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特許7107325立体造形用樹脂組成物、立体造形物、および立体造形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】立体造形用樹脂組成物、立体造形物、および立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220720BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20220720BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20220720BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220720BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220720BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20220720BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220720BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20220720BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20220720BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L21/00
C08L23/12
C08K3/013
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
B29C64/153
B29C64/165
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019567018
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2019001170
(87)【国際公開番号】W WO2019146474
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018012865
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 啓介
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/032570(WO,A1)
【文献】特開平9-52990(JP,A)
【文献】特開2017-132076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
B29C64/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体造形用樹脂組成物を含む薄層の形成および前記薄層へのエネルギー照射の繰り返しによって、立体造形物を形成する立体造形法に使用される樹脂組成物であって、
熱可塑性樹脂を含む連続相と、前記連続相に分散された、熱可塑性エラストマーを含む分散相と、を有し、
前記熱可塑性樹脂および前記熱可塑性エラストマーの総量100質量部に対する、前記熱可塑性エラストマーの量が1~12質量部である樹脂粒子を含有する、
立体造形用樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレンである、
請求項1に記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーが、スチレン由来の構造とエチレン由来の構造とを含む、
請求項1または2に記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項4】
フィラーをさらに含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂粒子が、前記フィラーを含む、
請求項4に記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項6】
前記フィラーが、直径が1~1000nmである球状粒子、厚みが1~1000nmである平板状粒子、または繊維径が1~1000nmである繊維状粒子である、
請求項4または5に記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項7】
前記フィラーの量が、前記熱可塑性樹脂および前記熱可塑性エラストマーの総量100質量部に対して5~30質量部である、
請求項4~6のいずれか一項に記載の立体造形用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の立体造形用樹脂組成物の硬化物である、
立体造形物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、
前記薄層にレーザ光を選択的に照射して、複数の前記樹脂粒子が溶融結合した造形物層を形成するレーザ光照射工程と、
を含み、
前記薄層形成工程、および前記レーザ光照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、
立体造形物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、
エネルギー吸収剤を含む結合用流体を、前記薄層の特定の領域に塗布する流体塗布工程と、
前記流体塗布工程後の前記薄層にエネルギーを照射し、前記結合用流体を塗布した領域の前記樹脂粒子が溶融した造形物層を形成するエネルギー照射工程と、
を含み、
前記薄層形成工程、前記流体塗布工程、および前記エネルギー照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、
立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形用樹脂組成物、立体造形物、および立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な形状の立体造形物を比較的容易に製造できる様々な方法が開発されており、このような手法を利用したラピッドプロトタイピングやラピッドマニュファクチュアリングが注目されている。
【0003】
従来、これらの造形物作製方法は、モデリングの分野で広く使用されてきたが、近年、これらの手法を直接製造に展開する動きが活発になっている。製品となる立体造形物には、造形精度が高いこと、さらには高強度かつ高延性であることが求められる。
【0004】
立体造形物の製造方法の一つに、熱可塑性樹脂を含む樹脂粒子からなる薄層を形成し、所望の領域の樹脂粒子どうしを焼結もしくは溶融結合(以下、単に「溶融結合」とも称する)させて、立体造形物を得る方法がある。各種立体造形物の製造方法の中でも、樹脂粒子を用いる立体造形物の製造方法は、他の方式に比べて比較的高い造形精度で立体造形物を作製できる。
【0005】
樹脂粒子を溶融結合させる立体造形物の製造方法の一つに、粉末床溶融結合法がある。粉末床溶融結合法では、樹脂粒子を平らに敷き詰めて薄層を形成し、当該薄層にパターン状(立体造形物を厚さ方向に微分割したパターン状)にレーザ光を照射する。これにより、レーザ光が照射された領域の樹脂粒子が選択的に溶融結合する。さらに、得られた造形物層上に樹脂粒子をさらに敷き詰め、同様にレーザ光照射を繰り返し行うことで、所望の形状の立体造形物を得る。
【0006】
また、樹脂粒子を用いる立体造形物の製造方法の他の例に、以下に示すMulti Jet Fusion法(以下、「MJF法」とも称する)がある(例えば特許文献1)。MJF法でも、まず樹脂粒子を平らに敷き詰めて薄層を形成する。そして当該薄層のうち、樹脂粒子どうしを溶融結合させる領域(以下、「硬化領域」とも称する)にエネルギー吸収剤等を塗布し、エネルギーを照射する。さらに、得られた造形物層上に樹脂粒子をさらに敷き詰め、同様の工程を繰返し行うことで、所望の形状の立体造形物を得る。
【0007】
上述の粉末床溶融結合法や、MJF法では、エネルギー照射によって、樹脂粒子どうしを十分に溶融結合させる必要があり、樹脂粒子に適用可能な材料が限られる。そのため、高い機械的強度と延性とを両立させることが可能な樹脂粒子が得られていないのが実情であった。
【0008】
ここで、射出成形による立体造形物の製造方法では、熱可塑性樹脂に熱硬化性の加硫ゴムを添加することで、得られる立体造形物の破断伸びを向上させることが提案されている(例えば特許文献2)。また、アイオノマー樹脂とポリアミドエラストマーとを組み合わせることで、立体造形物の破断点伸びを向上させることも提案されている(特許文献3)。
【0009】
一方、立体造形用の樹脂粒子として、熱可塑性樹脂に相溶しやすいゴム強化スチレン系樹脂組成物を添加し、これらを溶融混練したものも提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2007-533480号公報
【文献】特開平11-209480号公報
【文献】特開2009-132767号公報
【文献】特開2009-40870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
得られる立体造形物の延性を高めることを目的として、粉末床溶融結合法やMJF法に用いる樹脂粒子にも、特許文献2のように熱硬化性ゴム粒子を含めることが考えられる。しかしながら、熱硬化性ゴム粒子を含めると、樹脂粒子どうしの溶融結合が阻害されやすく、得られる立体造形物の強度が低下したり、造形精度が低下したりしやすかった。また、特許文献3に記載のアイオノマー樹脂とポリアミドエラストマーとの組み合わせを、粉末床溶融結合法やMJF法に用いる樹脂粒子に適用しても、得られる立体造形物の延性を十分に高めることは難しかった。さらに、特許文献4の熱可塑性樹脂とゴム強化スチレン系樹脂とが溶融混練された樹脂粒子では、熱可塑性樹脂とゴム強化スチレン系樹脂との相溶性が高く、これらが混和しているため、得られる立体造形物の延性が高くなるものの、十分な強度が得られない、との課題があった。
【0012】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。すなわち本発明は、寸法精度が高く、かつ高い強度および高い延性を有する立体造形物、およびその製造に用いる立体造形用樹脂組成物の提供、ならびに立体造形物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の立体造形用樹脂組成物および立体造形物を提供する。
[1]熱可塑性樹脂を含む連続相と、前記連続相に分散された、熱可塑性エラストマーを含む分散相と、を有し、前記熱可塑性樹脂および前記熱可塑性エラストマーの総量100質量部に対する、前記熱可塑性エラストマーの量が1~12質量部である樹脂粒子を含有する、立体造形用樹脂組成物。
【0014】
[2]前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレンである、[1]に記載の立体造形用樹脂組成物。
[3]前記熱可塑性エラストマーが、スチレン由来の構造とエチレン由来の構造とを含む、[1]または[2]に記載の立体造形用樹脂組成物。
[4]フィラーをさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物。
[5]前記樹脂粒子が、前記フィラーを含む、[4]に記載の立体造形用樹脂組成物。
【0015】
[6]前記フィラーが、直径が1~1000nmである球状粒子、厚みが1~1000nmである平板状粒子、または繊維径が1~1000nmである繊維状粒子である、[4]または[5]に記載の立体造形用樹脂組成物。
[7]前記フィラーの量が、前記熱可塑性樹脂および前記熱可塑性エラストマーの総量100質量部に対して5~30質量部である、[4]~[6]のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物の硬化物である、立体造形物。
【0016】
本発明は、以下の立体造形物の製造方法も提供する。
[9]上記[1]~[7]のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、前記薄層にレーザ光を選択的に照射して、複数の前記樹脂粒子が溶融結合した造形物層を形成するレーザ光照射工程と、を含み、前記薄層形成工程、および前記レーザ光照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、立体造形物の製造方法。
[10]上記[1]~[7]のいずれかに記載の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、エネルギー吸収剤を含む結合用流体を、前記薄層の特定の領域に塗布する流体塗布工程と、前記流体塗布工程後の前記薄層にエネルギーを照射し、前記結合用流体を塗布した領域の前記樹脂粒子が溶融した造形物層を形成するエネルギー照射工程と、を含み、前記薄層形成工程、前記流体塗布工程、および前記エネルギー照射工程を複数回繰り返し、前記造形物層を積層することで立体造形物を形成する、立体造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の立体造形用樹脂組成物によれば、寸法精度が高く、かつ高い強度および高い延性を有する立体造形物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.立体造形用樹脂組成物
本発明の立体造形用樹脂組成物は、粉末床溶融結合法やMJF法等、樹脂粒子を溶融結合させて立体造形物を製造する方法に用いられる。本発明の立体造形用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含む連続相と、熱可塑性エラストマーを含む分散相と、を有する樹脂粒子を少なくとも含む。立体造形用樹脂組成物は、必要に応じて樹脂粒子以外の成分を含んでいてもよく、例えば各種添加剤やフローエージェント等を含んでいてもよい。
【0019】
前述のように、得られる立体造形物の延性を高めるため、粉末床溶融結合法やMJF法に用いる熱可塑性樹脂(樹脂粒子)中に熱硬化性ゴム粒子を添加したり、熱可塑性樹脂と、当該熱可塑性樹脂に対する相溶性が高い熱可塑性エラストマーとを溶融混練したりすることが考えられる。しかしながらこれらの方法では、得られる立体造形物の延性が高まったとしても、機械的強度が低下してしまい、高い強度および高い延性を有する立体造形物を作製することは困難であった。
【0020】
これに対し、本発明者の鋭意検討により、熱可塑性樹脂中に、当該熱可塑性樹脂と相溶性の低い熱可塑性エラストマーを均一に分散させて、分散相を形成させることで、高い強度および高い延性を兼ね備える立体造形物が得られることが見出された。熱可塑性樹脂(連続相)中に熱可塑性エラストマー(分散相)が点在することで、延性が高まる理由は、以下のように考えられる。
【0021】
熱可塑性樹脂(連続相)中に熱可塑性エラストマーを含む分散相が点在する立体造形物では、引張応力が加わると、熱可塑性エラストマーが拡張し、熱可塑性樹脂にかかる応力が緩和される。そしてさらに引張応力が加わると、熱可塑性エラストマー(分散相)内部、もしくは熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとの界面に数十nmサイズのボイドが発生する。そしてボイドが安定的に拡張することで、熱可塑性樹脂(連続相)に破断等が生じ難く、十分な強度が得られる。ただし、分散相の量が過剰になると、隣り合う分散相どうしが繋がりやすくなったり、上記ボイドが繋がったりしやすくなる。その結果、引張応力が加わると、却ってクラック等が生じやすくなり、強度が低くなる。またこの場合、得られる立体造形物の弾性率も低くなりやすく、機械的強度が低下する。そこで、本発明では、熱可塑性エラストマーの量を、熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーの総量100質量部に対して、1~12質量部とする。熱可塑性エラストマーの量が当該範囲であると、高い強度および高い延性が実現されやすくなる。以下、立体造形用樹脂組成物が含む各成分について詳しく説明する。
【0022】
1-1.樹脂粒子
樹脂粒子は、熱可塑性樹脂を含む連続相と、当該連続相に分散された、熱可塑性エラストマーを含む分散相と、を有する粒子である。より具体的には、熱可塑性樹脂中に、熱可塑性エラストマーからなる領域が略均一に、多数点在する粒子である。なお、樹脂粒子は、フィラーをさらに含んでいてもよく、この場合、フィラーも連続相中に略均一に点在していることが好ましい。
【0023】
樹脂粒子の形状は特に制限されないが、立体造形物の寸法精度を高めるとの観点から球状であることが好ましい。さらに、当該樹脂粒子の平均粒子径は、20~100μmであることが好ましく、30~70μmであることがより好ましい。樹脂粒子の平均粒子径が100μm以下であると、微細な構造の立体造形物を作製することが可能となる。一方、樹脂粒子の大きさは、十分な流動性を有し、かつ製造コストや取り扱い性が良好になる等の観点から20μm以上であることが好ましい。上記平均粒子径は、動的光散乱法により測定した体積平均粒子径とする。体積平均粒子径は、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置(マイクロトラックベル社製、MT3300EXII)により測定することができる。
【0024】
樹脂粒子の連続相は、熱可塑性樹脂を含んでいればよく、必要に応じて添加剤等を含んでいてもよい。連続相が含む熱可塑性樹脂の例には、ポリアミド12;ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリ乳酸;ポリフェニレンサルファイド(PPS);ポリブチレンテレフタレート等が含まれる。連続相は、熱可塑性樹脂を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。立体造形物の強度や造形性は、連続相を構成する樹脂の種類に大きく依存する。そこで、造形しやすく、かつ立体造形物の強度が高まるとの観点から、上記の中でもポリアミド12およびポリプロピレンが好ましく、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0025】
樹脂粒子中の熱可塑性樹脂の量は、樹脂粒子の質量に対して、88~99質量%であることが好ましく、90~95質量%であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の量が88質量%以上であると、得られる立体造形物の機械的強度が高まりやすい。一方、熱可塑性樹脂の量が99質量%以下であると、相対的に熱可塑性エラストマー(分散相)の量が十分になりやすく、得られる立体造形物の延性が高まりやすい。
【0026】
一方、樹脂粒子中における分散相は、熱可塑性エラストマーを含んでいればよく、熱可塑性エラストマーのみを含む領域であってもよく、熱可塑性エラストマーと添加剤等とを含む領域であってもよい。
【0027】
分散相が含む熱可塑性エラストマーは、上記熱可塑性樹脂と相溶性の低いエラストマーであることが好ましい。なお、熱可塑性エラストマーおよび熱可塑性樹脂のSP値が近くなると、これらが相溶しやすくなる傾向にある。熱可塑性樹脂と相溶性の低いエラストマーとすることで、後述の立体造形物の製造方法において、樹脂粒子が溶融した際にも、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーとが混和し難い。その結果、得られる立体造形物においても、熱可塑性樹脂を含む連続相中に、熱可塑性エラストマーを含む分散相を点在させることが可能となる。
【0028】
熱可塑性エラストマーの融点または軟化点は、連続相中の熱可塑性樹脂の融点または軟化点に近いことが好ましい。熱可塑性エラストマーおよび熱可塑性樹脂の融点または軟化点が近い値であると、立体造形物の作製時に、これらが同様に流動しやすく、得られる立体造形物においても、熱可塑性樹脂を含む連続相中に、熱可塑性エラストマーを含む分散相が点在しやすくなる。なお、熱可塑性エラストマーの融点または軟化点は、具体的には80~120℃程度であることが好ましい。
【0029】
熱可塑性エラストマーの例には、スチレンエラストマー、SIPS(スチレン・イソプレン・スチレン)、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)、SBBS(スチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレン)、SEBS(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン)、SEPS(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン)等のスチレン系エラストマーが含まれる。分散相は、熱可塑性エラストマーを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。上記の中でも、分散相の大きさが適度に小さくなりやすいとの観点から、スチレン由来の構造とエチレン由来の構造とを含むエラストマーであることが好ましく、SEBSおよびSEPSが特に好ましい。
【0030】
樹脂粒子中における分散相の形状は特に制限されないが、球状や楕円体状であることが好ましい。樹脂粒子中における個々の分散相の平均直径は1~500nmであることが好ましく、1~50nmであることが好ましい。分散相の平均直径が500nm以下であると、立体造形物の弾性率が低下し難い。一方、分散相の平均直径が1nm以上であると、立体造形物に引張応力がかかった際、分散相(熱可塑性エラストマー)内部やその周囲に生じるボイドによって引張応力が緩和されやすく、立体造形物の延性が高まりやすい。
【0031】
分散相の有無や、分散相の平均直径は、以下のように特定する。まず、樹脂粒子、もしくはその溶融結合物を切断し、断面を露出させる。そして、ルテニウムにより熱可塑性エラストマーを含む領域を染色する。その後、透過電子顕微鏡により、当該断面を観察することで、熱可塑性エラストマーの分布状態を確認する。このとき、断面に熱可塑性エラストマーが点在していれば、分散相を有すると判断する。また、分散相の平均直径は、100個の分散相の直径を測定し、これらの平均値とする。
【0032】
樹脂中の熱可塑性エラストマーの量は、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーの総量を100質量部としたとき、1~12質量部であり、3~10質量部であることがより好ましく、5~10質量部であることがさらに好ましい。上述のように、熱可塑性エラストマーの量が12質量部以下であると、得られる立体造形物の機械的強度が高まりやすい。一方、熱可塑性エラストマーの量が1質量部以上であると、得られる立体造形物の延性が高まりやすい。
【0033】
また、樹脂粒子が含むフィラーは本発明の目的および効果を損なわない限り特に制限されない。樹脂粒子がフィラーを含むと、立体造形物作製時に照射するエネルギーが伝わりやすくなったり、得られる立体造形物の強度が高まる。フィラーの例には、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、石膏、石膏ウィスカー、焼成カオリン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、金属粉、セラミックウィスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、層状粘土鉱物、炭素繊維等の無機フィラー;多糖類のナノファイバー等の有機フィラー;各種ポリマー等が含まれる。樹脂粒子はフィラーを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0034】
フィラーの平均粒子径は、樹脂粒子の溶融結合を阻害しないとの観点から0.01~50μm程度であることが好ましい。フィラーの平均粒子径は、体積平均粒子径であり、樹脂粒子中の熱可塑性樹脂や、熱可塑性エラストマーを溶媒等によって除去した後、上記レーザ回折式粒度分布測定装置等にて測定することで特定できる。
【0035】
フィラーは、上記の中でも、立体造形物製造時に照射するエネルギーの伝導性が良好であり、かつ立体造形物の機械的強度および延性を高めやすいとの観点から、直径が1~1000nmである球状粒子、厚みが1~1000nmである平板状粒子、もしくは繊維径が1~1000nmである繊維状粒子であることが好ましい。
【0036】
球状粒子は、無機材料からなる粒子、有機材料からなる粒子のいずれであってもよく、その例には、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、酸化チタン微粒子、ジルコニア微粒子等が含まれる。
【0037】
フィラーが平板状粒子である場合、平板状粒子の厚みは、50~500nmであることがより好ましく、100~400nmであることがさらに好ましく、150~300nmであることが特に好ましい。本明細書において、平板状粒子とは、対向する2つの主平面を有し、これら2つの主平面の間の距離(厚み)が、主平面の最大径および最小径に対して十分に小さい粒子をいう。
【0038】
また、当該平板状粒子の主平面の形状は、円形状であってもよく、楕円状であってもよく、多角形状であってもよい。平板状粒子の主平面の幅は、1~10μmであることが好ましく、2~8μmであることがより好ましい。また、主平面の最大径と平板状粒子の厚みとの比(主平面の最大径/厚み)は、5~15であることが好ましく、10~12であることがより好ましい。主平面の最大径と、平板状粒子の厚みとの比が上記範囲であると、樹脂粒子のエネルギー伝導性が良好になりやすく、樹脂粒子どうしを溶融結合させやすくなる。
【0039】
平板状粒子の例には、上述の層状粘土鉱物(例えば、カオリン;タルク;マイカ;モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、ノントロナイト、スチーブンサイト等のスメクタイト系鉱物;バーミキュライト;ベントナイト;カネマイト、ケニアナイト、マカナイト等の層状ケイ酸ナトリウム;Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等の雲母族粘土鉱物等)が含まれる。このような平板状粒子は、天然の鉱物から得られたものであってもよく、化学的に合成されたものであってもよい。さらに、平板状粒子は、表面がアンモニウム塩等で修飾(表面処理)されたものであってもよい。
【0040】
一方、フィラーが繊維状である場合、その繊維系は、分散性等の観点から3~30nmであることが好ましく、5~20nmであることがより好ましい。また、繊維状フィラーの繊維長は、200~10000nmであることが好ましく、250~10000nmであることがより好ましい。繊維長10000nm以下であると、樹脂粒子から繊維状フィラーがはみ出しにくくなり、外観が良好な立体造形物が得られやすくなる。また、繊維長が200nm以上であると、得られる立体造形物の強度が高まりやすくなる。ここで、繊維状フィラーの例には、炭素繊維、多糖類のナノファイバー等が含まれる。
【0041】
樹脂粒子中のフィラーの量は、熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーの総量を100質量部としたとき、5~30質量部であり、10~25質量部であることがより好ましく、15~20質量部であることがさらに好ましい。上述のように、フィラーの量が5質量部以上であると、得られる立体造形物の機械的強度が高まりやすい。一方、フィラーの量が30質量部以上であると、フィラーが熱可塑性エラストマーの働きを阻害しやすく、得られる立体造形物の延性が低下しやすい。
【0042】
ここで、樹脂粒子は、連続相となる熱可塑性樹脂と、分散相となる熱可塑性エラストマーとを混練機等で混練し、凍結粉砕器等により粉砕することで調製することができる。また、樹脂粒子がフィラーを含む場合、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、およびフィラーを混練し、粉砕することで調製することができる。
【0043】
1-2.その他の成分
立体造形用樹脂組成物は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、上記樹脂粒子以外の成分を含んでいてもよい。例えば、上記樹脂粒子と共に、各種フィラーを含んでいてもよい。各種フィラーは、樹脂粒子が含むフィラーと同様とすることができる。フィラーの量は、上記樹脂粒子の総量を100質量部としたとき、5~30質量部であり、10~25質量部であることがより好ましく、15~20質量部であることがさらに好ましい。フィラーの量が5質量部以上であると、得られる立体造形物の機械的強度が高まりやすい。一方、フィラーの量が30質量部以上であると、フィラーが樹脂粒子中の熱可塑性エラストマーの働きを阻害しやすく、得られる立体造形物の延性が低下しやすい。
【0044】
一方、立体造形用樹脂組成物は各種添加剤、フローエージェント等を含んでいてもよい。各種添加剤の例には、酸化防止剤、酸性化合物及びその誘導体、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、難燃剤、衝撃改良剤、発泡剤、着色剤、有機過酸化物、展着剤、粘着剤等が含まれる。立体造形用樹脂組成物は、これらを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。また、これらは、本発明の目的を損なわない範囲で、樹脂粒子の表面に塗布されていてもよい。
【0045】
フローエージェントは、摩擦係数が小さく、自己潤滑性を有する材料であればよい。このようなフローエージェントの例には、二酸化ケイ素および窒化ホウ素が含まれる。立体造形用樹脂組成物は、フローエージェントを一種のみ含んでいてもよく、二種とも含んでいてもよい。フローエージェントの量は、樹脂粒子等の流動性を向上させ、かつ樹脂粒子の溶融結合が十分に生じる範囲で適宜設定することができる。たとえば、熱可塑性樹脂の質量に対して、0質量%より多く2質量%未満とすることができる。
【0046】
また、後述の粉末床溶融結合法に用いる立体造形用樹脂組成物は、レーザ吸収剤等を含んでいてもよい。レーザ吸収剤の例には、カーボン粉末、ナイロン樹脂粉末、顔料、および染料等が含まれる。立体造形用樹脂組成物は、レーザ吸収剤を一種類のみ含んでいてもよく、二種類以上含んでいてもよい。
【0047】
2.立体造形物の製造方法
上述の立体造形用樹脂組成物は、前述のように、粉末床結合溶融方式、またはMJF方式による立体造形物の製造方法に用いることができる。以下、上記樹脂組成物を用いた立体造形方法について、それぞれ説明するが、本発明は、これらの方法に制限されない。
【0048】
2-1.粉末床結合溶融方式による立体造形物の製造方法
粉末床結合溶融方式による立体造形物の製造方法では、前記立体造形用樹脂組成物を用いる以外は、通常の粉末床結合溶融方式と同様に行うことができる。具体的には、(1)前述の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、(2)当該薄層にレーザ光を選択的に照射して、樹脂粒子どうしが溶融結合した造形物層を形成するレーザ光照射工程と、を含む方法とすることができる。そして工程(1)および工程(2)を複数回繰り返し、造形物層を積層することで、立体造形物を製造することができる。なお、当該立体造形物の製造方法は、必要に応じて、他の工程を含んでいてもよく、例えば立体造形用樹脂組成物を予備加熱する工程等を含んでいてもよい。
【0049】
・薄層形成工程(工程(1))
本工程では、立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する。たとえば、立体造形装置の粉末供給部から供給された立体造形用樹脂組成物を、リコータによって造形ステージ上に平らに敷き詰める。薄層は、造形ステージ上に直接形成してもよいし、すでに敷き詰められている立体造形用樹脂組成物、またはすでに形成されている造形物層の上形成してもよい。なお、上記立体造形用樹脂組成物に、必要に応じて別途、フローエージェントやレーザ吸収剤を混合して薄層を形成してもよい。
【0050】
薄層の厚さは、所望の造形物層の厚さと同じとする。薄層の厚さは、製造しようとする立体造形物の精度に応じて任意に設定することができるが、通常、0.01mm以上0.30mm以下である。薄層の厚さを0.01mm以上とすることで、次の造形物層を形成するためのレーザ光照射によって下の層の立体造形用樹脂組成物が溶融結合することを防ぐことができ、さらには均一な敷き詰めが可能となる。また、薄層の厚さを0.30mm以下とすることで、レーザ光のエネルギーを薄層の下部まで伝導させて、薄層を構成する立体造形用樹脂組成物を、厚み方向の全体にわたって十分に溶融結合させることができる。前記観点からは、薄層の厚さは0.01mm以上0.10mm以下であることがより好ましい。また、薄層の厚み方向の全体にわたってより十分に立体造形用樹脂組成物を溶融結合させ、造形物層の割れをより生じ難くする観点からは、薄層の厚さは、後述するレーザ光のビームスポット径との差が0.10mm以内になるよう設定することが好ましい。
【0051】
・レーザ光照射工程(工程(2))
本工程では、立体造形用樹脂組成物を含む薄層のうち、造形物層を形成すべき位置にレーザ光を選択的に照射し、照射された位置の樹脂粒子を溶融結合させて造形物層を形成する。このとき、レーザ光のエネルギーを受け取った立体造形用樹脂組成物(樹脂粒子)は、すでに形成された造形物層とも溶融結合するため、隣り合う層間の接着も生じる。
【0052】
レーザ光の波長は、立体造形用樹脂組成物(樹脂粒子)が吸収する波長の範囲内で設定すればよい。このとき、レーザ光の波長と、立体造形用樹脂組成物の吸収率が最も高くなる波長との差が小さくなるようにすることが好ましいが、一般的に熱可塑性樹脂は様々な波長域の光を吸収するため、COレーザ等の波長帯域の広いレーザ光を用いることが好ましい。たとえば、レーザ光の波長は、例えば0.8μm以上12μm以下とすることができる。
【0053】
レーザ光の出力時のパワーは、後述するレーザ光の走査速度において、前記立体造形用樹脂組成物(樹脂粒子)が十分に溶融結合する範囲内で設定すればよい。具体的には、5.0W以上60W以下とすることができる。レーザ光のエネルギーを低くして、製造コストを低くし、かつ、製造装置の構成を簡易なものにする観点からは、レーザ光の出力時のパワーは30W以下であることが好ましく、20W以下であることがより好ましい。
【0054】
レーザ光の走査速度は、製造コストを高めず、かつ、装置構成を過剰に複雑にしない範囲内で設定すればよい。具体的には、1m/秒以上10m/秒以下とすることが好ましく、2m/秒以上8m/秒以下とすることがより好ましく、3m/秒以上7m/秒以下とすることがさらに好ましい。
レーザ光のビーム径は、製造しようとする立体造形物の精度に応じて適宜設定することができる。
【0055】
・工程(1)および工程(2)の繰返しについて
立体造形物の製造の際には、上述の工程(1)および工程(2)を、任意の回数繰り返す。これにより、造形物層が積層されて、所望の立体造形物が得られることとなる。
【0056】
・予備加熱工程
前述のように、粉末床結合溶融方式による立体造形物の製造方法では、立体造形用樹脂組成物を予備加熱する工程を行ってもよい。立体造形用樹脂組成物の予備加熱は、上記薄層形成(工程(1))後に行ってもよく、薄層形成(工程(1))前に行ってもよい。また、これらの両方で行ってもよい。
【0057】
予備加熱温度は、立体造形用樹脂組成物(樹脂粒子)どうしが溶融結合しないように、熱可塑性樹脂(樹脂粒子の連続相)の溶融温度より低い温度とする。予備加熱温度は、熱可塑性樹脂の溶融温度に応じて適宜選択され、例えば、50℃以上300℃以下とすることができ、100℃以上230℃以下であることがより好ましく、150℃以上190℃以下であることがさらに好ましい。
【0058】
またこのとき、加熱時間は1~30秒とすることが好ましく、5~20秒とすることがより好ましい。上記温度で上記時間、予備加熱を行うことで、レーザエネルギー照射時に立体造形用樹脂組成物(樹脂粒子)が溶融するまでの時間を短くすることができ、少ないレーザエネルギー量で立体造形物を製造することが可能となる。
【0059】
・その他
なお、溶融結合中の立体造形用樹脂組成物の酸化等によって、立体造形物の強度が低下することを防ぐ観点からは、少なくとも工程(2)は減圧下または不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。減圧するときの圧力は10-2Pa以下であることが好ましく、10-3Pa以下であることがより好ましい。このとき、使用することができる不活性ガスの例には、窒素ガスおよび希ガスが含まれる。これらの不活性ガスのうち、入手の容易さの観点からは、窒素(N)ガス、ヘリウム(He)ガスまたはアルゴン(Ar)ガスが好ましい。製造工程を簡略化する観点からは、工程(1)および工程(2)の両方を減圧下または不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0060】
2-2.MJF方式による立体造形物の製造方法
本実施形態の立体造形物の製造方法は、(1)上述の立体造形用樹脂組成物を含む薄層を形成する薄層形成工程と、(2)エネルギー吸収剤を含む結合用流体を、薄層の特定の領域に塗布する流体塗布工程と、(3)流体塗布工程後の薄層にエネルギーを照射し、結合用流体の塗布領域の樹脂粒子を溶融させて造形物層を形成するエネルギー照射工程と、を含む。なお、当該立体造形物の製造方法は、必要に応じて、他の工程を含んでいてもよく、例えば立体造形用樹脂組成物を予備加熱する工程等を含んでいてもよい。
【0061】
(1)薄層形成工程
本工程では、上述の立体造形用樹脂組成物を主に含む薄層を形成する。薄層の形成方法は、所望の厚みの層を形成可能であれば特に制限されない。例えば、本工程は、立体造形装置の樹脂組成物供給部から供給された立体造形用樹脂組成物を、リコータによって造形ステージ上に平らに敷き詰める工程とすることができる。薄層は、造形ステージ上に直接形成してもよいし、すでに敷き詰められている立体造形用樹脂組成物またはすでに形成されている造形物層の上に接するように形成してもよい。
【0062】
薄層の厚さは、所望の造形物層の厚さと同じとする。薄層の厚さは、製造しようとする立体造形物の精度に応じて任意に設定することができるが、通常、0.01mm以上0.30mm以下である。薄層の厚さを0.01mm以上とすることで、新たな造形物層を形成するためのエネルギー照射(後述のエネルギー照射工程におけるエネルギー照射)によって、既に作製した造形物層が溶融することを防ぐことができる。また、薄層の厚さが0.01mm以上であると、粉末材料を均一に敷き詰めやすくなる。また、薄層の厚さを0.30mm以下とすることで、後述のエネルギー照射工程において、エネルギー(例えば赤外光)を薄層の下部まで伝導させることが可能となる。これにより、所望の領域(結合用流体を塗布する領域)の樹脂粒子を、厚み方向の全体にわたって溶融させることが可能となる。前記観点からは、薄層の厚さは0.01mm以上0.20mm以下であることがより好ましい。
【0063】
(2)流体塗布工程
本工程では、上記薄層形成工程で形成した薄層の特定の領域に、エネルギー吸収剤を含む結合用流体を塗布する。このとき、必要に応じて、結合用流体よりエネルギー吸収の少ない剥離用流体を、結合用流体を塗布しない領域に塗布してもよい。具体的には、造形物層を形成すべき位置に選択的に結合用流体を塗布し、造形物層を形成しない領域に、剥離用流体を塗布してもよい。結合用流体を塗布する領域の周囲に隣接して剥離用流体を塗布することで、剥離用流体を塗布した領域では、樹脂粒子が溶融結合し難くなる。結合用流体および剥離用流体のうち、どちらを先に塗布してもよいが、得られる立体造形物の寸法精度の観点から、結合用流体を先に塗布することが好ましい。
【0064】
結合用流体および剥離用流体の塗布方法は特に制限されず、例えばディスペンサーによる塗布や、インクジェット法による塗布、スプレー塗布等とすることができるが、高速で所望の領域に結合用流体および剥離用流体を塗布可能であるとの観点から少なくとも一方を、インクジェット法で塗布することが好ましく、両方をインクジェット法で塗布することがより好ましい。
【0065】
結合用流体および剥離用流体の塗布量は、それぞれ薄層1mm当たり、0.1~50μLであることが好ましく、0.2~40μLであることがより好ましい。結合用流体および剥離用流体の塗布量が当該範囲であると、造形物層を形成する領域、および造形物層を形成しない領域の粉末材料に、それぞれ結合用流体および剥離用流体を十分に含浸させることができ、寸法精度の良好な立体造形物を形成することができる。
【0066】
本工程で塗布する結合用流体は、従来のMJF方式に用いられる結合用流体と同様とすることができ、例えばエネルギー吸収剤と、溶媒と、を少なくとも含む組成物とすることができる。結合用流体は、必要に応じて公知の分散剤等を含んでいてもよい。
【0067】
エネルギー吸収剤は、後述するエネルギー照射工程において照射されるエネルギーを吸収し、結合用流体が塗布された領域の温度を効率的に高めることが可能なものであれば特に制限されない。エネルギー吸収剤の具体例には、カーボンブラック、ITO(スズ酸化インジウム)、ATO(アンチモン酸化スズ)等の赤外線吸収剤、シアニン色素,アルミニウムや亜鉛を中心に持つフタロシアニン色素,各種ナフタロシアニン化合物,平面四配位構造を有するニッケルジチオレン錯体,スクアリウム色素,キノン系化合物,ジインモニウム化合物,アゾ化合物等の赤外線吸収色素が含まれる。これらの中でも、汎用性や結合用流体が塗布された領域の温度を効率的に高めることができるとの観点から、赤外線吸収剤が好ましく、カーボンブラックであることがさらに好ましい。
【0068】
エネルギー吸収剤の形状は特に制限されないが、粒子状であることが好ましい。また、その平均粒子径は0.1~1.0μmであることが好ましく、0.1~0.5μmであることがより好ましい。エネルギー吸収剤の平均粒子径が過度に大きいと、結合用流体を薄層上に塗布した際、エネルギー吸収剤が樹脂粒子の隙間に入り込み難くなる。一方、エネギー吸収剤の平均粒子径が0.1μm以上であると、後述するエネルギー照射工程で、効率良く樹脂粒子に熱を伝えることができ、周囲の樹脂粒子を溶融させることが可能となる。
【0069】
結合用流体は、エネルギー吸収剤を0.1~10.0質量%含むことが好ましく、1.0~5.0質量%含むことがより好ましい。エネルギー吸収剤の量が0.1質量%以上であると、後述のエネルギー照射工程で、結合用流体が塗布された領域の温度を十分に高めることが可能となる。一方、エネルギー吸収剤の量が10.0質量%以下であると、結合用流体内でエネルギー吸収剤が凝集すること等が少なく、結合用流体の塗布安定性が高まりやすくなる。
【0070】
一方、溶媒は、エネルギー吸収剤を分散可能であり、さらに立体造形用樹脂組成物中の樹脂粒子(特に熱可塑性樹脂)等を溶解し難い溶媒であれば特に制限されず、例えば水とすることができる。
【0071】
結合用流体は、上記溶媒を90.0~99.9質量%含むことが好ましく、95.0~99.0質量%含むことがより好ましい。結合用流体中の溶媒量が90.0質量%以上であると、結合用流体の流動性が高くなり、例えばインクジェット法等で塗布しやすくなる。
【0072】
結合用流体の粘度は、0.5~50.0mPa・sであることが好ましく、1.0~20.0mPa・sであることがより好ましい。結合用流体の粘度が0.5mPa・s以上であると、結合用流体を薄層に塗布した際の拡散が抑制されやすくなる。一方で、結合用流体の粘度が50.0mPa・s以下であると、結合用流体の塗布安定性が高まりやすくなる。
【0073】
一方、本工程で塗布する剥離用流体は、相対的に、結合用流体よりエネルギー吸収の少ない流体であればよく、例えば水を主成分とする流体等とすることができる。
【0074】
剥離用流体は、水を90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましい。剥離用流体中の水の量が90質量%以上であると、例えばインクジェット法等で塗布しやすくなる。
【0075】
(3)エネルギー照射工程
本工程では、上記流体塗布工程後の薄層、すなわち結合用流体および剥離用流体が塗布された薄層に、エネルギーを一括照射する。このとき、結合用流体が塗布された領域では、エネルギー吸収剤がエネルギーを吸収し、当該領域の温度が部分的に上昇する。そして、当該領域の樹脂粒子のみが溶融し、造形物層が形成される。
【0076】
本工程で照射するエネルギーの種類は、結合用流体が含むエネルギー吸収剤の種類に応じて適宜選択される。当該エネルギーの具体例には、赤外光、白色光等が含まれる。これらの中でも、結合用流体を塗布した領域では、効率よく樹脂粒子を溶融させることが可能である。一方で、剥離用流体を塗布した領域では、薄層の温度が上昇し難いとの観点から赤外光であることが好ましく、波長780~3000nmの光であることがより好ましく、波長800~2500nmの光であることがより好ましい。
【0077】
また、本工程でエネルギーを照射する時間は、立体造形用樹脂組成物が含む樹脂粒子(特に熱可塑性樹脂)の種類に応じて適宜選択されるが、通常、5~60秒であることが好ましく、10~30秒であることがより好ましい。エネルギー照射時間を5秒以上とすることで、十分に樹脂粒子を溶融させて、これらを結合させることが可能となる。一方で、60秒以下とすることで、効率よく立体造形物を製造することが可能となる。
【0078】
・予備加熱工程
MJF方式においても、立体造形用樹脂組成物を予備加熱する工程を行ってもよい。立体造形用樹脂組成物の予備加熱は、上記薄層形成(工程(1))後に行ってもよく、薄層形成(工程(1))前に行ってもよい。また、これらの両方で行ってもよい。予備加熱を行うことで、(3)エネルギー照射工程で照射するエネルギー量を少なくすることが可能となる。またさらに、短時間で効率良く造形物層を形成することが可能となる。予備加熱温度は、熱可塑性樹脂の溶融温度より低い温度であり、かつ(2)流体塗布工程で塗布する結合用流体や剥離用流体が含む溶媒の沸点より低い温度であることが好ましい。具体的には、樹脂粒子中の熱可塑性樹脂の融点や、結合用流体や剥離用流体が含む溶媒の沸点より、50℃~5℃低い温度であることが好ましく、30℃~5℃低い温度であることがより好ましい。またこのとき、加熱時間は1~60秒とすることが好ましく、3~20秒とすることがより好ましい。加熱温度および加熱時間を上記範囲とすることで、(3)エネルギー照射工程におけるエネルギー照射量を低減することができる。
【実施例
【0079】
以下において、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0080】
[実施例1]
熱可塑性樹脂として、ポリアミド12(ダイセル・エボニック社製、ダイアミドL1600(「ダイアミド」は同社の登録商標))を準備し、熱可塑性エラストマーとしてスチレン系エラストマー(三菱ケミカル社製、T331C)を準備した。ポリアミド12 99質量部に対し、スチレン系エラストマーが1質量部となるように混合し、これらを小型混練機(Xplore社製、MC15)にて混練してペレットを作製した。そして、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置(シンパティック(SYMPATEC)社製、ヘロス(HELOS))で測定した平均粒子径が50μmの値になるまで、凍結粉砕法で粉砕し、樹脂粒子1からなる立体造形用樹脂組成物を得た。
【0081】
[実施例2]
ポリアミド12 95質量部に対し、スチレン系エラストマーが5質量部となるように混練を行った以外は実施例1と同様に、樹脂粒子2からなる立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0082】
[実施例3]
ポリアミド12 88質量部に対し、スチレン系エラストマーが12質量部となるように混練を行った以外は実施例1と同様に、樹脂粒子3からなる立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0083】
[実施例4]
樹脂の材料として、ポリプロピレン樹脂(サンアロマー社製、PM600A)を用いた以外は実施例2と同様に、樹脂粒子4からなる立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0084】
[実施例5]
熱可塑性エラストマーとしてSBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)(旭化成社製、タフプレン)を用いた以外は実施例4と同様に、樹脂粒子5からなる立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0085】
[実施例6]
熱可塑性エラストマーとしてSEBS(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン)(旭化成社製、タフテックH)を用いた以外は実施例4と同様に、樹脂粒子6からなる立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0086】
[実施例7]
熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン(サンアロマー社製、PM600A)を準備し、熱可塑性エラストマーとしてSEBS(旭化成社製、H1521)を準備し、フィラーとしてガラス粒子(東洋紡社製、PFE-301、平均粒子径10μm)を準備した。これらを、ポリプロピレン69質量部に対し、SEBSが1質量部、ガラス粒子が30質量部となるように混合し、小型混練機(Xplore社製、MC15)にて混練した。得られた混練物を、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置(シンパティック(SYMPATEC)社製、ヘロス(HELOS))で測定した平均粒子径が50μmの値になるまで、凍結粉砕法で粉砕し、樹脂粒子7からなる立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0087】
[実施例8]
フィラーとして、ガラス粒子の代わりにタルク(林化成社製、ミクロンホワイト#5000)を自由粉砕機(奈良機械社製、M-2)にて厚さ300nm幅5μmまで粉砕したもの(平板状の粒子)を用いた以外は、実施例7と同様に樹脂粒子8からなる立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0088】
[実施例9]
ポリプロピレン79質量部に対し、SEBSが1質量部、タルクが20質量部となるように混練した以外は実施例8と同様に、樹脂粒子9からなる立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0089】
[比較例1]
ポリアミド12(ダイセル・エボニック株式会社製、ダイアミドL1600(「ダイアミド」は同社の登録商標))を、湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置(シンパティック(SYMPATEC)社製、ヘロス(HELOS))で測定した平均粒子径が50μmの値になるまで凍結粉砕法で粉砕し、樹脂粒子10からなる立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0090】
[比較例2]
ポリアミド12 85質量部に対し、スチレン系エラストマーが15質量部となるように混合した以外は実施例1と同様に、樹脂粒子11からなる立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0091】
[比較例3]
スチレン系エラストマーを混合しなかった以外は実施例4と同様に、樹脂粒子12からなる立体造形用樹脂組成物を調製した。
【0092】
[評価]
(1)立体造形物の作製
作製した立体造形用樹脂組成物をホットプレート上に設置した造形ステージ上に敷き詰めて厚さ0.1mmの薄層を形成し、ホットプレートの温度を調整することで、150℃(予備加熱温度)にそれぞれ加熱した。この薄層に、以下の条件で、YAG波長用ガルバノメータスキャナを搭載したCOレーザから縦15mm×横20mmの範囲にレーザ光を照射して、造形物層を作製した。その後、当該造形物層上に立体造形用樹脂組成物をさらに敷き詰め、レーザ光を照射し、造形物層を積層した。これらの工程を、立体造形物(造形物層の積層体)の高さが55mmになるまで繰り返した。
[レーザ光の出射条件]
レーザ出力 :12W
レーザ光の波長 :10.6μm
ビーム径 :薄層表面で170μm
[レーザ光の走査条件]
走査速度 :2000mm/sec
ライン数 :1ライン
【0093】
(2)弾性率・破断伸びの測定
得られた立体造形物を、引張試験機(エーアンドディー社製、テンシロンRTC-1250)に設置して、1mm/分の速度で造形物層の積層面と垂直方向に引っ張り、弾性率(強度)を測定した。さらに、同装置で、50mm/分の速度で造形物層の積層面と垂直方向に引っ張り、破断伸び(延性)を測定した。なお、弾性率および破断伸びは、実施例1~3、比較例2については、PA12 100質量%で作製したブランク1(比較例1)と比較し、実施例4~9については、ポリプロピレン 100質量部で作製したブランク2(比較例3)と比較し、以下の基準で評価した。
【0094】
(弾性率)
弾性率は、下記式に示す変化率で評価した。
弾性率の変化率={(立体造形物の弾性率-ブランクの弾性率)/ブランクの弾性率}*100
◎:上記変化率が30%以上
○:上記変化率が-10%以上30%未満
×:上記変化率が-10%未満
【0095】
(破断伸び)
破断伸びは、下記に示す変化率で評価した。
破断伸びの変化率={(立体造形物の破断伸び-ブランクの破断伸び)/ブランクの破断伸び}*100
◎◎:上記変化率が80%以上であった
◎:上記変化率が50%以上80%未満であった
○:上記変化率が10%以上50%未満であった
×:上記変化率が10%未満であった
【0096】
(3)分散相の有無の確認
上記実施例および比較例において、樹脂を粉砕する前の混練物を切断し、断面を露出させた。そして、当該断面をルテニウムで染色し、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEM-2000FX)にて観察し、分散相の有無を確認した。またこのとき、分散相100個についてその大きさを測定し、平均値を算出したところ、いずれも分散相の大きさの平均値は1~500nmであった。
【0097】
【表1】
【0098】
上記表1に示されるように、熱可塑性樹脂を含む連続相と、熱可塑性エラストマーを含む分散相と、を有し、熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーの総量100質量部に対する熱可塑性エラストマーの量が1~12質量部である樹脂粒子からなる立体造形用樹脂組成物を用いた場合、得られた立体造形物が高い弾性率および高い破断伸びを示した(実施例1~9)。熱可塑性エラストマーが分散相として含まれることで、引張応力が緩和され、破断伸びが向上したと考えられる。またその一方で、熱可塑性エラストマーの量が適度であるため、弾性率が低下し難かったと考えられる。つまり、実施例の立体造形用樹脂組成物によれば、高い強度および高い延性を兼ね備える立体造形物が作製される。
【0099】
また特に、樹脂粒子がフィラーを含む場合には弾性率が高まりやすく(実施例7~9)、特に平板状の粒子(タルク)を含む場合には、破断伸びも良好となった(実施例8および9)。
【0100】
これに対し、熱可塑性エラストマーを含まない場合には、破断伸びが十分でなかった(比較例1および比較例3)。また、熱可塑性エラストマーの量が過剰である場合には、破断伸びは良好であるものの、弾性率が低下した(比較例2)。
【0101】
本出願は、2018年1月29日出願の特願2018-012865号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係る立体造形用樹脂組成物によれば、粉末床溶融結合法やMJF法等のいずれの方法によっても、精度よく立体造形物を形成することが可能であり、得られる立体造形物は、高い強度および高い延性を兼ね備える。したがって、本発明は、立体造形法のさらなる普及に寄与するものと思われる。