(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】バルク音響共振器及びこれを含むフィルタ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20220720BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20220720BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20220720BHJP
H01L 41/39 20130101ALI20220720BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H01L41/113
H01L41/187
H01L41/39
H03H9/54 Z
(21)【出願番号】P 2017005912
(22)【出願日】2017-01-17
【審査請求日】2019-12-27
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】10-2016-0098697
(32)【優先日】2016-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ-メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リー、タエ キュン
(72)【発明者】
【氏名】カン、イン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】シン、ラン ヘー
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ジン スク
【合議体】
【審判長】伊藤 隆夫
【審判官】福田 正悟
【審判官】瀧内 健夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-060478(JP,A)
【文献】特開2014-121025(JP,A)
【文献】特開2013-046111(JP,A)
【文献】特開2015-145536(JP,A)
【文献】特開2012-034093(JP,A)
【文献】特開2016-018964(JP,A)
【文献】特開2005-333619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B1/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上部に配置される第1電極と、
前記第1電極上に配置され、ドーピング物質が添加された窒化アルミニウムを含む複数の圧電層を含む圧電体と、
前記圧電体上に配置される第2電極と、を含み、
前記複数の圧電層のうち少なくとも一つは圧縮層であり、
前記圧縮層が、他の圧電層よりa軸方向の格子定数とc軸方向の格子定数の比(c/a)が大きく、かつ、前記圧電体の下部に前記第1電極と接するように配置されることにより、前記圧電体における異常成長の発生が抑制される、バルク音響共振器。
【請求項2】
前記基板と前記第1電極との間に形成されるエアキャビティをさらに含む、請求項1に記載のバルク音響共振器。
【請求項3】
前記ドーピング物質は、スカンジウム、エルビウム、イットリウム、ランタン、チタン、ジルコニウム、及びハフニウムからなる群より選択される一つ、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1または2に記載のバルク音響共振器。
【請求項4】
前記複数の圧電層は、前記ドーピング物質を1~20at%程度含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のバルク音響共振器。
【請求項5】
前記複数の圧電層のうち前記圧縮層は、他の圧電層より大きいc格子定数を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のバルク音響共振器。
【請求項6】
前記圧縮層の密度は3.4681g/cm
3を超える、請求項1から5のいずれか一項に記載のバルク音響共振器。
【請求項7】
前記複数の圧電層のうち前記圧縮層上に形成された圧電層の単位面積当たりの異常成長個数は、引張応力下または応力が加えられない状態で成長した圧電層上に形成された圧電層の単位面積当たりの異常成長個数より小さい、請求項6に記載のバルク音響共振器。
【請求項8】
前記圧縮層の屈折率は2.1135を超える、請求項1から7のいずれか一項に記載のバルク音響共振器。
【請求項9】
前記圧電体の残留応力は引張応力である、請求項1から8のいずれか一項に記載のバルク音響共振器。
【請求項10】
前記第1電極は、圧縮応力下で形成されるため、前記第1電極のa軸方向の格子定数が、応力が印加されていない状態で形成されたものより大きい、請求項1から9のいずれか一項に記載のバルク音響共振器。
【請求項11】
前記第1電極は、金(Au)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、及びイリジウム(Ir)のうち一つ、またはこれらの合金で形成される、請求項1から10のいずれか一項に記載のバルク音響共振器。
【請求項12】
前記第1電極は、モリブデン(Mo)またはその合金を含み、
前記第1電極のa格子定数は3.12Åより大きい値を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載のバルク音響共振器。
【請求項13】
複数のバルク音響共振器を含むフィルタにおいて、
前記複数のバルク音響共振器のうち一つ以上は、請求項1~10から選択されたいずれか一つのバルク音響共振器である、フィルタ。
【請求項14】
基板
、共振部
、及び前記共振部の下部に配置されるエアキャビティを含み、
前記共振部は、
基板の上部に配置される第1電極と、
互いに異なる応力下で形成された少なくとも二つ以上の圧電層を含む圧電体と、
前記圧電体上に配置される第2電極と
、を含み、
前記圧電体は、前記圧電層のうち少なくとも一つ以上が圧縮層を含み、
前記圧縮層が、他の圧電層よりa軸方向の格子定数とc軸方向の格子定数の比(c/a)が大きく、かつ、前記圧電体の下部に前記第1電極と接するように配置されることにより、前記圧電体における異常成長の発生が抑制される、薄膜バルク音響共振器。
【請求項15】
前記共振部は残留引張応力を有し、
前記圧縮層に直接印加される圧電層は引張応力下で形成される、請求項14に記載の薄膜バルク音響共振器。
【請求項16】
少なくとも二つ以上の前記圧電層はそれぞれドーピングされた窒化アルミニウム圧電層であり、
前記ドーピングされた窒化アルミニウム圧電層はHCP構造を有する、請求項15に記載の薄膜バルク音響共振器。
【請求項17】
前記圧縮層は、圧縮応力下で形成された第1電極の格子構造と格子整合されたHCP構造を有する、請求項16に記載の薄膜バルク音響共振器。
【請求項18】
前記第1電極は、圧縮応力下で形成され、BCC構造を有する、請求項17に記載の薄膜バルク音響共振器。
【請求項19】
前記圧電体の前記圧電層は圧縮応力下で形成されることで、圧縮応力下で形成された前記第1電極の格子構造と整合されたHCP構造を有する、請求項14から18のいずれか一項に記載の薄膜バルク音響共振器。
【請求項20】
圧縮応力下で第1電極を形成する段階と、
第1電極上に配置され、互いに異なる応力下で形成された少なくとも二つ以上の圧電層を含む圧電体を形成する段階と、
前記圧電体上に第2電極を形成する段階と、を含み、
前記第1電極、前記圧電体、及び前記第2電極によって残留引張応力を有する共振部が形成され、
前記圧電層のうち少なくとも一つは圧縮応力下で形成され、
前記圧電層が、圧縮応力下で形成されて、圧縮応力が印加されていない状態で形成された圧電層よりa軸方向の格子定数とc軸方向の格子定数の比(c/a)が大きく、かつ、前記圧電体の下部に前記第1電極と接するように配置されることにより、前記圧電体における異常成長の発生が抑制される、バルク音響共振器の製造方法。
【請求項21】
前記圧電体を形成する段階は、
異なる格子構造を有する前記第1電極の格子構造と格子整合されたHCP構造を有するように圧縮応力下で形成された圧電層を形成する段階を含む、請求項20に記載のバルク音響共振器の製造方法。
【請求項22】
前記圧電体を形成する段階において、形成される前記圧電体に印加された全体的な応力は引張応力である、請求項21に記載のバルク音響共振器の製造方法。
【請求項23】
前記圧電体を形成する段階は、
少なくとも二つ以上の前記圧電層がHCP構造を有するドーピングされた窒化アルミニウム圧電層で形成され、
前記第1電極はBCC構造を有する、請求項21または22に記載のバルク音響共振器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク音響共振器及びこれを含むフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、移動通信機器や、化学機器、バイオ機器などの急速な発達に伴い、このような機器に用いられる小型軽量フィルタ、発振器(Oscillator)、共振素子(Resonant element)、音響共振質量センサー(Acoustic Resonant Mass Sensor)などの需要が増加している。
【0003】
このような小型軽量フィルタ、発振器、共振素子、音響共振質量センサーなどを実現するための手段としては、薄膜バルク音響共振器(Film Bulk Acoustic Resonator:FBAR)が知られている。
【0004】
FBARは最小限の費用で大量生産が可能であり、超小型に実現できるという長所がある。また、フィルタの主要な特性である高い品質係数(Quality Factor:Q)値を実現することができ、マイクロ周波数帯域でも使用が可能であり、特にPCS(Personal Communication System)及びDCS(Digital Cordless System)帯域までも実現することができるという長所がある。
【0005】
一般に、FBARは、基板上に第1電極、圧電体、及び第2電極の順に積層して実現する共振部を含む構造からなる。
【0006】
FBARの動作原理を見ると、まず、第1及び第2電極に電気エネルギーを印加して圧電層内に電界を誘起させることで、この電界が圧電層の圧電現象を誘発させて共振部が所定の方向に振動するようにする。その結果、振動方向と同一の方向に音響波(Bulk Acoustic Wave)が発生し、共振を起こすようになる。
【0007】
即ち、FBARは、体積弾性波(Bulk Acoustic Wave:BAW)を用いる素子で、圧電体の電気機械結合係数(Effective electromechanical coupling coefficient、Kt
2)が大きくなることにより、弾性波素子の周波数特性が改善し、広帯域化も可能となる。ここで、電気機械結合係数(Kt
2)は、音響共振器に対する機械エネルギーと電気エネルギーの比を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2016-502363号公報
【文献】韓国登録特許第1386754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的のうちの一つは、圧電体の電気機械結合係数を向上させるとともに、圧電体を構成する圧電層に含まれるドーピング物質が添加された窒化アルミニウムの異常成長を防止することができるバルク音響共振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するための方法として、本発明は、一例を通じてバルク音響共振器の新たな構造を提案する。具体的には、基板と、上記基板の上部に配置される第1電極と、上記第1電極上に配置され、ドーピング物質が添加された窒化アルミニウムを含む複数の圧電層を含む圧電体と、上記圧電体上に配置され、上記圧電体を間に挟んで上記第1電極と互いに対向する第2電極と、を含み、上記圧電層のうち少なくとも一つは、圧縮応力下で形成される圧縮層である。
【0011】
また、本発明は、他の実施形態を通じて上述の構造を有するバルク音響共振器を含むフィルタを提案する。具体的には、複数のバルク音響共振器を含むフィルタにおいて、上記複数のバルク音響共振器のうち一つ以上は、基板と、上記基板の上部に配置される第1電極と、上記第1電極上に配置され、ドーピング物質が添加された窒化アルミニウムを含む複数の圧電層を含む圧電体と、上記圧電体上に配置され、上記圧電体を間に挟んで上記第1電極と互いに対向する第2電極と、を含み、上記圧電層のうち少なくとも一つは、圧縮応力下で形成される圧縮層である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一例によるバルク音響共振器の場合、圧電体が複数の圧電層を含み、圧電層のうち少なくとも一層は、圧縮応力下で成長した圧縮層であるため、ドーピング物質が添加された窒化アルミニウムの異常成長を防止するとともに、高い電気機械結合係数を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態によるバルク音響共振器の断面図を概略的に示すものである。
【
図2】
図1に示された共振部の一例であるAの拡大図を概略的に示すものである。
【
図3】圧電体の残留応力によるバルク音響共振器の電気機械結合係数(K
t
2)値の変化を示すものである。
【
図4】スカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムの異常成長が発生したことをSEMによって観察した写真である。
【
図5】表1に示されたサンプルのXRDロッキングカーブ(Rocking Curve)を測定したものである。
【
図6】表1に示されたサンプルのXRDロッキングカーブの半値幅(FWHM)と異常成長の単位面積当たりの発生数を測定したものである。
【
図7】圧電層の成長時に印加された応力による密度及び屈折率を測定したものである。
【
図8】第1電極の成長条件に応じた圧電体のXRDロッキングカーブの半値幅(FWHM)を測定したものである。
【
図9】第1電極の成長条件に応じた第1電極のXRDロッキングカーブの半値幅(FWHM)を測定したものである。
【
図10】第1電極の成長条件に応じた圧電体の異常成長の単位面積当たりの個数を示すものである。
【
図11】(a)~(c)は第1電極と圧電体を引張応力下で成長させた場合、TEMを用いて第1電極と圧電体の境界を倍率に応じて観察した写真である。
【
図12】(a)~(c)は第1電極を引張応力下で成長させ、圧電体のうち圧縮層が第1電極と接する位置に配置させた場合、TEMを用いて第1電極と圧電体の境界を倍率に応じて観察した写真である。
【
図13】(a)~(c)は第1電極を圧縮応力下で成長させ、圧電体のうち圧縮層が第1電極と接する位置に配置させた場合、TEMを用いて第1電極と圧電体の境界を倍率に応じて観察した写真である。
【
図14】第1電極と圧電体の格子構造が互いにマッチングする模式図を示すものである。
【
図15】第1電極及び圧電体の形成条件に応じて、XRD theta-2thetaスキャンを通じて圧電体のc軸の格子定数と第1電極のa軸の格子定数を測定したものである。
【
図16】圧電体の残留応力によるc格子定数をXRD theta-2thetaスキャンを通じて測定したものである。
【
図17】表6の3つのサンプルの第1電極と隣接する圧電層をHR-TEMを用いて観察した写真である。
【
図18】本発明の他の実施形態によるフィルタの概略的な回路図である。
【
図19】本発明の他の実施形態によるフィルタの概略的な回路図である。
【
図20】本発明のさらに他の実施形態によるバルク音響共振器の製造方法において、圧電体及び電極を成長させるスパッタリング装置及びスパッタリング工程の模式図を示すものである。
【
図21】本発明のさらに他の実施形態によるバルク音響共振器の製造方法に用いられるスパッタリング工程のための制御器の一例を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。したがって、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために拡大縮小表示(または強調表示や簡略化表示)が されることがある。
【0015】
なお、本発明を明確に説明すべく、図面において説明と関係ない部分は省略し、様々な層及び領域を明確に表現するために厚さを拡大して示し、同一思想の範囲内において機能が同一である構成要素に対しては同一の参照符号を用いて説明する。さらに、明細書全体において、ある構成要素を「含む」というのは、特に反対である記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0016】
以下、本発明で説明するバルク音響共振器は、薄膜バルク音響共振器を例に挙げて説明するが、これに制限されるものではない。
【0017】
図1は本発明の一実施形態によるバルク音響共振器の断面図を概略的に示すものである。
【0018】
図1を参照すると、本発明の音響共振器は、バルク音響共振器(Bulk Acoustic Resonator)であってもよく、基板110、絶縁層120、エアキャビティ112、及び共振部135を含むことができる。
【0019】
基板110は、シリコン基板で構成されることができ、基板110の上面には、絶縁層120が設けられて、基板110と共振部135を電気的に隔離させることができる。
【0020】
絶縁層120は、二酸化ケイ素(SiO2)、シリコンナイトライド(Si3N4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、及び窒化アルミニウム(AlN)のうち少なくとも一つを化学気相蒸着(Chemical vapor deposition)、RFマグネトロンスパッタリング(RF Magnetron Sputtering)、及び蒸発(Evaporation)のうち一つの工程を用いることで、基板110に形成して製作することができるが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0021】
エアキャビティ112は、基板110上に形成されることができる。エアキャビティ112は、共振部135の電極に電流が流れる場合、共振部135が所定の方向に振動することができるように共振部135の下部に位置し、共振部135によって生成された音響波の漏れを防止するインピーダンスとして動作することができる。エアキャビティ112は、絶縁層120上にエアキャビティ犠牲層パターンを形成し、エアキャビティ犠牲層パターン上にメンブレン130を形成した後、エアキャビティ犠牲層パターンをエッチングして除去するエッチング工程を行ってメンブレン130の下部に形成することができる。メンブレン130は、酸化保護膜として機能するか、基板110を保護する保護層として機能することができる。
図1に示されていないが、メンブレン130上には窒化アルミニウム(AlN)で製造されるシード層を形成してもよい。具体的には、シード層は、メンブレン130と第1電極140の間に配置されることができる。
【0022】
本発明の一実施形態では追加的に、エアキャビティ犠牲層パターンを形成する前に、絶縁層120上にエッチング阻止層をさらに形成することができる。即ち、エッチング阻止層は、エアキャビティ112を形成する際に、犠牲層パターンを除去するためのエッチング工程から基板110及び絶縁層120を保護し、エッチング阻止層上に他のいくつかの層が蒸着されるのに必要な基板の役割を果たすことができる。
【0023】
共振部135は、第1電極140、圧電体150、及び第2電極160を含むことができる。第1電極140、圧電体150、及び第2電極160は、順に積層することができる。
【0024】
第1電極140は、絶縁層120の一領域の上部からエアキャビティ112の上部のメンブレン130に延在して形成され、圧電体150は、エアキャビティ112の上部の第1電極140上に形成され、第2電極160は、絶縁層120の他領域の上部からエアキャビティ112の上部の圧電体150上に延在して形成されることができる。第1電極140、圧電体150、及び第2電極160の垂直方向に重なる共通領域は、エアキャビティ112の上部に位置することができる。
【0025】
圧電体150は、電気エネルギーを弾性波形態の機械エネルギーに変換する圧電効果を引き起こす部分で、ドーピング物質が添加された窒化アルミニウム(AlN)を含む一つ以上の圧電層を含むことができるが、これに制限されるものではない。ドーピング物質は、希土類金属(Rare earth metal)であってもよい。希土類金属は、例えば、スカンジウム(Sc)、エルビウム(Er)、イットリウム(Y)、及びランタン(La)のうち少なくとも一つを含むことができるが、本発明はこれらに制限されるものではない。または、ドーピング物質は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、及びハフニウム(Hf)のうち少なくとも一つであることができるが、本発明はこれらに制限されるものではない。圧電層に含まれるドーピング物質の含量は、1~20at%(atomic percent)であることができるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0026】
共振部135は、活性領域と非活性領域に区画することができる。共振部135の活性領域とは、第1電極140と第2電極160に無線周波数信号のような電気エネルギーが印加されると、圧電体150で発生する圧電現象によって所定の方向に振動して共振する領域のことである。共振部135は、エアキャビティ112の上部において第1電極140、圧電体150、及び第2電極160が垂直方向に重なる領域に該当する。活性領域は、共振部135のうちエアキャビティ112が共振部135から発生する音響エネルギーの漏れに対してインピーダンスとしての役割を果たす部分に限定されることができる。また、共振部135の非活性領域とは、第1電極140と第2電極160に電気エネルギーが印加されても圧電現象によって共振しない領域のことで、活性領域の外側の領域に該当する。
【0027】
共振部135は、圧電現象を用いて、特定の周波数を有する無線周波数信号を選択的に変換、例えば、通過させたり出力したりするのに用いられることができる。具体的には、共振部135は、圧電体150の圧電現象に伴う振動に対応する共振周波数を有する無線周波数信号を出力することができる。
【0028】
保護層170は、共振部135の第2電極160上に配置されて、第2電極160が外部に露出して酸化することを防止することができ、外部に露出しているそれぞれの第1電極140及び第2電極160には、電気信号を印加するための電極パッド180が形成されることができる。
【0029】
図2は
図1に示されたAの拡大図を概略的に示すものである。
【0030】
図2を参照すると、本発明の一実施形態によるバルク音響共振器の共振部135は、第1電極140、圧電体150、及び第2電極160の積層構造を有する。
【0031】
第1電極140、圧電体150、及び第2電極160は、
図20に示されたスパッタリング装置を用いて形成することができるが、本発明はこれに制限されるものではない。
図20は一つ以上の実施形態によるスパッタリング装置及びスパッタリング工程を概略的に示すものである。また、
図21は
図20のスパッタリング工程のための制御器21の一例を概略的に示すものである。
図21の制御器21は、実施形態に応じて
図20のスパッタリング装置を制御することができる。なお、以下では、圧電層、多層の圧電層を含む複数の圧電体、及び/または圧電体と接するように配置される電極を形成する工程についての説明を含むが、本発明はこれに制限されず、例えば、
図20のスパッタリング装置及びスパッタリング工程を用いて行うこともできる。
【0032】
図20を参照すると、一例として、スパッタリング装置は、チャンバー11、支持部材12、及びターゲット13を含む。支持部材12の上部には、成長させようとする物質の基礎となる基礎部材14が配置され、スパッタリング工程が進むにつれて基礎部材14の上部に成長させようとする物質が蒸着されて形成層15が成長する。チャンバー11にアルゴン(Ar)と窒素(N
2)を注入することで、第1電極140、圧電体150、及び第2電極160を成長させる過程でチャンバー11内の雰囲気を調節することができるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0033】
支持部材12は、RFバイアスパワー部と接続されて、第1電極140、圧電体150、及び第2電極160を成長させる過程で成長する物質の応力を圧縮応力または引張応力となるように調節することができる。例えば、RFバイアスパワーに応じて、応力は、様々なサイズの圧縮応力または引張応力となり得る。
図21の制御器21は、RFバイアスパワー部を含むことができ、一例として、RFバイアスパワー部はプロセッサ22に含まれることができる。
図21の制御器21は、メモリ23、ユーザーインターフェース24、及びディスプレイ25をさらに含むことができる。ここで、プロセッサ22は、スパッタリング装置を制御して本発明のスパッタリング工程またはスパッタリング工程の任意の組み合わせを行うように構成されることができる。また、例えば、メモリ23は、プロセッサ22によって実行される際に、かかるスパッタリング装置または他の薄膜形成装置もしくはこれらの任意の組み合わせの装置が作動するようにする命令を貯蔵する非一時的コンピュータ読み取り可能な記憶媒体であってもよい。
【0034】
再び
図2を参照すると、第1電極140を成長させる段階は、モリブデン(Mo)をターゲット13として使用して行われることができる。但し、これに制限されるものではなく、例えば、金(Au)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、及びイリジウム(Ir)のうち一つ、またはこれらの合金で形成することができる。このとき、成長する第1電極140の応力は、制御器21及び/または
図20のスパッタリング装置のRFバイアスパワーの制御によって調節されることができる。例えば、結晶配向性を向上させるために成長する第1電極140の応力を圧縮応力となるようにすることができる。以下、スパッタリング工程中の応力調整、またはスパッタリング装置の動作や他のスパッタリング工程に関する他の動作についての説明は、制御器21の動作及び制御を通じて行われることで理解されることができる。このような動作制御は、ディスプレイ25による情報またはプロンプトに基づいて実現されるように、制御器21のユーザーインターフェースとのユーザーの相互作用によって実現されることができるが、これらに限定されるものではない。第1電極140を形成した後、第1電極140の上部に圧電体150を形成する段階が行われる。
【0035】
図3は圧電体150の残留応力によるバルク音響共振器の電気機械結合係数(K
t
2)値の変化を示すものである。
図3に示されたように、圧電体150の電気機械結合係数(K
t
2)は、残留応力が大きくなることにつれて増加することができる。K
t
2が増加することにより、対応する音響波要素の周波数特性が改善することができ、相対的により低いK
t
2に比べて通信帯域が拡張することができる。
図3に示された圧電体150は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)圧電体150であってもよく、スカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウム(ScAlN)圧電体150であってもよい。
【0036】
図3を参照すると、圧電体150の残留応力が引張応力となるよう次第に大きくなる(例えば、-600MPa(圧縮応力)から600MPa(引張応力)に次第に大きくなる)につれて、これに比例して圧電体150の電気機械結合係数(K
t
2)が増加することが分かる。また、圧電体150として窒化アルミニウム(AlN)を用いる場合に比べて、ドーピング物質が添加された窒化アルミニウム(ScAlN)を用いる場合の電気機械結合係数が高いことが確認できる。例えば、ドーピング物質はスカンジウムであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0037】
しかし、ドーピング物質が添加された窒化アルミニウムを含む圧電体には、残留応力を引張応力となるように形成する場合、
図4のように、圧電体150において異常成長155が発生する個数が増加するという問題がある。ここで、
図4は走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したもので、スカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムに生成された異常成長155のイメージである。
【0038】
このような異常成長は、結晶成長(Crystal growth)の際に、表面エネルギー(Surface energy)を減らすことができる位置で主に発生するようになり、圧電体150に異常成長155の数が増えるほど、バルク音響共振器において縦方向と横方向の波動損失が増加するという問題がある。その結果、増加した横方向の音響波はノイズの増加をもたらす可能性があり、縦方向の音響波の損失は品質因子が低下するという問題をもたらすおそれがある。
【0039】
したがって、Kt
2の増加のために、ドーピング物質が添加された窒化アルミニウムで圧電体150を形成して、圧電体150の全体的な残留応力を引張応力として維持しながら、異常成長を防止する必要がある。
【0040】
本発明の一実施形態によるバルク音響共振器は、ドーピング物質が添加された窒化アルミニウムで圧電体150を形成する過程で、圧電体150を構成する複数の圧電層151、152のうち少なくとも一つを圧縮応力下で形成させることにより、異常成長が発生することを防止するか、または最小化するとともに、高い電気機械結合係数(Kt
2)を有することができる。
【0041】
このように、圧電体を形成する過程において、圧縮応力下で形成され、圧電体150を構成する複数の圧電層のうち少なくとも一つの圧電層を圧縮層とすることができる。
【0042】
後述のとおり、圧縮層は、圧縮応力が印加されていない状態で形成された圧電層よりa軸方向の格子定数とc軸方向の格子定数の比が大きくなり、圧縮層の密度は3.4681g/cm3、圧縮層の屈折率は2.1135を超えるようになる。また、圧縮層は、他の圧電層より大きいc格子定数を有する。
【0043】
また、圧縮層は、圧電体150の下部に第1電極140と接するように配置されることで、ドーピング物質が添加された窒化アルミニウムで圧電体150を形成する過程で異常成長が発生することを最小限にするか、異常成長が発生しないようにすることができる。
【0044】
圧電体150を形成した後、圧電体150の上部に第2電極160を形成する。例えば、第2電極160は上述の
図20のスパッタリング装置を用いて形成することができる。
【0045】
第2電極160は、圧電体150を間に挟んで第1電極140と互いに対向するように配置される。
【0046】
第2電極160は、第1電極140と同様に、モリブデンで形成されることができるが、これに制限されるものではない。例えば、第2電極160は、金(Au)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、及びイリジウム(Ir)のうち一つ、またはこれらの合金で形成することができるが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0047】
本発明の一実施形態による
図1の音響共振器は、少なくとも二つの異なる圧縮条件で形成された複数の圧電層及び第1電極140を含む共振部135を有することができる。本発明の一実施形態において、複数の圧電層のうち、第1電極140と直ぐに隣接した圧電層は圧縮応力下で形成され、複数の圧電層のうち少なくとも一つ以上の他の圧電層は印加される応力がない状態または引張応力下で形成されることができる。また、第1電極140、複数の圧電層、及び第2の電極160によって形成された共振部の残留応力は引張応力となり得る。
【0048】
以下、実施例及び比較例を通じて本発明をさらに詳細に説明するが、これは発明の具体的な理解を助けるためのもので、本発明の範囲が実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例において、圧電体はScの含量が6.25at%のScAlNを成長させて形成された。
【0049】
下記表1のように、圧電体を形成する段階を4層の圧電層を形成する段階に分けた。但し、圧電層の層数は、これに制限されるものではない。
【0050】
各圧電層を形成する段階は、
図20のスパッタリング装置の支持部材に、RFバイアスパワーを調節して、圧縮応力または引張応力を印加した状態で圧電層を成長させる方法によって行われた。
【0051】
表1において、各サンプル#1-1、#1-2、#1-3、#1-4、#1-5、及び#1-6の圧電体はシリコンウェハの上部で成長させた。
【0052】
【0053】
表1の第1層~第4層は、圧電体を構成する複数の圧電層のうち、第1電極から積層方向の順に定義したものである。
【0054】
圧電体の目標残留応力とは、圧電体を形成した後、圧電体が有する全体的な残留応力を意味する。
【0055】
また、表1の◇、◆、□、■とは表2のような条件を意味する。表2において、RFバイアスとは
図20のスパッタリング装置における支持部材に印加されたバイアスのことであり、ストレス(stress)とはRFバイアスに応じて成長している圧電層に印加されたストレス(stress)のことである。
【0056】
【0057】
例えば、圧電体のサンプル#1-1では、得られた圧電体の圧電層がすべてRFバイアス109.25W、即ち、圧縮応力-300MPaの状態で形成されるため、圧電体に圧縮残留応力が存在するようになる。
【0058】
これと異なって、圧電体のサンプル#1-2では、第1層が122.75WのRFバイアス、即ち、圧縮応力-600MPaの状態で形成された後、圧電体の第2~第4層は68.75WのRFバイアス、即ち、引張応力+600MPaの状態で形成されるため、圧電体に残留引張応力が存在するようになる。
【0059】
図5は表1に示された各サンプル#1-1、#1-2、#1-3、#1-4、#1-5、及び#1-6のXRDロッキングカーブ(Rocking Curve)を測定したもので、ロッキングカーブの測定結果は下記表3のとおりである。
【0060】
【0061】
表3を参照すると、すべてのサンプルにおいて半値幅が1.41~1.5程度の優れた値を示し、高い結晶配向性を有することが分かる。
【0062】
特に、サンプル#1-2の場合、半値幅が最も低く、最も高い結晶配向性を有することが確認できる。
【0063】
また、サンプル#1-2の場合には、半値幅は最も低く、最も高いインテンシティを示すことが確認できた。
【0064】
圧電体を構成する圧電層のうち第1層、即ち、第1電極と接するように配置される圧電層を圧縮層として形成する場合、半値幅が最も低く、最も高い結晶配向性を有するという効果を得ることができる。
【0065】
サンプル#1-2が上記のような高い値を有する理由は、圧電体を形成し始める際に、最も基礎となる最下層である第1層を粗密に形成した場合、第1層上に成長する残りの圧電層の配列も改善するためであると判断される。
【0066】
即ち、本発明の一実施形態によるバルク音響共振器は、圧縮層を圧電体の下部に第1電極と接するように配置または形成することにより、結晶配向性を高め、バルク音響共振器の性能を向上させることができる。
【0067】
図6は表1に示されたサンプルのXRDロッキングカーブの半値幅(FWHM)と異常成長の単位面積当たりの発生個数を測定したもので、その結果は表4のとおりである。
【0068】
【0069】
図6及び表4において測定された異常成長個数は、14μm×12μmの面積で異常成長した数を測定したものである。
【0070】
図6及び表4を参照すると、第1層を圧縮層として形成したサンプル#1-2が、半値幅が最も低く、最も優れた結晶配向性を示すとともに、異常成長も発見されていないことが分かる。
【0071】
上述のとおり、圧電体を形成し始める際に、最も基礎となる最下層である第1層を粗密に形成した場合、第1層上に成長する残りの圧電層の配列も改善するため、異常成長が最小限になると判断される。
【0072】
図6及び表4の結果によると、圧電体の形成時に、初期蒸着される圧電層の蒸着条件が、RFバイアスの出力を向上させ、イオン衝撃エネルギー(ion bombarding energy)を高めた圧縮応力条件である場合、圧電体の全体的な残留応力が引張応力であるにもかかわらず、優れた結晶配向性を有し、異常成長を抑制することができることが確認できる。一実施形態において、第1電極と直接接触する圧電層は圧縮層で形成され、圧電体の残りの圧電層のうち一つ以上は引張応力の条件下で形成されるため、実質的に結晶配向を向上させるとともに、異常成長を最小化または防止することができる。
【0073】
したがって、本発明の一実施形態によるバルク音響共振器は、スカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムを圧電体として使用し、残留応力が引張応力であるため、非常に高い電気機械結合係数を有する。同時に、本発明の一実施形態によるバルク音響共振器は、圧電体を構成する複数の圧電層のうち少なくとも一層、好ましくは、第1電極と接する圧電層を圧縮層として形成して、優れた結晶配向性及び異常成長の防止効果を有することができる。
【0074】
図7は圧電層の成長時に印加された応力による密度及び屈折率を測定したものであり、表5は
図7の測定結果を示すものである。
【0075】
図7及び表5を参照して、本発明の一実施形態によるバルク音響共振器に含まれる圧縮層について詳細に説明する。
【0076】
【0077】
表5のサンプル#2-1、#2-2、及び#2-3は、スカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムをそれぞれ-600MPa(圧縮応力)、0MPa、及び600MPa(引張応力)下で形成したものである。
【0078】
密度(Density)は、XRR(X-ray Reflectometry)を用いて測定し、屈折率はエリプソメータ(Ellipsometer)を用いて測定した。
【0079】
図7を参照すると、形成時に印加された圧力に応じた密度及び屈折率の変化傾向が互いに同一であることが分かる。即ち、それぞれのサンプルの圧電層は、-600MPa(圧縮応力)から600MPa(引張応力)に変化し、各サンプルにおいて圧電体の密度及び屈折率が減少することが確認できる。
【0080】
圧縮応力下で形成された圧縮層の格子定数の変化傾向を把握するために、窒化アルミニウムを圧縮応力下で形成させた場合を見ると次のとおりである。
【0081】
窒化アルミニウムは、HCP構造を有し、c軸の格子定数が4.986Åであり、a軸の格子定数が3.116Åである。即ち、窒化アルミニウムのa軸の格子定数に対するc軸の格子定数の比(c/a)は1.6となる。
【0082】
窒化アルミニウムを圧縮応力下で形成する場合、a軸の格子定数に対するc軸の格子定数の比(c/a)が1.6より大きくなる。一方、窒化アルミニウムを引張応力下で形成する場合、a軸の格子定数に対するc軸の格子定数の比(c/a)が1.6より小さくなる。
【0083】
スカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムは、結晶構造においてアルミニウムの一部がスカンジウムで置換されて窒化アルミニウムの格子定数が変わる。しかし、スカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムの結晶構造もHCPであり、形成時に印加される圧力に対し、窒化アルミニウムのa軸の格子定数に対するc軸の格子定数の比(c/a)の変化が類似した傾向を示す。例えば、圧縮応力下で形成されたスカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムの場合、a軸の格子定数に対するc軸の格子定数の比(c/a)が、0MPaで形成されたスカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムの比(c/a)より大きければよい。一方、引張応力下で形成されたスカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムの場合、a軸の格子定数に対するc軸の格子定数の比(c/a)が、0MPaで形成されたスカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムの比(c/a)より小さければよい。
【0084】
したがって、本発明の一実施形態による圧縮層は、応力が印加されていない状態で形成された圧電層よりa軸方向の格子定数とc軸方向の格子定数の比が大きくなる。
【0085】
また、
図7及び表5に示すように、圧縮層の密度は3.4681g/cm
3を超えるようになり、圧縮層の屈折率は2.1135を超えるようになる。
【0086】
下記表6は、第1電極の形成条件によるサンプルを示すものである。表6の第1電極の形成条件に応じてモリブデンを用いて第1電極を形成し、第1電極の上部にスカンジウムを含む窒化アルミニウムを用いて4層の圧電層を有する圧電体を形成した。
【0087】
圧電体は、表1とは異なってシリコンウェハではなく、第1電極の上部に形成された。
【0088】
表6において使用された◇、◆、□、■とは、上述の表2のような条件を意味する。
【0089】
【0090】
下記表7は表6のサンプルの圧電体の半値幅及び第1電極の半値幅をそれぞれ測定したものである。
【0091】
【0092】
図8は第1電極の成長条件に応じた圧電体のXRDロッキングカーブの半値幅(FWHM)を測定したものであり、
図9は第1電極の成長条件に応じた第1電極のXRDロッキングカーブの半値幅(FWHM)を測定したものであり、
図10は第1電極の成長条件に応じた圧電体の異常成長の単位面積当たりの個数を示すものである。
【0093】
図8、
図9及び表7を参照すると、第1電極が高い圧縮応力下で形成されるほど、圧電体及び第1電極の半値幅が減少して結晶配向性が向上することが分かる。
【0094】
具体的には、第1電極がモリブデン(Mo)である場合、モリブデンの結晶構造において(110)面の結晶配向性が向上し、圧電体がスカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムである場合、スカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムの結晶構造において(0002)面の結晶配向性が向上することが分かる。
【0095】
また、
図10を参照すると、グループ1及び2は、第1電極が高い圧縮応力下で形成されるほど、異常成長の数がともに減少することが確認できる。
【0096】
即ち、圧電体が形成される前に、基礎となる第1電極が粗密に形成されて、第1電極上に成長する圧電体も高い結晶配向性を有して形成される。これにより、異常成長の数も減少することが分かる。
【0097】
図11(a)~(c)は第1電極と圧電体を引張応力下で成長させた場合(サンプル#3-1)、TEMを用いて第1電極と圧電体の境界を倍率に応じて観察した写真であり、
図12(a)~(c)は第1電極を引張応力下で成長させ、圧電体のうち圧縮層が第1電極と接する位置に配置させた場合(サンプル#3-4)、TEMを用いて第1電極と圧電体の境界を倍率に応じて観察した写真であり、
図13(a)~(c)は第1電極を圧縮応力下で成長させ、圧電体のうち圧縮層が第1電極と接する位置に配置させた場合(サンプル#3-6)、TEMを用いて第1電極と圧電体の境界を倍率に応じて観察した写真である。
【0098】
図11~
図13は高解像度のTEMを用いて第1電極(Mo)と圧電体(ScAlN)の界面を撮影したものである。
【0099】
図11(a)、
図12(a)及び
図13(a)を参照すると、第1電極が暗い色の層で示され、圧電体が比較的明るい色の厚い層で示される。
【0100】
図11(b)を参照すると、圧電体部分に欠陥(defect)を示す黒色の斑点が
図12(b)及び
図13(b)より大幅に多く示されることが分かり、
図13(b)において黒の斑点が最も少ないことが分かる。
【0101】
また、
図12(b)及び
図12(c)を参照すると、第1電極と圧電体が接する界面が屈曲した形状を有することが分かる。このように、第1電極と圧電体が接する界面が屈曲した形状を有する場合、薄膜バルク音響共振器の性能が低下するようになる。
【0102】
これとは異なり、
図13(b)及び
図13(c)を参照すると、第1電極と圧電体が接する界面が平坦であることが確認できる。
【0103】
図14は第1電極と圧電体の格子構造が互いにマッチングする模式図を示すものである。
図14を参照して、モリブデンの第1電極にスカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムが成長することについて説明する。
【0104】
モリブデンの場合、結晶構造がBCCで、(110)面の面密度が最も高い。
【0105】
これとは異なり、スカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムは、結晶構造がHCPである。
【0106】
第1電極に圧電体を形成する場合、(110)面のモリブデン元素のうち一つのモリブデンを中心に、周りのモリブデン元素の中心を互いに接続すると、
図14のように六角形が現れるようになる。
【0107】
このような六角形にスカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムのHCPの(0002)面が配置される。
【0108】
図15は圧電体の残留応力によるc格子定数をXRD theta-2theta scanを通じて得たものである。
図15を参照すると、圧縮応力であるほどc格子定数が増加し、引張応力であるほどc格子定数が減少することが確認できる。
【0109】
図16は第1電極及び圧電体の形成条件に応じて圧電体のc軸の格子定数と第1電極のa軸の格子定数を測定したものである。
【0110】
図16を参照すると、圧電体の全体の残留応力は、引張応力(300MPa)であるため、スカンジウムでドーピングされた窒化アルミニウムのc格子定数の値は、一定の値を出していることが分かる。しかし、第1電極の場合、残留応力が圧縮応力であるほど、a格子定数が大幅に増加することが分かる。
【0111】
即ち、残留応力が圧縮応力である第1電極の格子定数は3.12Åより大きい値を有することができる。
【0112】
図17は第1電極と隣接したスカンジウム窒化アルミニウムの層(
図2の151を参照)のHR-TEM imageである(順に#3-1、#3-4、#3-6)。XRD theta-2thetaスキャンでは、スカンジウム窒化アルミニウムのa格子定数を測定することが困難であるため、HR-TEMを用いてa格子定数を測定した。
【0113】
下記表8はa軸に沿った格子定数を測定して、第1電極と圧電体の格子の不整合度(Lattice mismatch)を計算したものである。
【0114】
【0115】
図15~
図17及び表8を参照すると、第1電極を圧縮応力下で形成し、第1電極と接する圧電層が圧縮応力下で形成された圧縮層である場合、格子の不整合度が最も低いことが分かる。
【0116】
即ち、第1電極を圧縮応力下で形成するとともに、第1電極と接する圧電層が圧縮応力下で形成された圧縮層である場合、圧電体の結晶配向性が向上し、バルク音響共振器の性能が向上することができる。
【0117】
図18及び
図19は本発明の一実施形態によるフィルタの概略的な回路図である。
【0118】
図18及び
図19のフィルタに採用される複数のバルク音響共振器のそれぞれは、
図1に図示されたバルク音響共振器に対応する。
【0119】
図18を参照すると、本発明の一実施形態によるフィルタ1000は、ラダー型(ladder type)のフィルタ構造で形成することができる。具体的には、フィルタ1000は、複数のバルク音響共振器1100、1200を含む。
【0120】
第1バルク音響共振器1100は、入力信号(RFin)が入力される信号入力端と出力信号(RFout)が出力される信号出力端との間に直列接続されることができ、第2バルク音響共振器1200は、上記信号出力端と接地との間に接続される。
【0121】
図19を参照すると、本発明の一実施形態によるフィルタ2000は、格子状(lattice type)のフィルタ構造で形成されることができる。具体的には、フィルタ2000は、複数のバルク音響共振器2100、2200、2300、2400を含むことで、均衡(balanced)入力信号(RFin+、RFin-)をフィルタリングして均衡出力信号(RFout+、RFout-)を出力することができる。
【0122】
上記のとおり、本発明による薄膜バルク音響共振器において、上記圧電体は複数の圧電層を含み、上記圧電層のうち少なくとも一つは、圧縮応力下で成長した圧縮層からなることにより、ドーピング物質が添加された窒化アルミニウムのような圧電体の異常成長を防止することができ、結果的に得られる薄膜バルク音響共振器は高い有効電気機械結合係数を有することができる。
【0123】
したがって、一実施形態または他の実施形態において、薄膜バルク音響共振器またはフィルタ、製造方法、制御器、または非一時的コンピュータ読み取り可能な記憶媒体が提供されることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0124】
本発明における
図20及び
図21に示された制御器及びスパッタリング装置は、本明細書で説明されている動作を行うために構成されたハードウェア構成要素によって実現される。本明細書で説明されている動作を行うために用いられることができるハードウェア構成要素は、一例として、コントローラや、センサー、生成器、ドライバ、メモリ、加算器、減算器、乗算器、除算器、積分器などの電子構成要素を含むことができる。また、他の例として、少なくとも一つ以上のプロセッサまたはコンピュータによってハードウェアをコンピューティングすることにより実現されることができる。プロセッサまたはコンピュータは、論理ゲートのアレイのような一つ以上の処理要素によって実現されることができる。かかる処理要素は、論理ゲート、制御器及び算術論理ユニット、デジタル信号プロセッサ、マイクロコンピュータ、プログラマブルロジックコントローラ、フィールドプログラマブルゲートアレイ、プログラマブルロジックアレイ、マイクロプロセッサ、または所望の結果を得るために定義された方式で命令に応答し且つ命令を実行するように構成された任意の他の装置、または装置の組み合わせであってもよい。一例として、プロセッサまたはコンピュータは、かかるプロセッサまたはコンピュータによって実行される命令もしくはソフトウェアを貯蔵する一つ以上のメモリを含むことができる。また、プロセッサまたはコンピュータによって実現されるハードウェア構成要素は、命令またはソフトウェアを実行することができ、命令またはソフトウェアは、運営体制(OS)、及び本明細書で説明されている作業を行うためにOSで実行される一つ以上のソフトウェア応用プログラムのような応用プログラムを含むことができる。なお、ハードウェア構成要素は、命令またはソフトウェアの実行に応答してデータに接続することで、データを操作、処理、生成、及び貯蔵することができる。説明の明確性のために、本明細書に記載された例に対して、一つのプロセッサまたは一つのコンピュータを用いて説明することができるが、本発明がこれらに制限されるものではない。例えば、複数のプロセッサまたは複数のコンピュータを用いて本発明の他の実施形態に対して説明することもできる。さらに、プロセッサ及びコンピュータは、複数の処理要素または複数の類型の処理要素を含むことができる。例えば、一つのハードウェア構成要素または複数のハードウェア構成要素は、一つのプロセッサ、複数のプロセッサ、またはプロセッサとコントローラの組み合わせで実現されることができる。一つ以上のハードウェア構成要素は、一つ以上のプロセッサ、またはプロセッサと制御器の組み合わせによって実現されることができる。また、一つ以上の他のハードウェア構成要素は、一つ以上の他のプロセッサ、または他のプロセッサと他の制御器の組み合わせによって実現されることができる。一つ以上のプロセッサ、またはプロセッサとコントローラの組み合わせは、単一のハードウェア構成要素または二つ以上のハードウェア構成要素で実現されることができる。ハードウェア構成要素は、単一のプロセッサ、独立プロセッサ、並列プロセッサ、SISD(single-instruction single-data)多重処理、SIMD(single-instruction multiple-data)多重処理、MISD(Multiple-Instruction Single-Data)多重処理、及びMIMD(Multiple-Instruction Multiple-Data)多重処理などの処理構成要素のうち一つ以上を含むことができる。
【0125】
例えば、
図1~
図3、
図14、
図17、
図20、及び
図21で説明されている方法は、ハードウェアをコンピューティングすることにより行われることができる。一例として、ハードウェアをコンピューティングすることは、上述のように実現された一つ以上のプロセッサまたはコンピュータによって行われ、本発明で説明されている動作を行うために、上記プロセッサ、またはコンピュータから命令もしくはソフトウェアを実行することができる。例えば、単一の操作または複数の動作は、単一のプロセッサ、複数のプロセッサ、またはプロセッサと制御器の組み合わせによって行われることができる。一つ以上の動作は、一つ以上のプロセッサ、またはプロセッサと制御器の組み合わせによって行われることができる。また、一つ以上の他の動作は、一つ以上の他のプロセッサ、または他のプロセッサと他の制御器の組み合わせによって行われることができる。一つ以上のプロセッサ、またはプロセッサと制御器の組み合わせは、単一の動作または複数の動作を行うことができる。本明細書で説明されている方法を実行し、ハードウェア構成要素を実現するためのコンピューティングハードウェアを制御するための命令またはソフトウェアは、一つ以上のプロセッサ、またはコンピュータが個別もしくは集合的に動作できるように構成されたコンピュータプログラム、コードセグメント、命令またはこれらの任意の組み合わせで記録されることができる。一例として、命令またはソフトウェアは、コンパイラによって生成されたマシンコードなどのような一つ以上のプロセッサまたはコンピュータによって実行されるマシンコードを含むことができる。他の例として、命令またはソフトウェアは、インタープリタ(interpreter)を用いて、一つ以上のプロセッサまたはコンピュータによって実行される上位レベルのコードを含むことができる。命令またはソフトウェアは、図面に示されたブロック図及び流れ図並びに明細書に対応する説明に基づいた任意のプログラミング言語を使用して記録されることができる。
【0126】
ハードウェアをコンピューティングすることを制御するための命令またはソフトウェアは、一つ以上の非一時的なコンピュータ記憶媒体に貯蔵されたり記録されたりすることができる。非一時的なコンピュータ記憶媒体は、ROM(read-only memory)、RAM(random-access memory)、フラッシュメモリ、CD-ROM、CD-R、CD+R、CD-RW、CD+RW DVD-R、DVD-R、DVD-RW、DVD+RW、DVD-RAM、BD-ROM、BD-R、BD-R LTH、BD-RE、磁気テープ、フロッピー(登録商標)ディスク、光データ貯蔵装置、ハードディスク、半導体ディスク、及び指示またはソフトウェア及び任意の関連データ、データファイル、及びデータ構造を非一時的な方法で貯蔵するように構成された任意の他の装置を含むことができる。また、非一時的なコンピュータ記憶媒体は、一つ以上のプロセッサまたはコンピュータが命令を実行できるように、命令またはソフトウェア及び任意の関連データ、データファイル、及びデータ構造を一つ以上のプロセッサまたはコンピュータに転送することができる。一例として、命令またはソフトウェア及び任意の関連データ、データファイル、及びデータ構造は、ネットワーク結合コンピュータシステムを介して分散されて、命令及びソフトウェアと任意の関連データ、データファイル、及びデータ構造が貯蔵されたりアクセスされたりすることができ、一つ以上のプロセッサまたはコンピュータによって分散された方法で行われることができる。
【0127】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。
【符号の説明】
【0128】
110 基板
112 エアキャビティ
120 絶縁層
130 メンブレン
135 共振部
140 第1電極
150 圧電体
151、152 圧電層
155 異常成長
160 第2電極
170 保護層
180 電極パッド
1000、2000 フィルタ
1100、1200、2100、2200、2300、2400 バルク音響共振器