IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SCREENホールディングスの特許一覧 ▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧

<>
  • 特許-細胞培養容器 図1
  • 特許-細胞培養容器 図2
  • 特許-細胞培養容器 図3
  • 特許-細胞培養容器 図4
  • 特許-細胞培養容器 図5
  • 特許-細胞培養容器 図6
  • 特許-細胞培養容器 図7
  • 特許-細胞培養容器 図8
  • 特許-細胞培養容器 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】細胞培養容器
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20220720BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20220720BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12Q1/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018238405
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020099211
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、 「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発)」、 「In-vitro 安全性試験・薬物動態試験の高度化を実現するorgan/multi-organs-on-a-chip の開発とその製造技術基盤の確立」委託研究開発、 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】福江 久美子
(72)【発明者】
【氏名】亀井 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】平井 義和
(72)【発明者】
【氏名】田畑 修
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-146261(JP,A)
【文献】特開2003-156476(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0138458(US,A1)
【文献】特開2016-208883(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第00243614(GB,A)
【文献】特開2007-215473(JP,A)
【文献】特開2009-291135(JP,A)
【文献】国際公開第2007/138902(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/121968(WO,A1)
【文献】特開2007-298351(JP,A)
【文献】特開2015-181348(JP,A)
【文献】特開2017-079633(JP,A)
【文献】国際公開第2007/010456(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 15/00-90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で細胞を培養するとともに、培養された細胞の電気抵抗を計測するための細胞培養容器であって、
培養液を貯留可能な細胞培養室と、
前記細胞培養室の底面と天面との間において、前記細胞培養室の内部を上部の空間と下部の空間とに仕切る細胞培養膜と、
外部と前記細胞培養室とを直接または間接的に連通する流路と、
前記細胞培養膜よりも上側において前記細胞培養室と直接連通する第1電極室と、
前記細胞培養膜よりも下側において前記細胞培養室と直接連通する第2電極室と、
前記第1電極室内に配置される、第1作用電極および第1参照電極と、
前記第2電極室内に配置される、第2作用電極および第2参照電極と、
を有し、
前記筐体は、上下方向に重なる第1部材、第2部材、第3部材、第4部材、第5部材および第6部材を有し、
前記第2部材、前記第3部材、前記第4部材および前記第5部材は、上下に貫通する貫通孔を有し、
前記細胞培養室は、前記第1部材の上面と、前記第6部材の下面と、前記第2部材、前記第3部材、前記第4部材および前記第5部材の内面とにより形成され、
前記第1電極室は、前記第4部材の上面と、前記第6部材の下面と、前記第5部材の内面とにより形成され、
前記第2電極室は、前記第1部材の上面と、前記第3部材の下面と、前記第2部材の内面とにより形成され、
前記第1電極室および前記第2電極室のそれぞれの少なくとも一部は、前記細胞培養膜のうち前記細胞培養室内の部分である細胞培養領域と上下方向に重ならない、細胞培養容器。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞培養容器であって、
前記第1作用電極-前記細胞培養領域間の空間の最小断面積と、前記第2作用電極-前記細胞培養領域間の空間の最小断面積とは、前記流路の最大流路面積よりも大きい、細胞培養容器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の細胞培養容器であって、
前記細胞培養室を構成する筐体は、前記細胞培養領域の少なくとも一部と上下方向に重なる位置において、透明材料で形成された部分を有する、細胞培養容器。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の細胞培養容器であって、
前記第1作用電極の前記第1電極室内における表面積は、前記第1参照電極の前記第1電極室内における表面積よりも大きく、
前記第2作用電極の前記第2電極室内における表面積は、前記第2参照電極の前記第2電極室内における表面積よりも大きい、細胞培養容器。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の細胞培養容器であって、
前記第1電極室は、前記細胞培養室に対して、上下方向と直交する第1方向の一方側に配置され、
前記第2電極室は、前記細胞培養室に対して、前記第1方向の他方側に配置される、細胞培養容器。
【請求項6】
請求項5に記載の細胞培養容器であって、
前記第1作用電極、前記細胞培養領域および前記第2作用電極が一直線上に配置されるとともに、
前記第1作用電極と前記第2作用電極とを結ぶ直線上に、前記筐体が配置されない、細胞培養容器。
【請求項7】
請求項6に記載の細胞培養容器であって、
前記第1参照電極、前記細胞培養領域および前記第2参照電極が一直線上に配置されるとともに、
前記第1参照電極と前記第2参照電極とを結ぶ直線上に、前記筐体が配置されない、細胞培養容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部で細胞を培養するとともに、培養された細胞の電気抵抗を計測するための細胞培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
培養した細胞の性質や、培養状態を調べるために細胞の電気抵抗値を計測するための技術が知られている。例えば、経上皮電気抵抗(TEER)計測では、培養液中において細胞培養用の膜の一方側と他方側とに電極を配置して電気抵抗値を計測することにより、膜状に培養された細胞自体の電気抵抗値を計測する。細胞の電気抵抗値を計測する技術については、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
一方で、いわゆるマイクロ流路デバイスの開発が進められている。マイクロ流路デバイスでは、細胞培養空間を微細な流路を除いて閉空間にすることにより、外的要因をできるだけ排除して細胞培養を行うことができる。このようなマイクロ流路デバイスにおいて、細胞の電気抵抗値を計測する技術については、例えば、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/147463号
【文献】特表2017-513483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載のマイクロ流路デバイスでは、細胞培養領域と電極が重なった位置に配置されるため、培養された細胞の全体を観察しにくい。一方で、細胞培養領域から離れた位置に電極を配置すると、電極間の電気抵抗が大きくなり、細胞自体の電気抵抗の測定精度が低下する虞がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、培養された細胞の観察の妨げとならず、かつ、精度良く細胞の電気抵抗を計測できる細胞培養容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、内部で細胞を培養するとともに、培養された細胞の電気抵抗を計測するための細胞培養容器であって、培養液を貯留可能な細胞培養室と、前記細胞培養室の底面と天面との間において、前記細胞培養室の内部を上部の空間と下部の空間とに仕切る細胞培養膜と、外部と前記細胞培養室とを直接または間接的に連通する流路と、前記細胞培養膜よりも上側において前記細胞培養室と直接連通する第1電極室と、前記細胞培養膜よりも下側において前記細胞培養室と直接連通する第2電極室と、前記第1電極室内に配置される、第1作用電極および第1参照電極と、前記第2電極室内に配置される、第2作用電極および第2参照電極と、を有し、前記筐体は、上下方向に重なる第1部材、第2部材、第3部材、第4部材、第5部材および第6部材を有し、前記第2部材、前記第3部材、前記第4部材および前記第5部材は、上下に貫通する貫通孔を有し、前記細胞培養室は、前記第1部材の上面と、前記第6部材の下面と、前記第2部材、前記第3部材、前記第4部材および前記第5部材の内面とにより形成され、前記第1電極室は、前記第4部材の上面と、前記第6部材の下面と、前記第5部材の内面とにより形成され、前記第2電極室は、前記第1部材の上面と、前記第3部材の下面と、前記第2部材の内面とにより形成され、前記第1電極室および前記第2電極室のそれぞれの少なくとも一部は、前記細胞培養膜のうち前記細胞培養室内の部分である細胞培養領域と上下方向に重ならない。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の細胞培養容器であって、前記第1作用電極-前記細胞培養領域間の空間の最小断面積と、前記第2作用電極-前記細胞培養領域間の空間の最小断面積とは、前記流路の最大流路面積よりも大きい。
【0009】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の細胞培養容器であって、前記細胞培養室を構成する筐体は、前記細胞培養領域の少なくとも一部と上下方向に重なる位置において、透明材料で形成された部分を有する。
【0010】
本願の第4発明は、第1発明ないし第3発明のいずれかの細胞培養容器であって、前記第1作用電極の前記第1電極室内における表面積は、前記第1参照電極の前記第1電極室内における表面積よりも大きく、前記第2作用電極の前記第2電極室内における表面積は、前記第2参照電極の前記第2電極室内における表面積よりも大きい。
【0011】
本願の第5発明は、第1発明ないし第4発明のいずれかの細胞培養容器であって、前記第1電極室は、前記細胞培養室に対して、上下方向と直交する第1方向の一方側に配置され、前記第2電極室は、前記細胞培養室に対して、前記第1方向の他方側に配置される。
本願の第6発明は、第5発明の細胞培養容器であって、前記第1作用電極、前記細胞培養領域および前記第2作用電極が一直線上に配置されるとともに、前記第1作用電極と前記第2作用電極とを結ぶ直線上に、前記筐体が配置されない。
本願の第7発明は、第6発明の細胞培養容器であって、前記第1参照電極、前記細胞培養領域および前記第2参照電極が一直線上に配置されるとともに、前記第1参照電極と前記第2参照電極とを結ぶ直線上に、前記筐体が配置されない。
【発明の効果】
【0012】
本願の第1発明~第発明によれば、電極が細胞培養領域と重なって観察の妨げとなることを抑制できる。また、電極間の電気抵抗が大きくなって、細胞の電気抵抗の計測精度が低下することを抑制できる。
【0013】
特に、本願の第2発明によれば、各流路の流路面積を小さくすることにより、細胞培養室内における外部環境の影響を小さくできる。また、細胞培養室への培養液や試薬の流入出量の制御を行いやすい。一方、各電極と細胞培養領域との間の空間の最小断面積を大きくすることにより、各電極と細胞培養領域との間における培養液の電気抵抗が小さくなる。これにより、細胞の電気抵抗をより精度良く計測できる。
【0014】
特に、本願の第3発明によれば、細胞培養領域に培養された細胞の様子を観察しやすい。
【0015】
特に、本願の第5発明によれば、電極間の培養液の電気抵抗がより小さくなる。これにより、細胞の電気抵抗をさらに精度良く計測できる。
特に、本願の第6発明によれば、第1作用電極-第2作用電極間の培養液の電気抵抗がより小さくなる。これにより、細胞の電気抵抗をさらに精度良く計測できる。
特に、本願の第7発明によれば、第1参照電極-第2参照電極間の培養液の電気抵抗がより小さくなる。これにより、細胞の電気抵抗をさらに精度良く計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る細胞培養容器の縦断面図である。
図2】第1実施形態に係る細胞培養容器の上面視における配置図である。
図3】第1実施形態に係る細胞培養容器の分解斜視図である。
図4】第1実施形態に係る計測ユニットの電気的な接続を示した概略図である。
図5】第2実施形態に係る細胞培養容器の縦断面図である。
図6】第2実施形態に係る細胞培養容器の上面視における配置図である。
図7】第2実施形態に係る細胞培養容器の分解斜視図である。
図8】一変形例に係る細胞培養容器の上面視における配置図である。
図9】他の変形例に係る細胞培養容器の上面視における配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において細胞培養容器の底面に平行な方向を「水平方向」、水平方向に直交する方向を「上下方向」と称する。しかしながら、細胞培養容器の使用時の姿勢は、細胞培養容器の底面が水平方向とならなくてもよい。
【0018】
<1.第1実施形態>
<1-1.細胞培養容器の構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係る細胞培養容器1の縦断面図である。図2は、細胞培養容器1の上面視における各部の配置を示した配置図である。図3は、細胞培養容器1の分解斜視図である。
【0019】
細胞培養容器1は、内部で細胞を培養するとともに、培養された細胞の電気抵抗を計測するための容器である。この細胞培養容器1は、内部の空間が微細な流路24,25,26,27を除いて閉空間となる、いわゆるマイクロ流路デバイスである。
【0020】
図1および図2に示すように、細胞培養容器1は、本体部10の内部空間として、細胞培養室21、第1電極室22、第2電極室23、第1上側流路24、第2上側流路25、第1下側流路26、および第2下側流路27を有する。すなわち、本体部10は、細胞培養室21を構成する筐体である。また、細胞培養容器1は、第1作用電極31、第1参照電極32、第2作用電極41、および第2参照電極42を有する。
【0021】
また、図1および図3に示すように、細胞培養容器1の本体部10は、上下方向に重なる樹脂製の第1部材11、第2部材12、第3部材13、第4部材14、第5部材15および第6部材16と、細胞培養膜20とにより構成される。本体部10は、下側から上方へ向かって順に第1部材11、第2部材12、第3部材13、細胞培養膜20、第4部材14、第5部材15、および第6部材16の順に重なって構成される。
【0022】
細胞培養室21は、細胞培養容器1の中央に配置される。本実施形態では、第1部材1の上面と、第6部材16の下面と、第2部材12~第5部材15の内面とで、細胞培養室21が形成されている。細胞培養室21には、培養液を貯留可能である。細胞培養膜20は、細胞培養室21の底面および天面のそれぞれから上下方向に間隔を空けて配置される。これにより、細胞培養膜20は、細胞培養室21の天面と底面との間において、細胞培養室21の内部を、上部の空間と下部の空間とに仕切る。
【0023】
細胞培養膜20は、細胞接着性を有する膜である。本実施形態の細胞培養膜20には、例えば、微細な貫通孔が多数も受けられた、メンブレンと呼ばれる薄膜が用いられる。メンブレンの材料には、例えば、PC(ポリカーボネート)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタラート)等が用いられる。メンブレンの表面は、コラーゲン等をコーティングすることにより、細胞接着性を高めていてもよい。細胞培養膜20のうち、細胞培養室21内に露出した部分が、細胞培養領域200となる。本実施形態では、細胞培養膜20の細胞培養領域200以外の部分は第3部材13および第4部材14に覆われるため、露出しない。なお、細胞培養膜20に代えて、細胞接着性を有し、微細な貫通孔が多数設けられた板状の部材が用いられてもよい。
【0024】
第1電極室22は、細胞培養膜20よりも上側において細胞培養室21と直接連通する。第1電極室22は、細胞培養室21に対して、第1方向の一方側に配置される。本実施形態では、第4部材14の上面と、第6部材16の下面と、第5部材15の内面とで、第1電極室22が形成されている。
【0025】
第2電極室23は、細胞培養膜20よりも下側において細胞培養室21と直接連通する。第2電極室23は、細胞培養室21に対して、第1方向の他方側に配置される。本実施形態では、第1部材11の上面と、第3部材13の下面と、第2部材12の内面とで、第2電極室23が形成されている。また、第1電極室22および第2電極室23は、細胞培養領域200と上下方向に重ならない。
【0026】
なお、「第1方向」とは、細胞培養容器1の底面に平行であって、上下方向と直交する方向である。図1および図2において、第1方向は紙面の左右方向であり、第1方向一方側は紙面の右側、第1方向他方側は紙面の左側である。また、「第2方向」とは、細胞培養容器1の底面に平行であって、第1方向と直交する方向である。図2において、第2方向は紙面の上下方向であり、第2方向一方側は紙面の上側、第2方向他方側は紙面の下側である。
【0027】
第1上側流路24および第2上側流路25は、それぞれ、細胞培養膜20よりも上側において、細胞培養容器1の外部と細胞培養室21とを連通する流路である。第1上側流路24の一端は細胞培養室21と直接連通し、他端は細胞培養容器1の第2方向一方側の端面に開口する。第2上側流路25の一端は細胞培養室21と直接連通し、他端は細胞培養容器1の第2方向他方側の端面に開口する。本実施形態では、第4部材14の上面と、第6部材16の下面と、第5部材15の内面とで、第1上側流路24および第2上側流路25が形成されている。
【0028】
第1下側流路26および第2下側流路27は、それぞれ、細胞培養膜20よりも下側において、細胞培養容器1の外部と細胞培養室21とを連通する流路である。第1下側流路26の一端は細胞培養室21と直接連通し、他端は細胞培養容器1の第2方向一方側の端面に開口する。第2下側流路27の一端は細胞培養室21と直接連通し、他端は細胞培養容器1の第2方向他方側の端面に開口する。本実施形態では、第1部材11の上面と、第3部材13の下面と、第2部材の内面とで、第1下側流路26および第2下側流路27が形成されている。なお、本実施形態では、第1上側流路24と第1下側流路26とが上下方向に重なり、第2上側流路25と第2下側流路27とが上下方向に重なる位置に配置される。
【0029】
第1作用電極31および第1参照電極32は、第1電極室22内に配置される。具体的には、第1作用電極31および第1参照電極32は、第1電極室22の天面に固定される。第1作用電極31および第1参照電極32は、例えば、第1電極室22の天面を構成する第6部材16の下面に電極の材料である電極ペーストを塗布し、乾燥させることにより形成される。なお、第1作用電極31および第1参照電極32は、第1電極室22の天面に金属を蒸着させたものであってもよいし、板状の電極を第1電極室22の天面に接着したものであってもよい。
【0030】
第2作用電極41および第2参照電極42は、第2電極室23内に配置される。具体的には、第2作用電極41および第2参照電極42は、第2電極室23の底面に固定される。第2作用電極41および第2参照電極42は、例えば、第2電極室23の底面を構成する第1部材11の上面に電極の材料である電極ペーストを塗布し、乾燥させることにより形成される。なお、第2作用電極41および第2参照電極42は、第2電極室23の底面に金属を蒸着させたものであってもよいし、板状の電極を第2電極室23の底面に接着したものであってもよい。
【0031】
このように、電極を配置するための第1電極室22および第2電極室23の少なくとも一部を、細胞培養領域200と上下方向に重ならない位置に配置することにより、電極31,32,41,42が細胞培養領域200と重なって観察の妨げとなることを抑制できる。
【0032】
また、細胞培養室21に隣接する位置に第1電極室22および第2電極室23を設けることにより、細胞培養領域200と各電極31,32,41,42との距離が大きくなることを抑制できる。したがって、作用電極31,41間および参照電極32,42間の電気抵抗が大きくなって、細胞の電気抵抗の計測精度が低下することを抑制できる。
【0033】
本実施形態では、第1作用電極31-細胞培養領域200間の空間の最小断面積は、各流路24~27の最大流路面積よりも大きい。また、第2作用電極41-細胞培養領域200間の最小断面積は、各流路24~27の最大流路面積よりも大きい。このように、各流路24~27の流路面積を小さくすることにより、細胞培養室21内における外部環境の影響を小さくできる。また、細胞培養室21への培養液や試薬の流入出量の制御を行いやすい。一方、各電極31,32,41,42と細胞培養領域200との間の空間の最小断面積が大きい方が、各電極31,32,41,42と細胞培養領域200との間における培養液の電気抵抗が小さくなる。これにより、細胞培養領域200上に培養された細胞の電気抵抗をより精度良く計測できる。
【0034】
また、本実施形態では、第1電極室22が細胞培養室21に対して第1方向一方側に配置され、第2電極室23が細胞培養室21に対して第1方向他方側に配置される。すなわち、第1電極室22と第2電極室23とが、細胞培養室21を挟んで対向する位置に配置される。これにより、第1作用電極31、細胞培養領域200、および第2作用電極41が略一直線上に配置される。また、第1参照電極32、細胞培養領域200、および第2参照電極42が略一直線上に配置される。したがって、第1作用電極31-第2作用電極41間の培養液の電気抵抗と、第1参照電極32-第2参照電極42間の培養液の電気抵抗がより小さくなる。これにより、細胞培養領域200上に培養された細胞の電気抵抗をさらに精度良く計測できる。
【0035】
図2に示すように、本実施形態では、第1作用電極31の第1電極室22内における表面積は、第1参照電極32の第1電極室22内における表面積よりも大きい。また、第2作用電極41の第2電極室23内における表面積は、第2参照電極42の第2電極室23内における表面積よりも大きい。
【0036】
作用電極31,41の表面における電気容量を大きくするために、作用電極31,41の表面積をなるべく大きく設計することが好ましい。各電極31,32,41,42を電極室22,23内に配置することにより、電極31,32,41,42の設計自由度が高まる。このため、本実施形態のように、作用電極31,41の表面積を比較的大きく設計できる。また、各電極31,32,41,42を電極室22,23内に配置することにより、作用電極31,41の表面積を大きくした場合であっても、各電極31,32,41,42が細胞培養領域200と上下方向に重なりにくい。
【0037】
本実施形態では、本体部10を構成する各部材11~16は、PDMS(ポリジメチルシロキサン)により形成される。PDMSは透明度が高く、自家蛍光性が低い。このため、本体部10の外側から細胞培養領域200上の細胞を観察しやすい。なお、本実施形態では、本体部10のうち、細胞培養領域200と上下方向に重なる位置は、全て透明材料であるPDMSで形成されている。しかしながら、本体部10が、細胞培養領域200と少なくとも一部と上下方向に重なる位置において、透明材料で形成された部分を有していればよい。例えば、細胞培養領域200の上側の一部の部分が透明材料で形成されていれば、細胞培養領域200を観察可能である。
【0038】
<1-2.培養細胞の電気抵抗計測>
続いて、細胞培養容器1を用いた培養細胞の電気抵抗計測の方法について、図4を参照しつつ説明する。図4は、計測ユニット9の電気的な接続を示した概略図である。なお、図4では、1つの細胞培養容器1に対して電気抵抗計測を行う場合の計測ユニット9の電気的な接続を示している。なお、実際の電気抵抗計測においては、複数の細胞培養容器1に対して同時に計測を行う場合がある。その場合には、例えば、後述する計測装置90の電源装置91や電圧計92の接続先を、細胞培養容器1ごとに切替可能とする。
【0039】
図4に示すように、計測ユニット9は、上記の細胞培養容器1および細胞培養容器1内の培養液と、細胞培養容器1と接続する計測装置90とにより構成される。
【0040】
計測装置90は、電源装置91と、電圧計92とを有する。電源装置91の2つの出力端子は、第1作用電極31および第2作用電極41に接続される。また、電圧計92の2つの入力端子は、第1参照電極32および第2参照電極42に接続される。培養細胞の電気抵抗計測を行う場合、細胞培養容器1内には、培養液が充填される。
【0041】
図4において、抵抗Rmは、細胞培養領域200と、細胞培養領域200上に培養された細胞(以下、「細胞部」と称する)とによる電気抵抗である。抵抗Rw1は、第1作用電極31と細胞部との間における培養液の電気抵抗である。抵抗Rw2は、第2作用電極41と細胞部との間における培養液の電気抵抗である。抵抗Rr1は、第1参照電極32と細胞部との間における培養液の電気抵抗である。抵抗Rr2は、第2参照電極42と細胞部との間における培養液の電気抵抗である。
【0042】
各電極31,32,41,42と細胞部との間における各抵抗Rw1,Rr1,Rw2,Rr2と、細胞が培養されていない状態の細胞培養領域200の抵抗Rmとの抵抗値はそれぞれ、予めコントロールとして測定しておく。
【0043】
そして、電源装置91を駆動させて第1作用電極31と第2作用電極41との間に定電流を流す。同時に、電圧計92によって第1参照電極32と第2参照電極42との間の電圧値を計測する。作用電極31,41と、参照電極32,42とは、それぞれ十分近傍に配置されているため、参照電極32,42間を流れる電流と、作用電極31,41間を流れる電流とは同一電流値であると近似できる。このため、参照電極32,42間の電圧値から、参照電極32,42間の電気抵抗値を算出する。さらに、予め測定した各値に基づいて、細胞部の抵抗Rmを算出する。これにより、細胞培養領域200上に培養された細胞の電気的特性を得ることができる。
【0044】
なお、電源装置91を用いて第1作用電極31と第2作用電極41との間に電位をかけると、第1作用電極31および第2作用電極41の電極表面において、電気二重層が形成される。このとき、電源装置91による出力電位は回路全体にかかる電位である。このため、電源装置91による出力電位は、作用電極31,41間の正確な電圧値とはならない。そこで、第1作用電極31および第2作用電極41のそれぞれの近傍に第1参照電極32および第2参照電極42を配置し、参照電極32,42間の電位を計測する。その計測電位を利用して計算することにより、より正確に細胞部の抵抗Rmを計測することができる。
【0045】
<2.第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態に係る細胞培養容器1Aについて、図5および図6を参照しつつ説明する。図5は、細胞培養容器1Aの縦断面図である。図6は、細胞培養容器1Aの上面視における各部の配置を示した配置図である。図7は、細胞培養容器1Aの本体部10Aの分解斜視図である。
【0046】
図5および図6に示すように、細胞培養容器1Aは、第1実施形態に係る細胞培養容器1と同様に、本体部10Aの内部空間として、細胞培養室21A、第1電極室22A、第2電極室23A、第1上側流路24A、第2上側流路25A、第1下側流路26A、および第2下側流路27Aを有する。また、細胞培養容器1Aは、第1作用電極31A、第1参照電極32A、第2作用電極41A、および第2参照電極42Aを有する。
【0047】
また、図5および図7に示すように、細胞培養容器1Aの本体部10Aは、上下方向に重なる樹脂製の第1部材11A、第2部材12A、第3部材13A、第4部材14A、第5部材15Aおよび第6部材16Aと、細胞培養膜20Aとにより構成される。本体部10Aは、下側から上方へ向かって順に第1部材11A、第2部材12A、第3部材13A、細胞培養膜20A、第4部材14A、第5部材15A、および第6部材16Aの順に重なって構成される。
【0048】
細胞培養室21A、第1電極室22A、第2電極室23A、各流路24A,25A,26A,27Aおよび細胞培養領域200Aの配置は、第1実施形態に係る細胞培養容器1の細胞培養室21、第1電極室22、第2電極室23、各流路24,25,26,27および細胞培養領域200の配置と同様である。
【0049】
第1作用電極31A、第1参照電極32A、第2作用電極41Aおよび第2参照電極42Aは、それぞれ、上下に延びる円柱型の電極である。本体部10Aは、本体部10Aの上面から第1電極室22Aの天面まで延びる2つの第1貫通孔51Aと、本体部10Aの上面から第2電極室23Aの天面まで延びる2つの第2貫通孔52Aとを有する。
【0050】
第1作用電極31Aおよび第1参照電極32Aは、それぞれ、第1貫通孔51Aに挿入されている。第1作用電極31Aおよび第1参照電極32Aの上端部はそれぞれ、本体部10Aの上面よりも上側に配置される。また、第1作用電極31Aおよび第1参照電極32Aの下端部は、第1電極室22A内に配置される。
【0051】
第2作用電極41Aおよび第2参照電極42Aは、それぞれ、第2貫通孔52Aに挿入されている。第2作用電極41Aおよび第2参照電極42Aの上端部はそれぞれ、本体部10Aの上面よりも上側に配置される。また、第2作用電極41Aおよび第2参照電極42Aの下端部はそれぞれ、第2電極室23A内に配置される。
【0052】
このように、各電極31A,32A,41A,42Aはそれぞれ、本体部10Aを貫通するように配置されていてもよい。
【0053】
<3.変形例>
以上、本発明の主たる実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0054】
図8は、一変形例に係る細胞培養容器1Bの上面視における各部の配置を示した配置図である。図8に示すように、細胞培養容器1Bは、第1実施形態に係る細胞培養容器1と同様に、本体部10Bの内部空間として、細胞培養室21B、第1電極室22B、第2電極室23B、第1上側流路24B、第2上側流路25B、第1下側流路26B、および第2下側流路27Bを有する。また、細胞培養容器1Bは、第1作用電極31B、第1参照電極32B、第2作用電極41B、および第2参照電極42Bを有する。
【0055】
細胞培養室21B、第1電極室22B、第2電極室23B、細胞培養領域200B、各電極31B,32B,41B,42Bの配置は、第1実施形態に係る細胞培養容器1の細胞培養室21、第1電極室22、第2電極室23、細胞培養領域200、各電極31,32,41,42の配置と同様である。
【0056】
上記の第1実施形態および第2実施形態では、各流路が、細胞培養室の第1方向の略中央に配置された。すなわち、各流路が、細胞培養室の第1方向の略中央に直接連通していた。しかしながら、本発明はこれに限られない。
【0057】
図8の例では、第1上側流路24Bは、第1方向の中央よりも一方側において細胞培養室21Bに連通接続される。第2上側流路25Bは、第1方向の中央よりも他方側において細胞培養室21Bに連通接続される。第1下側流路26Bは、第1方向の中央よりも他方側において細胞培養室21Bに連通接続される。また、第2下側流路27Bは、第1方向の中央よりも一方側において細胞培養室21Bに連通接続される。
【0058】
これにより、細胞培養領域200Bの上側と下側では、上面視において培養液の流入位置および流出位置が異なる。図8の例のように、各流路24B,25B,26B,27Bの位置は、適宜変更し得る。
【0059】
図9は、一変形例に係る細胞培養容器1Cの上面視における各部の配置を示した配置図である。図9に示すように、細胞培養容器1Cは、第1実施形態に係る細胞培養容器1と同様に、本体部10Cの内部空間として、細胞培養室21C、第1電極室22C、第2電極室23C、第1上側流路24C、第2上側流路25C、第1下側流路26C、および第2下側流路27Cを有する。また、細胞培養容器1Cは、第1作用電極31C、第1参照電極32C、第2作用電極41C、および第2参照電極42Cを有する。
【0060】
細胞培養室21C、第1電極室22C、第2電極室23C、細胞培養領域200C、各電極31C,32C,41C,42Cの配置は、第1実施形態に係る細胞培養容器1の細胞培養室21、第1電極室22、第2電極室23、細胞培養領域200、各電極31,32,41,42の配置と同様である。
【0061】
上記の実施形態および変形例では、各流路が、細胞培養室に直接連通していた。しかしながら、本発明はこれに限られない。
【0062】
図9の例では、第1上側流路24Cは、細胞培養室21Cの第1方向一方側において、第1電極室22Cに連通接続される。これにより、第1上側流路24Cは、細胞培養室21Cに第1電極室22Cを介して間接的に連通する。第2上側流路25Cは、第1方向の中央よりも他方側において細胞培養室21Cに直接連通する。第1下側流路26Cは、細胞培養室21Cの第1方向他方側において、第2電極室23Cに連通接続される。これにより、第1下側流路26Cは、細胞培養室21Cに第2電極室23Cを介して間接的に連通する。また、第2下側流路27Cは、第1方向の中央よりも一方側において細胞培養室21Cに直接連通する。
【0063】
これにより、細胞培養領域200Cの上側と下側では、上面視において培養液の流入位置および流出位置が異なる。図9の例のように、各流路24C,25C,26C,27Cは、必ずしも細胞培養室と直接連通せず、間接的に連通してもよい。
【0064】
また、上記の実施形態では、細胞培養容器の形状が直方体であったが、本発明はこれに限られない。細胞培養容器の形状は、円柱形状、多角柱形状、半球形状、その他の形状に適宜設計しうる。
【0065】
また、上記の実施形態では、細胞培養領域の形状が上面視で略四角形であったが、本発明はこれに限られない。細胞培養領域の形状は、上面視で円形、楕円形、多角形、その他生体構造を模した複雑な形状をしていてもよい。また、上記の実施形態では、細胞培養領域が水平に配置されていたが、本発明はこれに限られない。細胞培養領域は、水平方向に対して全体として勾配を有していてもよいし、部分的に勾配が変化する複雑な形状をしていてもよい。
【0066】
また、細胞培養容器の細部の構成については、本願の各図と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,1B,1C 細胞培養容器
10,10A,10B,10C 体部
20,20A 細胞培養膜
21,21A,21B,21C 細胞培養室
22,22A,22B,22C 第1電極室
23,23A,23B,23C 第2電極室
24,24A,24B,24C 第1上側流路
25,25A,25B,25C 第2上側流路
26,26A,26B,26C 第1下側流路
27,27A,27B,27C 第2下側流路
31,31A,31B,31C 第1作用電極
32,32A,32B,32C 第1参照電極
41,41A,41B,41C 第2作用電極
42,42A,42B,42C 第2参照電極
200,200A,200B,200C 細胞培養領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9