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特許7106637均一な厚さを有する鋼の部分的冷間変形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】均一な厚さを有する鋼の部分的冷間変形方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/22 20060101AFI20220719BHJP
   C21D 7/02 20060101ALI20220719BHJP
   B21C 37/02 20060101ALI20220719BHJP
   B21B 3/02 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
B21B1/22 K
C21D7/02 E
B21C37/02
B21B3/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020520149
(86)(22)【出願日】2018-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2018077648
(87)【国際公開番号】W WO2019072937
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-05-19
(31)【優先権主張番号】17195782.2
(32)【優先日】2017-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591064047
【氏名又は名称】オウトクンプ オサケイティオ ユルキネン
【氏名又は名称原語表記】OUTOKUMPU OYJ
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・リンドナー
(72)【発明者】
【氏名】クレア・ハイデッカー
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-082104(JP,A)
【文献】特開平07-060306(JP,A)
【文献】特開平11-192501(JP,A)
【文献】特表2014-530298(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0328899(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0047573(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第10149183(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102005031461(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016103539(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00 - 1/84
B21B 3/02
B21C 37/02
C21D 7/02
H01M 50/10 - 50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のプロセスステップとしての冷間圧延、第2のプロセスステップとしてのアニールプロセス及び最終プロセスステップとしてのさらなる冷間圧延を実行して、材料の長手方向において機械的特性の値が異なる少なくとも2つの領域を有する均一な厚さの鋼板を得るバッテリー収容部保護用冷間圧延部材の製造方法であって、
前記冷間圧延部材は、少なくとも2つの連続領域において、5≦Φ≦60%の範囲の成形度(Φ)に変形され終局荷重比ΔFと厚さ比Δtとの間の比(r)が1.0<r<2.0の範囲である異なる機械的値を有し、前記冷間圧延部材のより強度が高い領域が前記バッテリー収容部の非変形ゾーンとして働き、反対に、前記冷間圧延部材のより延性が高い領域は前記バッテリー収容部の側方に突出する構造的に与えられた変形ゾーンとして働くことを特徴とするバッテリー収容部保護用冷間圧延部材の製造方法。
【請求項2】
前記冷間圧延が、フレキシブル冷間圧延によって実行されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷間圧延が、回転軸が偏心しているローラを使用する冷間圧延によって実行されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
成形度(Φ)が40%以下であり、前記終局荷重比ΔFと厚さ比Δtとの間の比(r)が1.2<r<1.75の範囲内であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
変形される前記材料がオーステナイトTWIP硬化鋼であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多段階圧延及びアニールプロセスを利用する鋼の冷間変形方法に関し、帯材又はコイルの長手方向に機械的及び/又は物理的特性において異なる値を有する少なくとも2つの領域を有する均一な厚さの鋼板を得る。
【背景技術】
【0002】
特に自動車の車体、鉄道又は商用車両のような輸送システムの製造、また他の機械工学用途においては、技術者は、部材並びに組み立てられた製品に対する局所的に変化する要件を実現するために、適切な材料を適切な位置に配する構成を使用する。そのような場合、軽量と安全性(車体)又は熱プラス腐食耐性と費用効率(排気システム)のようなおそらく相反する要件は技術者に課題を示す。確立されたソリューションは、いわゆる「注文仕立て製品」が送達され得る1つの組み立てられた製品において異なる材料を使用するいわゆる「多材料デザイン」である。注文仕立て製品は、少なくとも2つの異なる材料グレード及び/又は材料厚さの組み合わせである金属製品である。注文仕立て製品は、それらの製品形態(コイル、帯材、シート材、ブランク材、管)、又は注文仕立て溶接製品、注文仕立て継ぎ合わせ製品、注文仕立て貼合せ製品又は注文仕立て圧延製品のような使用される製造/組み立てプロセスに応じて分類することができる。
【0003】
技術水準の注文仕立て圧延製品は、それらの長さに沿って異なる材料厚さによって特徴付けられ、単一の初期ブランク材を作製するために切断することができる。フレキシブル圧延ブランク材は、自動車部品のピラー、クロス及び長手材などの衝突関連部材に適用される。また、鉄道車両ではフレキシブル圧延ブランク材が側壁、屋根又は連結部品に使用され、更に、バス及びトラックでも、フレキシブル圧延ブランク材が適用される。しかし、従来技術では、フレキシブル圧延製造プロセス中に、機械的特性が製品全体にわたって同じままであるため、フレキシブル圧延ブランク材の「適切な材料」とは単に、適切な位置に適切な厚さを有する。
【0004】
従って、荷重付加の場合に終局荷重Fに抵抗する部材の工学的構築方法は、単に厚さを適合させることである。また、フレキシブル圧延領域と非圧延領域の間において材料の厚さ、引張強度R及び幅の積としての終局荷重の比Fは一定でなければならない。従って、その後の成形プロセスで、強度及び延性が異なる領域を形成することは不可能である。通常、フレキシブル圧延又は偏心圧延プロセスに続いて、再結晶化アニールプロセス及び亜鉛めっき処理が行われる。
【0005】
ドイツ特許出願第10041280号は、フレキシブル圧延ブランク材全般に関する初期の特許である。これは、異なる厚さを有する金属帯材の製造方法及び装置について記述している。それを実現する方法は、上部及び下部ロールを使用して、ロール間隙を変更することである。しかしながら、このドイツ特許出願第10041280号は、厚さが強度及び伸度に及ぼす影響、並びに強度、伸度及び厚さの相関関係については全く記述していない。更に、オーステナイト材についての記載がないため、この関係に求められる材料についての記述もない。国際公開第2015/107393(A1)号はまた、長さに沿って可変の厚さを有する帯材を製造するための方法を記述している。
【0006】
米国特許出願公開第2006/033347号では、様々な自動車ソリューションに用いられるフレキシブル圧延ブランク材、及び不等厚シート材の使用方法について記載している。また、米国特許出願公開第2006/033347号は、様々な部材にとって重要な、シート材の必要厚さの曲線について記載している。しかしながら、強度及び伸度、強度と伸度と厚さとの間の相関関係、並びにこのような関係を得るために必要とされる材料に対する影響については、記載されていない。
【0007】
国際公開第2014/202587号は、厚さ不定の帯材を使用して自動車部品を製造する製造方法について記載している。国際公開第2014/202587号は、22MnB5などの加圧硬化可能なマルテンサイト低合金鋼の加熱成形方式での使用に関するものである。しかしながら、厚さに対する機械的値-技術的値の関係についての記載のみならず、記述されている特定の微細構造特性を有するオーステナイト材についての記載もない。
【0008】
欧州特許出願第16191364.5号は、変形時にオーステナイト鋼のTWIP(双晶誘起塑性)、TWIP/TRIP又はTRIP(変態誘起塑性)硬化効果を利用して、オーステナイト鋼の冷間変形を行う改良された方法を実現して、機械的特性及び/又は物理的特性の値が異なるオーステナイト鋼製製品における領域を達成することを最初に記述する。ここでの1つの欠点は、そのような局所的に異なる値が厚さに依存することである。成形、プレス加工、溶接、又はろう付けのような部材製造プロセスでは、均一な厚さは、同時により良好な繰り返し精度及び再現性並びにより低い不具合率で、より容易な取り扱いを可能にする。
【0009】
欧州特許出願第2090668号は、高強度鋼製品を製造するプロセスに関し、製品は、熱間圧延及び/又は冷間圧延及びアニールTWIP鋼から製造され、降伏強度と引張強度との初期比 を有し、続いて一部のTWIP鋼を冷間抽伸させ、これは部品における降伏強度及び引張強度の所望の比 が得られるように選択される。本発明はまた、注文仕立て圧延ブランク材を製造するプロセス及びそのようなブランク材に関する。
【0010】
国際公開第2009/095264号は、TWIP鋼帯材の製造方法に関し、それにより、溶融鋼は、1つ以上のストランドを有する連続鋳造機内で鋳造されて、少なくとも30mm及び最大120mmの厚さを有するスラブであって、鋳造熱の使用を使用しながら、炉装置を通って搬送され、1つ以上の圧延スタンドを含む熱間圧延ミル内で、所望の最終厚さ(hf)の鋼帯材に熱間圧延され、i.エンドレス圧延プロセスにおいて、a.連続鋳造機内、炉装置内の鋼と熱間圧延ミル及び任意の強制冷却ゾーンとの間の材料接続が存在するか、又は、b.複数のストランドのスラブが連続スラブを形成するように接続され、それによって、炉装置内の鋼と熱間圧延ミル及び任意の強制冷却ゾーンとの間の材料接続を達成するか、又はii.半エンドレス圧延プロセスにおいて、炉装置内の鋼と熱間圧延ミル及び任意の強制冷却ゾーンとの間に材料接続があり、エンドレス又は半エンドレス圧延後、及び任意の強制冷却後の帯材は、その後巻かれる所望の長さの部分に切断される。
【0011】
国際公開第2015/107393号は、自身の長さに沿って可変の厚さを有する帯材の製造方法に関し、当該方法は、自身の長さに沿って初期帯材を均一に冷間圧延して、圧延方向に一定の厚さを有する中間帯材を得るステップと、-自身の長さに沿って中間帯材をフレキシブル冷間圧延して、その長さに沿う可変の厚さと、第1の厚さ(e+s)を有する第1の領域と、第1の厚さ(e+s)未満の第2の厚さ(e)を有する第2の領域とを有する帯材を得るステップと、帯材の中間アニールを得るステップとを含む。任意の中間アニール後、第1の領域内の均一な冷間圧延及びフレキシブル冷間圧延のステップから得られる塑性変形率は、30%以上である。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、帯材又はコイルの長手方向に異なる値及び/又は物理的特性を有する少なくとも2つの領域を有する、均一に一定の厚さの鋼板を得るために、多段階圧延及びアニールプロセスを利用することによって、鋼の冷間変形のための改善された方法を達成することである。本発明に関する多段階プロセスは、一般に、3つのステップからなることを意味し、第1のステップはフレキシブル圧延であり、第2のステップはアニールであり、第3のステップは、第1のステップに対して逆の順序での最終的なフレキシブル圧延であり、そのため第3のステップは、ステップ1と逆の順序で実行され、最終プロセスステップは帯材のアニールである。本発明の重要な特徴は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0013】
本発明による方法において、出発材料として長手方向に均一な厚さを有する鋼製の熱間又は冷間変形帯材、シート材、板材、又はコイルが使用される。出発材料の更なる(冷間)変形における厚さ減少は、降伏強度、引張強度、及び伸度などの材料の機械的特性における特定のバランスのとれた局所的変化と組み合わされる。第1のプロセスステップの(冷間)変形は、フレキシブル冷間圧延として、又は偏心冷間圧延として実施される。材料の厚さは、特に、鋼の(冷間)成形/圧延の方向に対応する材料の長手方向の延在方向に、一方向に沿って可変である。部分的/局所的(冷間)変形領域は、所望の最終厚さを有し、かつ強度の増大を示し、変形した製品のその部分における伸度が同時に減少する。第2のプロセスステップにおいて、部分的に変形した金属は、結果として、製品の長手方向に異なる厚さを有するが、至る所で均一な材料特性を有するようにアニールされる。一般的な手順はここまで、技術水準のプロセスからある程度既知である。ここで、最後のプロセスステップとして、本発明の方法を使用すると、第3のステップは、フレキシブル冷間圧延として、又は偏心冷間圧延として、しかし、第1のステップとは逆の順序で実施され、その結果、以前は厚かった領域が、既に薄い変形領域の厚さレベルに(冷間)変形される。その結果、最終的な(冷間)変形された製品は、至る所で均一な厚さを示すが、帯材の長手方向の機械的特性において部分的に/局所的に異なる値を有する。アニールステップの前に(冷間)変形された領域は、より低い強度及びより高い延性を特徴とするアニール状態にある。逆に、最後のプロセスステップにおいて(冷間)変形された領域は、より低い延性を有する増加した強度によって特徴付けることができる。記載された領域間の遷移ゾーンは、それらの機械的、技術的、及び物理的特性の点で均一な遷移によって特徴付けられる。エッジの急峻度は逆でなければならないが、均一な厚さを確実にするために、本発明の第1のプロセスステップと最後のプロセスステップとの間で一定でなければならない。従って、調整されたエッジの急峻度により、遷移ゾーンの長さは、製造を意識した、及び目的に適合する方法で最終部材に影響されかつ調整され得る。
【0014】
最大厚さ減少Δhは、流れ曲線によって規定される、材料に依存する値である。流れ曲線の1つの主な値は、N/mm単位の流れ応力Kである。成形度φは、形状変化値として、成形プロセスによる部分の永久的な幾何学的変化を一般的に規定する。表1は、様々なグレードのための典型的な技術的に可能な成形度を示す。
【0015】
【表1】
【0016】
本発明の方法では、材料は冷間圧延によって冷間変形され、冷間変形した材料の長手方向及び/又は横断方向において、初期(最後のステップの前を意味する)の厚さ、降伏強度RP0、2[MPa]、引張強度Rm[MPa]、及び伸度A80[%]との間の異なる特定の関係を有する材料における少なくとも2つの領域を達成する。最大成形度は、Φ≦70%以下であるべきである。最後のプロセスステップ後の全ての領域において一定の厚さを実現するために、第1及び逆の順序の第3のプロセスステップの成形度は同一でなければならない。理論的には、第1のプロセスステップと第3のプロセスステップの方法を、3つの主要なプロセスステップの順序を変更せずに、最後に合計で同じ成形度を有する異なる中間プロセスステップに分割することができる。経済的な効率に関して、本発明の方法を3つの記載された主要なステップで実施することが好ましい。
【0017】
ほぼ最終厚さまで圧延され、次いで、より低い強度及び高い延性で最後のステップの間にアニールされ、ほぼ変形されない領域1Aを規定することができる。更に、第1のステップの間に冷間圧延によってほぼ影響されず、次いで、アニールされ、最終ステップで冷間変形されて、より低い延性と共に高強度を示す、領域2Aを規定することができる。領域は、以下のように定義され、
=L t (1)
ここで、Lは領域[mm]のプラットフォーム長であり、wは一定の製品幅[mm]であり、tは最終的な均一な厚さである。
【0018】
領域は、これらの領域間の長手方向及び/又は横断方向の遷移領域を通して、有利には互いに接触している。遷移領域の前後の異なる機械的値を有する連続領域では、アニールされた材料の終局荷重 及び最終ステップで変形された材料の終局荷重Fは、以下の式で規定され、
=Rm1 t (2)
及び、
=Rm2 t (3)
【0019】
本発明と比較して、技術水準プロセスの計算規則は、
=R (4)
及び、
=R (5)
ここで、引張強度は一定であり、厚さは可変である。
【0020】
材料の幅を一定の係数として維持することで、厚さtとtとの間のパーセンテージとしての終局荷重比ΔFは、
ΔF=(F/F) (6)
それぞれ、荷重F1とFとの間のパーセンテージとしての厚さ比Δtは、
Δt=(t/t) (7)
本発明では、Δt=1.0は常に有効である。
【0021】
ΔFとΔtとの間の比rは、
r=ΔF/Δt=Rm2/Rm1 (8)
【0022】
更に、比rΦは、比rと成形度Φとの間でパーセントで、以下の式で規定され、
Φ=(r/Φ)100 (9)
【0023】
本発明によれば、比rは、1.0<r<2.0、好ましくは1.20<r<1.75の範囲内であり、終局荷重比ΔFは1.0より大きく、好ましくは1.2より小さい。また、成形度Φは、5≦Φ≦60、好ましくは10≦Φ≦40の範囲であり、比rΦは4.0より大きい。
【0024】
アニールされた材料を使用する技術水準では、アニール条件に起因して、コイル全体にわたって幅が一定であり、引張強度も同様であることを考慮すると、厚さは影響を及ぼす唯一の変数となる。本発明の材料では、領域当たりの耐え得る最大荷重は、前述したそれらの特定の材料依存特性によって、またそれらの特定の合金化概念及び微細構造に基づいて設計される。
【0025】
工作物硬化レベルが異なるため(ここで、レベルは、材料依存厚さ減少と、各用途に対して注文仕立てされる最終値とによって影響される)、本発明により、引張強度Rは主要な影響を及ぼす変数であり、式(2)及び(3)は式(8)に移行され得る。式(6)は厚さが異なる領域の力比及び式(8)の比rによって、厚さtと引張強度Rとの間の関係に結び付けられることを示している。本発明では、tとtとの間の比として多段階プロセスの異なるステップ中に使用された厚さ比Δtは、毎回全プロセスの終わりに係数1.0を有する。式(7)の値は、最後のプロセスステップ後Δにt=1.0であり、常に有効である。本発明の材料は、全ての場所で多段階プロセスを終了した後、標準DIN_EN_ISO_9445-2による許容差の2倍値、より好ましくは標準による値を有するほぼ一定の厚さを有する。一例として、1250mmの製造幅を有する1.5mm材料に対する厚さ許容差は、±0.120mm、より好ましくは±0.060mmである。これは、異なる領域の厚さの点において著しい差を有する、技術水準のフレキシブル圧延プロセスの全ての状態との重要な違いである。本発明により製造された材料を表す別の方式を、式(9)から得られ、この式では、材料特有の成形度Φと式(8)で得られる比rとの関係が示されている。成形度は変形パラメータであり、一般には、成形プロセス時の部材の継続的な幾何学的変化を表している。よって、式(9)の関係を、更なる強度の利益を得るためにはどの程度の試みを行わなければならないかを示す目安として用いることができる。本発明では、rΦは≧4.0とすべきであり、さもなければ、より良好な荷重のための硬化値を達成する試みが非効率になる。
【0026】
本発明による冷間変形された製品を更に細断して、シート材、板材、切口入り帯材などにしたり、コイル又は帯材としてそのまま納品したりすることができる。これらの半製品を更に管として加工したり、又は使用目的に応じて他の所望の形状に加工したりすることもできる。
【0027】
本発明の利点は、使用される鋼と組み合わせて、高強度の領域と高い延性の領域が均一な厚さで組み合わされることである。従って、本発明は、厚さの変化により、加工パラメータの必要なプロセス内調整を必要とせずに、形成、プレス加工、溶接、又はろう付けプロセスを行う部材製造者に利益を与える。その結果、作業者の操作は、部材製造のためのより高い繰り返し精度及び再現性、並びにより低い不具合率により、より容易である。一例として、挿入されたシート材を、(注文仕立て製品の溶接のための)溶接継目又はシート厚さが局所的に望ましくないツールへ再配置することに起因する不具合が発生しない。従って、本発明は、冷間圧延プロセスによるシート材、板材又はコイルの機械的特性についての特定の安定した局所変化を均一な厚さと組み合わせることで、従来技術による他のフレキシブル圧延ブランク製品とは区別される。従って、後続の局所的アニール及び低い生産量を伴うプレス硬化などの、エネルギー消費量が多く費用のかかる熱処理は不要である。
【0028】
本発明を用いることにより、その成形可能性により、材料を薄くすると同時に材料の(更なる)硬化を可能にした、より延性が高い領域が局所的に得られるフレキシブル圧延材料又は偏心圧延材料を完成させることができる。その一方で、深絞り部材の底部など、部材領域には、深絞りプロセス時の変形度が低すぎるために、通常では硬化効果を得ることのできない、高強度で薄い領域がある。
【0029】
本発明に関連して好ましくは有用な鋼は、
・一般にステンレス鋼
・TWIP、TRIP/TWIP、又はTRIP硬化効果と組み合わされたオーステナイト微細構造を有する鋼
【0030】
ステンレス鋼を使用することにより、更なる表面コーティングを施す必要がなくなる。材料が車両用の部材に使用される場合、車体の標準的な電気泳動塗装で十分である。これは、特に、費用、生産複雑性、及び防食性の点で、特に湿食部材に対して有益である。本発明と組み合わせて、均一な厚さのため、取り扱いがより容易であり、品質がより良好であるという塗装の点で、更なる利点がある。ステンレス鋼では、塗装のために指摘された同じ利益で、フレキシブル冷間圧延プロセス又は回転軸が偏心しているローラを使用する冷間圧延プロセスの後に、後続の亜鉛めっき処理プロセスを回避することが更に可能である。ステンレス鋼の周知の特性を参照すると、最終的な冷間圧延材料は、非変倍、熱、腐食、及び耐酸性の点で向上した特性を有する。ステンレス鋼の周知の特性に関し、最終的な冷間圧延材料では、非スケール特性、熱特性、腐食特性及び耐酸性特性が向上する。従って、本発明の冷間圧延材料は、排気システムのような高温方式での用途に使用することができるが、バッテリーハウジングのようなバッテリー駆動車両の部材にも使用することができる。完全オーステナイト系TWIP硬化(ステンレス)鋼の更なる利点は、成形又は溶接などの条件下で非磁性特性を有することである。従って、これらの鋼は、本発明のフレキシブル圧延材料として電気エンジンのようなバッテリー式電気自動車部材の用途に適している。
【0031】
本発明で製造される材料は、衝撃に耐えるために、変形し、エネルギーを吸収するための高い延性を局所的に必要とし、他の箇所で高い強度を必要とする衝突関連部品に特に好適である。このような例は、クラッシュボックス、Bピラー又はばねであり、ばねは異なる部分に対して異なるばね定数Dによって規定される。ばね定数は、以下のように一般的に定義され、
D=(EA)/L (10)
Eは一般に、材料に依存するヤング率[N/mm]、L[mm]は、ばね又はばね様部材の初期長さであり、Aは断面積[mm]である。
【0032】
本発明の材料は、補償ばね定数を直列接続として規定することができる合成ばねのように機能し、
D=Σ1/D=1/D+1/D+1/D+...+1/D (11)
各フレキシブル圧延領域は、1つの独自のばね定数Dをもたらす。
【0033】
ヤング率は、本発明のフレキシブル圧延材料の全ての領域に対してほぼ一定であるが、冷間硬化された高強度領域は、塑性変形が追従するか、又は局所的降伏強度に達する前に、より高い荷重に耐えることができる。
【0034】
本発明により製造される部材は、
・エアバッグ筒などの自動車部材、シャーシ部品、サブフレーム、ピラー、クロス又は長手方向部材、溝型材、ロッカーレールなどの自動車の車体部材であり、
・半製品シート材、管又は異形材を備えた商用車部材であり、
・側壁、床、又は屋根など、≧2000mm連続長を有する鉄道車両部材であり、
・帯材又は切口入り帯材から製造された管であり、
・衝突関連のドア側インパクトビームなどの自動車用拡張部材であり、
・電気自動車用の非磁性特性を備えた部材であり、
・切断ナイフ、鋤べら、又は農業用途の延長アームのような構造部材のような耐摩耗性及び/又は耐腐食部材であり、
・車、トラック、又はバス用のシャーシ部材であり、
・局所的に異なるばね定数を意味するセグメント化領域を有するばねとして使用され、
・輸送用途に適する圧延成形又は液圧成形部材である。
【0035】
本発明の材料で製造された好ましい部材は、バッテリー式電気自動車(BEV)用のバッテリー収容部を支持するクロス部材であってもよく、それによって、より高い強度領域がバッテリー収容部自体を覆う。より低い強度領域は、バッテリー式電気自動車への衝撃中に構造的に与えられた変形ゾーンになるように側方に突出し、従って、衝撃エネルギーを吸収する。これにより、より高強度領域は、非変形ゾーンである。
【0036】
本発明の別の好ましい実施形態は、このような材料を、車両の幅方向に完全に閉じられたリングとして使用することである。技術水準では、典型的な乗用車は、屋根及び車両床にクロス部材を補完し、互いに又は他の周囲の部材に組み立てられた2つのbピラーを備えて設計されている。本発明の材料では、連続的な厚さを同時に有する異なる強度ゾーンを作製することが可能である。その結果、1つの大きなリングを使用することができ、それにより、屋根及び床のブースbピラーとクロス部材が一体化される。この組立は、リングを閉じるために、1つの接合動作に低減される。これにより、車両製造の費用が低減され、接合動作、必要な投資及び生産時間が節約される。材料製造の観点から、これらのクロスリングの様々なものは、更に高い費用効率をもたらすように廃棄物の量が少ない最適な材料容量を有するように、幅にわたって平行に配置することができる。クロスリングは、コイル又は帯材の全長にわたって同じ圧延及び切断順序を繰り返すコイル又は帯材長さを意味する圧延方向において、反復的に配置され得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
以下の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
図1】部分的/局所的冷間変形領域は、所望の最終厚さを有し、かつ強度の増大を示し、変形した製品のその部分における伸度が同時に減少する、第1のプロセスステップを示す。
図2】最終プロセスステップが第1のステップとは逆の順序で実施され、その結果、以前は厚かった領域が、既に薄い変形領域の厚さレベルに(冷間)変形された後の材料を示す。
図3】本発明の方法で製造された材料の1つの好ましい適用例を示す。
図4】本発明の方法で製造された材料の別の好ましい適用例を示す。
図5】本発明の方法で製造された材料の別の好ましい使用法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1において、技術水準が示され、より高い厚さ(t=初期厚さ)を有する領域2が、全ての材料領域において一定の機械的値-技術的値を有することによって、より高い荷重領域に使用される。領域1は、冷間圧延後の最終厚さtを有する薄くされた領域を示す。図1はまた、本発明のステップ1を示す。
【0039】
図2には、冷間硬化を伴い、従って、より高い強度レベルを有する領域2が、全ての材料領域において一定の厚さt(加工後の最終厚さ)を有することによって、より高い荷重領域に使用される本発明が示される。
【0040】
図3は、自動車のbピラーを示す。乗員の首部及び頭部領域である上部領域では、好ましくは非変形部材領域を作り出し、従って乗員を保護するために、より高い初期強度レベルが必要とされる。Bピラーの下部領域では、部材製造中の部品の複雑な形成を可能にするために、著しくより延性の高い材料が必要とされる。同時に、衝突中にエネルギーを吸収し、このように乗員を保護するためには、成形後に高い延性が残っていることが好ましい。
【0041】
図4は、自動車のダッシュボード支持ビームを示す。本発明の方法で製造された材料は、管の長手方向に機械的及び/又は物理的特性において異なる値を有する少なくとも2つの領域を有する長手方向溶接管に更に加工された。次に、液圧成形プロセスは、最終部材の幾何学的形状を形成するために続く。成形度が低くないか、又は成形度が低い領域は、本発明の方法でより高い初期強度を有するように設計することができる。他の側の複合形成領域は、本発明の方法により、より延性を有する寸法にされる。完全オーステナイト系TWIP鋼を使用すると、複合形成領域は、部材の製造中に硬化し、下部又は非形成領域は、本発明の方法により、初期に高い強度を有する。
【0042】
図5は、本発明の方法で製造されたコイル又は帯材の切断パターンを示す。これにより、クロスリングは形状的に単一の部品の2つのbピラー、屋根クロス部材、及び床クロス部材を一体化する。そうすることで、様々なクロスリングを幅にわたって平行に配置して、廃棄物の量が少ない最適な材料容量を有することができる。図5及びそれゆえ、クロスリングは、コイル又は帯材の全長にわたって同じ圧延及び切断順序を繰り返すコイル又は帯材長さを意味する圧延方向において、反復的に配置され得る。図5では、より高い強度であるが、より低い延性の材料領域は、通常「HS/LD」で特定され、樹木状bピラー及び屋根クロス部材について、図5に例示的に示されている。これらの領域では、非変形ゾーンを有する耐衝撃性が必要である。他の側面では、より低い強度であるが、より高い延性の材料領域は、通常「LS/HD」でマークされており、bピラー脚部、屋根へのbピラーリンク、及び車体下部クロス部材が図5に例示的に示されている。Bピラー脚部は、衝突エネルギーの吸収が課され、一方、屋根へのbピラーリンクは、領域を屋根の長手方向構造体と接続するために高い延性を必要とする。また、車体下部クロス部材は、部材の剛性を増大させるために複雑に形成されるため、高い延性が必要とされる。高強度材料領域とより低い強度材料領域との間の遷移ゾーンは、図5に「T」で特徴付けられる。
【0043】
本発明による方法を、ステンレス鋼1.4301(TRIP硬化オーステナイト、CrNi合金化)、1.4462(フェライト-オーステナイト複合体、CrNiMo合金化)及び1.4678(TWIP硬化完全オーステナイト、CrMn合金化)を用いて、本発明による方法を試験した。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5