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特許7107304ホットスタンピング箔および積層光学装飾体付印刷体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】ホットスタンピング箔および積層光学装飾体付印刷体
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/17 20060101AFI20220720BHJP
   B41M 3/06 20060101ALI20220720BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20220720BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220720BHJP
   B42D 25/30 20140101ALN20220720BHJP
【FI】
B44C1/17 G
B41M3/06 Z
B32B7/06
B32B27/00 E
B42D25/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019513708
(86)(22)【出願日】2018-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2018016347
(87)【国際公開番号】W WO2018194167
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2017084606
(32)【優先日】2017-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】山本 華子
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-191595(JP,A)
【文献】特開2010-240994(JP,A)
【文献】特開2005-292818(JP,A)
【文献】特開2013-071324(JP,A)
【文献】国際公開第2005/097515(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 1/17
B32B 27/32
B32B 33/00
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムまたはコートされたベースフィルムのキャリアと、
前記キャリア上に剥離可能に形成された積層光学装飾体を有し、
前記積層光学装飾体は、
積層光学構造体と、
前記積層光学構造体上の前記キャリアの反対側に形成された酸変性ポリオレフィンと塩化ビニル酢酸ビニル共重合体とのミクスチャーのアンカー層と、
前記アンカー層上の前記積層光学構造体の反対側に形成された接着層と、を有し、
前記接着層は、熱可塑性の酸変性ポリオレフィンを主剤とする接着性ドメインと、ブロッキング防止剤を主剤とする非粘着性ドメインとを有し、
前記ブロッキング防止剤が、樹脂フィラーまたは無機フィラー、もしくはその両方であり、
前記ブロッキング防止剤のガラス転移温度が、60℃より高い、
ホットスタンピング箔。
【請求項2】
前記ブロッキング防止剤の主剤の軟化温度または融点が、前記接着性ドメインの主剤の熱可塑性の酸変性ポリオレフィンの融点よりも高い、
請求項1に記載のホットスタンピング箔。
【請求項3】
前記アンカー層の酸変性ポリオレフィンと、前記接着層の接着性ドメインの酸変性ポリオレフィンは同じ種類である、
請求項1または2記載のホットスタンピング箔。
【請求項4】
前記接着層が含有する酸変性ポリオレフィンの融点が60℃から120℃の間である、請求項1から3のいずれか一項に記載のホットスタンピング箔。
【請求項5】
前記アンカー層のミクスチャーが有機シラン化合物を含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のホットスタンピング箔。
【請求項6】
前記アンカー層のミクスチャーが有機シラン化合物を含有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のホットスタンピング箔。
【請求項7】
前記積層光学構造体は、前記キャリア側から順に、熱可塑樹脂と表面改質剤を含有するトップ層と、無機堆積層とを有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載のホットスタンピング箔。
【請求項8】
印刷体に請求項1から7のいずれか一項に記載のホットスタンピング箔の前記積積層光学装飾体がホットスタンプされた、
積層光学装飾体付印刷体。
【請求項9】
前記印刷体が、印刷されたポリマーフィルムまたは、印刷可能なポリマーフィルムである、
請求項8に記載の積層光学装飾体付印刷体。
【請求項10】
前記積層光学装飾体、前記印刷体、または、前記積層光学装飾体および前記印刷体が、表面に印刷を有する、
請求項8または9に記載の積層光学装飾体付印刷体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ホットスタンピング箔について、記載されている。ホットスタンピング箔を、転写対象にホットスタンプする方法について、記載されている。積層光学装飾体付転写対象について、記載されている。積層光学装飾体付転写対象は、ホットスタンピング箔を転写対象にホットスタンプすることで得られる。また、ホットスタンピング箔を、印刷体にホットスタンプする方法について、記載されている。積層光学装飾体付印刷体について、記載されている。積層光学装飾体付印刷体は、ホットスタンピング箔を印刷体にホットスタンプすることで得られる。印刷体は、印刷可能な紙、印刷可能なポリマーフィルム、印刷された紙、印刷されたポリマーフィルムとすることができる。
本願は、2017年4月21日に日本に出願された特願2017-084606号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ホットスタンピング箔は、転写対象にホットスタンプされる。転写対象は印刷体とできる。印刷体は、セキュリティ印刷とできる。セキュリティ印刷は、偽造防止技術が必要とされる印刷である。偽造防止技術は、偽造、改ざん、秘密にされるべき情報の盗み読み等の不正の防止や、不正の有無の判別を容易とする技術である。ホットスタンピング箔は、セキュリティ印刷にホットスタンプするホットスタンピング箔とできる。セキュリティ印刷は、チケット、紙幣、認証カード、タグ、シール、認認証ページ、ゲームカード、ギフト券、証明書、ポスター、グリーティングカード、ビジネスカード等である。ホットスタンピング箔は、認証が必要とされるセキュリティ印刷の表面に貼付される。
チケットや紙幣やカードや冊子、ポスター等での偽造防止や、ブランド品や高級品等の一般的に高価なものへの適用ニーズが多く、真正であることの証明として、ホットスタンピング箔を物品等にホットスタンプし適用できることが知られている。ホットスタンピング箔は、これらの要求に効果的に応えることができる。また、ホットスタンピング箔を、印刷体にホットスタンプすることで、印刷体に意匠性に優れた視覚効果を付与することができる。
【0003】
近年、ホットスタンピング箔において光学効果を発現させる技術の一つとして、光の回折を用いて立体画像、特殊な装飾画像、特殊な色の変化等を表現し得るホログラムや回折格子、また、屈折率の異なる多層の無機堆積層によって見る角度により色の変化(カラーシフト)を生じる多層薄膜、等の技術を利用し貼り付け可能とした積層光学装飾体である、いわゆるOVD(Optical(ly) Variable Device)が利用されている。
【0004】
OVDは、高度な製造技術を要すること、独特な視覚効果を有し、一瞥で真偽が判定できることから有効な偽造防止手段としてカード、有価証券、証明書類等の一部あるいは全面に形成されて使用されている。最近では、有価証券以外にもスポーツ用品やコンピュータ部品をはじめとする電気製品ソフトウェア等に貼り付けられ、その製品の真正さを証明する認証シールや、それら商品のパッケージに貼りつけられる封印シールとしても広く使われるようになってきた。
【0005】
一般にOVDは、精巧な偽造が難しく確認が容易な偽造防止手段である。チケットや紙幣やカードや冊子等の紙やプラスチックにOVDを貼付する場合には、貼り替えを困難とする観点から、多くの場合熱転写方式が採用されている。積層光学構造体であるOVDの需要の拡大に応えるため、熱転写のスループットの向上が要求されている。熱転写のスループットの向上には、少ない熱量で転写対象へ転写できるホットスタンピング箔が必要となる。そのため、タックが強く密着性の良い粘着剤や、少ない熱量でも接着可能な融点の低い熱可塑樹脂のホットメルト接着剤がホットスタンピング箔の接着層に用いられつつある。
【0006】
しかし、タックの強い粘着剤や、融点の低いホットメルト接着剤を用いた場合には、保管中にブロッキングが生じて、製品の一部が、保管中に貼り付いてしまうことで欠陥が発生し、転写前にホットスタンピング箔が使用不能となるという問題があった。この問題に対し、ブロッキング防止効果を持った接着剤が提案されている(たとえば特許文献1および2参照。)。特許文献1や2に記載の技術では、接着剤にフィラーを添加することにより接着層と基材との接触面積を小さくすることでブロッキングを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-71698号公報
【文献】特開2009-291996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および2に記載の技術は、ブロッキング防止には効果がある。しかし、接着層と転写対象との接触面積が小さ過ぎるために、OVDと転写対象との密着力が低下し、クランプリング耐性が悪化することがある。クランプリング耐性が悪化すると、OVDが形成された転写対象を水に浸漬させたときにOVDが剥がれやすくなる。水に浸漬させたときに剥がれやすいOVDは、紙幣や有価証券等の水に濡れるおそれのある媒体に使用するには不向きである。
【0009】
このように、転写後における十分なクランプリング耐性と、保管時のブロッキング防止効果とを両立させたホットスタンピング箔は未だなく、その登場が強く求められている。
【0010】
上記事情を踏まえ、本発明は、転写後のクランプリング耐性と、保管時のブロッキング防止とを両立させたホットスタンピング箔およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様は、ベースフィルムまたはコートされたベースフィルムのキャリアと、キャリア上に剥離可能に形成された積層光学装飾体とを備え、積層光学装飾体は、積層光学構造体と、積層光学構造体上のキャリアの反対側に形成された酸変性ポリオレフィンと塩化ビニル酢酸ビニル共重合体とのミクスチャーのアンカー層と、アンカー層上の前記積層光学構造体の反対側に形成された接着層とを有し、接着層は、熱可塑性の酸変性ポリオレフィンを主剤とする接着性ドメインと、ブロッキング防止剤を主剤とする非粘着性ドメインとを有し、ブロッキング防止剤が、樹脂フィラーまたは無機フィラー、もしくはその両方であり、ブロッキング防止剤のガラス転移温度が、60℃より高い、ホットスタンピング箔である。
【0013】
本発明の第二の態様は、印刷体に本発明のホットスタンピング箔の積層光学装飾体がホットスタンプされた、積層光学装飾体付印刷体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のホットスタンピング箔によれば、転写後のクランプリング耐性と、保管時のブロッキング防止と、転写時の良好な転写適正とを両立させることができる。
本積層光学装飾体付印刷体は、意匠性に優れた視覚効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本ホットスタンピング箔が模式的に図解された断面図。
図2】本ホットスタンピング箔の接着層を模式的に図解された断面図。
図3】ブロッキング防止剤を含有する接着層と転写対象との接触が模式的に図解されている。
図4】転写時の接着層と転写対象との接触が模式的に図解されている。
図5】ホットスタンピング箔の転写適性が模式的に図解されている。
図6】本ホットスタンピング箔によるバリ抑制のメカニズムが模式的に図解されている。
図7】ホットスタンピング箔の温度変化を示す概念図。
図8】積層光学装飾体付印刷体の一例を示す平面図。
図9】同積層光学装飾体付印刷体の部分模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のホットスタンピング箔によれば、転写後のクランプリング耐性と、保管時のブロッキング防止と、転写時の良好な転写適正とを両立させることができる。
【0017】
以下で、本発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。
図1は、本ホットスタンピング箔1を概略的に図解する断面図である。ホットスタンピング箔は積層光学装飾体25を剥離可能に保持する。ホットスタンピング箔は熱圧で転写対象に積層光学装飾体25を転写できる。ホットスタンピング箔1は、キャリア10と、キャリア10上に形成された積層光学装飾体25を備える。キャリア10と積層光学装飾体25は接している。積層光学装飾体25は、積層光学構造体20と、積層光学構造体20上に形成されたアンカー層30と、アンカー層30上に形成された接着層40とを備える。積層光学構造体20とアンカー層30とは接しているか、間に被覆層を介している。アンカー層30と接着層40とは接している。
【0018】
キャリア10は、ホットスタンピング箔1が転写対象に熱転写されるまで積層光学装飾体25を保持する。ホットスタンピング箔1が転写対象に熱転写された後は、積層光学構造体20との境界で剥離される。言い換えれば、ホットスタンピング箔1が転写対象に熱転写された後は、積層光学構造体20との境界で剥離される。キャリア10は、ベースフィルムまたは、コートされたベースフィルムである。ベースフィルムは単層または多層のポリマーフィルムとすることができる。ポリマーフィルムは、押出法、溶液流延法、カレンダー法により製造できる。押出法としては、インフレーション法、Tダイ法を適用できる。また、ポリマーフィルムは、延伸、無延伸のフィルムとできる。ポリマーフィルムの材料は、熱可塑プラスチック、溶解性樹脂とすることができる。熱可塑プラスチックは、ポリオレフィン等とすることができる。ポリオレフィンは、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PP(ポリプロピレン)としてもよい。ポリオレフィンは、積層光学構造体20と適度な接着性がある。ポリオレフィン樹脂は、積層光学構造体20を剥離可能に保持することができる。ベースフィルムは、耐熱フィルム、耐圧フィルムとすることができる。耐熱材料、耐圧材料は、転写時にかかる熱や圧力による変形や変質を少なくできる。コートされたベースフィルムは、ベースフィルムの片面または両面がコートされている。このコートは、樹脂単体、粉体を含有した樹脂をコーティングしたものとできる。このコーティングは、マイクログラビアコート、グラビアコート、ダイコート、スクリーンコートを適用できる。コートする樹脂は、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂のいずれか、いずれかの共重合樹脂、いずれかの複合樹脂、いずれかの共重合樹脂のいずれかの複合樹脂とすることができる。樹脂が含有する粉体は、シリカ粉体、シリコーン粉体、フッ素系粉体、カーボン粉体とできる。コーティングを積層光学構造体側にした場合、積層光学構造体の保持、剥離を調整できる。コーティングを積層光学構造体の反対側にした場合、積層光学構造体の接着層とのブロッキングを防止すること、またはホットスタンピング箔の搬送をスムーズにすること、またはこれら両方を実現することができる。ベースフィルムのキャリア10の厚さは、例えば4μm以上とできる。厚さが4μm未満であると、キャリアとしての物理的強度が不十分となりホットスタンピング箔の取り扱いが困難となる。キャリア10の厚さは12~50μmの範囲とすることができる。
また、用途や目的に応じて、ベースフィルムは、紙や合成紙、プラスチック複層紙や樹脂含浸紙とすることができる。
【0019】
積層光学構造体20は、キャリア10側から順にトップ層21、ラッカー層22、無機堆積層23を有する。ラッカー層22は、トップ層21上の全面に形成されるか、一部に形成されるか、省略される。無機堆積層23は、ラッカー層22上に形成することができる。ラッカー層が省略される場合は、トップ層21上に無機堆積層23を形成することができる。さらに、無機堆積層23のラッカー層22の反対側に被覆層24を有してもよい。積層光学構造体20の基本構成は周知であるが、各層について以下に説明する。
【0020】
トップ層21は、積層光学構造体20をキャリア10から剥離可能に支持させる。ホットスタンピング箔1の転写後、積層光学構造体20のトップ層21は転写対象の反対側に位置し、外的損傷から積層光学構造体を保護する。
トップ層21は、熱可塑ポリマーと表面改質剤を含有する層とできる。トップ層21の熱可塑ポリマーは、ガラス転移温度が90℃以上、130℃の樹脂とできる。熱可塑ポリマーは、アクリルポリマーやポリエステル、ポリアミド、ポリイミドのいずれか、いずれかの共重合、いずれかの複合、いずれかの共重合のいずれかの複合とできる。表面改質剤は、パウダー、ワックス、オイルとできる。パウダーは、耐熱パウダーとできる。耐熱パウダーは、シリカパウダー、ポリエチレンパウダー、フッ素系パウダー、シリコーン系パウダーとすることができる。ワックスは、パラフィンワックス、シリコーンワックス、カルナバロウとすることできる。オイルは、シリコーンオイルとできる。トップ層21は、着色されてもよい。トップ層21の樹脂に顔料、染料を添加することにより着色できる。顔料は、無機顔料、有機顔料、無機顔料と有機顔料の混合とすることができる。または、顔料は、蛍光性顔料、パール顔料、磁性顔料の単体、同種のブレンド、異種の混合、異種の同種のブレンドの混合とすることもできる。染料は、天然染料、合成染料、天然染料と合成染料の混合とすることができる。または、染料は、蛍光性染料とすることもできる。トップ層21は、キャリア10上に印刷、塗布によって形成することができる。塗布は、グラビアコートやマイクログラビアコート、ダイコートとすることができる。印刷は、グラビア印刷、スクリーン印刷とすることができる。トップ層21の厚みは、0.5μm以上5μm以下の範囲とできる。トップ層21は、印刷を受容できる。アクリル樹脂は、印刷を受容しやすい。印刷を受容可能なトップ層を有する積層光学装飾体付印刷体は、印刷可能である。印刷を受容可能なトップ層を有する積層光学装飾体付印刷体は、積層光学装飾体と印刷体がともに印刷が可能となる。
【0021】
ラッカー層22は、ラッカー層22の一つの表面、または両面に凹凸形状のレリーフ構造を有することができる。ラッカー層22は、紫外線硬化樹脂、熱可塑樹脂、熱硬化樹脂とすることができる。紫外線硬化樹脂は、硬化樹脂である、エチレン性不飽和結合、又はエチレン性不飽和基を持つモノマー、オリゴマー、ポリマーとすることができる。エチレン性不飽和結合、又はエチレン性不飽和基を持つモノマーとしては、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとできる。エチレン性不飽和結合、又はエチレン性不飽和基を持つオリゴマーとしては、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレートのオリゴマーまたはコオリゴマーとできる。ポリマーとしては、ウレタン変性アクリル、エポキシ変性アクリルのポリマーまたはコポリマーとできる。紫外線硬化樹脂としては、アクリル樹脂、アクリルアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂、エチレンメタクリレート樹脂のいずれか、いずれかの共重合樹脂、いずれかの複合樹脂、いずれかの共重合樹脂のいずれかの複合樹脂とできる。ラッカー層21は、着色されてもよい。ラッカー層21の樹脂に顔料、染料を添加することにより着色できる。顔料は、無機顔料、有機顔料とすることができる。または、顔料は、蛍光性顔料、パール顔料、磁性顔料とすることもできる。染料は、天然染料、合成顔料とすることができる。または、染料は、蛍光性染料とすることもできる。
ラッカー層22の熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂のいずれか、いずれかの共重合樹脂、いずれかの複合樹脂、いずれかの共重合樹脂のいずれかの複合樹脂とすることができる。ラッカー層22の熱硬化樹脂は、ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂のいずれか、いずれかの共重合樹脂、いずれかの複合樹脂、いずれかの共重合樹脂のいずれかの複合樹脂とすることができる。ラッカー層22の厚みは、0.5μm以上、30μm以下の範囲とできる。
【0022】
ラッカー層22のレリーフ構造は、凹部または凸部、もしくは凹部および凸部を有する。レリーフ構造は、光学回折、光反射抑制、等方性または異方性散乱効、反射、偏光選択性、波長選択性などの光学的性質を有する。レリーフ構造の光学効果は、目視や機械検知等によって、検知できる。レリーフ構造の光学的性質は偽造改ざん防防止や意匠性向上の効果を発現する。光学的性質は、1つ若しくは複数の光学効果を有するレリーフを組み合わせて選択する事ができる。
ラッカー層22の表面のレリーフ構造により、積層光学構造体20は、回折、光反射抑制、等方性または異方性の光散乱、屈折、偏光・波長選択性の反射、透過、光反射抑制などの光学的機能を備える。ラッカー層22のレリーフ構造として、回折格子構造の領域を設けることで、積層光学構造体20は、光を回折させる性質をレリーフ構造により得られる。回折格子構造のピッチは、0.5μm以上2μm以下の範囲とすることができる。回折格子構造の深さは、0.05μm以上0.5μm以下の範囲としてもよい。ラッカー層22に、モスアイ構造や深い格子構造を設けることで、積層光学構造体20は光反射抑制の性質や、偏光・波長選択性の反射、透過、光反射抑制をレリーフ構造により得られる。ラッカー層22に、複数の線状部または複数のドット状部が非周期的に配置された散乱構造の領域を設けることで、積層光学構造体20は等方的なあるいは異方的な散乱光を射出する性質をレリーフ構造により得られる。散乱構造の平均ピッチは、0.5μm以上3μm以下とすることができる。深さは、0.05μm以上0.5μm以下としてもよい。ラッカー層22に、ミラー構造の領域を設け、隣接する層と異なる屈折率とすることで、レリーフ構造は反射の性質を積層光学構造体20に付与する。ミラー構造の平均ピッチは3μmより大きく、30μm以下とすることができる。深さは、0.5μmより深く、20μmより浅くすることができる。積層光学構造体20の光学的性質は、目視や機械検知によって、知覚、検知することができる。これにより偽造改ざん防止性能や意匠性を向上することができる。ラッカー層22の表面のレリーフ構造は、複数のレリーフ構造領域を有してもよい。レリーフ構造領域は、単体として、または複数の統合として画像を表示できる。画像は、絵、写真、肖像、ランドマーク、マーク、ロゴ、シンボルの単体またはそれらの組合せとできる。
【0023】
無機堆積層23は、レリーフ層22で生じる光学効果を容易に観察可能とする機能を有する。
無機堆積層23は、ラッカー層22上の一部または全面に形成される。無機堆積層23がラッカー層22上の一部に形成された場合、積層光学構造体20の製造により高度な加工技術が要求され、より精緻な意匠となる為、ホットスタンピング箔1はより高い偽造防止効果を有することができる。
無機堆積層23は、ラッカー層22で生じる光学的性質を容易に観察可能とする。無機堆積層23は、構造色を表示してもよい。構造色は、干渉による発色などである。または、構造色は、観察角度や照明角度により変化する。構造色は、虹色や高彩度の色である。無機堆積層23の材料としては、金属またはケイ素の単体、合金、またはこれらの化合物とすることができる。単体、合金、またはこれらの化合物を構成する金属またはケイ素は、Si、Al、Sn、Cr、Ni、Cu、Agのいずれか又はいずれかの組合せとすることができる。無機堆積層23の厚みは、10~500nmの範囲とすることができる。無機堆積層は、減圧下で無機材料を堆積することで形成できる。無機堆積層23は、真空蒸着やスパッタ、CVDにより形成できる。
無機堆積層23は単層または多層である。多層の無機堆積層23は、金属の単体と金属の化合物を交互に積層したもの、異種の金属の単体を交互に積層したもの、異種の金属の化合物を交互に積層したものとすることができる。金属の単体と金属の化合物とを交互に積層した無機堆積層23は、アルミニウムの層に二酸化ケイ素の層を積層した多層などである。
【0024】
被覆層24は、無機堆積層23上の全面または一部を被覆する。被覆層24は、無機堆積層23上の一部にレジストとして設け、被覆層がない部分の無機堆積層23を選択的に除去することで、無機堆積層23をラッカー層22上の一部に設けることができる。無機堆積層23がラッカー層22上の一部に設けられている場合は、被覆層24は、一部に設けられた無機堆積層に対応させて設けてもよい。
被覆層24を無機堆積層23上に印刷、塗布、堆積することで無機堆積層23を被覆層24で被覆できる。被覆層24を無機堆積層23上の一部に設ける方法として、被覆層24を印刷で部分的に設ける方法、エッチング液の透過性の異なる被覆層24を無機堆積層23上に堆積させ被覆層24と無機堆積層23をエッチング液の透過性の差により選択的にエッチングする方法、紫外線露光によって溶解する或いは溶解し難くなる樹脂材料を塗布し、パターン状に紫外線を露光した後、被覆層24を現像し、エッチング液で無機堆積層23を選択的にエッチングする方法、無機堆積層23上に溶解性の樹脂を部分的に形成した後に被覆層24を形成し、溶解性樹脂および溶解性樹脂上の被覆層を溶剤で部分的に除去する方法を採用できる。被覆層24を部分的に設ける方法であれば、他の周知の各種加工技術を適用してもよい。
被覆層24の材料は、樹脂または無機材料または樹脂と無機材料のコンポジットとすることができる。被覆層24の樹脂はエッチング耐性を有する樹脂とすることができる。被覆層24の樹脂は硬化樹脂とできる。硬化樹脂は、エッチング耐性を得やすい。被覆層24の樹脂は、ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂のいずれか、いずれかの共重合樹脂、いずれかの複合樹脂、いずれかの共重合樹脂のいずれかの複合樹脂とできる。ビニル系樹脂は、塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコールとすることができる。ポリスチレン系樹脂は、ポリスチレン系ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体とすることができる。アクリル系樹脂は、ポリメチルメタクリレートとすることができる。また、これらのうち少なくとも2種類以上を共重合した樹脂であってもよい。さらには、上記樹脂の分子には、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、アミン結合、シラノール結合などを含んでいてもよい。これらの結合に関わる官能基を有する2種類以上の樹脂の化学構造の一部を架橋させてもよい。硬化系樹脂は、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化樹脂、アクリレート系樹脂などの紫外線硬化樹脂などとすることができる。被覆層24の樹脂は、その他電子線硬化樹脂、湿気硬化樹脂とすることもできる。
被覆層24の厚みは、0.1μm以上、5μm以下の範囲とできる。
【0025】
アンカー層30は、積層光学構造体20と接着層40との密着性を向上させる機能を有する。
アンカー層30は、酸変性ポリオレフィンと塩化ビニル酢酸ビニル共重合体とのミクスチャーである。酸変性ポリオレフィンは、エチレンと酸成分との共重合体等としてもよい。エチレンと酸成分との共重合体は、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合体とすることができる。エチレンと酸成分との共重合体は、エチレンの柔軟性と、酸成分の密着性との相乗効果により、転写対象との密着性を得やすい。酸変性ポリオレフィンの酸価は、0.5~200の範囲としてもよい。また、上記ポリマー中には、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、アミン結合およびシラノール結合などを含んでいてもよく、これらの結合に関わる官能基を有する2種以上のポリマーから、化学構造の一部を架橋させたポリマーとしてもよい。
【0026】
塩化ビニル酢酸ビニル共重合体は、他の樹脂との密着性が良く、積層光学構造体20と接着層40との密着性を効果的に向上させることができる。アンカー層30の酸変性ポリオレフィンは、エチレンと酸成分との共重合体とできる。エチレンと酸成分との共重合体はエチレン(メタ)アクリル酸共重合樹脂(EMAA)等である。エチレンと酸成分との共重合体は、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体の他にも、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン(メタ)アクリル酸エステル共重合体等とすることができる。酸変性ポリオレフィンは、酸変性成分を有するため、隣接する積層光学構造体20および接着層40との密着を好適に保つことができ、また、有機シラン化合物およびイソシアネートと硬化反応するため、積層光学構造体20との密着性を向上させることができる。アンカー層30の酸変性ポリオレフィンは、アンカー層30の塩化ビニル酢酸ビニル共重合体よりも低い軟化温度のものでもよい。また、アンカー層30の塩化ビニル酢酸ビニル共重合体の軟化温度は、ホットスタンピングの版面(Dai face)の温度以下でもよい。ホットスタンピングの版面(Dai face)の温度は、一般に90℃から130℃の範囲であるため、アンカー層30の酸変性ポリオレフィンの軟化温度は、60℃以上130℃以下とできる。また、アンカー層30の塩化ビニル酢酸ビニル共重合体の軟化点は、60℃以上130℃以下とできる。
【0027】
塩化ビニル酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニルの酸成分と、酸変性ポリオレフィンの酸成分同士の親和性が高い。また、酢酸ビニルは、堆積層や被覆層との密着性も高い。また、塩化ビニルは、圧力耐性を有しているため、積層光学構造体のラッカー層等を保護できる。
酸変性ポリオレフィンと塩化ビニル酢酸ビニル共重合体とは柔軟性が異なっていてもよい。塩化ビニル酢酸ビニル共重合体より酸変性ポリオレフィンの柔軟性が高くてもよい。塩化ビニル酢酸ビニル共重合体より酸変性ポリオレフィンの柔軟性が高い場合、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体と酸変性ポリオレフィンの混合体は、酸変性ポリオレフィンにより、アンカー層30の柔軟性を向上させることができる。また、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体により圧力耐性も得られる。各樹脂成分およびアンカー層30全体の柔軟性は、例えば公知のナノインテンダーにより測定可能である。
アンカー層には、接着層の接着性ドメインと同じ種類の樹脂成分が含まれてもよい。具体的には、アンカー層の酸変性ポリオレフィンと、接着層の接着性ドメインの酸変性ポリオレフィンは同じ種類でもよい。例えば、アンカー層にエチレン(メタ)アクリル酸共重合樹脂を含み、接着層にもエチレン(メタ)アクリル酸共重合樹脂を含んでも良い。この場合、アンカー層と接着層との密着性を向上させることができる。さらに、アンカー層には、接着層の接着性ドメインと同じ樹脂成分が含まれてもよい。これにより、アンカー層と接着層との密着性のバラツキを抑えやすい。また、アンカー層の酸変性ポリオレフィンと、接着層の接着性ドメインの主剤の酸変性ポリオレフィンと同じ種類で異なる樹脂成分が含まれてもよい。例えば、アンカー層にエチレン(メタ)アクリル酸共重合樹脂を含み、接着層には、エチレン(メタ)アクリル酸共重合樹脂を含み、それぞれのガラス転移温度が異なってもよい。
【0028】
アンカー層30は、シランカップリング剤を含有してもよい。アンカー層30がシランカップリング剤を含有することで、アンカー層30と積層光学構造体20の無機堆積層23との接触面で、シラノール結合を生じることにより積層光学構造体20の無機堆積層23との密着性が得やすく、積層光学構造体20とアンカー層との接着の安定性が向上する。さらに、アンカー層30の耐熱性、耐溶剤性も向上する。また、アンカー層30の一部と積層光学構造体20のレリーフ層22とが接触する場合、その接触面でも、レリーフ層22のシラン化合物等との密着性を向上させることができる。
アンカー層30は、ウレタン結合を有した分子であってもよい。ウレタン結合を得るには、アンカー層がイソシアネートを含有すればよい。アンカー層30がイソシアネートを含有することで、アンカー層30とレリーフ層22およびアンカー層30と被覆層24が接する部位でウレタン結合を生じる。このウレタン結合により、アンカー層30とその接する層との密着性、また、アンカー層の耐熱性、耐溶剤性等を向上させることができる。アンカー層30の厚みは、0.1μm以上、5μm以下の範囲とできる。
【0029】
図2は、本ホットスタンピング箔1の接着層40を模式的に図解する断面図である。接着層40は、熱可塑性の酸変性ポリオレフィンを主剤とした接着性ドメイン41と、非粘着性のブロッキング防止剤を主剤とした非粘着性ドメイン42を有する。熱可塑性の酸変性ポリオレフィンは転写対象に対して接着性を有することができる。酸変性ポリオレフィンと、ブロッキング防止剤とは、接着層40中において、一部が相溶しているか非相溶の有機コンポジットの状態で存在する。言い換えれば、相分離状態である。詳細は後述するが、接着層40の表面には、酸変性ポリオレフィンが多く存在する接着性ドメイン41と、ブロッキング防止剤が多く存在する非粘着性ドメイン42とが存在する。
接着性ドメイン41は、ホットスタンピング箔が転写される際に加えられる熱により溶融する。加熱により酸変性ポリオレフィンが多く存在する接着性ドメイン41は、転写対象に接着する。
ブロッキング防止剤としては、フィラーを用いることができる。ブロッキング防止剤の軟化点は接着層40の熱可塑性の酸変性ポリオレフィンの融点よりも高い。また、ブロッキング防止剤の軟化点は転写時の版面(Dai face)の温度よりも高くてもよい。そのため、ブロッキング防止剤は転写時においても溶融しない。ブロッキング防止剤として軟化点を有しない材料を用いる場合には、ブロッキング防止剤の融点が酸変性ポリオレフィンの融点よりも高く、かつ転写時に加えられる転写時の版面(Dai face)の温度より高ければよい。
接着性ドメイン41および非粘着性ドメイン42が粒状であるため、熱圧前の接着層40表面は凹凸形状を有している。接着層40の表面の凹凸形状は、ホットスタンピング箔1の保管時おけるブロッキングを防止する効果を発揮する。
【0030】
接着層40は、酸変性ポリオレフィンを溶解させた溶液もしくは酸変性ポリオレフィンを分散させたディスパージョン溶液に、ブロッキング防止剤を添加したものをアンカー層30上に塗布し、乾燥することで形成できる。ブロッキング防止剤は塗液中に分散していてもよいし、溶解していてもよい。接着層は、公知の方法により塗布できる。塗布には、ロールコート、リバースロールコート、グラビアコート、リバースグラビアコート、バーコート、ロッドコートを適用できる。ディスパージョンを塗工することにより、形成された接着層40の表面には酸変性ポリオレフィンを主剤とする接着性ドメイン41と、ブロッキング防止剤を主剤とする非粘着性ドメイン42とが形成される。このような2種類のドメインにより、接着層40の表面の凹凸形状を形成することができる。
接着層40は、塗布面の温度が酸変性ポリオレフィンの融点以下の乾燥温度で、乾燥して形成することができる。これにより、塗布面の接着性ドメイン41が完全には溶融せず、粒子としての形状を維持したまま、接着層40を形成することができる。
【0031】
接着性ドメイン41の主剤は融点が60℃から120℃の熱可塑性の酸変性ポリオレフィンとすることができる。これによりホットスタンピング箔が転写される一般的な条件である、版面(Die face)の温度90℃から130℃における0.1秒から1.5秒の加圧により接着性ドメイン41が溶融し、転写対象に対して接着性を発揮することができる。酸変性ポリオレフィンは、酸変性成分を有するため、隣接するアンカー層30との密着をより強固に保つことができる。
【0032】
酸変性ポリオレフィンは共重合体などである。共重合体は、アクリル酸共重合体などである。アクリル酸共重合体は、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体(EMAA)等とできる。また、アクリル酸共重合体は、ポリエステル(メタ)アクリル酸共重合体とできる。エチレン(メタ)アクリル酸共重合体は、耐溶剤性、柔軟性、弾力性にすぐれた樹脂であることから、接着性ドメイン41の主剤として適している。ホットスタンピング箔1においては、各層のうち接着層40の厚みを最も厚くできる。これにより、柔軟な接着層40の比率が最も高いことによってホットスタンピング箔1全体が柔軟になり、詳細については後述するが、クランプリング耐性を向上させることができる。また、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体は他の種類の樹脂との相溶性が悪いため、非粘着性ドメイン42がエチレン(メタ)アクリル酸共重合体の間に介在し、接着層40の破断性が向上する。これにより、転写時においてホットスタンピング箔が転写対象上の転写領域外にも残留する現象(バリ)の発生が抑制される。これにより良い転写適性が得られる。エチレン(メタ)アクリル酸共重合体等の接着層、アンカー層の酸変性ポリオレフィンのガラス転移点は-30℃から30℃としてもよい。これにより接着層40の塗布時の乾燥温度で、アンカー層が十分に軟化する。これにより、接着層の厚みより大きな粒径のディスパージョンを接着ドメイン41とすることができる。接着層の厚みより大きな粒径のディスパージョンは、接着層中で扁平となり、転写対象と適度な接触面を得やすい。
接着性ドメイン41の直径は、5μm以上50μm以下とできる。直径が50μm以下であることにより、接着性ドメイン41をディスパージョンとしたときの塗液中において、接着性ドメイン41が均一に分散され、安定的に塗工することができる。
【0033】
柔軟性を向上させるため、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体は(メタ)アクリル酸エステル成分を含有してもよい。また、主剤としてエチレン(メタ)アクリル酸共重合体を用い、アンカー層30にもエチレン(メタ)アクリル酸共重合体が含有されている場合、双方の層に含有されるエチレン(メタ)アクリル酸共重合体が相溶し、アンカー層30と接着層40との密着がより強固になる。
【0034】
非粘着性ドメイン42の主成分のブロッキング防止剤に、軟化点が酸変性ポリオレフィンの融点よりも高い樹脂フィラーを含有できる。軟化点が酸変性ポリオレフィンよりも高い樹脂フィラーを用いることにより、転写時に接着性ドメイン41は溶融するが、非粘着性ドメイン42は溶融せず粒状のままであるため、接着層40の破断性が適度に向上して転写時のバリを防止することができる。また、非粘着性ドメイン42のブロッキング防止剤主剤を融点が120℃以上のフィラーとすることができる。これにより、加工時の熱で非粘着性ドメイン42が溶融せず、非粘着性ドメイン42は、粒状の形状を維持し、接着層40が完全に膜にならない。そのため、転写時に接着ドメインの主剤である酸変性ポリオレフィンが溶融して再び凝固するときに、転写対象の表面に追従しやすくなる。これにより、接着層40と転写対象との接着性がより強固になる。また、ブロッキング防止剤42の主剤の樹脂フィラーのガラス転移温度は、ホットスタンピング箔の通常の保管時の最高温度より高いことが好ましい。通常の保管時の最高温度は、60℃である。非粘着性ドメイン42のブロッキング防止剤のガラス転移温度は、60℃より高くしてもよい。
非粘着性ドメイン42として、無機フィラーのように軟化温度を有しない材料を用いる場合には、軟化温度ではなく融点が接着ドメインの主剤41の融点よりも高い材料とすればよい。これにより、上記の効果と同様の効果を得ることができる。無機フィラーの融点は、一般的に接着ドメインの主剤の酸変性ポリオレフィンより融点が高くなるが、この場合、融点は例えば60℃より高いものとしてもよい。また、融点が転写時の版面温度よりも高い材料を用いることにより、破断性や転写対象との接着性を向上させることができる。
【0035】
フィラーは、無機フィラー、樹脂フィラー、有機フィラーの単体または同種、異種のブレンドとできる。
無機フィラーは、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カーボンブラックおよびカオリンクレー等である。
樹脂フィラーは、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂や、テルペン樹脂、ロジン樹脂、およびスチレンマレイン酸樹脂等の低分子ポリマーの単体樹脂または混合樹脂とできる。有機フィラーは、木粉等である。樹脂フィラーは共重合体としてもよい。共重合体は、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等である。
【0036】
樹脂フィラーは、ディスパージョンとできる。塗工の安定性の観点からディスパージョンの樹脂フィラーの直径は50μm以下とできる。フィラーとして樹脂ではないものを用いる場合は、粒径を10μm以下とすることにより、転写後のクランプリング耐性をさらに向上させることができる。ここで言うフィラーの直径とは、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックBlueRaytrac マイクロトラック・ベル株式会社製などを使用、JIS8825:2013に基づく)を用いて測定しており、体積平均粒子径を意味する。また塗布後であれば、電子顕微鏡の観察画像からの面積平均粒子径により求めることができる。
【0037】
また、無機フィラーはナノサイズでもよい。ナノサイズの無機フィラーとしては、シリカ、各種金属およびその酸化物とできる。ナノシリカは表面修飾されているものでもよい。ナノサイズのフィラーは、10nm以上1μm以下とできる。また、ナノサイズの無機フィラーは、凝集していてもよい。ナノサイズのフィラーの直径は、動的光散乱式 粒子径分布測定装置(ナノトラックNanotrac Wave マイクロトラック・ベル株式会社製などを使用、JIS8825:2013に基づく)を用いた体積平均粒子径により求められる。また塗布後であれば、電子顕微鏡の観察画像からの面積平均粒子径により求めることができる。
【0038】
接着性ドメイン41の主剤と非粘着性ドメイン42のブロッキング防止剤の比率は、50:1から5:1、さらには40:1から6:1とできる。この比率が50:1から5:1であれば、クランプリング耐性を得やすい。接着層30の厚みは、0.5μm以上、20μm以下の範囲とできる。
【0039】
本ホットスタンピング箔1は、転写対象に転写される。転写対象は、印刷体とすることができる。印刷体の厚みは、0.05mm以上、4mm以下の範囲とできる。印刷体は、全面または一部に印刷されたポリマーフィルムまたは印刷された紙または印刷可能なポリマーフィルムまたは印刷可能な紙である。印刷されたポリマーフィルム、印刷可能なポリマーフィルムのベースフィルムには、ポリマーフィルムを適用できる。印刷されたフィルムは、ベースフィルムと、その表面の全面または一部にアンカー層がコートされ、コートされたアンカー層に印刷されたものである。印刷された紙は、上質紙、中質紙、コート紙、非コート紙、フィルムをラミネートした紙、樹脂含浸紙に印刷されたものである。印刷可能なポリマーフィルムは、ベースフィルム上に印刷を受容するようアンカー層がコートされたポリマーフィルムである。印刷可能な紙は、上質紙、中質紙、コート紙、非コート紙、フィルムをラミネートした紙である。コート紙は、その表面の全面または一部にアンカー層がコートされた紙である。ポリマーフィルムは、延伸ポリマーフィルムまたは無延伸ポリマーフィルムとすることができる。延伸ポリマーフィルムまたは無延伸ポリマーフィルムは、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムとすることができる。ポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートとすることができる。ポリマーフィルムは、単層又は同一材料または異種材料を交互に積層した多層とできる。印刷は、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷とすることができる。印刷は、インキが印刷されたものとできる。インキは、顔料インキ、染料インキ、パールインキ、不可視インキとすることができる。不可視インキは蛍光インキ、赤外線吸収インキとすることができる。転写対象の印刷体は、セキュリティ印刷とすることができる。セキュリティ印刷は、紙幣、チケット、タグ、シール、ゲームカード、認証カード、認証ページ、ギフト券、証明書、ポスター、グリーティングカード、ビジネスカードとすることができる。セキュリティ印刷は、偽造、改ざん、秘密にされるべき情報の盗み読みの不正防止対策や、万一そのような不正が懸念されても不正の有無の判別を容易とする対策、および偽造防止対策が必要とされる印刷である。印刷は、インキが印刷されたものとできる。印刷の絵柄は、絵、写真、肖像、ランドマーク、マーク、ロゴ、シンボルとできる。
ホットスタンピング箔1は、接着層40が転写対象と接するように転写され、転写後、キャリア10は剥離される。印刷可能なポリマーフィルムまたは印刷されたポリマーフィルムに用いるアンカー層は、熱可塑樹脂、熱硬化可能樹脂、または熱可塑熱硬化可能樹脂とできる。アンカー層の樹脂は、重合体、共重合体とできる。アンカー層の重合体、共重合体は、ポリエチレン、エチレンメタクリル酸、ポリエチレンイミン、ポリウレタンとすることができる。ポリエチレンイミンの+の極性基や-極性基は、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体の+の極性基や-極性基との結合により、積層光学装飾体25と高い接着性をもたらす。また、転写対象の表面は、公知の表面改質処理により、表面を改質することができる。転写対象の表面改質処理は、ホットスタンピング箔1との高い接着性をもたらす。表面改質処理は、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、低温プラズマ処理およびグラフト化処理とできる。上記の転写対象はホットスタンピング箔1と高い密着性を有し、積層光学装飾体付印刷体は、高いクランプリング耐性を有することができる。積層光学装飾体付印刷体は、積層光学装飾体、転写対象の印刷体または、積層光学装飾体と転写対象の印刷体の双方へ、印刷されることができる。積層光学構造体のトップ層の熱可塑性ポリマーをアクリルポリマー等とすることで、積層光学装飾体は印刷可能となる。印刷体のアンカー層の重合体をポリエチレンイミンまたはその共重合体とすることで、印刷体は、印刷可能となる。ホットスタンピング箔の積層光学装飾体を印刷体に熱転写し積層光学装飾体付印刷体とできる。チケットや紙幣やカードや冊子、ポスターでの偽造防止や、ブランド品や高級品の一般的に高価なものへ積層光学装飾体を熱転写することで、積層光学装飾体付印刷体は意匠的に優れた視覚効果を有し、真正であることを証明可能な証明体とできる。
図8および図9に、積層光学装飾体付印刷体の例を示す。図8に平面図で示す積層光学装飾体付印刷体100は、印刷101aが施された転写対象の紙幣(印刷体)101と、紙幣101に転写されたホットスタンピング箔1の積層光学装飾体25とを備える。紙幣101には、パッチ形状の積層光学装飾体25Aと、ストライプ形状の積層光学装飾体25Bとの2種類の積層光学装飾体が転写されているが、これは一例であり、いずれか一方であってよい。
図9は、図8の部分模式断面図である。積層光学装飾体25Aは、接着層40により紙幣101に接合されている。接着層40内の非粘着性ドメイン42は、粒子形状を保っている。積層光学装飾体25Aには、接着層40の下面および積層光学装飾体25Aの上面に印刷102が形成されている。積層光学装飾体には、いずれの側にも印刷を施すことができる。
【0040】
ホットスタンピング箔1が工業的に量産される場合、長尺のキャリア10上に積層光学構造体20、アンカー層30、および接着層40が形成されることにより、キャリア10がつながった状態でホットスタンピング箔1が製造される。このように製造されたホットスタンピング箔1は、通常、転写対象に転写されるまでロール状に巻かれて保管される。
【0041】
ホットスタンピング箔の保管中に生じる問題として、ブロッキングがある。ブロッキングは、主に保管時にホットスタンピング箔同士が貼りつく現象であり、ブロッキングが生じると、ロール状に巻かれたホットスタンピング箔が繰り出される際に、トップ層がキャリアからはがれて積層光学構造体の一部または全部が下側(より内側に巻かれた部位)に位置するキャリア上に残留してしまう。その結果、ブロッキングが生じたホットスタンピング箔は、不良となる。
【0042】
図3は、本発明の実施形態における非粘着性ドメイン42を含有する接着層40とキャリア10aとの接触態様を模式的に図解する図である。ブロッキングは、上下に重ねられたホットスタンピング箔において、上側のホットスタンピング箔の接着層40と下側のホットスタンピング箔のキャリア10aとの密着力が大きい場合に発生する。本発明の実施形態では、接着層40に軟化温度もしくは融点が酸変性ポリオレフィンの融点よりも高い温度である非粘着性ドメイン42を含有する。これにより、接着層40を塗布乾燥した後においても、非粘着性ドメイン42が粒状の形状を保持している。そのため、粒形状の非粘着性ドメイン42が接着層40に存在することにより、接着層40中の接着成分である酸変性ポリオレフィンとキャリア10aとの接触面積が小さくなり、ホットスタンピング箔同士の密着力が弱くなることで、ブロッキングを効果的に防止することができると考えられる。接着層40に添加する非粘着性ドメイン42として、粒径の異なる2種類以上のブロッキング防止剤を用いれば、より効果的にブロッキングを防止することができる。
【0043】
また、詳細は後述するが、本発明の実施形態の接着層40には、酸変性ポリオレフィンが多く存在する領域である接着性ドメイン141と、ブロッキング防止剤が多く存在する領域である非粘着性ドメイン142が存在する。酸変性ポリオレフィンが接着層40の全体に存在するのではなく、偏在することにより、接着層40中の接着成分である酸変性ポリオレフィンとキャリア10aとが接触する面積が小さくなる。これにより、ホットスタンピング箔が重ねられた際の接着層40とキャリア10aとの密着力が低下し、ブロッキングを効果的に防止することができると考えられる。
【0044】
上記の方法以外にも、キャリアにおける積層光学構造体側とは異なる表面の表面粗さを大きくすることによってホットスタンピング箔同士の密着力を低減する方法や、接着層を造膜することによって耐破断性を向上させる方法、接着層に延性の大きい主剤を含有させることによって接着層が破断しにくくする方法によって、ブロッキングを防止することもできると考えられる。ただし、接着層を造膜すると、接着層表面が平坦になり、転写後の転写対象との密着性が悪くなるおそれがある。
【0045】
次に、クランプリング耐性向上の作用および効果について説明する。積層光学構造体を転写対象に転写する場合、積層光学装飾体が転写された積層光学装飾体付印刷体が紙幣や有価証券などの水に触れやすいものであると、接着層と転写対象である印刷体との接着力が水分によって弱くなることがある。その結果、積層光学装飾体付印刷体が曲げられたり引っ張られたりすると積層光学装飾体が剥がれてしまい、偽造防止等の目的を達成できなくなる。
【0046】
図4は、転写時における接着層と転写対象との接触を模式的に図解した図である。本発明の本実施形態では、接着層40において、酸変性ポリオレフィンが多く存在する領域である接着性ドメイン141と、ブロッキング防止剤が多く存在する領域である非粘着性ドメイン142が存在する。また、酸変性ポリオレフィンの融点は転写時に加えられる温度よりも低いため、転写時には溶融する。接着性ドメイン141は、転写時には熱によって溶融し、溶融した後は、転写対象表面の微細な凹凸に沿って再び凝固するため、転写対象と強固に接着することができる。このように、酸変性ポリオレフィンが転写対象の凹凸に沿って凝固することで、接着層40と転写対象との接着性が強固になってクランプリング耐性が向上すると考えられ、積層光学装飾体付印刷体が水等に濡れた場合でも積層光学装飾体が剥がれにくくなる。
また、図4の(a)のように、酸変性ポリオレフィンとしてエチレン(メタ)アクリル酸共重合体のように柔軟性を有するものを用いた場合、接着性ドメイン141も柔軟性を有することになる。そのため、図4の(b)のように、転写時に接着層40が転写対象60に熱圧された際に、接着性ドメイン141は転写対象60表面の凹凸に沿って変形し、凹凸の内部まで接着性ドメイン141が入り込む。その状態で熱が加えられると、酸変性ポリオレフィンが凹凸の内部深くまで入り込んだ状態で再び凝固すると考えられる。これにより、酸変性ポリオレフィンとしてエチレン(メタ)アクリル酸共重合体ほど柔軟性を有していない材料を用いた場合と比べて、さらに強固な接着性を発揮することができ、良好なクランプリング耐性を得ることができる。
【0047】
一方、ブロッキング防止剤の融点が低いために、接着層を形成する工程においてブロッキング防止剤が溶融してしまった場合は、図4の(c)のように、接着層140において、酸変性ポリオレフィンとブロッキング防止剤とがドメインを形成せずに相溶し、接着層全体が膜になってしまい、表面が平坦になる。そうすると、図4の(d)のように、転写時に接着層140が転写対象60に熱圧された際に、接着層は凹凸内部まで入り込みにくくなる。結果として酸変性ポリオレフィンは凹凸の内部まで導入されにくくなる。そのため、接着性が弱くなりがちであり、クランプリング耐性が悪化するおそれがある。また、酸変性ポリオレフィンとブロッキング防止剤とが相溶している状態では融点が上昇して主剤が溶けにくくなる。そのため、接着性が弱くなりがちであり、クランプリング耐性が悪化するおそれがある。また、接着ドメインの主剤の融点または軟化温度は、40℃より高くできる。非粘着ドメインのブロッキング防止剤の融点または軟化温度は、40℃より高くできる。接着層を塗布した後の乾燥温度は、40℃以下であるため、乾燥後でも、接着層の接着ドメインと非粘着ドメインの粒状の形状を維持することができる。
【0048】
続いて、転写適正向上の作用および効果について説明する。ホットスタンピング箔を転写対象に転写するときには、転写領域が転写スタンパー(Die)によって押さえられて、熱圧される。図5は、ホットスタンピング箔を転写対象に転写する際の転写適正について説明する図である。なお、図5中ではホットスタンピング箔の層構成を一部省略して示してある。正常なホットスタンピング箔であれば、図5の(a)のように、転写スタンパー(Die)50によって熱圧された領域の積層光学構造体および接着層71のみが転写対象60と接着し、キャリア10を取り除くと、図5の(b)のように、転写スタンパー(Die)によって熱圧されなかった領域72はキャリア10と接着されたままなので、キャリア10と共に転写対象60上から取り除かれる。しかし、転写適正が悪い場合には、図5の(c)のように、転写スタンパー(Die)によって熱圧した後、キャリアを取り除いたときに、図5の(d)のように、転写スタンパー(Die)によって熱圧されなかった領域の一部172bが、転写スタンパー(Die)によって熱圧された領域171からのはみ出し(バリ)として、転写対象160に取り残されることがある。転写スタンパー(Die)によって熱圧されなかった領域のうち残りの領域172aは、キャリア110と接着されたまま取り除かれる。結果として、転写スタンパー(Die)150の型通りに積層光学装飾体が転写されず、不良品となる。
【0049】
図6は、本ホットスタンピング箔によるバリ抑制のメカニズムを模式的に図解する図である。接着層の主剤41の熱可塑性の酸変性ポリオレフィンの融点は60℃以上120℃以下であり、転写時に加えられる温度よりも低いため、転写スタンパー(Die)によって熱圧された領域の接着性ドメイン41は転写時には溶融する。溶融した酸変性ポリオレフィン41aは、接着性ドメイン内で接着膜を形成するため、転写後の接着性ドメインは耐破断性が向上する。一方、転写スタンパーによって熱圧されなかった部分は、接着性ドメイン41および非粘着性ドメイン42のいずれも溶融しない。そのため、接着ドメインと非粘着ドメインともに、粒状の形状を維持しているため、接着層が破断しやすい。そのため、転写スタンパーによって熱圧された領域の接着性ドメインのみの耐破断性が大きいので、転写スタンパーによって熱圧された領域と熱圧されなかった部分の境界70における破断性が向上し、転写スタンパーによって熱圧されなかった領域の接着層が転写対象に残ることを防止できる。そのためバリの発生を抑制することができる。なお、転写スタンパーによって熱圧された領域は破断耐性を有するため、転写領域のカケを防止できる。また、転写スタンパーによって熱圧された領域のブロッキング防止剤42の軟化点もしくは融点は転写時に加えられる温度よりも高いので、転写時には溶融しない。そのため、非粘着ドメインは粒状の形状を維持する。粒状の形状を維持している非粘着ドメインは、転写時に接着層を破断しやすくする。転写時の接着層を破断させやすくすることで、ホットスタンピング箔の転写性を向上させることができる。
参考として、図7にホットスタンピング箔1における温度変化の概念図を示す。温度tが図7に示すt1~t2の保管中は、接着性ドメイン41および非粘着性ドメイン42のいずれも軟化していないため、ブロッキングが好適に防止される。時刻P1に転写が開始されると、ホットスタンピング箔1の温度は、転写が終了する時刻P2までの1秒前後の間に、転写温度t4に近い温度まで急激に上昇する。温度tが図7に示すt2~t3となる転写初期は、接着性ドメイン41は軟化するが、非粘着性ドメイン42は軟化しない。その後、温度tが図7に示すt3~t4となる転写後期に達しても、非粘着性ドメイン42は軟化せず、粒子の状態を維持する。その結果、バリの発生が好適に防止される。
【0050】
上記のように、本ホットスタンピング箔は、接着ドメインの主剤の熱可塑性の酸変性ポリオレフィンおよびブロッキング添加剤を含む接着層40の構成により、従来困難であったブロッキング防止とクランプリング耐性および転写適性の3点の両立を実現することを可能にした。
【0051】
本ホットスタンピング箔について、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。本開示の範囲は、これら個別の実施例の具体的内容により限定されない。なお、いずれの実施例も、転写対象は、印刷体とし、印刷体は、印刷されたポリマーフィルムまたは印刷された紙または印刷可能なポリマーフィルムまたは印刷可能な紙とした。
【0052】
(実施例1)
まず、各層の材料について示す。以降の記載において、「部」は、特にことわりのない限り、質量部を意味する。
(キャリア)
PETフィルム(厚さ38μm)(商品名 ルミラー、東レ株式会社製)
(トップ層形成用インキ)
ポリアミドイミド 19.2部
ポリエチレンパウダー 0.8部
ジメチルアセトアミド 45.0部
トルエン 35.0部
(ラッカー層形成用インキ)
ウレタン樹脂 20.0部
メチルエチルケトン 50.0部
酢酸エチル 30.0部
(被覆層形成用インキ)
塩化ビニル酢酸ビニル共重合体
(ワッカー製ビンノール E15/45M、tg73℃) 65.6部
ポリエチレン樹脂 2.9部
ポリウレタン樹脂 8.2部
ジメチルアセトアミド(DMAC) 23.3部
(アンカー層形成用インキ)
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体ディスパージョン溶液
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4213C 融点88℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 47.69部
塩化ビニル酢酸ビニル共重合体
(ワッカー製ビンノール E15/45M、tg73℃) 7.14部
有機シラン化合物(シランカップリング剤) 2.41部
イソシアネート 1.41部
エタノール 11.87部
メチルエチルケトン 15.44部
トルエン 14.04部
(接着層形成用インキA)
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4213C 融点88℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 75部
変性ポリプロピレン ディスパージョン溶液(ブロッキング防止剤)
(三井化学製 ユニストールR300 融点160℃) 25部
【0053】
以下にホットスタンピング箔の作成方法を記載する。上記キャリアの一方の面に、上記トップ層形成用インキを乾燥後の膜厚(ドライ膜厚)が1μmとなるよう塗布乾燥し、トップ層を形成した。
次に、トップ層上に上記ラッカー層形成用インキをドライ膜厚が1μmとなるように塗布乾燥した後、ロールエンボス法にて回折格子を構成するレリーフ構造をラッカー層の表面に形成した。
続いて、ラッカー層上に、アルミニウムを50nmの膜厚となるよう真空蒸着して、無機堆積層を形成した。
続いて、無機堆積層上に、上記被覆層形成用インキを、ドライ膜厚が1μmとなるよう塗布乾燥し、被覆層を形成した。
以上により、キャリア上に積層光学構造体を形成した。
その後、積層光学構造体上に、上記アンカー層形成用インキAをドライ膜厚が1~2μmとなるよう塗布乾燥し、アンカー層を形成した。
さらに、アンカー層上に、上記接着層形成用インキAを、固形分のドライ膜厚が4~5μmとなるよう塗布乾燥し、接着層を形成した。乾燥温度は、主剤の融点より低い40℃とし、乾燥時間は30秒とした。
以上により、実施例1のホットスタンピング箔を作製した。
【0054】
(実施例2)
接着層形成用インキAに代えて、下記接着層形成用インキBを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で実施例2のホットスタンピング箔を作製した。
(接着層形成用インキB)
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4213C 融点88℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 83部
シリカ(ブロッキング防止剤)(富士シリシア化学製 サイリシア740) 2部
メチルエチルケトン 15部
【0055】
(実施例3)
接着層形成用インキAに代えて、下記接着層形成用インキCを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で実施例3のホットスタンピング箔を作製した。
(接着層形成用インキB)
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4214C 融点105℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 91部
シリカ(ブロッキング防止剤)(富士シリシア化学製 サイリシア740) 1部
メチルエチルケトン 8部
【0056】
(実施例4)
接着層形成用インキAに代えて、下記接着層形成用インキDを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で実施例4のホットスタンピング箔を作製した。
(接着層形成用インキD)
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4213C 融点88℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 88部
ナノシリカ分散液(ブロッキング防止剤)
(日産化学製 オルガノシリカゾル MEK-ST) 12部
【0057】
(実施例5)
接着層形成用インキAに代えて、下記接着層形成用インキEを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で実施例5のホットスタンピング箔を作製した。
(接着層形成用インキE)
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4213C 融点88℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 79部
ナノシリカ分散液(ブロッキング防止剤)
(日産化学製 オルガノシリカゾル MEK-ST) 11部
塩化ビニル酢酸ビニル共重合体(主剤)
(ワッカー製 ビンノールE15/45M Tg73℃) 2部
メチルエチルケトン 4部
トルエン 4部
【0058】
(実施例6)
接着層形成用インキAに代えて、下記接着層形成用インキFを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で実施例6のホットスタンピング箔を作製した。
(接着層形成用インキF)
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4213C 融点88℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 44部
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4214C 融点105℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 44部
ナノシリカ分散液(ブロッキング防止剤)
(日産化学製 オルガノシリカゾル MEK-ST) 12部
【0059】
(実施例7)
接着層形成用インキAに代えて、下記接着層形成用インキGを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で実施例7のホットスタンピング箔を作製した。
(接着層形成用インキG)
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4213C 融点88℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 43部
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4214C 融点105℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 43部
スチレンマレイン酸共重合体(ブロッキング防止剤)
(Cray Valley製 SMA3000 Tg125℃) 5.6部
メチルエチルケトン 8.4部
【0060】
(実施例8)
接着層形成用インキAに代えて、下記接着層形成用インキHを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で実施例8のホットスタンピング箔を作製した。
(接着層形成用インキH)
アクリル樹脂(接着性ドメインの主剤)
(トーヨーケム製 オリバイン) 26.93部
ポリエステル樹脂(接着性ドメインの主剤)
(東亜合成製 PES-310S30) 0.68部
消泡剤 0.14部
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4213C 融点88℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 40部
シリカ(ブロッキング防止剤)
(富士シリシア化学製 サイリシア740) 0.77部
ナノシリカ分散液(ブロッキング防止剤)
(日産化学製 オルガノシリカゾル MEK-ST) 23.53部
メチルエチルケトン 6.85部
トルエン 1.1部
【0061】
(実施例9)
接着層形成用インキに代えて、下記接着層層形成用インキIを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で実施例9のホットスタンピング箔を作製した。
(接着層形成用インキI)
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4213C 融点88℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 91.46部
シリカ(ブロッキング防止剤)
(富士シリシア化学製 サイロホービック4004) 0.24部
ナノシリカ分散液(ブロッキング防止剤)
(日産化学製 オルガノシリカゾル MEK-ST) 0.08部
メチルエチルケトン 2.2部
【0062】
(比較例1)
接着層形成用インキAに代えて、下記接着層形成用インキJを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で比較例1のホットスタンピング箔を作製した。
(接着層形成用インキJ)
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4213C 融点88℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 100部
【0063】
(比較例2)
接着層形成用インキAに代えて、下記接着層形成用インキKを用いた点と、乾燥温度および乾燥時間が異なる点を除き、実施例1と同様の方法で比較例2のホットスタンピング箔を作製した。
乾燥温度は120℃、乾燥時間は45秒で乾燥した。
(接着層形成用インキK)
エチレン(メタ)アクリル酸共重合体 ディスパージョン溶液(接着性ドメインの主剤)
(三井・デュポンポリケミカル製 ニュクレル AN4213C 融点88℃
分散溶剤 トルエン/酢酸エチル) 100部
【0064】
各実施例のホットスタンピング箔について、以下の項目の評価を行った。
(保存条件下におけるブロッキングの評価)
100m巻いたロール状のPETの外周面上に、長さ100mm、幅24mmに切った各例のホットスタンピング箔を長さ方向に1000枚並べ、計100mホットスタンピング箔を巻いた状態にした。これを60℃で24時間保管し、さらに室温下に12時間保管後、ホットスタンピング箔を取り出した。厚さ方向に重ねられたホットスタンピング箔を順次分離し、以下の2段階で評価した。
○(good):積層光学構造体が下側のホットスタンピング箔のキャリアに貼り付いたものが認められない
×(bad):積層光学構造体の少なくとも一部が下側のホットスタンピング箔のキャリアに貼り付いたものが認められる
【0065】
(転写時におけるバリ抑制の評価)
厚み約200μmの上質紙を転写対象とし、各例のホットスタンピング箔を版面温度120℃、圧力0.353t/cm、加圧時間0.3秒の条件にて転写した。その後、キャリアを垂直方向に秒速1cmの速度にて剥離し、キャリアに取り残された積層光学構造体のうち、転写領域からはみ出た部分(バリ)の長さを測定し、以下の2段階で評価した。
○(good):バリなし(はみ出た部分の長さ1mm以下)
×(bad):バリあり(はみ出た部分の長さ1mm以上)
【0066】
(転写後におけるクランプリング耐性の評価)
厚み約200μmの上質紙を転写対象とし、各例のホットスタンピング箔を版面温度120℃、圧力0.705t/cm、加圧時間0.3秒の条件にて転写した。67mm×67mmに切った各例のホットスタンピング箔を15分間水に浸漬させた後取り出し、NBSクランプリングデバイス(アイジーティー・テスティングシステムズ株式会社製)を用い、試験片の各4辺について圧縮させるクランプリングテストを行った。テスト後の試験片のアルミ部分の消失の割合を測定し、以下の2段階で評価した。
○(good):変化なし(アルミ消失5%以下)
×(bad):変化あり(アルミ消失5%以上)
【0067】
結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、接着層が酸変性ポリオレフィン、および酸変性ポリオレフィンとは融点の異なるブロッキング防止剤を含有する各実施例のホットスタンピング箔においては、ブロッキング防止と、クランプリング耐性と、転写適正とが両立されていた。
一方、接着層が酸変性ポリオレフィンとは融点の異なるブロッキング防止剤を含有しない比較例1および2では、ブロッキング防止と、クランプリング耐性と、転写適正とが両立されていなかった。
【符号の説明】
【0070】
1 ホットスタンピング箔
10 キャリア
20 積層光学構造体
21 トップ層
23 無機堆積層
24 被覆層
25 積層光学装飾体
30 アンカー層
40 接着層
41 接着性ドメイン
42 非粘着性ドメイン
50、150 転写スタンパー(Die)
60 転写対象
100 光学装飾体付印刷体
101、102 印刷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9