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特許7106726ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜、通気膜及び通気部材
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  • 特許-ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜、通気膜及び通気部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜、通気膜及び通気部材
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20220719BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20220719BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20220719BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220719BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
C08J9/00 A CEW
B01D71/36
B32B5/18 101
B32B27/30 D
C08J9/28 CEW
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021111011
(22)【出願日】2021-07-02
(65)【公開番号】P2022013925
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2020115871
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】釜本 侑
(72)【発明者】
【氏名】北川 寿恵
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-052180(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175380(WO,A1)
【文献】特開2016-213829(JP,A)
【文献】特開2019-122044(JP,A)
【文献】特開2015-111945(JP,A)
【文献】特開2018-051544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B01D61/00-71/82
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色されており、
一方の主面と他方の主面との間の明度の差の絶対値が1.0以上であり、
前記一方の主面及び前記他方の主面から選ばれる相対的に小さな前記明度を示す主面の当該明度が40以下であり、
JIS L1092:2009に定められた耐水度試験法により評価した耐水圧であって、前記一方の主面及び前記他方の主面から選ばれる相対的に大きな前記明度を示す主面を水圧印加面とする耐水圧が0.40MPa以上である、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
ただし、前記明度は、JIS Z8781-4:2013に定められたCIE1976(L*,a*,b*)色空間の明度L*である。
【請求項2】
前記明度の差の絶対値が3.0以上である、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項3】
前記一方の主面及び前記他方の主面から選ばれる相対的に小さな前記明度を示す主面の当該明度が35以下である、請求項1又は2に記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項4】
染料により着色されている、請求項1~のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項5】
単層である、請求項1~のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜。
【請求項6】
水及び/又は粉塵を遮りながら気体の透過を許容する通気膜であって、
請求項1~のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を含む、通気膜。
【請求項7】
請求項に記載の通気膜と、
前記通気膜を支持する支持部材と、を備える、通気部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜と、これを備える通気膜及び通気部材とに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の音声機能を備える電子機器の筐体には、通常、スピーカーやマイクロフォン等の音響部に対応する開口(通音口)が設けられている。また、温度による筐体内の圧力の変動を緩和するための開口(通気口)が設けられることもある。開口に通気膜を配置することで、開口を介した筐体内への水や粉塵の侵入を防ぎながら、音及び/又は気体は透過させる手法が広く採用されている。通気膜として、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記載する)多孔質膜が知られている。
【0003】
PTFE多孔質膜の色は、通常、白色であり、開口に配置された状態で目立ちやすい。目立つ通気膜は電子機器のデザインの障害になると共に、ユーザーの好奇心を刺激することで、筆記具等の突き刺しによる損傷を受けやすい。着色されたPTFE多孔質膜とすることで、上記問題を抑制できる。特許文献1には、黒色に着色されたPTFE多孔質膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-52180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、着色されたPTFE多孔質膜では、PTFE多孔質膜の特性、典型的には防水性、が低下しやすい。本発明は、着色による特性の低下が抑制された、着色されたPTFE多孔質膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
着色されており、
一方の主面と他方の主面との間の明度の差の絶対値が1.0以上である、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜、
を提供する。
ただし、前記明度は、日本産業規格(旧日本工業規格;以下、JISと記載する)Z8781-4:2013に定められたCIE1976(L*,a*,b*)色空間の明度L*である。
【0007】
別の側面から、本発明は、
水及び/又は粉塵を遮りながら気体の透過を許容する通気膜であって、
上記本発明のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を含む、通気膜、
を提供する。
【0008】
別の側面から、本発明は、
上記本発明の通気膜と、
前記通気膜を支持する支持部材と、を備える、通気部材、
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明者らの検討によれば、従来の着色されたPTFE多孔質膜では、膜の一方の主面から他方の主面に至るまで着色剤が比較的均等に存在することにより、PTFE多孔質膜の特性、典型的には防水性、が低下すると推定される。より具体的には、防水性の低下は、着色剤の存在する部分で水が透過しやすくなることが原因であると推定される。一方、本発明のPTFE多孔質膜では、一方の主面と他方の主面との間の明度の差の絶対値が所定の値以上である。これは、相対的に明度の大きい、換言すれば白色に近い、主面及びその近傍において着色剤の存在量が少なく、PTFE多孔質膜本来の特性を維持可能であることを意味する。したがって、本発明のPTFE多孔質膜では、着色されながらも、特性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明のPTFE多孔質膜の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本発明のPTFE多孔質膜における着色の状態の一例を模式的に示す断面図である。
図3図3は、PTFE多孔質膜の主面の被接着力(剥離力)を評価する方法を説明するための模式図である。
図4図4は、本発明の通気膜の一例を模式的に示す断面図である。
図5図5は、本発明の通気膜の別の一例を模式的に示す断面図である。
図6A図6Aは、本発明の通気部材の一例を模式的に示す斜視図である。
図6B図6Bは、図6Aに示す通気部材の断面B-Bを示す断面図である。
図7A図7Aは、本発明の通気部材の別の一例を模式的に示す斜視図である。
図7B図7Bは、図7Aに示す通気部材の断面B-Bを示す断面図である。
図8図8は、実施例6及び比較例2のPTFE多孔質膜における染色液の塗布面の観察像を示す図である。
図9図9は、実施例6のPTFE多孔質膜の断面における染料の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0012】
[PTFE多孔質膜]
本実施形態のPTFE多孔質膜の一例を図1に示す。図1のPTFE多孔質膜1は、着色されている。PTFE多孔質膜1の一方の主面11と他方の主面12との間の明度の差の絶対値dは、1.0以上である。絶対値dは、2.0以上、3.0以上、3.5以上、4.0以上、5.0以上、6.0以上、更には7.0以上であってもよい。絶対値dの上限は、例えば90.0以下である。ただし、上記明度は、JIS Z8781-4:2013に定められたCIE1976(L*,a*,b*)色空間の明度L*である。明度L*
、例えば、上記規格に準拠した分光測色計や色彩計等の測定機器(例えば、日本電色工業製、分光色差計SEシリーズ)を用いて評価できる。評価は、標準白色板を測色したときの刺激値X,Y,Zの値が基準値の±0.03以内に入るように正規化して行う。光源には、JIS Z8720:2012に定められた測色用補助イルミナントCを使用する。視角は2度とする。
【0013】
図2に示すように、PTFE多孔質膜1では、主面11の明度L*が相対的に小さく(
着色の程度が高い)、主面12の明度L*が相対的に大きい(着色の程度が低い)。PT
FE多孔質膜1の厚さ方向の断面を見たときに、主面11及びその近傍のみに着色がなされていても、主面11から主面12に向けて、着色の程度が次第に低くなるグラデーショ
ン状の着色がなされていてもよい。ただし、PTFE多孔質膜1における着色の態様は、上記例に限定されない。
【0014】
PTFE多孔質膜1では、一方の主面11及び他方の主面12から選ばれる相対的に小さな明度L*を示す主面(図1及び図2の例では、主面11)の当該明度L*は、例えば40以下であり、38以下、35以下、32以下、30以下、29以下、28以下、27.5以下、27以下、26以下、25以下、24以下、23以下、22以下、21以下、20以下、18以下、16以下、更には15以下であってもよい。また、一方の主面11及び他方の主面12から選ばれる相対的に大きな明度L*を示す主面(図1及び図2の例で
は、主面12)の当該明度L*は、例えば28以上であり、30以上、31以上、32以
上、33以上、34以上、35以上、37以上、38以上、39以上、40以上、42以上、44以上、更には45以上であってもよい。着色がなされていないPTFE多孔質膜の主面の明度L*は、通常、93~97程度である。
【0015】
PTFE多孔質膜1では、着色による特性の低下が抑制される。これは、主面12及びその近傍において着色剤の量が少なく、これにより、着色前のPTFE多孔質膜の特性が保たれやすくなるためと推定される。特性は、典型的には、防水性である。PTFE多孔質膜1の防水性は、耐水圧(限界耐水圧)により表すことができる。
【0016】
本発明者らの検討によれば、防水性の高い(耐水圧の高い)PTFE多孔質膜ほど、着色による防水性低下の影響を受けやすい。防水性の高いPTFE多孔質膜は、例えば、JIS L1092:2009に定められた耐水度試験法(耐水度試験A法又は耐水度試験B法)により評価した耐水圧が0.30MPa以上の膜である。この観点から、PTFE多孔質膜1では、上記耐水圧が0.30MPa以上であってもよく、0.35MPa以上、0.40MPa以上、0.43MPa以上、0.45MPa以上、0.47MPa以上、0.50MPa以上、更には0.52MPa以上であってもよい。上記耐水圧の上限は、例えば3.00MPa以下である。上記耐水圧は、主面11を試験時の水圧印加面としたときの値であってもよい。また、上記耐水圧は、膜の表面及び/又は内部が撥液剤によって被覆されていない状態での値であってもよい。撥液剤には、撥水剤及び撥油剤が含まれる。
【0017】
PTFE多孔質膜1の耐水圧は、測定冶具を使用し、上記耐水度試験法に準拠して、以下のように測定できる。測定冶具の一例は、直径1mmの貫通孔(円形の断面を有する)が中央に設けられた、直径47mmのステンレス製円板である。この円板は、耐水圧を測定する際に加えられる水圧によって変形しない厚さを有する。この測定冶具を用いた耐水圧の測定は、以下のように実施できる。
【0018】
測定冶具の貫通孔の開口を覆うように、測定冶具の一方の面に評価対象であるPTFE多孔質膜1を固定する。固定は、耐水圧の測定中、膜の固定部分から水が漏れないように行う。PTFE多孔質膜1の固定には、開口の形状と一致した形状を有する通水口が中心部に打ち抜かれた両面粘着テープを利用できる。両面粘着テープは、通水口の周と開口の周とが一致するように測定冶具とPTFE多孔質膜1との間に配置すればよい。次に、PTFE多孔質膜1を固定した測定冶具を、PTFE多孔質膜1の固定面とは反対側の面が測定時の水圧印加面となるように試験装置にセットして、JIS L1092:2009に定められた耐水度試験A法(低水圧法)又はB法(高水圧法)に従って耐水圧を測定する。ただし、耐水圧は、PTFE多孔質膜1の膜面の1か所から水が出たときの水圧に基づいて測定する。測定した耐水圧を、PTFE多孔質膜1の耐水圧とすることができる。試験装置には、JIS L1092:2009に例示されている耐水度試験装置と同様の構成を有するとともに、上記測定冶具をセット可能な試験片取付構造を有する装置を使用できる。
【0019】
PTFE多孔質膜は、通常、無数のPTFEの微細繊維(フィブリル)から構成され、複数のフィブリルが接続したPTFEの凝集部分(ノード)を有することもある。フィブリルは、典型的には、PTFEの凝集体であるPTFEシートの延伸により形成され、膜の表面に露出している。このため、着色された従来の膜では、フィブリル間の空隙に着色剤が集中することによる表面の着色ムラが生じやすい。一方、PTFE多孔質膜1では、主面11の着色の程度が高く、同じ量の着色剤を使用した場合には、従来の膜に比べて多くの着色剤を、フィブリルを被覆するように主面11に配置できる。このため、主面11の着色ムラを抑制することが可能となる。
【0020】
PTFE多孔質膜1を構成する材料であるPTFEの被接着力は、通常、低い。一方、PTFE多孔質膜1では、従来の膜に比べて多くの着色剤を、PTFEを被覆するように主面11に配置できる。このため、PTFE多孔質膜1では、主面11の被接着力を向上できる。主面11の被接着力は、主面12の被接着力に比べて高くてもよい。
【0021】
主面11,12の被接着力は、主面11,12に貼付した粘着テープを当該主面に対して180°に引きはがす引きはがし試験により評価した剥離力により表すことができる。主面11の剥離力は、主面12の剥離力に比べて高くてもよい。主面11の剥離力は、例えば2.0N/20mm以上であり、2.2N/20mm以上、2.5N/20mm以上、2.7N/20mm以上、更には3.0N/20mm以上であってもよい。主面11の剥離力の上限は、例えば10.0N/20mm以下である。主面12の剥離力は、例えば1.5N/20mm以上であり、1.6N/20mm以上、1.8N/20mm以上、2.0N/20mm以上、更には2.2N/20mm以上であってもよい。主面12の剥離力の上限は、例えば8.0N/20mm以下である。
【0022】
剥離力を求めるための引きはがし試験について、図3を参照しながら説明する。評価対象のPTFE多孔質膜1を長方形に切断して試験片21を得る。試験片21の幅は25mm以上とする。これとは別に、試験片21に比べて大きな長さ及び幅を有すると共に、試験中に変形しない十分な厚さを有するステンレスの固定板23を準備する。次に、試験片21と同じ形状を有する両面粘着テープ22により、試験片21をステンレスの固定板23に貼付する。試験片21の貼付は、固定板23の貼付面24に垂直な方向から見て、試験片21及び両面粘着テープ22の外周が互いに一致し、試験片21の長辺と固定板23の長辺とが互いに平行となり、かつ、試験片21の全体が固定板23に固定されるように実施する。両面粘着テープ22には、試験中に試験片21が固定板23から剥離しない粘着力を有するもの、例えば日東電工製、AS-42PI50、を使用できる。試験片21及び両面粘着テープの幅が25mmを超える場合には、貼り合わせ後、所定の幅に切断してもよい。次に、幅20mmの両面粘着テープ(日東電工製、No.5610)25を試験片21の露出面に貼付する。両面粘着テープ25の貼付は、両面粘着テープ25の長辺と試験片21の長辺とが互いに平行となると共に、両面粘着テープ25の一方の端部26を下向きとして、当該端部26が試験片21に接し、かつ、他方の端部27が自由端となるように実施する。両面粘着テープ25における試験片21に貼付されている部分の長さは、測定精度を確保するために、120mm以上とすることが好ましい。両面粘着テープ25における試験片21に貼付されている部分では、両面粘着テープ25は、その幅方向の全体が試験片21に貼付されるようにする。両面粘着テープ25における試験片21への貼付面と反対側の面には、粘着面が露出しないように剥離ライナーを残しておく。あるいは、剥離ライナーを取り除いた後、粘着面が露出しないように、更なるフィルム(例えば、厚さ25μm程度のPETフィルム)を配置してもよい。なお、両面粘着テープ25の粘着剤層はアクリル系粘着剤層であり、ステンレス板に対する粘着力は、JIS Z0237:2009に定められた粘着力の試験方法1に基づく180°引き剥がし粘着力(項目10.3及び10.4参照)にして約17N/20mmである。上記粘着テープが入
手できない場合は、同等の粘着力を有し、かつ、貼り合わせ面の粘着剤層がアクリル系粘着剤層である粘着テープを使用できる。
【0023】
次に、試験片21、両面粘着テープ22、固定板23及び両面粘着テープ25を圧着させる手動ローラ(JIS Z0237:2009に定められた質量2kgのもの)を、固定板23側を下にして一往復させる。次に、引張試験装置の上部チャック28に固定板23の一端を固定すると共に、両面粘着テープ25における端部27を180°折り返して、引張試験装置の下部チャック29に固定する。次に、両面粘着テープ25を試験片21から引き剥がす180°引きはがし試験を実施する。引張速度は300mm/分とする。測定精度を確保するために、試験開始後、最初の20mmの長さの測定値は無視し、その後、試験片21から引きはがされた少なくとも60mmの粘着力の測定値を平均して、これをPTFE多孔質膜1の剥離力(単位:N/20mm)とする。試験は、温度20±10℃、湿度50±10%RHの環境で実施する。
【0024】
PTFE多孔質膜1では、明度の差の絶対値dが所定の値以上であるため、視認により、主面11と主面12とを比較的容易に見分けることができる。主面11と主面12との間で異なっている特性を利用する場合に、この点は有利である。
【0025】
PTFE多孔質膜1では、主面11と主面12との間で着色剤の配置量が異なる。例えば、PTFE多孔質膜1を微小機械システム(以下、MEMSと記載する)の開口に配置する場合には、配置量が少ない主面12がMEMSの内部に面するように配置することで、着色剤の脱落やハンダリフロー等の高温処理により生じた着色剤の熱分解物に起因するMEMSの損傷や機能低下を防止できる。ただし、主面12において着色剤の脱落や熱分解物の生成が抑えられることによる効果は、PTFE多孔質膜1を配置する場所がMEMSの開口である場合に限定されない。
【0026】
PTFE多孔質膜1は、典型的には、黒色又は灰色に着色されている。黒色又は灰色に着色されたPTFE多孔質膜1は、相対的に明度L*の小さい主面11が外部から視認さ
れるように配置すれば目立たない。ただし、着色の色は上記例に限定されない。本明細書において黒色及び灰色とは、それぞれ、明度L*が40以下の無彩色、及び明度L*が40を超え60以下の無彩色を意味する。主面11の色を、着色の色として定めてもよい。なお、黒色及び灰色には、黒色剤である着色剤の系統に応じた若干の色味が感じられてもよい(黒色剤の色は、特に配置量が少ない場合には、純粋な無彩色として視認されないことがある)。これを考慮し、本明細書の黒色及び灰色には、CIE1976(L*,a*,b*)色空間のa*及びb*の絶対値がいずれも0以上12以下の範囲にある色が含まれてい
てもよい。
【0027】
着色剤は、染料であっても顔料であってもよいが、PTFE多孔質膜1からの脱落を防止する観点からは、染料であることが好ましい。PTFE多孔質膜1からの脱落は、PTFE多孔質膜1の色落ち、又は着色剤が導電性である場合にはPTFE多孔質膜1の近傍に位置する電気回路や電子部品の損傷等を引き起こすことがある。また、着色剤が染料又は絶縁性の顔料である場合、PTFEに由来する高い絶縁性に基づいて、絶縁性のPTFE多孔質膜1とすることができる。絶縁性は、少なくとも一方の主面11,12における例えば1×1014Ω/□以上の表面抵抗率により表される。表面抵抗率は、1×1015Ω/□以上、1×1016Ω/□以上、更には1×1017Ω/□以上であってもよい。
【0028】
染料の例は、アゾ系染料及び油溶性染料である。顔料の例は、カーボンブラック及び金属酸化物である。ただし、染料及び顔料は、上記例に限定されない。
【0029】
PTFE多孔質膜1の平均孔径は、例えば0.01~5μmであり、2μm以下、更に
は1μm以下であってもよい。ただし、着色前の原PTFE多孔質膜の平均孔径に応じて、PTFE多孔質膜1は上記範囲外の平均孔径を有しうる。PTFE多孔質膜1の平均孔径は、ASTM(米国試験材料協会)F316-86に準拠して測定できる。
【0030】
PTFE多孔質膜1の気孔率は、例えば50~99%である。ただし、着色前の原PTFE多孔質膜の気孔率に応じて、PTFE多孔質膜1は上記範囲外の気孔率を有しうる。PTFE多孔質膜1の気孔率は、当該膜の質量、厚さ、面積(主面の面積)及び真密度を下記の式に代入して算出できる。なお、PTFEの真密度は2.18g/cm3である。
式:気孔率(%)={1-(質量[g]/(厚さ[cm]×面積[cm2]×真密度[
g/cm3]))}×100
【0031】
PTFE多孔質膜1の厚さは、用途により異なるが、100μm以下、75μm以下、50μm以下、更には25μm以下であってもよい。厚さの下限は、例えば5μm以上である。
【0032】
PTFE多孔質膜1の厚さ方向の通気度は、JIS L1096:2010に定められた通気性測定B法(ガーレー形法)に準拠して求めた空気透過度(ガーレー通気度)により表して、例えば200秒/100mL未満であり、150秒/100mL以下、100秒/100mL以下、50秒/100mL以下、25秒/100mL以下、20秒/100mL以下、15秒/100mL以下、12秒/100mL以下、10秒/100mL以下、8秒/100mL以下、更には7秒/100mL以下であってもよい。ガーレー通気度の下限は、例えば0.2秒/100mL以上であり、0.3秒/100mL以上、0.5秒/100mL以上、1秒/100mL以上、1.5秒/100mL以上、2秒/100mL以上、2.5秒/100mL以上、3秒/100mL以上、更には3.5秒/100mL以上であってもよい。ただし、着色前の原PTFE多孔質膜の通気度に応じて、PTFE多孔質膜1は上記範囲外の厚さ方向の通気度を有しうる。
【0033】
なお、PTFE多孔質膜1のサイズが、ガーレー形法における試験片のサイズ(約50mm×50mm)に満たない場合にも、測定冶具の使用により、ガーレー通気度の評価が可能である。測定冶具の一例は、貫通孔(直径1mm又は2mmの円形の断面を有する)が中央に設けられた、厚さ2mm及び直径47mmのポリカーボネート製円板である。この測定冶具を用いたガーレー通気度の測定は、以下のように実施できる。
【0034】
測定冶具の貫通孔の開口を覆うように、測定冶具の一方の面に評価対象であるPTFE多孔質膜1を固定する。固定は、ガーレー通気度の測定中、開口及び評価対象であるPTFE多孔質膜1の有効試験部(固定したPTFE多孔質膜1の主面に垂直な方向から見て開口と重複する部分)のみを空気が通過し、かつPTFE多孔質膜1の有効試験部における空気の通過を固定部分が阻害しないように行う。PTFE多孔質膜1の固定には、開口の形状と一致した形状を有する通気口が中心部に打ち抜かれた両面粘着テープを利用できる。両面粘着テープは、通気口の周と開口の周とが一致するように測定冶具とPTFE多孔質膜1との間に配置すればよい。次に、PTFE多孔質膜1を固定した測定冶具を、PTFE多孔質膜1の固定面が測定時の空気流の下流側となるようにガーレー形通気性試験機にセットして、100mLの空気がPTFE多孔質膜1を通過する時間t1を測定する。次に、測定した時間t1を、JIS L1096:2010の通気性測定B法(ガーレー形法)に定められた有効試験面積642[mm2]あたりの値tに、式t={(t1)×
(PTFE多孔質膜の有効試験部の面積[mm2])/642[mm2]}により換算し、
得られた換算値tを、PTFE多孔質膜1のガーレー通気度とすることができる。上記円板を測定冶具として使用する場合、PTFE多孔質膜1の有効試験部の面積は、貫通孔の断面の面積である。なお、上記試験片のサイズを満たすPTFE多孔質膜1に対して測定冶具を使用せずに測定したガーレー通気度と、当該PTFE多孔質膜1を細片化した後、
測定冶具を使用して測定したガーレー通気度とがよく一致する、即ち、測定冶具の使用がガーレー通気度の測定値に実質的に影響しないことが、確認されている。
【0035】
PTFE多孔質膜1の形状は、主面11,12に垂直な方向から見て、例えば、正方形及び長方形を含む多角形、円、楕円、不定形及び帯状である。ただし、PTFE多孔質膜1の形状は、上記例に限定されない。
【0036】
図1のPTFE多孔質膜1は単層である。
【0037】
PTFE多孔質膜1は、撥液処理が施された膜であってもよい。撥液処理は、公知の方法により実施できる。撥液処理には、撥水処理及び撥油処理が含まれる。PTFE多孔質膜1は、撥液処理が施されていない膜、換言すれば、表面及び/又は内部が撥液剤によって被覆されていない膜、であってもよい。
【0038】
PTFE多孔質膜1は、例えば、水及び/又は粉塵を遮りながら気体の透過を許容する通気膜として使用できる。通気膜の例は、開口に配置されて当該開口を介した水の浸入を防ぎながら音及び/又は気体を透過させる防水膜、並びに開口に配置されて当該開口を介した粉塵の侵入を防ぎながら音及び/又は気体を透過させる防塵膜である。開口の例は、電子機器の筐体に設けられた開口、及び電子部品の開口である。電子部品の例は、MEMSである。MEMSの例は、スピーカー及びマイクロフォン等の音響素子、並びに圧力センサー、酸素センサー及び気温センサー等のセンサー素子である。電子機器の例は、スマートフォン及びタブレットPC等の情報機器;ランプ、ECU、モーター及びバッテリー等の車両用機器;電動歯ブラシ及びシェーバー等の電気製品;並びにスピーカー及びマイクロフォン等の音響機器である。ただし、PTFE多孔質膜1の用途、通気膜、開口、電子機器及び電子部品は、それぞれ上記例に限定されない。PTFE多孔質膜1は、相対的に明度L*が小さい主面11が筐体の外部や電子部品の外部の側に面するように、開口に
配置してもよい。また、PTFE多孔質膜1は、相対的に明度L*が大きい主面12が筐
体の内部や電子部品の内部の側に面するように、開口に配置してもよい。
【0039】
以下、PTFE多孔質膜1の製造方法について説明する。ただし、PTFE多孔質膜1の製法は、以下に示す例に限定されない。
【0040】
PTFE多孔質膜1は、例えば、着色剤を含む着色液を、着色する前の原PTFE多孔質膜の一方の主面に塗布した後、染色液に含まれる溶媒や分散媒(以下、溶媒及び分散媒をまとめて「溶媒」と記載する)を乾燥等により除去して製造できる。塗布には、公知の塗布方法を採用できる。なお、着色液を塗布した主面(塗布面)が、通常、相対的に明度L*が小さい主面11となる。
【0041】
着色液は、20℃での表面張力が25mN/m以上の溶媒、及び/又は、20℃での比誘電率が5.0以下の溶媒を含むことが好ましい。これらの溶媒を含む着色液は、PTFEに対する濡れ性が低いため、原PTFE多孔質膜に塗布した際に膜の内部への浸透が抑制され、多くの着色剤を塗布面にとどめることができる。とりわけ原PTFE多孔質膜の厚さが小さい場合には、塗布面とは反対側の面にまで着色液が浸透しやすいため、着色液における上記溶媒の含有が望まれる。溶媒の表面張力(20℃)は、27mN/m以上、28mN/m以上、29mN/m以上、更には30mN/m以上であってもよい。溶媒の比誘電率(20℃)は、4.0以下、3.0以下、更には2.5以下であってもよい。ただし、着色剤の種類、PTFE多孔質膜の微多孔構造等によって、溶媒の表面張力及び比誘電率の適切な範囲は相異する。
【0042】
溶媒が2以上の溶媒種の混合溶媒である場合、溶媒は、20℃での表面張力が25mN
/m以上の溶媒種、及び/又は、20℃での比誘電率が5.0以下の溶媒種を含むことが好ましい。溶媒種の表面張力(20℃)は、27mN/m以上、28mN/m以上、29mN/m以上、更には30mN/m以上であってもよい。溶媒種の比誘電率(20℃)は、4.0以下、3.0以下、更には2.5以下であってもよい。上記表面張力及び/又は比誘電率を満たす溶媒種の例は、トルエン、シクロヘキサン、キシレン及びシクロペンチルメチルエーテルである。溶媒は、上記溶媒種を25~90体積%の含有量で含んでいてもよく、50~90体積%の含有量で含んでいてもよい。溶媒は、上記溶媒種からなってもよいし、PTFE多孔質膜1が得られる限り、表面張力及び/又は比誘電率について上記範囲を満たさない溶媒種を含んでいてもよい。上記範囲を満たさない溶媒種は、例えば、原PTFE多孔質膜に対する着色液の塗布性の向上のために溶媒に添加することができる。
【0043】
溶媒に含まれる溶媒種の沸点は、90℃以上、100℃以上、105℃以上、更には110℃以上であってもよい。溶媒種の沸点の上限は、180℃以下であってもよい。上記範囲にある沸点を有する溶媒種を含む溶媒は、塗布面(主面11)における、より均一な着色に寄与しうる。
【0044】
着色液は、撥液剤を含まないことが好ましい。撥液剤は、一般に極性が高く、また、フッ素化合物である場合が多いため、フッ素樹脂であるPTFEに対する着色液の濡れ性を高めてしまう。また、着色液が撥液剤を含まないことによって、膜内部への撥液剤の浸透に起因する通気度の悪化(ガーレー通気度の増大)が抑制される。換言すれば、膜の通気性が重要視される場合には、着色液は撥液剤を含まなくてもよい。撥液剤には、撥水剤及び撥油剤が含まれる。着色液の濡れ性についての上記問題を避けながら撥液処理されたPTFE多孔質膜を得るためには、着色前又は着色後のPTFE多孔質膜に対して、着色液による着色処理とは別に撥液処理を実施してもよい。
【0045】
着色剤が染料である場合、着色液(染色液)における染料の濃度は、例えば、1重量%以上であり、2重量%以上であってもよい。
【0046】
着色液が撥液剤を含む場合、撥液剤の配合量は、着色剤100重量部に対して、例えば20重量部未満であり、18重量部以下、更には16重量部以下であってもよい。
【0047】
原PTFE多孔質膜は、公知の手法により形成できる。例えば、PTFEファインパウダーと成形助剤との混練物を押出成形及び圧延によりシート状とし、成形助剤を除去した後、更に延伸して形成できる。なお、圧延条件及び延伸条件により、PTFE多孔質膜1の特性を調整できる。
【0048】
[通気膜]
本発明の通気膜の一例を図4に示す。図4の通気膜2は、PTFE多孔質膜1を含み、より具体的には、PTFE多孔質膜1の単層構造を有する。通気膜2は、水及び/又は粉塵を遮りながら気体の透過を許容する膜である。通気膜2は着色されており、一方の主面13と他方の主面14との間の明度L*の差の絶対値dが1.0以上である。通気膜2は
、好ましい態様を含め、PTFE多孔質膜1の説明において上述した各特性を有しうる。通気膜2は、例えば、相対的に明度L*が小さい主面13が外部側となるように、電子機
器の筐体の開口や電子部品の開口に配置できる。また、通気膜2は、相対的に明度L*
大きい主面14が内部側となるように、電子機器の筐体の開口や電子部品の開口に配置してもよい。
【0049】
上記開口に配置して使用する場合には、通気膜2の厚さは、3~30μmの範囲にあってもよい。厚さの上限は、25μm以下、20μm以下、更には15μm以下であっても
よく、厚さの下限は、5μm以上であってもよい。
【0050】
上記開口に配置して使用する場合には、通気膜2の面密度は、1~30g/m2の範囲
にあってもよい。面密度の上限は、20g/m2以下、15g/m2以下、10g/m2
下、更には5g/m2以下であってもよく、面密度の下限は、2g/m2以上であってもよい。面密度は、通気膜2の質量を面積(主面の面積)で除して算出できる。
【0051】
通気膜2の形状は、主面13,14に垂直な方向から見て、例えば、正方形及び長方形を含む多角形、円、楕円、不定形及び帯状である。ただし、通気膜2の形状は、上記例に限定されない。
【0052】
本発明の通気膜の別の一例を図5に示す。図5の通気膜2は、PTFE多孔質膜1と、PTFE多孔質膜1を支持する通気性支持材3との積層構造を有する。図5の通気膜2では、PTFE多孔質膜1における相対的に明度L*が小さい主面11が露出している。図
5の通気膜2は、例えば、主面11が外部側となるように、電子機器の筐体の開口や電子部品の開口に配置できる。
【0053】
通気性支持材3は、PTFE多孔質膜1に比べて通気性に優れることが好ましい。通気性支持材3の例は、金属、樹脂又はこれらの複合材料からなる織布、不織布、メッシュ、ネット、スポンジ、フォーム及び多孔体である。樹脂の例は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、アラミド、フッ素樹脂及び超高分子量ポリエチレンである。PTFE多孔質膜1と通気性支持材3との積層には、熱ラミネート、加熱溶着、超音波溶着等の各種の接合方法を利用できる。
【0054】
[通気部材]
本発明の通気部材の一例を図6A及び図6Bに示す。図6Bは、図6Aの通気部材4の断面B-Bを示す。図6A及び図6Bの通気部材4は、通気膜2と、通気膜2を支持する支持部材5とを備える。図6A及び図6Bの例では、通気膜2の形状は、主面13,14に垂直な方向から見て円であり、支持部材5の形状は、上記方向から見て、通気膜2の周縁部の形状に対応する形状であり、具体的には、リング状である。ただし、通気膜2及び支持部材5の形状は、支持部材5による通気膜2の支持が可能である限り、上記例に限定されない。支持部材5を備える通気部材4では、通気膜2を補強できると共に、取扱性を向上できる。また、支持部材5を通気膜2の取り付け代とすることができる。
【0055】
支持部材5の材質は、典型的には、樹脂、金属又はこれらの複合材料である。支持部材5は、両面粘着テープであってもよい。
【0056】
通気膜2と支持部材5との積層には、例えば、熱ラミネート、加熱溶着、超音波溶着、接着剤や粘着剤による接合等の各種の接合方法を利用できる。
【0057】
図6A及び図6Bの通気部材4では、支持部材5は、通気膜2の一方の側に配置されている。支持部材5は、通気膜2の双方の側に配置されていてもよい。図7A及び図7Bの通気部材4では、通気膜2の双方の側にそれぞれ支持部材5が配置されており、一対の当該支持部材5が通気膜2をその厚さ方向に挟持している。図7A及び図7Bに示された一対の支持部材5の形状は同一であるが、各々の支持部材5の形状は互いに異なっていてもよい。なお、図7Bは、図7Aの通気部材4の断面B-Bを示す。
【0058】
通気部材4は、通気膜2を防水膜として備える防水部材であってもよい。通気部材4は、通気膜2を防塵膜として備える防塵部材であってもよい。
【実施例
【0059】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0060】
本実施例で作製したPTFE多孔質膜の評価方法を示す。
【0061】
[明度L*
主面の明度L*は、JIS Z8781-4:2003に基づく評価が可能である分光
測色計(日本電色工業製、SE6000)により、CIE1976(L*,a*,b*)色
空間の明度L*として評価した。評価は、染色液の塗布面、及び塗布面とは反対側の面(
以下、裏面と記載する)の各々に対して実施した。測定条件は、以下の通りである。
・光源:JIS Z8720:2012に定められた測色用補助イルミナントC
・視角:2度
・標準白色板を測色したときの刺激値X,Y,Zの値が基準値の±0.03以内に入るように正規化を実施
【0062】
[耐水圧]
耐水圧(限界耐水圧)は、上述した方法により評価した。なお、塗布面及び裏面のそれぞれを水圧印加面とする評価を実施した。
【0063】
[被接着力]
主面の被接着力は、上述した方法により、当該主面の剥離力として評価した。試験片21の幅は25mmとし、両面粘着テープ22には、日東電工製、AS-42PI50を使用した。両面粘着テープ25(日東電工製、No.5610)における試験片21に貼付されている部分の長さは、120mmとした。両面粘着テープ25における試験片21への貼付面と反対側の面には、粘着面が露出しないように、厚さ25μmのPETフィルムを配置した。評価は、塗布面及び裏面の各々に対して実施した。
【0064】
[厚さ方向の通気度]
厚さ方向の通気度は、上述した方法により、ガーレー通気度として評価した。
【0065】
(原PTFE多孔質膜の作製)
PTFEファインパウダー(ダイキン工業製、F104)100重量部と、成形助剤としてn-ドデカン(ジャパンエナジー製)20重量部とを均一に混合し、得られた混合物を、シリンダーを用いて圧縮した後にラム押出成形してシート状とした。次に、シート状の混合物を、一対の金属ロールを通して厚さ0.2mmに圧延し、次いで幅方向に4.5倍の倍率で伸張させ、更に150℃の加熱により成形助剤を乾燥除去してシート成形体とした。次に、シート成形体を長手方向(圧延方向)に延伸温度300℃、延伸倍率4倍で延伸した後に、幅方向に延伸温度150℃、延伸倍率25倍で延伸し、更に400℃で焼成して、原PTFE多孔質膜を得た。得られた原PTFE多孔質膜の平均孔径は0.2μm、気孔率は78%、厚さ方向の通気度は3.3秒/100mLであった。平均孔径及び気孔率の値は、染色によってもほとんど変化しなかった。
【0066】
(実施例1~5)
染色液として、黒色染料(オリエント化学工業製、SP BLACK 91L、染料の濃度25重量%)と、溶媒との混合物を準備した。溶媒は、染色液における染料の濃度(固形分濃度;以下、同じ)が1.5重量%(実施例1~4)又は2.0重量%(実施例5)となるように加えた。溶媒は、トルエン及びメチルエチルケトン(MEK)の混合溶液(実施例1~4)又はトルエン(実施例5)とした。混合比は、体積比により表示して、トルエン:MEK=25:75(実施例1)、50:50(実施例2)、75:25(実
施例3)及び90:10(実施例4)とした。トルエンについて、20℃の表面張力は28.5mN/m、20℃の比誘電率は2.3である。MEKについて、20℃の表面張力は24.5mN/m、20℃の比誘電率は15.5である。
【0067】
次に、原PTFE多孔質膜の一方の主面に対して準備した染色液を塗布した後、20℃及び相対湿度50%の雰囲気下で自然乾燥させて、上記染料により着色された実施例1~5のPTFE多孔質膜を得た。染色液の塗布は、アプリケーターを使用して、塗布膜の厚さが18.2μmとなるように実施した。
【0068】
(比較例1)
染料と混合する溶媒をMEKとした以外は実施例1と同様にして、比較例1のPTFE多孔質膜を得た。
【0069】
各実施例及び比較例の塗布面及び裏面について、明度L*の評価結果を以下の表1に示
す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、溶媒に含まれるトルエンの配合量が多くなるほど、相対的に明度L*の小さい塗布面(主面11)と相対的に明度L*の大きい裏面(主面12)との間の明度L*の差の絶対値dが大きくなった。
【0072】
(実施例6)
染色液における染料の濃度を2.0重量%とした以外は実施例3(溶媒の混合比がトルエン:MEK=75:25(体積比))と同様にして、実施例6のPTFE多孔質膜を得た。
【0073】
(比較例2)
染色液における染料の濃度を2.0重量%とした以外は比較例1(溶媒がMEK100体積%)と同様にして、比較例2のPTFE多孔質膜を得た。
【0074】
(比較例3)
染料と混合する溶媒をエタノールに変更すると共に、染色液における染料の濃度を2.0重量%とした以外は実施例1と同様にして、比較例3のPTFE多孔質膜を得た。エタノールについて、20℃の表面張力は22.4mN/m、20℃の比誘電率は24.0である。
【0075】
(実施例7)
染料と混合する溶媒をキシレンに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例7のP
TFE多孔質膜を得た。キシレンについて、20℃の表面張力は30.0mN/m、20℃の比誘電率は2.3である。
【0076】
(実施例8)
染料と混合する溶媒をキシレンに変更すると共に、染色液における染料の濃度を2.0重量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例8のPTFE多孔質膜を得た。
【0077】
(比較例4)
染料と混合する溶媒をアセトンに変更した以外は実施例1と同様にして、比較例4のPTFE多孔質膜を得た。アセトンについて、20℃の表面張力は23.3mN/m、20℃の比誘電率は19.5である。
【0078】
(実施例9)
染料と混合する溶媒をトルエンに変更すると共に、フッ素樹脂を撥液成分として含む撥液剤(野田スクリーン製、No.328)を固形分濃度0.23重量%で染色液に加えた以外は実施例1と同様にして、実施例9のPTFE多孔質膜を得た。
【0079】
(比較例5)
染料と混合する溶媒をMEKに変更した以外は実施例9と同様にして、比較例5のPTFE多孔質膜を得た。
【0080】
(参考例)
染色前の原PTFE多孔質膜を参考例とした。
【0081】
各実施例及び比較例で使用した染色液を表2に、各実施例、比較例及び参考例に対する評価結果を表3に、それぞれ示す。
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
表3に示すように、実施例のPTFE多孔質膜では、塗布面と裏面との間の明度L*
差の絶対値dを大きくできると共に、高い耐水圧及び塗布面における高い剥離力を達成できた。特に、実施例6では、明度L*の差の絶対値dは17.0に達すると共に、原PT
FE多孔質膜の耐水圧が両面ともに維持された。一方、比較例のPTFE多孔質膜では、塗布面と裏面との間の明度L*の差の絶対値dが小さくなる(比較例2,3ではゼロ)と
共に、塗布面及び裏面の耐水圧が原PTFE多孔質膜に比べて大きく低下した。また、原PTFE多孔質膜に対する剥離力の向上の程度は、実施例に比べて小さかった。
【0085】
図8に、実施例6及び比較例2の塗布面の観察像を示す。図8に示すように、実施例6では、相対的に明度L*の小さい塗布面における着色ムラを比較例2に比べて低減できた
【0086】
図9に、実施例6の断面に対する染料分布の評価結果を示す。染料分布は、顕微ラマンを用いたマッピング分析により実施した。断面は、クライオミクロトームにより切り出した。顕微ラマン分光装置には、走査型近接光学顕微鏡(SNOM)/原子間力顕微鏡(AFM)/Raman複合機(WITec製、alpha300RSA)を使用した。検出器には電子増倍CCD(EMCCD)を用い、対物レンズの倍率は100倍とした。顕微ラマンの励起波長は532nm、測定波数は125~3800cm-1とした。また、染料のマッピングは、染料の芳香族二重結合に由来する波数1563cm-1のピークを指標に実施した。図9に示すように、染料は、塗布面に集中して分布していた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のPTFE多孔質膜は、従来のPTFE多孔質膜と同様の用途に使用できる。用途の例は、通気膜である。
【符号の説明】
【0088】
1 PTFE多孔質膜
11 主面
12 主面
2 通気膜
4 通気部材
5 支持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9