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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】熱処理炉
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/63 20060101AFI20220720BHJP
   C21D 9/573 20060101ALI20220720BHJP
   F27B 9/28 20060101ALI20220720BHJP
   F27B 9/30 20060101ALI20220720BHJP
   F27D 9/00 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C21D9/63
C21D9/573 101Z
F27B9/28
F27B9/30
F27D9/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018078044
(22)【出願日】2018-04-14
(65)【公開番号】P2019014961
(43)【公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2017131112
(32)【優先日】2017-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098615
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(72)【発明者】
【氏名】小塚 俊之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 栄伸
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-102567(JP,A)
【文献】特開昭58-151429(JP,A)
【文献】特開昭53-146908(JP,A)
【文献】特開2011-094162(JP,A)
【文献】特開平08-283875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/52 - 9/66
F27B 9/00 - 9/40
F27D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄板を浮遊させつつ加熱室、熱処理室、および冷却室を連続して搬送しつつ熱処理を施すための熱処理炉であって、
少なくとも、記熱処理室におけるフロアに平行な記金属薄板のパスラインに沿って、該パスラインの下側および上側に、複数のエアー噴射ノズルおよび複数のミストスプレーノズル、あるいは、複数のエアー噴射ノズルおよび複数の水滴噴射ノズル、側面視で記パスラインに対して直交状あるいは斜交状となるように立設され、
前記ミストスプレーノズルまたは前記水滴噴射ノズルは、前記エアー噴射ノズルと前記ミストスプレーノズルとの間隔、または、前記エアー噴射ノズルと前記水滴噴射ノズルとの間隔が、これらのノズルの何れか一方の外径以下にして隣接し、且つ、互いに並列状に配置されていると共に、
少なくとも前記ミストスプレーノズルまたは前記水滴噴射ノズルの先端部がこれら何れかのノズルに隣接して配置された前記エアー噴射ノズル側に傾斜している
ことを特徴とする熱処理炉。
【請求項2】
前記複数のエアー噴射ノズルと前記複数のミストスプレーノズル、あるいは、前記複数のエアー噴射ノズルと前記複数の水滴噴射ノズルは、前記パスラインに沿って該パスラインの下側と上側とに交互に配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記加熱室と前記熱処理室との境界付近、および前記熱処理室と前記冷却室との境界付近の少なくとも一方には、前記パスラインの下側に前記金属薄板を下側から支持するローラが配置されている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の熱処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄板をエアーによって浮遊させつつ、加熱、熱処理、および冷却を連続して施す連続式の熱処理炉(通称、フローティング炉)に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、連続運転される熱処理炉に収容され、水平方向に沿って進行する被熱処理金属材を冷却するに際し、該金属材を支持するローラ同士間における軌道を測定装置によって測定し、その測定結果に基づいて得られた軌道が、上記金属材を冷却するために噴射される冷却剤(空気、不活性ガス、液体、または気体と液体の混合物)の搬送装置の間を進むようにしてなる、熱処理炉における金属材の制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、空気によって金属薄板を浮遊させつつ、加熱された前記金属薄板を空気など冷媒の噴射によって冷却するフローティング方式の熱処理炉では、前記空気などの冷媒の最適な噴射条件などについて、種々の検討が成されてきた。
しかし、例えば、空気のみ(1種類の冷媒)の噴射によって金属薄板の冷却速度を高めることには、該空気の圧力などによる限界があった。そのため、金属薄板を冷却する冷媒の噴射速度を高めたり、前記冷媒の噴射距離を一層短くすることなどが求められている。しかしながら、前記のような技術的課題について、これまでのところ、有効な提案が成されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2009-538987号公報(第1~11頁、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、エアーにより浮遊されつつ水平方向に沿って搬送される熱処理中または熱処理後の金属薄板に対する冷却効率を高め、且つ多様な冷却速度の選択が容易に行える熱処理炉を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、エアーにより浮遊させつつ水平方向に沿って搬送される金属薄板に対し、エアー噴射ノズルによるエアーの噴射に加え、更にミストスプレーノズルによるミストの噴射、あるいは、水滴噴射ノズルによる多数の水滴の噴射を可能とする、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明の熱処理炉(請求項1)は、金属薄板を浮遊させつつ加熱室、熱処理室、および冷却室を連続して搬送しつつ熱処理を施すための熱処理炉であって、少なくとも、記熱処理室におけるフロアに平行な記金属薄板のパスラインに沿って、該パスラインの下側および上側に、複数のエアー噴射ノズルおよび複数のミストスプレーノズル、あるいは、複数のエアー噴射ノズルおよび複数の水滴噴射ノズル、側面視で記パスラインに対して直交状あるいは斜交状となるように立設され、前記ミストスプレーノズルまたは前記水滴噴射ノズルは、前記エアー噴射ノズルと前記ミストスプレーノズルとの間隔、または、前記エアー噴射ノズルと前記水滴噴射ノズルとの間隔が、これらのノズルの何れか一方の外径以下にして隣接し、且つ、互いに並列状に配置されていると共に、少なくとも前記ミストスプレーノズルまたは前記水滴噴射ノズルの先端部がこれら何れかのノズルに隣接して配置された前記エアー噴射ノズル側に傾斜している、ことを特徴とする。
【0007】
前記のような熱処理炉によれば、以下の効果(1)、(1-1)、(1-2)が得られる。
(1)前記金属薄板のパスラインに沿って、該パスラインの下側および上側に、複数のエアー噴射ノズルおよび複数のミストスプレーノズル、あるいは、複数のエアー噴射ノズルおよび複数の水滴噴射ノズルを、側面視で上記パスラインに対し直交状あるいは斜交状となるように配置している。その結果、上記金属薄板の両面を、噴射される高圧のエアーとミストとの併用、あるいは高圧のエアーと水滴との併用によって、前記金属薄板をその板厚や搬送速度に応じて、効率良く冷却でき、冷却速度を高められ、且つ冷却時間を短縮することが可能となる。
(1-1)前記ミストスプレーノズルから噴射されたミスト、あるいは、前記水滴噴射ノズルから噴射された多数の水滴を、所定の範囲で隣接するエアー噴射ノズルから噴射された高速度のエアーの流れに載せて、前記金属薄板の両面に対し、確実に噴射できる。従って、前記効果(1)が一層確実に得られる。
(1-2)前記ミストスプレーノズルから噴射されたミスト、あるいは、前記水滴噴射ノズルから噴射された多数の水滴を、これらのノズルごとに所定の範囲で隣接して配置されたエアー噴射ノズルの噴射口側に正確に送給できるため、該エアー噴射ノズルから噴射された高速度のエアーの流れに確実に載せて、前記金属薄板の両面に対して、より確実に噴射できる。従って、前記効果(1)が一層顕著に得られる。
【0008】
尚、前記金属薄板は、例えば、圧延加工された鋼板やアルミニウム合金板などで、且つ厚みが主に数mm(例えば、3mm)以下のものを指す。
また、前記熱処理炉は、加熱室、熱処理室、および冷却室を直線状に併設したもので、パスラインに沿って金属薄板を連続的に加熱、熱処理、および冷却を順次施せる連続式の熱処理炉である。
更に、前記加熱室内には、金属薄板を加熱する高温エアーを噴射するエアー噴射ノズルが配置され、前記冷却室内には、冷却用の前記エアー噴射ノズル、ミストスプレーノズル、および水滴噴射ノズルの少なくとも1種類が配置される。
また、前記複数のエアー噴射ノズルは、平面視または底面視で格子状あるいは千鳥状のパターンの位置ごとに個々のエアー噴射ノズルが配置されている。
また、本発明において、ミストとは、直径が100μm未満である微細な水滴粒を指し、水滴とは、直径が100μm以上の水滴粒を指している。
加えて、前記パスラインの下側と上側とに交互に配置される前記複数のエアー噴射ノズルと、複数のミストスプレーノズルあるいは水滴噴射ノズルとの組同士の間には、前記金属薄板をその下面側から浮遊させる複数組のエアーパッドなどが配置されている。
【0009】
、前記「隣接」とは、前記エアー噴射ノズルとミストスプレーノズルとの間隔、あるいは、前記エアー噴射ノズルと水滴噴射ノズルとの間隔が、これらのノズルの何れか一方の外径と同じか、この外径未満であることを指す。
また、前記ミストスプレーノズルまたは水滴噴射ノズルは、1個のエアー噴射ノズルに対し、1個ないし複数個(2~4個の何れか)が隣接して配置される。
【0010】
、前記「傾斜」とは、前記ミストスプレーノズルまたは水滴噴射ノズルの本体、あるいは、少なくも先端部が、前記エアー噴射ノズルの軸方向に対し、1度以上~45度以下(望ましくは、1度~30度、より望ましくは、1度~15度)の範囲で傾くことを指している。
【0011】
また、本発明には、前記複数のエアー噴射ノズルと前記複数のミストスプレーノズル、あるいは、前記複数のエアー噴射ノズルと前記複数の水滴噴射ノズルは、前記パスラインに沿って該パスラインの下側と上側とに交互に配置されている、熱処理炉(請求項含まれる。
これによれば、前記効果(1)、(1-1)、(1-2)に加えて、更に以下の効果(2)が得られる。
(2)前記金属薄板を側面視において前記パスラインに沿って、連続状の緩い波形状にして浮遊させつつ搬送できるので、上記金属薄板の両面を損傷することなく、比較的均一で且つムラなく冷却することが可能となる。
尚、前記パスラインの下側と上側とに交互に配置される前記複数のエアー噴射ノズルおよび複数のミストスプレーノズルの組同士間、あるいは、複数のエアー噴射ノズルおよび複数の水滴噴射ノズルの組同士の間には、前記金属薄板をその下面側と上面側との双方から浮遊させるエアーパッドなどが配置されている。
【0012】
加えて、本発明には、前記加熱室と前記熱処理室との境界付近、および前記熱処理室と前記冷却室との境界付近の少なくとも一方には、前記パスラインの下側に前記金属薄板を下側から支持するローラが配置されている、熱処理炉(請求項含まれる。
これによれば、前記効果(1)、(1-1)、(1-2)、(2)に加えて、更に以下の効果(3)、(4)が得られる。
(3)前記金属薄板を浮遊させるエアーの圧力が不意に低下したり、該エアーが急に停止した場合、該金属薄板が熱処理室内で垂れ下がって、下面用の前記エアー噴射ノズルなどや後述する凸部に接触して傷付く事態を防止することができる。
(4)前記ミストスプレーノズルから噴射されたミストを、該ノズルごとに隣接して配置された前記エアー噴射ノズルから噴射されたエアーの流れに載せて、前記金属薄板の両面に対して噴射する際に、該金属薄板を浮遊させるエアーパッドからのエアーが干渉するような場合において、当該金属薄板を浮遊させるエアーの供給を停止しても、前記ローラにより係る金属薄板を下側から支持できる。従って、前記金属薄板を傷付けることなく、確実に冷却することが可能となる。
【0013】
尚、前記ローラの周面には、前記金属薄板の表面を傷付けない弾性と耐熱性との双方を備えた合成ゴムあるいは合成樹脂のシートが巻き付けられている。
また、上記ローラの内部には、該ローラ自体の昇温を防ぐ冷却水などの冷媒を内蔵するための中空部を設ける構造を用いることが望ましい。
更に、上記ローラの支持部分は、その周面の高さを調整可能とする支持機構を併有していることが推奨される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)は本発明の対象となる熱処理炉の概略を示す側面図、(B)は該熱処理炉内の熱処理室付近の概略を示す垂直断面図、(C)は前記熱処理室と冷却室との境界付近に設置したローラ付近を示す前記(B)中の部分拡大図。
図2】(A)は本発明の前提となる参考形態の熱処理炉の熱処理室を示す垂直断面図、(B)は該熱処理室の斜視図、(C)は(B)中の下側ダクトの領域Cを示す部分平面図。
図3図2(A)中のX-X線の矢視に沿った垂直断面図。
図4】(A)は1個のエアー噴射ノズルの付近を示す部分平面図、(B)は該エアー噴射ノズルの付近を示す垂直断面図、(C)は本発明による実施形態のミストスプレーノズルを有する上記(B)と同様な垂直断面図。
図5】前記熱処理室における作用を示す図2(A)と同様な垂直断面図。
図6】(A)は1個のエアー噴射ノズルの付近を示す異なる参考形態の部分平面図、(B)は該エアー噴射ノズルの付近を示す垂直断面図。
図7】(A)は1個のエアー噴射ノズルの付近を示す更に異なる参考形態の部分平面図、(B)は該エアー噴射ノズルの付近を示す垂直断面図。
図8】(A)は1個のエアー噴射ノズルの付近を示す別異な参考形態の部分平面図、(B)は該エアー噴射ノズルの付近を示す垂直断面図。
図9】(A)は異なる参考形態の熱処理室を示す垂直断面図、(B1),(B2)は該熱処理室おける異なる参考形態の水滴噴射ノズル付近ごとを示す垂直断面図、(C)は上記(A)中の下側のダクトにおける図2(C)と同様の部分平面図、(D)は更に異なる参考形態のエアー噴射ノズル付近を示す前記同様の部分平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明の対象となる熱処理炉1は、図1(A)に示すように、水平方向に沿って加熱室1a、熱処理室1b、および冷却室1cを直線状に配置し、同図中の矢印で示すように、これらの室内を金属薄板20を後述するエアーにより浮遊させつつ、図示で左側から右側に向かって連続して搬送可能としている。
上記加熱室1aでは、金属薄板20を常温から所要の温度帯に加熱し、上記熱処理室1bでは、加熱された前記金属薄板20を例えば急冷して焼き入れを施し、上記冷却室1cでは、熱処理後の前記金属薄板20が常温付近まで冷却される。
より具体的には、図1(B)の熱処理室1b付近の垂直断面図で示すように、水平方向に沿った上下一対のダクト2a,2bにおける長手方向に沿って交互に配置された複数の凸部3と複数の水平面4との間を、前記エアーによる浮遊圧力を受けた金属薄板20が、側面視で波形状(例えば、サインカーブ形状)を描くようにして、図示で左側から右側に向かって、連続して搬送される。
尚、上記金属薄板20には、例えば、アルミニウム合金からなり、板厚が3mm以下に圧延加工されたものが例示される。
【0016】
また、図1(B)中の一点鎖線で示すように、前記熱処理室1bと加熱室1aとの境界付近と、前記熱処理室1bと冷室1cとの境界付近とには、前述した浮遊用のエアーが不用意に停止した際、あるいは、前記金属薄板20を浮遊させるエアーがミスト(22)を該金属薄板20に付着させないように干渉する場合において上記浮遊用のエアーを止める際に、金属薄板20をその下面側から支持するローラ17が下側のダクト2bの水平面4上に個別に設置されている。
上記ローラ17は、図1(C)で例示するように、下側のダクト2bの水平面4上に立設した図示で前後一対の支持脚18と、該支持脚18の上端側に設けた縦向きの長孔19をと介して、上下方向に沿って昇降可能に取り付けられている。該ローラ17は、少なくともその円周面に弾性を有する合成ゴムまたは合成樹脂のシートが巻き付けられている。前記合成樹脂には、耐熱性に優れたポリイミド(PI)が推奨される。更に、加熱室1aとの境界付近に設置するローラ17の内部には、例えば、冷却水を充填できる中空部を形成しておくことが望ましい。
尚、前記図1(B)中の一点鎖線で示す加熱室1aと熱処理室1bとの境界、および熱処理室1bと冷室1cとの境界では、前記ダクト2a,2bは、それらの内部が遮断されている。また、図1(B)中の符号10(11,12)で示すエアーパッドの詳細については、後述する。
【0017】
図2(A)は、本発明の前提となる参考形態の熱処理室1bの主要部を示す垂直断面図、図2(B)は、該熱処理室1bの一部を示す斜視図、図2(C)は、前記(B)中で下側のダクト2bの領域Cを示す部分平面図、図3は、図2(A)中のX-X線の矢視に沿った垂直断面図である。
上記熱処理室1bは、図2(A)~(C),図3に示すように、図示しないフロアと平行である水平な金属薄板20のパスラインPLの上方および下方に沿って互いに離れて配置された上下一対のダクト2a,2bと、該ダクト2a,2bの両側面同士間を接続する左右一対の側壁5とによって構成されている。
上側のダクト2aと下側のダクト2bとは、垂直断面の外形が長方形(矩形)状を呈し、それぞれの中空部内には、図3に示すように、個別の給気管15から高圧化された高圧のエア21が供給されている。
【0018】
前記上側のダクト2aおよび下側のダクト2bは、互いに対向する複数の水平面4と、該水平面4同士の間に挟まれた断面が逆台形状あるいは台形状の凸部3と、をパスラインPLに沿って交互に有していると共に、図2(A)に示すように、上下の凸部3は、前記パスラインPLに沿って、交互に配置されている。
図2(B),(C)で例示するように、前記ダクト2a,2bの水平面4ごとには、平面視で複数のエアー噴射ノズル(以下、単にエアーノズルと称する)6が、千鳥状にして垂設され、該エアーノズル6ごとにおける前記パスラインPLと直交する方向に隣接して左右一対のミストスプレーノズル(以下、単にミストノズルと称する)8が垂設されている。
尚、上記複数のエアーノズル6は、平面視で格子状に垂設されていても良い。
【0019】
また、前記凸部3の頂面あるいは底面には、図2(C)で例示するように、エアーパッド10が形成されている。該エアーパッド10は、前記パスラインPLと長手方向が直交する一対のスリット孔11と、これらの間に配設された多数の丸孔12とによって構成され、前記金属薄板20をエアー21により浮遊させると共に、該金属薄板20の前記パスラインPLに沿った搬送を容易にしている。
図4(A)に示すように、前記下側のダクト2bにおける水平面4から、前記前記パスラインPLに対して、直交するように立設した1個のエアーノズル6は、前記パスラインPLに直交する方向のほか、該パスラインPLと平行な方向に沿っても、一対のミストノズル8を上記エアーノズル6を挟むように隣接し且つ互いに並列に立設しても良い。個々のミストノズル8と上記エアーノズル6との間隙は、該エアーノズル6の外径以下となるように、互いに隣接させている。
【0020】
前記一対のミストノズル8は、図3図4(B)で例示する参考形態のように、前記ダクト2a,2bに沿ったヘッダーパイプ14から、前記ダクト2a,2bの中空部内に、前記パスラインPLに直交する方向に沿って分岐して配管された複数のミスト供給管13ごとから、上記ダクト2a,2bの水平面4を貫通して垂直に立設されている。該ミストノズル8は、円錐形状の先端部9を有している。
図4(B)で例示するように、一対のミストノズル8から噴霧状にスプレーされたミスト(多数の微細な水滴粒子群)22は、隣接するエアーノズル6から噴射された高圧のエアー21の流れに巻き込まれつつ、前記パスラインPLに沿って搬送されている金属薄板20の下側面に噴射される。
【0021】
一方、図4(C)に示すように、1個のエアーノズル6に隣接して互いに対称に立設した一対のミストノズル8aは、それぞれの先端部9aを上記エアーノズル6側に対称に傾斜させた本発明による実施形態とされる。図示の実施形態では、各ミストノズル8aの先端部9aをエアーノズル6側に約20度傾斜させているが、かかる傾斜角度は、1度から45度の範囲内から適宜選択される。
上記一対のミストノズル8aの先端部9aを上記エアーノズル6側に対称に傾斜させた実施形態では、一対のミストノズル8aから噴霧状にスプレーされた各ミスト22を、隣接するエアーノズル6から噴射された高圧のエアー21の流れに一層確実に載せつつ、前記金属薄板20の下側面に対して噴射することができる。
【0022】
図5に示す参考形態のように、前記熱処理室1b内において焼き入れされた長尺な前記金属薄板20は、上側および下側のダクト2a,2b間を、水平なパスラインPLに沿って、前記凸部3ごとのエアーパッド10から吹き出される高圧エアー21によって浮遊されつつ、図示の左側から右側に向かって搬送されている。尚、上記金属薄板20は、パスラインPLの下流側(図5の右側)で図示しない巻き取りロールに引っ張られつつ、該ロールの周面上にコイル形状に巻き取られている。
上記の状態下において、温度が数100℃である上記金属薄板20は、前記パスラインPLに沿って、緩やかな波形状を呈すると共に、図5中の垂直方向の矢印で示すように、前記ダクト2a,2bの水平面4ごとに垂設された多数(複数)のエアーノズル6と、該エアーノズル6ごとに隣接して水平面4に垂設された多数(複数)のミストノズル8とから、常温付近の高圧エアー21と常温付近のミスト22とを連続して、該金属薄板20の両面全体に吹き付けられる。
【0023】
その結果、前記金属薄板20は、その両面を噴射される高圧のエアー21とミスト22との相乗作用によって、高い冷却速度で効率良く常温付近に冷却されると共に、かかる冷却過程に要する冷却時間も短縮される。更に、前記ミストノズル8ごとからスプレーされたミスト22を、隣接する前記エアノズル6から噴射された高速度のエアー21の流れに載せて、上記金属薄板20の両面に対して噴射することができる。
しかも、前記金属薄板20を側面視で前記パスラインPLに沿って、連続状の緩い波形状にして浮遊させつつ搬送できるので、当該金属薄板20を損傷させずに、その両面を比較的均一で且つムラなく比較的短時間で冷却することができる。
尚、前記冷却室1c内の前記ダクト2a,2bにも、前記エアーノズル6とミストノズル8とが熱処理室1b内と同様のパターンにして配置されている。
また、前記加熱室1aの前記ダクト2a,2bには、高温のエアー21を噴射するためのエアーノズル6が適宜のパターンによって配置されている。
従って、前記熱処理室1bを含む前記熱処理炉1によれば、前記効果(1)~(4)を確実に奏することが可能となる。
【0024】
尚、図6(A),(B)に示す参考形態のように、1個の垂直なエアーノズル6に対し、前記パスラインPLに沿っているか、あるいは、該パスラインPLと直交する方向に沿って、1個のミストノズル8を垂設した形態としても良い。この形態でも、前記先端部9aがエアーノズル6側に傾斜したミストノズル8aを用いも良い。
また、図7(A),(B)に示す参考形態のように、1個の垂直なエアーノズル6に対し、前記パスラインPLに沿った方向と、該パスラインPLと直交する方向に沿っ方向に、2個ずつ合計4個のミストノズル8を点対称に垂設した形態としても良い。
かかる形態でも、4個のミストノズル8の全てを先端部9aが上記エアーノズル6側に傾斜したミストノズル8aとしても良い。あるいは、上記4個のミストノズル8(8a)のうち、何れか1個を省略した3個のミストノズル8(8a)を隣接して垂設した形態としても良い。更には、3個のミストノズル8(8a)を、平面視で上記エアーノズル6を重心とする正三角形の各角に配設しても良い。
【0025】
更に、図8(A),(B)に示す参考形態のように、前記パスラインPLおよびダクト2b(2a)の水平面4に直交する仮想の垂直線に対し、該パスラインPLの下流側に約10~20度の範囲内で本体が傾斜する1個のエアーノズル6aを配設し、該エアーノズル6aに隣接して、上記同様の範囲内で本体が傾斜した1個~4個の何れかであるミストノズル8bを、前記同様に配設した形態としても良い。
あるいは、前記金属薄板20の冷却速度などの熱処理条件に応じて、上記1個のエアーノズル6aと、1個~4個のミストノズル8bとを、それぞれ前記パスラインPLの上流側に約10~20度の範囲で適宜傾斜させた形態としても良い。
尚、上記各ミストノズル8bの傾斜角度を、エアーノズル6aの傾斜角度よりも大きくした形態としても良い。
【0026】
図9(A)は、前記熱処理炉1における異なる参考形態の熱処理室1bの要部を示す垂直断面図、図9(C)は、その下側のダクト2bの部分平面図である。
上記熱処理室1bは、図9(A),(C)に示すように、前記同様のエアーパッド10を有する凸部3と、前記エアーノズル6および1個、一対(2個)~4個の前記ミストノズル8からなる複数組を設けた水平面4と、を有する上側および下側のダクト2a,2bと、これらの両側面間を接続する前記一対の側壁5と、を備えている。更に、該熱処理室1bは、上記ダクト2a,2bの水平面4において、前記パスラインPLと直交する方向に沿って、該パスラインPLの上側および下側に複数ずつの水滴噴射ノズル(以下、単に水滴ノズルと称する)7を、互いに間隔を置いた複数列にして配設している。
上記水滴ノズル7は、水滴粒の直径が100μm以上である多数の水滴を連続して噴射する。尚、前記水滴粒の直径における上限値は、約1mmである。
【0027】
図9(A),(B1)に示す参考形態のように、前記ダクト2a,2bの水平面4には、前記パスラインPLに沿って配置された前記エアーノズル6とミストノズル8との組同士の間に、上記パスラインPLと直交する方向に沿って、垂直断面が長方形(矩形)状である複数の凹溝4aが上記パスラインPLと直交するように形成されている。該凹溝4aごとの天井面あるいは底面付近には、前記同様に配管された給水管16が水平方向に沿って配設され、該給水管16から下向きあるいは上向きである複数個ずつの水滴ノズル7が立設されている。
尚、上記エアーノズル6に替えて、前記エアーノズル6aを用いたり、上記ミストノズル8に替えて、前記ミストノズル8a,8bの何れかを用いても良い。
【0028】
更に、図9(B2)に示す参考形態のように、垂直断面が長方形の前記凹溝4aに替えて、開口部が仮想の垂直線に対して、前記パスラインPLの下流側に約5度~25度の範囲で傾斜した垂直断面が縦に細長い平行四辺形状である複数の凹溝4bを形成し、該凹溝4bごとの天井面あるいは底面付近に配管された給水管16から、上記同様に傾斜する複数個の水滴ノズル7aを配設しても良い。
尚、前記金属薄板20の冷却速度などの条件に応じて、前記凹溝4aおよび水滴ノズル7aを、仮想の垂直線に対して前記パスラインPLの下流側に約5度~25度の範囲で傾斜させた形態とすることも可能である。
また、垂直断面が長方形である前記凹溝4a内に、先端側のみ傾斜させた水滴ノズル7を配設しても良い。
【0029】
一方、図9(D)に示す参考形態のように、前記ダクト2a,2bの水平面4において、平面視で千鳥状の配置した複数のエアーノズル6ごとに隣接して、一対ずつの水滴ノズル7を配置した形態とすることも可能である。かかる形態の場合、前記給水管16を上記水平面4と平行に上記ダクト2a,2bの内部に配管し、該給水管16から複数の水滴ノズル7を上記水平面4を貫通して、熱処理室1b内に突設している。
尚、複数のエアーノズル6は、平面視で格子状のパターンで配置しても良い。
また、上記水滴ノズル7は、前記ミストノズル8aのように、先端部をエアーノズル6側に傾斜した形態としたり、前記水滴ノズル7aのように、前記パスラインPLに対して傾斜した姿勢の形態としても良い。
更に、上記水滴ノズル7は、前記図6(A),(B)のように、1個のエアーノズル6に対し、1個の水滴ノズル7を隣接させた形態、前記図7(A),(B)のように、1個のエアーノズル6に対し、4つの水滴ノズル7を平面視で点対称にして隣接させた形態、あるいは、前記図8(A),(B)のように、1個の傾斜したエアーノズル6に対し、同様に傾斜した一対の水滴ノズル7aを隣接させた形態として配置しても良い。
【0030】
前記のような熱処理室1bでは、前記エアーノズル6(6a)とミストノズル8(8a,8b)とを併用して、高圧エアー21とミスト22とを、前記金属薄板20の両面に対し噴射することにより、前記効果(1),(2)が得られる。
あるいは、前記エアーノズル6(6a)と水滴ノズル7(7a)とを併用して、高圧エアー21と多数の水滴23とを、前記金属薄板20の両面に対し噴射することによっても、前記効果(1),(2)が得られる。
また、上記エアーノズル6(6a)からの高圧エアー21と、前記水滴ノズル7,7aから噴射される多数の水滴23とを併用することにより、一層冷却効率と冷却速度とを高められるので、前記効果(1)をより高めることが可能となる。
【0031】
更に、前記エアーノズル6(6a)、ミストノズル8(8a,8b)、および水滴ノズル7(7a)の3種類のノズルを併用することによって、前記金属薄板20の冷却効率および冷却速度を著しく高めることも可能となる。
加えて、前記金属薄板20の厚みや加熱温度に応じて、前記エアーノズル6(6a)とミストノズル8(8a,8b)との併用、エアーノズル6(6a)と水滴ノズル7(7a)との併用、あるいは、エアーノズル6(6a)とミストノズル8(8a,8b)と水滴ノズル7(7a)との3者を併用する、という3種類の冷却パターンを容易に選択して活用することも可能となる。
【0032】
本発明は、以上において説明した各形態に限定されるものではない。
例えば、また、前記金属薄板20は、例えば、板厚が3mm以下である圧延鋼板、特殊鋼からなる鋼板、あるいはチタン合金板であっても良い。
また、前記ダクト2a,2bの水平面4ごとには、前記エアーノズル6,6aとミストノズル8,8bとの組、あるいは、エアーノズル6,6aと水滴ノズル7,7aの組を、平面視で互いにほぼ等間隔にして千鳥状あるいは格子状に配設した形態としても良い。
更に、前記ミストノズル8,8a,8bにミスト22を送給する前記ミスト供給管13、あるいは、前記水滴噴射ノズル7,7aに高圧水を給水する前記給水管16は、前記ダクト2a,2bの中空部内ごとにおいて、平面視で前記パスラインPLと平行状あるいは斜めに交差する方向に沿って配管されていても良い。
【0033】
また、前記冷却室1c内にも、前記エアーノズル6,6a、ミストノズル8,8a,8b、および水滴ノズル7,7aの3種類を、前記熱処理室1b内と同様に配置しても良い。
更に、前記凸部3は、垂直断面が半円形、半楕円形、あるいは半長円形の外形を有し、これらの頂面付近あるいは底面付近に前記エアーパッド10を配置した形態としても良い。
また、前記熱処理室1b内で施す熱処理には、前記焼き入れに限らず、焼き鈍しや溶体化処理なども含まれる。
加えて、前記ローラ17は、前記加熱室1aの入り口側、あるいは前記冷却室1cの出口側にも設置しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、エアーにより浮遊されつつ水平方向に沿って搬送される熱処理中または熱処理後の金属薄板に対する冷却効率を高め、且つ多様な冷却速度の選択が容易に行える熱処理炉を確実に提供できる。
【符号の説明】
【0035】
1…………………熱処理炉
1a………………加熱室
1b………………熱処理室
1c………………冷却室
6,6a…………エアー噴射ノズル
7,7a…………水滴噴射ノズル
8,8a,8b…ミストスプレーノズル
17………………ローラ
20………………金属薄板
PL………………パスライン
図1
図2
図3
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図6
図7
図8
図9