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特許7106762正極シート及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池
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  • 特許-正極シート及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】正極シート及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20220719BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220719BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220719BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20220719BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/1391
H01M4/36 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021531171
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 CN2019103214
(87)【国際公開番号】W WO2020043151
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】201811011807.X
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】李志▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】▲韓▼昌隆
(72)【発明者】
【氏名】李奇峰
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-201228(JP,A)
【文献】特開2010-108771(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105470494(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0048597(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/1391
H01M 4/36
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シートであって、
正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一つの面に配置された正極フィルムシートと、を備え、
前記正極フィルムシートは、正極活物質を含み、前記正極活物質は、リチウムマンガン系正極活物質であり、
前記正極シートは、式(1)を満たし、
【数1】
前記式(1)において、ρsumは、前記正極シートの体積抵抗率であり、単位は、kΩ・cmであり、ρは、20MPaの圧力での前記正極活物質の粉体体積抵抗率であり、単位は、kΩ・cmであり、aは、前記正極フィルムシートにおける前記正極活物質の質量百分率であり、単位は、wt%であり、
前記リチウムマンガン系正極活物質は、式(3)で表される第1のリチウムマンガン系正極活物質及び式(4)で表される第2のリチウムマンガン系正極活物質を含み、
Li 1+x Mn Ni 1-a-b 2-y 式(3)
Li 1+z Mn 2-e 4-d 式(4)
前記式(3)において、-0.1≦x≦0.2、0<a<1、0≦b<1、0<a+b<1、0≦y<0.2であり、Mは、Co、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Zr及びCeのうちの1種類又は複数種類であり、Aは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種類又は複数種類であり、
前記式(4)において、-0.1≦z≦0.2、0<e≦2、0≦d<1であり、Nは、Ni、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Mg、Zr及びCeのうちの1種類又は複数種類であり、Bは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種類又は複数種類である、
正極シート。
【請求項2】
前記正極シートは、式(2)を満たす、
【数2】
請求項1に記載の正極シート。
【請求項3】
前記正極シートの体積抵抗率ρsumは、ρsum≦450kΩ・cmである、
請求項1に記載の正極シート。
【請求項4】
前記正極シートの体積抵抗率ρ sum は、ρ sum ≦300kΩ・cmである、
請求項3に記載の正極シート。
【請求項5】
前記正極シートの体積抵抗率ρ sum は、ρ sum ≦160kΩ・cmである、
請求項4に記載の正極シート。
【請求項6】
20MPaの圧力での前記正極活物質の粉体体積抵抗率ρは、0~450kΩ・cmである、
請求項1に記載の正極シート。
【請求項7】
20MPaの圧力での前記正極活物質の粉体体積抵抗率ρは、0~400kΩ・cmである、
請求項6に記載の正極シート。
【請求項8】
前記正極フィルムシートにおける前記正極活物質の質量百分率は、80~96.5wt%である、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の正極シート。
【請求項9】
前記正極活物質におけるMnの質量百分率ωと20MPaの圧力での前記正極活物質の粉体体積抵抗率ρとは、3≦ω・ρ/100≦200の関係式を満たす、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の正極シート。
【請求項10】
前記正極活物質の粒径D50は、1~20μmであり、前記正極活物質のBET比表面積は、0.3~1.5m/gである、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の正極シート。
【請求項11】
前記正極シートの圧密度Pは、3.1~3.65g/cmである、
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の正極シート。
【請求項12】
正極シートと、負極シートと、セパレータと、電解質と、を含み、
前記正極シートは、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の正極シートである、
リチウムイオン二次電池。
【請求項13】
正極シートの製造方法であって、
第1のリチウムマンガン系正極活物質、導電剤、接着剤及び溶媒を混合して、プレスラリーを得る工程と、
第2のリチウムマンガン系正極活物質と前記プレスラリーとを混合して、正極スラリーを得る工程と、
前記正極スラリーを正極集電体の少なくとも一つの面に塗布して正極フィルムシートを形成して、前記正極シートを得る工程と、
を含み、
前記正極シートは、式(1)を満足し、
【数3】
前記式(1)において、ρsumは、前記正極シートの体積抵抗率であり、単位は、kΩ・cmであり、ρは、20MPaの圧力での前記正極活物質の粉体体積抵抗率であり、単位は、kΩ・cmであり、aは、前記正極フィルムシートにおける前記正極活物質の質量百分率であり、単位は、wt%であり、
前記第1のリチウムマンガン系正極活物質は、式(3)で表される化合物であり、第2のリチウムマンガン系正極活物質は、式(4)で表される化合物であり、
Li1+xMnNi1-a-b2-y 式(3)
Li1+zMn2-e4-d 式(4)
前記式(3)において、-0.1≦x≦0.2、0<a<1、0≦b<1、0<a+b<1、0≦y<0.2であり、Mは、Co、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Zr及びCeのうちの1種類又は複数種類であり、Aは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種類又は複数種類であり、
前記式(4)において、-0.1≦z≦0.2、0<e≦2、0≦d<1であり、Nは、Ni、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Mg、Zr及びCeのうちの1種類又は複数種類であり、Bは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種類又は複数種類である、
正極シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年08月31日に出願された「正極シート及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池」という発明名称の中国特許出願201811011807.Xの優先権を主張し、当該出願のすべての内容は、本明細書に援用される。
【0002】
本願は、エネルギー貯蔵装置の技術分野に属し、具体的に、正極シート及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン二次電池は、安定した電圧及び電流を供給することができ、高電圧プラットフォーム、高い比エネルギー(Specific energy)及び広い温度使用範囲を有し、且つ環境に優しく、携帯しやすいため、現在の各種電子製品及び電動車両の主流動力源となっている。近年、リチウムイオン二次電池の普及に伴い、市場ではリチウムイオン二次電池の電気化学的性能に対するニーズが高まっている。
【発明の概要】
【0004】
本願は、正極シート及びその製造方法、並びにリチウムイオン二次電池を提供して、リチウムイオン二次電池が高い安全性能、倍率性能及びサイクル性能を同時に有することを目的とする。
【0005】
本願の第1の様態は、正極シートを提供し、当該正極シートは、
正極集電体と、正極集電体の少なくとも一つの面に配置された正極フィルムシートと、を備え、
正極フィルムシートは、正極活物質を含み、正極活物質は、リチウムマンガン系正極活物質であり、
正極シートは、式(1)を満たし、
【数1】
式(1)において、ρsumは、正極シートの体積抵抗率であり、単位は、kΩ・cmであり、ρは、20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率であり、単位は、kΩ・cmであり、aは、正極フィルムシートにおける正極活物質の質量百分率であり、単位は、wt%である。
【0006】
本願の第2の様態は、リチウムイオン二次電池を提供し、当該リチウムイオン二次電池は、正極シートと、負極シートと、セパレータと、電解質と、を備え、ここで、正極シートは、本願の第1の様態の正極シートである。
【0007】
本願の第3の様態は、正極シートの製造方法を提供し、当該製造方法は、
第1のリチウムマンガン系正極活物質、導電剤、接着剤及び溶媒を混合して、プレスラリーを得る工程と、
第2のリチウムマンガン系正極活物質とプレスラリーとを混合して、正極スラリーを得る工程と、
正極スラリーを正極集電体の少なくとも一つの面に塗布して正極フィルムシートを形成して、正極シートを得る工程と、を含み、
正極シートは、式(1)を満足し、
【数2】
式(1)において、ρsumは、正極シートの体積抵抗率であり、単位は、kΩ・cmであり、ρは、20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率であり、単位は、kΩ・cmであり、aは、正極フィルムシートにおける正極活物質の質量百分率であり、単位は、wt%であり、
第1のリチウムマンガン系正極活物質は、式(3)で表される化合物であり、第2のリチウムマンガン系正極活物質は、式(4)で表される化合物であり、
Li1+xMnNi1-a-b2-y 式(3)
Li1+zMn2-e4-d 式(4)
式(3)において、-0.1≦x≦0.2、0<a<1、0≦b<1、0<a+b<1、0≦y<0.2であり、Mは、Co、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Zr及びCeのうちの1種類又は複数種類であり、Aは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種類又は複数種類であり、
式(4)において、-0.1≦z≦0.2、0<e≦2、0≦d<1であり、Nは、Ni、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Mg、Zr及びCeのうちの1種類又は複数種類であり、Bは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種類又は複数種類である。
【0008】
本願は、従来技術と比較して、少なくとも以下の有益な効果を有する。
【0009】
本願の正極シートは、リチウムマンガン系正極活物質を正極活物質とするため、当該正極活物質は、より良好な構造安定性を有し、より激しい構造破壊力に耐えることができ、材料の構造破壊による熱暴走を減少させるできる。また、当該正極活物質の表面電解液は、酸化作用がより低く、正極活物質表面での電解液の副反応を低減し、ガス発生を抑制し、発熱量を低減することができる。これにより、リチウムイオン二次電池は、高い安全性能を有する。同時に、正極シートの体積抵抗率ρsumと、20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρと、正極フィルムシートにおける正極活物質の質量百分率aとが、関係式(1)を満たすようにすることにより、電池の内部抵抗を効果的に低下させ、正極の分極を減少させるため、リチウムイオン二次電池は、高い倍率性能及びサイクル性能を有する。そのため、本願の正極シートを利用すると、リチウムイオン二次電池が高い安全性能、倍率性能及びサイクル性能を同時に有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
以下、本願の実施例の技術案をより明確に説明するために、本願の実施例に必要な図面を簡単に説明するが、下記に記載の図面は、本願の一部の実施例にすぎず、当業者であれば、クリエイティブな労力がなくても、図面に基づいて他の図面を得ることができることは自明である。
【0011】
図1】aは本願の実施例1の内部粒子分布の概略図であり、bは比較例2の内部粒子分布の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願の発明の目的、技術案及び有益な技術的効果をより明確にするために、実施例を参照して本願をさらに詳細に説明する。本明細書に記載の実施例は、単に本願を説明するためのものであり、本願を限定するためのものではないことを理解されたい。
【0013】
本文は、簡単のために、幾つかの数値範囲のみを明確に開示する。ただし、任意の下限は、任意の上限と組み合わせて明記されていない範囲を形成してもよく、任意の下限は、他の下限と組み合わせて明記されていない範囲を形成してもよく、同様に、任意の上限は、任意の他の上限と組み合わせて明記されていない範囲を形成してもよい。また、明記されてはいないが、範囲の端点の間の各点又は単一の数値は、いずれも、当該範囲に含まれる。そのため、各点又は単一の数値は、その自体の下限又は上限として、任意の他の点又は単一の数値と組み合わせて、或いは他の下限又は上限と組み合わせて、明記されていない範囲を形成してもよい。
【0014】
なお、本文の説明において、特に説明がない限り、「以上」、「以下」は、本数を含み、「1種類は複数種類」における「複数種類」は、2つ以上を意味する。
【0015】
本願の上記の発明の概要は、本願における各開示の実施形態又は各種類の実現形態を説明することを意図するものではない。以下の説明は、例示的な実施形態をより具体的に例示する。本願の全文の幾つかの箇所において、様々な組み合わせで使用されることができる一連の実施例によって、ガイダンスを提供する。各例において、列挙は代表的なグループとしてのみ機能し、網羅的なものとして解釈されるべきではない。
【0016】
正極シート
本願の実施形態の第1の態様は、正極シートを提供し、当該正極シートは、正極集電体と、正極集電体上に積層された正極フィルムシートと、を備える。特定の一例として、正極集電体は、その厚さ方向で互いに対向する2つの面を有し、正極フィルムシートは、上記2つの面のいずれか一方に積層されてもよく、両面にそれぞれ積層されてもよい。
【0017】
本願の実施例の正極シートにおいて、正極フィルムシートは、正極活物質を含み、充放電サイクルにおいて、リチウムイオンを可逆的に脱離/挿入し、電子を移動させることが可能である。正極集電体は、電流を収集して出力する。
【0018】
正極活物質は、リチウムマンガン系正極活物質である。また、本願の実施例の正極シートは、以下の関係式(1)を満足する。
【0019】
【数3】
【0020】
式(1)において、ρsumは、正極シートの体積抵抗率であり、単位は、kΩ・cmであり、ρは、20MPa圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率であり、単位は、kΩ・cmであり、aは、正極シートにおける正極活物質の質量百分率であり、単位は、wt%である。
【0021】
本願の実施例の正極シートは、リチウムマンガン系正極活物質を正極活物質とするため、当該正極活物質は、より良好な構造安定性を有し、より激しい構造破壊力に耐えることができ、材料の構造破壊による熱暴走を減少させるできる。また、当該正極活物質の表面電解液は、酸化作用がより低く、正極活物質表面での電解液の副反応を低減し、ガス発生を抑制し、発熱量を低減することができる。そのため、リチウムイオン二次電池は、高い安全性能を有する。同時に、正極シートの体積抵抗率ρsumと、20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρと、正極シートにおける正極活物質の質量百分率aとが、関係式(1)を満たすようにすることにより、電池の内部抵抗を効果的に低下させ、正極の分極を減少させるため、リチウムイオン二次電池は、高い倍率性能及びサイクル性能を有する。そのため、本願の実施例の正極シートを利用すると、リチウムイオン二次電池が高い安全性能、倍率性能及びサイクル性能を同時に有することができる。
【0022】
好ましくは、本願の実施例の正極シートは、以下の関係式(2)を満たす。
【0023】
【数4】
【0024】
好ましくは、正極活物質におけるMnの質量百分率ωと、20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρとは、3≦ω・ρ/100≦200の関係式を満たす。
【0025】
正極活物質におけるMnの質量百分率ωと、20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρとが上記の関係式を満たすことにより、正極活物質の固有電子導電性がより高くなる。これにより、リチウムイオン二次電池の倍率性能、高低温サイクル性能及び安全性能がより良好に改善されるとともに、リチウムイオン二次電池の比容量及びエネルギー密度の向上に有利である。
【0026】
20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρは、0~450kΩ・cmであることが好ましい。当該正極活物質の固有電子導電性が相対的高く、且つ、当該正極活物質表面のリチウム不純物及びその他の不純物がより少なく、電解液と正極活物質との界面抵抗を低下させるため、電池全体の抵抗を大幅に低下させ、さらに電池の倍率性能やサイクル性能を向上させる。より好ましくは、20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρは、0~400kΩ・cmである。
【0027】
20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρは、従来の粉体体積抵抗率測定方法を用いて測定することができる。一例として、4探針法によって、20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρを測定する。測定方法は、正極活物質粉体を試料台に入れ、プレス機で粉体に20MPaの圧力を印加し、圧力が安定した後、抵抗率計によって、20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρを読み取る。
【0028】
好ましくは、正極活物質は、一次粒子が凝集してなる二次粒子であり、二次粒子の平均粒径D50は、1~20μmであることが好ましく、二次粒子のBET比表面積(Brunauer-Emmett-Teller法による比表面積)は、0.3~1.5m/gであることが好ましい。
【0029】
正極活物質の平均粒径が小さ過ぎるか、又は正極活物質のBET比表面積が高過ぎると、正極活物質と電解液との接触面積が大きくなりすぎる。これにより、高電圧又は強酸化性により、電解液が正極活物質の表面で副反応しやすくなり、ガス発生問題が悪化し、電池の発熱量が増加し、電池の安全性能及びサイクル性能が劣化する。正極活物質の平均粒径が大き過ぎるか、又は正極活物質のBET比表面積が低過ぎると、充放電過程で、正極活物質粒子内に脱離/挿入するリチウムイオンの経路が長くなり過ぎ、電池の動力学的性能に影響を与える。本願の実施例の正極シートは、平均粒径D50が1~20μm、BET比表面積が0.3~1.5m/gの正極活物質を用いるため、リチウムイオン二次電池の倍率性能、安全性能及びサイクル性能の向上に有利である。
【0030】
幾つかの実施例において、正極活物質は、第1のリチウムマンガン系正極活物質及び第2のリチウムマンガン系正極活物質のうちの1種類又は複数種類を含む。
【0031】
第1のリチウムマンガン系正極活物質は、式(3)で表される化合物である。
【0032】
Li1+xMnNi1-a-b2-y 式(3)
【0033】
式(3)において、-0.1≦x≦0.2、0<a<1、0≦b<1、0<a+b<1、0≦y<0.2であり、Mは、Co、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Zr及びCeのうちの1種類又は複数種類であり、Aは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種類又は複数種類である。
【0034】
より好ましくは、式(3)において、0.5≦b<1である。
【0035】
第2のリチウムマンガン系正極活物質は、式(4)で表される化合物である。
【0036】
Li1+zMn2-e4-d 式(4)
【0037】
式(4)において、-0.1≦z≦0.2、0<e≦2、0≦d<1であり、Nは、Ni、Fe、Cr、Ti、Zn、V、Al、Mg、Zr及びCeのうちの1種類又は複数種類であり、Bは、S、N、F、Cl、Br及びIのうちの1種類又は複数種類である。
【0038】
本願の実施例の正極シートにおいて、リチウムマンガン系正極活物質が第1のリチウムマンガン系正極活物質及び第2のリチウムマンガン系正極活物質を含む場合、第1のリチウムマンガン系正極活物質と第2のリチウムマンガン系正極活物質との相乗効果を十分に発揮することができる。当該相乗効果は、リチウムイオン二次電池が高い比容量及びエネルギー密度を有するように保証した上で、リチウムイオン二次電池の倍率性能、サイクル性能及び安全性能を顕著に改善することができる。
【0039】
本願の実施例の正極シートにおいて、その体積抵抗率ρsumは、ρsum≦450kΩ・cmであることが好ましい。当該正極シートを利用することで、電池内部の直流インピーダンスを低下させ、リチウムイオン二次電池のサイクル性能及び倍率性能を向上させるのに有利である。正極シートの体積抵抗率は、ρsum≦300kΩ・cmであることがより好ましい。正極シートの体積抵抗率は、ρsum≦160kΩ・cmであることがさらに好ましい。
【0040】
正極シートの圧密度Pは、3.1~3.65g/cmであることが好ましい。正極シートの圧密度は、正極シートの内部の粒子が十分に接触し、接触抵抗が小さくなるのに適切であり、リチウムイオン二次電池の倍率性能及びサイクル性能を向上させるのに有利である。
【0041】
本願の実施例の正極シートにおいて、正極フィルムシートにおける正極活物質の質量百分率aは、80~96.5wt%であることが好ましく、90~96.5wt%であることがより好ましい。これにより、リチウムイオン二次電池は、所望の比容量及びエネルギー密度を有することができる。
【0042】
正極フィルムシートは、さらに、導電剤を含んで、正極活物質と正極集電体との間及び正極活物質粒子間の導電性を向上させ、正極活物質の利用率を向上させてもよい。
【0043】
正極フィルムシートにおける導電剤の質量百分率は、1~10wt%であることが好ましい。より好ましくは、正極フィルムシートにおける導電剤と正極活物質との重量比は、1.5:95.5以上である。これは、低い電極シート抵抗を得るのに有利である。
【0044】
本願は、導電剤を特に制限せず、本分野の従来の導電剤を用いることができる。例えば、黒鉛、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの1種類又は複数種類であり、ここで、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーのうちの1種類又は複数種類であることが好ましい。
【0045】
幾つかの選択可能な実施形態において、正極フィルムシートは、接着剤をさらに含む。
【0046】
接着剤は、特に限定されず、本分野の従来の接着剤を用いることができる。例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水性アクリル樹脂(water-based acrylic resin)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)及びポリビニルアルコール(PVA)のうちの1種類又は複数種類である。
【0047】
接着剤は、正極活物質粒子と導電剤との接着に用いられ、電極シートの内部の導電ネットワークの良好な構造安定性を保証する。接着剤自体の導電性が悪いため、接着剤の使用量を過度に多くすることはできない。正極活物質層における接着剤の質量百分率は、2wt%以下であることが好ましい。これは、低い電極シート抵抗を得るのに有利である。
【0048】
正極集電体は、金属箔材又は多孔質金属板を使用することができ、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン又は銀等の金属、或いはアルミ箔のようなそれらの合金の箔材又は多孔質板を利用することができる。
【0049】
本願の実施例は、さらに、正極シートの製造方法を提供する。
【0050】
本願の実施例の正極シートは、塗布方法により製造することができる。例えば、先ず、正極スラリーを正極集電体の少なくとも一つの面に塗布して、正極活物質塗工層を取得し、その後、正極活物質塗工層に乾燥、冷間プレス等の工程を実行して、即ち、正極集電体上に正極フィルムシートを形成して、正極シートを取得する。
【0051】
特定の一例として、正極シートの製造方法は、以下の工程を含む。
【0052】
S100において、正極活物質、接着剤、導電剤及び溶媒を所定の割合で混合し、混合物を均一系になるまで攪拌して、正極スラリーを取得し、溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)であってもよい。
【0053】
正極活物質は、リチウムマンガン系正極活物質である。リチウムマンガン系正極活物質は、前述の第1のリチウムマンガン系正極活物質及び第2のリチウムマンガン系正極活物質のうちの1種類又は複数種類を含んでもよい。正極活物質が第1のリチウムマンガン系正極活物質及び第2のリチウムマンガン系正極活物質を含む場合、第1のリチウムマンガン系正極活物質及び第2のリチウムマンガン系正極活物質は同時に添加されてもよく、当然、順序に添加されてもよい。第1のリチウムマンガン系正極活物質及び第2のリチウムマンガン系正極活物質は、それぞれ独立に一回で添加されてもよく、当然、それぞれ独立に複数回に分けて添加されてもよい。
【0054】
幾つかの好ましい実施例において、先ず、第1のリチウムマンガン系正極活物質と、接着剤、導電剤及び有機溶剤と、を撹拌し混合して、プレスラリーを調製し、さらに、プレスラリーに第2のリチウムマンガン系正極活物質を添加し、攪拌し混合して、正極スラリーを調製する。当該方法は、正極フィルムシートの内部の粒子の分布を均一にし、導電剤の凝集を避けることができ、均一に分布した導電ネットワークを形成するため、電極シートの抵抗を大幅に低下させ、電池の倍率性能及びサイクル性能を向上させることができる。
【0055】
上記の溶媒は、有機溶媒であることが好ましく、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)である。
【0056】
S200において、正極スラリーを正極集電体上に塗布して、正極活物質塗工層を形成して、正極シート初品を取得する。
【0057】
S300において、正極シート初品に乾燥、冷間プレス等の工程を実行して、正極シートを取得する。
【0058】
上記の製造方法により、本願の実施例の正極シートを実現することができる。
【0059】
リチウムイオン二次電池
本願の実施形態の第2の態様は、リチウムイオン二次電池を提供し、当該リチウムイオン二次電池は、正極シート、負極シート、セパレータ及び電解液を含む。
【0060】
正極シートは、本願の実施形態の第1の態様に係る正極シートを用いる。
【0061】
負極シートは、金属リチウムシートであってもよく、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一つの面に積層された負極フィルムシートと、備えてもよい。
【0062】
負極フィルムシートは、負極活物質と、選択可能な導電剤、接着剤及び増粘剤とを含む。一例として、負極活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンビーズ(MCMB)、ハードカーボン、ソフトカーボン、シリコン、シリコン-炭素複合体、SiO、Li-Sn合金、Li-Sn-O合金、Sn、SnO、SnO、スピネル構造のチタン酸リチウムLiTi12、Li-Al合金及び金属リチウムのうちの1種類又は複数種類であってもよい。導電剤は、黒鉛、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの1種類又は複数種類であってもよい。接着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、水性アクリル樹脂(water-based acrylic resin)、カルボキシメチルセルロース(CMC)のうちの1種類又は複数種類であってもよい。増粘剤は、カルボキシメチルセルロース(CMC)であってもよい。しかしながら、本願は、これらの材料に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池の負極活物質、導電剤、接着剤及び増粘剤として使用可能な他の材料を用いることもできる。
【0063】
さらに、負極フィルムシートは、PTC(Positive Temperature Coefficient、正温度係数)サーミスタ材料等の他の添加剤を任意に含んでもよい。
【0064】
負極集電体は、金属箔材又は多孔質金属板を使用することができ、例えば、銅、ニッケル、チタン又は鉄などの金属、或いは銅箔のようなそれらの合金の箔材又は多孔質板を用いることができる。
【0065】
負極シートは、本分野の従来の方法により製造することができる。通常、負極活物質及び選択可能な導電剤、接着剤及び増粘剤を溶媒で分散させ、溶媒は、N‐メチルピロリドン(NMP)又は脱イオン水であってもよく、均一な負極スラリーが形成され、負極スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレス等の工程を経て、負極シートが得られる。
【0066】
本願は、セパレータを特に制限せず、従来の電気化学的安定性及び化学的安定性を有する多孔質構造のものを任意に選択することができる。例えば、セパレータは、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリフッ化ビニリデンのうちの1種類又は複数種類の単層又は多層フィルムであってもよい。
【0067】
本願のリチウムイオン二次電池において、電解液は、有機溶媒及び電解質リチウム塩を含む。
【0068】
有機溶媒は、特に限定されない。例えば、有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、酪酸エチル(EB)、1,4-ブチロラクトン(GBL)、スルホラン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、エチルメチルスルホン(EMS)及びジエチルスルホン(ESE)から選択された1種類又は複数種類であってもよく、2種以上であることが好ましい。
【0069】
電解質リチウム塩は、特に限定されない。例えば、電解質リチウム塩は、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiBF(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiClO(過塩素酸リチウム)、LiAsF(ヘキサフルオロヒ酸リチウム)、LiFSI(ビスフルオロスルホンイミドリチウム)、LiTFSI(ビストリフルオロメタンスルホンイミドリチウム)、LiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)、LiDFOB(ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウム倍率)、LiBOB(ジシュウ酸ホウ酸リチウム倍率)、LiPO(ジフルオロリン酸リチウム)、LiDFOP(ジフルオロシュウ酸リン酸リチウム倍率)及びLiTFOP(テトラフルオロシュウ酸リン酸リチウム倍率)から選択された1種類又は複数種類である。電解液における電解質リチウム塩の濃度は、0.5~1.5mol/Lであってもよく、例えば、0.8~1.2mol/Lであってもよい。
【0070】
電解液は、選択可能に添加剤を含んでもよく、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ブタンジニトリル(SN)、アジポニトリル(ADN)、1,3-プロペンスルトン(PST)、スルホン酸エステルの環状第四級アンモニウム塩、トリス(トリメチルシラン)ホスフェート(TMSP)、及びトリス(トリメチルシラン)ボレート(TMSB)のうちの1種類又は複数種類である。
【0071】
電解液は、本分野の従来の方法で調製することができる。有機溶媒、電解質リチウム塩及び選択可能な添加剤を均一に混合して電解液を得ることができる。なお、各材料の添加順序は、特に限定されるものではない。例えば、電解質リチウム塩及び選択可能な添加剤を有機溶媒に添加して均一に混合して、電解液を取得する。ここで、先ず、電解質リチウム塩を有機溶媒に添加し、その後、選択可能な添加剤を有機溶媒に別々に又は同時に添加してもよい。
【0072】
正極シート、セパレータ及び負極シートを順序に積層し、セパレータを隔離の役割を果たすように正極シートと負極シートとの間に位置させることで、コアを取得するか、又は、巻き取ることでコアを取得してもよい。コアをパッケージシェル内に配置させ、電解液を注入し密封して、リチウムイオン二次電池を取得する。
【0073】
本願の実施形態の第1の形態に係る正極シートを用いることにより、本願のリチウムイオン二次電池は、高い倍率性能、サイクル性能及び安全性能を同時に有することができる。
【実施例
【0074】
以下の実施例は、本願に開示の内容をより具体的に説明する。これらの実施例は、説明にのみ使用されているため、本願に開示の内容の範囲内で様々な修正及び変更を行うことができることは、当業者にとって自明である。特に明記しない限り、以下の実施例で報告される全ての部、百分率、及び比率は、いずれも重量に基づき、実施例で使用される全ての試薬は、市販のものであるか、従来の方法により合成されるものであり、さらに処理することなく直接使用することができ、実施例で使用される機器はいずれも市販のものである。
【0075】
実施例1
正極シートの製造
第1のリチウムマンガン系正極活物質のLiNi0.8Co0.1Mn0.1、接着剤のPVDF、導電性カーボンブラック及び溶剤のNMPを混合して、安定なプレスラリーを調製する。プレスラリーに第2のリチウムマンガン系正極活物質のLiMnを添加して混合し、正極スラリーを調製する。正極スラリーを正極集電体アルミ箔に均一に塗布し、乾燥、圧延を経た後、正極シートが取得される。ここで、第1のリチウムマンガン系正極活物質のLiNi0.8Co0.1Mn0.1、第2のリチウムマンガン系正極活物質のLiMn、導電性カーボンブラック及び接着剤のPVDFの重量比Wrは、76:20.5:1.5:2である。
【0076】
図1のaに示すように、本実施例の正極フィルムシートは、内部の粒子が均一に分布して、均一な分布の導電ネットワークを形成している。
【0077】
負極シートの製造
負極活物質の黒鉛、導電性カーボンブラック、接着剤のSBR及び増粘剤のCMCを、96:1:2:1の重量比に従って、溶剤の脱イオン水に添加して十分に攪拌し混合して、均一な負極スラリーを形成し、負極スラリーを負極集電体の銅箔上に均一に塗布し、乾燥、圧延を経た後、負極シートが取得される。
【0078】
電解液の製造
エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及びジエチルカーボネート(DEC)を、30:50:20の体積比に従って、均一に混合して、有機溶媒を取得する。十分に乾燥されたLiPFを上記有機溶媒で溶解して、電解液を取得する。ここで、LiPFの濃度は、1 mol/Lである。
【0079】
リチウムイオン二次電池の製造
正極シート、セパレータ、負極シートを順序に積層する。セパレータは、隔離の作用を果すように、正極シートと負極シートとの間に位置し、セパレータとしてPP/PE/PP複合フィルムが利用される。その後、コアに巻取ってソフトパックシェルに入れ、頂部の封止、電解液の注入等の工程を経た後、リチウムイオン二次電池を得る。
【0080】
実施例2~10
実施例1との相違とは、正極シートの関連パラメータを調整することである。特定のパラメータを表1に詳細に示す。
【0081】
実施例11
実施例1との相違とは、正極シートの製造工程において、リチウムマンガン系正極活物質のLiNi0.8Co0.1Mn0.1、導電性カーボンブラック、接着剤PVDF及び溶媒NMPを混合して、正極スラリーを取得することである。
【0082】
実施例12
実施例1との相違とは、正極シートの製造工程において、リチウムマンガン系正極活物質のLiMn、導電性カーボンブラック、接着剤のPVDF及び溶媒のNMPを混合して、正極スラリーを取得することである。
【0083】
比較例1
実施例1との相違とは、正極シートの関連パラメータを調整することである。特定のパラメータを表1に詳細に示す。
【0084】
比較例2
実施例1との相違とは、正極シートの製造工程において、第1のリチウムマンガン系正極活物質のLiNi0.8Co0.1Mn0.1、第2のリチウムマンガン系正極活物質のLiMn、導電性カーボンブラック、接着剤のPVDF及び溶媒のNMPを混合して、正極スラリーを取得することである。
【0085】
図1のbに示すように、比較例2の正極フィルムシートは、内部の粒子の分布が不均一であり、導電剤の凝集が激しく、導電ネットワークが非常に不均一である。
【0086】
比較例3
実施例11との相違とは、正極シートの相関パラメータを調整することである。特定のパラメータを表1に詳細に示す。
【0087】
比較例4
実施例12との相違とは、正極シートの相関パラメータを調整することである。特定のパラメータを表1に詳細に示す。
【0088】
試験部分
(1)20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρの試験
4探針法によって、20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率を測定する。正極活物質粉体を試料台に入れ、プレス機により粉体に20MPaの圧力を印加し、圧力が安定した後、抵抗率計によって20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρを読み取ることができる。
【0089】
(2)正極シートの体積抵抗率ρsumの試験
日置BT3562型の内部抵抗試験機を利用して、正極シートの抵抗を測定する。正極シートを、10cm×10cmのサイズの電極シートサンプルに切断し、電極シートサンプルを内部抵抗試験機の二つの導電性端子間にクランプし、所定の圧力を印加して、電極シートサンプルの抵抗Rを測定する。ここで、導電性端子の直径が14mmであり、印加圧力は、15~27MPaであり、時間範囲は、5~17sである。
【0090】
その後、ρsum=R・α/lに従って正極シートの体積抵抗率ρsumを計算し、ここで、αは検出面積であり、本測定において、導電性端子の面積に等しくなり、lは、電極シートサンプルの厚さ、即ち、正極シートの厚さである。
【0091】
(3)リチウムイオン二次電池の高温サイクル性能試験
新品のリチウムイオン二次電池を45℃で5分間放置し、1Cの倍率で4.2Vまで定電流で充電した後、電流が0.05C以下になるまで、定電圧で充電し、その後、5分間放置し、さらに1Cの倍率で3.0Vまで定電流で放電し、これを一つの充放電サイクルとし、今回の放電容量を、リチウムイオン二次電池の1回目のサイクルの放電容量と記録する。リチウムイオン二次電池を、上記の方法で、500サイクル充放電させ、サイクル毎の放電容量を記録する。
【0092】
リチウムイオン二次電池の45℃、1C/1Cで500回サイクル後の容量保持率(%)=500回目のサイクルの放電容量/1回目のサイクルの放電容量×100%。
【0093】
(4)リチウムイオン二次電池の倍率性能試験
新品のリチウムイオン二次電池を25℃で5分間放置し、1Cの倍率で4.2Vまで定電流で充電し、電流が0.05C以下になるまで定電圧で充電した後、5分間放置し、さらに1Cの倍率で3.0Vまで定電流で放電し、リチウムイオン二次電池の1C倍率放電容量を測定して取得する。
【0094】
新品のリチウムイオン二次電池を25℃で5分間放置し、1Cの倍率で4.2Vまで定電流で充電し、電流が0.05C以下になるまで定電圧で充電した後、5分間放置し、さらに5Cの倍率で3.0Vまで定電流で放電し、リチウムイオン二次電池の5C倍率放電容量を測定して取得する。
【0095】
リチウムイオン二次電池の5C倍率放電容量維持率(%)=5C倍率放電容量/1C倍率放電容量×100%。
【0096】
(5)リチウムイオン二次電池の安全性能試験
新品のリチウムイオン二次電池を25℃で5分間放置し、1Cの倍率で4.2Vまで定電流で充電し、電流が0.05C以下になるまで定電圧で充電する。
【0097】
25℃で、新品のリチウムイオン二次電池を釘刺し板に固定し、直径5mmの釘刺し針を取って、3mm/sの速度でリチウムイオン二次電池を貫通する。釘刺し過程で電池の表面温度を監視し、表面の最大温度上昇を記録する。
【0098】
実施例1~12及び比較例1~4の測定結果を下記の表2に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
実施例1~10と比較例1~2、実施例11と比較例3、実施例12と比較例4を比較分析すると、実施例1~12のリチウムイオン二次電池は、45℃、1C/1Cで500回サイクル後の容量保持率及び5C倍率放電容量がいずれも向上された。これから分かるように、正極シートの体積抵抗率ρsumと、20MPa圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρと、正極シートにおける正極活物質の質量百分率aとが、関係式(1)を満たすことにより、リチウムイオン二次電池の倍率性能及びサイクル性能を向上させることができる。
【0102】
実施例1~10、12のリチウムイオン二次電池は、実施例11に比べて、満充電釘刺し過程での表面最大温度上昇が著しく低下された。これから分かるように、正極活物質におけるMnの質量百分率ωが6wt%以上である場合、リチウムイオン二次電池の安全性が向上された。実施例1~9、11のリチウムイオン二次電池は、実施例10及び12に比べて、45℃、1C/1Cで500回サイクル後の容量維持率及び5C倍率放電容量が向上された。これから分かるように、正極活物質におけるMnの質量百分率ωが45wt%以下である場合、リチウムイオン二次電池の倍率性能及びサイクル性能が向上された。
【0103】
実施例1~3、5~9、11のリチウムイオン二次電池は、実施例4、10、12に比べて、45℃、1C/1Cで500回サイクル後の容量維持率及び5C倍率放電容量がいずれも向上された。これから分かるように、正極活物質におけるMnの質量百分率ωと、20MPaの圧力での正極活物質の粉体体積抵抗率ρとが、関係式3≦ω・ρ/100≦200を満たす場合、リチウムイオン二次電池の倍率性能及びサイクル性能が向上された。
【0104】
前述の説明は、本願の特定の実施形態に過ぎず、本願の保護範囲はこれに限定されず、当業者が本願に開示の技術範囲内で想到した様々な同等の修正又は置き換えはいずれも本願の保護範囲内に含まれる。従って、本願の保護範囲は、特許請求の範囲を基準とする。
図1