(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20220720BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20220720BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20220720BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220720BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20220720BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20220720BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20220720BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20220720BHJP
H01M 8/18 20060101ALN20220720BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/054
H01M10/0568
H01M4/38 Z
H01M4/46
H01G11/60
H01G11/62
H01G11/30
H01M8/18
(21)【出願番号】P 2020534653
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2019029764
(87)【国際公開番号】W WO2020027099
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2018145252
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆平
(72)【発明者】
【氏名】中山 有理
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-232719(JP,A)
【文献】Niya Sa, et al.,Role of Chloride for a Simple, Non-Grignard Mg Electrolyte in Ether-Based Solvents,Applied Materials and Interfaces,米国,2016年,Vol.8,pages 16002-16008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05- 10/39
H01G 11/00- 11/86
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極および正極を備えた電気化学デバイスであって、
前記負極がマグネシウム電極であり、
前記正極が、
S
8
および/またはポリマー状の硫黄を含んで成る硫黄電極であり、
前記電気化学デバイスの電解液が、
直鎖エーテルを含んで成る溶媒、および
前記溶媒に含まれるマグネシウム塩
を含んで成り、
前記直鎖エーテルが、下記一般式で表される2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位を有するエーテルであり、
前記マグネシウム塩として、塩化マグネシウムとマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとが含まれる、電気化学デバイス。
[化1]
式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下の炭化水素基であり、nは2以上10以下の整数である。
【請求項2】
前記炭素数1以上10以下の炭化水素基が、脂肪族炭化水素基である、請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記nが2以上4以下の整数であって、前記直鎖エーテルが前記エチレンオキシ構造単位を2以上4以下有する、請求項1または2に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
前記R
1および前記R
2がそれぞれ独立して炭素数1以上4以下の低級アルキル基である、請求項1~3のいずれかに記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
前記nが2であって、前記直鎖エーテルが前記エチレンオキシ構造単位を2つ有する、請求項1~4のいずれかに記載の電気化学デバイス。
【請求項6】
前記R
1と前記R
2とが互いに同じアルキル基である、請求項1~5のいずれかに記載の電気化学デバイス。
【請求項7】
前記直鎖エーテルが、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルおよびジエチレングリコールエチルメチルエーテルから成る群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれかに記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学デバイスとしては、キャパシタ、空気電池、燃料電池および二次電池などがあり、種々の用途に用いられている。電気化学デバイスは、正極および負極を備え、かかる正極と負極との間のイオン輸送を担う電解液を有している。
【0003】
例えばマグネシウム電池に代表される電気化学デバイスの電極としては、マグネシウムから成る電極あるいはマグネシウムを少なくとも含んだ電極が設けられている(以下では、そのような電極を単に「マグネシウム電極」とも称し、マグネシウム電極が用いられている電気化学デバイスを「マグネシウム電極系の電気化学デバイス」とも称する)。マグネシウムは、リチウムに比べて資源的に豊富で遙かに安価である。また、マグネシウムは、酸化還元反応によって取り出すことができる単位体積当たりの電気量が一般に大きく、電気化学デバイスに用いた場合の安全性も高い。それゆえ、マグネシウム電池は、リチウムイオン電池に代わる次世代の二次電池として注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許公開公報US2013/252112A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マグネシウム二次電池の電解液としては、マグネシウム塩とそれを溶解させるエーテル系有機溶媒を用いることが提案されている。例えば、米国特許公開公報US2013/252112A1では、マグネシウム塩を溶解させる溶媒としてジメトキシエタン(DME)、すなわち、エチレングリコールジメチルエーテルが用いられる。
【0006】
このようなエーテル系有機溶媒を含んだ電解液が用いられるマグネシウム電極系の電気化学デバイスでは、より高い放電電位が求められる。より高いエネルギー密度を呈する電気化学デバイスが実現され得るからである。
【0007】
本発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、放電電位がより高い電気化学デバイスの実現に資する電解液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された電解液の発明に至った。
【0009】
本発明では、負極としてマグネシウム電極を備えた電気化学デバイスのための電解液であって、
直鎖エーテルを含んで成る溶媒、および
溶媒に含まれるマグネシウム塩
を含んで成り、
直鎖エーテルが、下記一般式で表される2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位を有するエーテルである、電解液が提供される。
[化1]
式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下の炭化水素基であり、nは2以上10以下の整数である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電解液では、より高い放電電位を呈する電気化学デバイスが得られる。より具体的には、本発明の電解液が用いられたマグネシウム電極系の電気化学デバイスでは、特に電解液の溶媒としてジメトキシエタン(DME)が用いられる場合よりも高い放電電位が呈され得る。
【0011】
かかる観点ゆえ、本発明の電解液が用いられたマグネシウム電極系の電気化学デバイスは、より高いエネルギー密度を有し得る。尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでなく、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施態様のマグネシウム電極系の電気化学デバイス(特に電池)の概念図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池(円筒型のマグネシウム二次電池)の模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池(平板型のラミネートフィルム型マグネシウム二次電池)の模式的な斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施態様においてキャパシタとして供される電気化学デバイスの模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施態様において空気電池として供される電気化学デバイスの模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施態様において燃料電池として供される電気化学デバイスの模式的な断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施態様として供されるマグネシウム二次電池を電池パックに適用した場合の回路構成例を示すブロック図である。
【
図8】
図8A、
図8Bおよび
図8Cは、本発明の一実施態様としてマグネシウム二次電池が適用された電動車両、電力貯蔵システムおよび電動工具の構成をそれぞれ表したブロック図である。
【
図9】
図9は、本明細書の[実施例]で作製した電池を模式的に表した展開図である。
【
図10】
図10は、本明細書の[実施例]で得られた結果を示す充放電カーブである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の「電気化学デバイスのための電解液」および「電気化学デバイス」を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観および寸法比などは実物と異なり得る。なお、本明細書で言及する各種の数値範囲は、下限および上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、特段の説明が付されない限り下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈される。
【0014】
本発明において「電気化学デバイス」とは、広義には、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出すことができるデバイスを意味している。狭義には、「電気化学デバイス」は、一対の電極および電解質を備え、特にはイオンの移動に伴って充電および放電が為されるデバイスを意味している。あくまでも例示にすぎないが、電気化学デバイスとしては、二次電池の他、キャパシタ、空気電池および燃料電池などを挙げることができる。
【0015】
[本発明の電気化学デバイスのための電解液]
本発明の電解液は、電気化学デバイスに用いられる。つまり、本明細書で説明する電解液は、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出すことができるデバイスのための電解質に相当する。
【0016】
本発明の電解液は、その大前提として、マグネシウム電極を備える電気化学デバイスに用いられる電解液となっている。特に、負極としてマグネシウム電極を備える電気化学デバイスのための電解液である。したがって、本発明の電解液は、マグネシウム電極系の電気化学デバイス用の電解液であるともいえる(以下では、単に「マグネシウム電極系の電解液」とも称す)。
【0017】
後述でも触れるが、かかる電気化学デバイスは、その負極がマグネシウム電極である一方、正極は硫黄電極であることが好ましい。つまり、ある好適な一態様では、本発明の電解液は、マグネシウム(Mg)-硫黄(S)電極用の電解液となっている。
【0018】
ここで、本明細書で用いる「マグネシウム電極」とは、広義には、活性成分(すなわち、活物質)としてマグネシウム(Mg)を有する電極のことを指している。狭義には「マグネシウム電極」は、マグネシウムから成る電極のことを指しており、例えば、マグネシウム金属あるいはマグネシウム合金を含んで成る電極、特にはそのようなマグネシウムの負極を指している。なお、かかるマグネシウム電極は、マグネシウム金属またはマグネシウム合金以外の成分を含んでいてもよいものの、ある好適な一態様ではマグネシウムの金属体から成る電極(例えば、純度90%以上、好ましくは純度95%以上、更に好ましくは純度98%以上のマグネシウム金属の単体物から成る電極)となっている。
【0019】
また、本明細書で用いる「硫黄電極」とは、広義には、活性成分(すなわち、活物質)として硫黄(S)を有する電極のことを指している。狭義には「硫黄電極」は、硫黄を少なくとも含んで成る電極のことを指しており、例えば、S8および/またはポリマー状の硫黄などの硫黄(S)を含んで成る電極、特にはそのような硫黄の正極を指している。なお、硫黄電極は、硫黄以外の成分を含んでいてもよく、例えば導電助剤および結着剤などを含んでいてもよい。あくまでも例示にすぎないが、硫黄電極における硫黄の含有量は電極全体基準で5質量%以上95質量%以下であってよく、70質量%以上90質量%以下程度が好ましい(また、ある1つの例示態様では、硫黄電極における硫黄の含有量が5質量%~20質量%または5質量%~15質量%などとなっていてもよい)。
【0020】
本発明に係るマグネシウム電極系の電解液は、少なくとも溶媒およびマグネシウム塩を含んで成る。より具体的には、電解液は、マグネシウム塩と、その塩が溶解するためのエーテル系溶媒を含んで成る。
【0021】
溶媒は、エーテル系溶媒であるところ、特に直鎖エーテルである。つまり、テトラヒドロフランなどの環状エーテルではなく、分子が直鎖状構造を有するエーテルがマグネシウム電極系の電解液溶媒を成している。端的にいえば、本発明に係るマグネシウム電極系の電解液における溶媒は、好ましくは直鎖エーテル溶媒である。
【0022】
本発明に係るマグネシウム電極系の電解液では、溶媒としての直鎖エーテルが、下記一般式で表される2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位を有する直鎖エーテルとなっている。
[化1]
式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下の炭化水素基であり、nは2以上10以下の整数である。
【0023】
本発明に係るマグネシウム電極系の電解液に用いられる溶媒は、エチレンオキシ構造単位が2又はそれよりも多いといった点で特徴を有している。ここでいう「エチレンオキシ構造単位」とは、エチレン基と酸素原子とが結合した分子構造単位(-O-C2H4-)のことを指しており、そのような分子構造単位が直鎖エーテルに2つ以上含まれている。別の切り口で捉えれば、マグネシウム電極系の電解液における直鎖エーテルは、2分子以上グリコールが脱水縮合した構造を有しているともいえる。
【0024】
直鎖エーテルの上記一般式におけるR1およびR2は、それぞれ独立して炭化水素基を表している。よって、R1およびR2は、それぞれ独立に脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基および/または芳香脂肪族炭化水素基となっていてよい。ここで、本発明にいう「直鎖エーテル」とは、少なくともエチレンオキシ構造単位の部位が分岐していないこと(すなわち、枝別れ構造を有していないこと)を意味している。それゆえ、上記一般式におけるR1およびR2については、必ずしも直鎖構造である必要はなく、枝別れ構造を有するものであってもよい。ある1つの好適な態様でいえば、本発明に係るマグネシウム電極系の電解液に用いられる直鎖エーテルは、エチレンオキシ構造単位の部位が枝別れ構造を有していないだけでなく、R1およびR2もまた枝別れ構造を有していないグリコール系エーテルである。
【0025】
本発明に係るマグネシウム電極系の電解液では、直鎖エーテルが“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有するからこそ、マグネシウム電極系の電気化学デバイスでは、より高い放電電位が呈されることになる。つまり、単一のエチレンオキシ構造単位ではなく、あくまでも“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”がマグネシウム電極系の電解液の特性向上に直接的または間接的に寄与している。特定の理論に拘束されるわけではないが、これは、“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”が、その構造単位を有する溶媒に対して溶解されるマグネシウム塩の存在と相俟って、マグネシウム電極の特性をより効果的に引き出すからであると考えられる。
【0026】
このようなエチレンオキシ構造単位を2又はそれよりも多く有する直鎖エーテルとしては、特に限定するわけではないが、ジエチレングリコール系エーテル、トリエチレングリコール系エーテル、テトラエチレングリコール系エーテル、ペンタエチレングリコール系エーテル、ヘキサエチレングリコール系エーテルなどを挙げることができる。同様にして、ヘプタエチレングリコール系エーテル、オクタエチレングリコール系エーテル、ノナエチレングリコール系エーテル、デカエチレングリコール系エーテルなどであってもよく、さらにいえば、それよりも多いエチレンオキシ構造単位を有するポリエチレングリコール系エーテルであってもよい。
【0027】
本発明における直鎖エーテルのある好適な1つの態様では、炭素数1以上10以下の炭化水素基が脂肪族炭化水素基となっている。つまり、本発明に係るマグネシウム電極系の電解液に含まれる直鎖エーテルにつき、上記一般式中のR1およびR2は、それぞれ独立して1以上10以下の脂肪族炭化水素基となっていてよい。特に限定するわけではないが、例えば以下で挙げるようなジエチレングリコール系エーテル、トリエチレングリコール系エーテル、テトラエチレングリコール系エーテル、ペンタエチレングリコール系エーテル、ヘキサエチレングリコール系エーテルを挙げることができる。同様にして、ヘプタエチレングリコール系エーテル、オクタエチレングリコール系エーテル、ノナエチレングリコール系エーテル、デカエチレングリコール系エーテルであってよい。
(ジエチレングリコール系エーテル)
ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールメチルへプチルエーテル、ジエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールエチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールエチルへプチルエーテル、ジエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールプロピルペンチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールプロピルへプチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールブチルへプチルエーテル、ジエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジペンチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、ジエチレングリコールへプチルペンチルエーテル、ジエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、ジエチレングリコールへプチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジへプチルエーテル、ジエチレングリコールへプチルオクチルエーテル;
ジエチレングリコールジオクチルエーテル
(トリエチレングリコール系エーテル)
トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルペンチルエーテル、トリエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルへプチルエーテル、トリエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルペンチルエーテル、トリエチレングリコールエチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールエチルへプチルエーテル、トリエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
トリエチレングリコールジプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールプロピルペンチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールプロピルへプチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルペンチルエーテル、トリエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールブチルへプチルエーテル、トリエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
トリエチレングリコールジペンチルエーテル、トリエチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、トリエチレングリコールへプチルペンチルエーテル、トリエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
トリエチレングリコールジヘキシルエーテル、トリエチレングリコールへプチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル;
トリエチレングリコールジへプチルエーテル、トリエチレングリコールへプチルオクチルエーテル;
トリエチレングリコールジオクチルエーテル
(テトラエチレングリコール系エーテル)
テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルプロピルエーテル、テトラエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルペンチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールメチルへプチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルプロピルエーテル、テトラエチレングリコールブチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルペンチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールエチルへプチルエーテル、テトラエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
テトラエチレングリコールジプロピルエーテル、テトラエチレングリコールブチルプロピルエーテル、テトラエチレングリコールプロピルペンチルエーテル、テトラエチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールプロピルへプチルエーテル、テトラエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
テトラエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルペンチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールブチルへプチルエーテル、テトラエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
テトラエチレングリコールジペンチルエーテル、テトラエチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、テトラエチレングリコールへプチルペンチルエーテル、テトラエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
テトラエチレングリコールジヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールへプチルヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル;
テトラエチレングリコールジへプチルエーテル、テトラエチレングリコールへプチルオクチルエーテル;
テトラエチレングリコールジオクチルエーテル
(ペンタエチレングリコール系エーテル)
ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、ペンタエチレングリコールエチルメチルエーテル、ペンタエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルメチルエーテル、ペンタエチレングリコールメチルペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールメチルへプチルエーテル、ペンタエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジエチルエーテル、ペンタエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルエチルエーテル、ペンタエチレングリコールエチルペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールエチルヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールエチルへプチルエーテル、ペンタエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジプロピルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルプロピルエーテル、ペンタエチレングリコールプロピルペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールプロピルへプチルエーテル、ペンタエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジブチルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルへプチルエーテル、ペンタエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールへプチルペンチルエーテル、ペンタエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールへプチルヘキシルエーテル、ペンタエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジへプチルエーテル、ペンタエチレングリコールへプチルオクチルエーテル;
ペンタエチレングリコールジオクチルエーテル
(ヘキサエチレングリコール系エーテル)
ヘキサエチレングリコールジメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールエチルメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールメチルペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールメチルヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールメチルへプチルエーテル、ヘキサエチレングリコールメチルオクチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジエチルエーテル、ヘキサエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルエチルエーテル、ヘキサエチレングリコールエチルペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールエチルヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールエチルへプチルエーテル、ヘキサエチレングリコールエチルオクチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジプロピルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルプロピルエーテル、ヘキサエチレングリコールプロピルペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールプロピルヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールプロピルへプチルエーテル、ヘキサエチレングリコールプロピルオクチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジブチルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルへプチルエーテル、ヘキサエチレングリコールブチルオクチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールヘキシルペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールへプチルペンチルエーテル、ヘキサエチレングリコールオクチルペンチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールへプチルヘキシルエーテル、ヘキサエチレングリコールヘキシルオクチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジへプチルエーテル、ヘキサエチレングリコールへプチルオクチルエーテル;
ヘキサエチレングリコールジオクチルエーテル
なお、同様にして、ヘプタエチレングリコール系エーテル、オクタエチレングリコール系エーテル、ノナエチレングリコール系エーテル、デカエチレングリコール系エーテルなどであってもよく、さらにいえばポリエチレングリコール系エーテルであってもよい。
【0028】
本発明に係るマグネシウム電極系の電解液では、上述のような直鎖エーテルが、マグネシウム塩と共存している。好ましくは、マグネシウム塩が直鎖エーテルに溶解した状態となっている。直鎖エーテルと組み合わされるマグネシウム塩は、1種であってよく、あるいはそれよりも多い種類から成るマグネシウム塩(例えば2種のマグネシウム塩)となっていてもよい。
【0029】
ある好適な一態様では、本発明に係るマグネシウム電極系の電解液において、溶媒としての直鎖エーテルが2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位を有するとともに、かかる構造単位を有する溶媒に対して1種類以上のマグネシウム塩が溶解していることによって、マグネシウム電極系の電気化学デバイスがより高い放電電位を呈し易くなる。
【0030】
そのようなマグネシウム塩としては、一般式MgXn(但し、nは1又は2であり、Xは、1価又は2価のアニオンである)を有する塩を挙げることができる。Xがハロゲン(F、Cl、Br、I)の場合、そのようなマグネシウム塩は、ハロゲン金属塩を成す。また、Xがその他のアニオンとなる場合であってもよく、例えば過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO4)2)、硝酸マグネシム(Mg(NO3)2)、硫酸マグネシム(MgSO4)、酢酸マグネシウム(Mg(CH3COO)2)、トリフルオロ酢酸マグネシウム(Mg(CF3COO)2)、テトラフルオロホウ酸マグネシウム(Mg(BF4)2)、テトラフェニルホウ酸マグネシウム(Mg(B(C6H5)4)2)、ヘキサフルオロリン酸マグネシウム(Mg(PF6)2)、ヘキサフルオロヒ酸マグネシウム(Mg(AsF6)2)、パーフルオロアルキルスルホン酸のマグネシウム塩((Mg(Rf1SO3)2)、但し、Rf1はパーフルオロアルキル基)、パーフルオロアルキルスルホニルイミドのマグネシウム塩(Mg((Rf2SO2)2N)2、但し、Rf2はパーフルオロアルキル基)、および、ヘキサアルキルジシラジドのマグネシウム塩((Mg(HRDS)2)、但し、Rはアルキル基)から成る群より選択された少なくとも1種類のマグネシウム塩であってもよい。
【0031】
上記のなかでも、特にはハロゲン系およびイミド系の少なくとも1種がマグネシウム塩として好ましい。つまり、直鎖エーテルと組み合わされるマグネシウム塩は、ハロゲン金属塩およびイミド金属塩のいずれか一方であるか、あるいは、ハロゲン金属塩とイミド金属塩との組合せであってよい。これは、マグネシウム塩としてハロゲン金属塩およびイミド金属塩のうちの少なくとも1種が直鎖エーテルに溶解した状態となっていることを意味している。このようなマグネシウム塩が用いられることによって、マグネシウム電極系の電気化学デバイスがより高い放電電位を更に呈し易くなる。
【0032】
ハロゲン金属塩としては、フッ化マグネシウム(MgF2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、臭化マグネシウム(MgBr2)およびヨウ化マグネシウム(MgI2)から成る群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。その中でも、塩化マグネシウムがハロゲン金属塩として用いられることが好ましい。つまり、直鎖エーテルと組み合わされるマグネシウム塩として、塩化マグネシウム(MgCl2)が好ましい。かかる塩化マグネシウム(MgCl2)は、電気化学デバイスにて高い放電電位を達成し易いからである。ある好適な態様では、かかる塩化マグネシウム(MgCl2)がイミド塩と相俟って、マグネシウム電極系の電気化学デバイスにて高い放電電位の達成を促進し得る。
【0033】
イミド金属塩は、分子構造としてイミドを有するマグネシウム塩である。好ましくは、イミド金属塩は、スルホニルイミドを分子構造として有するマグネシウム塩である。スルホニルイミドを分子構造として有するマグネシウム塩は、電気化学デバイスにて高い放電電位を達成し易いからである。ある好適な態様では、スルホニルイミドを分子構造として有するマグネシウム塩は、上記ハロゲン金属塩(例えば塩化マグネシウム)と相俟って、マグネシウム電極系の電気化学デバイスにて高い放電電位の達成を促進し得る。
【0034】
ある好適な1つの態様では、イミド金属塩は、パーフルオロアルキルスルホニルイミドのマグネシウム塩となっている。すなわち、イミド金属塩がMg((RfSO2)2N)2となっている(式中、Rf:パーフルオロアルキル基)ことが好ましい。例えば、Rfは、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基、炭素数1以上8以下のパーフルオロアルキル基、炭素数1以上6以下のパーフルオロアルキル基、炭素数1以上4以下のパーフルオロアルキル基、炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、あるいは炭素数1以上2以下のパーフルオロアルキル基であってよい。1つの例示であるが、イミド金属塩は、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとなっていてよい。すなわち、イミド金属塩がMg(TFSI)2となっていてよい。かかるMg(TFSI)2は、電気化学デバイスにて高い放電電位を達成し易い。ある好適な態様では、Mg(TFSI)2は、上記ハロゲン金属塩(特に塩化マグネシウム(MgCl2))と相俟って、マグネシウム電極系の電気化学デバイスにおいて高い放電電位の達成を特に促進し得る。
【0035】
本発明に係るマグネシウム電極系の電解液において、上述のマグネシウム塩と組み合わされる直鎖エーテルの溶媒は、特に、エチレンオキシ構造単位を2~4つ有するものであってよい。つまり、直鎖エーテルを表す上記一般式においてnが2以上4以下の整数であってよく、それゆえ直鎖エーテルがエチレンオキシ構造単位を2以上4以下有するエーテルとなっていてよい。ある好適な態様では、マグネシウム塩と組み合わされる直鎖エーテルの溶媒は、ジエチレングリコール系エーテル、トリエチレングリコール系エーテルおよびテトラエチレングリコール系エーテルから成る群から選択される少なくとも1種となっている。
【0036】
また、本発明に係るマグネシウム電極系の電解液において、上述のマグネシウム塩と組み合わされる直鎖エーテルの溶媒は、特に、炭素数1~4の低級アルキル基を有するものであってよい。換言すれば、直鎖エーテルを表す上記一般式において、R1およびR2がそれぞれ独立して炭素数1以上4以下のアルキル基となっていてよい。
【0037】
これにつき、ある好適な態様では、本発明に係るマグネシウム電極系の電解液に含まれる直鎖エーテルは、ジエチレングリコール系エーテル、トリエチレングリコール系エーテル、テトラエチレングリコール系エーテル、ペンタエチレングリコール系エーテル、ヘキサエチレングリコール系エーテル、ヘプタエチレングリコール系エーテル、オクタエチレングリコール系エーテル、ノナエチレングリコール系エーテル、デカエチレングリコール系エーテルなどのグリコール系エーテルについて、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、メチルプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ブチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ブチルプロピルエーテル、ジブチルエーテルであってよい。つまり、エチレンオキシ構造単位を2以上有する直鎖エーテル溶媒は、上記一般式におけるR1およびR2に関して、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、メチルプロピルエーテル、ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ブチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ブチルプロピルエーテルまたはジブチルエーテルなどとなっていてよい。
【0038】
さらには、本発明に係るマグネシウム電極系の電解液において、上述のマグネシウム塩と組み合わされる直鎖エーテルの溶媒は、特に、互いに同じアルキル基を有するものであってよい。つまり、直鎖エーテルを表す上記一般式において、R1およびR2とが互いに同じアルキル基となっていてよい。
【0039】
これにつき、ある好適な態様では、本発明に係るマグネシウム電極系の電解液に含まれる直鎖エーテルは、ジエチレングリコール系エーテル、トリエチレングリコール系エーテル、テトラエチレングリコール系エーテル、ペンタエチレングリコール系エーテル、ヘキサエチレングリコール系エーテル、ヘプタエチレングリコール系エーテル、オクタエチレングリコール系エーテル、ノナエチレングリコール系エーテル、デカエチレングリコール系エーテルなどのグリコール系エーテルについて、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジへプチルエーテル、ジオクチルエーテルなどであってよい。つまり、エチレンオキシ構造単位を2以上有する直鎖エーテル溶媒は、上記一般式におけるR1およびR2に関して、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジへプチルエーテルまたはジオクチルエーテルなどとなっていてよい。
【0040】
例えば、本発明に係るマグネシウム電極系の電解液において、上述のマグネシウム塩と組み合わされる直鎖エーテルの溶媒は、特に、エチレンオキシ構造単位を2つ有しているものであってよい。つまり、直鎖エーテルを表す上記一般式においてnが2の整数であってよく、それゆえ、直鎖エーテルがエチレンオキシ構造単位を2つ有するエーテルとなっていてよい。ある好適な態様では、マグネシウム塩と組み合わされる直鎖エーテルの溶媒は、ジエチレングリコール系エーテルとなっている。
【0041】
本発明に係るマグネシウム電極系の電解液において、溶媒としての直鎖エーテルは、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルおよびジエチレングリコールエチルメチルエーテルから成る群から選択される少なくとも1種であってよく、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテルおよびジエチレングリコールエチルメチルエーテルから成る群から選択される少なくとも1種であってよい。これにつき、本発明のある1つの好適態様では、マグネシウム電極系の電解液の溶媒としての直鎖エーテルが、ジエチレングリコールジメチルエーテルおよび/またはジエチレングリコールエチルメチルエーテルとなっており、かかる溶媒に含まれるマグネシウム塩が、ハロゲン金属塩とイミド金属塩との組合せになっている。例えば、本発明に係るマグネシウム電極系の電解液において、溶媒としての直鎖エーテルがジエチレングリコールジメチルエーテルおよび/またはジエチレングリコールエチルメチルエーテルとなっており、かかる溶媒に含まれるハロゲン金属塩が塩化マグネシウムであって、イミド塩がパーフルオロアルキルスルホニルイミドのマグネシウム塩(例えばMg(TFSI)2)となっていてよい。
【0042】
本発明に係るマグネシウム電極系の電解液は、マグネシウム電極を負極として備える電気化学デバイスにとって好適なものであるが、デバイスが硫黄電極を正極として備える場合が更に好適となる。つまり、本発明の電解液は、マグネシウム電極を負極として備えた電気化学デバイスのための電解液であるところ、当該電気化学デバイスの正極が、硫黄電極となっていることが好ましい。このようなマグネシウム電極-硫黄電極の対を備える電気化学デバイス(以下では「マグネシウム-硫黄電極系の電気化学デバイス」とも称する)のための電解液の場合、本発明の電解液は、マグネシウム-硫黄電極系の電気化学デバイスの放電電位をより向上させる効果を奏し得る。このように放電電位がより高くなると、マグネシウム-硫黄電極系の電気化学デバイスのエネルギー密度が高くなるので、所望のデバイスが実現され易くなる。マグネシウム-硫黄電極系の電気化学デバイスが二次電池である場合を想定すると、本発明によってリチウムイオン電池の理論エネルギー密度を凌駕する電池の可能性が見出されたことになる。
【0043】
[本発明の電気化学デバイス]
次に本発明の電気化学デバイスを説明する。かかる電気化学デバイスは、負極および正極を備えており、当該負極としては、マグネシウム電極が設けられている。かかる電気化学デバイスは、その電解液が上述の電解液から少なくとも成ることを特徴としている。
【0044】
つまり、本発明の電気化学デバイスの電解液は、少なくとも溶媒およびマグネシウム塩を含んで成り、かかる溶媒が、エーテル系溶媒であって、好ましくは直鎖エーテルとなっている。つまり、電気化学デバイスでは、テトラヒドロフランなどの環状エーテルではなく、直鎖状の分子構造を有するエーテルが電解液溶媒として含まれている。
【0045】
本発明の電気化学デバイスは、負極がマグネシウム電極であり、それゆえマグネシウム電極系の電気化学デバイスに相当する。かかるマグネシウム電極系の電気化学デバイスに用いられている電解液は、直鎖エーテル溶媒が、下記一般式において2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位を有するエーテルとなっている。
[化1]
式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下の炭化水素基であり、nは2以上10以下の整数である。
【0046】
このようなマグネシウム電極系の電気化学デバイスは、その電解液の直鎖エーテルが、2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位を有しており、それゆえに、より高い放電電位を呈し得る。つまり、本発明に係るマグネシウム電極系の電気化学デバイスに用いられている電解質の溶媒は、単一のエチレンオキシ構造単位でなく、あくまでも2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位を有することが、直接的または間接的に放電電位の向上に関係している。
【0047】
上述したように、“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテルは、上記一般式におけるR1およびR2が、それぞれ独立して炭素数1以上10以下の脂肪族炭化水素基となっていてよい。また、そのような“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテルでは、上記一般式においてnが2以上4以下の整数となっていてよく、それゆえに、直鎖エーテルがエチレンオキシ構造単位を2以上4以下有するエーテルとなっていてよい。また、“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテルの溶媒では、上記一般式において、R1およびR2がそれぞれ独立して炭素数1以上4以下の低級アルキル基となっていてよい。更には、“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテルの溶媒において、上記一般式におけるR1およびR2とが互いに同じアルキル基(例えば互いに同一の低級アルキル基)となっていてよい。
【0048】
あくまでも1つの例示であるが、本発明のマグネシウム電極系の電気化学デバイスでは、“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテル溶媒が、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルおよびジエチレングリコールエチルメチルエーテルから成る群から選択される少なくとも1種であってよく、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテルおよび/またはジエチレングリコールエチルメチルエーテルであってよい。
【0049】
マグネシウム電極系の電気化学デバイスは、その電解液における直鎖エーテルがマグネシウム塩と共存しているが、そのような共存によって、本発明のマグネシウム電極系の電気化学デバイスにおける放電電位の向上がより促され得る。
【0050】
マグネシウム塩は、ハロゲン金属塩およびイミド金属塩のうちの一方を少なくとも含んで成ることが好ましい。これは、“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有する直鎖エーテル溶媒に含まれている又は溶解しているマグネシウム塩が1種であってよく、あるいは、それよりも多い種類から成るマグネシウム塩となっていてよいことを意味している。ある態様では、マグネシウム塩が2種の塩となっており、ハロゲン金属塩とイミド金属塩との組合せとなっている。ハロゲン金属塩は、例えば塩化マグネシウム(MgCl2)であり、イミド塩が、パーフルオロアルキルスルホニルイミドのマグネシウム塩、例えばMg(TFSI)2となっていてよい。MgCl2およびMg(TFSI)2は、比較的安定性の高いMg塩である。よって、直鎖エーテル溶媒中でMgCl2およびMg(TFSI)2を高い濃度で含ませたとしても、高い安全性を得ることができる。これは、従来のAlCl3およびグリニヤールを用いた電解液とは異なる利点となり得る。しかも、MgCl2およびMg(TFSI)2は反応性が低いため、硫黄との電気化学反応以外の副反応が生じず、より高容量化が期待され得る。更には、マグネシウムの析出溶解の過電圧が低いため、充放電のヒステリシスが従来の報告例よりも狭くなり得、その点でもデバイスの高エネルギー密度化が望める。さらには、Mg塩総濃度を非常に高くすることができるところ、イオン伝導度が高く、高いレート特性が期待できるとともに、凝固点がより低く、沸点がより高くなるので温度域の広い電気化学デバイスがもたらされ得る。
【0051】
マグネシウム塩として、ハロゲン金属塩とイミド金属塩との組合せなどの2種の塩が用いられる場合、それらの物質量は、同程度であってよい(ある1つの具体的例でいえば、それらは互いに当モル量であってよい)。特に限定されるわけではないが、MgCl2およびMg(TFSI)2との組合せを例に挙げていうと、MgCl2:Mg(TFSI)2のモル比は1:0.7~1.3程度、例えば1:0.85~1.25程度であってよい。
【0052】
本発明の電気化学デバイスでは、正極が、硫黄を少なくとも含んで成る硫黄電極であることが好ましい。つまり、本発明の電気化学デバイスの硫黄電極は、S8および/またはポリマー状の硫黄といった硫黄(S)の正極電極として構成することが好ましい。負極はマグネシウム電極ゆえ、本発明の電気化学デバイスは、マグネシウム電極-硫黄電極の対を備えた電気化学デバイスとなり、それに好適な電解液を有するので、高い放電電位を呈することになる(換言すれば、マグネシウム-硫黄二次電池の理論電位に少しでも近づくことになる高い放電電位を呈することになる)。より高い放電電位は、より高いエネルギー密度につながるので、マグネシウム-硫黄二次電池の場合、本発明によって、リチウムイオン電池の理論エネルギー密度を凌駕する電池の実現化により近づくことになる。
【0053】
硫黄電極は、硫黄を少なくとも含んで成る電極であるところ、その他に導電助剤および/または結着剤などが含まれていてよい。かかる場合、硫黄電極における硫黄の含有量は、当該電極の全体基準で5質量%以上95質量%以下、好ましくは70質量%以上90質量%以下となっていてよい。
【0054】
例えば、正極として用いられる硫黄電極に含まれる導電助剤としては、黒鉛、炭素繊維、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料を挙げることができ、これらの1種類又が2種類以上を混合して用いることができる。炭素繊維としては、例えば、気相成長炭素繊維(Vapor Growth Carbon Fiber:VGCF(登録商標))等を用いることができる。カーボンブラックとして、例えば、アセチレンブラックおよび/またはケッチェンブラック等を用いることができる。カーボンナノチューブとして、例えば、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)および/またはダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)等のマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)等を用いることができる。導電性が良好な材料であれば、炭素材料以外の材料を用いることもでき、例えば、Ni粉末のような金属材料、および/または導電性高分子材料等を用いることもできる。また、正極として用いられる硫黄電極に含まれる結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)および/もしくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂、ならびに/またはスチレン-ブタジエン共重合ゴム(SBR)系樹脂等の高分子樹脂を挙げることができる。また、結着剤としては導電性高分子を用いてもよい。導電性高分子として、例えば、置換又は無置換のポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、および、これらから選ばれた1種類又は2種類から成る(共)重合体等を用いることができる。
【0055】
一方、本発明の電気化学デバイスにおいて、負極を構成する材料(具体的には、負極活物質)は、“マグネシウム電極”ゆえ、マグネシウム金属単体、マグネシウム合金あるいはマグネシウム化合物から成っている。負極がマグネシウムの金属単体物(例えばマグネシウム板など)から成る場合、その金属単体物のMg純度は90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上となっている。負極は、例えば、板状材料あるいは箔状材料から作製することができるが、これに限定するものではなく、粉末を用いて形成(賦形)することも可能である。
【0056】
負極は、その表面近傍に負極活物質層が形成された構造とすることもできる。例えば、負極活物質層として、マグネシウム(Mg)を含み、更に、炭素(C)、酸素(O)、硫黄(S)およびハロゲンのいずれかを少なくとも含む、マグネシウムイオン伝導性を有する層を有するような負極であってもよい。このような負極活物質層は、あくまでも例示の範疇にすぎないが、40eV以上60eV以下の範囲にマグネシウム由来の単一のピークを有するものであってよい。ハロゲンとして、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)から成る群より選ばれた少なくとも1種類を挙げることができる。かかる場合、負極活物質層の表面から2×10-7mまでの深さに亙り、40eV以上60eV以下の範囲にマグネシウム由来の単一のピークを有していてよい。負極活物質層が、その表面から内部に亙り、良好な電気化学的活性を示すからである。また、同様の理由から、マグネシウムの酸化状態が、負極活物質層の表面から深さ方向に2×10-7nmに亙りほぼ一定であってもよい。ここで、負極活物質層の表面とは、負極活物質層の両面の内、電極の表面を構成する側の面を意味し、裏面とは、この表面とは反対側の面、即ち、集電体と負極活物質層の界面を構成する側の面を意味する。負極活物質層が上記の元素を含んでいるか否かはXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)法に基づき確認することができる。また、負極活物質層が上記ピークを有すること、および、マグネシウムの酸化状態を有することも、XPS法に基づき、同様に確認することができる。
【0057】
本発明の電気化学デバイスにおいて、正極と負極とは、両極の接触による短絡を防止しつつ、マグネシウムイオンを通過させる無機セパレータあるいは有機セパレータによって分離されていることが好ましい。無機セパレータとしては、例えば、ガラスフィルター、グラスファイバーを挙げることができる。有機セパレータとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンおよび/またはポリエチレン等から成る合成樹脂製の多孔質膜を挙げることができ、これらの2種類以上の多孔質膜を積層した構造とすることもできる。中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は短絡防止効果に優れ、且つ、シャットダウン効果による電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。
【0058】
電気化学デバイスにおける電解質層は、上述の本発明の電解液、および、電解液を保持する保持体から成る高分子化合物から構成することができる。高分子化合物は、電解液によって膨潤されるものであってもよい。この場合、電解液により膨潤された高分子化合物はゲル状であってもよい。かかる高分子化合物として、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、ポリスチレンおよび/またはポリカーボネートを挙げることができる。特に、電気化学的な安定性の観点をより重視するならば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドであってよい。電解質層は固体電解質層としてもよい。
【0059】
上述したマグネシウム電極系の電気化学デバイスは、二次電池として構成することができ、その場合の概念図を
図1に示す。図示するように、充電時、マグネシウムイオン(Mg
2+)が正極10から電解質層12を通って負極11に移動することにより電気エネルギーを化学エネルギーに変換して蓄電する。放電時には、負極11から電解質層12を通って正極10にマグネシウムイオンが戻ることにより電気エネルギーを発生させる。
【0060】
電気化学デバイスを、上述の本発明の電解液から構成された電池(一次電池あるいは二次電池)とするとき、かかる電池は、例えば、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA(携帯情報端末)、携帯電話、スマートフォン、コードレス電話の親機・子機、ビデオムービー、デジタルスチルカメラ、電子書籍、電子辞書、携帯音楽プレイヤー、ラジオ、ヘッドホン、ゲーム機、ナビゲーションシステム、メモリカード、心臓ペースメーカー、補聴器、電動工具、電気シェーバ、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機、ステレオ、温水器、電子レンジ、食器洗浄器、洗濯機、乾燥機、照明機器、玩具、医療機器、ロボット、ロードコンディショナー、信号機、鉄道車両、ゴルフカート、電動カート、および/または電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)等の駆動用電源又は補助用電源として使用することができる。また、住宅をはじめとする建築物又は発電設備用の電力貯蔵用電源等として搭載し、あるいは、これらに電力を供給するために使用することができる。電気自動車において、電力を供給することにより電力を駆動力に変換する変換装置は、一般的にはモータである。車両制御に関する情報処理を行う制御装置(制御部)としては、電池の残量に関する情報に基づき、電池残量表示を行う制御装置等が含まれる。また、電池を、所謂スマートグリッドにおける蓄電装置において用いることもできる。このような蓄電装置は、電力を供給するだけでなく、他の電力源から電力の供給を受けることにより蓄電することができる。この他の電力源としては、例えば、火力発電、原子力発電、水力発電、太陽電池、風力発電、地熱発電、および/または燃料電池(バイオ燃料電池を含む)等を用いることができる。
【0061】
二次電池、二次電池に関する制御を行う制御手段(または制御部)、および、二次電池を内包する外装を有する電池パックにおいて本発明の電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することができる。かかる電池パックにおいて、制御手段は、例えば、二次電池に関する充放電、過放電又は過充電の制御を行う。
【0062】
二次電池から電力の供給を受ける電子機器に本発明の電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することもできる。
【0063】
二次電池から電力の供給を受けて車両の駆動力に変換する変換装置、および、二次電池に関する情報に基づいて車両制御に関する情報処理を行う制御装置(または制御部)を有する電動車両における二次電池に本発明の電気化学デバイスを適用することもできる。かかる電動車両において、変換装置は、典型的には、二次電池から電力の供給を受けてモータを駆動させ、駆動力を発生させる。モータの駆動には、回生エネルギーを利用することもできる。また、制御装置(または制御部)は、例えば、二次電池の電池残量に基づいて車両制御に関する情報処理を行う。このような電動車両には、例えば、電気自動車、電動バイク、電動自転車、および鉄道車両等の他、所謂ハイブリッド車が含まれる。
【0064】
二次電池から電力の供給を受け、および/または、電力源から二次電池に電力を供給するように構成された電力システムに本発明の電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することができる。このような電力システムは、およそ電力を使用するものである限り、どのような電力システムであってもよく、単なる電力装置も含む。かかる電力システムは、例えば、スマートグリッド、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)、および/または車両等を含み、蓄電も可能である。
【0065】
二次電池を有し、電力が供給される電子機器が接続されるように構成された電力貯蔵用電源において本発明の電気化学デバイス(すなわち、二次電池)を適用することができる。かかる電力貯蔵用電源の用途は問わず、基本的にはどのような電力システム又は電力装置にも用いることができるが、例えば、スマートグリッドに用いることができる。
【0066】
本発明の電気化学デバイスのより詳細な事項、更なる具体的な態様などその他の事項は、上述の[本発明の電気化学デバイスのための電解液]で説明しているので、重複を避けるために説明を省略する。
【0067】
ここで、本発明のマグネシウム電極系の電気化学デバイスが、二次電池として供される場合について更に詳述しておく。以下では、かかる二次電池を「マグネシウム二次電池」とも称する。
【0068】
本発明の電気化学デバイスとしてのマグネシウム二次電池は、それを駆動用・作動用の電源又は電力蓄積用の電力貯蔵源として利用可能な機械、機器、器具、装置、システム(複数の機器等の集合体)に対して、特に限定されることなく、適用することができる。電源として使用されるマグネシウム二次電池(例えば、マグネシウム-硫黄二次電池)は、主電源(優先的に使用される電源)であってもよいし、補助電源(主電源に代えて、又は、主電源から切り換えて使用される電源)であってもよい。マグネシウム二次電池を補助電源として使用する場合、主電源はマグネシウム二次電池に限られない。
【0069】
マグネシウム二次電池(特に、マグネシウム-硫黄二次電池)の用途として、具体的には、ビデオカメラ、カムコーダ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、パーソナルコンピュータ、テレビジョン受像機、各種表示装置、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、音楽プレーヤー、携帯用ラジオ、電子ブック、および/または電子新聞等の電子ペーパー、PDAを含む携帯情報端末といった各種電子機器、電気機器(携帯用電子機器を含む);玩具;電気シェーバ等の携帯用生活器具;室内灯等の照明器具;ペースメーカーおよび/または補聴器等の医療用電子機器;メモリーカード等の記憶用装置;着脱可能な電源としてパーソナルコンピュータ等に用いられる電池パック;電動ドリルおよび/または電動鋸等の電動工具;非常時等に備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステム等の電力貯蔵システムおよび/またはホームエネルギーサーバー(家庭用蓄電装置)、電力供給システム;蓄電ユニットおよび/またはバックアップ電源;電動自動車、電動バイク、電動自転車、および/またはセグウェイ(登録商標)等の電動車両;航空機および/または船舶の電力駆動力変換装置(具体的には、例えば、動力用モータ)の駆動を例示することができるが、これらの用途に限定するものではない。
【0070】
そのなかでも、マグネシウム二次電池(特に、マグネシウム-硫黄二次電池)は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電力供給システム、電動工具、電子機器、および/または電気機器等に適用されることが有効である。電池パックは、マグネシウム二次電池を用いた電源であり、所謂組電池等である。電動車両は、マグネシウム二次電池を駆動用電源として作動(例えば走行)する車両であり、二次電池以外の駆動源を併せて備えた自動車(例えばハイブリッド自動車等)であってもよい。電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)は、マグネシウム二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)では、電力貯蔵源であるマグネシウム二次電池に電力が蓄積されているため、電力を利用して家庭用の電気製品等が使用可能となる。電動工具は、マグネシウム二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリル等)が可動する工具である。電子機器および電気機器は、マグネシウム二次電池を作動用の電源(すなわち、電力供給源)として各種機能を発揮する機器である。
【0071】
以下、円筒型のマグネシウム二次電池および平板型のラミネートフィルム型のマグネシウム二次電池について説明する。
【0072】
円筒型のマグネシウム二次電池100の模式的な断面図を
図2に示す。マグネシウム二次電池100にあっては、ほぼ中空円柱状の電極構造体収納部材111の内部に、電極構造体121および一対の絶縁板112,113が収納されている。電極構造体121は、例えば、セパレータ126を介して正極122と負極124とを積層して電極構造体を得た後、電極構造体を捲回することで作製することができる。電極構造体収納部材(例えば電池缶)111は、一端部が閉鎖され、他端部が開放された中空構造を有しており、鉄(Fe)および/またはアルミニウム(Al)等から作製されている。一対の絶縁板112,113は、電極構造体121を挟むと共に、電極構造体121の捲回周面に対して垂直に延在するように配置されている。電極構造体収納部材111の開放端部には、電池蓋114、安全弁機構115および熱感抵抗素子(例えばPTC素子、Positive Temperature Coefficient 素子)116がガスケット117を介してかしめられており、これによって、電極構造体収納部材111は密閉されている。電池蓋114は、例えば、電極構造体収納部材111と同様の材料から作製されている。安全弁機構115および熱感抵抗素子116は、電池蓋114の内側に設けられており、安全弁機構115は、熱感抵抗素子116を介して電池蓋114と電気的に接続されている。安全弁機構115にあっては、内部短絡および/または外部からの加熱等に起因して内圧が一定以上になると、ディスク板115Aが反転する。これによって、電池蓋114と電極構造体121との電気的接続が切断される。大電流に起因する異常発熱を防止するために、熱感抵抗素子116の抵抗は温度の上昇に応じて増加する。ガスケット117は、例えば、絶縁性材料から作製されている。ガスケット117の表面にはアスファルト等が塗布されていてもよい。
【0073】
電極構造体121の捲回中心には、センターピン118が挿入されている。但し、センターピン118は、捲回中心に挿入されていなくてもよい。正極122には、アルミニウム等の導電性材料から作製された正極リード部123が接続されている。具体的には、正極リード部123は正極集電体に取り付けられている。負極124には、銅等の導電性材料から作製された負極リード部125が接続されている。具体的には、負極リード部125は負極集電体に取り付けられている。負極リード部125は、電極構造体収納部材111に溶接されており、電極構造体収納部材111と電気的に接続されている。正極リード部123は、安全弁機構115に溶接されていると共に、電池蓋114と電気的に接続されている。尚、
図2に示した例では、負極リード部125は1箇所(捲回された電極構造体の最外周部)であるが、2箇所(捲回された電極構造体の最外周部および最内周部)に設けられている場合もある。
【0074】
電極構造体121は、正極集電体上に(より具体的には、正極集電体の両面に)正極活物質層が形成された正極122と、負極集電体上に(より具体的には、負極集電体の両面に)負極活物質層が形成された負極124とが、セパレータ126を介して積層されて成る。正極リード部123を取り付ける正極集電体の領域には、正極活物質層は形成されていないし、負極リード部125を取り付ける負極集電体の領域には、負極活物質層は形成されていない。
【0075】
マグネシウム二次電池100は、例えば、以下の手順に基づき製造することができる。
【0076】
まず、正極集電体の両面に正極活物質層を形成し、負極集電体の両面に負極活物質層を形成する。
【0077】
次いで、溶接法等を用いて、正極集電体に正極リード部123を取り付ける。また、溶接法等を用いて、負極集電体に負極リード部125を取り付ける。次に、微多孔性ポリエチレンフィルムから成るセパレータ126を介して正極122と負極124とを積層し、捲回して、(より具体的には、正極122/セパレータ126/負極124/セパレータ126の電極構造体(すなわち、積層構造体)を捲回して)、電極構造体121を作製した後、最外周部に保護テープ(図示せず)を貼り付ける。その後、電極構造体121の中心にセンターピン118を挿入する。次いで、一対の絶縁板112,113で電極構造体121を挟みながら、電極構造体121を電極構造体収納部材111の内部に収納する。この場合、溶接法等を用いて、正極リード部123の先端部を安全弁機構115に取り付けると共に、負極リード部125の先端部を電極構造体収納部材111に取り付ける。その後、減圧方式に基づき電解液を注入して、電解液をセパレータ126に含浸させる。次いで、ガスケット117を介して電極構造体収納部材111の開口端部に電池蓋114、安全弁機構115および熱感抵抗素子116をかしめる。
【0078】
次に、平板型のラミネートフィルム型の二次電池について説明する。かかる二次電池の模式的な分解斜視図を
図3に示す。この二次電池にあっては、ラミネートフィルムから成る外装部材200の内部に、基本的に前述したと同様の電極構造体221が収納されている。電極構造体221は、セパレータおよび電解質層を介して正極と負極とを積層した後、この積層構造体を捲回することで作製することができる。正極には正極リード部223が取り付けられており、負極には負極リード部225が取り付けられている。電極構造体221の最外周部は、保護テープによって保護されている。正極リード部223および負極リード部225は、外装部材200の内部から外部に向かって同一方向に突出している。正極リード部223は、アルミニウム等の導電性材料から形成されている。負極リード部225は、銅、ニッケル、および/またはステンレス鋼等の導電性材料から形成されている。
【0079】
外装部材200は、
図3に示す矢印Rの方向に折り畳み可能な1枚のフィルムであり、外装部材200の一部には、電極構造体221を収納するための窪み(例えばエンボス)が設けられている。外装部材200は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。二次電池の製造工程では、融着層同士が電極構造体221を介して対向するように外装部材200を折り畳んだ後、融着層の外周縁部同士を融着する。但し、外装部材200は、2枚の別個のラミネートフィルムが接着剤等を介して貼り合わされたものでもよい。融着層は、例えば、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレン等のフィルムから成る。金属層は、例えば、アルミニウム箔等から成る。表面保護層は、例えば、ナイロンおよび/またはポリエチレンテレフタレート等から成る。中でも、外装部材200は、ポリエチレンフィルムと、アルミニウム箔と、ナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。但し、外装部材200は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレン等の高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。具体的には、ナイロンフィルムと、アルミニウム箔と、無延伸ポリプロピレンフィルムとが外側からこの順に積層された耐湿性のアルミラミネートフィルムから成っていてよい。
【0080】
外気の侵入を防止するために、外装部材200と正極リード部223との間、および、外装部材200と負極リード部225との間には、密着フィルム201が挿入されている。密着フィルム201は、正極リード部223および負極リード部225に対して密着性を有する材料、例えば、ポリオレフィン樹脂等から成っていてよく、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂から成っていてよい。
【0081】
上述では、二次電池を主に念頭にした説明であったが、本開示事項は他の電気化学デバイス、例えば、キャパシタ、空気電池および燃料電池などについても同様に当てはまる。以下それについて説明する。
【0082】
本発明の電気化学デバイスは、模式的な断面図を
図4に示すように、キャパシタとして供すことができる。キャパシタでは、電解液が含浸されたセパレータ33を介して、正極31および負極32が対向して配置されている。尚、セパレータ33、正極31および負極32の少なくとも1つの表面に、本発明の電解液が含浸されたゲル電解質膜が配置されてもよい。参照番号35,36は集電体を示し、参照番号37はガスケットを示す。
【0083】
あるいは、本発明の電気化学デバイスは、
図5の概念図に示すように、空気電池として供すこともできる。かかる空気電池は、例えば、水蒸気を透過し難く酸素を選択的に透過させる酸素選択性透過膜47、導電性の多孔質材料から成る空気極側集電体44、この空気極側集電体44と多孔質正極41の間に配置され導電性材料から成る多孔質の拡散層46、導電性材料と触媒材料を含む多孔質正極41、水蒸気を通過し難いセパレータおよび電解液(又は、電解液を含む固体電解質)43、マグネシウムイオンを放出する負極42、負極側集電体45、および、これらの各層が収納される外装体48から構成されている。
【0084】
酸素選択性透過膜47によって空気(例えば大気)51中の酸素52が選択的に透過され、多孔質材料から成る空気極側集電体44を通過し、拡散層46によって拡散され、多孔質正極41に供給される。酸素選択性透過膜47を透過した酸素の進行は空気極側集電体44によって部分的に遮蔽されるが、空気極側集電体44を通過した酸素は拡散層46によって拡散され、広がるので、多孔質正極41全体に効率的に行き渡るようになり、多孔質正極41の面全体への酸素の供給が空気極側集電体44によって阻害されることがない。また、酸素選択性透過膜47によって水蒸気の透過が抑制されるので、空気中の水分の影響による劣化が少なく、酸素が多孔質正極41全体に効率的に供給されるので、電池出力を高くすることが可能となり、安定して長期間使用可能となる。
【0085】
あるいは、本発明の電気化学デバイスは、
図6の概念図に示すように、燃料電池として供すこともできる。燃料電池は、例えば、正極61、正極用電解液62、正極用電解液輸送ポンプ63、燃料流路64、正極用電解液貯蔵容器65、負極71、負極用電解液72、負極用電解液輸送ポンプ73、燃料流路74、負極用電解液貯蔵容器75、およびイオン交換膜66から構成されている。燃料流路64には、正極用電解液貯蔵容器65および正極用電解液輸送ポンプ63を介して、正極用電解液62が連続的又は断続的に流れており(循環しており)、燃料流路74には、負極用電解液貯蔵容器75および負極用電解液輸送ポンプ73を介して、負極用電解液72が連続的又は断続的に流れたり又は循環しており、正極61と負極71との間で発電が行われる。正極用電解液62として、本発明の電解液に正極活物質を添加したものを用いることができ、負極用電解液72として、本発明の電解液に負極活物質を添加したものを用いることができる。
【0086】
なお、電気化学デバイスにおける負極についていえば、Mg金属板を用いることができるほか、以下の手法で製造することもできる。例えば、MgCl2とEnPS(エチル-n-プロピルスルホン)とを含むMg電解液(Mg-EnPS)を準備し、このMg電解液を用いて、電解メッキ法に基づきCu箔上にMg金属を析出させて、負極活物質層としてMgメッキ層をCu箔上に形成してよい。ちなみに、かかる手法で得られたMgメッキ層の表面をXPS法に基づき分析した結果、Mgメッキ層の表面にMg、C、O、SおよびClが存在することが明らかになり、また、表面分析で観察されたMg由来のピークは分裂しておらず、40eV以上60eV以下の範囲にMg由来の単一のピークが観察された。更には、Arスパッタ法に基づき、Mgメッキ層の表面を深さ方向に約200nm掘り進め、その表面をXPS法に基づき分析した結果、Arスパッタ後におけるMg由来のピークの位置および形状は、Arスパッタ前におけるピークの位置および形状と比べて変化がないことが分かった。
【0087】
本発明に係る電気化学デバイスは、
図1~
図3を参照して説明したようにマグネシウム二次電池として特に用いることができるが、かかるマグネシウム二次電池の幾つかの適用例についてより具体的に説明しておく。尚、以下で説明する各適用例の構成は、あくまで一例であり、構成は適宜変更可能である。
【0088】
マグネシウム二次電池は電池パックの形態で用いることができる。かかる電池パックは、マグネシウム二次電池を用いた簡易型の電池パック(所謂ソフトパック)であり、例えば、スマートフォンに代表される電子機器等に搭載される。それに代えて又はそれに加えて、2並列3直列となるように接続された6つのマグネシウム二次電池から構成された組電池を備えていてよい。尚、マグネシウム二次電池の接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。
【0089】
本発明のマグネシウム二次電池を電池パックに適用した場合の回路構成例を表すブロック図を
図7に示す。電池パックは、セル(例えば組電池)1001、外装部材、スイッチ部1021、電流検出抵抗器1014、温度検出素子1016および制御部1010を備えている。スイッチ部1021は、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を備えている。また、電池パックは、正極端子1031および負極端子1032を備えており、充電時には正極端子1031および負極端子1032は、それぞれ、充電器の正極端子および負極端子に接続され、充電が行われる。また、電子機器使用時には、正極端子1031および負極端子1032は、それぞれ、電子機器の正極端子および負極端子に接続され、放電が行われる。
【0090】
セル1001は、複数の本開示におけるマグネシウム二次電池1002が直列および/または並列に接続されることで、構成される。尚、
図7では、6つのマグネシウム二次電池1002が、2並列3直列(2P3S)に接続された場合を示しているが、その他、p並列q直列(但し、p,qは整数)のように、どのような接続方法であってもよい。
【0091】
スイッチ部1021は、充電制御スイッチ1022およびダイオード1023、並びに、放電制御スイッチ1024およびダイオード1025を備えており、制御部1010によって制御される。ダイオード1023は、正極端子1031からセル1001の方向に流れる充電電流に対して逆方向、負極端子1032からセル1001の方向に流れる放電電流に対して順方向の極性を有する。ダイオード1025は、充電電流に対して順方向、放電電流に対して逆方向の極性を有する。尚、例ではプラス(+)側にスイッチ部を設けているが、マイナス(-)側に設けてもよい。充電制御スイッチ1022は、電池電圧が過充電検出電圧となった場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に充電電流が流れないように制御部1010によって制御される。充電制御スイッチ1022が閉状態となった後には、ダイオード1023を介することによって放電のみが可能となる。また、充電時に大電流が流れた場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に流れる充電電流を遮断するように、制御部1010によって制御される。放電制御スイッチ1024は、電池電圧が過放電検出電圧となった場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に放電電流が流れないように制御部1010によって制御される。放電制御スイッチ1024が閉状態となった後には、ダイオード1025を介することによって充電のみが可能となる。また、放電時に大電流が流れた場合に閉状態とされて、セル1001の電流経路に流れる放電電流を遮断するように、制御部1010によって制御される。
【0092】
温度検出素子1016は例えばサーミスタから成り、セル1001の近傍に設けられ、温度測定部1015は、温度検出素子1016を用いてセル1001の温度を測定し、測定結果を制御部1010に送出する。電圧測定部1012は、セル1001の電圧、およびセル1001を構成する各マグネシウム二次電池1002の電圧を測定し、測定結果をA/D変換して、制御部1010に送出する。電流測定部1013は、電流検出抵抗器1014を用いて電流を測定し、測定結果を制御部1010に送出する。
【0093】
スイッチ制御部1020は、電圧測定部1012および電流測定部1013から送られてきた電圧および電流を基に、スイッチ部1021の充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を制御する。スイッチ制御部1020は、マグネシウム二次電池1002のいずれかの電圧が過充電検出電圧若しくは過放電検出電圧以下になったとき、および/または、大電流が急激に流れたときに、スイッチ部1021に制御信号を送ることにより、過充電および過放電、過電流充放電を防止する。充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024は、例えばMOSFET等の半導体スイッチから構成することができる。この場合、MOSFETの寄生ダイオードによってダイオード1023,1025が構成される。MOSFETとして、pチャネル型FETを用いる場合、スイッチ制御部1020は、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024のそれぞれのゲート部に、制御信号DOおよび制御信号COを供給する。充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024は、ソース電位より所定値以上低いゲート電位によって導通する。即ち、通常の充電および放電動作では、制御信号COおよび制御信号DOをローレベルとし、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を導通状態とする。そして、例えば過充電若しくは過放電の際には、制御信号COおよび制御信号DOをハイレベルとし、充電制御スイッチ1022および放電制御スイッチ1024を閉状態とする。
【0094】
メモリ1011は、例えば、不揮発性メモリであるEPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)等から成る。メモリ1011には、制御部1010で演算された数値および/または製造工程の段階で測定された各マグネシウム二次電池1002の初期状態におけるマグネシウム二次電池の内部抵抗値等が予め記憶されており、また、適宜、書き換えが可能である。また、マグネシウム二次電池1002の満充電容量を記憶させておくことで、制御部1010と共に例えば残容量を算出することができる。
【0095】
温度測定部1015では、温度検出素子1016を用いて温度を測定し、異常発熱時に充放電制御を行い、また、残容量の算出における補正を行う。
【0096】
次に、マグネシウム二次電池の電動車両への適用について説明する。電動車両の一例であるハイブリッド自動車といった電動車両の構成を表すブロック図を
図8Aに示す。電動車両は、例えば、金属製の筐体2000の内部に、制御部2001、各種センサ2002、電源2003、エンジン2010、発電機2011、インバータ2012,2013、駆動用のモータ2014、差動装置2015、トランスミッション2016およびクラッチ2017を備えている。その他、電動車両は、例えば、差動装置2015および/またはトランスミッション2016に接続された前輪駆動軸2021、前輪2022、後輪駆動軸2023、および後輪2024を備えている。
【0097】
電動車両は、例えば、エンジン2010又はモータ2014のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン2010は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジン等である。エンジン2010を動力源とする場合、エンジン2010の駆動力(例えば回転力)は、例えば、駆動部である差動装置2015、トランスミッション2016およびクラッチ2017を介して前輪2022又は後輪2024に伝達される。エンジン2010の回転力は発電機2011にも伝達され、回転力を利用して発電機2011が交流電力を発生させ、交流電力はインバータ2013を介して直流電力に変換され、電源2003に蓄積される。一方、変換部であるモータ2014を動力源とする場合、電源2003から供給された電力(例えば直流電力)がインバータ2012を介して交流電力に変換され、交流電力を利用してモータ2014を駆動する。モータ2014によって電力から変換された駆動力(例えば回転力)は、例えば、駆動部である差動装置2015、トランスミッション2016およびクラッチ2017を介して前輪2022又は後輪2024に伝達される。
【0098】
制動機構(図示せず)を介して電動車両が減速すると、減速時の抵抗力がモータ2014に回転力として伝達され、その回転力を利用してモータ2014が交流電力を発生させるようにしてもよい。交流電力はインバータ2012を介して直流電力に変換され、直流回生電力は電源2003に蓄積される。
【0099】
制御部2001は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源2003は、本発明に従った1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。電源2003は、外部電源と接続され、外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積する構成とすることもできる。各種センサ2002は、例えば、エンジン2010の回転数を制御すると共に、スロットルバルブ(図示せず)の開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。各種センサ2002は、例えば、速度センサ、加速度センサ、および/またはエンジン回転数センサ等を備えている。
【0100】
尚、電動車両がハイブリッド自動車である場合について説明したが、電動車両は、エンジン2010を用いずに電源2003およびモータ2014だけを用いて作動する車両(例えば電気自動車)でもよい。
【0101】
次に、マグネシウム二次電池の電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)への適用について説明する。電力貯蔵システム(例えば電力供給システム)の構成を表すブロック図を
図8Bに示す。電力貯蔵システムは、例えば、一般住宅および商業用ビル等の家屋3000の内部に、制御部3001、電源3002、スマートメータ3003、および、パワーハブ3004を備えている。
【0102】
電源3002は、例えば、家屋3000の内部に設置された電気機器(例えば電子機器)3010に接続されていると共に、家屋3000の外部に停車している電動車両3011に接続可能である。また、電源3002は、例えば、家屋3000に設置された自家発電機3021にパワーハブ3004を介して接続されていると共に、スマートメータ3003およびパワーハブ3004を介して外部の集中型電力系統3022に接続可能である。電気機器(例えば電子機器)3010は、例えば、1又は2以上の家電製品を含んでいる。家電製品として、例えば、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機、および/または給湯器等を挙げることができる。自家発電機3021は、例えば、太陽光発電機および/または風力発電機等から構成されている。電動車両3011として、例えば、電動自動車、ハイブリッド自動車、電動オートバイ、電動自転車、および/またはセグウェイ(登録商標)等を挙げることができる。集中型電力系統3022として、商用電源、発電装置、送電網、および/またはスマートグリッド(例えば次世代送電網)を挙げることができるし、また、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所、および/または風力発電所等を挙げることもできるし、集中型電力系統3022に備えられた発電装置として、種々の太陽電池、燃料電池、風力発電装置、マイクロ水力発電装置、および/または地熱発電装置等を例示することができるが、これらに限定するものではない。
【0103】
制御部3001は、電力貯蔵システム全体の動作(電源3002の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源3002は、本発明にしたがった1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。スマートメータ3003は、例えば、電力需要側の家屋3000に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能である。そして、スマートメータ3003は、例えば、外部と通信しながら、家屋3000における需要・供給のバランスを制御することで、効率的で安定したエネルギー供給が可能となる。
【0104】
かかる電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統3022からスマートメータ3003およびパワーハブ3004を介して電源3002に電力が蓄積されると共に、独立電源である自家発電機3021からパワーハブ3004を介して電源3002に電力が蓄積される。電源3002に蓄積された電力は、制御部3001の指示に応じて電気機器(例えば電子機器)3010および電動車両3011に供給されるため、電気機器(例えば電子機器)3010の作動が可能になると共に、電動車両3011が充電可能になる。即ち、電力貯蔵システムは、電源3002を用いて、家屋3000内における電力の蓄積および供給を可能にするシステムである。
【0105】
電源3002に蓄積された電力は、任意に利用可能である。そのため、例えば、電気料金が安価な深夜に集中型電力系統3022から電源3002に電力を蓄積しておき、電源3002に蓄積しておいた電力を電気料金が高い日中に用いることができる。
【0106】
以上に説明した電力貯蔵システムは、1戸(例えば1世帯)毎に設置されていてもよいし、複数戸(例えば複数世帯)毎に設置されていてもよい。
【0107】
次に、マグネシウム二次電池の電動工具への適用について説明する。電動工具の構成を表すブロック図を
図8Cに示す。電動工具は、例えば、電動ドリルであり、プラスチック材料等から作製された工具本体4000の内部に、制御部4001および電源4002を備えている。工具本体4000には、例えば、可動部であるドリル部4003が回動可能に取り付けられている。制御部4001は、電動工具全体の動作(電源4002の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源4002は、本発明に従った1又は2以上のマグネシウム二次電池(図示せず)を備えることができる。制御部4001は、動作スイッチ(図示せず)の操作に応じて、電源4002からドリル部4003に電力を供給する。
【0108】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。
【0109】
例えば、上述した電解液の組成、製造に用いた原材料、製造方法、製造条件、電解液の特性、電気化学デバイス、電池の構成または構造は例示であり、これらに限定するものではなく、また、適宜、変更することができる。本発明の電解液を有機ポリマー(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルおよび/またはポリフッ化ビニリデン(PVdF))と混合してゲル電解質として使用することもできる。
【実施例】
【0110】
本発明の効果を確認すべく以下の実証試験を行った。
【0111】
特に、マグネシウム電極系の電解液に含まれる直鎖エーテル溶媒が、単一のエチレンオキシ構造単位でなく、“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有することでマグネシウム電極系の電解液の特性向上に寄与するか否かについて実証試験を行った。
【0112】
実施例1
電気化学デバイスとして以下の仕様を有するマグネシウム-硫黄二次電池を作製した。
(マグネシウム-硫黄二次電池の仕様)
● 負極:マグネシウム電極(φ15mmおよび厚み200μmのMg板/純度99.9%)
● 正極:硫黄電極(S8硫黄を10質量%含有した電極、導電助剤としてケッチェンブラック(KB)を含有、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有)
● セパレータ:グラスファイバー
● 電解液
・マグネシウム塩:ハロゲン金属塩(MgCl2(無水物)0.8M)およびイミド金属塩(Mg(TFSI)2 0.8M)
・直鎖エーテル溶媒:ジエチレングリコールジメチルエーテル
● 二次電池形態:コイン電池CR2016タイプ
【0113】
図9に作製した電池を模式的な展開図で示す。正極23は、硫黄(S
8)10質量%、導電助剤としてケッチェンブラック60質量%、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)30質量%を瑪瑙製の乳鉢を用いて混合した。そして、アセトンで馴染ませながらローラーコンパクターを用いて10回程度圧延成型した。その後、70℃の真空乾燥で12時間乾燥した。こうして、正極23を得ることができた。
【0114】
コイン電池缶21にガスケット22を載せ、硫黄から成る正極23、グラスファイバー製のセパレータ24、直径15mm、厚さ200μmのMg板から成る負極25、厚さ0.5mmのステンレス鋼板から成るスペーサ26、コイン電池蓋27の順に積層した後、コイン電池缶21をかしめて封止した。スペーサ26はコイン電池蓋27に予めスポット溶接しておいた。電解液は、コイン電池20のセパレータ24に含ませる形態で用いた。
【0115】
作製した電池を充放電に付した。充放電条件は、以下の通りである。
(充放電条件)
放電条件:CC放電0.1mA/0.4Vまたは0.7Vカットオフ
充電条件:CC充電0.1mA/2.2Vカットオフ
温度:25℃
【0116】
実施例2
上記実施例1における電解液の直鎖エーテル溶媒について「ジエチレングリコールジメチルエーテル」を「ジエチレングリコールエチルメチルエーテル」へと変更(およびMgCl2およびMg(TFSI)2の使用量をそれぞれ1.0Mおよび0.8Mへと変更)した以外は、同様にマグネシウム-硫黄二次電池を作製し、同様の充放電に付した。
【0117】
比較例1
上記実施例1における電解液の直鎖エーテル溶媒について「ジエチレングリコールジメチルエーテル」を「ジメトキシエタン(エチレングリコールジメチルエーテル)」へと変更(およびMgCl2およびMg(TFSI)2の使用量をそれぞれ2Mおよび1Mへと変更)した以外は、同様にマグネシウム-硫黄二次電池を作製し、同様の充放電に付した。
【0118】
(結果)
結果を
図10に示す。
図10には、実施例1、実施例2および比較例1における充放電カーブが示されている。
【0119】
図10の充放電カーブから分かるように、実施例1および実施例2は、比較例1と異なり、特に二段目プラトーが1.0V以上で放電し、高い平均放電電位を示した。かかる放電電位は、従前報告されているもの、例えば「(1)Toyota:特表2013-525993、(2)Kang Xu: Angew. Chem. Int. Ed., 2017, 56, p13526-13530、(3)KIT: Adv. Energy Mater., 2014, 1401155」で報告されている放電曲線よりも明らかに高い値である。
【0120】
このようなことを踏まえて総括すると、以下の事項を本実証試験から見出すことができた。
・マグネシウム電極系の電解液に含まれる直鎖エーテル溶媒が、単一のエチレンオキシ構造単位でなく、あくまでも“2又はそれよりも多いエチレンオキシ構造単位”を有することによって、マグネシウム電極系の電気化学デバイスの放電電位が高くなる。より高い放電電位ゆえ、エネルギー密度がより高い電気化学デバイスの実現が達成され得る。
・実施例1および実施例2における電解液は、ハロゲン金属塩およびイミド金属塩を含んでいたことから、直鎖エーテル溶媒に含まれるマグネシウム塩を用いることは、マグネシウム電極系の電気化学デバイスのより高い放電電位に寄与し得る。
・実施例1および実施例2におけるハロゲン金属塩およびイミド金属塩について、ハロゲン金属塩が塩化マグネシウムであったことから、直鎖エーテル溶媒に含まれるマグネシウム塩として塩化マグネシウムを用いることは、マグネシウム電極系の電気化学デバイスのより高い放電電位に寄与し得る。
・実施例1および実施例2におけるハロゲン金属塩およびイミド金属塩について、イミド金属塩がMg(TFSI)2であったことから、直鎖エーテル溶媒に含まれるマグネシウム塩としてパーフルオロアルキルスルホニルイミドのマグネシウム塩を用いることは、マグネシウム電極系の電気化学デバイスのより高い放電電位に寄与し得る。
・実施例1および実施例2における直鎖エーテル溶媒は、炭素数1以上10以下の脂肪族炭化水素基を有するものであったことから、そのような特徴は、マグネシウム電極系の電気化学デバイスのより高い放電電位に寄与し得る。
・実施例1および実施例2における直鎖エーテル溶媒は、含有する2つの炭化水素基がそれぞれ炭素数1以上4以下の低級アルキル基であったことから、そのような特徴はマグネシウム電極系の電気化学デバイスのより高い放電電位に寄与し得る。
・実施例1における直鎖エーテル溶媒は、含有する2つの炭化水素基が互いに同じアルキル基であったことから、そのような特徴は、マグネシウム電極系の電気化学デバイスのより高い放電電位に寄与し得る。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の電解液は、電気化学的な反応を利用してエネルギーを取り出す様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の電解液は、二次電池はもちろんのこと、それに限らず、キャパシタ、空気電池および燃料電池などの種々の電気化学デバイスに用いられる。
【符号の説明】
【0122】
10・・・正極、11・・・負極、12・・・電解質層、20・・・コイン電池、21・・・コイン電池缶、22・・・ガスケット、23・・・正極、24・・・セパレータ、25・・・負極、26・・・スペーサ、27・・・コイン電池蓋、31・・・正極、32・・・負極、33・・・セパレータ、35,36・・・集電体、37・・・ガスケット、41・・・多孔質正極、42・・・負極、43・・・セパレータおよび電解液、44・・・空気極側集電体、45・・・負極側集電体、46・・・拡散層、47・・・酸素選択性透過膜、48・・・外装体、51・・・空気(大気)、52・・・酸素、61・・・正極、62・・・正極用電解液、63・・・正極用電解液輸送ポンプ、64・・・燃料流路、65・・・正極用電解液貯蔵容器、71・・・負極、72・・・負極用電解液、73・・・負極用電解液輸送ポンプ、74・・・燃料流路、75・・・負極用電解液貯蔵容器、66・・・イオン交換膜、100・・・マグネシウム二次電池、111・・・電極構造体収納部材(電池缶)、112,113・・・絶縁板、114・・・電池蓋、115・・・安全弁機構、115A・・・ディスク板、116・・・熱感抵抗素子(PTC素子)、117・・・ガスケット、118・・・センターピン、121・・・電極構造体、122・・・正極、123・・・正極リード部、124・・・負極、125・・・負極リード部、126・・・セパレータ、200・・・外装部材、201・・・密着フィルム、221・・・電極構造体、223・・・正極リード部、225・・・負極リード部、1001・・・セル(組電池)、1002・・・マグネシウム二次電池、1010・・・制御部、1011・・・メモリ、1012・・・電圧測定部、1013・・・電流測定部、1014・・・電流検出抵抗器、1015・・・温度測定部、1016・・・温度検出素子、1020・・・スイッチ制御部、1021・・・スイッチ部、1022・・・充電制御スイッチ、1024・・・放電制御スイッチ、1023,1025・・・ダイオード、1031・・・正極端子、1032・・・負極端子、CO,DO・・・制御信号、2000・・・筐体、2001・・・制御部、2002・・・各種センサ、2003・・・電源、2010・・・エンジン、2011・・・発電機、2012,2013・・・インバータ、2014・・・駆動用のモータ、2015・・・差動装置、2016・・・トランスミッション、2017・・・クラッチ、2021・・・前輪駆動軸、2022・・・前輪、2023・・・後輪駆動軸、2024・・・後輪、3000・・・家屋、3001・・・制御部、300
2・・・電源、3003・・・スマートメータ、3004・・・パワーハブ、3010・・・電気機器(電子機器)、3011・・・電動車両、3021・・・自家発電機、3022・・・集中型電力系統、4000・・・工具本体、4001・・・制御部、4002・・・電源、4003・・・ドリル部