(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】熱伝導性プラスチック
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20220720BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20220720BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K3/34
C08K9/06
(21)【出願番号】P 2020139650
(22)【出願日】2020-08-20
(62)【分割の表示】P 2018152695の分割
【原出願日】2013-12-18
【審査請求日】2020-09-23
(32)【優先日】2012-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2013-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513010468
【氏名又は名称】グラーツヴェルケ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】クリューバー、 ディルク
(72)【発明者】
【氏名】クラヴァ、 ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】ヒルガース、 トールステン
(72)【発明者】
【氏名】シュツィヴェイト、 ロベルト
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-500385(JP,A)
【文献】特開平11-293094(JP,A)
【文献】特開2007-311628(JP,A)
【文献】特開2000-63670(JP,A)
【文献】特開2012-153774(JP,A)
【文献】Journal of Geophysical Research,1971年,Vol.76, No.5,1278-1308頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
C09K5/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂又はエポキシ樹脂であるプラスチック材料と、60重量%から80重量%の藍晶石である添加剤と、を含む組成物であって、前記添加剤は、d50粒径が2μmから20μmであり、前記藍晶石は熱伝導率
を高めるための粒状の藍晶石であり、前記プラスチック材料はポリアミド樹脂からなる、組成物。
【請求項2】
前記添加剤がシラン処理されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
60重量%から80重量%の藍晶石である前記添加剤と、前記プラスチック材料と、を
混合する工程を含む、請求項1
または請求項2に記載の組成物を調製するプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性プラスチック材料に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は、様々な用途向けに広く普及した材料である。プラスチック材料は、良好な成形性、良好な絶縁性能、および許容可能な強度という特徴を有する。
【0003】
プラスチック材料は、典型的には低い熱伝導率を示す。プラスチック材料の典型的な熱伝導率は、約0.2から0.3W/mKの範囲内である。
【0004】
一般原則として、プラスチック材料に他の材料を充填して、その性質を変えることが知られている。多くの材料がこの目的に好適である。例えば、窒化ホウ素は熱伝導率に影響を与えるために利用されるが、それは、プラスチック材料に充填するために使用されると、熱伝導率を2倍超に高めることができる。伝導率を高めるために使用される充填剤は、比較的大量に加えられ、そのため、機械的性質、色、密度などに加えて、値段が重要な役割を果たす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、プラスチック組成物において望ましい性質を得るための充填剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、プラスチック材料ならびに、ネソケイ酸塩、金属ケイ素、およびこれらの混合物から選択される20から80重量%の添加剤を含む熱伝導性組成物により達成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】異なる倍率でのPA6および藍晶石試料3の顕微鏡写真である。
【
図2】異なる倍率でのPA6および藍晶石試料3の顕微鏡写真である。
【
図3】異なる倍率でのPA6および藍晶石試料3の顕微鏡写真である。
【
図4】異なる倍率でのPA6および藍晶石試料3の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
そのため、本発明によると、プラスチック材料は、ネソケイ酸塩または金属ケイ素またはこれらの混合物から選択され、組成物の20から80重量%の量で含まれる添加剤と混合される。30から80重量%の量が好ましい。さらに、組成物は、残りの組成物の大部分を占めるプラスチック材料を含む。プラスチック材料の量は、好ましくは、15から70%の範囲内である。プラスチック材料に加えて、他の補助剤、特に着色剤、耐衝撃性改良剤なども存在し得る。
【0009】
本発明の一実施形態において、ネソケイ酸塩は、アルミノケイ酸塩、特にアルモケイ酸塩である。特に好ましいネソケイ酸塩は、藍晶石である。
【0010】
用語「ネソケイ酸塩」は、シリケートアニオンが単離したSiO4四面体からなるケイ酸塩を指すように使用され、すなわちSiO4四面体はSi-O-Si結合により相互接続していない。
【0011】
この区分のケイ酸塩には、柘榴石およびかんらん石の群の重要な造岩鉱物、ジルコン、ならびに経済的または岩石学的に重要なアルモケイ酸塩である紅柱石、珪線石、藍晶石、および十字石、ならびに黄玉がある。
【0012】
SiO4多原子アニオンの簡単な構造により、ネソケイ酸塩の性質には顕著な異方性がない。ネソケイ酸塩は、立方晶系、正方晶系、三方晶系、六方晶系、または斜方晶系であることが多く、ほとんどが等軸晶を形成する。この区分の鉱物はほとんどが硬く、高い屈折率および比較的高い密度を有する。
【0013】
好適なプラスチック材料には、エラストマー、熱可塑性または熱硬化性ポリマー、特に、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ならびにこれらの混合物およびコポリマーから選択されるプラスチック材料がある。
【0014】
コポリマーには、異なる基本的化学構造を持つプレポリマーまたはモノマーが重合された変形体がある。それらには、ターポリマーとも呼ばれる、3種以上の物質の混合物もある。
【0015】
特に好ましい実施形態において、添加剤の組み合わせ、例えば異なるネソケイ酸、またはネソケイ酸塩と金属ケイ素の混合物が利用され、あるいは、例えば、3種以上の異なるネソケイ酸を混合でき、あるいは、数種のネソケイ酸を金属ケイ素と混合できる。
【0016】
添加剤の好適な粒径は、約1から50μmの範囲内である(d50)。「d50」は、50重量%の粒子がこの値より小さい粒径を有し、50重量%がより大きい粒径を有することを意味する。そのような粒径特性は、レーザー回折により証明できる。少なくとも2μmまたは少なくとも5μmのd50粒径が好ましい。d50粒径は、好ましくは40未満または30μm未満である。いくつかの実施形態において、粒径は、2から20μmであり、他の実施形態において、10から30μm、または10から50μmである。
【0017】
好ましい実施形態において、粒子は、比較的狭い粒径分布を示し、そのためd90/d50は3以下、または2以下である。
【0018】
本発明は、プラスチック材料を、20から80重量%、好ましくは30から80重量%の、ネソケイ酸、金属ケイ素、およびこれらの混合物から選択される少なくとも1種の添加剤と混合する工程を含む、本発明の熱伝導性組成物を調製するプロセスに関する。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明に従って利用される充填剤の比率は、40重量%以上、50重量%以上、または60重量%以上である。
【0020】
本発明は、プラスチック材料の熱伝導率を高めるための、ネソケイ酸、金属ケイ素、およびこれらの混合物から選択される添加剤の使用にさらに関する。
【実施例】
【0021】
【0022】
TREFIL 283-400 AST(登録商標;Quarzwerke社製):珪灰石、約5μmのd50
SILBOND 4000 AST(登録商標;Quarzwerke社製):方珪石、約5μmのd50
TREMICA 1155-010 AST(登録商標;Quarzwerke社製):白雲母、約5μmのd50
【0023】
窒化ホウ素、TREFIL、SILBOND、およびTREMICAは、比較材料として使用した。
【0024】
2.充填されたプラスチック材料の調製
熱可塑性材料の場合、充填剤を、押出機(Leistritz社製、ZSE 27 MAXX(登録商標))に通してポリカプロラクタム(PA6)と配合した。配合物から、射出成形(Dermag社製、Ergotech100/420-310(登録商標))により成形品を調製した。
【0025】
多目的試験片(ISO 3167 A型)
80mm×80mm×2mmのシート
熱伝導率を測定するのに要する試験片を、シートから機械で製造した。押出の方向を横切る測定では(Z方向)、d=12.7mmのディスクを、シートの中心位置から回すことにより調製した。射出の方向の熱伝導率を測定するために(X方向)、それぞれ長さ12.7mmおよび幅2mmの6つのロッドを切断しなければならず、次いで、測定用の特殊な試料ホルダー中で、それを互いに留め、90°回転した。熱硬化性ポリマーでは、真空ミキサー(PC-Laborsysteme社製、Labotop(登録商標))により、充填剤をエポキシ樹脂(Huntsman社製、Araldite CY 184(登録商標)、Aradur HY 1235(登録商標)、促進剤DY062(登録商標))に混合した。成形組成物を、寸法250mm×250mm×2mmのシートに成形し、熱硬化した。これらのパーツから、寸法約20mm×20mm×2mmの試験片をのこぎりで切り出した。
【0026】
3.測定
このように調製した試験片に対して、機械的性質および熱伝導度を測定した。
【0027】
PA 6における熱伝導率の以下の値(LFA 447 NanoFlash(登録商標)、Netzsch社製)を得た:
【0028】
【0029】
以下の混合物のうち、個別の充填剤含量に対してのみ熱伝導率を測定した:
【0030】
【0031】
データは、高い充填剤含量およびより粗い充填剤(より高いd50値)がより良好な熱
伝導率を生み出し、それらは比較材料のものより著しく良好であることを示す。方珪石に
比べて、本発明のネソケイ酸塩は明らかに柔らかく(より低いモース硬度)、そのため、
利用される装置、例えば配合機での摩耗を明らかに低減させる。
【0032】
以下は、PA6における藍晶石含有試料の機械的データである(万能引張試験機Zwi
ck/Roell社製 Z 202(登録商標);振り子衝撃試験機Zwick/Roe
ll社製 HIT 25P(登録商標)):
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
高い充填剤含量にもかかわらず、本発明の材料は良好な機械的性質を示す。充填剤が微細であるほど(d50が小さいほど)、機械的性質は良好である。
【0037】
【0038】
本発明に従って充填されたプラスチック材料は、優れた荷重たわみ温度を示す。
【0039】
63重量%の藍晶石および37重量%のエポキシ樹脂の熱硬化性混合物は、以下の性質を有した:
【0040】
【0041】
比較すると、充填されていない熱硬化性材料(100%エポキシ樹脂)は、熱伝導率がわずか0.2W/mKであった。
【0042】
SEM分析
材料を、走査型電子顕微鏡(Joel社製 JSM 7600F(登録商標))により検査した。
図1から4は、異なる倍率でPA6および藍晶石試料3(60重量%)の顕微鏡写真を示す。
【0043】
材料内に全く結合を達成していないにもかかわらず、材料が良好な熱伝導率を示すことが見出される。
本発明に係る態様は以下の態様も含む。
<1> ポリアミド樹脂又はエポキシ樹脂であるプラスチック材料と、60重量%から80重量%の藍晶石である添加剤と、を含む組成物であって、前記添加剤は、d50粒径が2μmから20μmである、熱伝導率を高めるための組成物。
<2> 数種の前記添加剤が組み合わされて利用されることを特徴とする、<1>に記載の熱伝導率を高めるための組成物。
<3> 前記添加剤がシラン処理されている、<1>または<2>に記載の熱伝導率を高めるための組成物。
<4> 60重量%から80重量%の藍晶石である前記添加剤と、前記プラスチック材料と、を混合する工程を含む、<1>から<3>のいずれか1つに記載される熱伝導率を高めるための組成物を調製するプロセス。