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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】コロイド結晶用組成物、及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/00 20060101AFI20220720BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20220720BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220720BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C08L51/00
C08F265/06
B32B27/00 B
B01J13/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021212995
(22)【出願日】2021-12-27
【審査請求日】2022-03-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】間宮 倫孝
(72)【発明者】
【氏名】中里 睦
(72)【発明者】
【氏名】大庭 一敏
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-329197(JP,A)
【文献】特許第6879425(JP,B1)
【文献】特開2014-47231(JP,A)
【文献】国際公開第2011/162078(WO,A1)
【文献】特開2016-172821(JP,A)
【文献】特許第6801772(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L51/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル型樹脂微粒子、及び水を含有し、下記(1)から()の条件をすべて満たす、コロイド結晶用組成物。
(1)固形分濃度が25質量%以上
(2)25℃環境下のpHが4~14
(3)25℃環境下の粘度が0.1~200mPa・s
(4)前記コアシェル型樹脂微粒子におけるコアのガラス転移点が80℃以上
(5)前記コアシェル型樹脂微粒子におけるシェルのガラス転移点が40℃以上130℃以下であり、前記コアのガラス転移点より低い
(6)前記コアシェル型樹脂微粒子のシェルを形成する樹脂がカルボキシ基を有する
【請求項2】
前記コアシェル型樹脂微粒子のシェルを形成する樹脂の酸価が5~150mgKOH/gである、請求項1に記載のコロイド結晶用組成物。
【請求項3】
前記コアシェル型樹脂微粒子のシェルを形成する樹脂の重量平均分子量が50,000以上である、請求項1または2に記載のコロイド結晶用組成物。
【請求項4】
前記コアシェル型樹脂微粒子におけるシェルの含有率が、コアの質量を基準として10~150質量%である、請求項1~3いずれか1項に記載のコロイド結晶用組成物。
【請求項5】
25℃環境下の表面張力が10~50mN/mである、請求項1~4いずれか1項に記載のコロイド結晶用組成物。
【請求項6】
基材上に、プライマー層、及び、請求項1~5いずれか1項に記載のコロイド結晶用組成物を用いて形成されるコロイド結晶層をこの順に備える積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイド結晶用組成物、及び該コロイド結晶用組成物より形成されるコロイド結晶層を備える積層体に関する。詳細には、塗工性、及び経時安定性に優れ、且つ発色性、耐熱性に優れるコロイド結晶層を形成可能なコロイド結晶用組成物、並びに発色性、耐熱性に優れるコロイド結晶層を備える積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶は、屈折率が異なる物質を光の波長と同程度の間隔で並べたナノ周期構造体である。フォトニック結晶内では、屈折率が周期的に変化し、ブラッグ反射として知られる特定波長の光の反射や、フォトニックバンドギャップを利用した光閉じ込め、高い分波作用等、様々な興味深い光学特性を発現するため、現在、活発に研究が行われている。フォトニック結晶の一種であるコロイド結晶は、サブミクロンオーダーの樹脂微粒子やシリカ粒子が規則的に配列した構造を有し、粒子懸濁液を基材等へ塗布した後、乾燥することで形成することができる。
粒子懸濁液の乾燥に伴うコロイド結晶の形成メカニズムは次の通りである。まず、基材等に塗布されて形成した未乾燥塗膜表面では溶媒の蒸発が生じる。それに伴い、表面近傍では、溶媒の乾燥を補うように対流が誘起され、その流れに乗って粒子が表面へ運ばれる。運ばれた粒子は堆積し、溶媒の乾燥時に働く横毛管力によって最密に充填する。
このようにコロイド結晶の形成過程は、伝熱、乾燥、物質移動が組み合わさったプロセスである。コロイド結晶は、粒子配列の乱れが少ないほど優れた発色性(光学特性)を示すため、粒子配列を制御することが重要である。
また、コロイド結晶の鮮やかな発色は、規則配列した粒子と粒子間隙との屈折率差により生じるブラッグ反射に由来する。粒子と粒子間隙との屈折率差が大きいほど強いブラッグ反射を示すため、逆オパール型のコロイド結晶を除いて、粒子間隙が空気である場合に最も発色の良いコロイド結晶が得られる。しかしながら、このような発色性に優れたコロイド結晶は、空隙を有するために粒子間、または、粒子と基材間の接触面積が少なくなり耐摩擦性、及び基材密着性が劣る。更に樹脂微粒子の場合、加熱により容易に粒子形状が変化して粒子間隙が埋まり、コロイド結晶発色が失われ耐熱性に劣る。
【0003】
特許文献1には、コア部及びシェル部からなるコアシェル型微粒子を含むコロイド結晶用組成物が開示されている。コア部のガラス転移点が高く、シェル部のガラス転移点が低いために、加熱によってシェル部が流動してコア部がシェル部中に規則配列したコロイド結晶が得られる。また、シェル部が加熱により容易に流動することで、シェル部が基材に密着し、粒子間で高分子鎖の絡み合いが生じるため、耐摩擦性、及び基材密着性に優れるコロイド結晶が得られる。
【0004】
また、特許文献2には、シェルのカルボキシ基が塩基性成分によって中和されたコアシェル粒子を含む、意匠性に優れる構造色塗膜形成塗料組成物が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、コアシェル型微粒子から形成され、粒子間の空隙を残しながらシェルが部分的に融着するため、発色性、耐摩擦性、及び基材追従性に優れるコロイド結晶が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-047231号公報
【文献】特開2009-249527号公報
【文献】特許第6879425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のコロイド結晶は、シェル部の量が多く加熱によりシェル部がコア部の粒子間隙を埋め尽くす設計であるために粒子と粒子間隙の屈折率差が小さくなり形成されるコロイド結晶の発色性が優れないという課題がある。
特許文献2に記載のコロイド結晶は、シェル部を形成する樹脂がカルボキシ基を有し且つ低分子量であるために、コロイド結晶用組成物に塩基性成分を適当量添加することでコロイド結晶用組成物の粘度が高くなりチクソトロピー性が発現する。それゆえ、塗布された後の粘度が高く、乾燥に伴う粒子の規則配列形成が阻害されるために、得られるコロイド結晶の発色性が優れないという課題がある。
特許文献3に記載のコロイド結晶は、シェルが加熱により容易に流動する設計であるために、加熱によって容易に粒子間隙がシェルで埋め尽くされ発色が損なわれるという耐熱性の課題がある。
上記のように、従来のコロイド結晶用組成物は、粒子の規則配列形成、固定化、耐熱性付与が困難であり、塗工性及び経時安定性に優れ、且つ、発色性、耐熱性、耐摩擦性及び基材密着性を両立するコロイド結晶用組成物は実現されていない。
したがって本発明が解決しようとする課題は、塗工性、及び経時安定性に優れ、さらに、発色性及び耐熱性に優れるコロイド結晶を形成可能なコロイド結晶用組成物、並びに、該コロイド結晶用組成物から形成される、発色性及び耐熱性に優れるコロイド結晶層を備える積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明により、塗工性、及び経時安定性に優れ、さらに、発色性及び耐熱性に優れるコロイド結晶を形成可能なコロイド結晶用組成物、並びに、該コロイド結晶用組成物から形成される、発色性及び耐熱性に優れるコロイド結晶層を備える積層体を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係るコロイド結晶用組成物は、コアシェル型樹脂微粒子、及び水を含有し、下記(1)から(5)の条件をすべて満たすことを特徴とする。
(1)固形分濃度が25質量%以上
(2)25℃環境下のpHが4~14
(3)25℃環境下の粘度が0.1~200mPa・s
(4)前記コアシェル型樹脂微粒子におけるコアのガラス転移点が80℃以上
(5)前記コアシェル型樹脂微粒子におけるシェルのガラス転移点が40℃以上
【0010】
本発明の一態様に係るコロイド結晶用組成物は、前記コアシェル型樹脂微粒子のシェルを形成する樹脂の酸価が5~150mgKOH/gであることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係るコロイド結晶用組成物は、前記コアシェル型樹脂微粒子のシェルを形成する樹脂の重量平均分子量が50,000以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係るコロイド結晶用組成物は、前記コアシェル型樹脂微粒子におけるシェルの含有率が、コアの質量を基準として10~150質量%であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係るコロイド結晶用組成物は、25℃環境下の表面張力が10~50mN/mであることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る積層体は、基材上に、上記コロイド結晶用組成物を用いて形成されるコロイド結晶層を備えることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<コロイド結晶用組成物>
本発明のコロイド結晶用組成物は、コアシェル型樹脂微粒子、及び水を含有し、下記(1)から(5)の条件をすべて満たすことを特徴とする。
(1)固形分濃度が25質量%以上
(2)25℃環境下のpHが4~14
(3)25℃環境下の粘度が0.1~200mPa・s
(4)前記コアシェル型樹脂微粒子におけるコアのガラス転移点が80℃以上
(5)前記コアシェル型樹脂微粒子におけるシェルのガラス転移点が40℃以上
本発明の組成物は、所定の固形分及び粘度を有することで優れた塗工性を有し、所定のpH及び粘度であることで優れた経時安定性を有する。また、本発明の組成物は、所定の固形分、pH及び粘度であることで、発色性に優れた高品位なコロイド結晶を形成することができる。また、本発明の組成物は、コアシェル型樹脂微粒子のコア及びシェルが所定のガラス転移点を有することで耐熱性、耐摩擦性及び基材密着性に優れる。
以下、本発明を構成する要件について詳細に説明する。
【0016】
[コアシェル型樹脂微粒子]
本明細書におけるコロイド結晶は、ブラッグ反射由来の構造色を発現し、コアシェル型樹脂微粒子の粒子径を制御することにより屈折率の周期間隔を制御し、様々な色を発色することができるものである。
コアシェル型樹脂微粒子は、コア(内層)とシェル(外層)の構造からなり、コア及びシェルは双方とも水に不溶な樹脂であり、且つ、互いに相溶しないものである。コアシェル型樹脂微粒子において、コアは球状形状を維持する役割を担い、シェルは加熱等により流動して粒子間、又は粒子と基材に結着する役割を担う。
コロイド結晶用組成物中においてコアシェル型樹脂微粒子は分散体の形態で存在し、基材に塗布され乾燥する過程で規則的に最密充填して積層する。続いて、形成されたコロイド結晶にある一定以上の熱エネルギーを与えることでコアシェル型粒子間の接触部分でシェル同士が一部融着し、コロイド結晶層中の粒子間、又は粒子と基材が結着され、且つ、粒子間隙が空気であるコロイド結晶を形成するものである。従って、得られるコロイド結晶を有する積層体は鮮やかな構造色を呈し、耐摩擦性、及び基材追従性に優れる。
【0017】
上記コアシェル型樹脂微粒子は、コアのガラス転移点が80℃以上、シェルのガラス転移点が40℃以上であることが重要である。コアのガラス転移点が80℃以上であると、コアの形状が、外部からの熱や力の影響で変形することが抑制される。これにより、架橋形成のために積層体を加熱する場合や、積層体を高温で長期保管した場合においても、優れた発色を維持することができる。シェルのガラス転移点が40℃以上であると、積層体を光源付近に設置した場合等、高温で長期保管した場合においても、優れた発色を維持することができる。
コアのガラス転移点は、好ましくは100~180℃のであり、シェルのガラス転移点は、好ましくは40~130℃である。ガラス転移点が上記範囲内であることで、粒子形状を維持するコアと粒子間、又はコロイド結晶層と接する面との結着点となるシェルという機能分離が可能になり、発色性、耐熱性、耐摩擦性、及び基材密着性の両立が可能となる。上記コア及びシェルは、複数のガラス転移点を有していてもよい。
本明細書において、ガラス転移点は、DSC(示差走査熱量計)により測定することができる。
【0018】
[コアシェル型樹脂微粒子の種類と製造方法]
本発明におけるコアシェル型樹脂微粒子は、特に制限されないが、好ましくはエチレン性不飽和単量体の重合体であり、より好ましくはアクリル樹脂であり、さらに好ましくはスチレンアクリル樹脂である。
コアシェル型樹脂微粒子の製造方法は特に制限されず、乳化重合のように水性媒体中でエチレン性不飽和単量体を重合する方法や、非水系で重合を行った後に脱溶剤しながら水相に転相する転相乳化法等が挙げられるが、コロイド結晶の発色性に重要である粒子の単分散性の制御性、及び高品位なコロイド結晶形成に重要な高固形分濃度で低濃度化が可能である点から、乳化重合を用いることが好ましい。
【0019】
乳化重合では、一段目と二段目とで単量体の組成を変えて滴下する二段重合、又は、三段以上の多段で単量体の組成を変えて滴下する多段重合のいずれを用いてもよい。上記二段重合法を用いる場合、例えば、下記に示す手順でコアシェル型樹脂微粒子を調整できる。
(1)まず、反応槽に水性媒体と界面活性剤とを仕込み、昇温する。その後、窒素雰囲気下でコアを形成する一段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液を滴下しながら、ラジカル重合開始剤を添加する。反応開始後、滴下量にしたがって粒子は徐々に成長してコア粒子を形成する。
(2)次いで、一段目の滴下が完了し、発熱が落ちついたところで、シェルを形成する二段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液の滴下を開始する。その際、追加の開始剤を添加してもよい。滴下された二段目のエチレン性不飽和単量体は、一旦コア粒子に分配されるが、重合が進むにつれてコア粒子の外層に重合体として析出していき、シェル層を形成する。
【0020】
上記エチレン性不飽和単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族系エチレン性不飽和体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘ
キシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、又は、これらのアルキル若しくはアルケニルモノエステル、コハク酸β-(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸等のカルボキシ基含有エチレン性不飽和単量体;2-アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸アンモニウム、ビニルスルホン酸等のスルホ基含有エチレン性不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等の水酸基含有エチレン性不飽和単量体;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリオキシエチレン基含有エチレン性不飽和単量体;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等のアミノ基含有エチレン性不飽和単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有エチレン性不飽和単量体;ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシ(メタ)アクリレート、2-アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のケトン基含有エチレン性不飽和単量体;アリル(メタ)アクリレート、1-メチルアリル(メタ)アクリレート、2-メチルアリル(メタ)アクリレート、1-ブテニル(メタ)アクリレート、2-ブテニル(メタ)アクリレート、3-ブテニル(メタ)アクリレート、1,3-メチル-3-ブテニル(メタ)アクリレート、2-クロルアリル(メタ)アクリレート、3-クロルアリル(メタ)アクリレート、o-アリルフェニル(メタ)アクリレート、2-(アリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、アリルラクチル(メタ)アクリレート、シトロネリル(メタ)アクリレート、ゲラニル(メタ)アクリレート、ロジニル(メタ)アクリレート、シンナミル(メタ)アクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルイタコン酸、ビニル(メタ)アクリレート、クロトン酸ビニル、オレイン酸ビニル,リノレン酸ビニル、2-(2’-ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等の2個以上のエチレン性不飽和基を有するエチレン性不飽和単量体;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アルキルエーテル化N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基含有エチレン性不飽和単量体;が挙げられる。
これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0021】
コアシェル型樹脂微粒子の形成に用いられるエチレン性不飽和単量体は、コロイド結晶層内、及びコロイド結晶層と該コロイド結晶層に接する層との間に架橋を形成する目的で反応性基を有していてもよい。コロイド結晶層内、及びコロイド結晶層と該コロイド結晶層に接する層との間に架橋を形成することで、積層体の耐摩擦性及び基材密着性に優れる。
【0022】
コロイド結晶層内、及びコロイド結晶と該コロイド結晶層に接する層との間の架橋は、例えば、コアシェル型樹脂微粒子の反応性基同士を反応させる方法、コアシェル型樹脂微粒子の反応性基と後述するプライマー層のようなコロイド結晶層に接する層が有する反応性基とを反応させる方法、多官能の架橋剤を介してコアシェル型樹脂微粒子の反応性基同士を架橋させる方法、多官能の架橋剤を介してコアシェル型樹脂微粒子の反応性基と後述するプライマー層のようなコロイド結晶層に接する層が有する反応性基とを架橋させる方法により導入することができる。
【0023】
上記反応性基としては、例えば、エポキシ基、カルボキシ基、水酸基、ケトン基、ヒドラジド基が挙げられ、より好ましくはカルボキシ基、水酸基、ケトン基である。特に、コアシェル型樹脂微粒子のシェルに反応性基を含むことでコロイド結晶層内、及びコロイド結晶と該コロイド結晶層に接する層との架橋が効率的に進行するため好ましい。
【0024】
コアシェル型樹脂微粒子がシェル中に架橋基を有する場合、シェル中の架橋基の含有量は、コアシェル型樹脂微粒子の質量を基準として、好ましくは0.1~3.0mmоl/gの範囲であり、より好ましくは0.5~3.0mmоl/gである。0.1mmоl/g以上であることにより、粒子間、又は、粒子と基材間の接触面積が少ない積層体においても、架橋により優れた耐摩擦性、及び基材密着性が発現する。また、3.0mmоl/g以下であることにより、コロイド結晶用組成物の経時安定性が優れる。
【0025】
(ラジカル重合開始剤)
コアシェル型樹脂微粒子の製造に用いられるラジカル重合開始剤としては、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリル等のアゾビス化合物;が挙げられる。
乳化重合においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、水溶性重合開始剤としては例えば、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸カリウム(KPS)、過酸化水素、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドのような従来既知のものを好適に使用することができる。
【0026】
(界面活性剤)
コアシェル型樹脂微粒子の製造には一般的に界面活性剤が用いられ、界面活性剤を用いることで、樹脂微粒子の安定性や単分散性を向上させることができる。界面活性剤としては、アニオン性又はノニオン性のものが挙げられ、好ましくはアニオン性界面活性剤である。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
界面活性剤としては、例えば、アニオン性反応性界面活性剤、アニオン性非反応性界面活性剤、ノニオン性反応性界面活性剤、ノニオン性非反応性界面活性剤が挙げられる。ここで反応性界面活性剤とは、上述のエチレン性不飽和単量体と重合可能な界面活性剤を指す。より詳細には、エチレン性不飽和結合と重合反応し得る反応性基を有する界面活性剤を意味する。反応性基としては、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基等のアルケニル基や(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。
反応性界面活性剤を使用することで、コロイド結晶用組成物中に含まれる遊離の界面活性剤成分が低減し、コロイド結晶の粒子配列への悪影響が抑えられるため、薄膜でより鮮やかな構造発色を呈する積層体を得ることができる。
【0027】
(その他成分)
コアシェル型樹脂微粒子の製造では、必要に応じて還元剤、緩衝材、連鎖移動剤、中和剤を使用することができる。
【0028】
[コアシェル型樹脂微粒子の性状]
(コアシェル型樹脂微粒子の平均粒子径)
コアシェル型樹脂微粒子の平均粒子径は、好ましくは100~500nmの範囲である。なお、本明細書における平均粒子径は、動的光散乱法により測定することができ、得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径とする。
また、コアシェル型樹脂微粒子における平均粒子径の変動係数(Cv値)は、30%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下である。変動係数が30%以下であることにより、粒子配列の規則性が良化し、積層体の発色性がより良好になる。変動係数は、粒子径の均斉度を表す数値であり、下記式により算出することができる。
式: 変動係数Cv値(%)=粒子径の標準偏差/平均粒子径×100
[式において、標準偏差と平均粒子径の単位は同一である]
【0029】
(コアシェル型樹脂微粒子のシェルの含有量)
上記コアシェル型樹脂微粒におけるシェルの含有率は、コアの質量を基準として10~150質量%の範囲であることが好ましい。シェルの含有率が10質量%以上であると、一定以上の熱エネルギーを与えることでコアシェル型粒子間の接触部分でシェル同士が一部融着し、また、コアシェル型樹脂微粒子間やコアシェル型樹脂微粒子とプライマー層の間における結着も強固になり、積層体の耐摩擦性、及び基材追従性に優れる。シェルの含有率が150質量%以下であると、コロイド結晶層用組成物を乾燥する際、及び積層体を高温で長期保管する際に、シェルが過剰に融着して空隙を埋め、発色性が悪化することが抑制される。また、コロイド結晶用組成物にアルカリを添加した際に溶解する樹脂成分量が著しく低減されるため、コロイド結晶用組成物にチクソトロピー性が発現せず、得られる積層体の発色性と耐熱性が良化する。シェルの含有率は、好ましくは10~100質量%の範囲である。
【0030】
(シェルの重量平均分子量)
コアシェル型樹脂微粒子のシェルを形成する樹脂の重量平均分子量は、好ましくは50,000以上であり、より好ましくは100,000以上である。シェルの分子量が50,000以上であると、コロイド結晶用組成物にアルカリを添加した際に溶解する樹脂成分量が著しく低減されるため、コロイド結晶用組成物にチクソトロピー性が発現せず、乾燥に伴う粒子の規則配列形成が阻害されない。従って、得られるコロイド結晶の発色性に優れ、また、コロイド結晶用組成物の経時安定性も良好になる。
【0031】
(シェルの酸価)
コアシェル型樹脂微粒子のシェルを形成する樹脂の酸価は、シェルの質量を基準として好ましくは5~150mgKOH/gであり、より好ましくは10~100mgKOH/gである。酸価が5mgKOH/g以上であると、コロイド結晶用組成物中において、コアシェル型樹脂微粒子間に十分に静電反発力が生じる。従って、得られるコロイド結晶の発色性に優れ、また、コロイド結晶用組成物の経時安定性も良好になる。酸価が150mgKOH/gであると、コロイド結晶用組成物中に溶解する樹脂成分量が著しく低減されるために、乾燥に伴う粒子の規則配列形成が阻害されない。従って、得られるコロイド結晶の発色性に優れ、また、コロイド結晶用組成物の経時安定性も良好になる。
シェルの酸価は、エマルジョン溶液を用いて、JIS K 2501に準拠して水酸化カリウム・エタノール溶液で電位差滴定を行い、算出することができる。具体的には、特開2007-003454号公報の段落0014-0016に記載の方法を参考にして、以下のようにしてシェルの酸価を求めることができる。コアシェル型粒子を用いた場合、エマルジョン内水相酸基の中和による滴定曲線では、滴下量が少ない方から順に、4つの変曲点(P1、P2、P3、P3’)と、対応する滴定量(A1、A2、A3、A3’)が得られる。変曲点P3はシェル樹脂に由来し、変曲点P3’はコア樹脂に由来するものである。変曲点が不明確である場合は、滴定の微分曲線を作成し滴定量を得てもよい。上記 滴定量(A1、A2、A3、A3’)は、以下を意味する。
・A1は、コアシェル型粒子と関係のない成分の中和に必要な滴定量である。
・(A2-A1)は、コアシェル型粒子表面酸基を中和するのに必要な滴定量である。
・(A3-A2)は、コアシェル型粒子表面を除く、粒子内部のシェル樹脂の酸基の中和に必要な滴定量である。
・(A3’-A3)は、コアシェル型粒子内部のコア樹脂の酸基の中和に必要な滴定量である。
上記より、(A3-A1)をシェルの酸基由来の滴定量とし、該滴定量からシェルの酸価を算出することができる。
【0032】
[親水性溶剤]
本発明のコロイド結晶用組成物は、親水性溶剤を含んでもよい。適切な親水性溶剤を選択することで、コロイド結晶用組成物の表面張力を調整し優れた発色を維持しムラのない高品位な積層体を得ることができる。また、乾燥に伴いシェルの融着を促すことで、耐摩擦性、及び基材密着性に優れた積層体を得ることができる。
【0033】
本発明において用いることができる親水性溶剤としては、例えば、1-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブタノール等の一価の低級モノアルコール溶剤;エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ペンチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤;N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン等のラクタム系溶剤;ホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等のアミド系溶剤;が挙げられる。
これらの親水性溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0034】
[界面活性剤]
本発明のコロイド結晶用組成物は、界面活性剤を含んでもよい。適切な界面活性剤を選択することで、コロイド結晶用組成物の表面張力を調整し、優れた発色を維持しムラのない高品位な積層体を得ることができる。また、コロイド結晶組成物の基材や後述するプライマー層への濡れ性を改善し、密着性に優れた積層体を得ることができる。
コロイド結晶用組成物に添加する界面活性剤としては、アニオン性又はノニオン性のものが挙げられ、コアシェル型樹脂微粒子間の静電反発力を阻害せず優れた発色性を示す積層体が得られるためにノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0035】
上記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、花王株式会社製エマルゲン120、220、350、420、1108、A-60、A-90、B-66、第一工業製薬株式会社製ノイゲンXL-50、XL-60、XL-70、XL-80、XL-100、TDS-50、TDS-70、TDS-80、TDS-100、TDS-120、TDX-50、TDX-80、EA-87、EA-137、EA-157、EA-167、EA-177、ビックケミージャパン社製BYK-3410、BYK-3455、BYK-DYNWET800、日信化学工業社製サーフィノール420、440、465、485が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
[架橋剤]
本発明のコロイド結晶用組成物は、上述の通り、コロイド結晶層内、及びコロイド結晶層と該コロイド結晶層に接する層(以下、隣接層)との間で架橋を形成するために、架橋剤を含有してもよい。
架橋剤としては、特に制限されず、コロイド結晶層や隣接層が有する反応性基に応じて適宜選択でき、例えば、活性カルボニル基と反応してケト-ヒドラジド架橋を形成するヒドラジノ基を2つ以上有するヒドラジド化合物(ポリヒドラジド);水酸基やアミノ基と反応してウレタン結合やウレア結合を形成するイソシアネート化合物;カルボキシ基やアミノ基等と反応するエポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物;が挙げられ、用途に応じて適宜選択することができる。
より詳細には、例えば、コアシェル型樹脂微粒子や隣接層を構成する成分がカルボキシ基を有する場合は、エポキシ架橋剤を介して架橋を形成することができる。また、例えば、コアシェル型樹脂微粒子や隣接層を構成する成分が水酸基を有する場合は、ポリイソシアネート架橋剤を介して架橋を形成することができる。また、例えば、コアシェル型樹脂微粒子や隣接層を構成する成分がケトン基を有する場合は、ヒドラジド架橋剤を介して架橋することができる。
特に、乾燥に伴う粒子の規則配列形成を阻害しないためノニオン性かつ低分子成分のみで構成される架橋剤が好ましい。
【0037】
本発明において用いることができる架橋剤としては、例えば、日本触媒株式会社製エポクロスWS-300、WS-500、WS-700等の水溶性多官能オキサゾリン化合物;日清紡ケミカル株式会社製V-02、V-02-L2、SV-02、V-04、V-10等の水溶性多官能カルボジイミド化合物、ナガセケムテックス株式会社製デナコールEX-614B、EX-313、EX-512、EX-321、EX-321L等の水溶性多官能エポキシ化合物;アジピン酸ヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のポリヒドラジド化合物;旭化成株式会社製WB40-100、WT30-100、東ソー株式会社製アクアネート105、140等のポリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0038】
[中和剤]
本発明のコロイド結晶用組成物は、中和剤を含んでもよい。コアシェル型樹脂微粒子のシェルに含まれるカルボキシ基の少なくとも一部が中和されていることで、コアシェル型樹脂微粒子間の静電反発力が向上し、コアシェル型樹脂微粒子の凝集が顕著に抑制される。また、コアシェル型樹脂微粒子間の静電反発力が向上することで、乾燥とともに形成される粒子の規則配列の精密性が向上する。そのため、コロイド結晶用組成物の経時安定性だけでなく、コロイド結晶用組成物へ親水性溶剤、界面活性剤、架橋剤等の各種添加剤を添加した際に、乾燥に伴う粒子の規則配列形成が受ける影響を小さくすることができる。従って、コロイド結晶用組成物の塗工性、積層体の発色性、耐擦性、基材密着性を両立させることができる。
中でも、コロイド結晶層用組成物のpHを後述するように4~14の範囲に制御する観点から、塩基性の中和剤を含有することが好ましい。
本発明において用いることができる塩基性の中和剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物;トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン;アンモニアが挙げられる。加熱により容易に揮発する観点から、好ましくはアンモニア又は有機アミンである。
【0039】
<コロイド結晶用組成物の性状>
[固形分濃度]
本発明のコロイド結晶用組成物の固形分は25質量%であることが重要であり、好ましくは25~70質量%である。
固形分が25質量%以上であることにより、表面張力の上昇や低粘度化を抑制することができ、コロイド結晶用組成物の塗工性に優れる。また、コロイド結晶用組成物が界面活性剤等の添加剤や親水性溶剤を含む場合、これらの配合量は組成物全量に対して調整する。したがって、固形分が25質量%以上であると、コアシェル型樹脂微粒子に対するこれら界面活性剤や親水性溶剤の比率が高くなりすぎず、粒子の規則配列形成へ添加剤が与える影響を最小限にすることができるため、得られる積層体の発色性に優れる。更に、乾燥に伴う粒子の規則配列形成が阻害されないような低粘度のコロイド結晶用組成物であっても一定以上の厚みを有する積層体を形成することができる。従って、ブラッグ反射が強く、発色性に優れた積層体が得られる。固形分が70質量%以下であることにより、コロイド結晶用組成物の経時安定性が良好となる。
なお、本発明においてコロイド結晶用組成物の固形分中に占めるコアシェル型樹脂微粒子の比率積層体の好ましい膜厚は5~100μmである。
【0040】
[固形分中に占めるコアシェル型樹脂微粒子の割合]
本発明のコロイド結晶用組成物の固形分中に占めるコアシェル型樹脂微粒子の割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。固形分中に占めるコアシェル型樹脂微粒子の割合が80質量%以上であることにより、コロイド結晶を形成した際に粒子間隙に空気が残りやすくなり積層体の発色性が良化する。
【0041】
[粘度]
本発明のコロイド結晶用組成物の粘度は、0.1~200mPa・sであることが重要であり、好ましくは5.0~100mPa・sである。
粘度が200mPa・s以下であることにより、溶媒の蒸発に伴う粒子の移動や横毛管力による粒子の最密充填が悪影響を受けない。従って、発色性に優れた積層体を得ることができる。また、粘度が0.1mPa・s以上であることにより、塗工時のムラの発生を抑制できる。従って、コロイド結晶用組成物の塗工性が良好になる。
本発明において、粘度とはB型粘度計を使用し25℃環境下でロータを30rpmで回転させた時に測定される粘度である。
【0042】
[pH]
本発明のコロイド結晶用組成物のpHは、4~14であることが重要であり、コアシェル型樹脂微粒子のシェルに含まれるカルボキシ基の少なくとも一部が、上述する塩基性の中和剤(以下、塩基性成分)によって中和されていることが好ましい。シェルのカルボキシ基を塩基性成分によって中和することによって、コアシェル型樹脂微粒子間の静電反発力が向上し、凝集が抑制され、コロイド結晶用組成物の経時安定性が良化する。また、コアシェル型樹脂微粒子間の静電反発力が向上することで、乾燥とともに形成される粒子の規則配列の精密性が向上する。
一般的に、コロイド結晶用組成物中に親水性溶剤、界面活性剤、架橋剤等の水以外の成分を配合すると、媒体の比誘電率は低下するが、中和され表面負電荷が十分に大きいコアシェル型樹脂微粒子を用いることで、粒子間の静電反発力の高さが維持され、発色性と塗工性、密着性、基材追従性等とを両立できる。
【0043】
なお、コアシェル型樹脂微粒子のシェルに含まれるカルボキシ基を塩基性成分によって中和することで、系中の水溶性樹脂成分量が増加し、コロイド結晶用組成物に増粘が生じることがある。しかしながら、本発明のコロイド結晶用組成物は、好ましくは、コアシェル型樹脂微粒子のシェルに含まれるカルボキシ基の少なくとも一部が塩基性成分によって中和されており、且つ中和に伴う顕著な増粘が起こらず、その結果、pHが4~14であり、コロイド結晶用組成物の粘度が0.1~200mPa・sの範囲を達成するものである。
コロイド結晶用組成物が上記範囲のpHと粘度であることにより、コロイド結晶用組成物が良好な安定性を維持し、溶媒揮発に伴う粒子の移動や横毛管力による最密充填が悪影響を受けない。従って、コロイド結晶用組成物の経時安定性に優れ、良好な発色性を示す積層体を得ることができる。
コロイド結晶用組成物のpHは、好ましくは7~12である。
【0044】
[表面張力]
本発明のコロイド結晶用組成物の表面張力は、10~50mN/mであることが好ましく、より好ましくは20~50mN/mである。
表面張力が10mN/mであることにより、乾燥に伴って粒子間に適切に横毛管力が働くために、精密に粒子が最密充填したコロイド結晶が形成される。従って、得られる積層体の発色性が良化する。表面張力が50mN/m以下であることにより、コロイド結晶用組成物の塗工適性が良化し均一なコロイド結晶層を形成することができる。また、基材又はプライマー層への濡れ性が向上するため、得られる積層体の基材密着性が良化する。
なお、本明細書における表面張力は、25℃環境下で表面張力計を用いて、プレート法(Wilhelmy法)により測定することができる。
【0045】
<積層体>
本発明の積層体は、基材上に、上述するコロイド結晶用組成物を用いて形成されるコロイド結晶層を備えるものであり、例えば、コロイド結晶用組成物を後述する印刷方式により、必要に応じてプライマー層を備えた基材上に印刷して、コロイド結晶層を形成することで製造できる。
【0046】
[コロイド結晶層]
コロイド結晶層の形成方法は特に限定されず、公知の印刷方法を用いて形成することができる。印刷方式としては、例えば、インクジェット法、スプレー法、ディッピング法、スピンコート法のような無版印刷方式;オフセットグラビアコーター、グラビアコーター、ドクターコーター、バーコーター、ブレードコーター、フレキソコーター、ロールコーターのような有版印刷方式が挙げられる。
コロイド結晶層の厚みは、要求される性能に応じて適宜調整すればよいが、通常5~50μmの範囲である。
コロイド結晶層における粒子間隙は、空気であることが好ましい。これは、コロイド結晶は、粒子と粒子間隙との屈折率差が大きいほど強いブラッグ反射を示し、粒子間隙が空気である場合に最も屈折率差が大きく発色性が優れるためである。
なお、コロイド結晶層において、窒素吸着法により最頻細孔径10~200nmの空隙が検出される場合、コロイド結晶層の粒子間隙が空気であると判断できる。最頻細孔径は、Barrett- Joyner-Halenda法(BJH法)に基づいて解析して得られる、吸着側の窒素吸着等温線におけるピークトップを最頻細孔径として用いることができる。BJH法においては、Harkins-Jura型の式を用いて基準t曲線を算出し、体積頻度分布に基づいて解析する。測定には、例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製の、装置名BELSORP-maxIIを使用できる。
【0047】
[基材]
基材は特に制限されず、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム等の熱可塑性樹脂基材;アルミニウム箔等の金属基材;ガラス基材、コート紙等の紙基材;布基材が挙げられる。
基材は、塗布面が平滑であってもよく、凹凸のついたものであってもよい。また基材は、透明、半透明、不透明のいずれであってもよく、コロイド結晶層の発色をより明瞭にするため、あらかじめ黒色等に着色された基材を用いてもよい。また、これら基材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上の層から構成される積層体であってもよい。
基材の厚みは、特に制限されず、通常5~500μmの範囲で適宜選択できる。
【0048】
[プライマー層]
基材上でのコロイド結晶層の定着性をより高めるため、基材はプライマー層を有していることが好ましい。プライマー層は、基材上に予めプライマー層用樹脂組成物を塗布することで形成できる。上記プライマー層用樹脂組成物は樹脂成分を含み、該プライマー層を形成する樹脂は、特に制限されず、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、及びこれらの樹脂を複合化させてなる複合樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
プライマー層は、基材やコロイド結晶層への結着性、プライマー層の耐性等の観点から、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、又はウレタン樹脂を含むことが好ましい。また、プライマー層は、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、界面活性剤、又は無彩黒色粒子が挙げられる。
プライマー層の厚みは、好ましくは0.5~30μmである。
【実施例
【0049】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断りの無い限り「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0050】
<重量平均分子量(Mw)>
重量平均分子量は、以下の条件にてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値として求めた。具体的には、乾燥させた樹脂をテトラヒドロフランに溶解させ、0.1%溶液を調製し、以下の装置ならびに測定条件により測定した。高分子量化により、樹脂が不溶で測定が困難なものについては、重量平均分子量が1,000,000を越えるものと見なした。
装置:HLC-8320-GPCシステム(東ソー社製)
カラム;TSKgel-SuperMultiporeHZ-M0021488
4.6 mmI.D.×15 cm×3本(分子量測定範囲2千約200万)
溶出溶媒;テトラヒドロフラン
標準物質;ポリスチレン(東ソー社製)
流速;0.6mL/分、試料溶液使用量;10μL、カラム温度;40℃
【0051】
<平均粒子径、Cv値>
平均粒子径は、微粒子分散体を500倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はナノトラックUPA(株)マイクロトラックベル社製)により測定を行い、得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径とした。また、下記式により、粒子径の均斉度を表す変動係数Cv値を算出した。
式: Cv値(%)=粒子径の標準偏差/平均粒子径×100
[式において、標準偏差と平均粒子径の単位は同一である]
【0052】
<ガラス転移点>
ガラス転移点は、DSC(示差走査熱量計TAインスツルメント社製)により測定した。具体的には、樹脂微粒子分散体を乾固したサンプル約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該アルミニウムパンをDSC測定ホルダーにセットし、5℃/分の昇温条件にて得られるDSC曲線の吸熱側へのベースラインシフト(変曲点)チャートの吸熱ピークを読み取り、ガラス転移点を得た。
【0053】
<表面張力γ>
表面張力γは、協和界面社製表面張力計(自動表面張力計 DY-300)を用い、25℃の条件下、プレート法(Wilhelmy法)にて測定した値を用いた。
【0054】
<粘度>
粘度は、B型粘度計を使用し、25℃の条件下、ロータ回転数を30rpmとして測定した値を用いた。
【0055】
<pH>
pHは、堀場製作所製ポータブルpHメータ(D-52)を使用し、溶液の温度が25℃のときの値を用いた。
【0056】
<酸価(AV)>
シェルの酸価は、得られたエマルジョン溶液を用いて、JIS K 2501に準拠して水酸化カリウム・エタノール溶液で電位差滴定を行い、算出した。滴定には平沼産業社製:自動滴定装置COM-1600を使用した。具体的には、コアシェル型粒子を含むエマルジョン内水相酸基の中和による滴定曲線より得られた4つの変曲点(P1、P2、P3、P3’)に対応する滴定量(A1、A2、A3、A3’)のうち、(A3-A1)をシェルの酸基由来の滴定量とし、該滴定量からシェルの酸価を算出した。
【0057】
<コアシェル型樹脂微粒子の製造>
[製造例1]コアシェル型樹脂微粒子の水分散体
スチレン79.0部、イソボルニルメタクリレート20.0部、アクリル酸1.0部、アクアロンAR-10(第一工業製薬株式会社製、アニオン性の反応性界面活性剤(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸塩類))の25%水溶液4.0部(固形分1.0部)、イオン交換水39.0部を混合、撹拌して一段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液を調整した。撹拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水95.0部と、一段目の乳化液のうちの1.5%を加えた。反応容器の内温を70℃に昇温して十分に窒素置換した後、開始剤として過硫酸カリウムの2.5%水溶液6.0部(固形分0.15部)を添加して重合を開始した。内温を80℃に上げて温度を維持しながら、乳化液の残りと過硫酸カリウムの2.5%水溶液4.2部(固形分0.11部)を2時間かけて滴下しながら反応させ、コア粒子を合成した。
次に、スチレン27.6部、n-ブチルアクリレート13.2部、メタクリル酸2.2部、アクアロンAR-10の25%水溶液1.7部(固形分0.4部)、イオン交換水16.7部を混合、撹拌して、二段目のエチレン性不飽和単量体の乳化液を調整した。一段目の滴下完了から20分後、二段目の乳化液の滴下を開始した。内温を80℃に保ちながら二段目の乳化液と過硫酸カリウムの2.5%水溶液1.6部(固形分0.04部)を2時間かけて滴下しながら反応を進め、コアシェル型樹脂微粒子の水分散体を得た。
反応後、水を添加して固形分を45.0%に調整した。また、25%アンモニア水(NH(aq))を1.7部添加してコアシェル型樹脂微粒子を中和した。上記アンモニア水の配合量は、シェルに含まれる全カルボキシ基を中和する量(以下、1当量)に相当する。得られた微粒子の平均粒子径は248nm、Cv値は12.9%、コアのTgは113.7℃、シェルのTgは51.8℃、シェルの重量平均分子量は177,000であった。
【0058】
[製造例2~27]コアシェル型樹脂微粒子の水分散体
表1及び表2に示す配合組成に変更した以外は、製造例1と同様にして、コアシェル型樹脂微粒子の水分散体を得た。反応容器の水は、エチレン性不飽和単量体の総量に対して67%になるように仕込んだ。エチレン性不飽和単量体の乳化液は、乳化液中のエチレン性不飽和単量体の濃度が69%、界面活性剤の濃度が0.69%になるよう、水を添加して調製した。過硫酸カリウム2.5%水溶液において、反応開始時/一段目の乳化液の滴下時/二段目乳化液の滴下時の配分は、製造例1と同じ比率にした。また、シェルに含まれるカルボキシ基に対して1当量のアンモニア水を添加してコアシェル型樹脂微粒子を中和した。
なお、製造例6、7、21は、二段目のエチレン性不飽和単量体に、更にチオグリコール酸オクチルをそれぞれ0.2部、0.1部、0.2部添加して乳化液を調整した。
製造例19、23、24は、固形分濃度をそれぞれ20.0%、30.0%、65.0%に調整した。
製造例20は、アンモニアを添加せず、コアシェル型樹脂微粒子の中和を実施しなかった。
製造例25、26は、シェルに含まれるカルボキシ基に対してそれぞれ0.1当量、0.2当量のアンモニア水を添加してコアシェル型樹脂微粒子を中和した。
製造例27は、シェルに含まれるカルボキシ基に対して1当量の水酸化カリウム水溶液を添加してコアシェル型樹脂微粒子を中和した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
<プライマー層を形成する樹脂の製造>
[製造例28]スチレンアクリル樹脂の水分散体
スチレン30.7部、n-ブチルアクリレート64.2部、メタクリル酸5.0部、アクアロンAR-10の25%水溶液部5.6部(固形分1.4部)、イオン交換水40.4部を予め混合、撹拌して、エチレン性不飽和単量体の乳化液を調整した。
撹拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水68.9部と乳化液のうちの3%とを加え、内温を80℃に昇温して十分に窒素置換した後、開始剤として過硫酸カリウムの2.5%水溶液6.0部(固形分0.15部)を添加して乳化重合を開始した。内温を80℃に保ちながら、乳化液の残りと過硫酸カリウムの2.5%水溶液6.0部(固形分0.15部)を3時間かけて滴下し、更に4時間反応させてスチレンアクリル樹脂の水分散体を得た。反応完了後、25%のアンモニア水3.9部添加して中和し、イオン交換水で水分散の固形分を45.0%に調整した。
【0062】
[製造例29、30]スチレンアクリル樹脂の水分散体
表3に示す配合組成に変更した以外は、製造例22と同様にして、スチレンアクリル樹脂の水分散体を得た。反応容器の水は、エチレン性不飽和単量体の総量に対して67%になるように仕込んだ。エチレン性不飽和単量体の乳化液は、乳化液中のエチレン性不飽和単量体の濃度が69%、界面活性剤の濃度が0.69%になるよう、水を添加して調製した。また、樹脂に含まれるカルボキシ基に対して1当量のアンモニアを添加してスチレンアクリル樹脂を中和した。
【0063】
【表3】
【0064】
<プライマー層用樹脂組成物の調製>
[製造例31]プライマー層用樹脂組成物
製造例28のスチレンアクリル樹脂の水分散体100.0部に、界面活性剤としてエマルゲン1108(花王株式会社製、エーテル系ノニオン性界面活性剤)1.0部を添加して攪拌し、プライマー層用樹脂組成物を調製した。
【0065】
[製造例32]プライマー層用樹脂組成物
製造例29のスチレンアクリル樹脂の水分散体100.0部を、製造例23のスチレンアクリル樹脂の水分散体100.0部に変更した以外は、製造例31と同様の方法によりプライマー層用樹脂組成物を調製した。
【0066】
[製造例33]プライマー層用樹脂組成物
製造例30のスチレンアクリル樹脂の水分散体100.0部を、製造例24のスチレンアクリル樹脂の水分散体100.0部に変更した以外は、製造例31と同様の方法によりプライマー層用樹脂組成物を調製した。
【0067】
<コロイド結晶用組成物の調製>
[実施例1]
製造例1のコアシェル型樹脂微粒子の水分散体100.0部に、界面活性剤としてエマルゲン1108(花王株式会社製、エーテル系ノニオン性界面活性剤)0.5部、サーフィノール420(日新化学工業社製、アセチレン系ノニオン性界面活性剤)1.0部、架橋剤としてデナコールEX-614B(ナガセケムテックス株式会社製、水溶性多官能エポキシ化合物)0.9部を添加して攪拌し、コロイド結晶用組成物を調製した。
得られたコロイド結晶用組成物の25℃環境下の表面張力は32.3mN/m、25℃環境下の粘度は22.4mPa・s、25℃環境下のpHは9.64であった。
【0068】
[実施例2~23、比較例1~5]
表4及び表5に示す配合組成に変更した以外は、実施例1と同様の方法によりコロイド結晶用組成物を調製した。
【0069】
<コロイド結晶用組成物の評価>
得られたコロイド結晶用組成物について以下の評価を行った。結果を表4及び表5に示す。
【0070】
[塗工性]
東洋紡エステルフィルムE5100のコロナ処理面に、得られたコロイド結晶用組成物をバーコーター#9で塗工し、50℃3分間乾燥した。得られた塗膜について、目視で塗膜のムラやハジキの発生を評価した。
S:ハジキやムラがない(非常に良好)
A:ハジキやムラの発生した面積が塗膜全体の1%未満(良好)
B:ハジキやムラの発生した面積が1%以上、5%未満(使用可)
C:ハジキやムラの発生した面積が5%以上(使用不可)
【0071】
[経時安定性]
コロイド結晶用組成物を40℃1か月、2か月、及び3か月静置前後の粘度を測定し、静置前の粘度と静置後の粘度の差よりコ経時安定性を評価した。
S:3か月静置後の粘度変化の絶対値が50mPa・s以下(非常に良好)
A:2か月静置後の粘度変化の絶対値が50mPa・s以下(良好)
B:1か月静置後の粘度変化の絶対値が50mPa・s以下(使用可)
C:1か月静置後に粘度変化の絶対値が50mPa・sより大きい(使用不可)
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
表4及び表5中の略称を以下に示す。
エマルゲン1108:ノニオン性の非反応性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、花王株式会社製、固形分100%)
サーフィノール420:ノニオン性の非反応性界面活性剤(アセチレングリコール類、日信化学工業社製、固形分100%)
BYK-DYNWET800:ノニオン性の非反応性界面活性剤(アルコールアルコキシレート類、ビックケミージャパン株式会社製、固形分100%)
デナコール614B:水溶性多官能エポキシ化合物(ナガセケムテックス株式会社製、固形分100%)
アクアネート105:水溶性多官能イソシア化合物(東ソー株式会社製、固形分100%)
CW-1:表面変性カーボンブラックBONJET BLACK CW-1(オリエント化学工業製 平均粒子径62nm、固形分20.0%)
【0075】
<積層体の評価>
得られたコロイド結晶用組成物を用いて以下のとおり積層体を作製し、評価を行った。上述するコロイド結晶用組成物の評価結果と併せて、表6に示す。
【0076】
[積層体の製造]
東洋紡エステルフィルムE5100のコロナ処理面に、表6に示すプライマー層用樹脂組成物を、乾燥後の厚みが3.0μmになるようにバーコーターで塗工した後、オーブンで50℃3分間乾燥してプライマー層を形成した。次いで、プライマー層上に、表6に示すコロイド結晶層用組成物を乾燥後の厚みが10.0μmになるようにバーコーターを選択して塗工し、50℃3分間乾燥し、PET/プライマー層/コロイド結晶層の構成の積層体を得た。得られた積層体は、更に80℃で5分加熱した。
なお、実施例1のコロイド結晶用組成物については、プライマー層を形成せず、東洋紡エステルフィルムE5100上に直接コロイド結晶層を形成したPET/コロイド結晶層の構成の積層体も製造した。
【0077】
[粒子間の空隙]
コロイド結晶層の空隙の有無を以下のようにして判断した。
まず、得られた積層体について、Barrett- Joyner-Halenda法(BJH法)に基づいて解析を行い、吸着側の窒素吸着等温線におけるピークトップを最頻細孔径として求めた。BJH法においてはHarkins-Jura型の式を用いて基準t曲線を算出し、体積頻度分布に基づいて解析を行った。測定にはマイクロトラック・ベル株式会社製の、装置名BELSORP-maxIIを使用した。
窒素吸着法により最頻細孔径10~200nmの空隙が検出される場合、コロイド結晶を形成する粒子間隙が空気であると判断し、空隙があると評価した。
【0078】
[発色性]
積層体について、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製V-770D、積分球ユニットISN-923)を用いて、波長350~850nmの範囲で反射スペクトルを測定した。各波長における反射率は、反射率が既知の標準白板(ラブスフェア社製SRS-99-010)をリファレンスとして用いて測定した相対反射率である。全ての積層体について、コロイド結晶層側から反射スペクトルを測定した。得られた反射スペクトルについて、構造色に由来する反射率の最大値と、構造色によらないベースラインの反射率の差分(△R)を算出した。△Rが大きいほど発色性に優れている。得られた△Rから、以下の基準で評価した。
S:ΔRが20%以上(非常に良好)
A:ΔRが10%以上、20%未満(良好)
B:ΔRが5%以上、10%未満(使用可)
C:ΔRが5%未満、又は構造色に由来する反射率のピークが判別不能(使用不可)
【0079】
[耐熱性]
積層体を40℃1か月、2か月、及び3か月静置した後に、上述の発色性試験と同様に反射スペクトルを測定した。耐熱性試験前後での反射スペクトルを比較して、反射率の最大値の変化率(低下率)を算出した。低下率が大きいほど、積層体の発色が悪化していることを表す。得られた低下率から、積層体の耐熱性を以下の基準で評価した。
S:3か月後の反射率の最大値の変化率が20%未満(非常に良好)
A:2か月後の反射率の最大値の変化率が20%未満(良好)
B:1か月後の反射率の最大値の変化率が20%未満(使用可)
C:1か月後の反射率の最大値の変化率が20%以上(使用不可)
【0080】
[耐摩擦性]
積層体のコロイド結晶層を上にして平滑なガラス板上に置き、2cm×2cmの正方形の領域を指の腹で40往復擦り、傷や剥がれの状態を目視で観察した。評価基準は以下の通りである。
S:傷や剥がれがない(非常に良好)
A:傷や剥がれた面積が1%未満(良好)
B:傷や剥がれた面積が1%以上、5%未満(使用可)
C:傷や剥がれた面積が5%以上(使用不可)
【0081】
[基材密着性]
積層体から2cm×2cmの正方形の試験片を切り出した。試験片について20回折り曲げを行った後、コロイド結晶層側の外観を観察した。評価基準は以下の通りである。
S:傷や剥がれがない(非常に良好)
A:傷や剥がれた面積が1%未満(良好)
B:傷や剥がれた面積が1%以上、5%未満(使用可)
C:傷や剥がれた面積が5%以上(使用不可)
【0082】
【表6】
【0083】
表4~6によれば、所定のTgを有するコアとシェルを有するコアシェル型樹脂微粒子、及び水を含有し、所定の固形分濃度、pH、粘度を満たす本願発明コロイド結晶用組成物は、塗工性、及び経時安定性に優れていた。また、本発明のコロイド結晶用組成物を用いて形成されるコロイド結晶層は、優れた発色性、耐熱性を示した。
一方、比較例のコロイド結晶用組成物は、いずれかが劣っていた。
特に、コアシェル型樹脂微粒子のシェルの分子量が、50,000以上である実施例7のコロイド結晶用組成物は、シェルの分子量が、50,000未満である実施例6のコロイド結晶用組成物と比べて、経時安定性に優れていた。また、実施例7のコロイド結晶用組成物を用いて形成されるコロイド結晶層は、実施例6のコロイド結晶用組成物と比べて発色性に優れていた。
【要約】      (修正有)
【課題】塗工性、及び経時安定性に優れ、さらに、発色性及び耐熱性に優れるコロイド結晶を形成可能なコロイド結晶用組成物、並びに、該コロイド結晶用組成物から形成される、発色性及び耐熱性に優れるコロイド結晶層を備える積層体の提供。
【解決手段】上記課題は、コアシェル型樹脂微粒子、及び水を含有し、下記(1)から(5)の条件をすべて満たす、コロイド結晶用組成物によって解決される。
(1)固形分濃度が25質量%以上
(2)25℃環境下のpHが4~14
(3)25℃環境下の粘度が0.1~200mPa・s
(4)前記コアシェル型樹脂微粒子におけるコアのガラス転移点が80℃以上
(5)前記コアシェル型樹脂微粒子におけるシェルのガラス転移点が40℃以上
【選択図】なし