(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】同期電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20220720BHJP
【FI】
H02P6/16
(21)【出願番号】P 2019010195
(22)【出願日】2019-01-24
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】曾 徳全
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-164196(JP,A)
【文献】特開2008-312387(JP,A)
【文献】特開2013-225999(JP,A)
【文献】特開2014-161140(JP,A)
【文献】特開2013-013276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/00-6/34
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期電動機の電機子巻線の誘起電圧から位相を検出する電気的位相検出部と
同期電動機の位置検出器の出力信号から位相を検出する機械的位相検出部と
前記機械的位相検出部の出力を補正する位相補正部と、
を備え、
前記位相補正部は、
前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力の差分を演算する位相差演算部と前記同期電動機のターニング運転時の前記位相差演算部の出力に基づく補正値を演算し、前記補正値に基づき前記機械的位相検出部の出力を補正
し、
前記補正値を演算するタイミングは前記機械的位相検出部の出力が第1の所定値と第2の所定値の範囲内の期間とし、
前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力との最大位相差を±ΔθMAXとすると、前記第1の所定値はΔθMAXより大きい値とし、前記第2の所定値は2π-θMAXより小さな値とする同期電動機の制御装置。
【請求項2】
同期電動機の電機子巻線の誘起電圧から位相を検出する電気的位相検出部と
同期電動機の位置検出器の出力信号から位相を検出する機械的位相検出部と
前記機械的位相検出部の出力を補正する位相補正部と、
を備え、
前記位相補正部は、
前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力の差分を演算する位相差演算部と前記同期電動機のターニング運転時の前記位相差演算部の出力に基づく補正値を演算し、前記補正値に基づき前記機械的位相検出部の出力を補正し、
前記補正値を演算するタイミングは前記電気的位相検出部の出力が第3の所定値と第4の所定値の範囲内の期間とし、
前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力との最大位相差を±ΔθMAXとすると、前記第3の所定値はΔθMAXより大きい値とし、前記第4の所定値は2π-θMAXより小さな値とする同期電動機の制御装置。
【請求項3】
同期電動機の電機子巻線の誘起電圧から位相を検出する電気的位相検出部と
同期電動機の位置検出器の出力信号から位相を検出する機械的位相検出部と
前記機械的位相検出部の出力を補正する位相補正部と、
を備え、
前記位相補正部は、
前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力の差分を演算する位相差演算部と前記同期電動機のターニング運転時の前記位相差演算部の出力に基づく補正値を演算し、前記補正値に基づき前記機械的位相検出部の出力を補正し、
前記補正値を演算するタイミングは前記機械的位相検出部の出力が第1の所定値と第2の所定値の範囲内の期間とするとともに、
前記補正値を演算するタイミングは前記電気的位相検出部の出力が第3の所定値と第4の所定値の範囲内の期間とし、
前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力との最大位相差を±ΔθMAXとすると、前記第1の所定値はΔθMAXより大きい値とし、前記第2の所定値は2π-θMAXより小さな値とするとともに、前記第3の所定値はΔθMAXより大きい値とし、前記第4の所定値は2π-θMAXより小さな値とする同期電動機の制御装置。
【請求項4】
前記ターニング運転開始から第1の所定期間後の第2の所定期間に前記同期電動機の励磁装置に界磁強め制御指令を出力し、前記第2の所定期間に前記補正値の演算を行う制御部、を備えた請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の同期電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、同期電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、同期電動機の制御装置を開示する。当該制御装置によれば、トルク脈動を発生させることなく装置を停止させ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の制御装置において、機械的な位置検出器(例えばポジションセンサーやレゾルバ)によるロータ磁極位置すなわち同期電動機の機械的回転位相の検出が実際の電気的な位相と差異があると、逆変換器のサイリスタの点弧タイミングにずれが生じる。この場合、転流失敗を発生し同期電動機を安定に制御できないことがある。また、同期電動機の点検などを行う際に同期電動機と機械的な位置検出器が分離され、再組み立ての際に差異が発生し、点検後に位相の再調整が必要になる場合があった。
【0005】
この発明は、上述の課題を解決するためになされた。この発明の目的は、位置検出器によるロータ磁極位置の検出を自動で補正することができる同期電動機の制御装置を提供することにより、位置検出器による逆変換器の位相制御時に同期電動機を安定に駆動することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る同期電動機の制御装置は、同期電動機の電機子巻線の誘起電圧から位相を検出する電気的位相検出部と同期電動機の位置検出器の出力信号から位相を検出する機械的位相検出部と前記機械的位相検出部の出力を補正する位相補正部と、を備え、前記位相補正部は、前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力の差分を演算する位相差演算部と前記同期電動機のターニング運転時の前記位相差演算部の出力に基づく補正値を演算し、前記補正値に基づき前記機械的位相検出部の出力を補正し、前記補正値を演算するタイミングは前記機械的位相検出部の出力が第1の所定値と第2の所定値の範囲内の期間とし、前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力との最大位相差を±ΔθMAXとすると、前記第1の所定値はΔθMAXより大きい値とし、前記第2の所定値は2π-θMAXより小さな値とする。
この発明に係る同期電動機の制御装置は、同期電動機の電機子巻線の誘起電圧から位相を検出する電気的位相検出部と同期電動機の位置検出器の出力信号から位相を検出する機械的位相検出部と前記機械的位相検出部の出力を補正する位相補正部と、を備え、前記位相補正部は、前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力の差分を演算する位相差演算部と前記同期電動機のターニング運転時の前記位相差演算部の出力に基づく補正値を演算し、前記補正値に基づき前記機械的位相検出部の出力を補正し、前記補正値を演算するタイミングは前記機械的位相検出部の出力が第3の所定値と第4の所定値の範囲内の期間とし、前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力との最大位相差を±ΔθMAXとすると、前記第3の所定値はΔθMAXより大きい値とし、前記第4の所定値は2π-θMAXより小さな値とする。
この発明に係る同期電動機の制御装置は、同期電動機の電機子巻線の誘起電圧から位相を検出する電気的位相検出部と同期電動機の位置検出器の出力信号から位相を検出する機械的位相検出部と前記機械的位相検出部の出力を補正する位相補正部と、を備え、前記位相補正部は、前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力の差分を演算する位相差演算部と前記同期電動機のターニング運転時の前記位相差演算部の出力に基づく補正値を演算し、前記補正値に基づき前記機械的位相検出部の出力を補正し、前記補正値を演算するタイミングは前記機械的位相検出部の出力が第1の所定値と第2の所定値の範囲内の期間とするとともに、前記補正値を演算するタイミングは前記電気的位相検出部の出力が第3の所定値と第4の所定値の範囲内の期間とし、前記電気的位相検出部の出力と前記機械的位相検出部の出力との最大位相差を±ΔθMAXとすると、前記第1の所定値はΔθMAXより大きい値とし、前記第2の所定値は2π-θMAXより小さな値とするとともに、前記第3の所定値はΔθMAXより大きい値とし、前記第4の所定値は2π-θMAXより小さな値とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、位置検出器による逆変換器の位相制御時に同期電動機を安定に駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1における同期電動機の制御装置が適用されるシステムの構成図である。
【
図2】実施の形態1における同期電動機の制御装置による同期電動機の制御の概要を説明するための図である。
【
図3】実施の形態1における同期電動機の制御装置が適用される同期電動機の等価回路図である。
【
図4】実施の形態1における同期電動機の制御装置による誤差の計算方法を説明するための図である。
【
図5】実施の形態1における同期電動機の制御装置による誤差の計算方法を説明するための図である。
【
図6】実施の形態1における同期電動機の制御装置の要部のブロック図である。
【
図7】実施の形態1における同期電動機の制御装置のハードウェア構成図である
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略される。
【0010】
実施の形態1.
図1は実施の形態1における同期電動機の制御装置が適用されるシステムの構成図である。
【0011】
図1において、電源1は、交流電力を出力し得るように設けられる。例えば、電源1は、商用電源である。負荷2は、圧延機のローラ等である。同期電動機3の出力部は、負荷2の入力部に接続される。小型電動機4の出力部は、負荷2の入力部に接続される。位置検出器5は、同期電動機3に設けられる。位置検出器5は、同期電動機3のロータの磁極位置を検出した際にロータ磁極位置検出信号を出力し得るように設けられる。励磁コイル6は、同期電動機3の界磁巻線コイルである。励磁装置7は、同期電動機3の励磁コイル6に図示されない電源から直流電力を供給し得るように設けられる。LCI装置8は、負荷転流型インバータ装置(Load Commutated Invertor)である。LCI装置8は、電源1から供給される商用周波数の交流電力を可変周波数の交流電力に変換し、同期電動機3の電機子巻線に供給し同期電動機3を可変速駆動する。
【0012】
LCI装置8は、順変換器9と直流リアクトル10と逆変換器11と電流検出器12と電圧検出器13と制御装置14とを備える。
【0013】
順変換器9は、電源1が出力した交流電力を直流電力に変換し得るように設けられる。直流リアクトル10は、順変換器9が出力した直流電力を平滑化し得るように設けられる。逆変換器11は、直流リアクトル10が平滑化した直流電力を交流電力に変換し得るように設けられる。電流検出器12は、電源1からLCI装置8に入力される交流電流を検出し得るように設けられる。電圧検出器13は、同期電動機3の電機子巻線電圧を検出し得るように設けられる。
【0014】
制御装置14は、速度制御部15と電流制御部16と機械的位相検出部17と電気的位相検出部18と切替部19と速度検出部20と電流断続制御部21とβ演算部22とα位相制御部23とβ位相制御部24と誘起電圧計算部25と位相補正部27とを備える。
【0015】
速度制御部15は、速度検出部20の出力である同期電動機3の速度の検出値と外部から与えられる速度基準との偏差に基づいて電流指令を出力し得るように設けられる。電流制御部16は、速度制御部15が出力した電流指令と電流検出器12の検出値との偏差に基づいて順変換器9の点弧位相を出力し得るように設けられる。
【0016】
機械的位相検出部17は、位置検出器5が出力したロータ磁極位置検出信号に基づいて同期電動機3の位相を検出し得るように設けられる。電気的位相検出部18は、電圧検出器13が検出した交流電圧に基づいて同期電動機3の位相を検出し得るように設けられる。電気的位相検出部18は例えばPLL(Phase Locked Loop)回路で構成される。切替部19は、機械的位相検出部17からの入力と電気的位相検出部18からの入力とのうちのいずれか一方を出力し得るように設けられる。速度検出部20は、切替部19の出力に基づいて同期電動機3の速度の検出値を計算し得るように設けられる。
【0017】
電流断続制御部21は、切替部19の出力に基づいて電流断続制御指令を出力し得るように設けられる。β演算部22は、切替部19の出力および誘起電圧計算部25の出力と電流検出器12の出力とに基づいてβを演算し得るように設けられる。
【0018】
α位相制御部23は、電流制御部16の出力と電流断続制御部21の出力と電源1の図示されない位相信号に基づいて順変換器9のサイリスタに対するα位相制御を行い得るように設けられる。β位相制御部24は、電流断続制御部21の出力とβ演算部22の出力と切替部19の出力に基づいて逆変換器11のサイリスタに対するβ位相制御を行い得るように設けられる。
【0019】
誘起電圧計算部25は、電圧検出器13の検出値から同期電動機3の誘起電圧を計算し得るように設けられる。位相補正部27は、同期電動機3のターニング運転時において、電気的位相検出部18が検出した誘起電圧の位相θeと機械的位相検出部17が検出した機械的位相信号θmとの比較結果に基づいて同期電動機3の誘起電圧と位置検出器5による検出との位相の誤差を計算し、位置検出器5による検出の位相を補正し得るように設けられる。
【0020】
制御装置14は、制御部28を備える。
【0021】
制御部28は、制御装置14の各部の動作を制御し得るように設けられる。例えば、制御部28は、外部からターニング運転期間を示すターニング信号が入力され、位相補正部27の動作タイミングを制御し得るように設けられる。さらに例えば、制御部28は、励磁装置7に対し強め界磁指令を出力する指令を出力し得るように設けられる。
【0022】
次に、
図2を用いて、同期電動機3の制御の概要を説明する。
図2は実施の形態1における同期電動機の制御装置による同期電動機の制御の概要を説明するための図である。
【0023】
同期電動機3の誘起電圧Eは、次の(1)式で表される。
【0024】
【0025】
ただし、kは定数である。Φは同期電動機3の界磁である。ωは同期電動機3の回転速度である。
【0026】
(1)式において、同期電動機3の回転速度ωが0の場合、誘起電圧Eは、発生しない。時刻t1から時刻t5まではターニング運転が行われる期間であり、同期電動機は、小型電動機4にて駆動される。時刻t5までは、LCI装置は運転されない。同期電動機3の回転速度ωは、定格回転速度の1%程度である速度ω1まで上昇され、この状態で所定時間(時刻t2から時刻t5)保持される。例えば、同期電動機3の回転速度ω1は、30rpm程度になる。この状態は、30分から60分の間維持される。
【0027】
時刻t5以降時刻t7まではLCI装置8により同期電動機3駆動され、回転速度がω1から定格回転速度ω3まで加速される。同期電動機3の回転速度ωが低い場合、誘起電圧Eの値は小さい。したがって、誘起電圧による逆変換器11の転流は困難である場合がある。
【0028】
そこで、低速度領域(例えば回転速度ω2より低い領域)では、制御装置14の電流断続制御部21は、電流断続制御を行う。また、誘起電圧Eが低い場合は、電気的位相検出部18が安定に動作しない場合がある。そこで、具体的には、制御装置14の電流断続制御部21は、切替部19により選択された位相補正部27の出力である補正された機械的位相信号θmeに基づいて例えば60°毎に順変換器9が出力する直流電流を断続させ、また予め設定された逆変換器11のサイリスタを点弧する。
【0029】
その後、同期電動機3の回転速度ωが上昇すると、制御装置14の制御部28は、同期電動機3の誘起電圧Eを利用した負荷転流作用によって、それまで通電していたサイリスタに逆電圧を印加してオフさせる制御を行う。また、誘起電圧Eが大きくなり、電気的位相検出部18が安定に動作するようになると、切替部19は、その出力を電気的位相θeとするように切替える。
【0030】
その後、同期電動機3の回転速度ωが定格回転速度ω3に達すると、例えば、同期電動機3の回転速度ω3が3000rpmに達すると、図示されない開閉装置により同期電動機3は電源1と同期併入され、同期電動機3は、電源1で直接駆動されることがある。
【0031】
次に、
図3を用いて、誘起電圧Eの計算方法を説明する。
図3は実施の形態1における同期電動機の制御装置が適用される同期電動機の等価回路図である。
図3の左側は、等価回路である。
図3の右側は、ベクトル図である。
【0032】
同期電動機3の誘起電圧は、次の(2)式で表される。
【0033】
【0034】
ただし、(2)式において、Vは端子電圧である。Xsは同期リアクタンスである。Iaは電流である。
【0035】
ターニング運転時において、電流Iaは0である。このため、同期電動機3の誘起電圧Eは、端子電圧Vと同じになる。具体的には、誘起電圧Eは、次の(3)式で表される。
【0036】
【0037】
次に、
図4と
図5とを用いて、位相の誤差の計算方法を説明する。
図4と
図5とは実施の形態1における同期電動機の制御装置による誤差の計算方法を説明するための各部の波形の図である。
図4および
図5において、(a)は同期電動機3の誘起電圧、(b)はロータ磁極位置検出信号、(c)は電気的位相信号θe、(d)は機械的位相信号θmである。
【0038】
位置検出器5は、近接センサである。このため、ロータ磁極位置検出信号は、矩形波となる。これに対し、同期電動機3の誘起電圧Eは、正弦波となる。電気的位相信号θeおよび機械的位相信号θmは、周期的に零から2πまで変化する三角波である。
【0039】
同期電動機3の誘起電圧Eとロータ磁極位置検出信号との位相の誤差がない場合は、
図4に示されるように、ロータ磁極位置検出信号は、同期電動機3の誘起電圧Eのゼロクロスの位置においてオンしたりオフしたりする。そして、(c)の波形と(d)の波形は同期している。
【0040】
同期電動機3の誘起電圧Eとロータ磁極位置検出信号との位相の誤差がある場合は、
図5に示されるように、ロータ磁極位置検出信号は、同期電動機3の誘起電圧Eのゼロクロスの位置からずれた位置においてオンしたりオフしたりする。そして、(c)の波形と(d)の波形も同様に零のタイミングがずれている。
【0041】
例えば、ロータ磁極位置検出信号が同期電動機3の誘起電圧Eのゼロクロスが発生する時間からΔtだけずれた時間でオンしたりオフしたりする場合、位相の誤差Δθは、次の(4)式で表される。
【0042】
【0043】
ただし、(4)式において、Tは同期電動機3の回転速度から得られた周期である。
したがって、機械的位相信号θmに対しΔθを補正すればよいことがわかる。
【0044】
次に、
図6を用いて、位置検出器5による検出の位相の補正の詳細を説明する。
図6は実施の形態1における位相補正部27および制御部28の要部のブロック図である。
【0045】
例えば、位相補正部27は、減算部271とラッチ回路272と加算部273と正規化回路274とコンパレータ275とコンパレータ276と3入力のAND回路部277等とを備える。例えば、制御部28は、遅延部281とワンショット回路283とAND回路部284等とを備える。
【0046】
外部からのターニング信号は、制御部28内の遅延部282と2入力の論理積であるAND回路部284に入力される。遅延部282の出力は、ワンショット回路283に入力される。ワンショット回路283の出力は、AND回路部284に入力される。AND回路部284の出力は、位相補正部27内のAND回路部277に入力されるとともに、強め界磁指令として励磁装置7に出力される。
【0047】
遅延部282は、入力信号がLレベルからHレベルになったときその出力が所定時間T1遅延してLレベルからHレベルに変化する回路である。ワンショット回路283は、入力信号がLレベルからHレベルになったときその出力が所定時間T2の間のみHレベルとなる回路である。
【0048】
電気的位相検出部18の出力である電気的位相信号θeは、減算部271の第1入力に接続される。機械的位相検出部17の出力である機械的位相信号θmは、減算部271の第2入力に接続されるとともに加算部273の第1入力に接続される。減算部271は、第1入力である電気的位相信号θeと第2入力である機械的位相信号θmの差分Δθをラッチ回路272の信号入力端子に出力する。ラッチ回路272の出力は、加算部273の第2入力に接続される。
【0049】
コンパレータ275の入力には、機械的位相検出部17の出力である機械的位相信号θmが入力される。コンパレータ275は、入力信号が第1の設定値から第2の設定値の範囲のときに出力がHレベルとし、それ以外はLレベルとなるよう構成される。コンパレータ275の出力は、AND回路部277に入力される。
【0050】
コンパレータ276の入力には、電気的位相検出部18の出力である電気的位相信号θeが入力される。コンパレータ276は、入力信号が第3の設定値から第4の設定値の範囲のときに出力がHレベルとし、それ以外はLレベルとなるよう構成される。コンパレータ276の出力は、AND回路部277に入力される。
【0051】
AND回路部277の出力は、ラッチ回路272の制御端子に入力される。ラッチ回路272は、制御端子の信号がHレベルの場合は入力信号と同じ値を出力信号とし、制御端子入力がHレベルからLレベルに変化した場合は、その出力は直前の値を保持するというラッチ回路である。加算部273の出力は、正規化回路274に入力される。正規化回路274の出力は、補正された機械的位相信号θmeとして切替部19に出力される。正規化回路274は、入力された信号を0以上2π未満の周期信号として正規化して出力する回路である。
【0052】
図1および
図2と
図6を用いて実施の形態1の動作を説明する。なお、ここでは、単純化のために、仮にコンパレータ275およびコンパレータ276の出力が常時Hレベルにあるものとして説明する。
【0053】
時刻t1にてターニングが開始されたとする。ターニングが開始されるとターニング信号は、LレベルからHレベルに変化する。同期電動機3は、小型電動機4にて駆動され、時刻t2以降から時刻t5までは安定に回転速度ω1にて回転している。時刻t2以降の時刻t1から時間T1経過した時刻t3になると、遅延部282の出力は、LレベルからHレベルとなる。さらにワンショット回路283は、時刻t3から時刻t4までの期間T2間Hレベルとする。したがって、時刻t3から時刻t4までの期間は、AND回路部284の出力もHレベルとなる。よって、ワンショット回路283の出力がHレベルの期間において、ラッチ回路272の出力は、減算部271の出力そのものである。ここで、時刻t3から時刻t4までの期間においては、同期電動機3の回転速度はω1で安定しているので、減算部271の出力である差分Δθも安定している。時刻t4になり、ワンショット回路283の出力がHレベルからLレベルになると、ラッチ回路272は、その直前の値であるΔθt4を保持する。すなわち、時刻t4以降のラッチ回路272の出力は、Δθt4となる。Δθt4は、機械的位相検出と電気的位相検出の差分であるので加算部273で機械的位相検出部17の出力であるθmとΔθt4を加算した補正することにより精度の高い同期電動機の位相を得ることができる。したがって、時刻t5以降、時刻t6まで、機械的位相検出を使用してのLCI装置8による同期電動機3の駆動期間に精度の高い位相信号を使用することが可能である。
【0054】
さらにワンショット回路283は、遅延部282から遅延信号の入力を受け付けた際に、AND回路部283経由で一定の時間幅T2の界磁強め信号をHレベルにして出力する。
【0055】
励磁装置7は、界磁強め信号の入力がHレベルの場合励磁コイル6に流す電流を定格時より増大する。その結果、界磁強め制御が行われ、前述の(1)式により界磁が大きくなるため、誘起電圧が高くなり、低い回転速度でもより精度よく電気的位相検出が可能である。したがって、位相の誤差Δθの検出が精度よく行うことができる。また、界磁強め制御が行われる期間は、時間幅T2の比較的短期間であるので、励磁装置7、励磁コイル6等に与えるストレスの影響を低減することができる。
【0056】
ここで、コンパレータ275およびコンパレータ276の作用について説明する。
図5の(c)および(d)から判明するように電気的位相信号θeおよび機械的位相信号θmは三角波であり、その値は0から2π(厳密には2π未満)の間で残増するが、2πから0には急変する。したがって、このタイミングにおいてはΔθが急変するので、急変したΔθをラッチ回路272が保持し、その値で補正を行うことは好ましくない。よって、コンパレータ275およびコンパレータ276およびAND回路部277にてΔθが急変することが想定されるタイミングであるθmおよびθeが0に近い領域および2πに近い領域では、常にラッチ回路272の制御端子がLレベルになるように構成している。
【0057】
なお、機械的位相信号θmと電気的位相信号θeの最大位相差は、同期電動機3、位置検出器5の機械的な精度や組み立て誤差などから予測することができる。この最大位相差を±ΔθMAXとすると、第1および第3の設定値はΔθMAXより大きい値とし、第2および第4の設定値は2π―θMAXより小さな値とすることが望ましい。また、コンパレータ275またはコンパレータ276のいずれか片方を省略してAND回路部277を2入力としてもよい。
【0058】
さらに、AND回路部284は、ターニング運転を示す信号と界磁強め信号とが同時に入力されているときのみ制御信号を出力するためのインターロック回路であり、必要により省略してもよい。
【0059】
以上で説明した実施の形態1によれば、ターニング運転時において、制御装置14は、電圧検出器13に検出された同期電動機3の誘起電圧から位相を演算し電気的位相信号を得る。制御装置14は、誘起電圧による電気的位相信号と機械的位相信号との比較結果に基づいて同期電動機3の誘起電圧と位置検出器5による検出との位相の誤差を計算する。制御装置14は、計算された位相の誤差に基づいて位置検出器5による機械的位相信号を補正し、その補正値をターニング運転後のLCI装置8の転時に使用する。このため、位置検出器5による機械的位相検出を自動で補正することができる。その結果、電流断続制御等における同期電動機の低速領域において、LCI装置8の点弧タイミングを適正にすることができる。したがって、機械的な位置検出器による逆変換器の位相制御時に同期電動機を安定に駆動することができる。
【0060】
この際、位置検出器5の精密な調整は必要ない。このため、専門の調整員を現地に派遣しなくてよい。その結果、位置検出器5の調整時間および調整費用をなくすことができる。
【0061】
また、制御装置14は、位置検出器5による検出の位相の補正の際、電圧検出器13および位置検出器5の検出タイミングにおいて同期電動機3の界磁強め制御を行う。このため、同期電動機3の誘起電圧を大きくした状態で位置検出器5による位相の検出をより正確に補正することができる。
【0062】
なお、同期電動機3が少なくとも1回転する間は、位置検出器5による検出の位相の補正を継続すればよい。なお、1周期の間に補正値が変化する場合は、平均化等の手段を追加してもよい。
【0063】
次に、
図7を用いて、制御装置14の例を説明する。
図7は実施の形態1における同期電動機の制御装置のハードウェア構成図である。
【0064】
制御装置14の各機能は、処理回路により実現し得る。例えば、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える。例えば、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える。
【0065】
処理回路が少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える場合、制御装置14の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、少なくとも1つのメモリ100bに格納される。少なくとも1つのプロセッサ100aは、少なくとも1つのメモリ100bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、制御装置14の各機能を実現する。少なくとも1つのプロセッサ100aは、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。例えば、少なくとも1つのメモリ100bは、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等である。
【0066】
処理回路が少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらの組み合わせで実現される。例えば、制御装置14の各機能は、それぞれ処理回路で実現される。例えば、制御装置14の各機能は、まとめて処理回路で実現される。
【0067】
制御装置14の各機能について、一部を専用のハードウェア200で実現し、他部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、制御部28の機能については専用のハードウェア200としての処理回路で実現し、制御部28の機能以外の機能については少なくとも1つのプロセッサ100aが少なくとも1つのメモリ100bに格納されたプログラムを読み出して実行することにより実現してもよい。
【0068】
このように、処理回路は、ハードウェア200、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせで制御装置14の各機能を実現する。
【符号の説明】
【0069】
1 電源、 2 負荷、 3 同期電動機、 4 小型電動機、 5 位置検出器、 6 励磁コイル、 7 励磁装置、 8 LCI装置、 9 順変換器、 10 直流リアクトル、 11 逆変換器、 12 電流検出器、 13 電圧検出器、 14 制御装置、 15 速度制御部、 16 電流制御部、 17 機械的位相検出部、 18 電気的位相検出部、 19 切替部、 20 速度検出部、 21 電流断続制御部、 22 β演算部、 23 α位相制御部、 24 β位相制御部、 25 誘起電圧計算部、 27 位相補正部、 28 制御部、 271 減算部、 272 ラッチ回路、 273 加算部、 274 正規化回路、 275 コンパレータ、 276 コンパレータ、 277 AND回路部、 281 遅延部、 283 ワンショット回路、 284 AND回路部、 100a プロセッサ、 100b メモリ、 200 ハードウェア