(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】センサユニット付軸受キャップ及びハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20220720BHJP
F16C 33/76 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C33/76 A
(21)【出願番号】P 2018126087
(22)【出願日】2018-07-02
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 司
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-002029(JP,A)
【文献】特開2013-053638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 41/00
F16C 33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンコーダを備えたハブを回転自在に支持した外輪の軸方向内側部に装着されて、前記外輪の軸方向内側開口を塞ぐもので、前記外輪に嵌合固定される嵌合筒部と、該嵌合筒部の内径側を塞ぎ、前記エンコーダの一部と軸方向に対向する部分に軸方向内側にのみ開口した有底孔のホルダ挿入孔が設けられた合成樹脂製の底板部とを有する、有底円筒形状の軸受キャップと、
前記ホルダ挿入孔に挿入されたホルダ軸部を有し、前記軸受キャップに取り付けられたセンサホルダと、前記ホルダ軸部の先端部に保持されたセンサとを有する、センサユニットと、
前記ホルダ挿入孔の軸方向中間部の内周面と前記ホルダ軸部の軸方向中間部の外周面との間に、径方向に圧縮された態様で配置された弾性リングと、を備え、
前記ホルダ軸部は、前記弾性リングが外嵌された部分を除き、軸方向にわたり外径が一定であり、
前記ホルダ挿入孔は、
内周面のうち、前記弾性リングの配置位置を含む軸方向外側部から中間部にわたる範囲に、軸方向にわたり内径が変化しない支持円筒面を有しているとともに、内周面の円周方向の少なくとも一部で、かつ、軸方向内側開口から前記弾性リングの配置位置の軸方向内側に隣接した位置にわたる範囲に、その内半径が、前記ホルダ軸部に外嵌された前記弾性リングの前記ホルダ挿入孔に挿入する以前における外半径よりも大きい、逃げ部を有している、
センサユニット付軸受キャップ。
【請求項2】
前記逃げ部が、前記ホルダ挿入孔の内周面に全周にわたり設けられた環状凹部である、請求項1に記載したセンサユニット付軸受キャップ。
【請求項3】
前記環状凹部の底面が、軸方向内側に向かう程内径が大きくなる方向に傾斜したテーパ面である、請求項2に記載したセンサユニット付軸受キャップ。
【請求項4】
前記環状凹部の底面が、軸方向にわたり内径が一定の円筒面である、請求項2に記載したセンサユニット付軸受キャップ。
【請求項5】
前記逃げ部が、前記ホルダ挿入孔の内周面の円周方向の一部に設けられた凹溝である、請求項1に記載したセンサユニット付軸受キャップ。
【請求項6】
内周面に外輪軌道を有し、使用時にも回転しない外輪と、外周面に内輪軌道を有し、使用時に回転するハブと、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に設けられた複数の転動体と、前記ハブの軸方向内側部にこのハブと同軸に支持されたエンコーダと、前記外輪の軸方向内側部に装着された軸受キャップと、該軸受キャップに取り付けられたセンサユニットと、を備えたハブユニット軸受であって、
前記軸受キャップに前記センサユニットを取り付けてなるセンサユニット付軸受キャップが、請求項1~5のうちのいずれか1項に記載したセンサユニット付軸受キャップである、ハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受を構成する外輪の開口部を塞ぐための軸受キャップにセンサユニットを取り付けてなるセンサユニット付軸受キャップ、及び、該センサユニット付軸受キャップを備えたハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に、ABSなどの制御に必要な車輪の回転速度を検出するための回転速度検出装置を組み合わせることが、従来から行われている。
【0003】
例えば特開2013-53638号公報には、ハブユニット軸受を構成するハブの軸方向内側部に、回転速度検出装置を構成する円環状のエンコーダを支持し、かつ、ハブユニット軸受を構成する外輪の軸方向内側開口を塞いだ軸受キャップに、回転速度検出装置を構成するセンサユニットを取り付けた構造が記載されている。また、特開2013-53638号公報に記載された構造では、軸受キャップのうちで、エンコーダの周方向一部と軸方向に対向する部分に、軸方向に貫通したホルダ挿入孔を設けている。そして、ホルダ挿入孔に、センサユニットを構成するセンサホルダのうちで、先端部にセンサを保持したホルダ軸部を挿入している。これにより、センサの検出部をエンコーダの被検出面に近接対向させている。また、ホルダ軸部の外周面とホルダ挿入孔の内周面との間に、弾性材製のOリングを挟持している。
【0004】
上記構造によれば、車輪とともにエンコーダが回転した際に、センサの検出部の近傍を、エンコーダの被検出面に配置されたS極とN極とが交互に通過する。このため、センサの検出部を流れる磁束の密度が変化し、センサの出力信号を変化させる。センサの出力信号が変化する周波数は、車輪の回転数に比例するため、センサの出力信号を制御器に送れば、ABSやTCSを適切に制御することが可能になる。
【0005】
ただし、特開2013-53638号公報に記載された構造は、ハブユニット軸受が厳しい泥水環境下で使用され、Oリングによる密封性が不足する場合に、貫通孔であるホルダ挿入孔を通じて、軸受キャップの内側の空間に泥水が侵入する可能性がある。
【0006】
このような事情に鑑みて、例えば特開2016-136064号公報には、ホルダ挿入孔を有底孔とすることで、センサを、ホルダ挿入孔の底部を介して、エンコーダに対向させる構造が記載されている。このような構造によれば、ホルダ挿入孔を通じて、軸受キャップの内側の空間に泥水などの異物が侵入することを有効に防止できる。
【0007】
ただし、特開2016-136064号公報に記載された構造では、ホルダ挿入孔とホルダ軸部との間に侵入した水分が凍結した場合に、ホルダ挿入孔の底部が破損する可能性がある。このため、ホルダ挿入孔の底部の強度を確保する必要があり、ホルダ挿入孔の底部の厚さを薄くすることが難しくなる。この結果、センサの検出部とエンコーダの被検出面との距離(エアギャップ)が増大し、エンコーダの被検出面から出入りしてセンサの検出部を通過する磁束の量が低減するため、センサによる回転速度検出の精度が低下する可能性がある。
【0008】
また、特開2016-136064号公報に記載された構造は、ホルダ挿入孔の内側に水分が滞留することを防止するために、使用状態でホルダ挿入孔の下方に位置する部分に、ホルダ挿入孔の底部にまで達する排水溝を設けている。ところが、水分を排出するために設けた排水溝を通じて、逆に、水分がホルダ挿入孔に侵入してしまう可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-53638号公報
【文献】特開2016-136064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2013-53638号公報及び特開2016-136064号公報に記載された構造で生じ得る問題を解決するために、例えば、
図9に示すような構造を採用することが考えられる。図示の構造は、本願の発明者等が本願発明を完成する以前に考えた、未公開の構造である。図示の構造では、軸受キャップ1に設けるホルダ挿入孔2を、奥端部を除いて内径が軸方向にわたり変化しない有底孔としている。また、ホルダ挿入孔2の軸方向中間部の内周面とホルダ軸部3の軸方向中間部の外周面の間に、弾性材製のOリング4を挟持している。
【0011】
上記構造によれば、特開2016-136064号公報に記載された構造と同様に、ホルダ挿入孔2を有底孔としているため、ホルダ挿入孔2を通じて、軸受キャップ1の内側の空間に泥水などの異物が侵入することを有効に防止できる。また、ホルダ挿入孔2の内周面とホルダ軸部3の外周面との間にOリング4を挟持しているため、Oリング4が挟持された部分よりも奥側(軸方向外側)に、水分が侵入することを防止できる。したがって、水分の凍結に起因して、ホルダ挿入孔2の底部5が破損することを防止できため、底部5の厚さを薄くすることが可能になる。この結果、ホルダ軸部3の先端部に保持したセンサ6の検出部と図示しないエンコーダの被検出面との距離を短くすることが可能になり、センサ6の検出精度を向上させることができる。
【0012】
ところが、
図9の構造では、ホルダ軸部3をホルダ挿入孔2の内側に挿入する際に、2点鎖線で示したように、ホルダ軸部3に外嵌したOリング4の外周面がホルダ挿入孔2の開口縁部に接触した段階から、ホルダ挿入孔2の内部に存在する空気が外部に逃げられなくなる。このため、ホルダ軸部3を、実線で示した所期の配置位置まで挿入するには、ホルダ挿入孔2の内部の空気を大きく圧縮する必要がある。したがって、ホルダ軸部3が押し戻されてセンサホルダ7の取付作業性が悪くなったり、ホルダ挿入孔2の底部5が、ホルダ挿入孔2内の圧力の上昇によって破損するといった問題が生じる可能性がある。ホルダ挿入孔2の内部に存在する空気を外部に逃がすために、軸受キャップ1にホルダ挿入孔2の奥部に通じる空気孔を設けることも考えられる。ただし、このような空気孔を、軸受キャップ1の軸方向側面に開口するように設けると、該空気孔が水分の侵入経路になる可能性がある。また、水分の侵入経路になりにくくするために、空気孔を径方向に開口するように設けることも考えられるが、このような空気孔を形成することは、軸受キャップ1をアキシャルドロー成形により造る場合には困難である。
【0013】
本発明は、上述のような事情に鑑みて、ホルダ挿入孔とホルダ軸部との間の密封性を確保できるだけでなく、軸受キャップに対するセンサホルダの取付作業性が良好で、かつ、ホルダ挿入孔の底部の厚さを薄くして回転速度検出精度の向上を図れる、センサユニット付軸受キャップの構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のセンサユニット付軸受キャップ及びハブユニット軸受のうち、センサユニット付軸受キャップは、軸受キャップと、センサユニットと、弾性リングとを備える。
前記軸受キャップは、有底円筒形状を有しており、エンコーダを備えたハブを回転自在に支持した外輪の軸方向内側部に装着されて、前記外輪の軸方向内側開口を塞ぐものである。また、前記軸受キャップは、前記外輪に嵌合固定される嵌合筒部と、該嵌合筒部の内径側を塞ぎ、前記エンコーダの一部と軸方向に対向する部分に軸方向内側にのみ開口した有底孔のホルダ挿入孔が設けられた合成樹脂製の底板部とを有している。
前記センサユニットは、前記ホルダ挿入孔に挿入されたホルダ軸部を有し、前記軸受キャップに取り付けられたセンサホルダと、前記ホルダ軸部の先端部に保持されたセンサとを有している。
前記弾性リングは、前記ホルダ挿入孔の軸方向中間部の内周面と前記ホルダ軸部の軸方向中間部の外周面との間に、径方向に圧縮された態様で配置されている。
本発明ではさらに、前記ホルダ軸部は、前記弾性リングが外嵌された部分を除き、軸方向にわたり外径が一定である。また、前記ホルダ挿入孔は、内周面のうち、前記弾性リングの配置位置を含む軸方向外側部から中間部にわたる範囲に、軸方向にわたり内径が変化しない支持円筒面を有しているとともに、内周面の円周方向の少なくとも一部で、かつ、軸方向内側開口から前記弾性リングの配置位置の軸方向内側に隣接した位置にわたる範囲に、その内半径が、前記ホルダ軸部に外嵌された前記弾性リングの前記ホルダ挿入孔に挿入する以前における外半径よりも大きい、逃げ部を有している。
【0015】
本発明のセンサユニット付軸受キャップを実施する場合には、例えば、前記逃げ部を、前記ホルダ挿入孔の内周面に全周にわたり設けられた環状凹部とすることもできるし、又は、前記ホルダ挿入孔の内周面の円周方向の一部に設けられた凹溝とすることもできる。
【0016】
前記逃げ部を、前記環状凹部とする場合には、該環状凹部の底面を、軸方向内側に向かう程内径が大きくなる方向に傾斜したテーパ面とすることもできるし、又は、軸方向にわたり内径が一定の円筒面とすることもできる。
【0017】
本発明のハブユニット軸受は、内周面に外輪軌道を有し、使用時にも回転しない外輪と、外周面に内輪軌道を有し、使用時に回転するハブと、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に設けられた複数の転動体と、前記ハブの軸方向内側部にこのハブと同軸に支持されたエンコーダと、前記外輪の軸方向内側部に装着された軸受キャップと、該軸受キャップに取り付けられたセンサユニットとを備えている。
本発明のハブユニット軸受では、前記軸受キャップに前記センサユニットを取り付けてなるセンサユニット付軸受キャップを、本発明のセンサユニット付軸受キャップとしている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ホルダ挿入孔とホルダ軸部との間の密封性を確保できるだけでなく、軸受キャップに対するセンサホルダの取付作業性を良好にすることができ、かつ、ホルダ挿入孔の底部の厚さを薄くして回転速度検出精度の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかる回転速度検出装置付のハブユニット軸受を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の第1例にかかる回転速度検出装置付のハブユニット軸受から軸受キャップを取り出して示す断面図である。
【
図6】
図6は、Oリングを外嵌したホルダ軸部をホルダ挿入孔に挿入する工程を説明する図であり、(A)はOリングがテーパ面の内径側に存在する初期段階を示しており、(B)はOリングがガイドテーパ面の内径側に存在する中期段階を示しており、(C)はOリングが支持円筒面の内径側に存在する終期段階を示している。
【
図7】
図7は、実施の形態の第2例を示す、
図2に相当する図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の第3例を示す、
図2に相当する図である。
【
図9】
図9は、未公開の従来構造を示す、
図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図6を用いて説明する。
本例のハブユニット軸受8は、車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するとともに、車輪の回転速度を検出するものであり、使用状態で回転しない外輪9と、使用状態で車輪とともに回転するハブ10と、複数の転動体11と、外側密封部材12と、軸受キャップ13と、回転速度検出装置14と、弾性リングであるOリング15とを備えている。
【0021】
なお、ハブユニット軸受8に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる
図1~
図3及び
図6の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる
図1~
図3及び
図6の右側である。
【0022】
外輪9は、内周面に複列の外輪軌道16a、16bを有しており、外周面に静止フランジ17を有している。静止フランジ17は、外輪9の軸方向中間部に径方向外方に突出するように設けられている。外輪9は、静止フランジ17をナックルなどの懸架装置に固定するため、使用状態で回転しない。外輪9は、例えばS53Cなどの中炭素鋼製であり、少なくとも外輪軌道16a、16bの表面に、高周波焼き入れなどの硬化処理が施されている。
【0023】
ハブ10は、外輪9の内径側に外輪9と同軸に配置されており、ハブ輪18と内輪19とを組み合わせて構成されている。ハブ輪18は、内輪19を外嵌保持する軸部材であり、軸部20と、回転フランジ21とを有している。軸部20は、ハブ輪18の軸方向内側部から軸方向中間部にわたる範囲に設けられている。軸部20は、その軸方向内側部に内輪19を外嵌するための小径段部22を有しており、その軸方向中間部の外周面に軸方向外側列の内輪軌道23aを有している。軸部20の軸方向内側部には、径方向外方に折れ曲がったかしめ部24が形成されており、該かしめ部24は、内輪19の軸方向内端面を抑え付けている。回転フランジ21は、軸部20の軸方向外側に隣接するハブ輪18の軸方向外側部から径方向外方に突出しており、略円輪形状を有している。内輪19は、ハブ輪18の小径段部22に外嵌されており、外周面に軸方向内側列の内輪軌道23bを有している。ハブ10は、回転フランジ21に車輪を構成するホイール及び制動用回転体が固定され、使用時に回転する。ハブ輪18は、例えばS53Cなどの中炭素鋼製であり、少なくとも内輪軌道23aの表面を含む軸部20の外周面に、高周波焼き入れなどの硬化処理が施されている。これに対し、内輪19は、例えばSUJ2などの高炭素クロム軸受鋼製であり、ずぶ焼き入れによる硬化処理が施されている。
【0024】
転動体11は、図示しない保持器により転動自在に保持されており、複列の外輪軌道16a、16bと複列の内輪軌道23a、23bとの間に、配置されている。これにより、ハブ10が、外輪9の内径側に回転自在に支持されている。図示の例では、転動体11として玉を使用しているが、重量の嵩む自動車用のハブユニット軸受の場合には、円すいころを使用する場合もある。
【0025】
外輪9の内周面とハブ10の外周面との間に存在し、かつ、複数の転動体11が設置された空間25には、図示しないグリースを封入している。そして、空間25に封入したグリースが外部に漏洩することを防止するとともに、泥水などの異物が空間25に侵入することを防止するために、空間25の軸方向外側開口を、外側密封部材12により塞いでいる。これに対し、外輪9の軸方向内側部には、有底円筒状の軸受キャップ13を装着して、外輪9の軸方向内側開口を塞いでいる。
【0026】
軸受キャップ13は、合成樹脂製で略円板状のキャップ本体26と、該キャップ本体26にモールド固定された金属環27及びナット28とから構成されており、略円筒状の嵌合筒部29と、該嵌合筒部29の内径側を塞ぐ略円板状の底板部30とを備えている。
【0027】
キャップ本体26は、合成樹脂を射出成形(アキシャルドロー成形)することにより造られている。キャップ本体26を構成する合成樹脂としては、例えばポリアミド66樹脂に、グラスファイバーを適宜加えた繊維強化ポリアミド樹脂材料を使用することができる。また、必要に応じて、ポリアミド樹脂に、非晶性芳香族ポリアミド樹脂(変性ポリアミド6T/6I)、低吸水脂肪族ポリアミド樹脂(ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアミド612樹脂)を適宜加えることで、より耐水性を向上させても良い。
【0028】
キャップ本体26の径方向外側部には、ステンレス鋼板や圧延鋼板などから造られた、金属環27がモールド固定されている。金属環27は、略L字形の断面形状を有しており、円筒部31と、該円筒部31の軸方向内側部から径方向外方に折れ曲がった外向フランジ部32とを備えている。円筒部31は、キャップ本体26の径方向外側部から軸方向外側に突出しており、軸受キャップ13の嵌合筒部29を構成する。外向フランジ部32は、キャップ本体26の径方向外側部の内部で、軸受キャップ13を外輪9に圧入する際に、押圧治具を押し当てる面と軸方向に重畳する位置に埋め込まれており、押圧治具による圧入力を嵌合筒部29へ伝えている。また、キャップ本体26の径方向外側部の軸方向外側面には、係止溝33が全周にわたり形成されている。係止溝33には、Oリング34が係止されている。
【0029】
キャップ本体26のうち、金属環27をモールドした部分よりも径方向内側に存在する部分は、金属環27の内径側を塞いでおり、軸受キャップ13の底板部30を構成する。底板部30は、他の部分よりも軸方向の厚さ(肉厚)が大きくなった厚肉部35を有している。厚肉部35は、ハブユニット軸受8を車両に組み付けた状態で、底板部30の鉛直方向上方かつ前後方向中央に位置する部分に設けられている。
【0030】
厚肉部35の上部には、後述するエンコーダ42の被検出面の一部と軸方向に対向する部分に、軸方向内側にのみ開口した有底孔であるホルダ挿入孔36が設けられている。ホルダ挿入孔36の奥部は、底部37によって塞がれている。厚肉部35の径方向内側には、袋状のナット28がモールド固定されている。ナット28は、内周面に雌ねじ部38が形成されており、外周面に係合凹溝39が形成されている。係合凹溝39の内側には、厚肉部35を構成する合成樹脂の一部が進入している。厚肉部35の径方向中間部で、ホルダ挿入孔36とナット28との間に挟まれた部分には、軸方向外側にのみ開口した除肉部40が設けられている。
【0031】
底板部30の軸方向外側面には、複数のリブ41a、41bが設けられている。リブ41aは、平板形状を有しており、底板部30の中心部から放射方向に伸長するように設けられている。リブ41bは、円筒形状を有しており、底板部30と同軸に配置されている。このようなリブ41a、41bは、キャップ本体26の強度を確保するとともに、キャップ本体26を射出成形により造る際の溶融樹脂の流れを良好にするために設けている。
【0032】
以上のような軸受キャップ13は、金属環27の円筒部31により構成される嵌合筒部29を、外輪9の軸方向内側部に締り嵌めで内嵌固定することで、外輪9の軸方向内側部に装着されている。また、キャップ本体26の径方向外側部の軸方向外側面を、外輪9の軸方向内端面に突き当てることで、外輪9に対する軸受キャップ13の軸方向に関する位置決めを図っている。さらに、Oリング34を、外輪9の軸方向内端面とキャップ本体26の係止溝33の底面との間で弾性的に挟持することで、キャップ本体26の径方向外側部の軸方向外側面と外輪9の軸方向内端面との当接部を通じて、軸受キャップ13の内側に水分などの異物が侵入することを防止している。
【0033】
回転速度検出装置14は、エンコーダ42と、センサユニット43とを備えている。
エンコーダ42は、円環形状を有しており、ハブ10と同軸の状態で、ハブ10を構成する内輪19の軸方向内側部の外周面に支持固定されている。エンコーダ42は、支持環44と、エンコーダ本体45とを有している。支持環44は、磁性金属板製で、プレス加工を施して造られている。支持環44は、略L字形の断面形状を有しており、締り嵌めにより、内輪19の軸方向内側部に外嵌固定されている。エンコーダ本体45は、フェライト粉末などの磁性体を混入したゴム磁石又はプラスチック磁石などの永久磁石製で、支持環44の軸方向内側面に固定されている。エンコーダ本体45の軸方向内側面である被検出面には、S極とN極とが円周方向に関して交互にかつ等ピッチで配置されている。
【0034】
センサユニット43は、軸受キャップ13に取り付けられており、合成樹脂製のセンサホルダ46と、センサ47とを備えている。センサホルダ46は、円柱状(棒状)のホルダ軸部48と、ホルダ軸部48の基端側に設けられた取付フランジ部49とを有している。ホルダ軸部48は、後述する係止凹溝51が形成された部分を除き、軸方向にわたり外径が変化しない。センサ47は、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子などの磁気検知素子及び波形成形回路を組み込んだICから成るもので、ホルダ軸部48の先端部に保持(モールド)されている。
【0035】
センサユニット43は、取付フランジ部49に設けられた通孔50を挿通した、図示しないボルトの雄ねじ部を、底板部30にモールドされたナット28の雌ねじ部38に螺合することで、軸受キャップ13に取り付けられている。このような取付状態で、ホルダ軸部48は、ホルダ挿入孔36の内側に挿入されている。また、ホルダ軸部48の先端部に保持されたセンサ47は、ホルダ挿入孔36の底部37を介して、エンコーダ42(エンコーダ本体45)の被検出面に軸方向に近接対向している。
【0036】
ホルダ挿入孔36とホルダ軸部48との間の密封性を確保するために、ホルダ挿入孔36の軸方向中間部の内周面とホルダ軸部48の軸方向中間部の外周面との間に、Oリング15を径方向に圧縮した態様、すなわち、ホルダ挿入孔36の内周面とホルダ軸部48の外周面とに締め代を持たせた態様で配置している。本例では、ホルダ軸部48の挿入作業と、Oリング15を所期の配置位置Pに配置する作業とを同時に行えるようにするために、Oリング15を、ホルダ軸部48の軸方向中間部の外周面に形成された、略矩形状の断面形状を有する環状の係止凹溝51に外嵌(係止)している。Oリング15は、例えばゴムなどの弾性材製で、自由状態で略円形の断面形状を有しており、その線径は係止凹溝51の溝深さよりも大きい。なお、Oリング15の配置位置Pとは、ホルダ軸部48の挿入作業が完了した状態で、Oリング15の中心が位置する軸方向位置である。
【0037】
本例では、Oリング15を外嵌したホルダ軸部48をホルダ挿入孔36に挿入する際に、ホルダ挿入孔36の内部の空気を外部に逃がし、ホルダ挿入孔36の内部の空気が過度に圧縮されないようにするために、ホルダ挿入孔36の内周面形状を工夫している。
具体的には、ホルダ挿入孔36の内周面のうち、Oリング15の配置位置Pを含む軸方向外側部から中間部にわたる範囲を、軸方向にわたり内径が変化しない支持円筒面52としている。そして、支持円筒面52の内径d
52を、ホルダ軸部48の外径D
48よりもわずかに大きく、かつ、ホルダ軸部48に外嵌したOリング15のホルダ挿入孔36に挿入する以前における外径D
15(以下「縮径前リング外径D
15」と呼ぶ。
図6の(A)参照)よりも小さくしている(D
48<d
52<D
15)。これにより、Oリング15を支持円筒面52の内径側に配置した状態で、Oリング15を圧縮できるようにするとともに、ホルダ軸部48の先側部が支持円筒面52の内側でがたつくことを防止している。
【0038】
また、ホルダ挿入孔36の内周面のうち、軸方向内側開口からOリング15の配置位置Pの軸方向内側に隣接した位置にわたる範囲に、その内径d53が縮径前リング外径D15(内半径d53/2がOリング15の外半径D15/2)よりも大きい、逃げ部である環状凹部53を全周にわたり設けている。また、環状凹部53の底面(内周面)を、軸方向内側(ホルダ挿入孔36の開口側)に向かう程内径が大きくなる方向に傾斜したテーパ面54としている。なお、環状凹部53(テーパ面54)の軸方向長さ(開口部からの深さ)は、Oリング15の配置位置Pとの関係で決まるが、例えばホルダ挿入孔36の軸方向深さの20%~40%程度とすることができる。また、テーパ面54の傾斜角度は、ホルダ挿入孔36の周囲の肉厚(外壁)が薄いことからあまり急な傾斜を付けることはできず、テーパ面54の開口部の内径が、ホルダ軸部48の係止凹溝51に係止されたOリング15の外径よりも大径であること、Oリング15を係止したホルダ軸部48をホルダ挿入孔36にスムーズに挿入できること、及び、ホルダ軸部48の挿入作業完了後に、Oリング15に十分な潰し代が与えられること、という観点から、例えば、0.5°~5°程度とすることができる。
【0039】
さらに、ホルダ挿入孔36の内周面の軸方向中間部で、支持円筒面52とテーパ面54との間部分に、ガイドテーパ面55を設けている。ガイドテーパ面55は、後述するように、ホルダ軸部48をホルダ挿入孔36の内側に挿入する際に、ホルダ軸部48に外嵌されたOリング15の外周面が当接する部分であり、テーパ面54と同じ傾斜角度を有しており、テーパ面54と滑らかに連続している。ガイドテーパ面55の内径d55は、軸方向外側に向かうに従い小さくなっている。すなわち、ガイドテーパ面55は、軸方向外側部が支持円筒面52につながっており、軸方向外端部の内径d55が、支持円筒面52の内径d52と同じである。一方、ガイドテーパ面55は、軸方向内側部でテーパ面54につながっており、軸方向内端部の内径d55が、縮径前リング外径D15と同じである。なお、ガイドテーパ面55の傾斜角度は、テーパ面54の傾斜角度と異ならせることもできる。
【0040】
以上のような本例のハブユニット軸受8によれば、車輪を懸架装置に対して回転自在に支持できるとともに、車輪の回転速度を検出することができる。このため、ABSやTCSを適切に制御できる。
【0041】
特に本例では、ホルダ挿入孔36とホルダ軸部48との間の密封性を確保できるだけでなく、軸受キャップ13に対するセンサホルダ46の取付作業性を良好にすることができ、かつ、ホルダ挿入孔36の底部37の厚さを薄くして、センサ47による回転速度検出精度の向上を図ることができる。
【0042】
すなわち、ホルダ挿入孔36の軸方向中間部の内周面とホルダ軸部48の軸方向中間部の外周面との間に、Oリング15を締め代を持たせた態様で配置しているため、Oリング15が挟持された部分よりも奥側(軸方向外側)に、水分が侵入することを防止できる。したがって、水分の凍結に起因して、ホルダ挿入孔36の底部37が破損することを防止できる。
【0043】
また、センサホルダ46の取付作業性を良好にでき、かつ、ホルダ挿入孔36の底部37の厚さを薄くして、センサ47による回転速度検出精度の向上を図ることができる理由について、センサホルダ46の取付作業を工程順に示した
図6を参照して詳しく説明する。
図6の(A)に示すように、Oリング15を外嵌したホルダ軸部48を、ホルダ挿入孔36の内側に挿入する際に、Oリング15が環状凹部53の底面であるテーパ面54の内径側に位置する段階では、Oリング15の外周面とテーパ面54との間に隙間56を設けることができる。このため、ホルダ軸部48をさらに挿入して、
図6の(B)に示すように、Oリング15の外周面がガイドテーパ面55に当接するまでの間、ホルダ挿入孔36の内部の空気を、隙間56を通じて外部に逃がすことができる。また、テーパ面54を、Oリング15の配置位置Pの軸方向内側に隣接した位置まで設けているため、
図6の(B)→(C)に示すように、Oリング15がガイドテーパ面55に当接してから配置位置Pに移動するまでの間の、ホルダ軸部48の挿入量は十分に短くなる。したがって、ホルダ挿入孔36の内部の空気が過度に圧縮されることを防止できる。これにより、ホルダ軸部48が押し戻されることを防止でき、センサホルダ46の取付作業性を良好にできる。また、圧縮された空気圧に耐えるためにホルダ挿入孔36の底部37の強度(肉厚)を上げる必要がないため、底部37の厚さを薄くして、センサ47による回転速度検出精度の向上を図ることができる。
【0044】
また、テーパ面54は、ホルダ軸部48の先端部をガイド(案内)する機能を備えているため、ホルダ軸部48をホルダ挿入孔36の開口部に対してスムーズに挿入することができる。さらに、テーパ面54を通過したOリング15を、テーパ面54と同じ傾斜角度を有するガイドテーパ面55によって徐々に縮径することができる。このため、Oリング15を、支持円筒面52の内径側にスムーズに押し込むことができる。したがって、この面からも、センサホルダ46の取付作業性を良好にできる。
【0045】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図7を用いて説明する。
本例では、ホルダ挿入孔36aの内周面のうち、軸方向内側開口からOリング15の配置位置Pの軸方向内側に隣接した位置にわたる範囲に、その内径d
53aが縮径前リング外径D
15(内半径d
53a/2がOリング15の外半径D
15/2)よりも大きい、環状凹部53aを全周にわたり設けている。また、環状凹部53aの底面(内周面)を、軸方向にわたり内径が一定の円筒面57としている。さらに、支持円筒面52と円筒面57とを、段差面58を介して連続している。
【0046】
以上のような本例の場合にも、Oリング15を外嵌したホルダ軸部48を、ホルダ挿入孔36aの内側に挿入する際に、2点鎖線で示すように、Oリング15の外周面と環状凹部53aの底面である円筒面57との間に隙間56を設けることができる。このため、この隙間56を通じて、ホルダ挿入孔36aの内部の空気を外部に逃がすことができる。さらに、円筒面57の内径d53aを縮径前リング外径D15よりもわずかに大きい程度とすれば、円筒面57をOリング15の芯合わせ(ホルダ挿入孔36aとホルダ軸部48との芯合わせ)を行うための案内面として利用することもできる。
なお、本例を実施する際には、支持円筒面52と円筒面57とを、実施の形態の第1例の構造のように、軸方向内側に向かう程内径が小さくなったガイドテーパ面により連続させることもできるし、円弧状の断面形状を有する凸曲面により連続させることもできる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同様である。
【0047】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、
図8を用いて説明する。
本例では、ホルダ挿入孔36bの内周面の円周方向一部で、軸方向内側開口からOリング15の配置位置Pの軸方向内側に隣接した位置にわたる範囲に、径方向外側に凹んだ状態で軸方向に延在する凹溝59を設けている。凹溝59の内半径d
53bは、ホルダ軸部48に外嵌した
Oリング15のホルダ挿入孔36bに挿入する以前における外半径D
15/2よりも大きい。また、凹溝59の底面を、軸方向にわたり内径が一定の部分円筒面57aとしている。さらに、支持円筒面52と部分円筒面57aとを、段差面58aにより連続している。なお、支持円筒面52と段差面58aとの間の陵部(連続部)、及び、凹溝59の円周方向側面と該凹溝59から円周方向に外れた部分との間の陵部は、円弧形の断面形状を有する凸曲面60として、該陵部によってOリング15が損傷することを防止している。凸曲面60に代えて、内径が徐々に変化する傾斜面を設けることもできる。
【0048】
以上のような本例の場合にも、Oリング15を外嵌したホルダ軸部48を、ホルダ挿入孔36bの内側に挿入する際に、Oリング15の外周面の一部(
図8の下側部)と凹溝59の底面である部分円筒面57aとの間に隙間56を設けることができる。このため、この隙間56を通じて、ホルダ挿入孔36bの内部の空気を外部に逃がすことができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同様である。
【0049】
本発明を実施する場合に、ホルダ挿入孔の内周面に形成する環状凹部及び凹溝の底面の形状は、テーパ面や円筒面(部分円筒面)に限らず、その他の形状を採用しても良い。また、ホルダ挿入孔の内周面に凹溝を形成する場合に、凹溝の数は、1つに限らず、複数形成することができる。また、実施の形態では、軸受キャップを、合成樹脂製のキャップ本体と、金属製の金属環など、合成樹脂以外の材料から造られた部材を組み合わせた構造を例に挙げて説明したが、本発明を実施する場合、軸受キャップは、その全体が合成樹脂から造られていても良い。さらに、実施の形態の各例の構造は、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 軸受キャップ
2 ホルダ挿入孔
3 ホルダ軸部
4 Oリング
5 底部
6 センサ
7 センサホルダ
8 ハブユニット軸受
9 外輪
10 ハブ
11 転動体
12 外側密封部材
13 軸受キャップ
14 回転速度検出装置
15 Oリング
16a、16b 外輪軌道
17 静止フランジ
18 ハブ輪
19 内輪
20 軸部
21 回転フランジ
22 小径段部
23a、23b 内輪軌道
24 かしめ部
25 空間
26 キャップ本体
27 金属環
28 ナット
29 嵌合筒部
30 底板部
31 円筒部
32 外向フランジ部
33 係止溝
34 Oリング
35 厚肉部
36、36a、36b ホルダ挿入孔
37 底部
38 雌ねじ部
39 係合凹溝
40 除肉部
41a、41b リブ
42 エンコーダ
43 センサユニット
44 支持環
45 エンコーダ本体
46 センサホルダ
47 センサ
48 ホルダ軸部
49 取付フランジ部
50 通孔
51 係止凹溝
52 支持円筒面
53、53a 環状凹部
54 テーパ面
55 ガイドテーパ面
56 隙間
57 円筒面
57a 部分円筒面
58、58a 段差面
59 凹溝
60 凸曲面