。好適には、折り畳み可能なフラップ部312の継ぎ目はステントの外側に向けて延びる直線又はステントの外側に向けて突出する曲線から成る。このようにして、折り畳み可能なフラップ部312は、縫合によって緩い構造を形成し、弁周囲漏出をより効果的に防止することを可能にする。つまり、ステント1、スカート3及び弁尖2が互いに縫合された後、スカート3の折り畳み可能なフラップ構造は、ステント1の外面に密着しないで、その間に隙間を残す。
【0053】
さらに、スカートは第2突出部331を有する。第2突出部331は、折り畳み可能なフラップ部312の下側端部(すなわち、スカートセグメント31の下側端部33)から延び、ステント1の外側に固定されるように構成される。すなわち、第2突出部331の一方の端は対応するスカートセグメント31の下側端部33に接続され、第2突出部331の他方の端はステント1の外側に固定される。第2突出部331は、鋸歯形状、台形形状、正弦波形状又はその他の類似形状を有し、それによりステント1への固定が促進される。一例において、第2突出部331はステントが固定される波形セグメントの網状構造セルに縫合される。例えば、第2突出部331はステント1の流入端からの波形セグメントの最初の行の対応する網状構造セルに縫合される(又は実際の状態に依存して、ステント1のその他の位置に縫合される)。最初の行の波形セグメントに固定することによって、弁周囲漏出の防止高さが増大するのみでなく接続強度も増大する。例えば、第2の行の波形セグメントに縫合される第2突出部331を有する実施形態と比較すると、この配列により、必要とされる材料の削減及び血栓形成のリスクの低減が可能になる。
【0054】
第1突出部323と同様に、第2突出部331の数は、ステント1が固定される波形セグメントの網状構造セルの数に依存する。一例において、第2突出部331の数は、当該波形セグメントの網状構造セルの数以下である。例によっては、第2突出部331の数は3から12までの範囲である。第2突出部331は、ステント1の外側に均等に配置されることが好ましい。
【0055】
<実施形態3>
本実施形態では、同一の要素又は同じ機能を有する要素は、実施形態1と同じ参照符号が与えられる。以下の説明は、本実施形態と実施形態1との間の相違点に重点を置く。
【0056】
本実施形態では、スカート3はまた、環状構造を有し、互いに接続された3つのスカートセグメント31から構成される。スカート3には3つの弁尖2とマッチする3つの切り欠きが設けられ、3つの切り欠きのそれぞれは2つの第1突出部を収容する。実施形態2と異なって、3つの切り欠きのそれぞれは2つの切り欠き部、すなわち、第1切り欠き部321aと第2切り欠き部321bを有し、2つの切り欠き部のそれぞれは、隣接するスカートセグメントの隣接上側端部に位置する。換言すると、スカートが複数のスカートセグメントを有する場合、切り欠きのいくつかはそれぞれ2つの切り欠き部を有し、2つの切り欠き部は2つの隣接スカートセグメントに位置する。あるいは、スカートが1つのスカートセグメントのみを有する場合、第1切り欠き部321a及び第2切り欠き部321bは、スカートセグメントの左の上側端部及び右の上側端部に位置する。第1突出部は、切り欠き部に配置される。例えば、各切り欠き部には1つの第1突出部が設けられる。
【0057】
図8に示されるように、スカートセグメント31′は、上側端部32′と下側端部33′とを有する。第1切り欠き部321aは、左の隣接スカートセグメント31′の第2切り欠き部321bと全体の切り欠きを形成するために、スカートセグメント31′の上側端部32′の左側に配置される。第2切り欠き部321bは、右の隣接スカートセグメント31′の第1切り欠き部321aと全体の切り欠きを形成するために、スカートセグメント31′の上側端部32′の右側に配置される。好適には、第1切り欠き部321aと第2切り欠き部321bは、対称に配置される。第1切り欠き部321aは、第1副弁尖固定端部322aを有し、第2切り欠き部321bは、第2副弁尖固定端部322bを有する。さらに
図9に示されるように、スカートセグメント31′の第1切り欠き部321aは、左の隣接スカートセグメント31′の第2切り欠き部321bと
ともに全体の切り欠き321′を形成し、スカートセグメント31′の第1副弁尖固定端部322aは、左の隣接スカートセグメント31′の第2副弁尖固定端部322bと
ともに全体の弁尖固定端部322′を形成する。従って、2つのスカートセグメント31′は、両方とも弁尖2の1つに固定される。このことは、残りのスカートセグメント31′の第1切り欠き部321a及び対応する隣接スカートセグメント31′の第2切り欠き部321bに当てはまる。スカートセグメント31′のそれぞれには、
図9に示されるように、第1切り欠き部321aと第2切り欠き部321bが設けられるが、スカートセグメント31′には、第1切り欠き部321aと第2切り欠き部321bのうちの1つのみが設けられてもよい又は全く設けられなくてもよいことは当業者に理解されるであろう。さらに、スカート3の切り欠き部の数は、それらをペアにすることができるように偶数であるものとする。
【0058】
本実施形態では、副弁尖固定端部は、スカートセグメントの下側端部に向かって突出する内側に凹んだ湾曲構造、好適には弧構造、より好適には円弧構造で構成される。接続される副弁尖固定端部が滑らかな曲線形状を形成するために、副弁尖固定端部は、それの接続端部において等しい曲率半径を有することが好ましい。もちろん、弁尖固定端部322′は他の形状の構造を有してもよく、本発明はこれに関して限定されない。
【0059】
引き続き
図8を参照すると、スカート3は、2つの第1突出部323a及び323bを有する。第1突出部323aは、第1切り欠き部321aに配置され、ステント1の流出端に向かって延び、ステント1に固定される。同様に、第1突出部323bは、第2切り欠き部321bに配置され、ステント1への固定のために同じように延びる。ステント1の流出端に向かって延びる第1突出部323a及び323bは、例えば、縫合手術によってステント1に固定される(縫合構成について
図4及び
図5参照)。第1突出部323a及び323bは対称に配置されることが好ましい。本発明に従って、第1突出部のステント1への固定によって、スカート3とステント1との間の接続を強化することができる。接続強度の確保に加えて、第1突出部は、弁周囲漏出の防止高さを大きくすることもでき、それによって、人工弁10が所望の高さよりわずかに低く移植された場合、ステントからの血液の一部の漏れを防止し、弁周囲漏出の防止効果をさらに向上することができる。
【0060】
さらに、本実施形態では、鋸歯形状、台形形状及び正弦波形状に加えて、第1突出部は、直角三角形形状又は直角台形形状も有してもよい。このようにして、2つのスカートセグメント31′が互いに縫合された場合、1つのスカートセグメント31′の第1突出部323aは、他のスカートセグメント31′の第1突出部323bとともに鋸歯突出部又は台形突出部を形成することができる。
【0061】
上記の実施形態と同様に、隣接スカートセグメント31′は、縫合によって接続され、縫合を限定する継ぎ目34を画定し、継ぎ目34の2つの端部は、それぞれ、2つの隣接する副弁尖固定端部の接続部と、対応するスカートセグメントの下側端部とに位置する。隣接する副弁尖固定端部の長さは、1:3から3:1までの範囲の比率であることが好ましい。例えば、第2副弁尖固定端部322bの長さに対する第1副弁尖固定端部322aの長さの比率は、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1又はその他の適切な値であってもよい。本実施形態では、継ぎ目34は直線であり、その直線の一方の端は隣接する副弁尖固定端部322a及び322bと交わり、他方の端は、直線に沿って、対応するスカートセグメントの下側端部と直交する。この配置によって、副弁尖固定端部322′と対応するスカートセグメント31′の下側端部33′との間の継ぎ目34を最短にし、継ぎ目を縫合する際の必要なスティッチの数を最小限にし、さらに縫合のリスクを低減して使用時の安全性を向上することができる。しかしながら、本発明は継ぎ目34のいかなる特定の形状にも限定されず、継ぎ目は弧状形状又はその他の不規則形状を有してもよい。
【0062】
図9において、副弁尖固定端部322′は、対称中心を有する弧形として示される(すなわち、各スカートセグメント31′の第1副弁尖固定端部322aと第2副弁尖固定端部322b′は、同一である)。従って、継ぎ目34と対応する弁尖固定端部322′との交点は、第1副弁尖固定端部322aと第2副弁尖固定端部322b′の接続点と一致し、弁尖固定端部322′(第1副弁尖固定端部322aと第2副弁尖固定端部322b′から成る)の中ほどに位置し、スカート3の下側端部33′に最も近い弁尖固定端部322′上の点である。この点で隣接スカートセグメント31′を縫合する場合、スティッチが最も少ない最短の縫合長さで継ぎ目34を形成することができる。
【0063】
要約すると、本発明の人工弁では、スカートの上部にはステントの流出端に向かって延びる第1突出部が設けられてステントに固定される。そのような方法で、一方では、スカートとステントとの間の接続を強化することができる。他方では、人工弁が所望の位置よりわずかに低い位置に移植された場合、第1突出部によって弁周囲漏出の防止高さを大きくすることができ、それによってステントからの血液の一部の漏出を防止し、弁周囲漏出防止効果をさらに向上することができる。
【0064】
特に、第1突出部の他方の端は弁尖の高さの1/2乃至2/3の位置にある。これによって、弁周囲漏出の防止高さを大きくすることができ、人工弁の正常な働きを確保し、スカートの材料を削減して血栓形成のリスクを低減することができる。
【0065】
上記の説明は本発明の好適な実施形態の説明のみであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。上記の開示に従って当業者によってなされるあらゆる変形例及び修正は、すべて添付の請求項の保護範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0066】
10 人工弁
1 ステント
2 弁尖
3 スカート
31,31′ スカートセグメント
311 本体
312 折り畳み可能なフラップ部
32,32′ スカートの上側端部
321 切り欠き
321a 第1切り欠き部
321b 第2切り欠き部
322,322′ 弁尖固定端部
322a 第1副弁尖固定端部
322b 第2副弁尖固定端部
33,33′ スカートの下側端部
34 継ぎ目
35 展開端部
323,323a,323b 第1突出部
331 第2突出部
I 境界線
20 弁輪