(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】ワイヤロープ検査システムおよびワイヤロープ検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/82 20060101AFI20220720BHJP
【FI】
G01N27/82
(21)【出願番号】P 2021524683
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015706
(87)【国際公開番号】W WO2020246131
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2019105692
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 康展
(72)【発明者】
【氏名】山岡 信行
(72)【発明者】
【氏名】潮 亘
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/109824(WO,A1)
【文献】特開平07-306185(JP,A)
【文献】特開昭55-126853(JP,A)
【文献】特開平06-331602(JP,A)
【文献】特開2020-008500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/00 - B66B 7/12
G01N 27/72 - G01N 27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルと、
前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、前記検知コイルにより取得した測定データに基づいて、前記測定データを平滑化処理したデータである平滑化データを取得して、取得した前記平滑化データに基づいて、前記測定データのベースラインを取得して、取得した前記ベースラインに基づいて、前記測定データからピーク波形を取得して、取得した前記ピーク波形に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、ワイヤロープ検査システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記ベースラインに対して、正の値を有する測定値群、および、前記ベースラインに対して、負の値を有する測定値群を、前記ピーク波形として取得する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項3】
参照ピーク波形が記憶された記憶部をさらに備え、
前記制御部は、前記ピーク波形と、前記参照ピーク波形との比較結果に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項4】
前記参照ピーク波形は、前記ワイヤロープの傷みの種類が既知の測定データである既知データに基づいて、前記既知データを平滑化処理したデータである平滑化データが取得されて、取得された前記既知データの平滑化データに基づいて、前記既知データのベースラインが取得されて、取得された前記既知データのベースラインに基づいて、前記既知データから取得されたピーク波形である、請求項3に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記ピーク波形と、前記参照ピーク波形との比較結果として、前記ピーク波形と、前記参照ピーク波形との間の類似度を取得するとともに、取得した前記類似度に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、請求項3に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記ピーク波形を予め決められた数分だけ分割して、予め決められた数分の代表値を取得するとともに、取得した前記ピーク波形の予め決められた数分の代表値と、前記参照ピーク波形の予め決められた数分の代表値とに基づいて、前記類似度を取得する制御を行うように構成されている、請求項5に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記類似度が所定値よりも高い高類似度の、正の前記ピーク波形および負の前記ピーク波形を取得した場合、取得した正の前記ピーク波形および負の前記ピーク波形の出現順序に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、請求項
5に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記類似度が所定値よりも高い高類似度の、正の前記ピーク波形および負の前記ピーク波形を取得した場合、取得した正の前記ピーク波形および負の前記ピーク波形の間の前記ピーク波形の数に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、請求項
5に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項9】
前記制御部は、前記ピーク波形に基づいて、前記ピーク波形を特定するパラメータを取得するとともに、取得した前記パラメータに基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項10】
前記制御部は、前記パラメータとしての、前記ピーク波形の幅、前記ピーク波形の尖り、および、前記ピーク波形の前記ベースラインの傾きのうちの少なくともいずれか1つに基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、請求項9に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項11】
前記制御部は、前記ワイヤロープの傷みの種類として、素線断線、外圧による固定的変形および素線の撚りの緩みのうちの少なくともいずれか1つを検出する制御を行うように構成されている、請求項1に記載のワイヤロープ検査システム。
【請求項12】
ワイヤロープの磁界の変化を検知するステップと、
前記ワイヤロープの磁界の変化を検知して取得した測定データに基づいて、前記測定データを平滑化処理したデータである平滑化データを取得するステップと、
前記平滑化データに基づいて、前記測定データのベースラインを取得するステップと、
前記ベースラインに基づいて、前記測定データからピーク波形を取得するステップと、
前記ピーク波形に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出するステップと、を備える、ワイヤロープ検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープ検査システムおよびワイヤロープ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤロープの状態を検査するワイヤロープ検査装置が知られている。このような構成は、たとえば、国際公開第2018/138850号に開示されている。
【0003】
上記国際公開第2018/138850号には、スチールワイヤロープの状態を検査する検査装置が開示されている。この検査装置は、スチールワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルと、検知コイルからの信号に基づいてスチールワイヤロープの傷の有無を判定する電子回路部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記国際公開第2018/138850号に記載された検査装置では、スチールワイヤロープの傷の有無を判定することができるだけで、スチールワイヤロープの傷の種類までは判定することができない。この場合、検査員が測定データを確認してスチールワイヤロープの傷の種類を判定する必要があるため、スチールワイヤロープの保守作業の効果的な支援が困難であるという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ワイヤロープの傷みの種類を検出することにより、ワイヤロープの保守作業の支援を効果的に行うことが可能なワイヤロープ検査システムおよびワイヤロープ検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面によるワイヤロープ検査システムは、ワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルと、ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行う制御部と、を備え、制御部は、検知コイルにより取得した測定データに基づいて、測定データを平滑化処理したデータである平滑化データを取得して、取得した平滑化データに基づいて、測定データのベースラインを取得して、取得したベースラインに基づいて、測定データからピーク波形を取得して、取得したピーク波形に基づいて、ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている。
【0008】
この発明の第2の局面によるワイヤロープ検査方法は、ワイヤロープの磁界の変化を検知するステップと、ワイヤロープの磁界の変化を検知して取得した測定データに基づいて、測定データを平滑化処理したデータである平滑化データを取得するステップと、平滑化データに基づいて、測定データのベースラインを取得するステップと、ベースラインに基づいて、測定データからピーク波形を取得するステップと、ピーク波形に基づいて、ワイヤロープの傷みの種類を検出するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記のように、ベースラインに基づいて、測定データからピーク波形が取得されるとともに、ピーク波形に基づいて、ワイヤロープの傷みの種類が検出される。これにより、ワイヤロープの傷みの有無だけでなく、ワイヤロープの傷みの種類も検出して、検査員に通知することができる。その結果、検査員が測定データを確認してワイヤロープの傷みの種類を判定する必要がないので、ワイヤロープの傷みの種類を検出することにより、ワイヤロープの保守作業の支援を効果的に行うことができる。また、上記のように、ベースラインに基づいて、測定データからピーク波形が取得されることにより、ベースラインに基づかずにピーク波形が取得される場合と異なり、ワイヤロープの傷みに伴い発生するワイヤロープの変形による低周波成分が低減された正確なピーク波形を取得することができる。その結果、ワイヤロープの傷みに伴い発生するワイヤロープの変形による低周波成分が低減された正確なピーク波形に基づいて、ワイヤロープの傷みの種類を容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態によるワイヤロープ検査システムの構成を示す概略図である。
【
図2】一実施形態によるワイヤロープ検査装置により検査されるワイヤロープが使用されるエレベータを示した模式図である。
【
図3】一実施形態によるワイヤロープ検査装置の制御的な構成を示すブロック図である。
【
図4】一実施形態による磁性体検査装置の磁界印加部および検出部の構成を説明するための図である。
【
図5】一実施形態によるワイヤロープの傷みの種類の検出処理の全体構成を説明するための図である。
【
図6】一実施形態によるピーク波形と参照ピーク波形との間の類似度の取得処理を説明するための図である。
【
図7】一実施形態によるピーク波形と参照ピーク波形との間の類似度の取得処理における代表値の取得処理を説明するための図である。
【
図8】一実施形態によるピーク波形と参照ピーク波形との間の類似度の取得処理の詳細を説明するための図である。
【
図9】一実施形態による正負ピーク波形間の出現順序の取得処理を説明するための図である。
【
図10】一実施形態による正負ピーク波形間のピーク波形の数の取得処理を説明するための図である。
【
図11】一実施形態によるピーク波形のパラメータの取得処理を説明するための図である。
【
図12】一実施形態によるピーク波形のパラメータに基づくワイヤロープの傷みの種類の検出処理を説明するための図である。
【
図13】一実施形態によるピーク波形の類似度およびピーク波形のパラメータに基づくワイヤロープの傷みの種類の検出処理を説明するための図である。
【
図14】一実施形態によるワイヤロープ検査装置のデータ処理系を説明するための図である。
【
図15】(A)は、一実施形態によるデータ処理系において、第1メモリに測定データを格納して、第2メモリに格納された測定データを制御部に出力する状態を示した図である。(B)は、一実施形態によるデータ処理系において、第2メモリに測定データを格納して、第1メモリに格納された測定データを制御部に出力する状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
まず、
図1~
図4を参照して、一実施形態によるワイヤロープ検査システム100の全体構成について説明する。
【0013】
(ワイヤロープ検査システムの構成)
図1に示すように、ワイヤロープ検査システム100は、検査対象物であるワイヤロープ101を検査するシステムである。ワイヤロープ検査システム100は、ワイヤロープ101の状態を磁気的に検知するワイヤロープ検査装置200と、ワイヤロープ101の検査結果を表示する外部装置300とを備えている。ワイヤロープ検査システム100は、ワイヤロープ検査装置200と外部装置300とによりワイヤロープ101の傷みを検査するように構成されている。
【0014】
ワイヤロープ101は、磁性を有する素線材料が編みこまれる(たとえば、ストランド編みされる)ことにより形成されている。ワイヤロープ101は、たとえば、鋼製のワイヤロープ(スチールワイヤロープ)である。ワイヤロープ101は、X方向に延びる長尺材からなる磁性体である。ワイヤロープ101は、劣化による切断が起こるのを防ぐために、状態(傷等の有無)を監視されている。そして、劣化が所定量より進行したワイヤロープ101は、交換される。
【0015】
(ワイヤロープ検査装置)
図2に示すように、ワイヤロープ検査装置200は、検査対象物であるワイヤロープ101の表面に沿って相対移動させながら、ワイヤロープ101を検査する。ワイヤロープ101は、エレベータ400を駆動する動索である。エレベータ400は、かご部401と、ワイヤロープ101を巻き上げてかご部401を昇降させる巻上機402と、かご部401(ワイヤロープ101)の位置を検知する位置センサ403とを備えている。エレベータ400では、ワイヤロープ101が巻上機402により移動されるため、ワイヤロープ検査装置200を固定した状態で、ワイヤロープ101の移動に伴って、検査が行われる。ワイヤロープ101は、ワイヤロープ検査装置200の位置において、X方向に延びるように配置されている。
【0016】
図3に示すように、ワイヤロープ検査装置200は、検知部1と、電子回路部2とを備えている。検知部1は、一対の受信コイル11および12を有する差動コイルである検知コイル10と、励振コイル13とを含んでいる。電子回路部2は、制御部21と、受信I/F22と、記憶部23と、励振I/F24と、電源回路25と、通信部26とを含んでいる。また、ワイヤロープ検査装置200は、磁界印加部4(
図4参照)を備えている。
【0017】
ワイヤロープ検査装置200には、通信部26を介して外部装置300が通信可能に接続されている。
【0018】
図1に示すように、外部装置300は、通信部301と、制御部302と、表示部303と、記憶部304とを備えている。外部装置300は、通信部301を介して、ワイヤロープ検査装置200によるワイヤロープ101の傷みの検出結果などのデータを受信するように構成されている。また、外部装置300は、制御部302による制御の下、ワイヤロープ101の傷みの検出結果を、表示部303に表示するように構成されている。また、外部装置300は、ワイヤロープ101の傷みの検出結果などを、記憶部304に記憶するように構成されている。
【0019】
図4に示すように、ワイヤロープ検査装置200は、検知コイル10によりワイヤロープ101の磁界(磁束)の変化を検知するように構成されている。ワイヤロープ検査装置200のコイル近傍には、直流磁化器が配置されないように構成されている。
【0020】
(磁界印加部の構成)
図4に示すように、磁界印加部4は、検査対象物であるワイヤロープ101に対して予めY方向(ワイヤロープ101の延びる方向に交差する方向)に磁界を印加し磁性体であるワイヤロープ101の磁化の大きさおよび方向を整えるように構成されている。また、磁界印加部4は、磁石41および42を含む第1磁界印加部と、磁石43および44を含む第2磁界印加部とを含んでいる。第1磁界印加部(磁石41および42)は、検知部1に対して、ワイヤロープ101の延びる方向の一方側(X1方向側)に配置されている。また、第2磁界印加部(磁石43および44)は、検知部1に対して、ワイヤロープ101の延びる方向の他方側(X2方向側)に配置されている。
【0021】
第1磁界印加部(磁石41および42)は、ワイヤロープ101の延びる方向(X方向)に交差する面に平行かつY2方向に磁界を印加するように構成されている。第2磁界印加部(磁石43および44)は、ワイヤロープ101の延びる方向(X方向)に交差する面に平行かつY1方向に磁界を印加するように構成されている。すなわち、磁界印加部4は、長尺材の長手方向であるX方向と略直交する方向に磁界を印加するように構成されている。
【0022】
(検知部の構成)
検知コイル10(受信コイル11および12)と、励振コイル13とは、長尺材からなる磁性体であるワイヤロープ101の延びる方向を中心軸として、長手方向に沿うようにそれぞれ複数回巻回されている。また、検知コイル10および励振コイル13は、ワイヤロープ101の延びるX方向(長手方向)に沿って円筒形となるように形成される導線部分を含むコイルである。したがって、検知コイル10および励振コイル13の巻回される導線部分の形成する面は、長手方向に略直交している。ワイヤロープ101は、検知コイル10および励振コイル13の内部を通過する。また、検知コイル10は、励振コイル13の内側に設けられている。なお、検知コイル10および励振コイル13の配置はこれに限られない。検知コイル10の受信コイル11は、X1方向側に配置されている。また、検知コイル10の受信コイル12は、X2方向側に配置されている。受信コイル11および12は、数mm~数cm程度の間隔を隔てて配置されている。
【0023】
励振コイル13は、ワイヤロープ101の磁化の状態を励振する。具体的には、励振コイル13に励振交流電流が流されることにより、励振コイル13の内部において、励振交流電流に基づいて発生する磁界がX方向に沿って印加されるように構成されている。
【0024】
検知コイル10は、一対の受信コイル11および12の差動信号を送信するように構成されている。具体的には、検知コイル10は、ワイヤロープ101の磁界の変化を検知して差動信号を送信するように構成されている。検知コイル10は、検査対象物であるワイヤロープ101のX方向の磁界の変化を検知して検知信号(電圧)を出力するように構成されている。すなわち、検知コイル10は、磁界印加部4によりY方向に磁界が印加されたワイヤロープ101に対して、Y方向に交差するX方向の磁界の変化を検知する。また、検知コイル10は、検知したワイヤロープ101のX方向の磁界の変化に基づく差動信号(電圧)を出力するように構成されている。また、検知コイル10は、励振コイル13によって発生する磁界の略全てが検知可能に(入力される様に)配置されている。
【0025】
ワイヤロープ101に欠陥(傷等)が存在する場合は、欠陥(傷等)のある部分でワイヤロープ101の全磁束(磁界に透磁率と面積とを掛けた値)が小さくなる。その結果、たとえば、受信コイル11が、欠陥(傷等)のある場所に位置する場合、受信コイル12を通る磁束量が受信コイル11と比較して変化するため、検知コイル10による検知電圧の差の絶対値(差動信号)が大きくなる。一方、欠陥(傷等)のない部分での差動信号は略ゼロとなる。このように、検知コイル10において、欠陥(傷等)の存在をあらわす明確な信号(S/N比の良い信号)が検知される。これにより、電子回路部2は、差動信号の値に基づいてワイヤロープ101の欠陥(傷等)の存在を検出することが可能である。
【0026】
(電子回路部の構成)
図3に示す電子回路部2の制御部21は、ワイヤロープ検査装置200の各部を制御するように構成されている。具体的には、制御部21は、CPU(中央処理装置)などのプロセッサ、メモリ、AD変換器などを含んでいる。
【0027】
制御部21は、検知コイル10から差動信号を受信して、ワイヤロープ101の状態を検知するように構成されている。また、制御部21は、励振コイル13を励振させる制御を行うように構成されている。また、制御部21は、通信部26を介して、ワイヤロープ101の状態の検知結果を外部装置300に送信するように構成されている。
【0028】
受信I/F22は、検知コイル10から差動信号を受信して、制御部21に送信するように構成されている。具体的には、受信I/F22は、増幅器を含んでいる。また、受信I/F22は、検知コイル10の差動信号を増幅して、制御部21に送信するように構成されている。記憶部23は、フラッシュメモリなどの記憶媒体を含み、情報を記憶するように構成されている。
【0029】
励振I/F24は、制御部21から制御信号を受信して、励振コイル13に対する電力の供給を制御するように構成されている。具体的には、励振I/F24は、制御部21からの制御信号に基づいて、電源回路25から励振コイル13への電力の供給を制御する。
【0030】
(ワイヤロープの傷みの種類の検出)
次に、
図5~
図13を参照して、ワイヤロープ101の傷みの種類の検出処理について説明する。
【0031】
本実施形態では、
図5に示すように、制御部21は、検知コイル10により取得した測定データ201に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている。制御部21は、ワイヤロープ101の傷みの種類として、素線断線、外圧による固定的変形(以下、単に「キンク」という)および素線の撚りの緩み(以下、単に「アヤ」という)を検出する制御を行うように構成されている。
【0032】
具体的には、まず、制御部21は、測定データ201に基づいて、測定データ201を平滑化処理したデータである平滑化データ202(スムージングデータ)を取得する制御を行う。具体的には、制御部21は、測定データ201をローパスフィルタにより平滑化処理することにより、平滑化データ202を取得する制御を行う。これにより、平滑化データ202として、ワイヤロープの傷みに伴うロープの変形により生じた揺らぎ成分(低周波成分)のデータが取得される。
【0033】
次に、制御部21は、取得した平滑化データ202に基づいて、測定データ201のベースライン203を取得する制御を行う。具体的には、制御部21は、測定データ201の波形と平滑化データ202の波形との交点202aを結ぶラインを、ベースライン203として取得する制御を行う。
【0034】
次に、制御部21は、取得したベースライン203に基づいて、測定データ201を補正する制御を行う。具体的には、制御部21は、測定データ201からベースライン203を減算する補正を行う。すなわち、制御部21は、測定データ201から低周波成分を減算する補正を行う。これにより、補正した測定データ201は、ワイヤロープの傷みに伴うロープの変形により生じた揺らぎ成分(低周波成分)を除いたデータが取得される。
【0035】
次に、制御部21は、補正した測定データ201に基づいて、ピーク波形204を取得する制御を行う。具体的には、制御部21は、補正した測定データ201において、ベースライン203に対して正の値を有する測定値群を正のピーク波形204として取得する制御を行う。また、制御部21は、補正した測定データ201において、ベースライン203に対して負の値を有する測定値群を負のピーク波形204として取得する制御を行う。制御部21は、正のピーク波形204と、負のピーク波形204とを区別して取得する制御を行う。ピーク波形204は、ベースライン203による補正時に除かれずに残った、ワイヤロープ101の傷みを示す波形成分などの測定データ201の高周波成分である。
【0036】
最後に、制御部21は、取得したピーク波形204に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行う。具体的には、制御部21は、ピーク波形204と、参照ピーク波形205(症例ピーク波形)との比較結果(後述する類似度206)、および、ピーク波形204を特定するパラメータ207(ピーク指標)に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行う。
【0037】
〈参照ピーク波形との比較に基づくワイヤロープの傷みの種類の検出〉
図6に示すように、制御部21は、ピーク波形204と、特定種類のワイヤロープ101の傷みを示す参照用の波形である参照ピーク波形205との比較結果に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行う。参照ピーク波形205は、ピーク波形204を取得する処理と同様の処理により、ワイヤロープ101の傷みの種類が既知の測定データ201である既知データから得られたピーク波形である。すなわち、参照ピーク波形205は、ワイヤロープ101の傷みの種類が既知の測定データ201である既知データに基づいて、既知データを平滑化処理したデータである平滑化データが取得されて、取得された既知データの平滑化データに基づいて、既知データのベースラインが取得されて、取得された既知データのベースラインに基づいて、既知データから取得されたピーク波形である。
【0038】
参照ピーク波形205は、記憶部23に予め記憶されている。記憶部23には、参照ピーク波形205として、素線断線を示す参照ピーク波形205a、キンクを示す参照ピーク波形205b、および、アヤを示す参照ピーク波形205cが記憶されている。なお、記憶部23に記憶される各傷み(素線断線、キンク、アヤ)の参照ピーク波形205の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。制御部21は、素線断線を示す参照ピーク波形205a、キンクを示す参照ピーク波形205b、および、アヤを示す参照ピーク波形205cの各々と、ピーク波形204との比較結果を取得する制御を行う。
【0039】
また、制御部21は、ピーク波形204と、参照ピーク波形205との比較結果として、ピーク波形204と、参照ピーク波形205との間の類似度206を取得する制御を行う。そして、制御部21は、取得した類似度206に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行う。
【0040】
この際、
図7に示すように、制御部21は、ピーク波形204を予め決められた数n分だけ分割して、予め決められた数n分の代表値P1~Pnを取得するとともに、取得したピーク波形204の予め決められた数n分の代表値P1~Pnと、参照ピーク波形205の予め決められた数n分の代表値SP1~SPnとに基づいて、類似度206を取得する制御を行う。予め決められた数nは、ピーク波形204を構成する測定値群の数よりも小さい数であれば特に限られないが、たとえば、7~9程度とすることができる。また、参照ピーク波形205の代表値SP1~SPnは、予め記憶部23に記憶させておくことができる。
【0041】
具体的には、
図8に示すように、制御部21は、類似度206として、代表値P1~Pnにより表されるピーク波形204のベクトルと、代表値SP1~SPnにより表される参照ピーク波形205のベクトルとのなす角度θのCOS値を取得する制御を行う。COS(θ)の値は、
図8に示す式により求めることができる。COS(θ)の値が大きいほど(すなわち、角度θが小さいほど)、類似度206が大きく、ピーク波形204と参照ピーク波形205との形が類似することを示す。また、COS(θ)の値が小さいほど(すなわち、角度θが大きいほど)、類似度206が小さく、ピーク波形204と参照ピーク波形205との形が類似しないことを示す。なお、COS(θ)は、類似度206の一例であり、類似度206の取得方法は、この方法には限られない。
【0042】
制御部21は、素線断線を示す参照ピーク波形205a(
図6参照)、キンクを示す参照ピーク波形205b(
図6参照)、および、アヤを示す参照ピーク波形205c(
図6参照)の各々と、ピーク波形204との間の類似度206を取得する制御を行う。この際、制御部21は、正負のピーク波形204の各々について、類似度206を取得する制御を行う。検知コイル10が差動コイルである場合、ワイヤロープ101の傷みを示す波形は、正負の一対のピーク波形を少なくとも含む波形となるためである。
【0043】
具体的には、ピーク波形204が正のピーク波形204である場合、素線断線を示す参照ピーク波形205aの正のピーク波形、キンクを示す参照ピーク波形205bの正のピーク波形、および、アヤを示す参照ピーク波形205cの正のピーク波形の各々と、ピーク波形204との間の類似度206が制御部21により取得される。同様に、ピーク波形204が負のピーク波形204である場合、素線断線を示す参照ピーク波形205aの負のピーク波形、キンクを示す参照ピーク波形205bの負のピーク波形、および、アヤを示す参照ピーク波形205cの負のピーク波形の各々と、ピーク波形204との間の類似度206が制御部21により取得される。正のピーク波形204および負のピーク波形204の両方において高類似度が得られた場合、ワイヤロープ101の傷みは高類似度が得られた参照ピーク波形205の傷みである可能性がある。
【0044】
また、本実施形態では、
図9に示すように、制御部21は、類似度が所定値よりも高い高類似度の、正のピーク波形204および負のピーク波形204を取得した場合、取得した正のピーク波形204および負のピーク波形204の出現順序に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行う。ワイヤロープ101の傷みの種類により、正のピーク波形204および負のピーク波形204の出現順序が異なる傾向があるためである。具体的には、正負のピーク波形204の出現順序が第1順序(
図9では、正、負の順)である場合、ワイヤロープ101の傷みの種類がキンクまたはアヤである可能性がある。また、正負のピーク波形204の出現順序が第1順序とは逆の順序である第2順序(
図9では、負、正の順)である場合、ワイヤロープ101の傷みの種類が素線断線である可能性がある。
【0045】
また、本実施形態では、
図10に示すように、制御部21は、類似度が所定値よりも高い高類似度の、正のピーク波形204および負のピーク波形204を取得した場合、取得した正のピーク波形204および負のピーク波形204の間のピーク波形204の数に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行う。ワイヤロープ101の傷みの種類により、正のピーク波形204および負のピーク波形204の間のピーク波形204の数が異なる傾向があるためである。具体的には、正負のピーク波形204の間のピーク波形204の数が予め決められたしきい値未満である場合(すなわち、0または少ない場合)、ワイヤロープ101の傷みの種類が素線断線またはキンクである可能性がある。また、正負のピーク波形204の間のピーク波形204の数が予め決められたしきい値以上である場合(すなわち、多い場合)、ワイヤロープ101の傷みの種類がアヤである可能性がある。予め決められたしきい値は、特に限られないが、たとえば、2とすることができる。ワイヤロープ101の傷みの種類が素線断線またはキンクである場合、正負のピーク波形204の間のピーク波形204の数が、0または1程度である場合が多いためである。
【0046】
〈パラメータに基づくワイヤロープの傷みの種類の検出〉
また、本実施形態では、
図11に示すように、制御部21は、ピーク波形204に基づいて、ピーク波形204を特定するパラメータ207を取得するとともに、取得したパラメータ207に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行う。
【0047】
具体的には、制御部21は、パラメータ207としての、ピーク波形204の幅207a、ピーク波形204の尖り207b、および、ピーク波形204のベースライン203の傾き207cに基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行う。ピーク波形204の幅207aは、たとえば、ピーク波形204のベースライン203の長さとすることができる。すなわち、ピーク波形204の幅207aは、たとえば、互いに隣接する、測定データ201の波形と平滑化データ202の波形との交点202aの間の長さとすることができる。ピーク波形204の尖り207bは、たとえば、ピーク波形204の幅207aに対するピーク波形204の高さ207dとすることができる。なお、ピーク波形204の高さ207dは、たとえば、ベースライン203からピークトップまでの長さとすることができる。ピーク波形204のベースライン203の傾き207cは、たとえば、測定データ201の時間軸に沿ったラインとベースライン203のなす角度とすることができる。
【0048】
図12に示すように、ワイヤロープ101の傷みの種類により、ピーク波形204の幅207aが異なる傾向がある。具体的には、ピーク波形204の幅207aが大きい場合、ワイヤロープ101の傷みの種類がアヤである可能性がある。また、ピーク波形204の幅207aが小さい場合、ワイヤロープ101の傷みの種類が素線断線またはキンクである可能性がある。なお、ピーク波形204の幅207aの大小は、たとえば、幅207a用のしきい値を設定して判断することができる。幅207a用のしきい値は、たとえば、参照ピーク波形205(205a~c)の幅に基づいて設定することができる。
【0049】
また、ワイヤロープ101の傷みの種類により、ピーク波形204の尖り207bが異なる傾向がある。具体的には、ピーク波形204の尖り207bが大きい場合、ワイヤロープ101の傷みの種類が素線断線またはキンクである可能性がある。また、ピーク波形204の尖り207bが小さい場合、ワイヤロープ101の傷みの種類がアヤである可能性がある。なお、ピーク波形204の尖り207bの大小は、たとえば、尖り207b用のしきい値を用いて判断することができる。尖り207b用のしきい値は、たとえば、参照ピーク波形205(205a~c)の尖りに基づいて設定することができる。
【0050】
また、ワイヤロープ101の傷みの種類により、ピーク波形204のベースライン203の傾き207cが異なる傾向がある。具体的には、ピーク波形204のベースライン203の傾き207cが大きい場合、ワイヤロープ101の傷みの種類がアヤである可能性がある。また、ピーク波形204のベースライン203の傾き207cが小さい場合、ワイヤロープ101の傷みの種類が素線断線またはキンクである可能性がある。なお、ピーク波形204のベースライン203の傾き207cの大小は、たとえば、傾き207c用のしきい値を用いて判断することができる。傾き207c用のしきい値は、たとえば、参照ピーク波形205(205a~c)のベースライン203の傾きに基づいて設定することができる。
【0051】
〈類似度およびパラメータに基づくワイヤロープの傷みの種類の検出〉
図13に示すように、制御部21は、類似度206、および、パラメータ207に基づいて、素線断線、キンクおよびアヤの各々について、傷みがその傷みである可能性を示す値である評価値を取得するとともに、取得した評価値に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行う。
【0052】
具体的には、まず、制御部21は、予め決められた評価手順に従って、素線断線、キンクおよびアヤの各々について、類似度206の大きさの評価値、正負のピーク波形204の出現順序の評価値、正負のピーク波形204の間のピーク波形204の数の評価値、ピーク波形204の幅207aの評価値、ピーク波形204の尖り207bの評価値、および、ピーク波形204のベースライン203の傾き207cの評価値を取得する制御を行う。そして、制御部21は、素線断線、キンクおよびアヤの各々について、複数の評価値の合計値を取得するとともに、取得した3つの合計値のうち、最も高い合計値を有する傷みを、ワイヤロープ101の傷みの種類として検出する制御を行う。また、制御部21は、ワイヤロープ101の傷みの種類の検出結果を、外部装置300に送信する制御を行う。
【0053】
そして、外部装置300の制御部302は、受信したワイヤロープ101の傷みの種類の検出結果を、表示部303に表示する制御を行う。これにより、ワイヤロープ検査システム100を使用する検査員は、ワイヤロープ101の傷みが、素線断線、キンクおよびアヤのいずれであるかを確認することができる。その結果、検査員は、ワイヤロープ101の傷みの種類に応じた保守作業を行うことができる。すなわち、検査員は、ワイヤロープ101の傷みが素線断線である場合、至急の対応を要すると判断したり、ワイヤロープ101の傷みがキンクである場合、至急の対応は必要ないが監視が必要であると判断したり、ワイヤロープ101の傷みがアヤである場合、観察が必要であると判断したりすることができる。
【0054】
(測定データの処理系)
次に、
図14および
図15(A)(B)を参照して、ワイヤロープ検査システム100のデータ処理系について説明する。
【0055】
図14に示すように、ワイヤロープ検査装置200は、検知コイル10により測定データ201を取得しつつ、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出可能に構成されている。すなわち、ワイヤロープ検査装置200は、リアルタイムに測定データ201を処理しつつ、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出可能に構成されている。
【0056】
具体的には、ワイヤロープ検査装置200は、入力制御器27と、第1メモリ28aと、第2メモリ28bと、メモリ切替器29とをさらに備えている。入力制御器27は、検知コイル10から測定データ201を受信して、第1メモリ28aまたは第2メモリ28bに送信する。第1メモリ28aおよび第2メモリ28bは、入力制御器27から受信した測定データ201を格納する。メモリ切替器29は、第1メモリ28aまたは第2メモリ28bから測定データ201を受信して、制御部21に送信する。制御部21は、メモリ切替器29から受信した測定データ201に基づいて、上記したワイヤロープ101の傷みの検出処理を行う。
【0057】
図15(A)(B)に示すように、ワイヤロープ検査装置200は、第1メモリ28aおよび第2メモリ28bのうちのいずれかに測定データ201を格納しつつ、第1メモリ28aおよび第2メモリ28bのうちの測定データ201を格納中ではない方に格納されている測定データ201を制御部21に送信して、ワイヤロープ101の傷みの種類の検出処理を行うように構成されている。
【0058】
具体的には、
図15(A)に示すように、第1メモリ28aに測定データ201を格納する場合、入力制御器27は、検知コイル10から受信した測定データ201を、第1メモリ28aに送信するように、データ経路を切り替える。この際、メモリ切替器29は、第2メモリ28bと、制御部21とを接続するように、データ経路を切り替える。これにより、第2メモリ28bに格納された測定データ201が、制御部21に送信される。そして、第1メモリ28aに予め決められた量の測定データ201が格納された場合、入力制御器27により、検知コイル10から受信した測定データ201が、第2メモリ28bに送信されるように、データ経路が切り替えられる。また、この際、メモリ切替器29により、第1メモリ28aと、制御部21とが接続されるように、データ経路が切り替えられる。
【0059】
また、
図15(B)に示すように、第2メモリ28bに測定データ201を格納する場合、入力制御器27は、検知コイル10から受信した測定データ201を、第2メモリ28bに送信するように、データ経路を切り替える。この際、メモリ切替器29は、第1メモリ28aと、制御部21とを接続するように、データ経路を切り替える。これにより、第1メモリ28aに格納された測定データ201が、制御部21に送信される。そして、第2メモリ28bに予め決められた量の測定データ201が格納された場合、入力制御器27により、検知コイル10から受信した測定データ201が、第1メモリ28aに送信されるように、データ経路が切り替えられる。また、この際、メモリ切替器29により、第2メモリ28bと、制御部21とが接続されるように、データ経路が切り替えられる。このように、第1メモリ28aおよび第2メモリ28bは、検知コイル10からの測定データ201の格納中は、制御部21への測定データ201の送信をしない。
【0060】
これらの結果、制御部21は、第1メモリ28aまたは第2メモリ28bに格納された測定データ201を順次受信しつつ、ワイヤロープ101の傷みの種類の検出処理を順次行うことができる。また、制御部21は、ワイヤロープ101の傷みの種類の検出を順次外部装置300に送信する制御を行う。そして、外部装置300の制御部302は、受信したワイヤロープ101の傷みの種類の検出結果を、表示部303に順次表示する制御を行う。
【0061】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0062】
本実施形態では、上記のように、ベースライン203に基づいて、測定データ201からピーク波形204が取得されるとともに、ピーク波形204に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類が検出される。これにより、ワイヤロープ101の傷みの有無だけでなく、ワイヤロープ101の傷みの種類も検出して、検査員に通知することができる。その結果、検査員が測定データ201を確認してワイヤロープ101の傷みの種類を判定する必要がないので、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出することにより、ワイヤロープ101の保守作業の支援を効果的に行うことができる。また、上記のように、ベースライン203に基づいて、測定データ201からピーク波形204が取得されることにより、ベースライン203に基づかずにピーク波形204が取得される場合と異なり、ワイヤロープ101の傷みに伴い発生するワイヤロープ101の変形による低周波成分が低減された正確なピーク波形204を取得することができる。その結果、ワイヤロープ101の傷みに伴い発生するワイヤロープ101の変形による低周波成分が低減された正確なピーク波形204に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を容易に検出することができる。
【0063】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、ベースライン203に対して、正の値を有する測定値群、および、ベースライン203に対して、負の値を有する測定値群を、ピーク波形204として取得する制御を行うように構成する。これにより、ワイヤロープ101の傷みに伴い発生するワイヤロープ101の変形による低周波成分が低減された正確な正のピーク波形204および負のピーク波形204の両方を取得することができる。その結果、ワイヤロープ101の傷みに伴い発生するワイヤロープ101の変形による低周波成分が低減された正確な正のピーク波形204および負のピーク波形204の両方に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類をより容易に検出することができる。
【0064】
また、本実施形態では、上記のように、ワイヤロープ検査システム100を、参照ピーク波形205が記憶された記憶部23を備えるように構成する。また、制御部21を、ピーク波形204と、参照ピーク波形205との比較結果に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行うように構成する。これにより、ピーク波形204と、傷みの特徴を良く示す参照ピーク波形205との比較結果に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出することができるので、ワイヤロープ101の傷みの種類を正確に検出することができる。
【0065】
また、本実施形態では、上記のように、参照ピーク波形205を、ワイヤロープ101の傷みの種類が既知の測定データ201である既知データに基づいて、既知データの平滑化データが取得されて、取得された既知データの平滑化データに基づいて、既知データのベースラインが取得されて、取得された既知データのベースラインに基づいて、既知データから取得されたピーク波形であるように構成する。これにより、ピーク波形204を取得する処理と同様の処理により取得された参照ピーク波形205と、ピーク波形204とを比較することができるので、ピーク波形204と、参照ピーク波形205とを容易に比較することができる。
【0066】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、ピーク波形204と、参照ピーク波形205との比較結果として、ピーク波形204と、参照ピーク波形205との間の類似度206を取得するとともに、取得した類似度206に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行うように構成する。これにより、ピーク波形204と、参照ピーク波形205との間の相関を良く示す類似度206に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出することができるので、ワイヤロープ101の傷みの種類をより正確に検出することができる。
【0067】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、ピーク波形204を予め決められた数n分だけ分割して、予め決められた数n分の代表値P1~Pnを取得するとともに、取得したピーク波形204の予め決められた数n分の代表値P1~Pnと、参照ピーク波形205の予め決められた数n分の代表値SP1~SPnとに基づいて、類似度206を取得する制御を行うように構成する。これにより、ピーク波形204を予め決められた数n分の代表値P1~Pnに圧縮した状態で、ピーク波形204と、参照ピーク波形205との類似度206を取得することができるので、類似度206を取得する処理の処理負荷の低減を図ることができる。
【0068】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、類似度206が所定値よりも高い高類似度の、正のピーク波形204および負のピーク波形204を取得した場合、取得した正のピーク波形204および負のピーク波形204の出現順序に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行うように構成する。これにより、ワイヤロープ101の傷みの種類により、正のピーク波形204および負のピーク波形204の出現順序が異なることを利用して、ワイヤロープ101の傷みの種類を容易に検出することができる。
【0069】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、類似度206が所定値よりも高い高類似度の、正のピーク波形204および負のピーク波形204を取得した場合、取得した正のピーク波形204および負のピーク波形204の間のピーク波形204の数に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行うように構成する。これにより、ワイヤロープ101の傷みの種類により、正のピーク波形204および負のピーク波形204の間のピーク波形204の数が異なることを利用して、ワイヤロープ101の傷みの種類を容易に検出することができる。
【0070】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、ピーク波形204に基づいて、ピーク波形204を特定するパラメータ207を取得するとともに、取得したパラメータ207に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行うように構成する。これにより、ピーク波形204の形状を示すパラメータ207に基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出することができるので、ワイヤロープ101の傷みの種類により、ピーク波形204の形状が異なることを利用して、ワイヤロープ101の傷みの種類を正確に検出することができる。
【0071】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、パラメータ207としての、ピーク波形204の幅207a、ピーク波形204の尖り207b、および、ピーク波形204のベースライン203の傾き207cに基づいて、ワイヤロープ101の傷みの種類を検出する制御を行うように構成する。これにより、ワイヤロープ101の傷みの種類により、ピーク波形204の幅207a、ピーク波形204の尖り207b、および、ピーク波形204のベースライン203の傾き207cが異なることを利用して、ワイヤロープ101の傷みの種類を容易かつ正確に検出することができる。
【0072】
また、本実施形態では、上記のように、制御部21を、ワイヤロープ101の傷みの種類として、素線断線、外圧による固定的変形(キンク)および素線の撚りの緩み(アヤ)を検出する制御を行うように構成する。これにより、ワイヤロープ101に発生しやすい傷みである、素線断線、外圧による固定的変形(キンク)および素線の撚りの緩み(アヤ)を検出することができるので、ワイヤロープ101の傷みの種類の検出を効果的に行うことができる。
【0073】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく、請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0074】
たとえば、上記実施形態では、ワイヤロープがエレベータに使用された例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ワイヤロープが、クレーン、吊り橋およびロボットなどのエレベータ以外の構成に使用されてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、ワイヤロープ検査システムのワイヤロープ検査装置が、ワイヤロープの傷みの種類の検出制御を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ワイヤロープ検査システムの外部装置が、ワイヤロープの傷みの種類の検出制御を行ってもよい。この場合、たとえば、外部装置の制御部が、検知コイルにより取得した測定データに基づいて、測定データの平滑化データを取得して、取得した平滑化データに基づいて、測定データのベースラインを取得して、取得したベースラインに基づいて、測定データからピーク波形を取得して、取得したピーク波形に基づいて、ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成すればよい。
【0076】
また、上記実施形態では、検知コイルが、一対の受信コイルを有する差動コイルである例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検知コイルが、単一のコイルにより構成されていてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、ワイヤロープの傷みの種類として、素線断線、外圧による固定的変形(キンク)および素線の撚りの緩み(アヤ)の3種類が検出される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ワイヤロープの傷みの種類として、素線断線、外圧による固定的変形(キンク)および素線の撚りの緩み(アヤ)のうちのいずれか1つまたは2つが検出されてもよい。また、ワイヤロープの傷みの種類として、素線断線、外圧による固定的変形(キンク)および素線の撚りの緩み(アヤ)以外の傷みが検出されてもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、類似度およびパラメータの両方に基づいて、評価値が取得されるとともに、取得された評価値に基づいて、ワイヤロープの傷みの種類が検出される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、類似度およびパラメータのうちのいずれか一方のみに基づいて、評価値が取得されるとともに、取得された評価値に基づいて、ワイヤロープの傷みの種類が検出されてもよい。また、本発明では、ワイヤロープの傷みの種類を検出するために、必ずしも評価値が取得される必要はない。すなわち、評価値が取得されることなく、類似度およびパラメータのうちの少なくともいずれか一方に基づいて、ワイヤロープの傷みの種類が検出されてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、類似度が取得される場合に、ピーク波形が予め決められた数分だけ分割される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、類似度が取得される場合に、必ずしもピーク波形が予め決められた数分だけ分割されなくてもよい。すなわち、ピーク波形が予め決められた数分だけ分割されることなく、ピーク波形と、参照ピーク波形との類似度が取得されてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、類似度に基づいてワイヤロープの傷みの種類が検出される場合に、類似度の大きさ、高類似度の正のピーク波形および負のピーク波形の出現順序、および、高類似度の正のピーク波形および負のピーク波形の間のピーク波形の数に基づいて、ワイヤロープの傷みの種類が検出される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、類似度に基づいてワイヤロープの傷みの種類が検出される場合に、類似度の大きさ、高類似度の正のピーク波形および負のピーク波形の出現順序、および、高類似度の正のピーク波形および負のピーク波形の間のピーク波形の数のうちのいずれか1つまたは2つに基づいて、ワイヤロープの傷みの種類が検出されてもよい。また、類似度に基づいてワイヤロープの傷みの種類が検出される場合に、類似度の大きさ、高類似度の正のピーク波形および負のピーク波形の出現順序、および、高類似度の正のピーク波形および負のピーク波形の間のピーク波形の数以外に基づいて、ワイヤロープの傷みの種類が検出されてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、パラメータに基づいてワイヤロープの傷みの種類が検出される場合に、ピーク波形の幅、ピーク波形の尖り、および、ピーク波形のベースラインの傾きに基づいて、ワイヤロープの傷みの種類が検出される例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、パラメータに基づいてワイヤロープの傷みの種類が検出される場合に、ピーク波形の幅、ピーク波形の尖り、および、ピーク波形のベースラインの傾きのうちのいずれか1つまたは2つに基づいて、ワイヤロープの傷みの種類が検出されてもよい。また、パラメータに基づいてワイヤロープの傷みの種類が検出される場合に、ピーク波形の幅、ピーク波形の尖り、および、ピーク波形のベースラインの傾き以外に基づいて、ワイヤロープの傷みの種類が検出されてもよい。
【0082】
[態様]
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0083】
(項目1)
ワイヤロープの磁界の変化を検知する検知コイルと、
前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、前記検知コイルにより取得した測定データに基づいて、前記測定データを平滑化処理したデータである平滑化データを取得して、取得した前記平滑化データに基づいて、前記測定データのベースラインを取得して、取得した前記ベースラインに基づいて、前記測定データからピーク波形を取得して、取得した前記ピーク波形に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、ワイヤロープ検査システム。
【0084】
(項目2)
前記制御部は、前記ベースラインに対して、正の値を有する測定値群、および、前記ベースラインに対して、負の値を有する測定値群を、前記ピーク波形として取得する制御を行うように構成されている、項目1に記載のワイヤロープ検査システム。
【0085】
(項目3)
参照ピーク波形が記憶された記憶部をさらに備え、
前記制御部は、前記ピーク波形と、前記参照ピーク波形との比較結果に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、項目1または2に記載のワイヤロープ検査システム。
【0086】
(項目4)
前記参照ピーク波形は、前記ワイヤロープの傷みの種類が既知の測定データである既知データに基づいて、前記既知データを平滑化処理したデータである平滑化データが取得されて、取得された前記既知データの平滑化データに基づいて、前記既知データのベースラインが取得されて、取得された前記既知データのベースラインに基づいて、前記既知データから取得されたピーク波形である、項目3に記載のワイヤロープ検査システム。
【0087】
(項目5)
前記制御部は、前記ピーク波形と、前記参照ピーク波形との比較結果として、前記ピーク波形と、前記参照ピーク波形との間の類似度を取得するとともに、取得した前記類似度に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、項目3または4に記載のワイヤロープ検査システム。
【0088】
(項目6)
前記制御部は、前記ピーク波形を予め決められた数分だけ分割して、予め決められた数分の代表値を取得するとともに、取得した前記ピーク波形の予め決められた数分の代表値と、前記参照ピーク波形の予め決められた数分の代表値とに基づいて、前記類似度を取得する制御を行うように構成されている、項目5に記載のワイヤロープ検査システム。
【0089】
(項目7)
前記制御部は、前記類似度が所定値よりも高い高類似度の、正の前記ピーク波形および負の前記ピーク波形を取得した場合、取得した正の前記ピーク波形および負の前記ピーク波形の出現順序に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、項目4~6のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【0090】
(項目8)
前記制御部は、前記類似度が所定値よりも高い高類似度の、正の前記ピーク波形および負の前記ピーク波形を取得した場合、取得した正の前記ピーク波形および負の前記ピーク波形の間の前記ピーク波形の数に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、項目4~7のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【0091】
(項目9)
前記制御部は、前記ピーク波形に基づいて、前記ピーク波形を特定するパラメータを取得するとともに、取得した前記パラメータに基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、項目1~8のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【0092】
(項目10)
前記制御部は、前記パラメータとしての、前記ピーク波形の幅、前記ピーク波形の尖り、および、前記ピーク波形の前記ベースラインの傾きのうちの少なくともいずれか1つに基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出する制御を行うように構成されている、項目9に記載のワイヤロープ検査システム。
【0093】
(項目11)
前記制御部は、前記ワイヤロープの傷みの種類として、素線断線、外圧による固定的変形および素線の撚りの緩みのうちの少なくともいずれか1つを検出する制御を行うように構成されている、項目1~10のいずれか1項に記載のワイヤロープ検査システム。
【0094】
(項目12)
ワイヤロープの磁界の変化を検知するステップと、
前記ワイヤロープの磁界の変化を検知して取得した測定データに基づいて、前記測定データを平滑化処理したデータである平滑化データを取得するステップと、
前記平滑化データに基づいて、前記測定データのベースラインを取得するステップと、
前記ベースラインに基づいて、前記測定データからピーク波形を取得するステップと、
前記ピーク波形に基づいて、前記ワイヤロープの傷みの種類を検出するステップと、を備える、ワイヤロープ検査方法。
【符号の説明】
【0095】
10 検知コイル
21 制御部
23 記憶部
100 ワイヤロープ検査システム
101 ワイヤロープ
201 測定データ
202 平滑化データ
203 ベースライン
204 ピーク波形
205、205a~c 参照ピーク波形
206 類似度
207 パラメータ
207a ピーク波形の幅
207b ピーク波形の尖り
207c ピーク波形のベースラインの傾き
n 予め決められた数
P1~Pn ピーク波形の予め決められた数分の代表値
SP1~SPn 参照ピーク波形の予め決められた数分の代表値