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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】人工黒鉛の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/205 20170101AFI20220719BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220719BHJP
【FI】
C01B32/205
H01M4/587
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021025160
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022081372
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】109140440
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】500447978
【氏名又は名称】台灣中油股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】陳彦旭
(72)【発明者】
【氏名】呂國旭
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-117256(JP,A)
【文献】特開2012-084360(JP,A)
【文献】特開2020-111490(JP,A)
【文献】特開2006-269494(JP,A)
【文献】国際公開第2002/040616(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/20
H01M 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質油を取得し、連続コーキング反応により前記重質油がコークスを形成し、前記コークスが複数の中間相ドメインを有し、偏光顕微鏡により分析を行うと、これら前記中間相ドメインのサイズの全てが1μm~30μmの間の範囲であるステップ(A)と、
ステップ(A)で形成したコークスを取得し、予熱炭化処理、研磨分級、高温炭化処理、及び黒鉛化処理のプロセスを順に経て、前記コークスが多結晶形態人工黒鉛を形成するステップ(B)と、を含むことを特徴とする人工黒鉛の調製方法。
【請求項2】
前記多結晶形態人工黒鉛の(002)結晶面の大きさLは30nm未満であることを特徴とする請求項1に記載の人工黒鉛の調製方法。
【請求項3】
前記多結晶形態人工黒鉛の(110)結晶面の大きさLは120nm乃至160nmの間の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の人工黒鉛の調製方法。
【請求項4】
ステップ(A)では、まず前記重質油を加熱炉中に輸送し、加熱温度の範囲を480℃乃至520℃とし、圧力の範囲を0.18Mpa乃至0.22Mpaとし、加熱時間の範囲を0.01時間乃至0.02時間とする条件で前記重質油を加熱し、同時に水を前記加熱炉中に輸送し、加熱することで水蒸気を生成し、且つ前記水蒸気が存在する状態で、輸送管によって0.02m3/s乃至0.03m3/sの高流速で加熱した前記重質油をコーキングタンク中に輸送した後、反応温度の範囲を470℃乃至520℃とし、圧力の範囲を0.18Mpa乃至0.22Mpaとし、反応時間の範囲を16時間乃至24時間とする条件で、加熱した前記重質油に分解及び重縮合を発生させてコークスを生成することを特徴とする請求項1に記載の人工黒鉛の調製方法。
【請求項5】
前記水の用量は前記重質油の総量の0.8wt%乃至1.2wt%であることを特徴とする請求項4に記載の人工黒鉛の調製方法。
【請求項6】
ステップ(B)において、前記予熱炭化処理のか焼温度の範囲を800℃乃至1000℃とし、か焼時間の範囲を4時間乃至16時間とすることを特徴とする請求項1に記載の人工黒鉛の調製方法。
【請求項7】
ステップ(B)において、前記研磨分級は前記予熱炭化処理を経た前記コークスを研磨した後に、サイクロン分級機により篩い分け、平均粒径D50が12μm乃至15μmの間の範囲である前記予熱炭化処理を経た前記コークスを選択して取得することを特徴とする請求項1に記載の人工黒鉛の調製方法。
【請求項8】
ステップ(B)において、前記高温炭化処理のか焼温度の範囲を1000℃乃至1200℃とし、且つ前記予熱炭化処理のか焼温度より高くし、か焼時間の範囲を4時間乃至20時間とすることを特徴とする請求項1に記載の人工黒鉛の調製方法。
【請求項9】
ステップ(B)において、前記黒鉛化処理のか焼温度は2900℃乃至3000℃とし、且つ温度の保持時間は8時間乃至30日間とすることを特徴とする請求項1に記載の人工黒鉛の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工黒鉛の調製方法に関し、更に詳しくは、連続コーキング反応による多結晶形態人工黒鉛の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工黒鉛は電池(例えば、リチウムイオン電池)に応用され、電池の負極の材料となっている。人工黒鉛の結晶形態は前記人工黒鉛を備えている電池の充放電性能に対し顕著な影響を与えている。よって、人工黒鉛の結晶形態をいかに改善し、前記人工黒鉛を応用した電池の充放電性能を高めるかが、本発明が属する技術分野で解決が待たれる課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願第2003/0175591A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の特許文献では、例えば、下記特許文献1の「リチウム系二次電池用負極活物質の調製方法」という記載がある。前記方法は、コールタールピッチまたは石油ピッチを有機溶剤中に溶解して不溶性成分を除去するステップと、不活性雰囲気で400℃乃至450℃の温度でピッチに対し30分間或いはそれ以上の時間熱処理を行い、中間相粒子を生成するステップ。中間相粒子を安定化またはコークス化させるステップと、1000℃乃至1300℃の温度で中間相粒子を炭化安定化またはコークス化させるステップと、2,500℃乃至3,000℃の温度範囲内で炭化した中間相粒子を黒鉛化し、黒鉛に類似する炭素材料を形成するステップとを含む。しかしながら、特許文献1には人工黒鉛の結晶形態を改善することで、前記人工黒鉛に応用する電池の充放電性能をいかに高めるかが未記載であり、記載の方法で調製された黒鉛に類似する炭素材料は充放電性能に改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明者は上記の欠点が改善可能と考え、鋭意検討を重ねた結果、合理的設計で上記の課題を効果的に改善する本発明の提案に至った。
【0006】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、人工黒鉛の調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、重質油を取得し、連続コーキング反応により前記重質油がコークスを形成し、前記コークスが複数の中間相ドメインを有し、偏光顕微鏡により分析を行うと、前記中間相ドメインのサイズが1μm~30μmの間の範囲であるステップ(A)と、ステップ(A)で形成したコークスを取得し、予熱炭化処理、研磨分級、高温炭化処理、及び黒鉛化処理等のプロセスを順に経て、前記コークスが多結晶形態人工黒鉛を形成するステップ(B)と、を含むことを特徴とする人工黒鉛の調製方法である。
【0008】
本発明の好適例において、前記多結晶形態人工黒鉛の(002)結晶面の大きさLは30nm未満である。
【0009】
本発明の好適例において、前記多結晶形態人工黒鉛の(110)結晶面の大きさLは120nm乃至160nmの間の範囲である。
【0010】
本発明の好適例において、ステップ(A)では、まず前記重質油を加熱炉中に輸送し、加熱温度の範囲を480℃乃至520℃とし、圧力の範囲を0.18Mpa乃至0.22Mpaとし、加熱時間の範囲を0.01時間乃至0.02時間とする条件で前記重質油を加熱し、同時に水を前記加熱炉中に輸送し、加熱することで水蒸気を生成し、且つ前記水蒸気が存在する状態で、輸送管によって0.02m3/s乃至0.03m3/sの高流速で加熱した前記重質油をコーキングタンク中に輸送した後、反応温度の範囲を470℃乃至520℃とし、圧力の範囲を0.18Mpa乃至0.22Mpaとし、反応時間の範囲を16時間乃至24時間とする条件で、加熱した前記重質油に分解及び重縮合を発生させてコークスを生成する。
【0011】
本発明の好適例において、前記水の用量は前記重質油の総量の0.8wt%乃至1.2wt%である。
【0012】
本発明の好適例において、ステップ(B)において、前記予熱炭化処理のか焼温度の範囲は800℃乃至1000℃とし、且つか焼時間の範囲は4時間乃至16時間とする。
【0013】
本発明の好適例において、ステップ(B)において、前記研磨分級は前記予熱炭化処理を経た前記コークスを研磨した後に、サイクロン分級機により篩い分け、平均粒径D50が12μm乃至15μmの間の範囲である前記予熱炭化処理を経た前記コークスを選択して取得する。
【0014】
本発明の好適例において、ステップ(B)において、前記高温炭化処理のか焼温度の範囲を1000℃乃至1200℃とし、且つ前記予熱炭化処理のか焼温度より高くし、か焼時間の範囲を4時間乃至20時間とする。
【0015】
本発明の好適例において、ステップ(B)において、前記黒鉛化処理のか焼温度は2900℃乃至3000℃とし、且つ温度の保持時間は8時間乃至30日間とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の人工黒鉛の調製方法は、連続コーキング反応により重質油がコークスを形成することで、多結晶形態人工黒鉛を形成する。試験を経て、回分コーキング反応により重質油がコークスを形成する調製方法に比べると、本発明の人工黒鉛の調製方法によって形成する多結晶形態人工黒鉛の電池は好ましい充放電性能を有している。
【0017】
本明細書及び図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1に係る人工黒鉛の調製方法のフローチャートである。
図2】本発明の実施例1で形成されたコークスの偏光顕微鏡写真である。
図3】本発明の比較例1で形成されたコークスの偏光顕微鏡写真である。
図4】本発明の実施例1と比較例1で形成された人工黒鉛のX線回折スペクトルである。
図5】本発明の実施例1と比較例1で形成された人工黒鉛のX線回折スペクトルである。
図6】本発明の実施例1と比較例1で形成された人工黒鉛のX線回折スペクトルである。
図7】炭素材料の結晶面を示す概略図である。
図8】本発明の実施例1で形成された人工黒鉛のラマンスペクトルである。
図9】本発明の比較例1で形成された人工黒鉛のラマンスペクトルである。
図10】実施例1と比較例1にそれぞれ応用される人工黒鉛のバッテリーの充電曲線の分析グラフである。
図11】実施例1と比較例1にそれぞれ応用される人工黒鉛のバッテリーの放電曲線の分析グラフである。
図12】実施例1と比較例1にそれぞれ応用される人工黒鉛の120分間充電/放電でのバッテリーの寿命試験チャートである。
図13】実施例1と比較例1にそれぞれ応用される人工黒鉛の60分間充電/放電でのバッテリーの寿命試験チャートである。
図14】実施例1と比較例1にそれぞれ応用される人工黒鉛の30分間充電/放電でのバッテリーの寿命試験チャートである。
図15】実施例1に応用される人工黒鉛のバッテリーが3回充放電を経た走査型電子顕微鏡写真である。
図16】実施例1に応用される人工黒鉛のバッテリーが3回充放電を経た体積膨張分析の走査型電子顕微鏡写真である。
図17】比較例1に応用される人工黒鉛のバッテリーが3回充放電を経た走査型電子顕微鏡写真である。
図18】比較例1に応用される人工黒鉛のバッテリーが3回充放電を経た体積膨張分析の走査型電子顕微鏡写真である。
図19】実施例1の人工黒鉛の許容可能なボリューム拡張モードを示す概略図である。
図20】比較例1の人工黒鉛の許容可能なボリューム拡張モードを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。また、文中に別途説明がない限り、明細書及び添付する特許請求の範囲中で使用する単数形式の「一」及び「前記」は複数の意味を含む。文中に別途説明がない限り、明細書及び添付する特許請求の範囲中で使用する用語「或いは」は「及び/或いは」の意味を含む。
【実施例1】
【0020】
実施例1の人工黒鉛の調製方法は図1に示されるように、前記調製方法は、重質油を取得するステップ(A)であって、連続コーキング反応により前記重質油がコークスを形成し、前記コークスが複数の中間相ドメイン(mesophase domain)を有し、偏光顕微鏡(polarizing microscope、メーカー:Nikon、型番号:Eclipse LV100POL)により分析を行うと、これら前記中間相ドメインのサイズが1μm~30μmの間の範囲であるS1と、予熱炭化処理、研磨分級、高温炭化処理、及び黒鉛化処理等のプロセスを順に経て、前記コークスが多結晶形態人工黒鉛を形成するステップ(A)で形成したコークスを取得するステップ(B)S2と、を含む。
【0021】
実施例1の人工黒鉛の調製方法は、連続コーキング反応により前記重質油が1μm~30μmの間のサイズの複数の中間相ドメインを有するコークスを形成し、これにより前記コークスがさらに後続のプロセスを経て多結晶形態人工黒鉛を形成する。
【0022】
具体的には、実施例1のステップ(A)は、下記プロセス条件に基づいて実行する。重質油を加熱炉中に輸送し、圧力を0.3Mpaとし、加熱温度を500℃とし、加熱時間を0.02時間とする条件で前記重質油を加熱し、同時に水を前記加熱炉中に輸送し、加熱することで水蒸気を生成する(前記水の用量は重質油の総量の0.8wt%乃至1.2wt%とする)。輸送管を通過し、且つ前記水蒸気が存在する状態で、0.03m3/sの流速で加熱した前記重質油をコーキングタンク中に輸送した後、反応温度を490℃とし、圧力を0.2Mpaとし、反応時間を24時間とする条件で、加熱した前記重質油に前記コーキングタンク中で分解及び重縮合を発生させてコークスを生成する。その後、前記コーキングタンクを空気中で室温になるまで冷却した後、前記コーキングタンク中からコークスを取り出す。
【0023】
具体的には、実施例1のステップ(B)は、下記プロセス条件に基づいて実行する。ステップ(A)で調製したコークスにまず予熱炭化処理を行い、次いで、前記予熱炭化処理を経た前記コークスを研磨した後、サイクロン分級機により篩い分け、平均粒径D50を12μm乃至15μmの間の範囲とする前記予熱炭化処理を経た前記コークスを選択して取得する。続いて、高温炭化処理を行い、軟質炭素を調製する。さらに、前記軟質炭素に黒鉛化処理を行って人工黒鉛を取得する。前記予熱炭化処理の加熱速度は10℃/minとし、か焼温度は850℃とし、温度の保持時間は4時間とする。前記高温炭化処理の加熱速度は10℃/minとし、か焼温度は1100℃とし、温度の保持時間は4時間とする。前記黒鉛化処理のか焼温度は2950℃とし、温度の保持時間は8時間とする。
【0024】
上述の実施例1のプロセス条件は例にすぎず、本発明はこれらに制限しない。一例を挙げると、ステップ(A)は下記プロセス条件の範囲で実行する。まず重質油を加熱炉中に輸送し、加熱温度の範囲を480℃乃至520℃とし、圧力の範囲を0.18Mpa乃至0.22Mpaとし、加熱時間の範囲を0.01時間乃至0.02時間とする条件で前記重質油を加熱し、同時に水を前記加熱炉中に輸送し、加熱して水蒸気を生成する(前記水の用量は前記重質油の総量の0.8wt%乃至1.2wt%とする)。輸送管を通過し、且つ前記水蒸気が存在する状態で、制限しないが例えば0.02m3/s乃至0.03m3/sの高流速で加熱した前記重質油をコーキングタンク中に輸送した後、反応温度の範囲を470℃乃至520℃とし、圧力の範囲を0.18Mpa乃至0.22Mpaとし、反応時間の範囲を16時間乃至24時間とする条件で、加熱した前記重質油に分解及び重縮合を発生させてコークスを生成する。
【0025】
例えば、ステップ(B)の各プロセスは下記プロセス条件で実行する。前記予熱炭化処理のか焼温度の範囲を800℃乃至1000℃とし、か焼時間の範囲を4時間乃至16時間とし、前記高温炭化処理のか焼温度の範囲を1000℃乃至1200℃とし、且つ前記予熱炭化処理のか焼温度より高くし、か焼時間の範囲を4時間乃至20時間とし、前記黒鉛化処理のか焼温度は2900℃乃至3000℃とし、温度の保持時間は8時間乃至30日間とする。
【比較例1】
【0026】
比較例1の人工黒鉛の調製方法は実施例と相似し、その差異は、比較例1のステップ(A)は回分コーキング反応により前記重質油がコークスを形成し、前記コークスが複数の中間相ドメインを有し、偏光顕微鏡により分析を行うと、これら前記中間相ドメインのサイズが50~200μmの間の範囲である点である。
【0027】
実施例1と比較し、比較例1の人工黒鉛の調製方法は、回分コーキング反応により前記重質油が50~200μmの間のサイズの複数の中間相ドメインを有するコークスを形成することで、前記コークスがさらに後続のプロセスにより少結晶形態人工黒鉛を形成する。
【0028】
具体的には、比較例1のステップ(A)は、下記プロセス条件に基づいて実行する。重質油を反応タンク中に輸送した後、10℃/minの加熱速度で前記重質油の温度を室温から500℃まで上昇させ、且つ圧力を1Mpaとする環境で温度を4時間保持し、前記重質油に分解及び重縮合を発生させてコークスを生成する。その後、前記反応タンクを空気中で室温まで冷却した後、前記反応タンク中からコークスを取り出す。
[試験例1:偏光顕微鏡による分析]
【0029】
試験例1は実施例1の連続コーキング反応により形成したコークスを取得し、偏光顕微鏡によってその中間相ドメインを分析し、且つ比較例1の回分コーキング反応により形成したコークスを取得して対照とする。試験例1の試験結果は図2及び図3に示す。
【0030】
図2及び図3に示されるように、実施例1及び比較例1の両者のコークスの偏光顕微構造を観察すると、比較例1の回分コーキング反応により形成したコークスの中間相は融合が多く、融合区域を形成しやすく、融合区域の構造がより大きく、50μm~200μmの間のサイズの大きな中間相ドメインが形成されている。相対的に、実施例1の連続コーキング反応により形成したコークスの中間相は融合が少なく、融合区域を形成しにくく、融合区域の構造がより小さく、1μm~30μmの間のサイズの小さな中間相ドメインが形成されている。
[試験例2:X線回折(X-ray diffraction, XRD)分析]
【0031】
試験例2は、実施例1で形成した多結晶形態人工黒鉛を取得し、XRD分析を行い、且つ比較例1で形成した少結晶形態人工黒鉛を取得して対照とする。試験例2の試験結果は図4図6に示す。
【0032】
図4図6に示されるXRDスペクトルから分かるように、主に2つのエリアのピーク値を有し、ピーク値がある角度及び半値幅から結晶粒の大きさを算出可能である。その計算方式は下記式(I)及び図7に示す。
ドメインの厚さ:
【0033】
【数1】
【0034】
【数2】
【0035】
式(I)
すなわち、シェラーの式(Scherer equation):(結晶粒)=(0.89×λ)/(dcosθ))により、炭素材料の(002)結晶面の大きさLを求め、同じ結晶面の回折角度で、結晶粒の大きさ及びピーク値の半値幅が反比例し、実施例1で形成した多結晶形態人工黒鉛は2つのエリアのピーク値の半値幅が全て比較例1で形成した少結晶形態人工黒鉛よりも大きい。よって、実施例1で形成した多結晶形態人工黒鉛の結晶粒は小さく、比較例1で形成した少結晶形態人工黒鉛の結晶粒は大きい。すなわち、実施例1は連続コーキングによりコークスを形成し、多結晶形態人工黒鉛を形成する。相対的に、比較例1は回分コーキングによりコークスを形成し、少結晶形態人工黒鉛を形成する。
[試験例3:ラマン(Raman)スペクトル分析]
【0036】
試験例3は実施例1で形成した多結晶形態人工黒鉛を取得してラマンスペクトル分析を行い、且つ比較例1で形成した少結晶形態人工黒鉛を取得して対照とし、各々3回重複して分析を行った。試験例3の試験結果は図8及び図9に示す。
【0037】
図8及び図9では(110)結晶面の大きさLを求める。C(λ)=-126Å+0.033λ、λ=532nm及びLa=C(λ)/(ID/IG)に基づいて黒鉛結晶構造Lの寸法を計算する。試験例2及び試験例3の試験結果に基づいて、実施例1及び比較例1の炭素材料のドメイン領域の大きさを計算し、表1に整理する。
【0038】
【表1】

[試験例4:充放電効率分析]
【0039】
実施例1で形成した多結晶形態人工黒鉛及び比較例1で形成した少結晶形態人工黒鉛をそれぞれ取得して負極とし、且つよくある方式を用いてCR2032ボタン型半電池及び18650全電池を製作し、半電池及び全電池の特性を以下のように分析する。
【0040】
下記表2は台湾中油株式会社の半電池試験プラットフォームで分析を行った試験結果を示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2を参照すれば、実施例1の第一サイクル放電容量(D_1st)が360mAh/gより大きく、比較例1の第一サイクル放電容量(D_1st)は360mAh/gに近く、両者の第一サイクル不可逆電気容量(1st_Irr)は24mAh/gであり、両者のクーロン効率(Q.E.)はそれぞれ93.8%及び93.7%である。
【0043】
さらに、実施例1で形成した多結晶形態人工黒鉛及び比較例1で形成した少結晶形態人工黒鉛をそれぞれ取得して電極とする電池に対し充放電曲線の分析を行い、その試験結果は図10及び図11に示す。
【0044】
図10及び図11から分かるように、両者の充電曲線及び放電曲線は一致するように重なっており、低パワーでは、実施例1の人工黒鉛及び比較例1の人工黒鉛によるリチウムイオンのインターカレーション/デインターカレーションが一致することを確認し、その両者の黒鉛構造の特性が符合していることを証明している。また、両者の材料の比表面積及びタップ密度も非常に近似している。換言すれば、前駆物質(コークス)の構造上の違いは、人工黒鉛結晶構造が少結晶及び多結晶構造を呈するのみであり、原材料の基本的な物理特性、電気容量、及び不可逆電気容量に影響はない。
【0045】
さらに、実施例1で形成した多結晶形態人工黒鉛及び比較例1で形成した少結晶形態人工黒鉛をそれぞれ取得して電極とする電池に対して高速充電/高速放電試験を行い、その試験結果は下記表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3に示されるように、比較例1では0.1C(10時間充電)から5C(12分間)までの高速充電能力が100%~約42%であり、実施例1では100%~約56%であり、高C-rate 5Cの高速充電では、両者の高速充電能力の差異は約13%であった。さらなる高速充電では、実施例1の人工黒鉛によるリチウムイオンのインターカレーション速度がさらに速くなると推測できる。高速放電の試験結果は両者の1C乃至5Cの高速放電能力の差異が約1%であることを示す。高C-rate 10Cの高速充電では、両者の高速放電能力の差異が約3%であった。さらなる高速放電(高パワー出力)では、実施例1の人工黒鉛によるリチウムイオンのデインターカレーション速度がさらに速くなると推測できる。
【0048】
さらに、実施例1で形成した多結晶形態人工黒鉛及び比較例1で形成した少結晶形態人工黒鉛をそれぞれ取得して電極とする電池に対し寿命試験を行い、その試験結果は図12図14に示す。
【0049】
図12図14に示されるように、0.5C/0.5Cの充電では、実施例1の多結晶形態人工黒鉛の寿命が比較例1の少結晶形態人工黒鉛より優れ、50回の試験では、実施例1の多結晶形態人工黒鉛の電気容量残存率が90%超であり、比較例1の少結晶形態人工黒鉛では80%未満であった。1C/1Cの充放電では、30回の試験では、実施例1の多結晶形態人工黒鉛の電気容量残存率が約100%であり、比較例1の少結晶形態人工黒鉛が80%未満であり、さらに高い2C/2Cの充放電では、30回の試験では、実施例1の多結晶形態人工黒鉛の電気容量残存率が約50%であり、比較例1の少結晶形態人工黒鉛が30%未満であった。
【0050】
さらに、実施例1で形成した多結晶形態人工黒鉛及び比較例1で形成した少結晶形態人工黒鉛をそれぞれ取得して電極とする電池に対して体積膨張の分析を行い、その試験結果は図15図18に示す。
【0051】
図15図18に示される体積膨張の分析では、まず実施例1及び比較例の人工黒鉛を電極とする電池に対しそれぞれ3回の0.1Cの充電/0.1Cの放電を行い、3回の充放電を経た人工黒鉛の負極の体積が膨張した後、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope, SEM)により人工黒鉛の負極の分析を行い、充放電前の厚さの変化を比較し、且つ人工黒鉛の負極の厚さの変化から体積膨張の百分率を計算した。
【0052】
図15図18から分かるように、比較例1の少結晶形態人工黒鉛の体積膨張は約10%であり、実施例1の多結晶形態人工黒鉛の体積膨張は約6%であり、結果として実施例1の多結晶態人工黒鉛がさらに多くの結晶粒界(Grain boundary, GB)を有することを証明し、その膨張を収容可能な領域が大きくなり、よって、充放電を経た後の膨張程度が低下する。このため、実施例1の多結晶態人工黒鉛を電極とする電池は、人工黒鉛の体積膨張に起因する黒鉛の剥離を回避し、或いは負極の極片の内導電ネットワークが失われる事態を回避し、前記電池のサイクル寿命を延ばす。
【0053】
また、実施例1及び比較例1の人工黒鉛は微小領域の構造が異なるため、これら前記人工黒鉛を応用した電池のサイクル寿命のパフォーマンスに差異が生じる。比較例1の人工黒鉛は微小領域の構造が大きく、同様のマクロ粒子では、結晶粒が少なく、すなわち結晶粒界の領域が少ない。人工黒鉛を応用するリチウム電池のリチウムイオンは充放電時に、リチウムイオンを炭素層間に保存し、これによる体積の膨張は、炭素層間の結晶粒界(Grain boundary, GB)により緩められ、GBが少なくなる場合、体積膨張及び黒鉛の剥離を低減できず、これを応用する電池のサイクル寿命が短縮した。このため、比較例1の人工黒鉛を応用する電池は体積膨張を収容可能な領域が少なく、体積の膨張が大きくなり、サイクル寿命が短くなる。
【0054】
反対に、実施例1の人工黒鉛は微小領域の構造が小さく、同様のマクロ粒子では、結晶粒が多く、すなわち結晶粒界の領域が多い。人工黒鉛を応用するリチウム電池のリチウムイオンは充放電時に、リチウムイオンを炭素層間に保存し、これによる体積膨張は、炭素層間の結晶粒界(GB)により緩められ、GBが多くなる場合、体積膨張及び黒鉛の剥離がより低減し、サイクル寿命が延長する。このため、実施例1の人工黒鉛を応用する電池は体積膨張を収容可能な領域が多く、すなわち体積膨張が小さく、サイクル寿命が長い。図19及び図20に示されるように、実施例1の人工黒鉛の結晶粒界(GB)が多く、リチウムイオンのインターカレーションの体積膨張を低減し、前記人工黒鉛を応用する電池のサイクル寿命及び高速充電の寿命も延長する。実施例1の多結晶形態人工黒鉛は膨張を収容可能な領域がより大きく、より短時間でより大きな体積膨張を許容/反応可能であり、よって、サイクル寿命のパフォーマンスでは、実施例1の多結晶形態人工黒鉛を応用する電池は比較例1の少結晶形態人工黒鉛を応用する電池よりも優れている。
【0055】
本発明の人工黒鉛の調製方法は、高温炭化処理で調製した軟質炭素にさらに黒鉛化処理を実行し、多結晶形態人工黒鉛を取得する。一般的には、人工黒鉛を応用する電池の高速充電能力は低く、寿命が短く、特に高速充電では寿命がさらに短くなった。相対的に、軟質炭素を応用する電池は、好ましい高速充電能力及び寿命を有している。しかしながら、本発明の人工黒鉛の調製方法で調製した多結晶形態人工黒鉛は、上述の一般的な人工黒鉛の欠点を大幅に改善している。
【0056】
上述したように、本発明の人工黒鉛の調製方法は、連続コーキング反応により前記重質油が1μm~30μmの間のサイズの複数の中間相ドメインを有するコークスを形成することにより、前記コークスがさらに後続のプロセスにより多結晶形態人工黒鉛を形成する。本発明の人工黒鉛の調製方法で調製した多結晶形態人工黒鉛により、前記人工黒鉛を電極として応用する電池が好ましい高速充電/高速放電性能及びサイクル寿命を有する。
【0057】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0058】
S1 ステップ
S2 ステップ
図1
図2
図3
図4
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図6
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図10
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