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特許7107465不融化ポリフェニレンエーテル繊維、不融化ポリフェニレンエーテル成形体、炭素繊維、活性炭素繊維、炭素繊維成形体、活性炭素繊維成形体、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】不融化ポリフェニレンエーテル繊維、不融化ポリフェニレンエーテル成形体、炭素繊維、活性炭素繊維、炭素繊維成形体、活性炭素繊維成形体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/24 20060101AFI20220720BHJP
【FI】
D01F9/24
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022511889
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011099
(87)【国際公開番号】W WO2021200223
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020061728
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020122455
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 武将
(72)【発明者】
【氏名】安井 章文
(72)【発明者】
【氏名】小城 優相
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-013431(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093357(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 9/08 - 9/32
C01B 32/00 - 32/39
B29C 71/04
C08J 7/00 - 7/02
C08J 7/12 - 7/18
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
B01J 20/00 - 20/28
B01J 20/30 - 20/34
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外分光法による測定で、C=O伸縮振動に由来する波数1694cm-1の吸光度高さAとベンゼン環の炭素と炭素間の伸縮による骨格振動に由来する波数1600cm-1の吸光度高さBとの吸光度高さ比(A/B)が0.25以上であり、かつC=O伸縮振動に由来する波数1661cm-1の吸光度高さCとベンゼン環の炭素と炭素間の伸縮による骨格振動に由来する波数1600cm-1の吸光度高さBとの吸光度高さ比(C/B)が0.75以下である不融化ポリフェニレンエーテル繊維。
【請求項2】
燃焼法による元素分析で、酸素原子含有量が16.5質量%以上30質量%以下である請求項1に記載の不融化ポリフェニレンエーテル繊維。
【請求項3】
繊維径が15μm以上200μm以下である請求項1又は2に記載の不融化ポリフェニレンエーテル繊維。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル繊維を含む不融化ポリフェニレンエーテル成形体。
【請求項5】
前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体は、不融化ポリフェニレンエーテル不織布である請求項4に記載の不融化ポリフェニレンエーテル成形体。
【請求項6】
300℃における乾熱収縮率が40%以下である請求項4又は5に記載の不融化ポリフェニレンエーテル成形体。
【請求項7】
900℃における乾熱収縮率が60%以下である請求項4~6のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル成形体。
【請求項8】
請求項1~3のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル繊維、又は請求項1~3のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル繊維が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、が炭素化された炭素繊維。
【請求項9】
請求項1~3のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル繊維、請求項1~3のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル繊維が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、又は請求項8に記載の炭素繊維が賦活された活性炭素繊維。
【請求項10】
請求項4~7のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル成形体、又は請求項4~7のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル成形体が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、が炭素化された炭素繊維成形体。
【請求項11】
請求項4~7のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル成形体、又は請求項4~7のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル成形体が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、又は請求項10に記載の炭素繊維成形体が賦活された活性炭素繊維成形体。
【請求項12】
請求項1~3のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル繊維、請求項1~3のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル繊維が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、を炭素化する工程を含む炭素繊維の製造方法。
【請求項13】
請求項1~3のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル繊維、請求項1~3のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル繊維が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、又は請求項8に記載の炭素繊維を賦活する工程を含む活性炭素繊維の製造方法。
【請求項14】
請求項4~7のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル成形体、又は請求項4~7のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル成形体が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、を炭素化する工程を含む炭素繊維成形体の製造方法。
【請求項15】
請求項4~7のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル成形体、請求項4~7のいずれかに記載の不融化ポリフェニレンエーテル成形体が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、又は請求項10に記載の炭素繊維成形体を賦活する工程を含む活性炭素繊維成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外分光法で検出可能な特定の化学構造を有する不融化ポリフェニレンエーテル繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維等を炭素化した炭素繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維等を賦活した活性炭素繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維を含む不融化ポリフェニレンエーテル成形体、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体等を炭素化した炭素繊維成形体、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体等を賦活した活性炭素繊維成形体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール系繊維は、耐熱性、難燃性及び耐薬品性に優れていることから、産業資材分野をはじめ、幅広い分野で利用されている。また、フェノール系繊維を炭素化することにより得られるフェノール系炭素繊維、及びフェノール系繊維を炭素化した後、賦活することにより得られるフェノール系活性炭素繊維は、特定の分野において機能性材料として用いられている。
【0003】
フェノール系繊維(ノボロイド繊維)は、一般的に、ノボラック型フェノール樹脂を溶融紡糸し、その後、酸性触媒下でアルデヒド類と反応させて三次元架橋して不融化することにより製造されている。
【0004】
また、特許文献1では、フェノール樹脂と脂肪酸アミド類とを混合する原料混合工程と、前記原料混合工程で得られた原料混合物を紡糸して糸條を得る紡糸工程とを有するフェノール系繊維の製造方法により製造されたフェノール系繊維を、炭素化することを特徴とするフェノール系炭素繊維の製造方法、及び前記方法により製造されたフェノール系炭素繊維を賦活することを特徴とするフェノール系活性炭素繊維の製造方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、ポリフェニレンオキシドを原料として得られた繊維を150℃~300℃の温度範囲において不融化処理を行い、次いでさらに高温において不可性ガス雰囲気中あるいは真空中で焼成することを特徴とする炭素質繊維の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-52283号公報
【文献】特開昭49-013431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フェノール系繊維は、炭素繊維又は活性炭素繊維の前駆体となる有用な物質であるが、フェノール系繊維の製造には有害なアルデヒド類が用いられており、アルデヒド類の使用は人体や環境に悪影響を及ぼすという問題がある。そのため、フェノール系繊維に替わる新たな前駆体の開発が求められる。
【0008】
また、フェノール系繊維をフィルター等の用途に使用する場合、圧力損失を低減させるために繊維直径が太い(太径化)フェノール系繊維が求められる。しかし、アルデヒド類を用いて硬化(三次元架橋して不融化)したフェノール系繊維は、可とう性に乏しく、極めて脆い。そのため、フェノール系繊維を太径化した場合、織布、不織布、フェルト等の作製や紡績に必要とされる機械的強度(特に繊維強度と繊維伸度)が不足し、加工性が悪くなるという問題がある。
【0009】
特許文献1では、フェノール系繊維を太径化した際の機械的強度を向上させるために、フェノール樹脂に脂肪酸アミド類を混合している。
【0010】
しかし、脂肪酸アミド類を含むフェノール系繊維は、燃焼時、炭素化処理時、又は賦活処理時にHCN及びNOx等の有害な分解ガスが発生するという問題がある。
【0011】
また、特許文献2に記載の炭素質繊維の製造方法では、ポリフェニレンオキシドを原料として得られた繊維を不融化処理した際の乾熱収縮率が大きいため、加工性が悪いという問題や、繊維同士の融着が生じるという問題がある。
【0012】
本発明は、耐熱性に優れ、太径化した場合でも機械的強度及び加工性に優れており、燃焼時に有害な分解ガスが発生することのない不融化ポリフェニレンエーテル繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維等を炭素化した炭素繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維等を賦活した活性炭素繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維を含む不融化ポリフェニレンエーテル成形体、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体等を炭素化した炭素繊維成形体、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体等を賦活した活性炭素繊維成形体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、赤外分光法で検出可能な特定の化学構造を有する不融化ポリフェニレンエーテル繊維により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、赤外分光法による測定で、C=O伸縮振動に由来する波数1694cm-1の吸光度高さAとベンゼン環の炭素と炭素間の伸縮による骨格振動に由来する波数1600cm-1の吸光度高さBとの吸光度高さ比(A/B)が0.25以上であり、かつC=O伸縮振動に由来する波数1661cm-1の吸光度高さCとベンゼン環の炭素と炭素間の伸縮による骨格振動に由来する波数1600cm-1の吸光度高さBとの吸光度高さ比(C/B)が0.75以下である不融化ポリフェニレンエーテル繊維、に関する。
【0015】
前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、燃焼法による元素分析で、酸素原子含有量が16.5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0016】
前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、繊維径が15μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維を含む不融化ポリフェニレンエーテル成形体、に関する。
【0018】
前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体は、不融化ポリフェニレンエーテル不織布であることが好ましい。
【0019】
前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体は、300℃における乾熱収縮率が40%以下であることが好ましい。
【0020】
前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体は、900℃における乾熱収縮率が60%以下であることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維、又は前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、が炭素化された炭素繊維、に関する。
【0022】
また、本発明は、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、又は前記炭素繊維が賦活された活性炭素繊維、に関する。
【0023】
また、本発明は、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体、又は前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、が炭素化された炭素繊維成形体、に関する。
【0024】
また、本発明は、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体、又は前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、又は前記炭素繊維成形体が賦活された活性炭素繊維成形体、に関する。
【0025】
また、本発明は、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、を炭素化する工程を含む炭素繊維の製造方法、に関する。
【0026】
また、本発明は、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、又は前記炭素繊維を賦活する工程を含む活性炭素繊維の製造方法、に関する。
【0027】
また、本発明は、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体、又は前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、を炭素化する工程を含む炭素繊維成形体の製造方法、に関する。
【0028】
また、本発明は、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体が耐炎化された耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、又は前記炭素繊維成形体を賦活する工程を含む活性炭素繊維成形体の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、赤外分光法による測定で、C=O伸縮振動に由来する波数1694cm-1の吸光度高さAとベンゼン環の炭素と炭素間の伸縮による骨格振動に由来する波数1600cm-1の吸光度高さBとの吸光度高さ比(A/B)が0.25以上、かつC=O伸縮振動に由来する波数1661cm-1の吸光度高さCとベンゼン環の炭素と炭素間の伸縮による骨格振動に由来する波数1600cm-1の吸光度高さBとの吸光度高さ比(C/B)が0.75以下であり、C=O構造を特定量有するものである。本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、前記特定の化学構造を有するため、耐熱性に優れており、また太径化した場合でも機械的強度及び加工性に優れている。また、本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、燃焼時に有害な分解ガスが発生しないという利点がある。また、本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、その製造において、人体や環境に悪影響を及ぼすアルデヒド類等の有害物質を使用する必要がないという利点がある。本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、フェノール系繊維に替わる、優れた吸着性能及び物理特性を有する炭素繊維又は活性炭素繊維の新たな前駆体として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明で使用するポリフェニレンエーテル溶融紡糸繊維の製造方法の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1.不融化ポリフェニレンエーテル繊維
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、赤外分光法による測定で、第一のC=O伸縮振動に由来する波数1694cm-1の吸光度高さAとベンゼン環の炭素と炭素間の伸縮による骨格振動に由来する波数1600cm-1の吸光度高さBとの吸光度高さ比(A/B)が0.25以上である。
【0032】
第一のC=O伸縮振動に由来する波数1694cm-1のピークは、ポリフェニレンエーテル繊維を不融化処理することにより形成される。なお、本発明においては、第一のC=O伸縮振動に由来するピークやベンゼン環の炭素と炭素間の伸縮による骨格振動に由来するピークは、赤外分光法による測定誤差を考慮して、それぞれ、波長1694±10cm-1、1600±10cm-1の範囲のピークとする。
【0033】
前記吸光度高さ比(A/B)は、耐熱性、機械的強度及び加工性を向上させる観点から、好ましくは0.35以上、より好ましくは0.55以上である。前記吸光度高さ比の上限値は特に限定されないが、機械的強度及び繊維の柔軟性保持の観点から、好ましくは1.20以下、より好ましくは0.90以下、さらに好ましくは0.80以下、さらに好ましくは0.70以下である。
【0034】
また、本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、赤外分光法による測定で、第二のC=O伸縮振動に由来する波数1660cm-1の吸光度高さCとベンゼン環の炭素と炭素間の伸縮による骨格振動に由来する波数1600cm-1の吸光度高さBとの吸光度高さ比(C/B)が0.75以下である。
【0035】
第二のC=O伸縮振動に由来する波数1660cm-1のピークは、ポリフェニレンエーテル繊維を不融化処理することにより形成される。なお、本発明においては、第二のC=O伸縮振動に由来するピークは、赤外分光法による測定誤差を考慮して、波長1660±10cm-1の範囲のピークとする。
【0036】
前記吸光度高さ比(C/B)は、繊維や成形体の柔軟性保持や加工性を向上させる観点から、好ましくは0.70以下、より好ましくは0.55以下である。前記吸光度高さ比の下限値は特に限定されないが、耐熱性、機械的強度および加工性を向上させる観点から、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.30以上、さらに好ましくは0.35以上である。
【0037】
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、十分な不融化効果を得る観点、及び耐熱性、機械的強度及び加工性を向上させる観点から、燃焼法による元素分析で、酸素原子含有量が16.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは17.5質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。また、酸素原子含有量の上限値は、繊維の機械的強度を向上させる観点、繊維の柔軟性を保持する観点、及び耐炎化繊維、炭素繊維又は活性炭素繊維の前駆体として好適な繊維を得る観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは28質量%以下、さらに好ましくは25以下である。
【0038】
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維の繊維径は特に限定されないが、200μm以下であることが好ましく、より好ましくは140μm以下、さらに好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下である。繊維径が前記範囲にあることで、織物、編物、不織布など、様々な形状に加工することができる。また、繊維径の下限値は特に限定されないが、太径化の観点から、好ましくは15μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは40μm以上である。
【0039】
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、耐熱性を向上させる観点から、150℃から300℃に昇温した際の重量減少率が7%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下である。また、前記重量減少率は、通常-5%以上であり、-3%以上、-2%以上、又は-1%以上の場合もある。
【0040】
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、耐熱性及び炭素化収率を向上させる観点から、150℃から900℃に昇温した際の重量減少率が70%以下であることが好ましく、より好ましくは65%以下、さらに好ましくは60%以下である。また、前記重量減少率は、通常20%以上であり、30%以上、又は40%以上の場合もある。
【0041】
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維の引張強度は特に限定されないが、機械的強度及び加工性を向上させる観点から、好ましくは0.3cN/dtex以上、より好ましくは0.6cN/dtex以上であり、好ましくは50cN/dtex以下、より好ましくは30cN/dtex以下である。
【0042】
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維の破断伸度は特に限定されないが、機械的強度及び加工性を向上させる観点から、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であり、好ましくは160%以下、より好ましくは130%以下である。
【0043】
2.不融化ポリフェニレンエーテル成形体
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル成形体は、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維を含むものである。不融化ポリフェニレンエーテル成形体としては、例えば、不融化ポリフェニレンエーテル織物、不融化ポリフェニレンエーテル編物、及び不融化ポリフェニレンエーテル不織布などが挙げられる。これらのうち、不融化ポリフェニレンエーテル不織布が好ましい。不融化ポリフェニレンエーテル不織布は、長繊維不織布であってもよく、短繊維不織布であってもよいが、生産工程数の削減及び製造する炭素繊維又は活性炭素繊維の物理特性の観点から、長繊維不織布であることが好ましい。
【0044】
不融化ポリフェニレンエーテル成形体(例えば、不織布など)の目付は特に限定されず、用途に応じて適宜決定できるが、加工性、製造する炭素繊維又は活性炭素繊維の吸着特性及び物理特性の観点から、好ましくは20g/m以上、より好ましくは50g/m以上、さらに好ましくは200g/m以上であり、好ましくは1200g/m以下、より好ましくは900g/m以下、さらに好ましくは500g/m以下である。
【0045】
不融化ポリフェニレンエーテル成形体(例えば、不織布など)の厚さは特に限定されず、用途に応じて適宜決定できるが、加工性、製造する炭素繊維又は活性炭素繊維の吸着特性及び物理特性の観点から、好ましくは0.1~12.0mmであり、より好ましくは0.2~6.0mmである。
【0046】
不融化ポリフェニレンエーテル成形体(例えば、不織布など)の300℃における乾熱収縮率は、形状安定性の観点から、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下である。また、前記乾熱収縮率の下限値は特に限定されないが、通常0%以上であり、5%以上、又は10%以上の場合もある。
【0047】
不融化ポリフェニレンエーテル成形体(例えば、不織布など)の900℃における乾熱収縮率は、形状安定性の観点から、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。また、前記乾熱収縮率の下限値は特に限定されないが、通常10%以上であり、20%以上、25%以上、又は30%以上の場合もある。
【0048】
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維又は不融化ポリフェニレンエーテル成形体は、ポリフェニレンエーテル繊維又はポリフェニレンエーテル成形体(例えば、織物、編物、不織布など)に不融化処理を施したものである。以下、不融化処理を施すポリフェニレンエーテル繊維、及び不融化処理を施すポリフェニレンエーテル成形体を代表してポリフェニレンエーテル不織布について説明する。
【0049】
3.ポリフェニレンエーテル繊維及びポリフェニレンエーテル不織布
本発明で用いるポリフェニレンエーテル繊維及びポリフェニレンエーテル不織布は、ポリフェニレンエーテル成分を含むものである。
【0050】
前記ポリフェニレンエーテル成分としては、特に限定されるものではなく、本分野において通常用いられているものを挙げることができる。具体的には、下記一般式(1):
【化1】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基であり、Rは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基を表す)
で表される繰り返し単位を有する単独重合体、又は異なる2種以上の一般式(1)の繰り返し単位を含有する共重合体や、前記一般式(1)の繰り返し単位と一般式(1)以外の繰り返し単位を有する共重合体を挙げることができる。
【0051】
前記一般式(1)中のR、Rとしては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等の炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等の炭素数6~10のアリール基、ベンジル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルエチル基等の炭素数7~10のアラルキル基等も挙げることができる。
【0052】
前記炭化水素基が置換基を有する場合、その置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子、メトキシ基等のアルコキシ基等が挙げられる。置換基を有する炭化水素基の具体例としては、例えば、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。
【0053】
これらの中でも、R、Rとしては、水素原子、メチル基が好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0054】
前記一般式(1)中のRとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等の炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、4-メチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等の炭素数6~10のアリール基、ベンジル基、2-フェニルエチル基、1-フェニルエチル基等の炭素数7~10のアラルキル基等も挙げることができる。
【0055】
前記炭化水素基が置換基を有する場合、その置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子、メトキシ基等のアルコキシ基が挙げられる。置換基を有する炭化水素基の具体例としては、例えば、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。
【0056】
これらの中でも、Rとしては、メチル基が好ましい。
【0057】
前記一般式(1)の繰り返し単位としては、具体的には、2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル、2,6-ジエチル-1,4-フェニレンエーテル、2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル、2,6-ジプロピル-1,4-フェニレンエーテルから誘導される繰り返し単位を挙げることができる。これらの中でも、2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテルから誘導される繰り返し単位が好ましい。
【0058】
また、前記ポリフェニレンエーテルは、本発明の効果を損なわない範囲で、前記一般式(1)以外の繰り返し単位を含むことができる。このような一般式(1)以外の繰り返し単位の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、例えば、前記共重合体中に5モル%以下程度であることが好ましく、含まないことがより好ましい。
【0059】
前記ポリフェニレンエーテルの分子量は特に限定されるものではないが、重量平均分子量(Mw)が40,000~100,000であることが好ましく、50,000~80,000であることがより好ましい。また、数平均分子量(Mn)は、7,000~30,000であることが好ましく、8,000~20,000であることがより好ましい。また、分子量分散(Mw/Mn)は、3.5~8.0であることが好ましく、4.0~6.0であることがより好ましい。
【0060】
ポリフェニレンエーテル繊維やその成形体を得る方法としては、例えば、ポリフェニレンエーテルを溶融する工程を有する方法(例えば、溶融紡糸等)や、ポリフェニレンエーテルを有機溶剤に溶解させる工程を有する方法(例えば、乾式紡糸や湿式防止等)を挙げることができる。
【0061】
<ポリフェニレンエーテル成分以外の成分>
本発明で用いるポリフェニレンエーテル繊維及びポリフェニレンエーテル不織布には、前記ポリフェニレンエーテル成分以外の樹脂成分を含むことができる。ポリフェニレンエーテル以外の樹脂成分としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド66、ポリアミド6T、ポリアミド6T/11等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリカーボネート等を挙げることができる。但し、その含有量は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、含まない(0質量%)ことがさらに好ましい。
【0062】
また、前記ポリフェニレンエーテル繊維及びポリフェニレンエーテル不織布には、本発明の効果を損なわない範囲で、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ダル剤、静電防止剤等の添加剤も添加することができる。
【0063】
<ポリフェニレンエーテルの含有量>
また、本発明で用いるポリフェニレンエーテル繊維において、ポリフェニレンエーテルの含有量が、繊維を形成する全成分中95質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましく、実質的にポリフェニレンエーテルのみ(100質量%)からなることがさらに好ましい。ポリフェニレンエーテル繊維における前記ポリフェニレンエーテルの含有量が前記範囲にあることで、優れた機械的強度及び加工性を得ることができる。
【0064】
<ポリフェニレンエーテル繊維の製造方法>
ポリフェニレンエーテル繊維は、溶融紡糸や乾式紡糸や湿式紡糸等の各種製造方法により製造することができる。これらの中でも、生産性が高くできること等から、溶融紡糸が好ましい。
【0065】
ポリフェニレンエーテル溶融紡糸繊維を製造する場合の一例を、図1を用いて説明する。原料であるポリフェニレンエーテルを図1のホッパー1からシリンダー及びスクリューを備えた押出機2に投入し、溶融したポリフェニレンエーテルはギアポンプ3により吐出速度を計量し、微細なサンドなどで構成された濾材4を通過して紡糸ノズル5から吐出されて、溶融紡糸繊維を得ることができる。また、濾材4上には、金属不織布などで構成されたフィルター6を設置することが好ましい。フィルター6を設置することで、あらかじ異物を除去することができ、前記濾材4の目詰まり等を防ぐことができるため好ましい。
【0066】
前記紡糸ノズルの孔径、前記紡糸ノズルの単孔吐出量、及び紡糸速度は、特に限定されるものではなく、求める繊度等に応じて適宜設定すればよい。
【0067】
原料であるポリフェニレンエーテルとしては、前記一般式(1)の繰り返し単位を有する単独重合体、又は異なる2種以上の一般式(1)の繰り返し単位を含有する共重合体や、前記一般式(1)の繰り返し単位と一般式(1)以外の繰り返し単位を有する共重合体を挙げることができる。前記共重合体における一般式(1)以外の繰り返し単位の含有量としては、前述のものを挙げることができる。これらの中でも、前記一般式(1)の繰り返し単位を有する単独重合体が好ましい。
【0068】
前記一般式(1)の繰り返し単位を有する単独重合体としては、具体的には、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレンエーテル)等を挙げることができるが、これらの中でも、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)が好ましい。
【0069】
前記ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)としては、市販品も好適に用いることができ、具体的には、例えば、SABIC Innovative Plastic製のPPO(商標登録)640、PPO(商標登録)646、PPO(商標登録)SA120、旭化成ケミカルズ(株)製のザイロン(商標登録)S201A、ザイロン(商標登録)S202A等を挙げることができる。
【0070】
高ガラス転移点温度を有するポリフェニレンエーテル成分のガラス転移点温度は、170℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、210℃以上であることさらに好ましい。また、ガラス転移点温度の上限値は特に限定されないが、230℃以下であることが好ましい。原料であるポリフェニレンエーテルのガラス転移点温度が前記範囲にあることで、高い耐熱性を有するポリフェニレンエーテル繊維や成形体が得られる。
【0071】
前記ガラス転移点温度が170℃以上であるポリフェニレンエーテルの含有量は、原料であるポリフェニレンエーテル成分中、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。また、ガラス転移点温度が170℃以上であるポリフェニレンエーテルの含有量の上限値は特に限定されるものではないが、100質量%以下であることが好ましい。本発明においては、ガラス転移点温度が高い(すなわち高分子量)のポリフェニレンエーテルを前記範囲で含むことが、得られるポリフェニレンエーテル溶融押出成形体の機械的強度、耐熱性、耐薬品性、難燃性等に優れるため、好ましい。
【0072】
また、原料であるポリフェニレンエーテルと共に、ポリフェニレンエーテル成分以外の樹脂成分や添加剤を含むことができる。ポリフェニレンエーテル成分以外の樹脂成分や添加剤としては、前述の通りである。また、ポリフェニレンエーテル成分以外の樹脂成分の含有量は、原料中に5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、含まない(0質量%)ことがさらに好ましい。
【0073】
前記シリンダー及びスクリューを備えた押出機としては、本分野で通常用いることができる単軸押出機や二軸押出機を用いることができる。本発明においては、二軸押出機を用いることが好ましい。
【0074】
シリンダー内の温度は、低すぎると樹脂の流動性が悪く、高すぎると流動性は改善されるものの、樹脂の熱分解による発泡現象が発生するため、そのバランスが取れる加工温度を選択する必要がある。
【0075】
<ポリフェニレンエーテル不織布>
ポリフェニレンエーテル不織布の製造方法は特に限定されるものではなく、本分野において通常用いられる方法を適宜採用することができる。不織布の製造方法としては、例えば、スパンボンド法、メルトブロー法、スパンレース法、ニードルパンチ法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法等を挙げることができる。これらの中でも、スパンボンド法が好ましい。
【0076】
ポリフェニレンエーテル不織布の形成に用いる原料等については、ポリフェニレンエーテル繊維で記載したものと同様のものを用いることができる。
【0077】
4.不融化ポリフェニレンエーテル繊維及び不融化ポリフェニレンエーテル不織布の製造方法
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維又は不融化ポリフェニレンエーテル不織布は、ポリフェニレンエーテル繊維又はポリフェニレンエーテル不織布を、空気中で、120~230℃で、5~100時間熱処理して不融化(不融化処理)することにより製造することができる。ここで、空気中とは、特に調整されていない環境のことである。また、処理温度は、120~230℃であり、140~220℃であることが好ましく、150~210℃であることがより好ましい。また、処理時間は、5~100時間であり、10~80時間であることが好ましく、15~50時間であることがより好ましい。前記処理温度及び処理時間とすることで、ポリフェニレンエーテル繊維に第一のC=O結合構造と第二のC=O結合構造が形成される。
【0078】
5.炭素繊維及び炭素繊維成形体の製造方法
本発明の炭素繊維は、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維を炭素化することにより製造することができる。なお、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維を耐炎化(耐炎化処理)して耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維を得て、耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維を炭素化して炭素繊維を製造してもよい。
【0079】
耐炎化処理は、例えば、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維を、空気中で、230~400℃で、0.01~10時間処理をすることにより行うことができる。空気中とは、特に調整されていない環境のことである。また、処理温度は、240~380℃であることが好ましく、250~360℃であることがより好ましい。また、処理時間は、0.03~4時間であることが好ましく、0.05~3時間であることがより好ましい。
【0080】
また、本発明の炭素繊維成形体は、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体を炭素化することにより製造することができる。なお、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体を耐炎化(耐炎化処理)して耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体を得て、耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体を炭素化して炭素繊維成形体を製造してもよい。耐炎化処理の条件は、前記の通りである。
【0081】
前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維、前記耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体、又は前記耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体の炭素化は、公知の方法で行うことができ、具体的には、不活性ガスの存在下で加熱することにより行われる。不活性ガスとしては、例えば、窒素、及びアルゴン等が挙げられる。加熱温度は、通常、400~2500℃であり、好ましくは800~1500℃である。加熱時間は、通常、0.2~10時間であり、好ましくは0.5~5時間である。
【0082】
6.活性炭素繊維及び活性炭素繊維成形体の製造方法
本発明の活性炭素繊維は、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維、前記耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、又は前記炭素繊維を賦活することにより製造することができる。また、本発明の活性炭素繊維成形体は、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体、前記耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、又は前記炭素繊維成形体を賦活することにより製造することができる。
【0083】
前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維、前記耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、前記炭素繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体、前記耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、又は前記炭素繊維成形体の賦活は、公知の方法で行うことができ、具体的には、ガス賦活法、及び薬品賦活法などが挙げられるが、繊維強度及び純度の向上の観点から、ガス賦活法が好ましい。
【0084】
ガス賦活法では、賦活ガスを、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維、前記耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、前記炭素繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体、前記耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、又は前記炭素繊維成形体に接触させて賦活する。賦活ガスとしては、例えば、水蒸気、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、塩化水素、酸素、又はこれらの混合ガスが挙げられる。ガス賦活する際の温度は、通常、600~1200℃であり、好ましくは800~1000℃である。ガス賦活する際の時間は、通常、0.2~10時間であり、好ましくは0.5~3時間である。
【0085】
薬品賦活法では、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;ホウ酸、リン酸、硫酸、及び塩酸等の無機酸類;塩化亜鉛などの無機塩類などを、前記不融化ポリフェニレンエーテル繊維、前記耐炎化ポリフェニレンエーテル繊維、前記炭素繊維、前記不融化ポリフェニレンエーテル成形体、前記耐炎化ポリフェニレンエーテル成形体、又は前記炭素繊維成形体に接触させて賦活する。薬品賦活する際の温度は、通常、400~1000℃であり、好ましくは500~800℃である。薬品賦活する際の時間は、通常、0.2~5時間であり、好ましくは0.5~5時間である。
【0086】
本発明の活性炭素繊維のBET比表面積は、好ましくは500m/g以上、より好ましくは650m/g以上、さらに好ましくは800m/g以上、さらに好ましくは1000m/g以上、さらに好ましくは1200m/g以上、さらに好ましくは1400m/g以上である。BET比表面積の上限値は、通常3000m/g以下であり、2500m/g以下の場合もある。
【0087】
本発明の活性炭素繊維の繊維径は、従来の活性炭素繊維の繊維径よりも大きくすることが可能であり、好ましくは11μm以上、より好ましくは17μm以上、さらに好ましくは22μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。繊維径の上限値は、通常150μm以下であり、100μm以下、又は70μm以下の場合もある。
【0088】
本発明の活性炭素繊維不織布の目付は、用途に応じて適宜調整できるが、好ましくは15g/m以上、より好ましくは40g/m以上、さらに好ましくは100g/m以上、さらに好ましくは150g/m以上であり、好ましくは1000g/m以下、より好ましくは700g/m以下、さらに好ましくは500g/m以下、さらに好ましくは300g/m以下である。
【0089】
本発明の活性炭素繊維不織布の引張強度(タテ、ヨコ)は、機械的強度の観点から、好ましくは0.5N/cm以上、より好ましくは1.0N/cm以上、さらに好ましくは1.5N/cm以上であり、引張強度の上限値は、通常10N/cm以下であり、5N/cm以下、又は3N/cm以下の場合もある。
【0090】
本発明の活性炭素繊維不織布の破断伸度(タテ、ヨコ)は、機械的強度の観点から、好ましくは2%以上、より好ましくは4%以上である。破断伸度の上限値は、通常15%以下であり、10%以下の場合もある。
【0091】
本発明の活性炭素繊維不織布の圧力損失係数は、好ましくは0.60mmAq・s/cm以下、より好ましくは0.40mmAq・s/cm以下、さらに好ましくは0.30mmAq・s/cm以下であり、圧力損失係数の下限値は、通常0.10mmAq・s/cm以上である。
【0092】
本発明の炭素繊維、炭素繊維成形体、活性炭素繊維、及び活性炭素繊維成形体は、例えば、ジクロロメタン等の有機溶剤の回収;トリハロメタン等の塩素化合物の除去;悪臭ガス、NOx、及びSOx等の有害ガスの除去;鉛、ヒ素、及びマンガン等の重金属の除去、などに好適に用いられる。
【実施例
【0093】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性等の評価方法は以下の通りである。
【0094】
(1)繊維径
ポリフェニレンエーテル繊維、不融化ポリフェニレンエーテル繊維、ノボロイド繊維の繊維径は走査電子顕微鏡(製品名SU1510、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて顕微鏡画像を観察し、その顕微鏡画像から100本以上の繊維径を読み取り、読み取った繊維径を平均して求めた。
炭素繊維および活性炭素繊維の繊維径はJIS K-1477 7.3.1に記載の方法で測定した。なお、繊維径とは繊維直径を意味する。
【0095】
(2)吸光度高さ比(A/B)及び(C/B)
実施例1~5、比較例1及び2で得られた不織布を薄く延ばしたものを測定試料とした。
赤外分光光度計(FTIR)(製品名:3100FT-IR/600UMA、バリアン社製)を用い、得られた試料を顕微透過法により以下の条件で吸光度を測定した。
(測定条件)
視野:80μm×80μm
測定波長範囲:400cm-1から4000cm-1
積算回数:128回
分解能:4cm-1
得られたスペクトルの、波長1550~1480cm-1の最小値及び1900~1800cm-1の最小値を結ぶ基準線を引き、当該基準線からのピーク高さ(ピーク吸光度高さ)で評価を実施した。
1704~1684cm-1のピーク高さを吸光度高さA、1610~1590cm-1のピーク高さを吸光度高さB、1670~1650cm-1のピーク高さを吸光度高さCとし、A/B及びC/Bの値で規定した。
【0096】
(3)酸素原子含有量
中性洗剤で洗浄した試料を超純水で水洗いして風乾させた後、CHNコーダー(製品名:MT-6、ヤナコテクニカルサイエンス社製)を用い、試料の炭素原子含有量(質量%)、水素原子含有量(質量%)、窒素原子含有量(質量%)を測定し、次式で酸素原子含有量(質量%)を算出した。
酸素原子含有量=100-(炭素原子含有量+水素原子含有量+窒素原子含有量)
【0097】
(4)重量減少率
熱分析装置STA7000を用いて、サンプル10mgをアルミパンに詰め、空気雰囲気下で35℃から550℃まで10℃/minで昇温し、150℃での重量A(mg)と300℃での重量B(mg)とを測定し、150℃から300℃に昇温した際の重量減少率(%)を次式から計算した。
重量減少率(%)={(A-B)÷A}×100
別途、サンプル10mgを白金パンに詰め、窒素雰囲気下で35℃から1050℃まで10℃/minで昇温し、150℃での重量C(mg)と900℃での重量D(mg)とを測定し、150℃から900℃に昇温した際の重量減少率(%)を次式から計算した。
重量減少率(%)={(C-D)÷C}×100
【0098】
(5)乾熱収縮率
実施例1~4、比較例1及び2で得られた不織布を10cm角の正方形に切り出して、空気雰囲気下で300℃または窒素雰囲気下で900℃に制御された恒温槽に30分間放置した後、縦方向及び横方向の収縮率を測定し、その平均値を計算した。
【0099】
(6)引張強度、破断伸度
JIS L1013 8.5.1に準拠して測定した。繊維の場合、単繊維で評価し、チャック間距離は10mm、引張速度は10mm/minで測定した。不織布の場合は、幅25mm、長さ100mmにサンプリングし、チャック間距離は50mm、引張速度は100mm/minで測定した。
【0100】
(7)燃焼試験
BSS 7239(ボーイング社規格)に記載の方法で測定した。シアン化水素(HCN)、窒素酸化物(NO+NO)の濃度はドレーゲル検知管で測定した。
【0101】
(8)BET比表面積
試料を30mg採取し、130℃で12時間真空乾燥して秤量し、自動比表面積測定装置GEMINI VII2390(Micromeritics社製)を使用して測定した。液体窒素の沸点(-195.8℃)における窒素ガスの吸着量を相対圧が0.02~0.95の範囲で測定し、試料の吸着等温線を作成した。相対圧が0.02~0.15の範囲での結果をもとに、BET法により重量あたりのBET比表面積(m/g)を求めた。
【0102】
(9)圧力損失係数
実施例1~4、比較例2で得られた不織布を直径27mmの円形に切り出して、内径27mmの円筒管へ厚み30mm、充填密度100kg/mとなるように荷重を掛けながら充填した。25℃、相対湿度50%RHの空気を線速30cm/秒で円筒管へ供給し、充填した不織布の一次側と二次側の静圧差(mmAq)を測定した。得られた静圧差から次式で不織布の圧力損失係数(mmAq・s/cm)を求めた。
圧力損失係数=圧損÷線速÷厚み
【0103】
実施例1
ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)(PPO(商標登録)640、ガラス転移点温度(Tg):221℃、SABIC Innovative Plastic製)を、(株)テクノベル製2軸押出機(製品名:KZW15TW-30MG)を用いて300℃で押出した。押出機の下流には、ギアポンプを設置してポリマーの吐出速度を計量し、320℃に保ったノズル(ノズル幅300mm)へ押し出した。ノズルから吐出したポリマーを幅400mmのコレクターで受けた後、210℃の加熱ローラ―で融着させて長繊維シートを得た。長繊維シートの目付は60g/mであった。得られた長繊維シートを5枚重ね、ニードルパンチ機により、針密度75本/cm、針深度12mm(表)、7mm(裏)の条件で表裏処理を行い、長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布を空気中で200℃×24時間熱処理をし、不融化ポリフェニレンエーテル不織布を得た。得られた不融化ポリフェニレンエーテル不織布の各評価結果を表1に示す。さらに、得られた不融化ポリフェニレンエーテル不織布を窒素中で900℃×1時間熱処理したのち、11vol.%の水蒸気存在下の窒素中で900℃×1時間賦活処理をして活性炭素繊維不織布を得た。得られた活性炭素繊維不織布の各評価結果を表1に示す。
【0104】
実施例2~4
不融化処理の条件を表1に示す通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で不融化ポリフェニレンエーテル不織布を得た。各評価結果を表1に示す。
【0105】
実施例5
ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)(PPO(商標登録)640、ガラス転移点温度(Tg):221℃、SABIC Innovative Plastic製)を、(株)テクノベル製2軸押出機(製品名:KZW15TW-30MG)を用いて300℃で押出した。押出機の下流には、ギアポンプを設置してポリマーの吐出速度を計量し、320℃に保ったノズルへ押し出した。ノズルから吐出したポリマーを巻き取ってポリフェニレンエーテル繊維を得た。得られたポリフェニレンエーテル繊維の各評価結果を表1に示す。得られたポリフェニレンエーテル繊維を長さ70mmにカットした後、繊維クリンプ加工した状態でニードルパンチ機により、針密度100本/cm、針深度12mm(表)、7mm(裏)の条件で表裏処理を行い、短繊維不織布を得た。得られた短繊維不織布を空気中で200℃×24時間熱処理をし、不融化ポリフェニレンエーテル不織布を得た。得られた不融化ポリフェニレンエーテル不織布の各評価結果を表1に示す。さらに、得られた不融化ポリフェニレンエーテル不織布を窒素中で900℃×1時間熱処理したのち、11vol.%の水蒸気存在下の窒素中で900℃×1時間賦活処理をして活性炭素繊維不織布を得た。得られた活性炭素繊維不織布の各評価結果を表1に示す。
【0106】
比較例1
実施例1で得られた長繊維不織布を空気中で熱処理せずに各評価を行い、その結果を表1に示す。さらに、得られた長繊維不織布を窒素中で900℃×1時間熱処理したのち、11vol.%の水蒸気存在下の窒素中で900℃×1時間賦活処理をしたところ、繊維が融解したため不織布の形状を保っておらず、活性炭素繊維は得られなかった。
【0107】
比較例2
不融化処理の条件を表1に示す通り変更した以外は、実施例1と同様の方法で不融化ポリフェニレンエーテル不織布を得た。しかし、得られた不融化ポリフェニレンエーテル不織布は、不融化処理前後の幅収縮率が70%以上であり、極めて柔軟性に乏しいものであった。
【0108】
比較例3
繊維長70mm、繊維クリンプなしのフェノール系繊維(群栄化学工業(株)製、カイノール)を使用し、ニードルパンチ機により、針密度100本/cm、針深度12mm(表)、7mm(裏)の条件で表裏処理を行い、短繊維不織布を得た。使用したカイノールは、ベヘン酸アミドを5質量%含有する。得られた短繊維不織布の各評価結果を表1に示す。さらに、得られた短繊維不織布を窒素中で900℃×1時間熱処理したのち、11vol.%の水蒸気存在下の窒素中で900℃×1時間賦活処理をして活性炭素繊維不織布を得た。得られた活性炭素繊維不織布の各評価結果を表1に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
実施例1~5の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、比較例3のノボロイド繊維に比べて繊維径が大きく、しかも機械的強度(特に破断伸度)が優れていることから加工性に優れる。また、比較例3のノボロイド繊維は、燃焼時に有害な分解ガス(HCN及びNOx)が発生しているが、実施例1~5の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、燃焼時に有害な分解ガスが発生していない。また、実施例1~5の不融化ポリフェニレンエーテル不織布を賦活して得られた活性炭素繊維不織布は、比較例3のノボロイド不織布を賦活して得られた活性炭素繊維不織布に比べて繊維径が大きく、圧力損失係数が小さいため、フィルター等の用途に好適に使用することができる。比較例1のポリフェニレンエーテル不織布は、不融化処理をしていないため吸光度高さ比が小さく、耐熱性に劣る。そのため、比較例1のポリフェニレンエーテル不織布を賦活処理すると繊維が溶融し、活性炭素繊維不織布が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の不融化ポリフェニレンエーテル繊維は、フェノール系繊維に替わる、優れた吸着性能及び物理特性を有する炭素繊維又は活性炭素繊維の前駆体として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0112】
1 ホッパー
2 押出機
3 ギアポンプ
4 濾材
5 紡糸ノズル
6 フィルター
7 保温スペース
8 不活性ガスの導入
9 加熱トーチ
図1