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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】電池監視装置及び電池監視方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20220720BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20220720BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20220720BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20220720BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20220720BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20220720BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220720BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20220720BHJP
【FI】
H02J7/00 Q
G01R19/00 B
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/389
H01M10/48 P
H02J7/02 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018046612
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019161889
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】小塚 悠介
(72)【発明者】
【氏名】加茂 光広
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-151643(JP,A)
【文献】特開2015-133823(JP,A)
【文献】特開2015-133887(JP,A)
【文献】特開2014-074671(JP,A)
【文献】特開2015-216012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
G01R 19/00
H01M 10/48
H02J 7/02
G01R 31/382
G01R 31/385
G01R 31/387
G01R 31/389
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数の電池セルから構成される組電池の電池監視装置であって、
前記複数の電池セルを2以上に区分して得られる複数の区分セルの端子間電圧を所定の時間間隔で順次測定する電圧測定部と、
前記組電池に流れる電流を前記電圧測定部の前記所定の時間間隔よりも短い時間間隔で繰り返し測定する電流測定部と、
前記電流測定部で繰り返し測定された複数の電流を保持し、前記電圧測定部がいずれかの前記区分セルの端子間電圧を測定したタイミングに対応するタイミングに基づいて、前記保持している複数の電流のうちから、前記区分セルの端子間電圧を測定した測定タイミングと電流の測定された測定タイミングとが最も近いタイミングとなるように選択する同期部と、
前記タイミングで測定した端子間電圧と、前記同期部で選択した電流とに基づいて電池状態を監視する監視部とを備える
電池監視装置。
【請求項2】
前記監視部は、前記タイミングで測定した端子間電圧と前記同期部で選択した電流とに基づいて算出した内部抵抗に基づいて前記組電池の状態を監視する
請求項1に記載の電池監視装置。
【請求項3】
前記電流測定部は、ΔΣ型ADコンバータであり、測定した電流のデジタル信号を出力し、
前記同期部は、前記電流測定部の出力した前記測定した電流のデジタル信号を保持するとともに、前記保持しているデジタル信号から前記対応するタイミングで測定された電流を選択する
請求項1又は2に記載の電池監視装置。
【請求項4】
前記電池セルは、リチウムイオン二次電池である
請求項1~3のいずれか一項に記載の電池監視装置。
【請求項5】
直列接続された複数の電池セルから構成される組電池を監視する電池監視方法であって、
前記複数の電池セルを2以上に区分して得られる複数の区分セルの端子間電圧を所定の時間間隔で順次測定する電圧測定工程と、
前記組電池に流れる電流を前記電圧測定工程の前記所定の時間間隔よりも短い時間間隔で繰り返し測定する電流測定工程と、
前記電流測定工程で繰り返し測定された複数の電流を保持し、前記電圧測定工程でいずれかの前記区分セルの端子間電圧が測定されたタイミングに基づいて、前記保持している複数の電流のうちから、前記区分セルの端子間電圧を測定した測定タイミングと電流の測定された測定タイミングとが最も近いタイミングとなるように選択する同期工程と、
前記タイミングで測定された端子間電圧と、前記同期工程で選択した電流とに基づいて電池状態を監視する監視工程とを備える
電池監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の状態を監視する電池監視装置、及び電池監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記電池監視装置としては、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の二次電池からなる組電池を監視するものが知られている。電池監視装置は、組電池を構成する各電池セルの端子間電圧を検出したり、電池セルに流れる電流を検出したりすることで取得される電池セルの状態に基づいて、組電池の状態が適切であるか否かを監視する。例えば、こうした電池監視装置の一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の電池監視装置は、複数の電池セルが直列に接続された組電池を監視する。電池監視装置は、複数の電池セルの各々の端子間電圧を測定する第1電圧測定部と、複数の電池セルの内の、少なくとも2以上の電池セルが直列接続している電池セル群の両端電圧を測定する第2電圧測定部と、組電池を流れる電流を測定する電流測定部とを備える。また、電池監視装置は、第1電圧測定部により測定された端子間電圧に基づいて、複数の電池セルのセル電圧比をそれぞれ算出するセル電圧比算出部と、セル電圧比と第2電圧測定部で測定された両端電圧とに基づいて、両端電圧の測定時における複数の電池セルのセル電圧をそれぞれ算出するセル電圧算出部とを備える。また、電池監視装置は、第2電圧測定部で測定される両端電圧と電流測定部で測定される電流値とをセットとして取得するためのトリガ信号を、第2電圧測定部および電流測定部にそれぞれ入力するトリガ信号発生部を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-203593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電池監視装置によれば、トリガ信号で電池セル群の両端電圧と組電池を流れる電流値とをセットで取得するようにする。また、セル電圧比を算出するためには、比較する電池セルの端子間電圧をセットで取得することも必要である。しかしながら、測定電流と測定電圧との間の同期をとろうとすると、測定回路や演算処理が複雑になる傾向にある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、測定電流と測定電圧との同期を簡単にとることのできる電池監視装置及び電池監視方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する電池監視装置は、直列接続された複数の電池セルから構成される組電池の電池監視装置であって、前記複数の電池セルを2以上に区分して得られる複数の区分セルの端子間電圧を所定の時間間隔で順次測定する電圧測定部と、前記組電池に流れる電流を前記電圧測定部の前記所定の時間間隔よりも短い時間間隔で繰り返し測定する電流測定部と、前記電流測定部で繰り返し測定された複数の電流を保持し、前記電圧測定部がいずれかの前記区分セルの端子間電圧を測定したタイミングに対応するタイミングで測定された電流を前記保持している複数の電流のうちから選択する同期部と、前記タイミングで測定した端子間電圧と、前記同期部で選択した電流とに基づいて電池状態を監視する監視部とを備える。
【0008】
上記課題を解決する電池監視方法は、直列接続された複数の電池セルから構成される組電池を監視する電池監視方法であって、前記複数の電池セルを2以上に区分して得られる複数の区分セルの端子間電圧を所定の時間間隔で順次測定する電圧測定工程と、前記組電池に流れる電流を前記電圧測定工程の前記所定の時間間隔よりも短い時間間隔で繰り返し測定する電流測定工程と、前記電流測定工程で繰り返し測定された複数の電流を保持し、前記電圧測定工程でいずれかの前記区分セルの端子間電圧が測定されたタイミングに対応するタイミングで測定された電流を前記保持している複数の電流のうちから選択する同期工程と、前記タイミングで測定された端子間電圧と、前記同期工程で選択した電流とに基づいて電池状態を監視する監視工程とを備える。
【0009】
使用中の電池セルは、電流や電圧が常に変化するため、電池セルの状態を監視するにあたっては、電圧と電流の測定タイミングを同期する必要がある。この点、このような構成又は方法によれば、電圧が測定される所定の時間間隔よりも短い時間間隔で繰り返し電流が測定されるため、電圧の測定タイミングに対応する電流の測定が可能になり、測定タイミングが同期された電圧と電流とが得られるようになる。つまり、電圧の測定タイミングに同期した電流が測定されていることから、複数の電池セルを2以上に区分して得られる複数の区分セル毎、例えば電池セル毎に、同期のために電圧を測定し、記憶しておく必要がなく電圧に対する処理を簡単にすることができる。これによって、測定電流と測定電圧との同期を簡単にとることができるようになる。
【0010】
好ましい構成として、前記監視部は、前記タイミングで測定した端子間電圧と前記同期部で選択した電流とに基づいて算出した内部抵抗に基づいて前記組電池の状態を監視する。
【0011】
このような構成によれば、電池の使用中であっても、電池状態を示す一つの指標である内部抵抗が高い精度で取得される。そして、取得された内部抵抗に基づいて電池の状態を監視することができるようになる。
【0012】
好ましい構成として、前記電流測定部は、ΔΣ型ADコンバータであり、測定した電流のデジタル信号を出力し、前記同期部は、前記電流測定部の出力した前記測定した電流のデジタル信号を保持するとともに、前記保持しているデジタル信号から前記対応するタイミングで測定された電流を選択する。
【0013】
このような構成によれば、電圧測定部が電圧を測定したタイミングに対応するタイミングに測定された電流を選択することが簡単にできるようになる。
好ましい構成として、前記電池セルは、リチウムイオン二次電池である。
【0014】
このような構成によれば、電池セル毎に内部抵抗を監視することが好ましいリチウムイオン二次電池について、それらの内部抵抗を監視することが簡単に行えるようになる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、測定電流と測定電圧との同期を簡単にとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電池監視装置を具体化した一実施形態について、その概略構成を示すブロック図。
図2】同実施形態において電流及び電圧の測定タイミングを示すタイムチャート。
図3】同実施形態においてΔΣ型ADコンバータでの電流測定を示すブロック図。
図4】同実施形態において測定された電流の態様を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1図4に従って、電池監視装置及び電池監視方法を具体化した一実施形態について説明する。
図1に示すように、電池監視装置2は、電池システム1を搭載する電動車両駆動装置100に設けられている。電動車両駆動装置とは、ハイブリッド自動車等の電動車両を駆動するシステムである。
【0018】
電動車両駆動装置100には、電池監視装置2および組電池10等を有する電池システム1、車両全体の制御を行う車両コントローラ30、インバータ40、電動機50等を備えている。電池システム1は、リレー60,61を介してインバータ40に接続されている。電池監視装置2は、インバータ40及び車両コントローラ30との通信を、CAN(Controller Area Network)の通信バスを介して行う。
【0019】
電動機50はインバータ40からの電力により回転駆動される。車両の発進および加速時には電池システム1から放電電力がインバータ40を通じて電動機50に供給され、電動機50の駆動力によりエンジン(図示略)をアシストする。車両停止および減速時には、電動機50からの回生電力がインバータ40を通じて電池システム1に設けられた組電池10を充電する。なお、インバータ40は、モータコントローラ41を内蔵し、インバータ40のDC-AC変換及びAC-DC変換を制御することによって、電動機50の回転駆動制御並びに組電池10の充放電制御を行う。
【0020】
電池システム1は、組電池10、電池監視装置2、及び電流測定素子9を備えている。組電池10は、最小単位である区分セルとしての電池セルC(C(1)~C(N))が複数電気的に直列接続されて構成されている。組電池10は、例えば、50個~100個程度の電池セルCが直列接続されて構成される。以下では、組電池10を構成する電池セルCの個数をNとし、N個の電池セルC(1)~C(N)の一つを代表して表す場合には電池セルCと記する。電池セルCは、例えばリチウムイオン二次電池等の充放電可能な電池である。例えは、組電池10は、所定数(図1では4個)の電池セルCにグループ化された複数(図1ではL組)のセルブロックB1~BLを、直列に接続して構成されている。
【0021】
電池監視装置2は、組電池10の状態を監視する装置であり、組電池10の各電池セルCの過充電および過放電を検出する過充放電検出機能、組電池10の各電池セルCの内部抵抗を検知する内部抵抗検出機能等を有する。電池監視装置2は、セル電圧測定部21、総電圧測定部22、電流測定部23、及び同期部としての制御部24を備える。
【0022】
セル電圧測定部21は、組電池10を構成する各電池セルCのセル毎の電圧(以下、セル電圧)を測定する。セル電圧測定部21は、セルブロックB1~BLに対応する複数(L個)のセル電圧測定回路CC1~CCLを備えている。セル電圧測定回路CC1~CCLは、4~12個程度の電池セルCのセル電圧を測定することができる回路であり、集積回路(IC)として構成されたものを用いてもよい。
【0023】
総電圧測定部22は、組電池10を構成するN個の電池セルC全体の電圧(以下、総電圧Vt)を測定する回路である。N個の電池セルCを組電池負極側から電池セルC(1),C(2),・・・,C(N-1),C(N)とすると、総電圧測定部22の総電圧計入力端子220a,220bは、電池セルC(1)の負極と、電池セルC(N)の正極とにそれぞれ接続される。
【0024】
各セル電圧測定回路CC1~CCLは、セルブロックB1~BL毎に各電池セルCの端子間電圧を測定する。なお、図示しないが、セル電圧測定回路CC1~CCLは、各電池セルC(1)~C(N)のセル電圧のバランシング動作を行うバランシング抵抗及びバランシングスイッチ、制御部24と通信を行って制御を行うロジック部を備えている。
【0025】
電流測定部23は、組電池10に流れる電流を測定する。電流測定部23には、電流測定素子9から測定信号(電気信号)が入力される。電流測定素子9は、電流の大きさを電気信号に変換する素子である。電流測定素子9からは電流の大きさに対応した電気信号が出力され、その電気信号は電流測定部23で測定される。電流測定素子9は、例えば、ホール素子センサやシャント抵抗素子等である。例えば、シャント抵抗素子は、オフセット電流が小さいので、組電池10の充電状態(SOC)を正確(高精度に)に測定することができる。またシャント抵抗素子は、応答特性(電流変化に対する電圧値の追従性)が速いので、電流測定部23の測定時間間隔を短く(サンプリング間隔を速く)すれば、それに応じて時間分解能を高くすることができる。すなわち、測定電流と測定電圧との測定タイミングの同期を達成しやすい。
【0026】
図2に示すように、電流測定部23は、ΔΣ変調という方式でアナログ・デジタル変換を行うΔΣ型ADコンバータである。電流測定部23は、セル電圧測定部21が電圧を測定する時間間隔よりも短い時間間隔I1で組電池電流Iaを測定する。
【0027】
図3に示すように、ΔΣ型ADコンバータは、減算回路231、加算回路232、量子化回路233、及びスイッチ回路234の機能ブロックを備えている。減算回路231は、入力信号の値(組電池電流Ia)と、ある固定電流値(固定電流Io)の差(Ia-Io)を求める回路である。加算回路232は、減算回路231の演算結果(Δi=Ia-Io)を次々に加える(積算する)回路である。量子化回路233は、入力した加算結果(Σ(Δi))を基準値(例えば「0」)と比較して、大小関係を定める回路であって、入力が基準値より小さい値のとき「0」を、大きいとき「1」をデジタル値として出力する回路である。スイッチ回路234は、量子化回路233の出力するデジタル値に応じて動作する回路である。例えば、スイッチ回路234は、入力「IN」に「1」が入力されると固定電流Ioとして「Iref」を出力し、入力「IN」に「0」が入力されると固定電流Ioとして「-Iref」を出力する。ここで「Iref」は、組電池電流Iaの測定電圧として最大値に対応する値、又は最大値よりも大きな値が設定される。このように、電流測定部23は、減算、加算、量子化を繰り返すことにより、測定タイミング毎に「1」、もしくは「0」を出力する。
【0028】
図4に示すように、電流測定部23の出力に基づいてデジタル値Idの数列が得られ、この数列の「1」と「0」の出現頻度から入力信号の値(組電池電流Ia)を再現することができる。電流測定部23は、1回の測定で1ビットのデジタル値を算出するだけであることからサンプリング速度を早く、すなわち測定の時間間隔を短くすることができる。また、デジタル値は、特定の測定タイミングから過去に向かって特定のビット数、例えば16ビットや32ビットを取得することで特定の測定タイミングにおける入力信号の値を算出することができる。例えば、測定タイミングt1のときの組電池電流Iaは、測定タイミングt1から16ビットのデジタル値Idを取得することで組電池電流Ia(t1)として得られる。また、例えば、測定タイミングt2のときの組電池電流Iaが取得したい場合、測定タイミングt2から16ビットのデジタル値Idを取得することで組電池電流Ia(t2)が得られる。
【0029】
電流測定部23の出力するデジタル値Idの数列は、1次元の数列であるため、これを保持する制御部24において、数列を保持のための構造が簡単であり、数列に係る処理も簡単であり、特定された測定タイミングに対応する組電池電流Iaを取得することも簡単にできるようになる。
【0030】
図1に示すように、制御部24は電池監視装置2の全体の制御を行うものであり、例えば、セル電圧測定回路CC1~CCLの動作制御や状態判定などを行う。制御部24は、セル電圧測定部21、総電圧測定部22、及び電流測定部23のそれぞれから送られる信号を受け取り、それらの信号値を用いて、各電池セルC(1)~C(N)の内部抵抗Rcを検知する。
【0031】
組電池10を構成する電池セルC(1)~C(N)の個数Nが多い場合、電池監視装置2内の高電圧側と低電圧側との接続に電気的絶縁が必要になる。例えば、リチウムイオン二次電池をN=96個直列接続した場合、組電池10の両端の電圧は400V程度になる。そのため、電池セルC(1)が接続されているセル電圧測定回路CC1と、電池セルC(N)が接続されているセル電圧測定回路CCLとでは、400V程度の電圧差が生じる。よって、セル電圧測定回路CC1~CCLと制御部24とを電気的に絶縁する必要がある。具体的には、絶縁素子6をセル電圧測定回路CC1~CCLと制御部24とのそれぞれの接続ライン(信号ライン)に挿入する。
【0032】
同様に、総電圧測定部22と制御部24との間、及び電流測定部23と制御部24との間にも絶縁素子6を挿入する。なお、絶縁素子6は、組電池10の電圧が電気的絶縁を必要とするほど高くない場合には挿入しなくてもよい。
【0033】
電池システム1における組電池10の電流の時間変化、測定タイミングずれの影響について説明する。電動車両においては、電動車両の走行状態に応じて電動機50の出力トルクが時間的に変動する。例えば、電動機50によるエンジンのアシストが必要になると、電動機50の出力トルクが増加することに応じてインバータ40の出力電力が増加する。そして、インバータ40への入力電流、すなわち、組電池10の放電電流も増加する。逆に、電動車両が回生ブレーキを使用して回生状態になると、電動機50が発電機として動作して、回生電力が電動機50からインバータ40を介して組電池10へと流れる。このため、組電池10への充電電流が増加する。このように、電池システム1においては、組電池10の電流が時間変化をする。
【0034】
組電池10の組電池電流Ia(t)がある時刻で差分ΔIだけ変化すると、このときのセル電圧の変化は、電流変化に直ちに応答する成分と、時間的に遅れて変化する成分とで表される。直ちに応答する成分は直流内部抵抗成分(DCR、Direct-Current Resistance)であり、遅れて変化する成分は分極成分(Polarization)である。直流内部抵抗成分は、電池セルCの内部抵抗Rcに起因する電圧変化であり、内部抵抗Rc×差分ΔIで表される。分極成分は、電池セルCが持つ静電容量やインダクタンス、さらには電解液中でのイオンの挙動などの要因に起因する電圧変化成分である。
【0035】
ところで、電池監視装置2は、電池セルCの内部抵抗Rcの検知を行う。内部抵抗Rcは電池セルCのセル電圧と電池セルCを流れる電流(組電池電流Ia)とに基づいて算出されるため、内部抵抗Rcを精度良く求めるためには、セル電圧および電流を正確に測定する必要がある。
【0036】
図2を参照して、セル電圧測定部21におけるセル電圧の測定タイミングt2と、電流測定部23における電流の測定タイミングt1とがずれたと仮定する。このとき、測定タイミングt2での電池セルC(2)のセル電圧測定値vc(t2)と、測定タイミングt1での組電池電流Ia(t1)とから、電池セルC(2)の内部抵抗Rcを「vc(t2)/Ia(t1)」と算出できる。しかし、測定タイミングt2において、セル電圧は「vc(t2)」である。よって、測定タイミングがずれている下で算出された「vc(t2)/Ia(t1)」は、正しい内部抵抗Rc(=「vc(t2)/Ia(t2)」)と相違するおそれがある。つまり、セル電圧の測定タイミングt2と電流の測定タイミングt1とにずれがあると、正しい内部抵抗Rcを求めることができない。
【0037】
次に、電池監視装置2におけるセル電圧の測定について説明する。セル電圧測定回路CC1~CCLは同一構成であるので、セル電圧測定回路CC1を例に説明する。なお、図1に示す例では、セルブロックB1を構成する電池セルCの数を4個として説明する。
【0038】
セル電圧測定回路CC1は4~12個程度の電池セルCのセル電圧を測定することができ、測定する電池セルC(1)~C(4)を選択する選択回路210と電圧検出回路211を備えている。具体的には、選択回路210としてはマルチプレクサなどが用いられ、電圧検出回路211は、一般的にアンプとアナログ・デジタル変換器で構成される。
【0039】
図2は、セル電圧測定回路CC1における、典型的な測定シーケンスを模式的に示した図である。図2は、電池セルC(1)~C(4)のセル電圧の測定タイミングC1~C4を示している。選択回路210は、電池セルC(1)→電池セルC(2)→電池セルC(3)→電池セルC(4)の順に電池セルCを選択する。そして、電圧検出回路211によりセル電圧を1セル毎に順に測定する。
【0040】
したがって、4個の電池セルC(1)~C(4)のセル電圧を測定する場合、セル電圧の測定に必要な時間(セル電圧測定間隔Tm)は、所定の時間間隔としての1セルの測定所要間隔Tnの4倍の時間が必要になる。例えば、1セルの測定所要間隔Tnの典型的な値は200μsなので、セル電圧測定間隔Tmは800μsとなる。
【0041】
ここで、セル電圧測定間隔Tmの間に電流が差分ΔIだけ変化した場合、測定タイミングt1で電流を測定した場合、電池セルC(1)は電圧と電流が同時に測定される。しかし、電池セルC(2)の場合、測定タイミングt2においてセル電圧が測定されるので、電圧と電流が別タイミング(測定タイミングt2と測定タイミングt1)に測定され、その間に電流が差分ΔIだけ変化している。そのため、電池セルC(2)に関しては、正しい内部抵抗Rcが測定できないことになる。
【0042】
そこで、本実施形態では、組電池電流IaをΔΣ型ADコンバータで電圧の測定間隔(セル電圧測定間隔Tm、好ましくは、1セルの測定所要間隔Tn)よりも短い間隔で測定することで、セル電圧と電流とを実質的に同時に測定することを可能にした。これにより、図2のように組電池電流Iaが時間変化する場合であっても、セル毎に内部抵抗Rcを精度良く測定することが可能になる。
【0043】
(作用)
制御部24は、セル電圧測定部21からのセル電圧と、電流測定部23からの電流のデジタル値Idとに基づいて各電池セルC(1)~C(N)の内部抵抗Rcを検知するとともに、検知した内部抵抗Rcに基づいて組電池10の状態を監視する監視部240を備える。監視部240は、電池が使用されている間に常時、組電池10の監視を行う。
【0044】
図2及び図3に示すように、電池の監視が行われると、電流測定部23は、短い時間間隔での電流測定を継続し(電流測定工程)、デジタル値を制御部24に出力する。制御部24は、電流測定部23が出力したデジタル値を取得し、図4に示すように、時系列順に並べた数列として記憶する。このとき、図2に示すように、電流のデジタル値Idは、セル電圧の時間間隔としての1セルの測定所要間隔Tnの間に複数回の測定を行う程度に短い時間間隔Tiで測定される。
【0045】
また、図2に示すように、セル電圧測定部21は、セル電圧測定回路CC1で4個の電池セルCのセル電圧を、順次、1セルあたり測定所要間隔Tnを要して測定することを繰り返す(電圧測定工程)。
【0046】
このとき、電池セルCは、セル電圧と、該セル電圧が測定された測定タイミングにおける電流とから内部抵抗Rcが測定される。本実施形態では、セル電圧が測定される時間間隔(1セルの測定所要間隔Tn)に、複数回の電流測定が行われる。よって、セル電圧が測定された測定タイミングに一番近い測定タイミングで測定された組電池電流Iaがデジタル値Idに保持されている。よって、制御部24は、デジタル値Idから一番近い測定タイミングで測定された組電池電流Iaを取得することで、セル電圧の測定された測定タイミングと電流の測定された測定タイミングとが一致、もしくは、極めて近いタイミングとなるようにする(同期工程)。つまり、電流の測定される短い時間間隔Tiが短いほど、セル電圧の測定タイミングと電流値の測定タイミングとが近くなる蓋然性が高まる。このとき、電流測定部23は、ΔΣ型ADコンバータであることから、高速なサンプリングが可能であり、セル電圧の測定タイミングと電流値の測定タイミングとを実質的に同一視することができる程度まで測定タイミングのずれを小さくすることが可能である。つまり、測定電流と測定電圧との測定タイミングの同期が簡単にとられるようになる。
【0047】
また、セル電圧の測定について処理や記憶容量を増やした場合、それが電池セルCの数であるN個分だけ必要になり、制御部24の記憶容量の増加や処理負荷の増大を招く。これに対し、組電池電流Iaの測定は、1つの組電池10に対して1つだけであることから、組電池電流Iaに対する記憶容量の増加や処理負荷の増大があったとしても、制御部24におけるそれら記憶容量の増加や処理負荷の増大が最小限に抑えられる。また、電流のデジタル値Idから組電池電流Iaを取得する処理も簡単な処理であり、制御部24の処理負荷の増大は抑えられる一方、組電池電流Iaのサンプリング間隔(短い時間間隔Ti)は短くなることから、セル電圧の測定タイミングとの同期が取られるようになる。また、組電池電流Iaは、ΔΣ型ADコンバータによって測定精度が高く維持される。よって、電池セルの内部抵抗Rcが高い精度で算出され、監視部240は、算出された内部抵抗Rcに基づいて組電池10の電池状態を監視する(監視工程)。例えば、監視部240は、内部抵抗Rcが上限値を超えるような場合、電池セルCに異常が生じていると判断するようにしている。これにより、内部抵抗Rcに基づいて組電池10の電池状態の監視を好適に行える電池監視装置2を提供することができるようになる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の電池監視装置、及び電池監視方法によれば、以下に列記するような効果が得られるようになる。
(1)使用中の電池セルCは、電流や電圧が常に変化するため、電池セルCの状態を監視するにあたっては、電圧と電流の測定タイミングを同期する必要がある。この点、このような構成によれば、電圧が測定される1セルの測定所要間隔Tnよりも短い時間間隔Tiで繰り返し電流が測定されるため、電圧の測定タイミングに対応する電流の測定が可能になり、測定タイミングが同期された電圧と電流とが得られるようになる。つまり、電圧の測定タイミングに同期した電流が測定されていることから、複数の電池セルを2以上に区分して得られる複数の区分セルとしての電池セル毎に、電池セル毎に、同期のために電圧を測定し、記憶しておく必要がなく電圧に対する処理を簡単にすることができる。これによって、測定電流と測定電圧との同期を簡単にとることができるようになる。
【0049】
(2)電池の使用中であっても電池状態を示す一つの指標である内部抵抗Rcが高い精度で取得される。そして、取得された内部抵抗Rcに基づいて電池の状態を監視することができる。
【0050】
(3)セル電圧測定部21が電圧を測定した測定タイミングに対応するタイミングに測定された組電池電流Iaを選択することが簡単にできる。
(4)電池セル毎に内部抵抗Rcを監視することが好ましいリチウムイオン二次電池について、それらの内部抵抗Rcを監視することが簡単に行える。
【0051】
(その他の実施形態)
なお上記実施形態は、以下の態様で実施することもできる。
・上記実施形態では、電池セルCがリチウムイオン二次電池である場合について例示したが、これに限らず、電池セルCは、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池等のアルカリ二次電池であってもよい。
【0052】
・上記実施形態では、電流測定部23は、ΔΣ型ADコンバータである場合について例示した。しかしこれに限らず、電圧測定部が電圧を測定する1セルの測定所要間隔よりも短い間隔で電流を測定することができるのであれば、電流がΔΣ型ADコンバータとは異なる態様で測定されてもよいし、測定された信号がデジタル値の数列では無くてもよい。例えば、測定値そのものであったとしても、電流値の保持に必要な記憶容量は、電圧値の保持に必要な記憶容量よりも少なくすることができる。
【0053】
・上記実施形態では、監視部240は、電池セルCの内部抵抗Rcに基づいて組電池10の状態を監視する場合について例示した。しかし、これに限らず、組電池の状態は、セル電圧測定部で測定された電圧や、電流測定部で測定された電流に基づいて監視してもよい。例えば、セル電圧や電流がそれぞれに設定された正常範囲に収まっているか否かを監視し、正常範囲に収まっていない場合、組電池に異常が生じていると判定してもよい。
【0054】
・上記実施形態では、複数の電池セルCの端子間電圧を所定の時間間隔で順次測定して内部抵抗Rcを算出する場合について例示した。しかしこれに限らず、複数の電池セルを2以上に区分して得られる複数の区分セルの端子間電圧を所定の時間間隔で順次測定して、区分セル毎の内部抵抗を算出するようにしてもよい。これにより、内部抵抗の算出に要する時間を短くすることができる。
【0055】
・上記実施形態では、組電池10及び電池監視装置2がハイブリッド自動車の車両に搭載される場合について例示した。しかし、これに限らず、車両は、組電池を搭載する電気自動車であってもよい。また、組電池を搭載するガソリン自動車やディーゼル自動車であってもよい。
【0056】
また、組電池10及び電池監視装置2は、電源として必要とされるのであれば、自動車以外の移動体や、固定設置される電源として用いられてもよいし、電動機以外の電源として用いられてもよい。例えば、鉄道、船舶、航空機やロボットなどの移動体や、情報処理装置などの電気製品の電源などでもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…電池システム、2…電池監視装置、6…絶縁素子、9…電流測定素子、10…組電池、21…セル電圧測定部、22…総電圧測定部、23…電流測定部、24…制御部、30…車両コントローラ、40…インバータ、41…モータコントローラ、50…電動機、60,61…リレー、100…電動車両駆動装置、210…選択回路、211…電圧検出回路、220a,220b…総電圧計入力端子、231…減算回路、232…加算回路、233…量子化回路、234…スイッチ回路、240…監視部、C,C(1)~C(N)…電池セル、B1~BL…セルブロック、CC1~CCL…セル電圧測定回路。
図1
図2
図3
図4