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特許7107313共重合ポリオレフィンを含有するエマルションおよび接着剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】共重合ポリオレフィンを含有するエマルションおよび接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20220720BHJP
   C08L 93/04 20060101ALI20220720BHJP
   C08L 57/00 20060101ALI20220720BHJP
   C08L 45/02 20060101ALI20220720BHJP
   C09J 123/08 20060101ALI20220720BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20220720BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20220720BHJP
   C08J 3/03 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L93/04
C08L57/00
C08L45/02
C09J123/08
C09J133/06
C09J11/08
C08J3/03 CES
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019526698
(86)(22)【出願日】2018-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2018020015
(87)【国際公開番号】W WO2019003737
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2017126323
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 基喜
(72)【発明者】
【氏名】木津本 博俊
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-296081(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043076(WO,A1)
【文献】特開2010-065197(JP,A)
【文献】特開2004-051884(JP,A)
【文献】特開2002-003657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08J
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合ポリオレフィンと粘着付与剤を含有するエマルションであって、
(1)共重合ポリオレフィンがエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体であり、
(2)共重合ポリオレフィンが水中に分散しており、
(3)共重合ポリオレフィンからなる分散体粒子が粘着付与剤を内包しており、且つ、前記粘着付与剤内包共重合ポリオレフィン分散体粒子の50%数平均粒子径が100nm超500nm以下である、
エマルション。
【請求項2】
前記粘着付与剤が共重合ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上80質量部以下の範囲である請求項1に記載のエマルション。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエマルションを含有する接着剤組成物。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂用接着剤である請求項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
構成単位としてエチレン、(メタ)アクリル酸エステル及び無水マレイン酸を含む三元共重合体である共重合ポリオレフィンと粘着付与剤を溶剤および水に溶解させ、塩基性物質を加えた後に、前記溶剤を除去するエマルションの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂基材に対して良好な接着性能を発揮するエマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
古くからポリエチレンやポリプロピレンの様な表面エネルギーの低い基材を接着させる手法について研究されており、これら材料に対して高い接着性能を有する接着剤の設計は容易でないことが知られている。これら低表面エネルギー基材に対して良好な接着性を発現させる手法として、被着体表面を予めコロナ放電やプラズマ処理等により前処理し、表面エネルギーを高めておいてから接着させるという技術が提案されている。これらの手法は有効な技術である反面、高価な装置を必要とし、電力消費量もアップする。
【0003】
一方でポリエチレンやポリプロピレンの様なオレフィン系素材を使った製品は近年身の回りにある家庭用品から種々工業用途まで多義に渡り益々増える傾向にある。特に車載用途に至っては自動車軽量化の動向からポリプロピレンを素材とする成形材料の搭載が積極的に進められている。この様な経緯から近年、従来にはなかったより効果的な接着剤も開発されて来ている。加えて最近は作業環境上の問題から、接着剤も従来の有機溶剤型から、より環境にやさしい水系に変わりつつある。
【0004】
上記の様な接着剤には粘着性の付与、接着性の改善等を目的として粘着付与剤が利用されており、例えば特許文献1にはポリオレフィン樹脂と粘着付与剤を含有する水分散体について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4033732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の様に接着剤に粘着付与剤を用いる場合には、基材(被着体)に応じた粘着付与剤を選択することが重要である。しかし、上記の特許文献1では乳化剤によって水中に分散された粘着付与剤とポリオレフィン樹脂水性分散体とを混合する手法をとっているため、水分散が困難な粘着付与剤は用いることができず、水分散可能な粘着付与剤を用いた場合でもポリオレフィン樹脂水性分散体との相互作用によっては、該水性分散体の保存安定性に悪影響を及ぼすおそれもあった。特にポリエチレンやポリプロピレンのようなオレフィン基材は極性が低く、SP値が8.0前後と非常に低いため、これらの基材への接着性を向上させるためには、SP値の比較的近い粘着付与剤を用いる必要があるが、このような粘着付与剤は即ち親水性に乏しいため、ポリオレフィン樹脂水性分散体との混合は困難であった。そのため、被着体に応じて様々な粘着付与剤を利用することの出来るポリオレフィン樹脂水性分散体が望まれていた。
【0007】
本発明は、粘着付与剤の種類に関わらず保存安定性に優れ、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂基材に対して良好な接着性能を発揮する、ポリオレフィン樹脂と粘着付与剤とを含有したエマルションおよび該エマルションを含有する接着剤組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明者らは鋭意検討し、以下の発明を提案するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、共重合ポリオレフィンと粘着付与剤を含有し、下記(1)~(3)を満足するエマルションである。
(1)共重合ポリオレフィンがエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体である
(2)共重合ポリオレフィンが水中に分散している
(3)共重合ポリオレフィンからなる分散体粒子が粘着付与剤を内包している
【0010】
前記粘着付与剤内包共重合ポリオレフィン分散体粒子の50%数平均粒子径は100nmを超えていることが好ましい。
【0011】
前記粘着付与剤は共重合ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部以上80質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0012】
前記いずれかに記載のエマルションは接着剤組成物およびポリオレフィン系樹脂用接着剤として利用可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエマルションは、共重合ポリオレフィンが、粘着付与剤を内包した状態で微細粒子の形で均一且つ安定的に水に分散しているため、保存安定性が良好である。さらに粘着付与剤の種類に関わらずエマルションおよび接着剤組成物を作製できるため、基材への接着性に優れている。
【発明の実施形態】
【0014】
以下この発明の実施形態を説明する。
【0015】
<共重合ポリオレフィン>
本発明に用いられる共重合ポリオレフィンは、構成単位としてエチレン、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸を含む三元共重合体である。共重合ポリオレフィンは、エチレン、(メタ)アクリル酸エステル、無水マレイン酸のランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでも良いが、好ましくはランダム共重合体である。
【0016】
エチレン成分、(メタ)アクリル酸エステル成分および無水マレイン酸成分の合計を100質量%としたときに、エチレン成分の含有量は、好ましくは50質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは50質量%以上95質量%未満であり、さらに好ましくは60質量%以上90質量%以下であり、特に好ましくは70質量%以上80質量%以下である。エチレン成分の含有量が50質量%より小さい場合、共重合ポリオレフィンの疎水性が下がりすぎてしまうため、オレフィン基材への接着性が低下するおそれがある。エチレン成分の含有量が95質量%より大きい場合、共重合ポリオレフィンの結晶性が高くなるため、水分散が困難になるおそれがある。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸またはメタクリル酸」を指す。エチレン成分、(メタ)アクリル酸エステル成分および無水マレイン酸成分の合計を100質量%としたときに、(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、好ましくは5質量%以上49質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上40質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上30質量%以下である。最も好ましい範囲は18質量%以上29質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が5質量%より小さい場合、共重合ポリオレフィンが高融点のものとなりオレフィン基材への使用に適さないおそれがある。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が49質量%より大きい場合、共重合ポリオレフィンの結晶性が著しく小さくなり接着性が低下するおそれがある。
【0018】
エチレン成分、(メタ)アクリル酸エステル成分および無水マレイン酸成分の合計を100質量%としたときに、無水マレイン酸成分の含有量は、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上4質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上3質量%以下である。最も好ましい範囲は1.5質量%以上2.5質量%以下である。無水マレイン酸成分の含有量が0.01質量%より小さい場合、共重合ポリオレフィンを水中に分散するのが困難になるおそれがある。無水マレイン酸成分の含有量が5質量%より大きい場合、共重合ポリオレフィンの極性が大きくなり、オレフィン等の低極性な基材への接着性が低下するおそれがある。
【0019】
共重合ポリオレフィンの融点は50℃以上150℃以下が好ましく、より好ましくは55℃以上100℃以下が好ましく、さらに好ましくは60℃以上90℃以下である。共重合ポリオレフィンの融点が50℃より小さい場合、接着剤として用いた際の耐熱性に劣るおそれがある。共重合ポリオレフィンの融点が150℃より大きい場合、オレフィン基材への使用に適さないおそれがある。
【0020】
共重合ポリオレフィンの190℃、2160g荷重におけるMFR(メルトフローレイト)は、0.1g~300g/10分が好ましく、より好ましくは1g~100g/10分であり、さらに好ましくは3g~30g/10分である。MFRが0.1g/10分より小さい場合には、接着剤として用いた際、樹脂ダレ等が発生するおそれがある。MFRが300g/10分より大きい場合、基材への濡れ性が悪く接着性が低下するおそれがある。
【0021】
共重合ポリオレフィンの酸価は、0.1mgKOH/g以上56mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは1mgKOH/g以上45mgKOH以下であり、さらに好ましく11mgKOH/g以上34mgKOH/g以下である。最も好ましい範囲は16mgKOH/g以上28mgKOH/g以下である。酸価が0.1mgKOH/gより小さい場合、共重合ポリオレフィンを水中に分散するのが困難になるおそれがある。酸価が56mgKOH/gより大きい場合、共重合ポリオレフィンの極性が大きくなり、オレフィン等の低極性な基材への接着性が低下するおそれがある。
【0022】
<粘着付与剤>
本発明に使用される粘着付与剤は特に限定されるものではなく、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、クマロン樹脂、石油樹脂等を基材に応じて使用すれば良い。粘着付与剤の含有量は共重合ポリオレフィン100質量部に対して5質量部以上80質量部以下が好ましい。より好ましくは10質量部以上50質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部以上40質量部以下である。粘着付与剤の含有量が5質量部より小さい場合、粘着付与剤の配合効果が得られないおそれがある。粘着付与剤の含有量が80質量部より大きい場合、共重合ポリオレフィンの分散体粒子に粘着付与剤が内包しきれず、不安定なエマルションとなるおそれがある。
【0023】
粘着付与剤の軟化点についても特に限定されないが、接着性および耐熱性の観点から60℃以上160℃以下が好ましく、70℃以上150℃以下がより好ましく、80℃以上145℃以下がさらに好ましい。86℃以上140℃以下が最も好ましい。粘着付与剤の軟化点が60℃未満の場合、接着剤として用いた場合の耐熱性が不十分なおそれがある。粘着付与剤の軟化点が160℃を超える場合、基材への濡れ性が悪く接着性が低下するおそれがある。
【0024】
粘着付与剤のSP値についても特に限定されず、基材に応じて適切な粘着付与剤を選択すれば良い。例えばポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンに対しては、粘着付与剤のSP値はHoyの計算式による値で、8.4~8.9(J/cm1/2であることが好ましい。より好ましくは8.5~8.8(J/cm1/2である。Hoyの計算式による粘着付与剤の様な高分子化合物のSP値(δ)は次の様にして求められる事が知られている。
δ(高分子化合物)=ρΣE/M
ここでρ:高分子化合物の密度、M:高分子化合物の繰り返し構造単位の分子量、E:高分子化合物を構成する個々の構造単位のモル凝集エネルギー定数である。Eの数値は種々文献に掲載されている数値を使用する事が出来る。数値が記載されている文献としては例えば、J.Paint Technology vol.42 76-118 (1970)が挙げられる。
【0025】
<エマルション>
本発明のエマルションは、共重合ポリオレフィンと粘着付与剤を含有し、(1)共重合ポリオレフィンがエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体であり、(2)共重合ポリオレフィンが水中に分散しており、(3)共重合ポリオレフィンからなる分散体粒子が粘着付与剤を内包しているもの(以下、粘着付与剤内包共重合ポリオレフィン分散体粒子ともいう。)である。
【0026】
エマルションは、共重合ポリオレフィンからなる分散体粒子が粘着付与剤を内包し、微細粒子の状態で均一且つ安定的に水中に分散するため、保存安定性が良好である。さらに粘着付与剤の種類に関わらずエマルションおよび接着剤組成物を作製できるため、基材への接着性に優れている。
【0027】
本発明のエマルションにおける、共重合ポリオレフィンと粘着付与剤の内包状態としては、共重合ポリオレフィンのエチレン鎖部位(疎水性部位)が内側、無水マレイン酸由来のカルボキシル基部位(親水性部位)が外側の分散体粒子(ミセル状粒子)となって、共重合ポリオレフィンの内部に粘着付与剤が内包されている。さらに共重合ポリオレフィンの親水性部位が塩基性物質で中和されていると考えられる。このことは、単独では水中に安定して分散、或いは溶解できないため、水中では相分離沈殿してしまう粘着付与剤が、本発明のエマルションでは相分離沈殿することなく、均一安定な状態で存在していることからも推定することができる。また、粘着付与剤の配合量が増えると、一定量までは分散体粒子の粒子径が比例して大きくなっていることからも推定できる。
【0028】
エマルション内の粘着付与剤内包共重合ポリオレフィン分散体粒子の50%数平均粒子径は100nmより大きいことが好ましい。粒子径が100nm以下の場合、接着性が低下するおそれがある。接着性が低下する要因は定かではないが、粒子径が100nm以下の場合、粘着付与剤と共重合ポリオレフィンの相溶性が著しく高く、接着剤として用いた際に基材界面に粘着付与剤が濡れ広がらないためと推測される。より好ましい粒子径は110nm以上であり、さらに好ましくは120nm以上である。また、粒子径の上限は500nm以下であることが好ましい。より好ましくは400nm以下であり、さらに好ましくは300nm以下であり、特に好ましくは200nm以下である。粒子径が500nmより大きい場合、エマルションの保存安定性が低下するおそれがある。
【0029】
本発明のエマルションを作製する際には乳化剤を用いることが分散安定性や保存安定性の面から好ましい。乳化剤としては特に限定されず、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、非イオン性乳化剤(ノニオン性乳化剤)、両性乳化剤、反応性乳化剤などが挙げられる。この中でも特に非イオン性乳化剤が好ましい。また、非イオン性乳化剤のHLBとしては10以上が好ましい。HLBは乳化剤の親水性と親油性のバランスを表した指標(Hydrophile-Lipophphile Balanceの頭文字)であり、HLBの値が大きくなるほど、親水性は増していく、グリフィン氏が創案した方式である。使用する非イオン性乳化剤のHLBが10未満の場合、乳化剤の親油性が強すぎることにより、エマルションの分散安定性の効果が小さく、乳化剤を含有しないエマルションよりも分散安定性が悪くなる場合がある。非イオン性乳化剤のより好ましいHLBは12以上であり、さらに好ましいHLBは16以上である。HLBの上限は特に限定されないが、19以下が好ましい。
【0030】
非イオン性乳化剤の種類としては、HLBが10以上であれば特に制限は受けないが、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシアルキレンスチレン化フェニルエーテル型、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリオキシアルキレンアルキルアミン型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノアミン等のポリオキシアルキレンアミン型、ポリオキシエチレンオレイルアミド等のポリオキシアルキレンアルキルアミド型、ポリオキシエチレンモノラウレート等のポリオキシアルキレン脂肪酸エステル型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリデシルエーテル等の酸化エチレン酸化プロピレンブロック重合型や酸化エチレン酸化プロピレンランダム重合型、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0031】
乳化剤は単独でも2種類以上を用いてもよく、アニオン性乳化剤と非イオン性乳化剤といった異種の組み合わせや非イオン性乳化剤2種といった同種を組み合わせても良い。非イオン性乳化剤を組み合わせて用いる場合はHLBの異なる乳化剤を用いるのが好ましい。
【0032】
乳化剤の添加量は共重合ポリオレフィン100質量部に対して1質量部以上25質量部以下が好ましく、より好ましくは3質量部以上15質量部以下であり、さらに好ましくは5質量部以上10質量部以下である。乳化剤の添加量が1質量部より小さい場合、エマルションの分散安定性や保存安定性が低下し、共重合ポリオレフィンの沈降等が起きるおそれがある。乳化剤の添加量が25質量部より大きい場合、乳化剤のブリードアウト等により基材への接着性が低下するおそれがある。
【0033】
本発明のエマルションの調製方法の一例を以下に示すが、下記内容に限定されない。すなわち、初めに共重合ポリオレフィンと粘着付与剤を所定の比率でエーテル系溶剤、アルコール系溶剤、芳香族系溶剤および水に加熱溶解させ、これに乳化剤添加した後、塩基性物質を添加して中和し、冷却した後に、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤および芳香族系溶剤を除去することで得ることができる。
【0034】
これを、工程ごとに説明する。
【0035】
まず、共重合ポリオレフィンと粘着付与剤を所定の比率で、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、芳香族系溶剤および水に加熱溶解させる。
【0036】
エーテル系溶剤としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、テトラヒドロフランが好ましい。
【0037】
アルコール系溶剤としては、特に限定されないが、炭素数1~7の脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂環式アルコール等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。炭素数1~7の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール等が挙げられる。芳香族アルコールとしてはベンジルアルコール等が挙げられる。脂環式アルコールとしてはシクロヘキサンメタノール等が挙げられる。中でも、炭素数1~7の脂肪族アルコールが好ましく、炭素数3~5の脂肪族アルコールがより好ましく、イソプロピルアルコールがさらに好ましい。
【0038】
芳香族系溶剤としては、特に限定されないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ソルベントナフサ等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、トルエンが好ましい。
【0039】
使用するエーテル系溶剤、アルコール系溶剤および芳香族系溶剤の割合は、特に限定されないが、質量比で、エーテル系溶剤:アルコール系溶剤:芳香族系溶剤=100:3~50:3~50であることが好ましく、より好ましくは100:5~35:5~35である。エーテル系溶剤100質量部に対するアルコール系溶剤の割合が50質量部を超えると、製造工程中の高温時での共重合ポリオレフィンの溶解性が低下し、均一な分散ができないことがある。また、芳香族系溶剤の割合が50質量部を超えると、粒子と粒子が凝集して凝集物が多く生成し、均一な分散ができないことがある。また、アルコール系溶剤または芳香族系溶剤の割合が3質量部未満であると、その効果が発現せず、均一な分散ができないことがある。
【0040】
共重合ポリオレフィンと粘着付与剤を加熱溶解する前の混合系において、共重合ポリオレフィンと粘着付与剤の合計量、水、ならびにエーテル系溶剤とアルコール系溶剤と芳香族系溶剤との総有機溶剤の割合は、任意に選択することができるが、質量比で、共重合ポリオレフィン樹脂と粘着付与剤の合計量:水:総有機溶剤=100:50~800:10~900であるのが好ましく、100:100~400:50~450であるのがより好ましい。水または総有機溶剤が多い場合は、共重合ポリオレフィンの水への分散がより容易に起こるが、濃縮に時間を要し、容積効率が低下するので、経済的に不利となり、実用的ではない。水が少ない場合には、分散出来ない場合が多い。総有機溶剤が少ない場合には、加熱溶解時に著しく粘度が上昇し、均一な溶解ができず、結局、均一な分散ができないことがある。
【0041】
加熱溶解する際の温度は特に制限されないが、50℃以上150℃以下が好ましい。溶解温度が50℃以下の場合、共重合ポリオレフィン樹脂が十分溶解できないことがある。150℃以上の場合、容器の耐圧下限界以上となることがある。溶解時間も特に制限されないが、通常は1~2時間で完全に溶解できる。
【0042】
乳化剤の添加は、共重合ポリオレフィンおよび粘着付与剤の溶解前後のいずれでも差し支えない。前記の通り、乳化剤は特に限定されず、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、非イオン性乳化剤(ノニオン性乳化剤)、両性乳化剤、反応性乳化剤などを用いることが出来る。
【0043】
塩基性物質の配合は共重合ポリオレフィン溶解前後のいずれでも差し支えない。塩基性物質としては、特に限定されないが、モルホリン;アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい塩基性物質は、ジメチルエタノールアミンである。塩基性物質の使用量は、共重合ポリオレフィンのカルボキシル基に対して、1~5化学当量であるのが好ましく、1.5~3.5化学当量であるのがより好ましい。1当量未満であると、共重合ポリオレフィンのカルボキシル基の中和が十分なされない場合がある。5当量を超えると、塩基性が強すぎることにより、分散体の酸塩基のバランスが崩れ、粘度が極端に高くなる場合がある。塩基性物質の添加方法としては、そのまま添加しても良いが、より均一に混合するために水で希釈して添加しても良い。また、塩基性物質を添加した後の分散に要する時間は、特に制限されないが、1~2時間が好ましい。
【0044】
次に、得られた分散体から有機溶剤を除去して、エマルションを得る。有機溶剤を除去するには、減圧で留去すればよい。留去する際の減圧度、温度は、特に制限されないが、90~95KPa(絶対圧力)程度、20~60℃程度が好ましい。この際、水の一部も留去される。減圧蒸留により有機溶剤と一部の水を留去した後のエマルションの組成(質量比)は、共重合ポリオレフィン:塩基性物質:水=1:0.06~0.33:1.5~4であるのが好ましい。また減圧留去後の有機溶剤残留量は共重合ポリオレフィン100質量部に対して、1質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましく、0質量部であることが特に好ましい。なお、必要に応じて追加の水を添加することができる。
【0045】
エマルションにおける固形分濃度は、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上である。少なすぎると実用的でなくなることがある。また、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下である。多すぎると保存安定性が低下することがある。エマルションにおける固形分とは、共重合ポリオレフィン、粘着付与剤、乳化剤および塩基性物質の合計量をいう。
【0046】
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、前記エマルションに、必要に応じて硬化剤を配合したものである。硬化剤としては、特に限定されないが、例えば水溶性多官能エポキシ樹脂、水溶性多官能カルボジイミド樹脂、多官能イソシアネート化合物の水分散体、多官能シリル基を有する水溶性シランカップリング剤等が挙げられる。硬化剤は共重合ポリオレフィンの酸価に対して、0.8~1.2倍当量の官能基量(エポキシ基量、カルボジイミド基量、イソシアネート基量またはシリル基量)を配合することが好ましく、より好ましくは0.9~1.1倍当量である。これらのうち、水溶性多官能エポキシ樹脂が好ましい。市販品の具体例としてはナガセケムテック(株)製、「デナコール(登録商標)EX-512」、「デナコールEX-521」、「デナコールEX-614B」、「デナコールEX-821」、「デナコールEX-920」等が挙げられる。これら水溶性エポキシ樹脂は本発明のエマルションに対して任意の割合で添加できるが、エマルション中の共重合ポリオレフィンが有する酸価に等量のエポキシ基当量となる様に配合されるのが好ましい。
【0047】
その他、本発明のエマルションには、本発明の効果を低下させない範囲で種々充填剤、顔料、着色剤、酸化防止剤等の種々添加剤を配合しても良い。接着剤組成物における前記エマルションの含有量は、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。また、99質量%以下が好ましく、より好ましくは95質量%以下である。上記範囲内にすることで、本発明の優れた効果を発揮することができる。
【0048】
本発明のエマルションは、ポリオレフィン系樹脂基材に対する接着性に優れているので、塗装、印刷、接着、コーティングの際のプライマーや、塗料、インキ、コーティング剤、接着剤の用途に有用である。
【0049】
ポリオレフィン系樹脂基材としては、従来から公知のポリオレフィン樹脂の中から適宜選択すればよい。例えば、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などを用いることができる。ポリオレフィン系樹脂基材には必要に応じて顔料や種々の添加物を配合してもよい。
【実施例
【0050】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中および比較例中に単に「部」とあるのは質量部を示す。また、本発明で採用した測定・評価方法は以下のとおりである。
【0051】
1)共重合ポリオレフィンの酸価の測定
本発明における酸価(mgKOH/g)は、1gの共重合ポリオレフィンを中和するのに必要とするKOH量のことであり、JIS K0070(1992)の試験方法に準じて、測定した。具体的には、100℃に温度調整したキシレン100gに、ポリオレフィン1gを溶解させた後、同温度でフェノールフタレインを指示薬として、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液[商品名「0.1mol/Lエタノール性水酸化カリウム溶液」、和光純薬(株)製]で滴定を行った。この際、滴定に要した水酸化カリウム量をmgに換算して酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0052】
2)エマルション固形分濃度の測定
50mlガラス製秤量瓶にサンプルのエマルション約1gを採り、精秤する。次いでサンプルを採取した秤量瓶を120℃の熱風乾燥機で2時間乾燥させ、取り出した秤量瓶をデシケーターに入れ、室温で30分放置・冷却する。デシケーターから秤量瓶を取り出し、質量を精秤し、熱風乾燥前後の重量変化(下記式)からエマルション固形分濃度の質量%を算出する。
エマルション固形分濃度(質量%)=[(熱風乾燥前のサンプル質量)-(熱風乾燥後のサンプル質量)]/(熱風乾燥前のサンプル質量)×100
【0053】
3)粘着付与剤含有量の定量
上記固形分濃度の測定で得られた乾燥サンプル(樹脂)を重クロロホルムに溶解し、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)“ジェミニ-400-MR”を用い、H-NMR分析により共重合ポリオレフィンと粘着付与剤の比率を求めた。
【0054】
4)エマルション粘度の測定
東機産業(株)製“Viscometer TV-22”(E型粘度計)を用い、0.6gのサンプルをローターNo.0.8°(=48’)×R24、レンジH、回転数5rpm、25℃の条件で測定した。
【0055】
5)エマルションpHの測定
堀場製作所製“pH meter F-52”を用い、25℃での値を測定した。尚、測定器の校正は和光純薬工業(株)製、フタル酸塩pH標準液(pH:4.01)、中性燐酸塩pH標準液(pH:6.86)、ホウ酸塩pH標準液(pH9.18)を用い、3点測定で実施した。
【0056】
6)エマルション(粘着付与剤内包共重合ポリオレフィン分散体粒子)50%数平均粒子径の測定
Malvern社製“ゼータサイザーナノ Nano-ZS Model ZEN3600”を用い、0.05g/Lの濃度に調製したサンプルを25℃で3回測定し、その平均値とした。
【0057】
7)エマルションの保存安定性評価
実施例・比較例で調製されたエマルションを5℃、25℃、40℃のインキュベーターにて静置状態で保存し、エマルションの経時外観変化を観察した。観察は一週間後、1ヵ月後、3ヵ月後、6ヵ月後、12ヵ月後に行い下記の通り点数付けした。5点:12ヶ月後外観変化なし、4点:6ヵ月後外観変化なし(それ以降は樹脂の凝縮・沈降あり)、3点:3ヶ月後外観変化なし(それ以降は樹脂の凝縮・沈降あり)、2点:1ヵ月後外観変化なし(それ以降は樹脂の凝縮・沈降あり)、1点:1週間後外観変化なし(それ以降は樹脂の凝縮・沈降あり)、0点:1週間後樹脂の凝集・沈降あり。
【0058】
8)LDPE基材接着性の評価
実施例・比較例で得られたエマルションにレベリング剤としてダイノール(登録商標)604(エアープロダクツ(株)製)をエマルションに対して0.5質量%配合した。配合物を、0.1mm厚の低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム(ミポロンフィルム,ミツワ株式会社製)に#16Eのワイヤーバーを用いて乾燥後の厚みが6μmとなるように塗工し、80℃の熱風乾燥機にて3分間乾燥させた。乾燥機から取り出し、塗膜上に同LDPEフィルムを乗せ、ヒートシールテスター(テスター産業株式会社製,TP-701-B ヒートシールテスター)にて80℃、保圧0.3MPaで30秒間保圧することでLDPE接着強度測定用サンプルを成形した。前記接着強度測定用サンプルを室温で一晩静置後幅が25mmとなるようにカットし、テンシロン(RTG-1310,株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて引っ張り速度50mm/分で上下に引っ張ることにより、180°剥離接着強度を測定した。同試験を5回実施し、測定強度の平均値をLDPE接着強度とした。
【0059】
9)HDPE基材接着性の評価
実施例・比較例で得られたエマルションにレベリング剤としてダイノール(登録商標)604(エアープロダクツ(株)製)をエマルションに対して0.5質量%配合した。配合物を、高密度ポリエチレン(HDPE)テストピース(2.0×25×100mm、日本テストパネル株式会社製)に#16Eのワイヤーバーを用いて乾燥後の厚みが6μmとなるように塗工し、80℃の熱風乾燥機にて3分間乾燥させた。乾燥機から取り出し、直後の塗工面に同HDPEテストピースを貼り合わせ部が25mm×15mmとなるように貼り合わせ、120kg/mの荷重を掛けて80℃のオーブンで5分間エージングし、HDPE接着強度測定用サンプルを得た。前記接着強度測定用サンプルを室温で一晩放置後、テンシロン(RTG-1310,株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて引っ張り速度50mm/分で上下に引っ張ることにより、引張せん断接着強度を測定した。同試験を5回実施し、測定強度の平均値をHDPE接着強度とした。
【0060】
以下の実施例および比較例において用いた共重合ポリオレフィンおよび粘着付与剤の組成を表1および2に示す。
【0061】
実施例1
脱イオン水188g、日本ポリエチレン株式会社製共重合ポリオレフィン(“レクスパール(登録商標)ET230X”;エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体(質量比:87.0-12.0-1.0)、MFR:8.0g/10分、融点:88℃、酸価:11mgKOH/g)50g、ヤスハラケミカル株式会社製粘着付与剤(“YSポリスター(登録商標)T130”;テルペンフェノール樹脂、軟化点:130℃)7.5g、テトラヒドロフラン70g、イソプロピルアルコール5gおよびトルエン5gをオートクレーブに入れ、120℃に昇温した後、同温度で2時間、加熱溶解した。次に、第一工業株式会社製乳化剤(“DKS(登録商標) NL-180”;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:16.1)5.0gを添加し、更に1時間加熱溶解した。その後、ジメチルエタノールアミン2.5gを添加し、1時間分散した後、40℃まで冷却した(プレエマルション)。その後、91kPa(絶対圧力)の減圧度で有機溶剤/水を留去し、純白濁色の均一なエマルション(1)を得た。得られたこのエマルション(1)の固形分濃度は30.4質量%、25℃での粘度は12.3mPa・s、pHは8.7、50%数平均粒子径は140nmであった。また、NMRによる粘着付与剤の含有量は仕込み組成比どおり15phr(共重合ポリオレフィン100質量部に対して粘着付与剤15質量部)であることを確認した。エマルション(1)を5℃、25℃、40℃のインキュベーターに保存し、保存安定性を評価したところ、12ヶ月経過時点で外観に変化は認められなかった。また、エマルション(1)を用いて、上記手順に従ってLDPE基材接着性およびHDPE基材接着性の評価を行ったところ、それぞれ3.9N/cm、2.5MPaであった。
【0062】
実施例2~12
表3の組み合わせに従い、上記実施例1と同様の方法で、エマルション(2)~(12)を得た。前記の方法にてエマルションの物性および接着性を測定した。組成および物性を表3に示す。
【0063】
以下、比較例1はエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を用いてエマルションを作製しようと試み、均一安定なエマルションが得られなかった例である。比較例2は酸変性ポリオレフィンを用いてエマルションを作製した例である。比較例3は共重合ポリオレフィン樹脂のエマルション粒子が粘着付与剤を内包しない例である。比較例4は前記の粘着付与剤を内包しないエマルションに対して粘着付与剤エマルションを添加することで粘着付与剤を含有しかつ共重合ポリオレフィン粒子に内包しないエマルションの例である。比較例5は粘着付与剤のみを乳化剤によりエマルション化しようと試み、均一安定なエマルションが得られなかった例である。
【0064】
比較例1
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体の代わりに、日本ポリエチレン株式会社製共重合ポリオレフィン樹脂(“レクスパール A4250”;エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(質量比:75.0-25.0)、MFR:5.0g/10分、融点:92℃、酸価:0mgKOH/g)50gを用いたこと以外は上記実施例1と同様の方法で、エマルション(13)を作製しようと試みたが、冷却中に粗大粒子が多量に発生し、均一な分散体が得られなかった。
【0065】
比較例として共重合ポリオレフィンの代わりに用いるため、以下の方法にて酸変性ポリオレフィン(A)を作製した。3LのSUS製オートクレーブ反応缶中に、メタロセン触媒を用いて製造されたプロピレン-エチレン共重合体(プロピレン:エチレン=93:7 モル比、融点75℃、180℃における溶融粘度:1500mPa・s)750g、無水マレイン酸90g、ジクミルパーオキサイド15g、トルエン1100gを入れ密閉した。オートクレーブ中を窒素で置換した後、加温して缶内温度140℃で5時間反応した。反応液を110℃に冷却し、メチルエチルケトン(MEK)3500gの入った10LのSUS製容器中に反応液を入れ、樹脂を析出させた後に、固液分離を行い、樹脂を得た。樹脂をさらに1000gのMEKに入れ、再度固液分離をする洗浄を3回繰り返した後に、樹脂を乾燥することで酸変性ポリオレフィン(A)を得た。得られた酸変性ポリオレフィン(A)の無水マレイン酸含有量は2.3質量%、重量平均分子量は34000であった。
【0066】
比較例2
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体の代わりに、上記酸変性ポリオレフィン(A)50gを用いたこと以外は上記実施例1と同様の方法で、エマルション(14)を作製した。前記の方法にてエマルションの物性および接着性を測定した。組成および物性を表4に示す。
【0067】
比較例3
YSポリスターT130を用いずに共重合ポリオレフィンのみでエマルションを作製したこと以外は上記実施例1と同様の方法で、エマルション(15)を作製した。前記の方法にてエマルションの物性および接着性を測定した。組成および物性を表4に示す。
【0068】
比較例4
上記エマルション(15)(固形分:30.2wt%)166g(固形分50.1g)に対してハリマ化成株式会社製粘着付与剤(“ハリエスター SK-385NS”;ロジン系エマルション、固形分:50質量%、軟化点:85℃)15g(固形分7.5g)を加えた後、固形分濃度を調整するため脱イオン水11gを加え、室温にて1時間撹拌することによりエマルション(16)を得た。前記の方法にてエマルションの物性および接着性を測定した。組成および物性を表4に示す。
【0069】
比較例5(粘着付与剤の乳化剤分散)
脱イオン水188g、ヤスハラケミカル株式会社製粘着付与剤(“YSポリスターT130”;テルペンフェノール樹脂、軟化点:130℃)50g、テトラヒドロフラン70g、イソプロピルアルコール5gおよびトルエン5gをオートクレーブに入れ、120℃に昇温した後、同温度で2時間、加熱溶解した。次に、第一工業株式会社製乳化剤(“DKS NL-180”;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:16.1)5.0gを添加し、更に1時間加熱溶解した後、40℃まで冷却した。その後、91kPa(絶対圧力)の減圧度で有機溶剤/水を留去したが、留去途中で粘着付与剤が析出し、均一なエマルションは得られなかった。
【0070】
比較例6
上記エマルション(15)と、上記比較例5にて作製した有機溶剤/水を留去する前のプレエマルションを共重合ポリオレフィン:粘着付与剤=100:15(質量比)となるように混合し、有機溶剤を含有したエマルションを作製したが、直ちに樹脂が沈降した。
【0071】
実施例および比較例で使用した粘着付与剤は以下のとおりである。
YSポリスター(登録商標)T130:テルペンフェノール樹脂、軟化点:130℃、ヤスハラケミカル株式会社製
アルコン(登録商標)P-90:脂肪族飽和炭化水素樹脂、軟化点90℃、荒川化学工業株式会社製
ニットレジン(登録商標)クマロン:クマロン樹脂、軟化点120℃、日塗化学株式会社製
ハリエスターSK-385NS:ロジン系エマルション、軟化点85℃、ハリマ化成株式会社製
【0072】
実施例1~12は請求項1を満たすため、LDPE,HDPE両方に高い接着性を示すと共に、保存安定性にも優れている。比較例1ではエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合体を用いていないため、均一な分散体が得られなかった。比較例2では酸変性プロピレン-エチレン共重合体を用いており、HDPEへの接着性は発現しているものの、LDPEへの接着性に乏しい。比較例3では粘着付与剤を含有していないため、LDPE,HDPEへの接着性に乏しい。比較例4では粘着付与剤は含有しているが、共重合ポリオレフィン分散体粒子に内包されていないため、保存安定性が悪い。比較例5では実施例で用いている粘着付与剤を乳化しようとしたが均一な分散体は得られなかった。比較例6は共重合ポリオレフィンのエマルションと粘着付与剤のエマルションを単に混合しただけであり、粘着付与剤が共重合ポリオレフィン分散体粒子に内包されていないため、樹脂が析出しエマルションが得られなかった。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のエマルションは、ポリオレフィン系樹脂基材に対する接着性に優れているので、塗装、印刷、接着、コーティングの際のプライマーや、塗料、インキ、コーティング剤、接着剤の用途に有用である。