(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】モルタル組成物及び硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20220720BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20220720BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20220720BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20220720BHJP
A01K 61/77 20170101ALI20220720BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/08 Z
C04B18/14 Z
A01G33/00
A01K61/77
(21)【出願番号】P 2022502454
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020047843
【審査請求日】2022-01-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521533658
【氏名又は名称】株式会社鳥取クリエイティブ研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】野原 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】及川 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健一
(72)【発明者】
【氏名】西浦 潤
(72)【発明者】
【氏名】河原 和文
(72)【発明者】
【氏名】中本 健二
(72)【発明者】
【氏名】立花 美咲
(72)【発明者】
【氏名】清重 直也
(72)【発明者】
【氏名】松原 雄平
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 紀美恵
(72)【発明者】
【氏名】黒田 保
(72)【発明者】
【氏名】吉野 公
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-315883(JP,A)
【文献】国際公開第2019/138879(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/142775(WO,A1)
【文献】特開平09-052744(JP,A)
【文献】特開2012-144403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/02
C04B 18/08
C04B 18/14
A01G 33/00
A01K 61/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、フライアッシュと、細骨材と、フェロニッケルスラグと、水と、を含み、
前記セメントと前記フライアッシュとの合計質量に対する前記フライアッシュの質量割合は40質量%以上50質量%以下であり、
前記細骨材と前記フェロニッケルスラグとの合計質量に対する前記フェロニッケルスラグの質量割合は
78質量%以上90質量%以下である、モルタル組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のモルタル組成物を硬化させてなる硬化体。
【請求項3】
藻場造成用材料として用いられる、請求項2に記載の硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル組成物及び硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、沿岸部の海底に藻場を造成するためのブロック等を海に沈降させ、人工的に藻場を造成する技術が知られている。藻場の造成は、水産生物の生息等の場として水酸産業の観点から重要であり、また、藻場により溶存二酸化炭素や栄養塩が吸収されることから、環境維持の観点においても重要である。そこで、コンクリート材料などに肥料成分を含有させた藻場造成用ブロックに関する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コンクリートやモルタルの原料であるセメントや細骨材の一部を、産業廃棄物で代替する技術が知られている。セメントの代替原料としては、火力発電所で発生するフライアッシュが挙げられる。細骨材の代替原料としては、ステンレス鋼等の原料となるフェロニッケルを精錬する際に発生する、フェロニッケルスラグが挙げられる。上記のような産業廃棄物を藻場造成用ブロックの代替原料として用いることができれば、産業廃棄物リサイクルの観点からも好ましい。しかし、従来、藻場造成に適した上記産業廃棄物を用いた材料については従来検討されていないのが現状だった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、フライアッシュとフェロニッケルスラグとを含む、藻場造成に適した材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明は、セメントと、フライアッシュと、細骨材と、フェロニッケルスラグと、水と、を含み、前記セメントと前記フライアッシュとの合計質量に対する前記フライアッシュの質量割合は40質量%以上50質量%以下であり、前記細骨材と前記フェロニッケルスラグとの合計質量に対する前記フェロニッケルスラグの質量割合は60質量%以上90質量%以下である、モルタル組成物に関する。
【0007】
(2) また、本発明は、(1)に記載のモルタル組成物を硬化させてなる硬化体に関する。
【0008】
(3) 藻場造成用材料として用いられる、(2)に記載の硬化体。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、フライアッシュとフェロニッケルスラグとを含む、藻場造成に適した材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態の記載に限定されない。
【0011】
<モルタル組成物>
本実施形態に係るモルタル組成物は、セメントと、フライアッシュと、細骨材と、フェロニッケルスラグと、を含み、これらの原料を水と混錬して得られる。本実施形態に係るモルタル組成物は、生物親和性が高く、藻場造成に適した硬化体を形成できる。
【0012】
(セメント)
セメントとしては、特に限定されず、例えば、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱、耐硫酸塩性、白色等の各種ポルトランドセメントを使用できる。上記ポルトランドセメントとしては、特に限定されず市販品を使用できる。上記ポルトランドセメントは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の量で混合して用いてもよい。
【0013】
(フライアッシュ)
フライアッシュとしては、特に限定されず、例えば、石炭火力発電所等で石炭燃焼の際に発生する石炭灰のうち、集塵機により排ガス中から回収される微細な石炭灰を分級又は粉砕したものを用いることができる。フライアッシュの主成分は、二酸化ケイ素(SiO2)、アルミナ(Al2O3)等である。上記フライアッシュとしては、JIS A 6201:1999「コンクリート用フライアッシュ」で粒度やフロー値に基づき規定されるフライアッシュI種、II種、III種、IV種を用いることができる。上記フライアッシュは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の量で混合して用いてもよい。
【0014】
フライアッシュの含有量(以下、「FA置換率」と記載する場合がある)は、セメントとフライアッシュとの合計質量に対する、フライアッシュの質量割合として示される。本実施形態に係るFA置換率は40質量%以上50質量%以下である。FA置換率を40質量%以上とすることで、後述するFNS置換率を増加させた場合であっても、モルタル組成物の含水率を一定以上とすることができる。FA置換率を50質量%以下とすることで、形成される硬化体の強度を一定以上、例えば18N/mm2以上とすることができる。
【0015】
(細骨材)
細骨材としては、特に限定されず、密度によって軽量骨材、普通骨材、重量骨材等に分類される、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類から選択したものを好適に用いることができる。上記は、JIS規格品等の市販品を用いることができる。
【0016】
(フェロニッケルスラグ)
フェロニッケルスラグは、ニッケル鉱石等からステンレス鋼の原料となるフェロニッケルを精錬採取する際に発生するスラグである。フェロニッケルスラグは、細骨材の代替原料として用いることができる。フェロニッケルスラグの主成分は、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化鉄(FeO、Fe2O3)、酸化カルシウム(CaO)等である。上記フェロニッケルスラグとしては、特に限定されず、例えば、JIS A 5011-2「コンクリート用スラグ骨材第2部:フェロニッケルスラグ骨材」で粒度や種類により規定されるフェロニッケルスラグ細骨材を用いることができる。上記フェロニッケルスラグ細骨材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の量で混合して用いてもよい。
【0017】
フェロニッケルスラグの含有量(以下、「FNS置換率」と記載する場合がある)は、細骨材とフェロニッケルスラグとの合計質量に対する、フェロニッケルスラグの質量割合として示される。本実施形態に係るFNS置換率は60質量%以上90質量%以下である。上記FNS置換率を60質量%以上とすることで、形成される硬化体の藻場造成用に適した好ましい生物親和性が得られる。上記FNS置換率を90質量%以下とすることで、モルタル組成物の含水率を一定以上とすることができる。上記の観点から、FNS置換率は70質量%以上85質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係るモルタル組成物において、従来は30質量%程度が上限とされているFA置換率は40質量%以上50質量%以下であり、同様に、50質量%程度が上限とされているFNS置換率は60質量%以上90質量%以下である。従来、FA置換率が30質量%を超える場合、硬化体の好ましい初期強度が得られなかった。しかし、本実施形態に係るモルタル組成物は、フェロニッケルスラグの含有量が従来品よりも多いことで、好ましい初期強度が得られる。また、従来、FNS置換率が50質量%を超える場合、フェロニッケルスラグはガラス質であるため水を保持し難く、モルタル組成物の好ましい含水率が得られなかった。しかし、本実施形態に係るモルタル組成物は、フライアッシュの含有率が従来品よりも多いことで、好ましいモルタル組成物の含水率が得られる。
【0019】
(水)
本実施形態に係るモルタル組成物における水の含有量は、特に限定されず、モルタル組成物の流動性や凝結時間等を考慮して適宜決定できる。水の含有量は、例えばセメントの質量に対する水の質量割合を50~90質量%とすることができる。
【0020】
(その他の成分)
本実施形態に係るモルタル組成物には、上記以外の成分が含まれていてもよい。上記以外の成分としては、特に限定されず、例えば、減水剤、AE減水剤、空気連行剤(AE剤)、流動化剤、収縮低減剤、防錆剤、防水材、消泡剤、粉塵低減剤、顔料等、コンクリートに用いられる従来公知の成分が挙げられる。また、用途に応じて粗骨材を加えてコンクリートモルタルとしてもよい。粗骨材としてはコンクリートに用いられる従来公知のものを使用できる。
【0021】
<硬化体>
本実施形態に係るモルタル組成物を硬化させてなる硬化体は、好ましい生物親和性を有する。具体的には、例えば、海藻類であるアカモク、タマハハキモク、ジョロモク、ウミウチワ、ウスカワカニノテ、アミジグサ、ホンダワラ、ワカメ、アラメ等の生育に適している。上記の理由としては定かではないが、本実施形態に係る硬化体はCa、Fe等の無機成分の溶出量が従来の硬化体よりも多いことが明らかとなっており、該無機成分が海藻類の栄養源となることで、海藻類の生育が促進されるものと考えられる。このため、上記硬化体は海中に浸漬して用いる藻場造成用材料として特に適している。
【0022】
硬化体における上記無機成分の溶出量は、例えば、環境庁告示14号に規定される金属等の検定方法に準じて測定することができる。本実施形態に係る硬化体は、上記検定方法により測定されるCa溶出量が20mg/L以上、Fe溶出量が0.04mg/L以上であることが好ましい。
【0023】
本実施形態に係る硬化体の形状としては、特に限定されず、用途に適した形状とすることができる。例えば、藻場造成用ブロック、漁礁、消波ブロック、防波ブロック等の用途に適した形状とすることができる。具体的には、多面体形状、テトラポット形状、円筒形状、中空形状等とすることができる。
【0024】
<モルタル組成物の調製方法>
本実施形態に係るモルタル組成物は、各成分を水と混錬することで調製される。混錬する方法としては特に限定されず、例えば、水に各成分を全て加えて混錬する方法が挙げられる。混錬に用いる器具や装置も特に限定されず、例えば連続式ミキサやバッチ式ミキサ等のミキサ装置を用いることができる。
【0025】
<硬化体の製造方法>
本実施形態に係るモルタル組成物を用いて製造される硬化体の製造方法としては特に限定されず、型枠等を用いて任意の形状にモルタル組成物を成形した後、封緘養生、気中養生、蒸気養生、水中養生等、公知の方法及び条件で養生することで硬化体を製造できる。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0028】
(実施例1、比較例1~3)
表1に示した配合量で各固体原料を混合し、水を加えて混錬することで、実施例1及び比較例1~3のモルタル組成物を得た。上記実施例及び比較例に係るモルタル組成物を10×10×5cmの直方体形状に成形し、硬化させることで、上記実施例及び比較例に係る硬化体を得た。
【0029】
【0030】
[評価]
上記実施例及び比較例の硬化体を用い、以下の評価を行った。
【0031】
《無機成分溶出量測定》
実施例1及び比較例1の硬化体の無機成分溶出量を、環境庁告示14号に規定される金属等の検定方法に準じて測定した。具体的には、未粉砕状態で重量約500gの硬化体を用い、純水を溶媒として固液比1:2(重量体積比)となるようにして検液を調製した。試験方法は上記調製した検液を6時間振とうして0.45μmメンブレンフィルターでろ過を行った後、ICP分析により無機成分としてのSi、Mg、Ca、Feの溶出量(mg/L)を測定した。結果を表2に示す。
【0032】
【0033】
《海藻(アラメ)生育試験》
各実施例及び比較例の硬化体を各4個作成し、生育途中のアラメを硬化体上に設置して海水中における生育状況を比較した。アラメは葉の幅及び茎の太さがほぼ同一の大きさのものを選別して用いた。丈の長さについては、生長点が葉の根元部にあることから、上部をカットし6cmの初期丈長に合わせて用いた。試験設備は30cm×30cm×30cmのアクリル水槽を使用し、試験水は自然水温(温度調整なし)の海水をかけ流して使用した。光条件は自然状態で行い、光量計を用いて設置箇所による差異が無いことを確認した。また、所定の期間毎に水質調査を行い、PH(8.17~8.21)、水温(13.0~14.5℃)、塩分濃度(32.6~32.7%)、DO(9.03~9.33mg/L)測定を行い、測定期間内で大きな変化がないことを確認した。試験開始から67日後のアラメの丈長(cm)をスケールで測定した。結果を表3に示す。なお、表3中で丈長の記載が無い箇所は、アラメが枯れたサンプルや初期丈長である6cm以上に成長しなかったサンプルを意味する。
【0034】
【0035】
表2に示す通り、実施例1に係る硬化体は、比較例1に係る硬化体と比較して各無機成分の溶出量が多い結果が確認された。
【0036】
表3に示す通り、実施例1に係る硬化体は、各比較例に係る硬化体と比較して、アラメの成長量が大きく、生物親和性が高い結果が確認された。
【要約】
フライアッシュとフェロニッケルスラグとを含む、藻場造成に適した材料を提供する。
セメントと、フライアッシュと、細骨材と、フェロニッケルスラグと、水と、を含み、セメントとフライアッシュとの合計質量に対するフライアッシュの質量割合であるFA置換率は40質量%以上50質量%以下であり、細骨材とフェロニッケルスラグとの合計質量に対するフェロニッケルスラグの質量割合であるFNS置換率は60質量%以上90質量%以下である、モルタル組成物。