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特許7106903レンネットカゼインを用いたシューケース用油中水型乳化油脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】レンネットカゼインを用いたシューケース用油中水型乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20220720BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20220720BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20220720BHJP
   A21D 13/32 20170101ALI20220720BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/26
A21D2/16
A21D13/32
A23D7/005
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018046097
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019154323
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】熨斗 洋星
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 智明
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-185177(JP,A)
【文献】特開平06-165632(JP,A)
【文献】特開2007-110917(JP,A)
【文献】特開平10-191877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全カゼインのうち、レンネットカゼインの質量割合が51質量%以上であり、水相のpHが5.2~5.9である、シューケース用油中水型乳化油脂組成物。
【請求項2】
全カゼインの含有量が2~8質量%である、請求項1記載のシューケース用油中水型乳化油脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシューケース用油中水型乳化油脂組成物を使用する、シューケースの製造法。
【請求項4】
全カゼインのうち、レンネットカゼインの質量割合を51質量%以上とし、水相のpHを5.2~5.9とする、シューケース用油中水型乳化油脂組成物を使用しシューケースを製造する、シューケースの比容積のばらつき抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンネットカゼインを用いたシューケース用油中水型乳化油脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シュークリームの皮であるシューケースを大量生産する場合は、専用の油中水型乳化油脂組成物を使用する場合が多い。そして、該油中水型乳化油脂組成物には、カゼインナトリウムが用いられる場合が多い。
特許文献1には、使用するカゼインとして、レンネットカゼインの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-110917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、シューケースの製造に用いるシューケース用油中水型乳化油脂組成物において、シューケースの比容積が一定以上であり、かつそのばらつきを抑制することができるものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、課題の解決に向け鋭意検討を行った。
特許文献1にはレンネットカゼインの記載はあるが、一行記載にすぎず、その効果等について示唆はなかった。
本発明者は鋭意検討を行ったところ、全カゼインのうち、レンネットカゼインの質量割合が51質量%以上であり、水相のpHが5.2~5.9である、シューケース用油中水型乳化油脂組成物を用いた場合に、シューケースの比容積が一定以上であり、かつそのばらつきを抑制することができることを見いだし、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)全カゼインのうち、レンネットカゼインの質量割合が51質量%以上であり、水相のpHが5.2~5.9である、シューケース用油中水型乳化油脂組成物、
(2)全カゼインの含有量が2~8質量%である、(1)記載のシューケース用油中水型乳化油脂組成物、
(3)(1)又は(2)に記載のシューケース用油中水型乳化油脂組成物を使用する、シューケースの製造法、
(4)全カゼインのうち、レンネットカゼインの質量割合を51質量%以上とし、水相のpHを5.2~5.9とする、シューケース用油中水型乳化油脂組成物を使用しシューケースを製造する、シューケースの比容積のばらつき抑制方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シューケースの比容積が一定以上であり、かつそのばらつきを抑制することができる、シューケース用油中水型乳化油脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
シューケース、すなわち、シュークリームの皮の部分は、一定以上の比容積が求められる場合が多い。また、工場で大量生産する場合に、その比容積にばらつきが出やすくなる場合がある。そのため、シューケースを大量生産する場合は、専用のシューケース用油中水型乳化油脂組成物を使用する場合が多いが、それでも、一定のばらつきが生じてしまう場合がある。
本発明に係るシューケース用油中水型乳化油脂組成物は、それを用いて調製されたシューケースにおいて比容積が一定以上であり、かつそのばらつきを抑制する効果を有する。すなわち、シューケース比容積のばらつき抑制用のシューケース用油中水型乳化油脂組成物といえるものである。
【0009】
本発明でいう、シューケースの比容積とは、焼成後のシューケースの質量と容積を測定し、容積を質量で割った値である。この値が一定上であれば、適度の膨らみを有していると判断できる。また、この値のばらつきが少ないことで、生地量に対して、一定の大きさのシューケースが得られていることの判断基準とすることができる。なお、具体的な測定方法や判断基準は、実施例に記載した。
【0010】
本発明に係るシューケース用油中水型乳化油脂組成物においては、カゼインを使用する。カゼインとしては、カゼインナトリウム、カゼインカリウムの他、レンネットカゼインを挙げることができる。なお、レンネットカゼインも、広くはカゼインナトリウムやカゼインカリウムと言える場合もあるが、本発明においては、レンネット処理されていない物を、カゼインナトリウムやカゼインカリウムと称し、レンネット処理されたものは、まとめてレンネットカゼインと称している。
【0011】
本発明において、「全カゼイン」と表現するときは、これらのカゼインの合計量を指す。全カゼインの量は、シューケース用油中水型乳化油脂組成物中、2~8質量%であることが望ましく、より望ましくは2.5~7質量%であり、さらに望ましくは3~6質量である。適当な量のカゼインを含むことで、該シューケース用油中水型乳化油脂組成物を使用した場合に、比容積が一定以上であり、かつそのばらつきを抑制することができる。
【0012】
また、本発明に係るシューケース用油中水型乳化油脂組成物においては、レンネットカゼインを使用する。レンネットカゼインの量は、全カゼインのうち、質量割合で51質量%以上であり、より望ましくは55質量%以上であり、さらに望ましくは65質量%以上であり、最も望ましくは100質量%である。レンネットカゼインの量の割合が適当であることで、該シューケース用油中水型乳化油脂組成物を使用した場合に、比容積が一定以上であり、かつそのばらつきを抑制することができる。
【0013】
レンネットカゼインとは、一般的には、乳蛋白カゼインに凝乳酵素キモシンや、同様の作用をする酵素を反応させ、凝固したカゼインを集め、水洗を繰り返し、製造される。本発明においては、市販のカゼインを自らレンネット処理して使用することもできるし、又、市販のレンネットカゼインを使用することもできる。
なお、レンネットカゼインは上記のような方法で製造されるため、カゼインにおける反応を受けるべき部位全てが反応を受けているとは限らない。しかし、レンネットを用い凝集させ製造されたカゼインであれば、本発明では「レンネットカゼイン」とみなす。
【0014】
シューケース用油中水型乳化油脂組成物に使用されるカゼインは、通常、カゼインナトリウムである。これは、カゼインナトリウムは溶解性がよく、また、コストも比較的安いことによる。
【0015】
本発明に係るシューケース用油中水型乳化油脂組成物においては、水相のpHが5.2~5.9である必要がある。この値は、より望ましくは5.2~5.8であり、さらに望ましくは5.2~5.7である。pHが適当な値であることで、該シューケース用油中水型乳化油脂組成物を使用した場合に、シューケースの比容積が一定以上であり、かつそのばらつきを抑制することができる。
【0016】
本発明はまた、シューケースの比容積が一定以上であり、かつそのばらつきを抑制することのできる、単純方法と捉えることもできる。その要件は、全カゼインのうち、レンネットカゼインの質量割合が51質量%以上とし、水相のpHを5.2~5.9とする、シューケース用油中水型乳化油脂組成物を使用することである。
このようなシューケース用油中水型乳化油脂組成物を使用することで、シューケースの比容積が一定以上であり、かつそのばらつきを抑制することができる。
【0017】
次に、本発明に係るシューケース用油中水型乳化油脂組成物の製造法を説明する。
原材料において、水に、水に溶ける成分を溶解して水相を調製する。また、油脂に、油脂に溶ける成分を溶解して、油相を調製する。
なお、水相におけるpHの調製は、リン酸塩やクエン酸の添加により行う。
次に、油相を攪拌しているところへ水相を徐々に添加し、略水中油型に乳化する。この乳化液を調合液と称する場合がある。
調合液は次に、マーガリン製造装置に供し、水中油型乳化油脂組成物を調製する。マーガリン製造装置は、いわゆる掻き取り式の熱交換器であり、具体的にはコンビネーター、パーフェクター、ボテーターが存在する。
以下に実施例を記載する。
【実施例
【0018】
検討1
表1-1の配合により、シューケース用油中水型乳化油脂組成物を調製した。調製法は「○シューケース用油中水型乳化油脂組成物の調製法」に従った。
得られたシューケース用油中水型乳化油脂組成物を用いて、シューケースの調製を行った。調製法は、「○シューケースの調製法」に従った。
得られたシューケースの比容積評価を行った。評価法は「○シューケースの評価法」に従った。
結果を表1-3に示した。
【0019】
表1-1 配合
・油脂1には、不二製油株式会社製「精製パーム油」を使用した。
・油脂2には、不二製油株式会社製「菜種油」を使用した。
・カゼインナトリウムには、Fonterra社製「ACNFT」を使用した。
・レンネットカゼインには、TATUA社製製品を使用した。
・乳化剤には、レシチン及び蒸留モノグリセライドを使用した。
・乳化剤、クエン酸、リン酸2水素ナトリウムは、使用量が微量であるため、配合合計には加えなかった。
【0020】
○シューケース用油中水型乳化油脂組成物の調製法
1 油脂と乳化剤を混合し、油相を調製した。
2 水に食塩及びリン酸2ナトリウムを溶解した後、配合に従い各カゼインを溶解した。
3 配合に従い、クエン酸を水相に添加した。
4 攪拌する油相へ水相を添加し、略乳化し調合液とした。
5 調合液を、マーガリン製造装置であるコンビネーターに供した。
6 ケースに分収し、冷蔵した。
【0021】
○シューケースの調製法
表1-2の配合にてシューケースを調製した。
調製法
1. シューケース用油脂組成物、水及び食塩をボウルに入れ中火にかけて温めた。
2. 煮立ってきたら薄力粉、強力粉を一度に入れ手早く混ぜた。
3. 解きほぐした卵を生地に少し加え、吸卵させた。
4. 吸卵中、炭酸アンモニウムと重曹を卵に溶かし生地に入れた。
5. 40℃に温度を保たせながら15分生地を放置した。
6. 絞り袋に丸形の口金をつけゴムベラで絞り袋に生地を入れて、オーブンシートを敷いた天板に質量30g(直径5cm)になるように合計22個絞り出し、表面全体に霧吹きで水を掛けた。
7. 下記のプログラムで焼成した。
上火/下火 焼成時間
180℃/230℃ 15min
190℃/150℃ 5min
190℃/150℃ 13min(タ゛ンハ゜開)
【0022】
表1-2 シューケースの配合
【0023】
○シューケースの評価法
1.焼成されたシューケース22個から、平均的な大きさの物を15個抽出した。
2.各シューケースの質量及び容積を、質量計付きレーザー体積計(Selnac-Win VM2100. ASTEX)を用いて測定した。
3.容積を質量で割り、比容積(cm/g)を求め、平均化した。
また、各比容積から標準偏差を求めた。
比容積については16cm/g以上を合格とした。比容積の標準偏差は1以下を合格と判断した。
比容積およびその標準偏差、いずれもが合格のサンプルを、最終判断において合格と判断した。
【0024】
表1-3 結果
【0025】
考察
・表2に示すように、比較例1-1では、レンネットカゼインの全カゼインに対する質量割合が100質量%であったが、pHが所定範囲外の場合、適切な比容積が得られなかった。また、比容積のばらつきを示す、比容積標準偏差も不合格であった。これに対し、pHを5.45とした実施例1-1は、シューケースの比容積が合格範囲であり、かつ、比容積のばらつきも合格であるシューケースが得られることが確認された。なお、カゼインナトリウムを使用した比較例1-2では、同程度のpHに調整したが、比容積が合格とならなかった。
・全カゼインに対するレンネットカゼインの量を50%とした比較例3は、比容積が合格とはならなかったが、レンネットカゼインの量を55%とした実施例1-3は、比容積、及びそのばらつきとも合格となり、最終合格と判断された。また、この比率でpHを所定の値まであげても、合格となった(実施例1-5)。
・以上より、全カゼインのうち、レンネットカゼインの質量割合が51質量%以上であり、水相のpHが5.2~5.9である、シューケース用油中水型乳化油脂組成物を用いた場合、得られるシューケースは、比容積及びそのばらつきいずれも合格となることが確認された。