(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】タービン油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20220720BHJP
C10M 133/22 20060101ALN20220720BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20220720BHJP
C10N 30/10 20060101ALN20220720BHJP
C10M 105/38 20060101ALN20220720BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20220720BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M133/22
C10N20:02
C10N30:10
C10M105/38
C10N40:02
(21)【出願番号】P 2018096203
(22)【出願日】2018-05-18
【審査請求日】2020-11-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正章
(72)【発明者】
【氏名】加藤 郁美
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-064264(JP,A)
【文献】特開2004-315553(JP,A)
【文献】特開2008-115301(JP,A)
【文献】特開2014-055284(JP,A)
【文献】特表2003-522216(JP,A)
【文献】特表2016-520691(JP,A)
【文献】特開2015-174917(JP,A)
【文献】特開平09-301919(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102887825(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオペンチル構造を有するアルコール残基と、炭素数7~11の直鎖飽和脂肪酸及び炭素数16~20の分岐鎖飽和脂肪酸の混合物の飽和脂肪酸残基と、からなり、かつ、40℃における動粘度が32mm
2/s~68mm
2/sであるポリオールエステルを含む、基油分と、
加水分解防止剤としてカルボジイミド化合物を0.05質量%~0.15質量%と、
を含有し、
40℃における動粘度が41.4mm
2/s~50.6mm
2/sであり、
OECD301B法又はOECD301C法による生分解度が60%以上であ
り、
水力発電設備用である、
タービン油組成物。
【請求項2】
酸化防止剤、抗乳化剤、さび止め剤及び腐食防止剤からなる群より選択される少なくとも1種を更に含有する、請求項1に記載のタービン油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の重要性が高まっており、屋外又は自然環境で使用される機器及び設備に使われる潤滑油は、使用中又は使用後に自然環境に排出される可能性があるため、生分解性が求められるケースが増えている。
近年では、河川又は湖に近接する水力発電所、地熱発電所、風力発電所等のように、自然環境中の設備で使用される発電機用タービン油においても、万が一の漏洩等に備え、生分解性が要望されるようになってきた。
【0003】
このような場合に、潤滑油の生分解性を示す指標として、財団法人日本環境協会が定めるエコマーク認定基準がある。潤滑油の場合は、エコマーク商品類型No.110に分類され、認定基準書「生分解性潤滑油Version2.6」に従ってエコマークを取得した製品が一般に生分解性潤滑油として認められ、普及している。この「生分解性潤滑油Version2.6」によれば、エコマーク取得のためには、生分解性が次のいずれかの試験法で、28日以内の生分解度が60%以上であることが要件の一つとされている。
すなわち、OECD301B、301C、301F、又はASTM D5864、D6731のうち、いずれか一つの試験法において、28日以内の生分解度が60%以上であることが必要とされている。
【0004】
一般に、潤滑油の生分解性を向上させる方法としては、その主成分である基油に生分解性の高い基油を用いるケースが多く、水力発電用のタービン油としてはポリオールエステル基油を用いて生分解性を向上させた技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
タービン油は、多くのケースで長期連続運転している発電設備の定期修理に合わせて交換されるため、更油期間が10年間程度と非常に長い期間になることもあり、長期の使用に耐えるための熱酸化安定性、スラッジ防止性及び加水分解安定性、タービン軸受に使用される金属材料に対する耐腐食性等の基本性能も当然のことながら重視される。
【0006】
したがって、タービン油の生分解性を向上させる際には、これら基本性能の確保に留意する必要がある。
【0007】
生分解性に優れ、流動点が低く、且つ、熱酸化安定性に優れるタービン油組成物として、例えば、(A)多価アルコール残基と、直鎖飽和脂肪酸残基及び直鎖飽和ポリカルボン酸残基と、からなるコンプレックスエステルであり、40℃における動粘度が20~100mm2/sであり、流動点が-40℃以下であるコンプレックスエステルと、(B)酸化防止剤と、を含有し、基油分中の(A)の含有割合が60質量%以上であることを特徴とするタービン油組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
また、基油分が、(A)トリメチロールプロパン残基と、C8の直鎖飽和脂肪酸、C10の直鎖飽和脂肪酸、C12の直鎖飽和脂肪酸、C14の直鎖飽和脂肪酸及びC16の直鎖飽和脂肪酸のうちの2種以上の混合物の直鎖飽和脂肪酸残基及びアジピン酸残基と、からなり、40℃における動粘度が32~68mm2/sであり、流動点が-40℃以下であるコンプレックスエステルであり、(B)酸化防止剤を含有すること、を特徴とする水力発電所の水力発電設備用タービン油組成物が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-115301号公報
【文献】特開2014-055284号公報
【文献】特許第6114961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
タービン油において生分解性の向上のためにエステル基油を用いた場合、これらの基本性能を確保することが困難な場合があった。
上記の特許文献1~3のように、生分解性を向上させるためには、潤滑油の基油として、脂肪酸エステルを用いることが主流ではあるが、タービン油に水が混入した場合、加水分解により油の酸価が増加し、タービン油の寿命が低下してしまうことが懸念され、更なる改良が求められている。
従って、本発明は、上記の問題点を解決すべく、生分解性、熱酸化安定性、及び加水分解安定性に優れるタービン油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、基油分として、特定のポリオールエステルを含むことにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> ネオペンチル構造を有するアルコール残基と、炭素数7~11の直鎖飽和脂肪酸及び炭素数16~20の分岐鎖飽和脂肪酸の混合物の飽和脂肪酸残基と、からなり、かつ、40℃における動粘度が32mm2/s~68mm2/sであるポリオールエステルを含む、基油分と、加水分解防止剤としてカルボジイミド化合物を0.05質量%~0.15質量%と、を含有する、タービン油組成物。
<2> 酸化防止剤、抗乳化剤、さび止め剤及び腐食防止剤からなる群より選択される少なくとも1種を更に含有する<1>に記載のタービン油組成物。
<3> OECD301B法又はOECD301C法による生分解度が60%以上である、<1>又は<2>に記載のタービン油組成物
<4> 水力発電設備用である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のタービン油組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生分解性、熱酸化安定性、及び加水分解安定性に優れるタービン油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
《タービン油組成物》
本発明のタービン油組成物は、ネオペンチル構造を有するアルコール残基と、炭素数7~11の直鎖飽和脂肪酸及び炭素数16~20の分岐鎖飽和脂肪酸の混合物の飽和脂肪酸残基と、からなり、かつ、40℃における動粘度が32mm2/s~68mm2/sであるポリオールエステルとを含む基油分と、加水分解防止剤としてカルボジイミド化合物を0.05質量%~0.15質量%と、を含有する。
本発明のタービン油組成物は、上記構成を有することで生分解性、熱酸化安定性及び加水分解安定性に優れる。この理由は明らかではないか、以下のように推察される。
【0015】
一般的なタービン油の粘度グレードは、VG46(40℃動粘度が41.4mm2/s~50.6mm2/s)である。ポリオールエステル基油を用いてVG46程度の動粘度グレードの高いタービン油を調製しようとすると、エステルの分子量を大きくする必要がある。この場合、高い動粘度(すなわち、大きな分子量)を確保しつつ低い流動点も確保するためには、分子量の大きい直鎖不飽和脂肪酸を用いるか、分子量の大きい分岐鎖飽和脂肪酸を用いる必要がある。しかし、直鎖不飽和脂肪酸を用いた場合には、生分解性は良好であるが熱酸化安定性が低くなってしまい、一方、分岐鎖飽和脂肪酸を用いた場合には、熱酸化安定性は良好であるが生分解性が低くなってしまうという問題があり、生分解性と熱酸化安定性とはトレードオフの関係となっている。
本発明のタービン油組成物は、ネオペンチル構造を有するアルコールと、炭素数7~11の直鎖飽和脂肪酸及び炭素数16~20の分岐飽和鎖脂肪酸と、を組み合わせたポリオールエステルを用いながら、加水分解防止剤としてカルボジイミド化合物を特定量添加することで、生分解性、熱酸化安定性及び加水分解安定性の全てに優れる。また、本発明のタービン油組成物は、基油分としてポリオールエステルを含んでいるのにも関わらず、VG46程度の高い動粘度を確保することができる。
以下、本発明のタービン油組成物を構成する各成分について説明する。
【0016】
<基油分>
本発明のタービン油組成物は、基油分として、ネオペンチル構造を有するアルコール残基と、炭素数7~11の直鎖飽和脂肪酸及び炭素数16~20の分岐鎖飽和脂肪酸の混合物の飽和脂肪酸残基と、からなるポリオールエステル(以下、「特定ポリオールエステル」ともいう。)を含有する。
なお、本明細書において、直鎖飽和脂肪酸及び分岐鎖飽和脂肪酸の炭素数は、エステル結合を形成している炭素原子も含めた総炭素数を意味する。
【0017】
本発明のタービン油組成物の基油分である特定ポリオールエステルは、アルコールとカルボン酸又はカルボン酸誘導体との反応により生成するエステルである。すなわち、特定ポリオールエステルは、アルコール由来のアルコール残基とカルボン酸由来の酸残基とからなり、アルコール残基が多価アルコール残基であるネオペンチル構造を有するアルコール残基であり、酸残基が直鎖飽和脂肪酸残基及び分岐鎖飽和脂肪酸残基である。
つまり、特定ポリオールエステルは、アルコール残基として、ネオペンチル構造を有するアルコール残基を有し、且つ、酸残基として、直鎖飽和脂肪酸残基及び分岐鎖飽和脂肪酸残基の両方を有するエステルである。
【0018】
特定ポリオールエステルは、アルコール残基として、ネオペンチル構造を有するアルコール残基を含むことで、基油としての適度な粘度と低い流動点とが得られやすく、また、生分解性及び熱酸化安定性を両立し易い。
また、ネオペンチル構造を有するアルコール残基は、エステル基のβ位に水素がない構造となるヒンダードアルコール残基であることにより、特定ポリオールエステルの熱分解が起こり難くなる。
【0019】
特定ポリオールエステルにおいて、直鎖飽和脂肪酸残基の炭素数は7~11である。
直鎖飽和脂肪酸残基の炭素数が7~11であると、特定ポリオールエステルの分子量が小さすぎず、タービン油として所望される流動点及び粘度が得られ、且つ、生分解性も得られる。また、上記直鎖脂肪酸残基が飽和脂肪酸残基であるので、熱酸化安定性に優れる。
【0020】
特定ポリオールエステルにおいて、直鎖飽和脂肪酸残基の価数は1であることが好ましい。
また、本明細書において、直鎖飽和脂肪酸残基及び分岐鎖飽和脂肪酸残基の価数とは、直鎖飽和脂肪酸残基又は分岐鎖飽和脂肪酸残基が形成しているエステル結合の数を指す。
【0021】
特定ポリオールエステルの合成において、ネオペンチル構造を有するアルコールとの反応により炭素数7~11の直鎖飽和脂肪酸残基となるカルボン酸又はカルボン酸誘導体としては、ネオペンチル構造を有するアルコールとの反応により酸残基となる部分の炭素数が7~11である直鎖飽和脂肪酸、直鎖飽和脂肪酸クロライド又は直鎖飽和脂肪酸エステル等のカルボン酸又はカルボン酸誘導体が挙げられる。
直鎖飽和脂肪酸残基となるカルボン酸又はカルボン酸誘導体は、1種単独であってもよく、又は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
特定ポリオールエステルにおいて、分岐鎖飽和脂肪酸残基の炭素数は、炭素数が16~20である。分岐鎖飽和脂肪酸残基の炭素数が16~20であると、特定ポリオールエステルの分子量が大きくなるのでタービン油として所望される流動点及び粘度が得られやすく、また、分岐鎖を有するので加水分解防止性に優れる。また、上記分岐鎖脂肪酸残基が飽和脂肪酸残基であるので、熱酸化安定性に優れる。
特定ポリオールエステルにおいて、分岐鎖飽和脂肪酸残基の価数は1であることが好ましい。
【0023】
特定ポリオールエステルは、40℃における動粘度が32mm2/s~68mm2/sであるであれば、ネオペンチル構造を有するアルコール残基、炭素数7~11の直鎖脂肪酸残基及び炭素数16~20の分岐鎖脂肪酸残基の比率、特定ポリオールエステルの分子量は、特に限定されない。
また、特定ポリオールエステルの40℃における動粘度が、32mm2/s~68mm2/sであれば、特定ポリオールエステルの製造の反応条件及びプロセスの種類は、特に限定されない。
【0024】
特定ポリオールエステルにおいて、直鎖飽和脂肪酸及び分岐鎖飽和脂肪酸の比率(直鎖飽和脂肪酸:分岐鎖飽和脂肪酸)は、適切な動粘度、生分解性、熱酸化安定性及び加水分解安定性の観点から、85~35:15~65であることが好ましく、75~45:25~55であることがより好ましく、65~55:35~45であることが更に好ましい。
【0025】
<40℃における動粘度>
特定ポリオールエステルの40℃における動粘度は、32mm2/s~68mm2/sである。40℃における動粘度が上記範囲であると、十分な油膜を保持することができ、また、添加剤を配合してタービン油を調製したときの粘度の上昇を抑制することで、流動抵抗及び撹拌抵抗を小さくなるので、動力の損失及びタービン軸受メタルの温度上昇も抑制することができる。
上記観点から、特定ポリオールエステルの40℃における動粘度は、32mm2/s~68mm2/sであることが好ましく、より好ましくは39mm2/s~57mm2/sである。
なお、40℃における動粘度は、JIS K 2283(2000)「動粘度試験方法」により求めることができる。
【0026】
<100℃における動粘度>
特定ポリオールエステルの100℃における動粘度は、5mm2/s~10mm2/sであることが好ましい。
潤滑性の観点から、特定ポリオールエステルの100℃における動粘度は、6mm2/s~9mm2/sであることが好ましく、より好ましくは6.5mm2/s~8.5mm2/sである。
【0027】
特定ポリオールエステルの流動点は、-40℃以下であることが好ましく、より好ましくは-45℃以下である。
特定ポリオールエステルの流動点が-40℃以下であると、十分な油膜を保持することができ、また、添加剤を配合してタービン油を調製したときの粘度の上昇を抑制することで、流動抵抗及び撹拌抵抗を小さくなるので、動力の損失及びタービン軸受メタルの温度上昇も抑制することができる。
【0028】
特定ポリオールエステルのヨウ素価は、好ましくは2gI2/100g以下、より好ましくは1gI2/100g以下である。
特定ポリオールエステルのヨウ素価が2gI2/100g以下であることにより、熱酸化安定性により優れる。
【0029】
特定ポリオールエステルの酸価は、好ましくは5mgKOH/g以下、より好ましくは3mgKOH/g以下、更に好ましくは1mgKOH/g以下である。特定ポリオールエステルの酸価が上記範囲にあることにより、抗乳化性が高くなり、また、軸受等の金属材料の腐食を抑制することができる。
【0030】
本発明のタービン油組成物は、基油分として、特定ポリオールエステル以外の基油(以下、「その他の基油」ともいう。)を含有していてもよい。
その他の基油としては、タービン油組成物の生分解性及び熱酸化安定性を損なわないものであれば、特に制限されない。
その他の基油としては、例えば、炭素数7~11の直鎖飽和脂肪酸残基及び炭素数16~20の分岐鎖飽和脂肪酸残基を有さないモノエステル、ジエステル及びポリオールエステル、ポリグリコール等が挙げられる。
ポリグリコールとしては、例えば、ポリエチレンオキサイドが挙げられる。
【0031】
本発明のタービン油おいて、基油分中の特定ポリオールエステルの含有割合((特定ポリオールエステルの含有量/全基油分量)×100)は、60質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。
なお、生分解性が良好となり且つタービン油として各種性能が良好になるという点で、その他の基油の含有量は少ない方が好ましく、基油分中の特定ポリオールエステルの含有割合が100質量%であることがより好ましい。
【0032】
<加水分解防止剤>
本発明のタービン油組成物は、加水分解防止剤としてカルボジイミド化合物を含有する。
カルボジイミド化合物としては、特に制限はなく、一分子中にカルボジイミド基を含む化合物であれば、特に制限はなく、例えば、モノカルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物、環状カルボジイミド化合物等が挙げられる。
これらの中でも、カルボジイミド化合物としては、モノカルボジイミド化合物が好ましい。
モノカルボジイミド化合物としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
加水分解防止性により優れる観点から、カルボジイミド化合物としては、ビス-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミドであることが好ましい。
【0033】
カルボジイミド化合物の含有量は、タービン油組成物の全質量に対して、0.05質量%~0.15質量%である。カルボジイミド化合物の含有量が上記範囲内であると、生分解性を大きく低減せずに、加水分解防止効果を発揮することができる。
上記観点から、カルボジイミド化合物の含有量としては、タービン油組成物の全質量に対して、0.08質量%~0.l2質量%であることが好ましい。
【0034】
<添加剤>
本発明のタービン油組成物は、酸化防止剤、抗乳化剤、さび止め剤及び腐食防止剤からなる群より選択される少なくとも1種を更に含有することが好ましい。
【0035】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、酸化防止剤自身がスラッジ化することが少ない点から、無灰型酸化防止剤であることが好ましい。
無灰型酸化防止剤は、ラジカルを吸収する連鎖停止剤であり、例えば、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等のアルキル化芳香族酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などが挙げられる。
これらの中でも、熱酸化安定性の観点から、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤であることが好ましい。
酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤である場合、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤のいずれか一方を用いてもよいし、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0036】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-メチルフェノール、2,6-ジ-メチル-4-エチルフェノール、2,4-ジ-メチル-6-t-ブチル-フェノール等の単環フェノール類;4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-エチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、6,6’-メチレンビス(2-ジ-t-ブチル―4―メチルフェノール)等のビスフェノール類;4,4’チオビス-(2,6-ジ-t-ブチル-フェノール)、4,4’チオビス-(2-メチル-6-t-ブチル-フェノール)等の硫黄含有フェノール類;下記一般式(1)で表されるエステル基含有フェノール類;下記一般式(2)又は下記一般式(3)で表される硫黄及びエステル基含有フェノール類などが挙げられる。
【0037】
【0038】
一般式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、R2は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、R3は炭素数1~18のアルキレン基であり、R4は炭素数1~20のアルキル基であり、nは1~4の整数である。
【0039】
【0040】
一般式(2)中、R5は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、R6は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、R7は炭素数1~18のアルキレン基であり、A1は硫黄原子又は炭素数1~20のスルフィド基であり、nは1~4の整数である。
【0041】
【0042】
一般式(3)中、R8は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、R9は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、R10は炭素数1~20のアルキル基であり、A2は硫黄原子又は炭素数1~20のスルフィド基であり、nは1~4の整数である。
【0043】
これらのうち、フェノール系酸化防止剤としては、単環フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、又はエステル基含有フェノール系酸化防止剤が好ましい。
エステル基含有フェノール系酸化防止剤である場合、一般式(1)において、R1及びR2は炭素数1~4のアルキル基が好ましく、イソアルキル基がより好ましく、t-ブチル基が更に好ましい。一般式(1)中、R1及びR2が共に水素原子以外であるものは、ラジカルを補足した場合に安定化されやすい。また、R3は炭素数1~18のアルキレン基が好ましい。R3の炭素数が18以下であると溶解性に優れる。また、R4は炭素数1~18のアルキル基が好ましい。R4の酸素数が18以下であると溶解性に優れる。また、nは1又は2が好ましい。nが4以下であると油溶性が高くなる。
フェノール系酸化防止剤は、1種単独であってもよく、又は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明のタービン油組成物中のフェノール系酸化防止剤の含有量は、タービン油組成物の全質量に対し、好ましくは0.01質量%~3質量%、より好ましくは0.1質量%~2質量%である。タービン油組成物中のフェノール系酸化防止剤の含有量が、上記範囲内であると、スラッジの発生を抑制し、かつ、生分解性が保ちながら、酸化防止効果を発揮することができる。
【0045】
アミン系酸化防止剤としては、具体的な例としては、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン化合物;下記一般式(4)で表されるアルキル化ジフェニルアミン等のジフェニルアミン化合物;N,N-ジ-t-ブチル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン化合物;フェノチアジン等のヘテロ原子含有芳香族アミン系化合物などが挙げられ、これらはアミノ基が芳香族環、t-ブチル基等で遮蔽されたヒンダードアミン化合物である。
【0046】
【0047】
一般式(4)中、R11は水素原子又は炭素数1~24のアルキル基であり、R12は水素原子又は炭素数1~24のアルキル基である。
【0048】
これらの中でも、アミン系酸化防止剤としては、ナフチルアミン化合物、ジフェニルアミン化合物又はフェニレンジアミン化合物が好ましく、ジフェニルアミン化合物がより好ましい。
アミン系酸化防止剤がジフェニルアミン化合物である場合は、一般式(4)において、R11及びR12は、いずれも炭素数1~18のアルキル基であることが好ましく、いずれも炭素数1~12のアルキル基であることがより好ましい。R11又はR12の炭素数が24以下であると流動性高くなる。また、R11及びR12は、分岐鎖を有するアルキル基を含むことがより好ましい。
アミン系酸化防止剤は、1種単独であってもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
アミン系酸化防止剤の含有量としては、タービン油組成物の全質量に対し、好ましくは0.01質量%~3質量%、より好ましくは0.1質量%~2質量%である。
本発明のタービン油組成物中のアミン系酸化防止剤の含有量が上記範囲内であると、スラッジの発生を抑制し、かつ、生分解性が保ちながら、酸化防止効果を発揮することができる。
【0050】
フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤を組み合わせて用いる場合、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤の含有比率は、質量比で、10:1~1:10が好ましく、5:1~1:5がより好ましく、3:1~1:3が更に好ましい。
【0051】
本発明のタービン油組成物が酸化防止剤を含有する場合、タービン油組成物中の酸化防止剤の総含有量は、タービン油組成物の全質量に対し、好ましくは0.01質量%~3質量%、より好ましくは0.1質量%~2質量%である。
【0052】
(抗乳化剤)
抗乳化剤は、主成分が界面活性剤であり、抗乳化剤としてはノニオン系界面活性剤であることが好ましく、ポリアルキレングリコールであることがより好ましい。
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール又はブチレングリコールを単量体とし、これらを単独で重合させた単独重合体、又は、これらを組み合わせて重合させた共重合体が挙げられる。単独重合体及び共重合体は、1種単独であってもよく、又は、2種以上の組み合わせてもよい。
ノニオン系界面活性剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール又はブチレングリコールを単量体として組み合わせて重合した共重合体であることが好ましく、エチレングリコールとプロピレングリコールとを組み合わせて重合させたエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体であることがより好ましい。
【0053】
抗乳化剤の重量平均分子量としては、100~20,000が好ましく、1,000~15,000がより好ましい。主成分がエチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体である場合、エチレンオキシド:プロピレンオキシドの含有比率は、モル比で、20:1~1:10が好ましく、10:1~1:5がより好ましい。
【0054】
抗乳化剤の含有量としては、タービン油組成物の全質量に対し、好ましくは0.001質量%~0.2質量%、より好ましくは0.005質量%~0.1質量%である。
抗乳化剤の含有量が上記範囲内であると、抗乳化効果が得られやすい。
【0055】
(さび止め剤)
さび止め剤は、鉄系の材料が用いられる箇所のさびを防止する目的で含有される油溶性のさび止め剤であることが好ましい。
油溶性を担うアルキル基と、金属面に吸着する官能基を有する構造を有する、油溶性のさび止め剤としては、例えば、スルホネート金属塩、ナフテン酸金属塩等の金属石けん、アルキルコハク酸誘導体、アルケニルコハク酸誘導体、ラノリン化合物、ソルビタンモノオレエート及びペンタエリスリトールモノオレエート等の界面活性剤、ワックス、酸化ワックス、ペトロラタム、N-オレイルザルコシン、ロジンアミン、ドデシルアミン及びオクタデシルアミン等のアルキル化アミン系化合物、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、フォスファイト等のリン系化合物などが挙げられる。
【0056】
これらの中でも、さび止め剤としては、アルキルコハク酸誘導体、アルケニルコハク酸誘導体、抗乳化剤以外の界面活性剤、又はアルキル化アミン系化合物が好ましく、アルキルコハク酸誘導体、又は、アルケニルコハク酸誘導体がより好ましく、アルケニルコハク酸ハーフエステルが更に好ましい。
さび止め剤がアルケニルコハク酸ハーフエステルである場合、酸価としては、100mgKOH/g以上であることが好ましい。
これらのさび止め剤は、1種単独であってもよく、又は、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
本発明のタービン油組成物がさび止め剤を含有する場合、さび止め剤の含有量としては、タービン油組成物の全質量に対し、好ましくは0.001質量%~1質量%、より好ましくは0.01質量%~0.5質量%である。
さび止め剤の含有量が上記範囲内であると、スラッジの発生を抑制し、かつ、生分解性が保ちながら、さび止め効果を発揮することができる。
【0058】
(腐食防止剤)
腐食防止剤は、主として非鉄金属材料であり、銅系又は鉛系の材料が用いられる箇所の腐食を防止する目的で添加されるものであり、金属不活性化剤とも呼ばれている。また、腐食防止剤は、金属の触媒作用を抑えるので間接的に酸化防止剤としても機能している。
【0059】
腐食防止剤としては、金属表面上で被膜を形成することで腐食防止効果を発現する化合物であれば、特に制限はなく、例えば、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、インダゾール及びその誘導体、ベンズイミダゾール及びその誘導体、インドール及びその誘導体、チアジアゾール及びその誘導体等が挙げられる。
これらの中でも、腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、並びに、チアジアゾール及びその誘導体であることが好ましい。また、腐食防止剤のうち、ベンゾトリアゾール等の油溶性が低いものについては、脂肪酸及びアミン系化合物、鉱油等により溶解させた混合物として用いてもよい。
腐食防止剤は、1種単独であってもよく、又は、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
本発明のタービン油組成物が腐食防止剤を含有する場合、腐食防止剤の含有量としては、タービン油組成物の全質量に対し、好ましくは0.001質量%~0.5質量%、より好ましくは0.01質量%~0.2質量%である。
腐食防止剤の含有量が上記範囲内であると、スラッジの発生を抑制し、かつ、生分解性が保ちながら、腐食防止効果を発揮することができる。
【0061】
本発明のタービン油組成物が、酸化防止剤、抗乳化剤、さび止め剤及び腐食防止剤を含有する場合、タービン油組成物中の酸化防止剤、抗乳化剤、さび止め剤及び腐食防止剤の合計含有量は、タービン油組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%~5質量%、より好ましくは0.5質量%~3質量%である。
タービン油組成物中の酸化防止剤、抗乳化剤、さび止め剤及び腐食防止剤の合計含有量が上記範囲内であると、スラッジの発生を抑制し、かつ、生分解性が保ちながら、熱酸化安定性、腐食防止性等のタービン油としての性能が得られ易くなる。
【0062】
本発明のタービン油組成物は、上記酸化防止剤、抗乳化剤、さび止め剤及び腐食防止剤成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の成分を適量含有することができる。
他の成分としては、例えば、灯油留分、溶剤精製鉱油、水素化精製鉱油、水素化分解鉱油等の鉱油系基油、ポリ-α-オレフィン及びオレフィン-コポリマー、ポリブテン等のオレフィン系基油、ポリアルキレングリコール等のグリコール系基油、フェニルエーテル系基油等のその他の基油が挙げられる。
【0063】
また、他の成分としては、例えば、通常の潤滑油組成物に用いられる成分で、清浄剤、分散剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、消泡剤、摩耗防止剤、摩擦調整剤、極圧剤、油性剤、上記抗乳化剤以外の界面活性剤等のその他の添加剤が挙げられる。
【0064】
清浄剤として、例えば、スルホネート、フェネート、サリシレート等が挙げられる。
分散剤としては、例えば、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸イミドのホウ素化合物誘導体等が挙げられる。
流動点降下剤として、例えば、ポリメタクリレート等が挙げられる。
粘度指数向上剤として、例えば、ポリメタクリレート、オレフィンコポリマー等が挙げられる。
【0065】
(消泡剤)
消泡剤としては、特に制限はなく、例えば、ジメチルシリコーン、フッ素変性シリコーン等のシリコーン系消泡剤、ポリアクリレート等のエステル系消泡剤などが挙げられる。
消泡性の観点から、これらの中でも、消泡剤としては、シリコーン系消泡剤であることが好ましく、ジメチルシリコーンであることが好ましい。
消泡剤としては、25℃における動粘度が500mm2/s~100,000mm2/sであることが好ましく、1,000mm2/s~50,000mm2/sがより好ましい。
タービン油組成物が消泡剤を含有する場合、消泡剤の含有量としては、タービン油組成物全質量に対して、好ましくは1ppm~50ppm、より好ましくは2ppm~30ppmである。消泡剤の含有量が上記範囲以内であると、凝集及び沈降を起こさず、消泡効果が得られる。
【0066】
摩耗防止剤及び極圧剤としては、ジチオリン酸亜鉛化合物(ZnDTP)、リン酸エステル等が挙げられる。
摩擦調整剤としては、例えば、脂肪酸、酸性リン酸エステル及びそれらのアミン塩、有機モリブデン化合物、多価アルコールハーフエステル、アミド化合物等が挙げられる。
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸Na等のアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0067】
本発明のタービン油組成物が、その他の添加剤を含有する場合は、生分解性を担保する観点から、酸化防止剤、抗乳化剤、さび止め剤及び腐食防止剤と合わせた合計含有量が、10質量%未満であることが好ましい。
【0068】
<タービン油組成物の性状>
本発明のタービン油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは20mm2/s~100mm2/s、より好ましくは32mm2/s~68mm2/s、更に好ましくは41.4mm2/s~50.6mm2/sである。
脂肪酸エステル系のタービン油組成物としては、41.4mm2/s~50.6mm2/sの40℃動粘度は一般的な動粘度であるが、上記動粘度の範囲で脂肪酸エステル系のタービン油組成物を調製しようとすると、前述の通り、従来のポリオールエステル系のタービン油では、生分解性、熱酸化安定性、及び加水分解安定性の全てを優れたものにすることが難しかったが、本発明によればこれを容易に達成することができる。
【0069】
(生分解性)
本発明のタービン油組成物は、OECD301B法又はOECD301C法による生分解度が60%以上であることが好ましい。
タービン油組成物の生分解度が60%以上であるとより高い生分解性を示しているといえる。
【0070】
本発明のタービン油組成物は、熱酸化安定性、加水分解性及び生分解性に優れるので、例えば、水力発電所における水力発電設備用のタービン油組成物として使用してもよい。
また、本発明のタービン油組成物は水門機器に適用してもよい。
【0071】
以下に、実施例及び比較例により更に具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
実施例及び比較例のタービン油で用いた各エステル基油の原料及び物性を表1に示す。
なお、それぞれの性状試験は以下の試験法に基づき実施した。
・動粘度:JIS K 2283(2000)「動粘度試験方法」
・粘度指数:JIS K 2283(2000)「粘度指数算出方法」
・引火点:JIS K 2265-4(2007)「引火点試験方法(クリーブランド開放法)」
・流動点:JIS K 2269(1987)「流動点試験方法」
・酸価:JIS K 2501(2003)「中和価試験方法」
・ヨウ素価:JIS K 0070(1992)「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」
【0073】
【0074】
表1に示すエステル基油と以下に示す添加剤とを表2又は表3に示す割合で配合し、タービン油組成物を調製した。
<添加剤>
・アミン系酸化防止剤:アルキル化ジフェニルアミン、一般式(4)においてR11とR12が炭素数4と炭素数8の混合物であるもの。
・フェノール系酸化防止剤:イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、一般式(1)においてR1及びR2がともにt-ブチル基であり、R3がエチレン基であり、R4がイソオクチル基であり、nが1であるもの。
・抗乳化剤:主成分がエチレンオキシド-プロピレンオキシドの共重合体。重量平均分子量は5000~8000である。
・さび止め剤:アルケニルコハク酸ハーフエステル、酸価;175mgKOH/g
・腐食防止剤:ベンゾトリアゾール誘導体
・消泡剤:ポリジメチルシロキサン(その他の添加剤)
【0075】
表2及び表3に、調製したタービン油組成物の一般性状及び組成物としての生分解性試験を行った結果を示す。
-評価-
<生分解性>
エコマーク認定基準「生分解性潤滑油Version2.6」において指定される、OECD301B法又はOECD301C法で、試験期間を28日間として実施した。該基準に基づき28日間の試験で、生分解度が60%以上である場合には合格、60%未満の場合を不合格とした。
【0076】
<熱安定性>
表2又は表3に示す割合で配合したタービン油組成物を試料として、40mlをサンプル瓶に取り、120℃の回転盤付き恒温槽内で所定の時間(1000時間)静置し、試験後の試料の酸価(mgKOH/g)を測定し、下記の式より、酸価変化を求めた。
酸価変化=試験後の酸価-試験前の酸価
酸価の変化値が、0.1mgKOH/g以下である場合を、熱安定性に優れると判断することができる。
【0077】
<加水分解安定性>
表2又は表3に示す割合で配合したタービン油組成物を試料として、ASTM D 2619-95「Standard Test Method for Hydrolytic Stability of Hydraulic Fluids(Beverage Bottle Method)」の修正法による加水分解安定試験を実施した。試験装置、温度等については試験法に準拠した。
試料量と水分の割合及び試験時間については、長期使用における水分混入による影響度を模擬するため、試料100gに対し水分の割合を2000ppmとし、93℃、480時間の条件下で保存した後の試料の酸価(mgKOH/g)を測定し、下記の式より、酸価変化を求めた。
酸価変化=保存後の試料の酸価-保存前の試料の酸価
酸価の変化値が、0.5mgKOH/g以下である場合を、加水分解安定性に優れると判断することができる。
【0078】
【0079】
【0080】
表2に示す通り、実施例1のタービン油組成物は、熱酸化安定性、加水分解性及び生分解性の全てに優れるものであった。また、実施例1のタービン油組成物の生分解性は、OECD301C法でも60%以上を示していた。
これに対して、基油分が、ネオペンチル構造を有するアルコール残基と、炭素数7~11の直鎖飽和脂肪酸及び炭素数16~20の分岐飽和鎖脂肪酸の混合物の飽和脂肪酸残基と、からなるポリオールエステルを含まない、比較例1~3のタービン油組成物では、熱酸化安定性、加水分解性及び生分解性の全てを満たすものではなかった。
【0081】
本発明に係るタービン油組成物は、熱酸化安定性、加水分解性及び生分解性に優れ、水力発電設備用のタービン油としても好適に用いることができる。