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特許7106688薬剤識別システム、薬剤識別装置、薬剤識別方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】薬剤識別システム、薬剤識別装置、薬剤識別方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20220719BHJP
   A61J 3/00 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
G06T7/00 300F
G06T7/00 350C
G06T7/00 300D
A61J3/00 310Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020571113
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2020002946
(87)【国際公開番号】W WO2020162262
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2019021802
(32)【優先日】2019-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149837
【氏名又は名称】富士フイルム富山化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】岩見 一央
【審査官】間野 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-535108(JP,A)
【文献】特開2014-53791(JP,A)
【文献】特開2014-95652(JP,A)
【文献】特開2017-194413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
A61J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤のサイズ及び形状の規格化に使用する指標を有し、識別対象の薬剤が載置されるトレーと、
ディスプレイと同じ面側にカメラを有するカメラ付き携帯端末と、
前記カメラ付き携帯端末により撮影された画像に基づいて前記薬剤を識別する薬剤識別装置と、から構成された薬剤識別システムであって、
前記カメラ付き携帯端末は、
薬剤識別の指示入力を受け付けると、前記ディスプレイの発光領域を変更し、前記トレーに載置された前記薬剤への照明方向を複数回変更するディスプレイ制御部と、
前記ディスプレイの発光領域の変更により照明方向が異なる前記薬剤を前記カメラにより複数回撮影させ、前記薬剤の複数の第1画像を取得する画像取得部と、を備え、
前記薬剤識別装置は、
前記複数の第1画像に写っている前記指標に基づいて前記複数の第1画像をそれぞれ規格化する規格化部と、
前記規格化後の前記複数の第1画像からそれぞれ薬剤領域の画像を抽出する画像抽出部と、
前記抽出された複数の薬剤領域の画像に基づいて前記薬剤に付された刻印又は印字を強調する強調処理を施した第2画像を生成する画像処理部と、
前記生成された前記第2画像に基づいて前記薬剤を識別する薬剤識別部と、を備えた、
薬剤識別システム。
【請求項2】
前記画像処理部は、前記抽出された複数の薬剤領域の画像からそれぞれ前記照明方向に応じた方向のエッジ抽出フィルタを使用して複数のエッジ画像を取得し、前記複数のエッジ画像を使用して前記第2画像を生成する請求項1に記載の薬剤識別システム。
【請求項3】
前記トレーは、サイズ及び形状が既知の格子状の仕切りを有し、
前記格子状の仕切りに区画された載置面には薬剤が載置され、
前記格子状の仕切りは指標を兼ねる請求項1又は2に記載の薬剤識別システム。
【請求項4】
前記トレーの前記格子状の仕切りにより区画された前記薬剤の載置面の色は、色相、明度及び彩度のうちの少なくとも1つが、1又は複数の載置面毎に異なる請求項3に記載の薬剤識別システム。
【請求項5】
前記画像取得部は、前記複数の第1画像として、照明方向が異なる3つ以上の画像と前記ディスプレイを消灯させた状態の画像とを取得し、
前記薬剤識別装置は、前記3つ以上の画像からそれぞれ前記ディスプレイを消灯させた状態の画像を減算し、環境光の影響を除去した前記複数の第1画像を生成する生成部を備えた請求項1から4のいずれか1項に記載の薬剤識別システム。
【請求項6】
前記ディスプレイは、偏光板を有するディスプレイであり、
前記カメラは、撮影レンズの前に前記ディスプレイから出射される光の偏光方向に対して偏光方向が90度異なる偏光板が設置される請求項1から5のいずれか1項に記載の薬剤識別システム。
【請求項7】
前記薬剤識別部は、前記第2画像の特徴量を演算する特徴量演算部と、前記第2画像の特徴量に基づいて前記薬剤が登録薬剤のうちのいずれに近いかを推論する推論部とを有する請求項1から6のいずれか1項に記載の薬剤識別システム。
【請求項8】
前記特徴量演算部及び前記推論部は、前記登録薬剤に対応する前記第2画像と前記登録薬剤を特定する薬剤識別情報とを教師データとして使用し、登録薬剤毎に学習を行った学習済みの畳み込みニューラルネットワークで構成される請求項7に記載の薬剤識別システム。
【請求項9】
前記薬剤識別部は、前記推論部での推論により絞り込んだ前記登録薬剤の画像と、前記第2画像とのテンプレートマッチングにより前記薬剤を識別する請求項7又は8に記載の薬剤識別システム。
【請求項10】
前記トレーは、前記カメラ付き携帯端末を保護する保護カバーを兼ねる請求項1から9のいずれか1項に記載の薬剤識別システム。
【請求項11】
カメラ付き携帯端末により撮影された画像に基づいて識別対象の薬剤を識別する薬剤識別装置であって、
前記カメラ付き携帯端末は、ディスプレイと同じ面側にカメラを有し、薬剤のサイズ及び形状の規格化に使用する指標を有するトレーに載置された前記識別対象の薬剤を撮影する際に、前記ディスプレイの発光領域を変更し、前記トレーに載置された前記薬剤への照明方向を複数回変更し、前記ディスプレイの発光領域の変更により照明方向が異なる前記薬剤を前記カメラにより複数回撮影し、前記薬剤の複数の第1画像を取得するものであり、
前記カメラ付き携帯端末から前記薬剤の複数の第1画像を受け付ける画像受付部と、
前記複数の第1画像に写っている前記指標に基づいて前記複数の第1画像をそれぞれ規格化する規格化部と、
前記規格化後の前記複数の第1画像からそれぞれ薬剤領域の画像を抽出する画像抽出部と、
前記抽出された複数の薬剤領域の画像に基づいて前記薬剤に付された刻印又は印字を強調する強調処理を施した第2画像を生成する画像処理部と、
前記生成された前記第2画像に基づいて前記薬剤を識別する薬剤識別部と、
を備えた薬剤識別装置。
【請求項12】
薬剤のサイズ及び形状の規格化に使用する指標を有するトレーに載置された識別対象の薬剤を識別する薬剤識別方法であって、
ディスプレイ制御部が、ディスプレイと同じ面側にカメラを有するカメラ付き携帯端末の前記ディスプレイの発光領域を変更し、前記トレーに載置された前記薬剤への照明方向を複数回変更する第1ステップと、
画像取得部が、前記ディスプレイの発光領域の変更により照明方向が異なる前記薬剤を前記カメラにより複数回撮影させ、前記薬剤の複数の第1画像を取得する第2ステップと、
規格化部が、前記複数の第1画像に写っている前記指標に基づいて前記複数の第1画像をそれぞれ規格化する第3ステップと、
画像抽出部が、前記規格化後の前記複数の第1画像からそれぞれ薬剤領域の画像を抽出する第4ステップと、
画像抽出部が、前記抽出された複数の薬剤領域の画像に基づいて前記薬剤に付された刻印又は印字を強調する強調処理を施した第2画像を生成する第5ステップと、
薬剤識別部が、前記生成された前記第2画像に基づいて前記薬剤を識別する第6ステップと、
を含む薬剤識別方法。
【請求項13】
前記第5ステップは、前記抽出された複数の薬剤領域の画像からそれぞれ前記照明方向に応じた方向のエッジ抽出フィルタを使用して複数のエッジ画像を取得し、前記複数のエッジ画像を使用して前記第2画像を生成する請求項12に記載の薬剤識別方法。
【請求項14】
前記トレーは、サイズ及び形状が既知の格子状の仕切りを有し、
前記格子状の仕切りにより区画された載置面には薬剤が載置され、
前記格子状の仕切りは、前記指標を兼ねる請求項12又は13に記載の薬剤識別方法。
【請求項15】
前記トレーの前記格子状の仕切りにより区画された前記薬剤の載置面の色は、色相、明度及び彩度のうちの少なくとも1つが、1又は複数の載置面毎に異なる請求項14に記載の薬剤識別方法。
【請求項16】
前記第2ステップは、前記複数の第1画像として、照明方向が異なる3つ以上の画像と前記ディスプレイを消灯させた状態の画像とを取得し、
生成部が、前記3つ以上の画像からそれぞれ前記ディスプレイを消灯させた状態の画像を減算し、環境光の影響を除去した前記複数の第1画像を生成するステップを含む請求項12から15のいずれか1項に記載の薬剤識別方法。
【請求項17】
前記第1ステップから前記第5ステップは、それぞれ前記トレーに載置された前記薬剤が反転された後に、前記反転された前記薬剤に対して同じ処理を行い、
前記第5ステップは、反転前及び反転後の前記薬剤に対してそれぞれ生成された前記第2画像に基づいて前記薬剤を識別する請求項12から16のいずれか1項に記載の薬剤識別方法。
【請求項18】
請求項1から10のいずれか1項に記載の薬剤識別システムを構成する前記カメラ付き携帯端末にインストールされるプログラムであって、
薬剤識別の指示入力を受け付けると、前記ディスプレイの発光領域を変更し、前記トレーに載置された前記薬剤への照明方向を複数回変更するディスプレイ制御機能と、
前記ディスプレイの発光領域の変更により照明方向が異なる前記薬剤を前記カメラにより複数回撮影させ、前記薬剤の複数の第1画像を取得する画像取得機能と、
を前記カメラ付き携帯端末に実現させるプログラム。
【請求項19】
前記複数の第1画像に写っている前記指標に基づいて前記複数の第1画像をそれぞれ規格化する規格化機能と、
前記規格化後の前記複数の第1画像からそれぞれ薬剤領域の画像を抽出する画像抽出機能と、
前記抽出された複数の薬剤領域の画像に基づいて前記薬剤に付された刻印又は印字を強調する強調処理を施した第2画像を生成する画像処理機能と、
前記生成された前記第2画像に基づいて前記薬剤を識別する薬剤識別機能と、
を前記カメラ付き携帯端末に実現させる請求項18に記載のプログラム。
【請求項20】
非一時的かつコンピュータ読取可能な記録媒体であって、前記記録媒体に格納された指令がコンピュータによって読み取られた場合に請求項18又は19に記載のプログラムをコンピュータに実行させる記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤識別システム、薬剤識別装置、薬剤識別方法及びプログラムに係り、特に識別対象の薬剤を簡易な装置により識別する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラを含むスマートフォン等のモバイル機器を使用して、錠剤(薬剤)の識別のための画像を取得し、取得した画像を元に薬剤を識別するシステムが提案されている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の表面(薬剤が載置されるトレーの表面)は、薬剤が載置される矩形の背景の領域と、背景の領域を囲む境界の領域とを有している。背景の領域は、背景と薬剤とを区別できるように高密度の着色チェッカーボードパターンを有し、境界の領域は、色が既知(白)の色特性を有する。また、境界の領域(矩形の背景の4隅に対応する領域)には、4つの既知の対象物(黄色い円)が設けられ、この対象物の中心にはアンカーポイントが設けられている。
【0004】
境界領域に付された4つの対象物は、モバイル機器により薬剤を撮影する際に、モバイル機器が予め設定された位置及び姿勢で撮影できるようにユーザを支援する機能を有する。
【0005】
モバイル機器の画面には、4つの対象物に対応する対象物の領域が予め表示されており、表示された4つの対象物の領域に、アンカーポイントを有する4つの対象物が適切に位置するようにモバイル機器の位置及び姿勢を決定して薬剤を撮影することで、薬剤のサイズ及び形状を規格化して撮影できるようにしている。
【0006】
また、特許文献1に記載のシステムは、境界領域に付されている既知の色に基づいて薬剤に属する画素の色を、理想的な照明条件で撮影された画素の色になるように補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2015-535108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、薬剤の形状、サイズ、色、及びインプリント(刻印又は印字された文字や数字)により薬剤を識別する記載があるが、刻印又は印字を強調する強調処理に関する記載はない。
【0009】
また、特許文献1には、カメラ付きのモバイル機器により薬剤の形状及びサイズを規格化して撮影できるように、モバイル機器の位置及び姿勢の調整を支援するシステムが記載されているが、ユーザがモバイル機器の位置及び姿勢を調整して撮影する必要があり、撮影が煩雑であるという問題がある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、カメラ付き携帯端末を使用した簡易な装置により薬剤を良好に識別することができる薬剤識別システム、薬剤識別装置、薬剤識別方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために一の態様に係る発明は、薬剤のサイズ及び形状の規格化に使用する指標を有し、識別対象の薬剤が載置されるトレーと、ディスプレイと同じ面側にカメラを有するカメラ付き携帯端末と、カメラ付き携帯端末により撮影された画像に基づいて薬剤を識別する薬剤識別装置と、から構成された薬剤識別システムであって、カメラ付き携帯端末は、薬剤識別の指示入力を受け付けると、ディスプレイの発光領域を変更し、トレーに載置された薬剤への照明方向を複数回変更するディスプレイ制御部と、ディスプレイの発光領域の変更により照明方向が異なる薬剤をカメラにより複数回撮影させ、薬剤の複数の第1画像を取得する画像取得部と、を備え、薬剤識別装置は、複数の第1画像に写っている指標に基づいて複数の第1画像をそれぞれ規格化する規格化部と、規格化後の複数の第1画像からそれぞれ薬剤領域の画像を抽出する画像抽出部と、抽出された複数の薬剤領域の画像に基づいて薬剤に付された刻印又は印字を強調する強調処理を施した第2画像を生成する画像処理部と、生成された第2画像に基づいて薬剤を識別する薬剤識別部と、を備える。
【0012】
本発明の一の態様では、カメラ付き携帯端末は、トレーに設けられた指標とともに、トレーに載置された薬剤を撮影する。薬剤を撮影する場合、カメラと同じ面側のディスプレイを照明手段として使用する。特にディスプレイの発光領域を変更することで、トレーに載置された薬剤への照明方向を複数回変更し、照明方向が異なる薬剤をカメラにより複数回撮影させ、複数の画像(第1画像)を取得する。規格化部は、複数の第1画像に写っている指標に基づいて複数の第1画像をそれぞれ規格化し、これにより撮影時のカメラの位置及び姿勢に依存しない画像にしている。画像抽出部は、規格化後の複数の第1画像からそれぞれ薬剤領域の画像を抽出し、画像処理部は、抽出された複数の薬剤領域の画像に基づいて薬剤に付された刻印又は印字を強調する強調処理を施した画像(第2画像)を生成する。この第2画像によれば、薬剤のサイズ及び形状が分かり、また、薬剤に付された刻印又は印字が強調されているため、薬剤を良好に識別することができる。更に、本発明の一の態様によれば、専用の照明装置やカメラ等が不要であり、簡易な装置により薬剤を識別することができる。
【0013】
本発明の他の態様に係る薬剤識別システムにおいて、画像処理部は、抽出された複数の薬剤領域の画像からそれぞれ照明方向に応じた方向のエッジ抽出フィルタを使用して複数のエッジ画像を取得し、複数のエッジ画像を使用して第2画像を生成することが好ましい。
【0014】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別システムにおいて、トレーは、サイズ及び形状が既知の格子状の仕切りを有し、格子状の仕切りにより区画された載置面には薬剤が載置され、格子状の仕切りは指標を兼ねる。格子状の仕切りにより区画された複数の載置面に種類の異なる複数の薬剤を載置することで、複数の薬剤を識別するための撮影を同時に行うことができ、また、格子状の仕切りを手掛かりにして薬剤領域の画像を容易に抽出する(切り出す)ことができる。
【0015】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別システムにおいて、トレーの格子状の仕切りにより区画された薬剤の載置面の色は、色相、明度及び彩度のうちの少なくとも1つが、1又は複数の載置面毎に異なることが好ましい。薬剤は、その薬剤の色とは、色相、明度及び彩度のうちの1つが異なる載置面を選んで載置することが好ましい。薬剤領域の画像と載置面(背景)とを区別しやすくし、画像抽出部による薬剤領域の画像の切り出しを容易にするためである。
【0016】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別システムにおいて、画像取得部は、複数の第1画像として、照明方向が異なる3つ以上の画像とディスプレイを消灯させた状態の画像とを取得し、薬剤識別装置は、3つ以上の画像からそれぞれディスプレイを消灯させた状態の画像を減算し、環境光の影響を除去した複数の第1画像を生成する生成部を備えることが好ましい。これにより、環境光の影響を受けずに、薬剤領域の画像の色を薬剤本来の色に再現することができる。
【0017】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別システムにおいて、ディスプレイは、偏光板を有するディスプレイであり、カメラは、撮影レンズの前にディスプレイから出射される光の偏光方向に対して偏光方向が90度異なる偏光板が設置されることが好ましい。これにより、鏡面反射成分が除去された画像を撮影することができる。
【0018】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別システムにおいて、薬剤識別部は、第2画像の特徴量を演算する特徴量演算部と、第2画像の特徴量に基づいて薬剤が登録薬剤のうちのいずれに近いかを推論する推論部とを有することが好ましい。
【0019】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別システムにおいて、特徴量演算部及び推論部は、登録薬剤に対応する第2画像と登録薬剤を特定する薬剤識別情報とを教師データとして使用し、登録薬剤毎に学習を行った学習済みの畳み込みニューラルネットワークで構成されることが好ましい。
【0020】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別システムにおいて、薬剤識別部は、推論部での推論により絞り込んだ登録薬剤の画像と、第2画像とのテンプレートマッチングにより薬剤を識別することが好ましい。
【0021】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別システムにおいて、トレーは、カメラ付き携帯端末を保護する保護カバーを兼ねることが好ましい。
【0022】
更に他の態様に係る発明は、カメラ付き携帯端末により撮影された画像に基づいて識別対象の薬剤を識別する薬剤識別装置であって、カメラ付き携帯端末は、ディスプレイと同じ面側にカメラを有し、薬剤のサイズ及び形状の規格化に使用する指標を有するトレーに載置された識別対象の薬剤を撮影する際に、ディスプレイの発光領域を変更し、トレーに載置された薬剤への照明方向を複数回変更し、ディスプレイの発光領域の変更により照明方向が異なる薬剤をカメラにより複数回撮影し、薬剤の複数の第1画像を取得するものであり、カメラ付き携帯端末から薬剤の複数の第1画像を受け付ける画像受付部と、複数の第1画像に写っている指標に基づいて複数の第1画像をそれぞれ規格化する規格化部と、規格化後の複数の第1画像からそれぞれ薬剤領域の画像を抽出する画像抽出部と、抽出された複数の薬剤領域の画像に基づいて薬剤に付された刻印又は印字を強調する強調処理を施した第2画像を生成する画像処理部と、生成された第2画像に基づいて薬剤を識別する薬剤識別部と、を備える。
【0023】
更に他の態様に係る発明は、薬剤のサイズ及び形状の規格化に使用する指標を有するトレーに載置された識別対象の薬剤を識別する薬剤識別方法であって、ディスプレイ制御部が、ディスプレイと同じ面側にカメラを有するカメラ付き携帯端末のディスプレイの発光領域を変更し、トレーに載置された薬剤への照明方向を複数回変更する第1ステップと、画像取得部が、ディスプレイの発光領域の変更により照明方向が異なる薬剤をカメラにより複数回撮影させ、薬剤の複数の第1画像を取得する第2ステップと、規格化部が、複数の第1画像に写っている指標に基づいて複数の第1画像をそれぞれ規格化する第3ステップと、画像抽出部が、規格化後の複数の第1画像からそれぞれ薬剤領域の画像を抽出する第4ステップと、画像処理部が、抽出された複数の薬剤領域の画像に基づいて薬剤に付された刻印又は印字を強調する強調処理を施した第2画像を生成する第5ステップと、薬剤識別部が、生成された第2画像に基づいて薬剤を識別する第6ステップと、を含む。
【0024】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別方法において、第5ステップは、抽出された複数の薬剤領域の画像からそれぞれ照明方向に応じた方向のエッジ抽出フィルタを使用して複数のエッジ画像を取得し、複数のエッジ画像を使用して第2画像を生成することが好ましい。
【0025】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別方法において、トレーは、サイズ及び形状が既知の格子状の仕切りを有し、格子状の仕切りにより区画された載置面には薬剤が載置され、格子状の仕切りは、指標を兼ねることが好ましい。
【0026】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別方法において、トレーの格子状の仕切りにより区画された薬剤の載置面の色は、色相、明度及び彩度のうちの少なくとも1つが、1又は複数の載置面毎に異なることが好ましい。
【0027】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別方法において、第2ステップは、複数の第1画像として、照明方向が異なる3つ以上の画像とディスプレイを消灯させた状態の画像とを取得し、生成部が、3つ以上の画像からそれぞれディスプレイを消灯させた状態の画像を減算し、環境光の影響を除去した複数の第1画像を生成するステップを含むことが好ましい。
【0028】
本発明の更に他の態様に係る薬剤識別方法において、第1ステップから第5ステップは、それぞれトレーに載置された薬剤が反転された後に、反転された薬剤に対して同じ処理を行い、第ステップは、反転前及び反転後の薬剤に対してそれぞれ生成された第2画像に基づいて薬剤を識別することが好ましい。
【0029】
更に他の態様に係る発明は、上記の薬剤識別システムを構成するカメラ付き携帯端末にインストールされるプログラムであって、薬剤識別の指示入力を受け付けると、ディスプレイの発光領域を変更し、トレーに載置された薬剤への照明方向を複数回変更するディスプレイ制御機能と、ディスプレイの発光領域の変更により照明方向が異なる薬剤をカメラにより複数回撮影させ、薬剤の複数の第1画像を取得する画像取得機能と、をカメラ付き携帯端末に実現させる。
【0030】
本発明の更に他の態様に係るプログラムにおいて、複数の第1画像に写っている指標に基づいて複数の第1画像をそれぞれ規格化する規格化機能と、規格化後の複数の第1画像からそれぞれ薬剤領域の画像を抽出する画像抽出機能と、抽出された複数の薬剤領域の画像に基づいて薬剤に付された刻印又は印字を強調する強調処理を施した第2画像を生成する画像処理機能と、生成された第2画像に基づいて薬剤を識別する薬剤識別機能と、をカメラ付き携帯端末に実現させることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、トレーに設けられた指標とともに、トレーに載置された薬剤をカメラ付き携帯端末により撮影することで、画像に写っている指標に基づいて画像(薬剤のサイズ及び形状)の規格化を行うことができる。また、カメラと同じ面側のディスプレイを照明手段として使用し、特にディスプレイの発光領域を変更することで、トレーに載置された薬剤への照明方向が異なる薬剤をカメラにて撮影することができ、撮影された照明方向が異なる複数の画像(第1画像)に基づいて薬剤に付された刻印又は印字を強調処理した画像(第2画像)を生成するため、第2画像により薬剤を良好に識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、本発明に係る薬剤識別システムの実施形態を示すシステム構成図である。
図2図2は、図1に示した薬剤識別システムを構成するスマートフォンの外観図である。
図3図3は、図2に示したスマートフォンの内部構成を示すブロック図である。
図4図4は、図1に示した薬剤識別システムの電気的な構成を示す要部ブロック図である。
図5図5は、図1に示した薬剤識別システムを構成するトレーの構成、及びスマートフォンによりトレー上に載置された薬剤を撮影する状況を示す図である。
図6図6は、トレーに載置された薬剤を5回撮影する場合に制御されるディスプレイの発光領域を示す図である。
図7図7は、図4に示したサーバの規格化部、画像抽出部及び画像処理部を示すブロック図である。
図8図8は、規格化後の5つの第1画像の一例を示す図である。
図9図9は、薬剤の中心を通るx-y平面で切断した薬剤の断面構造の模式図である。
図10図10は、エッジ画像生成部でのエッジ抽出に使用するソーベルフィルタの一例を示す図である。
図11図11は、図4に示した薬剤識別部の第1実施形態の薬剤識別部による薬剤の識別処理の概要を示す図である。
図12図12は、第1実施形態の薬剤識別部の主要な機能を示す機能ブロック図である。
図13図13は、第2実施形態に係る薬剤識別部を示すブロック図である。
図14図14は、本発明に係る薬剤識別システムに使用されるトレーの他の実施形態を示す図である。
図15図15は、本発明に係る薬剤識別方法の実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面に従って本発明に係る薬剤識別システム、薬剤識別装置、薬剤識別方法及びプログラムの好ましい実施形態について説明する。
【0034】
[薬剤識別システムの構成]
図1は、本発明に係る薬剤識別システムの実施形態を示すシステム構成図である。
【0035】
図1に示すように、薬剤識別システムは、トレー10と、カメラ付き携帯端末であるスマートフォン100と、薬剤識別装置として機能するサーバ200とから構成され、スマートフォン100とサーバ200とはインターネット、LAN(Local Area Network)等のネットワーク2を介してデータ通信可能に接続されている。
【0036】
トレー10は、識別対象の1又は複数の薬剤20が載置されるもので、後述するように薬剤のサイズ及び形状の規格化に使用する指標を有している。また、トレー10は、スマートフォン100を保護する保護カバーを兼ねることが好ましい。
【0037】
スマートフォン100は、ディスプレイと同じ面側にカメラ(インカメラ)を有するもので、カメラによりトレー10上の薬剤20を撮影する。スマートフォン100は、撮影した薬剤20の画像をネットワーク2を介してサーバ200に送信する。
【0038】
サーバ200は、スマートフォン100からアップロードされた薬剤20の画像に基づいて薬剤20の識別を行い、その識別結果(例えば、薬剤名、商品名、略称又はこれらの組合せからなる薬剤識別情報)を、薬剤20の画像を送信したスマートフォン100に送信する。
【0039】
ところで、薬剤(錠剤)の表面には、薬剤の種別を識別するための識別コード情報が付されている。この識別コード情報は、一般に、刻印又は印字(印刷)によって付される。
【0040】
サーバ200は、薬剤に付された識別コード情報を利用することで、薬剤の識別力を向上させているが、その詳細については後述する。
【0041】
尚、薬剤に付された刻印とは、薬剤の表面に陥没領域である溝を形成することによって識別コード情報が形成されたものをいう。溝は、表面を掘って形成されたものに限定されず、表面を押圧することで形成されたものでもよい。また、刻印は、割線等の識別機能を伴わないものを含んでもよい。
【0042】
また、薬剤に付された印字とは、薬剤の表面に接触又は非接触で可食性インク等を付与することによって識別コード情報が形成されたものをいう。ここでは、印字によって付されたとは、印刷によって付されたと同義である。
【0043】
<スマートフォンの構成>
図2に示すスマートフォン100は、平板状の筐体102を有し、筐体102の一方の面に表示部としての表示パネル121と、入力部としての操作パネル122とが一体となって形成されるディスプレイ120が設けられる。表示パネル121は液晶パネルから構成されており、本例のディスプレイ120は液晶ディスプレイである。
【0044】
また、その筐体102は、スピーカ131と、マイクロホン132と、操作部140と、カメラ部141とを備える。カメラ部141は、ディスプレイ120と同じ面側に設けられたカメラ(インカメラ)である。スマートフォン100は、ディスプレイ120が設けられる筐体102の表面ではなく、筐体102の背面にも図示しないカメラ(アウトカメラ)を備えている。尚、カメラ部141のレンズの前方に別のレンズ(近距離撮影用のアダプタレンズ)を取り付けてもよい。
【0045】
図3は、図2に示したスマートフォン100の内部構成を示すブロック図である。
【0046】
図3に示すようにスマートフォン100は、主たる構成要素として、無線通信部110と、ディスプレイ120と、通話部130と、操作部140と、カメラ部141と、記憶部150と、外部入出力部160(出力部)と、GPS(global positioning system)受信部170と、モーションセンサ部180と、電源部190と、主制御部101とを備える。また、スマートフォン100の主たる機能として、基地局装置と移動通信網とを介した移動無線通信を行う無線通信機能を備える。
【0047】
無線通信部110は、主制御部101の指示に従って、移動通信網に接続された基地局装置との間で無線通信を行う。その無線通信が使用されて、音声データ及び画像データ等の各種ファイルデータや電子メールデータなどの送受信、及びウェブデータやストリーミングデータなどの受信が行われる。
【0048】
ディスプレイ120は、表示パネル121の画面上に配設された操作パネル122を備えたいわゆるタッチパネル付きディスプレイであり、主制御部101の制御により、画像(静止画及び動画)や文字情報などを表示して視覚的にユーザに情報を伝達し、また表示した情報に対するユーザ操作を検出する。
【0049】
表示パネル121は、LCD(Liquid Crystal Display)を表示デバイスとして用いる。尚、表示パネル121は、LCDに限らず、例えば、OLED(organic light emitting diode)でもよい。
【0050】
操作パネル122は、表示パネル121の表示面上に表示される画像が視認可能な状態で設けられ、ユーザの指や尖筆によって操作される1又は複数の座標を検出するデバイスである。そのデバイスがユーザの指や尖筆によって操作されると、操作パネル122は、操作に起因して発生する検出信号を主制御部101に出力する。次いで、主制御部101は、受信した検出信号に基づいて、表示パネル121上の操作位置(座標)を検出する。
【0051】
通話部130は、スピーカ131及びマイクロホン132を備え、マイクロホン132を通じて入力されたユーザの音声を主制御部101にて処理可能な音声データに変換して主制御部101に出力したり、無線通信部110或いは外部入出力部160により受信された音声データを復号してスピーカ131から出力したりする。
【0052】
操作部140は、キースイッチなどを用いたハードウエアキーであって、ユーザからの指示を受け付ける。例えば、図2に示すように、操作部140は、スマートフォン100の筐体102の側面に搭載され、指などで押下されるとスイッチオン状態となり、指を離すとバネなどの復元力によってスイッチオフ状態となる押しボタン式のスイッチである。
【0053】
記憶部150は、主制御部101の制御プログラムや制御データ、通信相手の名称や電話番号などを対応づけたアドレスデータ、送受信した電子メールのデータ、ウェブブラウジングによりダウンロードしたウェブデータ、及びダウンロードしたコンテンツデータ等を記憶し、またストリーミングデータなどを一時的に記憶する。
【0054】
また、記憶部150は、内部記憶部151と着脱自在な外部メモリスロットを有する外部記憶部152とにより構成される。尚、記憶部150を構成する内部記憶部151及び外部記憶部152のそれぞれは、フラッシュメモリタイプ、ハードディスクタイプ、マルチメディアカードマイクロタイプ、カードタイプのメモリ、RAM(Random Access Memory)、或いはROM(Read Only Memory)などの格納媒体を用いて実現される。
【0055】
外部入出力部160は、スマートフォン100に連結される全ての外部機器とのインターフェースの役割を果たし、通信等(例えば、USB(Universal Serial Bus)、IEEE1394など)又はネットワーク(例えば、無線LAN(Local Area Network)、ブルートゥース(Bluetooth)(登録商標)により他の外部機器に直接的又は間接的に接続する。
【0056】
GPS受信部170は、主制御部101の指示に従って、GPS衛星ST1、ST2~STnから送信されるGPS信号を受信し、受信した複数のGPS信号に基づく測位演算処理を実行し、スマートフォン100の緯度、経度及び高度によって特定される位置情報(GPS情報)を取得する。GPS受信部170は、無線通信部110及び/又は外部入出力部160(例えば、無線LAN)から位置情報を取得できる場合には、その位置情報を用いて位置を検出することもできる。
【0057】
モーションセンサ部180は、例えば、3軸の加速度センサなどを備え、主制御部101の指示に従って、スマートフォン100の物理的な動きを検出する。スマートフォン100の物理的な動きを検出することにより、スマートフォン100の動く方向や加速度が検出される。その検出の結果は、主制御部101に出力される。
【0058】
電源部190は、主制御部101の指示に従って、スマートフォン100の各部に、バッテリ(図示しない)に蓄えられる電力を供給する。
【0059】
主制御部101は、マイクロプロセッサを備え、記憶部150が記憶する制御プログラムや制御データに従って動作し、スマートフォン100の各部を統括して制御する。また、主制御部101は、無線通信部110を通じて音声通信及びデータ通信を行うために、通信系の各部を制御する移動通信制御機能と、ソフトウェア処理機能とを備える。
【0060】
ソフトウェア処理機能は、記憶部150が記憶するソフトウェアに従って主制御部101が動作することにより実現される。ソフトウェア処理機能としては、例えば、外部入出力部160を制御することで電子メールの送受信を行う電子メール機能、及びウェブページを閲覧するウェブブラウジング機能の他、本発明に係る薬剤識別システムを利用するための機能などがある。本発明に係る薬剤識別システムを利用するための機能は、薬剤識別装置として機能するサーバ200又はサーバ200を運営する事業者のサイト等から対応するソフトウェア(本発明に係るプログラム)をダウンロードすることにより実現することができる。
【0061】
また、主制御部101は、受信データやダウンロードしたストリーミングデータなどの画像データ(静止画や動画のデータ)に基づいて、映像をディスプレイ120に表示する等の画像処理機能を備える。
【0062】
更に、主制御部101は、ディスプレイ120に対する表示制御と、操作部140や操作パネル122を通じたユーザ操作を検出する操作検出制御とを実行する。
【0063】
カメラ部141は、主制御部101の制御により、撮像によって得た画像データを例えばJPEG(Joint Photographic Experts Group)などの圧縮した画像データに変換し、その画像データを記憶部150に記録したり、外部入出力部160や無線通信部110を通じて出力したりすることができる。
【0064】
また、カメラ部141は、スマートフォン100の各種機能に利用することができる。本例では、薬剤を識別する場合、薬剤の撮影に利用される。カメラ部141からの画像をソフトウェア内で利用することもできる。
【0065】
<薬剤識別システムの電気的な構成>
図4は、薬剤識別システムの電気的な構成を示す要部ブロック図である。
【0066】
スマートフォン100の主制御部101は、本発明に係るプログラム(アプリケーション)がインストールされており、このアプリケーションを実行することにより、ディスプレイ制御部101A、画像取得部101B、及び通信制御部101Cとして機能する。
【0067】
ディスプレイ制御部101Aは、ディスプレイ120を薬剤撮影時の照明手段として制御し、特にディスプレイ120の発光領域を複数回変更し、トレー10に載置された薬剤20への照明方向を変更する制御を行う。
【0068】
画像取得部101Bは、ディスプレイ120の発光領域の変更により照明方向が異なる薬剤20をカメラ部141により複数回撮影させ、カメラ部141から薬剤の複数の画像(第1画像)を取得する。
【0069】
通信制御部101Cは、画像取得部101Bが取得した複数の第1画像を無線通信部110及びネットワーク2を介してサーバ200に送信し、複数の第1画像に基づいてサーバ200により識別された薬剤20の識別結果をネットワーク2及び無線通信部110を介して取得する。
【0070】
図5は、トレー10の構成、及びスマートフォン100によりトレー10上に載置された薬剤20を撮影する状況を示す図である。
【0071】
図5に示すようにトレー10には、薬剤20が載置される載置面(本例では、薬剤の背景となる矩形の載置面)12と、薬剤のサイズ及び形状の規格化に使用する指標(4つの指標)14A,14B,14C,14Dとが設けられている。
【0072】
載置面12は、撮影された画像から薬剤に対応する領域(薬剤領域)の画像の抽出(切り出し)を容易にするために、特定の背景色(薬剤の色と異なる色)や特定の細かい背景パターンを有することが好ましい。薬剤の背景色は、薬剤の色の色相、明度及び彩度のうちの少なくとも1つが異なることが好ましい。
【0073】
4つの指標14A,14B,14C及び14Dは、相互に位置関係が既知のものである。尚、4つの指標14A,14B,14C及び14Dの代わりに、例えば、載置面12の形状にかかわる情報(矩形の載置面12の4隅の座標や4辺の長さ等)を指標とすることができる。
【0074】
トレー10に載置された薬剤20をスマートフォン100により撮影する場合、カメラ部141の撮影範囲内に4つの指標14A,14B,14C及び14Dが収まるようにスマートフォン100(カメラ部141)の位置及び姿勢を決めて撮影を行う必要がある。尚、薬剤20に正対し、かつ薬剤20が大きくなる位置及び姿勢で撮影することが好ましいが、カメラ部141の位置及び姿勢は、少なくとも4つの指標14A,14B,14C及び14Dが撮影範囲内に収まっていればよい。
【0075】
また、トレー10に載置された薬剤20をスマートフォン100により撮影する場合、カメラ部141と同じ面側のディスプレイ120を照明手段として使用し、カメラ部141により薬剤20が載置されたトレー10を複数回(本例では5回)撮影させる。
【0076】
図6は、トレー10に載置された薬剤20を5回撮影する場合に制御されるディスプレイ120の発光領域を示す図である。
【0077】
ディスプレイ制御部101Aは、例えば、本例のアプリケーションが起動され、その後、操作部から撮影指示入力(薬剤識別の指示入力)を受け付けると、図6に示すようにディスプレイ120の発光領域を、時刻t、時刻t、時刻t、時刻t、時刻tの5回の撮影タイミングに合せて変更させる。
【0078】
時刻tの撮影タイミングでは、ディスプレイ120を消灯させ、環境光30(図5)のみが照明光となる状態で薬剤20の撮影が行われる。
【0079】
尚、本例のディスプレイ120は、表示パネル121として液晶パネルを使用する液晶ディスプレイであるため、ディスプレイ120を消灯させるとは、液晶パネル全体の透過光量を最小にする(黒を表示させる)ことをいう。
【0080】
続いて、時刻tの撮影タイミングでは、ディスプレイ120の発光領域を、ディスプレイ120の左半分とし、環境光30とディスプレイ120からの照明光とが混在している状態で薬剤20の撮影が行われる。ここで、ディスプレイ120の発光領域を、ディスプレイ120の左半分にするとは、液晶パネルの左半分の透過光量を高く(好ましくは最大)にし、右半分の光透過量を最小にすることをいう。
【0081】
同様にして、時刻tの撮影タイミングでは、ディスプレイ120の発光領域を、ディスプレイ120の右半分とし、時刻tの撮影タイミングでは、ディスプレイ120の発光領域を、ディスプレイ120の上半分とし、時刻tの撮影タイミングでは、ディスプレイ120の発光領域を、ディスプレイ120の下半分とし、それぞれの撮影タイミングで薬剤20の撮影が行われる。
【0082】
画像取得部101Bは、時刻t、時刻t、時刻t、時刻t、時刻tの5回の撮影タイミングでカメラ部141を撮影動作させ、カメラ部141から薬剤20を撮影した5枚の第1画像を取得する。時刻t、時刻t、時刻t、時刻tのディスプレイ120の発光領域は、それぞれディスプレイ120の左半分、右半分、上半分、下半分であるため、薬剤20に対するディスプレイ120からの照明光は、それぞれ照明方向が異なる。また、それぞれ照明方向が異なる照明光が照射された薬剤20を撮影して得られる第1画像は、照明方向に伴って輝度ムラが発生し、薬剤20に刻印が付されている場合には、刻印の影の出方が異なる。
【0083】
5回の撮影時におけるカメラ部141の位置及び姿勢の変化が最小になるように、各撮影タイミングの時間間隔は短いことが好ましい。
【0084】
ディスプレイ120は、偏光板を有する液晶ディスプレイであるため、ディスプレイ120から出射される照明光は、偏光板に対応した偏光した光である。そこで、ディスプレイ120から出射される光の偏光方向に対して偏光方向が90度異なる偏光板(偏光フィルタ)をカメラ部141の撮影レンズの前に設置することが好ましい。
【0085】
カメラ部141に偏光フィルタを設置することで、カメラ部141は、鏡面反射成分が除去された第1画像を撮影することができる。
【0086】
尚、薬剤20に刻印又は印字が付されている場合には、刻印又は印字が付されている面が上になるように薬剤20をトレー10に載置することが好ましい。薬剤20の両面に刻印又は印字が付されている場合には、識別コード情報としての機能が高い刻印又は印字が付されている面が上になるように薬剤20をトレー10に載置することが好ましい。
【0087】
<サーバ200>
図4に示すサーバ200は、薬剤識別装置として機能するものであり、主として通信部210、CPU(Central Processing Unit)220、規格化部230、画像抽出部240、薬剤DB(database)250、メモリ260、画像処理部270及び薬剤識別部280から構成されている。
【0088】
CPU220は、サーバ200の各部を統括制御する部分であり、スマートフォン100から送信された複数の第1画像を受け付ける画像受付部として機能する通信部210と、受け付けた複数の第1画像に対して規格化部230、画像抽出部240、画像処理部270及び薬剤識別部280により各処理を実行させる。そして、CPU220は、薬剤の識別結果を通信部210を介して第1画像を送信したスマートフォン100に送信する。
【0089】
薬剤DB250は、薬剤の名前等の薬剤識別情報と関連付けて薬剤の画像(薬剤の表側及び裏側の薬剤画像)を登録及び管理する部分である。薬剤DB250に登録された薬剤(登録薬剤)の薬剤画像は、識別対象の薬剤が、登録薬剤のうちのいずれの登録薬剤に近いかを分類する機械学習器を学習させる場合の教師データとして使用され、あるいは識別対象の薬剤の画像とのテンプレートマッチングにより識別対象の薬剤を識別する場合のテンプレート画像として使用される。
【0090】
メモリ260は、薬剤識別サービスを提供するプログラムが格納される記憶部、及びCPU220の作業領域となる部分を含む。
【0091】
図7は、図4に示したサーバ200の規格化部230、画像抽出部240及び画像処理部270を示すブロック図である。
【0092】
ディスプレイ120の発光領域を変更して撮影された5枚の第1画像50は、規格化部230に加えられ、ここで、カメラ部141の位置及び姿勢に依存しない画像に規格化される。
【0093】
第1画像50には、図5に示したトレー10に付された4つの指標14A,14B,14C,14Dが写り込んでいる。規格化部230は、第1画像50における4つの指標14A,14B,14C,14Dの座標を求め、4つの指標14A,14B,14C,14Dの座標と、相互に位置関係が既知の4つの指標14A,14B,14C及び14Dとの関係から射影変換パラメータを求める。規格化部230は、求めた射影変換パラメータにより第1画像50を射影変換することで、第1画像50(薬剤20)の形状を規格化する。また、4つの指標14A,14B,14C及び14Dの実寸も既知であるため、薬剤20のサイズも規格化することができる。
【0094】
また、規格化後の5つの第1画像の一例を、図8に示す。尚、図8には、説明を簡単にするために、薬剤20の画像を含む第1画像の一部が図示されている。
【0095】
図8において、4つの第1画像G,G,G及びGは、ディスプレイ120の左半分、右半分、上半分、及び下半分を点灯させ、それぞれディスプレイ120からの照明光の照明方向がそれぞれ異なる状態で撮影された画像であり、第1画像Gは、ディスプレイ120を消灯させた状態で撮影された画像である。
【0096】
図8に示す4つの第1画像G,G,G及びGには、それぞれ照明方向に伴って輝度ムラが発生している。また、図8に示す各画像上の「A」は、刻印Sを示している。画像G,G,G及びGの刻印Sは、薬剤の表面の凹凸形状であり、後述するように照明光の照明方向に伴って刻印Sの影の出方が異なるものとなる。
【0097】
規格化部230は、ディスプレイ120の照明方向が異なる4つ第1画像G,G,G及びGから、それぞれディスプレイ120を消灯させた状態の第1画像Gを減算し、環境光の影響を除去した4つの第1画像G,G,G及びGを生成する生成部を含む。この生成部により環境光の影響が除去された4つの第1画像G,G,G及びGは、ディスプレイ120の照明光のみにより照明された画像であるため、規格化部230は、ディスプレイ120の照明光の色温度(既知の色温度)に対応するホワイトバランスゲインにより4つの第1画像G,G,G及びGのホワイトバランス調整を行うことで、4つの第1画像G,G,G及びGの色を、薬剤20の本来の色と一致させる。
【0098】
尚、トレー10の既知の色(例えば、4つの指標14A,14B,14C,14Dが設けられている領域の色であって、好ましくは白色)が再現できるように、ホワイトバランス調整を行うことで、環境光の影響を除去又は低減するようにしてもよい。この場合、ディスプレイ120を消灯させた状態の第1画像Gの取得は不要である。
【0099】
規格化部230により薬剤20のサイズ及び形状が規格化され、かつ環境光の影響が除去又は低減された4つの第1画像G,G,G及びGは、画像抽出部240に出力される。
【0100】
画像抽出部240は、規格化後の4つの第1画像G,G,G及びGからそれぞれ薬剤領域の画像を抽出する(切り出す)。画像抽出部240は、図5に示すようにトレー10の薬剤20が載置される載置面12の背景色、又は載置面12の背景パターンを利用することで、薬剤領域の画像を適切に切り出すことができる。
【0101】
画像抽出部240により切り出された、刻印Sの影の出方が異なる4つの画像G,G,G,及びGは、それぞれ画像処理部270に加えられる。
【0102】
画像処理部270のエッジ画像生成部274は、4つの画像G,G,G,及びGからそれぞれ照明光の照射方向に応じた方向のエッジ抽出フィルタ(例えば、ソーベルフィルタ)を使用し、4つのエッジ画像を生成する。
【0103】
図9は、薬剤Tの中心を通るx-y平面で切断した薬剤Tの断面構造の模式図であり、1画素分のラインのプロファイルを示している。
【0104】
上の薬剤Tは、直径がDであり、表面には断面がV字状の溝からなる割線である刻印Sが形成されている。刻印Sの溝の幅はWである。尚、刻印Sの溝の幅とは、溝の延伸方向と直交する方向における溝の一方の端から他方の端までの距離であって、薬剤Tの表面における距離をいう。
【0105】
ここで、ディスプレイ120の発光領域を左半分とし、その発光領域の照明光Lにより薬剤Tを照明する場合と、ディスプレイ120の発光領域を右半分とし、その発光領域の照明光Lにより薬剤Tを照明する場合とでは、刻印Sの影の出方が異なる。
【0106】
即ち、照明光Lにより薬剤Tを照明する場合、刻印Sの右側の面Sは照明光Lが照射されるが、刻印Sの左側の面Sには照明光Lは照射されなくなり、刻印Sの左側の面Sに影が発生する。同様に、照明光Lとは反対方向の照明光Lにより薬剤Tを照明する場合、刻印Sの左側の面Sは照明光Lが照射されるが、刻印Sの右側の面Sには照明光Lは照射されなくなり、刻印Sの右側の面Sに影が発生する。
【0107】
図10は、エッジ画像生成部274でのエッジ抽出に使用するソーベルフィルタの一例を示す図である。
【0108】
ソーベルフィルタFは、左方向からの照明光Lが照射された薬剤Tの画像Gからエッジ抽出する場合に使用され、ソーベルフィルタFは、右方向から照明光Lが照射された薬剤Tの画像Gからエッジ抽出する場合に使用される。
【0109】
図10に示すソーベルフィルタF、Fのカーネルサイズは、本例ではx軸方向3画素×y軸方向3画素であるが、これに限らず、カメラ部141の解像度に依存して変更することが好ましい。また、ソーベルフィルタFL、FRのカーネルサイズは、刻印Sの幅W(の画素数)の半分より大きいサイズのソーベルフィルタを用いることが好ましい。例えば、刻印Sの溝の幅の画素数が4画素であれば、その半分の2画素より大きいサイズのソーベルフィルタを用いる。刻印Sの溝の幅の画素数を鑑みたサイズのエッジ抽出フィルタを用いることで、溝を精度よく抽出するとともに、溝の幅よりも小さい表面の模様及び傷等の刻印以外の情報を低減することができる。尚、ソーベルフィルタのフィルタサイズとフィルタ係数の導出方法は、http://sssiii.seesaa.net/article/368842002.htmlに記載されている。
【0110】
エッジ画像生成部274は、画像GL、に対してそれぞれソーベルフィルタF、Fを使用し、画像GL、に対応するエッジ画像を生成する。また、エッジ画像生成部274は、ディスプレイ120の発光領域を上半分とした、上方向からの照明光が照射された薬剤Tの画像GU、及びディスプレイ120の発光領域を下半分とした、下方向からの照明光が照射された薬剤Tの画像Gに対しても、上記と同様に照明光の方向に応じたソーベルフィルタを使用することで、エッジ画像を生成する。
【0111】
尚、エッジ画像合成部272におけるエッジ抽出フィルタ処理に使用するフィルタとしては、ソーベルフィルタに限らず、ラプラシアンフィルタ、キャニーフィルタ等を使用することができる。
【0112】
エッジ画像生成部274は、4つの画像G,G,G,及びGに対してそれぞれ生成した4つのエッジ画像を、画像処理部270のエッジ画像合成部272に出力する。
【0113】
エッジ画像合成部272の他の入力には、画像抽出部240から4つの画像G,G,G,及びGが加えられており、エッジ画像合成部272は、例えば、4つの画像G,G,G,及びGのうちの1つの画像を選択し、選択した1つの画像の輝度ムラを検出し、検出した輝度ムラに基づいて選択した画像の輝度ムラを補正する輝度ムラ補正処理を施すことで、輝度ムラの少ない画像を生成する。そして、エッジ画像合成部272は、この輝度ムラの少ない画像にエッジ画像合成部272により生成された4つのエッジ画像を合成する。
【0114】
これにより、画像処理部270は、照明光による輝度ムラの少ない薬剤の画像に対して、刻印を強調する強調処理が施された画像(第2画像)60を生成することができる。
【0115】
<薬剤識別部の第1実施形態>
図11は、図4に示した薬剤識別部280の第1実施形態の薬剤識別部280-1による薬剤の識別処理の概要を示す図である。
【0116】
図11において、60は、画像処理部270により刻印が強調された薬剤の第2画像の一例を示す図である。
【0117】
薬剤識別部280-1は、第2画像60に基づいて識別対象の薬剤が、登録薬剤のうちのいずれに近いかを推論する。推論には深層学習(classification)を利用する。本例では、薬剤識別部280-1により推論するが、その詳細については後述する。
【0118】
推論結果は、表示器、プリンタ等の出力部により視認可能に出力する。
【0119】
推論結果として、登録された薬剤の情報(薬剤識別情報と薬剤画像等)を、識別対象の薬剤に近い順(Rank 1,Rank 2,Rank 3,…)に出力することができる。また、最も近い1つの薬剤の情報、又は予め設定された上位の複数の薬剤の情報を出力することができる。
【0120】
図12は、第1実施形態の薬剤識別部280-1の主要な機能を示す機能ブロック図である。
【0121】
図12に示す薬剤識別部280-1は、本例では、機械学習器の一態様である畳み込みニューラルネットワーク(CNN: Convolutional Neural Network))280-1により構成され、識別対象の薬剤が、登録された薬剤(登録薬剤)のうちのいずれの登録薬剤に近いかを分類するものである。CNN280-1は、登録薬剤毎に対応する教師データにより事前に学習し、又は追加する登録薬剤に対応する教師データにより追加の学習が可能である。
【0122】
登録薬剤に対応する教師データは、例えば、登録薬剤を撮影した画像について刻印又は印字を強調する強調処理が施された薬剤画像と、その登録薬剤の名前等の正解データであることが好ましい。尚、学習に使用した、又は使用する教師データは、薬剤DB250(図4)に保存しておくことが好ましい。また、教師データを使用した学習方法は公知であるため、その詳細な説明は省略する。
【0123】
図12に示すCNN280-1は、識別対象の第2画像60を入力画像とするとき、その第2画像60の特徴量を抽出(演算)する特徴量演算部282と、演算した特徴量に基づいて入力画像に対応する薬剤が登録薬剤のうちのいずれに近いかを推論する推論部284として機能する。CNN280-1は、複数のレイヤ構造を有し、複数の重みパラメータを保持している。重みパラメータは、畳み込み層での畳み込み演算に使用されるカーネルと呼ばれるフィルタのフィルタ係数などである。
【0124】
CNN280-1は、重みパラメータが初期値から最適値に更新されることで、未学習モデルから登録薬剤毎に学習を行う学習済みモデルに変化しうる。
【0125】
このCNN280-1は、入力層280Aと、畳み込み層286A1、正規化層286B1、活性化関数による活性化処理部286C1、プーリング層286D1から構成される複数セット(本例では、6セット)、及び全結合層286E1を有する中間層280Bと、出力層280Cとを備え、各層は複数の「ノード」が「エッジ」で結ばれる構造となっている。
【0126】
CNN280-1の構造は、図12に例示するものに限らず、代表的な学習モデルであるVGG16、AlexNetなどを適用することができる。
【0127】
CNN280-1の入力層280Aには、識別対象の薬剤の第2画像60が入力画像として入力される。本例では、第2画像60は、RGB(Red Green Blue)のカラー画像であるため、3枚のR画像、G画像、B画像であり、合計3枚の画像セットが入力画像である。
【0128】
畳み込み層286A1~286A6は、画像からのエッジ抽出等の特徴抽出の役割を担う部分である。畳み込み層28A1~286A6は、入力層280Aから入力した画像セットや前の層で近くにあるノードにフィルタ処理し(フィルタを使用した畳み込み演算を行い)、「特徴マップ」を取得するもので、画像からのエッジ抽出等の特徴抽出の役割を担う。
【0129】
1番目の畳み込み層286A1は、画像セットとフィルタとの畳み込み演算を行う。ここで、画像セットは、R画像、G画像、B画像の3チャンネル(3枚)であるため、例えば、サイズ5のフィルタの場合、フィルタサイズは、5×5×3のフィルタになる。
【0130】
5×5×3のフィルタを用いた畳み込み演算により、1つのフィルタに対して1チャンネル(1枚)の「特徴マップ」が生成される。したがって、N個のフィルタを使用すると、Nチャンネルの「特徴マップ」を生成することができる。
【0131】
2番目の畳み込み層28A2(図示せず)で使用されるフィルタは、例えばサイズ3のフィルタの場合、フィルタサイズは、3×3×Nのフィルタになる。
【0132】
正規化層286B1~286B6は、入力画像に対して輝度やコントラスト等の正規化を行う部分であり、入力画像だけでなく、CNN280-1の途中経過の「特徴マップ」に対しても正規化を行う。
【0133】
活性化処理部286C1~286C6は、活性化関数(例えば、ステップ関数、シグモイド関数、ソフトマックス関数)により入力信号を処理する部分であり、次の層に渡す値を整えるような役割を果たす。
【0134】
プーリング層286D1は、畳み込み層286A1(本例では、活性化処理部286C1)から出力された特徴マップを縮小して新たな特徴マップとする。「プーリング層」は抽出された特徴が、平行移動などによる影響を受けないようにロバスト性を与える役割を担う。
【0135】
推論部284として機能する1つ又は複数の全結合層286E1は、前の層の全てのノード(本例では、活性化処理部286C6から出力される特徴マップ)と重み付き結合し、活性化関数によって変換された値(特徴変数)を出力する。ノードの数を増加させると、特徴量空間の分割数が増加し、特徴変数の数も増加する。
【0136】
推論部284として機能する出力層280Cは、全結合層286E1からの出力(特徴変数)を元に、ソフトマックス関数を用いて確率に変換し、それぞれの領域(本例ではそれぞれの薬剤)に正しく分類される確率を最大化する(最尤推定法)ことによって分類を行う。尚、最終段の全結合層を出力層と呼ぶこともある。
【0137】
出力層280Cは、図11に示したように薬剤の第2画像60(入力画像)が、登録薬剤のうちのいずれに近いかを示す推論結果を出力部288に出力する。
【0138】
推論結果は、識別対象の薬剤に近い順(Rank 1,Rank 2,Rank 3,…)に、登録薬剤の情報(薬剤識別情報と薬剤画像等)やその確率として出力部288から出力することができる。
【0139】
ユーザは、出力部288から出力される推論結果を、識別対象の薬剤を監査、鑑別する際の支援情報として使用することができる。
【0140】
<薬剤識別部の第2実施形態>
図13は、第2実施形態に係る薬剤識別部280-2を示すブロック図である。
【0141】
図13に示す薬剤識別部280-2は、主としてCNN280-1と、テンプレートマッチング部289とから構成されている。
【0142】
CNN280-1は、図12に示したものと同一であるため、その詳細な説明は省略する。
【0143】
CNN280-1による推論結果は、テンプレートマッチング部289に加えられる。
【0144】
テンプレートマッチング部289の他の入力には、識別対象の第2画像60が加えられており、テンプレートマッチング部289は、薬剤DB250に登録されている登録薬剤のうち、CNN280-1による推論結果により絞り込んだ登録薬剤の画像と、第2画像60とのテンプレートマッチングにより薬剤を識別する。例えば、事前に得られている薬剤の画像(刻印又は印字が強調された薬剤の画像)について、クラスタリングをしておく。識別対象の第2画像60が、クラスタリング内のどのクラスに入るかをCNN280-1により推論し、テンプレートマッチング部289は、そのクラス中でテンプレートマッチングを行う。これにより、テンプレートマッチングの処理時間の短縮化を図ることができる。
【0145】
<トレーの他の実施形態>
図14は、本発明に係る薬剤識別システムに使用されるトレーの他の実施形態を示す図である。
【0146】
図14に示すトレー40は、格子状の仕切りを有し、格子状の仕切りにより区画された9つの領域A11,A12,A13,A21,A22,A23,A31,A32,A33にそれぞれ1つの薬剤が載置可能になっている。このトレー40は、格子状の仕切りにより9つの領域A11~A33に区画されているが、仕切りにより区画される領域の数は、これに限定されない。
【0147】
また、トレー40の格子状の仕切りは、サイズ及び形状が既知となっている。即ち、サイズ及び形状が既知の格子状の仕切りは、図5に示した指標14A~14Dと同様に薬剤のサイズ及び形状の規格化に使用する指標を兼ねている。
【0148】
更に、仕切りにより区画された9つの領域A11~A33の薬剤の載置面の色は、色相、明度及び彩度のうちの少なくとも1つが、1又は複数の載置面毎に異なっている。
【0149】
したがって、ユーザが識別対象の薬剤20を、9つ領域A11~A33のいずれかに載置する場合、識別対象の薬剤20の色と異なる色を有する載置面に薬剤20を載置することが好ましい。
【0150】
例えば、白等の濃度の低い薬剤は、黒等の濃度の高い載置面を選択して載置することが好ましい。カメラ部141により撮影された画像から薬剤20に対応する薬剤領域の画像の切り出しを容易にするためである。
【0151】
このトレー40は、9つ領域A11~A33の載置面を有するため、複数(最大で9個)の薬剤を同時に載置することができ、これらの複数の薬剤は、スマートフォン100のカメラ部141により同時に撮影することができる。
【0152】
また、薬剤の両面に刻印又は印字が付されている場合には、トレー40に載置された薬剤の一方の面の撮影が終了すると、トレー40上の薬剤を反転させ、薬剤の他の面の撮影を行うことが好ましい。反転前の薬剤を撮影した複数の画像から生成した第2画像と、反転後の薬剤を撮影した複数の画像から生成した第2画像とに基づいて薬剤を識別することが好ましい。これによれば、薬剤の両面に付された刻印又は印字の情報を薬剤の識別に使用することができ、薬剤の識別の精度を上げることができる。
【0153】
尚、スマートフォン100による薬剤の撮影方法及び撮影された薬剤の画像の処理方法は、1個の薬剤を撮影する場合と同様に行うことができるため、ここではその詳細な説明は省略する。
【0154】
[薬剤識別方法]
図15は、本発明に係る薬剤識別方法の実施形態を示すフローチャートであり、図4に示した薬剤識別システムの各部の処理手順に関して示している。
【0155】
図12において、ユーザは、識別対象の薬剤20をトレー10の載置面12(図5)を載置する。続いて、ユーザはスマートフォン100を操作し、スマートフォン100により薬剤20の撮影を実行させる。
【0156】
即ち、スマートフォン100のディスプレイ制御部101Aは、ディスプレイ120を消灯した状態にし、画像取得部101Bは、ディスプレイ120が消灯した状態でカメラ部141による薬剤20の撮影を実行させ、環境光のみが照射された薬剤20の画像(第1画像)を取得する(ステップS10)。
【0157】
続いて、ディスプレイ制御部101Aは、ディスプレイ120の発光領域を順次変更し(第1ステップ)、画像取得部101Bは、ディスプレイ120の発光領域の変更により照明方向が異なる薬剤20をカメラ部141により複数回(本例では4回)撮影させ、4枚の画像(第1画像)を取得する(第2ステップS12)。
【0158】
スマートフォン100の通信制御部101Cは、ステップS10で取得したディスプレイ120が消灯した状態で撮影された1枚の第1画像と、第2ステップS12で取得したディスプレイ120の発光領域の変更により照明方向が異なる4枚の第1画像(合計5枚の第1画像)50を、サーバ200に送信する。
【0159】
サーバ200の規格化部230は、複数の第1画像における4つの指標14A,14B,14C,14Dの座標を求め、4つの指標14A,14B,14C,14Dの座標と、相互に位置関係が既知の4つの指標14A,14B,14C及び14Dとの関係に基づいて複数の第1画像(薬剤20)の形状及びサイズを規格化する(第3ステップS14)。また、規格化部230は、ディスプレイ120の照明方向が異なる複数(本例では4枚)の第1画像G,G,G及びGから、それぞれディスプレイ120を消灯させた状態の第1画像Gを減算し、環境光の影響を除去した複数の第1画像を生成する。
【0160】
画像抽出部240は、規格化後の複数(本例では4枚)の第1画像からそれぞれ薬剤領域の第1画像G,G,G,Gを抽出する(切り出す)(第4ステップS16)。
【0161】
画像処理部270のエッジ画像生成部274は、複数の画像G,G,G,及びGに対してそれぞれ照明光の照明方向に応じたソーベルフィルタを使用することで、エッジ画像を生成する(ステップS18)。
【0162】
エッジ画像合成部272は、複数の画像G,G,G,及びGのうちの1つの画像を選択し、選択した1つの画像の輝度ムラを検出し、検出した輝度ムラに基づいて選択した画像の輝度ムラを補正する輝度ムラ補正処理を施ことで、輝度ムラの少ない画像を生成する。そして、エッジ画像合成部272は、この輝度ムラの少ない画像にステップS18で生成された複数のエッジ画像を合成し、合成画像(第2画像)を生成する(第5ステップS20)。
【0163】
薬剤識別部280は、生成された第2画像に基づいて識別対象の薬剤20を識別する(第6ステップS22)。薬剤識別部280は、学習済みのCNN280-1により薬剤の第2画像(入力画像)が、登録薬剤のうちのいずれに近いかを示す推論結果を視認可能に出力したり、テンプレートマッチング部289により推論結果により絞り込んだ登録薬剤の画像と、第2画像とのテンプレートマッチングにより薬剤を識別し、識別結果を視認可能に出力する。
【0164】
[その他]
本実施形態では、ディスプレイの発光領域の変更により照明方向からそれぞれ異なる4つの薬剤の画像を撮影するが、照明方向が異なる複数の画像は4つに限らず、3つ以上であればよい。また、ディスプレイの発光領域の変更もディスプレイの左半分、右半分、上半分及び下半分に限らず、ディスプレイの発光領域(発光強度の強弱パターンも含む)の変更により薬剤への照明方向が異なればよい。
【0165】
また、薬剤識別装置は、サーバに限らず、スマートフォンに代表されるカメラ付き携帯端末と通信可能な装置であれば、如何なるものでもよい。
【0166】
薬剤識別装置のハードウェア的な構造は、次に示すような各種のプロセッサ(processor)である。各種のプロセッサには、ソフトウェア(プログラム)を実行して各種の制御部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路などが含まれる。
【0167】
1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されていてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサ(例えば、複数のFPGA、あるいはCPUとFPGAの組み合わせ)で構成されてもよい。また、複数の制御部を1つのプロセッサで構成してもよい。複数の制御部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントやサーバなどのコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組合せで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の制御部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)などに代表されるように、複数の制御部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の制御部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
【0168】
また、本実施形態では、カメラ付き携帯端末は、照明方向が異なる複数の画像を撮影する機能を備えているが、薬剤識別装置の一部の機能(例えば、規格化部、画像抽出部、及び画像処理部の機能)を備えるものでもよいし、薬剤識別装置の全ての機能を備えるものでもよい。後者の場合、カメラ付き携帯端末とは別体の薬剤識別装置は不要になる。
【0169】
更に、薬剤識別部による薬剤の識別方法は、本実施形態に限定されず、薬剤に付された刻印又は印字が強調された画像(第2画像)に基づいて薬剤を識別する方法であれば、如何なる方法でもよい。
【0170】
また、本発明は、汎用のカメラ付き携帯端末にインストールされることにより、本発明に係るカメラ付き携帯端末として各種の機能(ディスプレイ制御機能、画像取得機能等)を実現させるプログラム、及びこのプログラムが記録された記録媒体を含む。
【0171】
更に、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0172】
2 ネットワーク
10、40 トレー
12 載置面
14A、14B、14C、14D 指標
20 薬剤
30 環境光
50 第1画像
60 第2画像
100 スマートフォン
101 主制御部
101A ディスプレイ制御部
101B 画像取得部
101C 通信制御部
102 筐体
110 無線通信部
120 ディスプレイ
121 表示パネル
122 操作パネル
130 通話部
131 スピーカ
132 マイクロホン
140 操作部
141 カメラ部
150 記憶部
151 内部記憶部
152 外部記憶部
160 外部入出力部
170 GPS受信部
180 モーションセンサ部
190 電源部
200 薬剤識別装置(サーバ)
210 通信部
220 CPU
230 規格化部
240 画像抽出部
250 薬剤DB
260 メモリ
270 画像処理部
272 エッジ画像合成部
274 エッジ画像生成部
280 薬剤識別部
280-1 薬剤識別部(CNN)
280-2 薬剤識別部
280A 入力層
280B 中間層
280C 出力層
282 特徴量演算部
284 推論部
288 出力部
289 テンプレートマッチング部
S 刻印
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15