(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】発煙剤組成物
(51)【国際特許分類】
C06D 3/00 20060101AFI20220719BHJP
C06B 23/00 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
C06D3/00
C06B23/00
(21)【出願番号】P 2021064055
(22)【出願日】2021-04-05
【審査請求日】2022-04-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390034382
【氏名又は名称】昭和金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】菊池 優児
(72)【発明者】
【氏名】正代 藤倫
(72)【発明者】
【氏名】山本 英行
(72)【発明者】
【氏名】深谷 稔
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06436210(US,B1)
【文献】特開2017-206425(JP,A)
【文献】特開昭60-155591(JP,A)
【文献】特開昭53-058796(JP,A)
【文献】特開昭59-223290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C06D 3/00
F41B 15/00
G08B 15/02
F41H 9/06
F42B 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発煙剤である硬化油と、燃料と、酸化剤と、を含み、
前記硬化油が26質量%から55質量%、前記燃料が10質量%から40質量%、前記酸化剤が27質量%から45質量%含ま
れ、
前記硬化油が大豆極度硬化油である、
ことを特徴とする発煙剤組成物。
【請求項2】
前記燃料が乳糖であり、前記酸化剤が塩素酸カリウムである、
ことを特徴とする請求項1に記載された発煙剤組成物。
【請求項3】
前記硬化油が35質量%、前記燃料が35質量%、前記酸化剤が30質量%含まれている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の発煙剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に負荷が小さい発煙剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、白煙又はその他の色付きの煙による発煙は、非常時の信号手段として、また、防犯システムとして、さらには、有事の際の煙幕として、多岐に渡り使用されている。そのため、これらの用途に合わせた様々な発煙装置が開発されると共に、種々の発煙剤が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
特許文献1には、六塩化エタンを含有する発煙剤が開示されている。この発煙剤は、六塩化エタンを53~58重量%、酸化亜鉛を25~34重量%、亜鉛末を15~18重量%及び二酸化マンガンを1~3重量%の配合率で含有している。また、特許文献2には、発煙剤にパラフィン化合物を含むワックス類を用いた発煙剤組成物が開示されている。この発煙剤組成物は、単糖類及び二糖類から選ばれる1種以上、パラフィン化合物を含むワックス類及び酸化剤を含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-47794号公報
【文献】特開2017-206425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発煙剤及び発煙剤組成物では、発煙により空気中に噴出される発煙剤に、六塩化エタンやパラフィン化合物のような人体及び環境に負荷が大きい成分が含まれているため、使用領域を誤ると人体に対して負荷が大きくなる可能性があり、十分な注意が必要となる。また、発煙剤、発煙剤組成物及び発煙装置の製造現場にも注意を要する。
そのため、近年では、人体や環境への影響及び取扱いの観点から、より人体や環境に負荷が小さく、取り扱いが容易である発煙剤組成物の開発が望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、人体に優しく及び環境に負荷が小さく、安全性が高い発煙剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る発煙剤組成物は、発煙剤である硬化油と、燃料と、酸化剤と、を含み、硬化油が26質量%から55質量%、燃料が10質量%から40質量%、酸化剤が27質量%から45質量%含まれていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る発煙剤組成物は、硬化油が大豆極度硬化油であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る発煙剤組成物は、燃料が乳糖であり、酸化剤が塩素酸カリウムであることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る発煙剤組成物は、硬化油が35質量%、燃料が35質量%、酸化剤が30質量%含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る発煙剤組成物は、発煙剤として、植物性又は動物性の油の加工油脂の一種である硬化油を含んでいる。そのため、人体に優しくや環境への負荷は小さく、使用者が安全に使用することができる。さらに、発煙装置の製造現場の安全性も確保でき、取り扱いが容易となる。特に、大豆極度硬化油を使用した場合、大豆極度硬化油は、融点が高いため、高温の環境下で長時間保管された場合に融解することがなく、安定して発煙が可能である。
【0012】
本発明に係る発煙剤組成物は、大豆極度硬化油が26質量%から55質量%、乳糖が10質量%から40質量%、塩素酸カリウムが27質量%から45質量%含まれていることで、所望の煙幕機能時間及び単位時間当たりの発煙量を確保することができる。中でも、大豆極度硬化油を35質量%、乳糖を35質量%、塩素酸カリウムを30質量%の混合割合とすることで、安定して燃焼すると共に、単位時間当たりの発煙量及び発煙濃度を十分に保ちつつ、所望時間の発煙が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る発煙筒の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る発煙剤組成物は、発煙剤である硬化油と、燃焼ガス発生剤である燃料と、酸化剤とを含有する。
この発煙剤組成物は、燃料が燃焼する熱によって、硬化油が蒸発する。そして、この蒸発した硬化油と、燃焼ガス発生剤から発生する燃焼ガスとが、互いに混合されて混合ガスとなる。この混合ガスは、空気中に噴出された後に空気中で冷却され、蒸発した硬化油が、液滴となって飛散して煙となる。
【0015】
硬化油には、大豆油、菜種油、パーム油、魚油、鯨油又は牛脂等の植物性又は動物性の硬化油を使用する。硬化油は、できるだけ融点が高いものが好ましく、融点が50℃以上の大豆極度硬化油、菜種極度硬化油、パーム極度硬化油又は牛脂極度硬化油等の極度硬化油が好ましい。本実施形態に係る発煙剤組成物では、融点が68℃である大豆極度硬化油を用いる。
【0016】
発煙剤組成物に対する硬化油の割合は、26質量%から55質量%であることが好ましい。硬化油の割合が26質量%未満であるもの又は55質量%を超えるものは、着火しない又は着火したとしても十分な燃焼反応に至らず、単位時間当たりの発煙量及び発煙濃度が著しく減少する。
【0017】
燃料には、ブドウ糖又は果糖等の単糖類、乳糖、ショ糖又は麦芽糖等の二糖類、澱粉、グリコーゲン又はセルロース等の多糖類を使用することが好ましい。
【0018】
酸化剤には、塩素酸塩、過塩素酸塩や硝酸塩などを使用することができる。中でも、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム等の塩素酸塩が好ましい。なお、酸化剤は、塩素酸塩、過塩素酸塩や硝酸塩以外にも、糖類と反応して同様の機能を発揮するものであれば使用できる。
【0019】
本実施形態に係る発煙剤組成物では、燃料として乳糖、酸化剤として塩素酸カリウムをそれぞれ使用する。
【0020】
発煙剤組成物に対する乳糖の割合は10質量%から40質量%であることが好ましい。乳糖の割合が、10質量%未満であるもの又は40質量%を超えるものは、着火しない又は着火したとしても十分な燃焼反応に至らず、発煙量及び発煙濃度が著しく減少する。
【0021】
発煙剤組成物に対する塩素酸カリウムの割合は27質量%から45質量%であることが好ましい。塩素酸カリウムの割合が27質量%未満のものは、着火しないこともあるため、発煙剤組成物として機能しない場合があり、塩素酸カリウムの割合が45質量%を超えるものは、燃焼ガスの発生量が著しく増加し、燃焼時の圧力の制御が困難となる場合がある。
【0022】
発煙剤としての機能、例えば、単位時間当たりの発煙量、発煙濃度及び発煙時間(煙幕機能時間)の観点から、発煙剤組成物は、硬化油が35質量%、燃料が35質量%、そして、酸化剤が30質量%であることが最も好ましい。この混合割合とすることによって、発煙量が多く、かつ、発煙濃度が濃い発煙剤組成物とすることができる。また、煙幕として必要とされる十分な時間の発煙が可能になる。
【0023】
[試験1]煙幕試験
大豆極度硬化油、乳糖、塩素酸カリウムを混合した発煙剤組成物(実施例1から実施例10及び比較例1から比較例7)を用いて、煙幕試験を行った。大豆極度硬化油は、融点が68℃のものを用いた。煙幕試験では、煙幕機能時間及び単位時間当たりの発煙量を調べた。発煙量は、目視により観察した。評価は、以下の基準により行った。
煙幕機能時間の評価:60秒以上「◎」、30秒以上60秒未満「〇」
発煙量:基準発煙剤よりも多い「◎」、基準発煙剤と同等「〇」、基準発煙剤以下「×」
【0024】
【0025】
試験1の結果から、大豆極度硬化油が50質量%から30質量%、乳糖が15質量%から40質量%、塩素酸カリウムが27質量%から40質量%である場合に、白煙が生じ、発煙量を確保できることが判った。中でも、大豆極度硬化油が40質量%、乳糖が30質量%、塩素酸カリウムが30質量%である発煙剤組成物(実施例4)、大豆極度硬化油が35質量%、乳糖が35質量%、塩素酸カリウムが30質量%である発煙剤組成物(実施例7)が、煙幕機能時間が長くかつ単位時間当たりの発煙量を確保できることが判った。また、塩素酸カリウムの割合が30質量%よりも小さくなると、単位時間当たりの発煙量が減少することが判った。全体的に単位時間当たりの発煙量の減少に伴って、煙幕機能時間が延びる傾向にあった。
なお、実施例1から実施例10の発煙剤組成物から生じる煙幕は、所定の発煙濃度であることも確認できた。
【0026】
比較例の結果から、塩素酸カリウムの割合が25質量%以下である発煙剤組成物及び乳糖が含まれていない発煙剤組成物は着火しないことが判った。
大豆極度硬化油が55質量%、乳糖が10質量%、塩素酸カリウムが35質量%である発煙剤組成物(比較例3)では、煙幕機能時間は確保できるが、単位時間の発煙量が少ないことが判った。また、大豆極度硬化油が25質量%、乳糖が30質量%、塩素酸カリウムが45質量%である発煙剤組成物(比較例6)では、着火はしたものの、すぐに発煙筒が開放した。
【0027】
次に、大豆極度硬化油を35質量%、乳糖を35質量%、塩素酸カリウムを30質量%で混合した発煙剤組成物及び発煙筒1を用いて、煙幕試験を行った。大豆極度硬化油は、融点が68℃のものを用いた。煙幕試験は、複数人を配置させ、煙幕として機能する時間、単独投てきにより煙幕として機能する時間を、単位時間当たりの発煙量及び発煙濃度について、目視により確認した。
【0028】
複数人設置及び単独投てきによる両試験において、白煙により後方の視界を遮断することができ、煙幕として機能することが確認できた。また、煙幕としての単位時間当たりの発煙量、発煙濃度及び煙幕機能時間も、バランスがとれた良好であった。
【0029】
[試験2]環境負荷試験
大豆極度硬化油を35質量%、乳糖を35質量%、塩素酸カリウムを30質量%で混合した発煙剤組成物及び発煙筒1を用いて、環境負荷試験を行った。環境負荷試験では、温度による負荷、振動による負荷を加えた後、発煙試験を実施し、煙幕としての機能を調べた。
【0030】
【0031】
表2の結果から、温度負荷や振動負荷をかけた場合でも、60秒以上、発煙することが確認できた。このことから、大豆極度硬化油を35質量%、乳糖を35質量%、塩素酸カリウムを30質量%で混合した発煙剤組成物は、温度変化による負荷や輸送振動の負荷が加わった場合でも、正常に機能することが判った。
【0032】
[試験3]耐熱性試験
大豆極度硬化油を40質量%、乳糖を30質量%、塩素酸カリウムを30質量%で混合した発煙剤組成物及び発煙筒1を用いて、耐熱性試験を行った。大豆極度硬化油は、融点52℃のものを用いた。
【0033】
【0034】
表3の結果から、比較的融点の低い融点52℃の大豆極度硬化油を用いて、高温50℃の環境負荷をかけた場合であっても、発煙が可能であることが確認できた。また、単位時間当たりの発煙量、発煙濃度及び発煙時間(煙幕機能時間)も、十分に煙幕として機能することが確認できた。しかし、一般的に、融点52℃の大豆極度硬化油は、高温の環境負荷、例えば、高温50℃の環境負荷を2時間かけた場合には、やや融解し、圧力により容易に変形する。そのため、環境負荷に対する観点からは、より融点の高い大豆極度硬化油が用いられることが好ましい。
【0035】
[試験4]耐温度衝撃試験
大豆極度硬化油を40質量%、乳糖を30質量%、塩素酸カリウムを30質量%で混合した発煙剤組成物及び発煙筒1及び発煙筒2の双方を用いて、耐温度衝撃試験を行った。大豆極度硬化油は、融点52℃のものを用いた。なお、発煙筒2には、発煙筒1とは異なる形態のものを使用した。
【0036】
【0037】
表4の結果から、環境負荷(高温50℃1時間、低温-25℃1時間)を二回繰り返した後に、発煙筒1及び発煙筒2の双方で、発煙が可能であることが確認できた。したがって、融点52℃の大豆極度硬化油を用いた場合であっても、薬量に関わらず、一定の環境負荷に耐えると共に、発煙が可能であることが確認できた。
【0038】
[試験5]他の硬化油による煙幕試験
試験5では、大豆極度硬化油以外の採種極度硬化油(35質量%)、パーム極度硬化油(35質量%)、牛脂極度硬化油(35質量%)を使用して、白煙時間及び発煙量を調べた。乳糖は35質量%、塩素酸カリウムは30質量%とした。
【0039】
【0040】
表5の結果から、大豆極度硬化油以外の硬化油を使用した場合でも、白煙を確認できた。そして、どの硬化油を含む発煙剤組成物においても、煙幕機能時間及び単位時間当たりの発煙量を確保できることが判った。
【0041】
次に、白色以外の発煙色とした際に、煙幕としての機能を調べた。
発煙剤組成物は、大豆極度硬化油を20質量%、乳糖を35質量%、塩素酸カリウムを30質量%、染料(レッド)を15質量%で混合したものを使用した。大豆極度硬化油は、融点68℃のものを用いた。
【0042】
結果から赤色の発煙が生じることが確認でき、煙幕機能時間及び発煙量もある程度確保できることが判った。したがって、本実施形態に係る発煙剤組成物は白煙に限られず、色付きの煙による発煙が必要な発煙装置にも用いることができる。
なお、混合する染料の種類を変えることで、赤色以外にも、複数の発煙も可能であることを確認している。
【0043】
次に、本実施形態に係る発煙剤組成物が封入される発煙筒の例を、
図1に基づいて説明する。
【0044】
発煙筒1は、
図1に示されている通り、棒状であり、利用者が片手で把持できる大きさである。発煙筒1は、筒状の容器2と、煙を発する発煙部11と、この発煙部11に引火させる点火機構部12とを有している。発煙部11及び点火機構部12は、容器2に収容され、容器2の上部が蓋部3で閉じられている。容器2の内部は、下部に発煙室4が形成され、この発煙室4の上方に、点火室5が形成されている。発煙室4の内部には、発煙部11が設けられ、点火室5の内部には点火機構部12が設けられている。
本実施形態に係る発煙剤組成物は、発煙部11に使用される。
【0045】
発煙室4と点火室5とは、発煙板6で仕切られている。発煙板6は、中心に引火孔7が形成され、この引火孔7の周囲に、複数の発煙孔8が形成されている。発煙板6の上側には、スペーサ40が設置され、このスペーサ40は、点火機構部12を支持する。スペーサ40の上端部には、噴煙板9が取り付けられている。この噴煙板9は、複数の噴煙孔10が形成されている。噴煙板9をスペーサ40の上端部に取り付けることで、点火機構部12が、発煙部11に対して所定の位置で支持される。点火機構部12は、下端部と発煙部11との間に間隔を設けて取り付けられ、点火機構部12の下端部から放射される火炎によって発煙部11に適切に着火される。
なお、容器2、蓋部3およびスペーサ40は、紙製または樹脂製であり、発煙板6、噴煙板9、点火機構部12は、紙製、樹脂製または金属製である。
【0046】
点火機構部12は、撃針部13と、この撃針部13に接続された雷管部14と、この雷管部14に接続された発火延時部22とを有している。撃針部13は、撃針ケース28と、この撃針ケース28に収容された撃針構造体32とから構成されている。撃針ケース28は、筒状であり、上端部に、撃針孔29が形成され、内側の空間に、撃針収容部30を有し、下端が開放されている。撃針ケース28の下端部は、撃針ケース被係止部31が形成されている。
【0047】
撃針構造体32は、撃針ケース28の撃針孔29に取り付けられ、撃針収容部30に収容されている。撃針構造体32は、棒状の撃針本体33と、解放環34を有する割ピン35と、弾性部材であるコイルバネ36とを有している。撃針本体33は、上部に、撃針本体33と直交する方向に形成された挿入孔37が形成され、下部の側面に、側方に向けて張り出したフランジ38が形成され、下端に、下方に向けて突出した突部39が形成されている。撃針本体33は、上方からコイルバネ36が通され、コイルバネ36はフランジ38に引っ掛けられている。この状態で、撃針本体33は、撃針孔29に通され、この撃針孔29から撃針ケース28の外側に突出した上部の挿入孔37に割ピン35が通されている。コイルバネ36は、フランジ38と撃針ケース28の上端部との間で圧縮している。
【0048】
雷管部14は、雷管ケース15と、この雷管ケース15に収容された雷管本体21とから構成されている。雷管ケース15は、筒状であり、上端部に、雷管ケース第一係止部16が形成され、上端部の内側の空間に、雷管収容部17を有し、側面に、溝部18を有し、下部に、雷管ケース第二係止部19が形成されている。雷管ケース15は、側方に向けて貫通したガス抜き孔20が形成されている。ガス抜き孔20は、雷管収容部17の下方において、複数形成されている。ガス抜き孔20の位置、数は、任意である。溝部18は、噴煙板9が取り付けられる。雷管本体21は、例えば、ボクサー型、ベルダン型、バッテリ型などである。
【0049】
発火延時部22は、延時ケース23と、この延時ケース23に収容された延時本体27とから構成されている。延時ケース23は、筒状であり、上部よりも下部の直径が小さく形成されている。延時ケース23は、上端部に、延時ケース被係止部24が形成され、下端部に、噴火孔25が形成され、内側の空間に、延時本体27が収容された延時収容部26を有している。延時本体27は、例えば、延時薬や、導火線などである。延時薬は、例えば、過酸化バリウム、鉛丹、クロム酸鉛に各種金属または合金の粉末が混合された混合物である。
【0050】
撃針ケース28は、下端に、雷管ケース15が接続され、この雷管ケース15の下端に、延時ケース23が接続されている。具体的には、雷管ケース第一係止部16と撃針ケース被係止部31とが係止され、延時ケース被係止部24と雷管ケース第二係止部19とが係止される。雷管ケース15の溝部18に、噴煙板9が取り付けられ、点火機構部12が完成する。
【0051】
次に、本実施形態に係る発煙剤組成物の効果について説明する。
【0052】
本実施形態に係る発煙剤組成物は、発煙剤として大豆極度硬化油と、燃焼ガス発生剤である燃料の乳糖と、塩素酸カリウムとを含んでいる。空気中に噴出される煙の主成分が大豆極度硬化油の液滴となるので、煙が空気中に噴出されたとしても、使用者が安全に使用することができる。また、発煙剤組成物や発煙剤組成物を封入する発煙装置の製造現場の安全性を確保できるため、作業員が安全に作業することができる。さらに、植物性又は動物性由来の発煙剤であるため、環境への負荷を低減することができる。
したがって、この発煙剤組成物は、人体に優しくかつ環境に負荷が小さく、安全性が高い。
【0053】
本実施形態に係る発煙剤組成物は、大豆極度硬化油が26質量%から55質量%、乳糖が10質量%から40質量%、塩素酸カリウムが27質量%から45質量%含まれている。この混合割合とすることで、所望の煙幕機能時間及び単位時間当たりの発煙量を確保することができる。特に、硬化油には、他の硬化油よりも融点が高い大豆極度硬化油を使用することで、高温の環境下で長時間保管された場合などに融解することがなく、この発煙剤組成物は、温度変化による環境負荷に強く、安定性が高い。また、大豆極度硬化油は、一般的にフレーク状で取り扱われるため、製造現場における取り扱いも容易になる。
【0054】
本実施形態に係る発煙剤組成物は、大豆極度硬化油を35質量%、乳糖を35質量%、塩素酸カリウムを30質量%の混合割合とすることで、安定して燃焼すると共に、単位時間当たりの発煙量及び発煙濃度を十分に保ちつつ、長時間の発煙が可能である。また、この発煙剤組成物は、環境負荷試験、耐熱性試験、耐温度衝撃試験においても、良好な結果であったため、例えば、高温と低温とが繰り返される過酷な環境下であっても品質が劣化することなく、取扱いに大きな注意を払う必要がない。
【0055】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うこと可能である。
例えば、硬化油の粘度を調整することで、発煙時間(煙幕機能時間)、単位時間当たりの発煙量及び発煙濃度を制御でき、人体に優しく、環境負荷が小さい発煙剤組成物とすることができる。
【符号の説明】
【0056】
1 発煙筒
2 容器
3 蓋部
4 発煙室
5 点火室
6 発煙板
7 引火孔
8 発煙孔
9 噴煙板
10 噴煙孔
11 発煙部
12 点火機構部
13 撃針部
14 雷管部
15 雷管ケース
16 雷管ケース第一係止部
17 雷管収容部
18 溝部
19 雷管ケース第二係止部
20 ガス抜き孔
21 雷管本体
22 発火延時部
23 延時ケース
24 延時ケース被係止部
25 噴火孔
26 延時収容部
27 延時本体
28 撃針ケース
29 撃針孔
30 撃針収容部
31 撃針ケース被係止部
32 撃針構造体
33 撃針本体
34 解放環
35 割ピン
36 コイルバネ
37 挿入孔
38 フランジ
39 突部
40 スペーサ
【要約】
【課題】人体に優しく及び環境に負荷が小さく、安全性が高い発煙剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】発煙剤組成物は、発煙剤の大豆極度硬化油と、燃焼ガス発生剤である燃料の乳糖と酸化剤の塩素酸カリウムとを含む。この構成である発煙剤組成物は、人体に優しく及び環境に負荷が小さく、安全性が高い。
【選択図】
図1