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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】カルシウム強化発酵乳食品
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/13 20060101AFI20220720BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
A23C9/13
A23C9/123
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019003367
(22)【出願日】2019-01-11
(65)【公開番号】P2020110081
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237972
【氏名又は名称】富田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 良亮
(72)【発明者】
【氏名】野崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】南 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大森 政也
(72)【発明者】
【氏名】板東 明人
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-187851(JP,A)
【文献】特許第6164628(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/030206(WO,A1)
【文献】特表2016-527888(JP,A)
【文献】特開2018-201504(JP,A)
【文献】特開2009-089625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A23L
A23F
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1~10μm、静的嵩比容積が20~40mL/10g及び平均粒子径に対する水銀ポロシメーターによって求められる細孔直径の最頻値の比が0.2~0.34である無水リン酸水素カルシウム、並びにウェランガム、サクシノグリカン及びペクチンから選ばれる1種以上の多糖類を含有する、カルシウム強化発酵乳食品。
【請求項2】
食品中のカルシウム含量がカルシウム換算で0.20質量%以上である請求項1記載の食品。
【請求項3】
食品中のカルシウム含量がカルシウム換算で0.20~1.00質量%である請求項1記載の食品。
【請求項4】
無水リン酸水素カルシウムが、その平均粒子径が2~9μmで、静的嵩比容積が20~35mL/10gである請求項1~3のいずれか1項記載の食品。
【請求項5】
多糖類がウェランガムである請求項1~4のいずれか1項記載の食品。
【請求項6】
発酵乳食品が、乳又は乳製品を乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌により発酵させたものである請求項1~5のいずれか1項記載の食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた風味と安定性を有するカルシウム強化発酵乳食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康指向の高まりと共に、不足しがちなミネラル類を補うために、各種食品にミネラル類を配合することが試みられている。種々のミネラルの中でもカルシウムは、骨の成長に不可欠であるばかりでなく、神経刺激の伝達、筋肉の収縮、血液の凝固、及び多数の酵素や酵素系の調節等の生理作用に関与する重要なイオンである。したがって、比較的カルシウムに富んでいる発酵乳飲料等の乳製品についても、カルシウム強化が行われているのが現状である。
【0003】
カルシウムを強化する手段として、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等の水溶性有機酸カルシウム塩や、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の水難溶性カルシウム塩を各種食品に添加する技術がある。
【0004】
しかしながら、乳飲料にカルシウム塩を多量に添加すると、カルシウム独自の苦みが発現し、製品の風味を損なうことがある。また、飲料に水難溶性カルシウムを配合する場合は、安定して分散させるために分散剤が必要になるが、水難溶性カルシウムの粒子径や分散剤の種類によっては、粘度や酸度が上昇したり、長期分散安定効果が得られないという問題があった。
【0005】
斯かる問題に対して、例えば、カルシウム塩として乳化被覆された不溶性カルシウム塩を用いること(特許文献1)、微細セルロースと平均粒径が8μm以下の水不溶性カルシウムを用いること(特許文献2)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-224306号公報
【文献】国際公開第1998/28362号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、カルシウムを強化しつつも、良好な風味と安定性を有するカルシウム強化発酵乳食品を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、カルシウム源として、特定の粒径と嵩比容積と平均粒子径に対する水銀ポロシメーターによって求められる細孔直径の最頻値の比を有する物性の無水リン酸水素カルシウムを用い、これと特定の多糖類を配合することにより、カルシウム独特の不快風味を感じさせることがなく、分散安定性に優れた発酵乳食品を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明以下の1)~6)に係るものである。
1)平均粒子径が1~10μm、静的嵩比容積が20~40mL/10g及び平均粒子径に対する水銀ポロシメーターによって求められる細孔直径の最頻値の比が0.2~0.34である無水リン酸水素カルシウム、並びにウェランガム、サクシノグリカン及びペクチンから選ばれる1種以上の多糖類を含有する、カルシウム強化発酵乳食品。
2)食品中のカルシウム含量がカルシウム換算で0.20質量%以上である1)の食品。
3)食品中のカルシウム含量がカルシウム換算で0.20~1.00質量%である1)の食品。
4)無水リン酸水素カルシウムが、その平均粒子径が2~9μmで、静的嵩比容積が20~35mL/10gである1)~3)のいずれかの食品。
5)多糖類がウェランガムである1)~4)のいずれかの食品。
6)発酵乳食品が、乳又は乳製品を乳酸菌及び/又はビフィドバクテリウム属細菌により発酵させたものである1)~5)のいずれかの食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、風味が良好で、且つ保存安定性に優れるカルシウム強化された発酵乳食品が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、発酵乳食品とは、乳又は乳製品を乳酸菌等により発酵させることにより得られるものであり、具体的には牛乳・山羊乳等の生乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、クリーム等の原料乳をそのまま、あるいは必要に応じて希釈した溶液中で、乳酸菌、ビフィドバクテリウム属細菌等を培養したものを例示することができる。また、培養後に上記原料乳をさらに添加してもよい。
【0012】
原料乳の発酵に用いられる乳酸菌は特に制限されるものではなく、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ガッセリ、ラクトバチルス・ゼアエ、ラクトバチルス・ジョンソニー、ラクトバチルス・クレモリス、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ユーグルティ、ラクトバチルス・マリ、ラクトバチルス・デルブルッキー サブスピーシーズ デルブルッキー、ラクトバチルス・デルブルッキー サブスピーシーズ ブルガリカス等のラクトバチルス属細菌、ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属細菌、ラクトコッカス・ラクチス、ラクトコッカス・プランタラム、ラクトコッカス・ラフィノラクチス等のラクトコッカス属細菌、ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・ラクチス等のロイコノストック属細菌、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム等のエンテロコッカス属細菌等を例示することができる。
【0013】
またビフィドバクテリウム属細菌としては、例えば、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・アンギュラータム、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ガリカム、ビフィドバクテリウム・ラクチス等が例示できる。
【0014】
これらの微生物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができ、中でもラクトバチルス・カゼイ、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ビフィドバクテリム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダム等が、得られる乳製品の風味が良好であるという点で好適に用いられる。
【0015】
発酵条件は通常の発酵乳と同様の条件で行うことができ、例えば、30~40℃でpH2~6、好ましくは3~5.5になるまで発酵すればよい。発酵方法は、静置発酵、攪拌発酵、振盪発酵、通気発酵等から、使用する微生物の発酵に適した方法を適宜選択して用いればよい。
【0016】
本発明において、カルシウム強化発酵乳食品とは、カルシウムが添加された発酵乳食品であって、食品中のカルシウム含有量が、カルシウム換算で0.20質量%以上、例えば0.20~1.00質量%、好ましくは0.50~1.00質量%、より好ましくは0.50~0.75質量%であることを意味する。
【0017】
本発明の発酵乳食品に配合する無水リン酸水素カルシウムは、その粒子の物性が、平均粒子径が1~10μmであり、静的嵩比容積が20~40mL/10gであり、且つ平均粒子径に対する水銀ポロシメーターによって求められる細孔直径の最頻値の比が0.2~0.34である。
【0018】
斯かる物性を有する無水リン酸水素カルシウム粒子は、凝集して凝集粒子になることにより、良好な粉体の流動性及び液体中での分散性を有する無水リン酸水素カルシウム粉体を形成できる。したがって、本発明の発酵乳食品には、斯かる無水リン酸水素カルシウム粉体が配合される。
【0019】
ここで、平均粒子径に対する細孔直径の最頻値の比は0.2~0.34であるが、粉体の流動性及び液体中での分散性がより一層良好になる凝集粒子を形成させるという観点から、平均粒子径に対する細孔直径の最頻値の比として、好ましくは0.2~0.33、更に好ましくは0.2~0.30、特に好ましくは0.23~0.30である。当該比は、細孔直径の最頻値(nm)÷平均粒子径(μm)÷1000で求めることができる。
【0020】
ここで、「平均粒子径」とは、レーザー回折法によって測定されるメジアン径である。無水リン酸水素カルシウム粒子の平均粒子径は、具体的には、測定サンプルを水に添加し超音波出力40Wで3分間超音波分散した後に、レーザー回折法を用いてメジアン径を測定することによって求めることができる。
【0021】
また、「細孔直径の最頻値」とは、水銀ポロシメーターによって求められる細孔分布において、最大ピークにおける細孔径(細孔直径)である。無水リン酸水素カルシウム粒子の細孔直径の最頻値は、具体的には、測定サンプル0.05gを正確に量り、測定セルに封入し、水銀の接触角を140°、水銀の表面張力を480dyn/cmとして、得られた吸着等温線から細孔分布を求め、当該細孔分布から最大ピークに該当する細孔径を特定することによって求められる。なお、無水リン酸水素カルシウム粒子の細孔径は、通常5~5000nmの範囲内に分布しているので、無水リン酸水素カルシウム粒子の細孔直径の最頻値は、細孔径5~5000nmの範囲内の最大ピークとして求められる。
【0022】
無水リン酸水素カルシウム粒子の平均粒子径については、前記平均粒子径に対する細孔直径の最頻値の比を充足する範囲であり、1~10μm、好ましくは2~9μm、更に好ましくは3~8μmが挙げられる。
【0023】
無水リン酸水素カルシウム粒子の静的嵩比容積は、20~40mL/10g、好ましくは20~35mL/10gが挙げられる。本発明において、無水リン酸水素カルシウム粒子の「静的嵩比容積」とは、測定サンプル10.0gを量りとり、50mLメスシリンダー(内径2.0cm)にゆっくりと入れ、サンプルの容積(mL)を測定することによって求められる。なお、測定されたサンプルの容積が、静的嵩比容積(mL/10.0g)になる。
【0024】
このような平均粒子径に対する水銀ポロシメーターによって求められる細孔直径の最頻値、平均粒子径、及び静的嵩比容積を満たすことによって、発酵乳食品の分散安定性の低下を抑制できるという利点が得られる。
【0025】
斯かる物性を有する無水リン酸水素カルシウム粒子は、特許第6164628号公報に記載の方法に従って製造することができる。すなわち、例えば、下記第1工程~第3工程を含む方法によって製造できる。
(a)水酸化カルシウム及びカルシウムイオンを含み、水酸化カルシウムを構成するカルシウム原子に対するカルシウムイオンとして存在するカルシウム原子のモル比が0.04~0.16である水酸化カルシウム含有液を準備する第1工程、
(b)前記第1工程で得られた水酸化カルシウム含有液にリン酸を添加し、第1のリン酸水素カルシウム含有液を得る第2工程、及び
(c)前記第2工程で得られた第1のリン酸水素カルシウム含有液にアルカリ金属水酸化物を添加する工程であって、アルカリ金属水酸化物の添加量を、前記第1工程で準備した水酸化カルシウム含有液中のカルシウムイオンとして存在するカルシウム原子1モル当たり1.5~13.0モルとなる量に設定し、第2のリン酸水素カルシウム含有液を得る第3工程。
【0026】
本発明の発酵乳食品中の無水リン酸水素カルシウムの含有量は、好ましくは0.5~2.5質量%、より好ましくは1.2~2.5質量%、より好ましくは1.2~2.0質量%である。
【0027】
本発明の発酵乳食品は、食品中の分散安定性や風味を高めるべく、ウェランガム、サクシノグリカン及びペクチンから選ばれる1種以上の多糖類が配合される。
ウェランガムは、2個のグルコース、1個のラムノース、1個のグルクロン酸、及び1個のラムノース又はマンノースを構成単位とし、Alcaligenes ATCC31555等により産生される天然高分子である。ウェランガムとしては、ビストップW(三栄源エフ・エフ・アイ社製)等による市販品を利用することができる。
【0028】
サクシノグリカンは、微生物に由来する多糖類の一種であり、より具体的にはガラクトース及びグルコースから誘導される糖単位に加え、コハク酸及びピルビン酸並びに任意成分としての酢酸、又はこれらの酸の塩から誘導される単位を含む微生物に由来する多糖類を意味する。より具体的にはサクシノグリカンは、ガラクトース単位:1、グルコース単位:7、コハク酸単位:0.8及びピルビン酸単位:1に、任意成分である酢酸単位を含むことのある平均分子量が約600万の水溶性高分子である。サクシノグリカンとしては、例えばサクシノグリカンJ(デュポン社製)が挙げられる。
【0029】
ペクチンとは、果物や野菜類等非常に多くの植物中に存在するもので、植物組織中の構成成分や中間層の成分であるガラクツロン酸がα-1,4結合したポリガラクツロン酸を主成分とした増粘多糖類をいう。
本発明に用いるペクチンとしては、一般に食品に用いられるものであれば、いずれのものでもよく、例えば、シトラス等の柑橘由来、又はリンゴ由来等のペクチンが挙げられる。
【0030】
斯かる多糖類の含有量は、発酵乳食品中、0.04~0.60質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.04~0.50質量%、より好ましくは0.04~0.30質量%である。
【0031】
本発明の発酵乳食品は、その製造の任意の段階で上記の無水リン酸水素カルシウム及び多糖類を添加する以外は、常法に従い製造することができる。無水リン酸水素カルシウム及び多糖類の添加時期は、特に制約はなく、発酵前の原料乳に添加しても、また、発酵後に添加しても良い。すなわち、発酵前の原料乳に無水リン酸水素カルシウムを添加混合した後、殺菌し、これに乳酸菌やビフィドバクテリウム属細菌等の微生物のスターターを接種して培養してもよく、また、発酵後の乳発酵物(ベース)に別途殺菌した無水リン酸水素カルシウム及び多糖類をそのまま、あるいはシロップ溶液と共に添加混合したり、乳発酵物(ベース)とシロップ溶液を混合した後に添加しても良い。また、発酵終了後、シロップ液との混合前等の段階で発酵乳に殺菌処理を施し、死菌含有タイプの製品としてもよい。
【0032】
本発明の発酵乳食品は、その形態は特に限定されるものではなく、ハードタイプ、ソフトタイプ、ドリンクタイプ等のヨーグルトや液状タイプの乳製品等を包含する。したがって、必要に応じて、均質化処理してソフトタイプの発酵乳食品とすること、寒天、ゼラチン等の各種増粘剤を添加してハードタイプの発酵乳食品とすることができる。
【0033】
本発明の発酵乳食品には、必要に応じて、食品に添加される、糖質、乳脂肪、乳化剤、増粘剤、酸味料、果汁、甘味料等の各種成分を配合できる。具体的には、蔗糖、異性化糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース、麦芽糖、オリゴ糖等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール、クリーム、バター、サワークリーム、発酵バター等の乳脂肪、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸等の酸味料、寒天、ゼラチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム等の増粘(安定)剤、シロップ等の甘味料の他、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等の各種ビタミン類やカルシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類等が挙げられる。
【実施例
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制約されるものではない。
【0035】
実施例1
1)カルシウム素材
【0036】
本発明品及び比較品として用いたカルシウム素材(リン酸水素カルシウム)を下記表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
Y:製品名「食品添加物 リン酸一水素カルシウムY」(富田製薬株式会社製)
A:製品名「日本薬局方 リン酸水素カルシウム水和物 T」(富田製薬株式会社製)
B:製品名「日本薬局方 リン酸水素カルシウム水和物 U」(富田製薬株式会社製)
C:製品名「無水リン酸水素カルシウム(微粉)」(富田製薬株式会社製)
D:上記リン酸水素カルシウムCを乳鉢で粉砕処理したもの
【0039】
2)ドリンクヨーグルトタイプの発酵乳の調製
20%脱脂粉乳溶液を120℃で3秒間殺菌した後、ストレプトコッカス・サーモフィルス(YIT2001株)のシードスターターを0.2%となるように接種し、更に、ラクトバチルス・カゼイ(YIT9029株)のシードスターターを0.1%となるように接種して34℃でpH4.4まで培養し、均質化機を用いて15MPaで均質化して発酵乳ベースを得た。
【0040】
次に、表2に示す処方で、水に蔗糖型液糖(フジ日本精糖(株))とウェランガム(三栄源エフ・エフ・アイ(株))をそれぞれ溶解し、リン酸水素カルシウムを添加し、水で全量を調整した後、110℃で3秒間殺菌してシロップを得た(表2)。
【0041】
上記の方法により得られた発酵乳ベース400gとシロップ599.016gを混合し、発酵乳飲料を調製し、ポリスチレン容器に充填して表2のシロップに対応するドリンクタイプヨーグルト(本発明品1、比較品1~4)を製造した。製造後は10℃で保存した。
【0042】
【表2】
【0043】
3)試験品の評価
各試験品について、pHと酸度、粘度、物性(ホエー分離、瓶底沈殿)及び風味を測定した。結果を表3に示す。
・酸度:9gの試料を中和するのに必要な1/10規定水酸化ナトリウム水溶液の量(ml)を指す。
・粘度:B型粘度計(東機産業(株)製)を使用し、10℃にて常法に従って行った。
・ホエー分離:液表面からホエーとして分離している部分の高さをmm単位で測定した。
・瓶底沈殿:目視にて瓶底の沈殿量を以下の基準で判定した。
<瓶底沈殿判定基準>
- :沈殿なし
± :沈殿が容器外周部にややある
+ :沈殿が容器全面に薄くある
++:沈殿が容器全面に膜状に張り付いている
・風味:専門パネラー5名で風味を以下の基準で評価した。
<風味判定基準>
◎:カルシウムの不快味が低減されている
〇:カルシウムの不快味が少し低減されている
△:カルシウムの不快味が少しある
×:カルシウムの不快味がある
【0044】
【表3】
【0045】
表3より、本発明品1は、ウェランガムとリン酸水素カルシウムYを併用することで、良好な物性安定性を維持できるだけでなく、カルシウムの不快味がなく、適度な飲み応えや濃厚感も付与できることが分かった。また、リン酸水素カルシウムYは、他のカルシウム製剤と比較し、テクスチャーとしてざらつき等はみられず、製品保存中の品質変化も小さくなることが示唆された。
【0046】
実施例2
1)実施例1のウェランガムをサクシノグリカンに替えて、表4に示すシロップを調製し、対応するドリンクタイプヨーグルト(本発明品2)を製造した。製造後は10℃で保存した。
【0047】
【表4】
【0048】
2)実施例1と同様に、各試験品について、pHと酸度、粘度、物性(ホエー分離、瓶底沈殿)及び風味を測定した。結果を表5に示す。
【0049】
【表5】
【0050】
表5より、本発明品2は、サクシノグリカンとリン酸水素カルシウムYを併用することで、良好な物性安定性を維持できるだけでなく、カルシウムの不快味もなく、適度な飲み応えや濃厚感も付与できることが分かった。また、発明品1と同様、リン酸水素カルシウムYを使用することで、製品保存中の品質変化が小さくなることが分かった。
【0051】
実施例3
20%脱脂粉乳溶液を120℃で3秒間殺菌した後、ストレプトコッカス・サーモフィルス(YIT2001株)のシードスターターを0.2%となるように接種し、更に、ラクトバチルス・カゼイ(YIT9029株)のシードスターターを0.1%となるように接種して34℃でpH4.4まで培養し、均質化機を用いて15MPaで均質化して発酵乳ベースを得た。
次に、表6に示す処方で、水に蔗糖型液糖(フジ日本精糖(株))とペクチン(CPケルコ社)をそれぞれ溶解し、水で全量を調整した後、110℃で3秒間殺菌してシロップを得た(表6)。また、カルシウム素材は、シロップに添加せず、別途水に分散後、90℃30分間殺菌し、カルシウム分散液を得た(表7)。
上記の方法により得られた発酵乳ベース400gとシロップ499.016gを混合し、シロップ中のペクチンと発酵乳ベースを十分混和後、次いでカルシウム分散液100gを混合して発酵乳飲料を調製し、ポリスチレン容器に充填して表6のシロップに対応するドリンクタイプヨーグルト(本発明品3)を製造した。製造後は10℃で保存した。
【0052】
【表6】
【0053】
【表7】
【0054】
2)実施例1と同様に、pHと酸度、粘度、物性(ホエー分離、瓶底沈殿)及び風味を測定した。結果を表8に示す。
【0055】
【表8】
【0056】
表8より、本発明品3は、ペクチンとリン酸水素カルシウムYを併用することで、良好な物性安定性を維持できるだけでなく、カルシウムの不快味もなく、適度な飲み応えや濃厚感も付与できることが分かった。また、発明品1並びに発明品2と同様、リン酸水素カルシウムYを使用することで、製品保存中の品質変化が小さくなることが分かった。