(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】リン酸バナジウム-炭素複合材料を作製するための液体法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/37 20060101AFI20220719BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220719BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220719BHJP
H01M 10/054 20100101ALN20220719BHJP
【FI】
C01B25/37 M
H01M4/58
H01M4/36 A
H01M10/054
(21)【出願番号】P 2019541233
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(86)【国際出願番号】 FR2018050248
(87)【国際公開番号】W WO2018142082
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2021-01-13
(32)【優先日】2017-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ サイアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】320000296
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ピカルディ ジュール ベルヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】レナルド ダビド
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーヌ シュールサン
(72)【発明者】
【氏名】マチュー モルクレット
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第102774821(CN,B)
【文献】特表2004-533706(JP,A)
【文献】Y. Zhang et al,Core-shell VPO4/C anode materials for Li ion batteries: Computational investigation and sol-gel synthesis,Journal of Alloys and Compounds,2012年,Vol.522,p.167-171
【文献】Jun-chao Zheng et al,Electrochemical properties of VPO4/C Nanosheets and Microspheres As Anode Materials for Lithium-Ion Batteries,ACS Applied materials & interfaces,2014年,Vol.6,p.6223-6226
【文献】Xihui Nan et al,Amorphous VPO4/C with the enhanced performances as an anode for lithium ion batteries,Journal of Materials,2016年,Vol.2,p.350-357
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/37
H01M 4/58
H01M 4/36
H01M 10/054
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式VPO
4/Cに相当するリン酸バナジウム-炭素複合材料を作製するための方法であって、前記方法は、以下の工程:
i)バナジウム前駆体、H
3PO
4、少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物及びポリサッカリド化合物から選択される化合物Aを水性溶媒中で混合する工程であって、少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた前記化合物が炭素前駆体と異なる場合、前記混合物はさらに炭素前駆体化合物を含むことが理解される、工程、
ii)工程i)の混合物を、35℃~100℃の温度に加熱して、固体残留物を形成する工程、並びに
iii)前記固体残留物を、850℃超の温度に加熱する工程、
を含
み、前記工程i)の前記混合物が、バインダーを更に含む、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記バナジウム前駆体が、V
2O
5であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた前記化合物が、2~10個の炭素原子を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた前記化合物が、シュウ酸、クエン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グリコール酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、及びトリカルバリル酸から選択される飽和カルボン酸又はポリカルボン酸であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
モル比(少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物/前記バナジウム前駆体中のバナジウム元素)が、1~2まで変動することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記炭素前駆体化合物が、エチレングリコール及びグリセロールから選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
モル比(炭素前駆体化合物/前記バナジウム前駆体中のバナジウム元素)が、0.05~2まで変動することを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリサッカリド化合物が、カンテンであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程i)の前記混合物が:
- クエン酸、
- 又はシュウ酸、及びエチレングリコール若しくはグリセロール、
- 又はカンテン、
のいずれかを含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた前記化合物が用いられる場合、前記バインダーが、カンテンであることを特徴とする、請求項
1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程iii)が、最大で8時間継続することを特徴とする、請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程iii)が、880℃~900℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記リン酸バナジウム-炭素複合材料が、アモルファス炭素層で覆われたVPO
4の粒子を備えることを特徴とする、
請求項1~12のいずれか1項に記載のリン酸バナジウム-炭素複合材料
の製造方法。
【請求項14】
電極電気化学的活物質の作製のための前駆体としての、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法に従って得られるリン酸バナジウム-炭素複合材料の使用。
【請求項15】
アノード活物質としての、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法に従って得られるリン酸バナジウム-炭素複合材料の使用。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法に従って式VPO
4
/Cのリン酸バナジウムと炭素との複合材料を製造することを含む、Amam結晶系における以下の格子定数:a=9.0294(2)Å、b=9.0445(2)Å、c=10.7528(2)Åを有することを特徴とする、式Na
3V
2(PO
4)
2F
3/Cの複合材料
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸バナジウム-炭素複合材料の作製のための方法、前記方法に従って得られたリン酸バナジウム-炭素複合材料、及び前記複合材料の使用、特に、電極電気化学的活物質、又はアノード活物質の合成のための前駆体としての使用に関する。
【0002】
それは特に、リチウムイオン電池又はナトリウムイオン電池の分野に適用され、その分野では、単純で経済的な方法に従って得ることができると同時に、良好な電気化学的性能も確保される電極活物質に対する需要が高まってきている。
【背景技術】
【0003】
リチウム電池(それぞれ、ナトリウム電池)は、少なくとも1つの負極及び少なくとも1つの正極を備え、それらの間に、固体電解質、又は液体電解質が含浸されたセパレータが配置されている。例えば、液体電解質は、イオンの輸送及び解離を最適化するように選択された溶媒中に溶解されたリチウム塩(又はナトリウム塩)から成り得る。正極は、可逆的にリチウムイオン(それぞれ、ナトリウムイオン)を挿入することができる少なくとも1つの正極活物質を含有する電極材料を支持する集電体によって構成され;負極は、リチウム(それぞれ、ナトリウム)金属(所望に応じて、集電体によって支持されていてもよい)、リチウム(それぞれ、ナトリウム)合金、若しくは金属間リチウム(それぞれ、ナトリウム)化合物のシートから成るか(リチウム電池)(それぞれ、ナトリウム電池)、又は可逆的にリチウムイオン(それぞれ、ナトリウムイオン)を挿入することができる少なくとも1つの負極活物質を含有する電極材料を支持する集電体によって構成されている(リチウムイオン電池:Li-イオン)(それぞれ、ナトリウムイオン:Na-イオン)。各電極材料は、一般的に、バインダーとして作用するポリマー(例:ポリフッ化ビニリデン又はPVF)、及び/又は電子伝導性を付与する剤(例:炭素)、及び/又はイオン伝導性を付与する化合物(例:リチウム塩)(例:それぞれ、ナトリウム塩)をさらに含む。
【0004】
電池の作動時、リチウムイオン(それぞれ、ナトリウムイオン)は、電解質を通って一方の電極から他方の電極へ移動する。電池の放電時、ある量のリチウム(それぞれ、ナトリウム)が、電解質から正極活物質と反応し、同等量が、負極活物質から電解質に導入され、電解質中のリチウム(それぞれ、ナトリウム)の濃度は、こうして一定に維持される。正極へのリチウム(それぞれ、ナトリウム)の挿入は、外部回路を介しての負極からの電子の供給によって相殺される。充電時は、逆の現象が発生する。
【0005】
リン酸バナジウム及び炭素をベースとする材料を作製するための方法がいくつか知られている。例えば、Zhang et al.[J.Alloys and Compounds,2012,522,p.167-171]は、厚さ約8nmのアモルファス炭素フィルムで被覆されたリン酸バナジウムを含む複合材料を形成するためのゾルゲルプロセスについて記載している。より詳細には、化学量論量のV2O5及びシュウ酸が、70℃で1時間撹拌することで水に溶解される。次に、化学量論量のNH4H2PO4が、70℃で上記混合物に添加され、得られた混合物は、ゲルが形成されるまで70℃で4時間保持される。得られたゲルは、次に、100℃で12時間乾燥されて粉末が形成され、粉末はペレットの形態にプレスされる。次に、ペレットは、アルゴン下で350℃に4時間加熱され、炭素源としてのグルコースが、ペレットと共に粉砕される。最後に、得られた混合物は、アルゴン下、750℃で12時間焼成される。しかし、この種のプロセスは、数多くの工程を含み、依然として非常に長時間を要する。さらに、リン酸バナジウム前駆体とグルコースとの密接な粉砕工程が、均質な炭素被覆を得るためには不可欠である。そしてさらに、このプロセスは、アンモニアを発生させるNH4H2PO4を用いていることから、工業化が困難である。
【0006】
加えて、Barker et al.は、米国特許出願公開第2002/0192553号明細書において、NH4H2PO4及びアセチレンブラックの存在下での、空気中での300℃で3時間のV2O5の炭素熱還元、得られた混合物の冷却、その粉砕、続いてのアルゴン下、750℃で8時間のその焼成について記載していた。過剰の炭素の使用によって、リン酸バナジウム及び炭素を含む材料が得られる。しかし、この材料は、マイクロメートルサイズのリン酸バナジウム結晶粒と混合されたマイクロメートルサイズの炭素の顆粒の形態である。したがって、それは、最適化されていない電気化学的性能を有する(以下で述べる例4を参照)。炭素熱還元の代替法は、還元剤として二水素を用いることである。詳細には、V2O5及びNH4H2PO4の混合物が、二水素下で8時間300℃に加熱され、冷却され、粉砕され、次に、二水素下で8時間850℃に加熱される。しかし、リン酸バナジウムを、次に、追加の工程でグルコースなどの炭素源と接触させる必要がある。加えて、NH4H2PO4は、還元性雰囲気下において亜酸化窒素を放出し、これは、用いられる装置/反応器の壁を劣化させる。そしてさらに、上述の方法で用いられる粉砕又はメカノ合成工程は、高価である。
【0007】
水熱経路も、リン酸バナジウム及び場合によっては炭素をベースとする材料の作製のために提案されている。しかし、この経路は、非常に高い圧力及び/又はオートクレーブの使用が必要であるため、製造コストが高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、したがって、上述した先行技術の欠点のすべて又は一部を克服することであり、詳細には、アンモニアなどの有害なガスの放出を回避しながら、リン酸バナジウム及び炭素をベースとする複合材料を作製するための単純で安価な方法(例:工程数が少ししかない)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、まず、式VPO4/Cを有するリン酸バナジウム-炭素複合材料を作製するための方法に関し、その方法は、以下の工程:
i)バナジウム前駆体、H3PO4、少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)及びポリサッカリド化合物(化合物A2)から選択される化合物Aを水性溶媒中で混合する工程であって、少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)が、炭素前駆体と異なる場合、混合物はさらに、炭素前駆体化合物(化合物B)を含むことが理解される、工程、
ii)工程i)の混合物を、約35℃~100℃の温度に加熱して、固体残留物を形成する工程、並びに
iii)固体残留物を、約850℃超の温度に加熱する工程、
を含むことを特徴とする。
【0010】
したがって、本発明の方法は、数少ない工程で、及び経済的に、アンモニアなどの有害なガスの放出を回避しながら、リン酸バナジウム-炭素複合材料の直接の形成を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、式VPO
4/Cの複合材料1のX線回折図を表す。
【
図4】
図4は、式Na
3V
2(PO
4)
2F
3/Cの複合材料3のX線回折パターン、さらには前記複合材料3のTEM画像を表す。
【
図5】
図5は、複合材料B(
図5a)及び複合材料3(
図5b)の、1時間あたり1Naが交換される電流領域での容量(mAh/g)の関数としてのNaに対する電位(ボルト)の曲線、並びに複合材料B(
図5c)及び複合材料3(
図5d)の、サイクル数の関数としてのキャパシタンス曲線(mAh/g)を示す。
【
図6】
図6は、式Na
3V
2(PO
4)
3/Cの複合材料4のX線回折図、さらには前記複合材料4のTEM画像を表す。
【
図7】
図7は、複合材料C(
図5a)及び複合材料4(図b)の、C/10の電流領域での容量(mAh/g)の関数としてのNaに対する電位(ボルト)の曲線、並びに複合材料C(
図5c)及び複合材料4(
図5d)の、サイクル数の関数としてのキャパシタンス曲線(mAh/g)を示す。
【
図8】
図8は、式LiV(PO
4)F/Cの複合材料のX線回折パターン、さらには前記複合材料5のTEM画像を表す。
【
図9】
図9は、複合材料D(
図9a)及び複合材料5(
図9b)の、Cの電流領域での容量(mAh/g)の関数としてのLiに対する電位(ボルト)の曲線、並びに複合材料D(
図9c)及び複合材料5(
図9d)の、サイクル数の関数としてのキャパシタンス曲線(mAh/g)を示す。
【
図10】
図10の
図10aは、例1及び2における温度上昇の過程で得られた残留物;
図10bは、例5における温度上昇の過程で得られた残留物を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
工程i)は、一般的に、15~30°、好ましくは20~25℃(すなわち、室温)の温度で行われる。
【0013】
これによって、バナジウム前駆体、H3PO4(リン酸塩前駆体として)、少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物及びポリサッカリド化合物から選択される化合物A、並びに所望に応じて炭素前駆体化合物を含む水性懸濁液を形成することが可能となる。
【0014】
水性溶媒は、好ましくは水であり、特に蒸留水である。
【0015】
バナジウム前駆体は、好ましくはV2O5である。
【0016】
モル比[H3PO4/バナジウム前駆体中のバナジウム元素]は、一般的に、約1~1.5まで変動する。
【0017】
工程i)終了時点での水性懸濁液中のバナジウム前駆体(例:V2O5)の質量濃度は、約0.1質量%~25質量%まで、好ましくは約0.5~15質量%まで変動する。
【0018】
この方法において、少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)は、キレート化剤として作用する。加えて、化合物A1又は炭素前駆体化合物(化合物B)によって、VPO4粒子を包み込む炭素の層を形成することが可能となる。
【0019】
少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)は、炭素前駆体と同一であっても、又は異なっていてもよい。少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)が、炭素前駆体でもある場合、それは、キレート化剤及び炭素前駆体の両方の役割を担う。したがって、炭素前駆体化合物の添加は不要である。少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)が、炭素前駆体ではない場合、炭素前駆体化合物(化合物B)を用いる必要がある。
【0020】
この方法において、ポリサッカリド化合物(化合物A2)は、キレート化剤及び炭素前駆体の両方として作用する利点を有する。
【0021】
本発明の特に好ましい実施形態によると、少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)は、ポリカルボン酸であり、さらに、より好ましくは、それは、2又は3つのカルボン酸官能基を備える。
【0022】
特定の実施形態では、少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)は、2~10個の炭素原子を、好ましくは2~6個の炭素原子を備える。
【0023】
少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)は、1又は複数のヒドロキシル官能基を、特にカルボン酸官能基のα位に有していてもよい。
【0024】
少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)は、シュウ酸、クエン酸、グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グリコール酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、トリカルバリル酸などの飽和カルボン酸又はポリカルボン酸、並びにマレイン酸、フマル酸、及びアコニット酸などの不飽和カルボン酸又はポリカルボン酸から選択されてよい。
【0025】
飽和カルボン酸又はポリカルボン酸が好ましい。
【0026】
モル比[少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)/バナジウム前駆体中のバナジウム元素]は、一般的に、少なくとも1であり、好ましくは1~約2まで、より好ましくは約1.02~1.5まで変動する。これにより、電気化学的性能を最適化することが可能となる。
【0027】
モル比[ポリサッカリド化合物(化合物A2)/バナジウム前駆体中のバナジウム元素]は、一般的に、少なくとも0.01であり、好ましくは約0.1~約0.6の範囲内である。これにより、電気化学的性能を最適化することが可能となる。
【0028】
炭素前駆体化合物(化合物B)は、ジオール又はトリオールなどのポリオールであってよい。
【0029】
本発明の特に好ましい実施形態によると、炭素前駆体化合物(化合物B)は、エチレングリコール及びグリセロールから選択される。
【0030】
モル比(炭素前駆体化合物(化合物B)/バナジウム前駆体中のバナジウム元素)は、好ましくは約0.05~2まで、より好ましくは約0.25~0.45まで変動する。
【0031】
ポリサッカリド化合物(化合物A2)は、アガロース及び/又はアガロペクチン、及びカラギーネート(carraghenates)を含むポリサッカリドから選択され得る。
【0032】
本発明の特に好ましい実施形態によると、ポリサッカリド化合物(化合物A2)は、カンテンなどのアガロース及び/又はアガロペクチンを含むポリサッカリドである。
【0033】
本発明の特に好ましい実施形態によると、工程i)の混合物は、クエン酸(少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物として)若しくはシュウ酸(少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物として)及びエチレングリコール若しくはグリセロール(炭素前駆体化合物として)、又はカンテン(ポリサッカリド化合物として)のいずれかを含む。
【0034】
工程i)は、一般的に、約1~60分間にわたって継続する。
【0035】
工程i)は、好ましくは、機械的混合である。
【0036】
工程i)の混合物は、特に化合物Aが、炭素前駆体である少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A1)であるか又はポリサッカリド化合物(化合物A2)である場合、ジオール又はトリオールなどのポリオールを含んでいてもよい。
【0037】
ポリオールは、エチレングリコール及びグリセロールから選択されてよい。
【0038】
工程i)の混合物は、バインダーをさらに含んでいてもよい。
【0039】
バインダーは、本発明の方法の実行時における体積の増加を回避することを可能とするものであり、したがって、系を固めることができ、工業化が容易とされる。
【0040】
バインダーは、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル、ポリホルムアルデヒド、ポリ乳酸、又はポリイタコネートなどの合成ポリマー、ポリサッカリド、ポリサッカリド誘導体、又はポリペプチドなどのバイオポリマー、及びこれらの混合物のうちの1つから選択され得る。
【0041】
ポリサッカリドの例としては、特に化合物A1が用いられる場合、カンテンが特に挙げられる。バインダーが用いられる場合、工程i)の固体混合物中のバインダーの割合は、好ましくは約0質量%~約50質量%、より好ましくは約10質量%~約30質量%の範囲内である。
【0042】
固体混合物は、水性溶媒を考慮に入れていない。したがって、それは、バナジウム前駆体、H3PO4、化合物A1又はA2、ならびに存在する場合は化合物Bを含む。
【0043】
割合が50%を超えると、特にイオン伝導性及び/又は比エネルギー密度の減少によって、電気化学的性能が低下する。
【0044】
工程ii)は、水性溶媒を蒸発させて、固体残留物の形成を可能とするものである。
【0045】
工程ii)は、一般的に、空気中で、特にホットプレートを用いて行われる。
【0046】
特定の実施形態では、工程ii)は、約1時間~12時間にわたって継続する。
【0047】
工程ii)は、好ましくは、マグネティックスターラーを用いて行われる。
【0048】
工程i)及びii)は、同時であってよい。
【0049】
工程iii)は、好ましくは少なくとも約30分間、より好ましくは少なくとも約1時間にわたって継続する。
【0050】
特定の実施形態では、工程iii)は、約8時間以下、好ましくは約5時間以下、より好ましくは約3時間以下にわたって継続する。
【0051】
実際、この最大継続時間により、亜リン酸バナジウム(VP)などの副生物の形成を回避することが可能となる。
【0052】
工程iii)は、好ましくは860℃超、より好ましくは約870℃~910℃、より好ましくは約880℃~約900℃の温度で行われる。
【0053】
工程iii)は、アルゴン下又は空気下で行われてよい。
【0054】
工程iii)は、密閉容器中又は開放容器中で実行されてよい。
【0055】
この方法は、工程iii)の終了時点で得られた複合材料が冷却される、特に室温(すなわち、約20~25℃)まで冷却される工程iv)をさらに含んでよい。
【0056】
工程iv)は、水を用いて、好ましくは冷水(室温未満の温度、例えば約20~25℃未満の温度の冷水)を用いて行われてよい。
【0057】
好ましくは、この方法は、粉砕工程及び/又はメカノ合成(「ボールミリング」として知られている)を含まない。
【0058】
この方法は、工程ii)と工程iii)との間に、固体残留物が約200~400℃の温度まで、特に約30分間~約2時間にわたって加熱される工程ii’)をさらに含んでよい。
【0059】
この工程ii’)は、オーブン中で行われてよい。
【0060】
工程ii’)により、開放環境中での考え得る体積増加を抑制することが可能となり得る。
【0061】
好ましくは、この方法は、工程ii)、ii’)、及びiii)以外の加熱工程を含まない。
【0062】
好ましくは、この方法は、高圧の実行(例:3バールのオーダーの圧力)及び/又はオートクレーブの使用を含まない。
【0063】
本発明の第二の目的は、本発明の第一の目的に従う方法によって得られることを特徴とするリン酸バナジウム-炭素複合材料である。
【0064】
特に、本発明の複合材料は、アモルファス炭素層で被覆されたVPO4粒子を含む。
【0065】
本発明のリン酸バナジウム-炭素複合材料は、先行技術のリン酸バナジウム-炭素複合材料から得られるものと比較して向上された電気化学的性能を呈する電極電気化学的活物質が得られるという利点を有する。
【0066】
本発明はしたがって、その第三の目的として、電極電気化学的活物質、特にNa3V2(PO4)2F3/C、Na3V2(PO4)3/C、又はLiVPO4F/Cなどのポリアニオン型カソードの活物質を作製するための前駆体としての、本発明の第一の目的に従う方法によって得られるリン酸バナジウム-炭素複合材料の使用を有する。
【0067】
本発明の第四の目的は、本発明の第一の目的に従う方法によって得られるリン酸バナジウム-炭素複合材料のアノード活物質としての使用である。
【0068】
本発明は、第五の目的として、本発明の第二の目的に従う、又は本発明の第一の目的に従う方法によって得られる式VPO4/Cのリン酸バナジウム-炭素複合材料から得られることを特徴とする式Na3V2(PO4)2F3/Cの複合材料を有する。
【0069】
この複合材料は、好ましくは、以下の格子定数を有する:Amam結晶系において、a=9.0294(2)Å、b=9.0445(2)Å、c=10.7528(2)Å。
【0070】
本発明のNa3V2(PO4)2F3/C複合材料は、先行技術の複合材料よりも高いバナジウムIII/バナジウムIVモル比を有する。これによって、向上された電気化学的性能を得ることが可能となる。このより高いモル比は、好ましくは、10.752Å以上の格子定数cと言い換えられる。
【0071】
さらに、本発明者らは、驚くべきことに、本発明の複合材料Na3V2(PO4)2F3/Cが、先行技術の複合材料よりも高いタップ密度を有することを見出した。タップ密度は、好ましくは、体積測定装置、特に、J. Engelsmann AG社からSTAV IIの商品名で販売されている体積計を用いて、好ましくは、250mLの体積及び1250回の振動のパラメータで測定される。
【0072】
タップ密度は、欧州薬局方、DIN ISO787 Part 11、ISO 3953、及びASTM B527-93の条件に従って得られる。
【0073】
本発明のNa3V2(PO4)2F3/C複合材料のタップ密度は、好ましくは約0.5g/cm3超、好ましくは約1g/cm3超である。
【0074】
本発明の特に好ましい実施形態によると、複合材料Na3V2(PO4)2F3/Cのタップ密度は、約0.5~3.16g/cm3まで、より好ましくは約1~2g/cm3まで変動する。
【0075】
本発明の第六の目的は、以下の格子定数:Amam結晶系においてa=9.0294(2)Å、b=9.0445(2)Å、c=10.7528(2)Å、を有することを特徴とする式Na3V2(PO4)2F3/Cの複合材料である。
【0076】
この複合材料は、本発明の第二の目的に従う、又は本発明の第一の目的に従う方法によって得られる式VPO4/Cのリン酸バナジウム-炭素複合材料から得られ得る。
【実施例】
【0077】
これらの例で用いた原材料を以下に挙げる:
- H3PO4、Alfa Aesar、85%水溶液、
- V2O5、Alfa Aesar、99.2%、
- クエン酸、Alfa Aesar、99+%、
- シュウ酸、Sigma Aldrich、98%、
- エチレングリコール、Fluka、>99.5%、
- カンテン、Fisher BioReagents、BP2641-1
- Na3PO4、Acros Organic、純粋無水物、
- NaF、Sigma Aldrich、>99%、
- 蒸留水、及び
- アルゴン 5.0、Messer
【0078】
特に断りのない限り、すべての物質は、製造業者から受け取った状態で用いた。
【0079】
例1
本発明に従う方法による式VPO4/Cの複合材料1の作製
4.04gの酸化バナジウム(V2O5)、5.12gのリン酸(H3PO4)、4.2gのシュウ酸、及び0.9gのエチレングリコールを、ビーカー中、20mLの蒸留水と混合した。
【0080】
得られた混合物を、マグネティックスターラーで撹拌しながら12時間にわたって85℃に加熱し、水を蒸発させた。得られた残留物を、石英管中、アルゴン雰囲気下で1時間にわたって890℃に加熱した。
【0081】
次に、水を用いてこの管を室温まで冷却した。
【0082】
粉末の形態で得られた複合材料1を、D8の商品名でBrukerから販売されている回折計(CuKα放射線)を用いてX線回折(XRD)によって分析した。サンプルを、16~50°2θでスキャンした。
【0083】
図1は、式VPO
4/Cの複合材料1のX線回折図を表す。
【0084】
図1の回折ピークはすべて、以下の格子定数:a=5.2399(4)Å、b=7.7886(6)Å、及びc=6.2956(4)Åを有するCmcm結晶系で指数付けされ、これは、Glaum et al.[Zeitschrift fuer Kristallographie (1979-2010),1992,198,p.41-47]による記述と一致している。
【0085】
式VPO4/Cの複合材料1中の炭素の量を、熱重量分析(TGA)によって分析した。毎分約10℃の昇温速度を約25℃から約680℃まで用い、680℃のステップを1時間行った。気相の組成を、質量分光分析(MS)での加熱と並行してモニタリングした。それは、複合材料の総質量に対しておよそ4.8質量%であった。
【0086】
複合材料1を、FEI社からFEI TECNAI G2の商品名で販売されている顕微鏡を用いて、透過型電子顕微鏡(TEM)によっても分析した。
【0087】
図2は、複合材料1のTEM画像を表す。リン酸バナジウムを包み込む、約5nm厚さの炭素シェルの存在が確認される。
【0088】
例2
本発明に従う方法による式VPO4/Cの複合材料2の作製
4.04gの酸化バナジウム(V2O5)、5.12gのリン酸(H3PO4)、及び5.6gのクエン酸を、ビーカー中、20mLの蒸留水と混合した。
【0089】
得られた混合物を、マグネティックスターラーで撹拌しながら12時間にわたって85℃に加熱し、水を蒸発させた。得られた残留物を、石英管中、アルゴン雰囲気下で1時間にわたって890℃に加熱した。
【0090】
次に、水を用いてこの管を室温まで冷却した。
【0091】
粉末の形態で得られた複合材料2を、例1で述べた装置を用いてX線回折(XRD)によって分析した。サンプルを、16~50°2θでスキャンした。
【0092】
式VPO
4/Cの複合材料2のX線回折パターンは、例1の複合材料で得られたパターンに類似していた(
図1参照)。
【0093】
式VPO
4/Cの複合材料2のTEM画像は、例1の複合材料で得られた画像に類似していた(
図2参照)。
【0094】
式VPO4/Cの複合材料2中の炭素の量を、例1と同様にATGによって分析した。それは、複合材料の総質量に対して約4.5質量%であった。
【0095】
比較例3
本発明に従わない方法による材料Aの作製
4.04gの酸化バナジウム(V2O5)、5.12gのリン酸(H3PO4)、4.2gのシュウ酸、及び0.9gのエチレングリコールを、ビーカー中、20mLの蒸留水と混合した。
【0096】
得られた混合物を、マグネティックスターラーで撹拌しながら12時間にわたって85℃に加熱し、水を蒸発させた。得られた残留物を、石英管中、アルゴン雰囲気下で10時間にわたって850℃に加熱した。
【0097】
次に、水を用いてこの管を室温まで冷却した。
【0098】
粉末の形態で得られた材料Aを、例1で述べた装置を用いてX線回折(XRD)によって分析した。サンプルを、20~40°2θでスキャンした。
【0099】
図3は、材料AのX線回折パターンを表しており、それぞれ例1及び2で得られた複合材料1及び2とは非常に異なるアモルファス材料であることを示している。
【0100】
例4
本発明に従う方法によって得た式VPO4/Cの複合材料の、電極電気化学的活物質を作製するための前駆体としての使用
4.1 Na3V2(PO4)2F3/Cの作製
例1で得た式VPO4/Cの複合材料の4gを、ボールを備えたTurbula型スペースミキサーを用いて、1.22gのNaFと12時間にわたって混合した。次に、得られた混合物を、石英管中、アルゴン雰囲気下で1時間にわたって700℃に加熱した。次に、水を用いてこの管を室温まで冷却した。
【0101】
粉末の形態で得られた式Na3V2(PO4)2F3/Cの複合材料3を、例1で述べた装置を用いてX線回折(XRD)によって分析した。サンプルを、16~50°2θでスキャンした。リートベルトモデルを用いて、材料の格子定数を精密化した。
【0102】
図4は、式Na
3V
2(PO
4)
2F
3/Cの複合材料3のX線回折パターン、さらには前記複合材料3のTEM画像を表す。
【0103】
図4の回折ピークはすべて、以下の格子定数:a=9.0294(2)Å、b=9.0445(2)Å、c=10.7528(2)Åを有するAmam結晶系で指数付けされ、これは、Bianchini et al.[Chem.Mater.,2015,27,8,p.3009-3020]による記述と一致している。
【0104】
式Na3V2(PO4)2F3/Cの複合材料のタップ密度は、J. Engelsmann AG社からSTAV IIの商品名で販売されている体積計を用いて、250mLの体積(ISO 787)及び1250回の振動のパラメータで測定し、約1.3g/cm3であった。
【0105】
比較のために、式Na3V2(PO4)2F3/Cの複合材料Bを、Barker et al.[米国特許出願公開第2002/0192553号明細書、炭素熱還元、例1(a)]の方法に従って得たVPO4/Cから作製した。
【0106】
このために、5.40gのV2O5、6.83gのNH4H2PO4、及び0.76gのSP炭素を混合し、粉砕し、顆粒に変換した。次に、この顆粒を、オーブン中、空気下で300℃まで加熱し(毎分2℃の昇温)、続いて300℃で3時間、その後800℃で8時間の加熱を維持した。得られた混合物を室温まで冷却した。こうして、VPO4/Cの黒色粉末を得た。式Na3V2(PO4)2F3/Cの複合材料Bを、複合材料3の作製で記載したものと同じ手順に従って、このVPO4/Cから作製した。
【0107】
複合材料3を、その電気化学的性能の観点から分析し、複合材料Bと比較した。
【0108】
このために、ボタンセル型のセルを用いて電気化学的試験を行った。フィルムの形態の電極を、87.1質量%の活物質(すなわち、複合材料3又はB)、7.7質量%の炭素、及び5.2質量%のPVFを含む配合インクから、空気中で作製した。ボタンセルを、グローブボックス中で組み立てた。電気化学的セルは、以下を含んでいた:
- 正極として、活物質(すなわち、複合材料3又はB)を含む電極フィルム、
- 負極として、ナトリウムシート、
- 正極と負極との間に挿入されるセパレータとして、Whatman GF/Dカテゴリー1823070ガラス繊維、及び
- エチレンカーボネート/炭酸ジメチルの混合物(質量比1/1)中に溶解されたナトリウム塩NaPF6(約1mol/L)、及び3質量%の炭酸フルオロエチレンを含む溶液の液体電解質。
【0109】
図5は、複合材料B(
図5a)及び複合材料3(
図5b)の、1時間あたり1Naが交換される電流領域での容量(mAh/g)の関数としての,Naに対する電位(ボルト)の曲線、並びに複合材料B(
図5c)及び複合材料3(
図5d)の、サイクル数の関数としてのキャパシタンス曲線(mAh/g)を示す。
【0110】
図5は、活物質が本発明の方法に従って得られた複合材料から作製された場合の、サイクルの良好な安定性を明らかに示している。
【0111】
4.2 Na3V2(PO4)3/Cの作製
例1で得た式VPO4の4gを、ボールを備えたTurbula型スペースミキサーを用いて、1.59gのNa3PO4と12時間にわたって混合した。次に、得られた混合物を、石英管中、アルゴン雰囲気下で1時間にわたって810℃に加熱した。
【0112】
次に、水を用いてこの管を室温まで冷却した。
【0113】
粉末の形態で得られた式Na3V2(PO4)3/Cの複合材料4を、例1で述べた装置を用いてX線回折(XRD)によって分析した。サンプルを、16~50°2θでスキャンした。
【0114】
図6は、式Na
3V
2(PO
4)
3/Cの複合材料4のX線回折図、さらには前記複合材料4のTEM画像を表す。
【0115】
図6の回折ピークはすべて、以下の格子定数:a=8.7217(2)Å、b=8.7217(2)Å、及びc=21.8485(7)Åを有するR-3c結晶系で指数付けされ、これは、Zatovsky et al.[Acta Crystallographica,Section E.,Structure Reports Online,2010,66,2,pi12-pi12]による記述と一致している。
【0116】
比較のために、式Na3V2(PO4)3/Cの複合材料Cを、Barker et al.[米国特許出願公開第2002/0192553号明細書、炭素熱還元、例1(a)]の方法に従って得たVPO4/Cから作製した。したがって、VPO4/Cを、上記例4.1に記載の方法と同一の方法に従って作製し、次に、式Na3V2(PO4)3の複合材料Cを、複合材料4の作製で述べた方法と同様にしてこのVPO4/Cから作製した。
【0117】
複合材料4を、その電気化学的性能の観点から分析し、複合材料Cと比較した。
【0118】
このために、ボタンセル型のセルを用いて電気化学的試験を行った。フィルムの形態の電極を、85.5質量%(それぞれ、80質量%)の複合材料4(それぞれ、質量基準の複合材料C)、9.8質量%の炭素(それぞれ、14.2質量%)の炭素、及び4.7質量%(それぞれ、5.8質量%)のPVFを含む配合インクから、空気中で作製した。ボタンセルを、グローブボックス中で組み立てた。電気化学的セルは、以下を備えていた:
- 正極として、活物質(すなわち、複合材料4又はC)を含む電極フィルム、
- 負極として、ナトリウムシート、
- 正極と負極との間に挿入されるセパレータとして、Whatman GF/Dカテゴリー1823070ガラス繊維、及び
- エチレンカーボネート/炭酸ジメチルの混合物(質量比1/1)中に溶解されたナトリウム塩NaPF6(約1mol/L)、及び3質量%の炭酸フルオロエチレンを含む溶液の液体電解質。
【0119】
図7は、複合材料C(
図5a)及び複合材料4(図b)の、C/10の電流領域での容量(mAh/g)の関数としてのNaに対する電位(ボルト)の曲線、並びに複合材料C(
図5c)及び複合材料4(
図5d)の、サイクル数の関数としてのキャパシタンス曲線(mAh/g)を示す。
【0120】
図7は、活物質が本発明の方法に従って得られた複合材料から作製される場合の、サイクルの良好な安定性を明らかに示している。
【0121】
4.3 LiV(PO4)F/Cの作製
例1で得た式VPO4の4gを、ボールを備えたTurbula型スペースミキサーを用いて、0.68gのLiFと12時間にわたって混合した。次に、得られた混合物を、石英管中、アルゴン雰囲気下で1時間にわたって700℃に加熱した。
【0122】
次に、水を用いてこの管を室温まで冷却した。
【0123】
粉末の形態で得られた式LiV(PO4)F/Cの複合材料を、例1で述べた装置を用いてX線回折(XRD)によって分析した。サンプルを、16~50°2θでスキャンした。
【0124】
図8は、式LiV(PO
4)F/Cの複合材料のX線回折パターン、さらには前記複合材料5のTEM画像を表す。
【0125】
図8の回折ピークはすべて、以下の格子定数:a=5.1751(5)Å、b=5.3041(4)Å、c=7.2481(6)Å、α=107.507(4)°、β=107.847(5)°、及びγ=98.450(4)°を有するP-1結晶系で指数付けされ、これは、Ateba Mba et al.[Chemistry of Materials,2012,24,6,p.1223-1234]による記述と一致している。
【0126】
比較のために、式LiV(PO4)F/Cの複合材料Dを、Barker et al.[米国特許出願公開第2002/0192553号明細書、炭素熱還元、例1(a)]の方法に従って得たVPO4/Cから作製した。したがって、VPO4/Cを、上記例4.1に記載の方法と同一の方法に従って作製し、次に、式LiV(PO4)F/Cの複合材料Dを、複合材料5の作製で述べた方法と同様にしてこのVPO4/Cから作製した。
【0127】
複合材料5を、その電気化学的性能の観点から分析し、複合材料Dと比較した。
【0128】
このために、ボタンセル型のセルを用いて電気化学的試験を行った。フィルムの形態の電極を、86.5質量%(それぞれ、87.1質量%)の複合材料5(それぞれ、質量基準の複合材料D)、8.7質量%の炭素(それぞれ、7.7質量%)の炭素、及び4.8質量%(それぞれ、5.2質量%)のPVFを含む配合インクから、空気中で作製した。ボタンセルを、グローブボックス中で組み立てた。電気化学的セルは、以下を備えていた:
- 正極として、活物質(すなわち、複合材料5又はC)を含む電極フィルム、
- 負極として、リチウムシート、
- 正極と負極との間に挿入されるセパレータとして、Whatman GF/Dカテゴリー1823070ガラス繊維、及び
- エチレンカーボネート/炭酸ジメチルの混合物(質量比1/1)中に溶解されたLiPF6ナトリウム塩(約1mol/L)、及び3質量%の炭酸フルオロエチレンを含む溶液の液体電解質。
【0129】
図9は、複合材料D(
図9a)及び複合材料5(
図9b)の、Cの電流領域での容量(mAh/g)の関数としてのLiに対する電位(ボルト)の曲線、並びに複合材料D(
図9c)及び複合材料5(
図9d)の、サイクル数の関数としてのキャパシタンス曲線(mAh/g)を示す。
【0130】
図9は、活物質が本発明の方法に従って得られた複合材料から作製される場合の、サイクルの良好な安定性を明らかに示している。
【0131】
例5
本発明に従う式VPO4/Cの複合材料6の作製
本発明に従った、ビーカー中の、50mLの蒸留水との、4.04gの酸化バナジウム(V2O5)、5.12gのリン酸(Na3PO4)、及び2gのカンテン。
【0132】
得られた混合物を、マグネティックスターラーで撹拌しながら12時間にわたって80℃に加熱し、水を蒸発させた。得られた残留物を、石英管中、アルゴン雰囲気下で1時間にわたって890℃に加熱した。
【0133】
次に、水を用いてこの管を室温まで冷却した。
【0134】
カンテンの使用により、例1及び2で用いられた少なくとも1つのカルボン酸官能基を備えた化合物(化合物A
1)、及び存在する場合は炭素の前駆体(化合物B)の、リン酸との接触時の分解によって生成されるガスの発生の克服;並びに、
図10(10a:例1及び2における温度上昇の過程で得られた残留物;10b:例5における温度上昇の過程で得られた残留物)に示される890℃への温度上昇の過程で見られる混合物の体積膨張の抑制が同時に可能となる。
【0135】
粉末の形態で得られた複合材料6を、例1で述べた装置を用いてX線回折(XRD)によって分析した。サンプルを、16~50°2θでスキャンした。
【0136】
式VPO
4/Cの複合材料6のX線回折パターンは、例1の複合材料で得られたパターンに類似していた(
図1参照)。
【0137】
式VPO
4/Cの複合材料6のTEM画像は、例1の複合材料で得られた画像に類似していた(
図2参照)。
【0138】
式VPO4/Cの複合材料6中の炭素の量を、例1と同様にATGによって分析した。それは、材料の総質量に対して約5質量%であった。
【0139】
例7
本発明に従う方法による式VPO4/Cの複合材料7の作製
4.04gの酸化バナジウム(V2O5)、5.12gのリン酸(H3PO4)、5.4gのクエン酸、及び0.8gのカンテンを、ビーカー中、30mLの蒸留水と混合した。
【0140】
得られた混合物を、マグネティックスターラーで撹拌しながら12時間にわたって85℃に加熱し、水を蒸発させた。得られた残留物を、石英管中、アルゴン雰囲気下で1時間にわたって890℃に加熱した。
【0141】
次に、水を用いてこの管を室温まで冷却した。
【0142】
粉末の形態で得られた複合材料7を、例1で述べた装置を用いてX線回折(XRD)によって分析した。サンプルを、16~50°2θでスキャンした。
【0143】
式VPO
4/Cの複合材料7のX線回折パターンは、例1の複合材料で得られたパターンに類似していた(
図1参照)。
【0144】
式VPO
4/Cの複合材料7のTEM画像は、例1の複合材料で得られた画像に類似していた(
図2参照)。
【0145】
式VPO4/Cの複合材料7中の炭素の量を、例1と同様にATGによって分析した。それは、複合材料の総質量に対して約5質量%であった。