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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】ガス検出器
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20220720BHJP
   G01N 27/16 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/16
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021507369
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011690
(87)【国際公開番号】W WO2020189675
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2019050582
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000112439
【氏名又は名称】フィガロ技研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】佐井 正和
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 謙一
(72)【発明者】
【氏名】井澤 邦之
(72)【発明者】
【氏名】阪口 壽一
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-221971(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110051(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/104045(WO,A1)
【文献】特開2013-242269(JP,A)
【文献】TEPLYAKOV, V.V. 外3名,Investigations on the peculiar permeation properties of volatile organic compounds and permanent gas,journal of MEMBRANE SCIENCE,2003年,Vol.220, Issues 1-2,pp.165-175,Abstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖の2重結合炭素原子に置換基が結合している置換ポリアセチレンから成るガス分離膜と、
ガス分離膜を透過したガスを検出するセンシング要素、とを備え、
前記センシング要素は金属酸化物半導体式あるいは接触燃焼式のセンシング要素であり、
前記ガス分離膜は、環状シロキサンを遮断し、検出対象ガスを透過させるガス検出器。
【請求項8】
検出対象ガスがメタンで、前記吸着フィルタにより、エタノール、スチレン及びピネンを吸着することを特徴とする、請求項6のガス検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサには、環状シロキサン、SOx等の触媒毒によりガス感度が低下するという問題がある。また検出対象ガスとそれ以外のガスとの識別が難しいとの問題がある。これらの問題を解決するため、活性炭、シリカゲル、ゼオライト等の吸着剤がガスセンサのフィルタとして使用されている。
【0003】
特許文献1(WO2018/053656)は、テフロンAF(登録商標)(「テフロンAF(登録商標)」はデュポン社の商品名)等のガス分離膜をガスセンサのフィルタとすることを提案している。このフィルタは、ガス分子のサイズに応じた篩として作用し、環状シロキサン等の大きな分子をブロックし、CO,H2,エタノール等の小さな分子を透過させる。またガスセンサの応答を遅らせないために、1μm厚程度の薄膜として、テフロンAF(登録商標)を多孔質の支持膜上に成膜する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2018/053656
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、新規なガス分離膜を備えるガス検出器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のガス検出器は、主鎖の2重結合炭素原子に置換基が結合している置換ポリアセチレンから成るガス分離膜と、ガス分離膜を透過したガスを検出するセンシング要素、とを備えている。ガス検出器はガスセンサ単体でも良く、あるいはガスセンサと、ガスセンサとは別のハウジング、及び周辺回路を備えたガス検出装置等で良い。ガスセンサの場合、ガス分離膜は例えばセンサのハウジングに固定し、ガス検出装置の場合、ガスの流路にあるいはガスの取入口等に固定する。
【0007】
置換ポリアセチレンには例えば次のものがある。
・ poly[1-(trimethylsilil)-1-propyne](PTMSP),poly[1-(trimethylgermyl)-1-propyne](PTMGP)など、Si,Ge等のヘテロ原子を(CH3)3Si-,(CH3)3Ge-等の置換基として含むもの。
・ poly[4-(methyl)-2-pentyne](PMP),poly[1,2-diphenyl acetylene](PDPA)など、ヘテロ原子を含まず、かつiso-propyl基,フェニル基などの大きな置換基を含むもの。
・ poly[1,4,5-(CF3)3-phenylacetylene],poly[1,5-(CF3)2-phenylacetylene]など、CF3基を含む大きな置換基を持つもの。
・ poly[1-phenyl-2-[(p-trimethylsilyl)phenyl]acetylene](PTMSDPA)など、(CH3)3Si-,(CH3)3Ge-等の置換基とフェニル基とを含むもの。特にPTMSDPAは、p-トリメチルシリル-フェニル基とフェニル基とを含むので大きな細孔を持ち、検知対象ガスへの透過性と大型の環状シロキサン化合物をブロックする性能の2点で好ましい。
【0008】
置換ポリアセチレンは、 -(CA=CB)n- で表すことができ、A,Bの一方が置換基で他方が水素、あるいはA,Bの双方が置換基である。ガス分離膜が置換ポリアセチレンから成るとは、置換ポリアセチレンによりガス透過性が支配されていることを意味する。好ましくは、ガス分離膜は置換ポリアセチレンを主成分とする。
【0009】
置換ポリアセチレン分子は主鎖が2重結合を含むため剛直で、大きな置換基を持つことと相まって自由容積が大きい。そして耐熱性と化学的安定性が高い。このため置換ポリアセチレンをガス分離膜の材料とすると、ガスの透過性が高く、かつトルエン等の大きな分子も透過する。ガス透過性が高いので、置換ポリアセチレン膜を支持膜上に積層せずに、比較的厚い(膜厚10~50μm程度)単層膜としても、ガスへの応答性を維持できる。そして単層膜は積層膜よりも成膜が容易である。なお膜厚1μm程度の置換ポリアセチレン膜を多孔質の支持膜に積層すると、ガスへの応答性を高めることができる。
【0010】
置換ポリアセチレンはイソブタン、トルエン等の大きな分子も透過する。イソブタンを透過するのでLPGの検出に用いることができ、またトルエンを透過するのでVOCの検出にも用いることができる。環状シロキサンはトルエンに比べ充分大きな物質なので、置換ポリアセチレンを実質的に透過しない。このため、シロキサンによるガスセンサの被毒を防止できる。
【0011】
好ましくは、センシング要素は、ガスにより抵抗値が変化する金属酸化物半導体膜を支持するMEMSチップである。MEMS金属酸化物半導体ガスセンサは被毒に特に敏感で、しかも小サイズであることが求められるので、吸着剤フィルタではなく、置換ポリアセチレンにより被毒を防止することが好ましい。MEMS金属酸化物半導体ガスセンサの応用の1つとして、スマートフォン等に実装し、環境中のVOCを監視することがある。この用途では、トルエンを透過し、環状シロキサンを実質的に透過させないため、ポリアセチレン膜はMEMS金属酸化物半導体ガスセンサに最適である。
【0012】
置換ポリアセチレンは、テフロンAF(登録商標)に比べ親油性が高いので、アセトン、アセトアルデヒド、メチルメルカプタン等を、水蒸気よりも優先して透過させる。呼気には水蒸気が大量に含まれるが、置換ポリアセチレンにより水蒸気の透過を制限できる。人の呼気中のこれらの化合物を低濃度で検出できると、代謝の簡易検査、糖尿病の簡易検査、口腔の簡易検査などが可能になる。なお呼気中のアセトン検出などでは、検出目標濃度が低いため、水蒸気の影響を受けにくい電気化学ガスセンサは不適である。
【0013】
好ましくは、ガス分離膜を透過したガスから、検出対象以外のガスを吸着する吸着フィルタを、ガス検出器はさらに備えている。この場合、置換ポリアセチレンは吸着フィルタの例えばプレフィルタとなり、置換ポリアセチレンと吸着フィルタとの組み合わせで、不要なガスを遮断する。例えばエタノールと区別してメタンを検出する場合、ガス分離膜の後段(センシング要素寄り)に活性炭、シリカゲル、ゼオライト等のエタノールを吸着するフィルタを設けることが好ましい。シロキサンのみでなく、スチレン、ピネン等が触媒毒として作用する場合、置換ポリアセチレンと、活性炭あるいはシリカゲル等の吸着フィルタを組み合わせ、スチレン、ピネン等を吸着フィルタで除去することが好ましい。
【0014】
特に好ましくは、ガス分離膜は吸着フィルタの外気側カバーを兼ねている。するとガス分離膜と吸着フィルタをコンパクトに実装できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例のガスセンサの断面図
図2】第2の実施例のガスセンサの部分断面図
図3】ガス分離膜をガス流路に設けたガス検出器の模式的平面図
図4】シロキサンへの暴露の前後でのCHへの応答を示す特性図
図5】シロキサンへの暴露の前後でのHへの応答を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例
【0017】
図1はMEMSガスセンサに関する実施例を示す。2はガスセンサで、Siチップ4(センシング要素)のキャビテイ5を支持膜6が覆っている。SnO2,WO3等の、ガスと接触することにより抵抗値が変化する、金属酸化物半導体膜8が支持膜6上に設けられ、支持膜6には他に図示しないヒータ、電極が設けられている。ガスセンサ2はさらにベース10とセラミックス、プラスチック、金属等のカバー12を備え、Siチップ4はリードとメタライズ部11を介して外部に接続される。
【0018】
カバー12は通気性で、例えば頂部に通気孔13を備え、通気孔13のSiチップ4側の面に置換ポリアセチレンから成るガス分離膜14(置換ポリアセチレン膜)が設けられている。置換ポリアセチレン膜14は、PMP,PDPAなどSi,Ge等のヘテロ原子を含まないものが、ヘテロ原子による汚染の可能性がない点で好ましい。置換ポリアセチレン膜14はガス透過性が高いので、例えば膜厚10μm~50μm程度の厚膜とし、支持膜なしの単層膜として、カバー12の頂部内面に固定する。
【0019】
周囲のガス成分の内で、環状シロキサン等の被毒物質は分子サイズが大きすぎるため置換ポリアセチレン膜14を透過しない。これに対して水素~トルエン程度のサイズの分子は置換ポリアセチレン膜14を透過し、Siチップ4により検出される。従ってガスセンサ2はVOCの検出も可能である。
【0020】
金属酸化物半導体膜8は高湿雰囲気に長期間置かれると影響を受けることがある。しかし置換ポリアセチレン膜14は親油性で水蒸気の透過が遅いため、高湿雰囲気の影響を緩和できる。さらに呼気中のアセトン、アセトアルデヒド、メチルメルカプタン等を検出すると、代謝や健康状態の簡易検査ができる。置換ポリアセチレン膜14は水蒸気の透過率が低いので、呼気中のこれらの物質の検出を容易にする。さらに置換ポリアセチレン膜14はエタノールに比べアセトンの透過率が高いので、アセトンの検出が容易になる。
【0021】
図2は在来のガスセンサに、吸着フィルタ30のプレフィルタとして、図1と実施例と同様の、置換ポリアセチレン膜14を設けた例を示す。セラミックあるいはプラスチック等のベース24にピン25を介して、基板26が取り付けられている。基板26は図示しないヒータと電極を備え、図1の実施例と同様の金属酸化物半導体膜8を支持する。
【0022】
プラスチック、セラミック、あるいは金属等のカバー28を備え、外気側からの順で、カバー28の頂部内面に、置換ポリアセチレン膜14、吸着フィルタ30、多孔質膜32が重ねられている。34は通気孔で、カバー28の素材自体が通気性の場合は不要である。置換ポリアセチレン膜14は環状シロキサン等を遮断し、吸着フィルタ30の外側カバーを兼ねている。吸着フィルタ30は活性炭、シリカゲル、ゼオライト等で例えばシート状であるが、粒状でも良い。吸着フィルタ30はエタノール等のガスを吸着し、置換ポリアセチレン膜14で遮断しきれなかった被毒物質が仮に生じた場合、吸着し除去する。多孔質膜32は吸着フィルタ30の内側のカバーで、フィルタ30を支持すると共に、フィルタ30の細粉を遮断する。
【0023】
図1図2では、金属酸化物半導体ガスセンサに、置換ポリアセチレン膜14を取り付ける。しかし電気化学ガスセンサのフィルタ、あるいは接触燃焼式ガスセンサのフィルタとして、置換ポリアセチレン膜14を用いても良い。
【0024】
図3は、スマートフォン42にガスセンサ48を実装したガス検出器を示す。スマートフォン42のケースのガス導入孔45と排気孔46を、図1の実施例と同様の置換ポリアセチレン膜14により覆い、ガスセンサ48を被毒物質から保護する。またガスセンサ48により呼気の分析を行う場合、水蒸気の透過を置換ポリアセチレン膜14により制限し、アセトン、アセトアルデヒド、メチルメルカプタン等を検出しやすくする。
【0025】
シロキサン耐久試験
環状シロキサン(D4)1ppmに1時間暴露した前後での、CH4及びH2に対するガスセンサ2の応答の変化を観察した。ガスセンサ2の金属酸化物半導体膜8は膜厚40μmのSnO2膜で、動作条件は30秒毎に0.1秒間、最高加熱温度約430℃まで加熱する間欠加熱である。ガスセンサ2に負荷抵抗を接続し、加熱終了時の金属酸化物半導体8の抵抗値を測定した。多孔質PTFE膜上に膜厚10μm程度のPTMSDPA膜を積層したものをガス分離膜14とし、実施例ではガス分離膜14を設け、比較例ではガス分離膜14の代わりに単なる多孔質PTFE膜を設けた。ガスセンサ数は実施例では3、比較例では2で、検知対象ガスはCH4図4)及びH2図5)で、濃度は共に1000-9000ppmである。図4図5の上段は実施例の結果を、下段は比較例の結果を示す。図4図5から、ガス分離膜14によりシロキサンの影響を緩和できることが分かる。
【0026】
補足
置換ポリアセチレン膜は、ガス選択透過膜の中では、自由容積が大きくかつ親油性が高い。膜のガス選択性には、
・ 細孔サイズとガス分子のサイズとの相対的な値による選択性と、
・ 膜内にガス分子が溶解する溶解度、溶解したガス分子の拡散速度による選択性、
の2つの機構が考えられる。細孔サイズを利用する機構では、細孔サイズよりも大きなガス分子は細孔に侵入できないことを利用する。溶解度等を利用する機構では、大きなサイズのガス分子は膜内に溶解した後、比較的大きな細孔にトラップされ、膜内を透過しにくいことを利用する。置換ポリアセチレン膜では、細孔サイズとシロキサン分子のサイズとの違いによる選択性に加え、膜内に溶解したシロキサン分子の拡散が遅いことが寄与している、と考えられる。また置換ポリアセチレン膜では、小さなガス分子はこのような細孔にトラップされず速やかに膜を透過し、ガスセンサの検出速度への影響が小さい。
【符号の説明】
【0027】
2,22 ガスセンサ
4 Siチップ
5 キャビテイ
6 支持膜
8 金属酸化物半導体膜
10,24 ベース
11 メタライズ部
12,28 カバー
13,34 通気孔
14 ガス分離膜
25 ピン
26 基板
30 吸着フィルタ
32 多孔質膜
42 スマートフォン
45 ガス導入孔
46 排気孔
48 ガスセンサ
図1
図2
図3
図4
図5