(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】スイッチング素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20220720BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20220720BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
H01L29/78 658A
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652K
H01L29/78 652F
H01L29/78 652S
H01L29/78 652T
(21)【出願番号】P 2018062788
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高谷 秀史
(72)【発明者】
【氏名】濱田 公守
(72)【発明者】
【氏名】大西 徹
(72)【発明者】
【氏名】金原 啓道
(72)【発明者】
【氏名】辻村 理俊
(72)【発明者】
【氏名】福岡 佑二
(72)【発明者】
【氏名】浦上 泰
(72)【発明者】
【氏名】副島 成雅
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-037921(JP,A)
【文献】特開2017-063082(JP,A)
【文献】特開平04-162572(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157606(WO,A1)
【文献】特開2017-195224(JP,A)
【文献】特表2004-522319(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033315(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 29/78
H01L 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子の製造方法であって、
前記スイッチング素子が、
半導体基板と、
前記半導体基板の上面に間隔を開けて
平行に設けられている
複数のトレンチと、
前記半導体基板の前記上面に設けられ
ている複数の接続トレンチと、
複数の前記トレンチ内に配置されているゲート絶縁膜と、
複数の前記トレンチ内に配置されており、前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されているゲート電極、
を有し、
複数の前記接続トレンチが、複数の前記トレンチのうちの少なくとも3つを接続するように伸びる第1接続トレンチと、複数の前記トレンチのうちの少なくとも3つを接続するように伸びる第2接続トレンチ、を有し、
前記第2接続トレンチが、前記第1接続トレンチとは複数の前記トレンチに沿う方向にずれた位置に配置されており、
前記第1接続トレンチの一方側の端部に接続された前記トレンチが、前記第2接続トレンチの前記一方側の端部に接続された前記トレンチとは異なり、
前記第1接続トレンチの他方側の端部に接続された前記トレンチが、前記第2接続トレンチの前記他方側の端部に接続された前記トレンチとは異なり、
前記半導体基板が、
複数の前記トレンチのそれぞれの側面の上端部において前記ゲート絶縁膜に接するn型の第1半導体領域と、
複数の前記トレンチのそれぞれの側面において前記第1半導体領域の下側で前記ゲート絶縁膜に接するp型のボディ領域と、
複数の前記トレンチのそれぞれの側面において前記ボディ領域の下側で前記ゲート絶縁膜に接し、前記ボディ領域によって前記第1半導体領域から分離されているn型の第2半導体領域と、
複数の前記トレンチのそれぞれの底面において前記ゲート絶縁膜に接し、前記第2半導体領域に接するp型の底部領域と、
前記第1接続トレンチの前記一方側の端面を構成する部分の前記トレンチの側面と前記第2接続トレンチの前記一方側の端面を構成する部分の前記トレンチの側面において前記ゲート絶縁膜に接しており、前記ボディ領域と前記底部領域を接続するp型の接続領域、
を有しており、
前記製造方法が、
前記半導体基板の前記上面に、
複数の前記トレンチ、及び、複数の前記接続トレンチを形成する工程と、
前記半導体基板の前記上面の垂線に対して傾斜するとともに
複数の前記接続トレンチに沿う
第1方向に沿ってp型不純物を照射して
前記第1接続トレンチの前記一方側の端面を構成する部分の前記トレンチの側面と前記第2接続トレンチの前記一方側の端面を構成する部分の前記トレンチの側面にp型不純物を注入することによって、前記接続領域を形成する工程、
を有するスイッチング素子の製造方法。
【請求項2】
前記ゲート絶縁膜と前記ゲート電極が、
複数の前記接続トレンチ内に配置されており、
前記第1半導体領域が、
複数の前記接続トレンチの側面の上端部において前記ゲート絶縁膜に接しており、
前記ボディ領域が、
複数の前記接続トレンチの側面において前記第1半導体領域の下側で前記ゲート絶縁膜に接しており、
前記第2半導体領域が、
複数の前記接続トレンチの側面において前記ボディ領域の下側で前記ゲート絶縁膜に接しており、
複数の前記接続トレンチ
が複数の前記トレンチを横断する交差部に面する角部の上端部に、p型の無効領域を形成する工程をさらに有する、請求項1のスイッチング素子の製造方法。
【請求項3】
複数の前記トレンチが、第1トレンチ、第2トレンチ、第3トレンチ、第4トレンチ、及び、第5トレンチ、を有し、
前記第1接続トレンチが、前記第2トレンチを横断して前記第1トレンチから前記第3トレンチまで伸びており、
前記第2接続トレンチが、前記第4トレンチを横断して前記第3トレンチから前記第5トレンチまで伸びており、
前記接続領域を形成する前記工程では、前記第1接続トレンチの端面を構成する部分の前記第1トレンチの側面と前記第2接続トレンチの端面を構成する部分の前記第3トレンチの側面にp型不純物を注入することによって、前記接続領域を形成する、
請求項1または2のスイッチング素子の製造方法。
【請求項4】
前記垂線に対して前記第1方向とは反対側に傾斜するとともに複数の前記接続トレンチに沿う第2方向に沿ってp型不純物を照射して前記第1接続トレンチの端面を構成する部分の前記第3トレンチの側面と前記第2接続トレンチの端面を構成する部分の前記第5トレンチの側面にp型不純物を注入することによって、前記ボディ領域と前記底部領域を接続するp型領域を形成する工程をさらに有する、請求項3のスイッチング素子の製造方法。
【請求項5】
前記底部領域が、複数の前記接続トレンチのそれぞれの底面に沿って伸びる部分を有する、請求項1~4のいずれか一項のスイッチング素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、スイッチング素子の製造方法に関する。
【0002】
特許文献1には、トレンチゲート型のスイッチング素子が開示されている。このスイッチング素子は、トレンチの底面においてゲート絶縁膜に接するp型の底部領域を有している。さらに、トレンチの側面の一部に、底部領域とボディ領域を接続するp型の接続領域が設けられている。底部領域と接続領域を設けることで、スイッチング素子の耐圧を向上することができる。
【0003】
特許文献1に開示のスイッチング素子の製造方法では、半導体基板の上面に間隔を開けて第1トレンチと第2トレンチを形成するとともに、第1トレンチと第2トレンチを接続する接続トレンチを形成する。そして、半導体基板の上面の垂線に対して傾斜するとともに接続トレンチに沿う方向に沿ってp型不純物を照射して、接続トレンチの端面を構成する部分の第1トレンチの側面にp型不純物を注入する。その結果、接続領域が形成される。この製造方法によれば、p型不純物の注入方向の傾斜角度をある程度大きくすることができるので、接続トレンチの端面(第1トレンチの側面の一部)にp型不純物を注入することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法では、第1トレンチと第2トレンチの間の間隔が狭いので、接続トレンチの長さが短い。このため、接続トレンチの端面にp型不純物を注入するときに、その注入方向の傾斜角度をそれほど大きくすることができない。その結果、接続トレンチの端面近傍の底面にp型不純物が多く注入される。このため、接続トレンチの端面近傍の底面に過度にp型不純物濃度が高い領域が形成される。トレンチの底面にp型不純物濃度が過度に高い領域が形成されると、スイッチング素子の動作時にその領域近傍で電界が集中する。このため、スイッチング素子の耐圧が低下する。第1トレンチと第2トレンチの間隔を広げれば、接続トレンチが長くなり、注入方向の傾斜角度を大きくすることは可能である。しかしながら、この場合には、第1トレンチと第2トレンチの間隔が広がるので、チャネル密度が低くなり、スイッチング素子の特性が悪化する。この問題に鑑み、本明細書では、トレンチの間隔に影響することなく、接続領域を好適に形成することが可能なスイッチング素子の製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する製造方法で製造するスイッチング素子は、半導体基板と、前記半導体基板の上面に間隔を開けて設けられている第1トレンチ、第2トレンチ、及び、第3トレンチと、前記半導体基板の前記上面に設けられているとともに前記第2トレンチを横断して前記第1トレンチから前記第3トレンチまで伸びている接続トレンチと、前記第1トレンチ、前記第2トレンチ、及び、前記第3トレンチ内に配置されているゲート絶縁膜と、前記第1トレンチ、前記第2トレンチ、及び、前記第3トレンチ内に配置されているとともに前記ゲート絶縁膜によって前記半導体基板から絶縁されているゲート電極を有している。前記半導体基板が、第1半導体領域、ボディ領域、第2半導体領域、底部領域、及び、接続領域を有している。前記第1半導体領域は、前記第1トレンチ、前記第2トレンチ、及び、前記第3トレンチのそれぞれの側面の上端部において前記ゲート絶縁膜に接するn型領域である。前記ボディ領域は、前記第1トレンチ、前記第2トレンチ、及び、前記第3トレンチのそれぞれの側面において前記第1半導体領域の下側で前記ゲート絶縁膜に接するp型領域である。前記第2半導体領域は、前記第1トレンチ、前記第2トレンチ、及び、前記第3トレンチのそれぞれの側面において前記ボディ領域の下側で前記ゲート絶縁膜に接し、前記ボディ領域によって前記第1半導体領域から分離されているn型領域である。前記底部領域は、前記第1トレンチ、前記第2トレンチ、及び、前記第3トレンチのそれぞれの底面において前記ゲート絶縁膜に接するとともに前記第2半導体領域に接するp型領域である。前記接続領域は、前記第1トレンチの側面において前記ゲート絶縁膜に接しており、前記ボディ領域と前記底部領域を接続するp型領域である。前記製造方法は、前記半導体基板の前記上面に、前記第1トレンチ、前記第2トレンチ、前記第3トレンチ、及び、前記接続トレンチを形成する工程と、前記半導体基板の前記上面の垂線に対して傾斜するとともに前記接続トレンチに沿う方向に沿ってp型不純物を照射して前記接続トレンチの端面を構成する部分の前記第1トレンチの側面にp型不純物を注入することによって、前記接続領域を形成する工程を有する。
【0007】
この製造方法では、第2トレンチを横断して第1トレンチから第3トレンチまで伸びる接続トレンチを形成する。すなわち、接続トレンチが少なくとも3つのトレンチを接続している。このように接続トレンチを形成すれば、第1~第3トレンチの間隔を広くすることなく、接続トレンチを長くすることができる。接続トレンチを長くすることができるので、その後の接続領域を形成する工程において、p型不純物の照射方向を大きく傾斜させることができる。したがって、接続トレンチの端面(すなわち、第1トレンチの側面の一部)にp型不純物を注入するときに、接続トレンチの端面近傍の底面にp型不純物が注入されことが抑制される。したがって、スイッチング素子の耐圧の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】スイッチング素子10の平面図(半導体基板12の上面12aを示す図)。
【
図11】スイッチング素子10の製造工程における角部へのp型不純物の注入を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1~5に示すスイッチング素子10は、半導体基板12を有している。半導体基板12は、SiC(炭化珪素)によって構成されている。
図1は、半導体基板12の上面12aを示している。なお、以下の説明において、上面12aに平行な一方向をx方向といい、上面12aに平行でx方向に直交する方向をy方向といい、半導体基板12の厚み方向をz方向という。
図1に示すように、半導体基板12の上面12aには、第1トレンチ22a、第2トレンチ22b、第3トレンチ22c、及び、接続トレンチ22dが形成されている。なお、図示していないが、半導体基板12の上面12aには、トレンチ22a~22dのセットが、複数形成されている。第1トレンチ22a、第2トレンチ22b、及び、第3トレンチ22cは、y方向に沿って長く伸びている。第1トレンチ22a、第2トレンチ22b、及び、第3トレンチ22cは、上面12aにおいて互いに平行に伸びている。第2トレンチ22bは、第1トレンチ22aと第3トレンチ22cの間に配置されている。第1トレンチ22a、第2トレンチ22b、及び、第3トレンチ22cは、x方向に一定の間隔を開けて配置されている。接続トレンチ22dは、x方向に沿って長く伸びている。接続トレンチ22dは、第2トレンチ22bを横切って第1トレンチ22aから第3トレンチ22cまで伸びている。接続トレンチ22dは、第1トレンチ22a、第2トレンチ22b、及び、第3トレンチ22cを互いに接続している。第1トレンチ22a、第2トレンチ22b、第3トレンチ22c、及び、接続トレンチ22dの深さは略等しい。
【0010】
図1~5に示すように、各トレンチ22a~22d内には、ゲート絶縁膜24とゲート電極26が配置されている。ゲート絶縁膜24は、各トレンチ22a~22dの内面を覆っている。ゲート電極26は、トレンチ22a~22dの内部に配置されている。ゲート電極26は、トレンチ22a~22dに跨って伸びている。ゲート電極26は、ゲート絶縁膜24によって半導体基板12から絶縁されている。
【0011】
図2~5に示すように、半導体基板12上に、層間絶縁膜28と上部電極70が設けられている。なお、
図1においては、層間絶縁膜28と上部電極70の図示が省略されている。層間絶縁膜28は、ゲート電極26の上面を覆っている。上部電極70は、層間絶縁膜28と半導体基板12の上面12aを覆っている。上部電極70は、層間絶縁膜28によって、ゲート電極26から絶縁されている。半導体基板12の下面12bに、下部電極72が設けられている。下部電極72は、下面12bの略全域を覆っている。
【0012】
図1に示すように、半導体基板12は、ソース領域30、ボディコンタクト領域31、及び、無効領域39を有している。ソース領域30、ボディコンタクト領域31、及び、無効領域39は、半導体基板12の上面12aを含む範囲に設けられている。
【0013】
無効領域39は、p型不純物濃度が高いp型領域である。
図1に示すように、無効領域39は、接続トレンチ22dが第1トレンチ22a、第2トレンチ22b、及び、第3トレンチ22cと接続された各接続部23a、23b、23cに面する角部に設けられている。
図1、5に示すように、無効領域39は、トレンチ22a~22dの上端部において、ゲート絶縁膜24に接している。無効領域39は、上部電極70に接している。
【0014】
ソース領域30は、n型不純物濃度が高いn型領域である。
図1に示すように、ソース領域30は、無効領域39が設けられている範囲(すなわち、角部)以外の範囲で、トレンチ22a~22dに隣接している。
図1~4に示すように、ソース領域30は、トレンチ22a~22dの上端部において、ゲート絶縁膜24に接している。ソース領域30は、上部電極70に対してオーミック接触している。
【0015】
ボディコンタクト領域31は、p型不純物濃度が高いp型領域である。
図1に示すように、ボディコンタクト領域31は、各トレンチ22a~22dから離れた位置に配置されている。
図2、4に示すように、ボディコンタクト領域31は、上部電極70に対してオーミック接触している。
【0016】
図2~5に示すように、ソース領域30、ボディコンタクト領域31、及び、無効領域39の下側に、ボディ領域32が配置されている。ボディ領域32は、ボディコンタクト領域31、及び、無効領域39よりもp型不純物濃度が低いp型領域である。ボディ領域32は、ソース領域30、ボディコンタクト領域31、及び、無効領域39に対して下側から接している。ボディ領域32は、ソース領域30、及び、無効領域39の下側で、トレンチ22a~22d内のゲート絶縁膜24に接している。
【0017】
図2~5に示すように、ボディ領域32の下側に、ドリフト領域34が配置されている。ドリフト領域34は、ソース領域30よりもn型不純物濃度が低いn型領域である。ドリフト領域34は、ボディ領域32に対して下側から接している。ドリフト領域34は、ボディ領域32によってソース領域30から分離されている。ドリフト領域34は、トレンチ22a~22dの下端よりも下側まで分布している。ドリフト領域34は、ボディ領域32の下側でトレンチ22a~22d内のゲート絶縁膜24に接している。
【0018】
図2~5に示すように、トレンチ22a~22dの底面を含む範囲に、p型の底部領域36が設けられている。底部領域36は、トレンチ22a~22dの底面に沿って伸びている。底部領域36は、トレンチ22a~22dの底面全域において、ゲート絶縁膜24に接している。底部領域36の周囲は、ドリフト領域34に囲まれている。底部領域36は、後述する接続領域38が設けられている箇所を除いて、ドリフト領域34によってボディ領域32から分離されている。
【0019】
図1、3に示すように、接続トレンチ22dの端面22d-1、22d-2に、p型の接続領域38が設けられている。なお、端面22d-1は、第1トレンチ22aの側面の一部であり、端面22d-2は、第3トレンチ22cの側面の一部である。接続領域38は、ボディ領域32の下側に配置されており、ゲート絶縁膜24に接している。接続領域38は、端面22d-1、22d-2に沿って深さ方向に伸びている。接続領域38の上端はボディ領域32に接続されており、接続領域38の下端は底部領域36に接続されている。すなわち、接続領域38を介して、底部領域36がボディ領域32に接続されている。接続領域38の側面には、ドリフト領域34が接している。
【0020】
図2~5に示すように、ドリフト領域34の下側に、ドレイン領域35が配置されている。ドレイン領域35は、ドリフト領域34よりもn型不純物濃度が高いn型領域である。ドレイン領域35は、ドリフト領域34に対して下側から接している。ドレイン領域35は、半導体基板12の下面12bを含む範囲に設けられている。ドレイン領域35は、下部電極72に対してオーミック接触している。
【0021】
次に、スイッチング素子10の動作について説明する。スイッチング素子10の使用時に、下部電極72に上部電極70よりも高い電位が印加される。ゲート電極26の電位をゲート閾値以上の値に上昇させると、ゲート絶縁膜24近傍のボディ領域32にチャネルが形成される。
図2、4に示す断面では、ボディ領域32にチャネルが形成されると、チャネルによってソース領域30とドリフト領域34が接続される。このため、電子が、ソース領域30から、チャネルとドリフト領域34を通ってドレイン領域35へ流れる。すなわち、スイッチング素子10がオンする。また、
図5の断面では、ゲート絶縁膜24に接する範囲において、ボディ領域32の上部にp型の無効領域39が設けられている。このため、
図5の断面では、ゲート絶縁膜24近傍のボディ領域32にチャネルが形成されても、チャネルがソース領域30へ繋がらない。このため、
図5の断面では、チャネルに電流がほとんど流れない。このように、無効領域39が設けられていることで、接続部23a、23b、23cに面する各角部に電流が流れないようになっている。各角部では、y方向に伸びるトレンチ22a、22b、22c内のゲート電極26とx方向に伸びるトレンチ22d内のゲート電極26の両方から電界が加わるため、角部以外の部分に比べてチャネルが形成され易い。すなわち、ゲート電極26の電位を上昇させるときに、角部では、角部以外の部分よりも先にチャネルが形成される。角部に電流が流れると、スイッチング素子10のゲート電圧-ドレイン電流特性の形が歪み、トラブルの原因となる。また、角部に電流が流れると、ゲート閾値のばらつきが生じやすい。また、後述するように、各角部には、接続領域38を形成する工程において、散乱したp型不純物が注入される。このため、各角部では、ボディ領域32のp型不純物濃度を正確に制御することができない。したがって、各角部に電流が流れると、スイッチング素子のゲート閾値を正確に制御することができない。無効領域39によって各角部に電流が流れないようにすることで、スイッチング素子10の特性を安定させることができる。
【0022】
ゲート電極26の電位をゲート閾値未満に低下させると、チャネルが消失し、スイッチング素子10がオフする。すると、ボディ領域32からドリフト領域34に空乏層が広がる。また、底部領域36からもドリフト領域34へ空乏層が広がる。底部領域36からドリフト領域34へ広がる空乏層によって、トレンチ22a~22dの下端近傍への電界集中が抑制される。特に、本実施形態では、底部領域36が接続領域38を介してボディ領域32に接続されているので、底部領域36の電位が低電位に固定される。したがって、底部領域36からドリフト領域34へ空乏層が広がり易い。このため、トレンチ22a~22dの下端近傍への電界集中がより効果的に抑制される。
【0023】
次に、スイッチング素子10の製造方法について説明する。
図6~8は、スイッチング素子10の製造工程を示している。
図6~8において、左側の断面は
図2に対応する断面を示しており、右側の断面は
図3に対応する断面を示している。
【0024】
スイッチング素子10は、ドリフト領域34と同じn型不純物濃度を有する半導体基板(加工前の半導体基板12)から製造される。まず、
図6に示すように、半導体基板に、ソース領域30、ボディコンタクト領域31、及び、ボディ領域32を形成する。また、この段階で、無効領域39も形成する。これらの領域は、イオン注入またはエピタキシャル成長等によって形成することができる。
【0025】
次に、
図7に示すように、半導体基板の上面を選択的にエッチングすることによって、トレンチ22a~22dを形成する。
【0026】
次に、
図8に示すように、半導体基板の上面をマスク90で覆った状態で、半導体基板に向かって上面側からp型不純物を照射する。これによって、トレンチ22a~22dの底面にp型不純物を注入する。その結果、トレンチ22a~22dの底面に露出する範囲にp型の底部領域36が形成される。
【0027】
次に、
図9に示すように、半導体基板の上面をマスク90で覆った状態で、半導体基板の上面に立てた垂線S1に対して照射方向を傾斜させて半導体基板に向かって上面側からp型不純物を照射する。ここでは、照射方向が接続トレンチ22dに沿う方向となるように、照射方向を調整する。また、ここでは、照射方向の傾斜角度θ1(垂線S1に対する角度)を調整して、接続トレンチ22dの端面22d-1にp型不純物を注入する。このように、トレンチ22dの長さ方向に沿って照射方向を傾斜させることで、端面22d-1にp型不純物を注入することができる。これによって、端面22d-1に露出する範囲に、p型の接続領域38を形成する。トレンチ22a~22cの幅が狭いので、端面22d-1を除いて、トレンチ22a~22cの側面にはp型不純物は注入されない。なお、接続領域38を底部領域36と繋げるためには、接続トレンチ22dの底面22d-3と端面22d-1の境界部22d-4にp型不純物を注入する必要がある。この場合、端面22d-1の近傍の底面22d-3にもp型不純物が注入される。
【0028】
仮に
図10に示すように接続トレンチ22dの長さが短いとすると、照射方向の傾斜角度θ1を小さくする必要がある。この場合、端面22d-1に対する照射角度θ2が小さくなるので、端面22d-1へのp型不純物の注入効率が悪くなる。このため、p型不純物の照射時間を長くする必要がある。また、
図10のように傾斜角度θ1が小さいと、底面22d-3に対する照射角度θ3が大きくなる。このため、底面22d-3にp型不純物が注入され易くなる。p型不純物の照射時間が長くなるとともに底面22d-3へp型不純物が注入され易くなることで、端面22d-1近傍の底面22d-3に高濃度にp型不純物が注入される。その結果、端面22d-1近傍の底部領域36内にp型不純物濃度が周囲よりも極端に高い高濃度領域40が形成される。底部領域36内に高濃度領域40が形成されると、スイッチング素子がオフするときに高濃度領域40周辺で電界が集中するため、スイッチング素子の耐圧が低くなる。
【0029】
これに対し、本実施形態では、接続トレンチ22dが第2トレンチ22bを横断して第1トレンチ22aから第3トレンチ22cまで伸びているので、接続トレンチ22dが長い。したがって、
図9に示すように、p型不純物の照射方向の傾斜角度θ1を大きくすることができる。このため、端面22d-1に対するp型不純物の照射角度θ2が大きく、端面22d-1に対して効率的にp型不純物を注入できる。したがって、p型不純物の照射時間を短くすることができる。さらに、傾斜角度θ1が大きいので、底面22d-3に対するp型不純物の照射角度θ3が小さい。このため、底面22d-3に対してp型不純物が注入され難い。したがって、本実施形態の製造方法では、底部領域36内に高濃度領域40(
図10参照)が形成され難い。このため、本実施形態の製造方法によれば、耐圧が高いスイッチング素子10を製造することができる。
【0030】
また、端面22d-1に対してp型不純物を注入するときに、一部のp型不純物が周辺部材との干渉によって散乱される。
図11に示すように、散乱されたp型不純物は、照射方向D1に対してずれた方向D2に沿って半導体基板に照射される。散乱されたp型不純物は、接続部23b、23cに面する角部に注入され易い。特に、散乱されたp型不純物は、接続部23bに面する角部に注入され易い。散乱されたp型不純物が角部に注入されると、角部に位置するボディ領域32のp型不純物濃度を正確に制御することができない。このため、角部に位置するボディ領域32の閾値(チャネルが形成されるときのゲート電圧)を正確に制御することができない。しかしながら、本実施形態では、角部の表層部に無効領域39が設けられているので、角部のボディ領域32(すなわち、チャネル)にほとんど電流が流れない。したがって、
図11のように角部にp型不純物が注入されても、スイッチング素子10の特性にほとんど影響がない。このため、この製造方法によれば、スイッチング素子10の量産時に特性のばらつきが生じ難い。
【0031】
図9に示すように端面22d-1に接続領域38を形成したら、同様の工程によって端面22d-2に接続領域38を形成する。次に、従来公知の方法によって、ゲート絶縁膜24、ゲート電極26、層間絶縁膜28、上部電極70、ドレイン領域35、及び、下部電極72を形成する。その後、半導体基板をチップに分割することで、
図1に示すスイッチング素子10が完成する。
【0032】
以上に説明したように、実施形態の製造方法では、第2トレンチ22bを横切って第1トレンチ22aから第3トレンチ22cまで伸びる接続トレンチ22dを形成する。このため、トレンチ22a~22cの間の間隔を広げることなく、接続トレンチ22dの長手方向の長さを長くすることができる。接続トレンチ22dが長いので、接続領域38を形成するためのイオン注入において照射方向の傾斜角度θ1を大きくすることができ、接続トレンチ22dの底面22d-3へのp型不純物の注入を抑制することができる。したがって、実施形態の製造方法によれば、耐圧が高いスイッチング素子10を製造することができる。
【0033】
なお、上述した実施形態では、スイッチング素子10がオフするときに接続領域38が空乏化しなかった。しかしながら、スイッチング素子10がオフする過程において、接続領域38が空乏化してもよい。このような構成でも、スイッチング素子10がオフするときに底部領域36からドリフト領域34に空乏層が伸びる。
【0034】
また、上述した実施形態では接続トレンチ22dが3つのトレンチ22a~22cを接続していた。しかしながら、接続トレンチが4つ以上のトレンチを接続していてもよい。
【0035】
また、
図12に示すように、第1トレンチ22a、第2トレンチ22b、第3トレンチ22cと同じピッチで、第4トレンチ22eと第5トレンチ22fを設けてもよい。また、第1トレンチ22a、第2トレンチ22b、第3トレンチ22cを接続する接続トレンチ22dを複数設けてもよい。さらに、第3トレンチ22c、第4トレンチ22e、第5トレンチ22fを接続する接続トレンチ22gを設け、接続トレンチ22gの端面に接続領域38を設けてもよい。この場合、y方向において、接続トレンチ22gを2つの接続トレンチ22dの間の位置に設けてもよい。この構成によれば、第3トレンチ22cに対してy方向に狭い間隔で接続領域38を設けることができる。したがって、第3トレンチ22cの下部の底部領域36にボディ領域32からキャリアが供給され易くなる。
【0036】
本明細書が開示する技術要素について、以下に説明する。本明細書が開示する一例のスイッチング素子では、ゲート絶縁膜とゲート電極が接続トレンチ内に配置されていてもよく、第1半導体領域が接続トレンチの側面の上端部において前記ゲート絶縁膜に接していてもよく、ボディ領域が接続トレンチの側面において第1半導体領域の下側でゲート絶縁膜に接していてもよく、第2半導体領域が接続トレンチの側面においてボディ領域の下側でゲート絶縁膜に接していてもよい。このスイッチング素子の製造方法は、第2トレンチと接続トレンチの交差部に面する角部の上端部にp型の無効領域を形成する工程をさらに有していてもよい。
【0037】
なお、無効領域を形成する工程は、角部(すなわち、トレンチ)が形成される前に行ってもよいし、角部が形成された後に行ってもよい。すなわち、スイッチング素子が完成した段階で無効領域が角部の上端部に配置されていれば、無効領域はどのようなタイミングで形成してもよい。例えば、無効領域を形成した後に、無効領域が角部に位置するようにトレンチを形成してもよい。
【0038】
無効領域を角部に設けることで、スイッチング素子がオンするときに角部のチャネルに電流が流れることを防止することができる。これによって、スイッチング素子の特性を安定化することができる。
【0039】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0040】
10 :スイッチング素子
12 :半導体基板
22a :第1トレンチ
22b :第2トレンチ
22c :第3トレンチ
22d :接続トレンチ
22d-1 :端面
22d-2 :端面
22d-3 :底面
22d-4 :境界部
23a :接続部
23b :接続部
23c :接続部
24 :ゲート絶縁膜
26 :ゲート電極
28 :層間絶縁膜
30 :ソース領域
31 :ボディコンタクト領域
32 :ボディ領域
34 :ドリフト領域
35 :ドレイン領域
36 :底部領域
38 :接続領域
39 :無効領域
40 :高濃度領域
70 :上部電極
72 :下部電極