(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】ポリアミン官能基、酸性官能基およびホウ素官能基を含む化合物、ならびにその潤滑剤添加物としての使用
(51)【国際特許分類】
C10M 159/12 20060101AFI20220719BHJP
C07F 5/02 20060101ALI20220719BHJP
C10M 129/54 20060101ALN20220719BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20220719BHJP
C10M 133/04 20060101ALN20220719BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20220719BHJP
C10N 40/26 20060101ALN20220719BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20220719BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220719BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20220719BHJP
C10N 30/10 20060101ALN20220719BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20220719BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20220719BHJP
C10N 40/12 20060101ALN20220719BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20220719BHJP
C10N 40/20 20060101ALN20220719BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20220719BHJP
【FI】
C10M159/12
C07F5/02 C
C10M129/54
C10M139/00 A
C10M133/04
C10N40:25
C10N40:26
C10N30:12
C10N30:06
C10N30:04
C10N30:10
C10N40:08
C10N40:04
C10N40:12
C10N40:30
C10N40:20
C10N50:10
(21)【出願番号】P 2019566315
(86)(22)【出願日】2018-05-30
(86)【国際出願番号】 EP2018064176
(87)【国際公開番号】W WO2018220007
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-14
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505036674
【氏名又は名称】トータル・マーケティング・サービシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(72)【発明者】
【氏名】ロギュ・ド・フュルサ・イザベル
(72)【発明者】
【氏名】ドイヤン・ヴァレリー
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0281014(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0299606(US,A1)
【文献】特開2005-290150(JP,A)
【文献】特表2009-522425(JP,A)
【文献】特表2008-542504(JP,A)
【文献】特表2007-519812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも:
・ヒドロカルビル基によって任意に置換されたヒドロキシ安息香酸、
・ホウ素化合物、
・下記式から選択されたアミン成分
* 式(IV)のジアミン:
R
1NX-Ra-NZ
1Z
2 (IV)
* 式(V)のトリアミン:
R
1NX-Ra-NY-Rb-NZ
1Z
2 (V)
の反応に起因する反応生成物であって、上記式中
Xは、次のものから選ばれた群を表す:水素、アルキル基またはアルケニル基R
2、
Yは、次のものから選ばれた群を表す:水素、アルキル基またはアルケニル基R
4、
Z
1とZ
2は、次のものから独立して選ばれる:水素、アルキル基またはアルケニル基R
3、
R
1、R
2、R
3およびR
4は、独立して、1~40個の炭素原子を有する、アルキル基およびアルケニル基から選ばれ、
RaおよびRbは、独立して、1~20個の炭素原子を有する、
アルキレン基および
アルケニレン基から選ばれ、
Z
1およびZ
2が両方ともアルキル基またはアルケニル基R
3を表わす場合、これらは異なっていてもよい、
反応生成物。
【請求項2】
請求項1に記載の反応生成物であって、ヒドロカルビル基により置換されてもよいヒドロキシ安息香酸は、モノ-アルキル(アルケニル)置換サリチル酸、ジ-アルキル(アルケニル)置換サリチル酸、酸官能性カリックスアレーンおよびその混合物から選ばれる、反応生成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の反応生成物であって、ヒドロカルビル基によって任意に置換されてもよいヒドロキシ安息香酸化合物は、式(I)に対応する、反応生成物。
【化1】
式中:
Rは、1~50の炭素原子を有するヒドロカルビル基を表し、Rは1つ以上のヘテロ原子を含むことができ、
aは整数であり、0、1または2を表す。
【請求項4】
請求項3に記載の反応生成物であって、ヒドロカルビル基によって任意に置換されてもよいヒドロキシ安息香酸化合物は、式(IA)に対応する、反応生成物。
【化2】
【請求項5】
請求項4に記載の反応生成物であって、ヒドロキシ安息香酸化合物はサリチル酸である、反応生成物。
【請求項6】
請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の反応生成物であって、ホウ素化合物は下記:
ホウ酸、ホウ酸複合体、三酸化二ホウ素、トリアルキルホウ酸塩(ここでアルキル基は、独立して1~4つの炭素原子を含む)、C
1-C
12アルキルボロン酸、C
1-C
12ジアルキルホウ酸、C
6-C
12アリールホウ酸、C
6-C
12ジアリールホウ酸、C
7-C
12アラルキルホウ酸、C
7-C
12ジアラルキルホウ酸、または、これらの1つ以上のアルコキシユニットによるアルキル基の置換により由来する化合物から選択される、反応生成物。
【請求項7】
請求項6に記載の反応生成物であって、ホウ素化合物はホウ酸である、反応生成物。
【請求項8】
請求項1~7のうちのいずれか一項に記載の反応生成物であって、アミン成分は式(IVA)に対応する化合物から選ばれる、反応生成物。
【化3】
x=2、3、4。
【請求項9】
請求項1~7のうちのいずれか一項に記載の反応生成物であって、アミン成分は式(VB)に対応する化合物から選ばれる、反応生成物。
【化4】
x=2、3、4、
y=2、3、4。
【請求項10】
請求項1~9のうちのいずれか一項に記載の反応生成物であって、R
1、R
2、R
3およびR
4は、独立して、14~22の炭素原子を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる、反応生成物。
【請求項11】
請求項10に記載の反応生成物であって、R
1、R
2、R
3およびR
4は、動物性および植物性の油および油脂のいずれかに由来する、反応生成物。
【請求項12】
請求項11に記載の反応生成物であって、R
1、R
2、R
3およびR
4は、獣脂油に由来する、反応生成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の反応生成物および基油を含む潤滑剤組成物。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の反応生成物、または請求項13に記載の潤滑剤組成物の使用であって、2-ストローク海洋エンジンおよび4-ストローク海洋エンジンを潤滑するための、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性有機化合物、ホウ素化合物、および2または3個のアミン官能基を含むアミン成分の反応生成物に関連する。さらに、本発明は、この反応生成物を含む潤滑剤組成物、その製造のための方法およびその用途に向けられる。
【0002】
潤滑剤の主要な機能のうちの1つは摩擦を減少させることである。しかしながら、潤滑油は、効果的に使用されるために、付加的な特性を必要とする場合が多い。例えば、海洋ディーゼルエンジンなどのような大きなディーゼルエンジン中で使用される潤滑剤は、特別な配慮を要求する操作条件においてしばしば用いられる。
【0003】
低速の2-ストロークのクロスヘッドエンジンの中で使用される船舶油としては、2つのタイプがある。一方はシリンダーピストンアセンブリの潤滑を保証するシリンダー油であり、他方はシリンダーピストンアセンブリ以外の全ての可動部の潤滑を保証するシステム油である。シリンダーピストンアセンブリ内では、酸性気体を含んでいる燃焼残留物が潤滑油に接している。
【0004】
酸性ガスは重油の燃焼から形成され;酸性ガスは、主に硫黄酸化物(SO2、SO3)であり、これらは、発生後、燃焼ガス中および/または油中に存在する水分と接触して加水分解される。この加水分解により亜硫酸(HSO3)、または硫酸(H2SO4)が生成される。
【0005】
ピストンライナーの表面を保護し、かつ過度の腐食摩耗を回避するために、これらの酸を中和しなければならない。それは潤滑剤に含まれる塩基性サイトとの反応によって一般に行われる。
【0006】
油の中和キャパシティーは、塩基度を特徴とするBN(アルカリ価)によって測定される。BNはASTM D-2896基準によって測定され、油のグラム当たりに対する水酸化カリウム(potash)のミリグラムによる当量(「KOH/gのmg」または「BNポイント」とも呼ばれる)として表現される。燃料に含まれる硫黄をすべて中和し、かつ燃焼および加水分解によって硫酸に転化することを可能とするに当たり、BNという基準の尺度を利用することにより、使用される重油の硫黄分に対して、シリンダー油の塩基性を調節することが可能になる。
【0007】
したがって、重油の硫黄分が高いほど、海洋オイルのBNを高くする必要がある。このため、市場では5~140mgKOH/gにわたる様々なBNを有する船舶油が存在する。中性清浄剤および/または不溶性金属塩(特に金属炭酸塩)により過塩基性となった清浄剤により、このような塩基度がもたらされる。清浄剤(主として陰イオンのタイプ)は、例えばミセルを形成するサリチル酸塩の金属セッケン、フェネートの金属セッケン、スルホン酸塩の金属セッケン、カルボン酸塩の金属セッケンなどであり、ミセルでは懸濁液中に不溶性金属塩の粒子状物質が維持される。通常の中性清浄剤は、清浄剤1グラム当たり典型的にKOH150mgより小さいBNを本質的に有する。そして通常の過塩基性清浄剤は、通常、清浄剤1グラム当たりKOH150~700mgのBNを本質的に有する。所望のBNレベルの関数として潤滑剤中のそれらの質量百分率が固定される。
【0008】
環境問題の影響により、所定の地域(特に沿岸地区)では、船で使用される重油中の硫黄のレベルを制限するよう要求されている。それにより、IMO(国際海事機関)によって発行された規則MARPOL Annex 6(船からの大気汚染の予防のための規則)が、2005年5月に施行された。これにより、重質油の硫黄分4.5%w/wをグローバルキャップとし、また、硫黄酸化物エミッションコントロール・エリア(SECAと呼ばれる)が設定されている。これらの地域に入る船は、最大の硫黄分が1.5%w/wの重油を使用しなければならず、または、指定された値に従うために硫黄酸化物(SOx)放出を制限する他の代替処理を使用しなければならない。記法w/wは、それが含まれている重油または潤滑組成物の全重量に対する化合物の重量パーセントを示す。
【0009】
近年、MEPC(海洋環境保護委員会)は2008年4月に会合し、MARPOL条約附属書VIを承認した。これらの提案は下記の表中で要約される。それらは、2012年から、最大の硫黄分に対する制限が4.5%w/wから3.5%w/wに低減された世界的な最大含有量をより厳しく扱うシナリオを示す。SECA(硫黄エミッションコントロール・エリア)は、2010年から、最大の許容可能な硫黄分が1.5%w/wから1.0%w/wへさらに低減されるECA(エミッションコントロール・エリア)になり、またNOxと粒子状物質の含量に関係する新しい制限が追加されている。
【0010】
【0011】
大陸間ルートを航海する船は、地域の環境上の制約に応じて異なる重質油を既に使用しており、それにより運転費用を最適化することが可能となる。この状況は、重油の最大の許容可能な硫黄分の最終レベルに関係なく継続するだろう。したがって、現在建築中の大多数のコンテナ船は、一方では高い硫黄分を有する「外洋」重油のために、また、他方では0.1%w/w以下の硫黄を有する「SECA」重油のために利用される燃料庫タンクを備える。これらの2つのカテゴリーの重油間のスイッチングでは、エンジンの操作条件(特に適切なシリンダー潤滑剤の利用)が適応することが必要となる。
【0012】
現在、高い硫黄分(3.5%w/w以下)を有する重油が存在する状態で、約70以下のBNを有する海洋用潤滑剤が使用される。低い硫黄分(0.1%w/w)を有する重油が存在する状態で、約40以下のBNを有する海洋用潤滑剤が使用される。これらの2つのケースでは、海洋用潤滑剤である中性および/または過塩基性清浄剤によって提供される塩基性サイトが必要な濃度に到達しているために、十分な中和能力が達成される。しかし、重油のタイプの変更毎に潤滑剤を変更することが必要である。
【0013】
さらに、これらの潤滑剤の各々には以下の観測に起因する使用上の制限が存在する:低い硫黄分(0.1%w/w)を有する重油が存在する状態で固定の潤滑レベルにおいて高BNシリンダー潤滑剤を使用すると、塩基性サイト(高BN)の著しい過剰を招き、未使用の過塩基性清浄剤(不溶性金属塩を含む)のミセルが不安定化する危険をはらんでいる。この不安定化により、主としてピストン・クラウン上で、不溶性金属塩(例えば炭酸カルシウム)の堆積物が形成され、ライナー研磨タイプの過度の摩耗の危険性へ繋がる。さらに、低いBNシリンダー潤滑剤の使用は、高い硫黄分を有する重油が存在する状態では、全体の中和キャパシティー観点から十分でなく、このように腐食の重要な危険を引き起こす場合がある。
【0014】
その後、したがって、低速2サイクルエンジンのシリンダー潤滑を最適化するに当たっては、重油およびエンジンの操作条件に適したBNを備えた潤滑剤を選択する必要がある。最適化により、エンジン操作の融通が低減し、あるタイプの潤滑剤からの別のタイプへのスイッチングを実行する条件を決定する際には、乗組員側に高度な技術的専門知識が要求される。
【0015】
実際に、海洋エンジン(特に2ストローク海洋エンジン)の操作条件は、厳格性が増した基準である。従って、直接エンジン(特にエンジンの高温部、セグメントピストンポンプアセンブリなど)に接する潤滑剤は、上昇温度に対する抵抗を保証し、それにより、エンジンの高温部中のデポジットの形成を低減または防ぐことにより、燃料の燃焼中に生成される硫酸をより高度に中和することが保証される。
【0016】
高濃度硫黄燃料だけでなく低濃度硫黄燃料の双方において使用することができ、硫酸を良好に中和する能力を持っており、優れた耐熱性を維持し、すなわちエンジンの高温部におけるデポジット形成のリスクを低減することができる、海洋用清浄剤についての要望がある。
【0017】
さらに、高濃度硫黄燃料だけでなく低濃度硫黄燃料の双方において使用することができるBN(顕著にBN 70以下)を有し、硫酸を良好に中和する能力を持っており、優れた耐熱性を維持し、すなわちエンジンの高温部におけるデポジット形成のリスクを低減することができる、海洋用潤滑剤についての要望がある。
【0018】
時間経過(特に使用中に)に対する粘度増加のリスクがなく、またはわずかである、2ストローク海洋エンジン用を含む海洋エンジン用の潤滑剤を持っていることは望ましい。
【0019】
本発明は、前述の欠点をすべて、または部分的に克服する潤滑剤添加剤を提供することを目的とする。本発明の別の目的は、潤滑剤組成物内での処方を実施するのが簡単な潤滑剤添加剤を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、前述の欠点をすべて、または部分的に克服する潤滑剤組成物を提供することである。
【0021】
本発明の別の目的は、処方を実施するのが簡単な潤滑剤組成物を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、海洋エンジン(特に低硫黄燃料および高硫黄燃料の両方と共に使用できる2ストローク海洋エンジン)を潤滑する方法を提供することである。
【0023】
本発明の別の目的は、海洋エンジン(特に、極低硫黄の燃料と共に使用される2ストローク海洋エンジン)を潤滑する方法を提供することである。
【0024】
本発明は、海洋エンジン(特に2ストローク海洋エンジン)の高温部中のデポジットの形成を低減する方法を提供することを他の目的とする。
【0025】
米国2015/0299606は、酸性有機化合物と、ホウ素化合物と、ポリアミン(ポリエチレンイミンなど)と、任意にアルコキシ化アミンおよび/またはアルコキシ化アミドとの反応生成物を含む潤滑油の中で使用することができる、メタルフリー清浄剤および酸化防止添加物を開示する。この文献は、酸性有機化合物と、ホウ素化合物と、少なくとも1つのアミンがヒドロカルビル基によって置換されるポリアミンとの反応生成物を開示してしない。
【0026】
米国2005/172543は、酸性有機化合物とホウ素化合物と塩基性有機化合物との反応生成物を含む組成物、およびその潤滑剤と炭化水素燃料用の清浄剤添加物としての使用を開示する。
【0027】
欧州 3 072 951は、潤滑油組成物で使用され、以下の成分を含む洗浄剤組成物を開示している。
- 過塩基性カルシウム・スルフォン酸塩および、
- 次の反応生成物を含む金属フリー低灰清浄剤:
- 酸性有機化合物、
- ホウ素化合物および、
- 1つ以上のアミンを含むアミン成分。
【0028】
これらの文献のどれも、酸性有機化合物、ホウ素化合物および以下で定義されるようなポリアミンの反応生成物を開示していない。
【0029】
米国2016/0281014は、過塩基性カルシウム・スルフォン酸塩および低灰清浄剤を含む潤滑油洗浄剤組成物を開示する。それは金属フリーで、アルキル化サリチル酸、ホウ素化合物およびアミン成分のような酸性有機化合物の反応生成物を含む。
【0030】
欧州 1 783 134は、内燃機関に適用される潤滑油用途の中間~高TBN清浄分散剤添加剤の調製方法を開示する。これらの添加剤は過塩基性アルカリ金属アルキルヒドロキシ安息香酸塩からなる。そのような添加剤は、潤滑油に対する溶解度が低く、この理由のため、4ストロークの低速のエンジン中で主として使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【文献】米国2015/0299606
【文献】米国2005/172543
【文献】欧州 3 072 951
【文献】米国2016/0281014
【文献】欧州 1 783 134
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
アルキル化サリチル酸、ホウ素化合物およびアミン成分を組み合わせる添加剤は、良好な耐腐食性および耐摩耗性を提供する。しかしながら、それらの化合物のうちのいくつかについては、潤滑油中の添加剤の量を増加させると、油粘度が増加し、その一方で中和が生じるため、結果として潤滑性能が低下する。他の化合物は、油粘度が増加するのを制御する点では満足できるものの、洗浄力に対する点ではそれほど満足できない。他の化合物は、さらに洗浄能力の点では満足できるが、中和反応中の油粘度増加の点ではそれほど満足できない。
【0033】
したがって、効果的な耐腐食性および耐摩耗性を同時に提供し、潤滑性能を増強するために良好なレオロジー性を提供し、高洗浄力を提供してデポジットの形成を回避する潤滑剤添加剤が求められている。
【0034】
本発明の反応生成物は改善された洗浄力および酸化安定性を有利に提供する。更に、反応生成物は、潤滑油に優れた洗浄力および清浄性をもたらし、使用中の油のレオロジー性を劣化させない。反応生成物は、優れた耐腐食性および耐摩耗性を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0035】
本発明は、少なくとも以下の化合物の反応生成物に関する:
・ヒドロカルビル基によって任意に置換されたヒドロキシ安息香酸、
・ホウ素化合物、
・2または3のアミン官能基を含む化合物から選ばれたアミン成分であって、少なくとも1つのアミン官能基は少なくとも1つのヒドロカルビル基によって置換されているアミン成分。
【0036】
本発明は、前記反応生成物および基油を含む潤滑剤組成物についても包含する。
【0037】
本発明はまた、2ストローク海洋エンジンおよび4ストローク海洋エンジン(より好ましくは2ストローク海洋エンジン)を潤滑するための反応生成物または潤滑剤組成物の使用についても包含する。
【0038】
好ましい実施形態によれば、ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸は、モノ-アルキル(アルケニル)置換サリチル酸、ジ-アルキル(アルケニル)置換サリチル酸、酸官能性カリックスアレーン(特にサリチル酸カリックスアレーン)およびその混合物から選ばれる。
【0039】
より好ましい実施形態によれば、ヒドロカルビル基によって任意に置換されたヒドロキシ安息香酸化合物は、以下の式(I)により表される:
【0040】
【0041】
式中:
Rは、1~50の炭素原子を有するヒドロカルビル基を表し、Rは1つ以上のヘテロ原子を有していてもよく、aは整数であり、0、1または2を表す。
【0042】
好ましい変形例では、式(I)中、aは1または2を表す。
【0043】
別の好ましい変形例では、式(I)中、aは0を表す。
【0044】
さらにより好ましい実施形態において、ヒドロカルビル基によって任意に置換されたヒドロキシ安息香酸化合物は、式(IA)に対応する:
【0045】
【0046】
好ましい変形例では、式(IA)中、aは1または2を表す。
【0047】
別の変形例では、式(IA)中、aは0を表す。
【0048】
好ましい実施形態によれば、ホウ素化合物は次のもの:ホウ酸、ホウ酸複合体、三酸化二ホウ素、トリアルキルホウ酸塩(アルキル基はその中で1から4の炭素原子)、C1-C12アルキルボロン酸、C1-C12ジアルキルホウ酸、C6-C12アリールホウ酸、C6-C12ジアリールホウ酸、C7-C12アラルキルホウ酸、C7-C12ジアラルキルホウ酸、または1つ以上のアルコキシユニットによってアルキル基が置換されたこれらの誘導体、から選ばれ、有利には、ホウ素化合物はホウ酸である。
【0049】
好ましい実施形態によれば、アミン成分は2または3個のアミン官能基を含む化合物から選ばれる。また、少なくとも1つのアミン官能基は少なくとも1つのC1-C40アルキルまたはアルケニル基によって置換される。
【0050】
好ましい変形例によれば、アミン成分は式(IV)のジアミンから選ばれる:
R1NX-Ra-NZ1Z2 (IV)
式中Xは、水素、アルキル基またはアルケニル基R2から選ばれる基を表わす。
Z1およびZ2は、独立して、水素、アルキル基またはアルケニル基R3から選ばれる。
R1、R2およびR3は、独立して、1~40個の炭素原子を有する、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる。
Raは、1~20個の炭素原子を有する、アルキル基およびアルケニル基から選ばれ、
Z1およびZ2が両方ともアルキル基またはアルケニル基R3を表わす場合、これらは異なっていてもよい。
【0051】
別の好ましい変形例によれば、アミン成分は式(V)のトリアミンから選ばれる:
R1NX-Ra-NY-Rb-NZ1Z2 (V)
式中
Xは、水素、アルキル基またはアルケニル基R2から選ばれる基を表わす。
Yは、水素、アルキル基またはアルケニル基R4から選ばれた基を表わす。
Z1とZ2は、独立して、水素、アルキル基またはアルケニル基R3から選ばれる。
R1、R2、R3およびR4は、独立して、1~40個の炭素原子を有する、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる。RaおよびRbは、独立して、1~20個の炭素原子を有する、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる。
Z1およびZ2が両方ともアルキル基またはアルケニル基R3を表わす場合、これらは異なっていてもよい。
【0052】
好ましい実施形態によれば、R1、R2、R3およびR4は、独立して、14~22の炭素原子、好ましくは14~18の炭素原子、より好ましくは16~18の炭素原子を有する直鎖状の、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる。
【0053】
より多くの好ましい実施形態によれば、R1、R2、R3およびR4は、動物および植物性の油および油脂、例えば、獣脂油、ココナッツ油およびパーム油、好ましくは獣脂油(牛脂油)に由来する。
【発明を実施するための形態】
【0054】
1つ以上の特性を伴う用語「本質的に~からなる」とは、明示的にリストされた成分または工程に加えて、発明の製法または材料に、発明の特性および特性に実質的に影響しない成分または工程が含まれ得ることを意味する。
【0055】
もし明示的に他の方法で述べられない限り、「XとYの間に含まれる」との表現は、境界点を含んでいる。この表現は、記載された範囲がXとYの値を含み、およびXからYまでのすべての値を含むことを意味する。
【0056】
「アルキル基」は、直鎖状、分岐鎖状、環状であり得る飽和炭化水素鎖を意味する。
【0057】
「アルケニル基」は、直鎖状、分岐鎖状、環状であり得、少なくとも1つの不飽和結合(好ましくは炭素炭素二重結合)を含む炭化水素鎖を意味する。
【0058】
「アリール基」は芳香族炭化水素官能基を意味する。この官能基は単環または多環であり得る。アリール基の例としては、フェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンおよびテトラセンが挙げられる。
【0059】
「アラルキル基」は、アルキル鎖置換基を含む芳香族炭化水素官能基(好ましくは単環式)を意味する。
【0060】
「ヒドロカルビル基」は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基から選択された化合物またはこの化合物のフラグメントを意味し、ヒドロカルビル基はヘテロ原子を含み得る。
【0061】
[ヒドロキシ安息香酸]
ヒドロキシ安息香酸化合物(任意にヒドロカルビル基によって置換されたヒドロキシ安息香酸化合物)は少なくとも1つの安息香酸フラグメントを含む分子であり、そして芳香環は少なくとも1つの水酸基を有し、少なくとも1つのアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基を有していてもよい。ヒドロカルビル基が存在する場合、ヒドロカルビル基およびヒドロキシ基は、酸性の官能基に対して、オルト、メタまたはパラ位であってもよく、および互いに、オルト、メタまたはパラ位であってもよい。ヒドロカルビル基は1~50の炭素原子を含むことができる。
【0062】
ヒドロキシ安息香酸化合物としては、サリチル酸(ヒドロキシ-2-安息香酸)、ヒドロキシ-3-安息香酸、ヒドロキシ-4-安息香酸を含み、好ましくはサリチル酸である。
【0063】
ヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸化合物は、非制限的に、モノ-アルキル(アルケニル)置換サリチル酸、ジ-アルキル(アルケニル)置換サリチル酸、酸官能性カリックスアレーン(特にサリチル酸カリックスアレーン)およびその混合物を含んでいる。
【0064】
カリックスアレーンは、パラ置換され、メチレン基による橋架け(ブリッジ)によって結合され得る複数のフェノール単位からなる大環状化合物である。この環状オリゴマーは、輪を形成し、メチレンブリッジ(-(CH2)-)または同様のブリッジによって連結している4~16のフェノール配列を含む。
【0065】
ヒドロキシ安息香酸化合物(任意にヒドロカルビル基によって置換されたヒドロキシ安息香酸化合物)は、第1変形例によると、下記の式(I)に対応し得る:
【0066】
【0067】
式中:
Rは、1~50の炭素原子を有するヒドロカルビル基を表わし、Rは1つ以上のヘテロ原子を含むことができ、
aは整数であり、aは0、1または2を表す。
【0068】
第1変形例では、a=0である。
【0069】
別の変形例では、a=1か2である。
【0070】
a=2の場合、2つのヒドロカルビル基は同一または異なっていてもよい。
【0071】
好ましくはa=1である。
【0072】
式(I)の中のヒドロカルビル基はアルキル基、アルケニル基、アリール基およびアラルキル基を意味し、これらは1つ以上のヘテロ原子を含んでもよい。
【0073】
式(I)の中のヒドロカルビル基は直鎖状、分岐鎖状、または環状であってもよい。
【0074】
Rの中のヘテロ原子はO、N、Sから選ぶことができる。例えば、それらは次の1つ以上として存在していてもよい:-OH、-NH2または-SH基、または-O-、-NH、-N=または-S-ブリッジ。
【0075】
好ましくは、Rはヘテロ原子を含まない。好ましくは、Rは、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる。好ましくは、Rは、1~50の炭素原子を有する、アルキル基またはアルケニル基を表わす。好ましくは、Rは直鎖状アルキル基、直鎖状アルケニル基、分岐鎖状アルキル基、および分岐鎖状アルケニル基から選ばれる。さらにより有利には、Rは、1~50の炭素原子を有する直鎖状アルキル基を表わす。好ましくは、Rは、12~40の炭素原子を含み、さらに好ましくは、Rは18~30の炭素原子を含む。サリチル酸が市販により入手可能である。
【0076】
ヒドロカルビル基置換のヒドロキシ安息香酸類は、EP1 783 134に開示された方法によって調製することができる。好ましくは、式(I)では、-OHおよび-COOHはフェニル環上のオルト位にある。また、式(I)の分子はサリチル酸または式(IA)のサリチル酸誘導体である:
【0077】
【0078】
式中、Rとaは式(I)と同じ定義であり、これらの好ましい例は式(I)での例示と同様である。
【0079】
ヒドロカルビル基置換サリチル酸は、商品名RD-225およびS-220としてChemtuRa社から、商品名OLOA 16300、OLOA 16301およびOLOA 16305としてOronite社から、または商品名M7101、M7102、M7121およびM7125として、nfineum社から市販により入手可能である。
【0080】
第2の変形例では、ヒドロキシ安息香酸化合物(任意にヒドロカルビル基によって置換されたヒドロキシ安息香酸化合物)はカリックスアレーン構造から選ぶことができる。本発明によるカリックスアレーン構造は、環状構造を含んでおり、前記環状構造は、mユニットのヒドロカルビル置換ヒドロキシ安息香酸、およびnユニットの式(III)のフェノールを含み、これらは互いに連結して環を形成する:
【0081】
【0082】
式中
G1は、1~50の炭素原子を有するヒドロカルビル基を表わす。また、G1は1つ以上のヘテロ原子を含んでもよく、
bは整数であり、bは0、1または2を表し、
Qは二価架橋基を独立して表わし、
G2、G3、G4およびG5は、OH、H、または1~50の炭素原子を有するヒドロカルビル基から選ばれ、前記ヒドロカルビル基は、G2、G3、G4およびG5のうちの1つまたは2つが、OHであるという条件で、1つ以上のヘテロ原子を含むことができ、
mとnは以下を満たす整数である:
mは1~8である、
nは少なくとも3である、
m+nは4~20である。
【0083】
一変形例によれば、bは0を表す。
別の変形によれば、bは1または2を表す。
好ましくは、m+nは5~12である。
b=2の場合、2つのヒドロカルビル基G1は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0084】
式(II)および(III)の中のヒドロカルビル基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基およびアラルキル基を意味し、これらは1つ以上のヘテロ原子を含んでもよい。
式(II)および(III)の中のヒドロカルビル基は直鎖状、分岐鎖状、または環状であってもよい。
【0085】
G1、G2、G3、G4およびG5の中のヘテロ原子は、O、N、Sから選ぶことができる。例えば、それらは次の1つ以上として存在していてもよい:-OH、-NH2または-SH基、または-O-、-NH、-N=または-S-ブリッジ
【0086】
好ましくは、G1はアルキル基およびアルケニル基から選ばれる。
好ましくは、G1は、1~50の炭素原子を有する、アルキル基またはアルケニル基を表す。さらにより有利には、G1は、1~50の炭素原子を有する直鎖状アルキル基を表す。
好ましくは、G1は12~40の炭素原子を含み、さらにより好ましくは、G1は18~30の炭素原子を含む。
【0087】
好ましくは、ユニット(II)は、下記の式(IIA)に対応する構造から選ばれる:
【0088】
【0089】
式中G1、Qおよびbは式(II)の定義と同様であり、これらのパラメーターの好ましい範囲も式(II)の範囲と同様である。
【0090】
好ましくは、式(III)では、G5は水酸基である。
【0091】
好ましくは、G2、G3、G4は、独立して、H、または1~50の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニル基を表す。さらに有利に、G2、G3、G4は、独立して、Hまたは1~40の炭素原子を有する直鎖状アルキル基を表す。
【0092】
好ましくはG2、G3、G4は、独立して、Hおよび1~30の炭素原子を含む直鎖状アルキル基から選ばれ、さらにより好ましくは、それらは、Hおよび4~25の炭素原子を含む直鎖状アルキル基から選ばれる。
【0093】
ユニット(II)が複数存在する場合、ユニット(II)は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0094】
複数のユニット(III)は、カリックスアレーン分子において同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0095】
複数のユニット(II)が環(m>1)の中に存在する場合、ユニット(II)および(III)は任意に分配される。
【0096】
Qはそれぞれ、-S-および式-(CHG6)c-によって表される基から独立して選ばれてもよく、ここでG6は、水素または1~10の炭素原子を有するヒドロカルビル基から選ばれ、また、cは1から4までの整数である。好ましくは、G6はそれぞれ、Hまたは1~6つの炭素原子を含むヒドロカルビル基である。また、さらにより好ましくは、G6はそれぞれHである。
【0097】
好ましくは、架橋基Qの少なくとも50%は、式-(CHG6)c-によって独立して表される。好ましくは、cは1から4までの整数であり、ここで、G6はそれぞれ、Hまたは1~6つの炭素原子を含んでいるヒドロカルビル基である。また、さらにより好ましくは、G6はそれぞれHである。
【0098】
好ましくは、すべてのQ基は-(CHG6)c-から選択され、cは1であり、ここでG6はそれぞれ、Hまたは1~6つの炭素原子を含んでいるヒドロカルビル基であり、さらにより好ましくは、G6はそれぞれHである。
【0099】
[ホウ素化合物]
ホウ素化合物は、ホウ酸、ヒドロカルビルボロン酸、ホウ酸エステルおよびヒドロカルビル基ボロン酸エステル、三酸化二ホウ素、ホウ酸複合体から選ばれる。
【0100】
ホウ素化合物は、例えば、以下の化合物から選ぶことができる:ホウ酸、三酸化二ホウ素、ホウ酸複合体、トリアルキルホウ酸塩(ここでアルキル基は、独立して1~4つの炭素原子を含む)、C1-C12アルキルボロン酸、C1-C12ジアルキルホウ酸、C6-C12アリールホウ酸、C6-C12ジアリールホウ酸、C7-C12アラルキルホウ酸、C7-C12ジアラルキルホウ酸、または1つ以上のアルコキシユニットによってアルキル基が置換されたこれらの誘導体。
【0101】
アルキル基とアルコキシ基は直鎖状、分岐鎖状、または環状であってもよい。
【0102】
ホウ酸複合体は1つ以上のアルコール官能性基を含む分子を有する複合体である。好ましくは、ホウ素化合物はホウ酸である。
【0103】
[アミン成分]
アミン成分は、2つまたは3つのアミン官能基(ジアミンとトリアミン)を含む化合物から選ばれる。また、少なくとも1つのアミン官能基は少なくとも1つのヒドロカルビル基によって置換される。好ましくは、アミン成分は、2つまたは3つのアミン官能基(ジアミンとトリアミン)を含む化合物から選ばれる。また、少なくとも1つのアミン官能基は少なくとも1つのC1-C40アルキルまたはアルケニル基によって置換される。
【0104】
第1変形例によれば、アミン成分はジアミンから選ばれる。この変形によれば、アミン成分は、モノヒドロカルビルおよびジヒドロカルビルアミノヒドロカルビルアミン(IV)から有利に選ばれる:
R1NX-Ra-NZ1Z2 (IV)
式中
Xは、水素、アルキル基またはアルケニル基R2から選ばれた基を表し、
Z1とZ2は、独立して、水素、アルキル基またはアルケニル基R3から選ばれ、
R1、R2およびR3は、1~40の炭素原子を有する、アルキル基およびアルケニル基から独立して選ばれ、
Raは、1~20個の炭素原子を有する、アルキル基およびアルケニル基から選ばれ、
Z1およびZ2が両方ともアルキル基またはアルケニル基R3を表わす場合、これらは異なっていてもよい。
【0105】
第2変形例によれば、アミン成分はトリアミンから選ばれる。この変形例によれば、アミン成分は、モノヒドロカルビルおよびジヒドロカルビルアミノヒドロカルビルアミノヒドロカルビルアミン(V)から有利に選ばれる:
R1NX-Ra-NY-Rb-NZ1Z2 (V)
式中
Xは、水素、アルキル基またはアルケニル基R2から選ばれる基を表わす。
Yは、水素、アルキル基またはアルケニル基R4から選ばれた基を表わす。
Z1とZ2は、独立して、水素、アルキル基またはアルケニル基R3から選ばれる。
R1、R2、R3およびR4は、独立して、1~40個の炭素原子を有する、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる。
RaおよびRbは、独立して、1~20個の炭素原子を有する、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる。
Z1およびZ2が両方ともアルキル基またはアルケニル基R3を表わす場合、これらは異なっていてもよい。
【0106】
下記の説明および好ましい実施形態は、式(IV)および式(V)の両方に関連する。
【0107】
式(IV)および(V)の中の「ヒドロカルビル基」は、好ましくはアルキル基およびアルケニル基(直鎖状、分岐鎖状、環状であってもよい)を意味する。
【0108】
好ましくはR1、R2、R3およびR4は、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基並びに分岐鎖状アルキル基および分岐鎖状アルケニル基から選ばれる。さらにより好ましくは、R1、R2、R3およびR4は直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる。
好ましくはR1、R2、R3およびR4は、炭素原子4~30(さらに好ましくは炭素原子8~22)を含む、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる。好ましい変形例によると、R1、R2、R3およびR4は、独立して、炭素原子14~22(好ましくは炭素原子14~18、より好ましくは炭素原子16~18)を含む直鎖状の、アルキル基およびアルケニル基から選ばれる。
【0109】
R1、R2、R3およびR4は異なっていてもよいが、より経済的に生産する観点から、ある実施形態では、R1、R2、R3およびR4は互いに同じである。R1、R2、R3およびR4が同じか否かに関係なく、R1、R2、R3およびR4は、好ましくは独立して、化学的に供給される材料に由来してもよいし、天然材料(天然油および脂肪など)に由来してもよい。特に天然材料が使用される場合、R1、R2、R3およびR4の各々が様々な鎖長を有するアルキル基とアルケニル基の混合であってもよいことを意味する。好ましくは、R1、R2、R3およびR4は、動物性および植物性の油および油脂、例えば、獣脂油および菜種油、ひまわり油、大豆油、亜麻油、オリーブオイル、パーム油、ヒマシ油、ウッド油、トウモロコシ油、スクウォッシュ油、グレープシード油、ホホバ油、ごま油、くるみ油、ヘーゼルナッツ油、アーモンド油、シアバターノキ油、マカダミア油、綿実油、アルファルファ油、ライ麦油、サフラワー油、落花生油、やし油(ココナッツ油)およびコプラ油、そしてその混合物などに由来する。
好ましくは、R1、R2、R3およびR4は獣脂油、やし油およびパーム油に由来する。好ましくは、R1、R2、R3およびR4基は、獣脂油から得られた脂肪族基を表し、および対応する、脂肪-アルキル(アルキレン)ポリアミンの混合物が形成される。
【0110】
R1、R2、R3およびR4は動物性および植物性の油および油脂に由来し、動物性および植物性の油および油脂から得られた脂肪酸の還元によって得られた混合脂肪族鎖にR1、R2、R3およびR4が相当することを意味する。
【0111】
ある変形例によれば、水素化されたR1、R2、R3およびR4基を使用することは有利であり得る。しかしながら、ある供給材料については、水素化後でさえ、所定量の不飽和結合は残ってもよい。または、R1、R2、R3およびR4の原料は不飽和であってもよい。さらに、R1、R2、R3およびR4のうちの1つが完全飽和であり、1つが不飽和の化学式(IV)および(V)の化合物は、本発明によって使用することができるアミンである。
【0112】
好ましくはRaとRbは、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる。好ましくは、RaとRbは、アルキル基から選ばれ、好ましくは直鎖状アルキル基から選ばれる。さらにより好ましくは、RaとRbは、2~4つの炭素原子を含む直鎖状アルキル基から選ばれる。さらにより有利には、RaとRbは以下から選ばれる:
-CH2-CH2-、-CH(CH3)-CH2-および-CH2-CH2-CH2-。
【0113】
好ましい変形例によれば、RaとRbは次のものから選ばれる:
-CH2-CH2-、および-CH2-CH2-CH2-。
【0114】
式(IV)変形例の好ましい実施形態によれば、アミン成分は式(IVA)に対応する化合物から選ばれる:
【0115】
【0116】
ここでR1とXは式(IV)と同様の定義および好ましい実施形態であり、x=2、3、4である。
【0117】
式(V)変形例の好ましい実施形態によれば、アミン成分は式(VB)に対応する化合物から選ばれる:
【0118】
【0119】
ここでR1とXは式(V)と同様の定義および好ましい実施形態であり、x=2、3、4であり、y=2、3、4である。
【0120】
[反応生成物]
ヒドロキシ安息香酸(任意にヒドロカルビル基によって置換されたヒドロキシ安息香酸)、ホウ素化合物、およびアミン成分の反応は、任意の適切な方法で達成することができる。
【0121】
例えば、前記反応は、最初に、ヒドロキシ安息香酸(任意にヒドロカルビル基によって置換されたヒドロキシ安息香酸)、およびホウ素化合物を、所望の比率、および適切な溶剤の存在下において組み合わせることにより行なうことができる。
【0122】
適切な溶剤は、例えばナフサ、および水およびアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)のような極性溶媒である。
【0123】
十分な時間の後、ホウ素化合物が溶解する。その後、アミン成分が、混合物に徐々に加えられて中和が行われ、所望の反応生成物が形成される。
【0124】
反応は、約20-100℃、例えば、約50-75℃の温度で、一般に約0.5~5時間、より好ましくは1~4時間、反応媒体を維持することにより有利に行なうことができる。
【0125】
反応終了後、溶剤を反応媒体から蒸発させてもよく、好ましくは真空下での蒸留によって溶剤を蒸発させる。代替的に、溶剤はそのまま反応生成物において混合された状態で残っていてもよい。
【0126】
粘度をコントロールするために必要に応じて希釈油を加えることができ、特に蒸留による溶剤の除去中に加えてもよい。
【0127】
この反応に起因する反応生成物は、化合物の複合混合物(complex mixture of compounds)を含み得る。1つ以上の特定の成分を分離するために、反応生成混合物(反応生成物の混合物)を分離する必要はない。従って、本発明の潤滑油組成物では、反応生成混合物をそのまま使用することができる。
【0128】
前記反応はヒドロキシ安息香酸(任意にヒドロカルビル基により置換)、ホウ素化合物およびアミン成分に加えて他の反応剤を用いて達成し得る。
【0129】
しかしながら、本発明によれば、好ましくは、反応生成物は、少なくとも1つのヒドロキシ安息香酸(任意にヒドロカルビル基で置換されたものを含む)、少なくとも1つのホウ素化合物および少なくとも1つのアミン成分から本質的になる、反応剤(溶媒を含まない)の混合物の反応に起因する。
【0130】
さらにより好ましくは、反応生成物は、少なくとも1つのヒドロキシ安息香酸(任意にヒドロカルビル基で置換されたものを含む)、少なくとも1つのホウ素化合物および少なくとも1つのアミン成分からなる(のみからなる)、反応剤(溶媒を含まない)の混合物の反応に起因する。
【0131】
[潤滑剤組成物]
本発明はまた、潤滑油(または潤滑剤)組成物中の添加剤として上記に開示された反応生成物の使用に関する。さらに本発明はまた、前記添加剤を含む潤滑剤組成物に関する。
【0132】
好ましくは、潤滑剤組成物は以下を含む:
* 60~99.9%の少なくとも1つの基油、
* 0.1~20%の、少なくとも1つの反応生成物であって、前記反応生成物は少なくともヒドロキシ安息香酸(任意にヒドロカルビル基により置換されたヒドロキシ安息香酸)、ホウ素化合物および上述のアミン成分の反応生成物であり、
これらのパーセントは組成物の全重量に対する重量パーセントによって定義されている。
【0133】
さらにより有利には、潤滑剤組成物は以下を含む:
* 60~99.9%の少なくとも1つの基油、
* 0.1~15%の、少なくとも1つの反応生成物であって、前記反応生成物は少なくともヒドロキシ安息香酸(任意にヒドロカルビル基により置換)、ホウ素化合物および上述のアミン成分の反応生成物であり、
これらのパーセントは組成物の全重量に対する重量パーセントによって定義されている。
【0134】
[基油]
一般に、本発明による潤滑油組成物は、第1の成分として、「基油」と呼ばれる潤滑性粘度を有する油を含む。使用される基油は、以下の用途のうちのいかなる潤滑油組成物を処方するために使用される、任意の公知か、将来発見される潤滑性粘度を有する油であってもよく、例えば以下の用途が挙げられる。例えばエンジン油、海洋シリンダー油、作動油などの機能性流体、ギヤ油、伝送流体(例えばオートマティックトランスミッション流体、タービン潤滑剤、トランクピストンエンジン油、圧縮機潤滑剤、金属加工潤滑剤)、および他の潤滑油、グリース組成物。
【0135】
有利には、本発明による潤滑剤組成物は海洋エンジン潤滑油組成物であり、好ましくは2-ストローク海洋エンジン潤滑油組成物である。
【0136】
一般に、本発明において潤滑剤組成物を処方するために使用される「基油」として呼ばれる油は、鉱物油、合成油、または植物由来の油、さらにこれらの混合物であってもよい。一般に使用される鉱物油または合成油は、以下に要約されるAPI分類の中で定義されるグループの1つに属する:
【0137】
【0138】
グループ1のこれらの鉱油は、選択された 、精製工程(溶剤抽出、溶剤脱ろうまたは触媒脱ろう、水素化処理または水素添加)によって得られてもよい。グループ2および3の油は、より厳格な精製工程(例えば水素処理法、水素化分解、水素添加および触媒脱ろうの組み合わせ)によって得られる。グループ4および5の合成基油は、例えばポリアルファオレフィン、ポリブテン、ポリイソブテン、アルキルベンゼンを含んでいる。これらの基油は、単独でまたは混合物として使用されてもよい。鉱油は合成石油と組み合わせてもよい。
【0139】
発明の潤滑剤組成物は、SAEJ300分類による、SAE-20、SAE-30、SAE-40、SAE-50またはSAE-60の粘度等級を持っている。
等級20の油は100℃での動粘度5.6~9.3mm2/sを有している。
等級30の油は100℃での動粘度9.3~12.5mm2/sを有している。
等級40の油は100℃での動粘度12.5~16.3mm2/sを有している。
等級50の油は100℃での動粘度16.3~21.9mm2/sを有している。
等級60の油は100℃での動粘度21.9~26.1mm2/sを有している。
【0140】
好ましくは、第1の態様および第2の態様による潤滑剤組成物は、シリンダー潤滑剤である。2-ストロークディーゼル機関海洋エンジン用のシリンダー油は粘度等級SAE-40~SAE-60を有しており、一般に優先的には、等級SAE-50であり、これは100℃での動粘度16.3~21.9mm2/sと等価である。典型的には、2-ストローク海洋ディーゼルエンジン用のシリンダー潤滑剤の従来の処方は、等級SAE-40~SAE-60であり、好ましくはSAE-50(SAE-J300分類による)であるとともに海洋エンジンでの使用に適して、鉱物および/または合成起原の潤滑基油(例えばAPIグループ1クラス)を少なくとも50重量%含む。これらの粘度指数(VI)は80~120であり、硫黄含有量は0.03%を超えており、飽和物含量は90%未満である。
【0141】
2-ストロークディーゼル機関海洋エンジン用のシステム油は、粘度等級SAE-20~SAE-40(優先的にSAE-30)の等級を有しており、これは100℃での動粘度9.3~12.5mm2/sと等価である。これらの粘度は、添加剤および基油の混合により得ることができ、例えば、基油には、グループ1の鉱物基油が含まれ、例えば、中性溶媒(例えば150NS、500NSまたは600NS)系基油およびブライトストックなどの油を含んでいてもよい。添加剤を有する混合物として、選ばれたSAE等級と互換性をもつ粘度を有する鉱物基油、合成基油または植物起原の基油、これらの基油のいかなる組み合わせも使用されてもよい。
【0142】
本発明の潤滑剤組成物中の基油の量は、潤滑剤組成物の全重量に対して、30~90質量%、好ましくは40~90質量%、より好ましくは50~90質量%である。
【0143】
本発明の一実施態様では、潤滑剤組成物はASTM D-2896によって定められるアルカリ価(BN)として、1グラムの潤滑組成物当たり多くとも50ミリグラム水酸化カリウム、好ましくは多くとも40ミリグラム水酸化カリウム、有利には多くとも30ミリグラム水酸化カリウムを有しており、特に1グラムの潤滑組成物当たり、10~40ミリグラム水酸化カリウム、好ましくは15~40ミリグラム水酸化カリウムを有していてもよい。
【0144】
本発明の別の実施態様では、潤滑剤組成物は、ASTM D-2896によって定められるアルカリ価(BN)が、少なくとも50、好ましくは少なくとも60、より好ましくは少なくとも70、有利には70~100であってもよい。
【0145】
[添加剤]
基油の全体または一部分を、組成物の高温下および低温下での粘度を増加させることが可能な、1つ以上の粘調剤により、または粘度指数(VI)を改善する添加剤により、置換することが、任意に可能である。
【0146】
本発明の潤滑剤組成物は、少なくとも1つの任意の添加剤を含んでいてもよく、前記添加剤は、当業者によって繁用されるものから特に選ばれてもよい。
【0147】
一実施形態では、潤滑剤組成物は、中性清浄剤、過塩基性清浄剤、耐摩耗剤、油溶性脂肪アミン、ポリマー、分散剤、消泡剤またはこれらの混合物の中から選ばれた任意の添加剤をさらに含む。
【0148】
清浄剤は、長鎖の脂肪親和性の強い炭化水素鎖および親水性の頭部を含む典型的に陰イオンの化合物であり、付随する陽イオンは、典型的にアルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属陽イオンである。清浄剤は、カルボン酸、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩のアルカリ金属塩類か、アルカリ土類金属(特に好ましくはカルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウム)塩類から好ましくは選ばれ、同様にフェネートの前記金属塩からも選ばれる。これらの金属塩類は、清浄剤のアニオン基に対して、ほぼ化学量論的な量で金属を含んでいてもよい。この場合、ある程度塩基度に寄与する場合であっても、非過塩基性清浄剤または「中性」清浄剤と称する。これらの「中性の」清浄剤は、典型的には、清浄剤1g当たり150mgKOH/g未満、100mgKOH/g未満、または80mgKOH/g未満の、ASTM D2896によって測定されたBNを有している。この種のいわゆる中性清浄剤は、部分的に潤滑組成物のBNに寄与してもよい。例えば、中性清浄剤は、アルカリおよびアルカリ土類金属(例えばカルシウム、ナトリウム、マグネシウム、バリウム)の、カルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、フェネート、ナフテン酸塩などのように使用される。金属が過剰量(清浄剤のアニオン基に対する化学量論的な量より大きな量)である場合、これらはいわゆる過塩基性清浄剤である。過塩基性清浄剤のBNは高く、例えば、清浄剤1g当たり、150mgKOH/g超え、典型的に200~700mgKOH/g、好ましくは250~450mgKOH/gであってもよい。過塩基性清浄剤の特徴を提供する超過中の金属は、油の中で不溶性金属塩類の形態であり、例えば炭酸塩、ヒドロキシド、オキザラート、アセタート、グルタミン酸塩(好ましくは炭酸塩)である。1つの過塩基性清浄剤では、これらの不溶性塩類の金属は、油溶性清浄剤の金属と、同じであってもよく、異なっていてもよい。金属は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムから好ましくは選ばれる。過塩基性清浄剤は、不溶性金属塩類からなるミセル形であり、油中の可溶金属塩類の形をしている清浄剤によって潤滑組成物中の懸濁液中で維持されている。これらのミセルは1種以上の清浄剤によって安定させられている、1種以上の不溶性金属塩類を含んでいてもよい。単一種の清浄剤可溶性金属塩を含む過塩基性清浄剤は、清浄剤の疎水性鎖の性質によって一般に命名される。したがって、清浄剤が、フェネート、サリチル酸塩、スルホン酸塩、またはナフテン酸塩である場合、過塩基性清浄剤は、それぞれ、フェネート、サリチル酸塩、スルホン酸塩、またはナフテン酸塩と呼ばれる。ミセルが、疎水性鎖の性質によって互いとは異なる複数のタイプの清浄剤を含む場合、過塩基性清浄剤は混合タイプと呼ばれる。過塩基性清浄剤および中性清浄剤は、カルボン酸塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、フェネート、および少なくともこれらのタイプの清浄剤の2つを組み合わせる混合清浄剤から選ばれてもよい。過塩基性清浄剤および中性清浄剤は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムから選ばれた金属、好ましくはカルシウムまたはマグネシウムを含む化合物を含んでいる。過塩基性清浄剤は、アルカリおよびアルカリ土類金属の炭酸塩(好ましくは炭酸カルシウム)から選ばれた金属不溶性塩類により、過塩基性であってもよい。潤滑組成物は少なくとも1つの過塩基性清浄剤および少なくとも上に定義されるような中性清浄剤を含んでいてもよい。
【0149】
ポリマーは、典型的に2000~50000ダルトン(Mn)の低分子量ポリマーである。ポリマーは、PIB(2000ダルトン~)、ポリアクリレートまたはポリメタクリレート(30000ドルトン~)、オレフィン共重合体、オレフィンとα‐オレフィンとの共重合体、EPDM、ポリブテン、高分子量ポリα‐オレフィン(100℃での粘度>150)、水素化スチレンオレフィン共重合体または非水素化スチレンオレフィン共重合体の中から選択されてもよい。
【0150】
耐摩耗剤は、これらの表面上で吸着された保護膜の形成により摩擦から表面を保護する。最も一般に使用されるものは亜鉛ジチオホスフェートまたはDTPZnである。さらに、このカテゴリーでは、様々なリン化合物、硫黄化合物、窒素化合物、塩素化合物およびホウ素化合物が挙げられる。種々様々の耐摩耗剤があるが、最も広く使用される種類は、金属アルキルチオホスフェート(特に亜鉛アルキルチオホスフェート、より明確には亜鉛ジアルキルジチオホスフェートまたはDTPZn)のような硫黄リン添加剤である。好ましい化合物は、式Zn(SP(S)(OR1)(OR2))2(式中R1とR2はアルキル基であり、好ましくは1~18の炭素原子のアルキル基)である。DTPZnは、潤滑組成物の全重量に対して約0.1~2重量%で典型的に存在する。アミンリン酸塩、硫黄化オレフィンを含むポリスルフィドも繁用の耐摩耗剤である。また、潤滑組成物中では、任意に窒素および硫黄タイプの耐摩耗極圧添加剤が存在していてもよく、そのような耐摩耗極圧添加剤としては、例えば金属ジチオカルバマート(特にモリブデンジチオカルバマート)が挙げられる。グリセリンエステルも、耐摩耗剤である。モノオレイン酸塩、ジオレイン酸塩およびトリオレイン酸塩、モノパルミチン酸塩およびモノミリスチン酸塩も使用されてもよい。1つの実施形態では、耐摩耗剤の含有量は、潤滑組成物の全重量に対して0.01~6重量%、好ましくは0.1~4重量%であってもよい。
【0151】
分散剤は、潤滑組成物の処方の中で使用される有名な添加剤であり、特に、海洋分野で適用される。分散剤の主要な役割は、懸濁液で粒子状物質を維持することであり、前記粒子状物は最初から存在するか、またはエンジン使用の間に潤滑剤に生じる。それらは立体障害に対して作用することによって凝集を防ぐ。さらに、分散剤は中和反応に対する相乗効果を持っていてもよい。潤滑剤添加剤として典型的に使用される分散剤は、比較的長い炭化水素鎖(一般に50~400の炭素原子を含んで)とともに、極性基を含んでいる。極性基は典型的には少なくとも1つの窒素、酸素またはリンを含んでいる。コハク酸に由来した化合物は、潤滑剤中の分散剤として特に有用である。さらに使用された、特に無水コハク酸とアミンの凝縮によって得られたスクシンイミド、無水コハク酸とアルコールまたは多価アルコールの凝縮によって得られたコハク酸エステルである。その後、これらの化合物は硫黄含有化合物、酸素含有化合物、ホルムアルデヒド、カルボン酸およびホウ素含有化合物、または亜鉛含有化合物を含む、様々な化合物により処理されて、例えば、硼酸化スクシンイミド、または亜鉛閉鎖スクシンイミドを生産することができる。さらに、アルキル基で置換されたフェノール、ホルムアルデヒド、および第一または第二アミンの重縮合によって得られたマンニッヒ塩基は、潤滑剤の中で分散剤として使用される化合物である。本発明の1実施形態では、分散性の含有量は、潤滑組成物の全重量に対して、0.1重量%以上、好ましくは0.5~2重量%、有利には1~1.5重量%であってもよい。PIBスクシンイミド群(例えば、ボロン化または亜鉛閉鎖されたPIBスクシンイミド)から洗濯された分散剤を使用することが可能である。
【0152】
他の任意の添加剤は、消泡剤(例えばポリジメチルシロキサン、ポリアクリレートのような極性ポリマー)から選ばれてもよい。さらに、それらは、酸化防止剤および/または防錆剤(例えば有機金属の清浄剤、チアジアゾール)から選ばれてもよい。これらの添加剤は当業者に知られている。これらの添加剤は、潤滑組成物の全重量に対して0.1~5重量%の含有量で一般に存在する。
【0153】
1つの実施形態では、発明による潤滑剤組成物はさらに油溶性脂肪アミンを含んでもよい。
【0154】
脂肪アミンは一般式(VI)である:
R’1-[(NR’2)-R’3]n-NR’4R’5, (VI)
式中、
* R’1は、直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和の、少なくとも12の炭素原子、および任意に窒素、硫黄または酸素中で選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。
* R’2、R’4およびR’5は、独立して、水素原子、または直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和の、窒素、硫黄または酸素中で選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を任意に含む炭化水素基を表す。
* R’3は、直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和の、少なくとも1つの炭素原子、および任意に窒素、硫黄または酸素中で選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子(好ましくは酸素)を含む炭化水素基を表す。
* nは1以上の整数であり、好ましくは1~10、より好ましくは1~6に含まれ、特に1、2または3の中で選ばれる。
【0155】
好ましくは、脂肪アミンは一般式(VI)であり、式中:
* R’1は、直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和の、12~22の炭素原子(好ましくは14~22の炭素原子)、および任意に窒素、硫黄または酸素中で選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含む炭化水素基を表し、および/または
* R’2、R’4およびR’5は独立して、水素原子;直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和の、12~22の炭素原子(好ましくは14~22の炭素原子、より好ましくは16~22の炭素原子)を含む炭化水素基;(R’6-O)p-H基[式中R’6は、飽和の、直鎖または分岐鎖の、少なくとも2つの炭素原子(好ましくは2~6の炭素原子、より好ましくは2~4の炭素原子)を含む炭化水素基であり、pは1以上(好ましくは1~6、より好ましくは1~4)である];(R’7-N)p-H2基[式中R’7は、飽和の、直鎖または分岐鎖の、少なくとも2つの炭素原子(好ましくは2~6の炭素原子、より好ましくは2~4の炭素原子)を含む炭化水素基であり、pは1以上(好ましくは1~6、より好ましくは1~4)である];および/または
* R’3は、直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和の、2~6の炭素原子(好ましくは2~4の炭素原子)を含むアルキル基を表す。
【0156】
1つの実施形態では、一般式(VI)の脂肪アミンは、潤滑剤組成物の全重量に関して0.5~10重量%(好ましくは0.5~8重量%)含まれる。
【0157】
本発明の潤滑剤組成物において、上記に定義された任意の添加剤は、個別の添加剤として潤滑剤組成物に組み入れることができ、特に基油中の個別に追加により組み入れることができる。しかしながら、さらに、任意の添加剤は、海洋用潤滑剤組成物のための添加剤の濃縮物に統合されてもよい。
【0158】
[海洋用潤滑剤を製造する方法]
本発明の開示は、上記に開示された海洋用潤滑剤を製造する方法を提供し、前記方法は、基油と、少なくともヒドロキシ安息香酸(任意にヒドロカルビル基により置換)、ホウ素化合物、および上記に定義されたアミン成分の反応生成物とを混合するステップを含む。
【0159】
[エンジンを潤滑するための使用]
本発明は、さらにエンジン(好ましくは海洋エンジン)を潤滑するための、少なくともヒドロキシ安息香酸(任意にヒドロカルビル基で置換されてもよい)、ホウ素化合物、および上記に定義されたアミン成分の反応生成物の使用に関する。具体的には、本発明は、2-ストローク海洋エンジンおよび4-ストローク海洋エンジン(より好ましくは2-ストローク海洋エンジン)を潤滑にするための、少なくともヒドロキシ安息香酸(任意にヒドロカルビル基で置換されてもよい)、ホウ素化合物、および上記に定義されたアミン成分の反応生成物の使用に関する。
【0160】
特に、少なくともヒドロキシ安息香酸(任意にヒドロカルビル基で置換されてもよい)、ホウ素化合物、および上記に定義されたアミン成分の反応生成物は、2-ストロークエンジンおよび4-ストローク海洋エンジン(より好ましくは2-ストロークエンジン)を潤滑にするために、潤滑剤組成物中で、シリンダー油またはシステム油として使用するのに適している。
【0161】
本発明は、2-ストローク海洋エンジンおよび4-ストローク海洋エンジン(より好ましくは2-ストローク海洋エンジン)を潤滑にするための方法に関しており、前記方法は、上記に開示された海洋用潤滑剤を、前述の海洋エンジンへ適用する工程を含む。特に、潤滑剤は、典型的にパルス潤滑系統によって、または2-ストロークエンジンを潤滑するためのインジェクターからピストンの環パック上に潤滑剤をスプレーすることによって、シリンダ壁に適用される。本発明に係る潤滑剤組成物をシリンダ壁に適用すると、腐食保護を増強するとともに、エンジン清浄度を向上することが観察されている。
【実施例】
【0162】
[I-材料および方法]
- サリチル酸はシグマ アルドリッチから購入した。
- ホウ酸はシグマ アルドリッチから購入した。
- ジアミンはアクゾ ノベルから購入した。
- 基油1:
グループI鉱油または密度895~915kg/m3のブライトストック、
- 基油2:
グループI鉱油、特に600NSと称され、ASTM D7279によって測定された40℃の粘度が120cStのもの、
- 消泡剤を含む清浄剤パッケージ
- C18H37サリチル酸は以下のプロトコルによって準備された:
サリチル酸(50.0g)を、触媒量のメタンスルホン酸(0.3等量)とともに1-オクタデセンと組み合わせ、8時間130℃で加熱した。
【0163】
[II-潤滑剤組成物C1の準備]
13.8gのサリチル酸および3.1gのホウ酸の混合物を、外界温度で、撹拌下ヘプタン/水/メタノール(20/15/15)50mL中で懸濁させた。前記混合物を70℃に加熱した。この混合物に、下記式のジアミンを31.4g添加し70℃で4時間加熱して溶液を得た。
【0164】
【0165】
R=直鎖状C18H37
【0166】
その後、溶剤を真空の下で取り除いた。得られた反応生成物A1は、均質で明るい琥珀色の粘性流体であった。
【0167】
組成物C1を表Iに示す。表Iに開示されたパーセンテージは、重量パーセントに相当する。
【0168】
【表3】
[態様1]
少なくとも:
・ヒドロカルビル基によって任意に置換されたヒドロキシ安息香酸、
・ホウ素化合物、
・下記式から選択されたアミン成分
* 式(IV)のジ - アミン:
R
1
NX-Ra-NZ
1
Z
2
(IV)
* 式(V)のトリアミン:
R
1
NX-Ra-NY-Rb-NZ
1
Z
2
(V)
の反応に起因する反応生成物であって、上記式中
Xは、次のものから選ばれた群を表す:水素、アルキル基またはアルケニル基R
2
、
Yは、次のものから選ばれた群を表す:水素、アルキル基またはアルケニル基R
4
、
Z
1
とZ
2
は、次のものから独立して選ばれる:水素、アルキル基またはアルケニル基R
3
、
R
1
、R
2
、R
3
およびR
4
は、独立して、1~40個の炭素原子を有する、アルキル基およびアルケニル基から選ばれ、
RaおよびRbは、独立して、1~20個の炭素原子を有する、アルキル基およびアルケニル基から選ばれ、
Z
1
およびZ
2
が両方ともアルキル基またはアルケニル基R
3
を表わす場合、これらは異なっていてもよい。
[態様2]
態様1に記載の反応生成物であって、ヒドロカルビル基により置換されてもよいヒドロキシ安息香酸は、モノ-アルキル(アルケニル)置換サリチル酸、ジ-アルキル(アルケニル)置換サリチル酸、酸官能性カリックスアレーン(特にサリチル酸カリックスアレーン)およびその混合物から選ばれる、反応生成物。
[態様3]
態様1または態様2に記載の反応生成物であって、ヒドロカルビル基によって任意に置換されてもよいヒドロキシ安息香酸化合物は、式(I)に対応する:
【化10】
式中:
Rは、1~50の炭素原子を有するヒドロカルビル基を表し、Rは1つ以上のヘテロ原子を含むことができ、
aは整数であり、0、1または2を表す。
[態様4]
態様3に記載の反応生成物であって、ヒドロカルビル基によって任意に置換されてもよいヒドロキシ安息香酸化合物は、式(IA)に対応する:
【化11】
[態様5]
態様4に記載の反応生成物であって、ヒドロキシ安息香酸化合物はサリチル酸である、反応生成物。
[態様6]
態様1~5のうちのいずれか一つに記載の反応生成物であって、ホウ素化合物は下記:
ホウ酸、ホウ酸複合体、三酸化二ホウ素、トリアルキルホウ酸塩(ここでアルキル基は、独立して1~4つの炭素原子を含む)、C
1
-C
12
アルキルボロン酸、C
1
-C
12
ジアルキルホウ酸、C
6
-C
12
アリールホウ酸、C
6
-C
12
ジアリールホウ酸、C
7
-C
12
アラルキルホウ酸、C
7
-C
12
ジアラルキルホウ酸、または、これらの1つ以上のアルコキシユニットによるアルキル基の置換により由来する化合物から選択される、(有利には、ホウ素化合物はホウ酸である)反応生成物。
[態様7]
態様1~6のうちのいずれか一つに記載の反応生成物であって、アミン成分は式(IVA)に対応する化合物から選ばれる、反応生成物。
【化12】
x=2、3、4。
[態様8]
態様1~6のうちのいずれか一つに記載の反応生成物であって、アミン成分は式(VB)に対応する化合物から選ばれる、反応生成物。
【化13】
x=2、3、4、
y=2、3、4。
[態様9]
態様1~8のうちのいずれか一つに記載の反応生成物であって、R
1
、R
2
、R
3
およびR
4
は、独立して、14~22の炭素原子(好ましくは14~18の炭素原子、より好ましくは16~18の炭素原子)を有する、直鎖状アルキル基および直鎖状アルケニル基から選ばれる、反応生成物。
[態様10]
態様9に記載の反応生成物であって、R
1
、R
2
、R
3
およびR
4
は、動物性および植物性の油および油脂(獣脂油、やし油およびパーム油など)に由来(好ましくは獣脂油に由来)する、反応生成物。
[態様11]
態様1~10のいずれか一つに記載の反応生成物および基油を含む潤滑剤組成物。
[態様12]
態様1~10のいずれか一つに記載の反応生成物、または態様11に記載の潤滑剤組成物の使用であって、2-ストローク海洋エンジンおよび4-ストローク海洋エンジン(より好ましくは2-ストローク海洋エンジン)を潤滑するための、使用。