(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/358 20210101AFI20220720BHJP
H01M 10/06 20060101ALI20220720BHJP
H01M 50/114 20210101ALI20220720BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20220720BHJP
【FI】
H01M50/358
H01M10/06 Z
H01M50/114
H01M50/342 101
(21)【出願番号】P 2018140984
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【氏名又は名称】西木 信夫
(72)【発明者】
【氏名】小島 優
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-189290(JP,A)
【文献】特開2017-033900(JP,A)
【文献】米国特許第05843593(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/30
H01M 50/10
H01M 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有し、当該開口に連続する内部空間に仕切板が設けられることによって、外縁側に区画された第1セル室及び当該第1セル室より内側に区画された第2セル室を有する電槽と、
上記開口を封口しており、中継空間が内部に区画されており、上記第1セル室と当該中継空間とを連通する第1通気口、上記第2セル室と当該中継空間とを連通する第2通気口、及び当該中継空間と外部とを連通する排気口と、を有する蓋部材と、を備え、
上記蓋部材は、上記第1通気口から上記排気口に至る第1通路、及び上記第2通気口から上記排気口に至る第2通路を形成するリブを有し、
上記第1通路の長さは、上記第2通路の長さより長く設定されている鉛蓄電池。
【請求項2】
上記第1通路と上記第2通路とは合流しており、
上記第1通気口から上記第1通路と上記第2通路との合流位置までの長さは、上記第2通気口から当該合流位置までの長さよりも長く設定されている請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
上記仕切板によって、上記第2セル室よりも内側に第3セル室が区画されており、
上記蓋部材は、上記中継空間と上記第3セル室とを連通する第3通気口を有しており、
上記リブは、上記第3通気口から上記排気口に至る第3通路を形成しており、
上記第2通路の長さは、上記第3通路の長さより長く設定されている請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
上記蓋部材は、上記中継空間を区画し、底面から突出する凸部を有し、
上記凸部の壁面は、上記排気口側へ漸次傾斜する傾斜面である請求項1から3のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
上記凸部の先端は、上記
第1通気口側
及び上記第2通気口側の少なくとも一方に突出する突出片を有する請求項4に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気口を有する蓋部材を備えた鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のセル室を有する電槽と、排気ダクトを有する蓋部材とを備えた鉛蓄電池が記載されている。この蓋部材は、通路壁を内部に有する。通路壁は、電槽内で発生したガスを排気ダクトに導く通路を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排気ダクトからガスが排出されることにより、各セル室にそれぞれ貯留された電解液が減少する。複数のセル室において、電解液の減少量がばらつき、貯留する電解液の量がばらつくことがある。本願発明の発明者は、実験の結果、電解液の減少量は、外側のセル室の方が、内側のセル室よりも多いとの知見を得た。
【0005】
本発明は、前記の事情に鑑みてなされ、複数のセル室内にそれぞれ貯留された電解液の量の差を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池は、開口を有し、当該開口に連続する内部空間に仕切板が設けられることによって、外縁側に区画された第1セル室及び当該第1セル室より内側に区画された第2セル室を有する電槽と、上記開口を封口しており、中継空間が内部に区画されており、上記第1セル室と当該中継空間とを連通する第1通気口、上記第2セル室と当該中継空間とを連通する第2通気口、及び当該中継空間と外部とを連通する排気口と、を有する蓋部材と、を備える。上記蓋部材は、上記第1通気口から上記排気口に至る第1通路、及び上記第2通気口から上記排気口に至る第2通路を形成するリブを有する。上記第1通路の長さは、上記第2通路の長さより長く設定されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池によれば、複数のセル室にそれぞれ貯留された電解液の量の差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】鉛蓄電池の垂直断面図(
図1中のII-II断面図)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[鉛蓄電池の課題]
【0010】
鉛蓄電池は、電解液を貯留する電槽を備える。電槽は、電解液をそれぞれ貯留する複数のセル室を有する。鉛蓄電池は、車両などに搭載され、車両に搭載されたエンジン等からの熱によって加熱される。鉛蓄電池が加熱されると、各セル室にそれぞれ貯留された電解液の温度が上昇する。温度が上昇した電解液は、ミストや水蒸気からなるガスを生成する。生成されたガスによってセル室の内圧が高くなる。セル室内の内圧が高くなると、セル室内のガスは、電槽の開口を閉塞する蓋部材に設けられた排気口から外部に排出される。
【0011】
セル室内のガスが蓋部材の排気口から外部に排出されることによって、セル室内の電解液の量が減少する。電解液の減少量は、セル室ごとに相違する。その結果、鉛蓄電池の使用に伴って、各セル室にそれぞれ貯留された電解液の量に差が生じる。
【0012】
本願発明者は、実験の結果、電槽の各セル室のうち、エンジンからの熱によって暖められやすい外側のセル室の方が、内側のセル室よりも、電解液の減少量が多いとの知見を得た。
【0013】
また、本願発明者は、実験の結果、蓋部材に設けられた通気口から排気口に至る通路の長さの長短によって、セル室内の電解液の減少量が相違するのではないかとの考えを得た。詳しく説明すると、エンジンの駆動が停止され、鉛蓄電池が外気温によって冷却されると、電解液の温度の低下に伴ってセル室内の内圧が低下する。セル室内の内圧が低下することにより、通路上に滞留するガスがセル室内に引き込まれる。セル室内に引き込まれたガスは、温度の低下に伴って液化し、電解液に戻る。したがって、本願発明者は、通路の長さが長いほど、通路上に滞留するガスの量が多くなるので、通路の長さが長いほど、温度の低下に伴ってセル室内に引き込まれるガスの量が多くなり、その結果、電解液の減少量が低下すると考えた。
【0014】
そこで、本願発明者は、各セル室の通気口から排気口にそれぞれ至る複数の通路の長さの差によって、各セル室における電解液の減少量の差を低減し、各セル室がそれぞれ貯留する電解液の量の差を低減する本願発明をなした。
【0015】
[概要説明]
【0016】
初めに、本発明の一実施形態の鉛蓄電池の概要について説明する。本発明の一実施形態の鉛蓄電池は、開口を有し、当該開口に連続する内部空間に仕切板が設けられることによって、外縁側に区画された第1セル室及び当該第1セル室より内側に区画された第2セル室を有する電槽と、上記開口を封口しており、中継空間が内部に区画されており、上記第1セル室と当該中継空間とを連通する第1通気口、上記第2セル室と当該中継空間とを連通する第2通気口、及び当該中継空間と外部とを連通する排気口と、を有する蓋部材と、を備える。上記蓋部材は、上記第1通気口から上記排気口に至る第1通路、及び上記第2通気口から上記排気口に至る第2通路を形成するリブを有する。上記第1通路の長さは、上記第2通路の長さより長く設定されている。
【0017】
外気温の上昇によってセル室に貯留された電解液の温度が上昇する。温度が上昇した電解液は、ミストや水蒸気からなるガスを生成する。生成されたガスによって第1セル室内の内圧が上昇すると、第1セル室において生成されガスは、第1通気口から第1通路に進入する。生成されたガスによって第2セル室内の内圧が上昇すると、第2セル室において生成されたガスは、第2通気口から第2通路に進入する。第1通路及び第2通路に進入したガスは、排気口から外部に排出される。外気温の低下によってセル室内に貯留された電解液の温度が低下すると、セル室内のガスが液化し、ガスが液化することにより、セル室内の内圧が低下する。内圧が低下した第1セル室は、第1通路に滞留するガスを引き込む。内圧が低下した第2セル室は、第2通路に滞留するガスを引き込む。第1通路の長さは、第2通路の長さよりも長い。したがって、第1通路に滞留するガスの量は、第2通路に滞留するガスの量よりも多い。そうすると、第1セル室が引き込むガスの量は、第2セル室が引き込むガスの量よりも多くなる。すなわち、第2セル室よりも多くのガスを生成する第1セル室は、外気温の低下に伴って、第2セル室よりも多くのガスを引き込む。したがって、第1通路の長さと第2通路の長さとが同じである構成や、第1通路の長さが第2通路の長さよりも短い構成よりも、第1セル室に貯留された電解液の減少量と、第2セル室に貯留された電解液の減少量との差が低減する。その結果、上記構成よりも、第1セル室に貯留された電解液の量と、第2セル室に貯留された電解液の量との間の経時的な差を低減することができる。
【0018】
ここで、上記第1通路と上記第2通路とは合流しており、上記第1通気口から上記第1通路と上記第2通路との合流位置までの長さは、上記第2通気口から当該合流位置までの長さよりも長く設定されていてもよい。
【0019】
第1通路及び第2通路に進入したガスの一部は、第1通路及び第2通路において冷やされ、液化する。液化したガスからなる液体は、第1通路及び第2通路を流れ、第1セル室及び第2セル室に戻る。第1通気口から上記第1通路と上記第2通路との合流位置までの長さは、第2通気口から当該合流位置までの長さよりも長く設定されているので、蓋部材内の限られた空間内において、第1通路と第2通路とが合流しない場合に比べ、第1通路の長さ及び第2通路の長さを長くすることができる。第1通路の長さ及び第2通路の長さを長くすることができるので、中継空間で液化するガスの量を増やすことができる。その結果、第1セル室及び第2セル室における電解液の減少量を低減することができる。
【0020】
また、上記仕切板によって、上記第2セル室よりも内側に第3セル室が区画されていてもよい。上記蓋部材は、上記中継空間と上記第3セル室とを連通する第3通気口を有する。上記リブは、上記第3通気口から上記排気口に至る第3通路を形成する。上記第2通路の長さは、上記第3通路の長さより長く設定されている。
【0021】
電槽は、外側から順に、第1セル室、第2セル室、及び第3セル室を有する。外気温の上昇に伴って、第1セル室に貯留された電解液は、第2セル室に貯留された電解液よりも多くの量のガスを生成する。外気温の上昇に伴って、第2セル室に貯留された電解液は、第3セル室に貯留された電解液よりも多くの量のガスを生成する。一方、第1セル室の第1通路の長さは、第2セル室の第2通路の長さよりも長く、第2セル室の第2通路の長さは、第3セル室の第3通路の長さよりも長い。したがって、第1セル室に貯留された電解液の減少量と、第2セル室に貯留された電解液の減少量と、第3セル室に貯留された電解液の減少量との差を低減することができる。その結果、第1セル室に貯留された電解液の量と、第2セル室に貯留された電解液の量と、第3セル室に貯留された電解液の量との間の経時的な差を低減することができる。
【0022】
また、上記蓋部材は、上記中継空間を区画し、底面から突出する凸部を有し、上記凸部の壁面は、当該排気口側へ漸次傾斜する傾斜面であってもよい。
【0023】
例えば、鉛蓄電池が車両に搭載され、鉛蓄電池を搭載する車両が坂道を走行し、凸部の排気口側が下になるように鉛蓄電池が傾斜した場合、リブが形成する段差によって、液体がリブを超えて排気口側に流れることが抑制される。一方、凸部の通気口側が下になるように鉛蓄電池が傾斜した場合、傾斜面によって、液体が凸部を超えて通気口側に流れ得る。その結果、電解液が排気口から漏れ出ることを抑制できるとともに、電解液の減液量をさらに低減することができる。
【0024】
また、上記凸部の先端は、上記通気口側に突出する突出片を有していてもよい。
【0025】
通気口側における凸部の先端部に突出片が設けられることにより、液体が凸部を超えて排気口側に流れることがさらに抑制される。その結果、電解液の減液量をさらに低減することができる。
【0026】
[実施形態]
【0027】
一実施形態の鉛蓄電池を、適宜図面を参照しながら説明する。
【0028】
図1及び
図2に示される鉛蓄電池10は、例えば、車両に搭載され、エンジンを始動させる動力源等に用いられる。
【0029】
鉛蓄電池10は、一面に開口を有する矩形箱状の電槽20と、電槽20の開口を閉塞する蓋部材30と、を備える。
図2は、
図1におけるII-II断面図であって、後述の負極柱33の中心軸を通る平面で鉛蓄電池10を切断した断面図である。以下では、開口が設けられた電槽20の一面が上面であるものとして上下方向7を定義し、矩形箱状の電槽20の短辺に沿う方向を前後方向8と定義し、長辺に沿う方向を左右方向9と定義して説明する。上下方向7と、前後方向8と、左右方向9とは、互いに直交する。
【0030】
電槽20は、前後左右の4つの側板21及び底板22を備える。4つの側板21及び底板22に囲まれた内部空間23は、希硫酸からなる電解液6を貯留する。すなわち、鉛蓄電池10は、いわゆる液式蓄電池である。電槽20は、例えば、耐蝕性及び絶縁性を有する合成樹脂を用いて成形された樹脂成型品である。
【0031】
図3に示されるように、電槽20は、内部空間23を6つに仕切る5つの仕切板24を備える。仕切板24は、左右方向9を厚みとする板状である。仕切板24は、側板21及び底板22と一体に成形されており、底板22及び前後の側板21と連結している。
【0032】
左右の側板21と、5つの仕切板24とは、左右方向9において、ほぼ等間隔で互いに離間している。仕切板24の上端は、側板21の上端とほぼ同じ高さに位置する。5つの仕切板24は、電槽20の内部空間23を、6つの第1セル室11~第6セル室16に仕切る。第1セル室11は、電槽20内における最も左に位置する。次いで、左から順に、第2セル室12、第3セル室13、第4セル室14、第5セル室15、第6セル室16が電槽20内に形成されている。各第1セル室11~第6セル室16は、電解液6をそれぞれ貯留する。第1セル室11及び第6セル室16は、本発明の第1セル室の一例である。第2セル室12及び第5セル室15は、本発明の第2セル室の一例である。第3セル室13及び第4セル室14は、本発明の第3セル室の一例である。
【0033】
各第1セル室11~第6セル室16は、
図2に示されるように、正極板25と、負極板26と、セパレータ27とをそれぞれ収容している。正極板25と、負極板26と、セパレータ27とは、左右方向9を厚みとする板状であって、左右方向9において、互いに離間している。セパレータ27は、正極板25と負極板26との間に位置しており、正極板25と、負極板26との間を仕切る。
【0034】
正極板25及び負極板26は、例えば、格子体に活物質が充填されたものである。正極板25の活物質の主成分は二酸化鉛である。負極板26の活物質の主成分は鉛である。
【0035】
第1セル室11~第6セル室16にそれぞれ収容された各正極板25及び各負極板26は、導電性のストラップ28によって、相互に接続されている。詳しく説明すると、一のセル室に収容された正極板25は、ストラップ28を介して、隣のセル室に収容された負極板26と接続されている。一のセル室に収容された負極板26は、他のストラップ28を介して、隣のセル室に収容された正極板25と接続されている。例えば、第2セル室12に収容された正極板25は、ストラップ28を介して、第1セル室11及び第3セル室13に収容された負極板26と接続されており、第2セル室12に収容された負極板26は、他のストラップ28を介して、第1セル室11及び第3セル室13に収容された正極板25と接続されている。すなわち、第1セル室11~第6セル室16は、直列接続されている。
【0036】
図1及び
図2に示されるように、蓋部材30は、矩形箱状の蓋本体31と、蓋本体31を上下方向7に貫通する正極柱32及び負極柱33と、ブッシング38、39と、を備える。
【0037】
蓋本体31は、矩形箱状である。蓋本体31の上下方向7の厚みは、前後方向8に沿う短辺及び左右方向9に沿う長辺よりも短い。すなわち、蓋本体31は、扁平な矩形箱状である。蓋本体31は、電槽20の上面よりも大きな下面を有する。当該下面の周端部からは、電槽20の側板21の外面の上部を覆う周壁35が下向きに突出している。蓋本体31は、周壁35の内側に電槽20の側板21の上部を嵌め込んで配置されている。
【0038】
蓋本体31は、電槽20に固着されている。詳しく説明すると、蓋本体31は、周壁35に沿って設けられた矩形枠状の当接面36を有している。当接面36は、蓋本体31の下面の一部である。当接面36は、電槽20の側板21の上端と当接している。当接面36と電槽20の側板21の上端とは、熱溶着などによって、相互に固着されている。すなわち、蓋本体31は、電槽20に固着されている。
【0039】
また、蓋本体31は、電槽20の各第1セル室11~第6セル室16間で電解液6が相互に移動することを防止可能なように、電槽20に固着されている。詳しく説明すると、蓋本体31は、
図5に示されるように、下面から下向きに突出する5つのリブ37を有する。各リブ37は、左右方向9を厚みとし、前後方向8に沿って設けられている。各リブ37の下端は、電槽20の各仕切板24の上端とそれぞれ当接している。蓋本体31のリブ37の下端と電槽20の仕切板24の上端とは、熱溶着などによって相互に固着されている。仕切板24及びリブ37は、第1セル室11~第6セル室16間で電解液6が相互に移動することを防止する。
【0040】
図1に示される蓋本体31と、ブッシング38、39とは、例えば、いわゆるインサート成形によって一体に成形されている。すなわち、ブッシング38、39は、蓋本体31に固定されている。
【0041】
ブッシング38とブッシング39とは、ともに、鉛合金等の導電性の金属からなる円筒状であって、同形状である。以下では、主にブッシング38について説明するが、ブッシング39についても同様である。なお、ブッシング38とブッシング39とは、別形状であってもよいし、同形状で大きさが相違(相似形)していてもよい。
【0042】
ブッシング38の上部は、蓋本体31の上面から上向きに突出しており、外部に露出している。すなわち、ブッシング38は、外部接続端子として機能する。ブッシング38の内部には、導電性の金属からなる正極柱32の上端部が挿入されている。正極柱32は、たとえば溶接によって、ブッシング38に固定されている。正極柱32の下端は、
図2に示されるストラップ28と接続されている。同様に、負極柱33の下端は、他のストラップ28と接続されている。鉛蓄電池10は、正負一対のブッシング38、39から直流電圧を出力する。
【0043】
図1に示されるように、蓋本体31は、電槽20内の内圧が高くなり過ぎるのを防止するため、電槽20内で発生したミストや水蒸気からなるガスを外部に排気する排気口45を側壁に有する。また、蓋本体31は、排気口45から液体が漏れ出ることを防止する構成を有する。以下、蓋本体31の構成について、詳しく説明する。
【0044】
[蓋本体31]
【0045】
図4、
図5に示されるように、蓋本体31は、中蓋40及び上蓋50を備える。中蓋40及び上蓋50は、合成樹脂成型品である。
【0046】
中蓋40は、電槽20に熱溶着される上述の周壁35を有しており、電槽20に固着されている。上述のブッシング38、39は、中蓋40の後部に、左右方向9において離間して位置している。
【0047】
中蓋40は、電槽20の各第1セル室11~第6セル室16にそれぞれ電解液6を注入するための6個の注入口431~436を前部に有している。6個の注入口431~436は、左右方向9において相互に離間している。注入口431~436は、栓60によってそれぞれ閉塞される。各栓60は、上蓋50にそれぞれ固定される。詳しくは後述する。
【0048】
中蓋40の前部の上面である前部上面41は、後部の上面である後部上面42よりも低い位置にある。中蓋40の前部上面41の上に、上蓋50が配置される。中蓋40の後部上面42と前部上面41との間の高さの差と、上蓋50の上下方向7における長さとは、ほぼ等しい。すなわち、蓋本体31において、中蓋40の後部上面42と、上蓋50の上面とは、ほぼ面一である。中蓋40の前部は、蓋部材30の底壁を構成する。
【0049】
上蓋50は、左右方向9に沿う長さが前後方向8に沿う長さよりも長く、上下方向7を厚みとする矩形板状の板状部51と、板状部51の下面の周縁から下向きに突出する周壁52とを備える。周壁52の下端は、中蓋40の前部上面41に熱溶着によって固着される。すなわち、上蓋50は、中蓋40に固定される。上蓋50は、蓋本体31の天壁及び側壁を構成する。
【0050】
上蓋50は、中蓋40の注入口431~436と上下方向7において重なる6個の注入開口531~536を前部に有する。注入開口531~536の内周面には、ネジ溝54がそれぞれ設けられている。ネジ溝54は、円柱状である栓60の外周面に設けられたネジ溝61と螺合する。すなわち、上蓋50は、6個の栓60をそれぞれ固定する。
【0051】
上蓋50の周壁52には、上述の排気口45が形成されている。排気口45は、周壁52を左右方向9において貫通している。中蓋40の前部と上蓋50とに囲まれた中継空間5に、ガスが流通し、かつ、液化したガスからなる液体を電槽内20内に戻す第1通路151~第6通路156(
図7参照)が形成されている。以下、詳しく説明する。
【0052】
図6に示されるように、中蓋40は、第1通路151~第6通路156の起点となる6個の第1通気口161~第6通気口166を有している。第1通気口161~第6通気口166は、中蓋40の前部を上下方向7にそれぞれ貫通している。第1通気口161~第6通気口166は、各第1セル室11~第6セル室16と中継空間5とをそれぞれ連通する。具体的には、第1通気口161は、第1セル室11と中継空間5とを連通し、第2通気口162は、第2セル室12と中継空間5とを連通し、第3通気口163は、第3セル室13と中継空間5とを連通し、第4通気口164は、第4セル室14と中継空間5とを連通し、第5通気口165は、第5セル室15と中継空間5とを連通し、第6通気口166は、第6セル室16と中継空間5とを連通する。第1通気口161及び第6通気口166は、本発明の第1通気口の一例である。第2通気口162及び第5通気口165は、本発明の第2通気口の一例である。第3通気口163及び第4通気口164は、本発明の第3通気口の一例である。
【0053】
図7に示されるように、中継空間5内には、第1通気口161~第6通気口166をそれぞれ起点とする第1通路151~第6通路156が形成されている。第1通路151は、第1セル室11と連通する第1通気口161から排気口45に至る通路である。第2通路152は、第2セル室12と連通する第2通気口162から排気口45に至る通路である。第3通路153は、第3セル室13と連通する第3通気口163から排気口45に至る通路である。第4通路154は、第4セル室14と連通する第4通気口164から排気口45に至る通路である。第5通路155は、第5セル室15と連通する第5通気口165から排気口45に至る通路である。第6通路156は、第6セル室16と連通する第6通気口166から排気口45に至る通路である。第1通路151及び第6通路156は、本発明の第1通路の一例である。第2通路152及び第5通路155は、本発明の第2通路の一例である。第3通路153及び第4通路154は、本発明の第3通路の一例である。
【0054】
第1通路151は、
図7に示される複数のリブ101~127と、
図8に示される複数のリブ171~197とによって形成されている。リブ101~127は、中蓋40の前部上面41から上向きに突出している。リブ171~197は、上蓋50の下面から下向きに突出している。リブ101~127の上端とリブ171~197の下端とは当接しており、熱溶着によって相互に固着されている。
図7及び
図8では、熱溶着される領域がハッチングによって示されている。平面視におけるリブ101~127の形状とリブ171~197の形状とは概ね同じであるので、以下では、
図7を参照して、中蓋40に設けられたリブ101~127について説明し、上蓋50に設けられたリブ171~197の形状についての説明を省略する。
【0055】
リブ127は、第1通気口161の右に位置しており、かつ、前後方向8に沿って延びている。リブ101は、第1通気口161の後に位置しており、かつ、左右方向9に沿って延びている。リブ102は、第1通気口161の前に位置しており、かつ、左右方向9に沿って延びている。第1通路151の一部は、リブ101とリブ102との間に形成されている。第1通気口161を通じて電槽20から中継空間5内に進入したガスは、第1通気口161から左に進む。
【0056】
リブ103は、リブ102の左端から右斜め後方に向かって延びている。リブ103の後端は、リブ101から離間している。第1通路151の一部は、リブ103の後端とリブ101との間に形成されている。ガスは、リブ103の後端とリブ101との間を左方へ向かって通過する。
【0057】
リブ104は、リブ103の左に位置しており、かつ、前後方向8に沿って延びている。リブ104の後端は、リブ101の左端と接続している。第1通路151の一部は、リブ103とリブ104との間に形成されている。ガスは、リブ103とリブ104との間を前方へ向かって通過する。
【0058】
リブ102の前に、リブ110、リブ105、及びリブ106が形成されている。リブ110は、円弧状である。リブ110の左端は、リブ104と接続している。リブ110の左右方向9における中央部から後方に向かって、リブ105が延びている。リブ105の後端は、リブ102から離間している。第1通路151の一部は、リブ105の後端とリブ102との間に形成されている。リブ106は、前後方向8におけるリブ105の中央部から右方に向かって延びている。第1通路151の一部は、リブ106とリブ102との間に形成されている。ガスは、リブ105の後端とリブ102との間を通過した後、リブ106とリブ102との間を右方へ向かって通過する。
【0059】
リブ106の右には、リブ107が形成されている。リブ107は、リブ106から離間しており、かつ、前後方向8に沿って延びている。第1通路151の一部は、リブ106とリブ107との間に形成されている。ガスは、リブ106の右端とリブ107との間を前方へ向かって通過する。
【0060】
リブ107の前には、リブ108が形成されている。リブ108は、左右方向9に沿って延びており、かつ、リブ107の前端と接続している。リブ108の左端からは、リブ109が後方に向かって延びている。リブ109の後端は、リブ106と離間している。第1通路151の一部は、リブ109とリブ106との間に形成されている。ガスは、リブ109とリブ106との間を左方へ向かって通過する。
【0061】
第1通路151の一部は、上述のリブ109とリブ105とリブ110とによって形成されている。ガスは、リブ109と、リブ105及びリブ110との間を前方へ向かって通過する。
【0062】
リブ110の前には、リブ111が形成されている。リブ111は、注入口431の周縁に沿って延びている。リブ110の右端は、リブ111と接続している。第1通路151の一部は、リブ111と、リブ109及びリブ108との間に形成されている。ガスは、リブ111と、リブ127及びリブ108との間を、概ね右斜め前方へ向かって通過する。
【0063】
リブ111の右には、リブ112が形成されている。リブ112は、左右方向9に沿って延びている。リブ112の左端は、リブ111と接続している。ハッチングで示されているように、上述のリブ127の前端は、リブ112と離間している。第1通路151の一部は、リブ127の前端とリブ112との間に形成されている。ガスは、リブ127とリブ112との間を右方へ向かって通過する。
【0064】
リブ112の右端は、リブ113と接続している。リブ113は、注入口432の周縁に沿って延びている。リブ113の後には、リブ124が形成されている。リブ124は、左右方向9に沿って延びている。第1通路の一部はリブ124とリブ113との間に形成されている。ガスは、リブ124とリブ113との間を右方へ向かって通過する。
【0065】
リブ124の左端は、リブ127から離間している。リブ124の左端とリブ127との間は、第1通路151と、後述の第2通路152とが合流する第1合流位置55である。第1通気口161から第1合流位置55までの通路は、第1通路151の第1個別通路を構成する。以下で説明する第1合流位置55から排気口45までの通路は、第1通路151と第2通路152との共通通路を構成する。
【0066】
リブ113の右には、リブ114が形成されている。リブ114は、左右方向9に沿って延びている。リブ114の左端は、リブ113と接続している。ハッチングで示されているように、リブ227の前端は、リブ114から離間している。第1通路151の一部は、リブ227の前端とリブ114との間に形成されている。ガスは、リブ127の前端とリブ114との間を右方へ向かって通過する。
【0067】
リブ114の右端は、リブ115と接続している。リブ115は、注入口433の周縁に沿って延びている。リブ115の後には、リブ125が形成されている。リブ125は、左右方向9に沿って延びている。ガスは、リブ125とリブ115との間を右方へ向かって通過する。なお、リブ125の左端は、リブ227から離間している。リブ125の左端とリブ124との間は、第1通路151と、後述の第3通路153とが合流する第2合流位置56となっている。
【0068】
リブ115の右には、リブ126が形成されている。リブ126は、前後方向8に沿って延びている。リブ126の後端は、リブ125の右端と接続している。第1通路151の一部は、リブ115とリブ126との間に形成されている。ガスは、リブ115とリブ126との間を、概ね右斜め前方へ向かって通過する。
【0069】
リブ126の右には、リブ116が形成されている。リブ116は、注入口434の周縁に沿って延びている。リブ116は、リブ115及びリブ126と離間している。第1通路151の一部は、リブ115とリブ116との間に形成されている。ガスは、リブ115とリブ116との間を前方へ向かって通過する。なお、リブ115とリブ116との間は、第1通路151と、後述の第6通路156との第3合流位置57となっている。
【0070】
リブ116の右には、左から順に、リブ117、118、119、120が形成されている。リブ117は、左右方向9に沿って延びている。リブ117の左端は、リブ116と接続している。リブ117の右端は、リブ118と接続している。リブ118は、注入口435の周縁に沿って延びている。リブ119は、左右方向9に沿って延びている。リブ119の左端は、リブ118と接続している。リブ119の右端は、リブ120と接続している。リブ120は、注入口436の周縁に沿って延びている。また、リブ116、118、120の前には、リブ121が形成されている。リブ121は、左右方向9に沿って延びている。第1通路151の一部は、リブ121と、リブ116、117、118、119、120との間に形成されている。ガスは、リブ121と、リブ116、117、118、119、120との間を右方へ向かって通過する。
【0071】
リブ120の右には、リブ122が形成されている。リブ122は、前後方向8に沿って延びている。リブ122の前端は、リブ121の右端と接続している。リブ122は、リブ120と離間している。第1通路151の一部は、リブ120とリブ122との間に形成されている。ガスは、リブ120とリブ122との間を後方へ向かって通過する。
【0072】
リブ120の後には、リブ123が形成されている。リブ123の左端は、リブ120と接続し、リブ123の右端は、リブ122と接続している。リブ122の上端と熱溶着される上蓋50のリブ192(
図8参照)は、開口63を有する。開口63は、第1通路151と排気口45とを連通する。すなわち、第1通気口161を起点とする第1通路151は、開口63及び排気口45を通じて外部と連通している。
【0073】
リブ120、リブ122、及びリブ123に囲まれた領域には、フィルタ64(
図8参照)が配置されている。フィルタ64は、排気口45から火花が中継空間5内に進入することを防止する。
【0074】
次に、第2通路152について説明する。第2通路152の起点となる第2通気口162は、上述のリブ127の右に位置している。第2通気口162の後には、リブ201が形成されている。リブ201は、左右方向9に沿って延びている。第2通気口162の前には、リブ202が形成されている。リブ202は、左右方向9に沿って延びている。第2通路152の一部は、リブ201とリブ202との間に形成されている。第2通気口162を通じて第2セル室12から中継空間5内に進入したガスは、第2通気口162から右に進む。
【0075】
リブ203は、リブ202の右端から左斜め後方に向かって延びている。リブ203の後端は、リブ201から離間している。第2通路152の一部は、リブ203の後端とリブ201との間に形成されている。第2通気口162を通じて第2セル室12から中継空間5内に進入したガスは、第2通気口162から右に進み、リブ203の後端とリブ201との間を右方へ向かって通過する。
【0076】
リブ227は、リブ203の右に位置しており、かつ、前後方向8に沿って延びている。リブ227の後端は、リブ201の右端と接続している。第2通路152の一部は、リブ203とリブ227との間に形成されている。ガスは、リブ203とリブ227との間を前方へ向かって通過する。
【0077】
リブ202の前に、リブ205及びリブ206が形成されている。リブ206は、左右方向9に沿って延びている。リブ206の右端は、リブ227と接続している。リブ205は、前後方向8に沿って延びている。リブ205の前端は、リブ206と接続している。第2通路152の一部は、リブ205及びリブ206と、リブ202との間に形成されている。ガスは、リブ202とリブ205の後端との間を左方へ向かって通過し、次いで、リブ202とリブ206との間を左方へ向かって通過する。
【0078】
リブ206の左には、リブ207が形成されている。リブ207は、リブ206から離間しており、かつ、前後方向8に沿って延びている。第2通路152の一部は、リブ206とリブ207との間に形成されている。ガスは、リブ206の左端とリブ207との間を前方へ向かって通過する。
【0079】
リブ207の前には、リブ208が形成されている。リブ208は、左右方向9に沿って延びており、かつ、リブ207の前端と接続している。第2通路152の一部は、リブ208とリブ206との間に形成されている。ガスは、リブ208とリブ206との間を右方へ向かって通過する。
【0080】
リブ208の右端は、リブ227から離間している。第2通路152の一部は、リブ208の右端とリブ227との間に形成されている。ガスは、リブ208の右端とリブ227との間を前方へ向かって通過する。
【0081】
また、リブ208は、上述のリブ124の後に位置しており、リブ124と離間している。第2通路152の一部は、リブ208とリブ124との間に形成されている。ガスは、リブ208とリブ124との間を左方へ向かって通過し、リブ124の左端とリブ127との間の第1合流位置55において、第1通路151と合流する。
【0082】
なお、上蓋50の下面からは、第2通路152を形成するリブ201等と熱溶着される複数のリブが下向きに突出している。このリブは、リブ201等とともに、第2通路152を形成する。
【0083】
第3通路153は、第2通路152と同構成である。具体的には、第3通路153を形成するリブ301~303、305~308、327、125の形状は、第2通路152を形成する上述のリブ201~203、205~208、227、124の形状と、それぞれ同一である。第3通路153は、上述の第2合流位置56において、第1通路151と合流している。なお、上蓋50の下面からは、第3通路153を形成するリブ301等と熱溶着される複数のリブが下向きに突出している。リブ301等と熱溶着される上蓋50のリブの形状は、第3通路153を形成するリブ301等と同形状であるので、説明を省略する。
【0084】
第4通路154は、リブ327を対象軸として、第3通路153と左右対称な構成である。具体的には、第4通路154を形成するリブ401~403、405~408、427、410は、第3通路153を形成する上述のリブ301~303、305~308、327、125と、それぞれ左右対称である。第4通路154は、左右方向9に延びるリブ410の右端と前後方向8に延びるリブ427の前端との間の第5合流位置58において、後述の第6通路156と合流している。なお、上蓋50の下面からは、第4通路154を形成するリブ401等と熱溶着される複数のリブが下向きに突出している。リブ401等と熱溶着される上蓋50のリブの形状は、第4通路154を形成するリブ401等と同形状であるので、説明を省略する。
【0085】
第5通路155は、リブ327を対象軸として、第2通路152と左右対称な構成である。具体的には、第5通路155を形成するリブ501~503、505~508、527、510は、第2通路152を形成する上述のリブ201~203、205~208、227、124と、それぞれ左右対称である。第5通路155は、左右方向9に延びるリブ510の右端と前後方向8に延びるリブ527との間の第4合流位置59において、後述の第6通路156と合流している。なお、上蓋50の下面からは、第5通路155を形成するリブ501等と熱溶着される複数のリブが下向きに突出している。リブ501等と熱溶着される上蓋50のリブの形状は、第5通路155を形成するリブ501等と同形状であるので、説明を省略する。
【0086】
第6通路156は、第1通気口161から第3合流位置57までの第1通路151と、リブ327を対象軸として、左右対称な構成である。具体的には、第6通路156を形成するリブ601~603、605~609、122、123、527は、第1通路151を形成する上述のリブ101~103、105~109、104、110、127と、それぞれ左右対称である。第1通路151と第6通路156とは、第3合流位置57で合流している。なお、上蓋50の下面からは、第6通路156を形成するリブ601等と熱溶着される複数のリブが下向きに突出している。リブ601等と熱溶着される上蓋50のリブの形状は、第6通路156を形成するリブ601等と同形状であるので、説明を省略する。
【0087】
第1通路151~第6通路156は、中継空間5内でガスが液化して生成された液体を、
図6に示される第1還流孔231~第6還流孔236から第1セル室11~第6セル室16内に戻す通路としても機能する。第1還流孔231~第6還流孔236は、中蓋40の前部を上下方向7に貫通する。第1還流孔231は、第1セル室11と第1通路151とを連通する。第2還流孔232は、第2セル室12と第2通路152とを連通する。第3還流孔233は、第3セル室13と第3通路153とを連通する。第4還流孔234は、第4セル室14と第4通路154とを連通する。第5還流孔235は、第5セル室15と第5通路155とを連通する。第6還流孔236は、第6セル室16と第6通路156とを連通する。
【0088】
図6に示されるように、中蓋40の前部の下面からは、第1還流孔231~第6還流孔236をそれぞれ囲む6個の周壁リブ66が下向きに突出している。周壁リブ66は、揺れや振動によって電槽20内の電解液6が第1還流孔231~第6還流孔236に到達することを抑制する。各周壁リブ66は、下端から上方に切り欠かれた切欠67をそれぞれ有している。切欠67は、周壁リブ66を伝って電解液6が第1還流孔231~第6還流孔236に到達することを抑制する。
【0089】
第1通路151~第6通路156を形成する中蓋40の前部上面41は、第1還流孔231~第6還流孔236に向かって傾斜している。中継空間5内で液化したガスからなる液体、或いは、揺れや振動によって第1還流孔231~第6還流孔236から第1通路151~第6通路156に進入した電解液6からなる液体は、傾斜する前部上面41によって、第1還流孔231~第6還流孔236に導かれ、第1還流孔231~第6還流孔236から第1セル室11~第6セル室16に戻る。
【0090】
図7に示されるリブ127、227、427、527の前には、蓋本体31の底面である中蓋40の前部上面41から上向きに突出する第1リブ131~第4リブ134がそれぞれ設けられている。第1リブ131と第2リブ132とは同形状であり、第1リブ131及び第2リブ132と第3リブ133及び第4リブ134とは、リブ327を対象軸として、左右対称な形状であるので、第1リブ131について説明し、第2リブ132~第4リブ134についての説明は省略する。リブ131~134は、本発明の凸部の一例である。
【0091】
第1リブ131は、
図9に示されるように、段差面135を第1通気口161側(左側)に有し、傾斜面136を排気口45側(右側)に有する。また、第1リブ131は、段差面135の上端から第1通気口161側に突出する突出片137を有する。突出片137は、例えば、中蓋40と上蓋50とを熱溶着する際に、第1リブ131の一部を溶かすことによって形成することができる。
【0092】
リブ131~134は、第1セル室11~第6セル室16内で液化したガスからなる液体や、揺れや振動によって第1還流孔231~第6還流孔236から第1通路151~第6通路156に進入した液体が排気口45に至ることを抑制し、かつ、リブ131~134から排気口45までの通路にある液体が第1還流孔231~第6還流孔236に戻り易くする。
【0093】
図10を参照して詳しく説明する。鉛蓄電池10を搭載した車両が上り坂(下り坂)を走行すると、鉛蓄電池10が傾く(
図10の上図)。リブ131~134は、段差面135を第1通気口161~第6通気口166側に有するので、図において点線のハッチングで示された液体は、段差面135により、リブ131~134を乗り越えて排気口45側に流れることを抑制される。また、段差面135の上端からは、突出片137が第1通気口161~第6通気口166側に突出している。突出片137は、液体がリブ131~134を乗り越えて排気口45側に流れることをさらに抑制する。
【0094】
一方、鉛蓄電池10を搭載した車両が下り坂(上り坂)を走行すると、鉛蓄電池10は、反対向きに傾く(
図10の下図)。リブ131~134は、傾斜面136を排気口45側に有するので、リブ131~134から排気口45に至るまでの通路にある液体は、傾斜面136により、リブ131~134を乗り越えて第1還流孔231~第6還流孔236側に流れ易くなる。
【0095】
[動作]
【0096】
以下では、鉛蓄電池10が車両に搭載されて使用された場合における、第1セル室11~第6セル室16におけるガスの発生と、発生したガスが第1セル室11~第6セル室16に引き込まれることについて、
図7を参照して説明する。
【0097】
車両に搭載されたエンジンが始動され、エンジンが発熱すると、エンジンからの熱によって鉛蓄電池10の電槽20の第1セル室11~第6セル室16内の電解液6の温度が上昇する。温度が上昇した電解液6は、水蒸気やミストからなるガスを生じさせる。
【0098】
第1セル室11~第6セル室16の温度がほぼ一定になるまでの間に第1セル室11~第6セル室16において発生するガスの量は、第1セル室11~第6セル室16における温度上昇の度合に依存する。温度上昇の度合とは、単位時間当たりの温度上昇の値である。温度上昇の度合が大きいほど、ガスの発生量が多い。第1セル室11~第6セル室16における温度上昇の度合は、エンジンからの熱を受けやすい外側の第1セル室11、第6セル室16が一番大きい。また、内側の第3セル室13、第4セル室14の温度上昇の度合が一番小さい。第2セル室12、第5セル室15の温度上昇の度合は、第3セル室13、第4セル室14の温度上昇の度合と、第1セル室11、第6セル室16の温度上昇の度合の中間である。なお、「内側」、「外側」とは、電槽20の中心位置を基準にした位置である。すなわち、電槽20の中心位置に一番近い第3セル室13、第4セル室14が、一番内側のセル室であり、電槽20の中心位置に一番遠い第1セル室11、第6セル室16が一番外側のセル室である。
【0099】
第1セル室11で発生したガスは、第1通気口161を通じて第1通路151に進入し、第1通路151を通過して、排気口45から外部に排出される。
【0100】
第2セル室12で発生したガスは、第2通気口162を通じて第2通路152に進入し、第1合流位置55で第1通路151に合流し、第1通路151を通過して排気口45から外部に排出される。
【0101】
第3セル室13で発生したガスは、第3通気口163を通じて第3通路153に進入し、第2合流位置56で第1通路151に合流し、第1通路151を通過して排気口45から外部に排出される。
【0102】
第6セル室16で発生したガスは、第6通気口166を通じて第6通路156に進入し、第3合流位置57で第1通路151に合流し、第1通路151を通過して排気口45から外部に排出される。
【0103】
第5セル室15で発生したガスは、第5通気口165を通じて第5通路155に進入し、第4合流位置59で第6通路156に合流し、第3合流位置57で第1通路151に合流し、第1通路151を通過して排気口45から外部に排出される。
【0104】
第4セル室14で発生したガスは、第4通気口164を通じて第4通路154に進入し、第5合流位置58で第6通路156に合流し、第3合流位置57で第1通路151に合流し、第1通路151を通過して排気口45から外部に排出される。
【0105】
エンジンが停止され、外気温によって鉛蓄電池10の電槽20内の第1セル室11~第6セル室16が冷却されると、第1セル室11~第6セル室16内のガスが液化し、第1セル室11~第6セル室16内の内圧が低下する。第1セル室11~第6セル室16内の内圧が低下すると、第1通路151~第6通路156に滞留するガスが第1セル室11~第6セル室16に引き込まれ、第1セル室11~第6セル室16において液化し、電解液6に戻る。
【0106】
各第1セル室11~第6セル室16に引き込まれるガスの量について、
図7を参照して詳しく説明する。第3合流位置57から排気口45に至るまでの第1通路151に滞留するガスは、第3合流位置57において、左側の第1通路151と右側の第6通路156とに分かれて、第1セル室11~第3セル室13と、第4セル室14~第6セル室16とにそれぞれ引き込まれる。第3合流位置57における左側の通路と右側の通路とは、左右対称な形状であるので、第1セル室11~第3セル室13に引き込まれるガスの量と、第4セル室14~第6セル室16に引き込まれるガスの量とは、ほぼ同じである。第3合流位置57における左側の通路と右側の通路とは、左右対称な形状であるので、以下では、左側の第1セル室11~第3セル室13について説明し、右側の第4セル室14~第6セル室16についての説明を省略する。
【0107】
第2合流位置56から排気口45に至るまでの第1通路151に滞留するガスは、第3通路153を通じて第3セル室13に引き込まれ、また、第1通路151及び第2通路152を通じて第1セル室11及び第2セル室12に引き込まれる。第1通路151及び第2通路152を通じて第1セル室11及び第2セル室12に引き込まれるガスの量は、第3通路153を通じて第3セル室13に引き込まれるガスの量よりも、はるかに多い。
【0108】
詳しく説明する。まず、第1セル室11、第2セル室12、第3セル室13におけるガスを引き込む力(以下、吸引力とも記載する)について説明する。第1セル室11は、電槽20における一番外側に位置しており、電槽20の側板21を介した外気との接触面積が第2セル室12及び第3セル室13に比べて大きい。したがって、第1セル室11は、第2セル室12及び第3セル室13に比べて、温度降下の度合が大きい。温度降下の度合とは、単位時間当たりの温度降下の値である。温度降下の度合が最も大きい第1セル室11は、第2セル室12及び第3セル室13に比べて、吸引力が大きい。第2セル室12は、電槽20の側板21を介した外気との接触面積は第3セル室13と同じであるが、温度降下の度合が最も大きい第1セル室11と隣接していることより、第3セル室13に比べ、温度降下の度合が大きい。したがって、第2セル室12は、第3セル室13に比べ、吸引力が大きい。すなわち、第1セル室11~第3セル室13の吸引力は、第1セル室11、第2セル室12、第3セル室13の順に大きい。
【0109】
第2合流位置56では、第1セル室11の吸引力及び第2セル室12の吸引力を合わせた吸引力と、第3セル室13の吸引力とで、ガスが、第1セル室11及び第2セル室12側と、第3セル室13側とに引き込まれる。したがって、第1セル室11及び第2セル室12側に引き込まれるガスの量は、第3セル室13側に引き込まれるガスの量よりも、はるかに多い。
【0110】
第2合流位置56から第1セル室11及び第2セル室12側に引き込まれたガスは、第1合流位置55において、第1セル室11側と、第2セル室12側とに引き込まれる。上述したように、第1セル室11の吸引力は、第2セル室12の吸引力よりも大きいので、第1合流位置55において、第1セル室11側に引き込まれるガスの量は、第2セル室12側に引き込まれるガスの量よりも多い。
【0111】
また、
図7に示されるように、第1通気口161から第1合流位置55に至るまでの第1通路151の長さは、第2通気口162から第1合流位置55に至るまでの第2通路152の長さよりも長い。通路の長さが長い方が、滞留するガスの量も多い。また、第2通気口162から第2合流位置56に至るまでの通路の長さは、第3通気口163から第2合流位置56に至るまでの通路の長さよりも長い。通路の長さが長い方が、滞留するガスの量も多い。
【0112】
上述のように、エンジンが停止した後の第1セル室11の温度降下の度合が一番大きいことを利用して、第1通路151~第3通路153の共通部分に滞留するガスを、第2セル室12、第3セル室13よりも多く、第1セル室11に引き込ませる。また、第1通気口161から第1合流位置55に至るまでの第1通路151の長さを第2通気口162から第1合流位置55に至るまでの第2通路152の長さよりも長くして、第1セル室11に引き込まれるガスの量を、第2セル室12、第3セル室13に引き込まれるガスの量よりも多くしている。
【0113】
また、エンジンが停止した後の第2セル室12の温度降下の度合が第3セル室13の温度降下の度合より大きいことを利用して、第1通路151~第3通路153の共通部分に滞留するガスを、第3セル室13よりも多く、第2セル室12に引き込ませる。また、第2通気口162から第2合流位置56に至るまでの通路の長さを第3通気口163から第2合流位置56に至るまでの第3通路153の長さよりも長くして、第2セル室12に引き込まれるガスの量を、第3セル室13に引き込まれるガスの量よりも多くしている。
【0114】
したがって、エンジンが始動された後、最も多くのガスを発生させる第1セル室11は、エンジンが停止された後、最も多くのガスを引き込む。また、エンジンが始動された後、第3セル室13よりも多くのガスを発生させる第2セル室12は、エンジンが停止された後、第3セル室13よりも多くのガスを引き込む。セル室11~13に引き込まれたガスは、セル室11~13内で液化し、電解液6に戻される。したがって、第1セル室11~第3セル室13における電解液6の減液量の差が低減する。すなわち、第1セル室11~第3セル室13に貯留される電解液6の経時的な量の差が低減する。
【0115】
[実施形態の効果]
【0116】
上述の実施形態では、第1通気口161から第1合流位置55に至るまでの第1通路151の長さは、第2通気口162から第1合流位置55に至るまでの第2通路152の長さよりも長い。したがって、第2セル室12よりも多くの量のガスを発生させる第1セル室11に、第2セル室12よりも多くの量のガスを引き込ませることができる。したがって、第1セル室11と第2セル室12との間の減液量の差を低減することができる。その結果、第1セル室11と第2セル室12との間の電解液6の経時的な量の差を低減することができる。
【0117】
また、上述の実施形態では、第1通路151と第2通路152とが第1合流位置55で合流しており、第1通気口161から排気口45に至るまでの通路の一部と、第2通気口162から排気口45に至るまでの通路の一部とが共通となっている。したがって、蓋本体31内の中継空間5内において、第1通路151と第2通路152とが合流しない構成に比べ、第1通路151及び第2通路152の長さを長くすることができる。通路の長さが長くなることにより、蓋本体31の中継空間5内において冷やされて液化するガスの量が増える。その結果、第1セル室11~第6セル室16における電解液6の減液量を低減することができる。
【0118】
また、上述の実施形態では、第2通気口162から第2合流位置56に至るまでの通路の長さは、第3通気口163から第2合流位置56に至るまでの第3通路153の長さよりも長い。したがって、第3セル室13よりも多くの量のガスを発生させる第2セル室12に、第3セル室13よりも多くの量のガスを引き込ませることができる。したがって、第2セル室12と第3セル室13との間の減液量の差を低減することができる。その結果、第2セル室12と第3セル室13との間の電解液6の経時的な量の差を低減することができる。
【0119】
また、上述の実施形態では、リブ131~134は、段差面135を第1通気口161~第6通気口166側に有し、傾斜面136を排気口45側に有する。したがって、鉛蓄電池10を搭載した車両が坂道を走行する場合などにおいて、電解液6が排気口45から外部に漏れ出ることを抑制することができる。また、第1通路151~第6通路156にある液体を第1還流孔231~第6還流孔236に戻すことができる。その結果、第1セル室11~第6セル室16に貯留された電解液6の減液量を低減することができる。
【0120】
また、上述の実施形態では、リブ131~134は、段差面135の上端から第1還流孔231~第6還流孔236側に突出する突出片137を有する。したがって、液体がリブ131~134を乗り越えることをさらに抑制することができる。その結果、電解液6が排気口45から外部に漏れ出ることをさらに抑制することができる。
【0121】
また、第1通路151~第3通路153を合流させることにより、第1セル室11~第3セル室13の温度降下の度合の差を利用して、第1通路151に引き込まれるガスの量を、第1通路151~第3通路153が合流しない場合よりも多くすることができる。その結果、第1セル室11~第3セル室13に貯留される電解液6の経時的な量の差を、さらに低減することができる。
【0122】
[他の実施形態]
【0123】
上述の実施形態では、第1還流孔231~第6還流孔236と、第1通気口161~第6通気口166との両方が各第1セル室11~第6セル室16に設けられた例を説明した。しかしながら、第1還流孔231~第6還流孔236のみが各第1セル室11~第6セル室16に設けられていてもよい。その場合、第1還流孔231~第6還流孔236は、第1通気口161~第6通気口166の機能を兼ねる。すなわち、第1セル室11~第6セル室16で発生したガスは、第1還流孔231~第6還流孔236を通じて第1通路151~第6通路156に流出する。
【0124】
また、上述の実施形態では、第1通気口161から第1合流位置55に至るまでの第1通路151の長さが第2通気口162から第1合流位置55に至るまでの第2通路152の長さよりも長い構成において、リブ131~134が設けられた例を説明した。しかしながら、リブ131~134は、第1通路151と第2通路152の長さの長短に拘わらず設けられていてもよい。
【0125】
また、上述の実施形態では、排気口45が1つである例を説明した。しかしながら、排気口45は、2つ以上であってもよい。
【0126】
また、上述の実施形態では、第1通路151~第6通路156が合流する例を説明した。しかしながら、第1通路151~第6通路156は、合流していなくてもよい。
【0127】
なお、本発明は、以下の形で実施することができる。
(1)開口を有し、当該開口に連続する内部空間に仕切板が設けられることによって、外縁側に区画された第1セル室及び当該第1セル室より内側に区画された第2セル室を有する電槽と、
上記開口を封口しており、中継空間が内部に区画されており、上記第1セル室と当該中継空間とを連通する第1通気口、上記第2セル室と当該中継空間とを連通する第2通気口、及び当該中継空間と外部とを連通する排気口と、を有する蓋部材と、を備え、
上記蓋部材は、上記第1通気口から上記排気口に至る第1通路、及び上記第2通気口から上記排気口に至る第2通路を形成するリブを有し、
上記第1通路の長さは、上記第2通路の長さより長く設定されている鉛蓄電池。
【0128】
(2)上記第1通路と上記第2通路とは合流しており、
上記第1通気口から上記第1通路と上記第2通路との合流位置までの長さは、上記第2通気口から当該合流位置までの長さよりも長く設定されている(1)に記載の鉛蓄電池。
【0129】
(3)上記仕切板によって、上記第2セル室よりも内側に第3セル室が区画されており、
上記蓋部材は、上記中継空間と上記第3セル室とを連通する第3通気口を有しており、
上記リブは、上記第3通気口から上記排気口に至る第3通路を形成しており、
上記第2通路の長さは、上記第3通路の長さより長く設定されている(1)または(2)に記載の鉛蓄電池。
【0130】
(4)上記蓋部材は、上記中継空間を区画し、底面から突出する凸部を有し、
上記凸部の壁面は、当該排気口側へ漸次傾斜する傾斜面である(1)から(3)のいずれかに記載の鉛蓄電池。
【0131】
(5)上記凸部の先端は、上記通気口側に突出する突出片を有する(4)に記載の鉛蓄電池。
【符号の説明】
【0132】
10・・・鉛蓄電池
11~16・・・セル室
20・・・電槽
30・・・蓋部材
31・・・蓋本体
40・・・中蓋
45・・・排気口
50・・・上蓋
55~59・・・合流位置
101~127・・・リブ
135・・・段差面
136・・・傾斜面
137・・・突出片
151~156・・・通路
161~166・・・通気口
231~236・・・還流孔