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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】標準液充填体およびその利用
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20220720BHJP
【FI】
A61M1/16 160
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021022501
(22)【出願日】2021-02-16
(62)【分割の表示】P 2017537554の分割
【原出願日】2016-09-01
(65)【公開番号】P2021073048
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2015174681
(32)【優先日】2015-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015174682
(32)【優先日】2015-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】増田 利明
(72)【発明者】
【氏名】島田 衛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊成
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/044919(WO,A1)
【文献】特開2002-308782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液透析用の透析液を調製する際に用いられる重炭酸含有製剤の標準液を密閉容器内に充填した充填体であって、
前記密閉容器はガスバリア性を有する材料で構成されるとともに、容器本体よりも内径を狭めた肩部および当該肩部の上端に設けられる開口部を有するバイアルであって、
前記標準液の液面は、前記開口部を密閉封止する栓部材より下に位置し、
前記標準液における充填後の初期pHは、調製対象の前記重炭酸含有製剤のpHよりも低くなっていることを特徴とする、
標準液充填体。
【請求項2】
血液透析用の透析液を調製する際に用いられる重炭酸含有製剤の標準液を密閉容器内に充填した充填体であって、
前記密閉容器はガスバリア性を有する材料で構成され、容器本体よりも小さな内径を有するとともに先端部が融解封止部である頭部を有するアンプルであって、
前記標準液の液面は、前記融解封止部より下に位置し、
前記標準液における充填後の初期pHは、調製対象の前記重炭酸含有製剤のpHよりも低くなっていることを特徴とする、
標準液充填体。
【請求項3】
前記重炭酸含有製剤が透析液であり、
前記標準液は、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製したものであり、
前記標準液における充填後の初期pHは、調製対象の前記透析液のpHよりも0.4以内で低くなっていることを特徴とする、
請求項1または2に記載の標準液充填体。
【請求項4】
前記標準液は、
弱酸である酸成分と、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、およびマグネシウムイオンを含む複数種の1価または2価の金属イオンとを含有し、
調製対象の前記重炭酸含有製剤の組成を基準としたときに、前記金属イオンの含有量が当該基準と同等であり、かつ、前記酸成分の含有量が当該基準より多くなる組成を有することを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の標準液充填体。
【請求項5】
前記酸成分がクエン酸または酢酸であり、前記弱酸の金属塩がクエン酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウムであることを特徴とする、
請求項に記載の標準液充填体。
【請求項6】
前記密閉容器内には、前記標準液とともに前記密閉容器内の空隙部を満たす封入ガスが充填されており、
当該封入ガスは、空気または窒素ガスと二酸化炭素から構成され、二酸化炭素の含有率が3~20体積%の範囲内の混合ガスであることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の標準液充填体。
【請求項7】
前記密閉容器の容量を100体積%としたときに、前記標準液の充填率が70~99体積%の範囲内であり、前記封入ガスの充填率が1~30体積%の範囲内であることを特徴とする、
請求項に記載の標準液充填体。
【請求項8】
前記標準液は、二酸化炭素がバブリングされたものであることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の標準液充填体。
【請求項9】
前記標準液は、酸が添加されたものであることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の標準液充填体。
【請求項10】
前記重炭酸含有製剤の前記標準液は、
ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する酸性の水溶液であるA剤と、炭酸水素塩を含有するB剤と、水と、を予め設定される混合比で混合することにより調製した前記透析液の標準液、または、
前記B剤の標準液であることを特徴とする、
請求項1からのいずれか1項に記載の標準液充填体。
【請求項11】
前記密閉容器は、少なくとも本体がガラス製であることを特徴とする、
請求項1から10のいずれか1項に記載の標準液充填体。
【請求項12】
請求項1から1のいずれか1項に記載の標準液充填体を含むことを特徴とする、
透析液の調製キット。
【請求項13】
血液透析用の透析液を調製する際に用いられる重炭酸含有製剤の標準液を密閉容器内に充填することにより、標準液充填体を製造する方法であって、
前記密閉容器は、ガスバリア性を有する材料で構成されるとともに、容器本体よりも内径を狭めた肩部および当該肩部の上端に設けられる開口部を有するバイアルであって、
前記標準液の液面を、前記開口部を密閉封止する栓部材より下に位置させるとともに、
前記標準液における充填後の初期pHを、調製対象の前記透析液のpHよりも低くするように調整することを特徴とする、
標準液充填体の製造方法。
【請求項14】
血液透析用の透析液を調製する際に用いられる重炭酸含有製剤の標準液を密閉容器内に充填することにより、標準液充填体を製造する方法であって、
前記密閉容器は、ガスバリア性を有する材料で構成され、容器本体よりも小さな内径を有するとともに先端部が融解封止部である頭部を有するアンプルであって、
前記標準液の液面を、前記融解封止部より下に位置させるとともに、
前記標準液における充填後の初期pHを、調製対象の前記透析液のpHよりも低くするように調整することを特徴とする、
標準液充填体の製造方法。
【請求項15】
前記重炭酸含有製剤が透析液であり、
前記標準液を、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製し、
前記標準液における充填後の初期pHを、調製対象の前記透析液のpHよりも0.4以内で低くするように調整することを特徴とする、
請求項13または14に記載の標準液充填体の製造方法。
【請求項16】
前記標準液は、弱酸である酸成分と、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、およびマグネシウムイオンを含む複数種の1価または2価の金属イオンとを含有するものであり、
調製対象の前記重炭酸含有製剤の組成を基準としたときに、前記金属イオンの含有量を当該基準と同等とし、かつ、前記酸成分の含有量を当該基準より多くするように、前記標準液の組成を調整することにより、当該標準液の前記初期pHを調整することを特徴とする、
請求項13から15のいずれか1項に記載の標準液充填体の製造方法。
【請求項17】
前記密閉容器内の空隙部を満たす封入ガスを、前記標準液よりも少ない体積となるように、前記標準液とともに前記密閉容器に充填することにより、前記初期pHを調整し、
前記封入ガスは、空気または窒素ガスと二酸化炭素から構成され、二酸化炭素の含有率が3~20体積%の範囲内の混合ガスであることを特徴とする、
請求項13から15のいずれか1項に記載の標準液充填体の製造方法。
【請求項18】
前記標準液を二酸化炭素でバブリングすることにより、当該標準液の前記初期pHを調整することを特徴とする、
請求項13から15のいずれか1項に記載の標準液充填体の製造方法。
【請求項19】
前記標準液に酸を添加することにより、当該標準液の前記初期pHを調整することを特徴とする、
請求項13から15のいずれか1項に記載の標準液充填体の製造方法。
【請求項20】
前記重炭酸含有製剤の前記標準液が前記透析液の標準液であり、
ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する酸性の水溶液であるA剤と、炭酸水素塩を含有するB剤と、水と、を予め設定され
る混合比で混合することにより前記透析液の標準液を調製するか、または、
前記重炭酸含有製剤の前記標準液が前記B剤の標準液であることを特徴とする、
請求項1から1のいずれか1項に記載の標準液充填体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析に際して透析液および透析液を調製する際に用いられる重炭酸含有製剤が適正な濃度で使用されていることを確認するために用いられる標準液を容器に充填した充填体、並びに、この標準液充填体の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析療法(または人工透析療法。以下「血液透析」と略す。)は、慢性腎不全患者等に対して採用され、腎機能を人工的に代替する治療方法である。血液透析では、体内から体外に血液を引き出して透析器(ダイアライザ)に透過させ、再び体内に引き戻す。透析器では、透析膜を介して血液と透析液とを間接的に接触させることで、血液中の老廃物が除去されるとともに、血液中の電解質および水分量が維持される。血液透析では1回当たり、例えば100~300リットルの透析液が用いられる。
【0003】
透析液は、通常、使用直前に調製される。一般的な透析液の調製方法では、電解質成分を含有するA剤と炭酸水素塩(重炭酸塩)を含有するB剤とが、使用する直前に混合された上で、透析用水が補充されることにより各成分の濃度が調整される。これは、A剤に含有される電解質成分の一部がB剤の主成分である炭酸水素塩と共存した場合、時間の経過に伴ってこれらが互いに反応し、不溶性の炭酸塩を生じさせるためである。不溶性の炭酸塩が発生すれば、透析液中に沈殿を生じさせるとともに、透析液の成分濃度およびpHを変化させることになる。また、透析液に含まれる炭酸水素塩は、経時的に二酸化炭素へと分解される。この分解反応によっても透析液の成分濃度およびpHが変化することになる。
【0004】
従来では、不溶性の炭酸塩の発生および炭酸水素イオンの分解を回避するための一手法として、例えば、特許文献1または2に開示されるように、A剤およびB剤を、隔壁で隔離された複室容器にそれぞれ収容する手法が知られている。この手法では、使用現場で隔壁を破袋してA剤およびB剤を混合することで、使用直前に透析液を調製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-197240号公報
【文献】特開2005-028108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のように、透析液を使用直前に調製することは、言い換えれば、必要量の透析液を使用現場で随時調製することになる。そのため、専用の設備が設けられた工場等で大規模に透析液を品質管理しながら調製することに比べれば、透析液の濃度にバラツキが生じやすくなる。
【0007】
ここで、特許文献1または2に開示されるような複室容器を用いた手法では、工場でA剤およびB剤を予め調製して複室容器に充填して出荷することができるので、透析液の濃度のバラツキを抑制することが可能である。しかしながら、この手法では、調製される透析液の量が、複室容器に収容可能なA剤およびB剤の量に制限されるため、例えば、複室容器の容量以上の透析液が必要な場合には十分に対応することができない。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、透析液を使用現場で随時調製する際に、調製量に制限を受けることなく、透析液の濃度のバラツキを抑制することが可能な手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る標準液充填体は、前記の課題を解決するために、血液透析用の透析液を調製する際に用いられる重炭酸含有製剤の標準液を密閉容器内に充填した充填体であって、前記密閉容器はガスバリア性を有する材料で構成され、前記標準液における充填後の初期pHは、調製対象の前記重炭酸含有製剤のpHよりも低くなっている構成である。
【0010】
前記構成によれば、透析液の調製に用いられる重炭酸含有製剤を密閉容器に充填する際に、充填された標準液のpHの上昇を予め見越して初期pHを低下させていることになる。これにより、保存中であっても標準液のpHを好適な範囲内で維持することができるとともに、標準液のpH上昇に伴って不溶性の塩が生成することも回避することができる。それゆえ、長期間にわたって標準液を安定して保存することが可能になるので、使用現場で調製された透析液の濃度を適切に調整することができる。これにより、透析液を使用現場で随時調製する際であっても、調製量に制限を受けることなく、透析液の濃度のバラツキを抑制することができる。
【0011】
前記構成の標準液充填体においては、前記重炭酸含有製剤が透析液であり、前記標準液は、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製したものであり、前記標準液における充填後の初期pHは、調製対象の前記透析液のpHよりも0.4以内で低くなっている構成であってもよい。
【0012】
前記構成によれば、重炭酸含有製剤が透析液であるときに、充填された透析液標準液の初期pHを0.4以内で低下させている。そのため、保存中であっても透析液標準液のpHを好適な範囲内で維持することができるとともに、透析液標準液のpH上昇に伴って不溶性の塩が生成することも回避することができる。それゆえ、長期間にわたって透析標準液を安定して保存することが可能になるので、使用現場で調製された透析液の濃度を適切に調整することができる。
【0013】
また、前記構成の標準液充填体においては、前記標準液は、弱酸である酸成分と、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、およびマグネシウムイオンを含む複数種の1価または2価の金属イオンとを含有し、調製対象の前記重炭酸含有製剤の組成を基準としたときに、前記金属イオンの含有量が当該基準と同等であり、かつ、前記酸成分の含有量が当該基準より多くなる組成を有する構成であってもよい。
【0014】
前記構成によれば、弱酸および弱酸の金属塩の含有比を調整してpHを低く設定している。このとき、金属イオンの含有量を実質的に変化させることなく、弱酸および弱酸の金属塩の含有比を調整しているので、標準液として実質的な組成を保持しつつ、pHを低く設定することができる。しかも、金属イオンの供給源として弱酸の金属塩を含んでいれば、弱酸がpH緩衝系の酸として挙動し、弱酸の金属塩がpH緩衝系の共役塩基として挙動することができる。そのため、標準液の組成によっては、pHの上昇を予め見越して初期pHを低下させているだけでなく、充填された標準液のpHは、pH緩衝作用により上昇しにくくすることが可能となる。
【0015】
また、前記構成の標準液充填体においては、前記酸成分がクエン酸または酢酸であり、共役塩基となる前記金属イオンがナトリウムイオンである構成であってもよい。
【0016】
あるいは、前記構成の標準液充填体においては、前記密閉容器内には、前記標準液とともに前記密閉容器内の空隙部を満たす封入ガスが充填されており、当該封入ガスは、空気または窒素ガスと二酸化炭素から構成され、二酸化炭素の含有率が3~20体積%の範囲内の混合ガスである構成であってもよい。
【0017】
前記構成によれば、充填体の内部には、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を混合して調製される標準液と、これよりも少ない体積の封入ガスが充填され、この封入ガスは二酸化炭素を3~20体積%の範囲内で含む混合ガスとなっている。これにより、充填後の標準液の初期pHを実質的に低下させることが可能となる。そのため、充填された標準液のpHが上昇しても、好適な範囲内を維持することができるとともに、標準液のpH上昇に伴って不溶性の塩が生成することも回避することができる。また、封入ガスが二酸化炭素のみである場合に生じるpHの大幅な低下も有効に抑制することができる。
【0018】
したがって、前記構成の標準液充填体であれば、長期間にわたって標準液を安定して保存することが可能になる。それゆえ、透析液を使用現場で随時調製する際には、標準液充填体内の標準液と、調製された重炭酸含有製剤とを比較することで、調製された重炭酸含有製剤の濃度を適切に調整することができる。その結果、透析液を使用現場で随時調製する際であっても、調製量に制限を受けることなく、透析液の濃度のバラツキを抑制することが可能となる。
【0019】
また、前記構成の標準液充填体においては、前記密閉容器の容量を100体積%としたときに、前記標準液の充填率が70~99体積%の範囲内であり、前記封入ガスの充填率が1~30体積%の範囲内である構成であってもよい。
【0020】
また、前記構成の標準液充填体においては、前記標準液が、二酸化炭素がバブリングされることにより前記初期pHが低くされたものである構成であってもよい。
【0021】
また、前記構成の標準液充填体においては、前記標準液が、酸が添加されることにより前記初期pHが低くされたものである構成であってもよい。
【0022】
本開示に係る他の標準液充填体は、前記の課題を解決するために、血液透析用の透析液を調製する際に用いられる重炭酸含有製剤の標準液を密閉容器内に充填した充填体であって、前記密閉容器はガスバリア性を有する材料で構成され、前記標準液は、前記密閉容器の容量限界まで、もしくは、前記密閉容器の容量制限を超えて溢れない状態まで、当該密閉容器に充填されている構成である。
【0023】
前記構成によれば、密閉容器の内部では、実質的に、重炭酸含有製剤の標準液のみが充填される状態になる。これにより、この標準液において不溶性の炭酸塩の発生と炭酸水素塩の二酸化炭素への分解とを回避できるとともに、長期間保存してもpHを所定範囲内に維持することが可能となる。それゆえ、長期間にわたって標準液を安定して保存することが可能になる。これにより、透析液を使用現場で随時調製する際には、標準液充填体内の標準液と、調製された重炭酸含有製剤とを比較することで、調製された重炭酸含有製剤の濃度を適切に調整することができる。その結果、透析液を使用現場で随時調製する際であっても、調製量に制限を受けることなく、透析液の濃度のバラツキを抑制することが可能となる。
【0024】
前記構成の標準液充填体においては、前記重炭酸含有製剤が透析液であり、前記標準液は、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製したものである構成であってもよい。
【0025】
前記構成によれば、密閉容器の内部では、実質的に、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を混合して調製される透析液標準液のみが充填される状態になる。これにより、透析液標準液において不溶性の炭酸塩の発生と炭酸水素塩の二酸化炭素への分解とを回避できるとともに、長期間保存してもpHを所定範囲内に維持することが可能となる。それゆえ、長期間にわたって透析液標準液を安定して保存することが可能になる。
【0026】
前記構成の標準液充填体においては、前記密閉容器の全容量を100体積%としたときに、前記標準液は充填率が80~100体積%の範囲内となるように、前記密閉容器に充填されている構成であってもよい。
【0027】
また、前記いずれかの構成の標準液充填体においては、前記重炭酸含有製剤の前記標準液は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する酸性の水溶液であるA剤と、炭酸水素塩を含有するB剤と、水と、を予め設定される混合比で混合することにより調製した前記透析液の標準液、または、前記B剤の標準液である構成であってもよい。
【0028】
また、前記いずれかの構成の標準液充填体においては、前記密閉容器は、少なくとも本体がガラス製である構成であってもよい。
【0029】
また、本発明には、前記いずれかの構成の標準液充填体を含む透析液の調製キットも含まれる。
【0030】
さらに、本発明には、前記構成の標準液充填体の製造方法も含まれる。具体的には、本開示に係る標準液充填体の製造方法は、血液透析用の透析液を調製する際に用いられる重炭酸含有製剤の標準液を密閉容器内に充填することにより、標準液充填体を製造する方法であって、前記密閉容器は、ガスバリア性を有する材料で構成され、前記標準液における充填後の初期pHを、調製対象の前記透析液のpHよりも低くするように調整する構成であればよい。
【0031】
前記構成の標準液充填体の製造方法においては、前記重炭酸含有製剤が透析液であり、前記標準液を、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製し、前記標準液における充填後の初期pHを、調製対象の前記透析液のpHよりも0.4以内で低くするように調整する構成であってもよい。
【0032】
前記標準液充填体の製造方法においては、前記標準液は、弱酸である酸成分と、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、およびマグネシウムイオンを含む複数種の1価または2価の金属イオンとを含有するものであり、調製対象の前記重炭酸含有製剤の組成を基準としたときに、前記金属イオンの含有量を当該基準と同等とし、かつ、前記酸成分の含有量を当該基準より多くするように、前記標準液の組成を調整することにより、前記初期pHを調整する構成であってもよい。
【0033】
前記標準液充填体の製造方法においては、前記密閉容器内の空隙部を満たす封入ガスを、前記標準液よりも少ない体積となるように、前記標準液とともに前記密閉容器に充填することにより、前記初期pHを調整し、前記封入ガスは、空気または窒素ガスと二酸化炭素から構成され、二酸化炭素の含有率が3~20体積%の範囲内の混合ガスである構成であってもよい。
【0034】
また、前記構成の標準液充填体の製造方法においては、前記標準液を二酸化炭素でバブリングすることにより、前記初期pHを調整する構成であってもよい。
【0035】
また、前記構成の標準液充填体の製造方法においては、前記標準液に希塩酸を添加することにより、前記初期pHを調整する構成であってもよい。
【0036】
さらに、本開示に係る他の標準液充填体の製造方法は、血液透析用の透析液を調製する際に用いられる重炭酸含有製剤の標準液を密閉容器内に充填することにより、透析液標準液充填体を製造する方法であって、前記密閉容器は、ガスバリア性を有する材料で構成され、前記標準液は、前記密閉容器の容量限界まで、もしくは、前記密閉容器の容量制限を超えて溢れない状態まで、当該密閉容器に充填される構成である。
【0037】
前記構成の標準液充填体の製造方法においては、前記重炭酸含有製剤が透析液であり、前記標準液を、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製する構成であってもよい。
【0038】
前記いずれかの構成の標準液充填体の製造方法においては、前記重炭酸含有製剤の前記標準液が前記透析液の標準液であり、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する酸性の水溶液であるA剤と、炭酸水素塩を含有するB剤と、水と、を予め設定される混合比で混合することにより前記透析液の標準液を調製するか、または、前記重炭酸含有製剤の前記標準液が前記B剤の標準液である構成であればよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明では、以上の構成により、透析液を使用現場で随時調製する際に、調製量に制限を受けることなく、透析液の濃度のバラツキを抑制することが可能な手法を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本開示に係る標準液充填体の代表的な実施例およびこれに対する比較例の結果であって、標準液充填体を室温保存したときの経時的なpHの変化の結果を示すグラフである。
図2図1に示す標準液充填体の実施例に対する比較例の結果であって、標準液充填体を室温保存したときの経時的なpHの変化の結果を示すグラフである。
図3】本開示に係る標準液充填体の代表的な実施例およびこれに対する比較例の結果であって、標準液充填体を40℃の加速条件で保存したときの経時的なpHの変化の結果を示すグラフである。
図4図3に示す標準液充填体の実施例に対する比較例の結果であって、標準液充填体を40℃の加速条件で保存したときの経時的なpHの変化の結果を示すグラフである。
図5】本開示に係る他の標準液充填体の代表的な実施例およびこれに対する比較例の結果であって、標準液充填体を室温保存したときの経時的なpHの変化の結果を示すグラフである。
図6図5に示す標準液充填体の実施例に対する比較例の結果であって、標準液充填体を室温保存したときの経時的なpHの変化の結果を示すグラフである。
図7】本開示に係る他の標準液充填体の実施例に対する比較例の結果であって、標準液充填体を40℃の加速条件で保存したときの経時的なpHの変化の結果を示すグラフである。
図8】本開示に係る他の標準液充填体の実施例の結果であって、標準液充填体を室温保存または40℃の加速条件で保存したときの経時的なpHの変化の結果を示すグラフである。
図9】本開示に係る他の標準液充填体の代表的な実施例およびこれに対する比較例の結果であって、標準液充填体を室温保存したときの経時的なpHの変化の結果を示すグラフである。
図10】本開示に係る他の標準液充填体の代表的な実施例の結果であって、標準液充填体を室温保存したときの経時的なpHの変化の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本開示に係る標準液充填体およびその製造方法は、血液透析用の透析液を調製する際に用いられる重炭酸含有製剤の標準液を密閉容器内に充填した充填体であって、密閉容器はガスバリア性を有する材料で構成されている。本開示においては、透析液を使用現場で随時調製する際に、調製量に制限を受けることなく、透析液の濃度のバラツキを抑制するために、複数の構成を採用することができる。
【0042】
代表的な構成としては、標準液における充填後の初期pHは、調製対象の重炭酸含有製剤のpHよりも低くなっている構成、もしくは、標準液が、密閉容器の容量限界まで、もしくは、密閉容器の容量制限を超えて溢れない状態まで、当該密閉容器が充填されている構成を挙げることができる。
【0043】
前者の構成としては、より具体的には、(1)標準液とともに密閉容器内の空隙部を満たす封入ガスが充填されており、当該封入ガスは、空気または窒素ガスと二酸化炭素から構成され、二酸化炭素の含有率が3~20体積%の範囲内の混合ガスである構成、(2)標準液は、弱酸である酸成分と、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、およびマグネシウムイオンを含む複数種の1価または2価の金属イオンとを含有し、調製対象の重炭酸含有製剤の組成を基準としたときに、金属イオンの含有量が当該基準と同等であり、かつ、酸成分の含有量が当該基準より多くなる組成を有する構成、(3)標準液が、二酸化炭素がバブリングされることにより前記初期pHが低くされたものである構成、(4)標準液が、酸が添加されることにより前記初期pHが低くされたものである構成等を挙げることができる。
【0044】
ここで、本開示における重炭酸含有製剤としては、重炭酸塩(炭酸水素塩)を含有し、透析液の調製に用いられるものであればよい。代表的には、透析液そのものを挙げることができる。あるいは、透析液が、ナトリウムイオン等を含有する酸性の水溶液であるA剤と、重炭酸塩を含有するB剤と、水とを混合して調製されるものであれば、本開示における重炭酸含有製剤としては、B剤も含まれる。
【0045】
以下、本開示に係る代表的な実施の形態について具体的に説明するが、以下の各実施の形態では、重炭酸含有製剤として透析液を用いた場合について説明している。もちろん、本開示はこれに限定されず、重炭酸含有製剤がB剤であってもよいし、他の透析用の製剤であってもよいことはいうまでもない。
【0046】
(実施の形態1)
本実施の形態に係る透析液標準液充填体は、血液透析用の透析液を調製する際に用いられる透析液標準液を密閉容器内に充填した充填体である。充填される透析液標準液は、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製したものであり、代表的には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する酸性の水溶液であるA剤と、重炭酸塩(炭酸水素塩)を含有するB剤と、水と、を予め設定される混合比で混合することにより調製したものが挙げられる。また、密閉容器はガスバリア性を有する材料で構成されている。そして、密閉容器内には、透析液標準液とともに密閉容器内の空隙部を満たす封入ガスが充填されており、当該封入ガスは、空気または窒素ガスと二酸化炭素から構成され、二酸化炭素の含有率が3~20体積%の範囲内の混合ガスである。
【0047】
以下、本実施の形態の代表的な一例について具体的に説明する。なお、以下の説明では、本実施の形態だけでなく他の実施の形態も含めて、説明の便宜上、透析液標準液充填体を適宜「標準液充填体」と略し、透析液標準液を適宜「標準液」と略すものとする。
【0048】
[透析液標準液]
本実施の形態に係る標準液充填体において、密閉容器に充填される標準液は、比較対象となる透析液の種類に応じて適切な組成(または適切な電解質濃度およびpH)となるように調製される。以下の説明では、一般的な透析液を例に挙げて標準液の構成について説明する。
【0049】
本実施の形態では、一般的な透析液(すなわち、密閉容器の充填される標準液)として、電解質成分および酸成分を含有するA剤と、重炭酸塩を含有するB剤とを、所定量の透析用水に混合して希釈することによって調製される2剤混合型のものを例示する。なお、透析液の調製方法は、このような2剤混合型に限定されず、前述したように、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製したものであればよい。
【0050】
A剤に含まれる電解質成分は特に限定されず、透析液の種類に応じて適宜選定されるが、一般的には、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等の1価または2価の金属イオン;塩化物イオン;クエン酸イオン、乳酸イオン、グルコン酸イオン、コハク酸イオン、リンゴ酸イオン等の有機陰イオン;等を挙げることができる。通常、透析液には、これら電解質成分のうち、少なくともナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、およびマグネシウムイオンが含まれているので、本実施の形態に係る標準液もこれら電解質成分を含んでいることが好ましい。
【0051】
標準液に含まれるナトリウムイオンは、一般的にはナトリウム塩が供給源となる。具体的なナトリウム塩は特に限定されないが、例えば、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム等を挙げることができる。これらナトリウム塩は1種類のみ用いられてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いられてもよいが、特に塩化ナトリウムは、生体内で必須となる最も重要な塩であるため、ナトリウム塩としては少なくとも塩化ナトリウムが用いられることが好ましい。
【0052】
標準液に含まれるカリウムイオンは、一般的にはカリウム塩が供給源となる。具体的なカリウム塩は特に限定されないが、例えば、塩化カリウム、酢酸カリウム、乳酸カリウム、クエン酸カリウム、グルコン酸カリウム、コハク酸カリウム、リンゴ酸カリウム等を挙げることができる。これらカリウム塩は1種類のみ用いられてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いられてもよいが、特に塩化カリウムは、塩化ナトリウムと同様に生体中で特に重要な塩として位置づけられるため、カリウム塩としては少なくとも塩化カリウムが用いられることが好ましい。
【0053】
標準液に含まれるマグネシウムイオンは、一般的にはマグネシウム塩が供給源となる。具体的なマグネシウム塩は特に限定されないが、例えば、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム等を挙げることができる。これらマグネシウム塩は1種類のみ用いられてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いられてもよい。また、これらマグネシウム塩は水和物の形態で用いられてもよい。代表的なマグネシウム塩としては、塩化マグネシウムを挙げることができる。
【0054】
標準液に含まれるカルシウムイオンは、一般的にはカルシウム塩が供給源となる。具体的なカルシウム塩は特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、コハク酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム等を挙げることができる。これらカルシウム塩は1種類のみ用いられてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いられてもよい。また、これらカルシウム塩は水和物の形態で用いられてもよい。代表的なカルシウム塩としては、塩化カルシウムを挙げることができる。
【0055】
標準液に含まれる塩化物イオンは、一般的には塩化物塩が供給源となる。具体的な塩化物塩は特に限定されないが、前述した1価または2価の金属イオンの塩化物塩、すなわち塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等を挙げることができる。これら金属イオンの塩化物塩は、塩化物イオンだけでなく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、並びにカルシウムイオンの供給源となり得るので、好ましく用いられる。なお、これら塩化物塩は1種類のみ用いられてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いられてもよい。さらに、標準液に含まれる酸成分として塩酸を用いた場合、この塩酸も塩化物イオンの供給源となり得る。
【0056】
標準液に含まれる有機酸イオンについても特に限定されず、塩化物イオンと同様に、一般的には各有機酸の塩が供給源となる。さらに、標準液に含まれる酸成分として各有機酸を用いた場合、これら有機酸も各有機酸イオンの供給源となり得る。
【0057】
標準液に含まれる電解質成分の具体的な含有量は特に限定されず、種々の条件に応じて適宜設定することができる。なお、前述した各電解質成分のうち、塩化ナトリウムの含有量は、通常、他の電解質成分それぞれの含有量と比較して最大に設定される。これは塩化ナトリウムの含有量が血液中の電解質濃度に合わせて設定されるためである。調製される透析液(充填される標準液)中における塩化ナトリウムの具体的な含有量(濃度)としては、例えば、ナトリウムイオン含有量を基準として、75mEq/L~150mEq/Lの範囲内、好ましくは80mEq/L~145mEq/Lの範囲内を挙げることができる。
【0058】
したがって、A剤中では、標準液中でナトリウムイオン含有量が前記の範囲内となるように塩化ナトリウム等のナトリウム供給源を含有していればよい。同様に、ナトリウムイオン以外の電解質成分については、標準液中で所望の範囲となるようにA剤中に各イオンの供給源を含有していればよい。
【0059】
A剤に含まれる酸成分としては、透析液の分野で一般的な有機酸または無機酸を好適に用いることができる。具体的には、例えば、酢酸、クエン酸、乳酸、塩酸等を挙げることができる。これら酸成分は、無水物であってもよいし水和物であってもよい。代表的な酸成分としては、酢酸またはクエン酸を挙げることができる。また、pHの安定化を目的として緩衝作用を持つ酸成分の塩が加えられてもよい。代表的な塩としては酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムを挙げることができる。
【0060】
標準液に含まれる酸成分の具体的な含有量は特に限定されず、種々の条件に応じて適宜設定することができる。例えば、酸成分が酢酸である場合には、酢酸イオンを基準として、2mEq/L~6mEq/Lの範囲内、好ましくは3mEq/L~5mEq/Lの範囲内を挙げることができるが、特に限定されない。また、酸成分がクエン酸である場合には、クエン酸イオンを基準として、1.5mEq/L~5mEq/Lの範囲内、好ましくは2mEq/L~3mEq/Lの範囲内を挙げることができる。
【0061】
酸成分が適切な範囲内で含有されていれば、標準液のpHを好適な範囲内に調整することが可能である。例えば、酸成分が酢酸である場合(酢酸を含有する標準液の場合)には、pHを6.5~8.0の範囲内、好ましくは7.1~7.4の範囲内に調整することができる。また、酸成分がクエン酸である場合(クエン酸を含有する標準液の場合)には、pHを7.0~8.5の範囲内、好ましくは7.5~8.0の範囲内に調整することができる。したがって、A剤中では、標準液中で前述したような適切な範囲内となるように酸成分を含有していればよい。
【0062】
A剤には、前述した電解質成分および酸成分以外の他の成分が含まれていてもよい。言い換えれば、調製される透析液(充填される標準液)は、電解質成分および酸成分に加えて、透析液の成分として許容される種々の成分を含有することができる。具体的な他の成分としては、例えば、グルコース(ブドウ糖)、pH調整剤等が挙げられる。
【0063】
グルコースは、血液透析対象者の血糖値を維持する目的で透析液に添加することができる。グルコースの具体的な含有量(濃度)は特に限定されず、種々の条件に応じて適宜設定することができる。代表的なグルコースの含有量としては、例えば、調製される透析液(充填される標準液)において0~2.5g/Lの範囲内、好ましくは1.0~2.0g/Lの範囲内を挙げることができる。したがって、A剤中では、標準液中で前述したような適切な範囲内となるようにグルコースを含有していればよい。
【0064】
pH調整剤は、標準液のpHを調整する目的で、A剤に含有される酸成分とは別に添加することができる。言い換えれば、標準液は、酸成分による標準液のpH調整機能を補助する目的で、酸成分とは別にpH調整剤を含有してもよい。具体的なpH調整剤としては、例えば、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、アスコルビン酸、オキサロ酢酸、グルコン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、およびピルビン酸等の有機酸を挙げることができる。これら有機酸は1種類のみ用いられてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いられてもよい。さらに、これら有機酸はナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩等の塩として用いられてもよい。
【0065】
pH調整剤の具体的な含有量(濃度)は特に限定されない。pH調整剤は、調製される透析液(充填される標準液)のpHを好適な範囲内に調整可能であり、かつ、前述した電解質成分および酸成分の機能に影響を及ぼさない程度(あるいはこれら成分の機能を妨げない程度)の量が添加されればよい。したがって、A剤中においても、標準液のpHを調整可能であり、電解質成分および酸成分の機能に影響を及ぼさない程度の量となるように、pH調整剤が含有されていればよい。
【0066】
B剤に含まれる重炭酸塩(炭酸水素塩)としては、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)を挙げることができる。炭酸水素ナトリウム以外の重炭酸塩を用いてもよいが、B剤に含まれる重炭酸塩は炭酸水素ナトリウムのみであることが好ましい。重炭酸塩の具体的な含有量は特に限定されず、種々の条件に応じて適宜設定することができる。一般的には、調製される透析液(充填される標準液)において15mEq/L~45mEq/Lの範囲内、好ましくは25mEq/L~40mEq/Lの範囲内を挙げることができる。
【0067】
B剤は、少なくとも炭酸水素ナトリウム等の重炭酸塩で構成されていればよいが、他の成分が含まれてもよい。他の成分としては、例えば塩化ナトリウム等を挙げることができる。他の成分の含有量も特に限定されず、種々の条件に応じて適宜設定することができる。したがって、B剤中では、重炭酸塩の機能に影響を及ぼさない程度に他の成分が添加されていればよい。
【0068】
前述したA剤は、前述した電解質成分および酸成分を少なくとも含有する酸性の液体(水溶液)として製剤されるが、B剤は、固体(例えば粉末)として製剤されてもよいし液体(水溶液)として製剤されてもよい。B剤が液体である場合であっても、重炭酸塩の濃度は特に限定されない。B剤に含有される重炭酸塩が炭酸水素ナトリウムである場合には、例えば、40~80g/Lの範囲内、好ましくは60~80g/Lの範囲内を挙げることができる。
【0069】
本実施の形態に係る標準液充填体では、密閉容器に充填される標準液は、好ましくは、前述したA剤およびB剤を混合して透析用水で希釈することにより調製される。言い換えれば、標準液は、実際に調製される透析液と同様に調製された上で密閉容器に充填されればよい。例えば、後述する実施例のように、酸成分がクエン酸であれば、一般的な透析液のpHは、通常、7.4~8.0の範囲内に設定される。それゆえ、標準液のpHもこの範囲内に調整されればよい。pHの調整も含む標準液の具体的な調製方法は特に限定されず、一般的な透析液の調製方法と同様であればよい。
【0070】
[密閉容器]
本実施の形態に係る標準液充填体において、前述した標準液を充填する密閉容器の具体的な種類は特に限定されない。密閉容器としては、充填した標準液および後述する封入ガスを安定して保持できる程度の密閉性およびガスバリア性を有するものであれば、公知の容器を好適に用いることができる。
【0071】
代表的な密閉容器としては、少なくとも容器本体がガラス製であるガラス容器を挙げることができる。具体的なガラス容器としては、バイアル、アンプル、カートリッジ等を挙げることができる。透析液は多量に調製する必要があるが、透析液の調製の基準となる標準液は小容量でよいので、バイアルまたはアンプル等のように注射剤に用いられる小容量のガラス容器を好適に用いることができる。標準液の使用条件によっては、シリンジをガラス容器として用いることも可能である。
【0072】
密閉容器がバイアル等であれば、開口部を密閉封止するために栓部材が用いられる。具体的な栓部材は特に限定されず、標準液に対して実質的に影響を及ぼさず、かつ、バイアル等の開口部を好適に密閉封止することが可能な、公知の栓部材を好適に用いることができる。密閉容器がバイアルである場合には、栓部材としては公知のゴム栓、シリコーン栓、コルク栓等を好適に用いることができる。また、密閉封止の信頼性を向上するために、アルミニウムまたはその合金製のキャップを併用することができる。
【0073】
また、密閉容器としては、ガラス容器以外に公知の樹脂製の容器(樹脂容器)も好適に用いることができる。このような樹脂容器は、容器本体が硬質の樹脂材料で形成されたものであってもよいし、柔軟性または可撓性を有する軟質の樹脂材料で形成されたものであってもよい。密閉容器が樹脂容器であって前述したバイアルのように開口部を有する物である場合には、バイアルと同様に開口部を密閉封止するための公知の栓部材を用いればよい。
【0074】
密閉容器の容量は特に限定されない。標準液は、透析液を調製する際に、当該透析液に含まれる電解質成分、酸成分、および重炭酸塩(並びにその他の成分)の濃度を確認できる程度の量が必要となる。それゆえ、密閉容器の容量は、各成分の濃度確認に必要な標準液の量以上の容量を有していればよい。本実施の形態に係る標準液充填体では、後述するように、標準液に加えて封入ガスも充填するが、この封入ガスの体積は標準液の体積未満(標準液よりも少ない体積)となる。それゆえ、密閉容器の容量は、標準液の必要量に加えて封入ガスの充填量を考慮した容量を有していればよい。
【0075】
[透析液標準液の充填]
本実施の形態に係る標準液充填体は、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合する(前述したように、好ましい一例として、A剤およびB剤を混合して透析用水で希釈する)ことにより標準液を調製し、この標準液を密閉容器に充填して密閉封止することにより作製(製造)される。このとき、密閉容器内には、標準液に加えて、当該標準液の体積よりも少ない体積の封入ガスが充填される。
【0076】
密閉容器内に充填される封入ガスは、空気または窒素と二酸化炭素(炭酸ガス)との混合ガスであればよいが、当該混合ガス中の二酸化炭素の含有率は、その上限が20体積%以下となっている。これにより、標準液からの炭酸水素塩の揮散を有効に抑制することができるので、pHの経時的な上昇も抑制することができる。しかも、封入ガス中の二酸化炭素の含有量が過剰でないため、二酸化炭素の溶け込みに由来するpHの大幅な下降も有効に抑制することができる。
【0077】
二酸化炭素の含有率が20体積%を超えると、二酸化炭素が標準液に過剰に溶け込み、標準液充填体内において標準液のpHが好ましい下限値(例えば、酸成分がクエン酸成分であれば7.4)を下回るおそれがある。標準液のpHが所定範囲よりも低下すると、標準液の各成分の濃度が所定範囲からずれてしまい、その結果、標準液として使用できなくなる。また、混合ガスにおける二酸化炭素の含有率の下限は3体積%以上であればよい。二酸化炭素の含有率が3体積%を下回ると、標準液充填体内において標準液のpHが好ましい上限値(例えば、酸成分がクエン酸成分であれば8.0)を上回る場合がある。標準液のpHが所定範囲を超えれば、pHの低下時と同様に、標準液の各成分の濃度が所定範囲からずれてしまい、その結果、標準液として使用できなくなる。
【0078】
標準液充填体内においては、密閉容器内の空隙部を満たすように封入ガスが充填されればよいが、封入ガスの密閉容器内の充填率(充填される体積)は標準液の充填率より少ないことが好ましい。具体的には、密閉容器の容量を100体積%としたときに、標準液の充填率は50体積%以上であればよく、70~99体積%の範囲内が好ましく、80~95体積%の範囲内をより好ましく挙げることができる。したがって、封入ガスの充填率は、50体積%未満であればよく、1~30体積%の範囲内が好ましく、5~20体積%の範囲内であればより好ましい。封入ガスの充填率が標準液の充填率よりも多い場合、封入ガス中の二酸化炭素が標準液に過剰に溶け込み、標準液充填体内において標準液のpHが好ましい下限値を下回るおそれがある。
【0079】
密閉容器内に標準液および封入ガスを充填する方法は特に限定されず、透析液または薬剤包装の分野で公知の方法を好適に用いることができる。封入ガスである混合ガスの調製方法も特に限定されず、公知の手法を好適に用いることができる。また、密閉容器内に標準液および封入ガスを充填し、密閉封止する方法も特に限定されず、公知の方法を好適に用いることができる。
【0080】
[標準液充填体の利用]
本実施の形態に係る標準液充填体は、透析液を透析現場で調製する際に、透析液に含まれる各成分を確認する際に用いることができる。具体的には、例えば、透析現場でA剤およびB剤を混合して透析用水で希釈して透析液を調製し、当該透析液をサンプリングして電解質成分の濃度を測定する。また、標準液充填体を開封して標準液をサンプリングして電解質成分の濃度を測定する。透析液の電解質成分の濃度と標準液の電解質成分の濃度とを比較し、これらの濃度がほぼ一致しているか、もしくは、透析液の電解質成分の濃度が標準液の電解質成分の濃度と比較して許容範囲内に入っているかを判定する。
【0081】
互いの濃度がほぼ一致しているか、透析液の電解質成分の濃度が許容範囲に入っていれば、好適な電解質成分の濃度で透析液が調製されていることになる。一方、互いの濃度が異なっており、許容範囲からも外れていれば、透析液の電解質成分の濃度を適宜調整し、透析液および標準液の間で濃度比較を繰り返す。このとき用いられる電解質成分の濃度の測定方法は特に限定されず、市販の測定装置または公知の測定方法等を用いればよい。また、標準液充填体内では、標準液のpHも所定の範囲内で維持されるので、調製した透析液のpHと標準液のpHとを比較することもできる。このとき用いられるpHの測定方法は特に限定されず、市販のpH測定装置またはpHの測定方法等を用いればよい。
【0082】
本実施の形態に係る標準液充填体は、室温で所定の保存期間で保存することができる。後述する実施例に示すように、本実施の形態に係る標準液充填体は、室温で少なくとも2週間保存することができる。また、後述する実施例に示すように、40℃加速条件で2週間保存してもpHを所定の範囲内に維持することができるので、本実施の形態に係る標準液充填体は約1ヶ月保存することも可能である。さらに、保存条件を適宜設定することにより、約1年間の保存することも可能である。なお、ここでいう室温は、JISで規定される常温(20±15℃、5~35℃)の範囲内であればよい。
【0083】
本実施の形態に係る標準液充填体は、前記の通り、透析液の調製に好適に用いることができるが、標準液充填体の利用方法は、透析液の調製のみに限定されず、例えば、透析液調製キットの構成要素の一つとして利用することができる。したがって、本実施の形態には、標準液充填体を含む透析液の調製キット、もしくは、透析液の品質を評価する評価キットも含まれる。透析液の調製キットまたは評価キットは、前述した標準液充填体を少なくとも含んでいればよく、これらキットを構成する他の要素については特に限定されない。
【0084】
例えば、透析液の調製キットであれば、標準液充填体とともに前述したA剤およびB剤をキット化してもよい。あるいは、透析液の評価キットであれば、標準液充填体とともに、透析液をサンプリングするための器具、電解質成分の濃度の測定に用いられる器具(もしくは測定機器)、pHの測定に用いられる器具(もしくは測定機器)等をキット化してもよい。
【0085】
さらに、本実施の形態には、前述した標準液充填体の製造方法(作製方法)も含まれる。例えば、本実施の形態に係る標準液充填体の製造方法としては、血液透析用の透析液を調製する際に用いられる透析液の標準液を密閉容器内に充填することにより、透析液標準液充填体を製造する方法であって、標準液を、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製し、密閉容器は、ガスバリア性を有する材料で構成され、密閉容器内の空隙部を満たす封入ガスを、標準液よりも少ない体積となるように、標準液とともに密閉容器に充填し、封入ガスは、空気または窒素ガスと二酸化炭素から構成され、二酸化炭素の含有率が3~20体積%の範囲内の混合ガスである、という構成を挙げることができる。
【0086】
このような標準液充填体の製造方法においては、標準液は、前述したように、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する酸性の水溶液であるA剤と、炭酸水素塩を含有するB剤と、水と、を予め設定される混合比で混合することにより調製することができる。
【0087】
なお、前述したように、本実施の形態では、密閉容器に充填する重炭酸含有製剤として透析液を例示したが、本開示はこれに限定されず、重炭酸含有製剤は、重炭酸塩(炭酸水素塩)を含有し、透析液の調製に用いられるものであればよい。したがって、本実施の形態においても、B剤が重炭酸含有製剤として密閉容器に充填されてもよいし、他の重炭酸含有製剤が密閉容器に充填されてもよい。
【0088】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る透析液標準液充填体は、前記実施の形態1と同様に、血液透析用の透析液を調製する際に用いられる透析液標準液を密閉容器内に充填した充填体である。充填される透析液標準液は、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、重炭酸塩(炭酸水素塩)および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製したものであり、代表的には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する酸性の水溶液であるA剤と、重炭酸塩(炭酸水素塩)を含有するB剤と、水と、を予め設定される混合比で混合することにより調製したものが挙げられる。また、密閉容器はガスバリア性を有する材料で構成されている。標準液は、密閉容器の容量限界まで、もしくは、密閉容器の容量制限を超えて溢れない状態まで、当該密閉容器に充填されている。
【0089】
以下、本実施の形態の代表的な一例について具体的に説明する。なお、本実施の形態に係る標準液充填体で用いられる標準液は、前記実施の形態1で説明したものと同一であるため、本実施の形態では標準液の具体的な説明を省略する。
【0090】
また、本実施の形態に係る標準液充填体に用いられる密閉容器の具体的な構成は特に限定されず、前記実施の形態1で説明した密閉容器を好適に用いることができる。すなわち、密閉容器としては、充填した標準液を安定して保持できる程度の密閉性およびガスバリア性を有するものであれば、公知の容器を好適に用いることができる。したがって、本実施の形態では密閉容器の具体的な説明も省略する。なお、本実施の形態に係る標準液充填体では、後述するように、密閉容器内が標準液でほぼ満杯になるように、当該標準液が充填されている。それゆえ、密閉容器の容量は、標準液の必要量に予測され得る予備量を加えた容量を有していればよい。
【0091】
[透析液標準液の充填]
本実施の形態に係る標準液充填体は、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合する(前述したように、好ましい一例として、A剤およびB剤を混合して透析用水で希釈する)ことにより標準液を調製し、この標準液を密閉容器に充填して密閉封止することにより作製(製造)される。このとき、標準液は、密閉容器の容量限界まで、もしくは、密閉容器の容量制限を超えて溢れない状態まで、当該密閉容器に充填されている。これにより、密閉容器の内部では、実質的に透析液標準液のみが充填される状態になるため、密閉容器の内部には実質的な空隙部が生じることが抑制される。空隙部の発生を実質的に回避できれば、標準液中の炭酸水素塩が二酸化炭素に分解され、空隙部に放出されることを実質的に回避できるので、標準液のpHの経時的な上昇を抑制することができる。
【0092】
標準液充填体においては、密閉容器の全容量を100体積%としたときには、理想的には充填率が100体積%の範囲内となるように、標準液が密閉容器に充填されていることが好ましい。ただし、密閉容器の形状、密閉封止の手法、密閉容器に応じた充填方法等により、密閉容器内で標準液の充填率が100体積%となるように充填することは困難となる場合(もしくは100体積%となるように充填する必要がない場合)がある。そこで、本実施の形態では、標準液の充填率の下限が80体積%以上となるように密閉容器内に標準液を充填すればよく、90体積%以上となるように標準液を充填することが好ましく、95体積%以上となるように標準液を充填することがより好ましい。
【0093】
例えば、後述する実施例および比較例では、密閉容器としてガラス製のバイアルを用いている。一般的なバイアルの容器本体は、容器底部から上部に至るまで実質的に同一の内径を有する円筒状であるが、容器上部には、容器本体よりも内径を狭めた肩部が形成され、肩部の上端には栓部材により密閉封止される開口部が設けられている。密閉容器としてバイアルを用いる場合には、標準液は、円筒状の容器本体の内部空間に加えて肩部から開口部までの内部空間も含めて標準液を充填させることが好ましいが、肩部の内部空間については標準液を満たすまで充填しなくてもよい。
【0094】
前記の通り、肩部の内径は容器本体よりも小さく、また、肩部の高さは容器本体の高さに比べて大幅に小さい。したがって、肩部内の容量は、容器本体内の容量に比べて十分に小さい、ということができるので、密閉容器の全容量から見れば肩部内の容量は誤差範囲と見なすことが可能である。また、容器本体に標準液を充填させた状態では、肩部内が空隙部となっていたとしても、標準液はごく小さな面積でごく小容量の空隙部に面する状態になる。それゆえ、標準液から空隙部に対する二酸化炭素(炭酸水素塩が分解されることにより発生)の放出はほぼ発生しないと見なすことができる。
【0095】
言い換えれば、バイアルでは、少なくとも容器本体を満たした状態が容量制限に達したことになり、肩部の内部空間はバイアルの容量限界から外れた空間である、ということができる。それゆえ、密閉容器がバイアルであれば、容器本体を満たすとともに肩部の一部に標準液が及んでいれば、バイアル(密閉容器)の容量制限(容器本体の内部空間)を超えて溢れない状態まで標準液を充填したことになる。さらに、肩部の内部空間を満たすまで標準液を充填することもできる。この場合、バイアル(密閉容器)の容量限界(密閉容器の実質的な全容量)まで標準液を充填したことになる。
【0096】
また、密閉容器としては、前記の通り、ガラス製のアンプルを用いることもできる。一般的なアンプルは、バイアルと同様に円筒状の容器本体と、当該容器本体の上部に位置し、容器本体よりも大幅に内径が小さく先端が融解封止された頭部(首部)とを有する。頭部(首部)は使用時に折られるため、円筒状の容器本体内が実質的に密閉容器の全容量を構成することになる。
【0097】
言い換えれば、アンプルにおいても、容器本体を満たした状態が容量制限に達したことになり、頭部(首部)の内部空間はアンプルの容量限界から外れた空間である、ということができる。それゆえ、密閉容器がアンプルであれば、容器本体を満たすとともに頭部(首部)の一部に標準液が及んでいれば、アンプル(密閉容器)の容量制限を超えて溢れない状態まで標準液を充填したことになる。さらに、頭部の先端を融解封止する妨げにならない範囲で、標準液を限界まで充填することも可能である。この場合、アンプル(密閉容器)の容量限界まで標準液を充填したことになる。
【0098】
なお、密閉容器が、前述したバイアルまたはアンプル等のように、容器の「本体部分」と肩部または頭部等の「小容量部分」(本体部分よりも内部の容量が小さい部分)とで構成されている場合には、本体部分のみの容量を100体積%としたとき(密閉容器の最大容量は100体積%を超えることになる)に、本体部分における標準液の充填率は100体積%を超えていると好ましい。この場合、標準液は、本体部分という容量制限を超えて肩部または頭部等の小容量部分に及ぶことになる。それゆえ、小容量部分の内部に残存する空隙部の体積を十分に低下させることができる。
【0099】
本実施の形態において、密閉容器内に標準液を充填する方法は特に限定されず、透析液または薬剤包装の分野で公知の方法を好適に用いることができる。また、密閉容器内に標準液を充填し、密閉封止する方法も特に限定されず、公知の方法を好適に用いることができる。
【0100】
なお、本実施の形態に係る標準液充填体の利用も、前記実施の形態1と同様であるため、その利用についての具体的な説明を省略する。ここで、本実施の形態には、前記実施の形態1と同様に、前述した標準液充填体の製造方法(作製方法)も含まれる。例えば、本実施の形態に係る標準液充填体の製造方法としては、血液透析用の透析液を調製する際に用いられる透析液の標準液を密閉容器内に充填することにより、透析液標準液充填体を製造する方法であって、標準液を、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製し、密閉容器は、ガスバリア性を有する材料で構成され、標準液は、密閉容器の容量限界まで、もしくは、密閉容器の容量制限を超えて溢れない状態まで、当該密閉容器に充填される、という構成を挙げることができる。
【0101】
また、前述したように、本実施の形態2でも、前記実施の形態1と同様に、密閉容器に充填する重炭酸含有製剤として透析液を例示したが、本開示はこれに限定されず、重炭酸含有製剤は、重炭酸塩(炭酸水素塩)を含有し、透析液の調製に用いられるものであればよい。したがって、本実施の形態2においても、B剤が重炭酸含有製剤として密閉容器に充填されてもよいし、他の重炭酸含有製剤が密閉容器に充填されてもよい。
【0102】
(実施の形態3)
本実施の形態に係る透析液標準液充填体は、前記実施の形態1または2と同様に、血液透析用の透析液を調製する際に用いられる透析液標準液を密閉容器内に充填した充填体である。充填される透析液標準液は、少なくとも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素塩および水を、予め設定される混合比で混合することにより調製したものであり、代表的には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する酸性の水溶液であるA剤と、重炭酸塩(炭酸水素塩)を含有するB剤と、水と、を予め設定される混合比で混合することにより調製したものが挙げられる。また、密閉容器はガスバリア性を有する材料で構成されている。そして、透析液標準液における充填後の初期pHは、調製対象の透析液のpH(基準pH)よりも0.4以内で低くなっている。
【0103】
以下、本実施の形態の代表的な一例について具体的に説明する。なお、本実施の形態に係る標準液充填体で用いられる標準液、密閉容器、充填方法、充填体の利用等については、前記実施の形態1または2で説明したものと同一または共通であるため、本実施の形態ではこれらの具体的な説明を省略する。
【0104】
本実施の形態における「初期pH」とは、標準液を密閉容器に充填した直後から1日目までの期間のpHを意味する。標準液の初期pHを基準pHよりも0.4以内で低く設定する手法は特に限定されないが、代表的には、(1)標準液に、弱酸と、1価または2価の金属イオンの供給源である同じ弱酸の金属塩とが含まれているときに、調製対象の透析液の含有量を基準として、金属イオンの含有量がこの基準と同等であり、かつ、酸成分の含有量がこの基準より多くなるように、弱酸の金属塩の含有量を調整する手法、(2)標準液を二酸化炭素でバブリングする手法、(3)微量の酸を添加する手法等を挙げることができる。
【0105】
まず、(1)の手法について説明する。前記実施の形態1で説明したように、代表的な透析液としては、A剤およびB剤の2剤混合型を用いており、A剤には、電解質成分および酸成分を含有している。酸成分としては、前記の通り、酢酸、クエン酸、乳酸、塩酸を用いることができ、電解質成分には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、およびマグネシウムイオンを含む複数種の1価または2価の金属イオンが含まれる。また、これら金属イオンの供給源としては、これら金属イオンの酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、塩化物等を用いることができる。
【0106】
そこで、調製対象の透析液の組成を基準として、金属イオンの含有量がこの基準と同等であり、かつ、酸成分の含有量がこの基準より多くなるように、標準液の組成を調整する。具体的には、例えば、金属イオンの供給源として、酸成分である弱酸の金属塩が用いられていれば、この弱酸の金属塩は、標準液のpHを上昇させる要因となる。そこで、弱酸の含有量を増加させるとともに弱酸の金属塩を減少させ、さらに、金属イオンの他の供給源の量を増加させることによって、金属イオンの含有量が基準と同等に保持されるように調整する。
【0107】
より具体的に言い換えれば、(1)の手法では、調製対象の透析液の組成を基準組成としたときに、標準液の組成における金属イオンの含有量は、基準組成の含有量と比較して実質的に同等と見なせる範囲であり、標準液の組成における酸成分の含有量は、基準組成の含有量と比較して多くなるように調整されている。
【0108】
例えば、後述する実施例7または8では、A剤の酸成分として無水クエン酸が用いられ、ナトリウムイオンの供給源として、クエン酸ナトリウム(水和物)および塩化ナトリウムが用いられている。そこで、無水クエン酸の含有量を増加させ、クエン酸ナトリウムの含有量を減少させるとともに、ナトリウムイオンの含有量を基準と実質的に同等とするために、塩化ナトリウムの含有量を増加させる、これにより、標準液の初期pHを0.4以内で低下させることができる。
【0109】
ここで、標準液中の成分として見れば、弱酸がpH緩衝系の酸として挙動し、金属イオンのいずれか1種がpH緩衝系の共役塩基として挙動することが可能である。実施例7では、無水クエン酸が、pH緩衝系の弱酸として挙動し、クエン酸ナトリウム水和物は、pH緩衝系の共役塩基として挙動し得る。そのため、pHの上昇を予め見越して初期pHを低下させているだけでなく、透析液標準液のpHを、pH緩衝作用により上昇しにくくすることが可能である。
【0110】
なお、弱酸の具体的な種類は特に限定されず、実施例で例示するクエン酸以外に、前記実施の形態1で説明した酢酸または乳酸等も用いることができる。また、金属イオンの種類も特に限定されず、実施例で例示するナトリウム塩以外に、カリウム塩等も用いることができる。特に、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンは強塩基となり得るもので、弱酸との組合せによりpH緩衝系を構築しやすい。また、前記の通り、塩化ナトリウムは、生体内で必須となる最も重要な塩であり、ナトリウムイオンの供給源としては少なくとも塩化ナトリウムが用いられることが好ましい。それゆえ、金属イオンとしてはナトリウムイオンがより好ましく用いられる。また、pHの調整の程度によっては、実施例8に例示するように、クエン酸ナトリウム等の弱酸の金属塩は含まれなくてもよい。
【0111】
次に、(2)の手法について説明する。調製された標準液に対して二酸化炭素をバブリングすることにより、標準液の初期pHを低く調整することができる。このときのバブリングの条件(バブリング方法、バブリング時間等)は特に限定されず、公知の方法を好適に用いることができる。なお、バブリングした後の標準液は、二酸化炭素が飽和状態となるまで溶解している必要はなく、バブリングにより、標準液の初期pHが基準pHよりも0.4以内で低くなっていればよい。後述する実施例では、実施例9が(2)の手法に相当する。
【0112】
次に、(3)の手法について説明する。調製された標準液に対して、酸を添加することにより、標準液の初期pHを低く調整することができる。ここで、添加される酸の種類は特に限定されず、標準液に含まれる成分に対して分解または変質等の影響を及ぼさないものであれば、どのような酸であってもよい。具体的には、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の強酸;A剤に含まれ得る酸成分(酢酸、クエン酸、乳酸、塩酸等);前記実施の形態1においてpH調整剤として説明した有機酸(クエン酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、アスコルビン酸、オキサロ酢酸、グルコン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、およびピルビン酸等);等を挙げることができる。これら酸は1種類のみが用いられればよいが、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0113】
ここで、(3)の手法では、なるべく少量で初期pHを良好に低下させた方がよいため、塩酸、硝酸、硫酸等の強酸が好ましく用いられ、中でも、標準液に含まれる電解質成分である塩酸が好ましく用いられる。また、酸の濃度は特に限定されず、初期pHを基準pHよりも0.4以内で低く調整できる程度に薄いものであればよい。特に、塩酸を用いる場合には、滴下によりpHを調整しやすくなる観点から、希塩酸が好適に用いられる。後述する実施例では、実施例10が(3)の手法に相当する。
【0114】
前記(1)~(3)のいずれの手法においても(もしくは他の手法においても)、標準液の初期pHを低下させる程度は、前記の通り、基準pHよりも0.4以内であることが好ましい。0.4を超えて初期pHを低下させると、充填された標準液のpHが保存中に上昇しても、基準pHよりも低くなってしまい、標準液として適切に利用できなくなるおそれがある。例えば、標準液がクエン酸であれば、後述する比較例13のように、透析液の基準pHとして7.85を設定することができる。この場合、標準液の初期pHを7.85未満7.45以上、好ましくは7.5程度(例えば、7.45~7.65の範囲内)に調整すれば、実施例7~10のように、保存時のpHの最高値を7.85前後(例えば、7.7~8.0の範囲内)に維持することができる。しかしながら、比較例14のように、標準液の初期pHを、0.4を超えて低下させれば、保存時のpHの最高値も低いままとなる。
【0115】
ここで、前記実施の形態2で説明したように、標準液充填体では、空隙部が存在すると、標準液中の炭酸水素塩が二酸化炭素に分解され、空隙部に放出されてpHの経時的な上昇を招くことになる。そのため、本実施の形態において、例えば、前記(1)~(3)の手法のいずれにおいても、空隙部の体積が大きすぎると、保存中のpHの上昇を有効に抑制できないおそれがある。そこで、本実施の形態では、前記(1)~(3)のいずれの手法(または他の手法)においても、標準液の充填率は70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましい。
【0116】
なお、前記実施の形態1のように、(4)密閉容器内に標準液とともに、空気または窒素ガスと二酸化炭素から構成される封入ガスを充填する手法であっても、標準液の初期pHを基準pHよりも0.4以内で低くすることができる(例えば、後述する実施例1~4、図1および図2における1日目の結果等参照)。したがって、実施の形態1に開示される構成は、本実施の形態3に開示される構成の一形態であるということができる。
【0117】
また、前述したように、本実施の形態3でも、前記実施の形態1または2と同様に、密閉容器に充填する重炭酸含有製剤として透析液を例示したが、本開示はこれに限定されず、重炭酸含有製剤は、重炭酸塩(炭酸水素塩)を含有し、透析液の調製に用いられるものであればよい。したがって、本実施の形態3においても、B剤が重炭酸含有製剤として密閉容器に充填されてもよいし、他の重炭酸含有製剤が密閉容器に充填されてもよい。
【実施例
【0118】
本発明について、実施例、比較例および参考例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0119】
(透析液標準液の調製)
A剤として、塩化ナトリウム183g/L、塩化カリウム5.5g/L、塩化カルシウム2水和物8.1g/L、塩化マグネシウム6水和物3.8g/L、無水クエン酸3.9g/L、およびクエン酸ナトリウム水和物1.4g/Lで含有するものを用い、B剤として、塩化ナトリウム2.35g/Lおよび炭酸水素ナトリウム5.92g/Lを含有するものを用いた。A剤27.2mLおよびB剤49.7mLを透析用水に混合して希釈することにより、1Lの標準液を調製した。
【0120】
(実施例1)
10mL容量のガラス製バイアルに、前述した標準液を80容量%となるように充填するとともに、封入ガスとして二酸化炭素12体積%および空気88体積%の混合ガスを用い、これを20容量%となるように充填して、アルミニウム製キャップ付きのゴム栓で密閉封止した。これにより実施例1の標準液充填体を作製(製造)した。
【0121】
この標準液充填体を室温(常温(25℃±15℃)の範囲内)で最長2週間静置して保存した。市販のpHメータ(株式会社堀場製作所製、商品名LAQUAtwin B712)を用いて、充填前の標準液のpHを測定するとともに、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図1および図2の黒菱形シンボルのグラフで示す。なお、充填前の透析液標準液のpHは7.8であった。
【0122】
(実施例2)
封入ガスとして、二酸化炭素19体積%および空気81体積%の封入ガスを用いた以外は、前記実施例1と同様にして実施例2の標準液充填体を作製(製造)するとともに、充填前、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図1の黒丸シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.8であった。
【0123】
(比較例1)
封入ガスとして、空気のみ(空気100体積%)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして比較例1の標準液充填体を作製(製造)するとともに、充填前、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図1の白矩形シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.8であった。
【0124】
(比較例2)
封入ガスとして、窒素(窒素100体積%)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして比較例2の標準液充填体を作製(製造)するとともに、充填前、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図2の白三角形シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.9であった。
【0125】
(比較例3)
封入ガスとして、二酸化炭素のみ(二酸化炭素100体積%)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして比較例3の標準液充填体を作製(製造)するとともに、充填前、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図2の白丸シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.9であった。
【0126】
(実施例1、2、比較例1~3の対比)
実施例1、2の結果から明らかなように、封入ガスとして二酸化炭素を3~20体積%の範囲内で含有する混合ガスを用いて、標準液充填体を作製すれば、2週間保存しても、標準液のpHは過剰に低下することなく、かつ、pH7.4~8.0の範囲内を維持することができた。
【0127】
一方、比較例1、2の結果から明らかなように、封入ガスが空気のみまたは窒素のみで標準液充填体を作製すれば、標準液のpHが8.0を超える結果となった。さらに、比較例3の結果から明らかなように、封入ガスを二酸化炭素のみとすると、保存1日目でpHが7.0未満(pH6.8)に低下し、1週間後および2週間後のいずれもpHが約7.0程度であって7.4を下回っていた。
【0128】
特に、図2から明らかなように、封入ガスが二酸化炭素のみであれば(比較例3)、充填後の初期にpHが大幅に低下するが、本発明によれば(実施例1および2)、初期のpHの大幅な変化を有効に抑制することが可能となる。
【0129】
(実施例3)
保存温度を常温ではなく40℃の加速条件とした以外は、前記実施例1と同様にして実施例3の標準液充填体を作製(製造)する(したがって、封入ガスとしては、二酸化炭素12体積%および空気88体積%の混合ガスを用いた)とともに、充填前、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図3の黒菱型シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.8であった。
【0130】
(実施例4)
保存温度を常温ではなく40℃の加速条件とした以外は、前記実施例2と同様にして実施例4の標準液充填体を作製(製造)する(したがって、封入ガスとしては、二酸化炭素19体積%および空気81体積%の混合ガスを用いた)とともに、充填前、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図3の黒丸シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.8であった。
【0131】
(比較例4)
保存温度を常温ではなく40℃の加速条件とした以外は、前記比較例1と同様にして比較例4の標準液充填体を作製(製造)する(したがって、封入ガスとしては空気のみを用いた)とともに、充填前、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図3の白矩形シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.8であった。
【0132】
(比較例5)
保存温度を常温ではなく40℃の加速条件とした以外は、前記比較例2と同様にして比較例5の標準液充填体を作製(製造)する(したがって、封入ガスとしては窒素のみを用いた)とともに、充填前、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図4の白三角形シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.9であった。
【0133】
(比較例6)
保存温度を常温ではなく40℃の加速条件とした以外は、前記比較例3と同様にして比較例6の標準液充填体を作製(製造)する(したがって、封入ガスとしては二酸化炭素のみを用いた)とともに、充填前、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図4の白丸シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.9であった。
【0134】
(実施例3、4、比較例4~6の対比)
実施例3、4、比較例4~6は、いずれも40℃で保存しているため、室温保存よりも標準液のpH上昇を加速する条件となっている。このような加速条件であったとしても実施例3、4の結果から明らかなように、封入ガスとして二酸化炭素を3~20体積%の範囲内で含有する混合ガスを用いて、標準液充填体を作製すれば、2週間保存しても、標準液のpHは過剰に低下することなく、かつ、pH7.4~8.0の範囲内を維持することができた。
【0135】
一方、比較例4、5の結果から明らかなように、封入ガスが空気のみまたは窒素のみで標準液充填体を作製すれば、標準液のpHが8.0を超える結果となった。さらに、比較例6の結果から明らかなように、封入ガスを二酸化炭素のみとすると、pHは経時的に低下していき、2週間後にはpHが7.4を下回っていた。
【0136】
(実施例5)
10mL容量のガラス製バイアルに、前述した標準液をほぼ100容量%となるように充填して、アルミニウム製キャップ付きのゴム栓で密閉封止した。これにより実施例5の標準液充填体を作製(製造)した。
【0137】
この標準液充填体を室温(常温(25℃±15℃)の範囲内)で最長4週間静置して保存した。市販のpHメータ(株式会社堀場製作所製、商品名LAQUAtwin B712)を用いて、充填前の標準液のpHを測定するとともに、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後、保存4週間後の透析液標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図5および図6の黒菱形シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.8であった。
【0138】
(比較例7)
前記ガラス製バイアルに、標準液を80容量%となるように充填するとともに、空気を20容量%となるように充填した以外は、前記実施例5と同様にして比較例7の標準液充填体を作製(製造)するとともに、充填前、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後、保存4週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図5の白矩形シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.8であった。
【0139】
(比較例8)
空気の代わりに窒素を20容量%となるように充填した以外は、前記比較例7と同様にして比較例8の標準液充填体を作製(製造)するとともに、充填前、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図6の白三角形シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.9であった。
【0140】
(比較例9)
空気の代わりに二酸化炭素を20容量%となるように充填した以外は、前記比較例7と同様にして比較例9の標準液充填体を作製(製造)するとともに、充填前、保存1日後、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図6の白丸シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.9であった。
【0141】
(実施例6)
保存温度を常温ではなく40℃の加速条件とした以外は、前記実施例5と同様にして実施例6の標準液充填体を作製(製造)するとともに、充填前、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図7の黒菱型シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.7であった。
【0142】
(比較例10)
前記ガラス製バイアルに、標準液を70容量%となるように充填するとともに、空気を30容量%となるように充填するとともに、保存温度を常温ではなく40℃の加速条件とした以外は、前記実施例6と同様にして比較例10の標準液充填体を作製(製造)するとともに、充填前、保存1週間後、保存2週間後、保存4週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図7の白矩形シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.7であった。
【0143】
(比較例11)
保存温度を常温ではなく40℃の加速条件とした以外は、前記比較例8と同様にして比較例10の標準液充填体を作製(製造)する(したがって、標準液とともに窒素を充填した)とともに、充填前、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図7の白丸シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.8であった。
【0144】
(比較例12)
保存温度を常温ではなく40℃の加速条件とした以外は、前記比較例9と同様にして比較例12の標準液充填体を作製(製造)する(したがって、標準液とともに二酸化炭素を充填した)とともに、充填前、保存1週間後、保存2週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図7の白三角形シンボルのグラフで示す。なお、充填前の標準液のpHは7.9であった。
【0145】
(実施例5、6および比較例7~12の対比)
実施例5の結果から明らかなように、密閉容器の容量限界(もしくは容量制限を超えて溢れない状態まで)標準液を充填した標準液充填体では、密閉容器内が実質的に標準液のみとなっているため、4週間保存しても、透析液標準液のpHは過剰に変化することなく、かつ、pH7.4~8.0の範囲内を維持することができた。
【0146】
一方、比較例7、8の結果から明らかなように、標準液とともに空気または窒素を充填した場合、標準液のpHが8.0近傍まで上昇するか、8.0を超える結果となった。さらに、比較例9の結果から明らかなように、標準液とともに二酸化炭素を充填した場合、保存1日目でpHが7.0未満(pH6.8)まで大幅に低下し、1週間後および2週間後のいずれもpHが約7.0程度であって7.4を下回っていた。
【0147】
実施例6および比較例10~6では、いずれも40℃で標準液充填体を保存しているため、室温保存よりも透析液標準液のpH上昇を加速する条件となっている。このような加速条件であれば、比較例10のように標準液とともに空気を充填したり、比較例11のように標準液とともに窒素を充填したりすると、pHが8.0を超えてしまい、比較例12のように標準液とともに二酸化炭素を充填すると、pHが7.4を下回る結果となった。これに対して、実施例6では、加速条件で2週間保存しても、透析液標準液のpHは過剰に変化することなく、かつ、pH7.4~8.0の範囲内を維持することができた。
【0148】
(比較例13)
A剤として、塩化ナトリウム183.0g/L、塩化カリウム5.50g/L、塩化カルシウム2水和物8.10g/L、塩化マグネシウム6水和物3.80g/L、無水クエン酸3.9g/L、およびクエン酸ナトリウム水和物1.4g/Lで含有するものを用い、B剤として、塩化ナトリウム23.5g/Lおよび炭酸水素ナトリウム59.2g/Lを含有するものを用いた。A剤27.2mLおよびB剤49.7mLを透析用水に混合して希釈することにより、1Lの標準液を調製した。
【0149】
市販のpHメータ(株式会社堀場製作所製、商品名LAQUAtwin B712)を用いて、調整した標準液の初期pHを測定したところ7.85であった。なお、このpH=7.85は、以下の実施例7~10および比較例14におけるpH調整の基準値(基準pH)となる。
【0150】
10mL容量のガラス製バイアルに、前記標準液を80容量%となるように充填し、アルミニウム製キャップ付きのゴム栓で密閉封止した。これにより比較例13の標準液充填体を作製(製造)した。
【0151】
この標準液充填体を室温(常温(25℃±15℃)の範囲内)で2週間静置して保存した。前記pHメータを用いて、保存期間中に標準液のpHを複数回測定した。その結果を図9の白三角形シンボルのグラフで示す。また、保存期間中における標準液のpHの最高値は8.13(保存1週間後)であった。
【0152】
(実施例7)
A剤における塩化ナトリウムの含有量を183.6g/Lとし、無水クエン酸の含有量を4.06g/Lとし、クエン酸ナトリウム水和物の含有量を0.35g/Lとした以外は、比較例13と同様にして、標準液を調製した。この標準液の初期pHを測定したところ7.55であった。前記の通り基準pHを7.85とすれば、本実施例では、基準値から約0.3低下させるように標準液の初期pHを調整したことになる。
【0153】
そして、比較例13と同様にして、前記標準液を用いて実施例7の標準液充填体を作製(製造)した。この標準液充填体を比較例13と同様にして室温で12週間静置して保存した。前記pHメータを用いて、保存1週間後、保存2週間後、保存4週間後、保存8週間後、保存12週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図8の黒丸シンボルの実線グラフで示す。充填前の標準液のpH(初期pH)は前記の通り7.55であり、保存期間中における標準液のpHの最高値は7.85(保存2週間後)であった。
【0154】
(実施例8)
A剤における塩化ナトリウムの含有量を183.8g/Lとし、無水クエン酸の含有量を4.70g/Lとし、クエン酸ナトリウム水和物を含有させなかった(含有量0g/L)以外は、比較例13と同様にして、標準液を調製した。この標準液の初期pHを測定したところ7.58であった。前記の通り基準pHを7.85とすれば、本実施例では、基準値から約0.27低下させるように標準液の初期pHを調整したことになる。
【0155】
そして、比較例13と同様にして、前記標準液を用いて実施例8の標準液充填体を作製(製造)した。標準液充填体の保存期間中に標準液のpHを複数回測定した。その結果を図9の黒菱形シンボルのグラフで示す。また、保存期間中における標準液のpHの最高値は7.98(保存2週間後)であった。
【0156】
(比較例14)
A剤における塩化ナトリウムの含有量を183.8g/Lとし、無水クエン酸の含有量を7.80g/Lとし、クエン酸ナトリウム水和物を含有させなかった(含有量0g/L)以外は、比較例13と同様にして、標準液を調製した。この標準液の初期pHを測定したところ7.30であった。前記の通り基準pHを7.85とすれば、本比較例では、基準値から約0.55低下させるように標準液の初期pHを調整したことになる。
【0157】
そして、比較例13と同様にして、前記標準液を用いて比較例14の標準液充填体を作製(製造)した。標準液充填体の保存期間中に標準液のpHを複数回測定した。その結果を図9の白丸シンボルのグラフで示す。また、保存期間中における標準液のpHの最高値は7.74(保存2週間後)であった。
【0158】
(実施例9)
保存温度を常温ではなく40℃の加速条件とした以外は、前記実施例7と同様にして実施例9の標準液充填体を作製(製造)するとともに、充填前、保存1週間後、保存2週間後、保存4週間後、保存8週間後、保存12週間後の標準液のpHをそれぞれ測定した。その結果を図8の黒菱型シンボルの点線グラフで示す。充填前の標準液のpH(初期pH)は7.55であり、保存期間中における標準液のpHの最高値は7.95(保存1週間後)であった。
【0159】
(実施例10)
前記比較例13と同一組成の標準液を調製するとともに、10mL容量のガラス製バイアルに充填する前に、前記標準液を二酸化炭素でバブリングした。バブリングした後の前記標準液の初期pHは7.61であった。前記の通り基準pHを7.85とすれば、本実施例では、バブリングにより、標準液の初期pHを基準値から約0.24低下させたことになる。
【0160】
そして、比較例13と同様にして、バブリングした後の前記標準液を用いて実施例10の標準液充填体を作製(製造)した。標準液充填体の保存期間中に標準液のpHを複数回測定した。その結果を図10の黒丸シンボルの実線グラフで示す。また、保存期間中における標準液のpHの最高値は7.94(保存2週間後)であった。
【0161】
(実施例11)
前記比較例13と同一組成の標準液を調製するとともに、10mL容量のガラス製バイアルに充填する前に、前記標準液に希塩酸を滴下し、初期pHを7.61に調整した。前記の通り基準pHを7.85とすれば、本実施例では、希塩酸により、標準液の初期pHを基準値から約0.24低下させたことになる。
【0162】
そして、比較例13と同様にして、希塩酸を滴下した後の前記標準液を用いて実施例11の標準液充填体を作製(製造)した。標準液充填体の保存期間中に標準液のpHを複数回測定した。その結果を図10の黒三角形シンボルの点線グラフで示す。また、保存期間中における標準液のpHの最高値は7.94(保存1週間後)であった。
【0163】
(実施例7~11および比較例13、14の対比)
比較例13の結果から明らかなように、初期pHが基準pHであれば、保存時のpHの最高値は8.0を超えてしまう。これに対して、実施例7、8の結果から明らかなように、クエン酸およびナトリウムイオンの含有比を調整して初期pHを0.4以内で低下するように調整すれば、保存時のpHの最高値は基準pH前後にすることができる。
【0164】
また、実施例7、9の結果から明らかなように、室温保存(実施例7)で12週間保存しても加速条件(実施例9)で12週間保存しても、透析液標準液のpHは過剰に変化することなく、基準pH前後を維持することができた。
【0165】
また、実施例10、11の結果から明らかなように、二酸化炭素で標準液をバブリングしたり、希塩酸を滴下したりしても、初期pHを0.4以内で低下させれば、保存時のpHの最高値は基準pH前後にすることができる。しかしながら、比較例14の結果から明らかなように、0.4を超えて初期pHを低下させれば、保存時のpHの最高値は基準pHを大幅に下回ることになる。
【0166】
このように、本開示に係る透析液標準液充填体は、透析液標準液とともに、密閉容器内の空隙部を満たす封入ガスが標準液よりも少ない体積で充填されており、この封入ガスは、空気または窒素ガスと二酸化炭素から構成され、二酸化炭素の含有率が3~20体積%の範囲内の混合ガスとなっている。
【0167】
これにより、充填された透析液標準液のpHが上昇しても、好適な範囲内を維持することができるとともに、透析液標準液のpH上昇に伴って不溶性の塩が生成することも回避することができる。また、封入ガスが二酸化炭素のみである場合に生じるpHの大幅な低下も有効に抑制することができる。それゆえ、長期間にわたって透析液標準液を安定して保存することが可能になるので、使用現場で調製された透析液の濃度を適切に調整することができる。これにより、透析液を使用現場で随時調製する際であっても、調製量に制限を受けることなく、透析液の濃度のバラツキを抑制することができる。
【0168】
また、本開示に係る他の透析液標準液充填体では、標準液が、密閉容器の容量限界まで、もしくは、密閉容器の容量制限を超えて溢れない状態まで、当該密閉容器に充填されている。これにより、密閉容器の内部では、実質的に透析液標準液のみが充填される状態になるので、透析液標準液において不溶性の炭酸塩の発生と炭酸水素塩の二酸化炭素への分解とを回避できるとともに、長期間保存してもpHを所定範囲内に維持することが可能となる。それゆえ、長期間にわたって透析液標準液を安定して保存することが可能になるので、使用現場で調製された透析液の濃度を適切に調整することができる。これにより、透析液を使用現場で随時調製する際であっても、調製量に制限を受けることなく、透析液の濃度のバラツキを抑制することができる。
【0169】
さらに、本開示に係る他の透析液標準液充填体では、密閉容器に充填した後の透析液標準液の初期pHが、調製対象の透析液のpH(基準pH)よりも0.4以内となるように低く設定されている。そのため、充填された透析液標準液のpHの上昇を予め見越して初期pHを低下させていることになる。これにより、保存中であっても透析液標準液のpHを好適な範囲内で維持することができるとともに、透析液標準液のpH上昇に伴って不溶性の塩が生成することも回避することができる。それゆえ、長期間にわたって透析液標準液を安定して保存することが可能になるので、使用現場で調製された透析液の濃度を適切に調整することができる。これにより、透析液を使用現場で随時調製する際であっても、調製量に制限を受けることなく、透析液の濃度のバラツキを抑制することができる。
【0170】
ここで、前述したいずれの実施例・比較例においても、重炭酸含有製剤として透析液の標準液を密閉容器に充填して標準液充填体を作製(製造)し、標準液のpHの安定性について評価している。しかしながら、本開示はこれに限定されず、前述した実施の形態1~3においても説明したように、重炭酸含有製剤は、重炭酸塩(炭酸水素塩)を含有し、透析液の調製に用いられるものであればよい。したがって、重炭酸含有製剤としてB剤を密閉容器に充填した標準液充填体であっても、他の重炭酸含有製剤を密閉容器に充填した標準液充填体であっても、前述した実施例等と同様の結果が得られることは言うまでもない。
【0171】
なお、本発明は前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明は、血液透析に用いられる透析液を調製する分野に広く好適に用いることができる。
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