(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】レトルトパウチ、及びレトルトパウチ食品
(51)【国際特許分類】
B65D 81/34 20060101AFI20220720BHJP
【FI】
B65D81/34 P
(21)【出願番号】P 2018049736
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青谷 正毅
(72)【発明者】
【氏名】大貫 隆司
(72)【発明者】
【氏名】國則 正弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 諭男
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 力
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-209242(JP,A)
【文献】特開2015-066770(JP,A)
【文献】特開平02-008047(JP,A)
【文献】特開2014-065175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/34
B65D 65/40
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する積層体を製袋してなるレトルトパウチであって、
前記積層体の最内層が、基材ポリマーに
フルオロアルキル基を含む含フッ素重合体がブレンドされた組成物
を紡糸した繊維によって形成された不織布からなり、
前記繊維の表面
にフッ素原子が偏析していることを特徴とするレトルトパウチ。
【請求項2】
前記含フッ素重合体の主鎖が前記基材ポリマーと絡み合った状態で、内容物との接触界面に前記フルオロアルキル基が偏析している請求項
1に記載のレトルトパウチ。
【請求項3】
可撓性を有するとともに、基材ポリマーに
フルオロアルキル基を含む含フッ素重合体がブレンドされた組成物
を紡糸した繊維によって形成された不織布からな
り、前記繊維の表面にフッ素原子が偏析している最内層を含む積層体を製袋してなるレトルトパウチに、内容物を充填密封してレトルト処理してなることを特徴とするレトルトパウチ食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内容物の取り出しが容易なレトルトパウチ、及びレトルトパウチ食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レトルトパウチと称される袋状の容器に、例えば、カレー、シチュー、パスタソースなどのような予め調理された食品を充填密封し、加圧加熱殺菌(レトルト処理)により常温保存を可能としたレトルトパウチ食品が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、この種のレトルトパウチ食品にあっては、熱湯中にパウチごと投入して加温した後に、熱湯から取り出したパウチの一端側を切り裂いて開封し、開封口を下にして内容物を注ぎ出すようにして取り出してから食するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、内容物の粘度が高かったり、油成分が多く含まれていたりすると、内容物を取り出す際に、内容物の一部がパウチの内面に付着して残ってしまい、内容物の全量をパウチから取り出すことができないという問題がある。そのような場合に、ユーザーは、パウチを手指で扱くなどして、パウチ内に残る内容物を取り出そうとしてしまいがちであるが、熱湯から取り出した直後のパウチは相当に熱くなっているため、火傷を負ってしまうこともある。
また、パウチを振ってパウチ内に残る内容物を取り出そうとすることも、ユーザーがやりがちな行為であるが、その際に力加減を誤って内容物を飛散させてしまうと、飛散した内容物によって周囲を汚してしまうこともある。
【0006】
本発明は、上記したような事情に鑑みてなされたものであり、パウチ内面に撥液性、撥油性を付与することによって内容物の取り出しを容易にしたレトルトパウチ、及びレトルトパウチ食品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るレトルトパウチは、可撓性を有する積層体を製袋してなるレトルトパウチであって、前記積層体の最内層が、基材ポリマーにフルオロアルキル基を含む含フッ素重合体がブレンドされた組成物を紡糸した繊維によって形成された不織布からなり、前記繊維の表面にフッ素原子が偏析している構成としてある。
【0008】
また、本発明に係るレトルトパウチ食品は、可撓性を有するとともに、基材ポリマーにフルオロアルキル基を含む含フッ素重合体がブレンドされた組成物を紡糸した繊維によって形成された不織布からなり、前記繊維の表面にフッ素原子が偏析している最内層を含む積層体を製袋してなるレトルトパウチに、内容物を充填密封してレトルト処理してなる構成としてある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、最内層が、基材ポリマーにフルオロアルキル基を含む含フッ素重合体がブレンドされた組成物を紡糸した繊維によって形成された不織布からなり、当該繊維の表面にフッ素原子を偏析させることにより、より少量のフッ素化合物によって、パウチ内面に効率的に撥液性、撥油性を付与して、内容物が付着し難くなるようにすることで、内容物の取り出しを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るレトルトパウチの断面を模式的に示す説明図である。
【
図2】含フッ素重合体のフルオロアルキル基が、内容物との接触界面に偏析した状態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係るレトルトパウチの一実施形態について、その断面を模式的に示す説明図である。
【0012】
レトルトパウチ1は、例えば、可撓性を有する積層体2を重ねてヒートシールした後に、所定形状にトリミングすることによって製袋され、平袋タイプ、スタンディングタイプなどの任意の袋状の形態とすることができる。
【0013】
図1に示す例において、積層体2は、積層体2をレトルトパウチ1に製袋したときに、充填される内容物側となる最内層3を含み、かかる最内層3とともに、バリア層4、外装材層5が積層された層構成を有している。
【0014】
バリア層4は、遮光性やガスバリア性を付与するための層であり、通常は、アルミニウム箔などの金属箔が用いられるが、必要に応じて、金属蒸着フィルムなどを用いてもよい。
【0015】
外装材層5としては、耐擦傷性、耐熱性、耐薬品性などの観点から、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂などからなる二軸延伸フィルムを用いるのが好ましいが、これらに限定されない。
【0016】
このような積層体2は、接着剤を使用したドライラミネートや、材料樹脂の溶融押し出しによる押出コートラミネートなどにより、上記各層を積層することによって形成できる。
なお、
図1に示す積層体2の層構成は一例であり、この種のレトルトパウチに関して知られている種々の層構成を採用することができる。
【0017】
本実施形態において、最内層3は、基材ポリマーにフッ素化合物がブレンドされた組成物を用いて形成される。基材ポリマーとしては、レトルトパウチ1を製袋する際のヒートシール強度や、食品衛生などの観点から、例えば、ポリプロピレン,ポリエチレン,エチレン-αオレフィン共重合体,エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂が好ましく、これらは二種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
フッ素化合物としては、アルキル基の水素原子の少なくとも一つをフッ素原子で置換したフルオロアルキル基を含む含フッ素重合体を用いることができ、例えば、フルオロアルキル基を含むアクリル酸フルオロアルキルエステル,メタクリル酸フルオロアルキルエステル,フルオロアルキルビニルケトン,フルオロシロキサン等の重合性モノマーの単独重合体、又はこれらとビニル基,ビニリデン基,ビニレン基等を有する他の重合性モノマーとの共重合体などが挙げられる。このような含フッ素重合体において、フルオロアルキル基は、すべての水素原子をフッ素原子で置換したパーフルオロアルキル基であるのが好ましく、その炭素数は1~6が好ましい。
【0019】
なお、基材ポリマーにフッ素化合物がブレンドされた組成物は、基材ポリマー100質量部当たり、0.01~50質量部、特に0.05~10質量部の量でフッ素化合物がブレンドされていることが好適である。フッ素化合物の配合量が必要以上に多く配合されたとしても、撥液性、撥油性がさらに向上することはなく、むしろ、コストの点で不満足となったり、接合面が剥離しやすくなったりする。
【0020】
このような組成物からなる最内層3は、例えば、上記したようなフッ素化合物が基材ポリマー中に均一に分散するように十分に溶融混練した後に、インフレーション法、Tダイ法などにより製膜されたフィルムを他の層と貼り合わせることによって形成することができる。
【0021】
そして、本実施形態にあっては、加熱処理を施すことによって、最内層3を形成するフィルムの表面(内容物との接触界面)にフッ素原子を偏析させるが、加熱処理によりフッ素原子が偏析するのは、次の理由によると考えられる。
すなわち、フルオロアルキル基のC-F結合は分極率が低く、分子間凝集力が小さいことから、加熱によって分子運動が促進されると、表面自由エネルギーを安定化させるために、表面側に移動(マイグレーション)することによって濃度勾配が形成されて、マトリックス樹脂の表面にフッ素原子(フルオロアルキル基)が偏析すると考えられる。
【0022】
このため、含フッ素重合体を重合するに際しては、フルオロアルキル基の移動を妨げない程度に、含フッ素重合体の主鎖が基材ポリマーと絡み合うように、その重合条件(モノマーの選択を含む)を適宜調整するのが好ましい。このようにすることで、内容物との接触界面Sに偏析したフルオロアルキル基を側鎖とする含フッ素重合体の主鎖が、基材ポリマーと絡み合った状態となって、その溶出が抑制されるようにすることができる(
図2参照)。
なお、
図2は、含フッ素重合体のフルオロアルキル基が、内容物との接触界面Sに偏析した状態を模式的に示す説明図であり、図中、フルオロアルキル基をRfで示している。
【0023】
このようにして、最内層3における内容物との接触界面にフッ素原子を偏析させることにより、レトルトパウチ1の内面に撥液性、撥油性を付与して、内容物が付着し難くなるようにすることで、内容物の取り出しを容易にすることができる。しかも、より少量のフッ素化合物によって効率的に撥液性、撥油性を付与することができ、コスト的にも有利なだけでなく、最内層3のヒートシール強度を損ねてしまう虞もない。
【0024】
また、本実施形態において、最内層3は、フィルムを貼り合わせて形成する態様に限定されず、前述した組成物を紡糸した繊維によって形成された不織布を貼り合わせることによっても形成することもできる。
このような態様とした場合には、不織布を形成する繊維の表面が内容物との接触界面となり、加熱処理を施すことによって、かかる繊維の表面にフッ素原子が偏析する。これによって、レトルトパウチ1の内面に撥液性、撥油性を付与することができるが、不織布の表面の微細構造が発揮する、いわゆるロータス効果と相俟って、レトルトパウチ1の内面の撥液性、撥油性をより一層向上させることができる。
【0025】
また、加熱処理によりフッ素原子を偏析させるには、レトルトパウチ1に製袋する前の段階で、積層体2に加熱処理を施すようにしてもよいが、レトルトパウチ1に内容物を充填密封した後に行われるレトルト処理における加熱によって、フッ素原子を偏析させるようにしてもよい。このようにすれば、加熱処理を施すための設備を別途用意する必要がなく、設備投資の面からも好ましい。
【0026】
また、レトルト処理における加熱だけでは、所望の撥液性、撥油性を付与するために十分な量のフッ素原子を偏析させることができない場合には、製袋前の積層体2への加熱処理を併用してもよい。例えば、製袋前の積層体2に加熱処理を施して、ある程度の量のフッ素原子を偏析させた状態で、レトルトパウチ1を製袋し、内容物を密封充填した後のレトルト処理における加熱によって、最終的に十分な量のフッ素原子が、内容物との接触界面に偏析するようにしてもよい。
【0027】
製袋前の積層体2に加熱処理を施すには、例えば、次のような処理方法を挙げることができる。
(1)積層工程を経て製造された積層体2をロール状に巻き取って原反ロールとし、所定の炉内温度に設定された加熱炉内に一又は二以上の原反ロールを格納して、所定の時間、積層体2を熱に曝して加熱処理を施す。
(2)積層工程を経た積層体2の搬送ラインを、所定の炉内温度に設定された加熱炉内に通すとともに、搬送方向に対して鉛直方向上下に蛇行させて加熱炉内のライン長を延長して、加熱炉内を通過する時間を調整することによって、所定の時間、積層体2を熱に曝して加熱処理を施す。
(3)積層工程を経た積層体2の搬送ライン上に炭酸ガスレーザ発振器を設置し、最内層3の表面に所定のスポット径で集光させた炭酸ガスレーザで走査して、最内層3の表面付近を選択的に加熱するとともに、最内層3の内部をその余熱で加熱することによって加熱処理を施す。このような処理方法によれば、処理装置の大型化を伴うことなく、最内層3にダメージを与えない範囲でより高温に加熱することによって、より短い処理時間でフッ素原子を偏析させることができる。
【0028】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0029】
1 レトルトパウチ
2 積層体
3 最内層
S 内容物との接触界面