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特許7106584ラケット用のモノフィラメントストリング、およびそのようなモノフィラメントストリングの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】ラケット用のモノフィラメントストリング、およびそのようなモノフィラメントストリングの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/12 20060101AFI20220719BHJP
   A63B 51/02 20150101ALI20220719BHJP
   D02G 3/44 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
D01F8/12 Z
A63B51/02
D02G3/44
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019570852
(86)(22)【出願日】2018-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 EP2018066399
(87)【国際公開番号】W WO2018234376
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】17305764.7
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】315009862
【氏名又は名称】スピード フランス エス エー エス
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】デュヴァル、 セバスティアン
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-238017(JP,A)
【文献】特開2010-148539(JP,A)
【文献】特表平08-500034(JP,A)
【文献】特公昭47-042843(JP,B1)
【文献】特開平11-036140(JP,A)
【文献】特開2016-056487(JP,A)
【文献】特開2011-125584(JP,A)
【文献】国際公開第01/61087(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2159305(EP,A1)
【文献】特開2000-303260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 49/00 - 51/16
D01F 8/00 - 8/18
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルフィラメントからなるコア(2)と、前記コア(2)の周りに延び、前記コア(2)と接触するシース(3)とを備えた、ラケット(5)用のモノフィラメントストリング(1)であって、
前記コア(2)は、ポリアミド6、およびポリアミド6とポリアミド6.6との第1共重合体を含む第1材料で作られており、
前記シース(3)は、ポリアミド6とポリアミド6.6との第2共重合体を含む第2材料で作られており、前記第1材料は、前記第2材料よりも大きい引張弾性率を有する。
ことを特徴とするモノフィラメントストリング(1)。
【請求項2】
前記第1材料は、
前記第1材料の総重量を基準にして、70重量%~90重量%、好ましくは75重量%~85重量%のポリアミド6と、
前記第1材料の総重量を基準にして、10重量%~30重量%、好ましくは15重量%~25重量%のポリアミド6とポリアミド6.6との第1共重合体と、
を含む、請求項1に記載のモノフィラメントストリング。
【請求項3】
前記第2材料は、ポリアミド6とポリアミド6.6との第2共重合体からなる、請求項1または2に記載のモノフィラメントストリング。
【請求項4】
前記シース(3)は、前記モノフィラメントストリング(1)の総重量の5重量%~20重量%、好ましくは8重量%~16重量%を占める、請求項1~3のいずれか一項に記載のモノフィラメントストリング。
【請求項5】
前記コア(2)は、前記モノフィラメントストリング(1)の総重量の80重量%~95重量%、より好ましくは84重量%~92重量%を占める、請求項1~4のいずれか一項に記載のモノフィラメントストリング。
【請求項6】
前記シース(3)の厚さは、前記モノフィラメントストリング(1)の全厚の2%~7%、好ましくは3%~6%に相当する、請求項1~5のいずれか一項に記載のモノフィラメントストリング。
【請求項7】
前記コア(2)の厚さは、前記モノフィラメントストリング(1)の全厚の93%~98%、好ましくは94%~97%に相当する、請求項1~6のいずれか一項に記載のモノフィラメントストリング。
【請求項8】
前記コアは1200~1500マイクロメートルの間に含まれる厚さを有し、前記シースは20~50マイクロメートルの間に含まれる厚さを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のモノフィラメントストリング。
【請求項9】
前記第2材料は、スリップ剤および疎水剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のモノフィラメントストリング。
【請求項10】
前記モノフィラメントストリング(1)は、前記コア(2)と前記シース(3)との共押出によって得られる、請求項1~9のいずれか一項に記載のモノフィラメントストリング。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載のラケット(5)用のモノフィラメントストリングの製造方法であって、
前記モノフィラメントストリングを作るために前記コア(2)と前記シース(3)とを共押出するステップと、少なくとも1つの、前記モノフィラメントストリングを伸張するステップと、を含む、製造方法。
【請求項12】
第1の所定の牽引力を適用することにより、共押出された前記モノフィラメントストリングを伸張する第1伸張ステップであって、前記共押出されたモノフィラメントストリングの弛緩状態の長さに対する前記共押出されたモノフィラメントストリングの伸張状態の長さの比が、1~10の間に含まれ、好ましくは3.5~4.5の間に含まれる、ステップと、
第2の所定の牽引力を適用することにより、前記モノフィラメントストリングを伸張する第2伸張ステップであって、前記共押出されたモノフィラメントストリングの弛緩状態の長さに対する前記共押出されたモノフィラメントストリングの伸長状態の長さの比が1~2の間に含まれ、好ましくは1.05~1.55の間の間に含まれる、ステップと、
をさらに含む、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第1伸張ステップと前記第2伸張ステップとが連続的である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記第1伸張ステップと前記第2伸張ステップとが逐次的である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項15】
前記共押出するステップ中に、前記第2材料にスリップ剤および疎水剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤が添加される、請求項11~14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載のモノフィラメントストリング(1)のセット(6)を備えたラケット(5)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニスラケット、スカッシュラケット、バドミントンラケットなどのラケット用のモノフィラメントストリングおよびそのようなモノフィラメントストリングのセットに関する。本発明はまた、このようなモノフィラメントストリングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラケットスポーツの分野では、ラケットは、ハンドルおよびフープ、フープを横切る2つの直交方向に伸び、ボール、シャトルコックなどの衝撃を受けるストリングのセットでできている。
【0003】
この分野での技術の進化は、特にストリングを構成する材料に関して、ストリングの構造と製造の大幅な改善を含む、より競争力のあるラケットに向かっている。
【0004】
一般的な観点から、求められているのは、ストリングが、良好なまたは少なくとも平均的なパワー特性、コントロール特性、快適性、および耐久性を示すラケットを得ることである。パワー特性とは、プレーヤーがボールを打ったときにボールがストリングから抜け出す速度を上げるストリングの能力を指す。コントロール特性とは、ボールの動作に影響を与えるストリングの能力を指し、したがって、プレーヤーがボールを所定の位置に向けて正確に打つこと、ボールを減速させること、およびボールのスピンに影響を与える可能性がある。快適性とは、プレーヤーがボールを打ったときにストリングがボールの衝撃を受けることに起因するラケットの振動を減らすストリングの能力を指す。そして最後に、耐久性とは、時間および使用に伴う構造の劣化が少ないストリングを指し、特に張力損失が減少するため、パワー特性、コントロール特性、および/または快適性を維持することができる。
【0005】
さまざまなタイプのストリングの中でも、天然のガットで作られたストリングは剛性が低いため、プレーヤーは高い体力を必要とせずにボールを加速できる。ただし、ボールのコントロールが不十分である。通常はポリアミド製のマルチフィラメントストリングについても同様である。
【0006】
モノフィラメントストリングは通常、ポリエチレン、ポリエステル、またはポリアミドで作られている。ポリエチレンおよびポリエステルで作られたモノフィラメントは、剛性が高いため、プレーヤーはボールを正確に、うまくコントロールできる。しかし、プレーヤーはボールを加速するために高い体力を有している必要がある。ポリアミド製のモノフィラメントはこれらの特性を示しながら、ラケットの振動を放散する優れた能力を提供するが、急速に劣化して張力を失う傾向がある。
【0007】
したがって、優れた快適性および耐久性を有しつつ、パワー特性とコントロール特性との間の良好なバランスを示すモノフィラメントストリングが必要とされる。
【0008】
特に、プレーヤーが高い体力を必要とせずにボールの速度を簡単に上げることができる一方で、プレーヤーがボールを適切にコントロールでき、また、合理的な時間(好ましくは、経験のあるプレーヤーにとっては数時間、特に2~4時間である試合の時間)の間、実質的に一定の張力を維持するように、高いパワー特性を示すモノフィラメントストリングが必要とされる。
【0009】
仏国特許発明第2934958号明細書は、ラケットストリングの耐久性を高めることを目的としており、中心コアと、周辺保護層と、中心コアおよび周辺保護層の間に配置された複合材料で作られた中間補強層とを備えたモノフィラメントストリングを開示している。
【0010】
中間補強層は、弾力性を犠牲にして剛性を高めることでストリングの耐久性を高めるが、これにより、ボールの衝撃で撓む能力が低下するため、ストリングのパワー特性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】仏国特許発明第2934958号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、シングルフィラメントからなるコアと、コアの周りに延び、コアと接触するシースとを備えた、ラケット用のモノフィラメントストリングを提供することであって、
コアは、ポリアミド6、およびポリアミド6とポリアミド6.6との第1共重合体を含む第1材料で作られており、
シースは、ポリアミド6とポリアミド6.6との第2共重合体を含む第2材料で作られており、第1材料は、第2材料よりも大きい引張弾性率を有する。
【0013】
モノフィラメントストリングの他の随意的な特徴によると、
第1材料は、
第1材料の総重量を基準にして、70重量%~90重量%、好ましくは75重量%~85重量%のポリアミド6と、
第1材料の総重量を基準にして、10重量%~30重量%、好ましくは15重量%~25重量%のポリアミド6とポリアミド6.6との第1共重合体と、
を含む。
一実施形態によれば、第2材料は、ポリアミド6とポリアミド6.6との第2共重合体からなる、または本質的になる。「からなる、または本質的になる」とは、本文では、第2材料が1種類の重合体(ここでは共重合体6/6.6)のみを含むが、スリップ剤または疎水剤などの添加剤の存在を除外しないことを意味する。
好ましい実施形態によれば、共重合体6/6.6から本質的になる第2材料は、第2材料の総重量に対して、少なくとも95重量%の共重合体6/6.6、好ましくは少なくとも98重量%の共重合体6/6.6を含む。
シースは、ストリングの総重量の5重量%~20重量%、好ましくは8重量%~16重量%を占める。
コアは、ストリングの総重量の80重量%~95重量%、より好ましくは84重量%~92重量%を占める。
シースの厚さは、ストリングの総厚の2%~7%、好ましくは3%~6%に相当する。
コアの厚さは、ストリングの総厚の93%~98%、好ましくは94%~97%に相当する。
コアの厚さは1200~1500マイクロメートルであり、シースの厚さは20~50マイクロメートルである。
第2材料は、スリップ剤および疎水剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む。
モノフィラメントストリングは、コアとシースとの共押出により得られる。
【0014】
本発明の別の目的は、上記のラケット用のモノフィラメントストリングの製造方法であり、この方法は、ストリングを製造するためのコアとシースとの共押出と、少なくとも1つのストリングを伸張するステップとを含む。
【0015】
プロセスの他の随意的な特徴によると、
プロセスは、
第1の所定の牽引力を適用することにより、共押出されたモノフィラメントストリングを伸張する第1伸張ステップであって、共押出されたモノフィラメントストリングの弛緩状態の長さに対する共押出されたモノフィラメントストリングの伸張状態の長さの比が、1~10の間に含まれ、好ましくは3.5~4.5の間に含まれる、ステップと、
第2の所定の牽引力を適用することにより、モノフィラメントストリングを伸張する第2伸張ステップであって、共押出されたモノフィラメントストリングの弛緩状態の長さに対する共押出されたモノフィラメントストリングの伸長状態の長さの比が1~2の間に含まれ、好ましくは1.05~1.55の間の間に含まれる、ステップと、
をさらに含む。
第1伸張ステップと第2伸張ステップとは連続的である。言い換えれば、ストリングが弛緩位置に戻った後、第1伸張ステップの直後に第2伸張ステップが実行される。
第1伸張ステップと前記第2伸張ステップとは逐次的であることが好ましい。言い換えれば、ストリングは、第1伸張ステップの後、所定の時間だけ休止され、その後、第2伸張ステップが実行される。
スリップ剤および疎水剤からなるグループから選択された少なくとも1つの添加剤が、共押出ステップ中に第2材料に添加される。好ましくは、少なくとも1つの添加剤は、共押出ステップの少なくとも一部の間に連続的に添加される。さらに、少なくとも1つの添加剤は、好ましくは、シースの外側表面で第2材料に添加される。
【0016】
本発明の別の目的は、上記のモノフィラメントストリングのセットを含むラケットである。
【0017】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のモノフィラメントストリングの断面図である。
図2】本発明によるモノフィラメントストリングのセットを含むラケットの概略図である。
図3】既存のモノフィラメントおよびマルチフィラメントストリングと比較した、本発明によるモノフィラメントストリングの弾性変形を示すグラフである。
図4】既存のモノフィラメントおよびマルチフィラメントストリングと比較した、本発明によるモノフィラメントストリングの張力維持を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ラケット用のモノフィラメントストリングを提案する。
【0020】
図1によれば、モノフィラメントストリング1は、単一のフィラメントからなるコア2と、コアの周りに延びてコアと接触するシース3とを備えている。コア2は円形断面を有し、シース3は環状断面を有し、シースはコアと同軸である。
【0021】
説明でさらに使用されるいくつかの用語の定義を以下に示す。
【0022】
本明細書で使用される「剛性」という用語は、材料の引張弾性率(「ヤング率」または「弾性率」とも呼ばれる)を指す。剛性の高い材料は、引張弾性率が高いため、弾性が低くなる。
【0023】
本明細書で使用される「幾何学的剛性」という用語は、「剛性」という用語に類似しているが、構造に関する。構造の幾何学的剛性は、構造の材料の剛性と寸法特性とに依存する。
【0024】
図1を参照すると、コア2はポリアミド6とポリアミド6.6の第1共重合体(第1共重合体PA6/6.6)を含む第1材料で作られ、シースはポリアミド6およびポリアミド6.6の第2共重合体(第1共重合体と同じであり得る第2共重合体PA6/6.6)を含む第2材料で作られている。
【0025】
ポリアミド6およびポリアミド6.6は、良好な機械的特性を示す熱可塑性半結晶性重合体である。ポリアミド6はポリアミド6.6よりも高い引張弾性率を有するが、どちらも非常に剛性の高い重合体である。
【0026】
一例として、ポリアミド6の引張弾性率は一般に700MPa(メガパスカル)~800MPaの範囲であり、共重合体PA6/6.6の引張弾性率は一般に500MPa~600MPaの範囲である。
【0027】
共重合体PA6/6.6の機械的性質は、一般にポリアミド6とポリアミド6.6の機械的性質の間のどこかにある。ブロック共重合体PA6/6.6が好ましい。なぜなら、後者の特性は、共重合体PA6/6.6の構造、共重合体PA6/6.6におけるポリアミド6とポリアミド6.6のそれぞれの割合、および共重合体PA6/6.6の製造プロセスに応じて、他の所望の特性の対応する損失を受けることなく、ポリアミド6およびポリアミド6.6のより良好な特性に非常に近いからである。
【0028】
したがって、共重合体PA6/6.6は、ポリアミド6とポリアミド6.6の引張強度の間、またはポリアミド6.6の引張強度と実質的に等しい引張強度を有する。
【0029】
第1材料は、第2材料よりも大きい引張弾性率を有するように選択される。
【0030】
このため、第1材料は、第1共重合体PA6/6.6に加えてポリアミド6を含む。ポリアミド6は、高い剛性と弾性的に変形される際の機械的努力(エネルギー)を放散する強力な能力を備えている。
【0031】
したがって、コア2は、モノフィラメントストリング1に高い幾何学的剛性と、ストリングがボールなどの衝撃を受けたときに発生する機械的努力を強く吸収/放散する能力を提供し、図2に示すラケット5のふるい6とハンドル7とを介して伝播する振動の低減と同様により良いボールコントロールをもたらす。
【0032】
1つの結果として、ラケット5により、プレーヤーは、ボールを受け取って打った後にボールを減速させ、ボールをよりよくコントロールできるようになる。別の結果として、プレーヤーがボールを打つときの振動と衝撃が少なくなってより快適になるため、例えばテニスラケットの場合のテニス肘などの怪我を防ぐことができる。
【0033】
シースはポリアミド6を含まないことが好ましい。しかしながら、第2材料はポリアミド6を含み得るが、第1材料と比較して著しく少ない量であることが理解される必要がある。この状況では、(第2材料に対する)第2材料のポリアミド6の重量パーセントは、(第1材料に対する)第1材料のポリアミド6の重量パーセントよりも大幅に低くなる。
【0034】
同様に、第1材料および第2材料の共重合体PA6/6.6中のポリアミド6の量も、第1材料の引張弾性率が第2材料の引張弾性率よりも大きくなるように調整される。第2材料の共重合体PA6/6.6中のポリアミド6の重量パーセントは、第1材料の共重合体PA6/6.6中のポリアミド6の重量パーセントよりも低いことが好ましい。
【0035】
結果として、第2材料(シース)は、第1材料(コア)よりも低い引張弾性率を有する。したがって、第2材料は、第1材料よりも弾性があり、弾性変形したときに吸収するエネルギーが少なく、より多くのエネルギーを放出する。
【0036】
したがって、シース3は、ストリングがボールなどの衝撃を受けたときに、ストリングに加えられた機械的力を強く解放する能力をモノフィラメントストリング1に提供する。
【0037】
結果の1つとして、ラケットを使用すると、プレーヤーがボールを打つときにボールを強く加速できる。
【0038】
ストリング1は、コア2とシース3との共押出によって得られる。
【0039】
コア2とシース3とを共押出することにより、コアとシースとが密接に連結されているコアとシースとの間の接触域に界面4が形成される。
【0040】
前述のように、ストリング1のコア2とシース3とは、化学構造の点で類似している。実際、コアとシースとはどちらも、ポリアミドベースの材料、すなわち共重合体PA6/6.6で作られている。
【0041】
図1に示す境界面4におけるコア2とシース3との強力な機械的および化学的結合により、ストリングが機械的に要求されたときにコアとシースとが相乗的に作用し、ひいてはストリングの全体的な機械的特性、特にボールのスピンに影響を与える能力に加えて耐久性がさらに向上する。
【0042】
ストリングにおいて、シース3の重量割合は、コア2の重量割合と比較して小さい。特に、シースは、ストリング1の総重量の好ましくは5重量%~20重量%、より好ましくは8重量%~16重量%を占める。コアは、ストリング1の総重量の好ましくは80重量%~95重量%、より好ましくは84重量%~92重量%を占める。
【0043】
厚さに関して、シース3の厚さは、ストリング1の総厚の2%~7%、好ましくは3%~6%を占め、コア2の厚さは、ストリング1の総厚の93%~98%、好ましくは94%~97%を占める。
【0044】
より詳細には、シースの厚さは、好ましくは20~50マイクロメートルの範囲であり、コアの厚さ(直径に対応)は1200~1500マイクロメートルの範囲である。
【0045】
シースに対するコアのこのような高い重量比率により、コアおよびシースの第1材料および第2材料の組成とともに、高いコントロール特性を備えたストリングを有することが可能になる。
【0046】
驚くべきことに、結果として生じる重量比の低さにもかかわらず、シースは、特にストリングに爆発性を与えることにより、ストリングに高いパワー特性を提供するのに十分である。「爆発性」とは、本文ではラケットがボールを非常に速い速度で戻すことを意味する。
【0047】
したがって、コアとシースとの組み合わせにより、コントロール特性とパワー特性とのバランスが良好になる。
【0048】
もちろん、ユーザの意図するプレイ方法に応じて、コアとシースとの組成および比率を調整して、コントロール特性とパワー特性との間の最適なトレードオフを提供することができる。
【0049】
ラケットのストリングのパワー特性に影響を与える別の側面は、ストリングの互いに対する滑りと、滑る際のストリングの接触によって生じる摩擦である。より詳細には、プレーヤーがボールを打つと、ボールがストリングと噛み合ってストリングが曲がり、これによりストリングが互いに押し付けられながら互いに対して第1方向にスライドする。ボールを打った後、ボールがストリングから出て、ストリングが最初の静止位置に戻り、互いに対して第1方向とは反対の第2方向にスライドする。
【0050】
スライドする際のストリング間の摩擦を低減するために、シースは、ストリングの互いに対するスライドを促進する1つ以上の添加剤を含むことが好ましく、それによりストリングに強化された動的および跳ね返り能力、ならびに一般に強化されたパワー特性を提供する。
【0051】
添加剤は、スリップ剤および疎水剤からなる群から選択されることが好ましい。
【0052】
スリップ剤のうち、好ましい添加剤は、ステアリルエルカミドなどのエルカミド、エチレンビスステアラミド、ポリアミドベースのポリジメチルシロキサン、超高分子量のポリアミドベースのシロキサン、フッ素ベースの重合体、二硫化モリブデンが充填された重合体から選択される。
【0053】
疎水剤の中で、好ましい添加剤は、超高分子量のシロキサンベースの重合体、ポリジメチルシロキサンベースの重合体、二酸化ケイ素ベースの化合物、セラミックナノ粒子ベースの化合物から選択される。
【0054】
スライドの際のストリング間の摩擦を減らす目的で、特にストリングの製造中に、そのような添加剤または他の物質のコーティングをシースの周囲表面に塗布することもできる。
【0055】
一実施形態によれば、シース内のスリップ剤または疎水剤の存在に加えて、またはその代替として、シースの外面にコーティングを塗布してもよい。前記コーティングは、滑り止めおよび/または撥水性を有してもよい。
【0056】
したがって、本発明によるモノフィラメントストリング1は、以下の特性を有する。
弾力性が低いため、コア2によって提供される衝撃吸収能力。
高い弾力性および低摩擦により、シース3によって提供される動的で弾む能力。
ポリアミド6と共重合体PA6/6.6の比較的高い引張モジュールにより、経時的および使用に伴う構造および張力の劣化が低減した高い耐久性。
これまでの特性だけでなく、ストリングの全体的な機械的特性も、コアとシースの共押出、およびその間の界面4の形成によってさらに改善されている。
【0057】
その結果、モノフィラメントストリングは、優れた快適性と耐久性の特性を持ちながら、パワー特性とコントロール特性とのバランスが取れている。
【0058】
本発明の別の態様は、上記で開示されたモノフィラメントストリングの製造方法に関する。
【0059】
このプロセスの第1ステップは、ストリングを作るためのコアおよびシースの共押出である。共押出の一般原則によれば、押出ダイには、ストリングのコアを形成するための第1材料と、ストリングのシースを形成するための第2材料の押出ラインが供給される。
【0060】
すでに説明したように、コアおよびシースの共押出により、コアとシースとの接触ゾーンに界面を作成して、ストリングの機械的特性を高めることができる。
【0061】
上記の少なくとも1つの添加剤は、共押出ステップの少なくとも一部の間に、好ましくは連続的に添加することができる。さらに、添加剤は、好ましくは、シースの外側表面で第2材料に添加される。
【0062】
このプロセスは、決定された温度および湿度条件下でモノフィラメントストリングを伸張することをさらに含む。
【0063】
このプロセスは、ストリングに第1の所定の牽引力を加えることによるストリングの第1の伸張をさらに含む。牽引力の値は、
適切な引張試験によって決定可能な、ストリングの引張強度と破断点伸び、
製造されたストリングの望ましい機械的特性、に従って選択される。
【0064】
この第1の伸張は、押出ダイからのモノフィラメントの押し出しに続いて直接実行されてもよい。
【0065】
次いで、ストリングに第2の所定の牽引力を加えることにより、ストリングの第2の伸張が実行されることが好ましい。第2の牽引力の値は、第1の牽引力の値よりも低いことが好ましい。
【0066】
弛緩状態の共押出しストリングの長さに対する伸張状態の共押出しストリングの長さの比である伸張比は、第1の伸張については、好ましくは1~10、より好ましくは3.5~4.5であり、第2の伸張については1~2の間、より好ましくは1.05~1.55の間である。
【0067】
コアとシースとが共押出プロセスによって密接にリンクされているという事実により、伸張はコアとシースの両方の機械的特性に影響を及ぼす。
【0068】
第1の実施形態によれば、第1の伸張ステップおよび第2の伸張ステップは連続的である。第2の伸張は、第1の伸張の直後に、ストリングが弛緩位置に戻った後に実行される。
【0069】
第2の実施形態によれば、第1の伸張ステップおよび第2の伸張ステップは逐次的である。ストリングは、第1の伸張の後、所定の時間だけ休止され、その後、第2の伸張が実行される。
【0070】
各伸張ステップは、コアとシースの両方の引張弾性率を増加させ、シースはコアよりも衝撃を受ける。これにより、ストリングの幾何学的剛性が向上するが、ストリングの機械的安定性が高くなり、特に張力の維持が向上する。
【0071】
伸張ステップ後のストリングの弾性変形は、伸張ステップ前のストリングに比べて実際に減少し、使用の際に長時間にわたって実質的に一定に維持される。
【0072】
もちろん、本発明の範囲から逸脱することなく、連続的または逐次的な3つ以上の伸張ステップを実施してもよい。
【0073】
上述のモノフィラメントストリングは、テニス、スカッシュ、バドミントンなどのラケットで使用でき、このようなモノフィラメントストリングのセットは、ラケットのフープを横切って2つの直交方向に伸張される。
【実施例
【0074】
[実施例1:異なるストリングの弾性変形]
本発明によるモノフィラメントストリング、ならびに既存のモノフィラメントおよびマルチフィラメントストリングの弾性変形の実験的測定が実施される。
【0075】
ストリングのサンプルは以下の通りである。
ストリングA:コアの重量に対して80重量%のポリアミド6および20重量%の共重合体PA6/6.6からなるコアと、共重合体PA6/6.6からなるシースとを含み、伸張比4での第1の伸張後の本発明のモノフィラメントストリング。ポリアミド6は700~800MPaの引張弾性率を有し、共重合体PA6/6.6は500~600MPaの引張弾性率を有する。ストリングの直径は1.28ミリメートルである。
ストリングB:伸張率1.1で第2の伸張を行った後のストリングAに対応する。
ストリングC:伸縮率1.15で第2の伸縮を行った後のストリングAに対応する。
ストリングD:直径1.3ミリメートルのポリウレタン製マルチフィラメントストリング。
ストリングE:直径1.3ミリメートルのポリアミド6、10製モノフィラメントストリング。
ストリングF:直径1.25ミリメートルのポリエステル(PET)製モノフィラメントストリング。
【0076】
各ストリングのサンプルは、100サイクルの引張応力を受ける。つまり、サンプルは100回引き伸ばされ、弛緩される。各サイクルについて、ストリングの弾性変形が測定され、100サイクルにわたるストリングの変形の平均値が計算される。弾性変形は、ストリングが可逆的に変形する能力に対応する。弾性変形と対応する平均値はパーセンテージで表され、これは、伸びた状態のストリングの長さと弛緩した状態のストリングの長さの割合の割合である。結果を図3のグラフに示す。
【0077】
結果を見ると、伸張されたストリングAの弾性変形率は他のストリングの弾性変形率よりも大きく、第2の伸張(ストリングBおよびストリングC)の後、ストリングDの0.75%に非常に近い0.96%~0.72%に減少する。したがって、第2の伸張では、ストリングの弾力性が低下する。しかし、結果のストリングBおよびストリングCは、ストリングEおよびストリングFよりも可逆的に大きく、ストリングDとほぼ同等に変形するが、コントロール特性と耐久性とが向上している。
【0078】
[実施例2:異なるストリングの張力維持]
ストリングのサンプルは実施例1と同じである。各ストリングのサンプルは、初期値が250ニュートン(N)の引張応力を10分間受ける。時間の経過とともに、ストリングのサンプルの引張応力は自然に減少する。10分後、各ストリングのサンプルに加えられた残りの引張応力が測定され、ニュートン(N)単位の ストリングの張力維持に対応する。結果を図4のグラフに示す。
【0079】
結果を考慮すると、第1の伸張後のストリングの張力維持(ストリングA)は、他のすべてのストリングよりも低くなっている。第2の伸張(ストリングBおよびストリングC)は、ストリングの張力維持を、ストリングAの約218Nから、ストリングDの223.5Nに非常に近く、ストリングEの230NおよびストリングFの230.5Nよりも低いストリングBの約221NおよびストリングCの約224Nに増加させる。
図1
図2
図3
図4