(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】二次電池電極用組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20220720BHJP
C08F 216/38 20060101ALI20220720BHJP
C08F 226/06 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F216/38
C08F226/06
(21)【出願番号】P 2017105880
(22)【出願日】2017-05-29
【審査請求日】2020-01-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2016194178
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 綾子
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】境 周一
【審判官】平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196755(JP,A)
【文献】特開2012-195289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C08F 216/38
C08F 226/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質、バインダー及び有機溶媒を含有する二次電池電極用組成物であって、
前記バインダーは、
ポリビニルアセタール樹脂を含有し、
前記ポリビニルアセタール樹脂は、ラクタム構造を有する構成単位を含み、
前記ラクタム構造は、三員環、四員環、五員環及び六員環から選択される少なくとも1つの環状構造を有する
ことを特徴とする二次電池電極用組成物。
【請求項2】
ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基を有する構成単位の含有量に対するラクタム構造を有する構成単位の含有量の比(ラクタム構造を有する構成単位の含有量/水酸基を有する構成単位の含有量)が、0.0001~1.50である、請求項1記載の二次電池電極用組成物。
【請求項3】
ラクタム構造は、下記式(1)に示す構造であることを特徴とする請求項1記載の二次電池電極用組成物。
【化1】
式(1)中、nは1~4の整数、R
1は単結合又は炭素数1~10の飽和或いは不飽和の炭化水素を表す。
【請求項4】
ラクタム構造の環状構造を構成する炭化水素は、無置換であるか、又は、水素原子が炭素数1~10の飽和若しくは不飽和炭化水素で置換されていることを特徴とする請求項2又は3記載の二次電池電極用組成物。
【請求項5】
ポリビニルアセタール樹脂は、ラクタム構造を有する構成単位の含有量が0.01~50モル%であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の二次電池電極用組成物。
【請求項6】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度が20~70モル%であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の二次電池電極用組成物。
【請求項7】
ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が45~95モル%であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の二次電池電極用組成物。
【請求項8】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が15モル%以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の二次電池電極用組成物。
【請求項9】
ポリビニルアセタール樹脂は、重合度が250~4000であることを特徴する請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の二次電池電極用組成物。
【請求項10】
ポリビニルアセタール樹脂を活物質100重量部に対して、0.01~20重量部含有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の二次電池電極用組成物。
【請求項11】
更に、ポリフッ化ビニリデン樹脂を含有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の二次電池電極用組成物。
【請求項12】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載の二次電池電極用組成物を用いてなることを特徴とする二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質の分散性、接着性に優れるとともに、長期に渡って適度な粘度を維持することができ、高容量の二次電池を作製することが可能な二次電池電極用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型ビデオカメラや携帯型パソコン等の携帯型電子機器の普及に伴い、移動用電源としての二次電池の需要が急増している。また、このような二次電池に対する小型化、軽量化、高エネルギー密度化の要求は非常に高い。
このように、繰り返し充放電が可能な二次電池としては、従来、鉛電池、ニッケル-カドミウム電池等の水溶系電池が主流であるが、これらの水溶系電池は、充放電特性は優れているが、電池重量やエネルギー密度の点では、携帯型電子機器の移動用電源として充分満足できる特性を有しているとはいえない。
【0003】
そこで、二次電池として、リチウム又はリチウム合金を負極電極に用いたリチウム二次電池の研究開発が盛んに行われている。このリチウム二次電池は、高エネルギー密度を有し、自己放電も少なく、軽量であるという優れた特徴を有している。
リチウム二次電池の電極は、通常、活物質とバインダーを溶媒と共に混練し、活物質を分散させてスラリーとした後、このスラリーをドクターブレード法等によって集電体上に塗布し乾燥して薄膜化することにより形成されている。
【0004】
現在、特に、リチウム二次電池の電極用のバインダーとして最も広範に用いられているのが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)に代表されるフッ素系樹脂である。
しかしながら、フッ素系樹脂をバインダーとして用いた場合、可撓性を有する薄膜を作製可能な一方で、集電体と活物質の結着性が劣るため、電池製造工程時に活物質の一部又は全部が集電体から剥離、脱落する恐れがあった。また、電池の充放電が行われる際、活物質内ではリチウムイオンの挿入、放出が繰り返され、それに伴い、集電体から活物質の剥離、脱落の問題が起こり得るという問題もあった。
【0005】
このような問題を解決するため、PVDF以外のバインダーを使用することも試みられている。しかしながら、従来の樹脂を用いた場合、電極に電圧を負荷した際に、樹脂の分解や劣化が生じてしまうという問題が新たに生じていた。このような樹脂の劣化が生じた場合は、充放電容量が低下したり、電極の剥離が発生したりするという問題が生じていた。
【0006】
これに対して、特許文献1には、酸性官能基含有モノマー及びアミド基含有モノマーの共重合体からなる非水二次電池用バインダーが記載されている。
しかしながら、このようなバインダーを使用する場合、活物質の分散性が低くなり、電極用組成物の粘度が高くなることから、ペースト濾過に時間を要し工程時間が長くなるとともに、塗工時に塗工むらが発生しやすいものとなっていた。また、電極中の活物質密度が低下することから、得られる電池の容量が不充分なものとなっていた。
更に、このような樹脂を用いた場合、電極の柔軟性が低いものとなり、ひび割れや、集電体からの剥がれが発生しるため、電池耐久性の低下を招くという問題があった。
【0007】
特許文献2には、所定量の芳香族ビニル単位、ニトリル基単位、親水性基単位及び直鎖アルキレン単位を含有する二次電池正極用バインダーの組成物が開示されている。
しかしながら、このような組成物を用いた場合でも、活物質の分散性が低くなり、電極用組成物の粘度が高くなることから、ペースト濾過に時間を要し工程時間が長くなるとともに、塗工時に塗工むらが発生しやすいものとなっていた。特に、電極用組成物の調製後、時間を経過した場合に、粘度の上昇が顕著となっていた。
更に、電極中の活物質密度が低下することから、得られる電池の容量が不充分なものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5708872号公報
【文献】特開2013-179040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、活物質の分散性、接着性に優れるとともに、長期に渡って適度な粘度を維持することができ、高容量の二次電池を作製することが可能な二次電池電極用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、活物質、バインダー及び有機溶媒を含有する二次電池電極用組成物であって、前記バインダーは、ポリビニルアセタール樹脂を含有し、前記ポリビニルアセタール樹脂は、ラクタム構造を有する構成単位を含む二次電池電極用組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、二次電池電極形成用のバインダーとして、所定の構成単位を有するポリビニルアセタール樹脂を用いることで、活物質の分散性、接着性に優れるとともに、長期に渡って適度な粘度を維持することができ、バインダーの添加量が少ない場合でも高容量の二次電池を作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の二次電池電極用組成物は、活物質を含有する。
本発明の二次電池電極用組成物は、正極、負極のいずれの電極に使用してもよく、また、正極および負極の両方に使用してもよい。従って、活物質としては、正極活物質、負極活物質がある。
【0013】
上記正極活物質としては、例えば、リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムマンガン酸化物等のリチウム含有複合金属酸化物が挙げられる。具体的には例えば、LiNiO2、LiCoO2、LiMn2O4等が挙げられる。
なお、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
上記負極活物質としては、例えば、従来から二次電池の負極活物質として用いられている材料を用いることができ、例えば、球状天然黒鉛、天然グラファイト、人造グラファイト、アモルファス炭素、カーボンブラック、または、これらの成分に異種元素を添加したもの等が挙げられる。
【0015】
本発明の二次電池電極用組成物は、導電付与剤(導電助剤)を含有することが好ましい。
上記導電付与剤としては、例えば、黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。特に、正極用の導電付与剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラックが好ましく、負極用の導電付与剤としては、アセチレンブラック、鱗片状黒鉛が好ましい。
【0016】
本発明の二次電池電極用組成物は、ポリビニルアセタール樹脂を含有する。本発明では、バインダー(結着剤)としてポリビニルアセタール樹脂を用いることで、ポリビニルアセタール樹脂の水酸基と正極活物質の酸素原子間に引力的相互作用が働き、正極活物質をポリビニルアセタール樹脂が取り囲む構造をとる。また、同一分子内の別の水酸基が導電付与剤とも引力的相互作用を及ぼし、活物質、導電付与剤間距離をある一定範囲にとどめることが出来る。このように活物質と導電付与剤を程よい距離に特徴的な構造をとることで、活物質の分散性が大幅に改善される。また、PVDF等の樹脂を用いる場合と比較して、集電体との接着性を向上させることができる。更に、溶剤溶解性に優れ、溶剤の選択の範囲が広がるという利点が得られる。
【0017】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ラクタム構造を有する構成単位を含む。
上記ポリビニルアセタール樹脂は、このような構成単位を有することで、優れた電解液への耐性、集電体との接着性、またイオン伝導性を有することができ、バインダーの添加量を減らした場合でも高容量の二次電池を製造できるという利点がある。
また、長期間保存時のように時間を経過した場合でも、粘度の上昇が起こりにくく、取扱性に優れるという利点を有する。
【0018】
本発明において、ラクタム構造とは、樹脂中にラクタム基を有することを意味する。
上記ラクタム基とは、ラクタム化合物の窒素原子に結合する水素原子やアルキル基を除去して得られる基を意味する。上記ラクタム化合物としては、例えば、カプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、N-エチルカプロラクタム、N-イソプロピルカプロラクタム、N-イソブチルカプロラクタム、N-ノルマルプロピルカプロラクタム、N-ノルマルブチルカプロラクタム、N-シクロヘキシルカプロラクタム等のN-アルキルカプロラクタム類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン、N-イソプロピル-2-ピロリドン、N-イソブチル-2-ピロリドン、N-ノルマルプロピル-2-ピロリドン、N-ノルマルブチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-ピペリドン、N-メチル-2-ピペリドン、N-エチル-2-ピペリドン、N-イソプロピル-2-ピペリドン等が挙げられる。
なお、上記ラクタム基は、例えば、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アルキル基、アルキルエステル基、アルキルアミド基、ニトロ基等の置換基やその塩で置換されていてもよい。
【0019】
上記ラクタム構造は、下記式(1)に示す構造であることであることが好ましい。
【0020】
【化1】
式(1)中、nは1~5の整数、R
1は単結合又は炭素数1~10の飽和或いは不飽和の炭化水素を表す。
【0021】
上記式(1)で表されるラクタム構造が、飽和或いは不飽和の炭化水素を介して、ラクタム基が主鎖に結合した構造を有する場合は、飽和或いは不飽和の炭化水素を介することにより主鎖の影響を受けづらい。なお、R1は、単結合であることが好ましい。
【0022】
上記R1は、単結合又は炭素数1~10の飽和或いは不飽和の炭化水素である。上記R1としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、アリーレン基等が挙げられる。
上記アルキレン基としては、直鎖状アルキレン基が好ましく、炭素数が1~6のアルキレン基が好ましい。なかでも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が好ましい。
【0023】
上記ラクタム構造は、三員環~七員環であることが好ましく、三員環、四員環、五員環及び六員環から選択される少なくとも1つの環状構造を有することがより好ましい。これにより、環状構造の立体障害により活物質や導電助剤の再凝集を阻害し、経時粘度変化率の少ないペーストを作製することができる。また、nは1~5の整数であることがより好ましい。
【0024】
上記ラクタム構造の環状構造を構成する炭化水素は、無置換であるか、又は、水素原子が炭素数1~10の飽和若しくは不飽和炭化水素で置換されていることが好ましい。
上記ラクタム構造の環状構造を構成する炭化水素の水素原子が置換されている場合、置換される水素としては、α水素、β水素が好ましい。
また、炭素数1~10の飽和若しくは不飽和炭化水素としては、メチル基、エチル基、イソブロピル基、ジメチル基、アリル基、フェニル基が好ましい。なお、置換される水素原子は1箇所であってもよく、2箇所以上であってもよい。
【0025】
上記ポリビニルアセタール樹脂におけるラクタム構造を有する構成単位の含有量の好ましい下限は0.01モル%、好ましい上限は50モル%である。上記含有量を0.01モル%以上とすることで、電極ペーストの経時安定性を維持することができ、上記含有量を50モル%以下とすることで、有機溶剤への溶解性が向上し、ペースト粘度の上昇を防止できる。上記含有量のより好ましい下限は0.05モル%、より好ましい上限は40モル%である。更に好ましい上限は30モル%である。
【0026】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール基を有する構成単位を有する。
上記ポリビニルアセタール樹脂における上記アセタール基を有する構成単位の含有量(アセタール化度)は20~70モル%であることが好ましい。上記アセタール化度を20モル%以上とすることで、溶媒への溶解性が向上し、組成物として好適に使用することができる。上記アセタール化度を70モル%以下とすることで、電解液に対する耐性が充分なものとなり、電極を電解液中に浸漬した際、樹脂成分が電解液中に溶出することを防止できる。より好ましくは30~55モル%である。更に好ましくは30~50モル%である。
なお、本明細書において、アセタール化度とは、ポリビニルアルコールの水酸基数のうち、ブチルアルデヒドでアセタール化された水酸基数の割合のことである。また、アセタール化度の計算方法は、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基が2個の水酸基からアセタール化されて形成されていることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を算出する。
【0027】
上記アセタール基を有する構成単位は、アルデヒドを用いてアセタール化することで得られる。
上記アルデヒドの炭素数(アルデヒド基を除く炭素数)の好ましい下限は1、好ましい上限は11である。炭素数を上記範囲内とすることで、樹脂の疎水性が低くなるため、精製効率が向上しNaイオンの含有量を減らすことができる。
上記アルデヒドとしては、具体的には例えば、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン等のビニル基を有するアルデヒド(ビニルアルデヒド)等が挙げられる。
また、上記アセタール基は、ブチラール基、ベンズアセタール基、アセトアセタール基、プロピオンアセタール基及びビニルアセタール基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセトアルデヒドでアセタール化された部分とブチルアルデヒドでアセタール化された部分との割合が0/100~50/50であることが好ましい。これにより、ポリビニルアセタール樹脂が柔軟になり、集電体への接着力が良好になる。より好ましくは、アセトアルデヒドでアセタール化された部分とブチルアルデヒドでアセタール化された部分の割合が0/100~20/80である。
【0029】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基を有する構成単位を有する。
上記ポリビニルアセタール樹脂における上記水酸基を有する構成単位の含有量(水酸基量)の下限は45モル%、好ましい上限は95モル%である。上記水酸基量を45モル%以上とすることで、電解液への耐性が向上し、電解液中に樹脂が溶出することを防止でき、95モル%以下とすることで、樹脂の柔軟性が向上し、集電体への接着力が充分なものとなる。
上記水酸基量のより好ましい下限は47モル%であり、より好ましい上限は80モル%である。更に好ましい下限は50モル%、更に好ましい上限は70モル%である。
【0030】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基を有する構成単位を有することが好ましい。
上記ポリビニルアセタール樹脂におけるアセチル基を有する構成単位の含有量(アセチル基量)の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は15モル%である。上記アセチル基量を0.1モル%以上とすることで、樹脂の柔軟性が向上し、集電体への接着力を充分なものすることができ、上記アセチル基量を15モル%以下とすることで、電解液への耐性が向上し、電解液へ溶出して短絡することを防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は1モル%、より好ましい上限は10モル%である。
【0031】
上記ポリビニルアセタール樹脂において、水酸基を有する構成単位の含有量に対する、ラクタム構造を有する構成単位の含有量の比率(ラクタム構造を有する構成単位の含有量/水酸基を有する構成単位の含有量)は、0.0001~1.50であることが好ましい。上記範囲内とすることで、二次電池電極用組成物の経時粘度安定性を維持することができる。
より好ましくは、0.01~0.89であり、さらに好ましくは、0.01~0.43である。
【0032】
上記ポリビニルアセタール樹脂はイオン性官能基を有していてもよい。上記イオン性官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、及び、それらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の官能基が好ましい。なかでも、カルボキシル基、スルホン酸基、それらの塩がより好ましく、スルホン酸基、その塩であることが特に好ましい。ポリビニルアセタール樹脂がイオン性官能基を有することにより、リチウム二次電池電極用組成物中において、活物質および導電助剤の分散性を特に優れたものとすることができる。
なお、上記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0033】
上記ポリビニルアセタール樹脂の重合度の好ましい下限は250、好ましい上限は4000である。上記重合度を250以上とすることで、工業的な入手が容易となる。上記重合度を4000以下とすることで、溶液粘度を低下させて、活物質を充分に分散させることが可能となる。上記重合度のより好ましい下限は280、より好ましい上限は800である。
【0034】
本発明の二次電池電極用組成物中の上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は0.2重量%、好ましい上限は5重量%である。上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量を0.2重量%以上とすることで、集電体への接着力を向上させることができ、5重量%以下とすることで、二次電池の放電容量を向上させることができる。より好ましくは、0.5~3重量%である。
【0035】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化してなるものである。
特に、上記ポリビニルアセタール樹脂を製造する方法としては、上記ラクタム構造を有する構成単位を予め有するポリビニルアルコールを用意し、その後アセタール化する方法、上記ラクタム構造を有する構成単位を有しないポリビニルアルコールをアセタール化した後、上記ラクタム構造を有する構成単位となる部分を付加する方法等が挙げられる。
【0036】
上記ラクタム構造を有する構成単位を有するポリビニルアルコールを作製する方法としては、例えば、ラクタム基含有単量体と、酢酸ビニル等のビニルエステルとを共重合した後、得られた共重合体のアルコール溶液に酸またはアルカリを添加してケン化する方法等が挙げられる。
【0037】
上記ラクタム基含有単量体としては、例えば、N-ビニル-ピロリドン、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-3-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-3-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-3-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-4-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-4-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-4-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-5-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-5-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-5-メチル-2-カプロラクタム、N-ビニル-3-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-4,5-ジメチル-2-ピロリドン、N-ビニル-3,3,5-トリメチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0038】
また、上記ラクタム構造を有する構成単位に相当する部分を付加する方法としては、例えば、上記ラクタム構造を有する構成単位を有しないポリビニルアセタール樹脂にラクタム基含有モノマー等を反応させる方法等が挙げられる。
上記ラクタム基含有モノマーとしては、N-ビニル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0039】
上記ラクタム構造を有する構成単位を有しないポリビニルアルコールは、例えば、ビニルエステルとエチレンの共重合体をケン化することにより得ることができる。上記ビニルエステルとしては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。なかでも、経済性の観点から酢酸ビニルが好適である。
【0040】
上記ポリビニルアルコールは、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン性不飽和単量体を共重合したものであってもよい。上記エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリルメタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及びそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とエチレンを共重合し、それをケン化することによって得られる末端変性ポリビニルアルコールも用いることができる。
【0041】
上記ポリビニルアルコールは、上記ビニルエステルとα-オレフィンとを共重合した共重合体をケン化したものであってもよい。また、更に上記エチレン性不飽和単量体を共重合させ、エチレン性不飽和単量体に由来する成分を含有するポリビニルアルコールとしてもよい。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とα-オレフィンを共重合し、それをケン化することによって得られる末端ポリビニルアルコールも用いることができる。上記α-オレフィンとしては特に限定されず、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレン等が挙げられる。
【0042】
本発明の二次電池電極用組成物は、上記ポリビニルアセタール樹脂に加えて、更に、ポリフッ化ビニリデン樹脂を含有していてもよい。
上記ポリフッ化ビニリデン樹脂を併用することで、電解液への耐性が更に向上し、放電容量を向上させることが出来る。
【0043】
上記ポリフッ化ビニリデン樹脂を含有する場合、上記ポリビニルアセタール樹脂とポリフッ化ビニリデン樹脂との重量比は、0.5:9.5~7:3であることが好ましい。
このような範囲内とすることで、ポリフッ化ビニリデンに著しく不足している集電体への接着力を有しながら、電解液への耐性を付与することが出来る。
より好ましい上記ポリビニルアセタール樹脂とポリフッ化ビニリデン樹脂との重量比は1:9~4:6である。
【0044】
本発明の二次電池電極用組成物におけるポリビニルアセタール樹脂の含有量は、活物質100重量部に対して好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限は20重量部である。上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量を0.01重量部以上とすることで、集電体への接着力を向上させることができ、20重量部以下とすることで、二次電池の放電容量を向上させることが可能となる。
また、本発明の二次電池電極用組成物におけるポリビニルアセタール樹脂の含有量は、導電助剤100重量部に対して、好ましい下限が0.01重量部、好ましい上限は200重量部である。
更に、本発明の二次電池電極用組成物中のバインダー全体の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は1重量%、好ましい上限は30重量%である。上記バインダーの含有量を1重量%以上とすることで、集電体への接着力を向上させることができ、30重量%以下とすることで、二次電池の放電容量を向上させることが可能となる。
【0045】
本発明の二次電池電極用組成物は、有機溶媒を含有する。
上記有機溶媒としては、上記ポリビニルアセタール樹脂を溶解させることができるものであれば特に限定されず、例えば、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、イソプロピルアルコール、N-メチルピロリドン、エタノール、蒸留水等が挙げられる。なかでも、N-メチルピロリドンが好ましい。
上記有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明の二次電池電極用組成物中の有機溶媒の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は20重量%、好ましい上限は50重量%である。上記有機溶媒の含有量を20重量%以上とすることで、粘度を低下させて、ペーストの塗工を容易にすることができ、50重量%以下とすることで、溶剤乾燥時にムラが生じることを防止できる。より好ましい下限は25重量%、より好ましい上限は40重量%である。
【0047】
本発明の二次電池電極用組成物には、上述した活物質、ポリビニルアセタール樹脂、有機溶媒以外にも、必要に応じて、難燃助剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤のような添加剤を添加してもよい。
【0048】
本発明の二次電池電極用組成物を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、上記活物質、ポリビニルアセタール樹脂、有機溶媒及び必要に応じて添加する各種添加剤をプラネタリーミキサー、ディスパー、ボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0049】
本発明の二次電池電極用組成物は、例えば、導電性基体上に塗布し、乾燥する工程を経ることで、電極が形成される。
本発明の二次電池電極用組成物を用いてなる二次電池もまた本発明の一つである。
上記二次電池としては、例えば、ニッカド電池、ニッケル水素電池、リチウム二次電池、全固体電池、燃料電池等が挙げられる。なかでも、リチウム二次電池が好ましい。
本発明の二次電池電極用組成物を導電性基体上に塗布する際の塗布方法としては、例えば、押出しコーター、リバースローラー、ドクターブレード、アプリケーターなどをはじめ、各種の塗布方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、活物質の分散性、接着性に優れるとともに、長期に渡って適度な粘度を維持することができ、高容量の二次電池を作製することが可能な二次電池電極用組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
(ポリビニルアセタール樹脂Aの合成)
下記式(2)で表されるラクタム構造を有する構成単位を有するラクタム構造含有ポリビニルアルコールA(重合度800、ケン化度98モル%、下記式(2)で表されるラクタム構造を有する構成単位の含有量[ラクタム構造含有量]5モル%、式(1)中のn=1)350重量部を純水3000重量部に加えた。その後、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸230重量部を添加した後、液温を5℃に下げてn-ブチルアルデヒド50重量部を添加しこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を30℃、3時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール樹脂Aの白色粉末を得た。
【0053】
【0054】
得られたポリビニルアセタール樹脂AをDMSO-d6(ジメチルスルホキサシド)に溶解し、13C-NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いて水酸基量、アセタール化度、アセチル基量、上記式(2)で表される構成単位の含有量[ラクタム構造含有量]を測定した。結果は、水酸基量は45モル%、アセタール化度(ブチラール化度)は48モル%、アセチル基量は2モル%、ラクタム構造含有量は5モル%であった。
【0055】
(ポリビニルアセタール樹脂B~Oの合成)
表1に示すポリビニルアルコール(種類)、アルデヒド(種類、添加量)とした以外は、ポリビニルアセタール樹脂Aと同様にして、ポリビニルアセタール樹脂B~Mを合成した。なお、ポリビニルアルコールLは、式(1)中のアミド基を有する部位が-C-N(H)-C(H)=Oである鎖状構造(R1は単結合)を有しているものを使用した。
また、ポリビニルアルコールMとしては、ラクタム構造を有しないものを使用した。
更に、ポリビニルアルコールNとしては、ラクタム構造の環状構造を構成する炭化水素の水素原子(α水素)がメチル基に置換されたものを使用した。ポリビニルアルコールOとしては、ラクタム構造の環状構造を構成する炭化水素上の2つのβ水素が、それぞれメチル基(ジメチル基)に置換されたものを使用した。
【0056】
【0057】
(実施例1)
(二次電池電極用組成物の調製)
得られたポリビニルアセタール樹脂Aを含有する樹脂溶液20重量部(ポリビニルアセタール樹脂:2.5重量部)に、活物質としてコバルト酸リチウム(日本化学工業社製、セルシードC-5H)50重量部、導電付与剤としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)を5重量部、N-メチルピロリドン26重量部を加えた。その後、シンキー社製泡取練太郎にて混合し、二次電池電極用組成物を得た。
【0058】
(実施例2~14、比較例1、2)
表2に示すポリビニルアセタール樹脂(樹脂種、添加量)とした以外は、実施例1と同様にして、二次電池電極用組成物を得た。
【0059】
<評価>
実施例及び比較例で得られた二次電池電極用組成物について以下の評価を行った。結果を表2に示した。
【0060】
(1)接着性
実施例、比較例で得られた二次電池電極用組成物については、アルミ箔に対する接着性を評価した。
アルミ箔(厚み20μm)の上に、乾燥後の膜厚が20μmとなるように電極用組成物を塗工、乾燥し、アルミ箔上に電極がシート状に形成された試験片を得た。
このサンプルを縦1cm、横2cmに切り出し、AUTOGRAPH(島津製作所社製、「AGS-J」)を用い、試験片を固定しながら電極シートを引き上げ、アルミ箔から完全に電極シートが剥離するまでに要する剥離力(N)を計測した後、以下の基準で判定した。
○:剥離力が8.0Nを超える
△:剥離力が5.0~8.0N
×:剥離力が5.0N未満
【0061】
(2)分散性
上記「(1)接着性」で得られた試験片について、JIS B 0601(1994)に基づいて表面粗さRaを測定し、電極の表面粗さを以下の基準で評価した。なお、一般的には、活物質の分散性が高いほど、表面粗さは小さくなるとされている。
◎:Raが2μm未満
○:Raが2μm以上、5μm未満
△:Raが5μm以上、8μm未満
×:Raが8μm以上
【0062】
(3)溶媒溶解性
(電極シートの作製)
離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、乾燥後の膜厚が20μmとなるように実施例及び比較例で得られたリチウム二次電池電極用組成物を塗工、乾燥して電極シートを作製した。
その電極シートを2cm角に切り出し、電極シート試験片を作製した。
【0063】
(溶出評価)
得られた試験片の重量を正確に計量し、シートに含まれる成分重量比から試験片に含まれる樹脂の重量を算出した。その後、試験片を袋状のメッシュに入れ、メッシュ袋と試験片の合計重量を正確に計測した。
次いで、試験片の入っているメッシュ袋を電解液溶剤であるジエチルカーボネート:エチレンカーボネート=1:1混合溶剤に浸し、60℃にて5Hr放置した。放置後メッシュ袋を取り出し、150℃、8時間の条件で乾燥させ、完全に溶剤を乾燥させた。
乾燥機から取り出した後、室温にて1時間放置し、重量を計測した。試験前後の重量変化から樹脂の溶出量を算出し、その溶出量とあらかじめ算出しておいた樹脂の重量の比から樹脂の溶出率を算出し、以下の基準で評価した。
○:溶出率が1%未満
△:溶出率が1%以上2%未満
×:溶出率が2%以上
【0064】
(4)経時粘度安定性
実施例及び比較例で得られたリチウム二次電池電極用組成物のペースト粘度をB型粘度計にて測定した。粘度測定はペースト作製当日と一週間後に行い、経時粘度変化率([一週間後の粘度-作製当日の粘度]×100/作製当日の粘度)を以下の基準により評価した。なお、一般的には、粘度安定性が高いほど、経時粘度変化率は小さくなるとされている。
◎:経時粘度変化率が30%以下
〇:経時粘度変化率が30%を超えて~50%以下
△:経時粘度変化率が50%を超えて100%未満
×:経時粘度変化率が100%以上
【0065】
(5)電極抵抗値測定
上記「(3)溶媒溶解性」で得られた電極シートについて、四探針法・接触式抵抗測定器(ナプソン社製:RT-3000/RG-2000)を用いて電極抵抗値を測定し、以下の基準で評価した。
○:抵抗値が1000Ω/sq未満
×:抵抗値が1000Ω/sq以上
【0066】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、活物質の分散性、接着性に優れるとともに、長期に渡って適度な粘度を維持することができ、高容量の二次電池を作製することが可能な二次電池電極用組成物を提供できる。