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特許7107516鉛蓄電池用正極及びそれを用いた鉛蓄電池
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用正極及びそれを用いた鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20220720BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M4/14 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017032569
(22)【出願日】2017-02-23
(65)【公開番号】P2018137183
(43)【公開日】2018-08-30
【審査請求日】2019-02-27
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八尾 健
(72)【発明者】
【氏名】岡野 寛
(72)【発明者】
【氏名】岩井 太一
(72)【発明者】
【氏名】高井 茂臣
(72)【発明者】
【氏名】薮塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】細川 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】三崎 伸也
(72)【発明者】
【氏名】栗原 健太
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】須原 宏光
【審判官】棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-106583(JP,A)
【文献】特表2013-546133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面に炭素質材料を含有し、前記炭素質材料と、ポリオレフィン樹脂(ただし、無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂を除く)との混合物のみから構成され、且つ、3次元の格子構造を備えない、鉛蓄電池用正極集電体。
【請求項2】
前記鉛蓄電池用正極集電体がカーボンシートである、請求項1に記載の鉛蓄電池用正極集電体。
【請求項3】
47質量%硫酸水溶液に70℃で7日間浸漬した際に質量の増加が認められない正極集電体である、請求項1又は2に記載の鉛蓄電池用正極集電体。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の正極集電体の表面上に、二酸化鉛を含有する正極活物質層が形成されている、鉛蓄電池用正極。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の鉛蓄電池用正極集電体、又は請求項に記載の鉛蓄電池用正極を備える鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用正極及びそれを用いた鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、安定した品質と経済性を有し、主に自動車用バッテリーとして用いられ、日本での二次電池生産額の三割近くを占めている。特に、昨今実用化が進められているハイブリッドカー及びアイドリングストップ車には、高性能の鉛蓄電池が不可欠であり、鉛蓄電池の需要は急激に増大している。また、近年、電力貯蔵用のための研究が活発になっている。鉛蓄電池は、開発されてから現在まで長い歴史があるが、未だ電池内部の反応に関して不明な点が残っている。
【0003】
鉛蓄電池は放電し過ぎると、その後の充電が困難になるため、完全に放電する前に充電する必要がある。このため、現時点では、鉛蓄電池は理論容量のわずか10%以下程度しか有効に利用できていない。
【0004】
上記のような鉛蓄電池は、正極としては、通常、正極集電体としての鉛の上に、正極活物質として酸化鉛の層が形成されており、充放電の際の反応式は以下のように表される。
【0005】
正極:PbO2+ 4H+ + SO4 2- + 2e ⇔ PbSO4 + 2H2O
負極:Pb + SO4 2- ⇔ PbSO4 + 2e
正極活物質として使用されているPbO2は、α型PbO2とβ型PbO2とが存在し、pHの低い領域(酸性領域)においてはβ型PbO2として存在し、pHの高い領域(アルカリ性領域)においてはα型PbO2として存在することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。鉛蓄電池の電解液としては、通常硫酸水溶液を使用するため、pHが低い状態で充放電が行われることからβ型PbO2が存在することが期待されるが、実際には、α型PbO2とβ型PbO2とが混在することが知られている。しかしながら、α型PbO2とβ型PbO2とが混在することと、理論容量を十分に有効活用できないこととの関係は未だ不明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】電池便覧第3版、電池便覧編集委員会編、p. 170、丸善(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、鉛蓄電池においては、理論容量を十分に有効活用できているとは言い難いため、十分に放電した後にも充電することができれば、有効活用できる容量を増大させることが期待される。また、鉛蓄電池は、他の二次電池と比較してコストの低い二次電池であるため、正極に使用する材料も安価な材料であることが求められる。このため、本発明は、安価な材料を使用しつつも、十分に放電し長期間停止した後でも再度充電することができる鉛蓄電池用正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を積み重ねた結果、鉛蓄電池の開回路時(不使用時)において、正極活物質であるPbO2(特にβ型PbO2)と、正極集電体である鉛との間で局部電池反応が起こることを見出した。具体的には、β型PbO2が正極、鉛が負極となり、電池反応が起こることによってα型PbO2が生成し、鉛蓄電池の性能に悪影響を及ぼすことを見出した。本発明者らは、正極集電体を適切に選択することにより、開回路時の局部電池反応を抑制することができることに想到し、正極集電体として使用している鉛の代わりに、カーボンシートを採用することで、安価な材料を使用しつつも、上記のような局部電池反応を抑制することができ、さらに、十分に放電し長期間停止した後でも再度充電することができることを見出した。本発明者らは、さらに研究を重ね、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.少なくとも表面に炭素質材料を含有する、鉛蓄電池用正極集電体。
項2.カーボンシートである、項1に記載の鉛蓄電池用正極集電体。
項3.硫酸非湿潤性の正極集電体である、項1又は2に記載の鉛蓄電池用正極集電体。
項4.炭素質材料と、二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質とを含有する、項1~3のいずれかに記載の鉛蓄電池用正極集電体。
項5.炭素質材料と、二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質とからなる、項1~4のいずれかに記載の鉛蓄電池用正極集電体。
項6.前記二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質は、ポリオレフィン樹脂である、項4又は5に記載の鉛蓄電池用正極集電体。
項7.項1~6のいずれかに記載の正極集電体の表面上に、酸化鉛を含有する正極活物質層が形成されている、鉛蓄電池用正極。
項8.項1~6のいずれかに記載の鉛蓄電池用正極集電体、又は項7に記載の鉛蓄電池用正極を備える鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、正極活物質層の正極集電体として、通常使用される鉛ではなく、少なくとも表面に炭素質材料を含有する正極集電体(特にカーボンシート)を採用することにより、安価な材料を使用しつつも、開回路時の局部電池反応によるα型PbO2の生成を抑制することができ、十分に放電し長期間停止した後でも再度充電することができる。つまり、鉛蓄電池の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】評価試験用セルの概略断面図である。
図2】カーボンシート1及びカーボンシート2の硫酸湿潤性試験の結果を示すグラフである。
図3】比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、試験例2の安定化試験における充放電試験及びX線回折測定の結果である。
図4】比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、試験例3の開回路試験における充放電試験及びX線回折測定の結果である。
図5】比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電した後における充放電試験及びX線回折測定の結果である。
図6】比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で静置した後における充放電試験及びX線回折測定の結果である。
図7】比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で静置した後における開回路で静置する時間を変化させた場合の充放電試験及びX線回折測定の結果である。
図8】比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で2日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験及びX線回折測定の結果である。最後に電位が急激に上昇しているのは、充電が出来なかったことを示している。
図9】比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く充電した後(開回路前)と、0Vまで深く放電し開回路で2日間静置した後のX線光電子分光測定の結果である。
図10】実施例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図11】実施例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0.5Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図12】実施例1の正極を用いた評価試験用セルについて、1.0Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図13】実施例2の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図14】実施例2の正極を用いた評価試験用セルについて、0.5Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図15】実施例2の正極を用いた評価試験用セルについて、1.0Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図16】実施例3の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図17】実施例4の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図18】比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く充放電サイクルした後に0Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。最後に電位が急激に上昇しているのは、充電が出来なかったことを示している。
図19】実施例1の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く充放電サイクルした後に0Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図20A】実施例2の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く充放電サイクルした後に0Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図20B】実施例2の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く充放電サイクルした後に0Vまで深く放電し開回路で1日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果(拡大図)である。
図21A】実施例1、5及び6の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で2日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図21B】実施例2、7及び8の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で2日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
図22】実施例1、9~11の正極を用いた評価試験用セルについて、0Vまで深く放電し開回路で2日間静置しその後充放電を再開した場合における充放電試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.鉛蓄電池用正極集電体
本発明の鉛蓄電池用正極集電体は、少なくとも表面に炭素質材料を含有する。本発明において、正極集電体中に含まれる炭素質材料は、後述の正極活物質層との間の局部電池反応(特に開回路時の局部電池反応)を抑制することができるため、開回路時に局部電池反応によりα型PbO2が生成することを抑制することができ、十分に放電し長期間停止した(開回路とした)後でも再度充放電することができる。
【0012】
本発明において、正極集電体は、上記のとおり、少なくとも表面に炭素質材料を含有しており、特に、正極集電体の表面が炭素質材料及び必要に応じて二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質からなることが好ましい。この場合、二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質は任意成分である。本発明において、開回路時の局部電池反応を抑制するためには、正極集電体は、後述する正極活物質であるPbO2よりも電極電位が著しく低い物質(特に、PbO2よりも標準電極電位が0.75V以上低い物質)を表面に含有しないことが好ましい。また、後述する正極活物質層中に導電助剤、添加剤等を含む場合には、導電助材、添加剤等中にもこれらの物質を含まないことが好ましい。このような構成を採用することにより、開回路時、例えば電池不使用時において、PbO2を正極、正極集電体を負極とする局部電池の生成を抑制し、これによる局部電池反応によって電池が劣化するのを抑制することができる。このため、耐久性に優れた鉛蓄電池を得ることができる。
【0013】
具体的には、後述する正極活物質であるPbO2よりも標準電極電位が著しく低いリチウム、カリウム、チタン、亜鉛、鉄、ニッケル、鉛、銅等は正極集電体の表面に有さないことが好ましい。また、導電助剤、添加剤等を使用する場合には、導電助剤、添加剤等中にも、これらの物質を含まないことが好ましい。
【0014】
このような正極集電体の構成としては、炭素質材料と必要に応じて二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質とを含有する構成(カーボンシート)を採用することもできるし、炭素質材料及び必要に応じて二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を表面に有する構成を採用することもできる。特に、炭素質材料と必要に応じて二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質とからなる構成を採用することが、コスト及び鉛蓄電池の性能の観点で好適である。また、後述する正極活物質層中に導電助剤、添加剤等を含む場合には、導電助材、添加剤等も電解質に対し電気化学的に不活性な物質であることが好ましい。このような構成を採用することにより、より確実に、開回路時において、PbO2を正極、正極集電体を負極とする局部電池の反応を抑制し、これによる局部電池反応によって電極材料が劣化するのを抑制して耐久性と容量を向上させることができる。
【0015】
炭素質材料は、電解質に対して不活性な物質であり、また、後述する正極活物質であるPbO2との間での局部電池反応も起らない。このような炭素質材料としては、特に制限はなく、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛(膨張黒鉛シート、等方性黒鉛等);活性炭;アモルファスカーボン等を好ましく採用できる。なかでも、化学的安定性、電気伝導性、成形性、加工性等の観点から、黒鉛が好ましい。なお、膨張黒鉛シート、等方性黒鉛を使用した場合には、後述の基材に支持させることなく正極を作製することも可能であり特に簡便である。
【0016】
また、二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質を含ませることで、正極集電体を硫酸非湿潤性の正極集電体とし、鉛蓄電池の劣化を抑制することが可能である。このような二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、アクリツブタジエンスチロール樹脂(ABS樹脂)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF樹脂)、ポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE樹脂)ポリエーテルサルフォン樹脂(PES樹脂)、導電性高分子(特に導電性有機高分子)等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。導電性高分子としては特に制限はなく、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチアジル等を好ましく採用することができる。これらの物質は、1種単独で用いることもでき、2種以上組合せて用いることもできる。なかでも、ポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリプロピレン樹脂がより好ましい。ポリオレフィン樹脂(特にポリプロピレン樹脂)は、溶融時の粘度が低いため、鉛蓄電池用正極作製時に溶融し、正極集電体全体に均一に分散しやすい。このため、液体(特に電解質である硫酸)の侵入を抑止する効果をより高め、鉛蓄電池の劣化をより抑制し、深く充放電した際の電位幅をより大きくすることもでき、開回路で静置した後の充放電もより良好に行うことができる。
【0017】
正極集電体中に二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質を含ませる場合、炭素質材料との含有割合は特に制限されない。正極集電体の成形性、強度、導電性、電池特性等の観点から、正極集電体の総質量を100質量%として、炭素質材料の含有量は80~99質量%(特に90~97質量%)が好ましく、二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質の含有量は1~20質量%(特に3~10質量%)がより好ましい。
【0018】
このような条件を有する正極集電体の厚みは、後述する正極活物質層の支持体として機能させる観点から、0.1~1.5mmが好ましく、0.3~1.0mmがより好ましい。
【0019】
なお、二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を表面に有する正極集電体を採用する場合、表面以外の中心部の材質は特に制限されない。つまり、正極集電体の中心部の材質がどのようなものであっても、その表面に二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を形成することにより、開回路時の局部電池反応を抑制し、十分に放電し長期間停止した(開回路とした)後でも再度充放電することができる正極集電体として使用することができる。この際、「二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を表面に有する」とは、表面が上記特定の物質からなる層で完全に被覆されている必要はなく、表面に上記特定の物質が散在している場合も含むものとする。このため、正極集電体の中心部として安価な材料を使用し、その表面に二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を形成することで、より安価に本発明の鉛蓄電池を作製することができる。
【0020】
二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質からなる層の厚みは、特に制限されず、局部電池反応による正極の劣化をより抑制して耐久性と容量をより向上させる観点から、5nm~10mmが好ましく、10nm~1mmがより好ましい。
【0021】
正極集電体の表面に、二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質からなる層を形成する方法は特に制限されない。例えば、塗布法、蒸着法等を採用することができる。塗布法を採用する場合は、例えば、アプリケーターロール等のローラーコーティング;スクリーンコーティング;ドクターブレード方式;スピンコーティング;バーコータ等の手段を用いて塗布することができる。
【0022】
上記した正極集電体は、単独で使用することもできるし、他の基材の上に積層させることもできる。特に、正極集電体の厚みが薄く(1μm~0.9mm程度)単独で後述する正極活物質層の支持体として自立しにくいような場合には、他の基材の上に積層させることが好ましい。このような他の基材としては、例えば、鉛等の金属;アルミナ等のセラミックス;ポリエーテルサルフォン樹脂等のポリマー等が挙げられる。このような他の基材の厚みは、1μm~10mm程度が好ましい。
【0023】
2.鉛蓄電池用正極
本発明の鉛蓄電池用正極は、前記正極集電体の表面上に、酸化鉛を含有する正極活物質層が形成されている。上記したように、正極集電体中に含まれる炭素質材料は、前記正極活物質層との間の局部電池反応(特に開回路時の局部電池反応)を抑制することができるため、開回路時に局部電池反応によりα型PbO2が生成することを抑制することができ、十分に放電し長期間停止した(開回路とした)後でも再度充放電することができる。
【0024】
本発明の鉛蓄電池において、正極活物質層中に含まれる正極活物質は、従来から使用されている二酸化鉛(PbO2)を採用することが好ましい。正極活物質層中の正極活物質の含有量は特に制限されず、従来から、鉛蓄電池の正極に適用される程度とすることができ、正極活物質層の総量を100質量%として、50~95質量%が好ましく、70~90質量%がより好ましい。
【0025】
本発明において、正極活物質層には、導電助剤を含ませることもできる。導電助剤としては、電子伝導性材料であり、且つ、局部電池反応が起こりにくい材料(二酸化鉛及び硫酸に対し電気化学的に不活性な物質)を採用することが好ましい。具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(等方性黒鉛等);カーボンブラック;アセチレンブラック;ケッチェンブラック;カーボンウイスカー;炭素繊維;気相成長炭素等の導電性材料を1種又はそれらの混合物として含ませることができる。正極活物質層中の導電助剤の含有量は特に制限されず、従来から、鉛蓄電池の正極に適用される程度とすることができ、正極活物質層の総量を100質量%として、5~35質量%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。
【0026】
他にも、正極活物質層には、上記成分の他に、結着剤、増粘剤等を含ませることもできる。
【0027】
結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0028】
増粘剤としては、通常、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類等を1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0029】
正極活物質層中の結着剤及び増粘剤の含有量は特に制限されず、従来から、鉛蓄電池の正極に適用される程度とすることができ、正極活物質層の総量を100質量%として、結着剤及び増粘剤の合計量として2~15質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。
【0030】
これら各成分の混合方法は、物理的な混合であり、均一混合が好ましい。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミル等のような粉体混合機を乾式又は湿式で使用することが可能である。
【0031】
本発明において、正極集電体上に正極活物質層を形成する方法は特に制限されない。例えば、正極活物質等の各種成分を水に混合させて、正極活物質層形成用ペースト組成物を作製し、その後、該ペースト組成物を本発明の正極集電体に含浸又は塗布し、乾燥する方法等が挙げられる。
【0032】
塗布方法については、例えば、アプリケーターロール等のローラーコーティング;スクリーンコーティング;ドクターブレード方式;スピンコーティング;バーコータ等の手段を用いて塗布することができる。また、乾燥条件も特に制限はなく、通常鉛蓄電池において採用されている範囲で採用することができる。
【0033】
3.鉛蓄電池
本発明の鉛蓄電池は、本発明の鉛蓄電池用正極を備える。
【0034】
正極以外の部材としては、鉛蓄電池用負極、鉛蓄電池用電解液、鉛蓄電池用セパレータ等が挙げられる。これらは、適宜製造したものでもよく、市販品でもよく、公知の鉛蓄電池における部材、材料を採用できる。
【実施例
【0035】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
以下の実施例において使用したカーボンシートは、以下のとおりである。なお、カーボンシート1は黒鉛からなるシートである。また、カーボンシート2~8は、黒鉛とポリプロピレンからなるシートであり、PF-50PPxxは、ポリプロピレンをxx質量%含むことを意味する。さらに、カーボンシート9~11は、黒鉛とポリエチレンからなるシートであり、PF-50PExxは、ポリエチレンをxx質量%含むことを意味する。
カーボンシート1:東洋炭素(株)製のPF-50(厚み0.5mm)
カーボンシート2:東洋炭素(株)製のPF-50PP05(厚み0.5mm)
カーボンシート3:東洋炭素(株)製のPF-50PP10(厚み0.5mm)
カーボンシート4:東洋炭素(株)製のPF-50PP15(厚み0.5mm)
カーボンシート5:東洋炭素(株)製のPF-50PP01(厚み0.5mm)
カーボンシート6:東洋炭素(株)製のPF-50PP02(厚み0.5mm)
カーボンシート7:東洋炭素(株)製のPF-50PP03(厚み0.5mm)
カーボンシート8:東洋炭素(株)製のPF-50PP04(厚み0.5mm)
カーボンシート9:東洋炭素(株)製のPF-50PE05(厚み0.5mm)
カーボンシート10:東洋炭素(株)製のPF-50PE10(厚み0.5mm)
カーボンシート11:東洋炭素(株)製のPF-50PE15(厚み0.5mm)。
【0037】
実施例1
β型PbO2(Johnson Matthey製の二酸化鉛)に、導電助剤としてアセチレンブラック、結着剤としてPTFEを、β型PbO2: アセチレンブラック: 結着剤が80: 15: 5(質量%)の割合でそれぞれ加え、よく混合し、正極活物質層形成用ペースト組成物を作製した。
【0038】
正極支持体(正極集電体)として、カーボンシート1を用い、当該正極支持体に、厚みが0.5mmとなるように、前記正極活物質層形成用ペースト組成物を塗布し、乾燥させて、実施例1の鉛蓄電池用正極を得た。
【0039】
実施例2
正極支持体(正極集電体)としてカーボンシート2を用いること以外は実施例1と同様に、実施例2の鉛蓄電池用正極を得た。
【0040】
実施例3
正極支持体(正極集電体)としてカーボンシート3を用いること以外は実施例1と同様に、実施例3の鉛蓄電池用正極を得た。
【0041】
実施例4
正極支持体(正極集電体)としてカーボンシート4を用いること以外は実施例1と同様に、実施例4の鉛蓄電池用正極を得た。
【0042】
実施例5
正極支持体(正極集電体)としてカーボンシート5を用いること以外は実施例1と同様に、実施例5の鉛蓄電池用正極を得た。
【0043】
実施例6
正極支持体(正極集電体)としてカーボンシート6を用いること以外は実施例1と同様に、実施例6の鉛蓄電池用正極を得た。
【0044】
実施例7
正極支持体(正極集電体)としてカーボンシート7を用いること以外は実施例1と同様に、実施例7の鉛蓄電池用正極を得た。
【0045】
実施例8
正極支持体(正極集電体)としてカーボンシート8を用いること以外は実施例1と同様に、実施例8の鉛蓄電池用正極を得た。
【0046】
実施例9
正極支持体(正極集電体)としてカーボンシート9を用いること以外は実施例1と同様に、実施例9の鉛蓄電池用正極を得た。
【0047】
実施例10
正極支持体(正極集電体)としてカーボンシート10を用いること以外は実施例1と同様に、実施例10の鉛蓄電池用正極を得た。
【0048】
実施例11
正極支持体(正極集電体)としてカーボンシート11を用いること以外は実施例1と同様に、実施例11の鉛蓄電池用正極を得た。
【0049】
比較例1
正極支持体(正極集電体)として鉛プレート((株)ニラコ製の鉛99.9%;厚み0.3mm)を用いること以外は実施例1と同様に、比較例1の鉛蓄電池用正極を得た。
【0050】
製造例1:評価試験用セル
以下の評価試験用セルとしては、二極式ガラスセルを採用した。正極としては上記した実施例1~11及び比較例1の正極を用い、負極としては鉛プレート((株)ニラコ製の鉛99.9%;厚み0.3mm)を用い、電解液としては35質量%硫酸水溶液を用い、図1に示すセルを作製した。
【0051】
試験例1:硫酸湿潤性試験
カーボンシート1及びカーボンシート2を30mm×30mmに切り出し、47質量%硫酸水溶液に浸漬させ、約70℃にて7日間保持し、各カーボンシートの質量の変化を測定した。結果を図2に示す。この結果、カーボンシート1には硫酸が湿潤し、1日後には質量が約2倍になっているのに対し、カーボンシート2には硫酸が湿潤しておらず、質量の増加は認められなかった。
【0052】
試験例2:充放電試験(安定化試験)
比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、以下の条件で充放電を行い、各過程における正極活物質層のX線回折測定を行った。なお、X線回折測定は、(株)リガク製のTINT-TTRを用い、測定法:2θ/θ法、線源:CuKα、出力:30kV/200mA、角度範囲:20~90°、ステップ幅0.01°、DS:1/2°、RS:0.3mm、SS:1/2°、サンプリング時間:10秒の各条件で行った。
【0053】
まず、電池反応を安定化させるため、9mA/gで放電30分間及び180mA/gで充電20分間を1サイクルとして20サイクル充放電を繰り返し、充放電を安定化させた。充放電試験及びX線回折測定の結果を図3に示す。図3の左図において、丸印はX線回折測定を行った時点を示している。この結果、比較例1の正極を用いた場合には、わずかながらα型PbO2のピークが検出された。
【0054】
試験例3:充放電試験(開回路試験)
比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、以下の条件で充放電を行い、各過程における正極活物質層のX線回折測定を行った。なお、X線回折測定は、試験例2と同様に行った。
【0055】
まず、電池反応を安定化させるため、9mA/gで放電30分間及び180mA/gで充電20分間を1サイクルとして20サイクル充放電を繰り返し、次いで、再度のサイクルの放電が終わった後に、開回路の状態で静置した。充放電試験及びX線回折測定の結果を図4に示す。図4の左図において、丸印はX線回折測定を行った時点を示している。この結果、比較例1の正極を用いた場合には、開回路で静置した場合にもわずかながらα型PbO2のピークが検出された。
【0056】
試験例4:充放電試験(深放電試験)その1
比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、以下の条件で充放電を行い、各過程における正極活物質層のX線回折測定を行った。なお、X線回折測定は、試験例2と同様に行った。
【0057】
まず、電池反応を安定化させるため、9mA/gで放電30分間及び180mA/gで充電20分間を1サイクルとして20サイクル充放電を繰り返し、次いで、再度のサイクルの放電が終わった後に、0Vまで9mA/gで深く放電した。充放電試験及びX線回折測定の結果を図5に示す。図5の左図において、丸印はX線回折測定を行った時点を示している。この結果、比較例1の正極を用いた場合には、深く放電した場合にもわずかながらα型PbO2のピークが検出された。
【0058】
次に、上記のように深く放電した後に、開回路の状態で静置した。充放電試験及びX線回折測定の結果を図6に示す。図6の左図において、丸印はX線回折測定を行った時点を示している。この結果、比較例1の正極を用いた場合には、深く放電した後に開回路で静置した場合には、今までよりもはっきりとα型PbO2のピークが検出された。このため、正極集電体に鉛を使用した場合、鉛蓄電池を深く放電した後に開回路で静置すると、α型PbO2が生成されやすいことが示唆される。
【0059】
また、深く放電した後に開回路で静置する時間を開回路なし(0時間)、開回路6時間、開回路2日間と変化させた場合の結果を図7に示す。この結果、深く放電した後には、開回路で静置する時間が長くなるのに伴って、α型PbO2のピークが大きくなり、深く放電した後に開回路で静置するとα型PbO2が生成され続けることが理解できる。
【0060】
さらに、上記のように0Vまで深く放電し開回路で2日間静置した後に、180mA/gで1時間充電し、再度充放電が可能かどうか評価した。充放電試験及びX線回折測定の結果を図8に示す。図8の左図において、丸印はX線回折測定を行った時点を示している。最後に電位が急激に上昇しているのは、充電が出来なかったことを示している。この結果、比較例1の正極を用いた場合には、α型PbO2のピークがさらにはっきりと検出され、深く放電し開回路で静置した後には再度充放電を行うことはできなかった。
【0061】
次に、上記の比較例1の正極を用いた試験において、0Vまで深く放電した後(開回路前)と、0Vまで深く放電し開回路で2日間静置した後のX線光電子分光測定(XPS)の結果を図9に示す。図9において、左図は正極活物質層中の正極集電体との界面近傍、右図は正極集電体中の正極活物質層との界面近傍の結果である。なお、X線光電子分光測定は、光源MgKα、結合エネルギー130~160eV、走査回数50回の各条件で行った。この結果から、0Vまで深く放電した後に開回路で静置すると正極活物質が還元され、正極集電体は酸化されていることが理解できる。このため、0Vまで深く放電した後に開回路で静置すると正極活物質は局部電池反応で還元され、α型PbO2が生成していると示唆される。
【0062】
一方、実施例1の正極を用いたこと以外は上記図8の試験と同様に試験を行った(0Vまで深く放電し開回路で1日間静置した後に20サイクル充放電)場合の充放電試験を図10に示す。一方、実施例1の正極を用い、0.5V又は1.0Vまで深く放電し開回路で1日間静置した後に20サイクル充放電した場合の結果を図11及び12に示す。この結果、実施例1の正極を用いた場合には、深く放電し開回路で静置した後にも再度充放電を行うことが可能であった。
【0063】
また、実施例2の正極を用いたこと以外は上記図8の試験と同様に試験を行った(0Vまで深く放電し開回路で1日間静置した後に20サイクル充放電)結果を図13に示す。一方、実施例2の正極を用い、0.5V又は1.0Vまで深く放電し開回路で1日間静置した後に20サイクル充放電した場合の結果を図14及び15に示す。この結果、実施例2の正極を用いた場合には、深く放電し開回路で静置した後にも再度充放電を行うことが可能であった。また、図10~12と比較すると、深く放電し開回路で静置した後の充放電サイクル時の充電電位が高くより性能がよいことが示唆されている。
【0064】
さらに、実施例3~4の正極を用いたこと以外は上記図8の試験と同様に試験を行った(0Vまで深く放電し開回路で1日間静置した後に20サイクル充放電)結果を図16~17に示す。この結果、実施例3~4の正極を用いた場合には、深く放電し開回路で静置した後にも再度充放電を行うことが可能であった。また、図10と比較すると、深く放電し開回路で静置した後の充放電サイクル時の、充電電位が高くより性能がよいことが示唆されている。
【0065】
試験例5:充放電試験(深放電試験)その2
比較例1の正極を用いた評価試験用セルについて、以下の条件で充放電を行った。
【0066】
まず、電池反応を安定化させるため、9mA/gで放電30分間及び180mA/gで充電20分間を1サイクルとして20サイクル充放電を繰り返し、次いで、0Vまで9mA/gで深く放電及び180mA/gで充電20分間を1サイクルとして10サイクル充放電を繰り返し、その後、0Vまで9mA/gで深く放電した。その後、開回路の状態で1日間静置した後に、180mA/gで1時間充電し、再度充放電が可能かどうか評価した。充放電試験の結果を図18に示す。最後に電位が急激に上昇しているのは、充電が出来なかったことを示している。この結果、比較例1の正極を用いた場合には、深く放電し開回路で静置した後には再度充放電を行うことはできなかった。
【0067】
次に、実施例1及び2の正極を用いた評価試験用セルについて、以下の条件で充放電を行った。
【0068】
まず、電池反応を安定化させるため、9mA/gで放電30分間及び180mA/gで充電20分間を1サイクルとして20サイクル充放電を繰り返し、次いで、0Vまで9mA/gで深く放電及び180mA/gで充電20分間を1サイクルとして10サイクル充放電を繰り返し、その後、0Vまで9mA/gで深く放電した。その後、開回路の状態で静置した。充放電試験の結果を図19、20A及び20Bに示す。この結果、実施例2の試料は深く放電し開回路で静置した後の充放電サイクル時の充電電位が大きく、より性能がよいことが示唆されている。
【0069】
試験例6:充放電試験(深放電試験)その3
実施例1~2及び5~8の正極を用いた評価試験用セルについて、以下の条件で充放電を行った。
【0070】
まず、電池反応を安定化させるため、9mA/gで放電30分間及び180mA/gで充電20分間を1サイクルとして20サイクル充放電を繰り返し、次いで、再度のサイクルの放電が終わった後に、0Vまで9mA/gで深く放電した。次に、深く放電した後に、開回路の状態で2日間静置した。この後、再度同じ条件で20サイクル充放電を行った。結果を図21A及び21Bに示す。
【0071】
次に、実施例1及び9~11の正極を用いた評価試験用セルについて、以下の条件で充放電を行った。
【0072】
まず、電池反応を安定化させるため、9mA/gで放電30分間及び180mA/gで充電20分間を1サイクルとして20サイクル充放電を繰り返し、次いで、再度のサイクルの放電が終わった後に、0Vまで9mA/gで深く放電した。次に、深く放電した後に、開回路の状態で2日間静置した。この後、再度同じ条件で20サイクル充放電を行った。結果を図22に示す。
【0073】
以上の結果から、正極集電体として鉛を使用した場合は、深く放電した後に開回路で静置するとα型PbO2が生成された。これは、正極活物質であるPbO2を正極、正極集電体であるPbを負極として、局部電池反応が起こったためと示唆される。また、この結果、深く放電し開回路で静置した後には、再度充放電を行うことはできなかった。このため、正極集電体として鉛を使用する場合は、深く放電ができないことから、鉛蓄電池が有する容量を有効活用できないことが示唆されている。このことは、現在、市販の鉛蓄電池は容量利用率が10%以下程度に過ぎないことと整合している。
【0074】
また、正極集電体としてカーボンシートを使用した場合には深く放電し開回路で静置した後にも、再度充放電を行うことができた。カーボンシートとして、ポリプロピレン及びポリエチレンを含ませたカーボンシート2~11を使用した実施例2~11では、さらに電池性能を向上させることができた。このため、本発明の鉛蓄電池用正極は、市販の鉛蓄電池と比較すると、容量利用率を格段に向上させることができ、乗用車から電力貯蔵まで、電池の適用範囲が拡大することが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21A
図21B
図22