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特許7106725制御装置および電流アンバランス調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】制御装置および電流アンバランス調整方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/00 20070101AFI20220719BHJP
   H02M 1/08 20060101ALI20220719BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220719BHJP
   H03K 17/567 20060101ALN20220719BHJP
【FI】
H02M1/00 M
H02M1/08 A
H02M7/48 M
H03K17/567
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021109817
(22)【出願日】2021-07-01
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディマピリス キングマークエヴァンヘリスタ
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-158319(JP,A)
【文献】特開2019-103158(JP,A)
【文献】国際公開第2018/100647(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00
H02M 1/08
H02M 7/48
H03K 17/567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブスバーが有する複数のアームにそれぞれ接続される複数の半導体デバイス対と、
前記半導体デバイス対の各半導体素子のゲートをONする駆動回路と、
前記駆動回路でONした前記各半導体素子のゲート電圧を段階的に調整する調整回路と、
前記調整回路による調整を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記半導体素子ごとに前記半導体素子の前記ゲート電圧を段階的に調整し、前記各半導体素子のコレクタ―エミッタ間の電圧値の差が小さくなるように前記調整回路による前記ゲート電圧の調整を制御する第1調整部と、
前記アームごとに、他のアームの半導体素子と電流値が一定条件下になるまでの時間差が小さくなるように前記調整回路による前記ゲート電圧の調整を制御する第2調整部と、
を有する制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1調整部により前記各半導体素子のコレクタ―エミッタ間の電圧値の差が小さくなるように調整して得た前記各半導体素子それぞれの前記ゲート電圧に基づき、前記第2調整部により、前記アームごとに、他のアームの半導体素子と電流値が一定条件下になるまでの時間差が小さくなるように前記調整回路による前記ゲート電圧の調整を行う、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第1調整部は、
前記駆動回路によりONされた前記半導体素子ごとに、各段階で一定条件下の前記半導体素子のコレクタ―エミッタ間の電圧値の差がなくなるように前記調整回路による前記ゲート電圧の調整を制御し、
前記第2調整部は、
前記アームごとに、他のアームの半導体素子と電流値が一定条件下になるまでの時間差がなくなるように前記調整回路による前記ゲート電圧の調整を制御する、
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記調整回路は、
前記半導体素子ごとにNPNトランジスタとPNPトランジスタのプッシュプル回路を有し、
前記NPNトランジスタと前記PNPトランジスタのそれぞれのVge電圧を段階的に調整する、
請求項1~3のうちの何れか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
ブスバーが有する複数のアームにそれぞれ接続される複数の半導体デバイス対の電流アンバランスを調整する方法であって、
前記半導体デバイス対の半導体素子ごとにゲート電圧を段階的に調整して、前記各半導体素子のコレクタ―エミッタ間の電圧値の差が小さくするステップと、
さらに、前記アームごとに、他のアームの前記半導体素子と電流値が一定条件下になるまでの時間差が小さくなるように前記ゲート電圧を調整するステップと、
を含む電流アンバランス調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、制御装置および電流アンバランス調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エネルギー変換や直流/交流変換などを行う回路において半導体デバイスが広く使用されている。例えば半導体素子であるMOSFETにダイオードを並列接続した半導体デバイスを使用し、半導体デバイスを直列に2組設けたインバータ構成で変換を行う。
【0003】
これら対の半導体デバイスを並列に複数設けて、変換電力容量の増大化を図る技術が開示されている。その文献には、記憶部に記憶させた特性情報に基づいてパワー半導体素子のゲート駆動条件を制御することなどが開示されている(特許文献1または特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-046438号公報
【文献】特開2017-158319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、半導体デバイスの配置がブスバーの第1アームと第2アームとではブスバーによる非対称性によりそれぞれの位置で半導体デバイスの動作特性も異なる。このため、各半導体デバイスにおいてブスバーの非対称性により電流アンバランスが生じる。従来技術のように各半導体デバイスの素子の製造ばらつきをなくすだけでは電流アンバランスを十分に抑制することができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態は、ブスバーが有する複数のアームにそれぞれ接続される複数の半導体デバイス対と、前記半導体デバイス対の各半導体素子のゲートをONする駆動回路と、前記駆動回路でONした前記各半導体素子のゲート電圧を段階的に調整する調整回路と、前記調整回路による調整を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、前記半導体素子ごとに前記半導体素子の前記ゲート電圧を段階的に調整し、前記各半導体素子のコレクタ―エミッタ間の電圧値の差が小さくなるように前記調整回路による前記ゲート電圧の調整を制御する第1調整部と、前記アームごとに、他のアームの半導体素子と電流値が一定条件下になるまでの時間差が小さくなるように前記調整回路による前記ゲート電圧の調整を制御する第2調整部と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係る制御装置の概略構成の一例を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る変換モジュールのモジュール構成の一例を示す図である。
図3図3は、実施形態に係る記憶部の構成の一例を示す図である。
図4図4は、実施形態に係る半導体デバイス対のブスバーへの配置例の一つを示す図である。
図5図5は、実施形態に係る制御部による第1の調整動作の制御シーケンスの一例を示す図である。
図6図6は、実施形態に係る各デバイスの電圧Vgeを共通とした場合の電圧Vceのばらつきを示す図である。
図7図7は、実施形態に係る制御部による第2の調整動作の制御シーケンスの一例を示す図である。
図8図8は、実施形態に係るデバイスごとに定格電流の倍数の電流値に到達する時間のばらつきを示す図である。
図9図9は、実施形態に係る調整動作前と調整動作後のデバイス電流の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、実施形態に係る制御装置および電流アンバランス調整方法を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれ、以下の実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0009】
(実施形態)
(電流アンバランス調整を行う構成)
図1は、実施形態に係る制御装置の概略構成の一例を示す図である。図1には、制御装置の一例として、エレベータ2を制御する制御盤1の制御ブロックの構成を示している。制御盤1は、制御部10、記憶部20、変換モジュール30を有する。制御部10は、第1調整部101と第2調整部102とを有し、第1調整部101と第2調整部102とにより変換モジュール30を制御する。また、制御部10は、第1調整部101と第2調整部102の制御で得た電圧で変換モジュール30を駆動し、変換したエネルギーを制御対象に供給する。制御対象には、一例としてエレベータの昇降を行うモータ21を示しているが、これに限定されない。エネルギーを変換して供給する対象であれば、適宜適用してよい。
【0010】
図2は、変換モジュール30のモジュール構成の一例を示す図である。図2に示されるように、変換モジュール30は半導体デバイス対31を駆動する駆動回路32を有する。
【0011】
半導体デバイス対31は、ブスバー40に接続される。ブスバー40は導電性部材であり、大電流を流す部材として使用される。ブスバーはバスバーとも呼ばれている。半導体デバイス対31は、ブスバー40において正極側に接続される上部デバイスと負極側に接続される下部デバイスである。なお、正極側と負極側は上部デバイスと下部デバイスの配置を説明するために便宜的に用いたものであり、配置をこれに限定するものではない。
【0012】
半導体デバイス対31の上部デバイスと下部デバイスにはそれぞれ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)が使用されている。図2には、上部デバイスに第1IGBT31-1を示し、下部デバイスに第2IGBT31-2を示している。なお、半導体デバイス対31は、IGBTに限定されない。半導体デバイス対31は共にMOSFETなど、他の半導体素子が使用されたものであってもよい。
【0013】
駆動回路32は、第1IGBT31-1および第2IGBT31-2のゲート電圧を調整する調整回路320を有し、調整回路320で調整したゲート電圧で第1IGBT31-1および第2IGBT31-2を駆動する。
【0014】
調整回路320は、第1ゲート電圧印加部321と、第2ゲート電圧印加部322と、第1可変電圧回路323と、第2可変電圧回路324と、ゲートドライブ325とを有する。
【0015】
ゲートドライブ325は、制御部10からのON信号またはOFF信号により第1ゲート電圧印加部321および第2ゲート電圧印加部322をONまたはOFFする。
【0016】
第1ゲート電圧印加部321および第2ゲート電圧印加部322は、それぞれ、NPNトランジスタとPNPトランジスタとを接続したプッシュプル回路により構成している。第1ゲート電圧印加部321および第2ゲート電圧印加部322は、制御部10からのON信号によりゲートドライブ325からHIGHまたはLOWなどの駆動信号を受けて共にインバータとして機能し、第1IGBT31-1および第2IGBT31-2のゲートをONする。第1可変電圧回路323および第2可変電圧回路324は、それぞれ、第1可変電圧回路323および第2可変電圧回路324からNPNトランジスタのコレクタCへ入力される電圧により第1IGBT31-1および第2IGBT31-2のゲート電圧を調整する。
【0017】
なお、第1ゲート電圧印加部321および第2ゲート電圧印加部322として、本実施形態ではNPNトランジスタとPNPトランジスタとを接続したプッシュプル回路による構成を示すが、これに限定されない。適用対象に応じて適宜構成を変形してもよい。
【0018】
第1可変電圧回路323および第2可変電圧回路324は、制御部10からの制御信号に基づいて第1ゲート電圧印加部321および第2ゲート電圧印加部322のNPNトランジスタのコレクタCへ入力する電圧値を可変する。
【0019】
制御部10は、調整動作での制御シーケンスにおいて、第1可変電圧回路323および第2可変電圧回路324によりNPNトランジスタのコレクタCの電圧を可変して、第1IGBT31-1および第2IGBT31-2の各IGBTのコレクタ-エミッタ間電圧(Vce電圧)を記憶部20に記憶させる。
【0020】
図3は、記憶部20の構成の一例を示す図である。図3に示される記憶部20は、ADC21とバッファ22とを含む読取回路を有する。IGBTのコレクタ-エミッタに対し並列に接続し、コンデンサ23でコレクタ-エミッタ間の電圧Vceに対応する電荷を蓄積し、バッファ22で増幅した電圧Vceの値をADC21にてデジタル値にAD変換し、記憶部20に電圧Vceの電圧値(デジタルデータ)を記憶する。
【0021】
図4は、本実施形態に係る半導体デバイス対31のブスバーへの配置例の一つを示す図である。図4は、3相インバータ方式のモータ21に電力を供給する場合のブスバーへの配置例である。図4に示されるように、R相とS相とT相の各半導体デバイス対31が、R相とS相とT相の相ごとに、ブスバー40の異なるアームに接続される。具体的に、図4においてR相の半導体デバイス対(上部デバイス311および下部デバイス312)が第1アーム41に接続され、S相の半導体デバイス対が第2アーム42に接続され、T相の半導体デバイス対が第3アーム43に接続されている。また、図4に示す例ではR、S、Tの相ごとに半導体デバイス対を複数並列に設けている。つまり、第1アーム41に対し、R相の半導体デバイス対が並列にr組接続され、第2アーム42に対し、S相の半導体デバイス対が並列にs組接続され、第3アーム43に対し、T相の半導体デバイス対が並列にt組接続されている。ここで、r、s、tは、1、2、・・・などの自然数である。図4に示すXn(X1、X2、・・・Xn)は、各相の半導体デバイス対が接続されるアームの通し番号を指す。
【0022】
また、図4に示す1、2、3、4、・・・m-1、mは、相別の上部デバイス311および下部デバイス312の通し番号を指す。
【0023】
各アームにおいて、第1IGBT31-1はアームの上側デバイスに当たり、第2IGBT31-2はアームの下側デバイスに当たる。また、ブスバー40には、各アームの電流値を測定する電流センサ50が設けられている。
【0024】
(電流アンバランス調整方法)
続いて電流アンバランス調整の動作ステップについて説明する。ここでは、まず制御部10が第1調整部101により第1の調整を行う動作ステップを説明する。制御部10が第2調整部102により第2の調整を行う動作ステップは後に図7を用いて説明する。
(第1の調整動作)
図5は、制御部10による第1の調整動作の制御シーケンスの一例を示す図である。まず制御部10は、第1可変電圧回路323および第2可変電圧回路324により各NPNトランジスタのコレクタCの印加電圧を変えてゲート-エミッタ間の電圧Vgeを15Vに設定する(S1)。
【0025】
続いて制御部10は、1本のアームXの上側デバイスYおよび下側デバイスYの動作をONし、アームX以外については動作をOFFにする(S2)。
【0026】
続いて制御部10は、アームXkを流れる電流値を上昇させ、ONしたアームXの各IGBTのコレクタ電流Icの電流値を、電流センサ50で監視し、電流値が定格電流の倍数に至った時点で、ONしたアームXの各IGBTのコレクタ-エミッタ電圧Vceを読取回路で読み取り、それらの値を記憶部20へ記憶する(S3)。
【0027】
続いて制御部10は、全アームXnの測定が終わったかを判定し(S4)、全アームXnの測定が終わっていない場合(S4:No)、直前に測定を行ったアームXの次のアームXk+1に制御対象を変更し(S5)、アームXk+1に対しS2とS3の制御を行う。これによりアームXk+1に対応する電圧Vceも記憶部20に記憶する。
【0028】
制御部10は、全アームXnの測定が終わると(S4:Yes)、記憶部20に記憶した各アームXの電圧Vceをそれぞれ比較し、電圧Vceが最小値をとるデバイス(Y)と最大値をとるデバイス(Y)を求める(S6)。
【0029】
図6は、各デバイスの電圧Vgeを共通の15Vとした場合のIGBTの電圧Vceのばらつきを示す図である。図6(a)には、IGBTごとにコレクタ電流Icと電圧Vceとの特性の違いをグラフにして示している。図6(a)に一例としてIGBT1~IGBT6の特性を示している。図6(a)に示されるようにIGBTごとに特性はばらついている。そこで、IGBTごとに定格電流の倍数の電流値Pの時点で電圧Vceを測定し、測定した電圧Vceをデバイスごとに記憶部20に記憶した。つまり、電流値Pにおける各IGBTの電圧Vceを記憶部20で記憶した。そして記憶部20に記憶した各IGBTの電圧Vceから、電圧Vceの最小値(デバイス(Y)の最小値)と、電圧Vceの最大値(デバイス(Y)の最大値)とを比較する。
【0030】
図5に戻り、続いて制御部10は、デバイス(Y)の電圧Vgeを0.2V低下させる(S7)。そして制御部10は、デバイス(Y)のアームをONし、デバイス(Y)が定格電流の倍数に至った時点のIGBTの電圧Vceを記憶部20に記憶する(S8)。記憶部20には既にデバイス(Y)の測定結果の電圧Vceが記憶されているため、その電圧Vceを新たに求めた電圧Vceで上書きする。
【0031】
続いて制御部10は、デバイス(Y)の電圧Vceとデバイス(Y)の電圧Vceとを比較し、ほぼ同じでない場合は(S9:No)、S7に戻り、さらにデバイス(YA)の電圧Vgeを0.2V低下させてS8およびS9を繰り返す。つまり、電圧Vgeを0.2Vずつ段階的に低下させることにより、図6(a)に示す最大の電圧Vceと最小の電圧Vceとの差を図6(b)に示すように小さくしていく。
【0032】
そして、制御部10は、デバイス(Y)の電圧Vceとデバイス(Y)の電圧Vceとがほぼ同じ値に達すると(S9:Yes)、続いて各デバイスの電圧Vceが同一かを判定する(S10)。
【0033】
制御部10は、各デバイスのVceが同一でない場合(S10:No)、S7に戻り、S7から同様に処理を行う。また、制御部10は、各デバイスの電圧Vceが同一の場合(S10:Yes)の場合、0.2Vずつ低下させた各デバイスの電圧Vgeの最終の設定を記憶部20で保持したまま(S11)、本シーケンスを終了する。
【0034】
(第2の調整動作)
続いて制御部10が第2調整部102により第2の調整を行う動作ステップについて説明する。
図7は、制御部10による第2の調整動作の制御シーケンスの一例を示す図である。以下に示す第2の調整動作は、第1の調整動作により記憶部20に設定した最終設定の電圧Vgeの値(Vge’)を使用して行う。
【0035】
まず制御部10は、全デバイスにそれぞれの最終設定の電圧Vge(Vge’)を設定する(S21)。
【0036】
続いて制御部10は、1本のアームXの上側デバイスYと下側デバイスYの動作をONし、アームX以外については動作をOFFにする(S22)。
【0037】
続いて制御部10は、電流センサ50の電流値を監視し、電流値が定格電流の倍数に至る時間を、ONしたアームXの上側デバイスYと下側デバイスYの時間情報として記憶部20へ記憶する(S23)。
【0038】
続いて制御部10は、全アームの測定が終わったかを判定し(S24)、全アームの測定が終わっていない場合(S24:No)、直前に測定を行ったアームXの次のアームXk+1に制御対象を変更し(S25)、アームXk+1に対しS22とS23の制御を行う。これによりアームXk+1に対応する時間情報も記憶部20に記憶する。
【0039】
制御部10は、全アームの測定が終わると(S24:Yes)、記憶部20に記憶した各アームの上側アームYと下側アームYの時間情報をそれぞれ比較し、最短時間のデバイス(Y)と最長時間のデバイス(Y)を求める(S26)。
【0040】
図8は、デバイスごとに定格電流の倍数の電流値Pに到達する時間のばらつきを示す図である。図8(a)には、デバイスごとにコレクタ電流Icと電流値Pへの到達時間との違いをグラフにして示している。図8(a)に一例として3つのアームA、B、Cのデバイスにおける到達時間のグラフを示している。図8(a)に示されるようにデバイスごとに到達時間にばらつきがある。そこで、デバイスごとに電流値Pの到達時間を測定し、測定した到達時間をデバイスごとに記憶部20に記憶した。そして記憶部20に記憶した各デバイスの到達時間情報から、最短時間のデバイス(Y)と最長時間のデバイス(Y)を求める。
【0041】
図7に戻り、続いて制御部10は、デバイス(Y)の電圧Vgeを0.2V低下させる(S27)。そして制御部10は、デバイス(Y)のアームをONし、デバイス(Y)が電流値Pに到達する時間を測定して到達時間を記憶部20に上書きする(S28)。記憶部20には既にデバイス(Y)の到達時間情報が記憶されているため、その情報を新たに求めた到達時間情報で上書きする。
【0042】
続いて制御部10は、デバイス(Y)の到達時間とデバイス(Y)の到達時間とを比較し(S29)、ほぼ同じでない場合は(S29:No)、S27に戻り、さらにデバイス(Y)の電圧Vgeを0.2V低下させて、S28およびS29を行う。つまり、電圧Vgeを0.2Vずつ低下させることにより、図8(a)に示す到達時間の差(時間差)を図8(b)に示す差になるように小さくしていく。
【0043】
そして、制御部10は、デバイス(Y)の到達時間とデバイス(Y)の到達時間とがほぼ同じに達すると(S29:Yes)、続いて各デバイスの到達時間が同一かを判定する(S30)。
【0044】
制御部10は、各デバイスの到達時間が同一でない場合(S30:No)、S26に戻り、S26から同様に処理を行う。また、制御部10は、各デバイスの到達時間が同一の場合(S30:Yes)、0.2Vずつ低下させた各デバイスの電圧Vgeの最終の設定を記憶部20で保持したまま、本シーケンスを終了する。
【0045】
つまり、制御部10は、調整動作として、第1調整動作によりデバイスによる製造ばらつきを調整し、第2調整動作によりブスバーの非対称性によるばらつきを調整し、最終結果の各デバイスに対応する電圧Vgeを使用して、各デバイスを駆動する。なお、定格電流の2倍は一定の条件の一例であり、定格電流の2倍へは例えば各アームをショートさせるなどして行う。また、一定の条件をこれに限定するものではない。定格電流の2倍以外の電流値に条件を変更してもよい。また、Vgeは、減らすと、Icが流れにくく、アームの効果的なインピーダンスを増やす。このため、各アームの効果的なインピーダンスを同一にすることができるようになる。
【0046】
図9は、調整動作前と調整動作後のデバイス電流の比較図である。図9(a)は調整動作前のデバイス電流変化を示す図で、図9(b)は調整動作後のデバイス電流変化を示す図である。
【0047】
図9(a)には、一例として、3つのアーム41、アーム42、アーム43のそれぞれの電流値の変化を示している。デバイスの定格電流では、電流アンバランスはあまり現れないが、定格電流の倍数では、電流アンバランスより、アーム41、アーム42、またはアーム43のインバータの1部の電流が相対的に大きくなり、短絡検出閾値に達して誤検出が発生する。一方、調整動作を実施した場合は、図9(b)に示されるように、アーム41、アーム42、およびアーム43の間で電流アンバランスが軽減でき、大電流が流れても各デバイスの電流は均一となり、短絡誤検知のリスクを軽減することができる。
【0048】
このように、調整動作により、デバイスによるばらつきだけでなく、ブスバーの非対称性によるばらつきも抑制するため、電流アンバランスを抑制することができる。電流アンバランスは軽減されたので、各デバイスの負荷は均一化になる。また、インバータ間の短絡を検出する際に、誤検出や、短絡としての検出が実際の短絡発生よりも早かったりあるいは遅かったりするなどのタイミングのずれも解消し、短絡の発生時に保護回路を正常に動作させることも可能になる。また、各デバイスのVceを監視して記憶するので、不具合が発生したときに要因調査が行いやすくなる。
【0049】
(変形例)
実施形態に示した調整動作により寿命診断を行ってもよい。例えば、デバイスが時間の経過とともに劣化すると、Vce-Ic特性も変化する。定負荷運転時(エレベータ無負荷運転のとき)、各デバイスのVceをサンプリングして、平均値を記憶する。時間に対してデバイスのVce変化を監視することで、寿命診断を行うこともできる。
【0050】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0051】
1…制御盤、2…エレベータ、10…制御部、20…記憶部、30…変換モジュール、31…半導体デバイス対、31-1…第1IGBT、31-2…第2IGBT、32…駆動回路、40…ブスバー、41…第1アーム、42…第2アーム、43…第3アーム、50…電流センサ、320…調整回路、321…第1ゲート電圧印加部、322…第2ゲート電圧印加部、323…第1可変電圧回路、324…第2可変電圧回路、325…ゲートドライブ。
【要約】
【課題】各半導体デバイスの素子の製造ばらつきをなくすだけでは電流アンバランスを十分に抑制することができない問題を解決すること。
【解決手段】実施形態は、ブスバーが有する複数のアームにそれぞれ接続される複数の半導体デバイス対と、半導体デバイス対の各半導体素子のゲートをONする駆動回路と、駆動回路でONした各半導体素子のゲート電圧を段階的に調整する調整回路と、調整回路による調整を制御する制御部と、を有し、制御部は、半導体素子ごとに半導体素子のゲート電圧を段階的に調整し、各半導体素子のコレクタ―エミッタ間の電圧値の差が小さくなるように調整回路によるゲート電圧の調整を制御する第1調整部と、アームごとに、他のアームの半導体素子と電流値が一定条件下になるまでの時間差が小さくなるように調整回路によるゲート電圧の調整を制御する第2調整部と、を有することを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9