(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】内胚葉系細胞集団、及び多能性細胞から三胚葉のいずれかの細胞集団を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0735 20100101AFI20220720BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220720BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220720BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20220720BHJP
【FI】
C12N5/0735 ZNA
C12N5/10
C12N5/071
C12Q1/6851 Z
(21)【出願番号】P 2018564659
(86)(22)【出願日】2018-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2018002545
(87)【国際公開番号】W WO2018139600
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2017012802
(32)【優先日】2017-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】伊吹 将人
(72)【発明者】
【氏名】大河内 仁志
(72)【発明者】
【氏名】矢部 茂治
【審査官】名和 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-514481(JP,A)
【文献】特表2013-536685(JP,A)
【文献】再公表特許第2006/126574(JP,A1)
【文献】特表2008-525040(JP,A)
【文献】特表2010-528295(JP,A)
【文献】特表2012-527880(JP,A)
【文献】国際公開第2012/020845(WO,A1)
【文献】特表2012-507281(JP,A)
【文献】国際公開第2011/081222(WO,A1)
【文献】特表2014-504856(JP,A)
【文献】特表2012-533323(JP,A)
【文献】特表2017-534269(JP,A)
【文献】特表2009-513143(JP,A)
【文献】D'Amour, Kevin A, et al.,Production of pancreatic hormone-expressing endocrine cells from human embryonic stem cells,Nature Biotechnology,2006年,Vol.24, No.11,pp.1392-1401
【文献】Kunihiko Matsuno, et al.,Redefining definitive endoderm subtypes by robust induction of human induced pluripotent stem cells.,Differentiation,2016年,Vol.92,p.281-290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞から内胚葉系細胞集団を製造する方法であって、以下に示す(a)~(b):
(a)多能性幹細胞を2-メルカプトエタノールを含む培地を用いて浮遊培養し、細胞集団を調製する工程、
(b)前記工程(a)で得られた細胞集団を、アクチビンA、FGF2及びBMP4を含む培地で培養した後、FGF2及びBMP4を添加していない培地で培養する工程、
を含む製造方法。
【請求項2】
前記2-メルカプトエタノールを含む培地が、アクチビンAを添加していない培地である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記2-メルカプトエタノールを含む培地が、WNTシグナル活性化剤を添加していない培地である、請求項
1又は
2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記2-メルカプトエタノールを含む培地が、FGF2を添加していない培地である、請求項
1から
3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記2-メルカプトエタノールを含む培地が、TGFβ1を添加していない培地である、請求項
1から
4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記2-メルカプトエタノールを含む培地が、さらにインスリンを含む培地である、請求項
1から
5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記FGF2及びBMP4を添加していない培地が、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム及びエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1種類以上を含む培地である、請求項
1から
6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アクチビンA、FGF2及びBMP4を含む培地、及び/又は前記FGF2及びBMP4を添加していない培地が、さらに2-メルカプトエタノールを含む培地である、請求項
1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記アクチビンA、FGF2及びBMP4を含む培地、及び/又は前記FGF2及びBMP4を添加していない培地が、グルコースを1.0g/L以下の濃度で含有する培地である、請求項
1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内胚葉系細胞集団に関する。本発明はさらに、多能性幹細胞を培養し、分化誘導することで三胚葉のいずれかの細胞集団を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療は、ドナー不足を課題とする臓器移植の代替法や難病の新たな治療法開発などにおいて大きな期待が寄せられている。胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)は多能性及び無限増殖性を有しているため、再生医療に必要とされる細胞を調製するための細胞ソースとして期待されている。これらの多能性幹細胞を用いた再生医療の実用化に際しては、多能性幹細胞を効率よく目的細胞に分化誘導させる技術の確立が必要であり、多様な分化誘導方法について報告されている。
【0003】
例えば、多能性幹細胞を三胚葉のいずれかに分化誘導させる培養方法として、非特許文献1には、マトリゲルでコートしたディッシュ上でヒトES細胞及びヒトiPS細胞を接着培養しながら、三胚葉(内胚葉系細胞、外胚葉系細胞又は中胚葉系細胞)に分化誘導することが記載されている。また、分化誘導前にメチオニン不含培地で10時間培養することにより細胞周期を停止させ、その後に三胚葉(内胚葉系細胞、外胚葉系細胞又は中胚葉系細胞)への分化を誘導することにより分化誘導効率を向上できることも示されている。
【0004】
多能性幹細胞を内胚葉系細胞に分化誘導させるための培地についても幾つかの知見が報告されている。
例えば、特許文献1には、TGFβスーパーファミリーの成長因子を多能性細胞培養物に供給することによって胚体内胚葉への分化を行い、次いで、SOX17陽性胚体内胚葉細胞の細胞培養物または細胞集団でTGFβスーパーファミリー成長因子シグナル伝達を低減、除去(eliminating)または取り除く(removing)ことによって、胚体内胚葉細胞をPDX1陰性前腸内胚葉細胞に分化させることが記載されている(段落0144~0150)。
【0005】
また、特許文献2には、多能性細胞を造血前駆細胞または内皮細胞に分化させる方法であって、以下の逐次的工程:(a)少なくとも1つの成長因子を含む第1の特定培地中で複数の実質的に未分化の多能性細胞を培養または維持する工程、(b)BMP4、VEGF、IL-3、Flt3リガンド、およびGMCSFを本質的に含まない第2の特定培地中で細胞をインキュベートする工程、(c)複数の細胞を増殖するか分化を促進するのに十分な量のBMP4およびVEGFを含む第3の特定培地中で細胞を培養する工程、および(d)複数の細胞を増殖するか分化を促進するのに十分な量の(1)IL-3およびFlt3リガンド、または(2)VEGF、FGF-2またはFGF-2模倣物、およびIGFのいずれかを含む第4の特定培地中で細胞を培養する工程を含み、複数の多能性細胞が造血前駆細胞または内皮細胞に分化する方法が記載されている(段落0009)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-506736号公報
【文献】特開2015-192681号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Shiraki N et al., Methionine metabolism regulates maintenance and differentiation of human pluripotent stem cells. Cell Metab. 2014 May 6;19(5):780-94.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したとおり、多能性幹細胞から三胚葉(内胚葉系細胞、外胚葉系細胞又は中胚葉系細胞)を経て、体細胞のいずれかに分化誘導するための培養方法は報告されているが、細胞治療製剤としての治療効果の向上と未分化細胞を低減する観点から、より分化誘導の効率を向上させ、細胞の品質を高める必要がある。
【0009】
従って、本発明は、細胞治療製剤として最適な体細胞を得るための内胚葉系細胞集団を提供することを解決すべき課題とした。さらに、本発明は、多能性幹細胞を培養することを含む三胚葉のいずれかの細胞集団を製造する方法であって、細胞集団における未分化細胞の含有率を低減し、且つ、細胞治療製剤として最適な体細胞へと分化可能な細胞集団が得られる製造方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、多能性幹細胞を分化誘導する前に、特定の化合物を添加又は未添加で浮遊培養し、且つ、分化誘導においては、分化誘導に作用する因子を添加、低減、除去、又は取り除くことにより内胚葉系細胞への分化誘導の効率を大幅に向上できることを見出した。さらに、本発明者らは、得られた内胚葉系細胞集団から分化誘導した体細胞が、高い治療効果を発揮できるという点において、従来の内胚葉系細胞集団と比較して優れた内胚葉系細胞集団であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
(1) OAZ1遺伝子の発現量に対するNanog遺伝子の相対発現量が0.8以下であり、OAZ1遺伝子の発現量に対するHNF1B遺伝子の相対発現量が1.0以上であり、SOX17の陽性を呈する細胞の比率が80%以上である、内胚葉系細胞集団。
(2) さらに、OAZ1遺伝子の発現量に対するHNF4A遺伝子の相対発現量が0.5以上である、(1)に記載の内胚葉系細胞集団。
(3) さらに、OAZ1遺伝子の発現量に対するEpCAM遺伝子の相対発現量が0.6以上である、(1)又は(2)に記載の内胚葉系細胞集団。
(4) さらに、OAZ1遺伝子の発現量に対するVIM遺伝子の相対発現量が12以下である、(1)から(3)のいずれか一に記載の内胚葉系細胞集団。
(5) さらに、OAZ1遺伝子の発現量に対するSOX2遺伝子の相対発現量が0.11以下である、(1)から(4)のいずれか一に記載の内胚葉系細胞集団。
(6) さらに、OAZ1遺伝子の発現量に対するc-Myc遺伝子の相対発現量が0.1以下である、(1)から(5)のいずれか一に記載の内胚葉系細胞集団。
(7) さらに、OAZ1遺伝子の発現量に対するFibronectin-1遺伝子の相対発現量が1.0以上である、(1)から(6)の何れか一に記載の内胚葉細胞集団。
(8) さらに、OAZ1遺伝子の発現量に対するCyclin D1遺伝子の相対発現量が0.015以下である、(1)から(7)の何れか一に記載の内胚葉細胞集団。
(9) さらに、OAZ1遺伝子の発現量に対するMatrix metallopeptidase2遺伝子の相対発現量が0.020以下である、(1)から(8)の何れか一に記載の内胚葉細胞集団。
【0012】
(10) 多能性幹細胞から内胚葉系細胞を製造する方法であって、以下に示す(a)~(b):
(a)多能性幹細胞を2-メルカプトエタノールを含む培地を用いて浮遊培養し、細胞集団を調製する工程、
(b)前記細胞集団を、TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地で培養した後、FGF2及びBMP4を添加していない培地で培養する工程、
を含む製造方法。
(11) 2-メルカプトエタノールを含む培地が、アクチビンAを添加していない培地である、(10)に記載の製造方法。
(12) 2-メルカプトエタノールを含む培地が、WNTシグナル活性化剤を添加していない培地である、(10)又は(11)に記載の製造方法。
(13) 2-メルカプトエタノールを含む培地が、FGF2を添加していない培地である、(10)から(12)のいずれか一に記載の製造方法。
(14) 2-メルカプトエタノールを含む培地が、TGFβ1を添加していない培地である、(10)から(13)のいずれか一に記載の製造方法。
(15) 2-メルカプトエタノールを含む培地が、さらにインスリンを含む培地である(10)から(14)のいずれか一に記載の製造方法。
(16) FGF2及びBMP4を添加していない培地が、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム及びエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1種類以上を含む培地である(10)から(15)のいずれか一に記載の製造方法。
(17) TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地が、さらに2-メルカプトエタノールを含む培地である(10)から(16)のいずれか一に記載の方法。
(18) TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地が、グルコースを1.0g/L以下の濃度で含有する培地である、(10)から(17)のいずれか一に記載の方法。
【0013】
(19) 多能性幹細胞から三胚葉のいずれかの細胞集団を製造する方法であって、以下に示す(a)~(b):
(a)多能性幹細胞を2-メルカプトエタノールを含む培地を用いて浮遊培養し、細胞集団を調製する工程、
(b)前記細胞集団を、内胚葉系細胞、中胚葉系細胞、又は外胚葉系細胞のいずれかに分化誘導できる条件下で培養する工程、
を含む製造方法。
(20) 2-メルカプトエタノールを含む培地が、FGF2を添加していない培地である、(19)に記載の製造方法。
(21) 2-メルカプトエタノールを含む培地が、TGFβ1を添加していない培地である、(19)又は(20)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の内胚葉系細胞集団は、細胞集団における未分化細胞の含有率が低減されており、且つ、細胞治療製剤として最適な体細胞へと分化可能な内胚葉系細胞を含む細胞集団である。さらに、本発明の内胚葉系細胞集団に由来する体細胞は、細胞治療製剤として優れた治療効果を有する。さらに、本発明の製造方法は、細胞集団における未分化細胞の含有率を低減し、且つ、細胞治療製剤として最適な体細胞へと分化可能な細胞集団が得られることから、高品質な細胞治療製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、多能性幹細胞の接着培養と浮遊培養における未分化マーカー及び原始腸管細胞(PGT)マーカーの発現を解析した結果を示す。
【
図2】
図2は、多能性幹細胞の接着培養と浮遊培養におけるSOX17の発現を解析した結果を示す。
【
図3】
図3は、多能性幹細胞の接着培養と浮遊培養におけるEpCAM及びVIMの発現を解析した結果を示す。
【
図4】
図4は、糖尿病モデルマウスへの細胞移植実験における血中c-petide濃度の測定結果を示す。
【
図5】
図5は、糖尿病モデルマウスへの細胞移植実験における随時血糖値の測定結果を示す。
【
図6】
図6は、ヒトiPS細胞から内胚葉系細胞への分化誘導におけるOCT4、SOX17及びFOXA2の発現レベルの測定結果を示す。
【
図7】
図7は、ヒトiPS細胞から内胚葉系細胞への分化誘導におけるSOX2及びSXO17の陽性細胞の割合を測定した結果を示す。
【
図8】
図8は、ヒトiPS細胞から内胚葉系細胞への分化誘導におけるDay5における細胞密度を示す。
【
図9】
図9は、ヒトiPS細胞から内胚葉系細胞への分化誘導におけるSOX17及びFOXA2の陽性細胞の割合を測定した結果を示す。
【
図10】
図10は、多能性幹細胞の接着培養と浮遊培養におけるFibronectin-1(FN1)の発現を解析した結果を示す。
【
図11】
図11は、多能性幹細胞の接着培養と浮遊培養におけるCyclin D1の発現を解析した結果を示す。
【
図12】
図12は、多能性幹細胞の接着培養と浮遊培養におけるCD44の発現を解析した結果を示す。
【
図13】
図13は、多能性幹細胞の接着培養と浮遊培養におけるmatrix metallopeptidase2(MMP2)の発現を解析した結果を示す。
【
図14】
図14は、多能性幹細胞の接着培養と浮遊培養におけるびinsulin receptor substrate1(IRS1)の発現を解析した結果を示す。
【
図15】
図15は、多能性幹細胞を異なるグルコース濃度で分化誘導した場合における細胞密度を示す。
【
図16】
図16は、多能性幹細胞を異なるグルコース濃度で分化誘導した場合におけるSOX2及びNanogの発現を解析した結果を示す。
【
図17】
図17は、多能性幹細胞を異なるグルコース濃度で分化誘導した場合におけるSOX2の発現を解析した結果を示す。
【
図18】
図18は、多能性幹細胞を異なるグルコース濃度で分化誘導した場合におけるSOX17の発現を解析した結果を示す。
【
図19】
図19は、多能性幹細胞を異なるグルコース濃度で分化誘導した場合におけるSOX2及びSOX17の陽性率を測定した結果を示す。
【
図20】
図20は、多能性幹細胞を異なるグルコース濃度で分化誘導した場合におけるSOX2及びSOX17の陽性率を測定した結果を示す。
【
図21】
図21は、多能性幹細胞を異なるグルコース濃度で分化誘導した場合におけるSOX2及びSOX17の発現を解析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、下記の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が下記の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0017】
本発明の培地に関して、「を添加していない」という用語は、培養物又は馴化培地において添加していないと特定されたタンパク質、ペプチド及び化合物等の因子を外因的に加えないことを指す。なお、培養物又は馴化培地において添加していないと特定されたタンパク質、ペプチド及び化合物等の因子が培養の連続的な操作により持ち込んでいる場合は、1%未満(体積/体積)、0.5%(体積/体積)未満、0.1%(体積/体積)未満、0.05%(体積/体積)未満、0.01%(体積/体積)未満、0.001%(体積/体積)未満になるように調整する。
【0018】
本発明の細胞集団に関して、「が低減している」という用語は、細胞集団において含まれないと特定された細胞型(細胞表面マーカーの陽性や陰性の割合でもよい)が、細胞集団の総数において、30%未満、20%未満、10%未満、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.9%未満、0.8%未満、0.7%未満、0.6%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満、0.1%未満の量で存在することを意味する。
【0019】
本発明の遺伝子発現量に関して、「が向上している」という用語は、比較対象となる細胞集団における特定の遺伝子発現量よりも遺伝子の発現が増加していることを指し、比較対象となる細胞集団に対して、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、1.6倍以上、1.7倍以上、1.8倍以上、1.9倍以上、2.0倍以上、2.1倍以上、2.2倍以上、2.3倍以上、2.4倍以上、2.5倍以上、2.6倍以上、2.7倍以上、2.8倍以上、2.9倍以上、3.0倍以上、3.1倍以上、3.2倍以上、3.3倍以上、3.4倍以上、3.5倍以上、3.6倍以上、3.7倍以上、3.8倍以上、3.9倍以上、4.0倍以上、4.1倍以上、4.2倍以上、4.3倍以上、4.4倍以上、4.5倍以上、4.6倍以上、4.7倍以上、4.8倍以上、4.9倍以上、5.0倍以上、5.1倍以上、5.2倍以上、5.3倍以上、5.4倍以上、5.5倍以上、5.6倍以上、5.7倍以上、5.8倍以上、5.9倍以上、6.0倍以上、6.1倍以上、6.2倍以上、6.3倍以上、6.4倍以上、6.5倍以上、6.6倍以上、6.7倍以上、6.8倍以上、6.9倍以上、7.0倍以上、7.1倍以上、7.2倍以上、7.3倍以上、7.4倍以上、7.5倍以上、7.6倍以上、7.7倍以上、7.8倍以上、7.9倍以上、8.0倍以上、8.1倍以上、8.2倍以上、8.3倍以上、8.4倍以上、8.5倍以上、8.6倍以上、8.7倍以上、8.8倍以上、8.9倍以上、9.0倍以上、9.1倍以上、9.2倍以上、9.3倍以上、9.4倍以上、9.5倍以上、9.6倍以上、9.7倍以上、9.8倍以上、9.9倍以上、10.0倍以上である。
【0020】
本発明の遺伝子発現量に関して、「が減少している」という用語は、比較対象となる細胞集団における特定の遺伝子発現量よりも遺伝子の発現が減少していることを指し、比較対象となる細胞集団に対して、1.1倍以下、1.2倍以下、1.3倍以下、1.4倍以下、1.5倍以下、1.6倍以下、1.7倍以下、1.8倍以下、1.9倍以下、2.0倍以下、2.1倍以下、2.2倍以下、2.3倍以下、2.4倍以下、2.5倍以下、2.6倍以下、2.7倍以下、2.8倍以下、2.9倍以下、3.0倍以下、3.1倍以下、3.2倍以下、3.3倍以下、3.4倍以下、3.5倍以下、3.6倍以下、3.7倍以下、3.8倍以下、3.9倍以下、4.0倍以下、4.1倍以下、4.2倍以下、4.3倍以下、4.4倍以下、4.5倍以下、4.6倍以下、4.7倍以下、4.8倍以下、4.9倍以下、5.0倍以下、5.1倍以下、5.2倍以下、5.3倍以下、5.4倍以下、5.5倍以下、5.6倍以下、5.7倍以下、5.8倍以下、5.9倍以下、6.0倍以下、6.1倍以下、6.2倍以下、6.3倍以下、6.4倍以下、6.5倍以下、6.6倍以下、6.7倍以下、6.8倍以下、6.9倍以下、7.0倍以下、7.1倍以下、7.2倍以下、7.3倍以下、7.4倍以下、7.5倍以下、7.6倍以下、7.7倍以下、7.8倍以下、7.9倍以下、8.0倍以下、8.1倍以下、8.2倍以下、8.3倍以下、8.4倍以下、8.5倍以下、8.6倍以下、8.7倍以下、8.8倍以下、8.9倍以下、9.0倍以下、9.1倍以下、9.2倍以下、9.3倍以下、9.4倍以下、9.5倍以下、9.6倍以下、9.7倍以下、9.8倍以下、9.9倍以下、10.0倍以下、20倍以下、30倍以下、40倍以下、50倍以下、60倍以下、70倍以下、80倍以下、90倍以下、100倍以下、250倍以下、500倍以下、750倍以下、1000倍以下、5000倍以下、10000倍以下である。
【0021】
本発明の凝集体に関して、「凝集塊」または「クラスター」という用語に言い換えて使用することができ、単細胞に解離していない一群の細胞を一般的に指す。
【0022】
[1]多能性幹細胞
本発明の製造方法においては、多能性幹細胞を培養することによって三胚葉(内胚葉系細胞、中胚葉系細胞、又は外胚葉系細胞)の細胞集団を製造する。
多能性幹細胞とは、生体を構成する全ての種類の細胞に分化することができる多分化能(多能性)を有する細胞であって、適切な条件下のインビトロ(in vitro)での培養において多能性を維持したまま無限に増殖を続けることができる細胞をいう。具体的には胚性幹細胞(ES細胞)、胎児の始原生殖細胞由来の多能性幹細胞(EG細胞:Proc Natl Acad Sci U S A.1998,95:13726-31)、精巣由来の多能性幹細胞(GS細胞:Nature.2008,456:344-9)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS細胞)、体性幹細胞(組織幹細胞)などが挙げられる。多能性幹細胞は、好ましくは、iPS細胞又はES細胞であり、より好ましくはiPS細胞である。なお、「胚(embryonic)」とは、配偶子融合によって導出された胚に加えて、体細胞核移植によって、導出された胚も指す。
【0023】
ES細胞としては、任意の温血動物、好ましくは哺乳動物に由来する細胞を使用できる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、又はヒトが挙げられる。好ましくはヒトに由来する細胞を使用できる。
【0024】
ES細胞の具体例としては、着床以前の初期胚を培養することによって樹立した哺乳動物等のES細胞、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立したES細胞、及びこれらのES細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて改変したES細胞が挙げられる。各ES細胞は当分野で通常実施されている方法や、公知文献に従って調製することができる。 マウスのES細胞は、1981年にエバンスら(Evans et al.,1981,Nature 292:154-6)や、マーチンら(Martin GR.et al.,1981,Proc Natl Acad Sci 78:7634-8)によって樹立されている。 ヒトのES細胞は、1998年にトムソンら(Thomson et al.,Science,1998,282:1145-7)によって樹立されており、WiCell研究施設(WiCell Research Institute、ウェブサイト:http://www.wicell.org/、マジソン、ウイスコンシン州、米国)、米国国立衛生研究所(National Institute of Health)、京都大学などから入手可能であり、例えばCellartis社(ウェブサイト:http://www.cellartis.com/、スウェーデン)から購入可能である。
【0025】
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、体細胞を初期化することによって得られる多能性を有する細胞である。iPS細胞の作製は、京都大学の山中伸弥教授らのグループ、マサチューセッツ工科大学のルドルフ・ヤニッシュ(Rudolf Jaenisch)らのグループ、ウイスコンシン大学のジェームス・トムソン(James Thomson)らのグループ、ハーバード大学のコンラッド・ホッケドリンガー(Konrad Hochedlinger)らのグループなどを含む複数のグループが成功している。例えば、国際公開WO2007/069666号公報には、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子、並びにOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子が記載されており、さらに体細胞に上記核初期化因子を接触させる工程を含む、体細胞の核初期化により誘導多能性幹細胞を製造する方法が記載されている。
【0026】
iPS細胞の製造に用いる体細胞の種類は特に限定されず、任意の体細胞を用いることができる。即ち、体細胞とは、生体を構成する細胞の内生殖細胞以外の全ての細胞を包含し、分化した体細胞でもよいし、未分化の幹細胞でもよい。体細胞の由来は、哺乳動物、鳥類、魚類、爬虫類、両生類の何れでもよく特に限定されないが、好ましくは哺乳動物(例えば、マウスなどのげっ歯類、又はヒトなどの霊長類)であり、特に好ましくはマウス又はヒトである。また、ヒトの体細胞を用いる場合、胎児、新生児又は成人の何れの体細胞を用いてもよい。体細胞の具体例としては、例えば、線維芽細胞(例えば、皮膚線維芽細胞)、上皮細胞(例えば、胃上皮細胞、肝上皮細胞、肺胞上皮細胞)、内皮細胞(例えば血管、リンパ管)、神経細胞(例えば、ニューロン、グリア細胞)、膵臓細胞、白血球細胞(B細胞、T細胞等)、骨髄細胞、筋肉細胞(例えば、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞)、肝実質細胞、非肝実質細胞、脂肪細胞、骨芽細胞、歯周組織を構成する細胞(例えば、歯根膜細胞、セメント芽細胞、歯肉線維芽細胞、骨芽細胞)、腎臓・眼・耳を構成する細胞などが挙げられる。
【0027】
iPS細胞は、所定の培養条件下(例えば、ES細胞を培養する条件下)において長期にわたって自己複製能を有し、また所定の分化誘導条件下において外胚葉系細胞、中胚葉系細胞又は内胚葉系細胞への何れにも多分化能を有する幹細胞である。また、iPS細胞はマウスなどの試験動物に移植した場合にテラトーマを形成する能力を有する幹細胞でもよい。
【0028】
体細胞からiPS細胞を製造するためには、まず、少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する。初期化遺伝子とは、体細胞を初期化してiPS細胞とする作用を有する初期化因子をコードする遺伝子である。初期化遺伝子の組み合わせの具体例としては、以下の組み合わせをあげることができるが、これらに限定されるものではない。
(i)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子
(ii)Oct遺伝子、Sox遺伝子、NANOG遺伝子、LIN28遺伝子
(iii)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子、hTERT遺伝子、SV40 largeT遺伝子
(iv)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子
【0029】
上記以外にも、導入遺伝子をさらに減らした方法(Nature.2008 Jul 31;454(7204):646-50)、低分子化合物を利用した方法(Cell Stem Cell.2009 Jan 9;4(1):16-9、Cell Stem Cell.2009 Nov 6;5(5):491-503)、遺伝子の代わりに転写因子タンパク質を利用した方法(Cell Stem Cell.2009 May 8;4(5):381-4)などが報告されており、いずれの方法で製造されたiPS細胞でもよい。
【0030】
[2]三胚葉
本発明の方法によれば、多能性幹細胞から、内胚葉系細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞などの三胚葉のいずれかの細胞集団が製造される。
三胚葉としては、内胚葉系細胞、中胚葉系細胞、及び外胚葉系細胞が挙げられる。
内胚葉系細胞は、消化管、肺、甲状腺、膵臓、肝臓などの器官の組織、消化管に開口する分泌腺の細胞、腹膜、胸膜、喉頭、耳管、気管、気管支、尿路(膀胱、尿道の大部分、尿管の一部)などへと分化する能力を有し、一般的に、胚体内胚葉(DE)と言われることがある。多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化は、内胚葉系細胞に特異的な遺伝子の発現量を測定することにより確認することができる。内胚葉系細胞に特異的な遺伝子としては、例えば、SOX17、FOXA2、CXCR4、AFP、GATA4、EOMES等を挙げることができる。なお、本明細書中において、内胚葉系細胞を胚体内胚葉と言い換えて使用することがある。
【0031】
中胚葉系細胞は、体腔及びそれを裏打ちする中皮、筋肉、骨格、皮膚真皮、結合組織、心臓、血管(血管内皮も含む)、血液(血液細胞も含む)、リンパ管、脾臓、腎臓、尿管、性腺(精巣、子宮、性腺上皮)などへと分化する。中胚葉系細胞に特異的な遺伝子としては、例えば、MESP1、MESP2、FOXF1、BRACHYURY、HAND1、EVX1、IRX3、CDX2、TBX6、MIXL1、ISL1、SNAI2、FOXC1及びPDGFRα等を挙げることができる。
【0032】
外胚葉系細胞は、皮膚の表皮や男性の尿道末端部の上皮、毛髪、爪、皮膚腺(乳腺、汗腺を含む)、感覚器(口腔、咽頭、鼻、直腸の末端部の上皮を含む、唾液腺)水晶体などを形成する。外胚葉系細胞の一部は発生過程で溝状に陥入して神経管を形成し、脳や脊髄などの中枢神経系のニューロンやメラノサイトなどの元にもなる。また末梢神経系も形成する。外胚葉系細胞に特異的な遺伝子としては、例えば、FGF5、OTX2、SOX1、PAX6等を挙げることができる。
【0033】
本発明の方法で製造される三胚葉細胞集団は、内胚葉系細胞集団、中胚葉系細胞集団又は外胚葉系細胞集団の何れでもよいが、特に好ましくは内胚葉系細胞集団である。
【0034】
本発明の方法によれば、多能性幹細胞から分化誘導された内胚葉系細胞集団を用いて、例えば、膵臓、肝臓、胃、腸などの消化器系の治療に用いることができる体細胞を得ることができる。以下に、各消化器系の治療における実施形態の一つを例示するが、これらに限定されるわけではない。
腸系では、クリプト細胞などの腸前駆細胞を得た場合には、これをカテーテルなどで移植することにより、潰瘍性大腸炎、クローン病、短腸症などの治療へ利用できる。
膵臓系では、膵臓β細胞(インスリン産生細胞と言い換える場合がある)を得た場合には、これをカテーテルなどであるいは免疫隔離デバイス等に封入して移植することにより、糖尿病の治療へ利用できる。
肝臓系では、例えばアルブミン産生細胞を得た場合には、これをカテーテルなどであるいは免疫遮断デバイスに封入して移植することにより、大量出血を伴う外傷治療などへ利用できる。
【0035】
また、膵臓、肝臓、胃、腸などの消化器系における治療用組織を、高分子支持担体などを利用して培養することにより得ることもできる。例えば、肝臓組織を誘導して得た場合は、肝癌、肝硬変、急性肝不全や、ヘモクロマトーシスなどの肝代謝障害の治療へ利用できる。肺細胞組織を得た場合、これを患部へ移植することにより嚢胞性線維症や喘息などの肺呼吸器疾患治療へ利用できる。腎臓系では、メサンギウム細胞や尿細管上皮細胞、糸球体細胞など含む組織を得た場合、これを直接移植することにより、腎不全や腎炎の治療や透析治療などへ利用できる。肝臓系の、物質代謝が可能な細胞を得ることにより、アルブミン産生細胞、血液凝固因子産生細胞、α1アンチトリプシンなどの代謝酵素産生細胞を作製し、産生した代謝酵素を直接注射するか点滴投与することにより、これらのタンパク質の欠乏症の治療に用いることができる。例えば、膵臓β細胞などの物質代謝が可能な膵臓系の細胞を得ることにより、その膵臓β細胞が産生したインスリンを直接注射することにより、I型糖尿病の治療に用いることもできる。
【0036】
さらに、本発明の方法で得られる三胚葉の何れの細胞集団ならびにそこから得られる体細胞は、被検物質の薬効/毒性評価や作用メカニズムの解明、あるいは生物現象メカニズムの解析に用いることも可能である。
【0037】
[3]多能性幹細胞の維持培養
本発明の方法に従って多能性幹細胞の分化誘導を行う前の多能性幹細胞は、未分化維持培地を用いて未分化性を維持したものとすることが好ましい。未分化維持培地を用いて多能性幹細胞の未分化性を維持する培養のことを、多能性幹細胞の維持培養ともいう。
【0038】
未分化維持培地は、多能性幹細胞の未分化性を維持できる培地であれば特に限定されないが、例えば、マウス胚性幹細胞及びマウス人工多能性幹細胞の未分化性を維持する性質を有していることが知られているleukemia inhibitory factorを含む培地や、ヒトiPSの未分化性を維持する性質を有していることが知られているbasic FGF(Fibroblast growth factor)を含む培地等が挙げられる。例えば、ヒトiPS細胞培地(20%Knockout serum replacement(KSR;Gibco社)、1xnon-essential amino acids(NEAA;Wako社)、55μmol/L 2-メルカプトエタノール(2-ME;Gibco社)、7.5ng/mL recombinant human fibroblast growth factor2(FGF2;Peprotech社)、0.5xPenicillin and Streptomycin(PS;Wako社)を含むDMEM/Ham’s F12(Wako社)、又はEssentail8培地(Thermo Fisher Scientific社)、STEMPRO(登録商標) hESC SFM(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)、mTeSR1(Veritas社)、TeSR2(Veritas社)、StemFit(登録商標)等を使用することができるが、特に限定されない。
【0039】
多能性幹細胞の維持培養は、好適なフィーダー細胞(例えば、SL10フィーダー細胞、SNLフィーダー細胞等)上において上記の未分化維持培地を用いて行うことができる。また、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン又はマトリゲル等の細胞接着タンパク質や細胞外マトリックスをコートした細胞培養用ディッシュ上においても上記した未分化維持培地を用いて行うことができる。
【0040】
培養温度は、使用する多能性幹細胞の培養に適した培養温度であれば、特に限定されないが、一般的には30℃~40℃であり、好ましくは約37℃である。
CO2インキュベーターなどを利用して、約1~10%、好ましくは5%のCO2濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0041】
多能性幹細胞の維持培養は継代しながら所望の期間行うことができ、例えば、維持培養後の継代数1~100、好ましくは継代数10~50、より好ましくは継代数25~40の多能性幹細胞を用いて、凝集体の形成や分化誘導を行うことが好ましい。
【0042】
[4]多能性幹細胞の浮遊培養による凝集体の形成
多能性幹細胞の凝集体を形成するための実施形態の一つとしては、未分化で維持培養している細胞をCTKSolution(Dissociation Solution for human ES/iPS Cells:リプロセル社)等によりフィーダー細胞から剥がし、3~4回ヒトiPS細胞培地でリンスをしてフィーダー細胞を除くことができる。次いで、ピペッティングにより小さな細胞塊又はシングルセルに砕き、それら細胞を培地中に懸濁した後に、懸濁液中の多能性幹細胞が凝集体を形成するまでの期間にわたって攪拌又は旋回させながら浮遊培養する。
【0043】
浮遊培養は、培地の粘性等や凹凸を有するマイクロウェル等を用いた静置培養であってもよいし、スピナー等を利用して液体培地が流動する条件での培養であってもよいが、好ましくは液体培地が流動する条件での培養である。液体培地が流動する条件での培養としては、細胞の凝集を促進するように液体培地が流動する条件での培養が好ましい。細胞の凝集を促進するように液体培地が流動する条件での培養としては、例えば、旋回流、揺動流等の流れによる応力(遠心力、求心力)により細胞が一点に集まるように液体培地が流動する条件での培養や、直線的な往復運動により液体培地が流動する条件での培養が挙げられ、旋回流及び/又は揺動流を利用した培養が特に好ましい。
【0044】
浮遊培養に用いる培養容器は、好ましくは容器内面への細胞の接着性が低い容器が好ましい。このような容器内面への細胞の接着性が低い容器としては、例えば生体適合性がある物質で親水性表面処理されているようなプレートが挙げられる。例えば、NunclonTMSphera(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を使用できるが特に限定はされない。また、 培養容器の形状は特に限定されないが、例えば、ディッシュ状、フラスコ状、ウェル状、バッグ状、スピナーフラスコ状等の形状の培養容器が挙げられる。
【0045】
凝集体を形成させる期間としては、6時間を超える期間であれば特に限定されないが、具体的には、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、または2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間の期間において凝集体を形成させることが好ましい。
【0046】
浮遊培養培地としては、多能性幹細胞を増殖可能な成分が含まれるのであれば特に限定されないが、1~100μMのY-27632(Cayman社)を含むmTeSR1(Veritas社)培地、又は1~100μMのY-27632(Cayman社)、1~100mg/mL BSAを含むEssential8TMなどを使用することができる。
【0047】
浮遊培養における攪拌又は旋回の条件としては、懸濁液中において多能性幹細胞が凝集体を形成し得る範囲であれば特に限定されないが、上限は、好ましくは200rpm、より好ましくは150rpm、さらに好ましくは120rpm、より好ましくは115rpm、より好ましくは110rpm、より好ましくは105rpm、もっと好ましくは100rpm、より好ましくは95rpm、特に好ましくは90rpmとすることができる。下限は好ましくは1rpm、より好ましくは10rpm、さらに好ましくは50rpm、より好ましくは60rpm、より好ましくは70rpm、さらに好ましくは80rpmもっと好ましくは90rpmとすることができる。旋回培養の際の旋回幅は特に限定されないが、下限は、例えば1mm、好ましくは10mm、より好ましくは20mm、最も好ましくは25mmとすることができる。旋回幅の上限は、例えば200mm、好ましくは100mm、好ましくは50mm、より好ましくは30mm、最も好ましくは25mmとすることができる。旋回培養の際の回転半径もまた特に限定されないが、好ましくは旋回幅が前記の範囲となるように設定される。回転半径の下限は例えば5mm、好ましくは10mmであり、上限は例えば100mm、好ましくは50mmとすることができる。旋回培養の条件をこの範囲とすることで、適切な寸法の細胞凝集体を製造することが容易となるため好ましい。
【0048】
また、浮遊培養は、揺動(ロッキング)撹拌により液体培地を流動させながら行う揺動培養であってもよい。揺動培養は、液体培地と細胞を収容した培養容器を概ね水平面に垂直な平面内で揺動させることにより行う。揺動速度は特に限定されないが、例えば1分間に2~50回、好ましくは4~25回(一往復を1回とする)揺動させることができる。揺動角度は特に限定されないが、例えば0.1°~20°、より好ましくは2°~10°とすることができる。揺動培養の条件をこの範囲とすることで、適切な寸法の細胞凝集塊を製造することが可能となるため好ましい。
【0049】
更に、上記のような旋回と揺動とを組み合わせた運動により撹拌しながら培養することもできる。
【0050】
スピナーフラスコ状の培養容器を用いた浮遊培養は、培養容器の中に攪拌翼を使用して、液体培地を攪拌しながら行う培養である。回転数や培地量は特に限定されない。市販のスピナーフラスコ状の培養容器であれば、メーカー推奨の培養液量を好適に使用することができ、例えばエイブル社のスピナーフラスコ等も好適に用いることができる。
【0051】
本発明において、浮遊培養における細胞の播種密度は、細胞が凝集体を形成する播種密度であれば特に限定されないが、1×105~1×107cells/mLであることが好ましい。細胞の播種密度は、2×105cells/mL以上、3×105cells/mL以上、4×105cells/mL以上、又は5×105cells/mL以上が好ましく、9×106cells/mL以下、8×106cells/mL以下、7×106cells/mL以下、6×106cells/mL以下、5×106cells/mL以下、4×106cells/mL以下、3×106cells/mL以下、2×106cells/mL以下、1.9×106cells/mL以下、1.8×106cells/mL以下、1.7×106cells/mL以下、1.6×106cells/mL以下、1.5×106cells/mL以下が好ましい。特に、5×105cells/mLから1.5×106cells/mLの範囲の細胞密度が好適である。
【0052】
細胞の凝集体は、凝集体当たり数百から数千の細胞を含む。本発明において、細胞凝集体の大きさ(直径)は、特に限定されないが、例えば、50μm以上、55μm以上、60μm以上、65μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、100μm以上、110μm以上、120μm以上、130μm以上、140μm以上、150μm以上、であり、且つ、1000μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下が挙げられる。150μm~400μmの範囲の直径を有する細胞凝集体は本発明で好適である。上記範囲以外の直径を有する細胞凝集体が混在していても良い。
【0053】
浮遊培養の際の培養液量は使用する培養容器によって適宜調整することができるが、例えば12ウェルプレート(1ウェルあたりの平面視でのウェル底面の面積が3.5cm2)を使用する場合は0.5ml/ウェル以上、1.5ml/ウェル以下とすることができ、より好ましくは1ml/ウェルとすることができる。例えば6ウェルプレート(1ウェルあたりの平面視でのウェル底面の面積が9.6cm2)を使用する場合は、1.5mL/ウェル以上、好ましくは2mL/ウェル以上、より好ましくは3mL/ウェル以上とすることができ、6.0mL/ウェル以下、好ましくは5mL/ウェル以下、より好ましくは4mL/ウェル以下とすることができる。例えば125mL三角フラスコ(容量が125mLの三角フラスコ)を使用する場合は、10mL/容器以上、好ましくは15mL/容器以上、より好ましくは20mL/容器以上、より好ましくは25mL/容器以上、より好ましくは20mL/容器以上、より好ましくは25mL/容器以上、より好ましくは30mL/容器以上とすることができ、50mL/容器以下、より好ましくは45mL/容器以下、より好ましくは40mL/容器以下とすることができる。例えば500mL三角フラスコ(容量が500mLの三角フラスコ)を使用する場合は、100mL/容器以上、好ましくは105mL/容器以上、より好ましくは110mL/容器以上、より好ましくは115mL/容器以上、より好ましくは120mL/容器以上とすることができ、150mL/容器以下、より好ましくは145mL/容器以下、より好ましくは140mL/容器以下、より好ましくは135mL/容器以下、より好ましくは130mL/容器以下、より好ましくは125mL/容器以下とすることができる。例えば1000mL三角フラスコ(容量が1000mLの三角フラスコ)を使用する場合は、250mL/容器以上、好ましくは260mL/容器以上、より好ましくは270mL/容器以上、より好ましくは280mL/容器以上、より好ましくは290mL/容器以上とすることができ、350mL/容器以下、より好ましくは340mL/容器以下、より好ましくは330mL/容器以下、より好ましくは320mL/容器以下、より好ましくは310mL/容器以下とすることができる。例えば2000mL三角フラスコ(容量が2000mLの三角フラスコ)の場合は、500mL/容器以上、より好ましくは550mL/容器以上、より好ましくは600mL/容器以上とすることができ、1000mL/容器以下、より好ましくは900mL/容器以下、より好ましくは800mL/容器以下、より好ましくは700mL/容器以下とすることができる。例えば3000mL三角フラスコ(容量が3000mLの三角フラスコ)の場合は、1000mL/容器以上、好ましくは1100mL/容器以上、より好ましくは1200mL/容器以上、より好ましくは1300mL/容器以上、より好ましくは1400mL/容器以上、より好ましくは1500mL/容器以上とすることができ、2000mL/容器以下、より好ましくは1900mL/容器以下、より好ましくは1800mL/容器以下、より好ましくは1700mL/容器以下、より好ましくは1600mL/容器以下とすることができる。例えば2L培養バッグ(容量が2Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、100mL/バッグ以上、より好ましくは200mL/バッグ以上、より好ましくは300mL/バッグ以上、より好ましくは400mL/バッグ以上、より好ましくは500mL/バッグ以上、より好ましくは600mL/バッグ以上、より好ましくは700mL/バッグ以上、より好ましくは800mL/バッグ以上、より好ましくは900mL/バッグ以上、より好ましくは1000mL/バッグ以上とすることができ、2000mL/バッグ以下、より好ましくは1900mL/バッグ以下、より好ましくは1800mL/バッグ以下、より好ましくは1700mL/バッグ以下、より好ましくは1600mL/バッグ以下、より好ましくは1500mL/バッグ以下、より好ましくは1400mL/バッグ以下、より好ましくは1300mL/バッグ以下、より好ましくは1200mL/バッグ以下、より好ましくは1100mL/バッグ以下とすることができる。例えば10L培養バッグ(容量が10Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、500mL/バッグ以上、より好ましくは1L/バッグ以上、より好ましくは2L/バッグ以上、より好ましくは3L/バッグ以上、より好ましくは4L/バッグ以上、より好ましくは5L/バッグ以上とすることができ、10L/バッグ以下、より好ましくは9L/バッグ以下、より好ましくは8L/バッグ以下、より好ましくは7L/バッグ以下、より好ましくは6L/バッグ以下とすることができる。例えば、20L培養バッグ(容量が20Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、1L/バッグ以上、より好ましくは2L/バッグ以上、より好ましくは3L/バッグ以上、より好ましくは4L/バッグ以上、より好ましくは5L/バッグ以上、より好ましくは6L/バッグ以上、より好ましくは7L/バッグ以上、より好ましくは8L/バッグ以上、より好ましくは9L/バッグ以上、より好ましくは10L/バッグ以上とすることができ、20L/バッグ以下、より好ましくは19L/バッグ以下、より好ましくは18L/バッグ以下、より好ましくは17L/バッグ以下、より好ましくは16L/バッグ以下、より好ましくは15L/バッグ以下、より好ましくは14L/バッグ以下、より好ましくは13L/バッグ以下、より好ましくは12L/バッグ以下、より好ましくは11L/バッグ以下とすることができる。例えば50L培養バッグ(容量が50Lのディスポーザブル培養バッグ)の場合は、1L/バッグ以上、より好ましくは2L/バッグ以上、より好ましくは5L/バッグ以上、より好ましくは10L/バッグ以上、より好ましくは15L/バッグ以上、より好ましくは20L/バッグ以上、より好ましくは25L/バッグ以上とすることができ、50L/バッグ以下、より好ましくは45L/バッグ以下、より好ましくは40L/バッグ以下、より好ましくは35L/バッグ以下、より好ましくは30L/バッグ以下とすることができる。培養液量がこの範囲であるとき、適切な大きさの細胞凝集体が形成され易い。
【0054】
使用する培養容器の容量は適宜選択することができ特に限定されないが、液体培地を収容する部分の底面を平面視したときの面積として、下限が、例えば0.32cm2、好ましくは0.65cm2、より好ましくは0.65cm2、さらに好ましくは1.9cm2、もっと好ましくは3.0cm2、3.5cm2、9.0cm2、又は9.6cm2の培養容器を用いることができ、上限としては、例えば1000cm2、好ましくは500cm2、より好ましくは300cm2、より好ましくは150cm2、より好ましくは75cm2、もっと好ましくは55cm2、さらに好ましくは25cm2、さらにより好ましくは21cm2、さらにもっと好ましくは9.6cm2、又は3.5cm2の培養容器を用いることができる。
【0055】
培養温度は、使用する多能性幹細胞の培養に適した培養温度であれば、特に限定されないが、一般的には30℃~40℃であり、好ましくは約37℃である。
CO2インキュベーターなどを利用して、約1~10%、好ましくは5%のCO2濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0056】
[5]多能性幹細胞の前培養
上記多能性幹細胞の凝集体又は多能性幹細胞を三胚葉のいずれかの細胞集団に分化誘導する前に、2-メルカプトエタノールを含む培地を用いて浮遊培養し、細胞集団を調製する。
前培養に用いる培地は、細胞の種類に応じて、MEM培地、BME培地、DMEM培地、DMEM/F12培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM-160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地、RPMI1640培地、又はEssential 6TM培地(Thermo Fisher Scientific社)等を用いることができる。
【0057】
多能性幹細胞の前培養は、浮遊培養にて実施する。上述した浮遊培養の条件によって行うことができ、さらに、予めマイクロキャリア等に接着させて浮遊培養しても良いし、細胞のみで構成された細胞凝集塊の状態で浮遊培養しても良いし、細胞凝集塊の中にコラーゲン等の高分子が混在していても良く、形態は特に限定しない。
【0058】
前培養に用いる培地中における2-メルカプトエタノールの濃度としては、分化誘導の効率が向上する範囲であれば特に限定されないが、例えば、2-メルカプトエタノールの濃度として、1μM以上、2μM以上、5μM以上、10μM以上、20μM以上、30μM以上、40μM以上、又は50μM以上が好ましく、200μM以下、150μM以下、120μM以下、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、又は60μM以下が好ましい。
【0059】
前培養に用いる培地は、FGF2(Fibroblast Growth Factor 2)を添加していない培地であることも好ましい。FGF2を添加していない培地を使用することにより、三胚葉のいずれかの細胞集団への分化効率をより向上することができることが本発明により見出されている。
前培養に用いる培地は、TGFβ1(Transforming growth factor-β1)を添加していない培地であることも好ましい。TGFβ1を添加していない培地を使用することにより、三胚葉のいずれかの細胞集団への分化効率をより向上することができることが本発明により見出されている。
【0060】
前培養に用いる培地は、WNTシグナル活性化剤を添加していない培地であることも好ましい。WNTシグナル活性化剤を添加していない培地を使用することにより、三胚葉のいずれかの細胞集団への分化効率をより向上することができることが本発明により見出されている。
前培養に用いる培地は、アクチビンA(本明細書中において「ACTIVIN A」と言い換える場合がある)を添加していない培地であることも好ましい。アクチビンAを添加していない培地を使用することにより、三胚葉のいずれかの細胞集団への分化効率をより向上することができることが本発明により見出されている。
【0061】
前培養に用いる培地は、さらにインスリンを含む培地であることも好ましい。インスリンを含む培地を使用することにより、三胚葉のいずれかの細胞集団への分化効率をより向上することができることが本発明により見出されている。
【0062】
前培養用の培地には、アミノ酸、抗生物質、抗酸化剤、その他の添加物を加えてもよい。例えば0.1~2%(体積/体積)の非必須アミノ酸、0.1~2%(体積/体積)のペニシリン/ストレプトマイシン、0.1~20mg/mLのBSA又は1~20%(体積/体積)のKnockout serum replacement (KSR)などを添加してもよい。
【0063】
培養温度は、使用する多能性幹細胞の培養に適した培養温度であれば、特に限定されないが、一般的には30℃~40℃であり、好ましくは約37℃である。
CO2インキュベーターなどを利用して、約1~10%、好ましくは5%のCO2濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0064】
多能性幹細胞の前培養の培養期間は、多分化能が向上するまで培養する日数であれば特に限定されないが、例えば1週間を超えない期間であれば良い。より具体的には、6日未満、5日未満、4日未満、3日未満、または、6時間~48時間であり、12時間~36時間程度であり、18時間~24時間である。
【0065】
[6]三胚葉のいずれかの細胞集団への分化誘導
本発明においては、上記の前培養で得られた細胞集団を、内胚葉系細胞、中胚葉系細胞、又は外胚葉系細胞のいずれかに分化誘導できる条件下で培養することによって、三胚葉のいずれかの細胞集団を製造することができる。
【0066】
多能性幹細胞を三胚葉のいずれかの細胞集団に分化誘導する際には、分化誘導化培地を使用して多能性幹細胞の培養を行う。
分化誘導化培地としては、多能性幹細胞を分化誘導させる培地であれば特に限定されるものではないが、例えば、血清含有培地や、血清代替成分を含有した無血清培地等が挙げられる。
【0067】
用いる細胞の種類に応じて、霊長類ES/iPS細胞用培地(リプロセル培地)、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの培地から任意に選択した2種以上の培地を混合した培地などが使用できる。なお、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。
【0068】
分化誘導培地は、血清成分又は血清代替成分を含んでいてもよい。血清成分又は血清代替成分としては、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、脂肪酸、コラーゲン前駆体、微量元素(例えば亜鉛、セレン)、B-27サプリメント(Thermo Fisher Scientific社)、N2サプリメント、N21サプリメント(R&D Systems社)、NeuroBrew-21サプリメント(Miltenyibiotec社)、KSR2-メルカプトエタノール、3’チオールグリセロール、並びにこれらの均等物が挙げられる。
【0069】
分化誘導培地には、さらに各種の添加物、抗生物質、抗酸化剤などを加えてもよい。例えば、0.1mM~5mMのピルビン酸ナトリウム、0.1~2%(体積/体積)の非必須アミノ酸、0.1~2%(体積/体積)のペニシリン、0.1~2%(体積/体積)のストレプトマイシン、0.1~2%(体積/体積)のアンフォテリシンB、カタラーゼ、グルタチオン、ガラクトース、レチノイン酸(ビタミンA)、スーパーオキシドディスムターゼ、アスコルビン酸(ビタミンC)、D-α-トコフェロール(ビタミンE)などを添加してもよい。
【0070】
分化誘導培地にはさらに、分化誘導因子を添加する。分化誘導因子の詳細については後記する。
【0071】
分化誘導時における多能性幹細胞の培養は、浮遊培養であることが好ましい。細胞はマイクロキャリア等に接着させて浮遊培養しても良いし、細胞のみで構成された細胞凝集塊の状態で浮遊培養しても良いし、細胞凝集塊の中にコラーゲン等の高分子が混在していても良く、形態は特に限定しない。
【0072】
分化誘導のための培養における培養温度は、使用する多能性幹細胞の培養に適した培養温度であれば、特に限定されないが、一般的には30℃~40℃であり、好ましくは約37℃である。
CO2インキュベーターなどを利用して、約1~10%、好ましくは5%のCO2濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0073】
多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化培養の培養期間は、内胚葉系列の細胞特性が呈する細胞型になっているのであれば特に限定されないが、例えば、2週間以内であればよく、より具体的には2日以上8日以内であり、より好ましくは2日以上7日以内であり、さらに好ましくは3日以上6日以内であり、一例としては5日である。
【0074】
[7]内胚葉系細胞への分化誘導に用いる分化誘導因子、及びその他の添加物
本発明の内胚葉系細胞の製造方法においては、多能性幹細胞を、TGFβ(Transforming growth factor-β)スーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地で培養した後に、FGF2及びBMP4(Bone morphogenetic protein 4)を添加していない培地で培養する。
【0075】
TGFβスーパーファミリーシグナルとは、細胞増殖の調節、分化、広汎な生物学的システムでの発達において大変重要な役割を演じている。一般的に、リガンドにより惹起されるセリン/スレオニン受容体キナーゼの多量体形成と、骨形態発生蛋白(BMP)経路についてはSmad1/5/8 といった細胞内シグナル分子のリン酸化によって、また、TGFβ/アクチビン経路ならびにNODAL/アクチビン経路についてはSmad2/3のリン酸化によってシグナルは開始される。活性化受容体によるSmadsのカルボキシル基末端のリン酸化は、それらと共通のシグナルトランスデューサーであるSmad4とのパートナーを形成し、核への移行を促す。活性化Smadsは、転写因子とパートナーを組むことで様々な生物学的効果を制御し、細胞の状態に特異的な転写調節を行うが知られている。
TGFβスーパーファミリーシグナル経路に関与する遺伝子としては、BMP2遺伝子、BMP4遺伝子、BMP5遺伝子、BMP6遺伝子、BMP7遺伝子、BMP8遺伝子、GDF5(Growth differentiation factor 5)遺伝子、GDF6遺伝子、GDF7遺伝子、GDF8遺伝子、AMH(anti-mullerian hormone)遺伝子、paired like homeodomain 2(PITX2)遺伝子、及びNODAL遺伝子などが挙げられる。
【0076】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤としては、骨形態発生タンパク質(BMP)経路、TGFβ/アクチビン経路、及び/又はNODAL/アクチビン経路のシグナルを活性化する物質であれば特に限定されないが、
例えば、アクチビンA、FGF2、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8、GDF5、GDF6、GDF7、GDF8、AMH、PITX2、及び/又はNODALなどを用いることができる。特に、TGFβ/アクチビン経路のシグナルを活性化する物質を好適に用いることができ、具体的には、アクチビンA、FGF2及びBMP4からなる群から選択される少なくとも1種類を使用することが好ましく、アクチビンA、FGF2及びBMP4の全てを使用することが特に好ましい。
【0077】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地においてアクチビンAを使用する場合、アクチビンAの添加初期濃度は、好ましくは1ng/mL以上、2ng/mL以上、3ng/mL以上、5ng/mL以上、10ng/mL以上、20ng/mL以上、30ng/mL以上、40ng/mL以上、又は50ng/mL以上であり、好ましくは1,000ng/mL以下、900ng/mL以下、800ng/mL以下、700ng/mL以下、600ng/mL以下、500ng/mL以下、400ng/mL以下、300ng/mL以下、200ng/mL以下、150ng/mL以下又は100ng/mL以下である。
【0078】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地においてFGF2を使用する場合、FGF2の添加初期濃度は、好ましくは1ng/mL以上、2ng/mL以上、3ng/mL以上、5ng/mL以上、10ng/mL以上、20ng/mL以上、30ng/mL以上、又は40ng/mL以上であり、好ましくは1,000ng/mL以下、900ng/mL以下、800ng/mL以下、700ng/mL以下、600ng/mL以下、500ng/mL以下、400ng/mL以下、300ng/mL以下、200ng/mL以下、150ng/mL、100ng/mL以下、90ng/mL以下、80ng/mL以下、又は70ng/mL以下である。
【0079】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地においてBMP4を使用する場合、BMP4の添加初期濃度は、好ましくは1ng/mL以上、2ng/mL以上、3ng/mL以上、5ng/mL以上、6ng/mL以上、7ng/mL以上、8ng/mL以上、9ng/mL以上、10ng/mL以上、11ng/mL以上、12ng/mL以上、13ng/mL以上、14ng/mL以上、又は15ng/mL以上であり、好ましくは1,000ng/mL以下、900ng/mL以下、800ng/mL以下、700ng/mL以下、600ng/mL以下、500ng/mL以下、400ng/mL以下、300ng/mL以下、200ng/mL以下、150ng/mL、100ng/mL以下、90ng/mL以下、80ng/mL以下、70ng/mL以下、60ng/mL以下、50ng/mL以下、40ng/mL以下、又は30ng/mL以下である。
【0080】
FGF2及びBMP4を添加していない培地は、アクチビンAを含むことが好ましい。
FGF2及びBMP4を添加していない培地がアクチビンAを含む場合におけるアクチビンAの添加初期濃度は、好ましくは1ng/mL以上、2ng/mL以上、3ng/mL以上、5ng/mL以上、10ng/mL以上、20ng/mL以上、30ng/mL以上、40ng/mL以上、又は50ng/mL以上であり、好ましくは1,000ng/mL以下、900ng/mL以下、800ng/mL以下、700ng/mL以下、600ng/mL以下、500ng/mL以下、400ng/mL以下、300ng/mL以下、200ng/mL以下、150ng/mL以下又は100ng/mL以下である。
【0081】
FGF2及びBMP4を添加していない培地は、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム及びエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。
インスリンの添加濃度は、好ましくは0.001μg/mL以上、0.01μg/mL以上、0.05μg/mL以上、0.1μg/mL以上、0.2μg/mL以上であり、好ましくは10,000μg/mL以下、1,000μg/mL以下、100μg/mL以下、10μg/mL以下、9μg/mL以下、8μg/mL以下、7μg/mL以下、6μg/mL以下、5μg/mL以下、4μg/mL以下、3μg/mL以下、2μg/mL以下である。トランスフェリンの添加濃度は、好ましくは0.001μg/mL以上、0.01μg/mL以上、0.05μg/mL以上、0.06μg/mL以上、0.07μg/mL以上、0.08μg/mL以上、0.09μg/mL以上、0.1μg/mL以上、0.11μg/mL以上であり、好ましくは10,000μg/mL以下、1,000μg/mL以下、100μg/mL以下、10μg/mL以下、9μg/mL以下、8μg/mL以下、7μg/mL以下、6μg/mL以下、5μg/mL以下、4μg/mL以下、3μg/mL以下、2μg/mL以下、1.9μg/mL以下、1.8μg/mL以下、1.7μg/mL以下、1.6μg/mL以下、1.5μg/mL以下、1.4μg/mL以下、1.3μg/mL以下、1.2μg/mL以下、1.1μg/mL以下である。亜セレン酸ナトリウムの添加濃度は、好ましくは0.001ng/mL以上、0.01ng/mL以上、0.1ng/mL以上であり、好ましくは10,000ng/mL以下、1,000ng/mL以下、100ng/mL以下、10ng/mL以下、1ng/mL以下である。エタノールアミンの添加濃度は、好ましくは0.001μg/mL以上、0.01μg/mL以上、0.02μg/mL以上、0.03μg/mL以上、0.04μg/mL以上であり、好ましくは10,000μg/mL以下、1,000μg/mL以下、100μg/mL以下、10μg/mL以下、1μg/mL以下、0.9μg/mL以下、0.8μg/mL以下、0.7μg/mL以下、0.6μg/mL以下、0.5μg/mL以下、0.4μg/mL以下である。
【0082】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地は、さらに2-メルカプトエタノールを含むことが好ましい。2-メルカプトエタノールを作用することにより、内胚葉系細胞への分化誘導効率を高めることができる。
【0083】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地は、さらにWNTシグナル活性化剤を含むことが好ましい。
【0084】
WNTシグナルとは、β-カテニンの核移行を促し、転写因子としての機能を発揮する一連の作用をいう。WNTシグナルは細胞間相互作用に起因し、例えば、ある細胞から分泌されたWNT3Aというタンパクがさらに別の細胞に作用し、細胞内のβ-カテニンが核移行し、転写因子として作用する一連の流れが含まれる。一連の流れは上皮間葉相互作用を例とする器官構築の最初の現象を引き起こす。WNTシグナルはβ-カテニン経路、PCP経路、Ca2+経路の三つの経路を活性化することにより、細胞の増殖や分化、器官形成や初期発生時の細胞運動など各種細胞機能を制御することで知られる。
WNTシグナル経路に関与する遺伝子としては、WNT3A遺伝子などがある。
【0085】
WNTシグナル活性化剤としては、特に限定されないが、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(GSK-3)の阻害活性を示すものであればいかなるものでもよく、例えばビス-インドロ(インジルビン)化合物(BIO)((2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、そのアセトキシム類似体BIO-アセトキシム(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-アセトキシム)、チアジアゾリジン(TDZD)類似体(4-ベンジル-2-メチル-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン)、オキソチアジアゾリジン―3-チオン類似体(2,4-ジベンジル-5-オキソチアジアゾリジン-3-チオン)、チエニルα-クロロメチルケトン化合物(2-クロロ-1-(4,4-ジブロモ-チオフェン-2-イル)-エタノン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物(α-4-ジブロモアセトフェノン)、チアゾール含有尿素化合物(N-(4-メトキシベンジル)-N’-(5-ニトロ-1,3-チアゾール-2-イル)ユレア)やGSK-3βペプチド阻害剤、例えばH-KEAPPAPPQSpP-NH2、などを使用することができ、特に好ましくは、CHIR99021(CAS:252917-06-9)を使用することができる。WNT3Aも好適に用いることができる。
【0086】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地においてCHIR99021を使用する場合、添加初期濃度は、好ましくは0.01μM以上、0.02μM以上、0.03μM以上、0.04μM以上、0.05μM以上、0.1μM以上、0.2μM以上、0.3μM以上、0.4μM以上、0.5μM以上、0.6μM以上、0.7μM以上、0.8μM以上、0.9μM以上、1μM以上、又は2μM以上であり、好ましくは100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、45μM以下、40μM以下、35μM以下、30μM以下、25μM以下、20μM以下、15μM以下、10μM以下又は5μM以下である。より好ましくは3μMまたは4μMである。
【0087】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地は、少なくともグルコースを含む。前記培地中に含まれるグルコース濃度の下限は、細胞が増殖できる濃度であれば特に限定されないが、0.01g/L以上が好ましい。また、前記培地中に含まれるグルコース濃度の上限は、細胞が死滅しない濃度であれば特に限定されないが、例えば10g/L以下が好ましい。他の実施態様として、内胚葉系列の体細胞に効率的に分化させる観点においては、グルコースを2.0g/L未満で含有する培地が好ましい。TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地におけるグルコースの濃度は、1.0g/L以下でもよく、0.9g/L以下でもよく、0.8g/L以下、0.7g/L以下、0.6g/L以下でもよい。TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地がグルコースを含む場合における、グルコースの濃度の下限は特に限定されないが、0.01g/L以上でもよく、0.02g/L以上、0.05g/L以上、0.1g/L以上、0.2g/L以上、0.3g/L以上、0.4g/L以上、0.5g/L以上でもよい。
【0088】
TGFβスーパーファミリーシグナル活性化剤を含む培地、及び/又はFGF2及びBMP4を添加していない培地として、グルコースを1.0g/L以下の濃度で含有する培地を使用することによって、SOX2陽性細胞は減少し、SOX17陽性細胞が増加することから、体細胞に分化誘導するのにより好適な細胞集団を取得することができる。
【0089】
[8]内胚葉系細胞集団
本発明によれば、OAZ1遺伝子の発現量に対するNanog遺伝子の相対発現量が0.8以下であり、OAZ1遺伝子の発現量に対するHNF1B遺伝子の相対発現量が1.0以上であり、SOX17の陽性を呈する細胞の比率が80%以上である、内胚葉系細胞集団が提供される。
【0090】
OAZ1(ornithine decarboxylase antizyme 1, 遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:4946を参照)遺伝子の発現量に対するNanog(Nanog homeobox, 遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:79923を参照)遺伝子の相対発現量は0.8以下であるが、好ましくは0.7以下であり、0.65以下、0.6以下であり、0.55以下であり、0.5以下であり、0.45以下であり、0.4以下であり、0.35以下であってもよい。Nanogは未分化マーカーであることから、OAZ1遺伝子の発現量に対するNanog遺伝子の相対発現量が0.8以下であることは、未分化の度合いが低いこと、即ち、細胞集団において未分化細胞が低減していることを示していることから、効率的な分化誘導が行われていることを意味する。
【0091】
OAZ1遺伝子の発現量に対するHNF1B(hepatocyte nuclear factor 1 beta, 遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:6928を参照)遺伝子の相対発現量は1.0以上であるが、好ましくは1.1以上であり、1.2以上であり、1.5以上であり、1.7以上であり、2.0以上であり、2.3以上であり、2.5以上であってもよい。HNF1Bは原始腸管細胞(PGT)マーカーであることから、OAZ1遺伝子の発現量に対するHNF1B遺伝子の相対発現量が1.0以上であることは、内胚葉系列の体細胞に分化誘導するのにより好適な細胞集団であることを意味する。
【0092】
本発明の内胚葉系細胞集団においては、SOX17(sex determining region Y-box 17)の陽性を呈する細胞の比率は80%以上であるが、好ましくは85%以上であり、90%以上であり、91%以上であり、92%以上であり、93%以上であり、94%以上であり、95%以上であり、96%以上であり、97%以上であり、98%以上であり、99%以上であり、99.5以上であり99.9以上であってもよい。SOX17は内胚葉系マーカーであることから、SOX17の陽性を呈する細胞の比率が80%以上であることは、胚体内胚葉(DE)への分化誘導が効率的に行われていることを意味する。なお、SOX17の陽性を呈する細胞の比率を測定する場合においては、Becton, Dickinson and Company社の抗SOX17抗体(カタログ番号:562594)を用いることが好ましい。
【0093】
好ましくは、本発明の内胚葉系細胞集団においては、OAZ1遺伝子の発現量に対するHNF4A(octamer-binding transcription factor 4, 遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:3172を参照)遺伝子の相対発現量が0.5以上であるが、好ましくは0.6以上であり、0.65以上であり、0.7以上であり、0.75以上であり、1.0以上であり、1.5以上であり、2.0以上であり、2.3以上であり、3以上であってもよい。HNF4Aは原始腸管細胞(PGT)マーカーであることから、OAZ1遺伝子の発現量に対するHNF4A遺伝子の相対発現量が0.5以上であることは、内胚葉系列の体細胞に分化誘導するのにより好適な細胞集団であることを意味する。
【0094】
好ましくは、OAZ1遺伝子の発現量に対するEpCAM(epithelial cell adhesion molecule, 遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:4072を参照)遺伝子の相対発現量は0.6以上であり、より好ましくは0.7以上であり、0.8以上であり、0.9以上であり、1.0以上であり、1.1以上であり、1.2以上であり、1.3以上であり、1.5以上であり、2.0以上であってもよい。EpCAMは内胚葉系マーカーであることから、OAZ1遺伝子の発現量に対するEpCAM遺伝子の相対発現量は0.6以上であることは、内胚葉系列の体細胞に分化誘導するのにより好適な細胞集団であることを意味する。
【0095】
好ましくは、OAZ1遺伝子の発現量に対するVIM(vimentin, 遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:7431を参照)遺伝子の相対発現量は12以下であり、より好ましくは11以下であり、10以下であり、9以下であり、8以下であり、7以下であり、6以下であり、5以下であり、4以下であり、3.5以下であり、3.0以下であってもよい。VIMは、間充織マーカーであることから、OAZ1遺伝子の発現量に対するVIM遺伝子の相対発現量は12以下であることは、内胚葉系列の体細胞に分化誘導するのにより好適な細胞集団であることを意味する。
【0096】
好ましくは、OAZ1遺伝子の発現量に対するSOX2(sex determining region Y -box 2, 遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:6657を参照)遺伝子の相対発現量は0.11以下であり、より好ましくは0.10以下であり、0.07以下であり、0.05以下であり、0.01以下であり、0.006以下であり、0.0045以下でもあってもよい。SOX2は未分化マーカーであることから、OAZ1遺伝子の発現量に対するSOX2遺伝子の相対発現量が0.11以下であることは、未分化の度合いが低いこと、即ち、細胞集団において未分化細胞が低減していることを示していることから、効率的な分化誘導が行われていることを意味する。
【0097】
好ましくは、OAZ1遺伝子の発現量に対するc-Myc(v-myc avian myelocytomatosis viral oncogene homolog, 遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:4609を参照)遺伝子の相対発現量は0.1以下であり、より好ましくは0.095以下であり、0.05以下であり、0.045以下であり、0.035以下であり、0.02以下であり、0.015以下であり、0.01以下であってもよい。c-Mycは未分化マーカーであることから、OAZ1遺伝子の発現量に対するc-Myc遺伝子の相対発現量が0.1以下であることは、未分化の度合いが低いこと、即ち、細胞集団において未分化細胞が低減していることを示していることから、効率的な分化誘導が行われていることを意味する。
【0098】
好ましくは、OAZ1遺伝子の発現量に対するOCT4(octamer-binding transcription factor 4, 遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:5460を参照)遺伝子の相対発現量は0.4以下であり、より好ましくは0.35以下であり、0.3以下であり、0.25以下であり、0.2以下であり、0.15以下であり、0.1以下であり、0.05以下であり、0.01以下であってもよい。OCT4は未分化マーカーであることから、OAZ1遺伝子の発現量に対するOCT4遺伝子の相対発現量が0.4以下であることは、未分化の度合いが低いこと、即ち、細胞集団において未分化細胞が低減していることを示していることから、効率的な分化誘導が行われていることを意味する。
【0099】
好ましくは、OAZ1遺伝子の発現量に対するFibronectin-1(Fibronectin-1遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:2335を参照)遺伝子の相対発現量は1.0以上であり、より好ましくは1.1以上であり、1.2以上であり、1.3以上であり、1.4以上であり、1.5以上であり、1.6以上であってもよい。Fibronectin-1は、ECM(細胞外マトリックス:Extracellular matrix)レセプター相互作用に関与する分子である。ECMは細胞にとって足場になるだけではなく、組織の形態形成・分化・ホメオスタシスに必要とされるシグナルを出す働きすることが知られている。従って、OAZ1遺伝子の発現量に対するFibronectin-1の相対発現量が1.0以上であることは、内胚葉系列の体細胞に分化誘導するのにより好適な細胞集団であることを意味する。
【0100】
好ましくは、OAZ1遺伝子の発現量に対するCyclin D1(Cyclin D1遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:595を参照)遺伝子の相対発現量は0.015以下であり、より好ましくは0.014以下であり、0.013以下であり、0.012以下であり、0.011以下であってもよい。Cyclin D1は細胞周期に関与している。従って、OAZ1遺伝子の発現量に対するCyclin D1遺伝子の相対発現量が0.015以下であることは、細胞周期が停止しやすい状態(細胞の増殖が抑制される状態)であることを示していることから、より効率的な分化誘導が行われていることを意味する。
【0101】
好ましくは、OAZ1遺伝子の発現量に対するMatrix metallopeptidase2(Matrix metallopeptidase2遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:4313を参照)遺伝子の相対発現量は0.020以下であり、より好ましくは0.019以下であり、0.018以下であり、0.017以下であってもよい。Matrix metallopeptidase2はがんにおける血管新生などに関与することが知られており、基底膜を構成しているコラーゲンなどの細胞外マトリックスを分解することが知られている。従って、OAZ1遺伝子の発現量に対するMatrix metallopeptidase2遺伝子の相対発現量が0.020以下であることは、細胞外マトリックスの分解が抑制され、前記Fibronectin-1などのECMとの接触が安定化され、組織の形態形成・分化・ホメオスタシスに必要とされるシグナルが入りやすいことを示していることから、より効率的な分化誘導が行われていることを意味する。
【0102】
好ましくは、OAZ1遺伝子の発現量に対するCD44(CD44遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:960を参照)遺伝子の相対発現量は0.020以下であり、より好ましくは0.019以下であり、0.018以下であり、0.017以下、0.016以下、0.015以下、0.014以下、0.013以下、0.012以下、0.011以下、0.010以下、0.009以下であってもよい。CD44はヒアルロン酸をおもなリガンドとする接着分子として知られており、癌細胞の増殖能などに関与することが知られている。OAZ1遺伝子の発現量に対するCD44遺伝子の相対発現量が0.020以下であることは、細胞の増殖が抑制されることを示していることから、より効率的な分化誘導が行われていることを意味する。
【0103】
好ましくは、OAZ1遺伝子の発現量に対するinsulin receptor substrate1(insulin receptor substrate1遺伝子配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースに登録されているID:3667を参照)遺伝子の相対発現量は0.0010以下であり、より好ましくは0.0009以下であり、0.0008以下であり、0.0007以下であってもよい。insulin receptor substrate1はPI3K(phosphatidylinositol 3-kinase)―Aktシグナル伝達経路に関与する分子であり、PI3K-Aktシグナルが活性化されると分化が抑制されることが知られている。OAZ1遺伝子の発現量に対するinsulin receptor substrate1遺伝子の相対発現量が0.0010以下であることは、PI3K-Aktシグナルが入りにくいことを示していることから、より効率的な分化誘導が行われていることを意味する。
【0104】
OAZ1遺伝子の発現量に対するNanog遺伝子の相対発現量、OAZ1遺伝子の発現量に対するHNF1B遺伝子の相対発現量、OAZ1遺伝子の発現量に対するHNF4A遺伝子の相対発現量、OAZ1遺伝子の発現量に対するEpCAM遺伝子の相対発現量、OAZ1遺伝子の発現量に対するVIM遺伝子の相対発現量、OAZ1遺伝子の発現量に対するSOX2遺伝子の相対発現量、OAZ1遺伝子の発現量に対するOCT4遺伝子の相対発現量、OAZ1遺伝子の発現量に対するc-Myc遺伝子の相対発現量、OAZ1遺伝子の発現量に対するFibronectin-1遺伝子の相対発現量、OAZ1遺伝子の発現量に対するCyclin D1遺伝子の相対発現量、OAZ1遺伝子の発現量に対するMatrix metallopeptidase2遺伝子の相対発現量、OAZ1遺伝子の発現量に対するCD44遺伝子の相対発現量、並びにOAZ1遺伝子の発現量に対するinsulin receptor substrate1遺伝子の相対発現量とは、OAZ1遺伝子の発現量を1とした場合における、Nanog遺伝子、HNF1B遺伝子、HNF4A遺伝子、EpCAM遺伝子、VIM遺伝子、SOX2遺伝子、OCT4遺伝子、c-Myc遺伝子、Fibronectin-1遺伝子、Cyclin D1遺伝子、Matrix metallopeptidase2遺伝子、CD44遺伝子、insulin receptor substrate1遺伝子の発現量の比率を意味する。各遺伝子の発現量の測定は、当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、分化誘導した内胚葉系細胞のtotal RNAを回収し、cDNAの合成を行い、このcDNAを鋳型とし、定量的RT-PCR(qPCR)を実施することにより、各遺伝子の発現量を測定することができる。Nanog遺伝子、HNF1B遺伝子、HNF4A遺伝子、EpCAM遺伝子、VIM遺伝子、SOX2遺伝子、OCT4遺伝子、c-Myc遺伝子、Fibronectin-1遺伝子、Cyclin D1遺伝子、Matrix metallopeptidase2遺伝子、CD44遺伝子、insulin receptor substrate1遺伝子の発現量は、OAZ1遺伝子の発現量により標準化される。
【0105】
SOX17の陽性を呈する細胞の比率は、フローサイトメトリーにより測定することができるが、特に限定されない。蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにおいて、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
[9]膵臓β細胞への分化誘導
内胚葉系細胞から膵臓β細胞への分化誘導は、一般的に内胚葉系細胞(胚体内胚葉:Definitive endoderm:DE)→原始腸管細胞(Primitive Gut Tube:PGT)→後前腸細胞(Posterior Foregut:PFG)→膵臓前駆細胞(Pancreatic Progenitor:PP)→内分泌前駆細胞(Endocrine Precursor:EP)→膵臓β細胞(pancreaticβcell:β)という順番で行うことができる。
【0107】
膵臓β細胞への分化誘導における培養温度は、使用する多能性幹細胞の培養に適した培養温度であれば、特に限定されないが、一般的には30℃~40℃であり、好ましくは約37℃である。
CO2インキュベーターなどを利用して、約1~10%、好ましくは5%のCO2濃度雰囲気下で培養を行うことが好ましい。
【0108】
内胚葉系細胞(胚体内胚葉)から原始腸管細胞への分化誘導に用いる培地としては、基礎培地(例えば、DMEM培地など)に、B27 supplement、FGF-2及びFGF-7、EC23、SB431542、ドルソモルフィン及びSANT1を添加した培地を用いることができる。
【0109】
内胚葉系細胞(胚体内胚葉)から原始腸管細胞への分化誘導の培養期間は、一般的には、一般的には24時間~72時間であり、好ましく36時間~60時間程度である。
【0110】
原始腸管細胞から後前腸細胞への分化誘導に用いる培地としては、基礎培地(例えば、DMEM培地など)に、B27 supplement、FGF-2、EC23、SB431542、ドルソモルフィン及びSANT1を添加した培地を用いることができる。
【0111】
原始腸管細胞から後前腸細胞への分化誘導の培養期間は、一般的には、一般的には48時間~144時間であり、好ましく72時間~120時間程度である。
【0112】
後前腸細胞から膵臓前駆細胞への分化誘導に用いる培地としては、基礎培地(例えば、DMEM培地など)に、B27 supplement、FGF-10、EC23、ドルソモルフィン、ALKインヒビターII、インドラクタムV及びExcedin-4を添加した培地を用いることができる。
【0113】
後前腸細胞から膵臓前駆細胞への分化誘導の培養期間は、一般的には、一般的には24時間~120時間であり、好ましく48時間~96時間程度である。
【0114】
膵臓前駆細胞から内分泌前駆細胞への分化誘導に用いる培地としては、基礎培地(例えば、Advanced-DMEM培地など)に、B27 supplement、EC23、ドルソモルフィン、ALKインヒビターII、SANT1及びExcedin-4を添加した培地を用いることができる。
【0115】
膵臓前駆細胞から内分泌前駆細胞への分化誘導の培養期間は、一般的には、一般的には24時間~120時間であり、好ましく48時間~96時間程度である。
【0116】
内分泌前駆細胞から膵臓β細胞への分化誘導に用いる培地としては、基礎培地(例えば、Advanced-DMEM培地など)に、B27 supplement、FGF-2、BMP-4、HGF、IGF-1、ALKインヒビターII、Excedin-4、ニコチンアミド、Forskolinを添加した培地を用いることができる。
【0117】
内分泌前駆細胞から膵臓β細胞への分化誘導の培養期間は、一般的には、一般的には96時間~240時間程度である。
【0118】
上記の方法により得られる膵臓β細胞は、インスリン分泌能が高く、糖尿病に対して高い治療効果を発揮できる。
【0119】
[10]中胚葉系細胞又は外胚葉系細胞への分化誘導
本発明において、多能性幹細胞を中胚葉系細胞に分化誘導させる場合には、例えば、特表2013-530680号公報に記載されている方法を使用することができる。特表2013-530680号公報には、(i)アクチビンAおよびWntを含む培地中でヒト多能性幹細胞を培養する工程、および(ii)BMPおよびWntもしくはWntの機能等価物を含む培地中で、工程(i)で得られた細胞を培養する工程を含む、ヒト多能性幹細胞から中間中胚葉系細胞の製造方法が記載されている。また、Albert Q Lam et al,J Am Soc Nephrol 25:1211-12225,2015には、ヒト多能性幹細胞を、GSK3β阻害剤であるCHIR99021で処理した後に、FGF2及びレチノイン酸で処理することにより効率的に中胚葉系細胞に分化誘導できることが記載されている。本発明においても、上記文献に記載されている分化誘導因子を用いて、多能性幹細胞を中胚葉系細胞に分化誘導させることができる。
【0120】
本発明において、多能性幹細胞を外胚葉系細胞に分化誘導させる場合には、例えば、BMP阻害剤(Noggin等)及びTGFβ/ACTIVIN阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養する方法(Chambers SM. et al.,Nat Biotechnol.27,275-280(2009))、BMP阻害剤(Noggin等)及びNodal/ACTIVIN阻害剤を含む培地中で多能性幹細胞を培養する方法(Beata Surnacz et al.,Stem Cells,2012;30:1875-1884)を採用することができる。
【0121】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0122】
[実施例1]
<多能性幹細胞の維持培養>
(TKDN4-M株)
ヒトiPS細胞株TKDN4-M(東京大学医科学研究所)はMITOMYCIN-C(WAKO社)で処理をしたSNL FEEDER細胞上でヒトiPS細胞培地(20% KNOCKOUT SERUM REPLACEMENT(KSR;GIBCO社)、1X NON-ESSENTIAL AMINO ACIDS(NEAA;WAKO社)、55μmoL/L 2-MERCAPTETHANOL(2-ME;GIBCO社)、7.5NG/ML RECOMBINANT HUMAN FIBROBLAST GROWTH FACTOR(FGF2;PEPROTECH社)、0.5X PENICILLIN AND STREPTOMYCIN (PS;WAKO者)を含むDMEM/HAM‘S F12(WAKO社))で未分化維持培養を行った。または、VITRONECTIN(GIBCO)でコーティングしたプレート上で、1XPENICILLIN AND STREPTOMYCIN AND AMPHOTERICIN B(WAKO社)を含むESSENTIAL 8培地(E8;GIBCO社)で未分化維持培養した。なお、播種時のみ最終濃度10μMとなるように Y27632を添加して培養した。
(454E2株)
ヒトiPS細胞株454E2(CIRA)はMITOMYCIN-C(WAKO社)で処理をしたSNL FEEDER細胞上でヒトiPS細胞培地(20% KNOCKOUT SERUM REPLACEMENT(KSR;GIBCO社)、1X NON-ESSENTIAL AMINO ACIDS(NEAA;WAKO社)、55μmoL/L 2-MERCAPTETHANOL(2-ME;GIBCO社)、7.5NG/ML RECOMBINANT HUMAN FIBROBLAST GROWTH FACTOR(FGF2;PEPROTECH社)、0.5X PENICILLIN AND STREPTOMYCIN (PS;WAKO者)を含むDMEM/HAM‘S F12(WAKO社))で未分化維持培養を行った。または、VITRONECTIN(GIBCO)でコーティングしたプレート上で、1XPENICILLIN AND STREPTOMYCIN AND AMPHOTERICIN B(WAKO社)を含むESSENTIAL 8培地(E8;GIBCO社)で未分化維持培養した。なお、播種時のみ最終濃度10μMとなるように Y27632を添加して培養した。
<凝集塊の作製>
(TkDN4-M株)
ヒトiPS細胞株TkDN4-M(東京大学医科学研究所)は、Mitomycin-C(Wako社)で処理をしたSNLfeeder細胞から剥がすために培地にて3回リンスした後、さらに1回PBSでリンスを行い、accumax(Innova Cell Technologies社)にて37℃で15分インキュベートしてからピペッティングによりシングルセルにした。3×107細胞のシングルセルにしたTkDN4-Mを30mLの10μMのY27632を含むmTeSR1の培地中に懸濁し、30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)へ移し6チャネルマグネチックスターラー(ABLE社)に装着して浮遊培養を1日間行った。
【0123】
(454E2株)
ヒトiPS細胞株454E2(Cira)は、PBSで2回リンスしてから、Accutase(Innova Cell Technologies社)で37℃、5分程インキュベートを行い、ピペッティングにより回収したシングルセルにした後に、DMEM/Ham’s F12でリンスした。3×107細胞のシングルセルにした454E2を30mLの10μMのY27632を含むmTeSR1に懸濁し、30mLシングルユースバイオリアクター(エイブル社)へ移し6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着して浮遊培養を1日間行った。
【0124】
<多能性幹細胞の前培養>
維持培養にて得られた凝集体を形成した細胞集団を、20%(体積/体積) Knockout serum replacement(KSR;Gibco社)、1xnon-essential amino acids(NEAA;Wako社)、55μmol/L 2-メルカプトエタノール(2-mercaptethanol;Gibco社)、7.5ng/mL recombinant human fibroblast growth factor(FGF2;Peprotech社)、0.5×Penicillin and Streptomycin(PS;Wako社)を含むDMEM/Ham’s F12(Wako社)に懸濁し、30mLシングルユースバイオリアクター(ABLE社)へ移し、6チャネルマグネチックスターラー(ABLE社)に装着して浮遊培養を1日間行った。
【0125】
<内胚葉系細胞 (胚体内胚葉)への分化誘導>
前培養にて得られた凝集体を形成した細胞集団を、最初の2日間は、0.5%Bovine Serum Albumin(BSA; sigma)、0.4×PS、1mmol/L sodium pyruvate(Wako社)、1xNEAA、80ng/mL recombinant human アクチビンA(Peprotech社)、50ng/mL FGF2、20ng/mL recombinant bone morphogenetic protein 4(BMP4;Peprotech社)、3μmol/L CHIR99021(Wako社)を含むRPMI1640(Wako社)で浮遊培養した。3日目はこの培地からBMP4、FGF2、CHIR99021を除いて浮遊培養を行い、4日目はさらに1% KSRを加えた培地で浮遊培養を1日間行った。なお、浮遊培養は、6チャネルマグネチックスターラー(エイブル社)に装着して行い、サンプルを調整した。
【0126】
[参考例1]
<多能性幹細胞の維持培養>
実施例1に記載の方法で同様に培養した。
【0127】
<多能性幹細胞の前培養>
維持培養にて得られた細胞集団を、TkDN4-M株は Mitomycin-Cで処理をしたSNLfeeder細胞上で、454E2株はVitronectinでコートしたディッシュ上で、20% Knockout serum replacement、1×non-essential amino acids、55μmol/L 2-メルカプトエタノール、7.5ng/mL recombinant human fibroblast growth factor、0.5×Penicillin and Streptomycinを含むDMEM/Ham’s F12にて、フィーダー細胞又はディッシュ上に接着させた状態で培養を1日間行った。
【0128】
<内胚葉系細胞(胚体内胚葉)への分化誘導>
前培養にて得られた細胞集団を、最初の2日間は、0.5%Bovine Serum Albumin 、0.4×PS、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、80ng/mL recombinant humanアクチビンA、50ng/mL FGF2、20ng/mL recombinant bone morphogenetic protein 4、3μmol/L CHIR99021を含むRPMI1640でディッシュ上に接着させた状態で培養した。3日目はこの培地からCHIR99021を除いてディッシュ上に接着させた状態で培養を行い、4日目はさらに1%(体積/体積) KSRを加えた培地でディッシュ上に接着させた状態で培養を1日間行った。
【0129】
[分化効率の解析]
実施例1及び参考例1にて作製した内胚葉系細胞集団における胚体内胚葉(DE)への分化効率を調べるために、以下に示す手順にて、定量的RT-PCRおよびフローサイトメトリー解析にて分析した。
【0130】
<定量的RT-PCR>
分化誘導した内胚葉系間細胞のtotalRNAをISOGEN(Wako社)により単離・精製し、PrimeScriptII(Takara Bio社)を用いてcDNAの合成を行った。ここで合成したcDNAを鋳型とし、GoTaq qPCR master mix(Promega社)を使いMyiQ qPCR machine(Bio-Rad社)によりqPCRを実行した。検出はSYBR Greenによるインターカレーション法で、遺伝子発現量比較は検量線作成による相対定量法で行った。各遺伝子の発現レベルはハウスキーピング遺伝子であるOAZ1により標準化した。なお、OCT4、SOX2、c-Myc、Nanog、HNH1B及びHNF4Aの遺伝子に関しては、サンプル1及び2を分析した。Fibronectin-1(FN1)、CyclinD1、CD44、matrix metallopeptidase 2(MMP2)、insulin receptor substrate 1(IRS1)についてはn=3で分析を行い、得られた分析値から平均値と標準偏差値を算出した。その詳細については、[表1]に記載する。
【0131】
qPCRに使用したプライマーの塩基配列は次のとおりである。
C-MYC F:GTC TCC ACA CAT CAG CAC AAC TAC(配列番号1)
C-MYC R:TTC GGT TGT TGC TGA TCT GTC (配列番号2)
HNF1B F:GAG ATC CTC CGA CAA TTC AAC C(配列番号3)
HNF1B R:AAA CAG CAG CTG ATC CTG ACT G(配列番号4)
HNF4A F:AAG AGA TCC ATG GTG TTC AAG GAC(配列番号5)
HNF4A R:AGG TAG GCA TAC TCATTG TCA TCG(配列番号6)
NANOG F:CGA AGA ATA GCA ATG GTG TGA C(配列番号7)
NANOG R:GTT GCT CCA GGT TGA ATT GTT C(配列番号8)
OAZ1 F :GTC AGA GGG ATC ACA ATC TTT CAG(配列番号9)
OAZ1 R :GTC TTG TCG TTG GAC GTT AGT TC(配列番号10)
OCT4 F:CGC TTC AAG AAC ATG TGT AAG CTG C(配列番号11)
OCT4 R:CTC TCA CTC GGT TCT CGA TAC TG(配列番号12)
SOX2 F :ATA AGT ACT GGC GAA CCA TCT CTG(配列番号13)
SOX2 R :AAT TAC CAA CGG TGT CAA CCT G(配列番号14)
EPCAM F:ATG ATC CTG ACT GCG ATG AGA G(配列番号15)
EPCAM R:CAG TGT CCT TGT CTG TTC TTC TGA C(配列番号16)
VIM F:GTC ACC TTC GTG AAT ACC AAG AC(配列番号17)
VIM R:AGG CAG AGA AAT CCT GCT CTC(配列番号18)
Fibronectin-1(FN1)F: CTC TGT CAA CGA AGG CTT GAA C (配列番号27)
Fibronectin-1(FN1)R: CAC TTC CAA AGC CTA AGC ACT G (配列番号28)
CD44 F: ATA GAA GGG CAC GTG GTG ATT C (配列番号29)
CD44 R: ATG TGT CAT ACT GGG AGG TGT TG (配列番号30)
Cyclin D1 F: CCG CAC GAT TTC ATT GAA C (配列番号31)
Cyclin D1 R: ACT TCA CAT CTG TGG CAC AGA G (配列番号32)
matrix metallopeptidase 2(MMP2) F: CAC CCA TTT ACA CCT ACA CCA AG(配列番号33)
matrix metallopeptidase 2(MMP2) R: TTG CAG ATC TCA GGA GTG ACA G(配列番号34)
insulin receptor substrate 1(IRS1) F: GTT TCA TCT CCT CGG ATG AGT ATG(配列番号35)
insulin receptor substrate 1(IRS1) R: TAG TTG CTT AGC TCC TCC TCA CC(配列番号36)
【0132】
【0133】
【0134】
参考例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞に対して、実施例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞は、未分化マーカー(OCT4、SOX2、c-Myc及びNanog)の遺伝子発現量が、減少していた(
図1)。
参考例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞に対して、実施例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞は、原始腸管細胞(PGT)マーカー(HNF1B及びHNF4A)の遺伝子発現量が向上していた(
図1)。
【0135】
参考例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞に対して、実施例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞は、Fibronectin-1(FN1)の遺伝子発現量が向上していた(
図10)。
参考例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞に対して、実施例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞は、Cyclin D1、CD44、matrix metallopeptidase2(MMP2)、及びinsulin receptor substrate1(IRS1)の遺伝子発現量が減少していた(
図11~
図14)。
【0136】
<フローサイトメトリー解析>
回収してシングルセルまで分散した細胞を4%PFA(パラホルムアルデヒド)により室温で20分間固定後、PBSで3回洗浄し、冷メタノールにより-20℃で一晩透過処理を行った。3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで3回洗浄後、3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSによりブロッキングし、下記表の蛍光標識済抗体により4℃で30分~1時間染色した。3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで1回洗浄後、セルストレーナーに通過させた細胞をFACSVerse(Becton, Dickinson and Company;BD社)にて解析した。
【0137】
【0138】
参考例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞に対して、実施例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞は、内胚葉系マーカーであるEpCAMの遺伝子発現量が向上しており、SOX17の陽性を呈する細胞が90%以上を占めた(
図2及び
図3)。
参考例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞に対して、実施例1に記載の方法にて分化誘導した内胚葉系細胞は、間充織マーカーであるVIMの遺伝子発現量が減少していた(
図3)。
【0139】
[実施例2]
<膵臓β細胞への分化誘導>
実施例1及び参考例1に記載の方法にて得られた内胚葉系細胞から膵臓β細胞への分化誘導は、Yabe SG, Fukuda S, Takeda F, Nashiro K, Shimoda M, Okochi H. Efficient generation of functional pancreatic β-cells from human induced pluripotent stem cells. J Diabetes. 2017 Feb;9(2):168-179に記載の方法に基づいて実施した。具体的にはPrimitive Gut Tube(PGT)分化は0.5%BSA、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、0.4×PS、50ng/mL FGF2、50ng/mL recombinant human FGF7(Peprotech社)、2%B27supplement(Gibco社)、0.67μmol/L EC23(Santa Cruz社)、1μmol/L dorsomorphin(Wako社)、10μmol/L SB431542(wako社)、0.25mol/L SANT1(Wako社)を含むRPMI1640で2日間培養した。
【0140】
Posterior Fore Gut(PFG)分化は0.4×PS、1×NEAA、50ng/mL FGF2、2% B27、0.67μmol/L EC23、1μmol/L dorsomorphin、10μmol/L SB431542、0.25μmol/L SANT1を含むDMEM-high glucose(Wako社)で4日間培養した。
【0141】
Pancreatic Progenitor(PP)分化は0.4×PS、1×NEAA、50ng/mL recombinant human FGF10(Peprotech社)、2%B27、0.5μmol/L EC23、1μmol/L dorsomorphin、0.25μmol/L SANT1、5μmol/L Alk5 inhibitor II(Biovision社)、0.3μmol/L indolactam V(ILV;Cayman社)を含むDMEM-high glucoseで3日間培養した。
【0142】
Endocrine Progenitor分化は0.4×PS、2mmol/L L-glutamine、2%B27、0.2μmol/L EC23、1μmol/L dorsomorphin、0.25μmol/L SANT1、5μmol/L Alk5 inhibitor II、50ng/mL Exendin4(Sigma社)を含むAdvanced-DMEM(Gibco社)で3日間培養した。
【0143】
膵臓β細胞分化は、0.4×PS、2mmol/L L-glutamine、2%B27、10ng/mL BMP4、10ng/mL FGF2、50ng/mL recombinant human hepatocyte growth factor (HGF;Peprotech社)、50ng/mL insulin-like growth factor 1(IGF1;Peprotech社)、5μmol/L Alk5 inhibitor II、50ng/mL Exendin4、5mmol/L nicotinamide(Sigma社)、5μmol/L forskolin(Wako社)を含むAdvanced-DMEMで6日間培養した。これにより得られた細胞をiPS-β細胞と称する。
【0144】
<糖尿病モデルマウスへの移植実験(糖尿病モデルnon-obese diabetic(NOD)-severe combined dimmunodeficiency(SCID)マウス実験)>
上記膵臓β細胞への分化誘導において得られたiPS-β細胞を、HBSSで一回リンスした後に、3.33μg/mLのiMatrix-511(Wako社)を含むHBSSに懸濁し、懸濁した細胞をハミルトンシリンジ(ハミルトン社)により糖尿病モデルNOD/SCIDマウス(日本クレア社)の左腎被膜下に移植した(マウス個体9A-1、9A-2、9B-2は4×106個の細胞を投与、27B-1は6×106個の細胞を投与)。糖尿病モデルNOD/SCIDマウスは130mg/kgのstreptozotocin(STZ;Sigma社)を尾静脈より投与し血糖値が250mg/dL以上となった個体を使用した。移植(0日)はSTZ投与(-14日)から14日後に行った。随時血糖値は尾静脈より血液を採取しグルテストNeoアルファ(三和化学社)を用いて測定した。マウス血中ヒトc-peptide測定は移植後に血液サンプルを尾静脈からFisherbrand ヘパリン処理ヘマトクリット管(Fisher Scientific社)に採取し、遠心分離(10分、4℃、800×g)により血清を分離した後にhuman ultrasensitive C-peptide ELISA kit(Mercodia社)を用いて行った。参考例1に記載の方法により得られた内胚葉系細胞から作製されたiPS-β細胞を移植したマウス個体9A-1、9A-2、9B-2については移植後12週、実施例1に記載の方法により得られた内胚葉系細胞から作製されたiPS-β細胞を移植したマウス個体27B-1は移植後2、6、11、16週で血液サンプル採取を行った。
【0145】
生体内での機能を調べるためにマウス血中ヒトc-peptideの濃度を調べた結果を
図4に示す。参考例1に記載の方法により得られた内胚葉系細胞から作製されたiPS-β細胞の移植後12週において、マウス血中ヒトc-peptideの濃度は10数pM程度であったが、実施例1に記載の方法により得られた内胚葉系細胞から作製されたiPS-β細胞の移植後2週においては、マウス血中ヒトc-peptideの濃度が50pMを超え、さらに、それ以降もC-peptide量が増加していき、16週において300pM近くにまで増加した。上記の通り、本発明の方法により、マウスに移植したヒトiPS細胞由来膵臓β細胞が分泌するマウス血中ヒトc-peptide量を大幅に増加させることができた。
【0146】
また糖尿病モデルマウスの随時血糖を測定した結果を
図5に示す。
細胞の移植なしのマウス個体では血糖値が400~600mg/dLと非常に高い値を移植後140日間示していたのに対し、実施例1に記載の方法により得られた内胚葉系細胞から作製されたiPS-β細胞を移植した個体では、移植後に血糖値が低下していき、移植後60日で250mg/dLまで低下し、移植後140日では125mg/dlとほぼ正常値を示した。このことから本発明の方法により分化誘導して得られた体細胞(膵臓β細胞)は、糖尿病の治療に非常に効果的であることが明らかとなった。
【0147】
[実施例3]
<多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化誘導におけるBSAとITSの効果>
多能性幹細胞の維持培養及び前培養については、実施例1に記載の方法により行い、多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化誘導におけるBSAとITSの添加の有用性については以下の方法にて検証した。iPS細胞株としては、253G1(Cira)及び454E2(Cira)を使用した。
【0148】
一つ目の条件では最初の2日間は10mg/mL(1.0%)Bovine Serum Albumin、0.4×PS、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、80ng/mL アクチビンA、50ng/mL FGF2、20ng/mL BMP4、3μmol/L CHIR99021、1:50000ITS-X(Gibco社)を含むRPMI1640で培養した。3日目はこの培地からBMP4、FGF2、CHIR99021を除いて培養を行い、さらに1% KSRを加えた培地で一日間培養した。
【0149】
2つ目の条件では最初の2日間は2.5mg/mL(0.25%) Bovine Serum Albumin、0.4x PS、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、80ng/mL アクチビンA、50ng/mL FGF2、20ng/mL BMP4、3μmol/L CHIR99021、1:5000ITS-Xを含むRPMI1640で培養した。3日目はこの培地からBMP4、FGF2、CHIR99021を除いて培養を行い、さらに1% KSRを加えた培地で一日間培養した。
【0150】
内胚葉系細胞への分化効率を調べるために、これらの方法により分化誘導した内胚葉系細胞集団のtotal RNAをISOGEN(Wako社)により単離・精製し、PrimeScript II(Takara Bio社)を用いてcDNAの合成を行った。ここで合成したcDNAを鋳型とし、GoTaq qPCR master mix(Promega社)を使いMyiQ qPCR machine(Bio-Rad社)によりqPCRを実行した。検出はSYBR Greenによるインターカレーション法で、遺伝子発現量比較は検量線作成による相対定量法で行った。未分化マーカーであるOCT3/4、分化マーカーであるSOX17の発現レベルはハウスキーピング遺伝子であるOAZ1により標準化した。
【0151】
qPCRに使用したプライマーの塩基配列は次のとおりである。
OAZ1-F: GTC AGA GGG ATC ACA ATC TTT CAG(配列番号19)
OAZ1-R: GTC TTG TCG TTG GAC GTT AGT TC(配列番号20)
OCT4-F: CGC TTC AAG AAC ATG TGT AAG CTG C(配列番号21)
OCT4-R: CTC TCA CTC GGT TCT CGA TAC TG(配列番号22)
SOX17-F: TAC ACA CTT CCT GGA GGA GCT AAG(配列番号23)
SOX17-R: CCA AAC TGT TCA AGT GGC AGA C(配列番号24)
FOXA2-F: GAG ATC TAC CAG TGG ATC ATG GAC(配列番号25)
FOXA2-R: CAC CTT CAG GAA ACA GTC GTT G(配列番号26)
【0152】
上記の測定結果を
図6に示す。
1%BSA-1:50000ITS-Xの条件及び0.25%BSA-1:5000ITS-Xの条件の何れにおいても、DEマーカーのSOX17およびFOXA2の発現レベルが高いことから、効率的な分化誘導が行われていることが確認された。なお、1%BSA-1:50000ITS-Xの条件より0.25%BSA-1:5000ITS-Xの条件で培養したサンプルの方が、未分化マーカーであるOCT4の発現レベルがより顕著に低下し、逆に内胚葉系マーカーのSOX17およびFOXA2の発現レベルがより顕著に高まったことから1%BSA-1:50000ITS-Xの条件より0.25%BSA-1:5000ITS-Xの方がより効果的であることが確認できた。
【0153】
[実施例4]
<多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化誘導における2-メルカプトエタノールの効果>
多能性幹細胞の維持培養及び前培養については、実施例1に記載の方法により行い、多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化誘導における2-メルカプトメタノールの添加の有用性については以下の方法にて検証した。
【0154】
サブコンフルエント(80%程度)まで培養した細胞をAccutase((Innova Cell Technologies社)で剥がして回収し、ペレット化した後、1mLあたり5×105個の細胞を含むように、10mg/mL BSA、10μM Y27632を含むEssentil8を添加して細胞を再懸濁し、浮遊培養用6ウェルプレート(住友ベークライト株式会社)に4ml/ウェルの割合で播種した。オービタルシェーカー(オプティマ社)上で90rpmの回転速度で一晩培養して細胞凝集塊を作製した。その後、20% Knockout serum replacement、1×non-essential amino acids、55μmol/L 2-メルカプトメタノール、7.5ng/mL recombinant human fibroblast growth factor、1xPenicillin and Streptomycin and Amphotericin Bに培地交換して1日培養した後、胚体内胚葉(DE)分化は4日間行い、最初の1日間は0.5% Bovine Serum Albumin、1×PSB、1mmol/L sodium pyruvate、1×NEAA、80ng/mL アクチビンA、50ng/mL FGF2、20ng/mL BMP4、3μmol/L CHIR99021を含むRPMI1640に55μmol/L 2-メルカプトエタノールまたは1% N21supplement(R&Dシステムズ社)を添加して培養した。2日目と3日目はこの培地からBMP4、FGF2、CHIR99021を除いてアクチビンAの濃度を100 ng/mLにして、55μmol/L 2-メルカプトエタノールまたは1% N21 supplementを添加して培養を行い、4日目はさらに1% KSRを加えた培地で一日間培養した。
【0155】
<細胞密度計数>
内胚葉系細胞への分化誘導後、Accutaseにより37℃で5~10分処理し、ピペッティングによって細胞を単分散させ、トリパンブルー染色した後、血球計算盤を用いて、内胚葉系細胞へ分化誘導した細胞集団の細胞数を計数し、細胞密度を測定した。
【0156】
<フローサイトメトリー解析>
内胚葉系細胞への分化誘導後、回収してシングルセルまで分散した細胞を4%PFA(パラホルムアルデヒド)により室温で20分間固定後、PBSで3回洗浄し、冷メタノールにより-20℃で一晩透過処理を行った。3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで3回洗浄後、3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSによりブロッキングし、下記表の蛍光標識済抗体により4℃で30分~1時間染色した。3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで1回洗浄後、セルストレーナーに通過させた細胞をFACSVerse(Becton, Dickinson and Company;BD社)にて解析した。
【0157】
【0158】
上記において55μmol/L 2-メルカプトエタノールを使用しないこと以外は同様の方法にして培養を行う実験も行った。
上記において、55μmol/L 2-メルカプトエタノールの代わりに、N21-MAX Media Supplement(R&D Systems社)(ただしインスリンを含まないもの)を使用したこと以外は、同様の方法にして培養を行う実験も行った。
N21-MAX Media Supplementからインスリンを除外した組成は以下の通りである。
アルブミン(ウシ)、L-カルニチン、カタラーゼ、コルチコステロン、エタノールアミン、グルタチオン、ガラクトース、トランスフェリン、リノール酸、リノレン酸、リポ酸、プロゲステロン、プトレシン、レチニルアセテート、レチノール、亜セレン酸塩、スーパーオキシド・ジムスターゼ、トリヨード-L-チロニン、D,L-アルファ-トコフェノール、D,L-アルファ-トコフェノールアセテート
【0159】
上記培養後(5日目)の細胞について、FACSにてSOX2、SOX17が陽性である細胞の割合を測定した結果を
図7に示す。また、上記培養後(5日目)の細胞の細胞密度を測定した結果を
図8に示す。
【0160】
2-メルカプトエタノールを添加した場合及び2-メルカプトエタノールを添加しない場合の何れにおいても、内胚葉系細胞への分化は認められた。さらに、2-メルカプトエタノールを添加した場合は、細胞密度の測定結果から、生存細胞数の増加も認められた。また、N21-MAX Media Supplementからインスリンを除外した組成物を用いた場合においても、生存細胞数の増加が認められた。さらに、2-メルカプトエタノールを添加した場合、未分化残存率(SOX2陽性細胞率)が低下することが分かった。2-メルカプトエタノールを添加しても、内胚葉系分化効率(SOX17陽性細胞率、FOXA2陽性細胞率)は実質的に変化しなかった。
【0161】
[実施例5]
<多能性幹細胞の前培養におけるFGF2とTGFβ1の検討>
TkDN4-M株を実施例1に記載の未分化維持を行った後、サブコンフルエント(80%程度)まで培養した細胞をAccutaseで剥がして回収し、ペレット化した後、4mL/ウェルに10mg/mL BSA、10μM Y27632を含むEssentil8を添加した後、ペレット化した細胞をウェルに懸濁し、オービタルシェーカーにて90rpmの回転速度で12時間培養して細胞凝集体を作製した。
【0162】
作製した細胞凝集体を前培養する際に、5mg/mL BSA、1xNEAA、55μmol/L 2-メルカプトエタノール、1xPSを含むEssential 6培地(FGF2不含かつTGFβ1不含)で一日培養してから、実施例1に記載の分化誘導を開始したサンプル1を調整した。また、別途、作製した細胞凝集体を前培養する際に、5mg/mL BSA、1×NEAA、55μmol/L 2-メルカプトエタノール、1xPSを含むEssential 8培地で一日培養してから、実施例1に記載の分化誘導を開始したサンプル2を調整した。そして、調整したサンプル1及び2を、以下に示すフローサイトメトリー解析により分化誘導効率を検証した。
【0163】
<フローサイトメトリー解析>
内胚葉系細胞への分化誘導後、細胞を回収してシングルセルまで分散した細胞を4%PFA(パラホルムアルデヒド)により室温で20分間固定後、PBSで3回洗浄し、冷メタノールにより-20℃で一晩透過処理を行った。3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで3回洗浄後、3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSによりブロッキングし、下記表の蛍光標識済抗体により4℃で30分~1時間染色した。3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで1回洗浄後、セルストレーナーに通過させた細胞をFACSVerse(Becton, Dickinson and Company;BD社)にて解析した。
【0164】
【0165】
上記培養後(4日目)の細胞について、FACSにてSOX17、FOXA2が陽性である細胞の割合を測定した結果を
図9に示す。
サンプル1及び2のそれぞれにおいて、内胚葉系細胞への分化誘導が認められた。さらに、サンプル1の方が、内胚葉系細胞への分化誘導の効率がサンプル2より高いことが明らかになった。すなわち、多能性幹細胞の前培養において、FGF2とTGFβ1を添加しない培地を用いると内胚葉系細胞への分化誘導の効率が向上することが明らかとなった。
【0166】
[実施例6]
<多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化誘導におけるグルコースの効果>
(凝集塊の作製)
実施例1の方法で維持培養したTkDN-4株を1回PBSでリンスを行い、Accutaseで3から5分間処理して剥離し、単細胞まで分散した。この細胞を最終濃度5mg/mLのBSA(和光純薬工業株式会社)及び10μMのY-27632(和光純薬工業株式会社)を含むEssential 8TM培地で懸濁し、その一部をトリパンブルー染色して細胞数を調べた。1mLあたり5×105個の細胞を含むように調製した。浮遊培養用6ウェルプレート(住友ベークライト株式会社)に4ml/ウェルの割合で播種した。細胞を播種したプレートは、ロータリーシェーカー(株式会社オプティマ)上で90rpmのスピードで水平面に沿って旋回幅(直径)が25mmの円を描くように旋回培養し、5%CO2、37℃の環境下で浮遊培養を1日間行った。
【0167】
(前培養)
上記の維持培養にて得られた凝集体を形成した細胞集団を、20%(体積/体積) Knockout serum replacement(KSR;Gibco社)、1xnon-essential amino acids(NEAA;Wako社)、55μmol/L 2-メルカプトエタノール(2-mercaptethanol;Gibco社)、7.5ng/mL recombinant human fibroblast growth factor(FGF2;Peprotech社)、0.5×Penicillin and Streptomycin(PS;Wako社)を含むDMEM/Ham’s F12(Wako社)に再懸濁し、浮遊培養用6ウェルプレート(住友ベークライト株式会社)に4ml/ウェルの割合で播種した。細胞を播種したプレートは、ロータリーシェーカー(株式会社オプティマ)上で90rpmのスピードで水平面に沿って旋回幅(直径)が25mmの円を描くように旋回培養し、5%CO2、37℃の環境下で浮遊培養を1日間行った。
【0168】
(内胚葉系細胞 (胚体内胚葉)への分化誘導)
前培養にて得られた凝集体を形成した細胞集団を、最初の1日目は、0.5%Bovine Serum Albumin(BSA; sigma)、0.4×PS、1mmol/L sodium pyruvate(Wako社)、1xNEAA、80ng/mL recombinant human アクチビンA(Peprotech社)、50ng/mL FGF2、20ng/mL recombinant bone morphogenetic protein 4(BMP4;Peprotech社)、3μmol/L CHIR99021(Wako社)を含むグルコース不含RPMI1640(Wako社)に各最終濃度(0g/L、0.5g/L、1g/L、2g/L、又は4g/L)になるようにグルコースを添加して浮遊培養した。
【0169】
2日目及び3日目は、この培地からBMP4、FGF2、CHIR99021を除いて浮遊培養を行った。なお、2日目及び3日目の培地中のグルコース濃度は、1日目と同様に、0g/L、0.5g/L、1g/L、2g/L、又は4g/Lである。浮遊培養は、浮遊培養用6ウェルプレート(住友ベークライト株式会社)に4ml/ウェルの割合で播種し、ロータリーシェーカー(株式会社オプティマ)上で90rpmのスピードで水平面に沿って旋回幅(直径)が25mmの円を描くように旋回培養し、5%CO2、37℃の環境下で行った。。
【0170】
4日目(Day4)に、以下の手順で内胚葉系細胞へ分化誘導した細胞集団における細胞密度の測定を行った。
<細胞密度計数>
内胚葉系細胞への分化誘導後、Accutaseにより37℃で5~10分処理し,ピペッティングによって細胞を単分散させ、トリパンブルー染色した後、血球計算盤を用いて細胞数を計数し、内胚葉系細胞へ分化誘導した細胞集団の細胞密度を測定した。
【0171】
細胞密度の測定結果を
図15に示す。グルコース濃度が低いほど細胞密度が高くなることが判明した。ただし、グルコース濃度が0g/Lの場合は細胞が死滅した。
【0172】
1日目~4日目(Day1~Day4)に、定量的RT-PCR(手順は実施例1及び参考例1に記載した通りである)による内胚葉系細胞へ分化誘導した細胞集団の遺伝子発現の解析を行った。結果を
図16~
図18に示す。
図16及び
図17の結果から、グルコース濃度が1.0g/L以下である場合には、未分化細胞(SOX2陽性細胞、Nanog陽性細胞)が少なくなる傾向があることが分かった。
図18の結果から、グルコース濃度が低い方が、内胚葉分化が早い段階から進むことが示唆された。
【0173】
4日目に、以下の手順の通りのフローサイトメトリー解析によりSOX2及びSOX17の陽性率を測定した。
<フローサイトメトリー解析>
内胚葉系細胞への分化誘導後、回収してシングルセルまで分散した細胞を4%PFA(パラホルムアルデヒド)により室温で20分間固定後、PBSで3回洗浄し、冷メタノールにより-20℃で一晩透過処理を行った。3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで3回洗浄後、3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSによりブロッキングし、下記表の蛍光標識済抗体により4℃で30分~1時間染色した。3%FBS(ウシ胎仔血清)/PBSで1回洗浄後、セルストレーナーに通過させた細胞をFACSVerse(Becton, Dickinson and Company;BD社)にて解析した。
【0174】
【0175】
フローサイトメトリー解析の結果を
図19に示す。
図19の結果から、グルコース濃度が1.0g/L以下である場合には、未分化細胞(SOX2陽性細胞)が少なくなる傾向が分かる。未分化なiPS細胞(SOX2陽性細胞)はグルコース要求性が高いことから、グルコース濃度が1.0g/L以下である条件では、未分化細胞(SOX2陽性細胞)は生存できずに死滅したことが推測される。
【0176】
[実施例7]
<多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化誘導におけるグルコースの効果>
1日目、2日目及び3日目の培地中のグルコース濃度(g/L)を以下の表に示す通り変更したこと以外は、実施例6と同様に、多能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化誘導を行った。
【0177】
【0178】
4日目に、実施例6と同様の手順でフローサイトメトリー解析により、内胚葉系細胞へ分化誘導した細胞集団のSOX2及びSOX17の陽性率を測定した結果を
図20に示す。
図20の結果から、グルコース濃度が0.5g/Lで培養する期間が長いほど、SOX2陽性細胞は減少し、SOX17陽性細胞は増加することが分かる。
【0179】
また、上記のフローサイトメトリー解析の結果を
図21に示す。
図21の左の図は、実験1の場合を示し、
図21の右の図は、実験4の場合を示す。
図21の結果から、グルコース添加濃度が0.5g/Lで培養すると、SOX2陽性細胞は減少し、SOX17陽性細胞は増加することが分かる。
【配列表】