IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ モーメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・インクの特許一覧

特許7107636シクロジエン添加剤を使用する白金触媒ヒドロシリル化反応
<>
  • 特許-シクロジエン添加剤を使用する白金触媒ヒドロシリル化反応 図1
  • 特許-シクロジエン添加剤を使用する白金触媒ヒドロシリル化反応 図2
  • 特許-シクロジエン添加剤を使用する白金触媒ヒドロシリル化反応 図3
  • 特許-シクロジエン添加剤を使用する白金触媒ヒドロシリル化反応 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】シクロジエン添加剤を使用する白金触媒ヒドロシリル化反応
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/12 20060101AFI20220720BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20220720BHJP
   C08G 77/08 20060101ALN20220720BHJP
【FI】
C07F7/12 M
C07F7/12 P
C07F7/12 Q
C07F7/18 K
C07F7/18 S
C08G77/08
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2016572721
(86)(22)【出願日】2015-12-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-02-22
(86)【国際出願番号】 US2015065752
(87)【国際公開番号】W WO2016118256
(87)【国際公開日】2016-07-28
【審査請求日】2018-12-07
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】62/106,347
(32)【優先日】2015-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】14/737,930
(32)【優先日】2015-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506390498
【氏名又は名称】モーメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】ロイ アループ ケー.
(72)【発明者】
【氏名】ボイヤー ジュリー エル.
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-169537(JP,A)
【文献】特開昭54-76530(JP,A)
【文献】特開昭54-76529(JP,A)
【文献】特開平4-332759(JP,A)
【文献】特表2014-520904(JP,A)
【文献】特表2005-511750(JP,A)
【文献】特開2000-239390(JP,A)
【文献】D.A.de Vekki 外2名、RUSSIAN JOURNAL OF GENERAL CHEMISTRY、2004年、Vol.74、No.9、p.1321~1327
【文献】B.Marciniec 外4名、ChemCatChem、2012年、4、p.1935~1937、Supporting Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
REGISTRY STN
CAPLUS STN
CASREACT STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シリルヒドリドと(b)アルケニルシリコーンとを、(c)白金化合物、(d)シクロジエン添加剤および(e)硬化抑制剤の存在下で反応させる工程を含み、
前記白金化合物がPt(0)化合物である、架橋生成物を製造するプロセス。
【請求項2】
前記シクロジエン添加剤が次式のものである、請求項1に記載のプロセス:
【化1】
式中、R1~R8、R3'、R4'、R7'およびR8'は、独立して水素;少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む置換または非置換のアルキルまたはアリール基;アルコキシ;およびハロゲンラジカルであり;場合によってR1~R2および/またはR5~R6は一緒になって飽和または不飽和の環構造を形成してもよい。
【請求項3】
前記シクロジエン添加剤が、1,5-シクロオクタジエン;1,5-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン;1,6-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン、またはその2種以上の組み合わせから選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比が0.1:1以上2:1未満である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
記シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比が0.1:1~100:1である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記白金化合物がKarstedt触媒、Ashby触媒またはその組み合わせから選ばれる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記シリルヒドリドが次式の化合物から選ばれる、請求項1に記載のプロセス:
9 mSiHp4-(m+p)および/またはMaH bcH deH fg
式中、各R9は独立して置換または非置換の脂肪族または芳香族ヒドロカルビル基であり、Xはアルコキシ、アシルオキシ、ハロゲンまたはシラザンであり、mは1~3であり、pは1~3であり、下付き添字a、b、c、d、e、fおよびgは、シリルヒドリドのモル質量が100~100,000ダルトンの間になるように設定される値であり;Mは一官能基の式R10 3SiO1/2を表し、Dは二官能基の式R11 2SiO2/2を表し、Tは三官能基の式R12SiO3/2を表し、Qは四官能基の式SiO4/2を表し、MHはHR13 2SiO1/2を表し、THはHSiO3/2を表し、DHはR14HSiO2/2を表し;R1014の各出現は、独立してC1~C18アルキル、C1~C18置換アルキル、C6~C14アリールまたは置換アリールであり、ここで、R10~14は少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む。
【請求項8】
前記アルケニルシリコーンが少なくとも2個の不飽和基を含み、25℃で少なくとも50cpsの粘度を有する、請求項1~7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
前記アルケニルシリコーンが次式のものである、請求項1~7のいずれかに記載のプロセス:
vi abcde
式中、Mvi=R31 232SiO1/2であり;T=R33SiO3/2であり、ここでR33はR31またはR32から選ばれ;D=R3133SiO2/2であり、ここでR33はR31またはR32から選ばれ;M=R31 3SiO1/2であり;Q=SiO4/2であり;R31は、少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む、1~40の炭素を有する一価炭化水素ラジカルから独立して選択され;R32は、少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む、2~40の炭素原子を有する末端オレフィン一価炭化水素ラジカルから選択され、アルケニルシリコーンは、一鎖当たり少なくとも2個の、ヒドロシリル化に反応性の不飽和基を有し;a≧0、b≧0、d≧0、e≧0であり;a+b+c+d+eの和の範囲は、50~20,000である。
【請求項10】
前記硬化抑制剤(e)が、エチレン型不飽和アミド、芳香族型不飽和アミド、アセチレン型化合物、エチレン型不飽和イソシアナート、オレフィン型シロキサン、不飽和炭化水素ジエステル、不飽和酸の不飽和炭化水素モノエステル、共役エン-イン、ヒドロペルオキシド、ケトン、スルホキシド、アミン、ホスフィン、ホスファイト、ナイトライト、ジアジリジン、またはその2種以上の組み合わせから選ばれる、請求項1~9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項11】
白金の濃度が、100ppb~100ppmである、請求項1~10のいずれかに記載のプロセス。
【請求項12】
成分(e)が、0.001~10重量パーセントの量で存在する、請求項1~11のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
室温を超える温度に加熱することによって行われる、請求項1~12のいずれかに記載のプロセス。
【請求項14】
硬化抑制剤()の濃度が0.25重量パーセント以下である場合、成分(a)~(e)の組成物は、少なくとも2時間の作業寿命を有する、請求項1~13のいずれかに記載のプロセス。
【請求項15】
(a)シリルヒドリド、(b)アルケニルシリコーン化合物、(c)白金化合物、(d)次式の化合物であるシクロジエン添加、および(e)硬化抑制剤を含み、前記白金化合物がPt(0)化合物である、組成物:
【化2】
式中、R1~R8、R3'、R4'、R7'およびR8'は、独立して水素;少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む置換または非置換のアルキルまたはアリール基;アルコキシ;およびハロゲンラジカルであり;場合によって、R1~R2および/またはR5~R6は、一緒になって飽和または不飽和の環構造を形成していてもよい。
【請求項16】
前記シクロジエン添加剤が、1,5-シクロオクタジエン;1,5-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン;1,6-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン、またはその2種以上の組み合わせから選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比が0.1:1以上2:1未満である、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
記シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比が0.1:1~100:1である、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記白金化合物がKarstedt触媒、Ashby触媒またはその組み合わせから選ばれる、請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
前記シリルヒドリドが次式の化合物から選ばれる、請求項15~19のいずれかに記載の組成物:
9 mSiHp4-(m+p)および/またはMaH bcH deH fg
式中、各R9は独立して置換または非置換の脂肪族または芳香族ヒドロカルビル基であり、Xはアルコキシ、アシルオキシ、ハロゲンまたはシラザンであり、mは1~3であり、pは1~3であり、下付き添字a、b、c、d、e、fおよびgは、シリルヒドリドのモル質量が100~100,000ダルトンの間になるように設定される値であり;Mは一官能基の式R10 3SiO1/2を表し、Dは二官能基の式R11 2SiO2/2を表し、Tは三官能基の式R12SiO3/2を表し、Qは四官能基の式SiO4/2を表し、MHはHR13 2SiO1/2を表し、THはHSiO3/2を表し、DHはR14HSiO2/2を表し;R1014の各出現は、独立してC1~C18アルキル、C1~C18置換アルキル、C6~C14アリールまたは置換アリールであり、ここで、R10~14は少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む。
【請求項21】
前記アルケニルシリコーンが少なくとも2個の不飽和基を含み、25℃で少なくとも50cpsの粘度を有する、請求項15~19のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
前記アルケニルシリコーンが次式の化合物から選ばれる、請求項15~19のいずれかに記載の組成物:
vi abcde
式中、Mvi=R31 232SiO1/2であり;T=R33SiO3/2であり、ここでR33はR31またはR32から選ばれ;D=R3133SiO2/2であり、ここでR33はR31またはR32から選ばれ;M=R31 3SiO1/2であり;Q=SiO4/2であり;R31は、少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む、1~40の炭素を有する一価炭化水素ラジカルから独立して選択され;R32は、少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む、2~40の炭素原子を有する末端オレフィン一価炭化水素ラジカルから選択され、前記アルケニルシリコーンの組成は、一鎖当たり少なくとも2個の、ヒドロシリル化に反応性の不飽和基を有し;a≧0、b≧0、d≧0、e≧0であり;cの値は、a+b+c+d+eの和の範囲が、50~20,000になるように設定される。
【請求項23】
エチレン型不飽和アミド、芳香族型不飽和アミド、アセチレン型化合物、エチレン型不飽和イソシアナート、オレフィン型シロキサン、不飽和炭化水素ジエステル、不飽和酸の不飽和炭化水素モノエステル、不飽和無水物、共役エン-イン、ヒドロペルオキシド、ケトン、スルホキシド、アミン、ホスフィン、ホスファイト、ナイトライト、ジアジリジン、またはその2種以上の組み合わせから選ばれる硬化抑制剤(e)を含む、請求項15~22のいずれかに記載の組成物。
【請求項24】
白金の濃度が、100ppb~100ppmである、請求項15~23のいずれかに記載の組成物。
【請求項25】
成分(e)が、0.001~10重量パーセントの量で存在する、請求項15~24のいずれかに記載の組成物。
【請求項26】
請求項15~25のいずれかに記載の組成物から調製された硬化物。
【請求項27】
請求項26に記載の塗膜で少なくとも部分的に塗工された表面を有する基材。
【請求項28】
前記塗膜が前記基材の表面につなぎ留められた、請求項27に記載の基材。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2015年1月22日に出願された米国仮出願第62/106,347号の優先権および利益を主張し、その全開示は参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。本出願はまた、2014年6月13日に出願された米国仮出願第62/011,825号の優先権を主張している、2015年6月12日に出願された米国出願第14/737,930号の一部継続出願であり、その優先権および利益を主張し、その開示は参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般に、白金で触媒されるヒドロシリル化反応における改善された触媒性能のためのシクロジエン添加剤の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
シリルヒドリドと不飽和有機基との間の反応に関与するヒドロシリル化の化学は、シリコーン界面活性剤、シリコーン液およびシラン、ならびにシーラント、エラストマー、RTV、接着剤およびシリコーン系塗膜を含む多数の付加硬化生成物などの市販シリコーン生成物を製造する合成経路の基本である。通常、ヒドロシリル化反応は、白金またはロジウムの金属錯体などの貴金属触媒によって触媒されている。
【0004】
様々な貴金属錯体触媒が当該分野で公知である。例えば、特許文献1は、配位子として不飽和シロキサンを含有する白金錯体を開示している。このタイプの触媒はKarstedt触媒として公知である。文献に記載されている他の例示の白金系ヒドロシリル化触媒には、特許文献2に開示されているAshby触媒、特許文献3に開示されているLamoreaux触媒、および非特許文献1に開示されているSpeier触媒が含まれる。
【0005】
これらの貴金属化合物および錯体は、硬化技術で用いられるものを含む、ヒドロシリル化反応の触媒として広く商業上用いられているが、いくつかのはっきりとした欠点がある。現在の触媒系の1つの欠点は最終生成物にもたらされる望まれない着色である。この黄色の着色または粗生成物中のPtの沈殿は、しばしばコストがかかる追加の精製工程を必要とする。現在の触媒系の別のはっきりとした欠点は、この高価な金属のより高い装填率を必要とする、反応中の白金触媒の進行性の失活である。不飽和なCOH末端オリゴエーテルまたはポリエーテルのPtで触媒されるヒドロシリル化で見られるなお別の欠点は、SiH基を浪費し、未反応C=C結合を残し、性能上の問題の原因となり得るSiOC連結を生成する、SiHとアルコールOHとの望まれない反応である。
【0006】
この困難な事態は、低いPt装填率でより良好な触媒を行うための離型性塗工配合に対して特に深刻であり、高いライン塗工速度および非常に短いオーブン滞留時間(1~5秒)で、配合物の良好な浴寿命と合わせて、極めて速い硬化用触媒に対して恐らく最も厳しい要求がなされている。しかも、多数の種々の紙基材およびポリマー基材上での離型性能の要求を満たすためには、配合物は、高温で数秒で本質的に完全に硬化しなければならない。これらの相反する2つの要求を組み込むために、通常、高い白金装填率および高い抑制剤装填率を含む2液配合物が産業で用いられている。この現行の解決策にはいくつかのはっきりとした欠点がある。高温で急速かつ完全硬化を確実にするためには付加硬化系において高い白金触媒装填率を必要とするが、貴金属触媒のこの高い装填率はまた配合物に著しい触媒コストをもたらす。高水準の抑制剤が、触媒活性を妨害し室温で配合物の作業寿命を延ばすために用いられるが、用いられる抑制剤は、高温で白金中心から迅速に脱錯体化することができない場合があり、高温での所望の架橋反応を遅らせる場合がある。
【0007】
貴金属が高価であるため、これらの白金金属に由来する触媒は、シリコーン配合物のコストのかなりの比率を構成し得る。最近の20年間にわたり、白金を含む貴金属に対する世界需要が急激に上がり、価格を数百倍高く押し上げ、それによって効果的であってもより低い触媒装填率への必要性を促している。シリコーン産業では、改善された安定性の白金触媒を必要としている。この改善された安定性により、多数のヒドロシリル化についてPt触媒の装填率を低下させ、かつ反応器中のサイクル時間を短縮し収率を改善することができる。
【0008】
ヒドロシリル化反応における予備形成されたPt-COD錯体(COD=1,5-シクロオクタジエン)の使用は、以前に例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6、非特許文献2、および非特許文献3に報告されている。PtCODCl2、PtCODMe2およびPtCODPh2は市販されており、ヒドロシリル化の触媒としてのその使用は長年の間公知である。Royらは、PtCODCl2からの一連のPtCOD(SiR32化合物の調製を報告している(非特許文献4;および特許文献7)。とりわけ、これらのCODPtSi2錯体の調製には、CODが水素化反応および異性化(1,4-CODおよび1,3-COD)反応の両方に失われるので、ヒドロシリル化触媒作用にインサイチューで調製されたときですら厳密にPt1当量当たり、COD少なくとも3当量の使用を必要とする。COD/Ptのこの決定的な化学量論は特許文献7およびJACS刊行物の両方において叙述されている。さらに、JACS刊行物に報告されるように、Pt当たり1CODのみの使用は、識別可能なCOD-Pt種をもたらさなかった。
【0009】
付加硬化反応において予備形成されたPt(II)シクロオクタジエン触媒の使用が報告されている。PtCODPh2の使用は、特許文献8に放射線硬化系における使用について報告されている。一般式PtCOD(アルキニル)2およびPt(COD)(ウレイレン)を含む錯体が、硬化性シリコーンゴム組成物における触媒として引用されている(例えば特許文献9、特許文献10)。しかし、これらの白金II錯体は、有機溶液およびシリコーン配合物中での溶解性に乏しい。クロロホルムまたはジクロロメタンなどの塩素系溶剤が触媒を溶解するために用いられる。そのような塩素系溶剤によって提起された健康問題および環境問題に加えて、この塩素系溶剤また非常に揮発性であり、配合の難問を提起する。
【0010】
添加剤としてのCODの使用は、アルキンとヒドロクロロシランのみのヒドロシリル化において、ビスシリル化生成物の量を減少させることが特許文献11に示されている。また、(ノルボルナジエン)PtCl2および(ジシクロペンタジエン)PtCl2などの白金の他のシクロジエン錯体は、公知で市販されているが、やはり、これらの後者のジエン錯体が、SpeierまたはKarstedtなどの触媒を超える利益をもたらすとは知られていない。
【0011】
SpeierおよびKarstedtなどの産業上主力の触媒が、特に高い使用温度で凝集によって部分的に失活の傾向があるので、シリコーン産業では、改善された安定性の白金触媒を必要としている。活性な触媒の改善された安定性により、Pt触媒装填率を低下させることができる。改善された安定性に加えて、高温で急速な活性化および高いヒドロシリル化活性を示す触媒が特に求められる。本発明は、これらの必要性に対する1つの解決策をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第3,775,452号
【文献】米国特許第3,159,601号
【文献】米国特許第3,220,972号
【文献】特開昭54076530A号
【文献】特開昭54076529A号
【文献】欧州特許第472438号
【文献】米国特許第6,605,734号
【文献】国際公開第92/10529
【文献】欧州特許出願公開第0994159号
【文献】米国特許第7,511,110号
【文献】米国特許第5,563,287号
【文献】米国特許第7,259,220号
【文献】米国特許第7,326,761号
【文献】米国特許第7,507,775号
【文献】米国特許第3,419,593号
【文献】米国特許出願公開第2012/0244088号
【文献】米国特許出願公開第2012/0245249号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Speier,J.L,Webster J.A.and Barnes G.H.,J.Am.Chem.Soc.79,974(1957)
【文献】L.Lewisら,Organometallics,1991,10,3750-3759
【文献】P.Pregosinら,Organometallics,1988,7,1373-1380
【文献】Roy,Aroop K.;Taylor,Richard B.J.Am Chem.Soc,2012,124,9510-9524
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ヒドロシリル化反応において白金触媒を安定させるシクロジエン添加剤の使用を記載する。シクロジエン添加剤が、様々な不飽和化合物およびシランを含むヒドロシリル化反応における使用に適切であることが見いだされた。安定化は、比較的少量のシクロジエン添加剤を使用して達成することができる。また、シクロジエン添加剤の使用により、ヒドロシリル化反応において白金装填率を減少させることができる。ここで驚いたことに、シクロオクタジエンなどのシクロジエン添加剤を、ヒドロシリル化反応において白金触媒を安定させるために使用できることが見いだされた。安定化は、例えば、ヒドロシリル化反応において低装填率で白金が使用できること、ヒドロシリル化生成物の着色の改善、および/またはプロセス中に起こる副反応の減少によって観察することができる。使用されるシクロジエン添加剤には、1,5-シクロオクタジエンを含むことができる。
【0015】
本発明者らは、ここで予想外にも、添加剤としてのCODなどのシクロジエンの使用が、1:1および2:1もの低いシクロジエン:Pt比でさえ、SpeierまたはKarstedtなどの普通のPt触媒と組み合わせて、ヒドロシリル化反応において活性な白金触媒を安定させるのを助け、低水準のPt使用、着色低減、副生成物の減少および反応時間の短縮などの、非常に望ましい触媒作用の改善をもたらすことを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0016】
一態様において、本発明は、(a)シリルヒドリドと(b)アルケニルシリコーンとを、(c)白金化合物、(d)シクロジエンおよび(e)場合によって硬化抑制剤の存在下で反応させる工程を含む、架橋生成物を製造するプロセスを提供する。
【0017】
別の態様において、本発明は、(a)シリルヒドリド、(b)アルケニルシリコーン化合物、(c)白金化合物、(d)次式の化合物であるシクロジエン、および(e)場合によって抑制剤を含む組成物を提供する:
【化1】
式中、R1~R8、R3'、R4'、R7'およびR8'は、独立して水素;少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む置換または非置換のアルキルまたはアリール基;アルコキシ;およびハロゲンラジカルであり;場合によって、R1~R2および/またはR5~R6は、一緒になって飽和または不飽和の環構造を形成していてもよい。
【0018】
一実施形態において、ジエンが、1,5-シクロオクタジエン;1,5-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン;1,6-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン、またはその2種以上の組み合わせを含む、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0019】
一実施形態において、シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比が2:1未満である、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0020】
一実施形態において、シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比が約0.1:1~約2:1である、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0021】
一実施形態において、白金化合物がPt(0)化合物であり、シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比が約0.1:1~約100:1である、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0022】
一実施形態において、白金化合物がKarstedt触媒、Ashby触媒またはその組み合わせから選ばれる、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0023】
一実施形態において、シリルヒドリドが次式の化合物から選ばれる、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される:
9 mSiHp4-(m+p)および/またはMaH bcH deH fg
式中、各R9は独立して置換または非置換の脂肪族または芳香族ヒドロカルビル基であり、Xはアルコキシ、アシルオキシ、ハロゲンまたはシラザンであり、mは1~3であり、pは1~3であり、下付き添字a、b、c、d、e、fおよびgは、シリルヒドリドのモル質量が100~100,000ダルトンの間になるようなものであり;Mは一官能基の式R10 3SiO1/2を表し、Dは二官能基の式R11 2SiO2/2を表し、Tは三官能基の式R12SiO3/2を表し、Qは四官能基の式SiO4/2を表し、MHはHR13 2SiO1/2を表し、THはHSiO3/2を表し、DHはR14HSiO2/2を表し;R1014の各出現は、独立してC1~C18アルキル、C1~C18置換アルキル、C6~C14アリールまたは置換アリールであり、ここで、R10~14は少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む。
【0024】
一実施形態において、アルケニルシリコーンが少なくとも2個の不飽和基を含み、25℃で少なくとも50cpsの粘度を有する、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0025】
一実施形態において、アルケニルシリコーンが次式である、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される:
vi abcde
式中、Mvi a=R31 232SiO1/2であり;Tb=R33SiO3/2であり、ここでR33はR31またはR32から選ばれ;Dc=R3133SiO2/2であり、ここでR33はR31またはR32から選ばれ;Md=R31 3SiO1/2であり;Qe=SiO4/2であり;R31は、少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む、1~40の炭素を有する一価炭化水素ラジカルから独立して選択され;R32は、少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む、2~40の炭素原子を有する末端オレフィン一価炭化水素ラジカルから選択され、アルケニルシリコーンは、一鎖当たり少なくとも2個の、ヒドロシリル化に反応性の不飽和基を与えるようなものであり;a≧0、b≧0、d≧0、e≧0であり;a+b+c+d+eの和の範囲は、50~20,000である。
【0026】
一実施形態において、抑制剤(e)が、エチレン型不飽和アミド、芳香族型不飽和アミド、アセチレン型化合物、エチレン型不飽和イソシアナート、オレフィン型シロキサン、不飽和炭化水素ジエステル、不飽和酸の不飽和炭化水素モノエステル、共役エン-イン、ヒドロペルオキシド、ケトン、スルホキシド、アミン、ホスフィン、ホスファイト、ナイトライト、ジアジリジン、またはその2種以上の組み合わせから選ばれる、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0027】
一実施形態において、白金の濃度が、約100パーツ・パー・ビリオン(ppb)~約100ppmである、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0028】
一実施形態において、成分(e)が、約0~約10重量パーセントの量で存在する、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0029】
一実施形態において、成分(a)~(e)が単一組成物で提供される、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0030】
一実施形態において、反応が約10秒以下で完了する、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0031】
一実施形態において、室温を超える温度で加熱することによって行われる、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0032】
一実施形態において、抑制剤(c)の濃度が約0.25重量パーセント以下である場合、成分(a)~(e)の組成物が少なくとも2時間の作業寿命を有する、先のいずれかの実施形態のプロセスが提供される。
【0033】
別の態様において、本発明は、(a)シリルヒドリド、(b)アルケニルシリコーン化合物、(c)白金化合物、(d)次式の化合物であるシクロジエン、および(e)抑制剤を場合によって含む組成物を提供する:
【化2】
式中、R1~R8、R3'、R4'、R7'およびR8'は、独立して水素;少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む置換または非置換のアルキルまたはアリール基;アルコキシ;およびハロゲンラジカルであり;場合によって、R1~R2および/またはR5~R6は、一緒になって飽和または不飽和の環構造を形成していてもよい。
【0034】
一実施形態において、ジエンが、1,5-シクロオクタジエン;1,5-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン;1,6-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン、またはその2種以上の組み合わせを含む、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される。
【0035】
一実施形態において、シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比が2:1未満である、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される。
【0036】
一実施形態において、シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比が約0.1:1~約2:1である、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される。
【0037】
一実施形態において、白金化合物がPt(0)化合物であり、シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比が約0.1:1~約100:1である、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される。
【0038】
一実施形態において、白金化合物がKarstedt触媒、Ashby触媒またはその組み合わせから選ばれる、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される。
【0039】
一実施形態において、シリルヒドリドが次式の化合物から選ばれる、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される:
9 mSiHp4-(m+p)および/またはMaH bcH deH fg
式中、各R9は独立して置換または非置換の脂肪族または芳香族ヒドロカルビル基であり、Xはアルコキシ、アシルオキシ、ハロゲンまたはシラザンであり、mは1~3であり、pは1~3であり、下付き添字a、b、c、d、e、fおよびgは、シリルヒドリドのモル質量が100~100,000ダルトンの間になるようなものであり;Mは一官能基の式R10 3SiO1/2を表し、Dは二官能基の式R11 2SiO2/2を表し、Tは三官能基の式R12SiO3/2を表し、Qは四官能基の式SiO4/2を表し、MHはHR13 2SiO1/2を表し、THはHSiO3/2を表し、DHはR14HSiO2/2を表し;R1014の各出現は、独立してC1~C18アルキル、C1~C18置換アルキル、C6~C14アリールまたは置換アリールであり、ここで、R10~14は少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む。
【0040】
一実施形態において、アルケニルシリコーンが少なくとも2個の不飽和基を含み、25℃で少なくとも50cpsの粘度を有する、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される。
【0041】
一実施形態において、アルケニルシリコーンが次式の化合物から選ばれる、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される:
vi abcde
式中、Mvi a=R31 232SiO1/2であり;Tb=R33SiO3/2であり、ここでR33はR31またはR32から選ばれ;Dc=R3133SiO2/2であり、ここでR33はR31またはR32から選ばれ;Md=R31 3SiO1/2であり;およびQe=SiO4/2であり;R31は、少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む、1~40の炭素を有する一価炭化水素ラジカルから独立して選択され;R32は、少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む、2~40の炭素原子を有する末端オレフィンの一価炭化水素ラジカルから選択される。アルケニルシリコーンの組成は、一鎖当たり少なくとも2個の、ヒドロシリル化に反応性の不飽和基を与えるようなものであり;a≧0、b≧0、d≧0、e≧0であり;特にcの値は、a+b+c+d+eの和の範囲が、50~20,000になるように、架橋した材料の所望の特性および属性によって決定される。
【0042】
一実施形態において、エチレン型不飽和アミド、芳香族型不飽和アミド、アセチレン型化合物、エチレン型不飽和イソシアナート、オレフィン型シロキサン、不飽和炭化水素ジエステル、不飽和酸の不飽和炭化水素モノエステル、不飽和無水物、共役エン-イン、ヒドロペルオキシド、ケトン、スルホキシド、アミン、ホスフィン、ホスファイト、ナイトライト、ジアジリジン、またはその2種以上の組み合わせから選ばれる硬化抑制剤(e)を含む、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される。
【0043】
一実施形態において、白金の濃度が、約100パーツ・パー・ビリオン(ppb)~約100ppmである、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される。
【0044】
一実施形態において、成分(e)が、約0~約10重量パーセントの量で存在する、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される。
【0045】
一実施形態において、成分(a)~(e)が単一組成物で提供される、先のいずれかの実施形態の組成物が提供される。
【0046】
さらに別の態様において、本発明は、先のいずれかの実施形態による組成物から調製された硬化物を提供する。
【0047】
一実施形態において、硬化物はシクロジエン成分(d)を含む。
【0048】
なお別の態様において、本発明は、先のいずれかの実施形態の組成物から形成された塗膜を提供する。
【0049】
別の態様において、本発明は先のいずれかの実施形態の組成物から形成された塗膜で少なくとも部分的に塗工された表面を有する基材を提供する。一実施形態において、塗膜は基材の表面につなぎ留められる。
【0050】
硬化プロセスおよび組成物に関して、白金化合物がPt(0)化合物である場合、シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比が変動し得ることを見いだした。一実施形態において、白金化合物がPt(0)化合物である場合、シクロジエン添加剤の合計モルと白金のモルの比は、約0.1:1~約100:1;さらに約1:1~約5:1である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、COD添加剤を含む場合、および含まない場合の反応の実行についてGC分析によって求めたメタクリル酸アリルおよびSiMeCl2Hの反応の生成物収率を示すグラフである。
図2図2は、COD添加剤を含む場合、および含まない場合の反応の実行について、メタクリル酸アリルおよびSiMeCl2Hの反応の経時的な生成物収率を示すグラフである。
図3図3は、COD添加剤を含む場合、および含まない場合の反応の実行についてGC分析によって求めたメタクリル酸アリルおよびSi(OEt)3Hの反応について生成物収率を示すグラフである。
図4図4は、CODを含まない場合、およびCODとPtの2つの相異なる比を含む場合に実行されたアリルグリシジルエーテルおよびSi(OEt)3Hの反応の生成物混合物の分析を示すグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0052】
本発明は、白金触媒およびシクロジエン化合物の存在下で、シリルヒドリド、および少なくとも1個の不飽和基を含有する化合物を含有する組成物のヒドロシリル化のためのプロセスおよび組成物を提供する。
【0053】
本発明のシクロジエンは式Iによって表される:
【化3】
式中、R1~R8、R3'、R4'、R7'およびR8'は、独立してH、または少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含有する置換もしくは非置換のアルキルまたはアリール基である。R1~R8はまたハロゲン化物またはアルコキシ基を独立して表してもよい。さらに、R1~R2およびR5~R6は、一緒になって、または独立して環を形成してもよい。式Iの適切な化合物の例としては、1,5-シクロオクタジエン、1,5-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン、1,6-ジメチル-1,5-シクロオクタジエン、およびその2種以上の混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
シクロジエン添加剤は、シクロジエン添加剤と白金のモル当量比がPt(II)またはPt(IV)化合物およびプレ触媒について3:1未満となるように提供される。一実施形態において、当該比は2:1、1.5:1、1:1、0.5:1、さらに0.1:1である。一実施形態において、シクロジエンと白金の比は約0.1:1~約2:1;約0.25:1~約1.5:1;さらに約0.5:1~約1:1である。シクロジエンと白金の比は特定の範囲内の端数の比をすべて含むことが認識されよう。本プロセスに提供されるシクロジエンの合計モルは、シクロジエン-白金錯体に加えて、プロセス中に存在する錯体形成していない任意の追加のシクロジエンを含む。このように、本プロセスが触媒としてシクロジエン-白金錯体を用いる場合、錯体形成していない追加のシクロジエンは、シクロジエン-白金錯体と別のプロセスに加えられてもよく、またはシクロジエン-白金錯体との混合物としてプロセスに提供されてもよい。触媒がシクロジエン-白金錯体である場合、錯体形成していないシクロジエンが既に白金と錯体形成したものと同じであることが望ましいが、これは厳密には必要ではない。Pt(0)化合物およびプレ触媒に関しては、シクロジエン添加剤とPtのモル当量比が0.1:1~約100:1となるように、シクロジエン添加剤が提供される。一実施形態において、シクロジエン添加剤とPt(0)のモル当量比は、約1:1~約75:1;約2:1~約50:1;約3:1~約25:1;さらに約5:1~約15:1である。さらに他の実施形態において、シクロジエン添加剤とPt(0)のモル当量比は、約1:1~約10:1;約2:1~約7.5:1;さらに約3:1~約5:1である。特定のPt(0)系および適用について、実用的な使用可能な比は、望ましくない遅い反応速度、臭気および他の負の作用などの有害な作用の兆候によって決定される。
【0055】
本反応に用いられるシリルヒドリドおよび/またはヒドロシロキサンは特に限定されない。例えば、次式の化合物を含む、ヒドロシランまたはヒドロシロキサンから選ばれるいずれかの化合物であってもよい:
9 mSiHp4-(m+p)またはMaH bcH deH fg
式中、各R9は独立して置換または非置換の脂肪族または芳香族ヒドロカルビル基であり、Xはハロゲン化物、アルコキシ、アシルオキシまたはシラザンであり、mは1~3であり、pは1~3であり、M、D、TおよびQは、シロキサン命名法において通常の意味を有する。ただし、Xがハロゲン化物である場合、不飽和基質はアルキンではない。下付き添字a、b、c、d、e、fおよびgは、シロキサン型反応体のモル質量が100~100,000ダルトンの間になるようなものである。一実施形態において、「M」基は一官能基の式R10 3SiO1/2を表し、「D」基は二官能基の式R11 2SiO2/2を表し、「T」基は三官能基の式R12SiO3/2を表し、「Q」基は四官能基の式SiO4/2を表し、「MH」基はHR13 2SiO1/2を表し、「TH」はHSiO3/2を表し、「DH」基はR14HSiO2/2を表す。R1014の各出現は、独立してC1~C18アルキル、C1~C18置換アルキル、C6~C14アリールまたは置換アリールであり、ここで、R1014は、少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む。
【0056】
本発明はまた、カルボシロキサン連結を含むヒドリドシロキサンとのヒドロシリル化を提供する(例えば、Si-CH2-Si-O-SiH、Si-CH2-CH2-Si-O-SiHまたはSi-アリーレン-Si-O-SiH)。カルボシロキサンは、-Si-(ヒドロカルビレン)-Si-および-Si-O-Si-官能基の両方を含み、ここで、ヒドロカルビレンは置換または非置換の二価のアルキレン、シクロアルキレンまたはアリーレン基を表す。カルボシロキサンの合成は、特許文献12;特許文献13および特許文献14に開示され、そのすべては、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。カルボシロキサン連結を含むヒドリドシロキサンの例示の式は、R151617Si(CH218xSiOSiR1920(OSiR2122yOSiR2324Hであり、式中、R15~R24は、独立してメチル、エチル、シクロヘキシルまたはフェニルなどの一価アルキル、シクロアルキルまたはアリール基である。さらに、R1524もまた独立してHであってもよい。下付き添字xは、1~8の値を有し、yは0~10の値を有し、好ましくは0~4である。ヒドリドカルボシロキサンの具体例は、(CH33SiCH2CH2Si(CH32OSi(CH32Hである。
【0057】
本明細書において使用される場合、「不飽和」は、1個または複数の二重または三重結合を含む化合物を指す。一実施形態において、不飽和は炭素-炭素二重結合または三重結合を含む化合物を指す。ヒドロシリル化反応において用いられる少なくとも1個の不飽和官能基を含む不飽和化合物は、一般に限定されず、特定の目的または意図した適用のために要望に応じて不飽和化合物から選ぶことができる。不飽和化合物はモノ不飽和化合物であってもよく、または、2個以上の不飽和官能基を含むことができる。一実施形態において、不飽和基は脂肪族型不飽和官能基であってもよい。不飽和基を含有する適切な化合物の例としては、アルキル封鎖アリルポリエーテル、ビニル官能化アルキル封鎖アリルまたはメチルアリルポリエーテルなどの不飽和ポリエーテル;末端不飽和アミン;アルキン(ヒドロクロロシラン以外);C2~C45の直鎖または分岐オレフィン、一実施形態においてアルファオレフィン;末端不飽和ジエン;アリルグリシジルエーテルおよびビニルシクロヘキセン-オキシドなどの不飽和エポキシド;末端不飽和アクリラートまたはメタクリラート;不飽和アリールエーテル;脂肪族型不飽和芳香族炭化水素;トリビニルシクロヘキサンなどの不飽和シクロアルカン;ビニル官能化ポリマーまたはオリゴマー;ビニル官能化および/または末端不飽和アリル官能化シランおよび/またはビニル官能化シリコーン;不飽和脂肪酸;不飽和脂肪酸エステル;またはその2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。そのような不飽和基質の例示的な例としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-オクタデセン、スチレン、アルファ-メチルスチレン、シクロペンテン、ノルボルネン、1,5-ヘキサジエン、ノルボルナジエン、ビニルシクロヘキセン、アリルアルコール、アリル末端ポリエチレングリコール、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、アリルグリシジルエーテル、アリル末端イソシアナートまたはアクリラートプレポリマー、ポリブタジエン、アリルアミン、メタリルアミン、ウンデセン酸メチル、アセチレン、フェニルアセチレン、ビニル側鎖またはビニル末端ポリシロキサン、ビニルシクロシロキサン、ビニルシロキサン樹脂、他の末端不飽和アルケニルシランまたはシロキサン、ビニル官能性の合成無機塩類(mineral)または天然無機塩類などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
ヒドロシリル化反応に適切な不飽和ポリエーテルには、下記一般式を有するポリオキシアルキレンが含まれる:
25(OCH2CH2z(OCH2CHR27w-OR26(式III);または
26O(CHR27CH2O)w(CH2CH2O)z-CR28 2-C≡C-CR28 2-(OCH2CH2z(OCH2CHR27)Ow26(式IV);または
2C=CR28CH2O(CH2CH2O)z(CH2CHR27O)wCH2CR28=CH2(式V)
式中、R25は、ビニル、アリル、メタリル、プロパルギルまたは3-ペンチニルなどの2~10の炭素原子を含有する不飽和有機基を示す。不飽和がオレフィンの場合、円滑なヒドロシリル化を容易にするために望ましくは末端型である。しかし、不飽和が三重結合である場合、それは内部型であってもよい。R26は、独立して水素、例えば1~8の炭素原子のアルキル基CH3、n-C49、t-C49またはi-C817などのアルキル基、およびアシル基、例えばCH3COO、t-C49COO、CH3C(O)CH2C(O)Oなどのベータ-ケトエステル基、またはトリアルキルシリル基である。R27およびR28は、C1~C20アルキル基などの一価炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、イソプロピル、2-エチルヘキシル、ドデシルおよびステアリル、またはアリール基、例えば、フェニルおよびナフチル、またはアルカリール基、例えば、ベンジル、フェニルエチルおよびノニルフェニル、またはシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシルおよびシクロオクチルである。R28はまた水素であってもよい。最も好ましいR27基およびR28基はメチルである。zの各出現は0~100(両端含む)であり、wの各出現は0~100(両端含む)である。zおよびwの好ましい値は1~50(両端含む)である。
【0059】
一実施形態において、不飽和化合物はアルケニルシリコーンから選ばれる。アルケニルシリコーンはヒドロシリル化に反応性であるアルケニル官能性シランまたはシロキサンであってもよい。アルケニルシリコーンは、環式、芳香族または末端不飽和のアルケニルシランまたはシロキサンであってもよい。アルケニルシリコーンは、特定の目的または意図した適用のために要望に応じて選ばれてもよい。一実施形態において、アルケニルシリコーンは少なくとも2個の不飽和基を含み、25℃で少なくとも約50cpsの粘度を有する。一実施形態において、アルケニルシリコーンは、25℃で少なくとも約75cps;25℃で少なくとも約100cps;25℃で少なくとも200cps;さらに25℃で少なくとも約500cpsの粘度を有する。本明細書および特許請求の範囲中のどこか他のところのように、ここでも、数値を組み合わせて新規または未開示の範囲を形成してもよい。
【0060】
一実施形態において、アルケニルシリコーンは次式の化合物である:
アルケニルシリコーンは次式である:
vi abcde
式中、Mvi a=R31 232SiO1/2であり;Tb=R33SiO3/2であり、ここで、R33はR31またはR32から選ばれ;Dc=R3133SiO2/2であり、ここで、R33はR31またはR32から選ばれ;Md=R31 3SiO1/2であり;Qe=SiO4/2であり;R31は、少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む、1~40の炭素を有する一価炭化水素ラジカルから独立して選択され;R32は、少なくとも1個のヘテロ原子を場合によって含む、2~40の炭素原子を有する末端オレフィン一価炭化水素ラジカルから選択される。アルケニルシリコーンの組成は、一鎖当たり少なくとも2個の、ヒドロシリル化に反応性の不飽和基を与えるようなものであり;a≧0、b≧0、d≧0、e≧0であり;特にcの値は、a+b+c+d+eの和の範囲が50~20,000になるように、架橋した材料の所望の特性および属性によって決定される。当業者は、生成物の所望の機械的、熱的および他の特性が生じるように選ばれる特定のアルケニルシリコーンおよび架橋剤を決定することができる。末端不飽和アルケニルシリコーン材料は、塗膜およびエラストマーなどの硬化した生成物または架橋した生成物を形成するのに特に適切である。独立して選択される2種以上のこれらアルケニルシリコーンが、所望の特性を与えるために硬化配合物において混和物中に使用されてもよいこともまた理解される。
【0061】
本技術の態様によると、不飽和化合物が末端アルキンである場合、シリルヒドリドはハロシラン以外のシリルヒドリドである。
【0062】
本プロセスも、例えばシリル化ポリウレタンを調製するために使用することができる。これには、白金触媒およびシクロジエン添加剤の存在下で末端不飽和ポリウレタンをシリルヒドリドと接触させる工程を含んでもよい。
【0063】
ヒドロシリル化プロセスは白金触媒の存在下で行われる。本プロセスにおいて用いられる白金触媒は特に限定されず、白金ハロゲン化物、Ashby触媒またはKarstedt触媒などの白金シロキサン錯体、シクロアルカジエン-白金錯体、または当該分野で知られている様々な他の通常の白金化合物または錯体を含むがこれらに限定されない様々な白金化合物から選ぶことができる。
【0064】
一実施形態において、白金触媒は、白金ハロゲン化物、白金ハロゲン化物と末端脂肪族不飽和を有する有機シリコン化合物との反応生成物、またはその2種以上の組み合わせを含む。適切な白金ハロゲン化物には、二塩化白金、二臭化白金、四塩化白金、塩化白金酸(すなわちH2PtCl6.6H2O)、テトラクロロ白金(II)酸カリウム(すなわちK2PtCl4)などが含まれるが、これらに限定されない。特に適切な白金ハロゲン化物は塩化白金酸である。本発明において有用な白金触媒には、また、白金ハロゲン化物と末端脂肪族不飽和を有する有機シリコン化合物との反応生成物を含む。そのような触媒は、例えば、Willingの特許文献15に記載され、これは、本プロセスにおいて有用な白金触媒の教示のために参照によって組み込まれる。白金触媒は、例えば、塩化白金酸のエタノールまたは2-プロパノール溶液と場合によって様々な比でのエーテル性溶媒との組み合わせの反応生成物、または二塩化白金または塩化白金酸と1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンとの反応生成物であってもよい。
【0065】
一実施形態において、白金触媒は、Pt(R30)X2の式によって記載されるシクロアルカジエン-白金錯体を含み、式中、R30は約6~20の炭素原子を含むシクロアルカジエンであり、各Xは独立して選択されるハロゲン原子であり得る。一実施形態において、シクロアルカジエンは約6~10の炭素原子を含む。シクロアルカジエン-白金錯体に適切なシクロアルカジエンには、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエン、シクロデカジエン、ジシクロペンタジエンおよびノルボルナジエンが含まれるが、これらに限定されない。1,5-シクロオクタジエンは、シクロアルカジエン-白金錯体に特に適切なシクロアルカジエンである。一実施形態において、白金触媒は、R30が1,5-シクロオクタジエンである、式Pt(R30)Cl2によって記載される。
【0066】
本プロセスにおいて使用される白金触媒の濃度は変動し得る。一実施形態において、白金の濃度は、約100パーツ・パー・ビリオン(ppb)~約100ppm;約500ppb~約70ppm;約1ppm~約50ppm;さらに約10ppm~約30ppmである。本明細書および特許請求の範囲中のどこか他のところのように、ここでも、数値を組み合わせて新規または代替の範囲を形成することができる。
【0067】
白金触媒は、取り扱い易さを改善するために溶媒に溶解されてもよい。溶媒は限定されるものではなく、極性でも無極性であってもよい。有害な作用がなく、白金触媒の溶解を容易にする限り、いかなる溶媒も、本発明の方法において使用することができる。
【0068】
ヒドロシリル化のプロセスのための温度範囲は、-50℃~250℃、好ましくは0℃~150℃である。様々な反応器を本発明のプロセスにおいて使用することができる。本プロセスは、周囲圧力、準周囲圧力(sub-ambient)または高周囲圧力(supra-ambient)でバッチ反応または連続反応として実行することができる。一実施形態において、本反応は不活性雰囲気下に遂行される。選択は試薬および生成物の揮発性などの要因によって決定される。試薬が周囲温度および反応温度で液体である場合、連続的に撹拌されるバッチ式反応器が好都合に使用される。これらの反応器はまた、試薬を連続投入し、脱水素シリル化反応生成物またはヒドロシリル化反応生成物を連続的に引き出して運転することができる。ガス状または揮発性のオレフィンおよびシランの場合には、流動層反応器、固定層反応器およびオートクレーブ反応器はより好適であり得る。
【0069】
硬化した生成物または架橋した生成物を形成するための組成物およびプロセスは、硬化抑制剤(e)を含んでもよい。適切な抑制剤の例としては、エチレン型不飽和アミド、芳香族型不飽和アミド、アセチレン型化合物、エチレン型不飽和イソシアナート、オレフィン型シロキサン、不飽和炭化水素ジエステル、不飽和酸の不飽和炭化水素モノエステル、不飽和無水物、共役エン-イン、ヒドロペルオキシド、ケトン、スルホキシド、アミン、ホスフィン、ホスファイト、ナイトライト、ジアジリジンなどが挙げられるが、これらに限定されない。組成物に特に適切な抑制剤はアルキニルアルコールおよびマレアートである。
【0070】
組成物において使用される抑制剤の量は重要でなく、室温で上記の白金で触媒されるヒドロシリル化反応を遅らせるが、中程度の高温、すなわち25℃から室温を超える125℃の温度で前記反応を妨げない任意の量であり得る。使用される任意の特定の抑制剤の所望量が、白金金属含有触媒の濃度および種類、成分aおよびbの性質および量に依存するので、室温での規定の浴寿命を得るための抑制剤の具体的な量は示唆することができない。成分(e)の範囲は、0~約10重量%、約0.001重量%~2重量%、さらに約0.12~約1重量%であってもよい。本明細書および特許請求の範囲中のどこか他のところのように、ここでも、数値を組み合わせて新規または代替の範囲を形成することができる。一実施形態において、組成物は抑制剤成分(e)を含まなくてもよい。
【0071】
組成物は、場合によって、充填剤、充填剤処理剤、可塑剤、スペーサー、増量剤、殺生剤、安定剤、難燃剤、表面改質剤、顔料、老化防止添加剤、レオロジー添加剤、腐食防止剤、界面活性剤またはその組み合わせなどの1種または複数の追加の構成成分をさらに含んでもよい。
【0072】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明はまた、上記の方法から製造された組成物にも関する。これらの組成物は、シリルヒドリドと、少なくとも1個の不飽和基を有する化合物のヒドロシリル化生成物を含む。本発明のプロセスによって製造されるヒドロシリル化生成物は、カップリング剤用のオルガノシラン、接着剤、農業用およびパーソナルケア用途の製品、ならびにポリウレタンフォームを安定させるためのシリコーン界面活性剤などのシリコーン材料の合成に使用され、ならびに、例えばエラストマー、塗膜、例えば成形用の剥離ライナー塗膜などのシリコーン材料として使用される。塗膜として提供される場合、組成物は、基材の表面の少なくとも一部に塗工される。塗膜組成物で塗工される表面の量は、特定の目的または意図した用途のために要望に応じて選択することができる。離型塗膜は、離型塗膜が基材に塗工される積層体の一部である。一般に、離型塗膜に適切な基材には、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどからなるものなどのポリマーフィルムが含まれるが、これらに限定されない。塗膜組成物に本触媒を使用すると、約10秒以下;約7秒以下、さらに約5秒以下を含む短期間で特に良好な硬化がもたらされることを見いだした。一実施形態において、硬化は、約1~約10秒、1~約5秒、さらに約1~2秒で達成することができる。さらに、硬化組成物は、良好な結合を示し、例えば紙を含む基材につなぎ留めることができる。
【0073】
以下の実施例は、例証するように意図されるが、本発明の範囲を決して限定するものではない。特に明記しない限り、すべての部およびパーセントは重量に基づき、すべての温度は摂氏である。すべての特許、他の刊行物および本出願において参照された米国特許出願は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0074】
反応および操作は、標準シュレンク管(Schlenk-line)技法を使用して窒素下に実施した。塩化白金酸をヘキサクロロ白金酸のアルコール系溶液として用いた。CODを直接またはアルコール系溶液のいずれかとして使用した。3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール(S61)、1-エチニル-1-シクロヘキサノール(ECH)、アリルポリエーテル、MDHM、SilForce(登録商標)SL6020およびSL6900をMomentive Performance Materials向けに得た。他のすべての出発材料は市販供給源から購入し、さらなる精製をせず受け取ったままで使用した。
【0075】
実施例1:ジエン添加剤を使用する、メタクリル酸アリル(AMA)とSiMeCl2Hとのヒドロシリル化
四ツ口丸底フラスコに、添加漏斗、注射器ポート、アルコール温度計、磁気撹拌棒、およびドライアイス凝縮器を頂部に取り付けた直線型水凝縮器を取り付けた。添加漏斗にN2注入口を装備し、N2管は、反応の前にバブラーに付けたt字型ピースで分割した。系をN2で洗い流し、好適な抑制剤を仕込んだ。SiMeCl2H(16.5g、0.140mol)を添加漏斗に仕込んだ。丸底フラスコに、メタクリル酸アリル(19.7g、0.16mol)、塩化白金酸(2ppmのPt)、およびシクロオクタジエン(COD)のエタノール溶液(0.39μmol、Ptと等モル)を仕込み、ここで、CODは添加剤として使用した。反応混合物を80℃に加熱した。およそ1mLのクロロシランを加え、反応を発熱についてモニターした。発熱反応が検知されたら、80℃~90℃の間の反応温度を維持するようにクロロシランを徐々に加えた。クロロシラン添加が完了した後、反応を80℃に90分間加熱した。90分後、熱を取り除き、周囲温度で生成物を褐色瓶にデカントし、N2雰囲気下に保存した。物質をGCおよびNMR分光法によって分析した。
【0076】
比較例1:ジエン添加剤を使用しない、メタクリル酸アリルとSiMeCl2Hとのヒドロシリル化
反応は、COD溶液を反応に加えなかった以外は、実施例1と同様に実行した。図1は、2ppmの白金でCOD添加剤を含む場合、および含まない場合の反応の実行についてGC分析によって評価した生成物収率を示す。図2は、COD添加剤を含む場合、および含まない場合の生成物収率を経時的に示す。クロロシラン添加が完了した直後(t初期)、クロロシラン添加完了の15分後(t15)、およびクロロシラン添加完了の90分後(t最終)に、アリコートを取りGCによって分析した。
【0077】
実施例2:ジエン添加剤を使用して、メタクリル酸アリルとSiMeCl2Hとのヒドロシリル化を、反応生成物の着色を評価するために実行した。
着色させる抑制剤を反応に加えなかった以外は、上述したものと同様に5ppmのPt装填率で反応を実行した。生成物の着色は、様々な量のCOD当量を用いて実行したメタクリル酸アリルとSiMeCl2Hとの反応について評価した。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例3:ジエン添加剤を使用する、メタクリル酸アリルとSi(OEt)3Hとのヒドロシリル化
四ツ口丸底フラスコに、磁気撹拌棒、ドライアイス凝縮器を頂部に取り付けた直線形凝縮器、注射器ポート、液体添加漏斗および温度計を装備し、N2下に置いた。反応容器に、抑制剤およびメタクリル酸アリル(15mL、0.11mol)、塩化白金酸溶液(2ppmのPt)、COD溶液(Ptと等モル)を仕込んだ。添加漏斗にトリエトキシシラン(19mL、0.1mol)を仕込んだ。反応を90℃に加熱し、次いで、トリエトキシシラン(3~5体積%)のアリコートを加え、反応を発熱についてモニターした。発熱を確認した後、85℃~95℃の間に反応を保持する速度で、トリエトキシシランの残りを添加漏斗によって加えた。トリエトキシシランの最終添加の後、反応を90℃で90分間加熱した。結果として得られた生成物をGCおよび1H NMRによって分析した。4つの別々の実行の生成物の平均ハーゼン値は、111Pt/Coであった。
【0080】
比較例2:ジエン添加剤を使用しない、メタクリル酸アリルとSi(OEt)3Hとのヒドロシリル化
反応は、COD溶液を反応に加えなかった以外は、実施例3と同様に実行した。4つの別々の実行の生成物の平均ハーゼン値は、171Pt/Coであった。図3は、2ppmの白金で、実施例3および比較例2のGC分析によって求めた生成物収率を比較している。
【0081】
実施例4:ジエン添加剤を使用する、アリルポリエーテルとMDHMとのヒドロシリル化
四ツ口丸底フラスコに、磁気撹拌棒、添加漏斗、注射器ポート、アルコール温度計、およびN2流を組み込むt字型ピースを取り付けた直線型水凝縮器を装備した。系をN2で洗い流し、MDHM(5mL、0.02mol)およびメトキシポリエチレングリコールアリルエーテル(39.4g、0.1mol)を仕込んだ。残存するMDHM(15mL、0.06mol)を添加漏斗に仕込んだ。丸底フラスコにCOD溶液(1.76μmol、Ptと等モル)を仕込んだ。反応混合物を80℃に加熱した。塩化白金酸溶液(6ppmのPt)を混合物に加えた。120℃未満の反応温度を維持するようにMDHMを徐々に加えた。MDHMの添加が完了した後、反応を60分間80℃に加熱した。物質をNMR分光法によって分析した。3つの別々の実行の生成物の平均ハーゼン値は、32Pt/Coであった。
【0082】
比較例3:ジエン添加剤を使用しない、アリルポリエーテルとMDHMとのヒドロシリル化
反応は、COD溶液を反応に加えなかった以外は、実施例4と同様に実行した。3つの別々の実行の生成物の平均ハーゼン値は、78Pt/Coであった。
【0083】
実施例5:ジエン添加剤を使用する、アリルグリシジルエーテル(AGE)とSi(OEt)3Hとのヒドロシリル化
四ツ口丸底フラスコに、磁気撹拌棒、凝縮器、セプタム、液体添加漏斗および熱電対を装備し、続いて、N2で不活性化した。反応容器にAGE(44.6g、0.39mol)を仕込み、液体添加漏斗にトリエトキシシラン(53.4g、0.33mol)を仕込んだ。続いて、5体積%のトリエトキシシランを反応容器に加え、混合物を90℃に加熱した。氷酢酸(44μL)および適正量のCOD溶液を注射器によって注入し、続いて塩化白金酸触媒溶液(250ppbのPt)を注入した。反応の発熱を確認した後、トリエトキシシランの残りを、85℃~95℃の間の反応温度の保持に向けた速度で添加漏斗を介して加えた。トリエトキシシランの最終添加の後、温度を90℃でさらに2時間維持した。結果として得られた生成混合物をGCによって%生成物面積について分析した。
【0084】
比較例4:ジエン添加剤を使用しない、アリルグリシジルエーテルとSi(OEt)3Hとのヒドロシリル化
反応は、COD溶液を反応に加えなかった以外は、実施例5と同様に実行した。図4は、実施例5(1および2当量のCODで)および比較例4の生成物収率を示す。
【0085】
実施例6:ジエン添加剤を使用する、メタクリル酸アリルとSiCl3Hとのヒドロシリル化
三ツ口丸底フラスコに、セプタムを介して供給するシリンジポンプ、加熱マントルを調節する温度調節器に接続した熱電対、磁気撹拌棒、および鉱油バブラーへのN2注入口を頂部に装備した直線型水凝縮器を取り付けた。系をN2で洗い流し、丸底フラスコに、メタクリル酸アリル(11.37g、0.09mol)および好適な抑制剤を仕込んだ。SiCl3Hをシリンジポンプに仕込んだ。シリンジポンプを0.14mL/分の供給速度に設定し、合計供給体積は8.41mL(11.27g、0.08mol)に設定した。反応混合物を80℃に加熱した。80℃で、反応混合物に、塩化白金酸溶液(3.3ppmのPt)、CODのエタノール溶液(0.38μmol、Ptと等モル)を仕込み、ここでCODは添加剤として使用した。クロロシラン供給を開始し、1時間かけて加えた。発熱が見られ、添加開始7分後に94.7℃の最高温度に達した。クロロシランの添加が完了した後、反応混合物を周囲温度に冷却し、GCによって分析した。反応混合物の組成は75.3%の生成物であった。
【0086】
比較例5:ジエン添加剤を使用しない、メタクリル酸アリルとSiCl3Hとのヒドロシリル化
三ツ口丸底フラスコに、セプタムを介して供給するシリンジポンプ、加熱マントルを調節する温度調節器に接続した熱電対、磁気撹拌棒、および鉱油バブラーへのN2注入口を頂部に装備した直線型水凝縮器を取り付けた。系をN2で洗い流し、丸底フラスコに、メタクリル酸アリル(11.37g、0.09mol)および好適な抑制剤を仕込んだ。SiCl3Hをシリンジポンプに仕込んだ。シリンジポンプを0.14mL/分の供給速度に設定し、合計供給体積は8.41mL(11.27g、0.08mol)に設定した。反応混合物を80℃に加熱した。80℃で、反応混合物に塩化白金酸溶液(6.5ppmのPt)を仕込んだ。クロロシラン供給を開始し、1時間かけて加えた。発熱が見られ、添加開始5分後に90.2℃の最高温度に達した。クロロシランの添加が完了した後、反応混合物を周囲温度に冷却し、GCによって分析した。反応混合物の組成は73.2%の生成物であった。
【0087】
実施例7~8:OH末端メタリルポリエーテルとカルボシロキシヒドリドとのヒドロシリル化
実施例7および8、ならびに比較例6~7は、カルボジシロキサン、(CH33SiCH2CH2Si(CH32OSi(CH32Hによる、未封鎖メタリルポリエーテルの白金で触媒される無溶媒ヒドロシリル化において、1,5-シクロオクタジエン(COD)の効果的な使用を例証する。反応生成物は、コンタクトレンズを作製するのに有用な材料の合成における中間体である(特許文献16および特許文献17を参照)
【0088】
カルボジシロキサンは、特許文献12に開示されているとおり合成した。ポリエーテルはメタリルアルコールの4量体エトキシラートおよび10量体エトキシラート(four and ten ethoxylates)であった。4量体エトキシラートは248.32の分子量を有する。10量体エトキシラートは512.64の分子量を有する。各ポリエーテルは、CODを添加し、および添加しないで反応させた。Karstedt触媒は各実験で白金供給源であった。
【0089】
【表2】
【0090】
各反応は、温度調節した加熱マントル、機械式撹拌機、還流凝縮器およびクライゼン接続を取り付けた500mLの四ツ口丸底フラスコ中で行った。セラムキャップを第4の口を覆って付けた。熱電対および窒素注入口管をクライゼン接続に固定した。
【0091】
メタリル基との異性化がないので、等モル量のカルボジシロキサンおよびポリエーテルを使用した。各実験において、フラスコ中の環境を窒素の緩やかな流れで不活性にしながら、カルボジシロキサンおよびポリエーテルを反応フラスコに加え、激しく撹拌した。試料を少し注射器によって抜き取り、FTIRによって分析して910cm-1のSiH振動の初期吸光度を確定した。次いで、温度を80℃に上げ、白金触媒をセラムキャップを通して注射器によって注入した。発熱が観察され、温度は100℃で一晩(19時間の合計反応時間)維持した。実施例7および8において、7マイクロリットルのCOD(およそ1:1比のCOD:Pt)を80℃で注射器によって加えた直後に触媒を注入した。
【0092】
KOH試験およびFTIRによる分析の両方を、SiH官能基が、反応混合物中に間隔をおいて、また一晩加熱した後にまだ存在するかを判断するために行った。終了時、KOH試験を比較例6および7の反応混合物に適用したとき、水素が発生した。各試料のFTIRスペクトルはまた、910cm-1に明白な吸収を示し、これは未反応のSiHが存在したことを示した。対照的に、実施例7および8の反応混合物は、試験して両分析のSiHが陰性であった。
【0093】
反応生成物は、揮発分を真空内で除去し、その後、13C、1Hおよび29SiNMRによって特性評価した。29SiNMRは、比較例7におけるSiH官能基の変換が、メタリル基との所望の反応(Si-C結合形成)のみによらず、ポリエーテルの末端ヒドロキシル基との反応(Si-O-C結合形成)にもよることを示した。Si-O-C結合形成は、対照(比較例7)において約20パーセントで、実施例8では無視できた。このように、添加剤としてのCODの使用は、メタリル(methyallyl)ポリエーテルのヒドロシリル化を完了し、SiOC副生成物の形成を抑制するのに効果的であった。
【0094】
上の記載は多くの詳細を含むが、これらの詳細は、本発明の範囲に対する限定として解釈されるべきではなく、単にその好ましい実施形態の例証として解釈されるべきである。当業者は、本明細書に添付の特許請求の範囲によって定義されるように、本発明の範囲および精神の範囲内である他の多数の可能な変形を構想することができる。
【0095】
実施例9~44:試行塗工機配合物のための一般手順
バケツに、10kgのSL6900、600gのSL6020Dおよび27gの3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール(0.25重量%のS61およびSi-H/Siビニル1.8/1)を仕込んだ。配合物を混合し、2kgのアリコートに分割した。この2kgの配合物に、CODの1重量%キシレン溶液のアリコートを加えた。実行の直前にKarstedt触媒を配合物に加え、材料を混合した。全配合物を試行塗工機で実行した。塗膜を、抽出物%、塗工重量によって、滲みおよび移行試験と共に分析した。抽出物%を求めるために、新たに塗工した硬化材料の100cm2試料を、10mLの溶媒を含むバイアルに24時間装入した。抽出物%は原子吸光分析によって求めた。各実行の抽出物%は重複して実施した。実行はVerso紙上、250oFまたは290oFで行った。
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
【表5】
【0099】
上の記載は多くの詳細を含むが、これらの詳細は、本発明の範囲に対する限定として解釈されるべきではなく、単にその好ましい実施形態の例証として解釈されるべきである。当業者は、本明細書に添付の特許請求の範囲によって定義されるように、本発明の範囲および精神の範囲内である他の多数の可能な変形を構想することができる。
図1
図2
図3
図4