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特許7107537ビール粕からβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を含む組成物を製造する方法
<図1>
  • 特許-ビール粕からβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を含む組成物を製造する方法 図1
  • 特許-ビール粕からβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を含む組成物を製造する方法 図2
  • 特許-ビール粕からβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を含む組成物を製造する方法 図3
  • 特許-ビール粕からβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を含む組成物を製造する方法 図4
  • 特許-ビール粕からβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を含む組成物を製造する方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】ビール粕からβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を含む組成物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12F 3/06 20060101AFI20220720BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C12F3/06
C08B37/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017142019
(22)【出願日】2017-07-21
(65)【公開番号】P2019017370
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】供田 洋
(72)【発明者】
【氏名】安原 義
(72)【発明者】
【氏名】大城 太一
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106480149(CN,A)
【文献】特開2002-371002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0302731(US,A1)
【文献】特開昭51-129776(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0888492(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12F 3/06
C08B 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビール粕を、メタノール、エタノール及び2-プロパノール、並びにそれらの混合物からなる群より選択される低級アルコール存在下、0.1 M以上の濃度の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム水溶液を用いてアルカリ処理してアルカリ性の抽出液を得る、アルカリ抽出工程、
アルカリ性の抽出液を酸性化して、酸性の上清画分、並びにβ-グルカン、及び式(I-1):
【化1】

[式中、
R1は、水素であり、
R2は、式(R 2 -1):
【化2】

[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1は、n-ヘキシレンである。]
で表される化合物、及び
式(I-2):
【化3】

[式中、R 1 、前記と同義であり、
R 2 は、n-ブチルであり、
L 1 は、式(L 1 -1):
【化4】

[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である。]
で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を含む不溶画分を得る、不溶化工程、
不溶化工程で得られた酸性の上清画分を有機溶媒で抽出して、フェルラ酸及びクマル酸の少なくともいずれかを含む画分を得る、有機溶媒抽出工程、
を含む、β-グルカン及び1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を含む組成物の製造方法。
【請求項2】
アルカリ抽出工程が、0.3~1.0 Mの範囲の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカリ抽出工程において、低級アルコールの量が、アルカリ性の抽出液の総体積に対して40~50体積%の範囲である、1又は2に記載の方法。
【請求項4】
アルカリ抽出工程において、低級アルコールがエタノールである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
アルカリ抽出工程において、ビール粕をアルカリ処理する温度が、90℃以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
不溶化工程において、アルカリ性の抽出液に酸性化に使用される酸が、塩酸である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
不溶化工程において、アルカリ性の抽出液を、pH 1~2の範囲まで酸性化する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール粕からβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を含む組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β-グルカンは、グルコースがβ-1,3-グルコシド結合又はβ-1,4-グルコシド結合によって重合した糖鎖を基本骨格とする多糖類である。β-グルカンは、食物繊維として整腸作用等の機能を有するだけでなく、冠状動脈心疾患及び心臓疾患のリスク軽減、食後血糖値の上昇抑制、及びコレステロール値の低下等の機能も有することが知られている。
【0003】
β-グルカンは、植物(例えばオオムギ、オートムギ及びコムギ等の穀粒)、キノコ、並びに酵母等に含まれることが知られている。例えば、特許文献1は、粉砕された穀粒又は穀粒のうち粉砕された部分からβ(1-3)β(1-4)グルカンを単離する方法を記載する。当該文献は、粉砕された穀粒又は穀粒のうち粉砕された部分をアルカリ性溶液で抽出するステップと、C1~C4アルコールを前記精製抽出物に添加して前記β(1-3)β(1-4)グルカンを沈殿させるステップとを含む方法を記載する。
【0004】
植物に含まれる天然生理活性物質として、近年、不飽和脂肪酸であるリノール酸の酸化誘導体(例えば、リノール酸の過酸化物(HPODE)、ヒドロキシル化誘導体(HODE)及びオキソ誘導体)が注目されている。これらの酸化誘導体は、トマト、キュウリ、イネ及びオオムギ等の植物における不飽和脂肪酸の酸化的代謝経路の代謝産物として見出された(非特許文献1)。
【0005】
リノール酸の過酸化物及びヒドロキシル化誘導体は、抗炎症、脂質代謝、糖代謝、骨代謝、抗がん作用、抗肥満、及び整腸作用等に関与するペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)の内因性アゴニストであることが報告された(非特許文献2及び3)。また、リノール酸のオキソ誘導体であるケトオクタデカジエン酸が脂肪燃焼活性を有することが報告された(非特許文献4)。
【0006】
リノール酸の過酸化物、ヒドロキシル化誘導体及びオキソ誘導体のような不飽和脂肪酸の酸化誘導体の有用な生理活性が明らかとなったことから、不飽和脂肪酸から有用な生理活性を有する酸化誘導体を製造する方法が開発された(特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2006-525381号公報
【文献】特開2010-51174号公報
【文献】国際公開第2014/088002号
【文献】特開2015-186545号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Hubke, H.ら, J. Agric. Food Chem, 2005年, 第53巻, p. 1556-1562
【文献】Silvia YMC.ら, J Lipid Res, 1999年, 第40巻, p. 1426-1433
【文献】Obitani H.ら, Prostaglandins Other Lipid Mediat., 2009年, 第89巻, p. 66-72
【文献】Kim, Y.ら, PLos One, 2012年, 第7(2)巻, e31317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
β-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体は、天然由来の生理活性物質として有用である。しかしながら、β-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を、特定の材料から別々に製造する方法は知られているものの、該化合物を一緒に含む組成物を単一の材料から得る方法は知られていなかった。
【0010】
不飽和脂肪酸の酸化誘導体の製造方法として、例えば、特許文献2~4に記載の方法では、主として、特定の微生物又は酵素を用いて不飽和脂肪酸の酸化反応を進行させる。このような方法の場合、特定の微生物又は酵素を準備する必要が存在した。また、使用される微生物又は酵素の種類によっては、安全性の観点から、そのままの形態で食品又は医薬品に添加することが困難な場合が存在した。このような場合、形成された酸化誘導体を、微生物又は酵素を含有する反応系から精製及び/又は単離する等の後処理を実施する必要が存在した。
【0011】
単一の材料に含まれるβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を分離及び精製して、これらの化合物を一緒に含む組成物を製造することができれば、従来技術の方法と比較してより簡便且つ安価に目的の化合物を製造し得る。しかしながら、不飽和脂肪酸の酸化誘導体は、反応性が高いことから、材料調製の段階、並びに/又は分離及び精製の段階で他の化合物に変換される可能性がある。また、植物等において、内因性の代謝経路によって産生する不飽和脂肪酸の酸化誘導体は、通常は微量である。このように、反応性が高く、微量しか産生されない不飽和脂肪酸の酸化誘導体を、安定して供給し得る材料、並びに/又は安定して分離及び精製し得る手段は、未だ見出されていなかった。
【0012】
それ故、本発明は、有用なβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を簡便且つ安価な手段で製造し得る手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、ビール製造で大量に排出されるビール粕中に、β-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体が含まれることを見出した。本発明者らは、ビール粕をアルカリ処理してβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を抽出し、さらに該抽出液を酸性化することにより、β-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を含む不溶画分が得られることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) ビール粕をアルカリ処理してアルカリ性の抽出液を得る、アルカリ抽出工程、
アルカリ性の抽出液を酸性化して、酸性の上清画分、並びにβ-グルカン、及び式(I-1):
【化1】
[式中、
R1は、水素、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC4~C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC4~C6シクロアルキニル、又は置換若しくは非置換のC7~C11シクロアルキルアルキルであり、
R2は、非置換のC1~C7アルキル、又は非置換のC4~C16アルケニルであり、
L1は、非置換のC1~C6アルキレン、又は非置換のC4~C16アルケニレンであり、
但し、R2及びL1は、炭素数の合計が13~17の範囲であり、二重結合の合計が0~5の範囲であるとの条件を満たす化合物である。]
で表される化合物、及び
式(I-2):
【化2】
[式中、R1、R2及びL1は、前記と同義である。]
で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を含む不溶画分を得る、不溶化工程
を含む、β-グルカン及び1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を含む組成物の製造方法。
(2) アルカリ抽出工程が、0.1 M以上の濃度の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム水溶液を用いて実施される、前記実施形態(1)に記載の方法。
(3) アルカリ抽出工程が、メタノール、エタノール及び2-プロパノール、並びにそれらの混合物からなる群より選択される低級アルコール存在下で実施される、前記実施形態(1)又は(2)に記載の方法。
(4) R2がn-ブチルであり、
L1が式(L1-1):
【化3】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-1):
【化4】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がn-ヘキシレンである;
の条件を満たす、前記実施形態(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 不溶化工程で得られた酸性の上清画分を有機溶媒で抽出して、フェルラ酸及びクマル酸の少なくともいずれかを含む画分を得る、有機溶媒抽出工程をさらに含む、前記実施形態(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、有用なβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を簡便且つ安価な手段で製造し得る手段を提供することが可能となる。
【0016】
前記以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、ビール粕粉末のアルカリ抽出におけるNaOH濃度と、抽出液に含まれる酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量との関係を示す。A:抽出液に含まれる酸化誘導体の量、B:抽出液に含まれるフェルラ酸及びβ-グルカンの量。
図2図2は、ビール粕粉末のアルカリ抽出におけるアルカリ抽出時間と、抽出液に含まれる酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量との関係を示す。A:抽出液に含まれる酸化誘導体の量、B:抽出液に含まれるフェルラ酸及びβ-グルカンの量。
図3図3は、ビール粕粉末のアルカリ抽出におけるアルカリ抽出温度と、抽出液に含まれる酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量との関係を示す。A:抽出液に含まれる酸化誘導体の量、B:抽出液に含まれるフェルラ酸及びβ-グルカンの量。
図4図4は、ビール粕粉末のアルカリ抽出における低級アルコールと、抽出液に含まれる酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量との関係を示す。A:抽出液に含まれる酸化誘導体の量、B:抽出液に含まれるフェルラ酸及びβ-グルカンの量。
図5図5は、0.3又は1.0 M NaOHの条件下でアルカリ抽出した場合における、酢酸エチル画分又は不溶画分に含まれる酸化誘導体、フェルラ酸、クマル酸及びβ-グルカンの量を示す。A:各画分に含まれる酸化誘導体の量、B:各画分に含まれるフェルラ酸、クマル酸及びβ-グルカンの量。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0019】
<1:化合物の定義>
本明細書において、化学式中の基に使用される接頭辞「n」はノルマルを、「i」若しくは「iso」はイソを、「s」若しくは「sec」はセカンダリーを、「t」若しくは「tert」はターシャリーを、「c」はシクロを、「o」はオルトを、「m」はメタを、「p」はパラを、それぞれ意味する。
【0020】
本明細書において、「アルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、「C1~C5アルキル」は、少なくとも1個且つ多くても5個の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。好適なアルキルは、限定するものではないが、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル及びn-ペンチル等の直鎖又は分枝鎖のC1~C5アルキルを挙げることができる。
【0021】
本明細書において、「アルケニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。好適なアルケニルは、限定するものではないが、例えばビニル、1-プロペニル、アリル、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル及び1-ペンテニル等の直鎖又は分枝鎖のC2~C5アルケニルを挙げることができる。
【0022】
本明細書において、「アルキニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。好適なアルキニルは、限定するものではないが、例えばエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル及び1-ペンチニル等の直鎖又は分枝鎖のC2~C5アルキニルを挙げることができる。
【0023】
本明細書において、「シクロアルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、脂環式アルキルを意味する。例えば、「C3~C6シクロアルキル」は、少なくとも3個且つ多くても6個の炭素原子を含む、環式の炭化水素基を意味する。好適なシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシル等のC3~C6シクロアルキルを挙げることができる。
【0024】
本明細書において、「シクロアルケニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。好適なシクロアルケニルは、限定するものではないが、例えばシクロブテニル、シクロペンテニル及びシクロヘキセニル等のC4~C6シクロアルケニルを挙げることができる。
【0025】
本明細書において、「シクロアルキニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。好適なシクロアルキニルは、限定するものではないが、例えばシクロブチニル、シクロペンチニル及びシクロヘキシニル等のC4~C6シクロアルキニルを挙げることができる。
【0026】
本明細書において、「ヘテロシクロアルキル」は、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立して窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)から選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロピラニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル及びピペラジニル等の3~6員のヘテロシクロアルキルを挙げることができる。
【0027】
本明細書において、「シクロアルキルアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルに置換された基を意味する。好適なシクロアルキルアルキルは、限定するものではないが、例えばシクロヘキシルメチル及びシクロヘキセニルメチル等のC7~C11シクロアルキルアルキルを挙げることができる。
【0028】
本明細書において、「ヘテロシクロアルキルアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記ヘテロシクロアルキルに置換された基を意味する。好適なヘテロシクロアルキルアルキルは、限定するものではないが、例えば3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C5アルキルを挙げることができる。
【0029】
本明細書において、「アルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルに置換された基を意味する。好適なアルコキシは、限定するものではないが、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ及びペントキシ等のC1~C5アルコキシを挙げることができる。
【0030】
本明細書において、「シクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えばシクロプロポキシ、シクロブトキシ及びシクロペントキシ等のC3~C6シクロアルコキシを挙げることができる。
【0031】
本明細書において、「ヘテロシクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロシクロアルキルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えば3~6員のヘテロシクロアルコキシを挙げることができる。
【0032】
本明細書において、「アリール」は、芳香環基を意味する。好適なアリールは、限定するものではないが、例えばフェニル、ビフェニル、テルフェニル、ナフチル及びアントラセニル等のC6~C18アリールを挙げることができる。
【0033】
本明細書において、「アリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばベンジル、1-フェネチル、2-フェネチル、ビフェニルメチル、テルフェニルメチル及びスチリル等のC7~C20アリールアルキルを挙げることができる。
【0034】
本明細書において、「ヘテロアリール」は、前記アリールの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立してN、S及びOから選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロアリールは、限定するものではないが、例えばフラニル、チエニル(チオフェンイル)、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル、キノリニル、イソキノリニル及びインドリル等の5~15員のヘテロアリールを挙げることができる。
【0035】
本明細書において、「ヘテロアリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばピリジルメチル等の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキルを挙げることができる。
【0036】
本明細書において、「アリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフェノキシ、ビフェニルオキシ、ナフチルオキシ及びアントリルオキシ(アントラセニルオキシ)等のC6~C15アリールオキシを挙げることができる。
【0037】
本明細書において、「アリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールアルキルに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えばベンジルオキシ、1-フェネチルオキシ、2-フェネチルオキシ及びスチリルオキシ等のC7~C20アリールアルキルオキシを挙げることができる。
【0038】
本明細書において、「ヘテロアリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフラニルオキシ、チエニルオキシ(チオフェンイルオキシ)、ピロリルオキシ、イミダゾリルオキシ、ピラゾリルオキシ、トリアゾリルオキシ、テトラゾリルオキシ、チアゾリルオキシ、オキサゾリルオキシ、イソオキサゾリルオキシ、オキサジアゾリルオキシ、チアジアゾリルオキシ、イソチアゾリルオキシ、ピリジルオキシ、ピリダジニルオキシ、ピラジニルオキシ、ピリミジニルオキシ、キノリニルオキシ、イソキノリニルオキシ及びインドリルオキシ等の5~15員のヘテロアリールオキシを挙げることができる。
【0039】
本明細書において、「ヘテロアリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールアルキルに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えば5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキルオキシを挙げることができる。
【0040】
本明細書において、「アシル」は、前記で説明した基から選択される1価基とカルボニルとが連結した基を意味する。好適なアシルは、限定するものではないが、例えばホルミル、アセチル及びプロピオニル等のC1~C5脂肪族アシル、並びにベンゾイル等のC7~C16芳香族アシルを挙げることができる。
【0041】
前記で説明した基は、それぞれ独立して、非置換であるか、或いは1個若しくは複数の前記で説明した1価基によってさらに置換することもできる。
【0042】
本明細書において、「ハロゲン」又は「ハロ」は、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)を意味する。
【0043】
<2:製造方法>
本発明者らは、ビール製造で大量に排出されるビール粕中に、β-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体が含まれることを見出した。本発明者らは、ビール粕をアルカリ処理してβ-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を抽出し、さらに該抽出液を酸性化することにより、β-グルカン及び不飽和脂肪酸の酸化誘導体を含む不溶画分が得られることを見出した。それ故、本発明の一態様は、β-グルカン及び1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を含む組成物の製造方法に関する。本発明において、不飽和脂肪酸の酸化誘導体は、不飽和脂肪酸の過酸化物、不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、及び不飽和脂肪酸のオキソ誘導体からなる群より選択される少なくとも1個の化合物を意味し、特に不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を意味する。
【0044】
本発明の各態様において、不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体は、式(I-1):
【化5】
で表される化合物、及び
式(I-2):
【化6】
で表される化合物からなる群より選択される1種以上の化合物である。
【0045】
式(I-1)及び(I-2)において、
R1は、水素、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC4~C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC4~C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7~C11シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC6~C15アリール、置換若しくは非置換のC7~C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール、又は置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C5アルキルであり、
R2は、置換若しくは非置換のC1~C20アルキル、置換若しくは非置換のC2~C20アルケニル、又は置換若しくは非置換のC2~C20アルキニルであり、
L1は、単結合、置換若しくは非置換のC1~C20アルキレン、置換若しくは非置換のC2~C20アルケニレン、又は置換若しくは非置換のC2~C20アルキニレンである。
【0046】
R1は、水素、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC4~C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC4~C6シクロアルキニル、又は置換若しくは非置換のC7~C11シクロアルキルアルキルであることが好ましく、水素、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、又は置換若しくは非置換のC2~C5アルキニルであることがより好ましく、水素、メチル、エチル、プロピル、又はグリセリルであることがさらに好ましく、水素であることが特に好ましい。R1がグリセリルの場合、グリセリルの2-位及び3-位のヒドロキシルの少なくともいずれかは、別の式(I)で表される不飽和脂肪酸又は他の脂肪酸とエステル結合を形成していてもよい。
【0047】
R2は、非置換のC1~C20アルキル、非置換のC2~C20アルケニル、又は非置換のC2~C20アルキニルであることが好ましく、非置換のC1~C10アルキル、又は非置換のC4~C20アルケニルであることがより好ましく、非置換のC1~C7アルキル、又は非置換のC4~C16アルケニルであることがさらに好ましく、メチル、n-ブチル、n-ヘプチル、n-ブタ-1-エン-イル、n-ヘプタ-1-エン-イル、n-ヘプタ-1,4-ジエン-イル、n-デカ-1,4-ジエン-イル、n-デカ-1,4,7-トリエン-イル、n-トリデカ-1,4,7-トリエン-イル、n-トリデカ-1,4,7,10-テトラエン-イル、又はn-ヘキサデカ-1,4,7,10,13-ペンタエン-イルであることが特に好ましい。
【0048】
L1は、単結合、非置換のC1~C20アルキレン、非置換のC2~C20アルケニレン、又は非置換のC2~C20アルキニレンであることが好ましく、単結合、非置換のC1~C10アルキレン、又は非置換のC4~C20アルケニレンであることがより好ましく、非置換のC1~C6アルキレン、又は非置換のC4~C16アルケニレンであることがさらに好ましく、メチレン、エチレン、n-ヘキシレン、n-ブタ-1-エン-1,4-ジイル、n-ペンタ-1-エン-1,5-ジイル、n-ヘプタ-1,4-ジエン-1,7-ジイル、n-オクタ-1,4-ジエン-1,8-ジイル、n-ノナ-1-エン-1,9-ジイル、n-デカ-1,4,7-トリエン-1,10-ジイル、n-ウンデカ-1,4,7-トリエン-1,11-ジイル、n-ドデカ-1,4-ジエン-1,12-ジイル、n-トリデカ-1,4,7,10-テトラエン-1,13-ジイル、n-テトラデカ-1,4,7,10-テトラエン-1,14-ジイル、又はn-ヘキサデカ-1,4,7,10,13-ペンタエン-1,16-ジイルであることが特に好ましい。
【0049】
R1、R2及びL1の定義において、前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アミノ、ヒドロキシル、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C3~C6シクロアルキル、C3~C6シクロアルケニル、C3~C6シクロアルキニル、3~6員のヘテロシクロアルキル、C1~C6アルコキシ、C3~C6シクロアルコキシ、3~6員のヘテロシクロアルコキシ、C4~C20アリール、C6~C15アリールオキシ、C7~C20アリールアルキルオキシ、5~15員のヘテロアリール、5~15員のヘテロアリールオキシ、5~15員のヘテロアリール-C1~C9アルキルオキシ、C1~C6アルコキシカルボニル、C3~C6シクロアルコキシカルボニル、及びC1~C6アシルオキシからなる群より選択される1個以上の1価基であることが好ましい。
【0050】
式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体は、前記で例示されるR1、R2及びL1の任意の組み合わせによって定義される化合物を包含することができる。
【0051】
式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体は、
好ましくは、R2及びL1が、以下:
R2が、非置換のC1~C7アルキル、又は非置換のC4~C16アルケニルであり、
L1が、非置換のC1~C6アルキレン、又は非置換のC4~C16アルケニレンであり、
但し、R2及びL1は、炭素数の合計が13~17の範囲であり、二重結合の合計が0~5の範囲であるとの条件を満たす化合物であり、
より好ましくは、R2及びL1が、以下:
条件(i):
R2がn-ブチルであり、
L1が式(L1-1):
【化7】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-1):
【化8】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(ii):
R2がn-ヘプチルであり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(iii):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-2):
【化9】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-2):
【化10】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がn-ヘキシレンである;
条件(iv):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-3):
【化11】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-3):
【化12】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がエチレンである;
条件(v):
R2がメチルであり、
L1が式(L1-4):
【化13】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-4):
【化14】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がメチレンである;及び
条件(vi):
R2がn-ブチルであり、
L1が式(L1-5):
【化15】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置であり、
**は、カルボン酸基との結合位置である。]
で表される2価基である;又は
R2が式(R2-5):
【化16】
[式中、
*は、アルケニレン鎖との結合位置である。]
で表される2価基であり、
L1がエチレンである;
からなる群より選択される条件を満たす化合物であり、
さらに好ましくは、R2及びL1が、条件(i)を満たす化合物である。前記条件(i)~(vi)で定義される、式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体は、リノール酸、オレイン酸、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)及びアラキドン酸のヒドロキシル誘導体にそれぞれ対応する。これらの不飽和脂肪酸は、いずれも天然に存在することが知られている。また、ある種の不飽和脂肪酸の酸化誘導体は、有用な生理活性を有することが知られている(非特許文献2~4)。それ故、本発明の一態様に係る方法により、有用な生理活性を有する、式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を提供することができる。
【0052】
本発明の各態様において、β-グルカンは、グルコースがβ-1,3-グルコシド結合又はβ-1,4-グルコシド結合によって重合した糖鎖を基本骨格とする多糖類を意味する。本発明の一態様に係る方法で使用されるビール粕は、ビール製造の原料であるオオムギの麦芽に由来するβ-グルカンを主に含む。それ故、本発明の一態様に係る方法で得られるβ-グルカンは、通常は、ビール粕に含まれる、オオムギの麦芽に由来するβ-グルカンを主成分として含み、場合により、他の材料に由来するβ-グルカンも含んでもよい。オオムギの麦芽に由来するβ-グルカンは、通常は、β-1,3-グルコシド結合及びβ-1,4-グルコシド結合が混在した構造を有する。本発明の一態様に係る方法で得られるβ-グルカンは、通常は、前記で例示した性質を有するβ-グルカンを主成分として含み、場合により、他の性質を有するβ-グルカンも含んでもよい。
【0053】
本発明の一態様に係る方法において得られるβ-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、又は液体クロマトグラフィー-質量スペクトル(LC-MS)等の機器分析の手段によって、同定及び/又は定量することができる。また、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体の化学構造は、例えば、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、赤外吸収スペクトル(IR)、紫外吸収スペクトル(UV)、又はMS等の機器分析の手段によって、確認することができる。
【0054】
本発明の各態様において、β-グルカン、式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、並びに以下において説明するフェルラ酸及びクマル酸は、該化合物自体だけでなく、存在し得る場合、その塩も包含する。前記化合物の塩としては、限定するものではないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、若しくは置換若しくは非置換のアンモニウムイオンのようなカチオンとの塩、又は塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、炭酸若しくはリン酸のような無機酸、又はギ酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、コハク酸、ビスメチレンサリチル酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、プロピオン酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸、グリコール酸、p-アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、p-トルエンスルホン酸若しくはナフタレンスルホン酸のような有機酸アニオンとの塩が好ましい。前記化合物が前記の塩の形態である場合であっても、本発明の各態様を適用することができる。
【0055】
本発明の各態様において、β-グルカン、式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、並びに以下において説明するフェルラ酸及びクマル酸は、該化合物自体だけでなく、存在し得る場合、該化合物又はその塩の溶媒和物も包含する。前記化合物又はその塩と溶媒和物を形成し得る溶媒としては、限定するものではないが、例えば、水、或いは低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール若しくは2-プロパノール(イソプロピルアルコール)のような1~6の炭素数を有するアルコール)、高級アルコール(例えば、1-ヘプタノール若しくは1-オクタノールのような7以上の炭素数を有するアルコール)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸、エタノールアミン又は酢酸エチルのような有機溶媒が好ましい。前記化合物又はその塩が前記の溶媒との溶媒和物の形態である場合であっても、本発明の各態様を適用することができる。
【0056】
本発明の各態様において、β-グルカン、式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、並びに以下において説明するフェルラ酸及びクマル酸が1又は複数の互変異性体を有する場合、前記化合物は、該化合物の個々の互変異性体の形態も包含する。
【0057】
本発明の各態様において、β-グルカン、式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、並びに以下において説明するフェルラ酸及びクマル酸が1又は複数の立体中心(キラル中心)を有する場合、前記化合物は、該化合物の個々のエナンチオマー及びジアステレオマー、並びにラセミ体のようなそれらの混合物も包含する。
【0058】
また、本発明の各態様において、β-グルカン、式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、並びに以下において説明するフェルラ酸及びクマル酸に存在する1又は複数の二重結合の幾何配置が特定されていない場合、前記化合物は、該化合物の個々の幾何異性体及びそれらの混合物も包含する。
【0059】
本態様に係る方法は、アルカリ抽出工程及び不溶化工程を含む。各工程について、以下においてさらに詳細に説明する。
【0060】
[2-1:アルカリ抽出工程]
本態様に係る方法は、ビール粕をアルカリ処理してアルカリ性の抽出液を得る、アルカリ抽出工程を含む。
【0061】
本態様において、「ビール粕」は、ビール製造で生じる麦汁粕を意味する。ビール粕は、ビール製造で大量に排出されており、現在は、家畜飼料及び肥料等に再使用されるか、又は焼却等によって処分される。
【0062】
本工程において使用されるビール粕は、通常のビール製造で生じるものであればよく、ビールの種類及び製法、並びにビール製造に使用される麦芽の種類等は特に限定されない。また、ビール粕の水分含量は、通常のビール製造で生じる脱水状態又は乾燥状態のいずれであってもよく、乾燥状態であることが好ましい。前記特徴を有するビール粕を使用することにより、本態様に係る方法を簡便に実施することができる。
【0063】
本工程において使用されるビール粕の形態は、特に限定されないが、粉末の形態であることが好ましい。粉末の形態のビール粕は、例えば、当該技術分野で通常使用されるミル又はミキサー等を用いて得ることができる。粉末の形態のビール粕を使用することにより、アルカリ抽出をより効率的に実施することができる。
【0064】
本工程において使用されるアルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム若しくは炭酸カルシウム、又はそれらの混合物であることが好ましく、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることがより好ましく、水酸化ナトリウムであることがさらに好ましい。ビール粕に含まれる、β-グルカン、式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、並びに以下において説明するフェルラ酸及びクマル酸は、遊離形態だけでなく、エステルのような修飾形態でも存在し得る。本工程において、ビール粕をアルカリ処理することにより、修飾形態の前記化合物を遊離形態に変換することができる。前記で例示したアルカリを用いてビール粕をアルカリ処理することにより、アルカリ抽出をより効率的に実施することができる。
【0065】
本工程において、アルカリ性の抽出液におけるアルカリの濃度は、0.1 M以上であることが好ましく、0.1~1.5 Mの範囲であることがより好ましく、0.1~1.0 Mの範囲であることがさらに好ましく、0.3~1.0 Mの範囲であることが特に好ましい。前記下限値未満の濃度のアルカリを用いる場合、所望の化合物を十分に抽出できない可能性がある。前記で例示した濃度範囲のアルカリを用いてビール粕をアルカリ処理することにより、アルカリ抽出をより効率的に実施することができる。
【0066】
本工程において、ビール粕をアルカリ処理する時間は、数分間以上であることが好ましく、30分間以上であることがより好ましく、60分間以上であることがさらに好ましい。ビール粕をアルカリ処理する時間の上限は、特に限定されないが、例えば数時間以下、典型的には2時間以下である。前記で例示した範囲の時間でビール粕をアルカリ処理することにより、アルカリ抽出を迅速に実施することができる。
【0067】
本工程において、ビール粕をアルカリ処理する温度は、室温以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上の温度でビール粕をアルカリ処理することにより、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を効率的に抽出することができる。また、ビール粕をアルカリ処理する温度は、100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。前記上限値を超える温度でビール粕をアルカリ処理する場合、β-グルカンの抽出効率が低下する可能性がある。前記で例示した範囲の温度でビール粕をアルカリ処理することにより、アルカリ抽出をより効率的に実施することができる。
【0068】
本工程の一実施形態において、アルカリ抽出は、低級アルコール存在下で実施されることが好ましい。本実施形態の場合、低級アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール(例えば1-プロパノール又は2-プロパノール)及びブタノール、並びにそれらの混合物からなる群より選択されることが好ましく、メタノール、エタノール及び2-プロパノール、並びにそれらの混合物からなる群より選択されることがより好ましく、エタノールであることがさらに好ましい。C4を超える炭素鎖長を有するアルコールを使用する場合、β-グルカン、並びに/又は式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体の抽出効率が低下する可能性がある。前記で例示した低級アルコール存在下でビール粕をアルカリ処理することにより、アルカリ抽出をより効率的に実施することができる。
【0069】
前記実施形態において、低級アルコールの量は、アルカリ性の抽出液の総体積に対して10~50体積%の範囲であることが好ましく、40~50体積%の範囲であることがより好ましい。前記上限値を超える量の低級アルコールが存在する場合、β-グルカン、並びに/又は式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体の抽出効率が低下する可能性がある。前記で例示した低級アルコール存在下でビール粕をアルカリ処理することにより、アルカリ抽出をより効率的に実施することができる。
【0070】
本工程において、ビール粕を分離して、アルカリ性の抽出液を得る。アルカリ性の抽出液からビール粕を分離する手段としては、遠心分離及び濾過のような当該技術分野で通常使用される手段を適用することができる。
【0071】
前記で説明した条件に基づき本工程を実施することにより、β-グルカン及び不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を含むアルカリ性の抽出液を得ることができる。
【0072】
[2-2:不溶化工程]
本態様に係る方法は、アルカリ性の抽出液を酸性化して、酸性の上清画分、並びにβ-グルカン、及び式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を含む不溶画分を得る、不溶化工程を含む。
【0073】
本工程において、アルカリ性の抽出液の酸性化に使用される酸は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸若しくはクエン酸、又はそれらの混合物であることが好ましく、塩酸であることがより好ましい。前記で例示した酸を用いてアルカリ性の抽出液を酸性化することにより、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を不溶化させることができる。
【0074】
本工程において、酸性化に使用される酸の濃度は、0.1 M以上であることが好ましく、0.1~6 Mの範囲であることがより好ましく、1~6 Mの範囲であることがさらに好ましい。前記で例示した濃度範囲の酸を用いてアルカリ性の抽出液を酸性化することにより、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を不溶化させることができる。
【0075】
本工程において、前記で説明した酸を用いて、アルカリ性の抽出液を、pH 7未満まで酸性化することが好ましく、pH 1~4の範囲まで酸性化することがより好ましく、pH 1~2の範囲まで酸性化することがさらに好ましい。前記上限値を超えるpHまで酸性化した場合、β-グルカン、並びに/又は式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体が十分に不溶化せず、結果として所望の化合物の収量が低下する可能性がある。前記で例示したpH範囲までアルカリ性の抽出液を酸性化することにより、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を含む不溶画分を高収量で得ることができる。
【0076】
本工程において、アルカリ性の抽出液を前記pH範囲まで酸性化して、所定の時間保持することにより、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を不溶化させる。この不溶化に要する時間は、通常は数分間以上であり、例えば1分間~2時間の範囲である。前記範囲の時間、酸性化した抽出液を保持することにより、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を含む不溶画分を高収量で得ることができる。
【0077】
本工程において、アルカリ性の抽出液を酸性化する温度は、50℃以下であることが好ましく、0~50℃の範囲であることがより好ましく、0~25℃の範囲であることがさらに好ましい。アルカリ性の抽出液を酸性化するときの温度が50℃を超える場合、式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体が異性化する可能性がある。前記範囲の温度でアルカリ性の抽出液を酸性化することにより、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を不溶化させることができる。
【0078】
本発明の各態様において、「不溶」は、特定の割合以上の溶質が、溶媒と混合して実質的に均質な液相を形成していない状態を意味する。不溶化した状態は、その系内に、不溶化した溶質だけでなく、溶媒と混合して実質的に均質な液相を形成している(すなわち、溶解している)溶質を含んでもよい。不溶化した溶質は、溶媒中で凝集し、粒子、塊又は沈殿等を形成する。
【0079】
本工程において、酸性化した抽出液から、酸性の上清画分と、不溶化させたβ-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体とを分離して、所望の化合物を含む不溶画分を得る。酸性化した抽出液から、酸性の上清画分と不溶画分とを分離する手段としては、遠心分離及び濾過のような当該技術分野で通常使用される手段を適用することができる。これらの手段を適用して本工程を実施することにより、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を含む不溶画分を、例えば粒子、塊又は沈殿等の形態として得ることができる。
【0080】
前記で説明した条件に基づき本工程を実施することにより、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体を含む不溶画分を得ることができる。
【0081】
また、以下において説明するように、本工程を実施することにより、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体に加え、フェルラ酸及びクマル酸の少なくともいずれかをさらに含む不溶画分を得ることもできる。
【0082】
[2-3:有機溶媒抽出工程]
本態様に係る方法は、所望により、不溶化工程で得られた酸性の上清画分を有機溶媒で抽出して、フェルラ酸及びクマル酸の少なくともいずれかを含む画分を得る、有機溶媒抽出工程をさらに含むことができる。
【0083】
フェルラ酸及びクマル酸は、いずれも天然に存在する芳香族化合物として知られている。クマル酸には、o-、m-及びp-クマル酸の3種の位置異性体が存在する。本明細書において、「クマル酸」は、これら3種の位置異性体のいずれも包含する。フェルラ酸及びクマル酸は、免疫増強作用、血圧降下作用、血流改善作用、アンジオテンシンI変換酵素(ACE)阻害作用、抗菌作用及び抗酸化作用のような生理活性を有することから、サプリメント又は健康食品等の成分として有用である(例えば、特開2002-371002号公報、特開2013-53126号公報及び特開2014-40375号公報)。
【0084】
本発明者らは、本態様に係る方法を実施することにより、アルカリ抽出工程で得られるアルカリ性の抽出液、及び不溶化工程で得られる不溶画分に、フェルラ酸及びクマル酸の少なくともいずれかが含まれることを見出した。また、本発明者らは、不溶化工程で得られる酸性の上清画分を有機溶媒で抽出することにより、フェルラ酸及びクマル酸の少なくともいずれかを含む画分を得られることを見出した。
【0085】
本態様に係る方法において得られるフェルラ酸及びクマル酸は、例えば、HPLC、又はLC-MS等の機器分析の手段によって、同定及び/又は定量することができる。また、フェルラ酸及びクマル酸の化学構造は、例えば、NMR、IR、UV、又はMS等の機器分析の手段によって、確認することができる。
【0086】
本工程において、抽出に使用される有機溶媒は、酢酸エチル若しくはクロロホルム、又はそれらの混合物であることが好ましく、酢酸エチルであることがより好ましい。前記で例示した有機溶媒を用いて、不溶化工程で得られた酸性の上清画分を抽出することにより、フェルラ酸及びクマル酸の少なくともいずれかを含む画分を効率的に得ることができる。
【0087】
本工程において、不溶化工程で得られた酸性の上清画分を有機溶媒で抽出する温度は、室温以上であることが好ましく、室温~40℃の範囲であることがより好ましく、20~40℃の範囲であることがさらに好ましい。前記範囲の温度で酸性の上清画分を有機溶媒で抽出することにより、フェルラ酸及びクマル酸の少なくともいずれかを含む画分を効率的に得ることができる。
【0088】
前記で説明した条件に基づき本工程を実施することにより、フェルラ酸及びクマル酸の少なくともいずれかを含む画分を効率的に得ることができる。
【0089】
本発明の一態様に係る方法を実施することにより、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、さらに場合によりフェルラ酸及びクマル酸を含む組成物を得ることができる。本態様に係る方法によって得られる組成物において、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、さらに場合によりフェルラ酸及びクマル酸は、任意の形態及び量比で存在することができる。
【0090】
本明細書において、詳細に説明したように、本発明の各態様により、ビール粕から、β-グルカン、並びに式(I-1)で表される化合物及び式(I-2)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体、さらに場合によりフェルラ酸及びクマル酸を得ることができる。β-グルカンは、冠状動脈心疾患及び心臓疾患のリスク軽減、食後血糖値の上昇抑制、及びコレステロール値の低下等の機能を示すことが知られている。また、不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体のような酸化誘導体は、抗炎症、脂質代謝、糖代謝、骨代謝、抗がん作用、抗肥満、及び整腸作用等の作用を示すことが知られている。それ故、本発明の一態様に係る方法により、これらの化合物を有効成分として含む各種サプリメント又は健康食品を提供することができる。また、ビール粕は、ビール醸造の過程で排出される安全な材料であるが、現在のところ、その大部分が産業廃棄物として処理されている。それ故、本発明の一態様に係る方法により、ビール粕を有効利用して、安全なサプリメント又は健康食品を提供することができる。
【実施例
【0091】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0092】
<実験I:アルカリ抽出条件の検討>
[I-1:方法]
一番搾り乾燥ビール粕(キリンビール)を、コーヒーミルで粉砕して、ビール粕粉末を得た。10 mL小試験管に、250 mgのビール粕粉末を入れ、5 mLの低級アルコール(メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、2-プロパノール(2-PrOH)又はブタノール(BuOH))を加えた。この混合物を、5分間超音波処理して、低級アルコールをビール粕粉末に均一に湿潤させた。得られたビール粕粉末の懸濁液に、5 mLの所定の濃度のNaOH水溶液を加えてさらに懸濁させた。ビール粕粉末の懸濁液を、所定の条件下でアルカリ処理して抽出液を得た。得られた抽出液を、4000 rpm、10分間の条件で遠心分離した。上清を、15 mLチューブ(コーニング社)に移した。上清を、6 M HClでpH8に調節して、分析試料とした。
【0093】
分析試料中の不飽和脂肪酸のヒドロキシル誘導体(HODE)及びフェルラ酸を、下記の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析した。
〔HPLC条件〕
○HODEの分析HPLC
カラム: TSK ODS 100V(3μm) 4.6×150 mm(東ソー株式会社)
カラム温度: 40℃
試料注入量: 2 μL
溶媒: A:1/100 M HCl
B:CH3CN
C:CH3OH
混合比 A:B:C=48:44:8
流速: 1.0 mL/分
検出: 235 nm, 0.01レンジ
○フェルラ酸の分析HPLC
カラム: TSK ODS 100V(3μm) 4.6×150 mm(東ソー株式会社)
カラム温度: 40℃
試料注入量: 5 μL
溶媒: A:1/100 M HCl
B:CH3CN
混合比 A:B=75:25
流速: 1 mL/分
検出: 235 nm, 0.04レンジ
【0094】
本実施例において、表及び図に示すFr. 1~Fr. 4は、下記スキームに示すリノール酸のHODEを表す。
【化17】
【0095】
分析試料中のβ-グルカンを、コンゴーレッド法で分析した(石川直幸ら、栃木農試験報、第47巻、p. 57-64 (1998);M.C.Semedoら, Journal of Microbiological Methods, 第109巻, p. 140-148 (2015)に記載の方法を改変)。標準試料として、カードランを用いた。コンゴーレッド法では、低分子量のグルカンは検出できないことが知られている。このため、試料の調製法の違い等の原因により、分析値が異なる場合がある。
【0096】
[I-2:結果]
ビール粕粉末のアルカリ抽出を、0.1~1.0 Mの範囲の濃度のNaOH溶液中、60℃、1時間の条件下で実施した。ビール粕粉末のアルカリ抽出におけるNaOH濃度と、抽出液に含まれる酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量との関係を図1に示す。図中、Aは、抽出液に含まれる酸化誘導体の量を、Bは、抽出液に含まれるフェルラ酸及びβ-グルカンの量を、それぞれ示す。図中の酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量は、前記分析手段で決定した分析値に基づき算出した、1 gのビール粕粉末を使用した場合の換算値である。
【0097】
図1に示すように、ビール粕粉末を、0.1~1.0 Mの範囲の濃度のNaOH溶液中でアルカリ抽出することにより、HODE及びβ-グルカンを効率よく抽出することができた。
【0098】
ビール粕粉末のアルカリ抽出を、0.3 Mの範囲の濃度のNaOH溶液中、60℃、30、60又は120分間の条件下で実施した。ビール粕粉末のアルカリ抽出におけるアルカリ抽出時間と、抽出液に含まれる酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量との関係を図2に示す。図中、Aは、抽出液に含まれる酸化誘導体の量を、Bは、抽出液に含まれるフェルラ酸及びβ-グルカンの量を、それぞれ示す。図中の酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量は、前記分析手段で決定した分析値に基づき算出した、1 gのビール粕粉末を使用した場合の換算値である。
【0099】
図2に示すように、ビール粕粉末を、30分間以上アルカリ抽出することにより、HODE及びβ-グルカンを効率よく抽出することができた。
【0100】
ビール粕粉末のアルカリ抽出を、0.3 Mの範囲の濃度のNaOH溶液中、室温、60℃又は90℃、60分間の条件下で実施した。ビール粕粉末のアルカリ抽出におけるアルカリ抽出温度と、抽出液に含まれる酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量との関係を図3に示す。図中、Aは、抽出液に含まれる酸化誘導体の量を、Bは、抽出液に含まれるフェルラ酸及びβ-グルカンの量を、それぞれ示す。図中の酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量は、前記分析手段で決定した分析値に基づき算出した、1 gのビール粕粉末を使用した場合の換算値である。
【0101】
図3に示すように、ビール粕粉末を、室温以上でアルカリ抽出することにより、HODE及びβ-グルカンを効率よく抽出することができた。HODEは、温度が高い程、抽出される量が増加したのに対し、β-グルカンは、室温におけるアルカリ抽出の場合が、60℃又は90℃の場合と比較して抽出される量が多かった。
【0102】
ビール粕粉末のアルカリ抽出を、MeOH、EtOH、2-PrOH又はBuOHの低級アルコールの存在下、0.3 Mの範囲の濃度のNaOH溶液中、60℃、60分間の条件下で実施した。ビール粕粉末のアルカリ抽出における低級アルコールと、抽出液に含まれる酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量との関係を図4に示す。図中、Aは、抽出液に含まれる酸化誘導体の量を、Bは、抽出液に含まれるフェルラ酸及びβ-グルカンの量を、それぞれ示す。図中の酸化誘導体、フェルラ酸及びβ-グルカンの量は、前記分析手段で決定した分析値に基づき算出した、1 gのビール粕粉末を使用した場合の換算値である。
【0103】
図4に示すように、ビール粕粉末を、MeOH、EtOH又は2-PrOHの存在下でアルカリ抽出することにより、HODE及びβ-グルカンを効率よく抽出することができた。これに対し、ビール粕粉末をBuOHの存在下でアルカリ抽出した場合、HODEは殆ど抽出されなかった。
【0104】
<実験II:沈殿条件の検討>
[II-1:方法]
乾燥ビール粕(300 g)を、ミキサーで粉砕して、ビール粕粉末を得た。反応容器に、100 gのビール粕粉末を入れ、1 Lの0.3又は1.0 M NaOH(50体積% EtOH含む)水溶液に懸濁させた。この混合物を、20分間超音波処理した。得られたビール粕粉末の懸濁液を、60℃、60分間の条件下でアルカリ処理してアルカリ抽出液を得た。得られたアルカリ抽出液を、8000 rpm、20分間の条件下で遠心分離した。上清を、別の容器に移した。沈殿に、500 mLの純水を加え、20分間超音波処理した。懸濁液を、8000 rpm、20分間の条件下で遠心分離した。上清を、先に回収した上清と合わせた。前記処理を2回繰り返し、沈殿を洗浄した。合わせた上清を、室温の条件下で、6 M塩酸でpH 2に調節した。酸性化した抽出液を、同じ温度条件下で1時間保持した後、8000 rpm、20分間の条件下で遠心分離して、酸性の上清画分、及び不溶画分の沈殿を得た。酸性の上清画分を、室温の条件下で、酢酸エチルで抽出して、酢酸エチル画分を得た。また、不溶画分の沈殿を、凍結乾燥した。酢酸エチル画分及び不溶画分に含まれるHODE、フェルラ酸及びβ-グルカンを、実験Iと同様の手順で分析した。酢酸エチル画分及び不溶画分に含まれるクマル酸は、実験Iに示すフェルラ酸の分析と同様の手順で分析した。クマル酸の分析値は、得られたHPLCクロマトグラムにおけるクマル酸のピーク高さから、フェルラ酸標品のピーク高さに基づく換算値として算出した。
【0105】
[II-2:結果]
凍結乾燥した不溶画分は、0.3又は1.0 M NaOHの条件下でアルカリ抽出した場合、それぞれ26.65 g又は38.52 gであった。0.3又は1.0 M NaOHの条件下でアルカリ抽出した場合における、酢酸エチル画分又は不溶画分に含まれる酸化誘導体、フェルラ酸、クマル酸及びβ-グルカンの量を図5に示す。図中、Aは、抽出液に含まれる酸化誘導体の量を、Bは、抽出液に含まれるフェルラ酸(左縦軸)、クマル酸(左縦軸)及びβ-グルカン(右縦軸)の量を、それぞれ示す。
【0106】
図5に示すように、HODE及びβ-グルカンは、不溶画分から得られたのに対し、酢酸エチル画分からは実質的に検出されなかった。フェルラ酸及びクマル酸は、酢酸エチル画分及び不溶画分のいずれからも得られた。本実験においては、アルカリ抽出を、50% EtOH存在下で実施したことから、フェルラ酸及びクマル酸の酢酸エチル画分への抽出効率が低下したと推測される。
【0107】
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5