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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】複合材料
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/19 20060101AFI20220720BHJP
   D06M 15/21 20060101ALI20220720BHJP
   D06M 15/667 20060101ALI20220720BHJP
   D06M 11/36 20060101ALI20220720BHJP
   D06M 11/58 20060101ALI20220720BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
D06M15/19
D06M15/21
D06M15/667
D06M11/36
D06M11/58
B32B27/12
【請求項の数】 35
(21)【出願番号】P 2019554031
(86)(22)【出願日】2017-12-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 GB2017053757
(87)【国際公開番号】W WO2018109486
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-12-07
(31)【優先権主張番号】1621494.2
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】519217010
【氏名又は名称】インペリアル カレッジ オブ サイエンス,テクノロジー アンド メディスン
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】デ ルカ,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】シェファー,ミロ セバスチャン ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ビスマルク,アレキサンダー
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0280031(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0006686(US,A1)
【文献】国際公開第2008/060592(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/148886(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/198657(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00-15/715
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維および被膜を含む被覆繊維であって、前記被膜がナノプレートレット(nanoplatelet)およびポリマーを含み、前記被膜が少なくとも2の二重層を有する層状構造を有し、
各二重層がナノプレートレット層およびポリマー層を有する、被覆繊維であって、
前記ナノプレートレットが、少なくとも5かつ最大45のアスペクト比を有し、
前記ナノプレートレットが、10nm~50nmの厚みを有し、または
前記ナノプレートレットが、Wp,max以下の平均幅を有し、この際、Wp,maxが式:
【数1】

式中、rはナノメートル単位の前記繊維径であり、Δdpolymerは前記ポリマー層の厚さの半分である、
に従って決定される、被覆繊維。
【請求項2】
前記ナノプレートレット層およびポリマー層が交互にあり、前記被膜が少なくとも10の二重層を有する、請求項1に記載の被覆繊維。
【請求項3】
前記ナノプレートレット層がナノプレートレット単層である、請求項1または2に記載の被覆繊維。
【請求項4】
前記被膜の前記ポリマーが高分子電解質である、請求項1~3のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項5】
前記高分子電解質が、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)、ポリ(リン酸)、ポリ(ビニルリン酸)、ポリ(ホスホン酸)、ポリ(ビニルホスホン酸)、またはそれらの組み合わせ等のポリアニオン性ポリマーである、請求項4に記載の被覆繊維。
【請求項6】
前記ポリアニオン性ポリマーが、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)である、請求項5に記載の被覆繊維。
【請求項7】
前記ナノプレートレットが、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、二酸化チタン(TiO)、炭化ケイ素(SiC)、炭素窒化物(C)、窒化ケイ素(Si)、グラフェン、金属炭化物、MXene、層状複水酸化物、またはそれらの組み合わせ等の無機材料を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項8】
前記ナノプレートレットが、一般式[MgAl(OH)]CO.yHOを有する層状複水酸化物を含む、請求項7に記載の被覆繊維。
【請求項9】
前駆体層をさらに有し、前記前駆体層が前記繊維と前記被膜との間に配置される、請求項1~8のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項10】
前記前駆体層がポリマーを含む、請求項9に記載の被覆繊維。
【請求項11】
前記ポリマーが高分子電解質を含む、請求項10に記載の被覆繊維。
【請求項12】
前記ポリマーが、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDDA)を含む、請求項11に記載の被覆繊維。
【請求項13】
前記ナノプレートレットが、Wp,max以下の平均幅を有し、この際、Wp,maxが式:
【数2】

式中、rはナノメートル単位の前記繊維径であり、Δdpolymerは前記ポリマー層の厚さの半分である、
に従って決定される、請求項1~12のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項14】
【数3】

である、請求項13に記載の被覆繊維。
【請求項15】
前記繊維が、5μm~20μm、5μm~15μmまたは5μm~10μmの範囲の直径を有する、請求項13または14に記載の被覆繊維。
【請求項16】
前記ナノプレートレットが、少なくとも5かつ最大45のアスペクト比を有する、請求項1~15のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項17】
前記ナノプレートレットが、7~12のアスペクト比を有する、請求項16に記載の被覆繊維。
【請求項18】
前記アスペクト比が以下:
【数4】

式中、σおよびτは、それぞれ、前記プレートレット引張応力および界面降伏剪断強度である、
に記載される臨界値sより低い、請求項1~17のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項19】
前記ナノプレートレットが、100nm~500nmの平均幅、および10nm~30nmの平均厚みを有する、請求項1~18のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項20】
前記ナノプレートレットが、40%未満、38%未満、36%未満、35%未満、34%未満、32%未満、30%未満の標準偏差を有する幅サイズ分布、および/または20%未満、18%未満、16%未満、15%未満の標準偏差を有する厚みサイズ分布を有する、請求項1~19のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項21】
前記ナノプレートレットが、10nm~50nm、15nm~40nm、または20nm~30nmの厚み、および/または20nm~500nm、40nm~400nm、50nm~300nm、100nm~200nm、100nm~150nm、115nm~145nmの平均横幅を有する、請求項1~20のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項22】
前記繊維が5μm~10μmの直径を有し、前記ナノプレートレットが200nm以下の平均幅および7~12のアスペクト比を有する、請求項1~21のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項23】
ポリマーに対するナノプレートレットの体積比が80:20~95:5であ、請求項1~22のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項24】
前記被膜が80:20~95:5の高分子電解質に対するナノプレートレットの体積比、8~10のナノプレートレットアスペクト比を有し、ならびに前記ナノプレートレットが40%未満の標準偏差を有する前記ナノプレートレットの幅サイズ分布を有していてもよい、請求項1~23のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項25】
前記繊維が、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリオキサゾール繊維、ベクトラン繊維、バサルト繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、圧電繊維、光ファイバーまたはセラミックファイバーである、請求項1~24のいずれか1項に記載の被覆繊維。
【請求項26】
請求項1~24のいずれか1項に記載の複数の被覆繊維およびマトリックスを含む、複合材料。
【請求項27】
(a)繊維を提供することと、
(b)ナノプレートレットおよびポリマーを含む被膜で前記繊維を被覆することと、
を含み、
前記繊維が少なくとも2の二重層で被覆され、各二重層がナノプレートレットの層とポリマーの層とを有する、請求項1~25のいずれか1項に記載の被覆繊維を作製する方法。
【請求項28】
工程(b)において、複数の交互のポリマー層およびナノプレートレット層が成膜されて少なくとも10の二重層を形成する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記層の前記成膜が交互積層(layer-by-layer assembly)によって行われる、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記方法が、複数の繊維に対して交互積層を行うことを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記方法が繊維ラインに対して連続的に行われる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記繊維を被覆する前に前記繊維を前処理することをさらに有する、請求項27~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前処理が、
(a)前記繊維を糊抜きすること、
(b)酸化剤により前記繊維を処理すること、
(c)ポリマーで前記繊維を被覆して前駆体層を形成すること、および/または
(d)前記繊維を共有結合官能化剤(covalent functionalising agent)で処理することを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
マトリックス内に請求項1~25のいずれか1項に記載の複数の被覆繊維を埋め込むことを有する、複合材料を作製する方法。
【請求項35】
構造材料としての請求項1~26のいずれか1項に記載の被覆繊維または複合材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、複合材料の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
構造繊維で補強されたポリマーを含む複合材料は、それらの優れた機械特性、熱特性、軽量、低コストおよび耐食性のため、広く使用されている。繊維とマトリックスとの間の界面接着は、効率的な応力伝達を確実にするのに不可欠である。繊維/マトリックス相互作用に対する種々の機構、すなわち濡れ、相互拡散、静電引力、化学結合、および機械的接着が、複合材料で生じ得る。多くの利点にもかかわらず、それらがほとんど何の前触れもなく突発的に破損する傾向があるため、複合材料の使用はしばしば制限されている。荷重の下では、強化用繊維は、繊維強度および局所的な荷重分布の確率論的な分布のため、断片化し始める。しかしながら、破壊された繊維形態のクラスターとして、隣接する繊維中の高応力集中は、欠陥を局在化させ、複合材料全体の突発的な破損を誘発する。繊維とマトリックスとの間の界面を弱めることは、繊維層間剥離(亀裂偏向)および後のプルアウトによる靭性の増加をもたらすが、複合体の機械的特性を著しく減少させる。たとえ複合材料において多くの異なる強靭化の原因があるとしても、靭性の主な原因は繊維プルアウトから生じる。
【0003】
したがって、例えば、繊維マトリックス相互作用が新たな方法で制御されて、強度および靭性を最大限にし、突発的ではなく段階的な破損を可能とする、改善された繊維強化複合材料に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0004】
繊維は交互のナノプレートレット層およびポリマー層を含むナノ構造の被膜を有してもよいことが特定され、ナノプレートレット層は体系化された構造を有してもよく、ナノプレートレットおよびより柔らかいポリマーのかかる層は、改善された特性を有する被膜を与える。かかる被覆繊維および重合体マトリックス等のマトリックスを含む複合材料は、高められた複合材料の強靭さおよび強度を有する。したがって、本発明は、本明細書に記載されるナノ構造被膜で被覆された繊維を提供する。
【0005】
第1の態様では、本発明は、繊維および被膜を含む被覆繊維を提供し、該被膜はナノプレートレットとポリマーとを含み、該被膜は少なくとも2の二重層を有する層状構造を有し、各二重層はナノプレートレット層とポリマー層とを有する。二重層は、被膜において、ナノプレートレット層およびポリマー層が交互となるように構築される。したがって、被膜は、複数の交互のナノプレートレット層およびポリマー層を有する。
【0006】
被膜は少なくとも10の二重層を含み得る。幾つかの実施の形態では、被膜は少なくとも20の二重層を含む。被膜は、10~100の二重層、10~80の二重層または10~60の二重層を含み得る。二重層の数は、約2~約100、約5~約75、約10~約50の二重層、または約12~約25の二重層であってもよい。
【0007】
ナノプレートレット層は、ナノプレートレット単層であってもよい。
【0008】
本発明の被覆繊維において、繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリオキサゾール繊維、ベクトラン繊維、バサルト繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、圧電繊維、光ファイバーまたはセラミックファイバー、好ましくはガラス繊維または炭素繊維であってもよい。
【0009】
被膜のポリマーは、高分子電解質であってもよい。高分子電解質は、ポリカチオン性ポリマーまたはポリアニオン性ポリマーであってもよい。例えば、高分子電解質は、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)、ポリ(リン酸)、ポリ(ビニルリン酸)、ポリ(ホスホン酸)、ポリ(ビニルホスホン酸)、またはそれらの組み合わせ等のポリアニオン性ポリマーであってもよい。幾つかの実施の形態では、ポリアニオン性ポリマーはポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)である。
【0010】
ナノプレートレットは無機材料を含んでもよい。これにより、ナノプレートレットが強固となり、補強層を形成することができる。この無機材料は、無機セラミックであってもよい。無機材料は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、二酸化チタン(TiO)、炭化ケイ素(SiC)、炭素窒化物(C)、窒化ケイ素(Si)、グラフェン、金属炭化物、MXene、層状複水酸化物またはそれらの組み合わせを含み得る。好ましくは、ナノプレートレットは、層状複水酸化物(LDH)、好ましくは一般式[MgAl(OH)]CO.yHOを有する層状複水酸化物を含む。
【0011】
本発明の被覆繊維は前駆体層をさらに有してもよく、該前駆体層は繊維と被膜との間に配置される。前駆体層は、ポリマー、好ましくは本明細書に記載される高分子電解質を含む。好ましくは、前駆体層のポリマーの同一性は被膜のポリマーの同一性と異なる。好ましくは、前駆体層はポリカチオン性ポリマーを含む。好ましくは、前駆体層はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDDA)を含む。
【0012】
ナノプレートレットは、Wp,max以下の平均幅を有してもよく、この際、Wp,maxは、式:
【0013】
【数1】
【0014】
に従って決定され、式中、Wp,maxは最大プレートレット幅、Δdpolymer、ポリマー層の厚みの変動であり、ポリマー層の厚みの半分であってもよく、rはナノメートル単位の繊維径である。繊維径は、好ましくは5μm~20μm、5μm~15μmまたは5μm~10μmの範囲であってもよい。
【0015】
幾つかの実施の形態では、Wp,maxは、式:
【0016】
【数2】
【0017】
に従って決定され、式中、Wp,maxは、最大プレートレット幅であり、rはナノメートル単位の繊維径である。
【0018】
本発明のナノプレートレットは、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約7、少なくとも約8、少なくとも約9のアスペクト比を有し得る。アスペクト比は、最大で約45、約40、約35、約30、約25、約20、約15、約14、13、約12または約11であってもよい。アスペクト比は、約7~約12、好ましくは約8~約11、例えば約10であってもよい。
【0019】
アスペクト比は、好ましくはできる限り大きくてもよいが、それでも以下:
【0020】
【数3】
【0021】
式中、σおよびτは、それぞれ、プレートレット引張応力および界面降伏剪断強度である、
に記載される臨界値sより低くてもよい。典型的なプレートレットについて、好適で重大なアスペクト比は約10であってもよく、少なくとも100nm~200nmの最適プレートレット幅を意味する。
【0022】
本明細書に記載されるナノプレートレットは、約100nm~約500nmの平均(算術平均)最大寸法(横幅)、および約10nm~約30nmの平均厚みを有し得る。
【0023】
ナノプレートレットは、それらの横幅および/または厚みに狭いサイズ分布を有し得る。狭いとは、ナノプレートレットのサイズの標準偏差が40%未満であることを意味する。ナノプレートレットは、40%未満の標準偏差を有する横幅サイズ分布を有し得る。好ましくは、ナノプレートレットは、38%未満、36%未満、35%未満、34%未満、32%未満、30%未満の標準偏差を有する横幅サイズ分布を有し得る。ナノプレートレットは、20%未満の標準偏差を有する厚みサイズ分布を有し得る。好ましくは、ナノプレートレットは18%未満、16%未満、15%未満の標準偏差を有する厚みサイズ分布を有し得る。
【0024】
幾つかの実施の形態では、ナノプレートレットは、約10nm~約50nm、約15nm~約40nm、または約20nm~約30nmの厚みを有してもよい。好ましくは、ナノプレートレットの厚みは約20nmであってもよい。
【0025】
ナノプレートレットは、約20nm~約500nm、約40nm~約400nm、約50nm~約300nm、約100nm~約200nm、約100nm~約150nm、約115nm~約145nmの横幅を有し得る。好ましくは、ナノプレートレットは、約130nm~約145nmの平均横幅を有し得る。
【0026】
被覆繊維は、例えば、5μm~10μmの直径を有する繊維、200nm以下の平均幅を有するナノプレートレットを含み得る。ナノプレートレットは、例えば、7~12のアスペクト比を有し得る。
【0027】
ナノプレートレット層の厚みは、ポリマー層の厚みの少なくとも約5倍、最大で約20倍であってもよい。ナノプレートレット層の厚みは、ポリマー層の厚みの少なくとも約8倍、最大で約12倍、例えば約10倍であってもよい。
【0028】
ポリマーに対するナノプレートレットの体積比は、少なくとも約70:30、少なくとも約80:20、少なくとも約85:15、または少なくとも約90:10であってもよい。ポリマーに対するナノプレートレットの体積比は、最大約98:2、最大約96:4、最大約95:5、または最大約92:8であってもよい。例えば、体積比は、約70:30~約98:2、約80:20~約95:5、約85:15~約95:5、または約88:12~約92:8であってもよい。好ましくは、体積比は約90:10である。
【0029】
被膜は、少なくとも約80:20の高分子電解質に対するナノプレートレットの体積比、少なくとも約8のナノプレートレットアスペクト比を備えてもよく、また、ナノプレートレットの横幅は約10%未満の標準偏差を有する横幅サイズ分布を有し得る。好ましくは、被膜は、80:20~約95:5(例えば約90:10)の高分子電解質に対するナノプレートレットの体積比、8~10(例えば約10)のナノプレートレットアスペクト比を備え、ナノプレートレットは約5%未満の標準偏差を有するナノプレートレットの幅のサイズ分布を有し得る。
【0030】
第2の態様では、本発明は、本発明に係る複数の被覆繊維およびマトリックスを含む複合材料を提供し、例えば、該マトリックスはエポキシ樹脂を含む。
【0031】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様に係る被覆繊維を作製する方法を提供し、該方法は、
(a)繊維を提供することと、
(b)ナノプレートレットおよびポリマーを含む被膜で繊維を被覆することと、を有し、
該繊維は少なくとも2の二重層で被覆され、各二重層は、ナノプレートレットの層およびポリマーの層を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】PDDA/(PSS/LDH)75被覆ガラス繊維およびLDH/(PSS/LDH)75被覆ガラススライドのナノインデンテーション荷重変位曲線を示す。
図2A】PDDA/(PSS/LDH)ナノ構造被膜(A)で被覆されたガラス繊維の単一の被覆繊維プルアウト形状の概要を示す。異なる系(それぞれBおよびC)のIFSSおよび剥離延伸長さ。
図2B】PDDA/(PSS/LDH)ナノ構造被膜(A)で被覆されたガラス繊維の単一の被覆繊維プルアウト形状の概要を示す。異なる系(それぞれBおよびC)のIFSSおよび剥離延伸長さ。
図2C】PDDA/(PSS/LDH)ナノ構造被膜(A)で被覆されたガラス繊維の単一の被覆繊維プルアウト形状の概要を示す。異なる系(それぞれBおよびC)のIFSSおよび剥離延伸長さ。
図3A】界面層の種類の関数としてエポキシに埋め込まれたガラス繊維のプルアウト靭性を示す。全ての系の荷重変位プルアウト曲線(A)。全体的なプルアウト靭性(B)、剥離靭性(B)および引抜靭性(D)。
図3B】界面層の種類の関数としてエポキシに埋め込まれたガラス繊維のプルアウト靭性を示す。全ての系の荷重変位プルアウト曲線(A)。全体的なプルアウト靭性(B)、剥離靭性(B)および引抜靭性(D)。
図3C】界面層の種類の関数としてエポキシに埋め込まれたガラス繊維のプルアウト靭性を示す。全ての系の荷重変位プルアウト曲線(A)。全体的なプルアウト靭性(B)、剥離靭性(B)および引抜靭性(D)。
図3D】界面層の種類の関数としてエポキシに埋め込まれたガラス繊維のプルアウト靭性を示す。全ての系の荷重変位プルアウト曲線(A)。全体的なプルアウト靭性(B)、剥離靭性(B)および引抜靭性(D)。
図4A】単一のガラス繊維における繊維フラグメント近くの応力分布、およびフラグメント長さ分布に対する界面の効果を示す。ベアガラス繊維およびPDDA/(PSS/LDH)25被覆されたガラス繊維に対するヒストグラム(A)および累積的な(B)フラグメント長さ分布。
図4B】単一のガラス繊維における繊維フラグメント近傍の応力分布、およびフラグメント長さ分布に対する界面の効果を示す。ベアガラス繊維およびPDDA/(PSS/LDH)25被覆されたガラス繊維に対するヒストグラム(A)および累積的な(B)フラグメント長さ分布。
図5A】PDDA/(PSS/LDH)で被覆された糊抜きされていない炭素繊維のプルアウト試験を示す。プルアウト試験(A)の荷重変位曲線およびマトリックス中の繊維が埋め込まれた面積の関数としてプロットされる、繊維に印加された関連する最大力(B)。界面剪断強度と剥離長さの比を、被膜厚みの関数(それぞれCおよびD)として測定した。
図5B】PDDA/(PSS/LDH)で被覆された糊抜きされていない炭素繊維のプルアウト試験を示す。プルアウト試験(A)の荷重変位曲線およびマトリックス中の繊維が埋め込まれた面積の関数としてプロットされる、繊維に印加された関連する最大力(B)。界面剪断強度と剥離長さの比を、被膜厚みの関数(それぞれCおよびD)として測定した。
図5C】PDDA/(PSS/LDH)で被覆された糊抜きされていない炭素繊維のプルアウト試験を示す。プルアウト試験(A)の荷重変位曲線およびマトリックス中の繊維が埋め込まれた面積の関数としてプロットされる、繊維に印加された関連する最大力(B)。界面剪断強度と剥離長さの比を、被膜厚みの関数(それぞれCおよびD)として測定した。
図5D】PDDA/(PSS/LDH)で被覆された糊抜きされていない炭素繊維のプルアウト試験を示す。プルアウト試験(A)の荷重変位曲線およびマトリックス中の繊維が埋め込まれた面積の関数としてプロットされる、繊維に印加された関連する最大力(B)。界面剪断強度と剥離長さの比を、被膜厚みの関数(それぞれCおよびD)として測定した。
図6】プラズマ処理された糊抜きされていない炭素繊維の表面電荷を示す。pH3~pH11の5mM KCl中における未処理のおよび処理された繊維のゼータ電位曲線。
図7】酸化した炭素繊維の界面化学の調査を示す。受け取り時の、5分間のプラズマ処理された、および5分間のプラズマ処理の後KMnOに浸漬された炭素繊維のXPSスペクトル。
図8A】酸素および炭素のXPSピークの調査を示す。受け取り時の(それぞれAおよびD)、プラズマ処理された(それぞれBおよびE)、およびプラズマ処理後KMnOの浸漬(それぞれCおよびD)の酸素および炭素のピーク。
図8B】酸素および炭素のXPSピークの調査を示す。受け取り時の(それぞれAおよびD)、プラズマ処理された(それぞれBおよびE)、およびプラズマ処理後KMnOの浸漬(それぞれCおよびD)の酸素および炭素のピーク。
図8C】酸素および炭素のXPSピークの調査を示す。受け取り時の(それぞれAおよびD)、プラズマ処理された(それぞれBおよびE)、およびプラズマ処理後KMnOの浸漬(それぞれCおよびD)の酸素および炭素のピーク。
図8D】酸素および炭素のXPSピークの調査を示す。受け取り時の(それぞれAおよびD)、プラズマ処理された(それぞれBおよびE)、およびプラズマ処理後KMnOの浸漬(それぞれCおよびD)の酸素および炭素のピーク。
図8E】酸素および炭素のXPSピークの調査を示す。受け取り時の(それぞれAおよびD)、プラズマ処理された(それぞれBおよびE)、およびプラズマ処理後KMnOの浸漬(それぞれCおよびD)の酸素および炭素のピーク。
図8F】酸素および炭素のXPSピークの調査を示す。受け取り時の(それぞれAおよびD)、プラズマ処理された(それぞれBおよびE)、およびプラズマ処理後KMnOの浸漬(それぞれCおよびD)の酸素および炭素のピーク。
図9】プラズマ表面炭素繊維の表面電荷に対するKMnO中での酸化の効果を示す。pH3~pH11のKMnOに浸漬する前と後のプラズマ処理炭素のゼータ電位曲線。
図10A】PDDA/(PSS/LDH)で被覆された、修飾された糊抜きされていない炭素繊維のプルアウト試験を示す。プルアウト試験(A)の荷重変位曲線およびマトリックス中の繊維が埋め込まれた面積の関数としてプロットされる、繊維に印加された関連する最大力(B)。界面剪断強度と剥離長さの比を、被膜厚みの関数(それぞれCおよびD)として測定した。
図10B】PDDA/(PSS/LDH)で被覆された、修飾された糊抜きされていない炭素繊維のプルアウト試験を示す。プルアウト試験(A)の荷重変位曲線およびマトリックス中の繊維が埋め込まれた面積の関数としてプロットされる、繊維に印加された関連する最大力(B)。界面剪断強度と剥離長さの比を、被膜厚みの関数(それぞれCおよびD)として測定した。
図10C】PDDA/(PSS/LDH)で被覆された、修飾された糊抜きされていない炭素繊維のプルアウト試験を示す。プルアウト試験(A)の荷重変位曲線およびマトリックス中の繊維が埋め込まれた面積の関数としてプロットされる、繊維に印加された関連する最大力(B)。界面剪断強度と剥離長さの比を、被膜厚みの関数(それぞれCおよびD)として測定した。
図10D】PDDA/(PSS/LDH)で被覆された、修飾された糊抜きされていない炭素繊維のプルアウト試験を示す。プルアウト試験(A)の荷重変位曲線およびマトリックス中の繊維が埋め込まれた面積の関数としてプロットされる、繊維に印加された関連する最大力(B)。界面剪断強度と剥離長さの比を、被膜厚みの関数(それぞれCおよびD)として測定した。
図11A】表面酸化炭素繊維複合体における繊維フラグメント近傍の応力分布、および繊維フラグメント長さ分布に対する界面の効果を示す。ベア炭素繊維およびPDDA/(PSS/LDH)25被覆表面酸化炭素繊維に対する、ヒストグラム(A)および累積的な(B)フラグメント長さ分布。
図11B】表面酸化炭素繊維複合体における繊維フラグメント近傍の応力分布、および繊維フラグメント長さ分布に対する界面の効果を示す。ベア炭素繊維およびPDDA/(PSS/LDH)25被覆表面酸化炭素繊維に対する、ヒストグラム(A)および累積的な(B)フラグメント長さ分布。
図12】ポリマー層上に成膜したプレートレットの数の関数として繊維の周縁上のプレートレットの配置の実例を示す。
図13A】繊維径と最大プレートレット幅との関係に対する分析的アプローチを示す。90:10の相割合の制約で、様々なアスペクト比に対する式(3)(A)から得られるWp,max=f(r)、および固定アスペクト比10(B)において式(5)から得られるWp,max=f(r)。
図13B】繊維径と最大プレートレット幅との関係に対する分析的アプローチを示す。90:10の相割合の制約で、様々なアスペクト比に対する式(3)(A)から得られるWp,max=f(r)、および固定アスペクト比10(B)において式(5)から得られるWp,max=f(r)。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、被覆繊維およびマトリックスを含み、該被覆繊維が、繊維と、ナノプレートレットおよびポリマーの交互の層を有する被膜とを含む複合材料が、靭性および強度が高められた複合材料を提供するという認識に基づく。
【0034】
本発明による被覆繊維は、繊維および被膜を含み、該被膜はナノプレートレットおよびポリマーを含み、該被膜は少なくとも2の二重層を有する層状構造を有し、各二重層がナノプレートレット層およびポリマー層を有する。二重層は、被膜において、ナノプレートレット層およびポリマー層が交互になるように構築される。二重層内のポリマー層は本質的にポリマーからなってもよく、ナノプレートレット層はナノプレートレットを含み、該ナノプレートレット間に点在するポリマーも含んでもよいことが十分理解される。また、被膜も、ナノ構造被膜として本明細書において知られている。被膜は、本質的にナノプレートレットとポリマーとからなってもよい。
【0035】
被膜は複数の二重層を含み、結果的には、複数の交互のナノプレートレット層およびポリマー層を含む。複数の二重層は、被覆繊維および複合材料の機械特性の改善をもたらす。
【0036】
ナノプレートレットは、表面電荷を有し得る。これにより、ナノプレートレットが被膜中で相補的に帯電したポリマーと集合することができる。ナノプレートレットは、プラスの表面電荷を有し得る。ナノプレートレットは、マイナスの表面電荷を有し得る。
【0037】
ナノプレートレットは無機材料を含んでもよい。これにより、ナノプレートレットが強固となり、補強層を形成することができる。この無機材料は、無機セラミックであってもよい。無機材料は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)、二酸化ケイ素(SiO)、ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、二酸化チタン(TiO)、炭化ケイ素(SiC)、炭素窒化物(C)、窒化ケイ素(Si)、グラフェン、金属炭化物、MXene、層状複水酸化物またはそれらの組み合わせを含み得る。好ましくは、ナノプレートレットは、層状複水酸化物、好ましくは一般式[MgAl(OH)]CO.yHOを有する層状複水酸化物を含む。
【0038】
層状複水酸化物(LDH)は、金属陽イオン、水酸化物陰イオン(OH)の層、および他の陰イオンおよび水等の中性分子の層を有する層状構造を特徴とするイオン性固体である。LDHは、[AcANAcA]によって表される包括的な層状構造を含んでもよく、式中、cはそれぞれ金属陽イオン層を表し、Aはそれぞれ水酸化物陰イオン層を表し、Nは他の陰イオンおよび水等の中性分子の層を表す。好ましくは、本明細書で言及される層状複水酸化物は、一般式[M2+ 1-x3+ (OH](An- x/nyHO)によって表されてもよく、式中、M2+は二価金属陽イオンを表し、M3+は三価金属陽イオンを表し、An-はn価の陰イオンを表し、nは1以上の整数であり、xは全金属イオン含有量に対する三価金属の割合(および、例えば、0.1~0.4の値であってもよい)を表し、yは可変量の水を意味することから、0以上の値を表す。M2+は、例えば、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pd、TiまたはZnの二価の陽イオンであってもよい。M3+は、例えば、Al、Mn、Fe、Ga、Rh、Ru、Cr、V、In、Y、Gd、NiまたはLaの三価の陽イオンであってもよい。An-は、例えば、CO 2-、ハロゲン化物、ケイ酸塩、Cl、Br、NO 、SO 2-、S2-、[Sb(OH)、SeO 2-、芳香族カルボキシレート、脂肪族カルボキシレートまたはアルカンスルフォネートであってもよい。好ましくは、好ましくは、LDHは一般式[MgAl(OH)]CO.yHOである。
【0039】
MXenesは、例えば水酸化物、酸化物の終端面を有する、金属炭化物材料、例えばM’M’’CまたはM’M’’の層を有する無機材料である。M’およびM’’は、2つの異なる遷移金属、好ましくは第4~6族の遷移金属を表す。
【0040】
本明細書で引用されるナノプレートレットは、少なくとも1つの寸法が100nm以下のプレートレットである。ナノプレートレットは、厚みよりも横に広い、異方性の形状である。「ナノプレートレット」という用語は、100nm以下の平均(算術平均)最小寸法を有する複数のプレートレットを指す。したがって、ナノプレートレットは、100nm以下の平均厚みがあってもよい。例えば、本明細書に記載されるナノプレートレットは、約100nm~約500nmの平均(算術平均)最大寸法(横幅)、および約10nm~約30nmの平均厚みを有してもよい。ナノプレートレットの寸法は、好ましくは200以上のプレートレット試料に対して行われる透過型電子顕微鏡(TEM)によって決定され得る。ナノプレートレットは結晶であってもよい。
【0041】
ポリマーは高分子電解質であってもよい。高分子電解質は、イオン化可能な基またはイオン性基を含む繰り返し単位を特徴とするポリマーである。これらのイオン化可能な基またはイオン性基は静電相互作用が可能であってもよい。
【0042】
好適な高分子電解質として、ポリアニオン性ポリマーが挙げられる。かかるポリアニオン性ポリマーとして、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)、ポリ(リン酸)、ポリ(ビニルリン酸)、ポリ(ホスホン酸)、ポリジメチルシロキサン、およびポリ(ビニルホスホン酸)が挙げられる。好ましくは、高分子電解質はポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)である。
【0043】
好適な高分子電解質は、ポリカチオン性ポリマーを含む。かかるポリカチオン性ポリマーとして、ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アリルアミンヒドロクロリド)、ポリビニルアミン、ポリアミドアミン、ポリ(ビニルベンジルトリメチルアミン)、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリレート)およびポリ(メタクリロイルアミノ)プロピル-トリメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0044】
ポリマー層は、例えば、約1nm~約6nm、約1nm~約5nm、約1nm~約3nm、または約1nm~約2nmの厚みを有してもよい。好ましくは、ポリマー層は約2nmの厚みを有してもよい。ポリマー層の厚みは、被膜を形成するために使用されるポリマーの分子量を変えることにより調整され得る。
【0045】
ポリマーの分子量(Mw)は、別段の指示がない限り、重量平均分子量として表される。上に言及されるポリマーのいずれかは、例えば、50,000~200,000のMwを有し得る。
【0046】
被覆繊維は前駆体層をさらに含んでもよく、該前駆体層は繊維と被膜との間に配置される。前駆体層は、好ましくはポリマー層であり、被膜のポリマー成分について上記されるポリマーから形成され得る。前駆体層のポリマーの同一性は、被膜のポリマーの同一性と異なってもよい。前駆体層の追加により、ベア繊維に対する被膜の接着の改善を可能となり、ゆえにより高い界面機械的荷重が可能となる。好ましくは、前駆体層はポリカチオン性ポリマーを含む。好ましくは、前駆体層はポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDDA)を含む。
【0047】
好ましくは、被膜のポリマー、ナノプレートレットおよび前駆体層のポリマーは、存在する場合には、全て帯電させてもよい。繊維を帯電させてもよい。ナノプレートレットは、被膜のポリマーに対して逆に帯電されてもよい。例えば、ナノプレートレットがマイナスに帯電される場合、被膜のポリマーはプラスに帯電されてもよい。ナノプレートレットがプラスに帯電される場合、被膜のポリマーはマイナスに帯電されてもよい。好ましくは、前駆体層は、繊維およびナノプレートレットが逆に帯電される場合に使用され得る。例えば、繊維がマイナスに帯電される場合、その後、マイナスに帯電したポリマー層およびプラスに帯電したナノプレートレット層によって覆われる、プラスに帯電した前駆体層を使用してもよい。例えば、被膜および前駆体層のポリマーがいずれも高分子電解質である場合、一方はポリカチオン性ポリマーであってもよく、もう一方はポリアニオン性ポリマーであってもよい。繊維およびナノプレートレットが同じ電荷を有する場合、被膜のポリマーは逆に帯電され、前駆体層は必要ではない場合がある。
【0048】
幾つかの実施形態では、繊維に隣接している層は前駆体または二重層のポリマー層のいずれかである。
【0049】
ナノプレートレットの幅(横幅とも称される)は、ナノプレートレットの最大寸法である。例えば、環状ナノプレートレットについて、幅は円の直径と同等であってもよい。六角形のナノプレートレットについて、幅は最大対角線と同等であってもよい。ナノプレートレットの平均幅(算術平均)および幅分布は、TEMを使用して測定され得る。TEM像は、例えばImageJ(ソフトウェア)を使用して分析され得る。200個以上のナノプレートレット試料の幅は、算術平均および標準偏差の値として表される結果を伴って測定され得る。
【0050】
また、ナノプレートレットの平均厚みも、平均厚み(算術平均)を与えるため上に示されるナノプレートレット試料のエッジオン(edge-on)TEM像を使用して、TEMによって決定され得る。また、原子間力顕微鏡(AFM)およびX線回折(XRD)の技術も、ナノプレートレットの厚さを測定するために使用され得る。例えば、一般式[MgAl(OH)]CO.yHOを有するLDHナノプレートレットについて、ナノプレートレットの厚さをTEMを使用して測定し、そして、シェラーの式:
【0051】
【数4】
【0052】
式中、Lは厚みであり、λは放射線の波長(0.15418nm)であり、θは(003)結晶学的場所のブラッグ回折角度であり、βは、(003)回析ピークの半値全幅である、
を使用するXRDによっても確認した。
【0053】
ナノプレートレットは、それらの横幅および/または厚みに狭いサイズ分布を有し得る。狭いとは、ナノプレートレットのサイズの標準偏差が40%未満であることを意味する。ナノプレートレットは、40%未満、38%未満、36%未満、35%未満の標準偏差を有する横幅サイズ分布を有し得る。好ましくは、ナノプレートレットは、34%未満、32%未満、30%未満の標準偏差を有する横幅サイズ分布を有し得る。ナノプレートレットは20%未満、18%未満、16%未満の標準偏差を有する厚みサイズ分布を有してもよい。好ましくは、ナノプレートレットは15%未満の標準偏差を有する厚みサイズ分布を有してもよい。ナノプレートレットの横幅および厚みのサイズ分布は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)によって、また画像分析ソフトウェアを使用して決定され得る。
【0054】
被膜は、好ましくは、繊維の表面と共形(conformal)であるべきである。繊維上の共形被膜の製造は、特性を最適化し、繊維に関してナノプレートレットの適切な糊付けを確実にすることによって達成され得る。特に、ナノプレートレットは、好ましくは、繊維径に基づいて決定され得る、最大プレートレット幅においてまたはその幅を下回る平均幅を有する。
【0055】
繊維径に応じて、繊維の周縁の周りに接線方向に成膜したプレートレットの最小数を推定することができ、その後、最大プレートレット幅と関連付けることができる。繊維の周縁のプレートレットの数の関数として繊維上の接線方向に成膜したプレートレットの偏差に基づく分析的アプローチを使用して、最大プレートレット幅を推定することができる(図12)。以下の通り、繊維表面からのプレートレットの偏差を表すことができる。
【0056】
【数5】
【0057】
式中、lおよびrは、それぞれ、ナノメートル単位の逸脱した長さおよび繊維半径である。逸脱した長さは、以下に記載の通り、プレートレットの数nの関数として表すことができる。
【0058】
【数6】
【0059】
多数のプレートレットについて、繊維の周囲長は、全てのプレートレットの幅の合計に対して推定され、下記式が導かれる。この際、wがプレートレット幅に対応する。
【0060】
【数7】
【0061】
ポリマー前駆体層の上の共形被膜成膜をもたらす最大プレートレット幅は、ポリマー層の厚みの変動:
【0062】
【数8】
【0063】
式中、Wp,maxおよびΔdpolymerは、それぞれ最大のプレートレット幅およびポリマー層の厚みの変動である(d=Δdpolymer)、
と同様に、ポリマー層の厚みの半分のプレートレット偏差(Δdpolymer)と関連付けられ得る。
【0064】
したがって、好ましくは、ナノプレートレットは、上に記載されるように繊維径に基づいて決定されるW以下の平均幅を有する。例えば、188nmおよび167nmの最大プレートレット幅は、それぞれ9μmおよび7μmの直径を有する計算される繊維であった。かかる実施形態では、繊維は、好ましくは5μm~20μm、5μm~15μmまたは5μm~10μmの範囲の直径であってもよい。
【0065】
また、最小のプレートレットサイズを考慮することは有用である。例として、1~2nmの範囲のポリマー層の厚み、および約90:10の構造の各二重層中の無機:有機の体積比は、約10nm~20nm(またはそれ以上)のプレートレット厚みを示唆する。
【0066】
より詳しくは、例えば、プレートレット厚みよりも9倍薄いポリマー層厚みを示唆する、各二重層における無機:有機体積比がおよそ90:10(90体積%のプレートレット)と仮定すると(2つの隣接したプレートレット間に存在するより少ない量のポリマーは、2層間に含まれるものと比較して無視される)、ポリマー層(dpolymer)および半ポリマー層(最大許容偏差、Δdpolymer)の厚みを、以下の通り表すことができる。
【0067】
【数9】
【0068】
Δdpolymerに対するこれらの値を使用して、最大プレートレット幅に対する表現が得られる。
【0069】
【数10】
【0070】
最小プレートレット幅、wp,minは、以下の通り、最小ポリマー層厚みdpolymer,min、約1.5nm(分子次元)によって定義され得る。
【0071】
【数11】
【0072】
一方、例えば、最大プレートレット幅は、1.5nm厚のポリマー層による分子的に制限された自己組織化(self-assembly)プロセス(高分子電解質の交互積層(Layer-by-Layer assembly)等)を使用する場合、以下の通り決定され得る。
【0073】
【数12】
【0074】
本明細書において使用されるアスペクト比は、ナノプレートレットの厚みに対するナノプレートレットの横幅の比である。本発明のナノプレートレットは、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約7、少なくとも約8、少なくとも約9のアスペクト比を有し得る。アスペクト比は、最大で約45、約40、約35、約30、約25、約20、約15、約14、約13、約12または11であってもよい。アスペクト比は、約7~約12、好ましくは約8~約11、例えば約10であってもよい。
【0075】
プレートレットのアスペクト比は、臨界アスペクト比によって定義され得る。これは、破砕ではなくプルアウトを可能とする。アスペクト比は、好ましくは、できるだけ大きいが、それでも以下:
【0076】
【数13】
【0077】
式中、σおよびτは、それぞれ、プレートレットの引張強さおよび界面降伏剪断強度である、
に記載される臨界値sよりも低いべきである。ナノプレートレットの引張強さは、可能性としては、AFM、in situ TEM変形実験および/またはラマン染色実験を使用して測定され得る。代替的には、それらは理想化された巨視的特性または計算に基づいて推定され得る。アスペクト比は、樹脂に埋め込まれたナノプレートレットを含む被覆繊維の破断表面のプルアウト強さの観察により評価されてもよい。最大観察長さは、臨界長さの半分である。次いで、臨界アスペクト比が決定され得る。典型的なプレートレットについて、好適で重要なアスペクト比は約10であってもよく、少なくとも100nm~200nmの最適プレートレット幅を意味する。
【0078】
上記の式および引数は、所与の繊維およびナノプレートレット系に対する構造の形状を最適化するための合理的な根拠を提供する。
【0079】
幾つかの実施形態では、ナノプレートレットは、約10nm~約50nm、約15nm~約40nm、または約20nm~約30nmの平均厚み(算術平均)を有してもよい。好ましくは、ナノプレートレットの厚みは約20nmであってもよい。
【0080】
ナノプレートレットは、約20nm~約500nm、約40nm~約400nm、約50nm~約300nm、約100nm~約150nm、約115nm~約145nmの横幅の平均横幅(算術平均)を有してもよい。好ましくは、ナノプレートレットは、約130nm~約145nmの平均横幅を有し得る。
【0081】
被覆繊維は、例えば、直径5μm~10μmを有する繊維、200nm以下の平均幅(算術平均)を有するナノプレートレットを含んでもよい。ナノプレートレットは、例えば、7~12のアスペクト比を有し得る。
【0082】
被膜のポリマー層は、ナノプレートレット層よりも著しく薄いことが好ましい。ナノプレートレット層の厚みは、ポリマー層の厚みの少なくとも約5倍、最大で約20倍であってもよい。ナノプレートレット層の厚みは、ポリマー層の厚みの少なくとも約8倍、最大で約12倍、例えば約10倍であってもよい。また、ポリマー層に対するナノプレートレットの相対厚は、ポリマーに対するナノプレートレットの体積比と呼ばれる場合もある。この体積比は、例えば、被膜の全厚み、二重層の数およびナノプレートレットの厚みに基づいて計算され得る。また、体積比は、熱重量分析(TGA)によって重量分率を決定することにより得られ、次いで、構成密度を使用することによって体積比へと変換され得る。ポリマーに対するナノプレートレットの体積比は、少なくとも約70:30、少なくとも約80:20、少なくとも約85:15、または少なくとも約90:10であってもよい。ポリマーに対するナノプレートレットの体積比は、最大約98:2、最大約96:4、最大約95:5、または最大約92:8であってもよい。例えば、体積比は、約70:30~約98:2、約80:20~約95:5、約85:15~約95:5、または約88:12~約92:8であってもよい。好ましくは、体積比は約90:10である。この比であれば、複合材料のひずみ硬化の改善が可能となる。
【0083】
被膜は、少なくとも約80:20の高分子電解質に対するナノプレートレットの体積比、少なくとも約8のナノプレートレットアスペクト比を有し、ナノプレートレットの横幅は約40%未満の標準偏差を有する横幅サイズ分布を有し得る。好ましくは、被膜は、80:20~約95:5(例えば約90:10)の高分子電解質に対するナノプレートレットの体積比、8~10(例えば約10)のナノプレートレットアスペクト比を有し、ナノプレートレットは約35%未満の標準偏差を有するナノプレートレットの幅サイズ分布を有し得る。
【0084】
ナノプレートレットは、厚みよりも横幅が大きいため、構造が異方性である。ナノプレートレットは、規則的な形状であってもよい。例えば、ナノプレートレットは六方晶系であってもよい。
【0085】
ナノプレートレットは、各二重層のナノプレートレット層がナノプレートレットの単一の層を含むように、単層を形成し得る。好ましくは、単層は、ナノプレートレットが重複しない単層であってもよい。ナノプレートレットは、細密配列を形成し得る。好ましくは、単層はモザイク状の単層であってもよい。
【0086】
ナノプレートレットは自己組織化して、単層を形成し得る。自己組織化は、ナノプレートレットとポリマーとの間の相補的な相互作用による場合がある。例えば、自己組織化は、逆に帯電したポリマーとナノプレートレットとの間の静電的相互作用によるものであってもよい。水素結合供与体/受容体、金属イオン/リガンドおよび共有結合部分等の他の官能性は、自己組織化に対する駆動力となり得る。好ましくは、その相互作用は静電相互作用である。
【0087】
ナノプレートレットをモザイク状にするために配向してもよい。ナノプレートレットの配向度は、ナノプレートレット表面と平行な結晶面に対して三次元X線回折(XRD)ロッキング曲線を使用することによって定量され得る。
【0088】
本明細書に記載される被膜は、ナノプレートレットおよびポリマーを含む。ポリマーは、好ましくは、ナノプレートレットの弾性係数よりも一桁以上低い弾性係数を有する。例えば、ポリマーは、ナノプレートレットの弾性係数より少なくとも50%低い弾性係数を有する。好ましくは、ポリマーの弾性係数は、ナノプレートレットより桁が低い。
【0089】
本明細書で言及される繊維は、円筒状繊維が好ましい。繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリオキサゾール繊維、ベクトラン繊維、バサルト繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、圧電繊維、光ファイバー、またはセラミックファイバーであってもよい。好ましくは、繊維はガラスまたは炭素繊維である。ガラス繊維は任意の直径、例えば約5μm~約100μm、約約5μm~約50μm、または約5μm~約30μmの直径を有し得る。
【0090】
ガラス繊維は、例えば、約5μm~約30μm、約6μm~約25μm、約7μm~約22μm、約8μm~約21μm、約9μm~約20μm、約10μm~約19μm、約11μm~約18μm、約12μm~約17μm、約13μm~約15μmの直径を有してもよい。ガラス繊維は、約5μm、約6μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μm、約11μm、約12μm、約13μm、約14μm、約15μm、約17μm、または約20μmの直径を有してもよい。
【0091】
炭素繊維は、例えば、約5μm~約18μm、約6μm~約15μm、約7μm~約13μm、約8μm~約12μm、約9μm~約11μmの直径を有してもよい。炭素繊維は、約5μm、約6μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μm、約11μm、約12μm、約13μmの直径を有してもよい。
【0092】
別の実施形態では、本発明は、上記の実施形態のいずれかに定義される複数の被覆繊維を含む複合材料を提供する。
【0093】
別の実施形態では、本発明は、上記の実施形態のいずれかに定義される被覆繊維およびマトリックスを含む複合材料を提供する。マトリックスは樹脂を含んでもよい。樹脂は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を含んでもよい。樹脂は、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアン酸エステル樹脂、ポリベンゾキサジン樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、アクリル樹脂、フェノールメラミンホルムアルデヒド樹脂、フェノール尿素ホルムアルデヒド樹脂、尿素メラミン樹脂、メラミン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、またはそれらの混合物を含んでもよい。好ましくは、樹脂はエポキシ樹脂を含む。
【0094】
別の態様では、本発明は、本発明の第1の態様による被覆繊維を準備する方法であって、該方法は、
(a)繊維を提供することと、
(b)本発明の第1の態様の任意の実施形態に関して記載されるナノプレートレットおよびポリマーを含む被膜で該繊維を被覆することと、を有する方法を提供する。
【0095】
繊維は、層で被覆され、すなわち、被覆工程は高分子電解質を含む少なくとも1の層、およびナノプレートレットを含む少なくとも1の層で繊維を被覆することを含んでもよい。
【0096】
繊維は、ナノプレートレットの層およびポリマーの層を含む少なくとも2の二重層でされ得る。
【0097】
好ましくは、繊維は、複数の互い違いのポリマー層およびナノプレートレット層で被覆され得る。繊維は、少なくとも10の二重層で被覆され得る。
【0098】
繊維に成膜される層は、一般に「交互(layer-by-layer)」積層プロセス(LbL)と称されるものによって成膜された少なくとも2の二重層を備えてもよい。このプロセスは、逆に帯電したポリマーおよび粒子の被膜を静電気的に組織化させるために使用され得るが、水素結合供与体/受容体、金属イオン/リガンド、および共有結合部分等の他の官能性は被膜組織化に対する原動力となり得る。
【0099】
成膜工程は、一連の液体溶液または浴に対して表面電荷を有する繊維を曝露することを有する。これは、液浴中に繊維を浸漬することによってなされ得る(浸漬塗布とも称される)。繊維と逆の電荷を有する第1の溶液への曝露は、速く吸着する繊維表面の近くの帯電している種をもたらし、濃度勾配を確立する。十分な層が発生して内在する電荷をマスキングし、繊維表面の正味電荷を逆転するまで、さらなる吸着が起こる。次いで、繊維を第1の溶液から取り除き、その後一連の水洗浴に曝露して、任意の物理的にもつれたまたは緩く結合した帯電した化合物または粒子を取り除く。すすぎ液に続いて、繊維をその第1の溶液に対して反対の電荷を有する第2の溶液に曝露する。繊維の表面電荷が第2の溶液の逆であることから、再度吸着が起こる。次いで、第2の溶液への継続的な曝露は、結果的に繊維の表面電荷の回復をもたらす。二重層の成膜のサイクルを完了するため、後のすすぎを行うことができる。この工程の順序は、「二重層(bilayer)」の成膜とも称される、一対の層を構築し、必要に応じて、さらなる層の対を繊維に繰り返し付加することができる。
【0100】
好ましくは、繊維の被膜は交互積層(layer-by-layer assembly)によって行われる。
【0101】
上記方法は、複数の繊維に対して交互積層を行うことを含んでもよい。これは、並行して多数の繊維の均一な被覆を可能とすることから、有利である。この特徴はLbL技術の実用化にとって重要である。上に記載される交互積層方法論を使用して複数の繊維を並行しておよび/または連続して被覆することができることは驚くべきことである。好ましくは、本発明のこの態様の方法は連続工程として実行され得る。上記方法は、一連の浴を使用して行われてもよい。上記方法は、有利に、繊維ラインに対して連続的に行われ得る。
【0102】
第1の溶液は、高分子電解質を含む溶液またはナノプレートレットを含む溶液を含んでもよい。
【0103】
第2の溶液は、高分子電解質を含む溶液またはナノプレートレットを含む溶液を含んでもよい。好ましくは、第2の溶液は、第1の溶液の高分子電解質またはナノプレートレットに相補的に帯電している高分子電解質またはナノプレートレットを含む。
【0104】
該溶液を成膜の間撹拌してもよい。好ましくは、ナノプレートレットを含む溶液を撹拌する。これは、ナノプレートレットの重複を形成することなくナノプレートレット単層の形成を可能とし、また、緩く付着したナノプレートレットの除去を可能とする。これは、繊維上の完全な単層の被覆も可能とする。
【0105】
高分子電解質およびナノプレートレットの交互層は、繊維上に成膜され得る。
【0106】
二重層の厚みは、約10nm~約50nm、約12nm~約40nm、約15nm~約30nmであってもよい。二重層の厚みは、少なくとも約10nm、少なくとも約12nm、少なくとも約15nm、または少なくとも約16nmであってもよい。好ましくは、二重層の厚みは約16nmであってもよい。
【0107】
複数の二重層の厚みは、約150nm~約1.5μm、約170nm~約1.3μm、約200nm~約1.2μmであってもよい。
【0108】
二重層の数は、約2~約100の二重層、約5~約75の二重層、約10~約50の二重層、約12~約25の二重層であってもよい。
【0109】
上記方法は、繊維の被覆に先立って、繊維を前処理することをさらに含んでもよい。前処理は、ベア繊維に対するナノ構造界面の結合を改善し得る。前処理は、繊維を糊抜きすることを含んでもよい。
【0110】
繊維の前処理は、酸化剤による処理を有してもよい。例えば、炭素繊維の前処理は、酸素プラズマ、酸化酸、または別の酸化剤(例えばKMnO溶液)でこれを処理することを有してもよい。ガラス繊維の前処理は、過酸化物溶液(例えば過酸化水素)でこれを処理することを有してもよい。
【0111】
繊維を、所望の表面電荷またはモチーフを提示するため、共有結合官能化剤(covalent functionalising agent)(例えばシランカップリング剤)で前処理してもよい。これによりナノプレートレット層の自己組織化が可能となる。
【0112】
繊維は、硫酸および過酸化水素を含む溶液、好ましくは2:1硫酸および過酸化水素で糊抜きされてもよい。
【0113】
上記方法は、被覆工程(b)に先立って繊維をポリマーで被覆して、本発明の第1の態様に関して記載される前駆体層を形成することをさらに含んでもよい。
【0114】
別の態様では、本発明は、マトリックス内に上に記載される複数の被覆繊維を埋め込むことを含む、複合材料を作製する方法を提供する。
【0115】
被覆繊維および該被覆繊維を含む複合材料は、例えば、航空機、風力タービン翼、スポーツ用品および土木工学インフラストラクチャーの構築に使用される材料複合材料に使用され得る。
【0116】
本明細書で使用される「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、および「で構成される(comprised of)」という用語は、「含む(including)」、「含む(includes)」、または「含む(containing)」、「含む(contains)」と同じ意味で使用され、包括的または非限定的であり、追加の列挙されていない部材、要素または方法工程を除外しない。本明細書で使用される「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「で構成される(comprised of)」という用語は、「からなる(consisting of)」、「本質的にからなる(consisting essentially of)」、「構成する(consists)」および「からなる(consists of)」という用語を含むことを理解されたい。上に記載された本発明の任意の態様または実施形態において、「含む(comprising)」は「本質的にからなる(consisting essentially of)」も指す場合がある。
【0117】
本発明の各態様の好ましいまたは任意の特徴は、他の態様の各々に対して必要な変更を加えて準用される。
【実施例
【0118】
方法
材料:ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)溶液(PSS、Mw=70,000、HO中30重量%)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)溶液(PDDA、Mw=100,000~200,000の低分子量、HO中20重量%)、Mg(NO.6HO、Al(NO.9HO、NaOHおよびNaCOをSigma-Aldrichから購入した。脱イオン水(15MΩ.cm-1)、硫酸(95%)および過酸化水素(HO中30重量%)をVWRから購入した。S2糊抜きガラス繊維糸(約4.3k)をAGY,Incから善意で提供された。2成分エポキシ系(Loctite、ダブルバブル2部エポキシ、IDH-1303596)をRS componentsから購入した。
【0119】
Mg-Al-CO-LDHの合成:2mMのMg(NO.6HOおよび1mMのAl(NO.9HOを含む金属塩溶液10mlと並んで、6mMのNaOHおよび0.6mMのNaCOを含む塩基性溶液40mlを別々に作製した。金属塩溶液を激しく撹拌しながら5秒未満で塩基性溶液に添加した後、室温で20分間さらに撹拌した(750rpm)。次いで、その混合物を15,000rpmで15分間遠心分離してLDHスラリーを回収した。その後、脱イオン水中に再分散することによってスラリーを2回洗浄した後、5分間の浴超音波処理(75W)を行い、最後に15,000rpmで15分間遠視分離した。洗浄後、スラリーを、浴超音波処理によって25mlの脱イオン水(0.4重量%)に分散し、4時間(LDH-1)または72時間(LDH-2)にわたる100℃の熱水処理のためオートクレーブに入れた。表1に示されるように、様々な寸法を有するナノプレートレットを合成するため、熱水処理の時間および温度を選択した。可能性の或る再凝集を回避するため、LDH溶液を合成後の最初の1カ月以内に使用した。分散液の質は、この時間枠に関して安定したままであった。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
溶液:熱水処理の後、水中のLDHの分散液(0.4重量%)25mlを脱イオン水20mlでさらに希釈して、pH10で0.3重量%の濃度を有する(合成時)LDH分散液を得た。3.35mlのPSSを1Lの脱イオン水に添加して、0.1重量%の濃度を有する高分子電解質(PE)水溶液を形成した。同様に、5mlのPDDAを1Lの脱イオン水に添加して、0.1重量%の濃度を有するPE水溶液を形成した。次いで、PSSおよびPDDAの溶液のpHを、0.1MのNaOHを添加することによって10に調整した。
【0123】
ガラス繊維トウの作製:LbL被覆に先立って、S2ガラス繊維を、ピラニア溶液(硫酸と(30重量%)過酸化水素との2:1混合物)で糊抜きした。ガラス繊維のトウを、約1時間にわたりピラニア溶液に浸漬し、90℃に加熱した後、脱イオン水で複数回すすいだ。処理後、繊維を、最長2週間にわたって、脱イオン水で満たした密封した瓶に保管した。
【0124】
(LDH/PSS)交互積層:ガラス繊維上にLDHナノプレートレットまたはPDDAの第1の単層を形成するため、一束のマイナスに帯電した繊維(数百)を、10分間にわたり、0.3重量%のプラスに帯電したLDHを含む分散液、またはpH10の0.1重量%PDDA溶液に浸漬した。繊維の束を、その後、pH10の水に2分間浸漬し、2つ種類の異なる水のチューブにおいて30秒間の2回の浸漬によってすすいだ。各成膜の後、表面/メニスカスに弱く会合した過剰な粒子を除去するため、すすぎ工程を行った。(LDH/PSS)の二重層および多層を形成するため、帯電したガラス繊維を、それぞれ10分間、各成膜の後、水中での2分間のすすぎ工程を間に挟んで、LDH(0.3重量%)分散液およびPSS溶液(0.1重量%)に交互に浸漬した。プロセス全体にわたりpHを10に一定に保持した。全ての溶液の中程度の撹拌(300rpm)を使用して、過剰な粒子の除去を可能とし、全ての繊維の完全な被覆を確実にした。浸漬および取り除く速度を約0.4cms-1に固定した手製の自動浸漬ロボットを使用して被膜成膜を行った。最後の層の成膜後、被覆繊維をすすぎ、特性評価に先立って室温で一晩乾燥させた。
【0125】
炭素繊維の酸素プラズマ処理:糊付けされていない炭素繊維を、酸素流(50sccm)のもと、低圧プラズマ(Plasma System Pico、90179、Diener Electronic、ドイツ)処理を使用して表面改質した。炭素繊維のプラズマ酸化は、表面粗さの増加と並んで、繊維の表面上の酸素を含有する基の形成をもたらした。カルボキシル基およびヒドロキシル基は炭素繊維の表面上に形成した。処理した炭素繊維を0.1M KMnO溶液に一晩浸漬した後、改質された炭素繊維の表面に存在するヒドロキシル基をより脱プロトン化しやすいカルボキシル基へと変換するため水中で十分にすすぎ、プラズマ処理後の炭素繊維表面のさらなる改質を行った。酸素を含む基の脱プロトン化は、繊維が浸漬される溶液のpHに強く依存する。マイナス荷電が高いpHで生じると予想され、これは流動ゼータ電位測定を使用することによって証明され得る。
【0126】
機器分析:走査電子顕微鏡(SEM、LEO Gemini 1525 FEGSEM)上で、ガラス繊維上に成膜された単層および多層の被覆の撮像を行った。被膜の非伝導性の性質のため、金(5nm~10nm)の薄層を撮像に先立って各試料の上部にスパッタコートした。SEMを使用し、5keVで操作して、被膜の上面および横断面を撮像した。
【0127】
ナノ構造界面の機械特性評価:ガラス繊維上に成膜されたPDDA/(PSS/LDH)75被膜の機械特性を、荷重制御用のBerkovichチップが装備されたSEM(Auriga、Carl Zeiss)においてin-situでナノインデンター(Alemnis)使用して調査した。PDDA/(PSS/LDH)およびLDH/(PSS/LDH)およびエポキシ樹脂で被覆されたベアガラスと繊維との間の界面特性を、単繊維プルアウト試験および単繊維フラグメンテーション試験によって決定した。単繊維プルアウト試験は、マトリックス表面に垂直な繊維に力を印加することによって、マトリックス(Loctite、ダブルバブルエポキシ系)からの部分的に埋め込まれた繊維の引抜きに基づく。繊維を手製の埋め込み装置を使用して埋め込んだ。繊維のプルアウトを堅いフレームに固定したピエゾモーターを使用して実施した。繊維の自由末端をクランピングフレームに接着した。手製の機器上で繊維が完全に引き抜かれるまで荷重セルによって界面に印加される荷重を記録しながら、繊維を約1μm・s-1の速度でプルアウトした。繊維の層間剥離を開始するのに必要な最大荷重は、それが負荷へと用意に変換され得ることから、
【0128】
【数14】
【0129】
式中、Fmaxは層間剥離が開始する最大荷重であり、Aはマトリックス中の繊維が埋め込まれた面積である、
界面界面剪断強度(IFSS)と関連付けられる。IFSSを、Aの関数としてFmaxの線形データフィッティングから決定した。IFSSの統計的に有意な値を得るため、少なくとも15回試験を行った。繊維プルアウト靭性を、繊維の埋め込み面積で荷重変位曲線下の全面積を、全区域を割ることにより決定した。次いで、剥離靭性および引抜靭性を荷重変位曲線の対応する領域下面積から引き抜いた。
【0130】
5本の繊維を、両面テープを使用して表面の上約200μm~300μmに並べて留めたガラススライドにエポキシフィルムをキャストすることによってシングルファイバーフラグメンテーション試験を準備した。アセトン中の30重量%エポキシ溶液(Loctite、ダブルバブル2部エポキシ、IDH-1303596)5mlを、500μm厚のフィルムを得るためスライドに2回キャストした。アセトンの蒸発後、メスおよびピンセットを使用してフィルムを基体からそっと剥がし、その後、ドッグボーン型を装着した打抜プレス(Zwick、D-7900、ウルム、ドイツ)を使用して、ドッグボーン型に型抜きした。試験片は、長さ2.5mmに沿った2.5mm~7mmのエンドタブとゲージ長間の試験片幅における段階的な増加を伴ったゲージ長15mmおよび2.5mm幅の長さ40mmおよび幅7mmであった。試験片を、200Nのロードセルを装備した、小さな引張り試験機(Linkam科学機器、TST350)に取り付けた。繊維断片化の開始および25%の歪までの飽和を光学顕微鏡に取り付けられたカメラを使用して追跡した。応力集中は、様々な歪で繊維フラグメント近傍のマトリックス樹脂に対して伝達した。
【0131】
ガラス繊維
糊剤を除去することに加えて、ガラス繊維の表面をヒドロキシル化する、ピラニア洗浄でガラス繊維を糊抜きした。処理された繊維は親水性であり、LbL水溶液に浸漬された場合にそれらの拡散を促進するのみならず、ヒドロキシル基の存在によりマイナスに帯電していた。PSS溶液、LDH懸濁液および水洗の容器を撹拌して、束全体の各繊維の完全な単層の被覆、および各浸漬工程後の過剰な粒子の完全な除去を確実にした。したがって、マイナスに帯電したガラス繊維表面へのプラスに帯電したLDHプレートレットの第1の単層の成膜は、いかなる明らかなプレートレットオーバーラップまたはむき出しのスポットもなく成功した。ベア繊維上の被膜接着を改善するため、PDDA前駆体層を(PSS/LDH)被膜成膜に先立って成膜した。
【0132】
繊維に成膜した被膜の機械特性と並んで、(PSS/LDH)二重層成膜の数の関数としての被膜厚みを特性評価した。実際に、LDHおよびPSSの単層の反復する成膜は、被膜厚みの線形増加をもたらす。弾性係数、硬度および可塑性等の被膜の機械特性は、SEM in-situナノインデンテーションによって定量され得る、プレートレットの配向、およびナノ構造中の無機相の割合に強く関連する。
【0133】
ファイバー束に対する(PSS/LDH)nの成膜の繰り返しは、厚みの増加を伴って被膜の成膜をもたらした。繊維横断面のSEM調査によって確認されるように、全ての表面周囲の均質な被膜による全ての繊維の被覆に成功した。被膜横断面のSEM像は、成膜した(PSS/LDH)n二重層の数が多くなるにつれて被膜厚みの線形増加を明らかにし、繊維上のPSSおよびLDHの単層の再現可能な成膜を示す。被膜厚は、それぞれ、二重層の数が12~75に増加すると、約200nm~約1.2μmと測定された。1つの二重層当たり約16nmの被膜に対する成膜速度が得られた。
【0134】
ナノプレートレットの配向度と並んで、ガラス繊維束に含まれる全てのガラス繊維の周りに成膜したLbL被膜の形態学、すなわち無機相の割合を評価するため、厚いPDDA/(PSS/LDH)75被膜で被覆された繊維に対してSEM in-situナノインデンテーションを行った。約110nmの最大深さに達し、これは、被膜厚みの10%未満であり、あらゆる基体効果も回避する。先端寸法および被覆繊維直径に従い、約3.8°の湾曲に沿って被覆繊維の表面に幅約240nmのインデントを作製した。したがって、被膜を、測定のスケールで平らであると考えることができる。OliverおよびPharr法を使用して決定された弾性係数および硬度は、それぞれ、約65.0±8.2GPaおよび2.3±0.7GPaであり、円筒状繊維上へのナノ構造被膜の成膜の成功を確認した。実際、平坦な基体に成膜された被膜の弾性係数および硬度は、65.8±3.2GPaおよび2.3±0.2GPaと測定された。さらに、ガラス繊維に成膜された被膜の塑性指数を測定したところ、平面被膜の塑性指数に類似することがわかった。これは、湾曲する繊維上への異方性ナノ構造の移動の成功を確認する。
【0135】
ガラス繊維/エポキシモデル複合体の接着特性に対する被覆界面の影響を判断した。単繊維引抜試験およびフラグメンテーション試験は、それらの試験が、交差偏光を介して観察されるエポキシマトリックスの複屈折特性を使用して、剪断中の界面の完全な特性評価、すなわち、界面剪断強度、および繊維破断近くの応力の再分布に伴う繊維の滑動を可能とすることから、特に好適である。130nm幅のLDHプレートレットに加えて、約50nmの幅を有するより小さいプレートレットを含む被膜も複合界面として研究した。被膜への小さなLDHプレートレットの組み込みは、より高い割合の有機相に結び付くことから、剪断中の歪硬化がない。剪断下で小さい最適化されたプレートレットの寸法を有する、両方の可能性のある複合界面の反応の調査は、滑動時の繊維の挙動に対して被膜の歪硬化を関連付けることを可能とする。
【0136】
剪断中のナノ構造界面の特性を調査するため、ナノ構造被膜を有するガラス繊維をエポキシ樹脂に埋め込んだ。剪断中のナノ構造界面の挙動を調査するため、エポキシに部分的に埋め込まれた単繊維のプルアウト試験を行った。ナノ構造被膜のいかなる脱水も回避するため、室温で硬化するエポキシ樹脂を選択した。繊維の剥離および滑動に対する被膜の歪硬化挙動の効果と並んで、剪断中の界面の強度を研究した。これらのプルアウト試験を3つの連続する工程に分けることができる(図2A):i)繊維に印加された荷重は、最終的な界面の塑性変形のため線形に増加した後、剪断中の最終的な非塑性変形が続く(段階的剥離)。ii)界面は、その最大荷重支持力(maximum load barring capacity)に達して、完全な界面の層剥離をもたらす。繊維が完全に剥離され、マトリックスからプルアウトされるまで、荷重が降下し、iii)最終工程では、繊維がマトリックスからプルアウトされる。プルアウトは、マトリックスに対する繊維プルアウト摩擦と関連し、マトリックスからの繊維の完全な除去まで起こる。
【0137】
荷重を伝達する間の被膜の歪硬化、したがって界面の滑動能力は、全体的な概念の鍵である。したがって、プルアウトの間の完全な界面破損に先立って、繊維がそれに沿って滑動する剥離延伸長さは大変興味深いものである。繊維の剥離滑動能力を、埋め込み繊維長さ(l)に対する剥離長さ(l)の比(「剥離延伸比」)として調査した(図2A)。
【0138】
繊維埋め込み面積の関数として繊維を完全に剥離するのに必要な最大力をプロットすることにより、異なる系の界面剪断強度(IFSS)を特定した。75の二重層で被覆されたものを除いて、被覆繊維はいずれも改善されたまたは同様のIFSSを提示し、ナノ構造界面の存在下での、繊維とマトリックスとの間の良好な荷重伝達を確認した。ベア繊維と比較した最大23%のIFSSの増加を被覆繊維に対して観察した。IFSSの増加を担う機構はまだ不明である。しかしながら、ナノ構造被膜の添加が、グラフェン酸化物ナノプレートレットを含む界面でも観察される「ブリック-アンド-モルタル(brick-and-mortar)」構造内での凝集ではなく、LDHプレートレットの個別化(individualization)によって、応力集中の減少を可能とすると共に、界面の剪断弾性率を増加し得ると仮定することができる。完全な界面の破損に先立つ剥離中の安定した繊維滑動に対する歪硬化被膜の重要性を実証するため、ベアガラス繊維、並びに「小さい」-50nm幅のLDHおよび「最適化された」-130nm幅のLDHを含むPDDA/(PSS/LDH)12被膜で被覆された繊維を、いずれもプルアウト試験のためエポキシに埋め込んだ。「最適化された」-LDHプレートレットがナノ構造界面を製造するために使用される場合、繊維はより長い長さにわたって滑動し、ベア繊維の2倍である0.26の剥離延伸比をもたらす。約10重量%のポリマーに制限された「最適化された」-LDHプレートレットは、互いの上を滑動し、最終的にインターロック(interlock)して剪断中に歪硬化を生じるため、エポキシマトリックス内での繊維の安定な滑動をもたらす。したがって、界面の歪硬化の性質は、繊維/マトリックス界面の延性で段階的な破損、およびより大きな剥離延伸比を可能とする。
【0139】
約0.4μmの厚みを有するより厚い繊維被膜(25の二重層)の使用は、おそらくは、プルアウト中のより多くのプレートレットの滑動およびインターロッキングにより、高いプレートレット配向度を保持しながら、繊維の剥離延伸比を0.4までさらに改善することがわかった。約0.8μmおよび1.2μm(それぞれ、50および75の二重層)までの被膜厚のさらなる増加は、剥離延伸比の減少をもたらしたが、ベア繊維の剥離延伸比よりもまだ大きいままであった。厚い被膜厚みでの剥離延伸比の減少は、クランプ力の減少によって引き起こされる、マトリックスと被膜との間の低水準の相互作用に起因する可能性がある。実際に、硬化中のエポキシ樹脂の収縮によって生じる半径方向のクランプ力は、特に高い被膜厚みにおいて被膜の半径方向コンプライアンスの結果、減少し得る。
【0140】
種々の繊維系の荷重変位曲線は、ナノ構造被膜で被覆された場合、完全な界面破損に先立つ剥離の間、繊維滑動の著しい伸長を説明する。プルアウト中の繊維の初期荷重セグメントは、全ての系でかなり類似したままであり、被覆繊維、特にPDDA/(PSS/LDH)25被覆繊維では、延性剥離プロセスのサインである、段階的な屈曲をし、大きな延伸比をもたらす(図3A)。したがって、剥離の早期開始は、被覆繊維の場合、停止するようであり、より高い剥離荷重においてナノ構造界面の突然ではなく段階的な破損をもたらす。剥離靭性および引抜靭性の2つの部分に分けられ得るプルアウト靭性のバリエーションは、荷重変位プルアウト曲線の種々の形状で表される。
【0141】
界面破損の繊維の摩擦引抜に関連するエネルギーと並んで、繊維/マトリックス剥離l中に吸収される両方のエネルギーに注目して、異なる系のプルアウト靭性を、単繊維プルアウト試験から定量した(図3)。ベアガラス繊維およびPDDA/(PSS/LDH)25被覆ガラス繊維の両方が類似するプルアウト靭性を持つのに対し、他の全ての被覆繊維は靭性の減少を示す(図3B)。繊維のプルアウト靭性を2つの部分、すなわち剥離靭性(図3C)および引抜靭性(マトリックス内を滑動する際の剥離した繊維の摩擦によって引き起こされる)に分けることにより、被覆繊維が、剥離靭性の著しい改善に結び付くように考えられる(図3D)。実際に、PDDA/(PSS/LDH)25被覆繊維は、ベア繊維よりも約3倍高い剥離靭性を提示する。剥離靭性の増加は、剪断中に荷重される間、界面におけるプレートレットの滑動/インターロッキングの結果であり、段階的な剥離および完全な層剥離に先立つ大きな繊維の安定な滑動をもたらす。しかしながら、かかる被覆繊維の界面の破損の樹脂からの引抜靭性は、部分的に界面破損の間の被膜の除去のため、実質的に減少される。ナノ構造被覆繊維に対する剥離靭性は、ベア繊維に対する約35%と比較して、およそ75%の全体プルアウト靭性を示す。
【0142】
繊維は、荷重の間に繊維強化ポリマー複合体の中で複数回にわたって断片化して、応力の再分布を確実にしながら滑動すると予想されることから、剥離靭性はより重要である。実際に、実質的なエネルギーは、複合体の中で散逸し得、材料の全体的な靭性の増加をもたらす。したがって、繊維破断のクラスター形成を回避するため、応力集中の局在化を伴わずに繊維が断片化することが重要である。繊維/マトリックス界面の複屈折パターンを介して繊維フラグメントから生じる応力の分布および散逸を調査するため、交差偏光を使用する顕微鏡下で単繊維フラグメンテーション試験を行った。PDDA/(PSS/LDH)75被覆繊維を調査し、ベア繊維と比較した。
【0143】
繊維とマトリックスとの間の界面の応力から生じる複屈折パターンは、エポキシに埋め込まれたベア繊維および被覆繊維を比較する場合に、繊維フラグメント近傍における応力の分布および吸収の顕著な違いを明らかにした。エポキシ中のベア繊維の断片化が界面において局在化された強い応力集中をもたらすのに対し、ナノ構造繊維/マトリックス界面は、おそらくは異方性界面内での亀裂撓みおよび段階的剥離によって、複屈折パターンによって示されるような繊維長さに沿った繊維破断から生じる応力を減少および分散する能力を提供する。ナノ構造界面は、繊維長さに沿った応力の散逸を可能とする。したがって、応力は、ベア繊維の場合には繊維破断の近傍に局在して蓄積するのに対し、被覆繊維はそれらの繊維の長さに沿って応力を分散させる能力を示すことが証明された。
【0144】
繊維フラグメント化の飽和後に得られた繊維フラグメントの長さを測定し、ヒストグラムおよび累積的の両方で分布させた(図4)。したがって、平均繊維フラグメント長さ(l)は、ベアガラス繊維および被覆ガラス繊維の両方に対する累積分布のメジアン値から得られた。繊維フラグメント長さの分布は、PDDA/(PSS/LDH)25ナノ構造被膜で被覆された場合、より強い界面の結果、より小さな値へとわずかにシフトするようである。同様に、フラグメントの累積分布は、被覆繊維の場合のより小さなフラグメント長さで横ばいになる。315±22および260±17μmの平均フラグメント長さを、ベア繊維および被覆繊維についてそれぞれ測定した。ナノ構造界面の存在による繊維/エポキシ界面のIFSSの改善を、Kelly-Tysonモデルを使用して、繊維臨界フラグメント長さ(l)より判断した。420±29および347±22μmの臨界フラグメント長さ(それぞれベア繊維および被覆繊維の臨界フラグメント長さ)におけるガラス繊維に対して同様の引張強さを仮定すると、ベアガラス繊維と比較して、PDDA/(PSS/LDH)25被覆ガラス繊維に対して、約+21%のIFSSにおける改善の見積もりが達成された。IFSSの増加は、プルアウト試験から得られた結果とよく一致する。ナノ構造繊維/マトリックス界面は、繊維に沿った応力散逸と並んで良好な応力伝達を保証しながら、段階的な剥離の間繊維のより長く安定な滑動を可能とする。
【0145】
ナノ構造被膜は、ガラス繊維表面に成功裏に成膜され、繊維/マトリックス接着を損なうことなく、繊維強化複合材料に対して新規な界面強靭化機構を提供する。単繊維モデル複合試験の間、繊維破壊から生じる応力集中の吸収および伝播に続いて大きな繊維剥離延伸比が観察された。ガラス繊維の断片化によって和らげられた応力は、繊維の長さに沿ったナノ構造の異方性繊維/マトリックス界面内で散逸され、繊維強化複合体モデルにおいて隣接する繊維において強い応力の局在化を減少する可能性がある。断片化の後、剥離の間のマトリックス内のナノ構造被覆繊維の安定な滑動は、ベア繊維の滑動よりも約4倍高いと特定された。ナノ構造繊維/マトリックス界面は、繊維破断の蓄積を減少し、より長く安定な繊維滑動によって破損歪の延長を可能とすることによって、繊維強化複合体の機械性能を改善する。
【0146】
炭素繊維
ガラス繊維と同様に、ナノ構造界面を有する複合体の開発のための高性能の繊維強化として、炭素繊維を調査した。そのため、ガラス繊維の束を被覆するため以前開発された多層成膜プロセスをここでも使用して、ナノ構造被膜の成膜に先立ってPDDA前駆体層を使用し、炭素繊維の束を被覆した。
【0147】
LDH単層の成膜
pH10において約-20mVのゼータ電位によってわずかにマイナスに帯電した表面を有する、市販の糊抜きされたまたは糊抜きされていない両方の炭素繊維をLDH単層で被覆して、PDDA/(PSS/LDH)n多層被膜を組織化する可能性を判断した。糊抜きされた繊維が、市販の糊抜きが不均一に広がるため糊抜きされていない炭素繊維よりも粗い表面を示すことから、むき出しの領域を伴って不規則なLDH単層を糊抜きされた繊維に成膜した。一方、糊抜きされていない繊維の滑面は、良好な被覆度でLDH単層の成膜を可能とした。
【0148】
炭素繊維上の表面形態学
12、25、50および75の(PSS/LDH)の二重層によるPDDA/(LDH/PSS)n被膜を、数百本の繊維を含む糊抜きされていない炭素繊維の束に成膜した。被膜上部表面の形態学をSEMによって調査したところ、50もの数の(PSS/LDH)二重層による被膜の良好な成膜を明らかにした。
【0149】
炭素繊維の横断面
最大25の数の二重層で構成される被膜厚は、LDHプレートレットの寸法と一致していることがわかった。PDDA/(PSS/LDH)12およびPDDA/(PSS/LDH)25の成膜後に、糊抜きされていない炭素繊維に対して、それぞれ約200nmおよび400nmの均一な被膜厚みが測定された。
【0150】
除去されたPDDA/(PSS/LDH)50被膜厚みは、概算で約1マイクロメートルであり、反復可能なLbL成膜と一致する。
【0151】
PDDA前駆体層の成膜の後、12、25のおよび50の(PSS/LDH)二重層で被覆された繊維と並んで、ベア糊抜きされていない炭素繊維を、プルアウト試験を使用して機械的に調査した。
【0152】
単繊維プルアウト試験による界面特性評価
プルアウト試験により、剪断中のナノ構造被膜の応答と共に、炭素繊維とエポキシ樹脂の間の界面特性を試験した。糊抜きされていないベア炭素繊維は、マトリックスからの繊維引抜き中の高水準の摩擦と合わさって、突発的な破損に先立ってエポキシとのそれらの界面の弾性線形荷重を示す(図4A)。対照的に、被覆繊維は、引き抜かれる際のマトリックスとの低水準の摩擦と並んで、剪断中の被膜の変形の結果として、荷重中の界面のさらなる塑性変形を示す。
【0153】
種々の繊維/マトリックス系の界面剪断強度(IFSS)を、マトリックス中の繊維埋め込み面積の関数として、破損時に界面によって伝えられる最大荷重をプロットすることによって測定した(図5B)。ベア繊維と比較して、PDDA/(PSS/LDH)12被覆繊維に対してIFSSの約11%の増加を測定した(図5C)。被覆繊維に成膜された被膜厚のさらなる増加は、IFSSの段階的な減少をもたらし、先のSEMの観察と相関した。
【0154】
剪断中の繊維界面の荷重中にプレートレット滑動および後のインターロッキングが起こり、実質的な塑性変形をもたらすと予想される。したがって、繊維の安定で段階的な滑動は、マトリックスの完全な剥離まで繊維界面の荷重の間、可能である。プルアウト試験の剥離相の間に滑動しやすい繊維と共に、長さは、被膜厚みと共に増加するようである(図5D)。ベア繊維よりも高いIFSSを示すPDDA/(PSS/LDH)12で被覆された繊維は、剪断中の被膜の塑性変形によって、繊維の安定した滑動を伴う良好な改善を表す。PDDA/(PSS/LDH)12で被覆された繊維は、必要に応じて、ベア繊維のそれに匹敵する荷重に対して界面の弾性荷重に続いて塑性変形を提示し、繊維滑動を引き起こす。
【0155】
被覆繊維の全体プルアウト靭性は、引き抜き中のマトリックスとの摩擦の喪失によって制限される。実際、全ての被覆繊維について、主に引抜靭性の約60%の減少によって引き起こされる、全体プルアウト靭性の約30%の減少を測定した。PDDA/(PSS/LDH)25の剥離靭性は、ベア繊維ほど顕著に高くなかった。より厚い被膜は、IFSSが不十分であるため剥離靭性の段階的な減少を示す。剥離と関係する靭性の量および繊維の引き抜きを比較する場合、被覆繊維強靭化の主な原因は、剥離と関連することが明らかである。被覆繊維の全体的なプルアウト靭性の約70%は、剥離機構から生じるが、ベア繊維に関してはより50%に近い。
【0156】
炭素繊維表面改質
糊抜きされていない炭素繊維の表面を改質して、被膜と繊維との間の引力を増加させる経路として、繊維表面の酸化を行った。実際、炭素繊維表面上の酸素を含有する基は特にカルボキシル基を脱プロトン化して、高pHにおいてマイナスに帯電した表面をもたらす。一方、炭素繊維表面の第四級末端アミン表面改質も、プラスに帯電した表面に対する経路として調査した。
【0157】
酸素プラズマ処理炭素繊維
炭素繊維表面を酸化する間、繊維の機械特性を保持するため、糊抜きされていない炭素繊維の表面を低圧酸素プラズマ処理によって処理した。50sccmの酸素流入速度のもと、プラズマに対する3つの異なる曝露時間、すなわち30秒間、5分間、および20分間を調査した。処理表面の形態学と組成の両方を分析し、処理していない繊維のものと比較した。
【0158】
繊維の表面粗さの定性的比較をSEMによって行った。炭素繊維の製造プロセスから生じるそれらの表面に存在する隆起の特徴(小円鋸歯状)の増幅によって、繊維表面の粗さの明らかな増加が観察された。最長5分間処理した場合、粗さがわずかに増加するように見えるが、一方で、20分間等のより長い曝露時間に対しては大幅に上昇し始める。
【0159】
予想通り、pH10(ナノ構造被膜のLbL積層に使用されたpH)におけるプラズマ処理繊維のゼータ電位は、ベア繊維よりも顕著にマイナスであることがわかった(図6)。処理繊維の流動ゼータ電位の絶対値の改善は、5分より長いプラズマ曝露時間については顕著に増加しないようであった。
【0160】
ベア炭素繊維と並んで5分間処理した繊維の表面化学をXPSによって調査した(図7)。さらに、追加の酸化工程を、プラズマ処理繊維をKMnOの溶液に浸漬することによって導入した。ヒドロキシル基の変換によって、この追加の液相は、それらの表面に存在するカルボキシル基の数を増加させると予想される。
【0161】
異なる種類の繊維に対するXPSスペクトルの酸素ピークの幾つかの変化が観察された。実際に、酸素ピークの高さは、プラズマ処理の後、さらにはKMnO4に浸漬された処理繊維について増加するように見える(図8)。
【0162】
酸素フローのもとでの低圧プラズマによる炭素繊維表面の酸化は、酸素を含有する基の含有量の増加をもたらした。9.1%と比較した11%の酸素原子比を、プラズマ処理された繊維およびベア繊維に対してそれぞれ測定した。
【0163】
【表3】
【0164】
繊維の表面に存在する酸素を含有する基のうちで、C=Oカルボニル基の相対的な割合は、プラズマ処理の後に67.3%から54.5%にわずかに減少されるようである。KMnO4中で繊維をさらに酸化させることによって、表面の酸素原子の割合は、約65.9%のC=Oカルボニル基の比を伴って約65.9%と測定され、ヒドロキシル基のカルボニル基への変換の成功を確認した。
【0165】
次いで、それらの面電荷密度に対するプラズマ処理された炭素繊維のKMnO4中での酸化の影響を、炭素繊維のゼータ電位の測定により評価した(図9)。pH10において、-58mVの流動ゼータ電位を測定し、これは、単にプラズマ処理された繊維と比較して、40%超の改善を表す。改質炭素繊維に対して測定された高い流動ゼータ電位値は、先に使用されたヒドロキシル化ガラス繊維のものに類似する。
【0166】
改質炭素繊維に成膜された被膜形態学
改質炭素繊維の束に対してPDDA/(PSS/LDH)の成膜に成功した。一貫した厚みを有する均質なPDDA/(PSS/LDH)被膜を、繊維横断面のSEM像で観察した。
【0167】
改質炭素繊維の単繊維プルアウト試験による界面層特性評価
ベア繊維と並んで、異なるナノ構造被膜厚で被覆された全ての処理された繊維を、プルアウト試験を使用して、未処理の炭素繊維と同様に試験した。プルアウト試験の荷重変位曲線は、全ての被覆繊維が線形弾性荷重セグメントを有し、その後、ナノ構造界面の剪断変形のサインである、塑性変形を有することを示す(図10A)。一方、未処理のベア繊維と同様に、処理されたベア繊維は、界面の弾性荷重に続いて、塑性変形のない突発的な破損を示す。未処理の被覆繊維とは異なって、それぞれ約53.4MPaおよび32.4MPaのIFSSを有する処理されたベア繊維と比較して、エポキシマトリックスを有する処理されたPDDA/(PSS/LDH)12~25被覆繊維の界面はより強い(図10C)。
【0168】
完全な界面破破損に先立って繊維が段階的に滑動し得る剥離長さも、被覆繊維についてより高く測定された。0.17の最大の剥離長さの比は、ベア改質繊維に対する0.08と比較して、PDDA/(PSS/LDH)25被覆繊維に対して測定され、被覆ガラス繊維から得られた結果と一致する。ベア処理繊維と比較して、剥離長さ比は約95%増加された。
【0169】
剥離滑動比(debonding sliding ratio)の拡大は、より良好または同様のIFSSに加えて、ベア処理繊維に対する335J.m-2と比較して、PDDA/(PSS/LDH)25被覆され処理された繊維に対する560J.m-2に達する値で、剥離靭性における著しい改善をもたらした。全体プルアウト靭性に対する剥離靭性の比は、ベア繊維に対して測定された37%より著しく高く、被膜厚に依存して60%~75%の範囲である。
【0170】
7μm幅の炭素繊維に対するナノ構造被膜の成膜は、繊維の束に対する交互積層を使用して順調に達成された。マトリックスに埋め込まれた場合、界面破損に先立って、繊維がそれに沿って滑動し得る剥離長さが改善された。
【0171】
低圧酸素プラズマによる炭素繊維の後、KMnO溶液に接するさらなる酸化が続く表面改質が実行された。結果的に、繊維の表面電荷密度における著しい改善が達成された。表面改質炭素繊維に対して測定されたゼータ電位値は、ガラス繊維のゼータ電位値、pH10で約-58mVに類似する。次いで、ベア繊維から得られたものよりも高い(それぞれ0.09MPaおよび37.85MPa)、それぞれ約0.17MPaおよび53.40MPaの高い剥離長さおよび改善された界面剪断強度の組み合わせが達成された。約67%の増加を伴って、ベア繊維と比較して、剥離靭性における著しい改善(560J.m-2)を測定した。
【0172】
ガラス繊維と同様に、ナノ構造被膜によって被覆された未処理および処理された炭素繊維は、プルアウト試験の抜き取り部分の間にマトリックスとの低水準の摩擦を示し、界面破壊プロセスの間の被膜の剥離を示唆した。実際、プルアウト試験の引抜靭性は、被覆繊維の場合に約25%の全体プルアウト靭性を表すのに対し、ベア繊維に対しては50%近い。ベア繊維および被覆繊維の典型的な引抜靭性は、それぞれ約500J.m-2および200J.m-2である。しかしながら、複合体レベルでは、繊維剥離プロセスは引き抜きより優勢である。したがって、より高い剥離靭性および剥離長さの比は、複合靭性および破損に対する歪の改善をもたらす。
【0173】
ベアおよび被覆されたガラス繊維に対して報告される観察と同様に、2つの異なる応力場の形成挙動が、単一の炭素繊維の断片化の間に観察された。表面酸化炭素繊維が繊維フラグメントの近くで構築された強く大きな応力場を示すのに対し、一方で、被覆表面酸化炭素繊維はさほど強くはない応力場を提示し、繊維の長さに沿って広がるように見える(図11)。ナノ構造界面を有する断片化された単一の繊維複合体に生じる応力場の連続撮像は、応力場の強度の絶対的な減少に付随する繊維の滑動中の応力集中の段階的な伝播を証明することを可能とする。改質炭素繊維/エポキシマトリックス界面の約74%のIFSSにおける著しい改善は、ナノ構造界面を有さない系と比較して、PDDA/(PSS/LDH)25のナノ構造界面を付加する際の単繊維プルアウト試験によって証明された。したがって、約25%の歪で繊維断片化の飽和に達する間にIFSSの改善を確認するため、単繊維フラグメンテーション試験を行った。各単繊維複合モデルの平均フラグメント長さ(l)を決定するため、フラグメント長さを測定した。212±11μmおよび137±9μmの平均フラグメント長さを、ベアおよび被覆された表面酸化炭素繊維モデルについてそれぞれ測定した。被覆されたおよびベア繊維のフラグメント長さのヒストグラムおよび累積分布をプロットすることによって、被覆繊維のフラグメント長さがより短い長さへとシフトすることが明らかとなる(図11)。283±14μmおよび182±12μmの臨界フラグメント長さ(lc)はKelly-Tysonモデルを使用して控除された。これらの臨界フラグメント長さにおける両方のモデルに対する持続的な定引張力を仮定することにより、臨界フラグメント長さの間の比は、IFSSに関してなされた改善に直接関連する。したがって、2つの単繊維複合体のフラグメンテーション試験は、ナノ構造界面を有する複合体の場合にIFSSの約56%の増加を示し、単繊維プルアウト試験から導かれる結論に十分一致している。
【0174】
未処理のおよび処理された被覆炭素繊維から得られた系の機械特性を、対照の系のものと共に下記表に提示する。
【0175】
【表4】
【0176】
ガラス繊維と同様に、酸素プラズマ処理(5分間)され、KMnO4溶液に浸漬されたPDDA/(PSS/LDH)25で被覆された炭素繊維から最も良好な結果が得られた。IFSS、剥離長さ比、したがって剥離靭性における改善が達成された。
【0177】
所与の繊維およびナノプレートレット系に対する構造の最適化に対する例を、下に挙げる。
【0178】
式(3)の分析的解像度は、プレートレットのアスペクト比(複数の場合もある)の関数として相割合の要件(90:10)を考慮に入れると、繊維の直径と最大プレートレット幅との間の直接的な関係をもたらす。式(3)と式(5)の両方から得られた最大のプレートレット幅は、繊維径の関数としてプロットされ得る(図13)。
【0179】
プレートレット異方性の増加(より高いs)と同様に、繊維径の減少も、より小さな値へとプレートレット最大幅をシフトする(図13A)。典型的には、強化繊維の直径は、5μm~15μm(それぞれ、炭素繊維およびガラス繊維に対して5μm~10μmおよび10μm~15μm)の範囲にある。所与のプレートレットアスペクト比では、強化繊維を被覆するのに最も適した、狭い範囲の許容可能な寸法が存在する。この直径範囲内では、図13Bの濃く陰影がつけられた領域は、式(5)に記載されるように、1.5nmの固定されたポリマー層(例えば分子自己組織化によって得られる)に対するプレートレットサイズを強調し、最大プレートレット寸法、約13.5nm×135nmおよび21.5nm×215nm(厚さ×幅)を、6μmおよび15μmの繊維径にそれぞれ使用するべきである。図13B中のより薄い陰影がついた領域は、より厚いポリマー層を使用することができる場合に使用することができるプレートレット寸法の範囲を強調する(式(3))。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図12
図13A
図13B