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特許7107682フッ化カーボネートを含有する電解質組成物及びその組成物を含む電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】フッ化カーボネートを含有する電解質組成物及びその組成物を含む電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20220720BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20220720BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20220720BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220720BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220720BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220720BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01G11/46
H01G11/64
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017533244
(86)(22)【出願日】2015-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2015080198
(87)【国際公開番号】W WO2016097129
(87)【国際公開日】2016-06-23
【審査請求日】2018-11-16
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】62/093,768
(32)【優先日】2014-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15156244.4
(32)【優先日】2015-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キム, ハグスー
(72)【発明者】
【氏名】リー, チーフン
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ジエ
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ムンヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ムン, ウンジ
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-277000(JP,A)
【文献】特開2009-231283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解質組成物とを含み、少なくとも4.25Vの充電終止電圧を有する電池であって、前記電解質組成物が少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の導電性塩と、一般式(I)
CF-O-C(O)-O-R (I)
(式中、RはH又はC-Cアルキル基であり、及びRはHであり;Rはフェニルである)
の化合物とを含み、
前記一般式(I)の化合物の濃度が、前記電解質組成物の総重量に対して0.1~5重量%であり、
前記正極が一般式LiMYによって表わされる複合金属カルコゲン化物(Mは1つ以上の遷移金属を示し、YはO又はSを示す)からなる群から選択される少なくとも1種の正極活物質を含み、
前記負極が黒鉛状炭素から選択される少なくとも1種の負極活物質を含む、
電池。
【請求項2】
がメチルであり、RがHであり、Rがフェニルであり、前記化合物が(1-フルオロエチル)フェニルカーボネートである、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記正極がスピネル構造を有するリチウム系複合金属酸化物から選択される少なくとも1種の電極活物質を含む、請求項1又は2に記載の電池。
【請求項4】
リチウムイオン電池である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電池。
【請求項5】
少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の導電性塩と、フッ化エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、少なくとも1種の一般式(I):
CF-O-C(O)-O-R (I)
(式中、RはH又はC-Cアルキル基であり、及びRはHであり;Rはフェニルである)
の化合物とを含む、電池用電解質組成物であって、
前記一般式(I)の化合物の濃度が、前記電解質組成物の総重量に対して0.1~5重量%であり、
前記電池が正極と負極とを含み、
前記正極が一般式LiMYによって表わされる複合金属カルコゲン化物(Mは1つ以上の遷移金属を示し、YはO又はSを示す)からなる群から選択される少なくとも1種の正極活物質を含み、
前記負極が黒鉛状炭素から選択される少なくとも1種の負極活物質を含む、電池用電解質組成物。
【請求項6】
(1-フルオロエチル)フェニルカーボネートと、モノフルオロエチレンカーボネート及びビニレンカーボネートのうちの少なくとも1つと、を含む、請求項5に記載の電解質組成物。
【請求項7】
前記一般式(I)の化合物の濃度が、前記電解質組成物の総重量に対して0.1~5重量%である、請求項5又は6に記載の電解質組成物。
【請求項8】
フッ化エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される化合物の濃度が、前記電解質組成物の総重量に対して0.1~5重量%である、請求項5~7のいずれか1項に記載の電解質組成物。
【請求項9】
正極と、負極と、請求項5~8のいずれか1項に記載の電解質組成物とを含む電池。
【請求項10】
正極又は負極である電極と、一般式(I)の化合物を含有する電解質組成物との間の界面抵抗を低減させるための一般式(I):
CF-O-C(O)-O-R (I)
の化合物の使用であって、
(式中、RはH又はC-Cアルキル基であり、及びRはHであり;Rはフェニルである)前記電極と前記電解質組成物が電池又はキャパシタの中に含まれ、
前記一般式(I)の化合物の濃度が、前記電解質組成物の総重量に対して0.1~5重量%であり、
前記正極が一般式LiMYによって表わされる複合金属カルコゲン化物(Mは1つ以上の遷移金属を示し、YはO又はSを示す)からなる群から選択される少なくとも1種の正極活物質を含み、
前記負極が黒鉛状炭素から選択される少なくとも1種の負極活物質を含む、
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2014年12月18日出願の米国仮特許出願第62/093,768号及び2015年2月24日出願の欧州特許出願第15156244.4号に基づく優先権を主張し、これらの特許出願の全内容は、全ての目的に関して、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、アリール基含有フッ化カーボネートを含む電解質組成物に関する。本発明は更に、そのような電解質組成物を含む電池、特には高い公称電圧を有する電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池、リチウム空気電池、及びリチウム硫黄電池などの電池は、電気エネルギーを貯蔵するための周知の再充電可能な手段である。リチウムイオン電池は、正極、負極、正極と負極との間に介在するセパレーター、並びに、溶媒と導電性塩とを含有し多くの場合1種以上の添加剤も含有する電解質組成物、を含む。正極及び負極は通常、正極活物質及び負極活物質(電極の最終用途による)などの電極活物質、バインダー、溶媒、並びに任意選択的な1種以上の添加剤を含有する組成物を基材に塗布し、その後乾燥及び圧縮成形することによって作製される。
【0004】
リチウム二次電池、特にはリチウムイオン電池に現在採用されている公称電圧は通常最大3.7Vである。これは、多くの場合充電終止電圧の4.2Vに相当する。この地点より高い電圧では、溶媒、導電性塩、及び添加剤などの電解質系の成分が、特には最初の充電時に電極の表面に保護層(「固体電解質界面(SEI)」と呼ばれることが多い)を形成すると考えられている添加剤物質が、このような高い電圧に耐えられないことから、電解質系は多くの場合劣化する。しかし、当該技術分野では高い電圧(通常3.9V又は4.1V、更には最大4.7V)で作動可能な電池が望まれており、そのため高電圧電池に好適な電解質系及び/又はそのような電解質系のための成分の開発が当該技術分野で必要とされている。充電終止電圧に関し、そのような高電圧電池は4.2Vより高い、特には少なくとも4.25Vの充電終止電圧を有する。
【0005】
更に、電池のための、特にはリチウムイオン電池のための、技術的に有利な電解質系が概して当該技術分野で求められている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、電池に好適な、特には高い公称電圧を有する電池に好適な電解質組成物、又はそのような電解質組成物のための成分を提供することである。本発明のもう1つの目的は、電池の、特にはリチウムイオン電池の正極と負極の両方の表面に効果的な保護を付与することができる新規な電解質組成物系を提供することである。本発明の更なる目的は、電極(特には正極)と電解質組成物との間の界面抵抗が最小限にされる電池用の電解質系を提供することである。本発明のまた別の目的は、電池に好適な、4.2Vより大きい、特には少なくとも4.25Vである充電終止電圧を有する二次電池に特に好適な、電解質組成物又はその成分を提供することである。
【0007】
本発明はしたがって、正極と、負極と、電解質組成物とを含み、3.7Vより大きく4.7V以下の公称電圧を有する電池であって、電解質組成物が少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の導電性塩と、一般式(I)
CF-O-C(O)-O-R (I)
(式中、R及びRは独立にH、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン-アリール、又はアルキレン-ヘテロアリールであり;Rはアリール基又はアルキレン-アリール基である)
の化合物とを含有する、電池に関する。
【0008】
本発明のもう1つの態様は、したがって、正極と、負極と、電解質組成物とを含み、4.2Vより大きい終止電圧を有する電池であって、電解質組成物が少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の導電性塩と、一般式(I)
CF-O-C(O)-O-R (I)
(式中、R及びRは独立にH、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン-アリール、又はアルキレン-ヘテロアリールであり;Rはアリール基又はアルキレン-アリール基である)
の化合物とを含有する、電池に関する。
【0009】
驚くべきことには、本発明の一般式(I)の化合物を、電池のための、特には高い公称電圧で作動する電池のための電解質組成物中で有利に使用できることが見出された。更に、一般式(I)の化合物を含有する電解質組成物が、電池の、特にはリチウムイオン電池の電極表面の保護において有利な機能を有することが見出された。本発明の追加的な利点には、電解質組成物における高いイオン伝導度及び低い粘度が含まれる。加えて、本発明の電解質組成物が、電極と電解質組成物との間で十分に低い界面抵抗を示し得ることが見出された。
【0010】
本発明において、用語「アルキル基」は、特にはC1~C6アルキルなどの、特に任意選択的に置換されていてもよい飽和炭化水素系基の鎖を意味することが意図されている。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル及びヘキシルを挙げることができる。アルキルは、例えば、ハロゲン、アリール、又はヘテロアリールによって任意選択的に置換されていてもよい。
【0011】
本発明において、用語「シクロアルキル基」は、特には任意選択的に置換されていてもよい飽和炭化水素系基の環を意味することが意図されている。例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルを挙げることができる。シクロアルキルは、例えば、ハロゲン、アリール、又はヘテロアリールによって任意選択的に置換されていてもよい。
【0012】
本発明において、用語「アリール基」は、特には芳香族核由来の任意の官能基又は置換基を意味することが意図されている。特に、アリール基は6~20個の炭素原子、好ましくは6~12個の炭素原子を有していてもよく、そのアリール基の一部又は全ての水素原子は、他の基、特にはハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はヒドロキシル基で置換されていても置換されていなくてもよい。好ましくは、アリール基はC6~C10芳香族核であり、特にはフェニル又はナフチルである。本発明においては、アリール基はハロゲン化されていてもよく、特にはフッ素化されていてもよい。
【0013】
本発明において、用語「ヘテロアリール基」は、特には芳香族核由来の任意の化合物あって核の少なくとも1つの原子がヘテロ原子である化合物を意味することが意図されており、好ましくは少なくとも1つのヘテロ原子はO、S、又はNである。ヘテロアリール基の具体的な例は、チオフェン、フラン、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、オキサゾール、チアゾール、及びイソオキサゾールである。
【0014】
本発明において、「ハロゲン化」は、特にはそれに続く化学基の水素原子の少なくとも1つがハロゲン原子(特にはフッ素及び塩素から選択され、より好ましくはフッ素)によって置換されていることを意味すると理解される。全ての水素原子がハロゲン原子によって置換されている場合、ハロゲン化された化学基はパーハロゲン化されている。例えば、「ハロゲン化アルキル基」には、(パー)フルオロ化されたメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、又はtert-ブチルなどの(パー)フルオロアルキル基;及び例えば-CF、-C、へプタフルオロイソプロピル(-CF(CF)、ヘキサフルオロイソプロピル(-CH(CF)、又は-CF(CFCFが含まれる。「ハロゲン化アリール基」の非限定的な例には、-Cが含まれる。
【0015】
本発明においては、Rは好ましくはアリール基又はアルキレン-アリール基であり、より好ましくは、Rはフェニル又はベンジルであり、最も好ましくは、Rはフェニルである。
【0016】
本発明においては、Rは好ましくはHである。
【0017】
本発明において、Rは好ましくはH又はアルキル基であり、より好ましくは、Rはメチルである。
【0018】
本発明の好ましい実施形態においては、一般式(I)の化合物は(1-フルオロエチル)フェニルカーボネートである。
【0019】
本発明における一般式(I)の化合物は、通常電池用の電解質組成物の中に含まれる。何等かの理論に拘束されることを望むものではないが、一般式(I)の化合物は高い公称電圧での作動時に劣化しないと考えられている。本発明において、用語「公称電圧」は、特には電池(セル、バッテリー)、又は電気化学システムを示すために使用される電圧の適切な近似値を意味すると理解され、多くの場合所定の電圧範囲の中間値を意味する。本発明において、用語「高い公称電圧」は、特には3.7Vより高い電池の公称電圧を意味することが意図されている。本発明において、公称電圧は多くの場合少なくとも3.9Vである。公称電圧は多くの場合4.7V以下、好ましくは4.5V以下、より好ましくは4.1V以下である。公称電圧の具体的な範囲は、少なくとも3.9Vかつ4.1V以下である。本発明においては、高い公称電圧を有する電池は多くの場合高い充電終止電圧、例えば4.2Vより多く、より好ましくは少なくとも4.25V、より好ましくは少なくとも4.3V、更に好ましくは少なくとも4.4Vの充電終止電圧を有する。本発明においては、高い公称電圧を有する電池は、少なくとも4.25V、特には少なくとも4.5V、特には少なくとも4.9Vの終止電圧を有し得る。高い公称電圧を有する電池の充電終止電圧の上限は、5.0V以下であってもよい。
【0020】
本発明においては、用語「充電終止電圧」は、特には電池が完全に充電されたとみなされる電圧を意味すると理解される。本発明においては、用語「放電終止電圧」は、特には電池が完全に放電されたとみなされる電圧を意味すると理解される。充電及び放電終止電圧は、多くの場合電池の最大の有効容量が得られるように選択される。携帯電話などの少なくとも1つの電池を含むいくつかの電子デバイスは、多くの場合、電池の作動電圧が充電又は放電終止電圧に到達した場合に遮断されるように設計されている。
【0021】
また、何等かの理論に拘束されることを望むものではないが、電極と電解質組成物との間の十分に低い界面抵抗は、電解質組成物中に一般式(I)の化合物を添加することによって達成することができる。電解質組成物中の一般式(I)の化合物の濃度は、電解質組成物の総重量に対して通常0.1~5重量%、好ましくは0.2~1.5重量%である。
【0022】
本発明において、「界面抵抗」は、具体的には2つの異なる物質の間の界面に生じる、特には電池システム中の電極(正極及び負極など)と電解質組成物との間の界面に生じる抵抗、特には電気化学的な抵抗を意味すると理解される。そのような抵抗は、電池の内部抵抗に影響を与える場合があり、内部抵抗はひいてはサイクル性能などの電池の様々な性能に大きな影響を与える。界面抵抗は、ACインピーダンス測定(J.A.Choi et al.,Electrochimica Acta 89(2013)359-364)によって計算することができ、これは以降の実施形態でより詳細に述べられる。
【0023】
電池用の電解質組成物は、通常1種以上の溶媒、及び1種以上の導電性塩、及び/又は添加剤を含有する。導電性塩の例としては、一般式Mを有するものが挙げられる。Mは金属カチオンであり、Aはアニオンである。塩M全体の電荷は0である。Mは、好ましくはLi及びNR から選択される。より好ましくは、MはLi+である。好ましいアニオンは、PF-、PO-、AsF-、BF-、ClO-、N(CFSO-、及びN(i-CSO-である。好ましくは、MはLi+である。特に好ましくは、MはLi+であり、溶液はLiBF、LiClO、LiAsF、LiPF、LiPO、LiN(CFSO、及びLiN(i-CSOからなる群から選択される少なくとも1種の電解質塩を含む。リチウムビス(オキサラト)ホウ酸は、追加的な添加剤として使用可能である。電解質塩の濃度は、好ましくは1±0.2モル濃度である。多くの場合、電解質組成物はLiPFを含んでいてもよい。
【0024】
本発明では、電解質組成物は通常、少なくとも1種の溶媒を含む。電解質組成物の溶媒は好ましくは、環状カーボネート、非環式カーボネート及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種の非水性溶媒を含む。環状カーボネートの例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニリデンカーボネート及びブチレンカーボネートなどの、環状アルキレンカーボネートが挙げられる。非環式カーボネートの例としては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート及びジエチルカーボネートなどの、非環式ジアルキルカーボネートが挙げられる。より好ましくは、溶媒は、非環式ジアルキルカーボネート、環状アルキレンカーボネート、及びそれらの組み合わせからなる群から、更により好ましくはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びジエチルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1つの有機カーボネートを含む。他の好適な溶媒は、例えば、ラクトン、ホルムアミド類、ピロリジノン、オキサゾリジノン、ニトロアルカン、N,N-置換ウレタン、スルホラン、ジアルキルスルホキシド、ジアルキルスルファイト、酢酸エステル、ニトリル、アセトアミド類、グリコールエーテル、ジオキソラン、ジアルキルオキシエタン、及びトリフルオロアセトアミド類から選択することができる。溶媒の具体例としては、ジメチルホルムアミド、カルボン酸アミド、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド及びN,N-ジエチルアセトアミド、アセトン、アセトニトリル、ならびにそれらの任意の組み合わせが挙げられる。少なくとも1種の溶媒は、本明細書に記載の成分に加えて、特には導電性塩と一般式(I)の化合物と任意選択的な添加剤とに加えて、電解質組成物の中身の残りを占めていてもよい。少なくとも1種の溶媒の含有率は、電解質組成物の総量に対して、好ましくは85~99重量%、より好ましくは92~98.5重量%、更により好ましくは95.5~98重量%である。
【0025】
本発明における電解質組成物は更に、少なくとも1種の好適な添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤の例としては、ハロゲン化有機化合物が挙げられる。添加剤として有用なハロゲン化有機化合物は、フッ素化エチレンカーボネート、ポリフッ素化ジメチルカーボネート、フッ素化エチルメチルカーボネート、及びフッ素化ジエチルカーボネートの群から選択される、例えば、フッ素化炭酸エステルであり、他の溶媒又は、好ましくは、電解質組成物中の好適な添加剤である。好ましいフッ素化カーボネートは、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(ジフルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(トリフルオロメチル)-エチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-4-フルオロエチレンカーボネート、4-(フルオロメチル)-5-フルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチルエチレンカーボネート、及び4,4-ジフルオロ-5,5-ジメチルエチレンカーボネート;フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、及びビス(トリフルオロ)メチルカーボネートなどのジメチルカーボネート誘導体;2-フルオロエチルメチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、2-フルオロエチルフルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、2-フルオロエチルジフルオロメチルカーボネート、及びエチルトリフルオロメチルカーボネートなどのエチルメチルカーボネート誘導体;エチル(2-フルオロエチル)カーボネート、エチル(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2-フルオロエチル)カーボネート、エチル(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2,2-ジフルオロエチル2’-フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2-トリフルオロエチル2’-フルオロエチルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチル2’,2’-ジフルオロエチルカーボネート、及びビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネートなどのジエチルカーボネート誘導体、4-フルオロ-4-ビニルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-ビニルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-4-ビニルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-ビニルエチレンカーボネート、4-フルオロ-4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-フェニルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-フェニルエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロ-5-フェニルエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロ-4-フェニルエチレンカーボネート及び4,5-ジフルオロ-4,5-ジフェニルエチレンカーボネート、フルオロメチルフェニルカーボネート、2-フルオロエチルフェニルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルフェニルカーボネート及び2,2,2-トリフルオロエチルフェニルカーボネート、フルオロメチルビニルカーボネート、2-フルオロエチルビニルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルビニルカーボネート及び2,2,2-トリフルオロエチルビニルカーボネート、フルオロメチルアリルカーボネート、2-フルオロエチルアリルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルアリルカーボネート及び2,2,2-トリフルオロエチルアリルカーボネートである。添加剤として有用なハロゲン化有機化合物は、より好ましくはフッ素化環状カーボネート、更により好ましくはモノフルオロエチレンカーボネートである。有利に使用することができる別の添加剤としては、1,3-プロパンスルトンなどのスルトン、亜硫酸ビニルエチレン及び亜硫酸エチレンなどの亜硫酸エステル、並びに炭酸ビニルエチレン及び炭酸ビニレンなどの炭酸エステルが挙げられる。本発明においては、スルトンの追加的な例としては、これらに限定されるものではないが、1,4-ブタンスルトン、1-メチル-1,3-プロパンスルトン、2-メチル-1,3-プロパンスルトン、3-メチル-1,3-プロパンスルトン、1-エチル-1,3-プロパンスルトン、2-エチル-1,3-プロパンスルトン、3-エチル-1,3-プロパンスルトン、1,2-ジメチル-1,3-プロパンスルトン、1,3-ジメチル-1,3-プロパンスルトン、2,3-ジメチル-1,3-プロパンスルトン、1-メチル-2-エチル-1,3-プロパンスルトン、1-メチル-3-エチル-1,3-プロパンスルトン、2-メチル-3-エチル-1,3-プロパンスルトン、1-エチル-2-メチル-1,3-プロパンスルトン、1-エチル-3-メチル-1,3-プロパンスルトン、2-エチル-3-メチル-1,3-プロパンスルトン、1-フルオロメチル-1,3-プロパンスルトン、2-フルオロメチル-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロメチル-1,3-プロパンスルトン、1-トリフルオロメチル-1,3-プロパンスルトン、2-トリフルオロメチル-1,3-プロパンスルトン、3-トリフルオロメチル-1,3-プロパンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、2-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、1,2-ジフルオロ-1,3-プロパンスルトン、1,3-ジフルオロ-1,3-プロパンスルトン、及び2,3-ジフルオロ-1,3-プロパンスルトンが挙げられる。別の分類の添加剤としては、ホウ酸塩及びボラン化合物が挙げられる。これらの化合物は、電解質組成物中でルイス酸として機能することができ、そのためサイクル性能の向上、及び/又は正極と電解質との間の分解反応の抑制をすることができる。そのようなホウ酸塩又はボランの具体的な例としては、ボロキシン環を含む化合物(例えばトリメチルボロキシン、及びトリメトキシボロキシン(TMOBX)又はその誘導体)、ポリアルキレンオキシド鎖を有するボロキシン環を含む化合物(例えばトリス(ポリ(オキシエチレン))ボロキシン)、及び置換又は無置換のフェニル環を有するボロキシン環を有する化合物(例えばトリフェニルボロキシン、トリス(4-フルオロフェニル)ボロキシン、及びトリス(ペンタフルオロフェニル)ボロキシン)が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。他の添加剤には、ジフルオロフェノキシメチルボラン、ジヘキサフルオロイソプロポキシメチルボラン、及びジヘキサフルオロイソプロポキシフェニルボランなどのボロン酸エステル及びボリン酸エステルの誘導体が含まれていてもよい。添加剤の更なる分類としては、特にはフッ化イソシアネート化合物などのイソシアネート化合物が挙げられる。イソシアネート化合物の具体的な例としては、これらに限定されるものではないが、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、イソブチルイソシアネート、sec-ブチルイソシアネート、tert-ブチルイソシアネート、ジフルオロメチルイソシアネート、モノフルオロメチルイソシアネート、トリフルオロメチルイソシアネート、2,2-ジフルオロエチルイソシアネート、2-フルオロエチルイソシアネート、2,2,2-トリフルオロエチルイソシアネート、3,3,2,2-テトラフルオロプロピルイソシアネート、3,2,2-トリフルオロプロピルイソシアネート、3,3,3,2,2-ペンタフルオロプロピルイソシアネート、1,1,3,3-テトラフルオロ-2-プロピルイソシアネート、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロピルイソシアネート、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルイソシアネート、パーフルオロ-t-ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート、2-フルオロフェニルイソシアネート、3-フルオロフェニルイソシアネート、4-フルオロフェニルイソシアネート、2,3-ジフルオロフェニルイソシアネート、2,4-ジフルオロフェニルイソシアネート、2,3’-ジフルオロフェニルイソシアネート、2,2’-ジフルオロフェニルイソシアネート、3,3’-ジフルオロフェニルイソシアネート、3,4-ジフルオロフェニルイソシアネート、2,3,4-トリフルオロフェニルイソシアネート、2,2’,3-トリフルオロフェニルイソシアネート、2,2’,4-トリフルオロフェニルイソシアネート、2,3,3’-トリフルオロフェニルイソシアネート、2-メチルフェニルイソシアネート、4-メチルフェニルイソシアネート、2-メトキシフェニルイソシアネート、4-メトキシフェニルイソシアネート、1,2-フェニレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、及び1,4-フェニレンジイソシアネートが挙げられる。また別の分類の添加剤としては、メチルスルホン、ビニルスルホン、フェニルスルホン、ベンジルスルホン、テトラメチレンスルホン、及びブタジエンスルホンなどのスルホン系化合物が挙げられる。リチウムジフルオロオキサラトホスフェート(LiDFOP)、トリメチルシリルプロピルホスフェート(TMSPa)、1,3-プロペンスルトン(PRS)、及び硫酸エチレン(Esa)などのまた別の特定の添加剤も、本発明の電解質組成物のための添加剤として使用することができる。フッ化エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、1,3-プロパンサルトン、ビニルエチレンサルファイト、エチレンサルファイト、及びビニルエチレンカーボネートは、電極表面上への保護層の形成における優れた添加剤であると考えられる。フッ化エチレンカーボネート、特にはモノフルオロエチレンカーボネート、及びビニレンカーボネートが特に好ましい。本発明に使用することができる添加剤は、それらに限定されない。電解質組成物中の添加剤の含有率は、存在する場合には、電解質組成物の総重量に対して、好ましくは0.1~10.0重量%、より好ましくは0.5~5.0重量%、更に好ましくは0.5~2.0重量%である。
【0026】
電極、すなわち負極、正極、これらのそれぞれに含まれている成分、並びに電池の中に存在し得る他の成分の選択及び作製は、当該技術分野で公知であり、そのため目的に応じて適切に構成することができる。
【0027】
例えば、正極及び負極などの電池の電極は、(A)電極活物質;(B)バインダー;(C)溶媒;及び任意選択的な1種以上の添加剤;を含む電極形成用組成物から形成することができる。
【0028】
本発明においては「電極活物質」という表現は、特には、電池の充電/放電現象時の基になる還元反応に積極的に関与する電気活性な粒子状の材料を意味することが意図されている。電極活物質の特性は、本発明の組成物が正極(正の電極)又は負極(負の電極)のいずれを形成するために使用されるかによるであろう。そのため、電極活物質は、正極活物質(以降物質(E+)という)及び負極活物質(以降物質(E-)という)から選択することができる。
【0029】
物質(E+)は、
-一般式LiMYによって表わされる複合金属カルコゲン化物(MはCo、Ni、Fe、Mn、Cr及びVなどの1つ以上の遷移金属を示し、YはO又はSなどのカルコゲンを示す)からなる群から選択されてもよい。これらの中でも、一般式LiMO(Mは上に記載されたものと同じである)によって表わされるリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。LiCoOなどのリチウム系複合金属酸化物は、層構造を含むか層構造からなっていてもよい。リチウム系複合金属酸化物などの複合金属カルコゲン化物は、ナノ構造を含むかナノ構造からなっていてもよい。それらの好ましい例としては、LiCoO、LiNiO、LiMnOLiNiCo1-x(0<x<1)、LiCo1-yAl(0<x<1、0<y<1)及びスピネル構造LiMn4;などが含まれてもよいが、より広い範囲のカルコゲン化物が検討されてもよく、それには次式によって表わされるカルコゲン化物が含まれる:
LiMn1-yM’(1)
LiMn1-yM’2-z(2)
LiMn4-z(3)
LiMn2-yM’(4)
Li1-yM’’(5)
LiMO2-z(6)
LiNi1-yCo2-z(7)
LiNi1-y-zCoM’’(8)
LiNi1-y-zCoM’’2-a(9)
LiNi1-y-zMnM’(10)
LiNi1-y-zMnM’2-a(11)
(式中、
-0.95≦x≦1.1、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦a≦2であり、
-MはNi又はCoであり、M’はAl、Ni、Co、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th及びPaからなる群から選択される1つ又は複数の元素であり、M’’はAl、Cr、Mn、Fe、Mg、Sr、V、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th及びPaからなる群から選択される1つ又は複数の元素であり、AはO、F、S及びPからなる群から選択され、Zが、F、S、及びPからなる群から選択される)、
-名目組成式AB(XO1-fのリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電極材料(Aはリチウムであり、これはA金属の20%未満に相当する別のアルカリ金属によって部分的に置換されてもよく、BはFe、Mn、Ni又はそれらの混合物の中から選択される+2の酸化レベルの主レドックス遷移金属であり、これは+1~+5の酸化レベルの1つ又は複数の追加的な金属によって部分的に置換されてもよく、0を含む35%未満の+2の主レドックス金属を表し、XOは任意のオキシアニオン(XがP、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかである)であり、Eはフッ化物、水酸化物又は塩化物アニオンであり、fがXOオキシアニオンのモル分率であり、通常0.75~1の間に含まれる)。上記のAB(XO1-f電極材料は好ましくはリン酸塩系であり、規則的又は変形のかんらん石構造を有してもよい。より好ましくは、上に記載されたような粉末状電極材料は、式Li3-xM’M’’2-y(XOを満たし、式中、0≦x≦3、0≦y≦2であり、M’及びM’’は同一又は異なった金属であり、それらの少なくとも1つがレドックス遷移金属であり、XOは主にPOであり、それは別のオキシアニオンによって部分的に置換されてもよく、XはP、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかである。更に好ましくは、活物質は、名目式Li(FeMn1-x)PO(式中、0≦x≦1である)を有するリン酸塩系電極材料であり、ここでxは、好ましくは1(すなわち、式:LiFePOのリチウムイオンリン酸塩)である。
【0030】
本発明においては、物質(E-)には、好ましくは:
-リチウムのホストとして機能する粉末、フレーク、繊維又は球体(例えば、メソカーボンマイクロビーズ)などの形態で典型的には存在している、リチウムを挿入することができる黒鉛状炭素;
-リチウム金属;
-特には米国特許第6,203,944号明細書(3M INNOVATIVE PROPERTIES CO.)3/20/2001及び国際公開第00/03444号パンフレット(MINNESOTA MINING AND MANUFACTURING CO.)6/10/2005に記載されているものなどのリチウム合金組成物;
-一般に式LiTi12によって表される、リチウムチタネート(これらの化合物は一般に、可動イオン、すなわち、Liを引き取る時に低レベルの物理的膨脹を有する、「ゼロ歪」挿入材料とみなされる);
-高いLi/Si比のケイ化リチウムとして一般に知られる、リチウム-ケイ素合金、特に式Li4.4Siのケイ化リチウム;
-式Li4.4Geの結晶相を含有する、リチウム-ゲルマニウム合金;
-シリコン負極;
-シリコン-炭素複合負極;
が含まれていてもよい。
【0031】
本発明の組成物から製造された電極は通常、電極活物質を電極の全重量に対して80~98重量%、好ましくは85~97重量%、より好ましくは87~96重量%の量で含む。
【0032】
溶媒(C)は、バインダー及び他の添加剤を組成物中に分散させ、これらを後に添加される電極活物質及び全ての他の適切な成分と均質化して集電体に塗布するためのペーストを製造するために、本発明の組成物中で使用される。あるいは、溶媒(C)は、バインダー及び他の添加剤を組成物中に溶解させ、これらを後に添加される電極活物質及び全ての他の適切な成分と均質化して集電体に塗布するためのペーストを製造するために、本発明の組成物中で使用される。本発明において、組成物中の溶媒は好ましくは有機溶媒である。有機溶媒の例には、NMP、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、及びこれらの任意の組み合わせが含まれていてもよいが、本発明はこれらに限定されない。本発明の好ましい実施形態によれば、組成物中の溶媒としてNMPが使用される。
【0033】
本発明において、組成物中のバインダー(B)は、フッ化ビニリデン(VDF)ポリマー(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアセテート、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-イソプレン-スチレンコポリマー、又はこれらの水素化生成物、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択することができる。
【0034】
電極形成用組成物は、通常組成物の総重量に対して0.5~10重量%、好ましくは1~8重量%の量でバインダーを含む。
【0035】
当該技術分野の任意の従来の添加剤が電極形成用組成物の中に更に含まれていてもよい。そのような添加剤の1つの例としては、導電性添加剤が挙げられる。何等かの理論に拘束されることを望むものではないが、導電性添加剤を添加すると電極の電子伝導度を向上できると考えられる。導電性添加剤の例としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、及び黒鉛などの炭素系材料、カーボンナノチューブ(CNT)、酸化グラフェン、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。導電性添加剤の含量は、本発明の電極の総重量に対して0.5~15重量%、好ましくは1~10重量%、より好ましくは2~5重量%であってもよい。
【0036】
電極形成用組成物からの電極の製造のために、当該技術分野で一般的に知られている技術を使用することができる。典型的な方法には、バインダーを溶媒に溶解させ、これらを粉末状の電極活物質及び残りの成分(導電性添加剤等)と均一に混合することでスラリー又はペーストを得ることが含まれる。このようにして得たスラリー又はペーストを集電体の上に塗布し、その後50℃~250℃の温度での数時間(例えば2時間)の熱処理によって加圧下で乾燥及び成形することで電極が得られる。多くの場合、スラリーからの電極の形成のための温度は50℃~150℃とすることができる。本発明は上の典型的な手法に限定されないことが理解されるべきである。
【0037】
本発明においては、正極は高い公称電圧を有する電池のために有利に使用することのできるそれらの電極活物質を含んでいてもよい。そのため、本発明のある実施形態においては、正極はスピネル構造を有するリチウム系複合金属酸化物、好ましくはLiMn又はLiMn2-yM’(式中、0.95≦x≦1.1であり、0≦y≦0.5であり、M’はNiであり、Aは酸素原子である)から選択される少なくとも1種の電極活物質を含む。本発明においては、正極は好ましくは層構造を有するリチウム系複合金属酸化物、好ましくはLiCoO及びLiNi1-y-zCoMn(式中、0<y<0.5であり、0<z<0.5である)から選択される少なくとも1種の電極活物質を含む。
【0038】
本発明の電池はリチウムイオン電池、リチウム硫黄電池、及びリチウム空気電池などのリチウム二次電池、並びにナトリウムイオン電池及びナトリウム硫黄電池などのナトリウム二次電池であってもよく、特にはリチウムイオン電池であってもよい。本発明においては、高い充電終止電圧を有する電池は、好ましくは二次電池、特には二次リチウムイオン電池である。
【0039】
本発明の電池は、当該技術分野で公知の1種以上の様々な方法を利用して作製することができ、また例えば角形又はパウチ型の形態であってもよい。以降で本発明の電池の作製例を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0040】
まず、正極用の適切な集電体箔を準備し、正極活物質、バインダー、及び溶媒を通常含み任意選択的には他の添加剤も含む正極形成用組成物を、集電体の一面に塗布する。正極形成用組成物が上に塗布された集電体を乾燥させて溶媒を除去することにより正極活物質層を形成する。乾燥時に、追加的な熱、紫外線、放射、及び電子ビームなどの他の手段を利用してもよい。この工程のための温度及び時間は、それぞれ通常40~150℃、5分~20時間である。
【0041】
正極の反対側に、負極用の適切な集電体箔を準備し、負極活物質、バインダー、及び溶媒を通常含み任意選択的には他の添加剤も含む負極形成用組成物を、集電体の一面に塗布する。負極形成用組成物が上に塗布された集電体を乾燥させて溶媒を除去することにより負極活物質層を形成する。乾燥時に、追加的な熱、紫外線、放射、及び電子ビームなどの他の手段を利用してもよい。この工程のための温度及び時間は、それぞれ通常40~100℃、5分~20時間である。この工程のための温度は40~80℃であってもよい。
【0042】
このようにして得られた2つの構成要素は、セパレーター(多くの場合絶縁ポリマーから作製される)を介して積層され、任意選択的には捲回される。電極端子は、集電体の最表面と連結される。得られたものはケースに入れられ、ケースは部分的に密封される。通常少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の電解質と、任意選択的な添加剤とを含有する電解質組成物は、予め設けられた穴からこれをケースの中に入れることによってケースの中に充填され、ケースは真空封止される。
【0043】
一般式(I)の化合物は、電池の最初のサイクルでSEIを形成することによって、正極及び負極の少なくとも1つの表面上に有利に保護効果を与え得ることも見出された。そのため、何等かの理論に拘束されることを望むものではないが、一般式(I)の化合物は、電極表面に保護層を効果的に形成することができると考えられている他の添加剤と組み合わせて電池用の電解質の中で組成物の中で有利に使用することができると考えられる。したがって、本発明の別の態様は、少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の導電性塩と、フッ化エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、少なくとも1種の一般式(I):
CF-O-C(O)-O-R (I)
(式中、R及びRは独立にH、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン-アリール、又はアルキレン-ヘテロアリールであり;Rはアリール基又はアルキレン-アリール基である)の化合物と、を含有する電解質組成物に関する。
【0044】
フッ化エチレンカーボネートは、好ましくはモノフルオロエチレンカーボネートである。
【0045】
この態様においては、電解質組成物中の一般式(I)の化合物の濃度は、電解質組成物の総重量に対して好ましくは0.1~5重量%、好ましくは0.2~1.5重量%、より好ましくは0.2~1重量%である。
【0046】
この態様においては、電解質組成物中のフッ化エチレンカーボネート及びビニレンカーボネートからなる群から選択される化合物の濃度は、電解質組成物の総重量に対して好ましくは0.1~5重量%、好ましくは0.5~3.5重量%、より好ましくは1~2重量%である。
【0047】
特定の実施形態においては、本発明の電池用の電解質組成物は、少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の導電性塩と、一般式(I)の化合物と、ビニレンカーボネートとを含有する。この実施形態においては、一般式(I)の化合物とビニレンカーボネートの両方が添加剤として好ましくは使用される。そのため、電解質組成物中の一般式(I)の化合物とビニレンカーボネートの合計の濃度は、電解質組成物の総重量に対して好ましくは5重量%以下、より好ましくは3.5重量%以下である。電解質組成物中の一般式(I)の化合物とビニレンカーボネートの合計の濃度は、多くの場合、電解質組成物の総重量に対して少なくとも0.1重量%、より好ましくは少なくとも0.5重量%である。驚くべきことに、電解質への添加剤として一般式(I)の化合物とビニレンカーボネートの両方を含むこの特定の電解質系を使用すると、優れた結果、特には極めて優れたサイクル性能が得られることが本発明者らによって見出された。
【0048】
本発明の別の特定の実施形態においては、本発明の電池用の電解質組成物は、一般式(I)の化合物とビニレンカーボネートの重量の合計が5.0重量%を超えないことを条件として、少なくとも1種の溶媒と少なくとも1種の導電性塩の合計重量に対して0.1~5.0重量%の一般式(I)の化合物と、0.1~5.0重量%のビニレンカーボネートとを含有する。好ましくは、本発明の電池用の電解質組成物は、一般式(I)の化合物とビニレンカーボネートの重量の合計が5.0重量%を超えないことを条件として、少なくとも1種の溶媒と少なくとも1種の導電性塩の合計重量に対して0.5~2.5重量%の一般式(I)の化合物と、0.1~5.0重量%のビニレンカーボネートとを含有する。本発明の電池用の電解質組成物は、1種以上の添加剤を更に含有していてもよい。
【0049】
本発明の電解質組成物は、リチウムイオン電池、リチウム硫黄電池、及びリチウム空気電池などのリチウム二次電池、並びにナトリウムイオン電池及びナトリウム硫黄電池などのナトリウム二次電池などの電池の中で、あるいはスーパーキャパシタ及びハイブリッドキャパシタなどのキャパシタの中で、有利に使用することができる。したがって、本発明の別の態様は、正極と、負極と、本発明の電解質組成物とを含む電池又はキャパシタに関する。
【0050】
本発明の更に別の態様は、電極と、前記一般式(I)の化合物を含有する電解質組成物との間の界面抵抗を低減させるための一般式(I)の化合物の使用であって、前記電極と前記電解質組成物が電池又はキャパシタの中に含まれる、方法を提供する。
【0051】
本発明のまた更に別の態様は、高電圧電池での、特には充電終止電圧が4.2Vより高い電池での、一般式(I)の化合物の使用を提供する。そのような使用は、多くの場合、高圧電池用の電解質組成物の中へ一般式(I)の化合物を組み込むことを意味する。そのような使用は、多くの場合、ビニレンカーボネートを電解質組成物の中へ同時に組み込むことが含まれる。一般式(I)の化合物、高電圧電池、及び電解質組成物の特性及び好ましい実施形態に関しては、前述セクションに示されている説明を参照することができる。参照により本明細書に組み込まれているいずれかの特許、特許出願、及び刊行物の開示が、用語を不明確にし得るほどに本出願の記述と矛盾する場合には、本記述が優先されるものとする。
【0052】
本発明を実施例で更に詳しく説明するが、発明を限定することは意図されていない。
【実施例
【0053】
実施例1~6:電解質組成物の調製
表1中の以下の添加剤を、乾燥している室内雰囲気の下で基準電解質組成物[(1.0MのLiPF/エチレンカーボネート+ジメチルカーボネート(1:2(v/v)]に添加した。
【0054】
【0055】
実施例7:電池セルの構成
試験系:正極としての[LiCoO:Super-P(登録商標)(MMM Carbon,Belgiumから入手可能な導電性カーボンブラック):PVdF(Solvay Specialty PolymersのSolef(登録商標)5130)バインダー=92:4:4(重量%)]と、負極としての[SCMG-AR(登録商標)(Showa Denkoから入手可能な人造グラファイト):Super-P(登録商標)(MMM Carbon,Belgiumから入手可能な導電性カーボンブラック):PVdF(Solvay Specialty PolymersのSolef(登録商標)5130)バインダー=90:4:6(重量%)]とから構成されたモノフルセル。ポリエチレンをセパレーターとして使用した。実施例1~6の電解質組成物を使用した。
【0056】
モノセルの作製は、その順序通りの次の工程からなる:(1)混合、(2)コーティング及び乾燥、(3)プレス、(4)切断、(5)タップ溶接、(6)組立、(7)電解質充填、及び(8)真空封止。
【0057】
実施例8:性能試験
サイクル性能試験については、1.0のCレートで3.0V~4.4Vの終止電圧を適用することによって250サイクル行った。結果を表2にまとめる。
【0058】
【0059】
インピーダンス分析のために、1.0CのCレートで3.0V~4.4Vの終止電圧を適用することによって、実施例1、実施例2、実施例3、及び実施例5の電解質組成物をそれぞれ含む4個のモノセルを用いて250サイクル行った。ACインピーダンス測定は、10mVの振幅で、10mHz~100kHzの周波数範囲にわたってVMP3(Biologic Science instrumentsから入手可能)インピーダンスアナライザーを使用して行った。結果を表3にまとめる。
【0060】
【0061】
実施例9:LiNi1/3Co1/3Mn1/3を使用した電池セルの構成
試験系:正極としての[LiNi1/3Co1/3Mn1/3:Super-P(登録商標)(MMM Carbon,Belgiumから入手可能な導電性カーボンブラック):PVdF(Solvay Specialty PolymersのSolef(登録商標)5130)バインダー=95:3:2(重量%)]と、負極としての[SCMG-AR(登録商標)(Showa Denkoから入手可能な人造グラファイト):Super-P(登録商標)(MMM Carbon,Belgiumから入手可能な導電性カーボンブラック):PVdF(Solvay Specialty PolymersのSolef(登録商標)5130)バインダー=90:4:6(重量%)]とから構成された。ポリエチレンをセパレーターとして使用した。実施例1及び2の電解質組成物を使用した。
【0062】
ポンチセルの作製は、その順序通りの次の工程からなる:(1)混合、(2)コーティング及び乾燥、(3)プレス、(4)切断、(5)タップ溶接、(6)組立、(7)電解質充填、及び(8)真空封止。
【0063】
実施例10:性能試験
サイクル性能試験については、1.0のCレートで3.0V~4.3Vの終止電圧を適用することによって500サイクル行った。結果を表4にまとめる。
【0064】
【0065】
結果は、本発明の電解質系(実施例2)が、比較例の電解質系によって得られるよりも大幅に低い、更にはビニレンカーボネート(VC)添加剤を使用して得られる界面抵抗よりも低い界面抵抗を示し、したがって電池用の電解質への優れた添加剤として有利に使用できることを示唆している。また、電解質系(実施例5)は、比較例の電解質系で得られる界面抵抗よりも遥かに低い界面抵抗を示し、そのためこれは電池用の非常に優れた電解質系になり得る。更に、実施例2及び5の本発明の電解質系は、高い電圧での作動時のサイクル性能の点で優れた結果を示す。これらの中でも、VCと(1-フルオロエチル)フェニルカーボネートの両方を含むブレンド添加剤系を含有する電解質(実施例5)は、高い電圧での作動時のサイクル性能の点で特に優れた結果を示す。