(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】磁場検出装置および電流検出装置
(51)【国際特許分類】
G01R 33/09 20060101AFI20220719BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20220719BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
G01R33/09
G01R19/00 B
H01L43/08 P
H01L43/08 U
(21)【出願番号】P 2020048089
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 尚史
(72)【発明者】
【氏名】太田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】牧野 健三
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/129276(WO,A1)
【文献】特開2017-181403(JP,A)
【文献】特表2016-510116(JP,A)
【文献】特開2008-111801(JP,A)
【文献】特開2021-124289(JP,A)
【文献】特開2021-92527(JP,A)
【文献】特開2021-92526(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0025819(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00-33/26
G01R 19/00-19/32
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗効果素子と、
第1の軸方向において前記磁気抵抗効果素子を挟むように互いに対向する第1階層部分および第2階層部分を含み、電流が供給されることにより前記磁気抵抗効果素子に対し第2の軸方向に付与される誘導磁場を形成可能なコイルと
を備え、
前記第1階層部分は、第3の軸方向に延在する一の第1導体、または前記第3の軸方向に沿って各々延在すると共に前記第2の軸方向に並んで互いに並列接続された複数の第1導体を有し、
前記第2階層部分は、前記第3の軸方向に沿って各々延在すると共に前記第2の軸方向に並んで互いに並列接続された複数の第2導体を有し、
前記第1導体の幅は、前記第2導体の幅よりも狭い
磁場検出装置。
【請求項2】
前記第2階層部分は、前記複数の第2導体を有し、
前記複数の第1導体の数は、前記複数の第2導体の数よりも多い
請求項1記載の磁場検出装置。
【請求項3】
基板をさらに備え、
前記基板の上に、前記第1階層部分と、前記磁気抵抗効果素子と、前記第2階層部分とが順に、非磁性絶縁体を介して積層されている
請求項1または請求項2記載の磁場検出装置。
【請求項4】
前記第1の軸方向において、前記磁気抵抗効果素子と前記第1階層部分との第1距離は、前記磁気抵抗効果素子と前記第2階層部分との第2距離よりも長い
請求項3記載の磁場検出装置。
【請求項5】
複数の前記磁気抵抗効果素子を備え、
前記複数の磁気抵抗効果素子は、前記第3の軸方向に並んでいる
請求項1から請求項4記載のいずれか1項に記載の磁場検出装置。
【請求項6】
前記磁気抵抗効果素子は、前記第1から第3の軸方向のいずれとも異なる第4の軸方向に延在する磁気抵抗効果膜を有し、
前記複数の第2導体は、前記第2の軸方向において隣り合う第1の前記第2導体および第2の前記第2導体を含み、
前記磁気抵抗効果膜は、前記第1の軸方向において、前記第1の第2導体および前記第2の第2導体の双方と重なり合うように配置されている
請求項1から請求項4記載のいずれか1項に記載の磁場検出装置。
【請求項7】
前記磁気抵抗効果膜は、第1の先端部と、第2の先端部と、前記第1の先端部および前記第2の先端部に挟まれた中間部とを有し、
前記第1の第2導体は、前記第1の軸方向において前記第1の先端部と重なり合うように設けられ、
前記第2の第2導体は、前記第1の軸方向において前記第2の先端部と重なり合うように設けられている
請求項6記載の磁場検出装置。
【請求項8】
前記第1の先端部に付与される前記誘導磁場の強度および前記第2の先端部に付与される前記誘導磁場の強度は、前記中間部に付与される前記誘導磁場の強度よりも高い
請求項7記載の磁場検出装置。
【請求項9】
前記第1の第2導体は、前記第1の先端部における第1の最先端部と前記第1の軸方向において重なり合うように設けられ、
前記第2の第2導体は、前記第2の先端部における第2の最先端部と前記第1の軸方向において重なり合うように設けられている
請求項7または請求項8に記載の磁場検出装置。
【請求項10】
前記電流は、前記第1導体を前記第3の軸方向に沿った第1の方向に流れ、前記第2導体を前記第1の方向と反対の第2の方向に流れる
請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の磁場検出装置。
【請求項11】
複数の前記磁気抵抗効果素子を備え、
前記複数の磁気抵抗効果素子は、第1の磁気抵抗効果素子と第2の磁気抵抗効果素子とを有し、
前記コイルは、
前記第2の軸方向に沿って進行しつつ前記第1の磁気抵抗効果素子の周囲を第1の旋回方向へ旋回するように設けられた第1のコイル部分と、
前記第2の軸方向に沿って進行しつつ前記第2の磁気抵抗効果素子の周囲を前記第1の旋回方向と反対の第2の旋回方向へ旋回するように設けられ、前記第1のコイル部分と直列接続された第2のコイル部分と
を有する
請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の磁場検出装置。
【請求項12】
複数の前記磁気抵抗効果素子を備え、
前記複数の磁気抵抗効果素子は、第1の磁化自由層を含む第1の磁気抵抗効果素子と第2の磁化自由層を含む第2の磁気抵抗効果素子とを有し、
前記コイルは、前記第1の磁化自由層の磁化の向きと前記第2の磁化自由層の磁化の向きとが反対向きとなるように前記誘導磁場を形成する
請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の磁場検出装置。
【請求項13】
複数の前記磁気抵抗効果素子を備え、
前記複数の磁気抵抗効果素子は、第1の磁気抵抗効果膜を含む第1の磁気抵抗効果素子と第2の磁気抵抗効果膜を含む第2の磁気抵抗効果素子とを有し、
前記第1階層部分と前記第2階層部分とは、前記第1の軸方向において前記第1の磁気抵抗効果素子および前記第2の磁気抵抗効果素子の双方を挟むように対向しており、
前記コイルは、前記電流が供給されることにより、前記第1の磁気抵抗効果素子および前記第2の磁気抵抗効果素子の双方に対し前記第2の軸方向に付与される前記誘導磁場を形成可能である
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の磁場検出装置。
【請求項14】
前記第1から第3の軸方向のいずれに対しても交差する第1の面と、前記第1から第3の軸方向のいずれに対しても交差すると共に前記第1の面に対して傾斜した第2の面とを有する基板をさらに備え、
前記第1の磁気抵抗効果膜は前記第1の面に設けられ、
前記第2の磁気抵抗効果膜は前記第2の面に設けられている
請求項13記載の磁場検出装置。
【請求項15】
磁気抵抗効果素子と、
第1の軸方向において前記磁気抵抗効果素子を挟むように互いに対向する第1階層部分および第2階層部分を含み、前記第1の軸方向と直交する第2の軸方向に沿って進行しつつ前記磁気抵抗効果素子の周囲を旋回するように設けられ、第1の電流が供給されることにより前記磁気抵抗効果素子に対し前記第2の軸方向に付与される第1の誘導磁場を形成可能なコイルと、
第2の電流が供給されることにより、前記磁気抵抗効果素子に対し前記第2の軸方向に付与される第2の誘導磁場を形成可能である導線と
を備え、
前記第1階層部分は、前記コイルの旋回方向に沿った第3の軸方向に延在する一の第1導体、または前記第3の軸方向に沿って各々延在すると共に前記第2の軸方向に並んで互いに並列接続された複数の第1導体を有し、
前記第2階層部分は、前記第3の軸方向に沿って各々延在すると共に前記第2の軸方向に並んで互いに並列接続された複数の第2導体を有し、
前記第1導体の幅は、前記第2導体の幅よりも狭い
電流検出装置。
【請求項16】
前記第2の誘導磁場を打ち消す強度を有する前記第1の誘導磁場を形成するように前記第1の電流の大きさを制御する制御部をさらに備えた
請求項15記載の電流検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子を備えた磁場検出装置および電流検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、磁気抵抗効果素子を用いた磁場検出装置がいくつか提案されている。例えば特許文献1には、導体における電流の流れる方向に沿った中心線の方向が、磁気抵抗効果素子における長手方向に沿った中心線の方向と異なるようにした磁界検出装置が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような磁場検出装置に対しては、小型でありながら高い検出感度を有することが求められている。
【0005】
したがって、検出感度の向上と小型化とを両立できる磁場検出装置を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様としての磁場検出装置は、磁気抵抗効果素子と、第1の軸方向において磁気抵抗効果素子を挟むように互いに対向する第1階層部分および第2階層部分を含み、電流が供給されることにより磁気抵抗効果素子に対し第2の軸方向に付与される誘導磁場を形成可能なヘリカルコイルとを備える。第1階層部分は、第3の軸方向に延在する一の第1導体、または第3の軸方向に沿って各々延在すると共に第2の軸方向に並んで互いに並列接続された複数の第1導体を有する。第2階層部分は、第3の軸方向に沿って各々延在すると共に第2の軸方向に並んで互いに並列接続された複数の第2導体を有する。第1導体の幅は、第2導体の幅よりも狭い。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施態様としての磁場検出装置によれば、小型でありながら高い検出精度を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態としての電流検出装置の全体構成例を表す概略平面図である。
【
図2A】
図1に示した第1の電流検出ユニットの全体構成例を表す斜視図である。
【
図2B】
図1に示した第2の電流検出ユニットの全体構成例を表す斜視図である。
【
図3A】
図2Aに示した第1の素子形成領域に形成された第1の磁気抵抗効果素子の詳細な構成を説明するための平面図である。
【
図3B】
図2Aに示した第1の電流検出ユニットにおけるセット動作を表す説明図である。
【
図3C】
図2Aに示した第1の電流検出ユニットにおけるリセット動作を表す説明図である。
【
図3D】
図2Aに示した第1の電流検出ユニットにおける電流検出動作を表す第1の概略断面図である。
【
図3E】
図2Aに示した第1の電流検出ユニットにおける電流検出動作を表す第2の概略断面図である。
【
図3F】
図3Aに示した第1の磁気抵抗効果膜に付与されるセット磁場およびリセット磁場の強度分布を表す説明図である。
【
図3G】
図2Aに示した第4の素子形成領域に形成された第4の磁気抵抗効果素子の詳細な構成を説明するための平面図である。
【
図4A】
図2Bに示した第3の素子形成領域に形成された第3の磁気抵抗効果素子の詳細な構成を説明するための平面図である。
【
図4B】
図2Bに示した第2の電流検出ユニットにおけるセット動作を表す概略断面図である。
【
図4C】
図2Bに示した第2の電流検出ユニットにおけるリセット動作を表す概略断面図である。
【
図4D】
図2Bに示した第2の電流検出ユニットにおける電流検出動作を表す第1の概略断面図である。
【
図4E】
図2Bに示した第2の電流検出ユニットにおける電流検出動作を表す第2の概略断面図である。
【
図4F】
図2Bに示した第2の素子形成領域に形成された第2の磁気抵抗効果素子の詳細な構成を説明するための平面図である。
【
図5A】ヘリカルコイルの一部を拡大して模式的に表した第1の斜視図である。
【
図5B】ヘリカルコイルの一部を拡大して模式的に表した第2の斜視図である。
【
図6A】
図3Aに示した第1の磁気抵抗効果膜の積層構造を表す分解斜視図である。
【
図6B】
図4Fに示した第2の磁気抵抗効果膜の積層構造を表す分解斜視図である。
【
図6C】
図4Aに示した第3の磁気抵抗効果膜の積層構造を表す分解斜視図である。
【
図6D】
図3Gに示した第4の磁気抵抗効果膜の積層構造を表す分解斜視図である。
【
図8A】
図1に示した電流検出装置の製造方法の一工程を表す断面模式図である。
【
図9A】変形例としてのヘリカルコイルの一部を拡大して模式的に表した第1の斜視図である。
【
図9B】変形例としてのヘリカルコイルの一部を拡大して模式的に表した第2の斜視図である。
【
図10A】本発明の一実施の形態としての磁場検出装置の全体構成例を表す概略平面図である。
【
図11A】
図10に示した第1の素子形成領域の詳細な構成を説明するための平面図である。
【
図11B】
図11Aに示した第1の素子形成領域の詳細な構成を説明するための断面図である。
【
図12】
図10に示した第2の素子形成領域の詳細な構成を説明するための平面図である。
【
図13】
図10に示した第3の素子形成領域の詳細な構成を説明するための平面図である。
【
図14】
図10に示した第4の素子形成領域の詳細な構成を説明するための平面図である。
【
図15A】変形例としてのパンケーキ型コイルを模式的に表した斜視図である。
【
図15B】
図15Aに示したパンケーキ型コイルの上層部を模式的に表した平面図である。
【
図15C】
図15Aに示したパンケーキ型コイルの下層部を模式的に表した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.一実施の形態
4つの磁気抵抗効果素子を有するブリッジ回路と、旋回方向が途中で反転するヘリカルコイルとを備え、バスを流れる電流を検出する電流検出装置の例。
2.変形例
【0010】
<1.一実施の形態>
[電流検出装置100の構成]
最初に、
図1から
図7を参照して、本発明における一実施の形態としての電流検出装置100の構成について説明する。
【0011】
図1は、電流検出装置100の全体構成例を表す概略平面図である。
図1に示したように、電流検出装置100は、検出対象とする信号電流Im(Im1,Im2)が供給される電流線(バス)5と、電流検出ユニット10A,10Bが形成された基板1とを備えている。電流検出ユニット10Aは、素子形成領域X1に形成された磁気抵抗効果素子11と、素子形成領域X4に形成された磁気抵抗効果素子14と、コイル部分6Aとを有している。電流検出ユニット10Bは、素子形成領域X3に形成された磁気抵抗効果素子13と、素子形成領域X2に形成された磁気抵抗効果素子12と、コイル部分6Bとを有している。なお、コイル部分6Aとコイル部分6Bとは直列接続されており、一体のヘリカルコイル6を形成している。ヘリカルコイル6には、フィードバック電流If(If1,If2)、セット電流Is(Is1,Is2)およびリセット電流Ir(Ir1,Ir2)がそれぞれ供給されるようになっている(いずれも後出)。なお、フィードバック電流If、セット電流Isおよびリセット電流Irは、それぞれ異なるタイミングでヘリカルコイル6に供給されるようになっている。
【0012】
本実施の形態の磁気抵抗効果素子11~14は、それぞれ、本発明の「磁気抵抗効果素子」に対応する一具体例である。また、磁気抵抗効果素子11,14は本発明の「第1の磁気抵抗効果素子」に対応する一具体例でもあり、磁気抵抗効果素子12,13は本発明の「第2の磁気抵抗効果素子」に対応する一具体例でもある。さらに、ヘリカルコイル6は本発明の「ヘリカルコイル」に対応する一具体例であり、バス5は本発明の「導線」に対応する一具体例である。
【0013】
(電流検出ユニット10A)
図2Aは、
図1に示した電流検出ユニット10Aを拡大して表す斜視図である。
図2Aに示したように、電流検出ユニット10Aは、例えば、バス5の上方に、基板1と、下部配線6LAと、磁気抵抗効果素子11および磁気抵抗効果素子14がY軸方向に並ぶように形成された素子形成層2と、上部配線6UAとが、非磁性絶縁層3(後出)を介してZ軸方向において順に積層された構造を有する。上部配線6UAおよび下部配線6LAは、コイル部分6Aの一部を構成しており、互いに直列接続されている。
図2Aでは、下部配線6LAが8つの下部配線パターン61LA~68LAを含み、上部配線6UAが2つの上部配線パターン61UA,62UAを含む場合を例示している。なお、本発明では下部配線6LAにおける下部配線パターンの数、および上部配線6UAにおける上部配線パターンの数はこれに限定されるものではなく、任意の数に設定可能である。但し、電流検出ユニット10Aでは、下部配線パターンの数が上部配線パターンの数よりも多いことが望ましい。下層配線パターンについては、例えばダマシン法などの、微細かつ高精度の寸法を得ることができる製造方法を適用しやすいからである。8つの下部配線パターン61LA~68LAは1つの電源に対し互いに並列接続されている。2つの上部配線パターン61UA,62UAについてもその電源に対し互いに並列接続されている。上部配線6UAと下部配線6LAとは直列接続されていることから、例えば、上部配線6UA(上部配線パターン61UA,62UA)に+Y方向のセット電流Isが流れる場合、下部配線6LA(8つの下部配線パターン61LA~68LA)には-Y方向のセット電流Isが流れるようになっている。これに対し、上部配線6UAに-Y方向のリセット電流Irが流れる場合、下部配線6LAには+Y方向のリセット電流Irが流れるようになっている。また、バス5に+Y方向の信号電流Im1が流れる場合、上部配線6UAには+Y方向のフィードバック電流If1が流れ、下部配線6LAには-Y方向のフィードバック電流If1が流れるようになっている。さらに、バス5に-Y方向の信号電流Im2が流れる場合、上部配線6UAには-Y方向のフィードバック電流If2が流れ、下部配線6LAには+Y方向のフィードバック電流If2が流れるようになっている。なお、
図1の符号If1は、上部配線6UA(上部配線パターン61UA,62UA)を流れるフィードバック電流の向きを示している。また、
図2Aにおいて、符号JS11を付した矢印は磁気抵抗効果素子11を構成する磁気抵抗効果膜MR1(後出)における磁化固着層S11(後出)の磁化JS11の方向を示し、符号JS41を付した矢印は磁気抵抗効果素子14を構成する磁気抵抗効果膜MR4(後出)における磁化固着層S41(後出)の磁化JS41の方向を示す。
【0014】
上部配線パターン61UA,62UAおよび下部配線パターン61LA~68LAは、いずれもY軸方向に延在している。下部配線パターン61LA~64LAは、Z軸方向において磁気抵抗効果素子11,14を挟むように上部配線パターン61UAと反対側に配置されている。また、下部配線パターン65LA~68LAは、Z軸方向において磁気抵抗効果素子11,14を挟むように上部配線パターン62UAと反対側に配置されている。
【0015】
なお、下部配線6LAが本発明の「第1階層部分」に対応する一具体例であり、下部配線パターン61LA~68LAが本発明の「第1導体」に対応する一具体例である。また、上部配線6UAが本発明の「第2階層部分」に対応する一具体例であり、上部配線パターン61UA,62UAが本発明の「第2導体」に対応する一具体例である。
【0016】
(電流検出ユニット10B)
図2Bは、
図1に示した電流検出ユニット10Bを拡大して表す斜視図である。
図2Bに示したように、電流検出ユニット10Bは、例えば、バス5の上方に、基板1と、下部配線6LBと、磁気抵抗効果素子13および磁気抵抗効果素子12がY軸方向に並ぶように形成された素子形成層2と、上部配線6UBとが、非磁性絶縁層3を介してZ軸方向において順に積層された構造を有する。なお、バス5および基板1は、電流検出ユニット10Aと電流検出ユニット10Bとの双方に対して共通に設けられている。上部配線6UBおよび下部配線6LBは、コイル部分6Bの一部を構成しており、互いに直列接続されている。
図2Bでは、下部配線6LBが8つの下部配線パターン61LB~68LBを含み、上部配線6UBが2つの上部配線パターン61UB,62UBを含む場合を例示している。なお、本発明では下部配線6LBにおける下部配線パターンの数、および上部配線6UBにおける上部配線パターンの数はこれに限定されるものではなく、任意の設定可能である。但し、電流検出ユニット10Bにおいても、下部配線パターンの数が上部配線パターンの数よりも多いことが望ましい。下層配線パターンについては、例えばダマシン法などの、微細かつ高精度の寸法を得ることができる製造方法を適用しやすいからである。8つの下部配線パターン61LB~68LBは上述の電源に対し互いに並列接続されている。2つの上部配線パターン61UB,62UBについてもその電源に対し互いに並列接続されている。また、
図2Bにおいて、符号JS31を付した矢印は磁気抵抗効果素子13を構成する磁気抵抗効果膜MR3(後出)における磁化固着層S31(後出)の磁化JS31の方向を示し、符号JS21を付した矢印は磁気抵抗効果素子12を構成する磁気抵抗効果膜MR2(後出)における磁化固着層S21(後出)の磁化JS21の方向を示す。
【0017】
コイル部分6Aとコイル部分6Bとは直列接続されているので、コイル部分6Bには、コイル部分6Aおよびコイル部分6Bに対し共通に設けられた電源から供給されるセット電流Isおよびリセット電流Irが流れるようになっている。但し、電流検出ユニット10Bでは、電流検出ユニット10Aとは反対向きにセット電流Isおよびリセット電流Irが流れるようになっている。具体的には、例えば、上部配線6UB(上部配線パターン61UB,62UB)に-Y方向のセット電流Isが流れる場合、下部配線6LB(8つの下部配線パターン61LB~68LB)には+Y方向のセット電流Isが流れるようになっている。これに対し、上部配線6UB(上部配線パターン61UB,62UB)に+Y方向のリセット電流Irが流れる場合、下部配線6LB(8つの下部配線パターン61LB~68LB)には-Y方向のリセット電流Irが流れるようになっている。また、バス5に+Y方向の信号電流Im1が流れる場合、上部配線6UBには+Y方向のフィードバック電流If1が流れ、下部配線6LBには-Y方向のフィードバック電流If1が流れるようになっている。さらに、バス5に-Y方向の信号電流Im2が流れる場合、上部配線6UBには-Y方向のフィードバック電流If2が流れ、下部配線6LBには+Y方向のフィードバック電流If2が流れるようになっている。なお、
図1の符号If1は、上部配線6UB(上部配線パターン61UB,62UB)を流れるフィードバック電流の向きを示している。
【0018】
上部配線パターン61UB,62UBおよび下部配線パターン61LB~68LBは、いずれもY軸方向に延在している。下部配線パターン61LB~64LBは、Z軸方向において磁気抵抗効果素子13,12を挟むように上部配線パターン61UBと反対側に配置されている。また、下部配線パターン65LB~68LBは、Z軸方向において磁気抵抗効果素子13,12を挟むように上部配線パターン62UBと反対側に配置されている。
【0019】
なお、下部配線6LBが本発明の「第1階層部分」に対応する一具体例であり、下部配線パターン61LB~68LBが本発明の「第1導体」に対応する一具体例である。また、上部配線6UBが本発明の「第2階層部分」に対応する一具体例であり、上部配線パターン61UB,62UBが本発明の「第2導体」に対応する一具体例である。
【0020】
(磁気抵抗効果素子11)
図3Aは、電流検出ユニット10Aのうちの、素子形成領域X1に形成された磁気抵抗効果素子11の詳細な構成を説明するための平面図である。また、
図3B~3Eは、それぞれ、電流検出ユニット10Aの要部を表す断面図である。なお、
図3Aでは、磁気抵抗効果素子11を構成する複数の磁気抵抗効果膜MR1と、それらの下方に配置された下部配線パターン62LA,63LAとを記載しており、他の構成要素については記載を省略している。また、
図3B~3Eでは、それぞれ、磁気抵抗効果膜MR1と、その下方に位置し、基板1の上に設けられて非磁性絶縁層3に埋設された下部配線パターン62LA,63LAと、磁気抵抗効果膜MR1の上方に位置する上部配線パターン61UAとを記載しており、他の構成要素については記載を省略している。
【0021】
図3Aに示したように、磁気抵抗効果素子11は、Y軸方向に並ぶ複数の磁気抵抗効果膜MR1を含んでいる。複数の磁気抵抗効果膜MR1は、互いに直列接続されており、それぞれX軸方向およびY軸方向の双方に対して傾斜したW軸方向に延在している。したがって、複数の磁気抵抗効果膜MR1は、それぞれW軸方向の形状異方性を示す。W軸方向とY軸方向とのなす角度θ1は、例えば45°であるとよい。複数の磁気抵抗効果膜MR1は、それぞれ、第1の先端部11Aと、第2の先端部11Bと、W軸方向においてそれら第1の先端部11Aおよび第2の先端部11Bに挟まれた中間部11Cとを有する。なお、第1の先端部11Aおよび第2の先端部11Bは、それぞれ、W軸方向における第1の最先端部11ATおよび第2の最先端部11BTを含む部分である。また、
図3Aにおいて、符号JS13を付した矢印は磁気抵抗効果膜MR1における磁化自由層S13(後出)の初期状態での磁化方向を示す。すなわち、初期状態での磁化自由層S13の磁化JS13の方向は、W軸方向とほぼ平行である。さらに、
図3Aにおいて符号JS11を付した矢印は、磁気抵抗効果膜MR1における磁化固着層S11(後出)の磁化JS11の方向を示す。すなわち、磁化JS11の方向は、W軸方向と直交するV軸方向とほぼ平行である。したがって、磁気抵抗効果膜MR1の感度方向はV軸方向である。
ここで、Z軸方向が本発明の「第1の軸方向」に対応する一具体例であり、X軸方向が本発明の「第2の軸方向」に対応する一具体例であり、Y軸方向が本発明の「第3の軸方向」に対応する一具体例である。また、W軸方向が本発明の「第4の軸方向」に対応する一具体例である。
【0022】
図3A~3Eに示したように、ヘリカルコイル6の上部配線パターン61UAは、Z軸方向において磁気抵抗効果膜MR1および下部配線パターン62LA,63LAとそれぞれ重なり合うように設けられている。また、各磁気抵抗効果膜MR1は、Z軸方向において、ヘリカルコイル6における下部配線パターン62LAおよび下部配線パターン63LAの双方と重なり合うように配置されている。下部配線パターン62LAは、例えばZ軸方向において各磁気抵抗効果膜MR1のうちの第1の先端部11Aとそれぞれ重なり合うように設けられている。同様に、下部配線パターン63LAは、例えばZ軸方向において各磁気抵抗効果膜MR1のうちの第2の先端部11Bとそれぞれ重なり合うように設けられている。より詳細には、下部配線パターン62LAが、第1の先端部11Aのうちの第1の最先端部11ATとZ軸方向において重なり合い、下部配線パターン63LAが、第2の先端部11Bのうちの第2の最先端部11BTとZ軸方向において重なり合っている。
ここで、下部配線パターン62LAは本発明の「第1の第1導体」に対応する一具体例であり、下部配線パターン63LAは本発明の「第2の第1導体」に対応する一具体例である。
【0023】
電流検出ユニット10Aでは、
図3Aおよび
図3Bに示したように、ヘリカルコイル6にセット電流Isが供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR1に対し-X方向のセット磁場SF-が付与されることとなる。
図3Cに示したように、ヘリカルコイル6にリセット電流Irが供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR1に対し+X方向のリセット磁場RF+が付与されることとなる。また、
図3Dに示したように、バス5に+Y方向の信号電流Im1が流れる場合、磁気抵抗効果膜MR1には+X方向の信号磁場Hm1が付与される。その際、ヘリカルコイル6にフィードバック電流If1が供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR1に対し、信号磁場Hm1を打ち消すように-X方向のフィードバック磁場Hf1が付与される。さらに、
図3Eに示したように、バス5に-Y方向の信号電流Im2が流れる場合、磁気抵抗効果膜MR1には-X方向の信号磁場Hm2が付与される。その際、ヘリカルコイル6にフィードバック電流If2が供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR1に対し、信号磁場Hm2を打ち消すように+X方向のフィードバック磁場Hf2が付与される。
なお、セット磁場SF(SF+,SF-)およびリセット磁場RF(RF+,RF-)が、本発明の「誘導磁場」または「第1の誘導磁場」に対応する一具体例である。
【0024】
図3Fに示したように、第1の先端部11Aに付与されるセット磁場SFおよびリセット磁場RFの強度(絶対値)および第2の先端部11Bに付与されるセット磁場SFおよびリセット磁場RFの強度(絶対値)は、中間部11Cに付与されるセット磁場SFおよびリセット磁場RFの強度(絶対値)よりも高くなる。これは、第1の先端部11Aおよび第2の先端部11Bは、下部配線パターン62LAおよび下部配線パターン63LAとZ軸方向において重なり合うようになっているのに対し、中間部11CとZ軸方向において重なり合う位置に下部配線パターンが設けられていないからである。すなわち、中間部11Cは、第1の先端部11Aおよび第2の先端部11Bと比較して、ヘリカルコイル6における下部配線パターン62LAおよび下部配線パターン63LAからの距離が遠いことに起因している。なお、
図3Fは、磁気抵抗効果膜MR1に付与されるセット磁場SFおよびリセット磁場RFのX軸方向の強度分布を表す説明図である。
図3Fにおいて、横軸がX軸方向の位置(任意単位)を表し、縦軸が磁場強度(任意単位)を表している。
【0025】
また、
図3B~3Eに示したように、電流検出ユニット10Aでは、第1導体としての下部配線パターン62LAおよび下部配線パターン63LAの各々の幅W6LAが、第2導体としての上部配線パターン61UAの幅W6UAよりも狭くなっているとよい。下層配線パターンについては、例えばダマシン法などの、微細かつ高精度の寸法を得ることができる製造方法を適用しやすいからである。なお、上部配線パターン61UA,62UAの各々の幅W6UAは、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、下部配線パターン61LA~68LAの各々の幅W6LAは、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0026】
さらに、電流検出ユニット10Aでは、Z軸方向において、磁気抵抗効果素子11と下部配線6LAとの第1距離は、磁気抵抗効果素子11と上部配線6UAとの第2距離よりも長いことが望ましい。具体的には、
図3B~3Eに示したように、例えば磁気抵抗効果膜MR1と下部配線パターン62LAおよび下部配線パターン63LAとの高さ方向(Z軸方向)における間隔G6LAが、磁気抵抗効果膜MR1と上部配線パターン61UAとの高さ方向(Z軸方向)における間隔G6UAよりも大きい(間隔G6LA>間隔G6UA)ことが望ましい。間隔G6LAを十分に確保することにより、例えば下部配線6LAの上に所定の厚さの非磁性絶縁層3を形成することができ、より平坦性の高い面上に複数の磁気抵抗効果膜MR1を形成できるからである。より平坦性の高い面上に複数の磁気抵抗効果膜MR1を形成することにより、複数の磁気抵抗効果膜MR1の各々の性能を高めることができるうえ、複数の磁気抵抗効果膜MR1の相互間における性能のばらつきを低減することができる。
【0027】
(磁気抵抗効果素子14)
図3Gは、電流検出ユニット10Aのうちの、素子形成領域X4に形成された磁気抵抗効果素子14の詳細な構成を説明するための平面図である。なお、
図3Gでは、磁気抵抗効果素子14を構成する複数の磁気抵抗効果膜MR4と、それらの下方に配置された下部配線パターン62LA,63LAとを記載しており、他の構成要素については記載を省略している。
【0028】
図3Gに示したように、磁気抵抗効果素子14は、Y軸方向に並ぶ複数の磁気抵抗効果膜MR4を含んでいる。複数の磁気抵抗効果膜MR4は、互いに直列接続されており、それぞれX軸方向およびY軸方向の双方に対して傾斜したW軸方向に延在している。したがって、複数の磁気抵抗効果膜MR4は、それぞれW軸方向の形状異方性を示す。複数の磁気抵抗効果膜MR4は、それぞれ、第1の先端部14Aと、第2の先端部14Bと、W軸方向においてそれら第1の先端部14Aおよび第2の先端部14Bに挟まれた中間部14Cとを有する。なお、第1の先端部14Aおよび第2の先端部14Bは、それぞれ、W軸方向における第1の最先端部14ATおよび第2の最先端部14BTを含む部分である。また、
図3Gにおいて、符号JS43を付した矢印は磁気抵抗効果膜MR4における磁化自由層S43(後出)の初期状態での磁化方向を示す。すなわち、初期状態での磁化自由層S43の磁化JS43の方向は、W軸方向とほぼ平行である。さらに、
図3Gにおいて符号JS41を付した矢印は、磁気抵抗効果膜MR4における磁化固着層S41(後出)の磁化JS41の方向を示す。すなわち、磁化JS41の方向は、W軸方向と直交するV軸方向とほぼ平行である。したがって、磁気抵抗効果膜MR4の感度方向はV軸方向である。
【0029】
図3Gに示したように、各磁気抵抗効果膜MR4は、Z軸方向において、ヘリカルコイル6における下部配線パターン62LAおよび下部配線パターン63LAの双方と重なり合うように配置されている。下部配線パターン62LAは、例えばZ軸方向において各磁気抵抗効果膜MR4のうちの第1の先端部14Aとそれぞれ重なり合うように設けられている。同様に、下部配線パターン63LAは、例えばZ軸方向において各磁気抵抗効果膜MR4のうちの第2の先端部14Bとそれぞれ重なり合うように設けられている。より詳細には、下部配線パターン62LAが、第1の先端部14Aのうちの第1の最先端部14ATとZ軸方向において重なり合い、下部配線パターン63LAが、第2の先端部14Bのうちの第2の最先端部14BTとZ軸方向において重なり合っている。したがって、磁気抵抗効果素子14では、磁気抵抗効果素子11と同様に、ヘリカルコイル6にセット電流Isが供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR4に対し-X方向のセット磁場SF-が付与されることとなる。また、ヘリカルコイル6にリセット電流Irが供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR4に対し+X方向のリセット磁場RF+が付与されることとなる。
【0030】
さらに、電流検出ユニット10Aでは、Z軸方向において、磁気抵抗効果素子14と下部配線6LAとの第1距離は、磁気抵抗効果素子14と上部配線6UAとの第2距離よりも長いことが望ましい。より平坦性の高い面上に複数の磁気抵抗効果素子14を形成でき、複数の磁気抵抗効果素子14の各々の性能を高めることができるうえ、複数の磁気抵抗効果素子14の相互間における性能のばらつきを低減することができるからである。
【0031】
(磁気抵抗効果素子13)
図4Aは、電流検出ユニット10Bのうちの、素子形成領域X3に形成された磁気抵抗効果素子13の詳細な構成を説明するための平面図である。また、
図4B~4Eは、それぞれ、電流検出ユニット10Bの要部を表す断面図である。なお、
図4Aでは、磁気抵抗効果素子13を構成する複数の磁気抵抗効果膜MR3と、それらの下方に配置された下部配線パターン62LB,63LBとを記載しており、他の構成要素については記載を省略している。また、
図4B~4Eでは、それぞれ、磁気抵抗効果膜MR3と、その下方に位置し、基板1の上に設けられて非磁性絶縁層3に埋設された下部配線パターン62LB,63LBと、磁気抵抗効果膜MR3の上方に位置する上部配線パターン61UBとを記載しており、他の構成要素については記載を省略している。
【0032】
図4Aに示したように、磁気抵抗効果素子13は、Y軸方向に並ぶ複数の磁気抵抗効果膜MR3を含んでいる。複数の磁気抵抗効果膜MR3は、互いに直列接続されており、それぞれX軸方向およびY軸方向の双方に対して傾斜したW軸方向に延在している。したがって、複数の磁気抵抗効果膜MR3は、それぞれW軸方向の形状異方性を示す。複数の磁気抵抗効果膜MR3は、それぞれ、第1の先端部13Aと、第2の先端部13Bと、W軸方向においてそれら第1の先端部13Aおよび第2の先端部13Bに挟まれた中間部13Cとを有する。なお、第1の先端部13Aおよび第2の先端部13Bは、それぞれ、W軸方向における第1の最先端部13ATおよび第2の最先端部13BTを含む部分である。また、
図4Aにおいて、符号JS33を付した矢印は磁気抵抗効果膜MR3における磁化自由層S33(後出)の初期状態での磁化方向を示す。すなわち、初期状態での磁化自由層S33の磁化JS33の方向は、W軸方向とほぼ平行である。さらに、
図4Aにおいて符号JS31を付した矢印は、磁気抵抗効果膜MR3における磁化固着層S31(後出)の磁化JS31の方向を示す。すなわち、磁化JS31の方向は、W軸方向と直交するV軸方向とほぼ平行である。したがって、磁気抵抗効果膜MR3の感度方向はV軸方向である。
【0033】
図4A~4Eに示したように、ヘリカルコイル6の上部配線パターン61UBは、Z軸方向において磁気抵抗効果膜MR3および下部配線パターン62LB,63LBとそれぞれ重なり合うように設けられている。また、各磁気抵抗効果膜MR3は、Z軸方向において、ヘリカルコイル6における下部配線パターン62LBおよび下部配線パターン63LBの双方と重なり合うように配置されている。下部配線パターン62LBは、例えばZ軸方向において各磁気抵抗効果膜MR3のうちの第1の先端部13Aとそれぞれ重なり合うように設けられている。同様に、下部配線パターン63LBは、例えばZ軸方向において各磁気抵抗効果膜MR3のうちの第2の先端部13Bとそれぞれ重なり合うように設けられている。より詳細には、下部配線パターン62LBが、第1の先端部13Aのうちの第1の最先端部13ATとZ軸方向において重なり合い、下部配線パターン63LBが、第2の先端部13Bのうちの第2の最先端部13BTとZ軸方向において重なり合っている。
ここで、下部配線パターン62LBは本発明の「第1の第1導体」に対応する一具体例であり、下部配線パターン63LBは本発明の「第2の第1導体」に対応する一具体例である。
【0034】
電流検出ユニット10Bでは、
図4Aおよび
図4Bに示したように、ヘリカルコイル6にセット電流Isが供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR3に対し+X方向のセット磁場SF+が付与されることとなる。
図4Cに示したように、ヘリカルコイル6にリセット電流Irが供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR3に対し-X方向のリセット磁場RF-が付与されることとなる。また、
図4Dに示したように、バス5に+Y方向の信号電流Im1が流れる場合、磁気抵抗効果膜MR3には+X方向の信号磁場Hm1が付与される。その際、ヘリカルコイル6にフィードバック電流If1が供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR3に対し、信号磁場Hm1を打ち消すように-X方向のフィードバック磁場Hf1が付与される。さらに、
図4Eに示したように、バス5に-Y方向の信号電流Im2が流れる場合、磁気抵抗効果膜MR3には-X方向の信号磁場Hm2が付与される。その際、ヘリカルコイル6にフィードバック電流If2が供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR3に対し、信号磁場Hm2を打ち消すように+X方向のフィードバック磁場Hf2が付与される。
【0035】
また、
図4B~4Eに示したように、電流検出ユニット10Bでは、第1導体としての下部配線パターン62LBおよび下部配線パターン63LBの各々の幅W6LBが、第2導体としての上部配線パターン61UBの幅W6UBよりも狭くなっているとよい。下層配線パターンについては、例えばダマシン法などの、微細かつ高精度の寸法を得ることができる製造方法を適用しやすいからである。なお、上部配線パターン61UB,62UBの各々の幅W6UBは、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、下部配線パターン61LB~68LBの各々の幅W6LBは、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0036】
さらに、電流検出ユニット10Bでは、Z軸方向において、磁気抵抗効果素子13と下部配線6LBとの第1距離は、磁気抵抗効果素子13と上部配線6UBとの第2距離よりも長いことが望ましい。具体的には、
図4B~4Eに示したように、例えば磁気抵抗効果膜MR3と下部配線パターン62LBおよび下部配線パターン63LBとの高さ方向(Z軸方向)における間隔G6LBが、磁気抵抗効果膜MR3と上部配線パターン61UBとの高さ方向(Z軸方向)における間隔G6UBよりも大きい(間隔G6LB>間隔G6UB)ことが望ましい。間隔G6LBを十分に確保することにより、例えば下部配線6LBの上に所定の厚さの非磁性絶縁層3を形成することができ、より平坦性の高い面上に複数の磁気抵抗効果素子13を形成できるからである。より平坦性の高い面上に磁気抵抗効果素子13を形成することにより、複数の磁気抵抗効果素子13の各々の性能を高めることができるうえ、複数の磁気抵抗効果素子13の相互間における性能のばらつきを低減することができる。
【0037】
(磁気抵抗効果素子12)
図4Fは、電流検出ユニット10Bのうちの、素子形成領域X2に形成された磁気抵抗効果素子12の詳細な構成を説明するための平面図である。なお、
図4Fでは、磁気抵抗効果素子12を構成する複数の磁気抵抗効果膜MR2と、それらの下方に配置された下部配線パターン62LB,63LBとを記載しており、他の構成要素については記載を省略している。
【0038】
図4Fに示したように、磁気抵抗効果素子12は、Y軸方向に並ぶ複数の磁気抵抗効果膜MR2を含んでいる。複数の磁気抵抗効果膜MR2は、互いに直列接続されており、それぞれX軸方向およびY軸方向の双方に対して傾斜したW軸方向に延在している。したがって、複数の磁気抵抗効果膜MR2は、それぞれW軸方向の形状異方性を示す。複数の磁気抵抗効果膜MR2は、それぞれ、第1の先端部12Aと、第2の先端部12Bと、W軸方向においてそれら第1の先端部12Aおよび第2の先端部12Bに挟まれた中間部12Cとを有する。なお、第1の先端部12Aおよび第2の先端部12Bは、それぞれ、W軸方向における第1の最先端部12ATおよび第2の最先端部12BTを含む部分である。また、
図4Fにおいて、符号JS23を付した矢印は磁気抵抗効果膜MR2における磁化自由層S23(後出)の初期状態での磁化方向を示す。すなわち、初期状態での磁化自由層S23の磁化JS23の方向は、W軸方向とほぼ平行である。さらに、
図4Fにおいて符号JS21を付した矢印は、磁気抵抗効果膜MR2における磁化固着層S21(後出)の磁化JS21の方向を示す。すなわち、磁化JS21の方向は、W軸方向と直交するV軸方向とほぼ平行である。したがって、磁気抵抗効果膜MR2の感度方向はV軸方向である。
【0039】
図4Fに示したように、各磁気抵抗効果膜MR2は、Z軸方向において、ヘリカルコイル6における下部配線パターン62LBおよび下部配線パターン63LBの双方と重なり合うように配置されている。下部配線パターン62LBは、例えばZ軸方向において各磁気抵抗効果膜MR2のうちの第1の先端部12Aとそれぞれ重なり合うように設けられている。同様に、下部配線パターン63LBは、例えばZ軸方向において各磁気抵抗効果膜MR2のうちの第2の先端部12Bとそれぞれ重なり合うように設けられている。より詳細には、下部配線パターン62LBが、第1の先端部12Aのうちの第1の最先端部12ATとZ軸方向において重なり合い、下部配線パターン63LBが、第2の先端部12Bのうちの第2の最先端部12BTとZ軸方向において重なり合っている。したがって、磁気抵抗効果素子12では、磁気抵抗効果素子13と同様に、ヘリカルコイル6にセット電流Isが供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR2に対し+X方向のセット磁場SF+が付与されることとなる。また、ヘリカルコイル6にリセット電流Irが供給されることにより、磁気抵抗効果膜MR2に対し-X方向のリセット磁場RF-が付与されることとなる。
【0040】
さらに、電流検出ユニット10Bでは、Z軸方向において、磁気抵抗効果素子12と下部配線6LBとの第1距離は、磁気抵抗効果素子12と上部配線6UBとの第2距離よりも長いことが望ましい。より平坦性の高い面上に複数の磁気抵抗効果素子12を形成でき、複数の磁気抵抗効果素子12の各々の性能を高めることができるうえ、複数の磁気抵抗効果素子12の相互間における性能のばらつきを低減することができるからである。
【0041】
(バス5)
バス5は、例えばY軸方向へ延在する導体であり、電流検出装置100により検出する対象となる信号電流Im(Im1,Im2)が供給されるものである。バス5の主たる構成材料は、例えばCu(銅)などの高導電性材料である。バス5の構成材料としてFe(鉄)やNi(ニッケル)を含む合金、あるいは、ステンレス鋼を用いることもできる。バス5は、その内部を例えば+Y方向へ信号電流Im1が流れることにより、バス5の周囲に信号磁場Hm1を生成可能である。その際、生成された信号磁場Hm1は、磁気抵抗効果素子11~14に対し+X方向に印加される。バス5の内部を-Y方向へ信号電流Im2が流れることにより、磁気抵抗効果素子11~14に対し-X方向に印加される信号磁場Hm2が形成される。
【0042】
(ヘリカルコイル6)
図5Aおよび
図5Bは、ヘリカルコイル6の一部を拡大して模式的に表した斜視図である。すでに述べたように、ヘリカルコイル6は、コイル部分6Aと、コイル部分6Bとを有している。
図5Aおよび
図5Bに示したように、コイル部分6Aは、例えば-X方向に沿って進行しつつ磁気抵抗効果素子11,14の周囲を第1の旋回方向CD1へ旋回するように設けられている。コイル部分6Bは、-X方向に沿って進行しつつ磁気抵抗効果素子13,12の周囲を第1の旋回方向CD1と反対の第2の旋回方向CD2へ旋回するように設けられている。コイル部分6Aの第1端部とコイル部分6Bの第1端部とは連結部分6Jを介して連結されている。連結部分6Jには端子T3が接続されている。端子T3は、例えばフレームグラウンド(FG)である。コイル部分6Aの第2端部には端子T1が接続され、コイル部分6Bの第2端部には端子T2が接続されている。なお、
図5Aおよび
図5Bでは、コイル部分6Aに対応する電流検出ユニット10Aと、コイル部分6Bに対応する電流検出ユニット10Bとがそれぞれ2つずつ連なっている形態を表している。また、
図5Aおよび
図5Bでは、2本の上部配線パターン61UAおよび上部配線パターン62UAを省略して1本の上部配線6UAとして記載し、8本の下部配線パターン61LA~68LAを省略して1本の下部配線6LAとして記載し、2本の上部配線パターン61UBおよび上部配線パターン62UBを省略して1本の上部配線6UAとして記載し、8本の下部配線パターン61LB~68LBを省略して1本の下部配線6LBとして記載している。
【0043】
ヘリカルコイル6は、磁気抵抗効果素子11~14の各々と電気的に絶縁されつつ、磁気抵抗効果素子11~14を取り巻くように配置された電気配線である。ヘリカルコイル6の主たる構成材料は、バス5と同様、例えばCu(銅)などの高導電性材料である。
【0044】
図5Aに示したように、ヘリカルコイル6には、電源により、例えば端子T1と端子T2との間にセット電流Isおよびリセット電流Irが供給可能になっている。なお、
図5Aでは、端子T2から端子T1へセット電流Isが流れている様子を矢印で表している。また、リセット電流Irは、端子T1から端子T2へ向かうように、
図5Aで示された矢印と反対向きに流れることとなる。
【0045】
図5Bに示したように、ヘリカルコイル6には、電源により、端子T1と端子T3との間、および端子T2と端子T3との間において、それぞれフィードバック電流If1,If2が供給可能になっている。なお、
図5Bでは、端子T3から端子T1へフィードバック電流If1が流れると共に端子T3から端子T2へフィードバック電流If1が流れる様子を矢印で表している。また、フィードバック電流If2は、端子T1から端子T3へ向かうと共に端子T2から端子T3へ向かうように、
図5Bで示された矢印と反対向きに流れることとなる。
【0046】
(磁気抵抗効果膜MR1~MR4)
磁気抵抗効果膜MR1,MR3は、+X方向の信号磁場の印加により減少し、かつ、-X方向の信号磁場の印加により増加する抵抗値を有する。一方、磁気抵抗効果膜MR2,MR4は、+X方向の信号磁場の印加により増加し、かつ、-X方向の信号磁場の印加により減少する抵抗値を有する。
【0047】
図6Aは、磁気抵抗効果膜MR1の積層構造を表す分解斜視図である。
図6Bは、磁気抵抗効果膜MR2の積層構造を表す分解斜視図である。
図6Cは、磁気抵抗効果膜MR3の積層構造を表す分解斜視図である。
図6Dは、磁気抵抗効果膜MR4の積層構造を表す分解斜視図である。
【0048】
磁気抵抗効果膜MR1~MR4は、それぞれ
図6A~
図6Dに示したように、磁性層を含む複数の機能膜が積層されたスピンバルブ構造をなしている。具体的には、磁気抵抗効果膜MR1は、
図6Aに示したように、+V方向に固着された磁化JS11を有する磁化固着層S11と、非磁性体である中間層S12と、信号磁場の磁束密度に応じて変化する磁化JS13を有する磁化自由層S13とが順にZ軸方向に積層されてなるものである。磁化固着層S11、中間層S12および磁化自由層S13は、いずれもXY面内に広がる薄膜である。したがって、磁化自由層S13の磁化JS13の向きは、XY面内において回転可能となっている。
【0049】
磁気抵抗効果膜MR2は、
図6Bに示したように、-V方向に固着された磁化JS21を有する磁化固着層S21と、非磁性体である中間層S22と、信号磁場の磁束密度に応じて変化する磁化JS23を有する磁化自由層S23とが順にZ軸方向に積層されてなるものである。磁化固着層S21、中間層S22および磁化自由層S23は、いずれもXY面内に広がる薄膜である。したがって、磁化自由層S23の磁化JS23の向きは、XY面内において回転可能となっている。
【0050】
磁気抵抗効果膜MR3は、
図6Cに示したように、+V方向に固着された磁化JS31を有する磁化固着層S31と、非磁性体である中間層S32と、信号磁場の磁束密度に応じて変化する磁化JS33を有する磁化自由層S33とが順にZ軸方向に積層されてなるものである。磁化固着層S31、中間層S32および磁化自由層S33は、いずれもXY面内に広がる薄膜である。したがって、磁化自由層S33の磁化JS33の向きは、XY面内において回転可能となっている。
【0051】
磁気抵抗効果膜MR4は、
図6Dに示したように、-V方向に固着された磁化JS41を有する磁化固着層S41と、非磁性体である中間層S42と、信号磁場の磁束密度に応じて変化する磁化JS43を有する磁化自由層S43とが順にZ軸方向に積層されてなるものである。磁化固着層S41、中間層S42および磁化自由層S43は、いずれもXY面内に広がる薄膜である。したがって、磁化自由層S43の磁化JS43の向きは、XY面内において回転可能となっている。
【0052】
このように、磁気抵抗効果膜MR1,MR3における磁化固着層S11,S31は+V方向に固着された磁化JS11,J31をそれぞれ有するのに対し、磁気抵抗効果膜MR2,MR4における磁化固着層S21,S41は-V方向に固着された磁化JS21,J41をそれぞれ有する。
【0053】
なお、磁気抵抗効果膜MR1~MR4において、磁化固着層S11,S21,S31,S41、中間層S12,S22,S32,S42および磁化自由層S13,S23,S33,S43は、いずれも単層構造であってもよいし、複数層からなる多層構造であってもよい。
【0054】
磁化固着層S11,S21,S31,S41は、例えばコバルト(Co)やコバルト鉄合金(CoFe)、コバルト鉄ボロン合金(CoFeB)などの強磁性材料からなる。なお、磁気抵抗効果膜MR1~MR4において、磁化固着層S11,S21,S31,S41とそれぞれ隣接するように、中間層S12,S22,S32,S42と反対側に反強磁性層(図示せず)を設けるようにしてもよい。そのような反強磁性層は、白金マンガン合金(PtMn)やイリジウムマンガン合金(IrMn)などの反強磁性材料により構成されるものである。反強磁性層は、磁気抵抗効果膜MR1~MR4においては、+V方向のスピン磁気モーメントと-V方向のスピン磁気モーメントとが完全に打ち消し合った状態にあり、隣接する磁化固着層S11,S31の磁化JS11,JS31の向きを+V方向へ固定し、あるいは隣接する磁化固着層S21,S41の磁化JS21,JS41の向きを-V方向へ固定するように作用する。
【0055】
中間層S12,S22,S32,S42は、スピンバルブ構造が磁気トンネル接合(MTJ:Magnetic Tunnel Junction)膜として機能するものである場合、例えば酸化マグネシウム(MgO)からなる非磁性のトンネルバリア層であり、量子力学に基づくトンネル電流が通過可能な程度に厚みの薄いものである。MgOからなるトンネルバリア層は、例えば、MgOからなるターゲットを用いたスパッタリング処理のほか、マグネシウム(Mg)の薄膜の酸化処理、あるいは酸素雰囲気中でマグネシウムのスパッタリングを行う反応性スパッタリング処理などによって得られる。また、MgOのほか、アルミニウム(Al),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf)の各酸化物もしくは窒化物を用いて中間層S12,S22,S32,S42を構成することも可能である。なお、中間層S12,S22,S32,S42は、例えばルテニウム(Ru)や金(Au)などの白金族元素や銅(Cu)などの非磁性金属により構成されていてもよい。その場合、スピンバルブ構造は巨大磁気抵抗効果(GMR:Giant Magneto Resistive effect)膜として機能する。
【0056】
磁化自由層S13,S23,S33,S43は軟質強磁性層であり、互いに実質的に同一の材料により形成されている。磁化自由層S13,S23,S33,S43は、例えばコバルト鉄合金(CoFe)、ニッケル鉄合金(NiFe)あるいはコバルト鉄ボロン合金(CoFeB)などによって構成される。
【0057】
(ブリッジ回路7)
4つの磁気抵抗効果素子11~14は、
図7に示したようにブリッジ接続されてブリッジ回路7を形成している。磁気抵抗効果素子11~14は、検出対象である信号磁場Hm(Hm1,Hm2)の変化を検出可能である。上述したように、磁気抵抗効果素子11,13は+X方向の信号磁場Hm1の印加により抵抗値が減少し、-X方向の信号磁場Hm2の印加により抵抗値が増加するものである。一方、磁気抵抗効果素子12,14は、+X方向の信号磁場Hm1の印加により抵抗値が増加し、-X方向の信号磁場Hm2の印加により抵抗値が減少するものである。したがって、磁気抵抗効果素子11,13と磁気抵抗効果素子12,14とは、信号磁場Hmの変化に応じて互いに例えば180°位相の異なる信号を出力する。
【0058】
図7に示したように、ブリッジ回路7は、直列接続された磁気抵抗効果素子11および磁気抵抗効果素子12と、直列接続された磁気抵抗効果素子13および磁気抵抗効果素子14とが、互いに並列接続されてなるものである。より具体的には、ブリッジ回路7は、磁気抵抗効果素子11の一端と磁気抵抗効果素子12の一端とが接続点P1において接続され、磁気抵抗効果素子13の一端と磁気抵抗効果素子14の一端とが接続点P2において接続され、磁気抵抗効果素子11の他端と磁気抵抗効果素子14の他端とが接続点P3において接続され、磁気抵抗効果素子12の他端と磁気抵抗効果素子13の他端とが接続点P4において接続されている。ここで、接続点P3は電源Vccと接続されており、接続点P4は接地端子GNDと接続されている。接続点P1は出力端子Vout1と接続され、接続点P2は出力端子Vout2と接続されている。出力端子Vout1および出力端子Vout2は、それぞれ、例えば差分検出器8の入力側端子と接続されている。この差分検出器8は、接続点P3と接続点P4との間に電圧が印加されたときの接続点P1と接続点P2との間の電位差(磁気抵抗効果素子11および磁気抵抗効果素子14のそれぞれに生ずる電圧降下の差分)を検出し、差分信号Sとして演算回路9へ向けて出力するものである。
【0059】
なお、
図7において符号JS11,JS31を付した矢印は、磁気抵抗効果素子11,13の各々における磁化固着層S11,S31の磁化JS11,JS31の向きを模式的に表している。また、
図7において符号JS21,JS41を付した矢印は、磁気抵抗効果素子12,14の各々における磁化固着層S21,S41の磁化JS21,JS41の向きを模式的に表している。
図7に示したように、磁化JS11,JS31の向きと磁化JS21,JS41の向きとは互いに反対となっている。すなわち、
図7は、磁気抵抗効果素子11の抵抗値および磁気抵抗効果素子13の抵抗値は、信号磁場Hmの変化に応じて互いに同じ向きに変化(例えば増加もしくは減少)することを表している。
図7は、さらに、磁気抵抗効果素子12の抵抗値および磁気抵抗効果素子14の抵抗値は、いずれも、信号磁場Hmの変化に応じて磁気抵抗効果素子11,13の各抵抗値の変化とは反対向きに変化(減少もしくは増加)することを表している。
【0060】
ブリッジ回路7を構成する磁気抵抗効果素子11~14には、それぞれ電源Vccからの電流I10が接続点P3において分流された電流I1もしくは電流I2が供給される。ブリッジ回路7の接続点P1,P2からそれぞれ取り出された信号e1,e2が差分検出器8に流入する。
【0061】
[電流検出装置100の動作および作用]
本実施の形態の電流検出装置100では、演算回路9において電位差V0を算出することにより、バス5を流れる信号電流Im1,Im2が生成する信号磁場の変化を検出することができる。
【0062】
(検出動作)
電流検出装置100において、まず、信号磁場Hmが印加されていない状態を考える。ここで電流I10をブリッジ回路7に流したときの磁気抵抗効果素子11~14の各抵抗値をr1~r4とする。電源Vccからの電流I10は、接続点P3において電流I1および電流I2の2つに分流される。そののち、磁気抵抗効果素子11および磁気抵抗効果素子12を通過した電流I1と、磁気抵抗効果素子14および磁気抵抗効果素子13を通過した電流I2とが接続点P4において合流する。この場合、接続点P3と接続点P4との間の電位差Vは、
V=I1*r1+I1*r2=I2*r4+I2*r3
=I1*(r1+r2)=I2*(r4+r3) ……(1)
と表すことができる。
また、接続点P1における電位V1および接続点P2における電位V2は、
それぞれ、
V1=V-I1*r1
V2=V-I2*r4
と表せる。よって、接続点P1と接続点P2との電位差V0は、
V0=V2-V1
=(V-I2*r4)-(V-I1*r1)
=I1*r1-I2*r4 ……(2)
ここで、(1)式から、
V0=r1/(r1+r2)×V-r4/(r4+r3)×V
={r1/(r1+r2)-r4/(r4+r3)}×V ……(3)
となる。このブリッジ回路7では、信号磁場Hmが印加されたときに、上記の式(3)で表された接続点P2と接続点P1との電位差V0を測定することにより、抵抗変化量が得られる。ここで、信号磁場Hmが印加されたときに、磁気抵抗効果素子11~14の各々の抵抗値R1~R4がそれぞれ変化量ΔR1~ΔR4だけ変化したとすると、すなわち、信号磁場Hmを印加後の抵抗値R1~R4が、それぞれ
R1=r1+ΔR1
R2=r2+ΔR2
R3=r3+ΔR3
R4=r4+ΔR4
であるとすると、信号磁場Hmの印加時における電位差V0は、式(3)より、
V0={(r1+ΔR1)/(r1+ΔR1+r2+ΔR2)-(r4+ΔR4)/(r4+ΔR4+r3+ΔR3)}×V ……(4)
となる。電流検出装置100では、磁気抵抗効果素子11,13の抵抗値R1,R3と、磁気抵抗効果素子12,14の抵抗値R2,R4とは互いに逆方向の変化を示すように構成されているので、変化量ΔR4と変化量ΔR1とが打ち消し合うと共に、変化量ΔR3と変化量ΔR2とが打ち消し合うこととなる。このため、信号磁場の印加前後を比較した場合、式(4)の各項における分母の増加はほとんど無い。一方、各項の分子については、変化量ΔR1と変化量ΔR4とが必ず反対の符号を有するので増減が現れることとなる。
【0063】
仮に、磁気抵抗効果素子11~14の全てが完全に同一の特性を有するものとした場合、すなわち、r1=r2=r3=r4=R、かつ、ΔR1=-ΔR2=ΔR3=-ΔR4=ΔRであるとした場合、式(4)は、
V0={(R+ΔR)/(2×R)-(R-ΔR)/(2×R)}×V
=(ΔR/R)×V
となる。
【0064】
このように、ΔR/R等の特性値について既知である磁気抵抗効果素子11~14を用いるようにすれば、信号磁場Hmの大きさを測定することができ、その信号磁場Hmを発生する信号電流Im1,Im2の大きさを推定することができる。
【0065】
あるいは、制御部を設け、バス5を流れる信号電流Im1,Im2により生成される信号磁場Hmを打ち消す強度を有するフィードバック磁場Hf1,Hf2を形成するように、すなわち、ブリッジ回路7からの出力が零を維持するように、フィードバック電流If1,If2の大きさを逐次制御するようにしてもよい。その場合、フィードバック電流If1,If2の大きさがバス5を流れる信号電流Im1,Im2と実質的に等しいとみなすことができる。
【0066】
(セット・リセット動作)
ところで、この種の電流検出装置では、信号磁場の検出動作を行う前に、各磁気抵抗効果素子における磁化自由層の磁化を所定の方向に一旦揃えることが望ましい。より正確な信号磁場Hmの検出動作を行うためである。具体的には、既知の大きさの外部磁場を所定の方向と、それと反対の方向とに交互に印加する。これを磁化自由層の磁化のセット・リセット動作という。
【0067】
本実施の形態の電流検出装置100では、ヘリカルコイル6に対しセット電流Isを供給することでセット動作がなされる。ヘリカルコイル6へのセット電流Isの供給により、
図3Bおよび
図4Bに示したようにヘリカルコイル6の周囲にセット磁場SF-,SF+がそれぞれ生成される。その結果、電流検出ユニット10Aでは、-X方向のセット磁場SF-を磁気抵抗効果素子11,14の磁気抵抗効果膜MR1,MR4に印加することができる。これにより、磁気抵抗効果膜MR1,MR4における磁化自由層S13,S43は-X方向に向くこととなり、セット動作がなされる。一方、電流検出ユニット10Bでは、+X方向のセット磁場SF+を磁気抵抗効果素子12,13の磁気抵抗効果膜MR2,MR3に印加することができる。これにより、磁気抵抗効果膜MR2,MR3における磁化自由層S23,S33は+X方向に向くこととなり、セット動作がなされる。また、ヘリカルコイル6に対しリセット電流Irを供給することでリセット動作がなされる。ヘリカルコイル6へのリセット電流Irの供給により、
図3Cおよび
図4Cに示したように、ヘリカルコイル6の周囲にリセット磁場RF+,RF-がそれぞれ生成される。その結果、電流検出ユニット10Aでは、+X方向のリセット磁場RF+を磁気抵抗効果素子11,14の磁気抵抗効果膜MR1,MR4に印加することができる。これにより、磁気抵抗効果膜MR1,MR4における磁化自由層S13,S43は+X方向に向くこととなり、リセット動作がなされる。一方、電流検出ユニット10Bでは、-X方向のリセット磁場RF-を磁気抵抗効果素子12,13の磁気抵抗効果膜MR2,MR3に印加することができる。これにより、磁気抵抗効果膜MR2,MR3における磁化自由層S23,S33は-X方向に向くこととなりリセット動作がなされる。
【0068】
[電流検出装置100の製造方法]
次に、
図8A~
図8Kを参照して、電流検出装置100の製造方法について説明する。ここでは、特に、下部配線6LA、磁気抵抗効果膜MR、および上部配線6UAの形成過程を中心に説明する。
【0069】
まず、
図8Aに示したように、基板1の上に絶縁膜Z1を形成する。絶縁膜Z1は、単層でもよいし、多層でもよい。絶縁膜Z1は、例えばSiO
2(二酸化ケイ素)、SiN(窒化ケイ素)、Al
2O
3(酸化アルミニウム)およびAlN(窒化アルミニウム)などの絶縁性材料により構成される。
【0070】
次に、
図8Bに示したように、所定の領域に開口を有するフォトレジストパターンFR1を絶縁膜Z1の上に形成したのち、
図8Cに示したように、フォトレジストパターンFR1をマスクとして絶縁膜Z1を選択的にエッチングする。これにより、絶縁膜Z1に溝TRが形成される。なお、溝TRの幅は例えば1~2μm程度であり、溝TRの深さは2~3μm程度である。また、隣り合う溝TRと溝TRとの間の壁の幅は例えば0.5μm以下である。
【0071】
次に、
図8Dに示したように、フォトレジストパターンFR1を除去したのち、露出した基板1および絶縁膜Z1の全体を覆うように、例えばCu(銅)などの導電材料によりめっき下地膜6LZ1を形成する。
【0072】
そののち、
図8Eに示したように、めっき下地膜6LZ1を電極として用いたダマシン法によりめっき処理を行い、めっき膜6LZ2を形成する。なお、めっき処理の際、SPS(ビス3スルホプロピルジスルフィド)やPEG(ポリエチレングリコール)などの添加剤をめっき浴に添加してもよい。
【0073】
めっき膜6LZ2を形成したのち、
図8Fに示したように、めっき膜6LZ2の表面をCMP法などにより研磨し、絶縁膜Z1の表面Z1Sを露出させる。これにより、下部配線6LAが形成される。
【0074】
次に、
図8Gに示したように、絶縁膜Z2と、リードL1、磁気抵抗効果膜MRおよびリードL2を含む素子形成層2と、絶縁膜Z3とを順に積層形成する。そののち、絶縁膜Z2、素子形成層2および絶縁膜Z3を貫くスルーホールを形成することで、下部配線6LAの一部を露出させる。
【0075】
次に、
図8Hに示したように、めっき下地膜6UZ1の形成とフォトレジストパターンFR2の形成とを順次行ったのち、
図8Iに示したように、めっき処理を行うことでめっき膜6UZ2を形成する。
【0076】
続いて、
図8Jに示したように、フォトレジストパターンFR2の除去と、露出した不要なめっき下地膜6UZ1のエッチングとを順次行う。これにより、上部配線6UAが形成され、ヘリカルコイル6が完成する。
【0077】
最後に、
図8Kに示したように、全体を覆うように絶縁材料からなる保護膜Z4を形成することで、電流検出装置100が得られる。
【0078】
[電流検出装置100の効果]
以上説明したように、本実施の形態では、ヘリカルコイル6が、Z軸方向において例えば磁気抵抗効果素子11を挟むように互いに対向する下部配線6LAおよび上部配線6UAを含み、下部配線6LAの下部配線パターン61LA~68LAの幅W6LAが、上部配線6UAの上部配線パターン61UA,62UAの幅W6UAよりも狭くなるようにした。このため、下部配線パターン61LA~68LAについては、例えばダマシン法などの、微細かつ高精度の寸法を得ることができる製造方法を適用して形成することができる。そのため、高精度の寸法を有し、平坦性の高い上面を有する下部配線パターン61LA~68LAとすることができる。したがって、本実施の形態の電流検出装置100によれば、磁気抵抗効果素子11における複数の磁気抵抗効果膜MR1に対し、よりばらつきの少ないセット磁場SFおよびリセット磁場RFを付与することができる。よって、複数の磁気抵抗効果膜MR1の相互間における性能のばらつきを低減することができ、小型でありながら高い検出精度を発現する電流検出装置100を実現できる。
【0079】
本実施の形態では、例えば下部配線パターンの数を上部配線パターンの数よりも多くするようにすれば、下層配線パターンの形成の際、例えばダマシン法などの、微細かつ高精度の寸法を得ることができる製造方法を好適に用いることができる。
【0080】
また、本実施の形態では、Z軸方向において、磁気抵抗効果素子11と下部配線6LAとの第1距離、すなわち間隔G6LAを、磁気抵抗効果素子11と上部配線6UAとの第2距離、すなわち間隔G6UAよりも大きくすることにより、例えば下部配線6LAの上に所定の厚さの非磁性絶縁層3を形成することができ、より平坦性の高い面上に複数の磁気抵抗効果膜MR1を形成できる。より平坦性の高い面上に複数の磁気抵抗効果膜MR1を形成することにより、複数の磁気抵抗効果膜MR1の各々の性能を高めることができるうえ、複数の磁気抵抗効果膜MR1の相互間における性能のばらつきを低減することができる。
【0081】
また、本実施の形態では、例えば磁気抵抗効果素子11において、ヘリカルコイル6の上部配線パターン61UAおよび上部配線パターン62UAを、Z軸方向において第1の先端部11Aおよび第2の先端部11Bとそれぞれ重なり合うように設けるようにした。このため、第1の先端部11Aに付与されるセット磁場SF-およびリセット磁場RF+の強度(絶対値)および第2の先端部11Bに付与されるセット磁場SF-およびリセット磁場RF+の強度(絶対値)が、中間部11Cに付与されるセット磁場SF-およびリセット磁場RF+の強度(絶対値)よりも高くなる。したがって、磁気抵抗効果膜MR1における第1の先端部11Aおよび第2の先端部11Bに対し、ヘリカルコイル6により生成されるセット磁場SFおよびリセット磁場RFを効果的に付与することができる。よって、磁気抵抗効果膜MR1の全体に亘って均質かつ十分に磁化自由層S13の磁化JS13の方向がセット・リセットされることとなる。磁気抵抗効果素子12~14においても同様の作用が得られる。そのため、本実施の形態の電流検出装置100によれば、寸法を縮小した場合であっても高い電流検出精度を発現することができる。
【0082】
また、本実施の形態では、各磁気抵抗効果膜全体と重なり合うような幅の広い導線を用いるのではなく、磁気抵抗効果膜の一部(第1の先端部11A~14Aおよび第2の先端部11B~14B)のみと重なり合うヘリカルコイル6を備えるようにしている。すなわち、例えば上部配線パターン61,62の幅を狭くすることができる。このため、所定のセット磁場SFおよびリセット磁場RF、ならびにフィードバック磁場Hf1,Hf2を得るためにヘリカルコイル6に供給する必要のある電流値を低く抑えることができる。
【0083】
また、本実施の形態では、ヘリカルコイル6における一部区間に分岐部分を形成するようにした。すなわち、例えば上部配線6UAを互いに並列接続された2つの上部配線パターン61UA,62UAにより構成し、下部配線6LAを互いに並列接続された8つの下部配線パターン61LA~68LAにより構成するようにした。このため、このような分岐部分を含まないヘリカルコイルを用いた場合と比べ、本実施の形態では、ヘリカルコイル6の巻き数(ターン数)よりも多くの数の磁気抵抗効果膜MR1~MR4をY軸方向に並べることができる。よって、高集積化に有利である。
【0084】
また、本実施の形態では、
図5Aおよび
図5Bに示したように互いに逆向きに旋回するコイル部分6Aとコイル部分6Bとが一体化したヘリカルコイル6を用いるようにした。このため、磁化自由層の磁化方向のセット方向(リセット方向)が逆向きの磁気抵抗効果膜MR1~MR4を含む複数の磁気抵抗効果素子11~14を、より狭い領域内に形成できる。また、コイル部分6Aとコイル部分6Bとが一体化された一のヘリカルコイル6を用いることで、2つのヘリカルコイルを配置する場合と比較して、給電するための端子の数を削減できる。よって、高集積化に有利である。
【0085】
また、本実施の形態では、磁気抵抗効果膜MR1,MR4における磁化自由層S13,S43のセット方向(リセット方向)と、磁気抵抗効果膜MR2,MR3における磁化自由層S23,S33のセット方向(リセット方向)とが反対向きとなるようにしている。このように、セット(またはリセット)された磁化方向が互いに逆向きとなる磁化自由層をそれぞれ有する磁気抵抗効果素子を用いてブリッジ回路7を構成することで、不要な外乱磁場によるノイズを低減したり、応力歪みに起因する誤差を低減したりすることができる。
【0086】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では、センサ部として4つの磁気検出素子を用いてフルブリッジ回路を形成するようにしたが、本発明では、例えば2つの磁気検出素子を用いてハーフブリッジ回路を形成するようにしてもよい。また、複数の磁気抵抗効果膜の形状および寸法は、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、各構成要素の寸法や各構成要素のレイアウトなどは例示であってこれに限定されるものではない。
【0087】
上記実施の形態では、旋回方向が途中で反転するヘリカルコイル6を備えた電流検出装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の電流検出装置は、例えば
図9Aおよび
図9Bに示したヘリカルコイル60のように、一定方向へ旋回するものを備えてもよい。
図9Aおよび
図9Bは、ヘリカルコイル6の変形例としてのヘリカルコイル60の一部を拡大して模式的に表した斜視図であり、
図5Aおよび
図5Bに対応している。ヘリカルコイル60は、コイル部分60Aと、コイル部分60Bとを有している。
図9Aおよび
図9Bに示したように、コイル部分60Aは、例えば-X方向に沿って進行しつつ磁気抵抗効果素子11,14の周囲を第1の旋回方向CD1へ旋回するように設けられている。コイル部分60Bは、-X方向に沿って進行しつつ磁気抵抗効果素子13,12の周囲を第1の旋回方向CD1へ旋回するように設けられている。コイル部分60Aの第1端部とコイル部分60Bの第1端部とは連結部分60Jを介して連結されている。連結部分60Jには端子T3が接続されている。端子T3は、例えばフレームグラウンド(FG)である。コイル部分60Aの第2端部には端子T1が接続され、コイル部分60Bの第2端部には端子T2が接続されている。
【0088】
図9Aに示したように、ヘリカルコイル60には、電源により、例えば端子T1と端子T2との間にフィードバック電流If1,If2が供給可能になっている。なお、
図9Aでは、端子T2から端子T1へフィードバック電流If1が流れている様子を矢印で表している。フィードバック電流If2は、端子T1から端子T2へ向かうように、
図9Aで示された矢印と反対向きに流れることとなる。
【0089】
図9Bに示したように、ヘリカルコイル60には、電源により、端子T1と端子T3との間、および端子T2と端子T3との間において、それぞれセット電流Isおよびリセット電流Irが供給可能になっている。なお、
図9Bでは、端子T3から端子T1へセット電流Isが流れると共に端子T3から端子T2へセット電流Isが流れる様子を矢印で表している。また、リセット電流Irは、端子T1から端子T3へ向かうと共に端子T2から端子T3へ向かうように、
図9Bで示された矢印と反対向きに流れることとなる。
【0090】
本変形例では、端子T1と端子T3との間および端子T2と端子T3との間のそれぞれに、セット電流Isおよびリセット電流Irを交互に供給することにより、セット・リセット動作が行われる。さらに、バス5を流れる信号電流Im1,Im2を検出する際には、端子T1と端子T2との間にフィードバック電流If1,If2を供給することにより、信号電流Im1,Im2の測定が可能である。
【0091】
また、上記実施の形態では、導体を流れる信号電流の変化を検出する電流検出装置について説明したが、本発明の技術の用途はそれに限定されない。例えば
図10Aおよび
図10Bに示した、本発明の一実施の形態としての磁場検出装置200のように、地磁気を検出する電子コンパスなどにも適用可能である。
図10Aおよび
図10Bに示した磁場検出装置200は、例えばY軸方向の磁場の変化およびZ軸方向における磁場の変化を検出することができる2軸磁気検出コンパスである。
図10Aは、磁場検出装置200の全体構成例を表す概略平面図である。また、
図10Bは、磁場検出装置200の回路構成例を表す回路図である。
【0092】
図10Aに示したように、磁場検出装置200は、基板20の上に、2つの磁場検出ユニットAR2,AR3を備えている。
【0093】
また、
図10Bに示したように、磁場検出装置200では、磁場検出ユニットAR2において4つの磁気抵抗効果素子21~24を用いたブリッジ回路7Lが形成され、磁場検出ユニットAR3において4つの磁気抵抗効果素子31~34を用いたブリッジ回路7Rが形成されている。それら2つのブリッジ回路7L,7Rを用いることにより、磁場検出装置200ではY軸方向およびZ軸方向の磁場の変化を検出することができるようになっている。磁気抵抗効果素子21~24,31~34は、検出対象である信号磁場の変化を検出可能である。ここで、磁気抵抗効果素子21,23,31,33は+Y方向の信号磁場または+Z方向の信号磁場の印加により抵抗値が減少し、-Y方向の信号磁場または-Z方向の信号磁場の印加により抵抗値が増加する。一方、磁気抵抗効果素子22,24,32,34は、+Y方向の信号磁場または+Z方向の信号磁場の印加により抵抗値が増加し、-Y方向の信号磁場または-Z方向の信号磁場の印加により抵抗値が減少する。したがって、磁気抵抗効果素子21,23,31,33と磁気抵抗効果素子22,24,32,34とは、信号磁場の変化に応じて互いに例えば180°位相の異なる信号を出力する。ブリッジ回路7Lから取り出された信号は差分検出器8Lに流入し、ブリッジ回路7Rから取り出された信号は差分検出器8Rに流入する。差分検出器8Lからの差分信号SLおよび差分検出器8Rからの差分信号SRは、いずれも演算回路9に流入するようになっている。
【0094】
磁場検出ユニットAR2は、バス5を有しないこと、素子形成領域X1~X4の代わりに素子形成領域YZ1,YZ4が設けられていること、およびヘリカルコイル6の代わりにヘリカルコイルC2を有していることを除き、上記実施の形態で説明した電流検出装置100と実質的に同じ構造を有する。ヘリカルコイルC2はヘリカルコイル6と実質的に同じ構造であり、コイル部分C2A,C2Bを含んでいる。コイル部分C2A,C2Bにおける上部配線は、それぞれ並列接続された4本に分岐されており、それぞれ+Y方向のセット電流IC2が流れるようになっている。
【0095】
磁場検出ユニットAR3は、バス5を有しないこと、素子形成領域X1~X4の代わりに素子形成領域YZ3,YZ2が設けられていること、およびヘリカルコイル6の代わりにヘリカルコイルC3を有していることを除き、上記実施の形態で説明した電流検出装置100と実質的に同じ構造を有する。ヘリカルコイルC3はヘリカルコイル6と実質的に同じ構造であり、コイル部分C3A,C3Bを含んでいる。コイル部分C3A,C3Bにおける上部配線は、それぞれ並列接続された4本に分岐されており、それぞれ-Y方向のリセット電流IC3が流れるようになっている。
【0096】
図11Aは、素子形成領域YZ1に形成された磁気抵抗効果素子21,31の詳細な構成を説明するための平面図である。
図11Bは、
図11AにおけるXIB-XIB線に沿った矢視方向の断面を表している。ここで、素子形成領域YZ1では、
図11Aに示したように、それぞれY軸に対して角度θ2をなすV軸方向に延在する斜面2L,2Rが基板20の表面に形成されている。斜面2L,2Rは、いずれもXY面に対して傾斜している。また、斜面2Lと斜面2Rとは互いに傾斜している。斜面2L,2Rには、それぞれ、V軸方向に延在する複数の磁気抵抗効果膜MRL1および複数の磁気抵抗効果膜MRR1が形成されている。複数の磁気抵抗効果膜MRL1が直列接続されることにより磁気抵抗効果素子21が形成され、磁気抵抗効果膜MRR1が直列接続されることにより磁気抵抗効果素子31が形成されている。なお、
図11Aでは、磁気抵抗効果素子21を構成する複数の磁気抵抗効果膜MRL1と、磁気抵抗効果素子31を構成する複数の磁気抵抗効果膜MRR1と、それらの上方に配置された上部配線パターンC2UAとを記載しており、他の構成要素については記載を省略している。
ここで、V軸方向は、本発明の「第1の軸方向」に対応する一具体例である。また、斜面2Lが本発明の「第1の面」に対応する一具体例であり、斜面2Rが本発明の「第2の面」に対応する一具体例である。
【0097】
図12は、素子形成領域YZ2に形成された磁気抵抗効果素子22,32の詳細な構成を説明するための平面図である。素子形成領域YZ2においても、それぞれY軸に対して角度θ2をなすV軸方向に延在する斜面2L,2Rが基板20の表面に形成されている。斜面2L,2Rには、それぞれ、V軸方向に延在する複数の磁気抵抗効果膜MRL2および複数の磁気抵抗効果膜MRR2が形成されている。複数の磁気抵抗効果膜MRL2が直列接続されることにより磁気抵抗効果素子22が形成され、磁気抵抗効果膜MRR2が直列接続されることにより磁気抵抗効果素子32が形成されている。
【0098】
図13は、素子形成領域YZ3に形成された磁気抵抗効果素子23,33の詳細な構成を説明するための平面図である。素子形成領域YZ3においても、それぞれY軸に対して角度θ2をなすV軸方向に延在する斜面2L,2Rが基板20の表面に形成されている。斜面2L,2Rには、それぞれ、V軸方向に延在する複数の磁気抵抗効果膜MRL3および複数の磁気抵抗効果膜MRR3が形成されている。複数の磁気抵抗効果膜MRL3が直列接続されることにより磁気抵抗効果素子23が形成され、磁気抵抗効果膜MRR3が直列接続されることにより磁気抵抗効果素子33が形成されている。
【0099】
図14は、素子形成領域YZ4に形成された磁気抵抗効果素子24,34の詳細な構成を説明するための平面図である。素子形成領域YZ4においても、それぞれY軸に対して角度θ2をなすV軸方向に延在する斜面2L,2Rが基板20の表面に形成されている。斜面2L,2Rには、それぞれ、V軸方向に延在する複数の磁気抵抗効果膜MRL4および複数の磁気抵抗効果膜MRR4が形成されている。複数の磁気抵抗効果膜MRL4が直列接続されることにより磁気抵抗効果素子24が形成され、磁気抵抗効果膜MRR4が直列接続されることにより磁気抵抗効果素子34が形成されている。
【0100】
なお、上述の磁場検出装置200と、X軸方向の磁場の変化を検出可能な磁場検出ユニット(便宜上、磁場検出ユニットAR1という。)とを組み合わせることにより、3軸方向の磁場の変化を検出する3軸磁気検出コンパスを実現できる。ここでいう磁場検出ユニットAR1は、バス5を有しないことを除き、上記実施の形態で説明した電流検出装置100と実質的に同じ構造を有するものを適用可能である。
【0101】
また、上記実施の形態等では、上部配線が2つの上部配線パターンを含む場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば上部配線パターンを1つのみ含むようにしてもよいし、3以上含むようにしてもよい。
【0102】
さらに、上記実施の形態等では、コイルとしてヘリカルコイルを例示して説明するようにしたが、本発明のコイルはこれに限定されるものではない。例えば
図15A~15Dに示した変形例としてのコイル160のように、XY面内で巻回するいわゆるパンケーキ型のコイルであってもよい。なお、
図5Aは、コイル160の全体構成例を表す斜視図である。
図15Bは、コイル160の上層部160Uを模式的に表した平面図である。
図15Cは、コイル160の下層部160Lを模式的に表した平面図である。
図15Dは、コイル160の断面図であり、
図15Bおよび
図15Cに示したXV-XV線に沿った矢視方向の断面を表している。
図15A~15Cに示したように、コイル160は、XY面内において巻回する上層部160UとXY面内において巻回する下層部160LとがZ軸方向において互いに重なり合うように積層され、上層部160Uの端部と下層部160Lの端部とが接続部160Mにより連結されたものである。
【0103】
上層部160Uは、それぞれY軸方向に延在すると共に互いに直列に接続された4つの上部配線160UA~160UDを含んでいる。上部配線160UAは、互いに並列接続された2つの上部配線パターン161UA,162UAを含み、上部配線160UBは、互いに並列接続された2つの上部配線パターン161UB,162UBを含み、上部配線160UCは、互いに並列接続された2つの上部配線パターン161UC,162UCを含み、上部配線160UDは、互いに並列接続された2つの上部配線パターン161UD,162UDを含んでいる。なお、上層部160Uを構成する上部配線の数や、各上部配線を構成する上部配線パターンの数は任意に設定可能である。下層部160Lは、それぞれY軸方向に延在すると共に互いに直列に接続された4つの下部配線160LA~160LDを含んでいる。下部配線160LAは、互いに並列接続された8つの下部配線パターン161LA~168LAを含み、下部配線160LBは、互いに並列接続された8つの下部配線パターン161LB~168LBを含み、下部配線160LCは、互いに並列接続された8つの下部配線パターン161LC~168LCを含み、下部配線160LDは、互いに並列接続された8つの下部配線パターン161LD~168LDを含んでいる。なお、下層部160Lを構成する下部配線の数や、各下部配線を構成する下部配線パターンの数は任意に設定可能である。但し、コイル160においても、ヘリカルコイル6などと同様に、下部配線パターンの数が上部配線パターンの数よりも多いことが望ましい。下層配線パターンについては、例えばダマシン法などの、微細かつ高精度の寸法を得ることができる製造方法を適用しやすいからである。
【0104】
また、
図15Dに示したように、上部配線160UA,160UBに+Y方向の電流Iが流れる場合、上部配線160UC,160UDに-Y方向の電流Iが流れ、下部配線160LA,160LBには-Y方向の電流Iが流れ、下部配線160LC,160LDには+Y方向の電流Iが流れるようになっている。なお、
図15Dでは、電流Iによって誘導される磁場の向きを破線で示している。
【0105】
このように、コイルとしてパンケーキ型のコイル160を電流検出装置に用いた場合であっても、複数の磁気抵抗効果膜の相互間における性能のばらつきを低減することができ、小型でありながら高い検出精度を実現できる。
【符号の説明】
【0106】
100…電流検出装置、200…磁場検出装置、10A,10B…電流検出ユニット、11~14…磁気抵抗効果素子、1,20…基板、2…素子形成層、Z…非磁性絶縁体、5…バス、6…ヘリカルコイル、6A,6B…コイル部分、6UA…上部配線、61UA,62UA…上部配線パターン、6LA…下部配線、61LA~68LA…下部配線パターン、7…ブリッジ回路、8…差分検出器、9…演算回路、Hf1,Hf2…フィードバック磁場、If1,If2…フィードバック電流、MR1~MR4…磁気抵抗効果膜、SF-…セット磁場、RF+…リセット磁場、X1~X4…素子形成領域