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特許7106610導入遺伝子の遺伝子タグおよびその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】導入遺伝子の遺伝子タグおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220719BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20220719BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20220719BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220719BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220719BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220719BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220719BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220719BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220719BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220719BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220719BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220719BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20220719BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/47 ZNA
C07K14/705
C12N15/62 Z
C12N5/10
A61K35/17 Z
A61P35/00
A61K35/28
A61K48/00
A61K38/16
A61K39/395 T
A61P43/00 121
C12P21/02 C
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020164326
(22)【出願日】2020-09-30
(62)【分割の表示】P 2016561722の分割
【原出願日】2015-04-08
(65)【公開番号】P2021036867
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2020-10-30
(31)【優先権主張番号】61/977,751
(32)【優先日】2014-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/058,973
(32)【優先日】2014-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/090,845
(32)【優先日】2014-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/088,363
(32)【優先日】2014-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/089,730
(32)【優先日】2014-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/986,479
(32)【優先日】2014-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515045617
【氏名又は名称】シアトル チルドレンズ ホスピタル (ディービーエイ シアトル チルドレンズ リサーチ インスティテュート)
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン,マイケル,シー.
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,アダム
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-509879(JP,A)
【文献】特表2006-527989(JP,A)
【文献】特表2001-503265(JP,A)
【文献】国際公開第2013/074916(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/139672(WO,A1)
【文献】'Homo sapiens, gene ERBB2', UniProtKB [online], 2013年10月16日,Accession No.J3QRJ7, [2019年1月23日検索],インターネット<http://www.uniprot.org/uniprot/J3QRJ7.txt?version=8>
【文献】J. Immunol.,2007年,vol.178,p.7120-7131
【文献】Gene Therapy,2013年,vol.20,p.853-860
【文献】Blood,2011年,vol.118, no.5,p.1255-1263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タグ付けされた細胞の集団を製造する方法であって、
(a)スペーサーを介して膜貫通ドメインに連結したHER2ポリペプチド細胞外ドメインを含む末端切断型HER2ポリペプチドをコードする核酸を、細胞に導入すること、
(b)前記末端切断型HER2ポリペプチドを発現する細胞を選択すること、および
(c)(b)で選択した細胞を培養してタグ付けされた細胞の集団を取得すること、を含み、
前記細胞外ドメインが、配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記スペーサーが、IgG4ヒンジ領域または配列番号45に示されるアミノ酸配列を含み、
前記末端切断型HER2ポリペプチドが、配列番号23の23~217番目のアミノ酸配列に対応するHER2のドメインI、配列番号23の218~341番目のアミノ酸配列に対応するHER2のドメインII、配列番号23の342~510番目のアミノ酸配列に対応するHER2のドメインIII、およびHER2の細胞内ドメインを含んでおらず、Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体と特異的に結合することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記スペーサーが、配列番号45に示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スペーサーが、配列番号9~13のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むIgG4ヒンジ領域を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記IgG4ヒンジ領域が配列番号9に示されるアミノ酸配列を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞外ドメインが、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞外ドメインが、配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記膜貫通ドメインが、配列番号23の653~675番目のアミノ酸配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記末端切断型HER2ポリペプチドが、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記リーダーペプチドが、配列番号17に示されるアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記末端切断型HER2ポリペプチドが、トラスツズマブに特異的に結合する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記(c)が、IL-15、IL-7、IL-21およびIL-2からなる群から選択される少なくとも一つの増殖因子の存在下で、前記選択された細胞を培養することをさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記(b)が、Her2のドメインIVに結合する抗体と、前記(a)で核酸を導入した細胞とを接触させることをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体がトラスツズマブである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記(a)で核酸を導入した細胞に、第2の遺伝子タグに連結されたキメラ抗原受容体をコードする第2の核酸をさらに導入する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記キメラ抗原受容体が、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメインおよび刺激ドメインを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記キメラ抗原受容体が、配列番号2または配列番号25に示されるアミノ酸配列を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の遺伝子タグを発現する細胞を選択することをさらに含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記第2の遺伝子タグが、末端切断型EGFRポリペプチドを含む、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の遺伝子タグを発現する細胞を選択することが、セツキシマブと前記第2の核酸を導入した細胞とを接触させることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記タグ付けされた細胞の集団が、CD8+T細胞、CD4+T細胞、CD8+ナイーブT細胞、CD4+ナイーブT細胞、CD8+セントラルメモリー細胞、CD4+セントラルメモリー細胞、T細胞前駆細胞および造血幹細胞からなる群から選択される細胞を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記タグ付けされた細胞の集団が、自己由来である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記タグ付けされた細胞の集団が、抗原特異的である、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
エクスビボで細胞を標的とする方法であって、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法を行うこと、および前記タグ付けされた細胞の集団の表面に発現している末端切断型HER2ポリペプチドにキャプチャプローブを結合させることを含む方法。
【請求項24】
前記キャプチャプローブが、抗HER2抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記キャプチャプローブがトラスツズマブを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記キャプチャプローブが、細胞傷害薬および/または検出可能な標識と結合している、請求項23~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記検出可能な標識が、ビオチン、ストレプトアビジン、mycタグ、放射標識および蛍光標識からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2014年10月2日に出願された米国仮特許出願62/058,973号、2014年4月10日に出願された米国仮特許出願61/977,751号、2014年4月30日に出願された米国仮特許出願61/986,479号、2014年12月9日に出願された米国仮特許出願62/089,730号、2014年12月11日に出願された米国仮特許出願62/090845号、および2014年12月5日に出願された米国仮特許出願62/088,363号に係る優先権を主張するものである。前記出願の開示は、参照によりその全体が明示的に本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列、配列表またはコンピュータープログラムにより作成した配列に関する情報
本願は電子形式の配列表とともに出願されたものである。この配列表は、SCRI-066WO-SEQUENCE_LISTING.TXTのファイル名で2015年4月7日に作成された47kbのファイルとして提供されたものである。この電子形式の配列表に記載された情報は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
本発明は、細胞における導入遺伝子の発現の検出に有用な組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
細胞において導入遺伝子を発現させることは、様々な状態に対する治療アプローチとして重要視されつつある。たとえば、養子免疫療法においては、ヒトTリンパ球が遺伝子移入により改変され、腫瘍細胞上に発現した表面分子に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を発現する。キメラ受容体は、細胞外リガンド結合ドメインを含む合成受容体であり、該細胞外リガンド結合ドメインは、最も一般的には、細胞内シグナル伝達成分に連結されたモノクローナル抗体一本鎖可変フラグメント(scFv)であり、該細胞内シグナル伝達成分は、最も一般的には、CD3ζ単独、または1つ以上の共刺激ドメインと組み合わせられたCD3ζである。導入遺伝子で改変された細胞で治療される状態としては、サラセミア、血友病、心筋梗塞、および重症複合型免疫不全が挙げられる。しかし、内在性遺伝子に匹敵するレベルで導入遺伝子を安定に発現させるには、大きな問題がある。したがって、導入遺伝子を高発現する細胞を選択および/または検出するための組成物および方法を特定する必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
遺伝子治療戦略において臨床的成功を収め、再現性を高めるには、均質な製品を選択し、それを使用することが不可欠である。本明細書では、細胞を改変するための遺伝子タグ候補および遺伝子ツール候補について述べる。いくつかの実施形態においては、遺伝子タグは、ヒトHer2に基づくエピトープを含み、これをHer2tと呼ぶ。特定の実施形態においては、Her2tはHer2の細胞内成分を全く含んでいないが、Her2の膜貫通領域、モノクローナル抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン)により認識される高次構造的に完全なエピトープ(conformationally intact epitope)、および表面発現を容易とするペプチドを含んでいる。Her2t構築物の3種のバリアント、すなわち、Her2ドメインIVの完全長を含む1つの構築物と、ハーセプチンと複合体化したHer2の三次元構造(Garrett et al J. Immunology 178:7120 (2007); Cho et al 2003)から設計した2つのコンフォメーショナルエピトープとをレンチウイルスパッケージングプラスミドepHIV7に組み込み、CHO細胞においてその特性を評価した。
【0006】
いくつかの態様において、Her2tを遺伝子タグとして使用することによって、目的の導入遺伝子を発現する治療用細胞の均質な集団をエクスビボで選択かつ精製することが可能となる。さらに、Her2tを使用することによって、インビボで治療用細胞を追跡することができる。たとえば、血液、骨髄および脳脊髄液吸引液のハーセプチン染色の標的としてHer2tを使用することによって、導入遺伝子を発現している治療用細胞の持続性を確認し、患者におけるがんの寛解から治療の持続までを追跡することができる。Her2tをEGFRtなどの別の遺伝子タグとともに使用する場合、複数の導入遺伝子を発現する細胞を同時に精製することができ、これによってCAR療法の治療用途を拡大することができる。
【0007】
いくつかの実施形態において、本発明の開示は、単離されたポリペプチドであって、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した511~652番目または563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないこと
を特徴とする単離されたポリペプチドを提供する。
この単離されたポリペプチドをコードする核酸も本発明に包含される。
【0008】
別の実施形態においては、単離されたポリペプチドをコードする核酸を含む宿主細胞であって、該単離されたポリペプチドが、配列番号23において膜貫通ドメインに連結した511~562番目または563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合することを特徴とする宿主細胞が提供される。宿主細胞は、CD8 T細胞、CD4 T細胞、CD4ナイーブT細胞、CD8ナイーブT細胞、CD8セントラルメモリー細胞、CD4セントラルメモリー細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。宿主細胞は、第2の遺伝子タグに連結された第2のキメラ抗原受容体をコードする第2の核酸をさらに含むことができる。いくつかの実施形態においては、前記第2の核酸は、単離されたポリペプチドをコードする核酸として、同じ宿主細胞に導入することができ、この単離されたポリペプチドは、配列番号23において膜貫通ドメインに連結した511~562番目または563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%の配列同一性を有し、Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合することを特徴とする。別の実施形態では、前記第2の核酸は第2の宿主細胞集団に導入され、第1の宿主細胞集団および第2の宿主細胞集団を含む少なくとも2つの宿主細胞集団を組み合わせて単一の組成物とする。いくつかの実施形態においては、前記T細胞はT細胞前駆細胞を含む。いくつかの実施形態においては、前記T細胞前駆細胞は造血幹細胞である。
【0009】
本開示の別の態様は、本明細書に記載の宿主細胞を含む組成物の製造方法を提供する。
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、
単離された核酸を宿主細胞に導入すること、および
少なくとも1つの増殖因子を含む培地中で前記宿主細胞を培養すること
を含み、
前記核酸は、たとえば、配列番号23において膜貫通ドメインに連結した511~652番目または563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメイン(ECD)からなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する単離されたポリペプチドをコードする核酸であり、
該単離されたポリペプチドは、Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合する。
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、前記培養工程の前もしくは後またはその前後に、ECDを発現している宿主細胞を選択することをさらに含む。別の実施形態においては、前記製造方法は、第2のキメラ抗原受容体および第2の遺伝子タグをコードする第2の核酸を前記宿主細胞に導入することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記培養工程の前もしくは後またはその前後に、前記第2の遺伝子タグを発現している宿主細胞を選択することをさらに含む。
【0010】
別の実施形態では、
単離された第1の核酸を第1の宿主細胞に導入すること、
ECDを発現している第1の宿主細胞を選択すること、
第2のキメラ抗原受容体および第2の遺伝子タグをコードする第2の核酸を第2の宿主細胞に導入すること、
前記第2の遺伝子タグを発現している第2の宿主細胞を選択すること、ならびに
任意に、少なくとも1つの増殖因子を含む培地中で前記第1の宿主細胞および第2の宿主細胞を培養すること
を含み、
前記核酸が、たとえば、配列番号23において膜貫通ドメインに連結した511~652番目または563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する単離されたポリペプチドをコードする核酸であること、
該単離されたポリペプチドが、Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること
を特徴とする方法が提供される。
別の実施形態では、組成物は第1の宿主細胞集団および第2の宿主細胞集団を含む。
【0011】
本発明の開示の別の態様は、がんの治療方法および該治療のための前記組成物の使用、前記組成物中の前記細胞をインビボで追跡するための方法および該追跡のための前記組成物の使用、ならびに前記組成物中の前記細胞をインビボで殺傷するための方法および該殺傷のための前記組成物の使用に関する。いくつかの実施形態においては、腫瘍抗原を発現しているがん患者を治療することを含む方法が提供され、該方法は、遺伝子タグに連結されたキメラ抗原受容体をコードする1つ以上の核酸を含む宿主細胞を含む組成物の有効量を投与することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物中の宿主細胞は、第1の遺伝子タグに連結された第1のキメラ抗原受容体をコードする第1の核酸と、第2の遺伝子タグに連結された第2のキメラ抗原受容体をコードする第2の核酸とを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記遺伝子タグに特異的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントを投与することをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記第1遺伝子タグに結合する抗体を投与するか、または前記第2の遺伝子タグに特異的に結合する抗体を投与するか、あるいは両方の抗体を投与する。いくつかの実施形態においては、前記抗体は検出可能な標識または細胞傷害薬と結合されているか、あるいはこれらの両方と結合されている。
【0012】
いくつかの実施形態においては、単離されたポリペプチドであって、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないこと
を特徴とする単離されたポリペプチドが提供される。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記リーダーペプチドは配列番号17で表される配列を有する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
【0013】
いくつかの実施形態においては、単離されたポリペプチドであって、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、
完全長成熟HERではないこと、および
前記配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインが、GGGSGGGS(配列番号45)で示されるアミノ酸を含む配列を介して前記膜貫通ドメインに連結されていること
を特徴とする単離されたポリペプチドが提供される。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記リーダーペプチドは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
【0014】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドをコードする単離された核酸が提供される。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないこと
を特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記リーダーペプチドは配列番号17で表される配列を有する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、
完全長成熟HERではないこと、および
前記配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインが、GGGSGGGS(配列番号45)で示されるアミノ酸を含む配列を介して前記膜貫通ドメインに連結されていること
を特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記リーダーペプチドは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸はプロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸は導入遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子は、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメインおよび少なくとも1つの刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、自己切断リンカーを有する前記HER2ポリペプチドをコードする前記核酸に連結されている。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記自己切断リンカーは、配列LEGGGEGRGSLLTCG(配列番号26)を有するT2Aリンカーである。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号25(CD20CAR)のアミノ酸配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドをコードする単離された核酸を含む宿主細胞が提供される。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないこと
を特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記リーダーペプチドは配列番号17で表される配列を有する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、
完全長成熟HERではないこと、および
前記配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインが、GGGSGGGS(配列番号45)で示されるアミノ酸を含む配列を介して前記膜貫通ドメインに連結されていること
を特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記リーダーペプチドは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸はプロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸は導入遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子は、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメインおよび少なくとも1つの刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、自己切断リンカーを有する前記HER2ポリペプチドをコードする前記核酸に連結されている。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記自己切断リンカーは、配列L E G G G E G R G S L L T C G(配列番号26)を有するT2Aリンカーである。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号25(CD20CAR)のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は、CD8 T細胞、CD4 T細胞、CD4ナイーブT細胞、CD8ナイーブT細胞、CD8セントラルメモリー細胞、CD4セントラルメモリー細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は自己由来である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は抗原特異的である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。
【0016】
いくつかの実施形態においては、ポリペプチドをコードする単離された核酸を含む宿主細胞を含む組成物が提供される。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないこと
を特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記リーダーペプチドは配列番号17で表される配列を有する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、
完全長成熟HERではないこと、および
前記配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインが、GGGSGGGS(配列番号45)で示されるアミノ酸を含む配列を介して前記膜貫通ドメインに連結されていること
を特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記リーダーペプチドは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸はプロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸は導入遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子は、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメインおよび少なくとも1つの刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、自己切断リンカーを有する前記HER2ポリペプチドをコードする前記核酸に連結されている。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記自己切断リンカーは、配列L E G G G E G R G S L L T C G(配列番号26)を有するT2Aリンカーである。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号25(CD20CAR)のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は、CD8 T細胞、CD4 T細胞、CD4ナイーブT細胞、CD8ナイーブT細胞、CD8セントラルメモリー細胞、CD4セントラルメモリー細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は自己由来である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は抗原特異的である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。
【0017】
いくつかの実施形態においては、組成物の製造方法であって、
単離された核酸を宿主細胞に導入すること、および
少なくとも1つの増殖因子を含む培地中で前記宿主細胞を培養すること
を含む方法が提供される。
いくつかの実施形態においては、前記単離された核酸はポリペプチドをコードする。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記リーダーペプチドは配列番号17で表される配列を有する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、
完全長成熟HERではないこと、および
前記配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインが、GGGSGGGS(配列番号45)で示されるアミノ酸を含む配列を介して前記膜貫通ドメインに連結されていること
を特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記リーダーペプチドは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸はプロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸は導入遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子は、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメインおよび少なくとも1つの刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、自己切断リンカーを有する前記HER2ポリペプチドをコードする前記核酸に連結されている。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないこと
を特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記自己切断リンカーは、配列L E G G G E G R G S L L T C G(配列番号26)を有するT2Aリンカーである。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号25(CD20CAR)のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は、CD8 T細胞、CD4 T細胞、CD4ナイーブT細胞、CD8ナイーブT細胞、CD8セントラルメモリー細胞、CD4セントラルメモリー細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は自己由来である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は抗原特異的である。いくつかの実施形態においては、前記増殖因子は、IL-15、IL-7、IL-21、IL-2およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態においては、前記方法は、前記Her2tポリペプチドを発現している細胞を選択することをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記細胞は、前記培地中での培養前に選択される。いくつかの実施形態においては、前記細胞は、Her2のドメインIVに結合する抗体を使用して選択する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。いくつかの実施形態においては、前記方法は、第2の遺伝子タグに連結されたキメラ抗原受容体をコードする第2の単離された核酸を導入することをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記方法は、前記第2の遺伝子タグを発現している細胞を選択することをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記第2の遺伝子タグはEGFRtを含む。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】Her2tの概略図である。(パネルA)Her2tの細胞外領域および膜貫通領域の分子モデル(中央)とHer2の分子モデル(ErbB2;左)を示す。ハーセプチンのFab部分と複合体化したHer2tを示す(右)。(パネルB)表面発現を可能にするためのGMCSF受容体α鎖シグナル配列(GMCSFRss)からなるリーダーペプチドを含むHer2tの模式図である。残りのHer2t配列は、Her2(ErbB2)のドメインIV(89アミノ酸長)のエピトープおよび23アミノ酸長の膜貫通領域からなる。(パネルC)Her2tを、CARおよびT2Aの下流にインフレームでクローニングし、共発現させた。
【0019】
図2】Her2tがトラスツズマブ(ハーセプチン)と協同して免疫磁気的にHer2t発現細胞を濃縮することを示す。(パネルA)Her2発現細胞株に対するビオチン化ハーセプチンの滴定を示す。(パネルB)ビオチン化ハーセプチンおよび抗ビオチンマイクロビーズ(Miltenyi)を使用した選択前および選択後のHer2t形質導入K562細胞を示す。95%の細胞がHer2t陽性を示すまで精製した。(パネルC)Her2tのエピトープは、ハーセプチンにより特異的に認識され、市販のHer2t抗体により認識されない。(パネルD)市販抗体(上段)またはビオチン化ハーセプチン(下段)でのウェスタンブロット分析を示し、Her2t(25kDa)とErbB2(250kDa)のkDa単位でのサイズの差異を例示している。レーンは、左から右へ順に(1~4)、分子量ラダー、K562親細胞(parental)、K562 Her2t、K562 ErbB2(Her2)を示す。
【0020】
図3】セントラルメモリーT細胞(Tcm)において、Her2tは、EGFRtと協同して機能する効果的な選択マーカーであることを示す。(パネルA)2段階カラム精製スキームを使用したPBMCからのCD8 Tcmの精製を示す。まず、(CD8陽性細胞を濃縮するための)CD8単離キットおよび(CD45RA陽性細胞を除去するための)CD45RAマイクロビーズを使用して、CD8CD45RA細胞を選択する。その後、CD62Lマイクロビーズを使用してCD62L陽性細胞が選択される。(パネルB)CD19CAR-T2A-Her2で形質導入したCD8 Tcm、CD20CAR-T2A-EGFRtで形質導入したCD8 Tcm、またはこれら両方で形質導入したCD8 Tcmを、ビオチン化ハーセプチンまたはビオチン化アービタックスと抗ビオチンマイクロビーズとを使用して選択した。CD19CAR-T2A-Her2tおよびCD20CAR-T2A-EGFRtで形質導入したCD8 Tcm(図中Both)を順次精製することにより、CAR療法のための二重特異的T細胞を得ることができる。5番目のパネルは、2段階精製したTcm(Both)のヒストグラムである。上段のヒストグラムは、2段階精製したTcmに対するハーセプチンSA-PE染色(Her2t)を示し、下段のヒストグラムは、同じTcmに対するアービタックスSA-PE染色(EGFRt)を示す。(パネルC)Her2tまたはEGFRtにより精製したCD8 Tcm細胞の溶解物を、CD3ζ特異的抗体を使用したウェスタンブロットで分析した結果を示す。レーンは、左から右へ順に(1~4)、分子量ラダー、Mock形質導入、CD19CAR-T2A-Her2t形質導入、CD19CAR-T2A-EGFRt形質導入を示す。パネルBにおいてHer2t染色した細胞ではMFIは低いが、Her2tにより精製した細胞では、EGFRtにより精製した細胞よりも導入遺伝子の発現レベルが高いことがバンド強度から分かる。上段のバンドはCD19CARであり、下段のバンドは内在性CD3ζである。CARζ鎖(上段パネル-50kDa)と、宿主T細胞の内部ζ鎖(下段パネル-15kDa)との強度の比較により、CAR-Her2t構築物を発現させた細胞は、CAR-EGFRt構築物を発現させた細胞よりもCARの発現が約2倍高かったことが分かる。
【0021】
図4】Her2t形質導入細胞およびHer2t/EGFRt形質導入細胞が、エフェクター表現型および標的特異性を維持していることを示す。(パネルA)K562標的パネルの特性評価を示す。左から右へ順に、K562親細胞(parental)、K562 CD19、K562 CD20、およびK562 CD19/CD20を示す。(X軸:CD19+;Y軸:CD20+)。(パネルB)CD19-CAR T細胞およびCD20-CAR T細胞がK562標的パネル細胞に対して特異性を有することを示す4時間クロム放出アッセイを示す。CD8 TcmとK562標的細胞を、50:1、25:1、12.5:1または6.25:1の比率で共培養した。二重形質導入T細胞のみが、すべての抗原発現K562細胞を標的とすることができた。CD19CAR-T2A-Her2t CD8 TcmおよびCD19CAR-T2A-EGFRt CD8 Tcmは、類似した溶解能力を示す。(パネルC)24時間サイトカイン放出アッセイを示す。CD8 TcmとK562標的細胞を、T細胞:標的細胞=2:1の比率で24時間共培養した後、上清中にエフェクターサイトカインが含まれるかどうかを分析した。CD19CAR-T2A-Her2t形質導入CD8 Tcmは、CD19CAR-T2A-EGFRt形質導入CD8 Tcmと比較して、エフェクターサイトカインのレパートリーが多く、これらのサイトカインの産生量も多かった。パネルCの内訳は、パネルAおよびパネルBと同様である(左から右へ順に、K562親細胞(parental)、K562 CD19、K562 CD20およびK562 CD19/CD20)。CD4 Tcmについても類似した結果が認められた(データは示さず)。(パネルD)24時間サイトカイン放出アッセイによる典型的な相対的サイトカイン産生量を示す。Her2t(CD19CAR-Her2t)により精製されたCD8 Tcmは、CD19発現K562とともに共培養した場合(上記参照)、CD19CAR-EGFRtよりも有意に高レベルでIL-2、IFNγおよびTNFαなどのエフェクターサイトカインを産生する。Studentのt検定はP>0.05であった。
【0022】
図5】遺伝子改変細胞のインビボ検出および蛍光染色のためのマーカーとしてのHer2tの使用を示す。(パネルA)CD19CAR-T2A-Her2tまたはCD19CAR-T2A-EGFRtを発現しているCD4 TcmおよびCD8 Tcm(10)をそれぞれNOD/scid IL-2RγCnullマウスに静脈内注射するとともに、5×10個のNS0-IL15細胞を皮下注射して、ヒトIL-15を全身に供給した。注射の14日後に骨髄を採取し、細胞懸濁液をフローサイトメトリーにより分析した。(パネルB)3つのパネルは、生存可能細胞(リンパ球93.6%)、単一細胞(98.8%)、および生存細胞(99.9%)でゲーティングした細胞を示す。(B)左から右へ(Mock、CD19CAR-T2A-Her2t Tcm、CD19CAR-T2A-EGFRt Tcm)のCD8染色およびCD45染色を示す。生存可能細胞、単一細胞および生存細胞でゲーティングしたところ、少なくとも1×10細胞が記録された。したがって、CD45細胞は細胞集団中約1%であるが、1×10個の細胞に相当する。残りの細胞はマウス骨髄細胞である。(パネルC)ヒトCD45細胞をビオチン化ハーセプチンまたはビオチン化アービタックスとSA-APCとで共染色した。骨髄由来のHer2t発現TcmまたはEGFRt発現Tcmが同定された。(パネルD)ポリ-L-リシンを使用して、TM-LCL親細胞(parental)、Her2(ErbB2)発現細胞またはHer2t発現細胞をスライドに接着させ、ビオチン化ハーセプチンおよびSA-AF647を使用して染色した。ビオチン化ハーセプチンおよびSA-AF647で染色すると、Her2またはHer2tを発現している細胞のみが染色された。
【0023】
図6】マルチソーティングによるHer2t陽性T細胞およびEGFRt陽性T細胞の精製を示す。H9細胞(5×10個の親細胞、Her2t細胞、EGFRt細胞、またはHer2t/EGFRt細胞)を混合し、精製を行った。まず、ビオチン化ハーセプチンおよび抗ビオチンマルチソートビーズを使用して細胞を精製した。その後、マルチソートビーズを除去した後、アービタックス-APCおよび抗APCマイクロビーズを使用して陽性画分を精製した。最終的に得られた陽性画分は、Her2tおよびEGFRtに対して二重陽性であった。
【0024】
図7】抗体であるハーセプチンに対する結合を増強させるため設計された、Her2tの3種のバリアント(CD28ヒンジ、IgG4ヒンジまたはHer2tG)を示す。Her2tに新たな配列が挿入されたことを示す概略図を示す。
【0025】
図8】Her2tGによりハーセプチンへの結合が増強されたことを示す。Her2tまたはHer2tGを有するMOI=1のレンチウイルスでH9細胞に形質導入した。製造元のプロトコルに従って、形質導入細胞をビオチン化ハーセプチンおよび抗ビオチンマイクロビーズで精製した。ビオチン化ハーセプチンおよびストレプトアビジン-PEを使用して、精製した細胞集団のHer2t染色またはHer2tG染色を行った。ヒストグラムは、Her2tGへの結合性の方が強かったことを示す。
【0026】
図9】Her2tGがハーセプチンに対して最も強い結合能力を有することを示す。0.05μl、0.1μl、0.25μl、0.5μl、1μlおよび3μlのレンチウイルス(図中、左から右)でH9細胞に形質導入した後、5日後にハーセプチンに対する結合性を分析した。Her2tのバリアントであるHer2t(CD28ヒンジ)は、元のHer2tと同様のレベルでハーセプチンに結合することができた(Her2t染色は示していないが、過去の実験に基づく)。Her2t(IgG4ヒンジ)では、Her2tまたはHer2t(CD28ヒンジ)と比べて、ハーセプチンに対する結合性が増強されたのに対し、Her2tGのバリアントは、ハーセプチンに対して最も強い結合性を示し、形質導入H9細胞を最も強く染色した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
用語の定義
特に記載がない限り、本明細書で使用されている技術用語および科学用語はいずれも、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解される意味を有すると見なされる。
【0028】
本明細書において「約」は、測定値について述べる場合、所定値から±20%または±10%の変動を意味し、より好ましくは±5%の変動、さらにより好ましくは±1%の変動、さらにより好ましくは±0.1%の変動を意味する。
【0029】
本明細書に記載の「抗原」または「Ag」は、免疫応答を引き起こす分子を指す。この免疫応答は、抗体産生もしくは特異的な免疫担当細胞の活性化、またはこれらの両方を包含することができる。抗原が組換え技術により作製、合成および産生可能であること、または生体サンプルから得ることができることは容易に理解される。そのような生体サンプルとしては、組織サンプル、腫瘍サンプル、細胞または体液(たとえば血液、血漿および腹水)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書に記載の「抗腫瘍効果」は、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、転移巣の減少、余命の延長、またはがん症状と関連した種々の生理学的症候の減少によって示される生物学的効果を指す。また、「抗腫瘍効果」は再発の減少または再発までの時間の延長によって示すことができる。いくつかの実施形態では、患者を治療する方法であって、有効量の組成物を投与することを含み、該組成物が細胞を含み、該組成物中の該細胞が、がん細胞上に発現される腫瘍抗原に結合する抗原結合ドメインと遺伝子タグとを含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、前記組成物は抗腫瘍効果を有する。
【0031】
本明細書に記載の「キメラ受容体」は、抗体配列または他のタンパク質配列に由来するリガンド結合ドメインを含む合成設計された受容体を指し、該リガンド結合ドメインは、上記疾患または障害に関連する分子と結合し、T細胞受容体またはその他の受容体の細胞内シグナル伝達ドメイン(たとえば共刺激ドメイン)の1つ以上とスペーサードメインを介して連結されている。キメラ受容体は、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体、およびキメラ抗原受容体(CAR)とも呼ぶことができる。CARは、任意の特異性を免疫受容体細胞に付与することが可能な遺伝子改変受容体である。研究者によっては、キメラ抗原受容体(CAR)は、抗体または抗体フラグメント、スペーサー、シグナル伝達ドメインおよび膜貫通領域を含むものであるとされる。しかしながら、CARの様々な成分すなわちドメイン(たとえばエピトープ結合領域(たとえば、抗体フラグメント、scFvまたはそれらの一部)、スペーサー、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインなど)は改変されており、この改変によって驚くべき効果が得られたことから、本明細書のいくつかの実施形態においてはCARの構成要素は個々に独立している。CARが様々な特徴を有することから、たとえば、特定のエピトープに対しての結合親和性がさらに強くなることがある。
【0032】
本明細書に記載の「共刺激ドメイン」は、たとえばTCR/CD3複合体のCD3ζ鎖によって提供される一次シグナルに加えて、活性化、増殖、分化、サイトカイン分泌などの(ただしこれらに限定されない)T細胞応答を媒介するシグナルをT細胞に提供するシグナル伝達部分を指す。共刺激ドメインは、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3などの分子全体、および/またはCD83と特異的に結合するリガンド全体、またはこれらの分子やリガンドの一部を含んでいてもよいが、これらに限定されない。いくつかの実施形態においては、共刺激ドメインは、他の細胞内メディエーターと相互作用することによって、活性化、増殖、分化、サイトカイン分泌などの細胞応答を媒介する細胞内シグナル伝達ドメインである。本明細書に記載のいくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は共刺激ドメインを含む。
【0033】
本明細書において「コードする」は、遺伝子、cDNA、mRNAなどのポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列が、特定のアミノ酸配列などの別の巨大分子を合成する際にテンプレートとして機能する特性を指す。「コードする(coding for)」という用語は、「コードする(encoding)」という用語と同じ意味で使用することができる。したがって、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳がなされた結果、細胞または他の生物系においてタンパク質が産生された場合、その遺伝子はタンパク質をコードすると言える。「ポリペプチドをコードする核酸配列」は、同じアミノ酸配列をコードするあらゆる縮重ヌクレオチド配列を包含する。
【0034】
本明細書に記載の「細胞傷害性Tリンパ球」(CTL)は、表面上にCD8を発現するTリンパ球(すなわちCD8T細胞)を指す。いくつかの実施形態において、そのような細胞は、抗原を経験したことのある「メモリー」T細胞(T細胞)であることが好ましい。
【0035】
本明細書に記載の「セントラルメモリー」T細胞(または「TCM」)は、抗原を経験したCTLであり、ナイーブ細胞と比較して、その表面上にCD62LまたはCCR-7、およびCD45ROを発現するが、CD45RAを発現していないか、CD45RAの発現が低下しているCTLを指す。いくつかの実施形態において、セントラルメモリー細胞は、ナイーブ細胞と比較して、CD62L、CCR7、CD28、CD127、CD45RO、および/もしくはCD95の発現が陽性であり、かつ/またはCD54RAの発現が低下している。いくつかの実施形態では、抗原に特異的な宿主細胞が提供される。いくつかの実施形態では、前記細胞はセントラルメモリーT細胞である。
【0036】
本明細書に記載の「エフェクターメモリー」T細胞(または「TEM」)は、抗原を経験したT細胞であり、セントラルメモリー細胞と比較して、その表面上にCD62Lを発現していないか、CD62Lの発現が低下しており、ナイーブ細胞と比較して、CD45RAを発現していないか、CD45RAの発現が低下しているT細胞を指す。いくつかの実施形態において、エフェクターメモリー細胞は、ナイーブ細胞またはセントラルメモリー細胞と比較して、CD62LおよびCCR7の発現が陰性であり、CD28およびCD45RAの発現が陽性あるいは陰性である。いくつかの実施形態では、抗原に特異的な宿主細胞が提供される。いくつかの実施形態では、前記細胞はエフェクターメモリーT細胞である。
【0037】
本明細書に記載の「ナイーブ」T細胞は、抗原を経験していないTリンパ球であり、セントラルメモリー細胞またはエフェクターメモリー細胞と比較して、CD62LおよびCD45RAを発現しており、CD45ROを発現していないTリンパ球を指す。いくつかの実施形態において、ナイーブCD8Tリンパ球は、ナイーブT細胞の表現型マーカーの発現によって特徴付けられ、ナイーブT細胞の表現型マーカーとしては、CD62L、CCR7、CD28、CD127、および/またはCD45RAが挙げられる。いくつかの実施形態では、抗原に特異的な宿主細胞が提供される。いくつかの実施形態では、前記細胞はナイーブT細胞である。
【0038】
本明細書に記載の「エフェクター」T細胞または「T」T細胞は、抗原を経験した細胞傷害性Tリンパ球であり、セントラルメモリー細胞またはナイーブT細胞と比較して、CD62L、CCR7、および/もしくはCD28を発現していないか、またはCD62L、CCR7、および/もしくはCD28の発現が低下しており、かつグランザイムB陽性および/またはパーフォリンに陽性であるTリンパ球を指す。いくつかの実施形態では、抗原に特異的な宿主細胞が提供される。いくつかの実施形態では、前記細胞はエフェクターT細胞である。
【0039】
本明細書に記載の「T細胞前駆細胞」は、胸腺へと遊走して、T細胞前駆細胞となり得るリンパ球前駆細胞を指し、T細胞前駆細胞はT細胞受容体を発現しない。すべてのT細胞は、骨髄中の造血幹細胞に由来する。造血幹細胞由来の造血前駆細胞(リンパ球系前駆細胞)は胸腺に移行し、細胞分裂により増殖し、未熟な胸腺細胞の大集団を作り出す。最も初期の胸腺細胞はCD4もCD8も発現せず、したがって、ダブルネガティブ(CD4CD8)細胞に分類される。これらは成長により発達し、ダブルポジティブ胸腺細胞(CD4CD8)となり、最終的にシングルポジティブ(CD4CD8またはCD4CD8)胸腺細胞に成熟して、その後、胸腺から末梢組織に放出される。
【0040】
胸腺細胞の約98%は、胸腺での発達過程においてポジティブ選択およびネガティブ選択により選抜されずに死滅し、残りの2%が生存して胸腺を去り、成熟した免疫担当T細胞になる。
【0041】
T細胞前駆細胞は、ダブルネガティブ(DN)段階においては主に機能的β鎖を産生し、ダブルポジティブ(DP)段階では主に機能的α鎖を産生し、その結果、最終的に機能性αβ T細胞受容体を産生する。4つのDN段階(DN1、DN2、DN3およびDN4)を経て胸腺細胞が発達するに従って、T細胞はインバリアントα鎖を発現するが、β鎖の遺伝子は再編成される。再編成されたβ鎖がインバリアントα鎖と対を為すことに成功した場合、β鎖の再編成を止めるシグナルが産生され(さらに、もう一方のアレルが抑制され)、細胞の増殖が起こる。これらのシグナルが産生されるには、この前駆TCRが細胞表面上に発現されていなければならないが、これらのシグナル自体は前駆TCRに結合するリガンドに依存する。このように発達した胸腺細胞はその後、CD4およびCD8の両方を発現し、α鎖が選択されるダブルポジティブ(DP)段階を経る。再編成β鎖がシグナル伝達を全くもたらさない場合(たとえば、インバリアントα鎖との対合ができなかった結果)、この細胞は無視され(シグナル伝達を受けることなく)、死滅すると考えられている。
【0042】
本明細書に記載の「造血幹細胞」または「HSC」は、骨髄系細胞に分化しうる前駆細胞であり、該骨髄系細胞としては、たとえば、マクロファージ、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞およびリンパ系細胞(たとえば、T細胞、B細胞、NK細胞など)が挙げられる。HSCは3種の幹細胞が存在する異種細胞集団であり、これらの幹細胞は血液中のリンパ系子孫細胞と骨髄系子孫細胞との比(L/M)により識別される。
【0043】
本明細書において、混合物中の特定の細胞種の量について述べる際に使用される「濃縮された」および「除去された」という用語は、細胞の混合物中において「濃縮された」細胞種の数を増加させる方法もしくは工程で細胞混合物を処理すること、または細胞の混合物中の「除去された」細胞の数を低減させる方法もしくは工程で細胞混合物を処理することを指す。したがって、濃縮工程に付された細胞の由来に応じて、混合物または組成物において、「濃縮された」細胞は(細胞数で)全体の60%、70%、80%、90%、95%もしくは99%以上、またはこれらの値のいずれかにより示される2つのエンドポイントの間の任意の整数値で表されるパーセンテージを占めていてもよく、かつ「除去された」細胞は(細胞数で)全体の40%、30%、20%、10%、5%もしくは1%以下、またはこれらの値のいずれかにより示される2つのエンドポイントの間の任意の整数値で表されるパーセンテージを占めていてもよい。
【0044】
本明細書に記載の「エピトープ」は、抗体、T細胞および/またはB細胞を含む免疫系によって認識される抗原または分子の一部を指す。エピトープは、通常、少なくとも7つのアミノ酸を有し、線状であっても高次構造を有していてもよい。
【0045】
「Her2」すなわち「ErbB2」は、リガンドに結合するために共受容体を必要とする膜結合型プロテインキナーゼ受容体を意味する。Her2の典型的な参照ポリペプチド配列は、UniprotレコードP04626および配列番号23(表8)に記載されている。表8に示すように、完全長の参照配列は1255アミノ酸長であり、1~22番目のアミノ酸からなるシグナル配列、23~652番目のアミノ酸からなる細胞外ドメイン、653~675番目のアミノ酸からなる膜貫通ドメイン、および676~1255番目のアミノ酸からなる細胞内ドメインを含む。完全長成熟ポリペプチドにはリーダー配列が含まれないため、完全長成熟ポリペプチド配列は1233アミノ酸長である。天然のバリアントおよび天然のアイソフォームが数多く知られている。参照核酸配列は、Genbank X03363/gI 31197に記載されている。前記細胞外ドメインは、4つの領域を有し、すなわち、配列番号23の23~217番目のアミノ酸からなるドメインI;218~341番目のアミノ酸からなるドメインII;342~510番目のアミノ酸からなるドメインIII;および511~562番目のアミノ酸からなるドメインIVを有する。
【0046】
「Her2t」は、Her2配列のフラグメントを意味し、導入遺伝子発現の遺伝子タグとして有用である。いくつかの実施形態において、Her2tは、Her2の細胞外ドメインであるドメインIVを含み、完全長Her2は含まない。いくつかの実施形態において、Her2tは、Her2のドメインIVに特異的な抗体に特異的に結合する。他の実施形態において、Her2tは、配列番号23の511~562番目または563~652番目のアミノ酸を含む。
【0047】
「単離された」という用語は、本明細書において開示される種々のポリペプチドについて述べる際に使用され、ポリペプチドまたは核酸が本来存在する環境にある他の成分から同定、分離かつ/または回収されたポリペプチドまたは核酸を意味する。単離されたポリペプチドまたは核酸は、これらが本来関連する他の成分を全く含まないことが好ましい。単離されたポリペプチドまたは核酸が本来存在する環境にある不純物としては、典型的には、該ポリペプチドまたは核酸の診断用途または治療用途を妨害するような物質であり、たとえば、酵素、ホルモンおよび他のタンパク性の溶質または非タンパク性の溶質が挙げられる。
【0048】
本明細書に記載の「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、リンパ球を活性化する分子(ここでは、キメラ受容体分子)の1つ以上のドメイン全体またはその一部を指す。そのような分子の細胞内ドメインは、細胞メディエーターと相互作用することによってシグナルを媒介し、増殖、分化、活性化、およびその他のエフェクター機能をもたらす。いくつかの実施形態において、そのような分子として、CD28、CD3、および/もしくは4-1BBの全体もしくはその一部、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0049】
本明細書に記載の「リガンド」は、別の物質と特異的に結合して複合体を形成する物質を指す。リガンドとしては、抗原上のエピトープ、受容体に結合する分子、基質、阻害物質、ホルモン、および活性化物質が挙げられる。本明細書に記載の「リガンド結合ドメイン」は、リガンドに結合する物質またはその一部を指す。リガンド結合ドメインとしては、抗体の抗原結合部分、受容体の細胞外ドメイン、および酵素の活性部位が挙げられる。
【0050】
本明細書に記載の「作動可能に連結される」は、制御配列と異種核酸配列との間の機能的な連結を指し、これは該異種核酸配列の発現をもたらす。たとえば、第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的に関係して配置されている場合、該第1の核酸配列は該第2の核酸配列と作動可能に連結されていると言える。たとえば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、該プロモーターは該コード配列に作動可能に連結されていると言える。通常、作動可能に連結されるDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域の連結が必要とされる場合、これらは同じリーディングフレーム内に存在する。
【0051】
本明細書に記載の遺伝子タグポリペプチド配列における「アミノ酸配列同一性(%)」は、参照配列中のアミノ酸残基と一致している候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。このアミノ酸配列同一性は、配列同一性(%)の最大値を算出するため、必要に応じて配列をアラインしてギャップを挿入した後に算出され、保存的置換を配列同一性としては考慮しない。アミノ酸配列同一性(%)を決定するためのアラインメントは、当技術分野の範囲にある種々の方法で行うことができ、たとえば、一般公開されているコンピュータソフトウェア、たとえばBLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを用いて実施することができる。当業者であれば、アラインメントを測定するのに適切なパラメータを決定することができ、このようなパラメータとしては、比較される複数の配列の全長にわたってアラインメントを最大とするのに必要な任意のアルゴリズムが挙げられる。たとえば、WU-BLAST-2コンピュータープログラム[Altschul et al., Methods in Enzymology, 266:460-480 (1996)]を用いてアミノ酸配列同一性(%)を算出するには、いくつかの検索パラメータを用いるが、それらのほとんどはデフォルト値に設定されている。デフォルト値に設定されないパラメータ(すなわち調整可能なパラメータ)は、overlap span=1, overlap fraction=0.125, word threshold (T) =11およびscoring matrix=BLOSUM62と設定される。アミノ酸配列同一性(%)は、(a)WU-BLAST-2によって決定された、配列番号23の563~652番目のアミノ酸または配列番号15に記載の参照Her2配列のポリペプチドアミノ酸配列すべてまたは各配列と、目的の比較アミノ酸配列との間で一致したアミノ酸残基の数を、(b)目的のポリペプチドのアミノ酸残基の総数で割ることによって決定される。
【0052】
本明細書に記載の「遺伝子タグのバリアントのポリヌクレオチド」は、以下に定義されるように、配列番号15に示したポリヌクレオチド配列、そのヌクレオチド、またはこれらに由来する特定のフラグメントと少なくとも約80%の核酸配列同一性を有する、ポリペプチドをコードする核酸分子を指す。通常、ポリヌクレオチドのバリアントまたはそのフラグメントは配列番号14に示した核酸配列またはそれに由来するフラグメントと少なくとも約80%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約81%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約82%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約83%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約84%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約86%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約87%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約88%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約89%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約90%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約91%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約92%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約93%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約94%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約95%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約96%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約97%の核酸配列同一性、より好ましくは少なくとも約98%の核酸配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも約99%の核酸配列同一性、またはこれらの核酸配列同一性(%)の値のいずれか2つの間の任意の核酸配列同一性(%)を有する。バリアントは、自体が由来するヌクレオチド配列を包含しない。これは、遺伝コードの縮重によるものであり、当業者であれば、配列番号18のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列または配列番号14のヌクレオチド配列と少なくとも約80%の核酸配列同一性を有する様々なキメラ受容体バリアントのポリヌクレオチドを容易に認識するであろう。
【0053】
「実質的に精製された」は、目的の分子以外の他の分子や他の細胞が全体の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、もしくは1%以下、またはこれらの精製率(%)の値のいずれか2つの間の任意の値しか占めていないことを指す。また、「実質的に精製された細胞」は、天然の状態において通常関連する他の細胞種から分離された細胞を指す。場合によっては、実質的に精製された細胞の集団は、均質な細胞集団を指すこともある。
【0054】
正常細胞上の腫瘍抗原または他の分子の存在に関して述べる際に使用される「実質的に存在しない」という用語は、腫瘍抗原または他の分子を有する正常細胞のパーセンテージおよび/または正常細胞上の腫瘍抗原の密度を指す。いくつかの実施形態において、「実質的に存在しない」は、腫瘍細胞または他の疾患細胞に存在する細胞の数または抗原の量と比較して、腫瘍抗原または他の分子が正常細胞の50%未満に存在し、かつ/または正常細胞上の腫瘍抗原の密度が50%未満であることを意味する。
【0055】
本明細書に記載の「T細胞」または「Tリンパ球」は、どのような哺乳動物から得られたものであってもよく、霊長類から得られたものであることが好ましく、該哺乳動物としては、サル、イヌおよびヒトが挙げられる。いくつかの実施形態において、T細胞はレシピエント対象と同種異系(同種であるが異なるドナーに由来するもの)である。いくつかの実施形態においては、T細胞は自己由来である(ドナーとレシピエントは同じである)。いくつかの実施形態において、T細胞は同質遺伝子型である(ドナーとレシピエントは異なるが、一卵性双生児である)。
【0056】
「ベクター」または「構築物」は、様々な制御要素を有する細胞中に異種核酸を導入するために使用される核酸であり、この導入によって該異種核酸が発現される。ベクターとしては、プラスミド、ミニサークル(minicircle)、酵母、およびウイルスゲノムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
本発明の開示によって、導入遺伝子を発現している細胞のための選択マーカーおよび/または同定マーカーを提供することに有用な遺伝子タグポリペプチドまたはそのバリアントおよび該遺伝子タグをコードする核酸が提供される。
【0058】
導入遺伝子の遺伝子タグ、ポリペプチドおよびバリアント
本開示の一態様は、細胞における導入遺伝子の安定な発現を可能とする、導入遺伝子の発現のための遺伝子タグを提供する。いくつかの実施形態においては、前記遺伝子タグを使用することによって、内在性遺伝子と同等のレベルで導入遺伝子を発現している形質導入細胞の選択が可能となる。いくつかの実施形態においては、前記遺伝子タグは、細胞表面に発現され、免疫原性が低減されており、ベクター内の遺伝子ペイロードを増やすことが実質的になく、かつ/または様々な細胞における導入遺伝子の発現を可能にする。
【0059】
いくつかの実施形態において、前記遺伝子タグは、抗Her2抗体により認識されるエピトープを少なくとも含む、Her2のフラグメントであり、このフラグメントをHer2tと呼ぶ。いくつかの実施形態において、前記抗体は、Her2のドメインIVに特異的に結合する。別の実施形態において、前記抗体は、Her2のドメインIVに特異的に結合するが、Her2のドメインI、II、および/またはIIIのエピトープには結合しない。いくつかの実施形態において、前記抗Her2抗体は、がんの治療に有用な治療抗体である。いくつかの実施形態において、前記エピトープはトラスツズマブ(ハーセプチン)により認識される。いくつかの実施形態において、前記エピトープは、トラスツズマブにより認識され、かつ/またはトラスツズマブと結合に対して競合するが、その他の抗Her2抗体(たとえば、Her2のドメインI、II、および/またはIII中のエピトープに結合する抗体)とは競合しない抗体により認識される。
【0060】
特定の実施形態において、前記エピトープは、ハーセプチンのFab部分と複合体化したHer2の結晶構造(Cho et al., Nature (2003) 421:756)により決定されるアミノ酸を含む。Her2とハーセプチンの相互作用は、ドメインIVの3つのループ領域(2つの静電領域と1つの疎水性領域)で起こる。ハーセプチンと相互作用するHer2の重要なアミノ酸としては、580~584番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列EADQC(580番目のGluおよび582番目のAspを含む)(配列番号42)を含むループ1(静電領域)、592~595番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列DPPF(592番目のAspおよび595番目のPheを含む)(配列番号43)を含むループ2(疎水性領域)、ならびに616~625番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列FPDEEGACQP(624番目のGlnを含む)(配列番号44)を含むループ3(静電気的)が挙げられる(アミノ酸のナンバリングは、シグナル伝達配列を含む配列番号23の完全長ErbB2(Her2)配列に基づき、この配列を表8に示す)。シグナル配列から22個のアミノ酸を除いたChoらによるナンバリングシステムに基づくと、ハーセプチンと相互作用するHer2のアミノ酸としては、ループ1の558番目のGluおよび560番目のAsp、ループ2の570番目のAspおよび573番目のPhe、ならびにループ3の602番目のGlnが挙げられる。いくつかの実施形態において、Her2のフラグメントは、少なくともこれらのアミノ酸残基を含み、さらに、細胞表面上に発現された場合に、トラスツズマブと結合するHer2のフラグメント、またはトラスツズマブと競合する抗体と結合に対して結合するHer2のフラグメントが選択される。本開示の範囲を限定することを意図するものではないが、563~652番目のアミノ酸を少なくとも含むHer2tフラグメントは、トラスツズマブに結合することができるエピトープを含むと考えられる。これは、578~652番目のアミノ酸を含む、上記エピトープよりも小さいエピトープは、トラスツズマブに結合しなかったためである。いくつかの実施形態において、前記Her2tフラグメントは、Her2tの563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、Her2tフラグメントは、Her2tの580~584番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列、Her2tの592~595番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列、およびHer2tの616~625番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含む。
【0061】
特定の実施形態において、Her2のフラグメントは、表6(配列番号18)に示すように、511~652番目(ドメインIV)または563~652番目のアミノ酸を含むか、実質的にこれらのアミノ酸からなるか、またはこれらのアミノ酸からなる。いくつかの実施形態において、Her2フラグメントのバリアントは、細胞表面に発現されてトラスツズマブに結合する場合、配列番号18の配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性、またはこれらのパーセンテージのいずれか2つにより定義される範囲にある配列同一性(%)を有する。いくつかの実施形態において、前記フラグメントのバリアントは、少なくとも9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、または1個のアミノ酸置換を有し、この置換は保存的アミノ酸置換であることが好ましい。このような置換は、ハーセプチンのFab部分と複合体化したHer2の結晶構造(Cho et al., Nature (2003))から特定することができる。いくつかの実施形態において、前記フラグメントのバリアントは、本明細書に記載されているような、トラスツズマブとの結合に関与する残基においてアミノ酸置換を含んでいない。いくつかの実施形態において、前記フラグメントは、Her2のドメインIVに含まれる残基を含んでいるが、ドメインI、ドメインII、ドメインIII、および/または細胞内ドメインなどの、Her2の1つ以上のその他のドメインを含んでいない。
【0062】
いくつかの実施形態において、前記遺伝子タグは、免疫応答をほとんど起こさないか、免疫応答を全く起こさない。いくつかの実施形態において、内在性タンパク質であれば対象において忍容性が得られることから、前記遺伝子タグは内在性タンパク質から選択される。いくつかの実施形態において、前記遺伝子タグは、抗原エピトープを予測するためのソフトウェアを用いて解析され、このようなソフトウェアとしては、MHC-I抗原性ペプチドを処理することが可能な予測アルゴリズムなどが挙げられる。MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIPCHPECQPQNGSVT(配列番号16)で表される配列を解析することによって、抗原決定基を決定する。いくつかの実施形態において、人工の導入遺伝子構築物または合成導入遺伝子構築物中に組み込むため、生殖細胞系配列に由来した遺伝子タグの核酸配列、および/または生殖細胞系配列から改変した遺伝子タグの核酸配列を使用する。
【0063】
いくつかの実施形態において、前記遺伝子タグは、膜貫通ドメインをさらに含む。該膜貫通ドメインは、天然由来であってもよく、合成由来であってもよい。天然由来である場合、前記膜貫通ドメインは、膜結合型タンパク質であっても膜貫通型タンパク質であってもよく、これらのタンパク質はどのようなものであってもよい。膜貫通領域は、T細胞受容体のα鎖、β鎖もしくはζ鎖、CD28、CD3、CD45、CD4、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137および/またはCD154の膜貫通領域を少なくとも含む。特定の実施形態において、前記膜貫通ドメインは、表6に示すHer2の膜貫通ドメインのアミノ酸(たとえば、653~675番目のアミノ酸(配列番号20))を含む。Her2の膜貫通ドメインをコードする典型的なポリヌクレオチド配列(配列番号19)を表6に示す。
【0064】
いくつかの実施形態において、合成膜貫通ドメインまたは膜貫通ドメインのバリアントは、主に疎水性残基、たとえば、ロイシンおよびバリンを含む。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインは、表6に示す膜貫通ドメインと、少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは100%のアミノ酸配列同一性、またはこれらのパーセンテージのいずれか2つにより定義される範囲にある配列同一性(%)を有してもいてもよい。膜貫通ドメインのバリアントは、Kyte Doolittle法により算出された疎水性スコアが少なくとも50であることが好ましい。
【0065】
いくつかの実施形態において、遺伝子タグは、自体の表面発現を増強するペプチドを含む。このようなペプチドとしては、たとえば、顆粒球・マクロファージ刺激因子のシグナル配列、内在性Her2のリーダーペプチド(1~22番目のアミノ酸)、I型シグナルペプチド、IgGκのシグナルペプチド、および/またはCD8のリーダー配列が挙げられる。いくつかの実施形態において、リーダー配列は、配列番号17の配列を有する。
【0066】
特定の実施形態において、遺伝子タグは、トラスツズマブに結合するHer2のフラグメント、および配列番号20により例示されるような膜貫通ドメインを含む。別の特定の実施形態では、遺伝子タグは、表面発現を増強するペプチド、トラスツズマブに結合するHer2のフラグメント、および配列番号15により例示されるような膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態において、前記遺伝子タグのバリアントは、細胞表面に発現されてトラスツズマブに結合する場合、配列番号16または配列番号20の配列と90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性、またはこれらのパーセンテージのいずれか2つにより定義される範囲にある配列同一性(%)を有する。いくつかの実施形態において、前記フラグメントのバリアントは、少なくとも9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、または1個のアミノ酸置換を有し、この置換は保存的アミノ酸置換であることが好ましい。いくつかの実施形態において、前記フラグメントのバリアントは、トラスツズマブとの結合に関与する残基においてアミノ酸置換を含んでいない。
【0067】
リンカー配列は、前記遺伝子タグ配列よりも上流に位置していてもよく、かつ/または該遺伝子タグのための1つ以上の機能性ドメイン(たとえば、表面発現を増強するペプチド、遺伝子タグ、膜貫通ドメイン)を隔てて存在していてもよい。リンカー配列は切断可能であってもよく、たとえば、T2A配列(表1に示す)であってもIRES配列であってもよい。切断可能なリンカー配列は通常、核酸構築物において前記遺伝子タグ配列よりも上流に位置する。その他のリンカー配列としては、通常、約2~15アミノ酸長の短いペプチドが挙げられ、この短いペプチドは、前記遺伝子タグのための複数の機能性ドメイン(たとえば、表面発現を増強するペプチド、遺伝子タグ、および膜貫通ドメインなど)を隔てて存在している。いくつかの実施形態において、前記リンカーは、2アミノ酸長、3アミノ酸長、4アミノ酸長、5アミノ酸長、6アミノ酸長、7アミノ酸長、8アミノ酸長、9アミノ酸長、10アミノ酸長、11アミノ酸長、12アミノ酸長、13アミノ酸長、14アミノ酸長または15アミノ酸長であり、前記遺伝子タグのための複数の機能性ドメイン(たとえば、表面発現を増強するペプチド、遺伝子タグ、および膜貫通ドメインなど)を隔てて存在している。いくつかの実施形態において、前記リンカーは切断可能なリンカーである。いくつかの実施形態において、前記リンカーは切断可能なT2A配列である。いくつかの実施形態において、前記リンカーはIRES配列を含む。
【0068】
いくつかの実施形態において、前記システムは1つ以上のさらなる遺伝子タグをさらに含む。一実施形態において、該さらなる遺伝子タグ配列は、上皮成長因子受容体(EGFRt)配列のフラグメントである。このような配列の例を表7に示す。通常、遺伝子タグ配列は、形質導入細胞の選択および/または検出を可能にする機能特性を有する。いくつかの実施形態において、前記遺伝子タグ配列は、ヒトリンパ球の形質導入に適合している。
【0069】
別の実施形態において、さらなる遺伝子タグは、ポジティブ選択マーカーである。ポジティブ選択可能な遺伝子タグは遺伝子であってもよく、これは、宿主細胞に導入されると、該遺伝子を持つ細胞のポジティブ選択を可能にする表現型を優位に発現する。このような遺伝子は当技術分野において公知であり、具体的には、ハイグロマイシンBに対する耐性を与えるハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子(hph)、抗生物質であるG418に対する耐性をコードするTn5由来のアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neoまたはaph)、メトトレキサートに対する耐性を与えるジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子、DHFR dm、ピューロマイシンに対する耐性を与えるpac遺伝子、ゼオシンを不活化するSh ble遺伝子、アデノシンデアミナーゼ遺伝子(ADA)、および多剤耐性(MDR)遺伝子などが挙げられる。これらの薬剤の存在下で培養されて生き残った形質導入細胞が選択されることになる。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。
【0070】
一実施形態において、第1の核酸は、遺伝子タグ配列をコードするポリヌクレオチドをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記遺伝子タグ配列は、Her2t配列である。Her2tの典型的なポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を表6に示し、これらはそれぞれ配列番号14および配列番号15で示される。一実施形態において、前記遺伝子タグ配列は、表7に示す上皮成長因子受容体(EGFRt)のフラグメントである。末端切断型上皮成長因子受容体の典型的なポリヌクレオチド配列は、配列番号22である。
【0071】
遺伝子タグをコードするポリヌクレオチドは、アミノ酸配列に基づいて合成法または組換え法により容易に作製することができる。いくつかの実施形態においては、遺伝子タグ配列をコードするポリヌクレオチドは、リンカー配列をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、遺伝子タグ配列をコードする前記ポリヌクレオチドは、該コード配列の5’末端および/または3’末端に1つ以上の制限酵素部位をさらに有していてもよく、これによって、タグ配列をコードするポリヌクレオチドを切断して、別の遺伝子タグ配列をコードする別のポリヌクレオチドと置換することが容易となる。いくつかの実施形態において、マーカー配列をコードする前記ポリヌクレオチドは、哺乳動物細胞における発現、好ましくはヒト細胞における発現を目的としてコドン最適化されている。
【0072】
いくつかの実施形態において、2つ以上の遺伝子タグ配列を用いることができる。いくつかの実施形態において、第1の遺伝子タグ配列は、第1のキメラ抗原受容体に作動可能に連結され、該第1のCARが形質導入細胞において発現されていることの指標となる。別の実施形態において、第2の遺伝子タグ配列は、第1のCARとは異なる第2のCARに作動可能に連結され、該第2のCARが形質導入細胞において発現されていることの指標となる。
【0073】
核酸およびベクター
本開示の別の態様は、本明細書に記載の遺伝子タグをコードする核酸構築物およびそのバリアントを含む。
【0074】
いくつかの実施形態において、核酸は、Her2のフラグメントまたはそのバリアントのアミノ酸配列をコードする。特定の一実施形態において、核酸は、配列番号18のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。特定の一実施形態において、核酸は、配列番号15のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする。一実施形態において、前記遺伝子タグ配列は、表7に示す上皮成長因子受容体(EGFRt)のフラグメントである。末端切断型上皮成長因子受容体の典型的なポリヌクレオチド配列は、配列番号21である。核酸は、ヒトにおける発現を目的としてコドン最適化された核酸配列、縮重配列、およびバリアント配列を含む。
【0075】
ベクター
いくつかの実施形態において、ベクターは、遺伝子タグをコードする核酸を含む。遺伝子タグをコードする核酸は、独立した構築物としてベクター内にパッケージングされていてもよく、導入遺伝子をコードする核酸に連結されていてもよい。いくつかの実施形態において、遺伝子タグをコードする核酸は、独立した構築物としてベクター内にパッケージングされるか、あるいは導入遺伝子をコードする核酸に連結される。
【0076】
形質導入および導入遺伝子の発現を効率的に実施することが可能な様々なベクターの組み合わせを構築することができる。いくつかの実施形態において、前記ベクターはデュアルパッケージウイルスベクターまたは単一の(オールインワン)ウイルスベクターである。別の実施形態においては、前記ベクターとして、ウイルスベクターとプラスミドベクターの組み合わせが挙げられる。別のウイルスベクターとしては、フォーミーウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、およびレンチウイルスベクターが挙げられる。一実施形態において、前記ベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0077】
いくつかの実施形態において、プラスミドベクターまたはウイルスベクターは、遺伝子タグをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記遺伝子タグは、Her2tをコードするポリヌクレオチドを含み、プロモーター、表面発現を増強するペプチドをコードするポリヌクレオチド、および/または膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。特定の実施形態において、前記第1の核酸は、プロモーターに作動可能に連結された配列番号18、配列番号20もしくは配列番号15の配列またはそのバリアントを有するポリペプチドをコードする。
【0078】
いくつかの実施形態において、プラスミドまたはウイルスベクターは、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターを含み、このキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドは、遺伝子タグをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、CD19またはCD20を標的とし、前記遺伝子タグは、Her2tフラグメントを含む。いくつかの実施形態においては、前記CARをコードするポリヌクレオチドは、自己切断リンカーを介して前記遺伝子タグに作動可能に連結されている。別の実施形態においては、プラスミドまたはウイルスベクターは、CD19キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターを含み、該CD19キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドは、Her2tまたはEGFRtをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されている。別の実施形態においては、プラスミドまたはウイルスベクターは、CD20キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターを含み、該CD20キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドは、Her2tまたはEGFRtをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されている。
【0079】
前記核酸の各構成要素は、リンカー配列を介して、好ましくは、T2A自己切断配列などの自己切断リンカーを介して、互いに隔てられている。
【0080】
別の実施形態において、外来性(前記ベクター、たとえばレンチウイルスベクターにとって外来性)の核酸配列は、ベクター中にパッケージされうる他の遺伝子成分の量によって制限される。いくつかの実施形態においては、構築物は、前記ウイルスベクターにとって外来性の遺伝子を少なくとも2つ含有する。いくつかの実施形態においては、前記構築物に含まれる、前記ウイルスベクターにとって外来性の遺伝子は4つ以下である。前記ウイルスベクター中にパッケージすることが可能な、該ベクターにとって外来性の遺伝子の数は、1つ以上の導入遺伝子の発現を検出すること、および細胞の少なくとも10%に形質導入することが可能であり、かつ/または細胞の少なくとも10%において該導入遺伝子の発現が検出可能なベクター構築物を選択することによって決定することができる。
【0081】
いくつかの実施形態において、レンチウイルスはデュアルパッケージされたウイルスである。デュアルパッケージされたウイルスは、キメラ抗原受容体および第1の遺伝子タグをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を少なくとも1つ含む。該核酸は、サイトカインおよび/またはケモカイン受容体をコードするポリヌクレオチドをさらに含んでいてもよい。デュアルパッケージされたウイルスは、キメラ抗原受容体および第2の遺伝子タグをコードするポリヌクレオチドを含む核酸を少なくとも1つ含む。該核酸は、サイトカインおよび/またはケモカイン受容体をコードするポリヌクレオチドをさらに含んでいてもよい。2つの構築物を含むシステムのいくつかの実施形態においては、それぞれの構築物は、別々のウイルスベクターにパッケージされおり、該ウイルスベクターを混合して使用することによって細胞集団に形質導入することができる。いくつかの実施形態においては、前記第1の遺伝子タグと前記第2の遺伝子タグは異なるものである。
【0082】
いくつかの実施形態においては、前記デュアルパッケージされたウイルスは、単一の細胞における少なくとも2種の導入遺伝子(たとえば、CAR構築物)の発現を可能とする。複数の異なる遺伝子タグを使用することによって、2種の形質が導入された細胞を選択することが可能となる。特定の一実施形態においては、プラスミドまたはウイルスベクターは、CD19キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターを含み、該CD19キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドは、Her2tをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されている。別の実施形態においては、前記プラスミドまたはウイルスベクターは、CD20キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターをさらに含み、該CD20キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドは、EGFRtをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されている。
【0083】
いくつかの実施形態において、前記ベクターはミニサークル(minicircle)である。ミニサークルは、細菌プラスミドのDNA骨格を含んでいない環状の発現カセットとして作製されたエピソーマルDNAベクターである。ミニサークルの分子サイズは小さいためより効率的な形質移入が可能になり、また、数日間しか機能しない標準的なプラスミドベクターに比べて、数週間にわたる持続発現が可能となる。いくつかの実施形態において、ミニサークルは、遺伝子タグに作動可能に連結されたキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドに連結されたプロモーターを含む。1つ以上のミニサークルを使用することができる。いくつかの実施形態において、ミニサークルは、キメラ抗原受容体および第1の遺伝子タグをコードするポリヌクレオチドに連結されたプロモーターを含み、別のミニサークルは、キメラ抗原受容体および第2の別の遺伝子タグをコードするポリヌクレオチドに連結されたプロモーターを含む。いくつかの実施形態において、前記構築物それぞれの各構成要素は、自己切断T2A配列をコードする核酸などの核酸を介して隔てられている。いくつかの実施形態においては、それぞれのミニサークルに含まれるキメラ抗原受容体が互いに異なっており、たとえば、スペーサーの長さおよびスペーサーの配列、細胞内シグナル伝達ドメイン、ならびに/または遺伝子タグ配列が異なっている(ただし、これらに限定されない)。
【0084】
いくつかの実施形態において、前記ベクターは、PiggyBacトランスポゾンである。PiggyBac(PB)トランスポゾンは、「カット&ペースト」機構を介してベクターと染色体との間を効率的に移動する転移性遺伝因子である。転移に際して、PBトランスポゼースは、トランスポゾンベクターの両末端に存在するトランスポゾン特異性逆方向末端反復配列(ITR)を認識し、ITRに挟まれた配列を元の部位から効率的に移動させて、これをTTAA染色体部位に効率的に組み込む。PiggyBacトランスポゾンシステムの強力な活性によって、PBベクターの2つのITRに挟まれた目的の遺伝子を標的ゲノムへと容易に移動することができる。
【0085】
いくつかの実施形態において、PBは、遺伝子タグに作動可能に連結されたキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドに連結されたプロモーターを含む。1つ以上のPBトランスポゾンを
使用することができる。いくつかの実施形態において、PBは、キメラ抗原受容体および第1の遺伝子タグをコードするポリヌクレオチドに連結されたプロモーターを含み、別のPBは、キメラ抗原受容体および第2の別の遺伝子タグをコードするポリヌクレオチドに連結されたプロモーターを含む。前記構築物それぞれの各構成要素は、自己切断T2A配列をコードする核酸などの核酸を介して隔てられている。いくつかの実施形態において、それぞれのPBに含まれるキメラ抗原受容体が互いに異なっており、たとえば、スペーサーの長さおよびスペーサーの配列、細胞内シグナル伝達ドメイン、ならびに/または遺伝子タグ配列が異なっている(ただし、これらに限定されない)。
【0086】
いくつかの実施形態においては、第1の核酸は、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結された第1のプロモーターを含み、該キメラ抗原受容体はリガンド結合ドメインを含み、該リガンド結合ドメインはリガンドに結合し、該リガンドが、腫瘍に特異的な分子、ウイルス分子、またはリンパ球による認識および排除の媒介に適切な標的細胞集団上に発現されるその他の分子であり、第1の核酸は、前記リガンドに応答したT細胞の増殖および/またはサイトカインの産生を対照のキメラ受容体よりも増強するポリペプチドスペーサーをコードするポリヌクレオチド、膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチド、およびd)細胞内シグナル伝達ドメインをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記第1の核酸は遺伝子タグをさらに含む。
【0087】
いくつかの実施形態において、第2の核酸は、第1のキメラ抗原受容体とは異なる第2のキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む。第1のキメラ抗原受容体と第2のキメラ抗原受容体は互いに異なっていてもよく、その差異は、リガンド結合ドメイン、標的抗原、標的抗原のエピトープ、スペーサードメインの長さおよびスペーサードメインの配列(短い配列、中程度の配列または長い配列)、ならびに細胞内シグナル伝達ドメインにあってもよい。いくつかの実施形態において、第2の核酸は、第1の核酸の遺伝子タグとは異なる第2の遺伝子タグをさらに含む。
【0088】
いくつかの実施形態において、単一のレンチウイルス構築物では、第1の核酸と第2の核酸は、ゲノムのインスレーターの核酸配列を介して隔てられていてもよく、該インスレーターは、たとえば、ウニのインスレーターのクロマチンドメインであってもよい。
【0089】
いくつかの実施形態において、本明細書で使用されるプロモーターは、誘導性プロモーターであっても構成的プロモーターであってよい。誘導性プロモーターとしては、タモキシフェン誘導性プロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーター、およびドキシサイクリン誘導性プロモーター(たとえば、treプロモーター)が挙げられる。構成的プロモーターとしては、SV40、CMV、UBC、EF1α、PGK、およびCAGGが挙げられる。
【0090】
これらのベクターのうち1つ以上を組み合わせて使用することによって、標的細胞に形質導入し、キメラ抗原受容体を発現することができる。
【0091】
導入遺伝子
本発明の態様はいくつかの導入遺伝子も包含する。
【0092】
本明細書に記載の遺伝子タグは、導入遺伝子により形質導入され、該遺伝子を発現している細胞の選択、追跡、および殺傷に有用である。前記遺伝子タグは、様々な導入遺伝子とともに使用することができ、該導入遺伝子は特に限定されない。本開示では、キメラ抗原受容体を有する導入遺伝子を例示しているが、類似の原理を、形質導入細胞において発現されるその他の導入遺伝子の設計、同定および選択に適用することができる。
【0093】
キメラ抗原受容体
本明細書に記載の実施形態においては、いくつか種類のキメラ抗原受容体を使用することができる。
【0094】
キメラ抗原受容体の発現システムは、第1の核酸を含み、該第1の核酸は、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドに連結された第1のプロモーターを含み、該キメラ抗原受容体はリガンド結合ドメインを含み、該リガンド結合ドメインはリガンドに結合し、該リガンドが、腫瘍に特異的な分子、ウイルス分子、またはリンパ球による認識および排除の媒介に適切な標的細胞集団上に発現されるその他の分子であり、第1の核酸は、前記リガンドに応答したT細胞の増殖および/またはサイトカインの産生を対照のキメラ受容体よりも増強するポリペプチドスペーサーをコードするポリヌクレオチド、膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチド、およびd)細胞内シグナル伝達ドメインをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。別の実施形態においては、キメラ抗原受容体をコードする別のポリヌクレオチドは、構成的プロモーターの制御下にある。
【0095】
リガンド結合ドメイン
本明細書に記載の実施形態においては、様々なリガンド結合ドメインを使用することができる。
【0096】
いくつかの実施形態において、前記キメラ受容体の核酸配列は、リガンド結合ドメインをコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態において、前記リガンド結合ドメインは、腫瘍抗原または特定のウイルス抗原に特異的に結合する。いくつかの実施形態において、前記リガンド結合ドメインとしては、受容体またはその一部、小さいペプチド、ペプチドミメティック、基質、およびサイトカイン等が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態においては、前記リガンド結合ドメインは抗体またはそのフラグメントである。抗体または抗体フラグメントをコードする核酸配列は容易に決定することができる。特定の実施形態においては、前記ポリヌクレオチドは、CD19と特異的に結合する一本鎖Fvをコードする。別の特定の実施形態のいくつかにおいて、前記ポリヌクレオチドは、CD20、HER2、CE7、hB7H3、またはEGFRと特異的に結合する一本鎖Fvをコードする。これらの抗体の配列は、当業者に知られており、当業者によって容易に決定される。
【0097】
腫瘍抗原は、免疫応答を誘発する腫瘍細胞によって産生されるタンパク質である。本開示のリガンド結合ドメインは、治療されるがんの種類に応じて選択され、腫瘍抗原またはその他の腫瘍細胞表面分子を標的とすることができる。対象由来の腫瘍サンプルは、特定のバイオマーカーまたは細胞表面マーカーの存在について特性を評価することができる。たとえば、対象由来の乳がん細胞は、Her2Neu、エストロゲン受容体、および/またはプロゲステロン受容体のそれぞれについて陽性であっても陰性であってもよい。個々の対象の腫瘍細胞上に見出される腫瘍抗原または細胞表面分子が選択される。腫瘍抗原および細胞表面分子は、当技術分野において周知であり、たとえば、癌胎児性抗原(CEA)、前立腺特異抗原、PSMA、Her2/neu、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD19、CD171、EGFR、CD20、CD22、CD23、CD123、CS-1、CE7、hB7H3、ROR1、メソテリン(mesothelin)、c-Met、GD-2、および/またはMAGE A3 TCRが挙げられる。いくつかの実施形態において、標的分子は、腫瘍細胞上に存在する細胞表面分子であり、正常組織上に実質的に存在しないか、またはその発現が重要視されない正常組織に制限されている。
【0098】
一実施形態において、腫瘍上の標的分子は、悪性腫瘍と関連する1つ以上のエピトープを含む。悪性腫瘍は、T細胞受容体またはキメラ受容体により媒介される認識のための標的抗原として機能しうるタンパク質を多数発現している。その他の標的分子としては、細胞の形質転換に関連する分子の一群に属するものが挙げられ、たとえばCD19またはCD20が挙げられる。いくつかの実施形態において、腫瘍抗原は、同じ組織型の対照細胞と比較して、腫瘍細胞上に選択的に発現されるか、あるいは過剰発現される。別の実施形態において、腫瘍抗原は細胞表面ポリペプチドである。
【0099】
キメラ受容体の標的となりうる腫瘍細胞表面分子を同定した後、この標的分子のエピトープを選択し、その特性を評価する。腫瘍細胞表面分子と特異的に結合する抗体は、モノクローナル抗体を得る方法、ファージディスプレイ法、ヒト抗体もしくはヒト化抗体を製造する方法、またはヒト抗体を得るために遺伝子改変されたトランスジェニック動物もしくはトランスジェニック植物を用いる方法を用いて製造することができる。部分的に合成した抗体または全合成抗体のファージディスプレイライブラリが入手可能であり、このライブラリから、標的分子に結合することができる抗体またはそのフラグメントをスクリーニングすることができる。ヒト抗体のファージディスプレイライブラリも入手可能である。いくつかの実施形態において、抗体は、腫瘍細胞表面分子に特異的に結合し、ウシ血清アルブミンやその他の無関係な抗原などの非特異的成分とは交差反応しない。前記抗体をコードするアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列を同定した後、これらの配列を単離し、かつ/または配列決定することができる。いくつかの実施形態においては、部分的に合成した抗体または全合成抗体のファージディスプレイライブラリから、標的分子に結合することができる抗体またはそのフラグメントをスクリーニングすることができる。
【0100】
抗体または抗原結合フラグメントとしては抗体の全体またはその一部が挙げられ、該抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、合成抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ミニボディ、および線状抗体が挙げられる。「抗体フラグメント」は、完全な抗体の一部を含み、好ましくは完全な抗体の抗原結合領域または可変領域であり、これらは容易に調製することができる。抗体フラグメントとしては、Fab、Fab’、F(ab’)、およびFvフラグメント;二機能性抗体;線状抗体;単鎖抗体分子;および抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が挙げられる。
【0101】
いくつかの実施形態においては、特定の単一の腫瘍細胞表面分子に結合する様々な抗体を多数単離されることがあり、これらの特性を評価することができる。いくつかの実施形態においては、前記抗体は、標的分子のエピトープに対する特異性に基づいて特徴が表される。また、いくつかの実施形態においては、エピトープに対する抗体の親和性に基づいて、同じエピトープに結合する抗体が選択されうる。いくつかの実施形態において、前記抗体は少なくとも1mMの親和性を有し、50nM未満の親和性を有することが好ましい。いくつかの実施形態においては、別の抗体よりもエピトープに対する親和性が高い抗体が選択される。たとえば、同じエピトープに結合する対照の抗体と比較して、親和性が少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、または少なくとも50倍である抗体が選択される。いくつかの実施形態においては、同じエピトープに結合する対照の抗体と比較して、親和性が少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、もしくは少なくとも50倍である抗体、または親和性がこれらの値のいずれかの間の任意の倍数で表される抗体が選択される。
【0102】
いくつかの実施形態においては、標的分子は、CD19、CD20、CD22、CD23、CE7、hB7H3、EGFR、CD123、CS-1、ROR1、メソテリン(mesothelin)、Her2、c-Met、PSMA、GD-2、および/またはMAGE A3 TCR、ならびにこれらの組み合わせから選択される。いくつかの実施形態において、Her2 CAR構築物が望ましい場合、前記遺伝子タグは、該CAR構築物において使用される抗Her2 scFvには結合しないエピトープを含む。いくつかの実施形態において、EGFR CAR構築物が望ましい場合、前記遺伝子タグは、該CAR構築物において使用される抗EGFR scFvには結合しないエピトープを含む。
【0103】
特定の実施形態において、前記標的抗原はCD19である。CD19に特異的な抗体は当業者に多数知られており、その配列、エピトープに対する結合性および親和性について容易に特性を評価することができる。特定の一実施形態において、前記キメラ受容体構築物は、FMC63抗体由来のscFV配列を含む。別の実施形態において、前記scFVはヒトscFvまたはヒト化scFvであり、これらのscFvは、RASQDISKYLNで表されるCDRL1配列(配列番号27)、SRLHSGVで表されるCDRL2配列(配列番号28)、およびGNTLPYTFGで表されるCDRL3配列(配列番号29)を含む軽鎖可変領域を含む。別の実施形態において、前記scFVはヒトscFvまたはヒト化scFvであり、これらのscFvは、DYGVSで表されるCDRH1配列(配列番号30)、VIWGSETTYYNSALKSで表されるCDRH2配列(配列番号31)、およびYAMDYで表されるCDRH3配列(配列番号32)を含む重鎖可変領域を含む。本開示はまた、FMC63由来のscFvの可変領域と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%のアミノ酸配列同一性、またはこれらのパーセンテージのいずれか2つによって定義される範囲にある配列同一性(%)を有し、かつCD19に対する親和性がFMC63由来のscFvの可変領域と少なくとも同等である可変領域も包含する。
【0104】
いくつかの実施形態において、CDR領域は、Kabatのナンバリングに基づいて抗体領域内に見出され、軽鎖は、24~34番目のアミノ酸からなるCDRL1;50~56番目のアミノ酸からなるCDRL2;および89~97番目のアミノ酸からなるCDRL3を含み、重鎖は、31~35番目のアミノ酸からなるCDRH1;50~65番目のアミノ酸からなるCDRH2;95~102番目のアミノ酸からなるCDRH3を含む。抗体中のCDR領域は容易に決定することができる。
【0105】
特定の実施形態において、前記標的抗原はCD20である。CD20に特異的な抗体は当業者に多数知られており、その配列、エピトープに対する結合性および親和性について容易に特性を評価することができる。特定の一実施形態において、前記キメラ受容体構築物は、表9に示したscFV配列を含む。別の実施形態において、前記scFVはヒトscFvまたはヒト化scFvであり、これらのscFvは、R A S S S V N Y M Dで表されるCDRL1配列(配列番号33)、A T S N L A Sで表されるCDRL2配列(配列番号34)、およびQ Q W S F N P P Tで表されるCDRL3配列(配列番号35)を含む軽鎖可変領域を含む。別の実施形態において、前記scFVはヒトscFvまたはヒト化scFvであり、これらのscFvは、S Y N M Hで表されるCDRH1配列(配列番号36)、A I Y P G N G D T S Y N Q K F K Gで表されるCDRH2配列(配列番号37)、およびS N Y Y G S S Y W F F D Vで表されるCDRH3配列(配列番号38)を含む重鎖可変領域を含む。これらのCDR配列は、前記scFvのアミノ酸配列から容易に決定することができる。本開示はまた、抗CD20 scFvの可変領域と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%のアミノ酸配列同一性、またはこれらのパーセンテージのいずれか2つによって定義される範囲にある配列同一性(%)を有し、かつCD20に対する親和性が抗CD20 scFvの可変領域と少なくとも同等である可変領域も包含する。
【0106】
いくつかの実施形態においては、リガンド結合ドメインをコードするポリヌクレオチドは、スペーサー領域をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態においては、リガンド結合ドメインをコードする前記ポリヌクレオチドは、該コード配列の5’末端および/または3’末端に1つ以上の制限酵素部位をさらに有していてもよく、これによって、リガンド結合ドメインをコードする前記ポリヌクレオチドを切断することが容易となり、該ポリヌクレオチドとは別の抗原をコードするか、あるいは別の結合特性を有するリガンド結合ドメインをコードする別のポリヌクレオチドと置換することが容易となる。たとえば、制限部位NheIを前記リーダー配列の上流にコードし、かつヒンジ領域内の3’末端にRsrIIを配置することよって、キメラ受容体ベクターに所望のscFvをサブクローニングすることが可能となる。いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、哺乳類細胞における発現を目的としてコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、ヒト細胞における発現を目的としてコドン最適化されている。
【0107】
いくつかの実施形態において、リガンド結合ドメインをコードする前記ポリヌクレオチドは、シグナルペプチドに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、該シグナルペプチドは、顆粒球コロニー刺激因子のシグナルペプチドである。CD8αなどの他のシグナルペプチドをコードするポリヌクレオチドを利用することもできる。
【0108】
いくつかの実施形態において、リガンド結合ドメインをコードする前記ポリヌクレオチドは、プロモーターに作動可能に連結されている。哺乳類細胞において前記キメラ抗原受容体の発現を可能とするプロモーターが選択される。特定の一実施形態においては、前記プロモーターは、誘導可能なプロモーターである。
【0109】
リガンド結合ドメインをコードするポリヌクレオチドの特定の態様を表1に示すが、これは、CD19に特異的に結合する抗体(FMC63など)に由来するscFvである。アミノ酸配列GSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号39)を含むフレキシブルリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して、scFv中のVH鎖とVL鎖とが隔てられている。前記リンカーを含む前記scFvのアミノ酸配列を表1(配列番号2)に示す。SJ25C1およびHD37などの他のCD19標的抗体も知られている(SJ25C1: Bejcek et al. Cancer Res 2005, PMID 7538901; HD37: Pezutto et al. JI 1987, PMID 2437199)。
【0110】
リガンド結合ドメインをコードするポリヌクレオチドの特定の態様を表9に示すが、これは、CD20に特異的に結合する抗体由来のscFvである。アミノ酸配列GSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号39)を含むフレキシブルリンカーをコードするポリヌクレオチドを介して、scFv中のVH鎖とVL鎖とが隔てられている。前記scFvのアミノ酸配列を表9(配列番号25)に示す。1F5(Budde et al. 2013, PLOS One)などのその他のCD20標的抗体が知られている。
【0111】
スペーサー
いくつかの実施形態において、前記キメラ受容体の核酸配列は、スペーサー領域をコードするポリヌクレオチドを含む。スペーサー領域は、典型的には、キメラ受容体のリガンド結合ドメインと膜貫通ドメインとの間に位置する。いくつかの実施形態において、スペーサー領域は、前記リガンド結合ドメインに柔軟性を持たせ、かつリンパ球において高レベル発現を可能とする。約229アミノ酸長のスペーサードメインを有するCD19特異的キメラ受容体の抗腫瘍活性は、改変IgG4ヒンジのみからなる短いスペーサー領域を有するCD19特異的キメラ受容体の抗腫瘍活性よりも低い。
【0112】
いくつかの実施形態において、スペーサー領域は、少なくとも10~229アミノ酸長、10~200アミノ酸長、10~175アミノ酸長、10~150アミノ酸長、10~125アミノ酸長、10~100アミノ酸長、10~75アミノ酸長、10~50アミノ酸長、10~40アミノ酸長、10~30アミノ酸長、10~20アミノ酸長、もしくは10~15アミノ酸長であるか、またはこれらのアミノ酸長のいずれか2つによって定義される範囲にある長さを有する。いくつかの実施形態においては、スペーサー領域は、12アミノ酸長以下でありかつ1アミノ酸長よりも長く、119アミノ酸長以下でありかつ1アミノ酸長よりも長く、または229アミノ酸長以下でありかつ1アミノ酸長よりも長い。
【0113】
いくつかの実施形態において、前記スペーサー領域は、免疫グロブリン様分子のヒンジ領域に由来する。いくつかの実施形態において、スペーサー領域は、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、またはヒトIgG4に由来するヒンジ領域の全体またはその一部を含み、1つ以上のアミノ酸置換を含んでいてもよい。前記ヒンジ領域の典型的な配列を表5に示す。いくつかの実施形態においては、前記ヒンジ領域の一部は、重鎖可変領域とコアとの間に存在するアッパーヒンジ領域のアミノ酸配列、およびポリプロリン領域を含むコアヒンジ領域のアミノ酸配列を含む。
【0114】
いくつかの実施形態において、二量体化などの望ましくない構造間の相互作用を回避するため、ヒンジ領域の配列は1つ以上のアミノ酸が改変されていてもよい。特定の一実施形態において、前記スペーサー領域は、表1または表5(配列番号10)に示すような、IgG4に由来する改変されたヒトヒンジ領域の一部を含む。改変されたIgG4ヒンジ領域の一部をコードするポリヌクレオチドの典型的な配列を表1に示す(配列番号1)。いくつかの実施形態において、ヒンジ領域は、表1または表5に示したヒンジ領域のアミノ酸配列と少なくとも約90%、約92%、約95%または約100%の配列同一性を有していてもよい。特定の一実施形態において、IgG4に由来するヒトヒンジ領域の一部は、コアヒンジ領域のアミノ酸配列においてCPSPがCPPCに置換されている。
【0115】
いくつかの実施形態において、前記ヒンジ領域の全体またはその一部は、免疫グロブリンの定常領域の1つ以上と組み合わされる。たとえば、ヒンジ領域の一部は、CH2ドメイン、CH3ドメインまたはそれらのバリアントの全体またはその一部と組み合わせてもよい。いくつかの実施形態において、前記スペーサー領域は、CD8αに由来する47~48アミノ酸長のヒンジ領域配列およびCD28分子の細胞外部分を含むスペーサー領域を含んでいない。
【0116】
いくつかの実施形態において、短いスペーサー領域は、約12アミノ酸長以下でありかつ1アミノ酸長よりも長く、かつIgG4のヒンジ領域配列またはそのバリアントの全体もしくはその一部を含む。中程度の長さのスペーサー領域は、約119アミノ酸長以下でありかつ1アミノ酸長よりも長く、かつIgG4のヒンジ領域配列またはそのバリアントの全体またはその一部と、CH3領域またはそのバリアントの全体またはその一部とを含む。長いスペーサーは、約229アミノ酸長以下でありかつ1アミノ酸長よりも長く、かつIgG4のヒンジ領域配列またはそのバリアントの全体またはその一部と、CH2領域またはそのバリアントの全体またはその一部と、CH3領域またはそのバリアントの全体またはその一部とを含む。
【0117】
スペーサー領域をコードするポリヌクレオチドは、アミノ酸配列に基づいて合成法または組換え法により容易に作製することができる。いくつかの実施形態においては、スペーサー領域をコードするポリヌクレオチドは、膜貫通領域をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、スペーサー領域をコードする前記ポリヌクレオチドは、該コード配列の5’末端および/または3’末端に1つ以上の制限酵素部位をさらに有していてもよく、これによって、該ポリヌクレオチドを切断して、別のスペーサー領域をコードする別のポリヌクレオチドと置換することが容易となる。いくつかの実施形態において、前記スペーサー領域をコードする前記ポリヌクレオチドは、哺乳類細胞における発現を目的としてコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記スペーサー領域をコードする前記ポリヌクレオチドは、ヒト細胞における発現を目的としてコドン最適化されている。
【0118】
一実施形態において、前記スペーサー領域は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4に由来するヒンジ領域配列またはその一部、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4に由来するヒンジ領域配列とCH2領域またはそのバリアントの全体またはその一部との組み合わせ、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4に由来するヒンジ領域配列とCH3領域またはそのバリアントの全体またはその一部との組み合わせ、ならびにIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4に由来するヒンジ領域配列とCH2領域もしくはそのバリアントおよびCH3領域もしくはそのバリアントの全体またはその一部との組み合わせから選択される。いくつかの実施形態において、短いスペーサー領域は、12アミノ酸長以下でありかつ1アミノ酸長を超える長さを有する改変IgG4ヒンジ配列(配列番号10)であり、中程度の長さの配列は、119アミノ酸長以下でありかつ1アミノ酸長を超える長さを有する、CH3配列を備えたIgG4ヒンジ配列であるか、または229アミノ酸長以下でありかつ1アミノ酸長を超える長さを有する、CH2領域およびCH3領域を備えたIgG4ヒンジ配列である。いくつかの実施形態において、短いスペーサー領域は、1アミノ酸長、2アミノ酸長、3アミノ酸長、4アミノ酸長、5アミノ酸長、6アミノ酸長、7アミノ酸長、8アミノ酸長、9アミノ酸長、10アミノ酸長、11アミノ酸長、もしくは12アミノ酸長、またはこれらのアミノ酸長のいずれか2つによって定義される範囲にあるサイズを有する。いくつかの実施形態において、中程度の長さのスペーサー領域は、13アミノ酸長、20アミノ酸長、30アミノ酸長、40アミノ酸長、50アミノ酸長、60アミノ酸長、70アミノ酸長、80アミノ酸長、90アミノ酸長、100アミノ酸長、110アミノ酸長、もしくは119アミノ酸長、またはこれらのアミノ酸長のいずれか2つによって定義される範囲にあるサイズを有する。いくつかの実施形態において、スペーサー領域は、120アミノ酸長、130アミノ酸長、140アミノ酸長、150アミノ酸長、160アミノ酸長、170アミノ酸長、180アミノ酸長、190アミノ酸長、200アミノ酸長、210アミノ酸長、もしくは219アミノ酸長、またはこれらのアミノ酸長のいずれか2つによって定義される範囲にあるサイズを有する。
【0119】
膜貫通ドメイン
いくつかの実施形態において、前記キメラ受容体の核酸配列は、膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチドを含む。該膜貫通ドメインは、前記キメラ受容体を膜につなぎ止める役割を果たす。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体の前記膜貫通ドメインは、前記遺伝子タグの膜貫通ドメインとは異なる。
【0120】
一実施形態において、他からの作用を必要とせずに、前記キメラ受容体中のドメインのうちの1つと関連し合う膜貫通ドメインが用いられる。場合によっては、前記キメラ受容体中のこのようなドメインが、同じまたは異なる表面膜タンパク質に由来する様々な膜貫通ドメインに結合することを回避できるようなアミノ酸置換に基づいて前記膜貫通ドメインを選択してもよく、あるいはこのようなアミノ酸置換によって前記膜貫通ドメインを改変してもよく、これによって、前記受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限にすることができる。
【0121】
該膜貫通ドメインは、天然由来であってもよく、合成由来であってもよい。天然由来である場合、前記膜貫通ドメインは、膜結合型タンパク質であっても膜貫通型タンパク質であってもよく、これらのタンパク質はどのようなものであってもよい。膜貫通領域は、T細胞受容体のα鎖、β鎖もしくはζ鎖、CD28、CD3、CD45、CD4、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137および/またはCD154の膜貫通領域を少なくとも含む。特定の一実施形態において、前記膜貫通ドメインは、表2に示すCD28膜貫通ドメインのアミノ酸配列を含む。CD28膜貫通ドメインをコードする典型的なポリヌクレオチド配列を表1(の配列番号2)に示す。
【0122】
膜貫通ドメインは、合成されたものであってもよく、天然の膜貫通ドメインのバリアントであってもよい。いくつかの実施形態において、合成膜貫通ドメインまたは膜貫通ドメインのバリアントは、主に疎水性残基、たとえば、ロイシンおよびバリンを含む。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインは、表2または表6に示す膜貫通ドメインと、少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは100%のアミノ酸配列同一性、またはこれらのパーセンテージのいずれか2つにより定義される範囲にあるパーセンテージの配列同一性を有してもいてもよい。膜貫通ドメインのバリアントは、Kyte Doolittle法により算出された疎水性スコアが少なくとも50であることが好ましい。
【0123】
膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチドは、合成法または組換え法により容易に作製することができる。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチドは、細胞内シグナル伝達領域をコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインをコードする前記ポリヌクレオチドは、該コード配列の5’末端および/または3’末端に1つ以上の制限酵素部位をさらに有していてもよく、これによって、膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチドを切断して、別の膜貫通ドメインをコードする別のポリヌクレオチドと置換することが容易となる。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインをコードする前記ポリヌクレオチドは、哺乳動物細胞における発現、好ましくはヒト細胞における発現を目的としてコドン最適化されている。
【0124】
細胞内シグナル伝達ドメイン
いくつかの実施形態において、前記キメラ受容体の核酸配列は、細胞内シグナル伝達ドメインをコードするポリヌクレオチドを含む。該細胞内シグナル伝達ドメインが存在することによって、前記キメラ受容体を発現する形質導入細胞が腫瘍細胞上に発現されたリガンドに結合すると、該形質導入細胞の1つの機能が活性化される。いくつかの実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインを含む。いくつかの実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、前記形質導入細胞の少なくとも1つの機能を活性化する細胞内シグナル伝達ドメインの一部および/またはそのバリアントである。
【0125】
本開示のキメラ受容体に用いられる細胞内シグナル伝達ドメインとしては、CD3ζ鎖の細胞内配列、および/またはキメラ受容体が結合するとこれと協同してシグナル伝達を開始する補助受容体の細胞内配列、これらの配列の任意の誘導体またはバリアント、ならびに同じ機能を有する任意の合成配列が挙げられる。T細胞の活性化は、2種類の細胞内シグナル伝達配列によって媒介されると考えられており、これらの2種類の細胞内シグナル伝達配列は、抗原依存性一次活性化を開始し、かつT細胞受容体様シグナルを提供する細胞内シグナル伝達配列(一次細胞内シグナル伝達配列)と、抗原非依存性に、二次シグナルまたは共刺激シグナルを提供する細胞内シグナル伝達配列(二次細胞内シグナル伝達配列)とである。刺激性に作用する一次細胞内シグナル伝達配列は、受容体チロシン活性化モチーフすなわちITAMとして知られるシグナル伝達モチーフを含んでいてもよい。一次細胞内シグナル伝達配列を含有するITAMとしては、CD3ζ、FcRγ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、および/またはCD66dに由来するものが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記一次シグナル伝達細胞内ドメインは、表4に示す配列を有するCD3ζと少なくとも80%、85%、90%もしくは95%の配列同一性、またはこれらのパーセンテージのいずれか2つによって定義される範囲にある配列同一性(%)を有していてもよい。いくつかの実施形態において、CD3ζのバリアントは、表4に示すITAM領域を少なくとも1つ、2つもしくは3つ、またはこれらのITAM領域をすべて有する。
【0126】
好ましい実施形態において、前記キメラ受容体の前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを単独で、あるいは他の任意の所望される単一または複数の細胞内ドメインと組み合わせて含むように設計することができる。たとえば、前記キメラ受容体の前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ鎖および共刺激シグナル伝達領域を含んでいてもよい。
【0127】
前記共刺激シグナル伝達領域は、共刺激分子の前記細胞内ドメインを含む、キメラ受容体の一部分を指す。共刺激分子は、抗原に対するリンパ球の応答に必要とされる抗原受容体やそのリガンド以外の細胞表面分子である。そのような分子としては、CD27、CD28、4-1BB(CD 137)、OX40、CD30、CD40、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、ζ鎖関連プロテインキナーゼ(ZAP70)、および/またはCD83と特異的に結合するリガンドが挙げられる。いくつかの実施形態においては、前記共刺激シグナル伝達ドメインは、表2に示すCD28の細胞内ドメインまたは表3に示す配列を有する4-1BBと少なくとも80%、85%、90%もしくは95%のアミノ酸配列同一性、またはこれらのパーセンテージのいずれか2つによって定義される範囲にある任意の配列同一性(%)を有していてもよい。一実施形態においては、前記CD28細胞内ドメインのバリアントは、186~187番目のアミノ酸がLLからGGに置換されている。
【0128】
キメラ受容体に複数存在する細胞内シグナル伝達配列は、ランダムな順序または指定された順序で互いに連結されていてもよい。これらの細胞内シグナル伝達配列は、短いオリゴペプチドリンカーまたは短いポリペプチドリンカーによって連結されていてもよく、これらのリンカーは2~10アミノ酸長であることが好ましい。いくつかの実施形態において、短いオリゴペプチドリンカーまたは短いポリペプチドリンカーは、2アミノ酸長、3アミノ酸長、4アミノ酸長、5アミノ酸長、6アミノ酸長、7アミノ酸長、8アミノ酸長、9アミノ酸長、もしくは10アミノ酸長、またはこれらのサイズのいずれか2つによって定義される範囲にあるサイズを有する。一実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζのシグナル伝達ドメインまたはそのバリアントの全体または一部と、CD28のシグナル伝達ドメインまたはそのバリアントの全体またはその一部とを含む。別の実施形態においては、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζのシグナル伝達ドメインまたはそのバリアントの全体またはその一部と、4-1BBのシグナル伝達ドメインまたはそのバリアントの全体またはその一部とを含む。さらに別の実施形態においては、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζのシグナル伝達ドメインまたはそのバリアントの全体またはその一部と、CD28のシグナル伝達ドメインまたはそのバリアントの全体または一部と、4-1BBのシグナル伝達ドメインまたはそのバリアントの全体またはその一部とを含む。特定の一実施形態における、CD3ζのバリアントと4-1BBの細胞内シグナル伝達ドメインの一部とを含む前記細胞内シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列を表1に示す。典型的な核酸配列を表1(の配列番号2)に示す。
【0129】
一実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインをコードするポリヌクレオチドは、CD3ζドメインの一部に連結された4-1BBの細胞内ドメインを含む。別の実施形態においては、4-1BB細胞内ドメインおよびCD28細胞内ドメインは、CD3ζドメインの一部に連結されている。
【0130】
細胞内シグナル伝達ドメインをコードするポリヌクレオチドは、アミノ酸配列に基づいて合成法または組換え法により容易に作製することができる。いくつかの実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインをコードする前記ポリヌクレオチドは、該コード配列の5’末端および/または3’末端に1つ以上の制限酵素部位をさらに有していてもよく、これによって、細胞内シグナル伝達ドメインをコードするポリヌクレオチドを切断して、別の細胞内シグナル伝達ドメインをコードする別のポリヌクレオチドと置換することが容易となる。いくつかの実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインをコードする前記ポリヌクレオチドは、哺乳類細胞における発現を目的としてコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインをコードする前記ポリヌクレオチドは、ヒト細胞における発現を目的としてコドン最適化されている。
【0131】
リンカードメイン
いくつかの実施形態においては、CAR構築物中のドメイン間に柔軟性を持たせることを目的として、リンカードメインが使用される。以下に示すように、Her2tG構築物は、Her2tのドメインIVと膜貫通ドメインとの間にリンカー(配列番号45)を有する。このリンカーは、タンパク質ドメイン間に柔軟性を持たせることを目的として使用される。別の例では、CARのscFvの多くは、CARのscFvのVhドメインとVlドメインとの間に4つの連続的G3Sサブユニットを含む。これにより、2つのscFvドメインに柔軟性を付与することができ、scFvを折りたたむことが可能となる。典型的な一実施形態において、2つのG3Sリンカーサブユニットを使用するという原理を利用することによって、Her2tGの柔軟性を増加することができると考えられる。
【0132】
2つのG3Sリンカーサブユニットを連結して1つにしたリンカー(配列番号45)を使用することによっても、CD28のヒンジ領域およびIgG4のヒンジ領域のスペーサーの長さを模倣することができた。CD28のヒンジ領域およびIgG4のヒンジ領域は、機能性CARのscFvと膜貫通領域との間のスペーサーとして使用されたことが報告されている。CD28のヒンジ領域およびIgG4のヒンジ領域は、二量体化を容易にするシステインを含む。この二量体化はCARには有利であるが、Her2tの柔軟性を抑制するため、ハーセプチンによって有効に認識されない可能性がある。3つまたは4つのG3Sリンカーよりも2つのG3Sリンカー(配列番号45)を使用することの利点は、ベクターのペイロードを抑制できること、不要だと考えられる配列を排除し、かつ機能性を向上させることであった。
【0133】
いくつかの実施形態においては、単離されたポリペプチドであって、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、
完全長成熟HERではないこと、および
前記配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインが、GGGSGGGS(配列番号45)で示されるアミノ酸を含む配列を介して前記膜貫通ドメインに連結されていること
を特徴とする単離されたポリペプチドが提供される。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記リーダーペプチドは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
【0134】
宿主細胞および組成物:Tリンパ球集団
本明細書に記載の組成物は、本明細書に記載のベクターおよび/または構築物を含む遺伝子改変宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態では、前記宿主細胞はCD4Tリンパ球および/またはCD8Tリンパ球である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。
【0135】
Tリンパ球は、公知の技術によって回収することができ、フローサイトメトリーおよび/または免疫磁気選択のような、抗体との親和性結合などの公知の技術によって濃縮または除去することができる。濃縮工程および/または除去工程を行った後、当業者であれば容易に理解できる公知の技術またはその変法によって所望のTリンパ球をインビトロで増殖させることができる。いくつかの実施形態では、前記T細胞は患者から得られた自己由来T細胞である。
【0136】
たとえば、所望のT細胞集団またはT細胞亜集団の増殖は、増殖前のTリンパ球集団をインビトロにおいて培地に添加すること、非分裂末梢血単核細胞(PBMC)などのフィーダー細胞を該培地に添加すること(たとえば、添加後の細胞集団が、増殖培養される最初の集団中の各Tリンパ球1個あたり、少なくとも5個、10個、20個、もしくは40個もしくはそれ以上、またはこれらの量のいずれか2つによって定義される範囲にある量のPBMCフィーダー細胞を含むような比率で加える)、および該培地を(たとえばT細胞数の増加に十分な時間にわたって)インキュベートすることによって行うことができる。前記非分裂フィーダー細胞は、γ線が照射されたPBMCフィーダー細胞を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、細胞分裂を防ぐため、3000~3600radのγ線を前記PBMCに照射する。いくつかの実施形態においては、前記PBMCの細胞分裂を防ぐため、3000rad、3100rad、3200rad、3300rad、3400rad、3500rad、もしくは3600radのγ線、またはこれらの値のいずれか2つで示されるエンドポイントの間にある任意の放射線値のγ線を前記PBMCに照射する。培地にT細胞またはフィーダー細胞を添加する順序は必要に応じて入れ替えてもよい。典型的には、Tリンパ球の増殖に適した温度などの条件下で培養物をインキュベートすることができる。ヒトTリンパ球を増殖させるための温度としては、たとえば、通常、少なくとも25℃、好ましくは少なくとも30℃、より好ましくは約37℃である。いくつかの実施形態において、ヒトTリンパ球を増殖させるための温度は、22℃、24℃、26℃、28℃、30℃、32℃、34℃、36℃、もしくは37℃、またはこれらの値のいずれか2つで示されるエンドポイントの間にある他の任意の温度である。
【0137】
増殖させたTリンパ球としては、ヒト腫瘍または病原体上に存在する抗原に特異的であってもよいCD8細胞傷害性Tリンパ球(CTL)およびCD4ヘルパーTリンパ球が挙げられる。
【0138】
前記増殖方法は、EBVで形質転換された非分裂リンパ芽球様細胞(LCL)をフィーダー細胞として加える工程をさらに含んでもよい。6000~10,000radのγ線をLCLに照射してもよい。いくつかの実施形態においては、6000rad、6500rad、7000rad、7500rad、8000rad、8500rad、9000rad、9500rad、もしくは10,000radのγ線、またはこれらの値のいずれか2つで示されるエンドポイントの間にある任意の放射線量のγ線を前記LCLに照射する。前記LCLフィーダー細胞は任意の適切な量で提供することができ、たとえば、LCLフィーダー細胞と増殖開始時のTリンパ球との比は少なくとも約10:1であってもよい。
【0139】
前記増殖方法は、(たとえば、少なくとも約0.5ng/mlの濃度で)抗CD3抗体および/または抗CD28抗体を培地に加える工程をさらに含んでもよい。前記増殖方法は、IL-2および/またはIL-15を培地に加える工程をさらに含んでもよい(IL-2の濃度は、たとえば、少なくとも約10単位/mlである)。
【0140】
Tリンパ球を単離し、増殖を行う前または増殖を行った後に、細胞傷害性Tリンパ球およびヘルパーTリンパ球をそれぞれ、ナイーブT細胞亜集団、メモリーT細胞亜集団、およびエフェクターT細胞亜集団にソートすることができる。
【0141】
CD8細胞は、標準的な方法を用いることによって得ることができる。いくつかの実施形態において、CD8細胞は、ナイーブCD8細胞、セントラルメモリーCD8細胞、およびエフェクターメモリーCD8細胞それぞれと関連する細胞表面抗原を同定することによって、ナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞、およびエフェクターメモリー細胞にさらにソートされる。いくつかの実施形態において、メモリーT細胞は、CD8末梢血リンパ球由来のCD62LサブセットおよびCD62Lサブセットの両方に存在する。PBMCは、抗CD8抗体および抗CD62L抗体で染色した後に、CD62LCD8画分およびCD62LCD8画分にソートされる。いくつかの実施形態において、セントラルメモリーTCMの表現型マーカーの発現は、CD45RO、CD62L、CCR7、CD28、CD3、およびCD127を含み、グランザイムBは陰性であるか、低発現を示す。いくつかの実施形態において、セントラルメモリーT細胞は、CD45RO、CD62L、CD8のT細胞である。いくつかの実施形態において、エフェクターTは、CD62L、CCR7、CD28、およびCD127が陰性であり、グランザイムBおよびパーフォリンは陽性である。いくつかの実施形態において、ナイーブCD8Tリンパ球は、ナイーブT細胞の表現型マーカーの発現によって特徴付けられ、ナイーブT細胞の表現型マーカーとしては、CD62L、CCR7、CD28、CD3、CD127、およびCD45RAが挙げられる。
【0142】
CD4ヘルパーT細胞は、細胞表面抗原を有する細胞集団を同定することによって、ナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞、およびエフェクター細胞にソートされる。CD4リンパ球は、標準的な方法によって得ることができる。いくつかの実施形態において、ナイーブCD4Tリンパ球は、CD45RO、CD45RA、CD62L、CD4のT細胞である。いくつかの実施形態において、セントラルメモリーCD4細胞は、CD62LおよびCD45ROである。いくつかの実施形態において、エフェクターCD4細胞は、CD62LおよびCD45ROである。
【0143】
細胞または細胞集団が特定の細胞表面マーカーについて陽性であるかどうかは、該表面マーカーに特異的な抗体およびアイソタイプを一致させたコントロール抗体による染色を使用したフローサイトメトリーによって判定することができる。細胞集団において特定のマーカーが陰性であることは、アイソタイプコントロールと比べて特異的抗体で強く染まる細胞集団が見られないことを指し、陽性は、アイソタイプコントロールと比べて特異的抗体で均一染まる細胞集団が見られることを指す。いくつかの実施形態において、1つ以上のマーカーの発現の減少は、対照の細胞集団と比較して、平均蛍光強度の低下が1 log10であること、および/またはマーカーを発現する細胞のパーセンテージが細胞全体の少なくとも20%に低下すること、細胞全体の少なくとも25%に低下すること、細胞全体の少なくとも30%に低下すること、細胞全体の少なくとも35%に低下すること、細胞全体の少なくとも40%に低下すること、細胞全体の少なくとも45%に低下すること、細胞全体の少なくとも50%に低下すること、細胞全体の少なくとも55%に低下すること、細胞全体の少なくとも60%に低下すること、細胞全体の少なくとも65%に低下すること、細胞全体の少なくとも70%に低下すること、細胞全体の少なくとも75%に低下すること、細胞全体の少なくとも80%に低下すること、細胞全体の少なくとも85%に低下すること、細胞全体の少なくとも90%に低下すること、細胞全体の少なくとも95%に低下すること、もしくは細胞全体の少なくとも100%に低下すること、もしくは20~100%の範囲の任意のパーセンテージに低下すること、もしくは、マーカーを発現する細胞のパーセンテージが、対照の細胞集団と比較して、前記値のいずれかで示されるパーセンテージの間にある任意のパーセンテージに低下することを指す。いくつかの実施形態において、細胞集団が1つ以上のマーカーについて陽性であることは、対照の細胞集団と比較して、マーカーを発現する細胞のパーセンテージが細胞全体の少なくとも50%であること、細胞全体の少なくとも55%であること、細胞全体の少なくとも60%であること、細胞全体の少なくとも65%であること、細胞全体の少なくとも70%であること、細胞全体の少なくとも75%であること、細胞全体の少なくとも80%であること、細胞全体の少なくとも85%であること、細胞全体の少なくとも90%であること、細胞全体の少なくとも95%であること、もしくは細胞全体の少なくとも100%であること、またはこれらのパーセンテージのいずれか2つによって定義される範囲にある任意のパーセンテージであることを指す。
【0144】
いくつかの実施形態において、抗原特異的なCD4集団およびCD8集団は、ナイーブTリンパ球または抗原特異的Tリンパ球を抗原で刺激することによって得ることができる。たとえば、サイトメガロウイルス抗原に対して特異的なT細胞株またはT細胞クローンは、サイトメガロウイルス抗原に感染した対象からT細胞を単離し、インビトロにおいてサイトメガロウイルス抗原で該細胞を刺激することによって作製することができる。ナイーブT細胞を使用することもできる。T細胞応答を誘導するための標的として使用する、腫瘍細胞に由来する抗原の数は特に限定されない。いくつかの実施形態において、本発明の養子細胞免疫療法組成物は、固形腫瘍、血液悪性腫瘍、乳がん、または黒色腫を含む疾患または障害の治療に有用である。
【0145】
Tリンパ球集団の改変
いくつかの実施形態においては、本発明の開示による免疫療法に使用する前記T細胞に機能性遺伝子を導入することが望ましい場合がある。たとえば、単一の遺伝子または複数の遺伝子をT細胞に導入することによって、体内に移入された該T細胞の生存能および/または機能を向上することができ、それによって治療法の有効性を改善することができる。あるいは、上記単一または複数の遺伝子を導入することによって、遺伝子マーカーを提供することができ、この遺伝子マーカーを利用することによって、インビボにおける生存T細胞および/または移行T細胞の選択および/または評価が可能となる。あるいは、上記単一または複数の遺伝子をT細胞に導入することによって、たとえば、該導入遺伝子の発現制御により該T細胞を調節することができ、それによって免疫療法の安全性を改善することができる。これらは、本発明の開示を踏まえ、当業者であれば容易に理解できる公知の技術に従って行うことができる。
【0146】
いくつかの実施形態においては、T細胞は、本明細書に記載の遺伝子タグをコードするベクターで改変される。いくつかの実施形態においては、細胞は、遺伝子タグに作動可能に連結されたキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで改変される。別の実施形態においては、細胞は、遺伝子タグのみをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで改変される。いくつかの実施形態において、前記T細胞は、処置を受ける対象から得られ、別の実施形態においては、前記リンパ球は同種異系のヒトドナー、好ましくは健常ヒトドナーから得られる。
【0147】
キメラ受容体は、たとえば抗体分子などに由来する抗原結合フラグメントまたは抗体可変ドメインを利用することによって、任意の細胞表面マーカーに対する特異性を備えるように構築することができる。前記抗原結合分子は、1つ以上の細胞シグナル伝達モジュールに連結することができる。いくつかの実施形態において、前記細胞シグナル伝達モジュールとしては、CD3膜貫通ドメイン、CD3細胞内シグナル伝達ドメイン、およびCD28膜貫通ドメインが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ細胞内ドメインに連結されたCD28膜貫通シグナル伝達ドメインを含む。
【0148】
いくつかの実施形態において、CD4Tリンパ球集団およびCD8Tリンパ球集団のそれぞれに導入されるキメラ受容体は同じでも異なっていてもよい。いくつかの実施形態においては、これらの細胞集団のそれぞれに導入されるキメラ受容体のリガンド結合ドメインは、腫瘍細胞上または感染細胞上の同じリガンドに特異的に結合するか、または異なる抗原もしくは異なるエピトープに特異的に結合する。前記細胞シグナル伝達モジュールもそれぞれ異なっていてもよい。いくつかの実施形態においては、前記CD8細胞傷害性T細胞の前記細胞内シグナル伝達ドメインは、前記CD4ヘルパーT細胞の前記細胞内シグナル伝達ドメインと同一のものである。別の実施形態では、前記CD8細胞傷害性T細胞の前記細胞内シグナル伝達ドメインは、前記CD4ヘルパーT細胞の前記細胞内シグナル伝達ドメインと異なるものである。各キメラ受容体は、それぞれ別の遺伝子タグに作動可能に連結され、これによって、両方のキメラ抗原受容体を発現する形質導入細胞の選択および同定が可能となる。
【0149】
本発明の実施形態は、本明細書に記載の宿主細胞を含む組成物の製造方法を包含する。
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、
単離された核酸を宿主細胞に導入すること、および
少なくとも1つの増殖因子を含む培地中で前記宿主細胞を培養することを含み、
前記単離された核酸は、たとえば、単離されたポリペプチドをコードする核酸であり、
該単離されたポリペプチドは、配列番号23において膜貫通ドメインに連結した511~652番目または563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%の配列同一性を有し、Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合することを特徴とする。
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、前記培養工程の前もしくは後またはその前後に、Her2tを発現している宿主細胞を選択することをさらに含む。別の実施形態においては、本発明の製造方法は、第2のキメラ抗原受容体および第2の遺伝子タグをコードする第2の核酸を前記宿主細胞に導入することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記培養工程の前もしくは後またはその前後に、前記第2の遺伝子タグを発現している宿主細胞を選択することをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。
【0150】
別の実施形態では、本発明の方法は、
単離された第1の核酸を第1の宿主細胞に導入すること、
Her2tを発現している第1の宿主細胞を選択すること、
第2のキメラ抗原受容体および第2の遺伝子タグをコードする第2の核酸を第2の宿主細胞に導入すること、
前記第2の遺伝子タグを発現している第2の宿主細胞を選択すること、ならびに
任意に、少なくとも1つの増殖因子を含む培地中で前記第1の宿主細胞および第2の宿主細胞を培養することを含み、
前記核酸が、たとえば、配列番号23において膜貫通ドメインに連結した511~652番目または563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%の配列同一性を有する単離されたポリペプチドをコードする核酸であること、ならびに
該単離されたポリペプチドが、Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合することを特徴とする方法が提供される。
別の実施形態では、組成物は第1の宿主細胞集団および第2の宿主細胞集団を含む。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。
【0151】
いくつかの実施形態において、CD4 Tリンパ球またはCD8 Tリンパ球はそれぞれ、本明細書に記載の形質導入の前に、ナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞、エフェクターメモリー細胞またはエフェクター細胞にソートすることができる。いくつかの実施形態において、CD4 Tリンパ球またはCD8 Tリンパ球はそれぞれ、形質導入を行った後に、ナイーブ細胞、セントラルメモリー細胞、エフェクターメモリー細胞またはエフェクター細胞にソートすることができる。
【0152】
本明細書に記載のように、いくつかの実施形態において、ナイーブCD4
細胞は、CD45RO、CD45RA、CD62L、および/またはCD4T細胞である。いくつかの実施形態において、セントラルメモリーCD4細胞は、CD62Lおよび/またはCD45ROである。いくつかの実施形態において、エフェクターCD4細胞は、CD62Lおよび/またはCD45ROである。これらの集団はそれぞれ別個にキメラ受容体で改変することができる。
【0153】
本明細書に記載されているように、いくつかの実施形態において、メモリーT細胞は、CD8末梢血リンパ球由来のCD62Lサブセットおよび/またはCD62Lサブセットの両方に存在する。PBMCは、抗CD8抗体および抗CD62L抗体で染色した後に、CD62LCD8画分および/またはCD62LCD8画分にソートされる。いくつかの実施形態において、セントラルメモリーT細胞(TCM)の表現型マーカーの発現は、CD62L、CCR7、CD28、CD3、および/またはCD127を含み、グランザイムBは陰性であるか、低発現を示す。いくつかの実施形態において、セントラルメモリーT細胞は、CD45RO、CD62L、および/またはCD8のT細胞である。いくつかの実施形態において、エフェクターT細胞(T)は、CD62L、CCR7、CD28、および/またはCD127が陰性であり、グランザイムBおよび/またはパーフォリンは陽性である。いくつかの実施形態において、ナイーブCD8Tリンパ球は、CD8、CD62L、CD45RO、CCR7、CD28、CD127、および/またはCD45ROによって特徴付けられる。これらの集団はそれぞれ別個にキメラ受容体で改変することができる。
【0154】
遺伝子送達のための組換え感染性ウイルス粒子を利用した様々な形質導入技術が開発されてきた。このような形質導入技術は、本発明のTリンパ球を形質導入するためのアプローチとして現時点では好ましい。この形質導入技術に通常使用されるウイルスベクターとしては、シミアンウイルス40、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルスベクター、およびレトロウイルスに由来するウイルスベクターが挙げられる。このように、遺伝子導入方法および発現方法としては様々なものが存在するが、このような方法は、哺乳類細胞に遺伝物質を導入して発現させることを本質的な機能とする。前記形質導入技術のいくつかは、造血細胞またはリンパ球に形質導入することを目的として使用され、このような形質導入技術としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポーレーション、組換えアデノウイルスによる感染、アデノ随伴ウイルスによる感染、およびレトロウイルスベクターによる感染が挙げられる。初代Tリンパ球の形質導入は、エレクトロポーレーションおよびレトロウイルスまたはレンチウイルスの感染によって成功を収めている。
【0155】
レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターを使用することによって、真核細胞への遺伝子導入を非常に効率的に行うことができる。さらに、レトロウイルスまたはレンチウイルスの組み込みは制御下で行うことができ、細胞1個あたり1コピーまたは数コピーの新しい遺伝情報を安定して組み込むことができる。いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターを使用して、真核細胞に遺伝子を導入する。いくつかの実施形態では、前記細胞はヒト細胞である。
【0156】
刺激因子(たとえばリンホカインまたはサイトカイン)の過剰発現は、治療を受ける個体に対して毒性がある場合がある。したがって、本発明は、インビボにおけるネガティブ選択に対する感受性を本発明のT細胞に付与する遺伝子セグメントをさらに包含する。「ネガティブ選択」は、個体のインビボ状態を変化させることによって該個体に注入した細胞を排除できることを意味する。ネガティブ選択が可能な表現型は、投与される薬剤(たとえば化合物)に対する感受性を付与する遺伝子を挿入することによって発現される。いくつかの実施形態においては、さらに、遺伝子タグ配列Her2tは、インビボにおけるネガティブ選択を可能とする。たとえば、遺伝子タグHer2tを有するCAR発現細胞を取り除きたい場合、Her2のドメインIVに結合する抗体(たとえばトラスツズマブ)またはHer2のドメインIVに結合する抗体と結合に対して競合する抗体を対象に投与する。形質導入細胞が取り除かれる好ましい実施形態においては、Fc領域を含む前記抗体を使用して抗体依存性細胞傷害反応を活性化し、形質導入細胞を殺傷する。別の実施形態においては、前記抗体またはそのフラグメントは細胞傷害薬に連結されている。抗体-細胞傷害薬複合体は、CARおよびHer2tを発現する細胞に結合し、これらの細胞を殺傷する。この方法によれば、毒性または有害な副作用に関連する投与細胞を除去することができる。
【0157】
その他のネガティブ選択可能な遺伝子も当技術分野において知られており、たとえば、ガンシクロビルに対する感受性を付与する単純ヘルペスウイルスI型チミジンキナーゼ(HSV-I TK)遺伝子、細胞由来ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子、細胞由来アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)遺伝子、および細菌シトシンデアミナーゼなどが挙げられる。
【0158】
Tリンパ球に形質を導入するため、当技術分野において公知の様々な方法を使用することができる。いくつかの実施形態においては、レンチウイルスベクターを用いて形質導入を行う。
【0159】
いくつかの実施形態において
は、キメラ受容体をコードする発現ベクターを使用して、CD4細胞およびCD8細胞をそれぞれ別々に改変し、所定の集団を形成することができる。いくつかの実施形態においては、細胞は、CARおよび第1の遺伝子タグをコードするポリヌクレオチドを含むベクター、ならびに/またはCARおよび第2の別の遺伝子タグをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを使用して、別々に改変することができる。いくつかの実施形態において、前記CAR構築物は、同じものであっても異なるものであってもよい。たとえば、CD8 T細胞は、第1の遺伝子タグを有するCAR構築物で形質導入され、CD4 T細胞は、第2の遺伝子タグを有する同じCARで形質導入される。
【0160】
いくつかの実施形態においては、これらの細胞は、次いで、前述したナイーブ細胞の亜集団、セントラルメモリー細胞の亜集団、およびエフェクター細胞の亜集団のそれぞれに固有の細胞表面抗原でソートすることによって、これらの亜集団にソートされる。また、CD4細胞集団およびCD8細胞集団は、それらのサイトカインプロファイルまたは増殖活動によって選択することができる。たとえば、抗原で刺激した後の、IL-2、IL-4、IL-10、TNFα、および/またはIFNγなどのサイトカインの産生が、偽形質導入細胞や形質導入CD8細胞よりも増強されたCD4Tリンパ球を選択することができる。別の実施形態において、IL-2および/またはTNFαの産生が増強されたナイーブCD4T細胞またはセントラルメモリーCD4T細胞が選択される。同様に、偽形質導入CD8細胞よりもIFNγの産生が増強されたCD8細胞が選択される。いくつかの実施形態においては、CD4細胞集団およびCD8細胞集団は、それらのサイトカインプロファイルまたは増殖活動によって選択される。いくつかの実施形態においては、抗原で刺激した後の、IL-2、IL-4、IL-10、TNFα、および/またはIFNγなどのサイトカインの産生が、偽形質導入細胞や形質導入CD8細胞よりも増強されたCD4Tリンパ球が選択される。
【0161】
いくつかの実施形態においては、抗原を有する細胞に対して細胞傷害性を示すCD4細胞およびCD8細胞が選択される。いくつかの実施形態においては、CD4細胞は、CD8細胞よりも低い細胞傷害性を示すと予想される。好ましい一実施形態においては、特定の種類のがんについて確立されたインビボ動物モデルにおいて、このがんの腫瘍細胞を殺傷する能力を発揮する形質導入リンパ球(たとえばCD8セントラルメモリー細胞)が選択される。
【0162】
さらに
別の実施形態において、形質導入細胞は、遺伝子タグの発現によって選択される。いくつかの実施形態において、形質導入を行った後、たとえば、前記遺伝子タグに結合する抗体を使用して、Her2tまたはEGFRtを発現する細胞を選択する。いくつかの実施形態においては、前記抗体を使用することによって、遺伝子タグ陽性の細胞を少なくとも80~100%含む細胞集団が選択される。
【0163】
選択された細胞は、ウェスタンブロットまたはフローサイトメトリーなどの技術を使って、導入遺伝子
の発現の評価をすることができる。いくつかの実施形態において、遺伝子タグの発現により選択された細胞は、たとえば、刺激ドメイン(たとえば、CD3ζ)の量、プロテインLの量、およびT2Aの量を分析することなどによって、CARの発現がさらに評価される。いくつかの実施形態においては、CARの発現と遺伝子タグの発現の比率が約1:0.1~10:0.1である細胞が選択される。いくつかの実施形態においては、CARの発現と遺伝子タグの発現の比率が、1:0.1、2:0.1、3:0.1、4:0.1、5:0.1、6:0.1、7:0.1、8:0.1、9:0.1、もしくは10:0.1である細胞、またはCARの発現と遺伝子タグの発現の比率が、これらの比率のいずれかの間にある細胞が選択される。いくつかの実施形態においては、CARの発現が低い場合、EGFRtよりも導入遺伝子の発現レベルが良好なHer2t遺伝子タグを使用することができる。いくつかの実施形態において、Her2t遺伝子タグは、EGFRt遺伝子タグの少なくとも1.5倍、2倍、5倍、もしくは10倍の導入遺伝子発現の増加をもたらし、またはこれらの値のいずれか2つの間の倍率の導入遺伝子発現の増加をもたらす。
【0164】
さらに別の実施形態においては、特定の種類のがんについて確立されたインビボ動物モデルにおいて持続可能な、形質導入キメラ受容体発現T細胞が選択される。いくつかの実施形態においては、形質導入キメラ受容体CD8セントラルメモリー細胞は、インビボ動物モデルに導入後、約3日間以上、10日間以上、20日間以上、30日間以上、40日間以上、もしくは50日間以上にわたって、またはこれらの値のいずれか2つの間にある任意の他の期間にわたってインビボで持続したことが示された。インビボにおける持続性は、Her2tやEGFRtなどの遺伝子タグに結合する検出可能な標識抗体を使用したイメージングによって測定することができる。
【0165】
本開示は、本発明の組成物においてCD4T細胞とCD8T細胞の組み合わせを使用することを包含する。一実施形態において、キメラ受容体により形質導入されたCD4細胞の組み合わせは、同じリガンドに特異的である形質導入キメラ受容体発現CD8細胞と組み合わせてもよく、あるいは異なる腫瘍リガンドおよび異なる遺伝子タグに特異的であるCD8T細胞と組み合わせてもよい。別の実施形態においては、形質導入キメラ受容体発現CD8細胞は、腫瘍上に発現された別のリガンドに特異的な形質導入キメラ受容体発現CD4細胞と組み合わせる。さらに別の実施形態においては、キメラ受容体で改変されたCD4細胞とCD8細胞とを組み合わせる。いくつかの実施形態においては、CD8細胞とCD4細胞は、様々な比率で組み合わせることができ、たとえば、CD8とCD4とを1:1の比率で組み合わせることができ、CD8とCD4とを10:1の比率で組み合わせることができ、CD8とCD4とを100:1の比率で組み合わせることができ、またはこれらの比率のいずれか2つの間にある任意の他の比率でCD8とCD4とを組み合わせることができる。いくつかの実施形態においては、組み合わされた細胞集団は、インビトロおよび/またはインビボにおいて細胞増殖を試験し、細胞の増殖が見られる細胞比率を選択する。
【0166】
形質導入を行う前もしくは形質導入を行った後、および/またはキメラ受容体を有する細胞を選択する前もしくは選択した後に、得られた各細胞集団は、ヒト対象中への少なくとも1回の注入に十分な数に達するまでインビトロにおいて増殖させることが好ましく、少なくとも1回の注入に十分な細胞数としては、典型的には、約10細胞/kg~10細胞/kgが挙げられる。いくつかの実施形態においては、前記形質導入細胞は、抗原を有する細胞、抗CD3、抗CD28、およびIL-2、IL-7、IL-15、および/もしくはIL-21、またはそれらの組み合わせの存在下で培養される。
【0167】
CD4細胞の亜集団とCD8細胞の亜集団とを組み合わせてもよい。特定の一実施形態においては、改変されたナイーブCD4細胞またはセントラルメモリーCD4細胞と、改変されたセントラルメモリーCD8T細胞とを組み合わせることによって、抗原を有する細胞(たとえば腫瘍細胞)に対して相乗的な細胞傷害性効果を提供する。
【0168】
組成物
本発明の開示は、本明細書に記載の遺伝子改変Tリンパ球製剤を含む養子細胞免疫療法組成物を提供する。
【0169】
いくつかの実施形態においては、前記Tリンパ球製剤は、キメラ受容体を有するCD4T細胞を含み、該キメラ受容体は、本明細書に記載されているように、前記疾患または障害に関連するリガンドに特異的な細胞外抗体可変ドメイン、スペーサー領域、膜貫通ドメイン、T細胞受容体の細胞内シグナル伝達ドメイン、および遺伝子タグを含む。別の実施形態においては、養子細胞免疫療法組成物は、キメラ受容体により改変された腫瘍特異的CD8細胞傷害性Tリンパ球製剤をさらに含み、該細胞傷害性Tリンパ球製剤が、細胞性免疫応答を提供し、キメラ受容体を有するCD8T細胞を含み、該キメラ受容体が、本明細書に記載されているように、前記疾患または障害に関連するリガンドに特異的な細胞外一本鎖抗体、スペーサー領域、膜貫通ドメイン、T細胞受容体の細胞内シグナル伝達ドメイン、および遺伝子タグを含むことを特徴とする。いくつかの実施形態においては、本発明において開示された、前記キメラ受容体により改変されたT細胞集団は、インビボにおいて少なくとも約3日またはそれ以上にわたって持続可能である。別の実施形態においては、前記の各細胞集団は互いに組み合わせることも、別の細胞種と組み合わせることもでき、これによって組成物が提供される。
【0170】
本発明の実施形態は、本明細書に記載のCD4および/またはCD8宿主細胞を包含する。
いくつかの実施形態では、宿主細胞は、
単離された核酸と、
第2のキメラ抗原受容体および第2の遺伝子タグをコードする第2の核酸とを含み、
前記単離された核酸は、たとえば、単離されたポリペプチドをコードする核酸であり、
該単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した511~652番目または563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合することを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。
【0171】
別の実施形態では、組成物は、
単離された第1の核酸を含む第1の宿主細胞と、
第2のキメラ抗原受容体および第2の遺伝子タグをコードする第2の核酸を含む第2の宿主細胞とを含み、
前記単離された核酸は、たとえば、単離されたポリペプチドをコードする核酸であり、
該単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した511~652番目または563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合することを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記第1宿主細胞および前記第2の宿主細胞は、同じ種類の宿主細胞であっても異なる種類の宿主細胞であってもよく、たとえば、前記第1の宿主細胞がCD8セントラルメモリー細胞であり、かつ前記第2の宿主細胞がナイーブCD4細胞であってもよい。いくつかの実施形態においては、第1の宿主細胞および第2の宿主細胞はそれぞれ、CD8 T細胞、CD4 T細胞、CD4ナイーブT細胞、CD8ナイーブT細胞、CD8セントラルメモリー細胞、CD4セントラルメモリー細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0172】
いくつかの実施形態においては、前記CD4Tヘルパーリンパ球は、ナイーブCD4T細胞、セントラルメモリーCD4T細胞、エフェクターメモリーCD4T細胞およびバルクCD4T細胞からなる群から選択される。いくつかの実施形態においては、前記CD4ヘルパーリンパ球は、ナイーブCD4T細胞であり、該ナイーブCD4T細胞は、CD45ROT細胞、CD45RAT細胞、およびCD62LCD4T細胞を含む。
【0173】
いくつかの実施形態においては、前記細胞傷害性CD8Tリンパ球は、ナイーブCD8T細胞、セントラルメモリーCD8T細胞、エフェクターメモリーCD8T細胞およびバルクCD8T細胞からなる群から選択される。いくつかの実施形態においては、前記CD8細胞傷害性Tリンパ球は、セントラルメモリーT細胞であり、該セントラルメモリーT細胞は、CD45ROT細胞、CD62LT細胞およびCD8T細胞を含む。さらに別の実施形態では、前記CD8細胞傷害性Tリンパ球はセントラルメモリーT細胞であり、前記CD4ヘルパーTリンパ球はナイーブCD4T細胞またはセントラルメモリーCD4T細胞である。
【0174】
方法
本発明の開示は、養子免疫療法組成物の製造方法、および、疾患または障害を有する対象において細胞免疫療法を行うための、該組成物の使用、または疾患または障害を有する対象において組成物を使用して細胞免疫療法を行う方法を提供する。
【0175】
本発明の実施形態は、本明細書に記載の宿主細胞を含む組成物の製造方法を包含する。
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、
単離された核酸を宿主細胞に導入すること、および
少なくとも1つの増殖因子を含む培地中で前記宿主細胞を培養することを含み、
前記単離された核酸は、たとえば、単離されたポリペプチドをコードする核酸であり、
該単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した511~652番目または563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合することを特徴とする。
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、前記培養工程の前もしくは後またはその前後に、Her2tを発現している宿主細胞を選択することをさらに含む。別の実施形態においては、本発明の製造方法は、第2のキメラ抗原受容体および第2の遺伝子タグをコードする第2の核酸を前記宿主細胞に導入することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記培養工程の前もしくは後またはその前後に、前記第2の遺伝子タグを発現している宿主細胞を選択することをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。
【0176】
別の実施形態では、本発明の方法は、
単離された第1の核酸を第1の宿主細胞に導入すること、
Her2tを発現している第1の宿主細胞を選択すること、
第2のキメラ抗原受容体および第2の遺伝子タグをコードする第2の核酸を第2の宿主細胞に導入すること、
前記第2の遺伝子タグを発現している第2の宿主細胞を選択すること、ならびに
任意に、少なくとも1つの増殖因子を含む培地中で前記第1の宿主細胞および第2の宿主細胞を培養することを含み、
前記核酸が、たとえば、配列番号23において膜貫通ドメインに連結した511~652番目または563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%の配列同一性を有する単離されたポリペプチドをコードする核酸であること、ならびに
該単離されたポリペプチドが、Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合することを特徴とする方法が提供される。
別の実施形態では、組成物は第1の宿主細胞集団および第2の宿主細胞集団を含む。
【0177】
いくつかの実施形態においては、前記組成物の製造方法は、改変されたナイーブCD4Tヘルパー細胞またはセントラルメモリーCD4Tヘルパー細胞を得ることを含み、前記改変されたヘルパーTリンパ球製剤が、キメラ受容体を有するCD4T細胞を含み、該キメラ受容体が、本明細書に記載されているように、腫瘍細胞の表面分子に特異的なリガンド結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメインおよび遺伝子タグを含むことを特徴とする。
【0178】
別の一実施形態においては、本発明の方法は、改変されたCD8セントラルメモリーT細胞を得ることをさらに含み、前記改変されたセントラルメモリーCD8 Tリンパ球製剤が、キメラ受容体を有するCD8細胞を含み、該キメラ受容体が、本明細書に記載されているように、腫瘍細胞の表面分子に特異的なリガンド結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメインおよび遺伝子タグを含むことを特徴とする。別の実施形態では、CD8細胞は、誘導可能なプロモーターの制御下にあるサイトカイン受容体またはケモカイン受容体を有する。
【0179】
前記改変されたCD4T細胞および前記改変されたCD8細胞傷害性T細胞におけるキメラ抗原受容体および遺伝子タグは、同じものであっても異なるものであってもよい。たとえば、前記改変されたCD4T細胞が第1のCARおよび第1の遺伝子タグを有し、前記CD8細胞傷害性T細胞が、第1のCARおよび第1の遺伝子タグとは異なる第2のCARおよび第2の遺伝子タグを有するCD8細胞を含む。いくつかの実施形態では、CD4細胞集団およびCD8細胞集団において前記ポリヌクレオチドによってコードされるキメラ抗原受容体は、同じものであってもよい。これらの2種のCAR構築物の差異としては、抗原またはエピトープに対するリガンド結合ドメインの特異性または親和性、スペーサー領域の長さおよび配列、ならびに細胞内シグナル伝達成分が挙げられる。
【0180】
キメラ受容体で改変されたCD4細胞およびCD8細胞の調製は、上記および実施例で説明したとおりである。抗原特異的Tリンパ球は、疾患または障害を有する患者から得ることができ、また、抗原の存在下、インビトロにおいてTリンパ球を刺激することによっても調製することができる。抗原特異性によって選択されなかったCD4Tリンパ球亜集団およびCD8Tリンパ球亜集団も本明細書に記載の方法で単離することができ、前記製造方法に組み込むことができる。細胞集団は、Her2tおよび/またはEGFRtなどの、1つ以上の遺伝子タグの発現により選択すると有利である。
【0181】
いくつかの実施形態においては、このような細胞集団の組み合わせは、細胞表面マーカーの均一性、すなわち少なくとも2世代にわたり増殖する能力を評価して、均一な細胞分化状態を有するかどうかを確認することができる。品質管理は、前記遺伝子タグの発現に対するCARの発現の比を測定することによって行うことができる。前記キメラ受容体により改変されたT細胞の細胞分化状態および細胞表面マーカーは、フローサイトメトリーによって測定することができる。いくつかの実施形態において、前記CD8細胞の前記マーカーおよび細胞分化状態は、CD3、CD8、CD62L、CD28、CD27、CD69、CD25、PD-1、CTLA-4、CD45ROおよび/またはCD45RAを含む。いくつかの実施形態において、前記CD4細胞の前記マーカーおよび細胞分化状態は、CD3、CD4、CD62L、CD28、CD27、CD69、CD25、PD-1およびCTLA-4、CD45ROおよび/またはCD45RAを含む。
【0182】
いくつかの実施形態においては、本明細書に記載のキメラ受容体により改変されたT細胞は、インビボにおいて少なくとも3日間または少なくとも10日間にわたって持続可能である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のキメラ受容体により改変されたT細胞は、インビボにおいて少なくとも3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日もしくは10日にわたって、またはこれらの時間点のいずれか2つにより定義される範囲にある任意の時間にわたって持続することができる。いくつかの実施形態においては、前記キメラ受容体により改変されたT細胞は、CFSE色素希釈により測定した場合、少なくとも2世代または少なくとも3世代をわたってインビボで増殖することができる。前記キメラ受容体により改変されたT細胞の増殖および持続性は、前記疾患または障害の動物モデルを使用し、該細胞を投与し、次いで、アービタックス(EGFRt)および/またはハーセプチン(Her2t)などの、前記遺伝子タグに結合しかつ検出可能な標識で標識された抗体を使用して前記細胞の検出を行うことで、移入された該細胞の持続能力および/または増殖能力を測定することにより評価することができる。導入遺伝子を発現する細胞をインビボで検出するための抗体または抗原結合フラグメントを使用する場合、抗体または抗原結合フラグメントは、ADCC反応を最小限にするため、Fc部分を含まないことが好ましい。別の実施形態のいくつかにおいて、増殖および活性化は、抗原を有する細胞を使用して複数回にわたって活性化することによって、インビトロで試験することができる。
【0183】
また、本発明の開示は、疾患または障害を有する対象において細胞免疫療法を行う方法であって、本明細書に記載の1つ以上のキメラ抗原受容体および遺伝子タグを発現するリンパ球を含む組成物を投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、疾患または障害を有する対象において細胞免疫療法を行う方法であって、1つ以上のキメラ抗原受容体および遺伝子タグを発現するリンパ球を含む組成物を投与することを含む方法が提供される。
【0184】
いくつかの実施形態は、腫瘍抗原を発現しているがん患者を治療する方法であって、本明細書に記載の組成物の有効量を投与することを含み、該組成物中の前記細胞が、がん細胞上に発現される腫瘍抗原に結合する抗原結合ドメインと遺伝子タグとを含むキメラ抗原受容体を発現することを特徴とする方法を包含する。いくつかの実施形態においては、前記がんは、前記細胞上の前記キメラ抗原受容体によって認識される腫瘍抗原を有する。いくつかの実施形態では、前記がんは、乳がん、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、リンパ腫、ALL、CLLおよび多発性骨髄腫からなる群から選択される。
【0185】
いくつかの実施形態においては、腫瘍抗原を発現しているがん患者を治療する方法は、本明細書に記載の組成物の有効量を投与することを含み、該組成物中の前記細胞は、がん細胞上に発現される腫瘍抗原に結合する抗原結合ドメインと第1の遺伝子タグとを含む第1のキメラ抗原受容体、およびがん細胞上に発現される腫瘍抗原に結合する抗原結合ドメインと第2の遺伝子タグとを含む第2のキメラ抗原受容体を発現する。
【0186】
いくつかの実施形態においては、腫瘍抗原を発現しているがん患者を治療する方法は、組成物の有効量を投与することを含み、該組成物は、がん細胞上に発現される腫瘍抗原に結合する抗原結合ドメインと第1の遺伝子タグとを含む第1のキメラ抗原受容体を発現する第1の宿主細胞、およびがん細胞上に発現される腫瘍抗原に結合する抗原結合ドメインと第2の遺伝子タグとを含む第2のキメラ抗原受容体を含む第2の宿主細胞を含む。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。
【0187】
別の実施形態では、がんを有するかつ/または腫瘍抗原を発現している患者を治療する方法であって、本明細書に記載の組成物の有効量と、前記遺伝子タグに特異的に結合する抗体とを投与することを含み、該組成物中の前記細胞が、がん細胞上に発現される腫瘍抗原に結合する抗原結合ドメインと遺伝子タグとを含むキメラ抗原受容体を発現することを特徴とする方法が提供される。いくつかの実施形態においては、前記抗体は、Her2のドメインIVに結合するか、EGFRtに結合する。いくつかの実施形態においては、前記抗体は、ハーセプチンまたはアービタックスである。
【0188】
いくつかの実施形態において、組成物の毒性作用が見られる場合には、前記遺伝子タグに結合する抗体が投与される。該抗体は、前記組成物中の前記CAR発現細胞に結合し、これを殺傷することによって、毒性および/または致命的な副作用を回避することができる。いくつかの実施形態においては、前記抗体または抗原結合フラグメントは、ADCC反応を活性化するために、Fcフラグメントを含むことが好ましい。別の実施形態においては、前記抗体または抗原結合フラグメントは、細胞傷害薬に結合されている。細胞傷害薬としては、cantansinoid、カリチアマイシンおよび/またはオーリスタチンが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記細胞傷害薬は、cantansinoid、カリチアマイシンおよび/またはオーリスタチンを含む。
【0189】
いくつかの実施形態において、インビボ
において細胞の追跡を可能にするため、抗体は検出可能な標識で標識される。いくつかの実施形態において、インビボでの検出に抗体を使用する場合、ADCC反応を回避するため、前記抗体または抗原結合フラグメントは、Fc領域全体またはその一部を含んでいないことが好ましい。検出可能な標識としては、ビオチン、Hisタグ、mycタグ、放射標識、および/または蛍光標識が挙げられる。いくつかの実施形態において、検出可能な標識は、ビオチン、Hisタグ、mycタグ、放射標識、および/または蛍光標識を含む。
【0190】
別の実施形態においては、本発明の方法は、
遺伝子改変細胞傷害性Tリンパ球製剤および/または遺伝子改変ヘルパーTリンパ球製剤を対象に投与することを含み、
前記細胞傷害性Tリンパ球製剤が、細胞性免疫応答を提供し、かつキメラ受容体を有するCD8T細胞を含み、該キメラ受容体が、本明細書に記載されているように、腫瘍細胞の表面分子に特異的なリガンド結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメインおよび第1の遺伝子タグを含むこと、ならびに
前記ヘルパーTリンパ球製剤が、腫瘍の直接認識を誘導するとともに、前記遺伝子改変細胞傷害性Tリンパ球製剤が細胞性免疫応答を媒介する能力を増強し、かつキメラ受容体を有するCD4T細胞を含み、該キメラ受容体が、腫瘍細胞の表面分子に特異的なリガンド結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナル伝達ドメインおよび第2の遺伝子タグを含むことを特徴とする。
【0191】
別の一実施形態は、疾患または障害を有する対象において細胞免疫療法を行う方法であって、
前記対象の生体試料を分析して、前記疾患または障害に関連する標的分子の存在を検出すること、および
本明細書に記載の養子免疫療法組成物を投与することを含み、前記キメラ受容体が、前記標的分子に特異的に結合することを特徴とする方法に関する。
【0192】
本発明によって治療することができる対象は、通常、ヒトまたは他の霊長類の対象であり、たとえば、獣医学の対象となるサルおよび類人猿である。対象は雄性でも雌性でもよく、任意の適切な年齢であってもよく、たとえば、幼児、幼年者、若年者、成人、および高齢者の対象が挙げられる。いくつかの実施形態では、前記対象は霊長類である対象またはヒトである。
【0193】
本発明の方法は、たとえば、血液悪性腫瘍、黒色腫、乳がん、その他の上皮悪性腫瘍または固形腫瘍の治療に有用である。いくつかの実施形態において、これらの疾患または障害と関連する分子は、オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、Her2、EGFR、CE7、hB7H3、CD19、CD20、CD22、メソテリン(mesothelin)、CEA、およびB型肝炎表面抗原からなる群から選択される。
【0194】
治療可能な対象としては、がんに罹患した対象が挙げられ、該がんとしては、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がん、皮膚がん(黒色腫を含む)、骨がん、および脳がんなどが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態においては、腫瘍関連抗原または腫瘍関連分子が知られており、該腫瘍としては、黒色腫、乳がん、扁平上皮腫、大腸がん、白血病、骨髄腫、および前立腺がんなどが挙げられる。別の実施形態においては、前記腫瘍関連分子は、遺伝子改変キメラ受容体を発現する遺伝子改変T細胞で標的化することができる。前記がんとしては、B細胞リンパ腫、乳がん、前立腺がん、および白血病が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、前記対象は、B細胞リンパ腫、乳がん、前立腺がん、および/または白血病を有する。
【0195】
前述のように製造された細胞は、本発明の開示を踏まえ、当業者であれば容易に理解できる公知の技術またはその変法に従って、養子免疫療法のための方法および組成物において使用することができる。
【0196】
いくつかの実施形態において、前記細胞の製剤化は、まず該細胞を培地から回収し、次いで該細胞を洗浄し、投与に適した培地および容器システム(「薬学的に許容され得る」担体)中において該細胞を治療有効量まで濃縮することによって行われる。適切な注入用培地は、任意の等張性培地製剤であってもよく、典型的には、生理食塩水、Normosol R(アボット)もしくはPlasma-Lyte A(バクスター)、5%デキストロース水溶液、または乳酸リンゲル液を使用することができる。前記注入用培地には、ヒト血清アルブミン、ウシ胎児血清、またはその他のヒト血清成分を添加してもよい。
【0197】
いくつかの実施形態において、組成物中の細胞の治療有効量とは、形質導入されたCD4細胞もしくはCD8細胞の量、または少なくとも2つの細胞サブセット(たとえば、CD8セントラルメモリーT細胞の1つのサブセットとCD4ヘルパーT細胞の1つのサブセット)の量を指し、より典型的には、10個を超えかつ10個以下の細胞であり、または10個以下または10個以下の細胞であり、たとえば、10個または10個であってもよく、1010個を超える数の細胞であってもよく、またはこれらの値のいずれかの2つにより示されるエンドポイントの間にある任意の細胞数であってもよい。
【0198】
細胞の数は、前記組成物の最終的な用途や、該組成物に含まれる細胞種などによって決定される。たとえば、特定の抗原に特異的な細胞が所望される場合、前記集団を占める該細胞の割合は70%を超え、一般的には、80%を超え、85%を超え、あるいは前記集団全体の90~95%を占め、またはこれらのパーセンテージのいずれか2つによって定義される範囲にある任意のパーセンテージを占める。
【0199】
本明細書に記載の用途において、前記細胞の量は通常1L以下でありかつ1nlより多くてもよく、500ml以下でありかつ1nlより多くてもよく、さらには250ml以下もしくは100ml以下でありかつ1nlより多くてもよく、これらの値のいずれかにより示される2つエンドポイントの間にある任意の量であってもよい。
【0200】
したがって、前記所望の細胞の密度は、典型的には、10細胞/mlよりも大きく、通常10細胞/mlよりも大きく、通常10細胞/ml以上である。臨床用途に適したこのような数の免疫細胞は、複数の注入に分割して投与してもよく、その累積投与量は10個、10個、10個、10個、10個、1010個、もしくは1011個の細胞、もしくはこれらの細胞数以上の細胞、またはこれらの量のうちの2つによって定義される範囲にある任意の細胞数に相当する。
【0201】
いくつかの実施形態において、前記リンパ球は、個体に免疫を付与するために使用することができる。「免疫」は、病原体の感染に対する応答またはリンパ球反応の標的となる腫瘍に対する応答に伴う1つ以上の身体症状を軽減することを意味する。前記細胞の投与量は、通常、病原体に対する免疫を備える正常個体の体内に存在する量の範囲内である。したがって、細胞は、通常、注入によって投与され、1回の注入あたり2個以上から少なくとも10個~3×1010個までの範囲の数の細胞が投与され、少なくとも10個~10個の細胞を注入することが好ましく、またはこれらの量のうちの2つによって定義される範囲にある任意の細胞数であってもよい。
【0202】
前記T細胞は、単回の注入によって、または特定の期間における複数回の注入によって投与することができる。しかしながら、個体によって反応性が異なると考えられるため、注入する細胞の種類および細胞の量、ならびに注入の回数および複数回の注入を実施する期間は主治医によって決定され、日常的な検査によっても決定することができる。十分な量のTリンパ球(細胞傷害性Tリンパ球および/またはヘルパーTリンパ球を含む)の作製は、本明細書に例示したような、本発明による迅速な増殖方法を用いて容易に行うことができる。
【0203】
いくつかの実施形態においては、本明細書に記載の組成物は、静脈内投与、腹腔内投与、腫瘍内投与、骨髄内投与、リンパ節内投与、かつ/または脳脊髄液内投与される。いくつかの実施形態において、キメラ受容体により遺伝子改変された前記組成物は、腫瘍部位に送達される。あるいは、本明細書に記載の組成物は、本発明の細胞を腫瘍または免疫コンパートメントに標的化させるとともに、肺などの部位を避けることが可能な化合物と組み合わせることができる。
【0204】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は、化学療法剤および/または免疫抑制剤とともに投与される。別の一実施形態においては、まず、本発明の免疫細胞以外の免疫細胞を抑制または殺傷する化学療法剤で患者を処置してから、本明細書に記載の組成物を投与する。場合によっては、化学療法を完全に省いてもよい。後述の実施例において、本発明をさらに説明する。
【0205】
さらなる実施形態
いくつかの実施形態においては、単離されたポリペプチドであって、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする単離されたポリペプチドが提供される。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記リーダーペプチドは配列番号17で表される配列を有する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
【0206】
いくつかの実施形態においては、単離されたポリペプチドであって、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、
完全長成熟HERではないこと、および
前記配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインが、GGGSGGGS(配列番号45)で示されるアミノ酸を含む配列を介して前記膜貫通ドメインに連結されていることを特徴とする単離されたポリペプチドが提供される。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記リーダーペプチドは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
【0207】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドをコードする単離された核酸が提供される。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記リーダーペプチドは配列番号17で表される配列を有する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、
完全長成熟HERではないこと、および
前記配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインが、GGGSGGGS(配列番号45)で示されるアミノ酸を含む配列を介して前記膜貫通ドメインに連結されていることを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記リーダーペプチドは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸はプロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸は導入遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子は、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメインおよび少なくとも1つの刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、自己切断リンカーを有する前記HER2ポリペプチドをコードする前記核酸に連結されている。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記自己切断リンカーは、配列L E G G G E G R G S L L T C G(配列番号26)を有するT2Aリンカーである。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号25(CD20CAR)のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記単離された核酸の大きさとしては、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、10kb、11kb、12kb、13kb、14kbもしくは14.9kb、またはこれらの大きさのいずれか2つの間にある任意の大きさが挙げられる。
【0208】
いくつかの実施形態では、ポリペプチドをコードする単離された核酸を含む宿主細胞が提供される。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記リーダーペプチドは配列番号17で表される配列を有する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、
完全長成熟HERではないこと、および
前記配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインが、GGGSGGGS(配列番号45)で示されるアミノ酸を含む配列を介して前記膜貫通ドメインに連結されていることを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記リーダーペプチドは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸はプロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸は導入遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子は、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメインおよび少なくとも1つの刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、自己切断リンカーを有する前記HER2ポリペプチドをコードする前記核酸に連結されている。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記自己切断リンカーは、配列L E G G G E G R G S L L T C G(配列番号26)を有するT2Aリンカーである。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号25(CD20CAR)のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は、CD8 T細胞、CD4 T細胞、CD4ナイーブT細胞、CD8ナイーブT細胞、CD8セントラルメモリー細胞、CD4セントラルメモリー細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は自己由来である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は抗原特異的である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記単離された核酸の大きさとしては、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、10kb、11kb、12kb、13kb、14kbもしくは14.9kb、またはこれらの大きさのいずれか2つの間にある任意の大きさが挙げられる。
【0209】
いくつかの実施形態においては、ポリペプチドをコードする単離された核酸を含む宿主細胞を含む組成物が提供される。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記リーダーペプチドは配列番号17で表される配列を有する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、
完全長成熟HERではないこと、および
前記配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインが、GGGSGGGS(配列番号45)で示されるアミノ酸を含む配列を介して前記膜貫通ドメインに連結されていることを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記リーダーペプチドは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸はプロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸は導入遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子は、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメインおよび少なくとも1つの刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、自己切断リンカーを有する前記HER2ポリペプチドをコードする前記核酸に連結されている。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記自己切断リンカーは、配列L E G G G E G R G S L L T C G(配列番号26)を有するT2Aリンカーである。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号25(CD20CAR)のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は、CD8 T細胞、CD4 T細胞、CD4ナイーブT細胞、CD8ナイーブT細胞、CD8セントラルメモリー細胞、CD4セントラルメモリー細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は自己由来である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は抗原特異的である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞はT細胞前駆細胞である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記単離された核酸の大きさとしては、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、10kb、11kb、12kb、13kb、14kbもしくは14.9kb、またはこれらの大きさのいずれか2つの間にある任意の大きさが挙げられる。
【0210】
いくつかの実施形態においては、組成物の製造方法であって、
単離された核酸を宿主細胞に導入すること、および
少なくとも1つの増殖因子を含む培地中で前記宿主細胞を培養することを含む方法が提供される。
いくつかの実施形態においては、前記単離された核酸はポリペプチドをコードする。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記リーダーペプチドは配列番号17で表される配列を有する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。
いくつかの実施形態においては、前記単離されたポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、
完全長成熟HERではないこと、および
前記配列番号23の563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインが、GGGSGGGS(配列番号45)で示されるアミノ酸を含む配列を介して前記膜貫通ドメインに連結されていることを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の580番目のグルタミン酸、582番目のアスパラギン酸、592番目のアスパラギン酸、595番目のフェニルアラニンおよび624番目のグルタミンを含む。いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、配列番号23の563~652番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記膜貫通ドメインは、配列番号23の653~675番目のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、前記単離されたポリペプチドは、細胞表面発現を可能とするリーダーペプチドをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記リーダーペプチドは、配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸はプロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態では、前記単離された核酸は導入遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子は、キメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、前記キメラ抗原受容体は、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメインおよび少なくとも1つの刺激ドメインを含む。いくつかの実施形態では、前記導入遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、自己切断リンカーを有する前記HER2ポリペプチドをコードする前記核酸に連結されている。
いくつかの実施形態においては、前記HER2ポリペプチドは、
配列番号23において膜貫通ドメインに連結した563~652番目のアミノ酸配列を有するHER2ポリペプチド細胞外ドメインからなるポリペプチドと少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、
Her2のドメインIVのエピトープに結合する抗体に特異的に結合すること、および
完全長成熟HER2ではないことを特徴とする。
いくつかの実施形態においては、前記自己切断リンカーは、配列L E G G G E G R G S L L T C G(配列番号26)を有するT2Aリンカーである。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号2のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記キメラ抗原受容体は、配列番号25(CD20CAR)のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は、CD8 T細胞、CD4 T細胞、CD4ナイーブT細胞、CD8ナイーブT細胞、CD8セントラルメモリー細胞、CD4セントラルメモリー細胞およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は自己由来である。いくつかの実施形態においては、前記宿主細胞は抗原特異的である。いくつかの実施形態においては、前記増殖因子は、IL-15、IL-7、IL-21、IL-2およびこれらの組み合わせから選択される。いくつかの実施形態においては、前記方法は、前記Her2tポリペプチドを発現している細胞を選択することをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記細胞は、前記培地中での培養前に選択される。いくつかの実施形態においては、前記細胞は、Her2のドメインIVに結合する抗体を使用して選択する。いくつかの実施形態では、前記抗体はトラスツズマブである。いくつかの実施形態においては、前記方法は、第2の遺伝子タグに連結されたキメラ抗原受容体をコードする第2の単離された核酸を導入することをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記方法は、前記第2の遺伝子タグを発現している細胞を選択することをさらに含む。いくつかの実施形態においては、前記第2の遺伝子タグはEGFRtを含む。
【0211】
Her2tマーカー配列を有するCARを含む形質導入細胞の調製を以下に述べる。
【実施例
【0212】
抗体およびフローサイトメトリー
蛍光色素標識アイソタイプコントロール、抗CD3、抗CD4、抗CD8、抗CD45、Her2、およびストレプトアビジンはBD Biosciencesから入手した。セツキシマブ(アービタックス)およびトラスツズマブ(ハーセプチン)はシアトル小児病院から購入した。製造元の説明書に従って、アービタックスおよびハーセプチンをビオチン化(Pierce)するか、あるいはAPC(Solulink)に直接結合させた。データは、LSRFortessa(BD Biosciences)測定し、分析した領域中の細胞のパーセンテージは、FlowJoデータ解析ソフトウェアを使用して算出した。
【0213】
細胞株
別途の記載がない限り、細胞株はいずれも、2mM L-グルタミン、25mM HEPES(Irvine Scientific)および10%加熱不活性化ウシ胎仔血清(HycloneまたはAtlas)を添加したRPMI 1640培地中で維持した。K562赤白血病標的細胞株は、Stanley Riddell博士(Fred Hutchinson Cancer Research Center)から提供を受けた。その他の細胞株、すなわちH9 Tリンパ芽球、Raji(ヒトバーキットリンパ腫)、および293T(高効率に遺伝子を導入することが可能なヒト胎児腎293細胞)は、American Type Culture Collectionから入手した。過去の報告(Pelloquin et al. 1986)に従って、エプスタインバーウイルスで形質転換したリンパ芽球様細胞株(TM-LCL)を末梢血単核球(PBMC)から作製した。GFP:ffluc発現細胞株をGFP:ffluc_epHIV7で形質導入し、BD FACSJazzソーターを使用してソートした。
【0214】
ベクターの構築およびHer2tまたはEGFRtをコードするレンチウイルスの作製
第2世代41BB-ζ CD19CAR-T2A-EGFRt_epHIV7レンチウイルス構築物は、過去に報告(Hudecek et al. 2013)されている(表1)。
【0215】
CD20CAR-T2A-EGFRt_epHIV7は、CD19CAR(4-1BB-ζ)
と同じシグナル伝達成分と、IgG4のヒトIgG4ヒンジ-CH3(119アミノ酸長)スペーサードメイン部分に融合させたLeu16(マウス抗ヒトCD20)scFvとを含む(表9)。
【0216】
pDONR223-ErbB2(Addgene)をテンプレートとして
用い、epHIV7レンチウイルスベクターをレシピエントとして使用して、Her2tをPCRにより合成した(表6および表8)。最終生成物であるHer2t_epHIV7は、ドメインIV(563~652番目のアミノ酸)およびHer2の膜貫通成分(653~675番目のアミノ酸)にインフレームで融合させたヒト顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子受容体のリーダーペプチド(GMCSFRss)を含む。CD19CAR-T2A-EGFRt_epHIV7構築物は、PCRおよびGibsonクローニングによってHer2tをEGFRtで置換することにより作製した。EGFRtは、過去の報告(Wang et al. 2011)に従って合成した(表7)。
【0217】
CD19CAR-T2A-Her2tをコードするレンチウイルス、CD19CAR-T2A-EGFRtをコードするレンチウイルス、CD20CAR-T2A-EGFRtをコードするレンチウイルス、Her2tをコードするレンチウイルス、およびEGFRtをコードするレンチウイルスを、パッケージベクターpCHGP-2、pCMV-Rev2、およびpCMV-Gを使用して293T細胞
において産生させた。
【0218】
CAR発現細胞株、Her2t発現細胞株および/またはEGFRt発現細胞株の作製
CD4セントラルメモリーT細胞またはCD8セントラルメモリーT細胞を作製するため、Ficoll-Paque(Pharmacia Biotech)を使用して、健常ドナーの血液処分キット(Puget Sound Blood Center)からヒトPBMCを単離した。製造元のプロトコルに従って、各ドナー由来のPBMCを2つのグループ(CD4セントラルメモリーT細胞またはCD8セントラルメモリーT細胞の単離用)に分け、次いで、CD4単離キットまたはCD8単離キットおよび抗CD45RAマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を使用して、AutoMACSで不要な細胞を除去した。その後、抗CD62Lマイクロビーズを使用して除去画分をAutoMACSでポジティブ選択し、CD4+CD45RO+CD62L+セントラルメモリーT細胞またはCD8+CD45RO+CD62L+セントラルメモリーT細胞を得た。次に、単離された細胞を50U/mlインターロイキン-2(IL-2)、2ng/mlインターロイキン-15(IL-15)、および抗CD3/CD28ビーズ(Life Technologies)で刺激した。初代T細胞株を硫酸プロタミン(1:100希釈)およびMOI=1のウイルスで活性化した3日目に形質導入を行い、32℃、800×gで45分間遠心分離した。他の細胞株はいずれも少ない継代数で同様に形質導入した。
【0219】
ビオチン
で標識したハーセプチンまたはアービタックスと抗ビオチンマイクロビーズ(Miltenyi)とを使用して免疫磁気選択を行うことにより、各細胞株のHer2tサブセットまたはEGFRtサブセットを濃縮した。50U/ml IL-2および2ng/ml IL-15の存在下、放射線照射(8000 rad)したTM-LCLをT細胞:TM-LCL=1:7の比率で使用して、選択されたCD19CART細胞またはCD20CART細胞を刺激することによって、形質導入後12~18日間増殖させた。ビオチン化ハーセプチンおよび抗ビオチンマルチソートマイクロビーズ(Miltenyi)を使用してCD19CAR-T2A-Her2tT細胞またはCD20CAR-T2A-EGFRtT細胞をソートし、次いでビーズを除去し、アービタックス-APCで細胞を標識し、抗APCマイクロビーズ(Miltenyi)を使用してソートした。
【0220】
タンパク質分析
プロテアーゼ阻害剤反応混液を含むRIPA緩衝液中で細胞溶解を行った。細胞溶解物をBCAアッセイ(Pierce)により分析し、ゲルに同量で載せ、Her2一次抗体、phospho-Her2一次抗体(いずれもCell Signaling Technology)、抗CD247(CD3ζ)、ビオチン化ハーセプチン、または抗βアクチン(ローディングコントロール)を使用してウェスタンブロットを行った。製造元の説明書に従って、IRDye800CW標識ストレプトアビジン二次抗体またはヤギ抗マウス抗体もしくはヤギ抗ウサギ抗体(LI-COR)を加えた。Odyssey赤外イメージングシステム(LI-COR)でブロットを画像化した。
【0221】
細胞傷害性、サイトカインの分泌、および増殖アッセイ
細胞傷害性:
過去の報告(Wang et al. 2011)に従って、4時間クロム放出アッセイを実施した。CD19またはCD20を発現している5×10個のCr51標識K562細胞との共培養において、Her2tマーカーを有するCD19CARを発現しているTcm細胞、EGFRtマーカーを有するCD20CARを発現しているTcm細胞、CD19CAR-Her2tおよびCD20CAR-EGFRtを発現しているTcm細胞、ならびにEGFRtマーカー配列を有するCD19CARを発現しているTcm細胞をエフェクター細胞として最大で2.5×10個使用して、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を測定した。
【0222】
サイトカインの分泌:
T細胞(5×10個)と標的細胞をE:T=2:1の比率で96ウェルプレートに三連で播種し、製造元の説明書に従ってBio-Plex Human Cytokine Panel(Bio-Rad)を使用して、上清をcytometric bead arrayにより解析した。
【0223】
増殖:
0.2μMのカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE;Invitrogen)でT細胞を標識し、洗浄後、外因性サイトカインを含まない培地中に刺激細胞とともに三連で播種した。72時間のインキュベーションの後、細胞を抗CD3で標識して生死染色法し、次いでフローサイトメトリーで分析して生存していたCD3細胞の細胞分裂を評価した。
【0224】
インビボにおけるT細胞移植およびADCC
マウスを用いた実験は、Seattle Children’s Research Instituteの実験動物委員会によって承認された。NOD/Scid IL2RγCnullマウスをJackson Laboratoryから入手するか、研究所内で繁殖させた。
【0225】
移植:
6~10週齢のNOD/Scid IL2RγCnullマウスに、0日目において10個のHer2t/EGFRt陰性(Mock)、選択されたHer2tT細胞または選択されたEGFRtT細胞を静脈内に注射し、5×10個の生存可能なNS0-IL15細胞を皮下に注射して、ヒトIL-15をインビボ全身に供給した。14日後にマウスを屠殺して骨髄を採取し、BD Biosciencesから入手した抗CD45、生死染色、抗CD4、抗CD8、ビオチン化ハーセプチン、ビオチン化アービタックス、およびストレプトアビジン-APCを使用して、細胞懸濁液をフローサイトメトリーにより分析した。これとは別に、大腿骨を10%のホルマリンで24時間固定し、2時間脱灰し(Richard-Allan Scientific)、パラフィンに包埋した後、製造元の説明書に従って、抗CD45(DAKO)、抗EGFR(クローン31G7;Invitrogen)、またはビオチン化ハーセプチンおよびSA-AF647を使用して免疫組織化学的染色を行い、Hoechstで対比染色した。同様に、Her2細胞株またはHer2t細胞株をポリ-L-リシンを使用してスライドに接着させ、ビオチン化ハーセプチンおよびSA-AF647を使用して染色した。Nuance FX Biomarker Imaging Systemを使用して蛍光像を取得した。
【0226】
統計解析
Prism Software(GraphPad)を使用して統計解析を行った。対応のある両側検定として、95%の信頼区間でスチューデントのt検定を行い、0.05未満のP値を有する結果を有意と見なした。生存の統計解析をログランク検定により行い、0.05未満のP値を有する結果を有意と見なした。
【0227】
ヒトErbB2(Her2)に基づいた多機能表面エピトープの設計および初期特性評価
養子療法戦略において臨床的成功を収め、再現性を高めるには、均質な免疫細胞製品を選択し、それを使用することが不可欠である。これを目的として、ヒトHer2に基づいた非免疫原性エピトープ(Her2tと呼ぶ)を、細胞を改変するための遺伝子タグ候補および遺伝子ツール候補として設計した(図1パネルA)。Her2tはHer2の細胞内成分を全く含んでいないが、Her2の膜貫通領域、モノクローナル抗体であるトラスツズマブ(ハーセプチン)により認識される高次構造的に完全な結合エピトープ(conformationally intact binding epitope)、および表面発現を容易とするGMCSFRssを含んでいる(図1パネルB)。まず、Her2t構築物の3種のバリアント、すなわち、Her2ドメインIVの完全長を含む1つの構築物と、ハーセプチンと複合体化したHer2の三次元構造(Garrett et al 2007; Cho et al 2003)から設計した2つの最小コンフォメーショナルエピトープとをレンチウイルスパッケージングプラスミドepHIV7に組み込み、CHO細胞においてその特性を評価した。図1のパネルBに概略を示した563~652番目のアミノ酸を含むHer2t構築物は、ビオチン化ハーセプチンおよびストレプトアビジン標識蛍光色素を使用したフロー分析によって、最も高い一時的な表面発現を示したことから、さらに下流の特性評価を行うために選択した(データ示さず)。
【0228】
Her2tは実用可能で、機能的に不活性な遺伝子タグである
一時的発現の分析を最初に実施した後、Her2tを含むepHIV7を使用して、VSV-g偽型自己不活性化レンチウイルスを作製した。その後、得られたウイルスを複数種の細胞に形質導入し、8.2~65%の細胞がHer2tである集団を複数得た(データは示さず)。その代表例として、形質導入されたK562赤白血病細胞(13.8%の細胞がHer2t)を示す(図2パネルA)。導入遺伝子を有する細胞集団を選択的に濃縮するための標的としてHer2tが有用であるかどうかを評価するために、ビオチン化ハーセプチンおよび抗ビオチンマイクロビーズを使用して、形質導入K562集団を2段階で免疫磁気精製した。この処理により、95%以上の細胞がHer2tである細胞集団が一貫して得られた(図2パネルB)。その後の滴定実験により、10個のHer2t細胞を最大限に標識するには、1.2ng以下のビオチン化ハーセプチンで十分であったことが明らかになった(図2パネルA)。
【0229】
本発明者の分子モデル(図1パネルA)で示したように、Her2tは細胞外ドメインI~IIIを含んでおらず、抗体認識に必要なドメインIV結合エピトープを含んでいる。したがって、Her2tは市販のHer2抗体に結合できないと予測され、ハーセプチンにより特異的に認識されると予測された。フロー分析により、ハーセプチンはHer2t発現K562細胞および完全長Her2発現K562細胞を効率的に認識し、染色することができたが、市販の抗体は完全長Her2しか認識できないことが確認された(図2パネルC)。
【0230】
ハーセプチン
で選択されたHer2t発現細胞または完全長Her2発現細胞について、Her2tおよび完全長Her2のウエスタン免疫ブロット分析をそれぞれ同様に実施した。予測されたように、市販のHer2抗体を使用した場合、185kDaの完全長Her2タンパク質は、完全長Her2発現細胞の溶解物のみで検出された。同様に、Her2のリン酸化は、ニューレグリンで処理した完全長Her2発現細胞の溶解物のみで検出された。ビオチン化ハーセプチンで検出した場合、Her2tのバンドはHer2t細胞の溶解物のみで検出された(図2パネルD)。
【0231】
Her2tは、T細胞療法のための、高度にストリンジェントでありかつ相補的な選択エピトープである
キメラ抗原受容体(CAR)を発現している治療用T細胞を選択するための非常に効率的な選択エピトープ(EGFRtと呼ばれる)は、過去に同定されている(Wang et al 2011)。本願では、CAR含有ウイルスベクターにおいてHer2tを同調発現させることによって、広範囲に適用可能なエクスビボ遺伝子改変CAR治療薬の臨床適用が容易になるかどうかを評価した。さらに、Her2tを使用することによって、CARリダイレクト治療用T細胞の選択マーカーとして使用可能な非免疫原性選択マーカーのレパートリーを増やすことができ、また、Her2tは、EGFRtによる選択の代替または補助的手段として使用することができる(すなわち、複数の腫瘍抗原候補に対する二重特異性をT細胞に付与するものである)。
【0232】
CAR療法におけるHer2tの有用性
の評価を目的として、Her2tとの共発現を誘導するため、過去に報告されているCD19CAR(Hudecek et al 2013)とリボソームスキップT2A配列とを含むマルチドメインDNA構築物を構築した(図1パネルC)。その後、得られたCD19CAR-T2A-Her2t構築物をepHIV7に組み込み、前述のようにウイルスを作製した。
【0233】
EGFRt
の発現と比較したときの選択マーカーとしてのHer2tの機能、またはEGFRtの発現と同調させたときの選択マーカーとしてのHer2tの機能を評価するために、CD4またはCD8セントラルメモリー(Tcm)細胞(図3パネルA)を、各種のCAR-T2A-Her2t含有ウイルスベクターおよび/またはCAR-T2A-EGFRt含有ウイルスベクターで形質導入した(図3パネルB)。単一のCAR含有ベクターで形質導入したCD4またはCD8Tcmでは、ビオチン化ハーセプチン(Her2t)またはビオチン化アービタックス(EGFRt)と抗ビオチンマイクロビーズとを使用した免疫磁気選択を行う前は22~72%の細胞がHer2tまたはEGFRtであったが、免疫磁気選択を行った後では、一貫して均一な純度(>90%)に濃縮された(図3B)。これとは別に、マルチソートと抗APCビーズとの組み合わせ(「材料および方法」参照)を使用して、Her2tおよびEGFRtの二重形質導入細胞を免疫磁気的にソートしたところ、90%を超える導入遺伝子二重陽性細胞が得られた(図6)。
【0234】
別法として、ビーズによる除去の代わりに、遊離ビオチンまたはストレプトアビジンを使用して、二重形質導入細胞株をソートすることができる。フローサイトメトリーによる平均蛍光強度(MFI)の解析により、Her2tで選択されたTcm集団における導入遺伝子の発現は、EGFRtで選択されたTcm集団における導入遺伝子の発現よりも低かったことが示唆されため(図3パネルB)、本発明者は次に、Her2tレベルがCAR発現の低下に直接に相関するかどうかを調べた。これを行うために、Her2tまたはEGFRtにより選択されたCD19CAR発現Tcmを溶解し、CD3ζ標的化ウェスタンブロット分析によりこの細胞溶解物を解析した。この結果、Her2tを付加した導入遺伝子は、EGFRtを付加した導入遺伝子よりも高い発現レベル(たとえば、約2倍)で選択されることが分かった(図3パネルC)。これらの結果から、Her2tを使用すると、EGFRtによる選択よりもストリンジェントな選択を行うことができることが示された。ウェスタンブロット分析では、二重選択TcmにおけるCD19CARおよびCD20CARの共発現も示された(図3パネルC)。
【0235】
二重選択されたTcmはインビトロにおいてエフェクター表現型および標的特異性を維持する
多くのがんでは、標的抗原をダウンレギュレートさせたり変異させたりすることによって、治療を回避している。したがって、複数の腫瘍関連抗原を同時に標的とすることは、腫瘍による回避を克服するための有望な治療アプローチであり、治療用T細胞の治療用途の拡大しうるものである。表面マーカー(Her2tおよびEGFRt)の選択による2種のCAR(CD19-CARおよびCD20-CAR)の共発現によって、CARリダイレクトT細胞の機能特性を向上させることできるかどうかを評価するため、二重CAR発現Tcmのインビトロにおける機能を、単一のCARを発現するTcmと比較した。細胞傷害性分析の結果、CARリダイレクトTcmサブセット(CD19-CAR発現Tcmサブセット、CD20-CAR発現Tcmサブセット、またはCD19-CARとCD20-CARとを共発現するTcmサブセット)はいずれも、CD19発現K562細胞、CD20発現K562細胞、またはCD19およびCD20を発現するK562細胞に対して類似したレベルの特異的な溶解性を示したが(図4パネルA)、CD19/CD20のK562標的親細胞の認識を媒介しなかったことが示された(図4パネルB)。
【0236】
次に
、K562標的パネルに対する、二重CAR発現TcmのCD19およびCD20による協同機能を試験したところ(図4パネルB)、いずれの標的発現K562細胞に対しても特異的な溶解性を示したのは二重CAR発現Tcmのみであったことが分かった。これに対して、CD19特異的CAR発現Tcm細胞またはCD20特異的CAR発現Tcm細胞は、これらのコグネイト標的抗原を発現しているK562細胞の細胞溶解活性を誘導するのに留まった(図4パネルB)。
【0237】
K562標的パネル
による刺激に応答したサイトカイン産生の定量分析では、前記と類似した特異性が示されている。CARを発現していないTcmでは、K562親細胞との共培養に応答してサイトカインが産生された。これに対して、二重CAR発現Tcmでは、いずれの標的発現細胞とも共培養に応答してIL-2、IFNγおよびTNFαが産生されたが、単一のCARを発現するTcmでは、サイトカインの産生はK562/CD19-CD20標的細胞およびK562/CD19標的細胞またはK562/CD20標的細胞でしか見られなかった(図4パネルC)。これらの結果から、二重CAR発現TcmのみがCD19およびCD20に対する二重特異性を示し、CD19およびCD20のいずれかの抗原と遭遇したときにT細胞の活性化および標的化を媒介できることが示された。興味深いことに、Her2tにより選択されたCD19CAR発現Tcmは、EGFRtにより選択されたCD19CAR発現Tcmと比較して、多様性が増しており、(たとえば約2~3倍に)亢進されたサイトカインプロファイルを示した(図3パネルD)。これは、Her2tを使用することによってストリンジェントな選択が可能となり、Her2tにより選択されたTcmでは総CARの発現量が増加していることに起因していると考えられる。
【0238】
CAR
の抗腫瘍活性は、移入したT細胞の増殖および生存と相関するため、CAR改変Tcmをそれぞれの標的と接触させた場合の増殖をCFSE希釈アッセイにより分析した。刺激を加えた後の二重CAR発現によるTcmの増殖は、CD19CAR発現Tcmと同等のレベルまで亢進されたことが見出された。
【0239】
養子移入されたHer2t T細胞のフローサイトメトリーおよび免疫組織化学法による追跡
現在まで、CAR療法臨床試験の大部分では、PCRに基づく技術によって、治療投与後の遺伝子改変細胞の持続性を定量してきた。Her2tなどの治療特異的遺伝子タグを使用することによって、多くのパラメータによる表現型の分析が可能となり、また、注入されたCAR T細胞サブセットのうち、治療応答と相関しうるもの特定することが可能となる。
【0240】
インビボでの追跡薬剤としてのHer2tの有用性を試験するために、NOD/Scid IL-2RγC
nullマウスにCD19CAR+Her2t+CD4 TcmおよびCD19CAR+Her2t+CD8 Tcmを移植し、このマウスから骨髄検体を採取し、検体を処理した後、試料をフローサイトメトリーで分析した(図5パネルA)。マーカー陰性かつHer2tEGFRtの細胞を投与したマウスと同等レベルのCD45T細胞の生着が認められた(図5パネルB)。CD45T細胞サブセットのうち、CD8の二重染色が11.7~45.7%の細胞で見られ、CD4T細胞が優位に増殖されたことが示された。さらに、ビオチン化ハーセプチンおよびAPC標識ストレプトアビジンを使用したHer2tの共染色により、Her2tT細胞とHer2t陰性T細胞とを区別することができた(図5パネルC)。これらの結果から、Her2tは養子移入されたT細胞の有効な追跡マーカーであることが示された。
【0241】
次に、Her2tが免疫組織化学的(IHC)染色に
おいて有効な標的となるかどうかを判定した。予備試験として、Her2t細胞をスライドに接着させ、ビオチン化ハーセプチンおよび蛍光色素標識ストレプトアビジンで染色した(図5パネルD)。
【0242】
ハーセプチンのHer2tへの結合は、ヒトT細胞に対してADCCを引き起こす
治療中に有害な臨床的事象が発生した場合に備えて、投与するT細胞に安全機構を組み込むことは有利である。GMCSF刺激PBMCとハーセプチンまたはアービタックスとを加えて共培養することによって、Her2tT細胞またはEGFRtT細胞のインビトロ細胞傷害性分析を行う。
【0243】
H9(T細胞)細胞(5
×10個の親細胞、Her2t細胞、EGFRt細胞、またはHer2t/EGFRt細胞)を混合し、精製を行った(図6)。まず、ビオチン化ハーセプチンおよび抗ビオチンマルチソートビーズを使用して細胞を精製した。その後、マルチソートビーズを除去した後、アービタックス-APCおよび抗APCマイクロビーズを使用して陽性画分を精製した。最終的に得られた陽性画分は、Her2tおよびEGFRtに対して二重陽性であった(図6)。
【0244】
この系では、刺激されたPBMCは、抗体の存在下
において、抗体依存性細胞傷害を誘導することが可能なエフェクター細胞として機能する。ハーセプチンまたはアービタックスを共培養に加え、Her2t細胞またはEGFRt細胞を選択的に除去することを目的とする。これらの試験は、Her2tまたはEGFRtを共発現するffluc+Tcmを使用することによって、インビボで行うことができる。この実験条件では、TcmはNOD/Scid IL-2RγCnullマウスに移植され、続いて、ハーセプチンまたはアービタックスと新たに活性化させたPBMCとが投与される。移入されたTcmのインビボでの生着および抗体媒介性除去は、インビボでのバイオフォトニックイメージングにより測定される。ハーセプチンまたはアービタックスにより媒介された除去は、Her2t発現Tcm、EGFRt発現Tcm、またはその両方のマーカーを発現しているTcmに特異的である必要がある。
【0245】
Her2tとEGFRtとの組み合わせによる選択はインビボにおける二重CAR特異性を付与する
この実験は、インビボにおいて選択的な抗腫瘍活性を付与することを目的とする。CD19+、CD20+、またはCD19/CD20+であるK562 ffluc+腫瘍細胞は、NOD/Scid IL-2RγCnullマウスの左脇腹または右脇腹に皮下注射することによって樹立する。腫瘍が樹立された後、CD19CAR-Her2t発現Tcm、CD19CAR-EGFRt発現Tcm、CD20CAR-EGFRt発現TcmまたはCD19CAR-Her2t発現TcmおよびCD20 CAR発現Tcmを静脈内に注射し、バイオフォトニックイメージングによりT細胞特異性を測定する。腫瘍のルシフェラーゼ活性(総光子量)の低下によって、腫瘍の縮小が示される。
【0246】
二重CAR発現Tcmでマウス
を処置した場合、すべての標的腫瘍において腫瘍の縮小が起こると考えられるが、コグネイトなCARを発現しているTcmでマウスを処置した場合は、CD19またはCD20のみを発現するK562腫瘍が退縮すると考えられる。あるいは、前述のようにCD19K562細胞、CD20K562細胞、またはCD19/CD20K562細胞を樹立し、腫瘍が樹立された後にffluc+CAR+Tcmを投与する。CAR特異性に基づくTcmの局在は、バイオフォトニックイメージングにより決定される。二重選択Her2tEGFRtT細胞は、K562腫瘍上の標的抗原に関係なくCD19および/CD20が陽性の細胞に局在化すると考えられるが、CD19またはCD20のCAR発現細胞は、それらの標的抗原に特異的なK562腫瘍に局在化すると考えられる。
【0247】
Her2のドメインIVと膜貫通ドメインとの間へのリンカードメインの導入(Her2tG)は、抗体であるハーセプチンへの結合性を向上する
Her2tおよびHer2tGの一次配列の模式図を図7に示す。Her2tGは、Her2のドメインIVと膜貫通領域との間にリンカー配列が付加された点でHer2tとは異なり、配列GGGSGGGS(配列番号45)を含み、このような構築物をHer2tGと呼ぶ。Her2tまたはHer2tGを有するレンチウイルスをMOI=1で使用して、H9細胞に形質導入した。その後、製造元のプロトコルに従って、ビオチン化ハーセプチンおよび抗ビオチンマイクロビーズにより形質導入細胞を精製した。その後、ビオチン化ハーセプチンおよびストレプトアビジン-PEを使用して、精製した細胞集団のHer2t染色またはHer2tG染色を行った。ヒストグラムは、Her2tGへの結合の方が強いことを示す(図8)。図9に示すように(左のグラフから右のグラフの方向に参照されたい)、0.05μl、0.1μl、0.25μl、0.5μl、1μlまたは3μlのレンチウイルスでH9細胞に形質導入した5日後にハーセプチンへの結合について分析した。Her2tのバリアントであるHer2t(CD28ヒンジ)は、元のHer2tと同レベルでハーセプチンに結合することができた(Her2t染色は示していないが、過去の実験に基づく)。Her2t(IgG4ヒンジ)は、Her2tまたはHer2t(CD28ヒンジ)よりもハーセプチンへの結合が増強されたが、Her2tGバリアントは、ハーセプチンに結合する能力が最も高く、形質導入H9細胞を染色する能力も最も高かった。
【0248】
この実験で示したように、Her2tG構築物は、Her2tのドメインIVと膜貫通ドメインとの間にリンカー(配列番号45)を有する。このリンカーは、タンパク質ドメイン間に柔軟性を持たせることを目的として使用される。別の例では、CARのscFvの多くは、CARのscFvのVhドメインとVlドメインとの間に4つの連続的G3Sサブユニットを含む。これにより、2つのscFvドメインに柔軟性を付与することができ、scFvを折りたたむことが可能となる。ここでの原理は、2つのG3Sリンカーサブユニットを使用することによって、Her2tGの柔軟性をHer2tと同レベルまで高めることができるということである。
【0249】
2つのG3Sリンカーサブユニット(配列番号45)を使用することによっても、CD28のヒンジ領域およびIgG4のヒンジ領域のスペーサーの長さを模倣することができた。CD28のヒンジ領域およびIgG4のヒンジ領域は、機能性CARのscFvと膜貫通領域との間のスペーサーとして使用されている。CD28のヒンジ領域およびIgG4のヒンジ領域は、二量体化を容易にするシステインを含む。この二量体化はCARには有利であるが、Her2tの柔軟性を抑制するため、ハーセプチンによって有効に認識されない可能性がある。3つまたは4つのG3Sリンカーよりも2つのG3Sリンカー(配列番号45)を使用することの利点は、ベクターのペイロードを抑制できること、不要だと考えられる配列を排除し、かつ機能性を向上させることであった。
【0250】
本明細書において多目的細胞表面マーカーを述べるが、このマーカーをHer2tと呼ぶ。この新規のマーカーは、完全長Her2を構成する1255個のアミノ酸のうち、わずか113個のアミノ酸を含み、完全なHer2の細胞内シグナル伝達に関与する細胞外ドメインまたは細胞内ドメインを含んでいない。造血細胞はHer2発現を欠いていることから、Her2tを導入遺伝子選択マーカーの有力な候補とすることができ、この選択マーカーは、機能的には不活性であるがドナーT細胞を精製することができる均一な導入遺伝子発現治療用製品として設計することができる。Her2tの設計は、ヒトGM-CSF受容体α鎖のリーダーペプチドにN末端Her2tフラグメントを融合させることを含む。この融合は、Her2tの表面発現を容易にすることができ、医薬品グレードのモノクローナル抗体トラスツズマブ(ハーセプチン)により最小単位の結合エピトープを特異的に認識させることが可能となる。
【0251】
Her2t
は、cDNAフットプリントが最低限の大きさのため、単独で発現させることができ、あるいは、生物学的に活性な導入遺伝子、すなわちキメラ抗原受容体(CAR)とともに自己不活性化型レンチウイルスベクターに同調的に組み込むこともできることが示された。T2Aリボソームスキップリンカーを介してHer2tをCARに付加することによって同調的な導入遺伝子の発現が達成され、この同調的な導入遺伝子の発現は、Her2tにより精製されたCD8セントラルメモリーT細胞をフロー分析およびウェスタンブロット分析することによって検証された。さらに、Her2tは、EGFRtによる選択よりもストリンジェントな選択を行うことができる選択エピトープであり、CARの発現が強くかつエフェクターサイトカインの産生が増加したT細胞をエクスビボで選択することを可能にするものであることも示された。このような特徴は、CAR療法を複数の種類の腫瘍の治療に適用する場合のように、さらに高い導入遺伝子の発現が望まれる場合に有利であると考えられる。
【0252】
T細胞
において導入遺伝子の発現レベルを高めることに加えて、複数の腫瘍抗原に対する二重特異性を個々のT細胞に付与することも臨床的に有益であると考えられる。実際に、標的抗原のダウンレギュレーションや変異は、様々な種類のがんにおいて見られ、そのため、単一のCARによる治療戦略を超えた戦略が必要とされている。これに伴って、Her2tは、EGFRtに対する相補的な選択エピトープであることが示され、このような選択エピトープをそれぞれのCARに付加した場合に、マルチソーティングによる二重CAR発現T細胞の精製が容易になることが示された。細胞傷害性活性およびエフェクターサイトカインの産生は、単一のCARを発現するT細胞と二重CAR発現T細胞との間でほとんど差がなかったことから、Her2tおよびEGFRtを個別に発現させたり、これらを同調的に発現させても、何ら明白な機能障害は生じないことが示された。
【0253】
ハーセプチンは
、ビオチン化または化学標識に適している。ハーセプチンは市販用に製剤化されているため、臨床グレードのHOで再構築され、ビオチン化された後でもHer2に特異的な結合親和性が高いまま保持されている。このような理由と、cGMPグレードの抗ビオチンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)の入手が容易であることから、CliniMACS装置上での治療的に有意義なHer2t細胞の選択が可能となる。13.8%程度のHer2t陽性しか含まない細胞集団を、90%を超える純度にまで免疫磁気的に濃縮することができることが示された。さらに、これらの結果から、T細胞マーカーを標的とする抗体とビオチン化ハーセプチンとを組み合わせて、多くの表現型パラメータを分析すること、および治療的CAR発現T細胞のインビボでの分布を追跡することが可能になることが示された。
【0254】
CAR免疫療法の治療
適用範囲は、血液由来腫瘍の治療における最初の成功を踏まえて、急速に拡大し続けている。本質的に非免疫原性で、T細胞集団に特異的であり、かつ高効率に選択できる遺伝子タグの代替が必要とされているのは明らかである。Her2tは、上述の特徴を包含し、CAR療法に使用可能な選択エピトープのレパートリーを増やすことができる。さらに、Her2tは、マルチプレックス遺伝的システムによるCAR治療薬を同調的に選択するための有力な候補である。
【0255】
Her2t
を使用することの利点は、その小さいサイズにある。したがって、Her2tは、自体よりも大きな構築物においてパッケージング効率がよいという利点を有する。このシステムを利用するためには、5kb未満の構築物にすることが好ましい。いくつかの実施形態において、構築物のサイズは、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、10kb、11kb、12kb、13kb、14kb、14.9kb、またはこれらの構築物サイズのいずれか2つの間の任意のサイズである。15kbを超える構築物は力価が低くなる可能性があるため、構築物のサイズは小さくする必要がある。
【0256】
前述の
実施例は本発明を例示するものであり、本発明をなんら限定するものではない。本発明は、以下の請求項によって定義され、請求項の等価物も本発明に含まれる。本明細書において引用した参考文献および論文はいずれも参照により本明細書に組み込まれる。









図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C-1】
図4C-2】
図4C-3】
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
【配列表】
0007106610000001.app