(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】エアサスペンション制御装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20220720BHJP
【FI】
B60G17/015 C
(21)【出願番号】P 2018096249
(22)【出願日】2018-05-18
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】内藤 貴仁
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-164829(JP,A)
【文献】特開2002-219922(JP,A)
【文献】特開昭62-015109(JP,A)
【文献】特開平03-157213(JP,A)
【文献】米国特許第9102208(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷役運搬機械が乗り入れ可能な荷台を備えた車両に搭載されるエアサスペンションシステムを構成するエアサスペンション制御装置であって、
前記エアサスペンションシステムは、
エアスプリングと、
前記エアスプリングに対するエアの給排を行うエア給排装置とを備え、
前記エアサスペンション制御装置は、
スタートキーの状態であるキー状態を取得するキー状態取得部と、
前記車両の車高を取得する車高取得部と、
前記車両の車速を取得する車速取得部と、
前記エア給排装置を制御して前記車高
を目標車高に調整する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記車速が0にあり、かつ、前記キー状態がオン状態にあるときには、前記車高と前記目標車高との乖離が閾値以上である状態が第1設定時間だけ継続した場合に前記車高を前記目標車高に調整する第1車高調整処理を実行し、
前記キー状態がオフ状態にあるときには、前記車高と前記目標車高との乖離が閾値以上である状態が第2設定時間だけ継続した場合に前記車高を前記目標車高に調整する第2車高調整処理であって、前記キー状態がオフ状態になってからの経過時間が車高調整終了時間に到達すると終了する前記第2車高調整処理を実行し、
前記第2設定時間が、前記荷台における前記荷役運搬機械による荷役作業の平均時間である
エアサスペンション制御装置。
【請求項2】
ドライバーによって操作される操作部からの操作信号を取得する操作信号取得部と、
前記操作信号取得部が取得した操作信号を通じて前記目標車高を設定する目標設定部とを有し、
前記操作部は、前記エアスプリングに対するエアの給排を開始するスタートボタンと前記エアスプリングに対するエアの給排を停止するストップボタンとを有し、
前記目標設定部は、前記ストップボタンが操作されたときの車高を前記目標車高に設定する
請求項1に記載のエアサスペンション制御装置。
【請求項3】
前記第2設定時間が1分以上5分以下の範囲に含まれる時間に設定されている
請求項1または2に記載のエアサスペンション制御装置。
【請求項4】
前記第2設定時間が3分±30秒の範囲に含まれる時間に設定されている
請求項3に記載のエアサスペンション制御装置。
【請求項5】
前記第1設定時間は、前記エアスプリングへのエアの給排についてハンチングが生じない時間である
請求項1~4のいずれか一項に記載のエアサスペンション制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアスプリングに対するエアの給排を制御するエアサスペンション制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックなどの貨物自動車においては、エアサスペンションシステムによる車高の調整が行われている。エアサスペンションシステムによる車高の調整は、エアスプリングに対するエアの給排を制御するエアサスペンション制御装置によって行われる。例えば特許文献1に記載のエアサスペンション制御装置は、車両が停止状態にあるときに検出した車高が上限こえている状態、あるいは、下限未満である状態が一定時間継続したときに車高が基準車高に復帰するようにエアの給排を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、貨物自動車においては、荷役作業時に荷台の重量が変化する。こうした重量の変化は、例えばフォークリフトなどの車両系の荷役運搬機械が荷台を乗り降りしながら荷役作業が行われる場合により顕著なものとなる。そのため、特許文献1に記載のエアサスペンション制御装置では、荷役運搬機械の乗り降りのたびに車高調整が行われるおそれがある。荷役運搬機械の乗り降りのたびに車高調整が行われると、エアの消費量が多くなってしまい、やがてはエアタンクに貯留されたエアを使い切って車高調整が困難となる。
【0005】
本発明の目的は、荷役作業時の車高調整についてエア消費量を抑えることのできるエアサスペンション制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するエアサスペンション制御装置は、荷役運搬機械が乗り入れ可能な荷台を備えた車両に搭載されるエアサスペンションシステムを構成するエアサスペンション制御装置であって、前記エアサスペンションシステムは、エアスプリングと、前記エアスプリングに対するエアの給排を行うエア給排装置とを備え、前記エアサスペンション制御装置は、スタートキーの状態であるキー状態を取得するキー状態取得部と、前記車両の車高を取得する車高取得部と、前記車高と目標車高との乖離が閾値以上である状態が設定時間だけ継続した場合に前記エア給排装置を制御して前記車高を前記目標車高に調整する制御部とを備え、前記キー状態がオフ状態にあるときの前記設定時間が前記荷台における前記荷役運搬機械による荷役作業の平均時間である。
上記構成によれば、キーオフ状態で荷役作業が行われることで荷役運搬機械を用いた荷役作業であっても車高調整にともなうエアの消費を抑えることができる。
【0007】
上記エアサスペンション制御装置は、ドライバーによって操作される操作部からの操作信号を取得する操作信号取得部と、前記操作信号取得部が取得した操作信号を通じて前記目標車高を設定する目標設定部とを有し、前記操作部は、前記車高を変化させるスタートボタンと前記車高の変化を停止させるストップボタンとを有し、前記目標設定部は、前記ストップボタンが操作されたときの車高を前記目標車高に設定することが好ましい。
【0008】
上記構成によれば、ドライバーが目標車高を設定することが可能であることから、例えば接車バースのプラットホームの高さに合わせた目標車高を設定することができる。また、例えば車外にいるドライバーがプラットホームと荷台との位置関係を視認しながら車高の調整を行った場合、その調整完了時の車高を目標車高として設定することができる。
【0009】
上記エアサスペンション制御装置において、前記設定時間は、1分以上5分以下の範囲に含まれる時間に設定されることの好ましい。また、上記エアサスペンション制御装置において、前記設定時間が3分±30秒の範囲に含まれる時間に設定されていることが好ましい。
【0010】
上記構成のように設定時間が設定されることにより、荷台に荷役運搬機械が乗り降りするような荷役作業であっても荷台内での荷役運搬機械の作業時間を十分に確保することができる。
【0011】
上記構成のエアサスペンション制御装置は、前記車両の車速を取得する車速取得部をさらに備え、前記車速が0にあり、かつ、前記キー状態がオン状態にあるときの設定時間が第1設定時間であり、前記キー状態がオフ状態にあるときの設定時間が第2設定時間であり、前記第1設定時間は、前記エアスプリングへのエアの給排についてハンチングが生じない時間であることが好ましい。
上記構成によれば、キーオン状態においては、エアの給排についてのハンチングを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)エアサスペンションシステムの一実施形態を搭載した貨物自動車の一例に対して荷役運搬機械を用いた荷役作業を行っている様子を模式的に示す図、(b)後前輪に対応するエアサスペンションシステムの一実施形態の概略構成を示す側面図。
【
図2】エアサスペンションシステムの概略構成を示す機能ブロック図。
【
図3】第1車高調整処理の一例を示すフローチャート。
【
図4】第2車高調整処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1~
図4を参照してエアサスペンション制御装置およびエアサスペンションシステムの一実施形態について説明する。
図1(a)に示すように、エアサスペンション制御装置およびエアサスペンションシステムが搭載される車両10は、運転席が設置されるキャブ11と各種の荷物などを載せる荷台12とを備えた貨物自動車である。こうした車両10では、例えば接車バース13に接車したときに車高をプラットホーム14の高さに合わせたのち、荷台12とプラットホーム14との間をフォークリフトなどの車両系の荷役運搬機械15が行き来しながら荷役作業が行われる。車高の調整はエアサスペンションシステムによって行われる。車両10は、前輪16に対応するエアサスペンションシステムのほか、後前輪17および後後輪18の各々に対応するエアサスペンションシステムを備えている。
【0014】
図1(b)に示すように、エアサスペンションシステム30は、エアスプリング31と、エアスプリング31に対する空気の給排を行うエア給排装置32とを備えている。エアスプリング31は、車体フレーム19とロアプレート20との間に配設されており、車体フレーム19と車軸21との距離を保持することにより車両10の車高を保持しながら衝撃などによる荷重を吸収する。また、エアサスペンションシステム30は、車両の振動を減衰させるショックアブソーバー33を備えている。ショックアブソーバー33は、例えばオイルが充填されたシリンダー34と、シリンダー34内を軸方向に沿って移動可能なピストンロッド35とを有している。
【0015】
図2に示すように、エアスプリング31に対するエアの給排を行うエア給排装置32は、コンプレッサー41、エアタンク42、レベリングバルブ43、および、エアタンク42とエアスプリング31とを接続するエア給排路44を有している。
【0016】
コンプレッサー41は、例えばエンジンやバッテリーなどを動力源として作動し、大気中の空気を圧縮してエアタンク42に供給する。エアタンク42は、コンプレッサー41によって圧縮された空気を貯留する。レベリングバルブ43は、エア給排路44に配設されてエアスプリング31に対するエアの給排を行う。例えばレベリングバルブ43は、エアタンク42とエアスプリング31とを連通させる供給状態においてエアタンク42からエアスプリング31へと圧縮エアを供給して車高を高くする。レベリングバルブ43は、エアスプリング31と大気中とを連通させる排出状態においてエアスプリング31から圧縮エアを排出して車高を低くする。
【0017】
図2に示すように、エアサスペンションシステム30は、エア給排装置32を通じてエアスプリングに対するエアの給排を制御するエアサスペンション制御装置として制御装置45を備えている。また、エアサスペンションシステム30は、キー状態検出部46、車高検出部47、車速検出部48、および、コントローラー49を備えている。
制御装置45は、各種の情報に基づいてレベリングバルブ43を制御することで車高を制御する。制御装置45は、マイクロコンピュータ、及び/又は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア(特定用途向け集積回路:ASIC)を備えたものであってもよい。すなわち、制御装置45は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ(マイクロコンピュータ)、ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、は、それらの組み合わせ、を含む回路として構成することができる。具体的には、制御装置45は、プロセッサ、メモリ、入力インターフェース、および、出力インターフェース等がバスを介して互いに接続されている。
【0018】
制御装置45は、各種検出部46~48およびコントローラー49が出力した各種の情報を入力インターフェースを介して取得する。そして制御装置45は、その取得した各種の情報、および、メモリに記憶したプログラムや各種のデータに基づいて各種の処理を実行し、これらの各種の処理を通じてレベリングバルブ43を制御する。
【0019】
キー状態検出部46は、エンジンやモーターといった車両10の動力源の始動や停止の際に操作されるスタートキーの状態を検出する。キー状態検出部46は、スタートキーの状態が変化するとその変化後の状態を検出し、その検出した状態を示す信号を制御装置45に出力する。スタートキーが有する状態は、車両10の動力源が駆動可能であり、かつ、電装品への給電が可能な状態にあるオン状態、動力源が駆動されなくとも電装品への給電が可能なアクセサリ起動状態(以下、ACC状態という。)、ならびに、動力源および電装品への給電の双方が停止するオフ状態である。なお、スタートキーは、キーシリンダーにキーを差し込んで回転させるタイプだけに限らず、プッシュボタンを押圧操作するタイプを含むものである。
【0020】
車高検出部47は、例えば車体フレーム19とロアプレート20との間の隙間の距離を計測することにより、所定の制御周期で車高を検出する。車高検出部47は、検出した車高を示す信号を制御装置45に出力する。車速検出部48は、例えば駆動輪を駆動する車軸の回転数を計測することで所定の制御周期で車速vを検出する。車速検出部48は、検出した車速vを示す信号を制御装置45に出力する。
【0021】
コントローラー49は、リモートコントローラーであり、ドライバーが操作可能な操作部として機能する。コントローラー49は、エアスプリング31へのエアの供給が開始される上昇ボタン50やエアスプリング31からのエアの排出を開始する下降ボタン51のほか、これらの供給あるいは排出を停止するストップボタン52などを有している。上昇ボタン50および下降ボタン51は車両を変化させるスタートボタンであり、ストップボタン52は車高の変化を停止するストップボタンである。コントローラー49は、これらの各種ボタン50,51,52の操作に応じた操作信号を制御装置45に出力する。例えば、コントローラー49は、上昇ボタン50が操作されると上昇信号を出力し、下降ボタン51が操作されると下降信号を出力する。また例えば、コントローラー49は、ストップボタン52が操作されるとストップ信号を出力する。
【0022】
制御装置45は、プログラムの実行により機能する各種機能部として、取得部55、バルブ制御部57、目標設定部58、および、計時部59などを備える。
取得部55は、キー状態取得部としてキー状態検出部46が出力した信号を取得することによりスタートキーの状態を取得する。取得部55は、車高取得部として車高検出部47が出力した信号を取得することにより現在の車高を取得する。取得部55は、操作信号取得部としてコントローラー49が出力した信号を取得することによりドライバーによるコントローラー49の操作内容を取得する。取得部55は、車速取得部として車速検出部48が出力した信号を取得することにより車速vを取得する。バルブ制御部57は、レベリングバルブ43を制御することでエアスプリング31に対するエアの給排を制御する。バルブ制御部57は、例えば、コントローラー49の操作信号を受けてレベリングバルブ43の開閉を制御する。
【0023】
目標設定部58は、車両10の目標とする車高である目標車高を設定する。目標設定部58は、コントローラー49の操作による車高調整直後の車高を目標車高に設定する。換言すれば、目標設定部58は、コントローラー49からストップ信号が入力されたときに取得部55が取得した車高を目標車高に設定する。
【0024】
計時部59は、取得部55が取得する車高と目標設定部58の設定した目標車高との乖離ΔH(=|目標車高-車高|)が閾値ΔHth以上である状態の継続時間である乖離時間Tを計時する。例えば、計時部59は、乖離ΔHが閾値ΔHthに到達してから乖離ΔHが閾値ΔHthを下回るまでの時間を乖離時間Tとして計時するタイマーである。また例えば、計時部59は、所定周期でカウントアップするカウンターであって、乖離ΔHが閾値ΔHthに到達してから乖離ΔHが閾値ΔHthを下回るまでのカウント値を乖離時間Tとして計時する。また、計時部59は、取得部55がキーオフ状態を取得してからの時間である経過時間Tpを上述したタイマー機能やカウンター機能などにより計時する。
【0025】
制御装置45は、車両10が停車状態(車速v=0)にあるとき、車高を自動的に目標車高に調整する車高調整処理を実行する。制御装置45は、取得部55が取得したキー状態がオン状態あるいはACC状態にあるときに第1車高調整処理を繰り返し実行する。また制御装置45は、取得部55が取得したキー状態がオフ状態になると計時部59の乖離時間Tをリセットしたうえで第2車高調整処理を開始する。
【0026】
図3を参照して第1車高調整処理の一例について説明する。
図3に示すように、第1車高調整処理において、制御装置45は、まず、目標車高に対する実際の車高の乖離ΔHが閾値ΔHth以上であるか否かを判断する(ステップS101)。乖離ΔHが閾値ΔHth未満である場合(ステップS101:NO)、制御装置45は、一連の処理を一旦終了する。一方、乖離ΔHが閾値ΔHth以上である場合(ステップS101:YES)、制御装置45は、計時部59による乖離時間Tの計時を開始する(ステップS102)。
【0027】
次に、制御装置45は、車高を再び取得して乖離ΔHを演算し、その演算した乖離ΔHが閾値ΔHth以上であるか否かを判断する(ステップS103)。乖離ΔHが閾値ΔHth以上である場合(ステップS103:YES)、制御装置45は、計時部59の計時している乖離時間Tが第1設定時間T1に到達したか否かを判断する(ステップS104)。乖離時間Tが第1設定時間T1に到達している場合(ステップS104:YES)、制御装置45は、後述する車高調整制御を実行する(ステップS105)。
【0028】
第1設定時間T1は、車両10が停車状態にあり、かつ、コンプレッサー41に動力を供給可能な状態にあるキーオン状態に適用される時間である。キーオン状態は、車両10の動力源が駆動中であることでエアタンク42内のエアが不足する可能性が低い状態である。そのため、第1設定時間T1は、エアスプリング31に対するエアの給排についてハンチングが生じない程度の時間、すなわち瞬間的な車高の変化ではエアの給排を行わない時間であることが好ましい。こうした観点から、第1設定時間T1は、ハンチングが生じない時間として秒単位の短い時間であることが好ましい。第1設定時間T1は、例えば数秒程度の時間であり、エアサスペンションシステム30の仕様、特にエア給排装置32の仕様などに合わせて2秒±1秒の範囲に含まれる時間から選択されることが好ましい。第1設定時間T1は、ハンチングの抑制、および、適度な頻度での車高調整を具現化するうえで2秒であることがさらに好ましい。
【0029】
ステップS105の車高調整制御は、車高を自動的に目標車高に調整する制御である。車高調整制御において、制御装置45は、車高が目標車高となるようにレベリングバルブ43を制御する。すなわち、制御装置45は、乖離ΔHが閾値ΔHth以上である状態が第1設定時間T1だけ継続すると、レベリングバルブ43の開閉を制御して車高を目標車高に制御する。この際、制御装置45は、車高が目標車高よりも低い場合にはエアタンク42内のエアをエアスプリング31に供給して車高を高くする。一方、車高が目標車高よりも高い場合、制御装置45は、エアスプリング31内の空気を大気中に排出して車高を低くする。車高が目標車高に調整されると、制御装置45は、ステップS106で計時部59の乖離時間Tをリセットして(ステップS106)一連の処理を一旦終了する。
【0030】
一方、乖離時間Tが第1設定時間T1に到達していない場合(ステップS104:NO)、制御装置45は、ステップS103の処理に戻って再び乖離ΔHが閾値ΔHthを超えているか否かを判断する。乖離ΔHが閾値ΔHthよりも小さい場合(ステップS103:NO)、すなわち閾値ΔHth以上であった乖離ΔHが閾値ΔHthよりも小さくなった場合、制御装置45は、ステップS105の車両調整制御を行うことなく計時部59の乖離時間Tをリセットして(ステップS106)一連の処理を一旦終了する。
【0031】
なお、制御装置45は、車両10の状態が停車状態(車速v=0)から走行状態(車速v≠0)へ移行すると、計時部59の乖離時間Tをリセットしたうえで第1車高調整処理を終了し、走行中に車両の車高を自動的に調整する走行車高調整処理を繰り返し実行する。走行車高調整処理は、基本的には
図3に示す第1車高調整処理と同じ流れであるが、ステップS104の設定時間として第1設定時間T1に替えて走行設定時間が適用される。この走行設定時間は、走行中の車両において車高を保持することのできる時間であり、第1設定時間T1よりも長い時間、例えば数十秒程度の時間である。こうした走行車高調整処理において、制御装置45は、第1車高調整処理とは異なる値を閾値ΔHthに設定してもよいし、同じ値を閾値ΔHthに設定してもよい。制御装置45は、車両10の状態が走行状態(車速v≠0)から停車状態(車速v=0)へ移行すると、計時部59の乖離時間Tをリセットしたうえで走行車高調整処理を終了し、上述した第1車高調整処理を繰り返し実行する。
【0032】
図4を参照して第2車高調整処理の一例について説明する。
図4に示すように、第2車高調整処理において、制御装置45は、停車状態にあるものとして、まず、キー状態がオフ状態になってから計時部59が計時している経過時間Tpが車高調整終了時間Tp2未満であるか否かを判断する(ステップS201)。経過時間Tpが車高調整終了時間Tp2に到達した場合(ステップS201:NO)、制御装置45は、計時部59が計時している経過時間Tpをリセットしたうえで一連の処理を終了する。一方、経過時間Tpが車高調整終了時間Tp2未満である場合(ステップS201:YES)、制御装置45は、目標車高に対する実際の車高の乖離ΔHが閾値ΔHth以上であるか否かを判断する(ステップS202)。乖離ΔHが閾値ΔHth未満である場合(ステップS202:NO)、制御装置45は、再びステップS201の処理を実行する。乖離ΔHが閾値ΔHth以上である場合(ステップS202:YES)、制御装置45は、計時部59による乖離時間Tの計時を開始する(ステップS203)。
【0033】
次に、制御装置45は、車高を再び取得して乖離ΔHを演算し、その演算した乖離ΔHが閾値ΔHth以上であるか否かを判断する(ステップS204)。乖離ΔHが閾値ΔHth以上である場合(ステップS204:YES)、制御装置45は、計時部59の計時している乖離時間Tが第2設定時間T2に到達したか否かを判断する(ステップS205)。乖離時間Tが第2設定時間T2に到達している場合(ステップS205:YES)、制御装置45は、車高調整制御を実行する(ステップS206)。
【0034】
第2設定時間T2は、荷台12への荷役運搬機械15の乗り降りに起因した車高調整が行われにくい時間であることが好ましい。本発明者らが行った調査結果によれば、荷台12における荷役運搬機械15(フォークリフト等)の荷役平均時間は用途別(荷役運搬機械15の運搬対象の違いに基づくもの)ではおおよそ1~5分であり、全体的な平均荷役時間はおおよそ1~2分であった。こうした調査結果を踏まえると、第2設定時間T2は、上記荷役平均時間の範囲に含まれる時間であることが好ましい。
【0035】
具体的には、第2設定時間T2は、1分以上の時間に設定されることが好ましい。第2設定時間T2が1分以上であることにより、荷役運搬機械15を用いた荷台12内での荷役作業が車高調整制御の開始前に完了する可能性が高められ、エアタンク42のエア消費量を抑えることができる。また、第2設定時間T2は5分以下の時間に設定されることが好ましい。第2設定時間T2が5分以下であることで、エアタンク42のエア消費量を抑えつつ、長期間にわたって荷台12とプラットホーム14との高さの差が閾値ΔHth以上であることが抑えられる。上述したように荷台12における荷役運搬機械15の平均荷役時間が1~2分程度であることから、第2設定時間T2は、第1設定時間T1よりも明らかに長く、少なくとも1分は第1設定時間T1よりも長い時間であることが好ましい。また、第2設定時間T2は、荷役時間が荷台12の長さが長いほど長くなる傾向があったため荷台12の長さが長いほど長い時間に設定されてもよいし、車両10に対する荷役が特殊な用途である場合にはその用途に合わせた時間に設定されてもよい。なお、第1設定時間T1および第2設定時間T2は、コントローラー49の操作を通じて変更不能な時間である。
【0036】
また、エアサスペンションシステム30は、車両10の振動を減衰させるショックアブソーバー33を備えている。目標車高に対する車高の乖離ΔHが閾値ΔHth以上である場合、ショックアブソーバー33は、ピストンロッド35の一端部がシリンダー34の端部を押圧する底突状態にある可能性がある。そのため、荷役運搬機械15の乗り入れ時から乖離ΔHが閾値ΔHth以上である場合には、荷役運搬機械15が降車するまでショックアブソーバー33の底突状態が継続してしまうおそれもある。こうした底突状態の継続は、エアサスペンションシステム30の搭載対象が荷台12に荷役運搬機械15が乗り入れる貨物自動車であるが故に想定される事態である。底突状態が継続すると、ショックアブソーバー33に対する機械的な負荷が大きくなるだけでなく、ショックアブソーバー33による荷重吸収作用が発揮されなくなることでショックアブソーバー33の周辺部材に対する機械的な負荷も大きくなる。こうした観点から、第2設定時間T2は、3分±30秒の範囲に含まれる時間から選択されることが好ましく、より好ましくは3分である。こうした時間に第2設定時間T2が設定されることにより、荷役運搬機械15の乗り入れ時にショックアブソーバー33の底突状態が開始されたとしてもその底突状態がショックアブソーバー33およびその周辺部材に対する過度な機械的負荷が抑えられる時間内で解消されることとなる。これにより、荷役運搬機械15を用いた荷役作業がショックアブソーバー33およびその周辺部材の機械的強度や耐久性について大きな影響を与えることを抑えることができる。すなわち、第2設定時間T2が3分±30秒の範囲に含まれる時間であることにより、荷台12内での荷役運搬機械15の十分な作業時間の確保、ショックアブソーバー33に対する機械的な負荷の抑制、これらを得つつエアタンク42のエア消費量を抑えることができる。
【0037】
ステップS206の車高調整制御において、制御装置45は、車高が目標車高となるようにレベリングバルブ43を制御する。すなわち、ステップS206において制御装置45は、乖離ΔHが閾値ΔHth以上である状態が第2設定時間T2だけ継続すると、レベリングバルブ43の開閉を制御して車高を目標車高に制御する。そして制御装置45は、ステップS207で計時部59の乖離時間Tをリセットして再びステップS201の処理を実行する。
【0038】
一方、乖離時間Tが第2設定時間T2に到達していない場合(ステップS205:NO)、制御装置45は、ステップS204の処理に戻って再び乖離ΔHが閾値ΔHthを超えているか否かを判断する。乖離ΔHが閾値ΔHthよりも小さい場合(ステップS204:NO)、すなわち閾値ΔHth以上であった乖離ΔHが閾値ΔHthよりも小さくなった場合、制御装置45は、車両調整制御を行うことなく計時部59の乖離時間Tをリセットして(ステップS207)再びステップS201の処理を実行する。
【0039】
上述したように、制御装置45は、第2車高調整処理を一定期間だけ繰り返し実行する。この一定期間は、荷台12について荷役運搬機械15を用いた荷役作業が終了するのに十分な期間であり、かつ、バッテリーの過度な電力消費が抑えられる期間であることが好ましく、例えば2時間程度である。この一定期間は、荷台12の容量が大きいほど長い時間であることが好ましい。
【0040】
次に荷役運搬機械15を用いた荷役作業の手順の一例について説明する。
まず、接車バース13に車両10を接車させたのち、スタートキーがオフ状態へと操作される。次に、ドライバーによるコントローラー49の操作を通じて荷台12とプラットホーム14とが略等しい高さとなるように車高調整される。その後、荷台12のリアドアを開放したのち、荷台12への荷役運搬機械15の乗り降りをともなう荷役作業が行われる。この荷役作業中、エアサスペンションシステム30においては第2車高調整処理が実行されている。第2車高調整処理では、乖離ΔHが閾値ΔHth以上である状態が第2設定時間T2だけ継続しなければ車高調整がなされない。すなわち、荷役作業中、荷台12への荷役運搬機械15の乗り入れに起因した車高調整の頻度が抑えられる。これにより、エアタンク42内のエアの消費量を抑えることができる。
【0041】
上記実施形態のエアサスペンション制御装置およびエアサスペンションシステムによれば、以下に列挙する作用効果が得られる。
(1)制御装置45は、キーオン状態においては乖離時間Tが第1設定時間T1に到達することを条件に車高調整制御を実行する。そのため、例えば、車高を目標車高に保持しつつ、かつ、エアの給排についてのハンチングを防止しながら走行することが可能である。一方、制御装置45は、キーオフ状態においては乖離時間Tが第2設定時間T2に到達することを条件に車高調整制御を実行する。これにより、荷役運搬機械15を用いた荷役作業時であっても車高調整の頻度が抑えられることで車高調整にともなうエアの消費を抑えることができる。すなわち、制御装置45によれば、キーオン状態においては車高が目標車高に保持されることを優先しつつ、キーオフ状態においては荷台12への荷役運搬機械の乗り入れに起因した車高の変化に対応しつつエア消費量を抑制することができる。
【0042】
(2)制御装置45は、コントローラー49からの操作信号に基づいて目標車高を設定する目標設定部58を有している。そのため、ドライバーが自由に目標車高を設定可能であることから、例えば、プラットホーム14の高さに車高を合わせることができる。
【0043】
(3)目標設定部58は、上昇信号あるいは下降信号の入力後、ストップ信号が入力されたときの車高を目標車高に設定する。すなわち、ドライバーによる車高調整後の車高が目標車高に設定される。これにより、ドライバーは、車高の調整と目標車高の設定とを同時期に実行することができる。その結果、目標設定等の特別な操作が必要ないことから、目標車高の設定についてドライバーへの負荷を低減することができる。
【0044】
(4)第1設定時間T1が2秒であることにより、車高が目標車高に保持されやすくなる。これにより、走行時に車高が目標車高に維持されやすくなる。
(5)第2設定時間T2は、1分以上5分以下であることが好ましく、3分±30秒であることがより好ましい。こうした構成によれば、荷台12内での荷役運搬機械15の作業時間を確保しつつ、ショックアブソーバー33やその周辺部材に対する機械的な負荷を低減することができる。
【0045】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・目標設定部58は、停止部が操作されたときの車高を目標車高に設定する構成ではなく、例えばコントローラー49を通じて個別に入力される値を目標車高に設定する構成であってもよい。また目標設定部58は、今現在の車高を目標車高に設定する目標設定ボタンをコントローラー49が有し、コントローラー49から該目標設定ボタンの操作信号が入力されたときの車高を目標車高に設定してもよい。また、予め定めた特定の場所でのみ荷役を行う場合、目標車高は、予め定められた特定の値であってもよい。
【0046】
・コントローラー49は、上昇ボタン50および下降ボタン51の各々がスタートボタンとしての機能とストップボタンとしての機能とを有していてもよい。すなわち、コントローラー49は、例えば上昇ボタン50が操作されている期間だけ車高を高くする信号を制御装置45に出力し続ける構成であってもよい。この場合、制御装置45の目標設定部58は、上昇ボタン50の操作が終了した時点での車高を目標車高に設定する。
【0047】
・コンプレッサー41の動力源がバッテリーである場合、ACC状態は、キーオン状態に分類されてもよいし、キーオフ状態に分類されてもよい。
・閾値ΔHthについては、第1車高調整処理と第2車高調整処理とにおいて互いに異なる値であってもよい。この場合、エアタンク42のエア消費量を抑えるという観点からは第2車高調整処理の閾値である第2閾値が第1車高調整処理の閾値である第1閾値よりも大きいことが好ましい。
【0048】
・閾値ΔHthについては、車高が目標車高よりも高い場合の閾値である上側閾値と、車高が目標車高よりも低い場合の閾値である下側閾値とが異なる値であってもよい。この場合、荷役作業中におけるショックアブソーバー33の底突状態の頻度を低減するという観点からは上側閾値よりも下側閾値が小さいことが好ましい。
【0049】
・制御装置45は、上述した第2車高調整処理においては、経過時間Tpが車高調整終了時間Tp2に到達する前(ステップS201:YES)に乖離ΔHが閾値ΔHth以上になると(ステップS204:YES)、経過時間Tpが車高調整終了時間Tp2に到達したあとも乖離ΔHが閾値ΔHth以上であるか否かの判断が継続して行われる。これにより、経過時間Tpが車高調整終了時間Tp2に到達する直前の車高に基づく車高調整を行うことができる。こうした構成に限らず、制御装置45は、経過時間Tpが車高調整終了時間Tp2に到達する前(ステップS201:YES)に乖離ΔHが閾値ΔHth以上になった(ステップS204:YES)としても経過時間Tpが車高調整終了時間Tp2に到達した時点で第2車高調整処理を強制的に終了してもよい。
【符号の説明】
【0050】
10…車両、11…キャブ、12…荷台、13…接車バース、14…プラットホーム、15…荷役運搬機械、17…後前輪、18…後後輪、19…車体フレーム、20…ロアプレート、21…車軸、30…エアサスペンションシステム、31…エアスプリング、32…エア給排装置、33…ショックアブソーバー、34…シリンダー、35…ピストンロッド、41…コンプレッサー、42…エアタンク、43…レベリングバルブ、44…エア給排路、45…制御装置、46…キー状態検出部、47…車高検出部、48…車速検出部、49…コントローラー、50…上昇ボタン、51…下降ボタン、52…ストップボタン、55…取得部、57…バルブ制御部、58…目標設定部、59…計時部。