(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】湿式断熱モルタル材料、及び断熱モルタル構造
(51)【国際特許分類】
C04B 22/06 20060101AFI20220720BHJP
C04B 28/04 20060101ALI20220720BHJP
E02D 27/01 20060101ALI20220720BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20220720BHJP
E04F 13/02 20060101ALI20220720BHJP
E04F 15/12 20060101ALI20220720BHJP
F16L 59/02 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C04B22/06 A
C04B28/04
E02D27/01 102Z
E04B1/76 400G
E04F13/02 A
E04F15/12 A
F16L59/02
(21)【出願番号】P 2017194370
(22)【出願日】2017-10-04
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390025612
【氏名又は名称】富士川建材工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】398012270
【氏名又は名称】株式会社藤島建設
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】原田 進
(72)【発明者】
【氏名】上村 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】冨永 翔
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 洋一
(72)【発明者】
【氏名】田村 寛治
(72)【発明者】
【氏名】中山 正利
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-324191(JP,A)
【文献】特開平06-042147(JP,A)
【文献】特表2017-502916(JP,A)
【文献】特表2012-525290(JP,A)
【文献】特表2013-512175(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105000834(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107032679(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106699052(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02,
C04B40/00-40/06,
C04B103/00-111/94
F16L 59/02
E04B 1/76
E02D 27/01
E04F 13/02
E04F 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅又は建築物の内外壁、基礎立上り、床スラブから選ばれる塗着対象に塗着される湿式断熱モルタル材料であって、
容量割合で
嵩比重0.065~0.090であるシリカ系エアロジェルを主とし、
水硬性セメント、及び水からなる混練物の密度が0.5~0.3g/cm
3、絶乾燥密度が0.4~0.1g/cm
3であることを特徴とする湿式断熱モルタル材料。
【請求項2】
重量分率で
嵩比重0.065~0.090であるシリカ系エアロジェル35~50Wt%、
水硬性セメント60~45Wt%を含むことを特徴とする請求項1に記載の湿式断熱モルタル材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の湿式断熱モルタル材料を住宅又は建築物の内外壁、基礎立上り、床スラブから選ばれる塗着対象に塗着してなることを特徴とする断熱モルタル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が著しく低く極めて軽量なシリカ系エアロジェルを用い、施工時の様々な負荷を軽減でき、各種の住宅等に高い断熱性能や不燃性、腐食対抗性を付与することができる湿式断熱モルタル材料、及び断熱モルタル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅建築における2020年度までの省エネルギー基準の全面義務化及び地球温暖化に対する新たな国際公約として、2013年度比で26%の削減が提起され、更なる省エネ対策の向上が求められている。
多くの住宅家屋等を既存建造物として考える時、省エネ対策の重要な施策である既存建造物の省エネ化、即ち断熱改修がなかなか進まない現状がある。この断熱改修が進まない大きな要因として、
・大規模な改修が必要となる。
・施工日数が長い。
・多大な費用がかかる。
などの一般的な理由が挙げられ、施工時に相当な“負荷”が既存家屋自体や既存家屋の居住者等にかかるため、改修を断念せざると得ない状況が作り出されている。
【0003】
住宅家屋としては、それが立設される環境に応じて種々の耐久性を備えるものが採用されており、鉄筋住宅から木造住宅まで様々なものがあるが、例えば南北に長く延在する日本国内においても、降雪が多い寒冷地における屋根及び外壁が重厚に形成された家屋、台風が多い地域における高強度の骨格構成を備える家屋、それ以外にも、建築工事におけるプレハブ住宅等の簡易住宅、或いは被災地における仮設住宅等、異なる環境条件に応じて各種の住宅構造が採用されている。
【0004】
前記住宅構造の多くは、欠陥住宅でない限り、少なくとも新築時には、十分な耐久性を備え、快適な居住空間を保持するものであるが、そもそも簡易住宅や仮設住宅として建設された住宅は、基本的に数年程度の短期間の居住を目的とするものであるため、その限りではない。特に地震や津波等の被災地における仮設住宅は、復旧の遅れ等もあって想定された期間を過ぎても、居住を継続する必要があるケースも多く、劣悪な居住空間における生活を継続しなければならない被災者も少なくない。
また、都市部から離れた過疎地等において、転居後の住宅が未居住のまま放置されて老朽化するケースも比較的多く、都市部においても、老朽化した家屋が隣接密集化しているケースも比較的多い。これらの住宅の最も懸念される問題は火災であり、特に後者の場合には、火災が発生した際に消火する活動の場を確保すること自体が困難であるため、その危険性は極めて大きい。
これらの既設家屋を含め、建て直しを行うより簡易に断熱改修が可能であれば、多くの既存住宅が断熱改修の対象となるが、前述の一般的な理由以外にも以下のような問題があった。例えば多くの既設家屋は、十分な外壁強度を備えているが、備えていない欠陥住宅や仮設住宅、簡易住宅等では、
・特に外壁や屋根等に高荷重の断熱被覆層を形成すると、その荷重が既存家屋自体に作用してしまうため、老朽化した既存家屋では倒壊を生ずる恐れがあった。
・既存家屋が密集する地域では、施工する作業場の確保が困難という問題があった。
・工事の施工日数が長い、或いは多大な費用がかかると、既存家屋の居住者の生活に負担を与える。
などの理由が挙げられる。
【0005】
例えばこれらの断熱改修を行う方法の一例として、樹脂混入断熱モルタル(熱伝導率λ=0.10~0.16程度)が実用化されているが、施工性と防火性の低さ(可燃性)から、主に既存家屋内部の断熱補強などにしか使用されていないのが現状である。
また、湿式の断熱性能があるモルタルも、実用化されているが、その多くは建築で使用されている樹脂系(例えば発泡スチロールλ=0.040)及び繊維系(例えば木材λ=0.14)の断熱材より性能が悪く(高性能でもλ=0.18程度)、シンダーコンクリートやスラブの一部に使用するなど、補助的に使用されることが多い。
【0006】
一方、シリカ系エアロジェルは、非常に低密度(嵩比重0.065~0.090)の無機固体であって、高い断熱性等の際立った特性を有した新素材である。具体的には、その熱伝導率が0.017W/(m・K)程度と著しく低い超軽量素材であるため、例えば特許文献1,2等において乾式断熱材として利用しようとする試みがなされている。
これらの乾式断熱材は、高い断熱性を有する(熱伝導率λ=0.034程度)ものの、施工性の低さから、揚げ床をつくるために打つシンダーコンクリートやスラブの一部に使用するなど、補助的に使用されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2017-502916号公報
【文献】特開2014-139467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の樹脂混入断熱モルタル(熱伝導率λ=0.10~0.16程度)では、既存建物の省エネ化に貢献するような外壁の断熱改修に利用できるものではなく、前記特許文献1,2の乾式の断熱材(熱伝導率λ=0.034程度)では、床材に補助的に使われるに過ぎなかった。
なお、断熱改修が求められる既存家屋としては、鉄筋住宅から木造住宅まで様々なものがあるが、前述のように被災地にて設置された仮設住宅等やプレハブ住宅等では、本来が数年程度の居住を見込んで建てられたものであるから、例えば防火性や断熱性等を有しないものも多かった。
【0009】
そこで、本発明は、熱伝導率が著しく低く極めて軽量なシリカ系エアロジェルを用い、施工時の様々な負荷を軽減でき、各種の住宅等に高い断熱性能や不燃性、腐食対抗性を付与することができる湿式断熱モルタル材料、及び断熱モルタル構造を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みて提案されるもので、住宅又は建築物の内外壁、基礎立上り、床スラブから選ばれる塗着対象に塗着される湿式断熱モルタル材料であって、容量割合で嵩比重0.065~0.090であるシリカ系エアロジェルを主とし、水硬性セメント、及び水からなる混練物の密度が0.5~0.3g/cm3、絶乾燥密度が0.4~0.1g/cm3であることを特徴とする湿式断熱モルタル材料に関するものである。
【0011】
また、本発明は、前記湿式断熱モルタル材料において、重量分率で嵩比重0.065~0.090であるシリカ系エアロジェル35~50Wt%、水硬性セメント45~60Wt%を含むことを特徴とする請求項1に記載の湿式断熱モルタル材料をも提案する。
【0012】
さらに、本発明は、前記湿式断熱モルタル材料を住宅又は建築物の内外壁、基礎立上り、床スラブから選ばれる塗着対象に塗着してなることを特徴とする断熱モルタル構造をも提案するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の湿式断熱モルタル材料は、各種の住宅又は建築物の内外壁、基礎立上り、床スラブから選ばれる塗着対象に塗着されるものであって、優れた断熱性能(熱伝導率=0.026~0.046程度)や不燃性、腐食対抗性を付与することができ、省エネ対策の向上にも貢献するものである。
特に本発明に容量割合で主成分として用いるシリカ系エアロジェルは、嵩比重0.065~0.090で極めて軽量であるため、その製造工程でも、その施工(塗着)工程でも、各種の操作に生ずる負担を軽減できる。この極めて軽量(混錬物の密度が0.5~0.3g/cm
3
)という特性は、現場作業者として、比較的腕力が低い高齢者や女性等でも容易に取り扱いや各種の作業を行うことができる。また、塗着を行うために用いる様々な装置等に対する負担も軽減でき、容易に且つ確実に作業を行うことができる。
さらに、その絶乾燥密度の低さ(0.4~0.1g/cm
3
)から明らかなように、塗着された塗着層も極めて軽量であるため、住宅等の塗着対象に与える負担(荷重)も低く抑えることができる。
【0014】
また、本発明の湿式断熱モルタル材料で施工された断熱モルタル構造は、断熱モルタル層が極めて軽量であることは前記絶乾燥密度からも明らかであるから、例えば住宅等の塗着対象に対して負担させる荷重も軽くてよく、優れた断熱性能や不燃性、腐食対抗性を付加させるものであり、省エネ対策の向上にも貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)木造住宅の基礎立上り内面(のみ)に断熱モルタルを施工した状態を示す断面図、(b)基礎立上り外面(のみ)に断熱モルタルを施工した状態を示す断面図、(c)基礎立上り内面及び外面に断熱モルタルを施工した状態を示す断面図である。
【
図2】(a)鉄筋住宅の基礎立上り内面(のみ)に断熱モルタルを施工した状態を示す断面図、(b)基礎立上り外面(のみ)に断熱モルタルを施工した状態を示す断面図、(c)基礎立上り内面及び外面に断熱モルタルを施工した状態を示す断面図である。
【
図3】(a)鉄筋コンクリート壁の室内側の内壁面及び床スラブに断熱モルタルを施工した状態を示す断面図、(b)屋外側の外壁面のみに断熱モルタルを施工した状態を示す断面図、(c)その両方に断熱モルタルを施工した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の湿式断熱モルタル材料(以下、湿式材料と略す)は、住宅又は建築物の内外壁、基礎立上り、床スラブから選ばれる塗着対象に塗着されるものであって、容量割合で嵩比重0.065~0.090であるシリカ系エアロジェルを主とし、水硬性セメント、及び水からなる混練物の密度が0.5~0.3g/cm3、絶乾燥密度が0.4~0.1g/cm3であり、以下に各原材料について説明する。
【0017】
前記湿式材料の容量割合における主成分であるシリカ系エアロジェルは、前述のように非常に低密度(嵩比重0.065~0.090)の無機固体であって、高い断熱性等の際立った特性を有した超軽量素材であり、具体的には、その熱伝導率が0.017W/(m・K)程度と著しく低い素材である。このシリカ系エアロジェルの湿式断熱モルタル製造時の配合比率は、35~50Wt%が好ましい。35Wt%未満であると断熱性能の低下や密度を低くすることができず、50Wt%を超えると圧縮強度が低下する場合がある。
【0018】
前記湿式材料の重量割合における主成分であるセメントは、特に限定されるもではないが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメントB種、フライアッシュセメントB種、エコセメント、超速硬セメント、白色セメント等が挙げられるが、汎用性を考慮すると普通ポルトランドセメントを好適に用いることができる。このセメントの湿式断熱モルタル製造時の配合比率は、45~60Wt%が好ましい。45Wt%未満であると硬化物の強度低下の場合があり、60Wt%を超えると乾燥収縮ひび割れが発生する場合がある。
【0019】
なお、前記シリカ系エアロジェルと前記セメントとは、前記湿式材料に不可欠の材料であるが、前述のようにシリカ系エアロジェルは嵩比重が0.065~0.090であるため、、その重量割合が35~50Wt%であっても容量割合は極めて高く、容量割合における主成分と言える。一方、セメントは嵩比重1.5(真比重3.15)、であるため、その重量割合が45~60Wt%であっても容量割合は極めて低いものである。
【0020】
それ以外の成分として、繊維や無機系発泡骨材、或いはその他の材料を適宜に配合しても良い。
繊維は、ビニロン、アクリル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、カーボン、アラミド、ガラス、セルロース、パルプ、麻、羊毛等が挙げられるが、汎用性を考慮するとビニロンを好適に用いることができる。この繊維を湿式断熱モルタル製造時に配合する場合の配合比率は1~5Wt%が好ましい。1Wt%未満であると硬化物の曲げ強度低下や乾燥収縮ひび割れが発生する場合があり、5Wt%を超えると施工性が低下する場合がある。なお、後述する調製実験例3に示すようにポリプロピレン繊維を用いることにより強度の向上及び断熱性の向上も確認されている。特に繊維長12mmのものがよかった。
【0021】
無機系発泡骨材は、パーライト(真珠岩、黒曜石)凝灰岩系松油岩、シラス発泡粒、ガラス発泡粒等の無機質軽量骨材を使用することができる。この無機系発泡骨材の湿式断熱モルタル製造時の配合比率は特に限定するものではないが、密度の軽量化や強度調整を目的としてこの無機質軽量骨材を利用してもよい。
【0022】
更にそれ以外の成分として、セルロース系増粘剤、エチレン酢酸ビニル粉末樹脂およびアクリル系粉末樹脂等の保水剤を配合しても良い。これらの増粘剤や保水剤の湿式断熱モルタル製造時の配合比率は特に限定するものではないが、保水性や乾燥収縮の調整を目的としてこれらの増粘剤や保水剤を利用しても良い。
或いはけい砂、石灰砂、炭酸カルシウム、消石灰、高炉スラグ、フライアッシュ、粘土鉱物、ドロマイトプラスター等の無機質混和材を使用することもできる。湿式断熱モルタルの強度や施工性の調整はこれらの無機質混和材によっても調整ができる。
【0023】
これらの材料は、特に限定するものではないが、工場等にてドライによるプレミックスとすることが好ましい。これらの材料を工場にてプレミックスすることにより、粉塵の飛散を防止でき、品質安定化が図れる。
【0024】
前記湿式材料は、前述の各種粉体(好適にはプレミックスした粉体)に水を加えて混練物の密度が0.5~0.3g/cm3となるように調整する。水の添加は、工場にて行っても施工現場で行ってもよいが、施工現場で行う方が搬送重量が軽くて良いし、水は施工現場でも容易に入手可能であるため、好ましい。水が多過ぎて密度が0.5g/cm3を超えると壁面に塗布した際に流れ落ちる場合があり、水が少な過ぎて0.3g/cm3未満であると流動性が不足してコテ塗りが難しかったりホース内を搬送できない場合が生ずる。
混練物である湿式材料の密度は、前述のように0.5~0.3g/cm3であるため、一般的な軽量セメントモルタルに比べて半分(1/2)以下であり、仮に工場で水を加えた場合の現場への搬送も容易である。
【0025】
前記湿式材料は、絶乾燥密度が0.4~0.1g/cm3であり、極めて軽量であるため、様々な塗着対象に施工した断熱モルタル構造は、塗着対象に対する荷重負担を抑えて優れた断熱性能や不燃性、腐食対抗性を付加させることができる。
【0026】
このように本発明の湿式モルタル材料は、容量割合でシリカ系エアロジェルを主成分とし、前述のようにセメント、繊維及び水を必須成分として含み、その他の成分としては前述の無機系混和剤や無機系発泡骨材、増粘剤、保水剤等からなる混練物であるから、施工現場には、ドライプレミックスした粉体を所要量持ち込み、現場で調達した水を加えて練り混ぜるようにしてもよい。
また、混練物の密度は0.5~0.3g/cm3であり、絶乾燥密度が0.4~0.1g/cm3であるから、塗着する作業も容易に行うことができ、形成される断熱モルタル層(構造)も極めて軽量であり、優れた断熱性能や不燃性、腐食対抗性を備えるものである。
【0027】
前記湿式材料を施工する塗着対象とは、各種住宅や建築物の内外壁、基礎立上り、床スラブから選ばれる。
また、塗着方法については、公知のどのような手法や装置を用いてもよく、特に限定するものではない。
例えば左官的手法にて前述のように調製した湿式材料を家屋等に塗着する場合には、それ自体の方法としては、例えば一般的な軽量セメントモルタルと同様に行うことができるが、塗着する湿式材料自体がより軽量であるため、作業者の労力も著しく軽減されるものとなる。
また、搬送ホース等を連絡して吹付けガン等で湿式材料を塗布する場合にも、混練物の密度が0.5~0.3g/cm3であるため、出力の低いコンプレッサーでも使用でき、或いは高所の塗着も容易に行うことができる。
【0028】
塗着対象に対して前記湿式材料を塗着した状態では、塗着層中に相当量の水分が残留しているので最も重いが、前述のようにこの湿式材料の密度は0.5~0.3g/cm3であり、塗負厚は数センチ程度が常識的であるため、塗着対象の広い範囲に塗布しても塗着層の荷重が建物の負担となるものではないことは明らかである。
【0029】
前記湿式材料を塗着してなる断熱モルタル構造は、住宅又は建築物の内外壁、基礎立上り、床スラブから選ばれる塗着対象に塗着してなるものであり、塗着対象に優れた断熱性能や不燃性、腐食対抗性を付加させたものとなる。
【0030】
本願以前の超軽量無機質成型板としては、軽量セメントモルタル板やALC板、ケイ酸カルシウム板などが代表的であり、建築物の外壁・床・天井、鉄筋コンクリートや鉄骨造の耐火被覆などに用いられている。これらの超軽量無機質成型板のうち、軽量セメントモルタル板の密度は600~900kg/m3程度、ALC板の密度は500~800kg/m3程度、ケイ酸カルシウム板の密度は800~1000kg/m3程度である。それに対し、本発明の断熱モルタル構造(板)の密度は200~400kg/m3程度であるから、これまでの超軽量無機質成型板に比べ、密度を最大1/5とすることができるので、建築物の外壁・床・天井、鉄筋コンクリートや鉄骨造の耐火被覆などにより好適に用いられることは説明するまでもなく、しかも作業者の労力も著しく軽減されることや建物の荷重負荷も著しく軽減される。
【0031】
本願以前の超軽量無機質成型板としては、軽量セメントモルタル板やALC板、ケイ酸カルシウム板などが代表的であることは既に説明したが、これらの超軽量無機質成形板のうち、軽量セメントモルタル板の熱伝導率は0.10~0.20程度、ALC板の熱伝導率は0.17程度、ケイ酸カルシウム板の熱伝導率は0.10~0.14程度である。それに対し、本発明の断熱モルタル構造(板)の熱伝導率は、0.04~0.02程度であるから、これまでの超軽量無機質成型板に比べ、熱伝導率を最大1/10とすることができるため、同断熱性能を確保するにおいては、厚さを最大1/10とすることが出来る。
【0032】
本発明の前記湿式材料は、練り上がり後の密度が0.5~0.3g/cm3であるところから極めて軽量であって、比較的腕力が低い高齢者や女性等でも容易に取り扱いや各種の作業を行うことができ、塗着を行うために用いる様々な装置等に対する負担も軽減でき、容易に且つ確実に作業を行うことができることは既に説明した。これらの効果は数値的には表し難いが、少なくとも本願以前の超軽量無機質成型板用の材料よりも数分の1程度の軽量であると認められるので、取り扱いや各種の作業、装置等に対する負担を従来の数分の1程度とできることが見込まれる。
【実施例1】
【0033】
〔調製実験例1〕
表1に示した湿式断熱モルタル材料A,Bは、シリカ系エアロジェル(2種)を40.2Wt%、普通ポルトランドセメントを56.5Wt%、ビニロン繊維を1.7Wt%、セルロース系増粘剤を0.6Wt%、粘土鉱物を1Wt%を工場内でリボン式ミキサーによりプレミックスし、温度20℃、相対湿度65%の試験室内で前記粉体混合物に対して、125Wt%加水し、練混ぜ機(JIS R 5201)にて混練りした。この湿式断熱モルタル材料A,Bの練り上がり密度、圧縮強度、熱伝導率を測定した。
【0034】
〈使用材料〉
シリカ系エアロジェル(A):嵩比重0.065~0.075 粒径1.2~4.0mm (CABOT社製 商品名:Lumira Aerogel LA1000)
シリカ系エアロジェル(B):嵩比重0.080~0.090 粒径0.1~1.2mm (CABOT社製 商品名:Cabot Aerogel Particles P200)
セメント:普通ポルトランドセメント (住友大阪セメント社製)
繊維:ビニロン繊維 (クラレ社製 商品名:RMS702-6)
増粘剤:セルロース系増粘剤 (信越化学社製 商品名:FK-59)
無機質混和材:粘土鉱物(昭和鉱業社製 商品名:コレマサイド)
【0035】
【0036】
図1は、木造住宅の基礎立上り部分や基礎スラブ部分に湿式材料を塗着した例を示すものであって、同図(a)は基礎立上り2内面のみに断熱モルタル1を施工し、同図(b)は基礎立上り2外面のみに断熱モルタル1を施工し、同図(c)は基礎立上り2内面及び外面に断熱モルタル1を施工した状態を示している。なお、図中の3は土台、4は柱を示している。
これらのように施工された断熱モルタル1の性状については、以降の施工実験例1~3に示した。
【0037】
図2は、鉄筋住宅の基礎立上り部分や基礎スラブ部分に湿式材料を塗着した例を示すものであって、同図(a)は基礎立上り2内面のみに断熱モルタル1を施工し、同図(b)は基礎立上り2外面のみに断熱モルタル1を施工し、同図(c)は基礎立上り2内面及び外面に断熱モルタル1を施工した状態を示している。
図3は、鉄筋コンクリート壁の室内側、室外(バルコニー)側に湿式材料を塗着した例を示すものであって、同図(a)は室内側の内壁面(RC壁5の内面)や床スラブ6に断熱モルタル1を施工し、同図(b)は室外(バルコニー)側の外壁面のみに断熱モルタル1を施工し、同図(c)は室内側の内壁面(RC壁5の内面)や床スラブ6及び室外(バルコニー)側の外壁面(RC壁5の外面)に断熱モルタル1を施工した状態を示している。
これらのように施工された断熱モルタル1の性状については、現在も経過観察中(約半年経過で全く問題なし)ではあるが、腐食対抗性を付与できるものと期待している。
【0038】
〔施工実験例1〕
前記表1に示した湿式断熱モルタル材料Bの施工を、
図1(a)に示すように行った。
木造住宅の基礎立上り部分(6m
2)に吸水調整材を塗布し、乾燥後、湿式断熱モルタル材料を一度目に15mm程度塗付け、塗着表面の水分が引いた後、二度目に15mm程度塗付け、総塗り厚さが30mm程度になるよう施工した。
断熱モルタルの施工後は、特に異常は見られず、7ヶ月経過後もひび割れ等の事実は全く認められなかった。
【0039】
〔施工実験例2〕
前記表1に示した湿式断熱モルタル材料Bの施工を、
図1(a)に示すように行った。
木造住宅の基礎立上り部分(6m
2)に吸水調整材を塗布し、乾燥後、湿式断熱モルタル材料を一度目に15mm程度塗付け、塗着表面の水分が引いた後、同じ湿式断熱モルタル材料を二度目に15mm程度塗付け、総塗り厚さが30mm程度になるよう施工した。
断熱モルタルの施工後は、特に異常は見られず、7ヶ月経過後もひび割れ等の事実は全く認められなかった。
【0040】
〔施工実験例3〕
前記表1に示した湿式断熱モルタル材料Bの施工を、
図1(c)に示すように行った。
木造住宅の基礎立上り部分(12m
2)及び基礎スラブ部分(18m
2)に吸水調整材を塗布し、乾燥後、湿式断熱モルタル材料を施工したが、基礎立上り部分には一度目に25mm程度塗付け、塗着表面の水分が引いた後、二度目に25mm程度塗付け、総塗り厚さが50mm程度になるよう施工した。一方、基礎スラブ部分には一度で18mm程度塗付けた。
断熱モルタルの施工後は、基礎立上り部分にも基礎スラブ部分にも特に異常は見られず、7ヶ月経過後もひび割れ等の事実は全く認められなかった。
【0041】
更に、湿式断熱モルタル材料Bの絶乾燥密度、断熱性、不燃性、透湿性について以下のように測定し、表2にその結果を示した。
【0042】
〔絶乾燥密度〕
絶乾燥密度は105℃の乾燥機で、前記試験体(湿式断熱モルタル材料A,B)を恒量になるまで乾燥し、これを絶乾状態とした。絶乾燥密度の求め方は、前記試験体の寸法(縦横・厚み)をノギスで測定し体積を求め、絶乾状態の前記質量を前記体積で除して絶乾燥密度を求めた。
【0043】
〔断熱性(熱伝導率)〕
試験はJIS A 1412-2「熱絶縁材の熱抵抗及び熱伝導率の測定方法-第2部:熱流計法(HFM法)」に従って行った。
【0044】
〔不燃性(発熱量)〕
試験は一般財団法人建材試験センターが定めた「防耐火性能試験・評価業務方法書」の不燃性試験・評価方法に基づく発熱性試験に従って行った。
【0045】
〔透湿性(透湿量・透湿抵抗・透湿係数・透湿率)〕
試験はJIS A 1324(建築材料の透湿性測定方法)の5.2カップ法に従って行った。
【0046】
【0047】
〔調製実験例2〕
表3に示す配合組成の湿式断熱モルタル材料5種を調製し、その絶乾燥密度、圧縮強度、曲げ強度、熱伝導率を測定し、結果を表3に併記した。
なお、湿式断熱モルタル材料5種は、エアロジェルの調合割合(Wt%)を変え、その他の成分として、普通ポルトランドセメント、白色セメント、消石灰、炭酸カルシウム、スラグを配合したものである。
【0048】
〈使用材料〉
シリカ系エアロジェル(A):既載
普通ポルトランドセメント (住友大阪セメント社製)
白色セメント (太平洋セメント社製 商品名:ホワイトセメント)
消石灰 (宮田石灰社製 商品名:特選消石灰)
炭酸カルシウム (旭鉱末社製 Sタンカル)
スラグ (デイ・シイ社製 商品名:セラメント)
【0049】
【0050】
表3によれば、エアロジェルの調合割合が、増加すると熱伝導率が下がり、断熱性能が向上することがわかる。
【0051】
〔調製実験例3〕
表4に示す配合組成の湿式断熱モルタル材料6種を調製し、その絶乾燥密度、圧縮強度、曲げ強度、熱伝導率を測定し、結果を表4に併記した。
なお、湿式断熱モルタル材料6種は、ポリプロピレン繊維2種の調合量を変え、その他の成分として、エアロジェル、普通ポルトランドセメント、白色セメント、消石灰、炭酸カルシウム、スラグを配合したものである。
【0052】
〈使用材料〉
ポリプロピレン繊維以外の成分は全て既載
ポリプロピレン繊維2種(テザック社製 商品名:TSファイバー)
【0053】
【0054】
表4によれば、ポリプロピレン繊維の繊維長が6mmの場合に比べて繊維長が12mmの場合には、圧縮強度も曲げ強度も明らかに高くなることが確認された。また、ポリプロピレン繊維の調合量が増加すると圧縮強度及び曲げ強度が向上することが見込まれる。
ポリプロピレン繊維を混入しない配合組成のモルタル材料では、絶乾燥密度が低下すると強度が低下する知見が得られているが、このポリプロピレン繊維混入においては、絶乾燥密度が低下する傾向であったが、逆に強度(=圧縮強度及び曲げ強度)が向上し、断熱性の向上(=熱伝導率の低下)も確認された。
【符号の説明】
【0055】
1 断熱モルタル
2 基礎
3 土台
4 柱
5 RC壁
6 床スラブ